説明

銅含有酸性廃液からの銅含有固形物の回収方法及び装置

【課題】 これまで産業廃棄物として処分されていた塩化銅含有エッチング廃液などの銅と塩化物イオンを高濃度で含有する強酸性の廃液を、効率的かつ低いスラッジ発生量で処理して、銅メッキ浴液への銅イオン供給源として再利用出来る塩素含有量の少ない酸化銅として回収するための方法及び装置を提供すること。
【解決手段】下の管理条件(1)および(2)、または(3)
を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
(1)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを一時的にでも7以下にしない
(2)混合液注加後のアルカリ剤溶液の温度を55℃以上とする
(3)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを11.5以上に維持する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液などの銅イオンを含有する酸性廃液を処理して銅を除去回収する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅イオンを高濃度で含有する酸性の廃液(以下、「銅含有酸性廃液」という)としては、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液などが知られている。これらの廃液は、銅濃度が5〜20質量%(以下、単に「%」で示す)程度と高い一方で、共存する塩化物イオンや硫酸イオンの濃度も通常5〜30%と高い。また、エッチング廃液においては、塩化物イオンが、含有される銅イオンに対してモル比で2倍以上という高い比率で含有されている。
【0003】
このような銅含有酸性廃液を対象にした銅の回収処理としては、イオン化傾向の差を利用して例えば鉄スクラップと反応させて金属銅を析出させて回収する方法が一部で行われている。しかし、この方法では廃液からの銅回収率が低いとともに、銅イオンとの反応により溶出した鉄イオンなどと回収されなかった銅イオンとが含まれる廃液が残るため、この廃液の処理が別途必要であり効率的な処理方法とは言いがたい。
【0004】
また、一般的な銅含有酸性廃液の処理方法としては、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質を添加することにより重金属類を水酸化物として沈殿除去する処理方法が知られているが、この方法は生成するスラッジの嵩が高く、量も多いため、銅イオンの含有濃度が高い銅含有酸性廃液の処理には適さない。
【0005】
更に、エッチング廃水については、アルカリを添加して銅イオンを銅水酸化物として不溶化し、更に酸化剤を添加して酸化銅にして回収する処理方法(特許文献1等)が試みられている。しかしながら、当該技術において酸化剤として次亜塩素酸塩やさらし粉などの塩化物イオンを含む酸化剤を使用した場合には、添加後の液中の塩化物イオン濃度がより高くなることで塩化銅と酸化銅との複塩の生成やスラッジへの塩分の混入が懸念されるなどの問題点があり、また、高濃度廃液を対象にした場合には回収される酸化銅への不純物含有量が多くなるなど、改善すべき点が多い。
【0006】
一方、酸化剤として過酸化水素を使用する場合には前述の塩類濃度の上昇は起こらないが、次のような問題点から、この方法では効率的な処理が実施出来ない。すなわち、銅イオンと、塩化物イオンあるいは硫酸イオンが高濃度で共存する強酸性廃液を処理する場合、酸性であるこの液に対してアルカリ剤を添加して酸性側から中性付近ないしアルカリ性へと中和を進める方法では、pH≒1.5以上で水酸化銅と塩化銅あるいは硫酸銅との複塩を主成分とする固形物が析出する。そして、この複塩を主体とする固形物は嵩高であるために、銅を高濃度で含むこの廃液の処理に採用した場合は、中和の途中で廃液がペースト状の汚泥に変化し、処理が困難となってしまう問題があった。
【0007】
さらにこの複塩は、過酸化水素では酸化分解されない一方で、過酸化水素の分解触媒として作用するため、この固形物が析出した液に酸化剤として過酸化水素を加えても、過酸化水素が一方的に分解消費され、酸化銅への酸化処理が不完全な状況で反応が終結してしまうという問題もあった。
【0008】
この複塩を主成分とする固形物析出に伴う被処理液(廃液)のペースト状化を回避するためには、中和処理に際して銅イオン濃度が10g/L程度以下、塩化物イオンあるいは硫酸イオン濃度が20g/L程度以下になるように希釈することが有効である。しかし、このためには多くの希釈水を必要とし、またそれに伴い処理する装置も大型となるという問題点がある。
