説明

銀超微粒子の製造方法

【課題】ナノメートルサイズのオーダーで、粒度分布が狭く、かつ保存安定性に優れ、しかも容易に製造でき高収率であること、また、低温焼結性の優れた銀超微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】シュウ酸銀と、オレイルアミンとを反応させて少なくとも銀とオレイルアミンとシュウ酸イオンを含む錯化合物を生成し、生成した錯化合物を加熱分解させて銀超微粒子を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルサイズの銀超微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径が100nm以下、特に数nm〜数十nmオーダーの金属の超微粒子は、高い表面活性を利用した触媒、吸着剤、吸収剤として用いられる。このほか、溶剤や樹脂等の液状分散媒に分散させてフィルム状、ペースト状、塗料状またはインク状とし、各種電子回路や半導体素子の電極、配線などの導体パターンや、透明導電膜、帯電防止膜、電磁波遮蔽膜、カラーフィルタ、機能性フィルム等の、導電性被膜を形成するための材料としても使用される。特に、このようなナノメートルサイズの金属微粒子(ナノ粒子)は、通常厚膜導体ペーストの導電性フィラーとして使用されるマイクロメートルサイズの金属粉末に比べてはるかに低温で焼結するので、100〜300℃程度の低い温度で熱処理することにより、高い導電性を有する導電性被膜が得られる。また、粒子が微細であるため薄く緻密で、微細な導体パターンを形成することができる。このため、エレクトロニクス分野での応用が期待されている。さらには、導体パターンをインクジェット印刷により形成するために用いる、インクジェットインク用の導電性フィラーとしても適していると考えられる。また、通常の厚膜導体ペーストの添加剤、即ち導電性向上剤、焼結促進剤等としても利用することができる。さらに、抗菌剤、医薬品としての用途も重要である。
【0003】
これらの用途において、ナノメートルサイズで粒度分布が狭く、粒子形状の揃った金属超微粒子を高収率で容易に製造することが要求される。また、特に導電性被膜形成材料として用いる場合、100〜300℃程度の低温で焼結すること、また、分散媒中で高度に分散した安定な状態で存在すること、さらに分散液の状態でもまた粉末の状態でも凝集しにくく長期保存が可能であることが望まれる。
【0004】
このような金属超微粒子の製造方法として、例えば、特許文献1では、炭酸塩、脂肪酸塩などの金属塩とアミン化合物とを不活性雰囲気中で熱処理を行うことによって複合金属ナノ粒子を得ることが開示されている。具体的には、シュウ酸錫、炭酸銀及びオクチルアミンを混合し窒素雰囲気下で加熱攪拌することによって、銀/錫の複合金属ナノ粒子を得ている。しかしながら、上記特許文献1におけるアミン化合物は、オクチルアミン等の1級〜3級飽和脂肪族アミンの例示があるが、オレイルアミンの例示はなされていない。
【特許文献1】特開2005−298921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属超微粒子として銀の超微粒子を製造する場合、例えばシュウ酸銀や炭酸銀を熱分解する方法が試みられている。シュウ酸銀や炭酸銀を熱分解すると、銀の還元反応が自発的に生じて銀粒子が得られる。なかでもシュウ酸銀は、炭酸銀に比べて低温で熱分解して銀を析出するので、出発原料としてはシュウ酸銀が好ましく用いられる。この熱分解においては、シュウ酸イオンが二酸化炭素に分解されて除去されるため、還元剤を使って銀化合物を還元する場合のように、還元剤を除去する工程を必要とせず、また不純物の少ない銀粒子が得られるという利点がある。しかしながら、生成する銀粒子は微粒子が凝集した多孔体となるため、本発明の目的であるナノメートルサイズの銀超微粒子がよく分散した粉体や分散液が得られないという問題がある。また、シュウ酸銀の熱分解は爆発的に生じるために、危険であるという問題があった。
シュウ酸銀をカルボン酸の存在下で熱分解した場合には、爆発的熱分解は抑制され、また比較的小さい銀粒子が得られるが、やはり凝集を完全に防止することができないため、
