説明

銅、貴金属を含有するスクラップ及び又はスラッジの処理方法

【課題】
本発明の目的は、銅、及び金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムの貴金属の内少なくとも一種類以上の有価物を含有する銅、貴金属スクラップ及びスラッジをキュポラ用いて、銅、貴金属スクラップ及びスラッジから銅、貴金属等の有価金属を効率的に回収するものである。
【解決手段】
粒径10mm以下に破砕処理した可燃性銅、貴金属スクラップを、粒径3mm以下の粉状の非可燃性銅、貴金属スクラップと溶剤とともにキュポラの羽口より吹込み、非可燃性で粒径30〜50mmに整粒処理した銅、貴金属スクラップは、溶剤及びコークスとともにキュポラ上部の原料装入口より投入し、キュポラ内での溶融還元処理により、銅を主体とするブラック・カッパー、銑鉄、スラグ及びダストに分離する、銅、貴金属を含有するスクラップ及び又はスラッジの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅、及び金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムの内少なくとも一種類以上の有価金属を含有する銅、貴金属スクラップ及び又はスラッジを処理するに際し、キュポラを用いて溶融還元処理し、得られたブラック・カッパー、銑鉄、スラグを銅製錬工程内にて溶融処理することで、銅、貴金属スクラップ及び又はスラッジから銅、貴金属等の有価金属を効率的に回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品製造業やそれら電子部品を利用する製品及び産業から発生するスクラップ類(部品屑〔リードフレーム、ICチィップ、樹脂付き基板屑、スイッチ等〕、電線屑、銅・貴金属粉状物〔故銅粉、銅滓粉、金銀滓粉等〕、塊状物〔ラジエーター類、真鍮屑、モータ屑等〕等々、以下、総称して銅、貴金属スクラップと記す)は、増加を続けている。これらスクラップ類には、電気導体として使われる銅や、接点、メッキ皮膜等に使用された金、銀、白金、パラジウム等の貴金属が含まれており、これら有価金属の回収は資源のリサイクルによる省資源の観点からも重要である。
また上記のような銅、貴金属スクラップ類以外に、メッキ廃液や貴金属の湿式処理製錬工程から発生する廃液には銅、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム等の有価金属を含んでおり、その廃液を処理した際に発生する残渣類(以下、スラッジと記す)にも銅、ニッケル、貴金属など有価金属を含有している。
【0003】
上記のような銅、貴金属スクラップやスラッジは、従来から、多種多様な方法でリサイクルされている。
【0004】
銅、貴金属を含有しているスクラップ類を焼却(有機絶縁物を焼却させ)し、焼却後の灰に有価金属を濃縮する方法がある。しかし、この方法で回収される灰は、銅製錬工程の転炉で処理できず、歩留まりの悪い自溶炉で処理する必要がある。
【0005】
一方、貴金属スクラップを焼却処理せずに有価金属を回収する方法として、例えば、特開昭53−16302(特許文献1)は密閉容器内でスクラップを加圧・加熱しスクラップ中の有機絶縁物(ポリ塩化ビニール、ゴム、テフロン等の樹脂)を分解して除去することにより、金属を回収する方法を開示している。しかしながら、この方法は設備、運転条件が複雑であり、また、有機絶縁物が残留しやすい欠点がある。
【0006】
ところで、以上のような、銅、貴金属スクラップのみを処理(あるいは予備処理)する方法とは異なり、銅、貴金属スクラップ及びスラッジを直接、銅製錬工程で処理する方法も実施されている。例えば、特開平9−78151(特許文献2)は銅、貴金属スクラップの内、粉状物及びスラッジを予め自溶炉用溶剤と共に粉砕しておき、これを銅鉱石溶錬用装入物と混合して銅鉱石溶錬自溶炉へ自溶炉精鉱バーナーから装入し、自溶炉を操業して前記銅、貴金属を炉内のマットへ回収する方法もある。しかしながら、本法も銅、貴金属スクラップ及びスラッジが自溶炉のシャフト反応を阻害し、有価物のスラグロス率の上昇、自溶炉における鉱石装入量が制限される等の問題がある。
【0007】