【0009】
更にまた、銅イオンを含有するエッチング排水のように、廃液に含有される銅イオンと、塩化物イオンあるいは硫酸イオンが高濃度で共存する強酸性廃液を処理する場合には、銅を含有する酸性廃液に過酸化水素を先に添加して共存させておいても、これにアルカリ剤を注入して酸性側から中性ないしアルカリ性へと中和反応を進めた場合には反応の途中で前述の複塩を主成分とする析出物を一部生じるため、これにより過酸化水素の多くが触媒分解されて消失してしまい、過酸化水素量が不足することで酸化銅への酸化処理が一部不完全な状況で反応が終結してしまう問題があった。これに対し、不足する分を見越して過酸化水素量を十分過剰に加えることで酸化処理状況を改善することは可能であるが、薬剤の添加量が多くなり効率が悪いとともに、この場合でも過酸化水素で酸化分解を受けない複塩はスラッジ中に残留する。そして、この複塩自体は水洗を十分に行うことでスラッジから溶解して含有濃度を低減させることが可能であるが、洗浄用水を多く必要とするとともに、洗浄排水中に銅イオンが含有されることになるため、その処理が別途必要であり、この点からも処理効率が悪い。
【0010】
また更に、これらの技術では酸性の液をpH=8〜12のアルカリ性側にして処理するため、回収固形物の脱水や上澄水の放流など後段側の状況を考慮し、後段側で中性付近に再中和する必要があるが、その場合はその分の薬品も必要となるため、この点からも効率的な方法とは言いがたいものである。
【0011】
以上のように、銅の回収再利用の妨げとなる塩化物イオンなどの塩類濃度が高い酸性銅廃液から銅のみを効率良く回収する技術がないために、これらの廃液は一般的には産業廃棄物処理会社により回収され、再利用されることなく処分されることが多かった。
【0012】
これらの状況を鑑み、本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究をかさねた結果、以下の事柄を見出し、酸性銅廃液から銅を酸化銅を主体とする固形物を、塩素含有量の少ない状態で析出させ、回収できる発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、処理対象液である銅イオンを高濃度で含有する酸性廃液、例えばエッチング廃液と酸化剤を混合した後、これをアルカリ剤溶液に所定のpH域(アルカリ領域)に管理しつつ注加、混合することで、塩化物イオンなどの含有濃度が高い廃液においても複塩の生成を回避出来、該廃液中の銅イオンを酸化銅として不溶化し、除去回収できることを見出した。また、この酸化反応を逐次進行させることにより、残留銅イオン濃度が低い液が得られ、この液による希釈効果を有効に活用することで最終的に中和した状態においても複塩の生成を回避して過酸化水素等の酸化剤による銅イオンからの酸化銅の生成反応を良好に維持、進行することが出来、これにより、効率良く酸化銅を析出させることが可能で、最終的な液性が弱アルカリ性ないし中性となる処理を実施することができることを見出した。
【0014】
しかしながら、上記方法も、例えば銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液などの塩化物イオンの含有率が高い廃液を対象とする場合は、問題が残っていた。すなわち、この方法で処理して得られた固形物を水で洗浄後乾燥して得られた固形物中には、単純な水性操作では低減困難な塩素分が400μg/g程度(蛍光X線回折法蛍光X線測定装置;(株)リガク社製 ZSX PrimsII型、管球;Cu、電流/電圧;50kV/50mAによる分析結果)含有されていることが見出された。
【0015】
そして、回収した酸化銅を主体とする固形物を銅メッキ処理工程における銅イオン供給源として再利用する場合には、メッキ処理への塩化物イオンの悪影響が知られており(非特許文献1)、これを回避するために、固形物中の塩素含有量をなるべく低く(例えば50〜100μg/g以下)することが求められている。このため、上記の方法で回収された固形物は、銅メッキ浴液への銅イオンの供給原料として再利用するためには、塩素の取り込み量をなるべく低減することが要求されているが、これは従来の技術では困難であった。
【特許文献1】特願2002−212857