得られる粒子の径は粗大で粒径にばらつきが生じ、粒径の揃ったナノメートルサイズの銀粒子を得ることができない。また、シュウ酸銀を飽和脂肪族アミンの存在下で熱分解した場合にも、同様に銀の粒子同士が凝集して粒径の揃ったナノメートルサイズの銀粒子を得ることができない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、平均粒径が1nm〜50nm、特に5nm〜20nmで、粒度分布が狭く、保存安定性に優れた超微粒子を容易にかつ高収率で製造し得る銀超微粒子の製造方法を提供することを目的としている。
また、低温焼結性の優れた銀超微粒子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、銀超微粒子の製造方法において、
シュウ酸銀と、オレイルアミンとを反応させて少なくとも銀とオレイルアミンとシュウ酸イオンとを含む錯化合物を生成し、
生成した前記錯化合物を加熱分解させて銀超微粒子を生成することを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の銀超微粒子の製造方法において、
前記シュウ酸銀と、前記オレイルアミンに加えて飽和脂肪族アミンを反応させて前記錯化合物を生成することを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の銀超微粒子の製造方法において、
前記飽和脂肪族アミンの総炭素数は、1〜18であることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載の銀超微粒子の製造方法において、
前記飽和脂肪族アミンの少なくとも一部が前記シュウ酸銀に被着していることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の銀超微粒子の製造方法において、
前記シュウ酸銀のシュウ酸イオンの20モル%以下が、炭酸イオン、硝酸イオン、酸化物イオンの少なくともいずれか一種以上で置換されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シュウ酸銀とオレイルアミンとを反応させ、銀とシュウ酸イオンとオレイルアミンを含む錯化合物(以下、単に「錯化合物」ということもある)を生成させる。そして、この錯化合物を加熱分解させることによりシュウ酸イオンが二酸化炭素に分解されて除去され、オレイルアミンで保護された平均粒径1nm〜50nm、特に5nm〜20nmで、粒径及び形状の揃った高分散性の銀超微粒子を高収率で得ることができる。また、シュウ酸イオンが二酸化炭素に分解されるため、アミン以外の有機物や還元剤に起因する不純物が残留しない点で有利である。
また、オレイルアミンに加えて、脂肪族アミン、特に総炭素数18以下の飽和脂肪族アミンを添加して反応させることにより、錯化合物を容易に生成でき、銀超微粒子の製造に要する時間を短縮できる。しかも、これらのアミンで保護された銀超微粒子をより高収率で生成することができる。
また、前記オレイルアミンや総炭素数18以下の飽和脂肪族アミンは熱分解温度が比較的低く、低温で除去することができる。このため得られた銀超微粒子は低温焼結性に優れ、例えば導電性被膜形成材料として用いた場合、100〜300℃程度の加熱でも容易に焼結し、緻密で導電性が高く、極めて薄い電極等を形成することができる。さらに、本発明の方法で得られるアミン保護銀超微粒子は、有機溶媒に容易に分散して安定なナノ銀分散インクを作りやすく、インクジェットインクとしても好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る銀超微粒子の製造方法について詳細に説明する。まず、銀超微粒子の製造方法に用いられる化合物について説明する。
【0013】
(シュウ酸銀)
銀超微粒子の原料として用いるシュウ酸銀は、銀含有率が高く、また通常150℃以下の低温で分解しやすい。熱分解すると、シュウ酸イオンが二酸化炭素として除去されて金属銀が得られるため、還元剤を必要とせず、不純物が残留しにくい点で有利である。
