説明

銅−硼素母合金、およびその銀−銅合金を作成するための使用方法

銀と混ぜることで77wt%以上のAgと0.5wt%以上のGeを含んだ合金をつくるために用いる母金属材料は、CuおよびGeおよび硼素と併せて、合金に使う任意のさらなる成分と、夾雑物のすべてとを含む。また、77wt%以上の量のAg(銀)と、1〜7.2wt%のCu(銅)と、0.5wt%以上のGeと、Bとを含み、合金に使う任意のさらなる成分と、任意の不純物とを含むような銀合金をつくる方法も提供し、この方法には、純銀と、少なくとも銅とゲルマニウムと硼素の三元合金である母金属材料(例えば、92.5〜92.8wt%のAgと、6.0〜6.3wt%と、約1.2wt%のGeと、結晶微細化剤としての1〜15ppmの硼素との合金)とを共に熔融するステップ、が含まれる。得られる銀合金は、良好な耐曇性と火焼け(firestain)への抵抗性とを示し、また、ゆっくりと空気中で冷却することで、充分な析出硬化をさせることができる。本発明のさらなる特徴は、銀合金製品を造るために使う、銅に基づく母合金の製造方法に関し、この方法においては、熔融した母合金を、固化する前に分解性硼素化合物(水素化硼素もしくは水素化硼素金属など)で処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀と混ぜて合金をつくる上で適する母金属材料(master metal composition)に関し、また、この母金属材料を使った銀合金の製造方法にも関し、また、成形製品をつくるためおよび/もしくは析出硬化作用を得るために、この合金をさらに任意に処理することにも関する。
【背景技術】
【0002】
(原文に記載無し)
【発明の開示】
【0003】
本発明は、銀と混ぜて合金をつくるための、銅に基づく母合金を提供し、この母合金は、ゲルマニウムと硼素を含み、且つ、任意に他の合金成分(銀および/もしくは亜鉛および/もしくは珪素および/もしくはインジウムを含む)も含めることができる。
【0004】
また、本発明は、2wt%以下の硼素を含んだ、実質的に純粋な銅または銅合金(Cu-GeもしくはCu-Zn-GeもしくはCu-Ge-SiもしくはCu-Ge-Zn-Siの合金など)であって、この硼素が、熔融した銅中でin situで分解して硼素となりえるような化合物を手段として使って、銅中に導入されるような銅または銅合金、を提供する。これらの化合物は、アルキル硼素化合物、水素化硼素、硼素ハロゲン化物、硼素含有水素化金属、硼素含有金属ハロゲン化物、およびそれらの混合物から成る群から選択できる。in situ分解は、現行の銅-硼素母合金の作成方法(則ち、銅と硼素細粒を急速に融かし混ぜて、硼素ハードスポットができやすくなってしまうような方法)よりも優れていると思われる。いくつかの実施形態においては、母合金を混ぜ込んだ合金に多量の硼素成分を与えることができ、しかもハードスポットの成長は許容しうる程度に低く抑えられるような、有用な母合金を得ることが可能である。こうした合金中の硼素成分は、現在入手可能であるCu-B合金の2wt%という水準にまで高めることもでき、あるいは、硼素を結晶微細化剤として使用する際に得られる貴金属合金の場合よりも少なくすることもできる。いくつかの実施形態では、銅の熔融もしくは鋳造を促進する上で充分な量の銀を含んだ、Ag-Cu-Ge-B、Ag-Cu-B、Ag-Cu-B-Si、もしくはAg-Cu-Ge-B-Siが提供され、例えば、この銀の量は、1〜30wt%のAg、典型的には1〜25wt%のAg、より典型的には10〜25wt%のAgとすることができる。
【0005】
本発明の或る実施形態は、銀と混ぜて、77wt%以上のAgと0.5wt%以上のGeを含む銀合金を得るために用いられる母金属材料に関連し、この母金属材料は、Cuと、Geと、0.001〜0.5wt%(典型的には0.005〜0.3wt%)の硼素とを含み、それらに加えて、得られる合金のためのさらなる任意の成分と夾雑物のすべてを共に含む。
【0006】
さらにまた本発明は、77wt%以上のAgと、1〜7.2wt%のCu(銅)と、0.5wt%以上のGeと、0.005〜0.3wt%のBとを含み、且つさらに銀合金のためのさらなる任意の成分と夾雑物のすべてとを共に含んだ銀合金をつくるための方法も提供し、この方法には、純銀と、上述した母金属材料とを、共に熔融するステップが含まれる。
【0007】
本発明のなおも別の実施形態では、銀製品の製造に用いる母合金をつくるための方法であって、銅(と任意のゲルマニルムまたは他の合金成分と)を熔融するステップと、アルキル硼素化合物、水素化硼素、硼素ハロゲン化物、硼素含有水素化金属、硼素含有金属ハロゲン化物、およびそれらの混合物から成る群から選択される化合物の形態としての硼素を熔湯中に添加するステップとを含むような方法も提供する。また本発明は、例えば、母合金(Cu-Ge-B母合金やCu-B母合金など)の製造にも適用可能である。
【0008】
母合金の使用方法は、多数の技術的な利点を提供する。硼素は非常に軽い元素であり、熔融過程中に簡単に失われてしまう。合金中の硼素の量が多すぎるか、または硼素が充分に溶け込んでいないような場合には、硼素のハードスポットが生じ、銀製品を研磨したときにその表面に擦瑕ができてしまう。そうではあるのだが、熔融中の損失を補償するためとして、必要量以上の硼素を加えることが当たり前となっている。添加した硼素がどうなるのかについては、現在のところ不明であるが、ひとつの可能性としては、硼素が銀中に存在する酸素と反応しているのではないかとも考えられる。また別の可能性としては、通常はその中で合金を融かすグラファイト坩堝の物質が、硼素と反応しているのではないかとも考えられる。第三の可能性としては、硼素が熔湯の表面を越えて放出され、大気中に存在する酸素によって酸化されるのだとも考えられる。しかしながら、母合金中でゲルマニウムと硼素を組み合わせると、保護効果が得られ、また、ゲルマニウムが銅を保護するのと同様のやりかたで、ゲルマニウムは硼素も保護すると考えられる。
【0009】
いくつかの実施形態においては、合金にする成分を加えてゆく順序が重要となりえる。銅合金に対して、まずゲルマニウムを加えてから硼素を加えることは困難である。これは、硼素源として硼化銅を使うときには、硼素を合金中に溶解させる上で高温が必要になってくるために、合金のゲルマニウム成分が過熱されてしまうリスクに曝されることに因る問題である。そこで、本発明に係る母合金では、通常は、まず最も融点が高い元素を最初に融かし混ぜ、続いて低い融点の元素を加えながら加工を行う。別の手法として、母合金の熔融した金属に触れると分解する水素化硼素もしくは水素化硼素金属などとして硼素を添加して、硼素を合金中に分散することによって、ハードスポットなどが成長する機会を奪うことができる。
【0010】
さらにまた、本発明は、少なくともCuとBを含んだ母合金を鋳造するための方法も提供し、この方法には、
(a) 少なくともCuを含んだ前駆母熔湯(precursor master melt)を形成するステップと、
(b) アルキル硼素化合物、水素化硼素、硼素ハロゲン化物、硼素含有水素化金属、硼素含有金属ハロゲン化物、およびそれらの混合物から成る群から選択される化合物を、母熔湯の全体に亘って分散するステップと、
(c) 熔湯を固化させるステップと
が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔母合金〕
