説明

銅合金箔

【課題】銅箔回路基板用として樹脂やステンレスとの積層時やリチウムイオン電池用集電体としての使用時に、薄肉化に対応可能であり、強度低下を来たさず、曲げ加工性に優れた銅合金箔を提供する。
【解決手段】重量比率でZrを0.005%〜0.5%、Coを0.001%〜0.3%の範囲で含有する銅合金であって、複数の扁平な結晶粒が面方向に連続してなる結晶粒層が板厚方向に積み重なって構成された層状組織を有し、前記結晶粒層の厚さが5nm〜500nmの範囲であり、前記層状組織中の前記結晶粒層の厚さのヒストグラムにおけるピーク値が50nm〜250nmの範囲内でかつ総度数の30%以上の頻度で存在し、その半値幅が120nm以下である銅合金箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用積層板、リチウムイオン電池用集電体等に使用する機械的強度、導電性、曲げ加工性に優れた銅合金箔に関する。
【背景技術】
【0002】
電気接続用コネクタ、端子、リードフレーム、導線、箔等に用いられる銅合金として、Cu−Zr合金がよく知られている。
例えば特許文献1には、圧延法を用いて母材の強度を高めようとする際、圧延率を高くした場合に、銅合金からなる母材の強度を増大させると共に、その伸びも向上させることができ、ひいては良好な曲げ加工性を備え、耐熱クリープ特性にも優れた銅合金として、ジルコニウムを重量%で0.005以上0.5以下の範囲で含有し、微細な結晶粒と大きな結晶粒とを組み合わせた特定の結晶粒径の分布を有するものが記載されている。この銅合金においては、微細な結晶粒と大きな結晶粒とを組み合わせた形態が、結晶粒同士の界面において生じるクロスすべりを抑制するように働き、銅合金に強度と伸びのバランスをもたらすとともに、微細な結晶粒のみで構成された場合に見られる熱クリープ特性の劣化も防止することができ、強度と伸びをバランスよく備えるとともに、良好な曲げ加工性も併せ持つことができるものである。
【0003】
また、特許文献2には、Cu−Zr二元系あるいはCu−Zr−B三元系からなる単純な合金組成において、電子部品の用途に応じて広い範囲で選択することができる強度と導電性を兼備した銅合金として、特定の組成式で表され、Cu母相と、Cu母相とCu−Zr間あるいはCu−Zr−B間のいずれかまたは双方の化合物との共晶相とが互いに層状となす組織で構成され、隣り合うCu母相結晶粒同士が断続的に接する2相組織を呈する銅合金が開示されている。
【0004】
銅合金箔として、特許文献3には、添加元素の成分を重量割合にて、Crが0.01〜2.0%、およびZrが0.01〜1.0%の各成分の内一種以上を含み、残部を銅及び不可避不純物とし、極表層の酸化層、防錆皮膜の厚さがいずれも表面から10nm以下であって、導電率が50%IACS以上であり、液晶ポリマーを熱融着したときに180゜ピール強度が5.0N/cm以上であることを特徴とする液晶ポリマーとの接着性に優れた積層板用の銅合金箔が開示されている。
【0005】
銅合金箔として、特許文献4には、特定の元素を含有した銅合金において、防錆皮膜の厚さを表面から3nm以下とすることでエポキシ樹脂を含む接着剤との接着性が良好で、表面粗さが十点平均表面粗さ(Rz)で2μm以下であり、粗化処理を施さずにエポキシ樹脂を含む接着剤で基板フィルムと接着したときの180゜ピール強度が8.0N/cm以上であり、かつ高い導電性と強度を有する積層板用の銅合金箔が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4118832号公報
【特許文献2】特開2005−281757号公報
【特許文献3】特開2002−60866号公報
【特許文献4】特開2003−13156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Cu−Zr合金板としては、特許文献1、2に開示され、Cu−Zr合金箔としては特許文献3、4に開示されている積層板用の銅合金箔があるが、電子機器の小型化による回路のファインピッチ化に伴い、銅合金箔の厚みも10μmにまで薄くなる傾向にあり、薄肉化による強度低下が少なく曲げ加工性に優れた銅合金箔に対する需要が最近増えて来ている。