一方、銅、貴金属スクラップ類を転炉炉頂からシュートを使って投入する方法がある。また、特開平6−287655(特許文献3)のように、不良アノード投入のための搬送装置、移載装置、搬送投入装置を転炉炉頂に設置し、この装置を使って不良アノードを転炉内へ側面扉を通して投入するに際して不良アノード上にスクラップ類を載置して一緒に転炉内へ投入する方法もある。
しかしながら、本法においても銅、貴金属スクラップ中の有機絶縁物は一般に300℃以下で熱分解を起こすので、炉内に投入された直後に熱分解により水素ガス及び炭素ヒューム等が発生する。これら熱分解生成物は、酸素濃度の低い炉内では燃焼せず、転炉排ガスフード近傍でフリーエアーと混合燃焼されて燃焼し、転炉排ガスフードを高温に加熱し、排ガスフードの損耗を促進する。
【0008】
また、スクラップ中の有機絶縁物(合成樹脂類)から揮発した有機物の一部が完全に分解、燃焼されず、転炉排ガスを原料に製造している製品硫酸に吸収され着色する等の問題がある。
【0009】
貴金属スクラップの中には、銅品位が50〜70%と低い原料、黄銅を原料にしたスクラップには鉄、亜鉛含有量が高く、これらは転炉カラミの性状を悪化させ、転炉カラミ量を増加させるなどの悪影響がある。
【特許文献1】特開昭53−16302
【特許文献2】特開平9−78151
【特許文献3】特開平6−287655
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、銅、貴金属スクラップ及びスラッジをキュポラにて溶融還元を行い、銅を主体とするブラック・カッパーと、銑鉄、スラグ及びダストに分離し、これらを銅製錬工程内にて溶解処理することで、銅、貴金属スクラップ及びスラッジから銅、貴金属等の有価金属を、銅製錬工程の操業を阻害せずに、効率的に回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するものであって、
(1)粒径10mm以下に破砕処理した可燃性銅、貴金属スクラップを、粒径3mm以下の粉状の非可燃性銅、貴金属スクラップと溶剤とともにキュポラの羽口より吹込み、
非可燃性で粒径30〜50mmに整粒処理した銅、貴金属スクラップは、溶剤及びコークスとともにキュポラ上部の原料装入口より投入し、
キュポラ内での溶融還元処理により、銅を主体とするブラック・カッパー、銑鉄、スラグ及びダストに分離する銅、貴金属を含有するスクラップ及び又はスラッジの処理方法。
(2)上記(1)記載のブラック・カッパーは銅製錬の転炉工程における造銅期にて溶融し、ブラック・カッパー中の銅、貴金属等を転炉内の粗銅に回収する銅、貴金属を含有するスクラップ及び又はスラッジの処理方法。
(3)上記(1)記載の銑鉄は銅製錬の自溶炉工程におけるスラグの還元剤として有効利用するとともに、銑鉄中に含有する銅、貴金属は自溶炉内に滞留するマットへ回収する銅、貴金属を含有するスクラップ及び又はスラッジの処理方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下の効果を有する。
(1)予めキュポラにて、リサイクル原料を処理するため、自溶炉におけるシャフト反応への影響が軽減し、自溶炉における有価物のスラグロスが改善される。
(2)予めキュポラにて、リサイクル原料を処理するため、自溶炉工程にて溶解処理していた銅、貴金属スクラップ及びスラッジ処理量が減少し、有価物のスラグロスが少なくなり、銅、金、銀、白金、パラジウムなどの有価物の回収率がアップする。
(3)キュポラを用いることにより、従来の銅製錬工程では処理できなかった銅、貴金属スクラップ及びスラッジの処理が可能となり、銅、金、銀、白金、パラジウムなど有価物の回収が可能となる。
(4)キュポラにて銅、貴金属スクラップ及びスラッジの処理が可能となり、 自溶炉工程においては銅精鉱の増処理が可能となる。
(5)キュポラにて銅、貴金属スクラップ及びスラッジを溶融還元処理することにより、鉄、亜鉛をあらかじめに除去できるため、転炉カラミ中の鉄、亜鉛含有量が低減して、転炉カラミの性状は良好になり、かつ転炉カラミ量も低減できる。
(6)銅、貴金属スクラップ及びスラッジより回収された銑鉄は自溶炉スラグの還元剤として有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の銅、貴金属スクラップ及びスラッジの処理方法を図1のフローシートを用いて、より具体的に説明する。