母合金には、80〜95wt%のCu(もしくは、後述する合金のためのさらなる任意の成分と併さったCu)と、20〜5wt%のGeとを含めることができる。好ましい類の合金には、80〜86.7wt%のCu(もしくは、後述する合金のためのさらなる任意の成分と併さったCu)と、20〜13.3wt%のGeとを含める。なおもさらに好ましい類の合金は、82〜84.55wt%のCuおよび合金のためのさらなる任意の成分と、15.5〜18wt%のGeとを含む。約0.03wt%のBを有する合金を用いて、その合金を混ぜ入れる銀合金に所望の硼素成分を与えることが可能である。好ましい類の母合金は、銅、ゲルマニウム、硼素、および夾雑物のみを含む。
【0012】
母合金は、銀合金に必要な銅のすべてを供給可能である。別の手法として、銅と、上記で定義した種類の母合金とを混ぜ融かすことによっても、銀合金をつくることができる。
【0013】
〔金属銅もしくは銅母合金への硼素の混入〕
硼素を加えんとする母合金前駆体は、純銅もしくはCu-Geとすることもでき、あるいは、鋳造をやりやすくし且つ表面の割れと粗鬆を抑制する効果のある少量の鋳造補助剤(casting adjuvants)(SiもしくはAgなど)をさらに含めたCuまたはCu-Geとすることもできる。銅もしくは合金は、通常は、鋳造もしくは鋳込みのための名目温度(nominal temperature)(例えば約1150〜1200℃)に置く。熔融温度は、硼素の蒸発の動力学に影響し、鋳造母合金中の最終的な硼素濃度を決定する。選択する温度は、連続鋳造法間の型(die)中での凝固、もしくは、結晶作成の際の結晶函(grain box)中での凝固を抑制するために、合金の液相線温度よりも充分に高い温度とすべきである。合金は大気圧下で容易に鋳造できるものであるが、大気圧よりも高い圧もしくは低い圧であっても、本発明の利点には影響しない。しかしながら、硼素の蒸発の動力学には影響しうる。さらに言えば、貴金属に混ぜ融かして、鋳造用結晶(casting grain)をつくってからさらに融かしてロッドもしくはワイヤーをつくるか、またはインベストメント鋳造法にかけるような母合金については、多くの硼素成分が含まれることが望ましい。
【0014】
或る実施形態においては、充分な硼素を母合金に加えて、鋳造する貴金属合金もしくは母合金に有効量の硼素が残留するようにすることで、有効な結晶微細化効果および脱酸効果を与えることができる。典型的には、母合金の硼素含量は100ppm〜1600ppmの範囲とし、また、鋳造用母合金中の公称硼素含量(nominal boron content)は約250ppmとするのがより典型的である。典型的には、0.01%〜0.16%の硼素を、前駆合金熔湯に加えるのが有効である。
【0015】
硼素は、本発明に係る母合金中に混ぜ込んで、最終的な銀合金中において酸素捕捉剤および/もしくは結晶微細化剤として使われる。硼素は、金属硼化物(硼化銅など)として添加することが可能である。また、硼素を、例えば50wt%以上のCu(と任意に付随的成分と)を含んだ熔融した母合金(Cu、Cu-Ge、Ag-Cu-Ge、Ag-Cu-Si、もしくはAg-Cu-Ge-Siなど)に対して添加する別の手法として、非反応性ガス(アルゴンなど)と併せた気体ボラン(ジボランなど)を母合金中に通すことによって加えることもできる。あるいは、母合金中に外気温で固体であるボラン(デカボラン B10H14, m.p. 100℃, b.p. 213℃ など)を導入することによって硼素を加えることもでき、あるいは、アルキル化ボラン(トリエチルボランもしくはトリ-n-ブチルボランなど)を添加することによって硼素を加えることもできる(但し、後者の試薬は自然発火するため、その取り扱いには注意が必要である)。とは言え、硼素は、水素化硼素金属として添加するのが好ましく、例えば、水素化硼素アルカリ金属、水素化硼素擬アルカリ(pseudo-alkali)金属、水素化硼素アルカリ土類金属など(水素化硼素リチウムなど)として硼素を添加するのが好ましい。特に好ましいのは水素化硼素ナトリウムであって、これは広汎に市販されており、また比較的大きな丸剤(ペレット)の形態で入手できるため、貴金属熔解工程中に取り扱いしやすい。
【0016】
前述したように、気体の硼素化合物は、熔融した銅もしくは銅合金中に導入するわけであるが、ここで好ましくは、気体の硼素化合物をキャリアーガスと混合して、熔融した銅もしくは銅合金中に攪拌する流れをつくりだし、この合金中に混合気体の硼素成分を分散させる援けが得られるようにする。適切なキャリアーガスとしては、例えば水素、窒素、およびアルゴンが含まれる。気体の硼素化合物およびキャリアーガスは、熔融した銅もしくは銅合金を収めた容器の上から導入可能である。例えば、銅熔解炉内の坩堝、鋳込み用取瓶、または溜堰に対して、冶金用ランス(metallurgical lance)(グラファイトなどの耐熱性物質でできた細長い管、もしくは耐熱性物質で覆った金属管など)を、その下端を熔融した銅もしくは合金の中に潜らせるようにして用いることで、気体の硼素化合物およびキャリアーガスを導入することができる。このランスには、熔融した銅もしくは銅合金の深部に、気体の硼素化合物およびキャリアーガスを注入する上で充分な長さを具えさせるのが好ましい。別の手法として、例えば、ガス透過性バブリングバルブ、もしくは潜降させた注入用ノズルを使って、硼素含有ガスを、熔融した銅または銅合金の側部もしくは下部から導入することもできる。例えば、Rautomead International of Dundee, Scotlandでは、半仕上げの製品の連続鋳造を行うための、横型連続鋳造機(RMK系列)を製造している。加熱する銅もしくは合金は、固体グラファイトの坩堝に入れて、不活性ガス雰囲気(5ppm未満の酸素と2ppm未満の水分を含む、酸素を含まない窒素など)で保護し、且つ、グラファイトブロックを使った抵抗加熱法によって加熱することができる。こうした炉は、不活性ガスを熔湯に通すための組み込み設備を有する。
【0017】
熔湯に通す不活性ガスに、熱分解性の硼素含有ガスを少量加えることにより、熔融した金属中もしくは合金中に、硼素を所望の数ppmから数百ppm、さらには数千ppmに至るまでの範囲で容易に導入することができる。硼素化合物を、或る期間に亘って希薄ガス流として銅もしくは銅合金へと導入することによって、このガス流中のキャリアーガスが熔融した銅もしくは合金を攪拌するので、硼素化合物を比較的大きなひとつもしくは複数の塊として導入する場合に較べ、金属もしくは合金での硼素ハードスポットの発生を抑制するという見地からして好ましく、また、こうして得られる硼素含有合金を、ハードスポットの成長を抑える貴金属合金製造のための母合金として使うことができる。熔融した銅中もしくはその合金中にこのようにして導入できる化合物としては、三弗化硼素、ジボラン、もしくはトリメチル硼素が含まれ、これらは水素、アルゴン、窒素、もしくはヘリウムを加えて高圧ガス容器に入れた状態で入手可能である。このうちでジボランは、他の硼素類とは異なり、合金中に入り込む他の元素が水素のみとなるため、好ましいと言える。なおも別の方策としては、キャリアーガスを熔融した銅もしくはその合金に通すことで、それらを攪拌する作用を齎しつつ、固体硼素化合物(NaBH4もしくはNaBF4など)を、エアロゾルを構成する微細粉末として流動ガス流に加える、ということも可能である。
【0018】