【非特許文献1】「表面技術」、第55巻,第6号,第423−427頁 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って本発明は、塩化銅含有エッチング廃液などの銅と塩化物イオンを高濃度で含有する強酸性の廃液について、これを効率的かつ低いスラッジ発生量で処理可能であり、しかも、銅メッキ浴液への銅イオン供給源として再利用出来る程度の塩素含有量の少ない酸化銅を沈殿物として回収するための技術の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究をかさねた結果、以下の事柄を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、エッチング廃液等、銅イオンと塩化物イオンを高濃度で含有する酸性廃液と酸化剤を混合した後、これをアルカリ剤溶液に注加、混合するにあたり、アルカリ剤溶液のpHを一時的にでもpH7以下としないという条件の他、アルカリ溶液の温度を55℃以上、望ましくは80℃以上に加熱してから混合液を注加して反応させるという条件を満たすよう管理すれば、複塩の生成を回避しつつ、該廃液中の銅イオンを酸化銅として不溶化させ、回収可能であり、しかもその固形物中の塩素イオン濃度を大幅に低減しうることを見出した。
【0018】
また、混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを11.5以上、望ましくは12.5以上の強アルカリ性となるよう管理しても、塩素の取り込み量が少ない酸化銅を主成分とする固形物を生成させることができることを見出した。
【0019】
本発明は、上記知見に基づいて完成したものであり、その第一の発明は、次の管理条件(1)および(2)
(1)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを一時的にでも7以下にしない
(2)混合液注加後のアルカリ剤溶液の温度を55℃以上とする
を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法である。
【0020】
また、本発明の第二の発明は、上記管理条件(1)および(2)を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法である。
【0021】
更に、本発明の第三の発明は、次の管理条件(3)
(3)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを11.5以上に維持する
を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法である。
【0022】
更にまた、本発明の第四の発明は、上記管理条件(3)を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法である。
【0023】
更に本発明の第五の発明は、加熱手段およびpH測定手段を備えた、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液とアルカリ剤溶液とを反応させて固形物として析出させる反応槽と、前記固形物を分離回収する固液分離装置と、酸化剤配管および銅含有酸性廃液配管とが途中で合流された混合液配管とを含み、前記混合液配管は、反応槽に混合液を注加可能に設けられ、反応槽と固液分離装置とは固形物を含む懸濁液を移送可能に連通されていることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅含有固形物の回収装置である。
【0024】
また更に、本発明の第六の発明は、銅含有酸性廃液と酸化剤溶液とを混合する混合槽と、加熱手段およびpH測定手段を備えた、混合物とアルカリ剤溶液を反応させて固形物として析出させる反応槽と、前記固形物を分離回収する固液分離装置と、前記混合槽から反応槽に混合液を注加する手段とを含み、前記反応槽と前記固液分離装置とは固形物を含む懸濁液を移送可能に連通されていることを特徴とする、銅含有酸性廃液からの銅含有固形物の回収装置である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、従来技術では回収処理が困難であった、銅含有濃度が高い酸性廃液から、効率的に銅を酸化銅を主成分とする固形物として回収することが可能である。
【0026】
特に、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液など、銅イオンの他塩化物イオンの含有率が高い廃液であっても、複塩の生成を防ぎつつ、直接処理することができるとともに、銅イオンを、塩素含有量の少ない酸化銅を主体とした固形物として生成、回収することが可能になった。
【0027】
