説明

銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法

【課題】 銅フリー樹脂めっきの前処理を無電解ニッケルめっきからダイレクトめっきに替えることで、電気ニッケルめっきの膜厚によらず、腐食によるめっきふくれ現象が発生せず、かつレベリング目的(めっき用素材のキズや凹凸をなめらかにすること)の光沢ニッケルの膜厚を、前処理に無電解ニッケルを使用する工程での膜厚より薄くしても、良好なめっき外観と耐食性を向上させる。
【解決手段】 樹脂成形品に銅めっきを省略して電気めっきを施す銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法であって、前記樹脂成形品に、エッチングS1、エッチング中和S2、触媒付与S3及び導電化S4の各処理を施し、次に樹脂成形品に電気ニッケルめっきを施し、最後にクロムめっきS8を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品に金属めっきを施す樹脂めっき技術に係り、特に銅めっきを省略した樹脂めっき方法において腐食によるめっき膨れ現象が発生せず、耐食性の良好な外観を得る銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂めっきの金属被膜は、通常、銅−ニッケル−クロムの3層構造となっている。樹脂めっき品をリサイクルする際に、樹脂めっき品から金属分を分離できたとしても、これら3種類の金属混合物の用途はない。更に金属被膜を銅とニッケル、クロムに分離しなければならず、その再利用は困難であった。金属被膜に銅を使用せず、ニッケル−クロムのみであれば、分離した金属分をステンレスの材料等の有価金属として再利用することが可能になる。そこで、リサイクル目的の樹脂めっきプロセスとして、銅めっきを省略した銅フリープロセスが提案されている。
【0003】
樹脂めっきの前処理としては、図3(a)に示すように、めっきしようとする樹脂成形品に、エッチング工程、エッチング中和、触媒付与工程、触媒活性化工程(活性化)ののち無電解ニッケルめっき工程により導電膜を形成する方法が一般的である。ABS系樹脂は六価クロム/硫酸系エッチングを用いるが、最近では過マンガン酸系のエッチングも検討されている。また、6PA樹脂はHCl系エッチング、POM樹脂は硫酸/リン酸系のエッチング組成を用いている。通常の樹脂めっきでは、形成した無電解ニッケル被膜の上に、光沢銅めっき、半光沢ニッケルめっき、光沢ニッケルめっき及びMPニッケルめっき(マイクロポーラスニッケルめっき)を下地めっきとし、めっき仕上げ膜としてクロムめっきなどの装飾外観めっきを行っていた。
【0004】
銅フリーめっきでは、光沢銅めっきを省略し、半光沢ニッケルめっき、光沢ニッケルめっき及びMPニッケルめっき(マイクロポーラスニッケルめっき)を下地めっきとし、めっき仕上げ膜としてクロムめっきなどの装飾外観めっきを行っていた。光沢銅めっきを省略すると、ニッケルめっきは銅めっきに比べてピンホールが発生しやすいため、ピンホール無しの被膜を得るには、図3(b)に示すように、ニッケルを計35μm以上形成する必要があった。しかし、樹脂成形品の形状により、裏や凹部などの低電流密度部では電気めっきで十分な膜厚がつかず、ピンホールを消せない場合があった。
【0005】
そこで、樹脂成形品に電気ニッケルめっきを施す技術が種々提案されている。例えば特許文献1の特開公報「ニッケル−クロムめっき製品」のように、耐食性に優れたニッケル−クロムめっき製品およびその製造方法が提案されている。この発明に係るニッケル−クロムめっき製品は、被めっき製品素地を、実質的に硫黄を含まない半光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき被膜に対し100〜170mV卑な電気化学的電位を有する光沢ニッケルめっき層、半光沢ニッケルめっき 被膜に対し60〜120mV卑であり、かつ上記光沢ニッケルめっき被膜に対し10〜60mV貴な電気化学的電位を有する非電導性微粒子共析ニッケルめっき層、クロムめっき被膜で順次被覆されためっき製品になる。
【特許文献1】特開平5−171468
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電気ニッケルめっき被膜の電位差を管理しても、銅フリーめっき品でピンホールが消えていない低電流密度部では、図4に示すように、無電解ニッケル被膜は半光沢ニッケル被膜より腐食しやすいため、ピンホールを通じて下地の無電解ニッケルが優先的に溶解しめっき膜が浮き上がる、腐食フクレが発生しやすいという問題を有していた。
【0007】
また、特許文献1のニッケル−クロムめっきでは、光沢銅めっきを省略すると、めっきのレべリング性、即ちめっき用素材のキズや凹凸をなめらかにする効果が低下するという問題を有していた。
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、銅フリー樹脂めっきの前処理を無電解ニッケルめっきからダイレクトめっきに替えることで、電気ニッケルめっきの膜厚によらず、腐食によるめっきふくれ現象が発生せず、かつレベリング目的の光沢ニッケルの膜厚を、無電解ニッケルを使用する工程での膜厚より薄くしても、良好なめっき外観と耐食性を向上させることができる銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、樹脂成形品に銅めっきを省略して電気めっきを施す銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法であって、前記樹脂成形品に、エッチング(S1)、エッチング中和(S2)、触媒付与(S3)及び導電化(S4)の各処理を施し、次に、前記樹脂成形品に電気ニッケルめっきを施し、最後にクロムめっき(S8)を施す、ことを特徴とする銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法が提供される。本発明の効果は、エッチング(S1)の種類には影響されない。