また、液体である硼素化合物を、熔融した銅中もしくは銅合金中に導入することもでき、その際にはそのまま導入してもよく、あるいは不活性有機溶媒に溶かして導入してもよい。このやりかたで導入できる化合物としては、アルキルボラン類もしくはアルコキシ-アルキルボラン類が含まれ、例えば、トリエチルボラン、トリプロピルボラン、トリ-n-ブチルボラン、およびメトキシジエチルボランが含まれる。これらを安全に取り扱うためには、ヘキサンもしくはTHFに溶かすのがよい。液体硼素化合物は、カプセルもしくは包(sachets)に見立てて銅箔でつくった容器の中に、既知の液体/カプセルもしくは液体/包を充填するための装置と、充填されたカプセルもしくは包または他の小容器(通常は容量0.5〜5ml、より好ましくは約1〜1.5ml)をつくるための保護雰囲気とを使って、充填して密封することができる。別の手法として、カプセルもしくは包を、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリマーでつくることもできる。そうして充填した適切な数のカプセルもしくは包は、熔融した銅中もしくはその合金中に、個別に入れ込んでもよいし、あるいはひとつもしくは複数の群にして入れ込んでもよい。なおも別の方策として、液体の硼素含有化合物を、上述したように熔融した銅もしくは銅合金を攪拌するために用いられるキャリアーガス流中に噴霧することもできる。硼素含有化合物の小滴は、キャリアーガス中でエアロゾルの形態となるか、あるいはキャリアーガス中で揮発しうる。
【0019】
また、前述したように、硼素化合物は固体として熔融した銅中もしくは銅合金中に導入するのが好ましく、例えば、デカボラン B10H14(m.p. 100℃, b.p. 213℃)などの固体ボランを使うことができる。しかしながら、硼素を添加するにあたっては、硼素含有水素化金属もしくは硼素含有金属弗化物または他のハロゲン化物、のいずれかの形態を使うのが好ましい。硼素含有水素化金属を使用する場合には、適切な金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、およびそれらの混合物が含まれる。硼素含有金属弗化物を使用する場合には、ナトリウムが好ましい金属である。最も好ましいのは水素化硼素ナトリウム NaBH4 (分子量37.85)であって、硼素を28.75%の割合で含み、しかも比較的大きめのペレットの形態として入手可能であるので、貴金属熔融工程中に取り扱いしやすい。
【0020】
硼素は、高温の熔融した銅もしくは銅合金から揮発して失われてしまいやすいものであるため、結晶微細化に要する充分な濃度を維持するために、硼素を後から添加する必要が生じることがある。硼素化合物が、銅中もしくは銅合金中にもっと混ざりやすくするために、薄い銅箔もしくは薄い不活性物質(則ち、熔融した銀中で、実質的に残滓を出すこと無く、分解する物質。紙もしくは樹脂シートなど)の箔で、硼素化合物を包むこともできる。箔にするために好ましい金属は銅であるが、そのほかにも、銀は鋳造特性を補う効果を持つため、箔として使用してもよい。この箔の厚さは、約0.01mm〜約0.3mmの範囲とするのが好ましく、箔で包んだ硼素化合物が、箔が融けきる前に熔解した銅もしくは合金の中に充分に沈んで、硼素化合物を放出できるようにする。硼素化合物の成分は、放出されると熔湯中の酸素と結合し、熔湯を効果的に脱酸する。また、(本発明の効果はこの理論の正しさに依るものでは無いが)硼素は熔湯中の元素のいくつかと反応して、散けた不溶性粒子を形成し、基材全体に分散すると考えられ、この不溶性粒子が結晶核生成部として機能して、大きさが均一であって且つ成長しづらい微細結晶の形成を促進している、と考えられる。
【0021】
硼素を熔融した金属に添加するにあたって、例えばジボランを使う場合には、化合物は(例えば)以下のように硼素と水素に分解される。

B2H6 → 2B(s) + 3H2(g)

この水素が熔湯を効果的に脱酸する。
【0022】
まず水素化硼素ナトリウムを熔融金属へと加える場合には、最初の反応は硼素含有結晶微細化剤の分解であると考えられる。

(1) NaBH4(s) → Na(g) + B(s) + 2H2(g)

分解後に生じるナトリウムと水素と硼素のすべては、以下のように熔湯の脱酸をするために役立つ。

(2) Na(g) + 0.5O2(g) → Na2O(s)
(3) H2(g) + 0.5O2(g) → H2O(g)
(4) B(s) + 0.5O2(g) + 0.5H2(g) → HBO(g)

均一な鋳造を行うためには、1分間を超える攪拌(通常は1〜5分間)をして、熔融金属全体に亘って硼素を分散させるのがよい。攪拌は、熔融金属を汚さないような任意の手段(グラファイトの攪拌棒など)を使って行うことができる。
【0023】
得られる母合金は、所望の製品を成形する上で適切な方法を使って鋳造する。こうした有用な製品のひとつが、鋳造用結晶である。鋳造用結晶とは、宝飾品製造業者へと販売される小粒であって、母合金の結晶と貴金属の結晶とを併せて行うインベストメント鋳造によって、所望の宝飾品が成形されることになるものである。攪拌の後に、熔融した母合金を底に開口部を持つ容器である結晶函に鋳込み、結晶函を通して液体金属を流して、所望の形状と結晶の大きさをつくりだす。結晶函は、坩堝と同様の物質から作成することができ、例えば、グラファイト、粘土/グラファイト、セラミック、およびシリコンカーバイドなどを使うことができるが、これらに限定はされない。熔融した母合金を、結晶函中で散けた小滴にして開口部から流し、水の入った結晶タンク(grain tank)の水の中に母合金の小滴を垂らし入れて凝固させることで、だいたい球状である粒子として固化をさせる。その後、母合金の鋳造用結晶を結晶タンクから取り出して、(遠心力と熱風などによって)乾燥させる。得られるだいたい球状である結晶の直径は、通常は約0.1mm〜約5mmの範囲である。
【0024】
〔本発明に係る母合金から製造できる合金〕
本発明に係る母合金は、銀合金の製造に用いることができる。
【0025】
本発明に係る母合金は、75wt%以上のAg成分と、0.5〜3wt%のGe成分と、付随的な成分と夾雑物のすべてを除いた残余分としての銅とを有し、結晶微細化剤として硼素を含む、銀/ゲルマニウム合金をつくるために使うことが可能である。所望であれば、この銅成分の一部を、Al、Ba、Be、Cd、Co、Cr、Er、Ga、In、Mg、Mn、Ni、Pb、Pd、Pt、Si、Sn、Ti、V、Y、Yb、Zn、およびZrから選択される、ひとつまたは複数の、付随的であり且つ火焼け(firestain)と曇りへの抵抗性に関するゲルマニウムの効果に過度に影響しないような成分元素で置き換えることもできる。ゲルマニウムに対する付随的成分の重量比は、100:0〜80:20の範囲、好ましくは100:0〜60:40の範囲とすることができる。「付随的な成分」("incidental ingredients")という語には、合金内部での補助的な機能性(色合いもしくは鋳った際の外観の改良など)を有する成分をあてはめることができ、また、この語には或る量の金属もしくは半金属を含めることができ、例えば、「脱酸」("deox")に適するSi、Zn、Sn、もしくはInを含めることができる。
【0026】
本発明によってつくることができる合金としては、硬貨鋳造用品位、品位800(品位830および品位850などを含む)、ならびに標準スターリング銀、ならびに、火焼けおよび/もしくは曇りを低減する上で有効な量のゲルマニウムを含む銀合金、が含まれる。本発明に係る方法によって適切につくることができるAg-Cu-Ge三元合金、Ag-Cu-Zn-Ge四元合金、およびAg-Cu-Ge-Si四元合金は、合金の重量に対して80%以上、好ましくは92.5%以上であって98%を上限(好ましくは97%を上限)とする銀成分を有する。Ag-Cu-(Zn)-Ge合金もしくはAg-Cu-(Si)-Ge合金のゲルマニウム含量は、0.1wt%以上とすべきであって、好ましくは0.5wt%以上、より好ましくは1.1wt%以上である。ゲルマニウム成分は、合金の重量に対して1.5%を超えないようにするのが好ましく、より好ましくは4wt%以下であって、上限は好ましくは6.5wt%とする。