【0008】
本出願人は、先に、特願2009−69923号を出願し、重量比率でZrを0.005%〜0.5%、Coを0.001%〜0.3%の範囲で含有する銅合金であって、複数の扁平な結晶粒が面方向に連続してなる結晶粒層が板厚方向に積み重なって構成された層状組織を有し、結晶粒層の厚さが5nm〜550nmの範囲であり、層状組織中の結晶粒層の厚さのヒストグラムにおけるピーク値が50nm〜300nmの範囲内でかつ総度数の28%以上の頻度で存在し、その半値幅が180nm以下であることを特徴とする電子部品銅合金及びその製造方法を提供した。これにより、強度と伸びを高いレベルでバランスさせることができ、電子部品の小型化、薄肉化に好適に対応することができるが、さらなる薄肉の銅合金箔が求められている。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、銅箔回路基板用として樹脂やステンレスとの積層時やリチウムイオン電池用集電体としての使用時に、薄肉化に対応可能であり、強度低下を来たさず、曲げ加工性に優れた銅合金箔を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般に、銅合金の強度の向上には結晶粒をナノスケールまで微細化することが有効であるとされているが、単に微細化するだけでは伸びを向上させることはできない。本発明者らは、先に出願した特願2009−69923号に開示するように、圧延方向(R.D.方向)に沿う縦断面組織の構造に着目し、微細で扁平な結晶粒が層状に連なるとともに、その結晶粒層が積み重なった層状組織を有しており、しかも、その結晶粒層の厚さ(間隔)が各層で均一で層状組織として安定していると、強度と伸びが高いレベルでバランスすることを見出した。
【0011】
そして、更なる研究の結果、発明者らは、先に出願した特願2009−69923号記載の銅合金薄板を焼鈍することなしに、冷間圧延にて100μm以下の銅合金箔に引き伸ばすことにより、層状組織化の均一化が更に進み、銅合金箔として、強度と曲げ加工性が高いレベルで確保されることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の銅合金箔は、重量比率でZrを0.005%〜0.5%、Coを0.001%〜0.3%の範囲で含有する銅合金であって、複数の扁平な結晶粒が面方向に連続してなる結晶粒層が板厚方向に積み重なって構成された層状組織を有し、前記結晶粒層の厚さが5nm〜500nmの範囲であり、前記層状組織中の前記結晶粒層の厚さのヒストグラムにおけるピーク値が50nm〜250nmの範囲内でかつ総度数の30%以上の頻度で存在し、その半値幅が120nm以下であることを特徴とする。
【0013】
この銅合金箔は、層状組織における各結晶粒層の個々の厚さは5nm〜500nmの範囲内とされ、その厚さのヒストグラムにおいて、ピーク値が30%以上の高い頻度で存在し、しかも半値幅が120nm以下と狭く、そのヒストグラム曲線は、幅が狭く鋭利な山形に突出した形状となっている。言い換えれば、層状組織における各結晶粒層の厚さが薄くかつ均一に揃っているのである。結晶粒層の厚さは、薄くかつ均一である方が強度は大きく、そのピーク値が250nmを超えると、銅合金箔としては十分な強度が得られない。一方、ピーク値を50nm未満とするのは製造技術的に困難であり、現実的でない。50nm〜100nmの範囲内にピーク値があるのがより好ましい。また、ピーク値の頻度が30%未満の場合も、ヒストグラム曲線がなだらかとなって、結晶粒層の厚さのばらつきが大きくなるため、強度向上を期待できない。半値幅についても同様であり、120nm以上であると強度向上に寄与出来ない。
【0014】