【0010】
例えば、前記電気ニッケルめっきにおいて、前記樹脂成形品に半光沢ニッケルめっき(S5)、光沢ニッケルめっき(S6)、MPニッケルめっき(マイクロポーラスニッケルめっき)(S7)の順で各めっき処理を施す。
前記半光沢ニッケルめっき(S5)による膜厚が5〜25μm、好ましくは5〜15μmになるようにめっき処理を施す。
前記光沢ニッケルめっき(S6)による膜厚が5〜25μm、好ましくは5〜20μmになるようにめっき処理を施す。
前記半光沢ニッケルめっき(S5)と光沢ニッケルめっき(S6)とのトータルニッケルの膜厚が10〜50μm、好ましくは10〜35μmになるようにめっき処理を施す。
【発明の効果】
【0011】
上述したように、本発明では、前処理に無電解ニッケルめっきを行わず、触媒付与工程(S3)、導電化工程(S4)の後に直接電気めっきを行うダイレタトめっき工程に替えることにより、下地に腐食しやすい膜が無くなり、上層の光沢ニッケルめっき(S6)から優先的に腐食が進行するため、電気ニッケルめっきの膜厚によらず腐食フクレの発生を防止することができる。
【0012】
また、ダイレクトめっき工程は無電解ニッケル工程と比較しエッチング(S1)により樹脂をあまり荒さなくても樹脂・金属間の密着が得られるので、従来のように、めっきのレベリング性が必要なため厚付けしなければならなかった光沢ニッケルめっき(S6)の膜厚を、無電解ニッケル工程より2割程度削減しても、良好な外観を有し、かつ腐食フクレが発生しないめっき品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、銅フリー樹脂めっきの前処理を無電解ニッケルめっきからダイレクトめっきに替えることにより、無電解ニッケル腐食による点状のめっきふくれ現象を防止することができる銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法である。
【実施例1】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例1の銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法を示すものであり、(a)は工程図、(b)はそのめっき被膜の断面図である。図2は銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法の具体的な工程図である。
本発明の実施例1の銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法は、先ず、樹脂成形品に、エッチングS1、エッチング中和S2、触媒付与S3及び導電化S4の各処理を施すダイレクトめっきの前処理をする。このように前処理に無電解ニッケルめっきに代えてダイレクトめっきの前処理を施す。
次に、樹脂成形品に電気ニッケルめっきを施す。例えば、電気ニッケルめっきとして、樹脂成形品に半光沢ニッケルめっきS5、光沢ニッケルめっきS6、MPニッケルめっき(マイクロポーラスニッケルめっき)S7の順で各めっき処理を施す。これらの半光沢ニッケルめっきS5、光沢ニッケルめっきS6、MPニッケルめっきS7は、樹脂成形品にの使用目的に応じてその膜厚を薄くし、又は省略することができる。
ここで、半光沢ニッケルめっきS5による膜厚が5〜25μmになるようにめっき処理を施す。好ましくは5〜15μmになるようにめっき処理を施す。光沢ニッケルめっきS6による膜厚が5〜25μmになるようにめっき処理を施す。好ましくは5〜20μmになるようにめっき処理を施す。光沢ニッケルめっきS6と光沢ニッケルめっきS6とのトータルニッケルの膜厚が10〜50μmになるようにめっき処理を施す。好ましくは10〜35μmになるようにめっき処理を施す。
最後にクロムめっきS8を施して、めっき処理を終了する。
【0015】
図2の具体的な工程図に示すように、エッチング工程S1では、樹脂成形品を無水クロム酸(400g/L)と98%硫酸(380g/L)の浴液に浸漬処理する。このときの液温と処理時間は65℃/15分が最適であった。
【0016】
エッチング中和工程S2では、樹脂成形品を36%塩酸(50mL/L)と硫酸ヒドラジン(6g/L)の浴液に浸漬処理する。このときの液温と処理時間は35℃/2分が最適であった。
【0017】
めっき反応を活性化させる触媒付与工程S3では、樹脂成形品をアクチベーターフツロンコンク(40mL/L)と36%塩酸(300ml/L)に浸漬し、液温と処理時間は50℃/5分が最適であった。
【0018】
導電化工程S4では、樹脂成形品をCu−LinkのA液(100mL/L)とCu−LinkのB液(450mL/L)の浴液に浸漬する。液温と処理時間は55℃/3分が最適であった。
【0019】
次に、電気ニッケルめっき工程に移る。半光沢ニッケルめっきS5、光沢ニッケルめっきS6、MPニッケルめっきS7、クロムめっきS8を施して樹脂めっきが完了する。
【0020】
〔比較例〕