【0027】
特に、珪素は、例えば0.5wt%以下、典型的には0.5〜3wt%、より普遍的には0.1〜0.2wt%で銀合金へと添加することができるものであって、好ましくは例えば約10wt%のSiを含んだ銅-珪素母合金の形態として入手できる。例えば銀-銅-ゲルマニウム三元合金の鋳造用結晶中に、珪素を混ぜ込むことによって、輝きのある外観のインベストメント鋳造物を、鋳型からすぐに取り外せるようになる。例えばインベストメント鋳造の前に、珪素を鋳造用結晶に添加することもでき、あるいは、最初の熔解時に銀の中に珪素を混ぜ入れて合金をつくることもできる。
【0028】
Ag-Cu-Ge三元合金のうちの、夾雑物と付随的成分とすべての結晶微細化剤とを除いた残余分は、銅から成ることになり、最終的な合金の重量に対して0.5%以上存在するべきであって、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、最も好ましくは4%以上で存在する。「品位800」の三元銀合金では、銅含量は例えば18.5%が適切である。適切な量の銅を母合金に混ぜ込むと、通常、銅は母合金の50wt%以上を占める。
【0029】
Ag-Cu-Zn-Ge四元合金のうちの、夾雑物とすべての結晶微細化剤を除いた残余分は、銅(合金の重量に対して0.5%以上存在するべきであって、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、最も好ましくは4%以上で存在する)と、亜鉛(銅に対する重量比が1:1を超えないように存在するべき)とから成ることになる。したがって、亜鉛は、銀-銅合金中に任意に存在し、その量は銅成分の重量の0〜100%となる。「品位800」の四元銀合金では、例えば、銅含量が10.5%、亜鉛含量が8%であるのが適切である。亜鉛が存在する場合には、亜鉛を母合金に混ぜ込むことができる。
【0030】
この銀合金には、銀と銅とゲルマニウムと任意成分である亜鉛とに加えてさらに、合金の処理工程中に結晶の成長を抑える結晶微細化剤を含めるのが好ましく、こうした結晶微細化剤は母合金の一部として添加する。適切な結晶微細化剤としては、硼素、イリジウム、鉄、およびニッケルが含まれ、中でも硼素が特に好ましい。結晶微細化剤(好ましくは硼素)は、Ag-Cu-(Zn)-Ge合金中もしくはAg-Cu-(Si)-Ge合金中に、合金の重量に対して1ppm〜100ppmの範囲で存在することができ、好ましくは2ppm〜50ppm、より好ましくは4ppm〜20ppmの範囲とする。
【0031】
好ましい実施形態においては、銀合金を、夾雑物およびすべての結晶微細化剤を除き、銀合金の重量に対して80%〜96%の銀と0.1%〜5%のゲルマニウムと1%〜19.9%の銅とから成る三元合金とする。より好ましい実施形態においては、銀合金を、夾雑物および結晶微細化剤を除き、合金の重量に対して92.5%〜98%の銀と0.3%〜3%のゲルマニウムと1%〜7.2%の銅と、さらに結晶微細化剤としての1ppm〜40ppmの硼素とから成る三元合金とする。さらに好ましい実施形態においては、銀合金を、夾雑物および結晶微細化剤を除き、合金の重量に対して92.5%〜96%の銀と0.5%〜2%のゲルマニウムと1%〜7%の銅と、さらに結晶微細化剤としての1ppm〜40ppmの硼素とから成る三元合金とする。特に好ましい銀の三元合金は、Argentium(商標)として市販されており、92.7〜93.2wt%のAgと、6.1〜6.3wt%のCuと、約1.2wt%のGeとを含む。
【0032】
本発明に係る母合金を使う、硼素の添加による利点を得られる合金(Cu-BもしくはCu-Ge-B)として特に知られているものには、以下に挙げるものが含まれる。
【0033】
(i) US-A-3811876(Harigawa et al., K. K. Suwa Seikosha, その記載はこの参照により本開示に含まれる)。SnとInとZnとの相乗作用によって曇りを軽減する銀合金を開示している。ここでは、4〜10wt%のSnと、0.5〜12wt%のInと、0.1〜5wt%のZnと、残余分として銀と、から本質的に成る合金を記載し請求している。ここではまた、Ti、Zr、Be、Cr、Si、Al、Ge、および/もしくはSbを添加して、これらが優先的に酸化されて安定な酸化物をつくることにより、銀合金の表面を保護し、機械的強度と耐曇性が増大する、とも主張している。これらの添加元素の量が0.001wt%未満であると、効果的では無い。また、1wt%を超える量のTi、Zr、Be、Cr、もしくはSiを加えると、合金が脆くなってしまうと述べられており、さらに不溶性成分が形成されて研磨に影響が出るとも述べられている。0.001〜5wt%のAl、Ge、およびSbの添加によって、加工性を落とすこと無く耐曇性が増すことができると述べられている。この合金は銅を含まないので火焼けの被害を蒙らない、と述べられてはいるが、この合金は軟らかい。
【0034】
(ii) US-A-4973446(Bernhard et al., United Precious Metal Refining, その開示はこの参照により本開示に含まれる)。Sn、In、Zn型であって、さらに銅および硼素を含む銀合金材料を開示している。この銀合金は、89〜93.5wt%のAgと、0.01〜2wt%のSiと、約0.001〜2wt%のBと、約0.5〜5wt%のZnと、約0.5〜6wt%のCuと、約0.25〜2wt%のSnと、約0.01〜1.25wt%のInとを含む。珪素は脱酸剤(de-oxidant)として加える。硼素は、熔融した合金の表面張力を低減して、均一に混ぜられるようにするために加える。亜鉛は、合金の融点を下げるためと、白みを足すためと、銅の代わりとして使うためと、脱酸剤として使うためと、合金の流動性を改善するために加える。銅は、従来から知られている銀の硬化剤として、さらには他の物質の主な担持剤としても機能するものとして加える。錫は、耐曇性の改善のためと、錫の有する硬化作用を得るために加える。インジウムは、結晶微細化剤として、且つ合金のぬれ性(wetability)を改善するためのものとして加える。銀は、硬貨鋳造用銀もしくはスターリング銀として認められるために最低限必要なパーセンテージで存在しなくてはならない。また、上述した銀合金材料をつくるために用いられる母合金も開示されており、0.91〜30.77wt%のSiと、0.001〜30.77wt%のBと、4.54〜76.93wt%のZnと、4.54〜92.31wt%のCuと、2.27〜30.77wt%のSnと、0.09〜19.24wt%のInとを含むことができるとされている。典型的な母合金には、約25wt%のZnと、約54wt%のSnと、約0.75wt%のInと、約19.44wt%のCuと、約0.135wt%のBと、約0.675wt%のSiとが含まれる。本発明の発明者の経験から述べると、この合金は、或る程度の耐曇性を示すだけではなく、さらにインベストメント鋳造の際の火焼けを或る程度軽減するものの、その一方で、銅成分を含むためにはんだづけもしくは焼き鈍しの際の火焼けへの耐性に欠ける。US-A-5039479(Bernhard et al., この参照により本開示に含まれる)の記載についても同様である。
【0035】