そして、このような層状組織の安定した銅合金箔とすることにより、強度と曲げ加工性のバランスが高いレベルで向上する。一般的には圧延にて銅合金箔を製造すると、曲げ加工性が低下する傾向にあるが、本発明の銅合金箔は特有の層状組織により、焼鈍を加えることなく冷間圧延のみにて製造可能であり、曲げ加工性を低下させることなく高いレベルで強度とのバランスを維持することが出来る。
【0015】
ここで、Zrの添加は強度の向上に有効であるが、その添加量が重量比率で0.005%未満であると強度が十分に向上せず、また、0.5%を超えても、それ以上の強度の向上効果は期待できない。また、Zrを0.005%以上含有することで層状組織が発達して安定化する。逆に、0.5%を超えると、伸びが低下して好ましくない。したがって、Zrの含有率は重量比率で0.005%〜0.5%としている。
【0016】
Coを微量に添加することは層状組織が均一で緻密になって安定する効果があり、適切な伸び(延性)を付与するが、その添加量が重量比率で0.001%未満では、層状組織の各結晶粒層の厚さのばらつきを小さくする効果に乏しく、0.3%を超えても、それ以上の効果は期待できず、逆に、延性が著しく大きくなって引張強さを低下させ、また、導電率も低下する不具合がある。したがって、Coの含有率は重量比率で0.001%〜0.3%としている。
【0017】
更に、本発明の銅合金箔は、厚みが5〜100μmであり、0.2%耐力が480N/mm以上であり、MIT屈曲性試験にて曲げ回数が150回を超える屈曲性を有することを特徴とする。
この様に、強度と曲げ加工性(屈曲性)のバランスが取れていることにより、回路基板用として樹脂やステンレスとの積層時やリチウムイオン電池用集電体として薄肉化された使用時に、強度を維持し曲げ加工性(屈曲性)の優れた銅合金箔となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、Zr、Coの添加と扁平な結晶粒層による均一な層状組織との複合効果により、強度と曲げ加工性が高いレベルでバランスした銅合金箔を得ることが可能であり、薄肉化された回路基板用として樹脂やステンレスとの積層時やリチウムイオン電池用集電体としての使用時に、強度を維持し曲げ加工性の優れた銅合金箔を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る銅合金をTEMにより観察した層状組織の模式図である。
【図2】図1の層状組織における各結晶粒層の厚さの分布を示すヒストグラム曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を説明する。
この実施形態の銅合金箔(以下、単に銅合金箔という)は、重量比率でZrを0.005%〜0.5%の範囲で含有しているとともに、Coを重量比率で0.001%〜0.3%の範囲で含有しており、図1に示すように、複数の扁平な結晶粒1からなる結晶粒層2が板厚方向に積み重なって構成された層状組織3を有している。
【0021】
Zrは、後述する溶体化処理後の時効処理によって結晶粒表面に析出して強度を向上させる効果がある。その含有量が重量比率で0.005%未満であると強度が十分に向上せず、また、0.5%を超えても、強度の向上効果は飽和して、それ以上は期待できない。むしろ、0.5%を超えると伸びの低下を招く。
また、Zrを0.005%以上含有することで層状組織が発達して安定化する。
Coを微量に添加することは層状組織が均一になって安定する効果があり、適切な伸びを付与するが、その添加量が重量比率で0.001%未満では、層状組織の各結晶粒層の厚さのばらつきを小さくする効果に乏しく、0.3%を超えても、効果が飽和し、逆に導電率が低下する不具合がある。
【0022】
また、この銅合金箔には、クロム、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、鉄、チタニウム、ニッケル、リン、スズ、亜鉛、カルシウム、ボロンのいずれか1種又は2種以上の元素を選択して、重量%で、0.001以上3.0以下の範囲で含有してもよい。銅合金箔にこれらの元素を適宜含有させることにより、さらに強度の向上を図ることができるので好ましい。
【0023】