シュウ酸銀としては制限はなく、例えば市販のシュウ酸銀を用いることができる。また、シュウ酸銀のシュウ酸イオンの20モル%以下を炭酸イオン、硝酸イオン、酸化物イオンの1種以上で置換しても良い。特にシュウ酸イオンの20モル%以下を炭酸イオンで置換した場合、シュウ酸銀の熱的安定性を高める効果があるので好ましい。置換量が20モル%を超えると前記錯化合物が加熱分解しにくくなる場合がある。シュウ酸イオンをこれらのイオンで置換する方法に限定はないが、例えばシュウ酸イオンと炭酸イオンとが溶解した溶液に銀イオン溶液を反応させ、共沈により炭酸イオン含有シュウ酸銀を得る方法や、シュウ酸銀に炭酸銀、硝酸銀、酸化銀等の化合物を被着し、複合化する方法などがある。
【0014】
(アミン)
オレイルアミンは、シュウ酸銀と反応して、銀と少なくともオレイルアミンとシュウ酸イオンを含む錯化合物を形成する。本発明においては、中間体としてこの錯化合物を形成させることが重要である。シュウ酸銀を直接熱分解すると微粒子が凝集した多孔体となるが、この錯化合物を形成してから加熱分解することにより、極めて微細で高分散性の銀超微粒子が得られる。しかもシュウ酸銀を直接熱分解する場合と異なり、熱分解反応が極めて穏やかである。このような効果は、シュウ酸銀とオレイルアミンを反応させず、単に混合しただけでは得られない。
錯化合物の熱分解で生成する銀超微粒子にはオレイルアミンが被着しており、これが保護剤として作用するため、粒成長が抑制され、また凝集しにくく、高分散性を保ったまま極めて安定に保存が可能である。また、得られたオレイルアミン保護銀超微粒子は各種の溶媒に容易に分散して、安定な銀超微粒子分散液とすることができる。またオレイルアミンは200℃以下の低温で揮発または分解して銀超微粒子から除去されるので、脂肪酸系の保護剤に比べて銀超微粒子の低温焼結性を阻害することがない。
【0015】
なお、オレイルアミンの代わりにステアリン酸等の飽和脂肪酸やオレイン酸等の不飽和脂肪酸を使用した場合には、中間体として脂肪酸銀を形成すると考えられるが、これを加熱還元して得られる銀粒子は粒径が大きく、粒度分布にもばらつきが生じる。
【0016】
また本発明においては、好ましくはオレイルアミンに加えて飽和脂肪族アミンを反応させる。飽和脂肪族アミンはオレイルアミンと共に前記錯化合物を形成する。飽和脂肪族アミンを併用することにより錯化合物の形成が起こりやすくなり、短時間で収率よく銀超微粒子を製造することができる。オレイルアミンを使用せず飽和脂肪族アミンを単独で用いた場合は、たとえ銀、アミン、シュウ酸イオンを含む錯化合物を形成したとしても、これを熱分解して生成する粒子が凝集し、目的の粒径の揃った高分散性銀超微粒子が得られない。
飽和脂肪族アミンとしては特に制限はないが、望ましくはオレイルアミンと同じかそれより短い炭素鎖を有するもの、即ち炭素数18以下のものを使用する。炭素数18以下の飽和脂肪族アミンとしては、例えばオクチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ステアリルアミンなどが挙げられる。このような鎖長の短い飽和脂肪族アミンは、オレイルアミンと同様、生成する銀超微粒子の優れた保護剤であると同時に、低温で容易に分解除去できるために有利である。オレイルアミンと飽和脂肪族アミンの比率は、モル比でおよそ5:1〜1:2の範囲であることが望ましい。この範囲では最も高収率で銀超微粒子を製造することができる。飽和脂肪族アミンがこの範囲を超えて多くなると錯化合物を形成するオレイルアミンの比率が低下するため、粒径の揃った高分散性銀超微粒子が得られなくなる。
更に、前記飽和脂肪族アミンの一部又は全部を予めシュウ酸銀に被着させておくと、オレイルアミンと反応させる段階においてシュウ酸銀とアミンとの反応がより起こりやすくなるので好ましい。この場合の飽和脂肪族アミンの被着量は、シュウ酸銀に対して、0.1重量%〜20重量%であることが望ましい。0.1重量%以下では効果が小さく、また20重量%を超えるとシュウ酸銀が熱的に不安定となって取扱いが困難になる場合がある。シュウ酸銀に飽和脂肪族アミンを被着させる方法は限定されない。例えばシュウ酸銀と飽和脂肪族アミンとを直接混合した後乾燥する、または溶媒中に分散したシュウ酸銀と飽和脂肪族アミンとを混合し、乾燥するなどの方法がある。
【0017】
次に、上述した化合物を用いて本発明に係る銀超微粒子の製造方法について説明する。