そして、回収された塩素含有量の少ない酸化銅を主体とした固形物は、銅プリント基板の製造などにおける銅メッキ工程に銅イオンの供給源として戻すことが可能であるため、本発明方法を銅プリント基板の製造工程などに組み込めば、銅を資源として有効に循環再利用することが可能となり、極めて効率的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明方法による処理プロセスの基本は、銅含有酸性廃液と酸化剤とをまず混合し、次いでこの得られた混合液をアルカリ剤溶液に注加して、固形物を生成させるというものである。そして本発明の特徴は、この固形物生成を、次の管理条件(1)および(2)
(1)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを一時的にでも7以下にしない
(2)混合液注加後のアルカリ剤溶液の温度を55℃以上とする
または、次の管理条件(3)
(3)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを11.5以上に維持する
を守りつつ行うことにより塩素の取り込み量が少ない固形物を生成させるというものである。
【0029】
本発明方法で処理対象となる銅含有酸性廃液としては、銅をイオン状態で含有する酸性廃液であり、これに含まれる銅イオン濃度や、アニオン濃度に特に制約なく適用できるが、例えば銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液など、特に銅イオン濃度と塩化物イオン濃度の高いものに有利に適用することができる。
【0030】
また、本発明方法で利用される酸化剤としては、2価の銅イオンを酸化銅とすることができるものであれば、種々の酸化剤を利用することができるが、溶液として取り扱えることや、反応後に水以外の成分が残らないことから、過酸化水素やオゾン水などが有効に利用され、過酸化水素が特に適している。また、気体オゾンを直接銅含有酸性廃液に吹き込むことで、酸化剤との混合液とすることも出来る。
【0031】
更に、本発明で利用されるアルカリ剤としては、種々のアルカリ剤を使用することができるが、共存する恐れのある陰イオンと沈降性の塩を形成する可能性のないアルカリ金属の水酸化物が望ましく、比較的安価で入手が容易なことから水酸化ナトリウムが好適に使用できる。また水溶液として入手した場合は、容易に使用できる利点があるが、溶解に伴う反応熱を有効に活用して液温を上昇させることを目的に、固体状のアルカリ剤を適宜溶解させて用いても良い。
【0032】
本発明方法の実施にあたっては、まず、上記した順序を守ることが特に重要である。そこで、酸化剤溶液として過酸化水素溶液を、アルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いる場合を例にとり、混合、反応順序の重要性を以下に説明する。
【0033】
まず、銅イオンを高濃度で含有する銅含有酸性廃液にアルカリ剤を注加するという順序では、従来技術で述べたとおり複塩の生成が起こり、処理が困難な性状の汚泥が析出するという結果となる。
【0034】
また、銅含有酸性廃液を過酸化水素溶液と混合する前にアルカリ剤に注加した場合は、水酸化銅の析出が先行して起こる。そしてその後に過酸化水素溶液を注加した場合には、液中に析出した水酸化銅の固体の酸化処理となるため、過酸化水素による酸化銅への酸化反応の効率が低下する。
【0035】
さらにエッチング廃液などの第一銅イオンを含有する廃液を処理対象とする場合、過酸化水素と混合する前にこれをアルカリ剤に注加した場合には水酸化銅に加えて溶解度が低い塩化第一銅(CuCl)も析出する。この塩化第一銅(CuCl)は過酸化水素の分解触媒として作用するため、酸化銅の生成への寄与が不十分な状況で過酸化水素が消費されてしまい、過酸化水素による酸化反応の効率が更に低下する。
【0036】
以上のように、本発明による処理プロセスにおいては、アルカリ剤溶液と混合、反応させるに先立ち、銅含有廃液と過酸化水素溶液とを混合させることが重要である。これにより、廃液に含有される第二銅イオンの酸化銅への酸化反応が、アルカリ剤に注加した際に速やかに進行する。また、廃液に第一銅イオンが含有される場合には、アルカリ剤と接触させる前に過酸化水素と混合することで、過酸化水素の酸化作用により第一銅イオンが第二銅イオンに酸化されるため、溶解度が低い塩化第一銅(CuCl)などの第一銅塩の析出を回避出来る。
【0037】
本発明において、銅含有廃液と過酸化水素溶液とを混合させるために必要な時間は、混合する両者の濃度にもよるが、両者が高濃度の場合は、第一銅イオンは5秒程度の短時間でもかなりの割合で酸化され、20秒間程度では酸化反応が十分に進行する。
【0038】