(iii) GB-B-2255348(Rateau, Albert and Johns; Metaleurop Recherche, その開示はこの参照により本開示に含まれる)。Ag-Cu合金に特有の硬化特性と光沢特性を引き継ぎつつ、銅成分の酸化されやすさから生じる問題を低減する銀合金を開示している。この合金は、92.5wt%以上のAgと、0.5〜3wt%のGeと、夾雑物を除く残余分として銅とを含む、Ag-Cu-Ge三元合金である。この合金は、従来の生産工程、変形工程、および仕上げ工程の間に、外気中で錆びることが無く、また、冷間変形が容易であり、また、鑞づけしやすく、また、大きな鋳縮みを起こさない。さらにこの合金は、優れた延性と引っ張り強度も呈する。ゲルマニウムは保護機能を示し、これは新規な合金が示す特性と有用に組み合わせることができる。また、ゲルマニウムは、銀相と銅相の双方に固溶していた。この合金の微細構造は二つの相から成っており、銀中のゲルマニウムと銅の固溶体が、ゲルマニウムと銀と銅とのフィラメント状の固溶体に取り囲まれた構造になっている。銅リッチ相中のゲルマニウムが、GeOおよび/もしくはGeO2の薄い保護膜を形成して、この相の表面の酸化を抑制し、鑞づけおよび火炎焼き鈍しの際に火焼けの発生を抑えている。さらに、ゲルマニウムの添加によって、曇りの拡大を大きく遅らせることができ、また、表面の黒みがやや黄みがかったように変わり、生じた曇りは普通の水道水を使って簡単に除去することができる。この合金は、特に宝飾品として有用である。
【0036】
(iv) US-A-6168071(Johns, その開示はこの参照により本開示に含まれる)。特に、合金重量に対して77wt%以上のAg成分と、合金重量に対して0.5〜3wt%のGe成分と、すべての夾雑物を除く残余分として銅とを有する銀/ゲルマニウム合金であって、結晶微細化剤としての硼素を約20ppmまでの濃度で含むような合金について記載し請求している。所望であれば、開示されているCuB母合金に代わって、アルキル硼素化合物、水素化硼素、硼素ハロゲン化物、硼素含有水素化金属、硼素含有金属ハロゲン化物、およびそれらの混合物を使って、合金に硼素成分を与えることもできる。
【0037】
(v) US-A-6406664(Diamond, その開示はこの参照により本開示に含まれる)。火焼けおよび曇りへの耐性を有すると謳われ、且つ92.5〜96wt%のAgと、0.1〜0.38wt%のGeと、0.5〜3.8wt%のSnと、0.001〜0.008wt%のBと、0.001〜0.1wt%のNiと、残余分として銅と、結晶微細化剤として用いる硼素と、ゲルマニウムの量を減らすことができるとされている錫およびニッケル成分とを含む、銀合金を開示している。この合金は、時効硬化、はんだづけ、熔接、成形、鋳造、および機械的加工ができるとされている。その製品は、昇温をともなう工程において、収縮せず、粗鬆にならず、且つ焼け曇り(fire scale)を生じない、と謳われている。
【0038】
(vi) US 6726877(Eccles, その開示はこの参照により本開示に含まれる)。焼け曇りへの耐性を持つと主張されている、加工硬化特性を持つ宝飾用銀合金材料を開示している。この合金は、86wt%以上のAgと、0.5〜7.5wt%のCuと、0.07〜6wt%のZnおよびSiの混合物(ここでSiは0.02〜2wt%である)と、0.01〜2.0wt%のGeとを含む。また、この合金には、熔融した合金の鋳造性および/もしくはぬれ性を改善するために加える、流動性改変剤とその他の添加剤も含めることができる。例えば、In、B、もしくはそれらの混合物から選択される改良用添加剤を、合金の重量に対して約3.5%を上限としてこの合金に加えることで、結晶微細化および/もしくは熔融した合金のぬれ性を増大させることができる。この材料は、純銀を母合金に加えてつくることができ、ここで例えば母合金は52.5〜99.85wt%のCuと、0.1〜35wt%のZnと、0.05〜12.5wt%のGeとを含む。
【0039】
(vii) US 6841012(Croce; Steridyne Laboratories, その開示はこの参照によりその記載は本開示に含まれる)。銀の重量に対して約85%以上の銀と、亜鉛、銅、インジウム、錫、および鉄を含み且つさらに任意に金、珪素、マンガン、硼素、ビスマス、コバルト、クロム、および鉛のうちの少なくともひとつを含むような合金の残余分とを含んだ、耐曇性を謳う銀合金を開示している。亜鉛の存在により、合金に白みを加えることができると述べられている。銅は、従来技術に係る硬化剤として機能し且つ可鍛性を加えるために機能すると述べられている。インジウムは、合金に輝きと延性を与え、さらに合金の鋳造をしやすくする、と述べられている。錫は、合金の硬度と可鍛性と延性とはんだづけのしやすさのために添加する、と述べられている。鉄は、合金の硬度のために添加する、と述べられている。硼素は、焼け曇りの除去に寄与すると述べられている。
【0040】
(viii) US 6913657(Ogasa, その記載はこの参照によりその記載は本開示に含まれる)。種々の貴金属の合金を開示している。或る実施形態において、この文献は主に銀合金から成る硬い貴金属合金の構成物を開示しており、この銀合金は、80.0wt%以上の銀成分と、50ppm以上15000ppm未満の量のガドリニウムとを含む。0.01〜0.1wt%の量の硼素を、この合金のうちのいくつかに対して加える。
【0041】
(ix) US-A-2004/0219055(Croce, その記載はこの参照により本開示に含まれる)。Zn、Cu、In、Sn族の抗曇性銀合金を開示しており、この合金は85wt%以上のAgを有し、残余分としてFeも含む。硼素は任意添加成分である。
【0042】
〔母合金を使って作成した製品の後処理〕
上述した母合金を使って作成し、焼き鈍し温度まで加熱した、Ag-Cu-Ge銀合金の加工片および成形した製品は、調節した空冷を使って自己硬化させることができ、焼き鈍しおよび/もしくは析出硬化の効果を得るための再加熱を必要とはせずに、有用な硬度の製品を得ることが可能になっている。しかも、本発明では、例えば180〜350℃(好ましくは250〜300℃)に再加熱することで、さらに硬化をすることも可能となっている。析出硬化中にAg-Cu-Ge銀合金の過時効が起こっても、得られた硬度が大きく下落することは無い。加工片の処理は、例えば、メッシュベルトコンベア炉内またはインベストメント鋳造中の、はんだづけもしくは焼き鈍しの一部として行うことができるため、必要な硬度の製品をつくる上で要る多くの工程を削減でき、特に、Ag-Cuスターリング銀では必要な、水などを使う焼入れ作業を行わずに済む。
【0043】
従来技術に係るスターリング銀合金と、或るときは他のAg-Cu二元合金、また或るときはAg-Cu-Ge合金とには、特性上の驚くべき差異が存在する。この差異というのは、二元スターリング型の合金を徐ろに冷却したときには、粗い析出が起きて、ごく限られた析出硬化しか得られず、その一方、Ag-Cu-Ge合金を徐ろに冷却したとき(特に結晶微細化剤の有効量を含んでいるとき)には、微細な析出が起きて、有用な析出硬化が得られる、ということである。さらに、ゲルマニウムをスターリング銀に添加すると、銀合金の熱伝導率が変化し、標準スターリング銀とは異なるようになる。また、国際軟銅規格(The International Annealed Copper Scale; IACS)は、金属の伝導率(conductivity)の基準となっている。この基準によれば、銅の値を100%とすると、純銀は106%であり、標準スターリング銀は96%となるが、1.1%のゲルマニウムを含んだスターリング合金では56%の伝導率となる。この事実が重要となるのは、Argentiumスターリングおよび他のゲルマニウム含有銀合金の熱散逸速度が、標準スターリング銀もしくはその同類であるゲルマニウム非含有物のそれよりも遅いために、加工片が冷えるまでに時間がかかるので、そのまま大気中で放冷させる間か、もしくは調節した空冷でゆっくり放冷させる間に、商業的に有用なレベル(好ましくは110Vickers硬度以上、より好ましくは115Vickers硬度以上)にまで析出硬化可能である、ということに依る。