まず、シュウ酸銀もしくはシュウ酸銀のシュウ酸イオンの一部を炭酸イオン、硝酸イオン、酸化物イオンの1種以上で置換したシュウ酸銀(以下「シュウ酸銀等」という)と、オレイルアミンもしくはオレイルアミンと飽和脂肪族アミン(以下「オレイルアミン等」という)とを混合し、攪拌して錯化合物を形成する。このとき、例えばメタノール、エタノール、水等の溶媒を添加してもよい。シュウ酸銀は固体であり、オレイルアミンと単に混合しただけではアミンや溶媒には溶けないが、錯化合物が形成されると溶解する。
シュウ酸銀等とオレイルアミン等の混合比率はモル比で1:1〜1:15の範囲とすることが好ましい。混合する際の温度は0℃〜90℃の範囲であればよく、好ましくは10〜40℃とする。温度が低すぎると、前記錯化合物の形成が不十分になる場合がある。また高すぎると、生成した錯化合物がすぐに分解してしまうため、錯化合物の形成が不十分なまま銀粒子が生成する。また錯化合物を十分に形成させるためには、混合時間は通常30分以上必要であり、好ましくは1時間〜12時間程度である。なお12時間を超えても差し支えないが、工業的には不利である。
【0018】
次いで、必要により溶媒及び未反応物を分離した後、生成した錯化合物を、加熱して分解させる。加熱によりシュウ酸イオンが分解、脱離し、自己還元により銀を析出するが、析出した銀はオレイルアミン等で保護されるため、凝集を起こさず、平均粒径1nm〜50nm、特に5nm〜20nm程度で粒径の揃った、アミンが被着した銀超微粒子の高分散体が得られる。
加熱は100〜180℃程度の温度で行うことが好ましく、特に120〜160℃程度が好ましい。100℃より低いと反応が遅く、また熱分解反応が不十分になる恐れがある。180℃を超えるとオレイルアミンが揮発または分解して失われる恐れがあり、また生成した銀超微粒子が融着を起こす恐れがある。加熱時間は30分〜6時間程度が好ましい。
【0019】
得られた銀超微粒子を反応溶液から回収する場合には、通常の濾過装置や遠心分離機等を用いて濾過、又は分離して捕集する。捕集して得られた銀超微粒子は、微粒子同士の凝集が起こりにくく、取り扱いが容易で、再分散性も極めて優れている。必要により濾過、分離に先立って精製、洗浄を行う。例えば、ヘキサン等を用いて未反応物を除去することができる。洗浄には例えば水やメタノール等のアルコールを用いる。捕集した銀超微粒子は、所望により、減圧乾燥して粉末状とすることができる。
【0020】
捕集して得られた銀粉末は、別の分散媒に分散させて使用することができる。分散媒としては、限定されるものではなく、通常使用される水や、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、テルペン系溶剤、石油系溶剤、炭化水素系溶剤などの溶剤類、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂類、これらの混合物などが使用される。用途に応じて適切な分散媒を用いることにより、分散性、安定性、塗布性等諸特性の極めて優れたペースト状、塗装状又はインク状分散液を得ることができる。必要により樹脂や可塑剤等により粘土特性を調整したり、他の金属粉末や、ガラス粉末、界面活性剤、その他この種の分散液に通常使用される添加剤を配合しても良い。
【0021】
このような分散液を用いて導電被膜を形成するには、基板にスピンコート、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、転写印刷法、その他種々の方法で前記銀超微粒子分散液を塗布し、加熱して銀超微粒子を焼結させる。本発明により得られる銀超微粒子は極めて焼結し易いので、500℃以下の低温、例えば100〜300℃程度で加熱して保護剤のアミンを除去することにより、緻密で導電性が高く、しかも微粒子が微細であるために極めて薄い電極、配線、透明導電膜、カラーフィルタ等を形成することができる。また低温焼成が可能なため、基板としてガラス、樹脂、ITOなどの耐熱性の低い基板に適用することもでき、しかもポリマー系導体ペーストの硬化温度と同程度の低温で、高温焼成タイプの導体ペーストに匹敵する高い導電性を得ることができる。