本発明の処理対象物は、銅、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムのうち少なくとも一種類以上の有価物を含有する銅、貴金属スクラップ及スラッジである。
【0014】
可燃性の銅、貴金属スクラップを粉砕機にて10mm以下に粉砕し、非可燃性で3mm以下の粉状の銅、貴金属スクラップ(故銅粉、銅滓粉、金銀滓粉)、スラッジ及び溶剤としての炭酸カルシウムはドライヤーにて500〜550℃にて乾燥後、10mm以下に粉砕した可燃性の銅、貴金属スクラップと、乾燥後の粉状物及び炭酸カルシウムとを混合して、キュポラ羽口より吹込む。
このとき可燃性の銅、貴金属スクラップの粉砕粒度が10mmを超えると、着火性が悪く、未燃のままキュポラの燃焼帯からキュポラ炉内に侵入して炉内に蓄積し、キュポラの通気性及び溶体の通液性を阻害する可能性を持っており、それによってキュポラの生産性が低下するため、10mm以下にする必要がある。
また、非可燃性の粉状の銅、貴金属スクラップ及びスラッジの粒子径が3mmを超えると、粉体輸送面から粒径が大きくなるほど輸送中の配管摩耗が激しくなる。そこで、種々検討したところ粒径3mm以下であれば配管摩耗はあまり問題ないことから、非可燃性の粉状の銅、貴金属スクラップ及びスラッジの粒子径は最大3mm程度が好ましい。
【0015】
上記以外の非可燃性の銅、貴金属スクラップは粉砕機にて10mm以下に粉砕した後、ロールタイプのブリケッティングマシンにて30mmから50mmのブリケットを製造した。このとき、ブリケットにする原料のサイズが10mmを越えると、ブリケットの成型率が低下し、かつ強度のあるブリケットが得られなくなるため、10mm以下が好ましい。
【0016】
また、廃ラジエーター、真鍮屑、廃モータなどの塊状物は剪断型破砕機にて50〜150mmに破砕する。その形状は大きすぎると溶融に時間がかかるため、150mm以下が好ましいが、より好ましくは、50〜100mmであり、表面積が多い方が溶解しやすいからである。
【0017】
上述で製造したブリケット、破砕後の廃ラジエーター、真鍮屑、廃モータなどの塊状物はコークスとともに、キュポラ上部の原料装入口より投入し、キュポラ内で溶融還元処理を行い、銅を主体とするブラック・カッパーと、銑鉄、スラグ及びダストに分離した。
【0018】
キュポラ内より産出されたブラック・カッパーと、銑鉄、スラグは、キュポラの炉底の出湯口より前炉に連続的に流し出され、ブラック・カッパー、銑鉄、スラグは前炉内にて比重分離する。前炉内のブラック・カッパーはモールド内に流し込み、モールド内で凝固して回収する。
一方、スラグと銑鉄は前炉上部より水冷樋に流し込み、水砕スラグと粒径15mm以下の銑鉄粒を製造し、その後磁選機を用いて水砕スラグと銑鉄粒を分離する。
【0019】
モードル内に凝固したブラック・カッパーは、銅電解工程にて発生する残基銅と同様に、銅製錬工程における転炉の造銅期にて冷材として転炉内に装入し、ブラック・カッパー中の有価物は、粗銅中に回収される。
【0020】
また、磁選機にて水砕スラグから分離回収した銑鉄粒は、銅製錬工程における自溶炉内にて生成するFe3O4の還元剤として使用し、スラグへの有価物のロスや、マット孔及びスラグタップ孔の閉塞防止に利用する。
【0021】
次に、本発明の銅、貴金属スクラップ及び又はスラッジをキュポラにて溶融還元することにより、有価物を回収する方法に関わる実施例を記載する。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
塊状原料であるCu品位65mass%の廃ラジエーター、Cu品位60%の真鍮屑、Cu品位30%のモータ屑は剪断型破砕機にて50〜100mmに破砕した。この破砕した塊状物を6分間隔にキュポラ上部の原料装入口より、ラジエーター82kg/hr、真鍮屑16kg/hr、モータ屑41kg/hr、並びにブリケットにした非可燃性スクラップ(電線屑等(Cu品位50mass%))163kg/hrと、燃料用コークス32kg/hrの投入速度で投入した。コークスの投入割合は、キュポラ上部の原料装入口より投入する原料に対して8mass%、後述の羽口吹込み原料の量に対して3mass%の量とした。