【0044】
上述で定義した母合金を、地金製造業者から入手した例えば999純銀もしくは9999純銀からつくりだした銀合金に混ぜ入れた後にできる合金に対しては、合金の成形製品に炉中で焼き鈍しおよび/もしくは鑞づけをするさらなる工程と、その後の空冷による硬化の工程とを施すことが可能である。したがってこの合金は、600〜680℃(好ましくは600〜660℃、より好ましくは600〜650℃)の炉中で加熱することによって、焼き鈍しおよび/もしくは鑞づけすることができる。焼き鈍しはインベストメント鋳造中に行うことができ、また、インベストメントを空冷するかもしくは空気中で放冷することにより、硬化させることができる。仕上がった製品は、宝飾品もしくは贈答品にすることができる。
【0045】
本発明に係る銀合金は析出硬化できるため、合金中の銅成分を減らすことができる。少量であっても銅成分を有する合金の場合、鋳造時に比較的軟らかくなるので、例えば200〜300℃といった低めの温度まで再加熱することで、通常のスターリング銀と同等かさらにそれ以上の硬度を得るようにしている。実際のところ、耐腐蝕性の観点からすると、銅成分は合金の中でもっとも有害なものと言えるが、標準スターリング合金では、銅成分を減らすと硬度が許容できない程度にまで落ちてしまう。したがって、本発明に係る合金のこの特性は大きな利点である。銅成分を減らす場合には、単純に銀成分を増やすのが好ましい選択である。他の選択肢としては、ゲルマニウム成分の増加、または、亜鉛もしくは他の合金用元素の添加、といったものが含まれる。973/1000でAgを有し、且つ、約1.0wt%のGeと、残余分として銅とを含む銀合金は、焼き鈍し温度からの徐な空冷によってうまく析出硬化することが示されており、この量の銀成分を含んだAg-Cu-Ge合金もまた析出硬化可能であると考えられる。母合金中の銅は、銀成分によって調節することができる。
【0046】
硬化作用を得るための焼入れを必要としないという利点は、本発明に係る母合金からつくられる銀合金にとって、大きな有用性である。実際の製造においては、銀細工職人が仕上げ間近にまで加工した金属片の焼入れを安全に行えることはまず無い。高温から焼入れを行うと、歪みが生じる危険と、はんだづけをした熔接部に損傷を与える危険があるため、この焼入れ工程は商業的に適切なものとはならない可能性がある。事実、標準スターリングは、焼入れの後にしか析出硬化できない。このことは、析出硬化をスターリング銀に使うことができない理由のひとつとなっている。
【0047】
本発明を実施するための手法について、例示のみを目的としつつ、以下の実施例においてさらに詳述してゆく。
【実施例】
【0048】
〔実施例1〕
79wt%のCuと、18wt%のGeと、3wt%のCu/B合金(2wt%の硼素を含む)とを融かし混ぜて、母合金をつくる。Cuは、Cu/B母合金と共に融かす。損なわれるような他の元素が無いので、高温を使用できる。その後に温度を下げてゆき、Geの融点のすぐ上の温度にまで達したところでゲルマニウムを加える。すると、融点の降順、即ち銅/銅-硼素母合金/ゲルマニウムの順に熔解する。得られる母合金は、夾雑物を除き、且つ熔融で失われる50%の硼素分を考慮して、約82wt%のCuと、約18wt%のGeと、約0.03wt%の硼素とを含み、さらにすべての夾雑物を含む。
【0049】
その後に、72gの上述した母合金と、928gの純度9999の純銀とを併せて、純銀の融点のすぐ上の温度(例えば約960〜1200℃)で融かし混ぜ、50%の硼素の損失を経て、約92.8wt%のAgと、5.90wt%のCuと、1.30wt%のGeと、約11ppmの硼素との組成物である所望の銀/銅/ゲルマニウム三元合金が得られる。母合金を熔融するために、秤量して坩堝に入れ、純銀も秤量してその坩堝に入れてから、望まざる酸化を防ぐために天然ガスを流して保護しつつ加熱して、銀と母合金を融かす。銀は酸素に親和性を持ち、しかも昇温すると親和性が増す、ということが知られている。大気に曝すと、熔融した銀は、その体積の約二十二倍もの酸素を吸収しうる。また、銀と同様に、銅も酸素に対して高い親和性を持ち、通常は酸化銅を形成する。したがって、スターリング銀および他の銀-銅合金の形成または再熔融をするにあたっては、酸化の抑止に気を遣る必要がある。混合物が熔融した際には、例えばカーボンの棒などで攪拌して、溜堰を介して水中に鋳込むことで、銀が、スターリング銀の通常の販売形態である、約3〜6mmの直径の弾丸状の小粒もしくはペレットとして固化する。
【0050】
得られる合金小粒は、従来技術に係る手法を以ってインベストメント鋳造に用い、950〜980℃の温度且つ676℃以下の鋳枠温度且つ保護雰囲気下で鋳造される。比較的小さい熱伝導率を持つインベストメント物質を使うと、鋳造片をゆっくりと冷却することができる。15〜25分間の空冷をするインベストメント鋳造で15〜25分間の空冷をした後に、インベストメント鋳枠を水でクエンチすると、約70Vickers硬度を持つ鋳造片が得られ、この硬度はスターリング銀の硬度にほぼ等しい。この製品は、曇りと火焼けへの優れた耐性を示し、且つ、硼素成分を有するため、微細結晶構造を持つ。また、鋳枠を大気中で室温まで放冷することで、さらに硬度の高い鋳造片の作成が可能であることが発見されており、鋳型から取り出したこの鋳造片は約110Vickers硬度を有する。スターリング銀で行った実験結果とは対照的に、硬度は必要であれば析出硬化によりさらに高めることができ、例えば、鋳造物もしくはツリー全体を、約300℃に設定した炉内に20〜45分間に亘って入れておくことで、熱処理された鋳造物の硬度を125Vickersにまで上げることが可能である。ゲルマニウム含量は、本発明に係る0.925型の合金で望ましいと考えられる上限近くとなる。
【0051】
別の手法として、母合金と小粒状の純銀とを、坩堝に入れて混ぜ、直接インベストメント鋳型に鋳込むことで、上述したものと同様のものが得られる。
【0052】
〔実施例2〕
純銀小粒と、実施例1で説明した比率の母合金とを、1150〜1200℃の連続鋳造で板金として成形する。板金片を互いに鑞づけして、鑞づけ炉の経路を通して成形製品をつくり、同時に焼き鈍しも行う。炉内の下流の冷却領域において、調節した徐空冷をすることにより、焼入れ工程をすること無く、析出硬化を進行させる。この目的のためには、200〜300℃の範囲の(析出硬化のために最も好ましい)温度に、材料を少なくとも8〜30分間に亘って曝すことが望ましい。このようなやりかたで炉内で鑞づけして、徐ろに冷却した製品は、110〜115Vickersの硬度を得られる。
【0053】
〔実施例3〕
第二母合金を、81.5wt%のCuと、15.5wt%のGeと、3wt%のCu/B合金(2wt%の硼素を含む)とを融かし混ぜてつくる。得られる母合金は、夾雑物を除き、且つ熔融で失われる50%の硼素分を考慮して、約84.5wt%のCuと、約15.5wt%のGeと、約0.03wt%の硼素とを含み、さらに夾雑物を含む。
【0054】
その後、72gの第二母合金と、928gの9999銀とを、約960〜1200℃で融かし混ぜ、50%の硼素の損失を経て、約92.8wt%のAgと、6.08wt%のCuと、1.12wt%のGeと、約11ppmの硼素との組成物である所望の銀/銅/ゲルマニウム三元合金が得られる。こうして得られた後の合金が示す性能は、実施例1のそれと同様である。ゲルマニウム含量は、本発明に係る0.925型の合金で望ましいと考えられる下限近くとなる。
【0055】
〔実施例4〕