また、この銀超微粒子は、通常の導電性粉末を用いた厚膜導体ペーストや、導電性接着剤に、導電性向上剤あるいは焼結促進剤として添加することもできる。また、この銀超微粒子を分散媒に分散させた本発明の銀超微粒子分散液を用いると、セラミック、カーボン、有機ポリマー等の担体の表面に、均一に銀超微粒子を担持させることができ、触媒、吸着剤、吸収剤、抗菌剤、医薬品の製造にも有用である。
【0022】
以上のように、本発明の製造方法では、シュウ酸銀とオレイルアミンとを反応させて錯化合物を生成した後、この錯化合物を加熱分解させることによって、アミンで保護された平均粒径1nm〜50nm、特に5nm〜20nmのオーダーで、粒径の揃った高分散性の銀超微粒子を高収率で得ることができる。また、極めて単純なプロセスで生成することができる。
【実施例1】
【0023】
以下に、実施例として銀超微粒子の製造方法及びその評価を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
オレイルアミン21.40g(80mmol)をメタノール10mlと混合し、この混合溶液にシュウ酸銀3.038g(10mmol)を添加し、さらに水2mlを添加し室温で12時間攪拌してシュウ酸銀を溶解させた。このとき得られた生成物はFT-IRを用いた解析により、銀とシュウ酸イオンとオレイルアミンとを含む錯化合物であることを確認した。その後、エバポレータを使用して40℃下でメタノールを除去し、次いで、150℃に加熱して1時間攪拌させると、褐色の液体が得られた。これにヘキサン30mlを加えて約30分攪拌し、遠心分離機で分離させ上澄みを濾過した。この操作を3回繰り返した。さらに、エバポレータを使用して45℃でヘキサンを除去した後、メタノール20mlを加えて遠心分離機で分離させ上澄みを除去した。この操作も3回繰り返し、その後、減圧乾燥により生成物として粉末を得た。得られた粉末について以下のような解析及び評価を行った。
【0024】
[解析及び評価]
得られた粉末について、X線回折計((株)リガク製ミニフレックス)により解析を行ったところ、X線回折パターンから金属銀が生成されていることを確認した。また、走査透過電子顕微鏡(日本電子(株)製STEM)による観察を行い、SEM像を図1(a)に示した。
図1(a)から明らかなように得られた粉末は球状で平均粒径が11.4nmの粒度の揃った単分散超微粒子からなるものであった。収率は66.7%であった。また、IR分析によりオレイルアミンが被着していることを確認した。
【0025】
[実施例2]
オレイルアミン5.35g(20mmol)とオクチルアミン2.58g(20mmol)をメタノール5mlと混合し、この混合溶液にシュウ酸銀1.519g(5mmol)を添加し、さらに水1mlを添加して室温で2時間攪拌して銀、シュウ酸イオン、オレイルアミン及びオクチルアミンを含む錯化合物を生成させ完全に溶解させた。その後、エバポレータを使用して40℃でメタノールを除去し、次いで、150℃に加熱して1時間攪拌した。その後の精製工程は上記実施例1と同様に行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、アミンで保護された粒径が12.0nmの粒度の揃った球状の単分散超微粒子からなるものであった。収率は93.2%であった。
【0026】
[実施例3]
オレイルアミン3.57g(13.3mmol)とオクチルアミン3.45g(26.7mmol)をメタノール5mlと混合し、この混合溶液にシュウ酸銀1.519g(5mmol)を添加し、さらに水1mlを添加して室温で2時間攪拌し、錯化合物を生成させた。その後、エバポレータを使用して40℃でメタノールを除去し、次いで、150℃に加熱して1時間攪拌した。その後の精製工程は上記実施例1と同様に行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、アミンで保護された粒径が12.7nmの粒度の揃った球状の単分散超微粒子からなるものであった。収率は82.1%であった。
【0027】
[実施例4]