可燃性の銅、貴金属スクラップである部品屑等は粉砕機にて10mm以下に破砕した後、キュポラへ163kg/hrにて、またドライヤーにて500〜550℃の温度にて乾燥した粉状原料である故銅粉(Cu品位80mass%)37kg/hr、銅滓粉14kg/hr(Cu品位25mass%)、金銀滓粉(Cu品位25mass%)14kg/hr、スラッジ(Cu品位6mass%)8kg/hrと、溶剤としての炭酸カルシウム31kg/hrを混合し、羽口吹込み装置を介して、各原料を前述の吹込み速度にて、キュポラ内にコークスの燃焼用空気と50vol%常温酸素とともに羽口より吹込んだ。以上のように、各原料を上記の投入速度にてキュポラに連続投入して、溶融試験を実施した。
【0023】
キュポラ内では、原料中の貴金属やその他有価金属は銅の溶体に吸収され、銅を主体とするブラック・カッパー305kg/hr、銑鉄21kg/hr及びスラグ54kg/hrの処理速度でキュポラの炉底の出湯口より前炉に連続的に流し出した。
前炉内でブラック・カッパーと、銑鉄、及びスラグを比重分離した後、ブラック・カッパーはモールドに流し込んだ。スラグと銑鉄は前炉上部より水冷樋に流し込み、水砕スラグと粒径5mm以下の銑鉄粒を製造した後、磁選機を用いて両者を分離した。
以上のように分離したブラック・カッパー、銑鉄、スラグを採取して分析を行い、本試験における物量バランスを表1にまとめた。その結果、炭酸カルシウム、コークスを含め、原料を602kg/hrの投入速度で装入し、Cu品位73mass%のブラック・カッパー305kg/hr、Fe品位85mass%の銑鉄21kg/hr、スラグ54kg、ダスト49kgの速度で回収された。
【0024】








【表1】

【0025】
銅、貴金属スクラップ及びスラッジをキュポラにて溶融処理した際の各産出物への分配率を表2に示す。表2より、キュポラにて銅、貴金属スクラップ及びスラッジを溶融還元処理することにより、原料中の銅、貴金属はブラック・カッパーとして98%以上回収できた。
【0026】
【表2】

【0027】
現状使用している銑鉄粒と、実施例にて得られたキュポラ産出銑鉄粒の粒径及び組成を表3に示す。キュポラ産出の銑鉄粒は、現状品と同程度の性能を有したものであり、より有効な物が得られた。
【0028】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明方法の各工程を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径10mm以下に破砕処理した可燃性銅、貴金属スクラップを、粒径3mm以下の粉状の非可燃性銅、貴金属スクラップと溶剤とともにキュポラの羽口より吹込み、
非可燃性で粒径30〜50mmに整粒処理した銅、貴金属スクラップは、溶剤及びコークスとともにキュポラ上部の原料装入口より投入し、
キュポラ内での溶融還元処理により、銅を主体とするブラック・カッパー、銑鉄、スラグ及びダストに分離することを特徴とする銅、貴金属を含有するスクラップ及び又はスラッジの処理方法。
【請求項2】
請求項1記載において、ブラック・カッパーは銅製錬の転炉工程における造銅期にて溶融し、ブラック・カッパー中の銅、貴金属等を転炉内の粗銅に回収することを特徴とする銅、貴金属を含有するスクラップ及び又はスラッジの処理方法。
【請求項3】
請求項1において、銑鉄は銅製錬の自溶炉工程におけるスラグの還元剤として有効利用するとともに、銑鉄中に含有する銅、貴金属は自溶炉内のマットへ回収することを特徴とする銅、貴金属を含有するスクラップ及び又はスラッジの処理方法。













【図1】
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【公開番号】特開2007−92133(P2007−92133A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283484(P2005−283484)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】