母合金を、銅とゲルマニウムとを実施例1で示した比率に従って融かし混ぜてつくる。銅は、還元雰囲気を与える木炭で熔湯雰囲気(melt cover)を流しつつ、ガス炎式炉内もしくは誘導炉内で約1150°まで加熱して融かす。ゲルマニウム片を銅箔に包み、グラファイトもしくは石墨の攪拌棒を使って熔湯の底部へと入れ込むことで、銅へのゲルマニウムの添加を行う。銅の追加が完了したら、温度を1100℃まで下げて、0.5wt%の硼素を与える水素化硼素ナトリウムのペレットを銅箔に包み、上述したグラファイトもしくは石墨の攪拌棒を使って熔湯の底部へと入れ込む。水素化硼素ナトリウムは水素を発生しながら1〜2分間で分解し、熔湯中には硼素といくらかのナトリウムが残る。
【0056】
硼素を添加した後に坩堝を傾けて、熔融した合金を、非常に細かい孔を底部につけた溜堰の中に鋳込めるようにする。熔融した合金を溜堰に鋳込み、細孔を通して細い流れとなるようにし、水の攪拌槽に落ちて小粒状に散けて固化して冷やされるようにする。鋳造粒を水槽から取り出して乾かし、鋳造用結晶としての母合金を得る。上述した母合金は、硼素を結晶微細化剤として含んだAg-Cu-Ge合金を製造するために使用でき、例えば、前述の実施例で述べた手順を使って製造できる。水素化硼素物を使って、母合金中に硼素を分散する手法は非常に効率的であり、得られる銀合金には、20ppmまでの硼素を含めることもでき、あるいは所望であれば20ppm以上の硼素をハードスポットの成長をさせずに含めることもできる。
【0057】
特に、実施例の手順を使って、約40ppmの硼素を含むスターリング型の合金のための、Ag-Cu-Ge鋳造用結晶を製造することができる。再熔融過程における硼素損失により、仕上がった鋳造合金の硼素含量は20ppm以下にまで減少するが、それでも結晶微細化のためには充分な量であって、また、この硼素成分によって、鋳造物、インベストメント鋳造物、もしくは他の製品にさらに一貫した微細構造と特性をつくりだせる可能性が得られる。
【0058】
〔実施例5〕
硼素を添加する前に、珪素を、仕上げようとする合金に0.05〜0.2wt%のSiを付随的成分として含められるような量で添加すること以外は、実施例4の手順をくりかえす。
【0059】
〔実施例6〕
56wt%のCuと、28wt%のAgと、13wt%のGeと、3wt%のCu/B合金(2wt%の硼素を含む)とを融かし混ぜて、母合金をつくる。Cu(m.p. 1085℃)は、Cu/B母合金と共に融かす。損なわれるような他の元素が無いので、高温を使用できる。その後に温度を下げてゆき、銀(m.p. 962℃)を加えてから、さらにGeの融点(m.p. 938℃)のすぐ上の温度にまで達したところでゲルマニウムを加える。すると、融点の降順、即ち銅/銅-硼素母合金/銀/ゲルマニウムの順に熔解する。得られる母合金は、約0.03wt%の硼素を含む。
【0060】
その後に、100gの上述した母合金と、900gの純度9999の純銀とを併せて、純銀の融点のすぐ上の温度(例えば約960〜1200℃)で融かし混ぜ、50%の硼素の損失を経て、所望の銀/銅/ゲルマニウム三元合金が実施例1と同様に得られる。実施例1に記載したのと同様にして母合金を純銀に加え、実施例1に記載したようにしてインベストメント鋳造に用いることができる合金小粒を、実施例1に記載したように形成する。
【0061】
〔実施例7〕
59wt%のCuと、28wt%のAgと、13wt%のGeとを融かし混ぜて、母合金をつくる。その後に実施例4に記載したようにして水素化硼素ナトリウムを合金中に導入し、硼素含量が約1000〜1100ppmとなるようにする。母合金は、実施例7に記載したようにして、スターリング品位の宝飾品もしくは銀細工用合金を製造するために使われる。
【0062】
〔実施例8〕
実施例7の手法に倣いつつ、水素化硼素ナトリウムを銀箔に包んで、母合金中に導入するように修正する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀と混合して、77wt%以上のAgと0.5wt%以上のGeを含んだ銀の合金をつくるための母金属材料であって、
Cuと、Geと、任意に0〜30wt%のAgと、0.001〜0.3wt%の硼素とを、前記合金のためのさらなる任意の成分および夾雑物のすべてと共に含むことを特徴とする、母金属材料。
【請求項2】
80〜95wt%のCu(もしくは前記合金のためのさらなる成分と併さったCu)と、20〜5wt%のGeと
を含むことを特徴とする、請求項1記載の金属。
【請求項3】
80〜86.7wt%のCu(もしくは前記合金のためのさらなる成分と併さったCu)と、20〜13.3wt%のGeと
を含むことを特徴とする、請求項1記載の金属。
【請求項4】
82〜84.5wt%のCuおよび前記合金のためのさらなる任意の成分と、15.5〜18wt%のGeと
を含むことを特徴とする、請求項1記載の金属。
【請求項5】
約0.03wt%のBを含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の金属。
【請求項6】
銅とゲルマニウムと硼素と夾雑物のみを含むことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の金属。
【請求項7】
77wt%以上のAgと、1〜7.2wt%のCu(銅)と、0.5wt%以上のGeと、0.005〜0.3wt%のBとを含み、且つさらに合金のためのさらなる任意の成分と夾雑物のすべてとを共に含んだ銀合金をつくるための方法であって、
純銀と、少なくとも銅とゲルマニウムと硼素の三元合金である母金属材料とを、共に熔融するステップ
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記銀合金が、銀と銅とゲルマニウムとの合金であることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記合金が、夾雑物と付随的な成分とすべての結晶微細化剤とを除いて、前記合金の重量に対して80〜96%の銀と、0.1〜5%のゲルマニウムと、1〜19.9%の銅とから成ることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記合金が、夾雑物と付随的な成分と結晶微細化剤とを除いて、前記合金の重量に対して92.5〜98%の銀と、0.3〜3%のゲルマニウムと、1〜7.2%の銅と、さらに結晶微細化剤としての1〜40ppmの硼素とから成ることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記合金が、夾雑物と付随的な成分と結晶微細化剤とを除いて、前記合金の重量に対して92.5〜96%の銀と、0.5〜2%のゲルマニウムと、1〜7%の銅と、さらに結晶微細化剤としての1〜20ppmの硼素とから成ることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記合金が、92.5〜92.8wt%のAgと、6.0〜6.3wt%のCuと、約1.2wt%のGeと、結晶微細化剤としての1〜15ppmの硼素とを含むことを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記銀合金の製品を、炉中で焼き鈍しおよび/もしくは鑞づけした後に、空冷して硬化させるステップ
をさらに含むことを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記銀合金を、炉中で600〜680℃に加熱することによって、焼き鈍しおよび/もしくは鑞づけすることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記銀合金を、炉中で600〜660℃に加熱することによって、焼き鈍しおよび/もしくは鑞づけすることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記銀合金を、600〜650℃の温度で焼き鈍しおよび/もしくは鑞づけすることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