オレイルアミン5.35g(20mmol)とヘキシルアミン2.02g(20mmol)をメタノール5mlと混合し、この混合溶液にシュウ酸銀1.519g(5mmol)を添加し、さらに水1mlを添加して室温で2時間攪拌し、錯化合物を生成させた。その後、エバポレータを使用して40℃でメタノールを除去し、次いで、150℃に加熱して1時間攪拌した。その後の精製工程は上記実施例1と同様に行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、アミンで保護された粒径が12.5nmの粒度の揃った球状の単分散超微粒子からなるものであった。収率は87.8%であった。
【0028】
以上の実施例1〜実施例4の結果から、シュウ酸銀と、オレイルアミンを用いることによって粒径の小さなナノメートルオーダーの銀超微粒子を得ることができ、また、粒度分布も狭いことがわかる。また、実施例1〜実施例4のいずれの製造方法においても66〜93%の高い収率でシュウ酸銀から銀超微粒子が得られることが認められる。特に、実施例2〜実施例4に示すように、オレイルアミンに加えて飽和脂肪族アミンを用いることによって、短時間で容易に錯化合物を生成することができ、実施例1よりも収率の高い銀超微粒子を得られることが明らかである。
【0029】
[実施例5]
シュウ酸銀3.038g(10mmol)に対してメタノールに溶解した0.08gのオクチルアミンを混合し45℃で乾燥して、オクチルアミンを被着したシュウ酸銀を得た。次いで、このオクチルアミンを被着したシュウ酸銀をオレイルアミン16.1g(60mmol)とメタノール10mlの混合溶液に添加し、さらに水2mlを添加して室温で2時間攪拌し、錯化合物を生成させた。その後、エバポレータを使用して40℃でメタノールを除去し、次いで、150℃に加熱して1時間攪拌した。その後の精製工程は上記実施例1と同様に行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、アミンで保護された粒径が10.7nmの粒度の揃った球状の単分散超微粒子からなるものであった。収率は81.8%であった。
【0030】
[実施例6]
シュウ酸アンモニウム一水和物1.34g(9.6mmol)と炭酸アンモニウム0.04g(0.4mmol)を50mlの水に溶かした水溶液に、硝酸銀3.38g(20mmol)を50mlの水に溶かした水溶液を添加して反応させた後、乾燥してシュウ酸イオンの一部(約4mol%)が、炭酸イオンで置換されたシュウ酸銀を得た。その後、オレイルアミン21.4g(80mmol)とメタノール5mlの混合溶液に上述のシュウ酸イオンの一部が炭酸イオンで置換されたシュウ酸銀を添加し、さらに水2mlを添加して室温で2時間攪拌し、錯化合物を生成させた。その後、エバポレータを使用して40℃でメタノールを除去し、次いで、150℃に加熱して1時間攪拌した。その後の精製工程は上記実施例1と同様に行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、アミンで保護された粒径が10.3nmの粒度の揃った球状の単分散超微粒子からなるものであった。収率は82.3%であった。
【0031】
[実施例7]
上記実施例6のシュウ酸イオンの一部が炭酸イオンで置換されたシュウ酸銀に、オクチルアミン0.08gのメタノール溶液を混合し45℃で乾燥してオクチルアミンを被着したシュウ酸銀を得た。次いで、このオクチルアミンを被着したシュウ酸銀をオレイルアミン21.4g(80mmol)とメタノール10mlの混合溶液に添加し、さらに水2mlを添加して室温で2時間攪拌し、錯化合物を生成させた。その後、エバポレータを使用して40℃でメタノールを除去し、次いで、150℃に加熱して1時間攪拌させた。その後の精製工程は上記実施例1と同様に行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、アミンで保護された粒径が11.2nmの粒度の揃った球状の単分散超微粒子からなるものであった。収率は83.4%であった。
【0032】
[比較例1]
オクチルアミン13.4g(80mmol)とメタノール10mlの混合溶液にシュウ酸銀3.038g(10mmol)を添加し、さらに水2mlを添加し2時間攪拌した。その後、実施例1と同様にして加熱攪拌及び精製工程を行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行った。