さらに、この銅合金箔には、炭素、酸素、および、クロム、シリコン、マグネシウム、アルミニウム、鉄、チタニウム、ニッケル、リン、スズ、亜鉛、カルシウム、ボロンのいずれか1種又は2種以上の元素の酸化物、のいずれか1つ又は2つ以上を選択して、重量%で、0.0005以上0.005以下の範囲で含有しても構わない。銅合金箔にこれらの元素を適宜含有させることにより、プレス打ち抜き加工時における破断起点として有効に作用し、プレス打ち抜き性を良好にし、ひいては金型摩耗が少なくなることから好ましい。
【0024】
図1に示すように、層状組織3は、扁平な結晶粒1が面方向に連続してなる結晶粒層2が積み重なって構成されたものである。この図1は、圧延方向(R.D.方向)に沿う縦断面(T.D.方向に見た面)の組織を模式的に表したものであり、図1の紙面上の横方向(左右方向)が圧延方向(R.D.方向)、縦方向(上下方向)が板厚方向(N.D.方向)となっている。そして、その一つの結晶粒1をハッチングして示したように、各結晶粒1はいずれも扁平で圧延方向(R.D.方向)に引き延ばされているとともに、隣の結晶粒1が圧延方向(R.D.方向)に連なるように配置されて、これら連続状態の複数の結晶粒1により層が構成されている。本発明では、結晶粒1が層状に連続してなるものを結晶粒層2と称しており、その結晶粒層2が板厚方向(N.D.方向)に複数積み重なった状態のものを層状組織3と称している。このような層状組織3は、圧延方向(R.D.方向)の縦断面(T.D.方向に見た面)を透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)で観察することにより確認することができる。
【0025】
この層状組織3において、各結晶粒層2の厚さは5nm〜500nmの範囲内とされている。この結晶粒層の厚さの分布をヒストグラム曲線で表すと、図2に示すようになる。このヒストグラムは、TEMで観察した層状組織において、図1に一点鎖線で示したように、圧延方向(R.D.方向)に垂直な板厚方向(N.D.方向)に任意の直線Xを引き、この直線Xと各結晶粒層2間の界面との交点の間の距離(間隔)Tを測定し、その距離Tを結晶粒層2の厚さとして、これを200個測定して分布にしたものである。その測定値をヒストグラムにするときの階級の間隔は、例えば50nmとされる。
この図2のヒストグラム曲線において、ピーク値をP、その半値幅をLとすると、ピーク値Pは50nm〜250nmの範囲内にあり、そのピーク値Pの頻度が総度数の30%以上とされ、また、半値幅Lが120nm以下とされる。つまり、ヒストグラム曲線の幅が狭く、上方に突出した鋭利な山形形状となっている。
【0026】
これを言い換えると、層状組織3における各結晶粒層2の厚さが均一で揃っていることを意味している。結晶粒層2としては薄くて均一な方が強度向上に有利であり、50nm〜200nmの範囲にピーク値Pが存在しているのがより好ましい。半値幅も100nm以下であると、層状組織3がさらに均一になってより好ましい。
【0027】
また、本発明の銅合金箔は、厚みが5〜100μmであり、引張り強度が480N/mm以上であり、MIT屈曲性試験にて曲げ回数が150回を超える屈曲性を有することを特徴とする。
一般的には、厚み100μm以下が銅合金箔と言われており、通常の圧延による銅箔製造では厚み5μmまでが限度である。
この様に強度と曲げ加工性(屈曲性)のバランスが取れていることにより、回路基板用として樹脂やステンレスとの積層時やリチウムイオン電池用集電体として薄肉化された使用時に、強度低下を来たさず曲げ加工性(屈曲性)の優れた銅箔となる。
【0028】
次に、このような銅合金箔を製造する方法について説明する。
この製造方法は、耐火物炉で銅原料を溶解し、その溶銅に少なくとも重量比率でZrを0.005%〜0.5%、Coを0.001%〜0.3%の範囲で添加して銅合金母材を鋳造した。そして、その鋳造した母材に対して溶体化処理を含む熱間圧延を施す第1工程、その後冷間圧延する第2工程、冷間圧延後の母材を時効又は焼鈍のための熱処理を施す第3工程、第3工程により製造された銅合金薄板を冷間圧延にて銅合金箔とする第4工程の各処理を順次行う。