インベストメント鋳造中に焼き鈍しを行ってから、このインベストメントを空冷するかもしくは空気中で放冷することにより硬化させることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記製品が、宝飾品もしくは贈答品であることを特徴とする、請求項17記載の方法。
【請求項19】
銀と混ぜて、77wt%以上のAgと0.5wt%以上のGeを含んだ銀の合金をつくるために用いる母金属材料であって、
Cuと、Geと、0.005〜0.5wt%の硼素とを、前記合金のためのさらなる任意の成分および夾雑物のすべてと共に含む
ことを特徴とする、母金属材料。
【請求項20】
貴金属製品をつくるために用いる母合金の製造方法であって、
アルキル化ホウ素化合物、水素化硼素、硼素ハロゲン化物、硼素含有水素化金属、硼素含有金属ハロゲン化物、およびそれらの混合物から成る群から選択される化合物を用いて、固化する前の熔融した前記母合金を処理することを特徴とする、方法。
【請求項21】
前記母合金が、Cu、Cu-Ge、Cu-Ag、もしくはCu-Ag-Geに基づき、また、Al、Ba、Be、Cd、Co、Cr、Er、Ga、In、Mg、Mn、Ni、Pb、Pd、Pt、Si、Sn、Ti、V、Y、Yb、Zn、およびZrから選択されるひとつまたは複数の付随的な成分元素を任意に含むことを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記母合金を、外気温において固体であるボランで処理することを特徴とする、請求項20もしくは21に記載の方法。
【請求項23】
固化する前の前記母合金を、水素化硼素金属で処理することを特徴とする、請求項20もしくは21に記載の方法。
【請求項24】
固化する前の前記母合金を、水素化硼素ナトリウムで処理することを特徴とする、請求項20もしくは21に記載の方法。
【請求項25】
固化する前の前記母合金を、
外気温で固体であるボラン、もしくは水素化硼素金属を、銅箔または銀箔で包んでから、前記包んだボランもしくは前記水素化硼素金属を、前記熔融した貴金属中へと入れ込むこと
によって処理することを特徴とする、請求項20〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記熔融した金属を、鋳造用結晶(casting grain)として固化させるステップ
をさらに含むことを特徴とする、請求項20〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
少なくともCuとBを含んだ母合金を鋳造するための方法であって、
(a) 少なくともCuを含んだ前駆母熔湯(precursor master melt)を形成するステップと、
(b) 前記母熔湯の全体に亘り、アルキル硼素化合物、水素化硼素、硼素ハロゲン化物、硼素含有水素化金属、硼素含有金属ハロゲン化物、およびそれらの混合物から成る群から選択される化合物を分散するステップと、
(c) 前記熔湯を固化させるステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項28】
前記硼素化合物を、気体の水素化硼素もしくは硼素ハロゲン化物を含んだ不活性キャリアーガスを、前記熔湯中に通すことによって前記前駆熔湯中に分散するステップ
を含むことを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記硼素化合物が、三弗化硼素、ジボラン、およびトリメチル硼素から選択されるひとつまたは複数のものであることを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記硼素化合物が、液相として且つ任意に不活性有機溶媒中に溶かされて、前記前駆熔湯中に導入され、また、前記硼素化合物が、銀箔もしくは銅箔からできているひとつもしくは複数の容器、あるいは不活性な熱分解性物質でできているひとつもしくは複数の容器に封入されていることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項31】
前記硼素化合物が、トリエチルボラン、トリプロピルボラン、トリ-n-ブチルボラン、メトキシジエチルボラン、ならびに、それらのいずれかをヘキサンもしくはTHF中に分散した系、から選択されることを特徴とする、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記硼素化合物が、外気温において固体である高級ボランであることを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項33】
前記硼素化合物が、デカボランであることを特徴とする、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記硼素含有水素化金属の前記金属成分が、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、亜鉛、およびそれらの混合物から成る群から選択されるものであり、また、
前記硼素含有弗化金属の前記金属成分がナトリウムであることを特徴とする、請求項32記載の方法。
【請求項35】
前記化合物として、水素化硼素ナトリウムを選択することを特徴とする、請求項32記載の方法。
【請求項36】
前記水素化硼素、前記硼素含有水素化金属、もしくは前記硼素含有金属ハロゲン化物を、前記前駆合金熔湯中に分散させる前に、銅箔中もしくは銀箔中に包むステップ
をさらに含むことを特徴とする、請求項32記載の方法。
【請求項37】
前記金属箔として、厚さ0.01mm〜0.3mmのものを選択することを特徴とする、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記分散するステップ(b)が、
硼素が前記貴金属合金もしくは前記母合金の全体に亘って分散する上で有効な時間をかけて攪拌するステップ
を含むことを特徴とする、請求項32記載の方法。
【請求項39】
前記貴金属合金もしくは前記母合金を、結晶函(grain box)に移送するステップ
をさらに含むことを特徴とする、請求項27記載の方法。
【請求項40】
前記前駆合金熔湯が、0〜30wt%のAgと、0〜20wt%のGeと、0〜2wt%のSiと、残余分として、銅、または、亜鉛に対する銅の重量比が1:1を超えないような銅と亜鉛の混合物、とを含むことを特徴とする、請求項27記載の方法。

【公表番号】特表2008−513607(P2008−513607A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−532976(P2007−532976)
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050163
【国際公開番号】WO2006/032933
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(505436438)ミドルセックス シルバー カンパニー リミテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】MIDDLESEX SILVER CO.LIMITED
【Fターム(参考)】