図1(b)に得られた粉末のSEM像を示した。また、得られた粉末は、平均一次粒径12.8nmの粒度にばらつきのある微粒子の凝集体であり、収率は91.4%であった。
【0033】
[比較例2]
ヘキシルアミン8.08g(80mmol)とメタノール10mlの混合溶液にシュウ酸銀3.038g(10mmol)を添加し、さらに水2mlを添加し2時間攪拌した。その後、実施例1と同様にして加熱攪拌及び精製工程を行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、平均一次粒径24.6nmの粒度にばらつきのある微粒子の凝集体であり、収率は92.8%であった。
【0034】
[比較例3]
150℃に加熱したオレイルアミン21.4g(80mmol)にシュウ酸銀3.038g(10mmol)を添加し混合した。このとき実施例1〜実施例7のように攪拌による溶解処理を行わなかった。FT-IRにより、錯化合物を形成していないことを確認した。その後、実施例1と同様にして加熱攪拌及び精製工程を行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行った。図1(c)に得られた粉末のSEM像を示した。また、得られた粉末は、平均一次粒径20.1nmで粒度にばらつきのある微粒子の凝集体であり、収率は60.2%であった。
【0035】
[比較例4]
オレイン酸22.5g(80mmol)とメタノール10mlの混合溶液にシュウ酸銀3.038g(10mmol)を添加し、さらに水2mlを添加し2時間攪拌した。その後、実施例1と同様にして加熱攪拌及び精製工程を行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、平均一次粒径16.8nmで粒度にばらつきのある微粒子の凝集体であり、収率は94.8%であった。
【0036】
[比較例5]
ステアリン酸22.8g(80mmol)とメタノール10mlの混合溶液にシュウ酸銀3.038g(10mmol)を添加し、さらに水2mlを添加し2時間攪拌した。その後、実施例1と同様にして加熱攪拌及び精製工程を行い、生成物として粉末を得た。得られた粉末について実施例1と同様の解析及び評価を行ったところ、平均一次粒径19.8nmで粒度にばらつきのある微粒子の凝集体であり、収率は95.2%であった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)〜(c)は、それぞれ実施例1、比較例1及び比較例3において得られた銀超微粒子のSEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸銀と、オレイルアミンとを反応させて少なくとも銀とオレイルアミンとシュウ酸イオンとを含む錯化合物を生成し、
生成した前記錯化合物を加熱分解させて銀超微粒子を生成することを特徴とする銀超微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記シュウ酸銀と、前記オレイルアミンに加えて飽和脂肪族アミンを反応させて前記錯化合物を生成することを特徴とする請求項1に記載の銀超微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記飽和脂肪族アミンの総炭素数は、1〜18であることを特徴とする請求項2に記載の銀超微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記飽和脂肪族アミンの少なくとも一部が前記シュウ酸銀に被着していることを特徴とする請求項2又は3に記載の銀超微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記シュウ酸銀のシュウ酸イオンの20モル%以下が、炭酸イオン、硝酸イオン、酸化物イオンの少なくともいずれか一種以上で置換されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の銀超微粒子の製造方法。

【図1】
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