本発明の耐食性向上方法により、例えばABS樹脂成形部品を図1に示すめっき工程で樹脂めっきしためっき品と、従来例の図3の無電解ニッケル工程で樹脂めっきしためっき品との耐食性の比較をおこなった。無電解ニッケルめっき被膜はニッケル−リン合金であり、そのめっき膜の腐食しやすさは、ニッケル−リン合金の含リン率によって変化すると考えられる。そこで、リンの多い酸性無電解ニッケル(比較例1)、弱酸性無電解ニッケル(比較例2)、リンの少ないアンモニアアルカリ性無電解ニッケル(比較例3)の含リン率の異なった3種類の無電解ニッケルを使用した。めっき品のキャス試験を80時間おこない、耐食性を比較した結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
前処理に無電解ニッケルを使用したものは、無電解ニッケルの含リン率によらず点状の腐食フクレが発生した。ピンホールを通じて無電解ニッケル層が先に溶解するためと考えられる。一方、本発明の耐食性向上方法のめっき工程で樹脂めっきしたものは、腐食フクレが起こらなかった。
また、図3(a)の従来の工程で樹脂めっきしためっき品の膜厚は、図3(b)に示すように半光沢ニッケル15μm、光沢ニッケル20μm、MPニッケル1μmの計36μmであった。本発明の方法によれば、光沢ニッケルを16μmに減らすことができ、図1(b)に示すように、トータルニッケル膜厚が32μmでも良好な外観がえられた。ダイレタト銅フリーめっきのめっき品には無電解ニッケル膜が存在しないため、膜厚を減少させても腐食によるめっきふくれ現象はみられなかった。
【0023】
なお、本発明は上述した発明の実施の形態に限定されず、銅フリー樹脂めっきの前処理を無電解ニッケルめっきからダイレクトめっきに替えることで、電気ニッケルめっきの膜厚によらず、腐食によるめっきふくれ現象が発生せず、かつレベリング目的の光沢ニッケルの膜厚を、無電解ニッケルを使用する工程での膜厚より薄くできる樹脂めっき方法であれば、図示したような構成に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法は、銅フリーめっき品の腐食によるめっきふくれ現象を防ぐことができ、自動車外装部品などの高耐食性が要求される分野の樹脂めっき製品等の様々な用途に利用することができる。
また、ダイレクトめっきを使用することで、ニッケル膜厚を減らすことができるので、軽量化、コスト低減につながり、軽量性が要求される樹脂めっき製品等の様々な用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1の銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法を示すものであり、(a)は工程図、(b)はそのめっき被膜の断面図である。
【図2】銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法の具体的な工程図を示すものである。
【図3】従来の無電解ニッケルめっき工程からなる銅フリー樹脂めっき方法を示すものであり、(a)は工程図、(b)はそのめっき被膜の断面図である。
【図4】電位逆転による腐食現象を示すめっき被膜の断面図である。
【符号の説明】
【0026】
S1 エッチング
S2 エッチング中和
S3 触媒付与
S4 導電化
S5 半光沢ニッケルめっき
S6 光沢ニッケルめっき
S7 MPニッケルめっき(マイクロポーラスニッケルめっき)
S8 クロムめっき

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品に銅めっきを省略して電気めっきを施す銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法であって、
前記樹脂成形品に、エッチング(S1)、エッチング中和(S2)、触媒付与(S3)及び導電化(S4)のダイレクトめっきの前処理を施し、
次に、前記樹脂成形品に電気ニッケルめっきを施し、
最後にクロムめっき(S8)を施す、ことを特徴とする銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法。
【請求項2】
前記電気ニッケルめっきにおいて、前記樹脂成形品に半光沢ニッケルめっき(S5)、光沢ニッケルめっき(S6)、MPニッケルめっき(マイクロポーラスニッケルめっき)(S7)の順で各めっき処理を施す、ことを特徴とする請求項1の銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法。
【請求項3】
前記半光沢ニッケルめっき(S5)による膜厚が5〜25μmになるようにめっき処理を施す、ことを特徴とする請求項2の銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法。
【請求項4】
前記光沢ニッケルめっき(S6)による膜厚が5〜25μmになるようにめっき処理を施す、ことを特徴とする請求項2の銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法。
【請求項5】
前記光沢ニッケルめっき(S6)と半光沢ニッケルめっき(S5)とのトータルニッケルの膜厚が10〜50μmになるようにめっき処理を施す、ことを特徴とする請求項2の銅フリー樹脂めっきの耐食性向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−39770(P2007−39770A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227683(P2005−227683)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(594035138)柿原工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】