但し、第3工程は必要に応じて実施すればよく、第1、第2工程にて、既に強度と伸びが高いレベルでバランスしている銅合金薄板が作製されていると推察される場合は、第3工程を省略して第4工程に直接進んでも良い。
以下、この工程順に説明する。
【0029】
<第1工程>
第1工程は母材を高温で熱間圧延した後急冷する処理となる。
熱間圧延は、母材を930℃〜1030℃の温度に加熱して赤熱状態とし、これを複数回(5回〜10回)圧延ロールの間に通しながら徐々に圧延ロール間のギャップを小さくして、所定の厚さまで母材を圧延する。このときの圧延率は、最終パスの前までは、16%以上、例えば19%程度とされる。この段階での圧延率を16%以上とすることにより、結晶粒の均一化を図ることができる。この圧延率は、圧延ロールを通す前の母材の板厚に対する圧延ロール通過後の母材の板厚の減少率(又は前回パス時の圧延ロール間のギャップに対する今回パスの圧延ロール間のギャップの減少率)であり、この段階での圧延率は毎回の圧延率の平均である。
【0030】
そして、この熱間圧延の最終パスにおいて、20%以上の圧延率で加工する。この最終パスの圧延率を20%以上に大きくするのは、加熱による結晶粒の成長を強圧下によって抑制するとともに、その大きな変形力による歪みを付与して結晶粒を微細化させつつ圧延方向に扁平な形状とするためであり、後の冷間圧延後の層状組織における結晶粒層を均一化することができる。より好ましくは、この最終パスを24%以上の圧延率、例えば40%の圧延率とするのが良い。
また、この熱間圧延によって、Zrが母材に十分に固溶される。この熱間圧延終了後の母材は、10mm〜20mm程度の板厚の板材となる。
【0031】
そして、この熱間圧延後の母材を水冷することにより急冷する。急冷の速度としては10℃/秒以上、好ましくは30℃/秒〜50℃/秒とされる。この急冷により、Zrが過飽和状態に固溶した母材が得られる。
また、この母材に対して面削、粗圧延、研磨等の加工がされ、最終的に板厚が1.2mm〜6.0mm程度となる。
【0032】
<第2工程>
次に、90%以上の圧延率で第一冷間圧延する。この冷間圧延でも母材を圧延ロール間に複数回(5回〜20回)通過させるが、そのときの毎回の圧延率は15%〜30%とされる。そして、その複数回の圧延で圧延率が90%以上、例えば92%〜99.5%の圧延率となり、母材を0.12mm〜0.75mmの板厚にまで減少させる。
この冷間圧延処理を経ることにより、層状組織における各結晶粒層の厚さが均一化し、その厚さの分布をヒストグラムにしたときピーク値が大きくなってくる。
【0033】
<第3工程>
次に、第2工程を経た母材に対して300℃〜380℃で1時間〜8時間の熱処理を施す。この熱処理は時効処理又は歪み取り焼鈍のための処理である。この熱処理により、過飽和状態で固溶していたZrが時効により徐々に析出するのであるが、その熱処理が比較的低温であることにより、析出しきれずに結晶粒内に残っているZrがCoと反応して化合物を形成する。このZrとCoとの化合物は母材の伸びをより向上させるものと想定され、この第3工程を経た銅合金は、さらに強度と伸びが高いレベルでバランスしている。
この第3工程の熱処理を施す場合、温度が300℃未満では強度向上効果に乏しく、一方、380℃を超えると、強度は大きくなるが伸びは十分でない。また、この熱処理時間が8時間を超えるほどに長過ぎると、再結晶化するため好ましくない。
【0034】
<第4工程>
次に、第2或いは第3工程を経た銅合金薄板に対して複数回の冷間圧延を施し厚みが100μm以下の銅箔に仕上げる。総圧延率は91%〜99%が好ましい。本発明の銅合金薄板は層状組織が均一で緻密であるため、圧延により加工硬化することがないので各冷間圧延の間に焼鈍を施す必要がない。この複数回の冷間圧延処理を経ることにより、層状組織における各結晶粒層の厚さが小さくなって均一化され、その厚さの分布をヒストグラムにしたときのピーク値が鋭くなる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施例を説明する。
ZrとCoを表1に示す比率で添加した銅合金を鋳造し、第1工程から第4工程までの処理を経て製造した。第1工程における熱間圧延条件、第2工程の冷間圧延時の圧延率、第3工程の熱処理条件、第4工程の冷間圧延時の圧延率を表1のように組み合わせた。
試料1〜試料14が本実施例、試料15〜試料28が比較例としてZrやCoの添加量、熱間圧延、冷間圧延、熱処理の条件が本発明の範囲から外れるものも製作した。最終の銅合金箔の厚みは10μmである。
【0036】
【表1】

【0037】
得られた銅合金箔を圧延方向に切断して、その断面組織をTEMで観察し、前述したように、圧延方向(R.D.方向)に垂直な板厚方向(N.D.方向)に沿って各結晶粒層の界面間の距離(間隔)を測定し、その距離を結晶粒層の厚さとして、これを200個測定した。その結晶粒層の厚さの測定値のうち、最小値、最大値、ヒストグラムにしたときのピーク値、その頻度、半値幅をそれぞれ求めた。ヒストグラムは、50nmの幅で階級を決め、その階級毎に各結晶粒層の厚さの測定値の度数(頻度)を求めた。その結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
この表2の結果より、本実施例は、層状組織の結晶粒層の厚さが均一で、ヒストグラムのピーク値が小さくかつ高い頻度で半値幅も小さく、そのヒストグラム曲線が鋭利な山形に形成されることがわかる。
【0040】
次に、これら実施例及び比較例の銅合金箔について、0.2%耐力(YS)、曲げ加工性(屈曲性)、導電率をそれぞれ測定した。その結果を表3に示す。
0.2%耐力(N/mm)は、JIS Z2241に従って試料の圧延平行方向について引張試験を行い、0.2%歪みとなったときの応力を測定した。試料は上記JISに従って作製した。
導電率は、ダブルブリッジを用いた直流四端子法で20℃における電気抵抗を求めた。測定試料は厚さ10μmの銅箔を幅12.7mmに切断した。 これを測定間長さ50mmの電気抵抗を測定して導電率を求めた。
曲げ加工性、即ち、屈曲性は、MIT屈曲性試験により屈曲性の評価を行った。試験条件は、破断に至るまでの往復曲げ回数を数え、以下の基準で評価した。
○:曲げ回数が150回を超えるもの
×:曲げ回数が150回を超えないもの
【0041】
【表3】

【0042】
この表3より、実施例の試料は、0.2%耐力が大きく曲げ加工性も良好であり、バランスが良くとれていることがわかる。
この様に、本発明によれば、Zr、Coの添加と扁平な結晶粒層による均一な層状組織との複合効果により、強度と曲げ加工性が高いレベルでバランスした銅合金箔を得ることが可能であり、薄肉化された回路基板用として樹脂やステンレスとの積層時やリチウムイオン電池用集電体としての使用時に、強度低下せず曲げ加工性の優れた銅合金箔を提供することが出来る。
【符号の説明】
【0043】
1 結晶粒
2 結晶粒層
3 層状組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量比率でZrを0.005%〜0.5%、Coを0.001%〜0.3%の範囲で含有する銅合金であって、複数の扁平な結晶粒が面方向に連続してなる結晶粒層が板厚方向に積み重なって構成された層状組織を有し、前記結晶粒層の厚さが5nm〜500nmの範囲であり、前記層状組織中の前記結晶粒層の厚さのヒストグラムにおけるピーク値が50nm〜250nmの範囲内でかつ総度数の30%以上の頻度で存在し、その半値幅が120nm以下であることを特徴とする銅合金箔。
【請求項2】
厚みが5〜100μmであり、0.2%耐力が480N/mm以上であり、MIT屈曲性試験にて曲げ回数が150回を超える屈曲性を有することを特徴とする請求項1に記載の銅合金箔。

【図1】
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【図2】
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