その一方で、銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液を混合すると、過酸化水素の分解反応が進行する。その分解反応は、両者を混合後約60秒経過した時点から顕在化し、7分間〜10分間経過後には顕著な発泡を伴いながら激しく進行する。過酸化水素の分解による発泡は、混合する両者の濃度にもよるが、例えば銅イオンに対してモル濃度で2倍量の過酸化水素を混合した場合、その発泡は20分間経過後には減少し、25分間経過後には僅かなものになり、この時点でアルカリ剤に注加した場合には酸化銅よりも水酸化銅を多く含む沈殿物が生成する。
【0039】
このようなことから、アルカリ剤への注加に先立ち、銅含有酸性廃液と過酸化水素溶液との混合、反応時間として、5秒間〜20分間程度、望ましくは20秒間〜7分間程度の時間を取ることが好ましく、この時間設定も重要である。
【0040】
上記した、銅含有廃液と過酸化水素溶液との混合方法としては、例えば、混合槽内に両液を注加して撹拌する方法や、銅含有廃液と過酸化水素溶液とを合流させて混合する方法等が適用可能である。
【0041】
このうち、混合用の槽内に両液を注入して撹拌する方法では、注入量の確認と調整が容易で、混合時に発泡しても開放系のため装置上の問題が発生しないメリットがある。
【0042】
また、銅含有廃液と過酸化水素溶液とを合流させて混合する方法では、両溶液の配管をY字管等で接続して合流させる方法、どちらかの配管内に他方の液を注入して混合する方法などが使用できる。さらに合流後にスタティックミキサーを通すことで両液の撹拌混合することもできる。この方法では、発泡への対処のために装置の耐圧性、もしくは発生した気体を排出できる機構が必要になるが、両液を混合してから供給するまでの時間を均一に保ち、かつ連続的に供給できるというメリットがある。
【0043】
次に、銅含有廃液と過酸化水素溶液との混合液(以下、「混合液」と略称する)とアルカリ剤との反応であるが、複塩の生成を回避するためには、銅イオンの濃度が希薄な条件下で反応させることが必要である。すなわち、アルカリ剤溶液中に、少量ずつ断続的あるいは連続的に混合液を加えてゆくことが必要である。そして更に、銅イオンを塩素の取り込み量が少ない、酸化銅を主成分とする固形物として回収するためには、混合液をアルカリ溶液に注加した後の反応時の温度を、通常より高い温度とすることが必要である。
【0044】
これらの条件を実現するため、本発明技術においては、次の管理条件(1)および(2)
(1)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを一時的にでも7以下にしない
(2)混合液注加後のアルカリ剤溶液の温度を55℃以上とする
を維持することが必要となる。
【0045】
より具体的には、例えば、操作性の良い溶液体のアルカリ剤を用い、このアルカリ剤溶液を、55℃以上に加熱し、これを撹拌しつつこの中に前記の混合液を、アルカリ溶液のpHが部分的にでも、一時的に7を下回らないように適切な速度で注加してゆくことが必要である。
【0046】
アルカリ剤溶液に混合液を注加することにより中和熱が発生するので反応を進行させるにつれて初期よりも液温は上昇するが、塩素含有率が低減された銅含有固形物を得るためには、混合液を最初に注加する段階で、上記(2)の管理限界の55℃以上に加熱しておくことが必要かつ有効である。
【0047】
また、pHが一時的にでも7以下に下がらないように管理しながら注加、混合する方法としては、たとえば撹拌混合状態にあるアルカリ剤溶液中に、少量の混合液を間隔をあけて断続的に注加する方法や、混合液を少量づつ連続的に注加する方法を挙げることができる。このとき、アルカリ剤溶液量と、混合液の注加量の関係は、最終的な混合反応終了時における、これらの混合反応液の最終的pHが7以上、望ましくは8以上となる量とすれば良い。
【0048】
一方、銅イオンを塩素の取り込み量が少ない、酸化銅を主成分とする固形物として回収する別の方法としては、混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHが11.5以上、望ましくは12.5以上の強アルカリ性で反応を進行・終了させる方法が挙げられる。
【0049】
これらの条件を実現するため、本発明技術においては、次の管理条件(3)
(3)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを11.5以上に維持する
を維持することが必要となる。
【0050】
この方法は、具体的には、アルカリ剤溶液中への混合液の注加に伴い、pHが中性に近づいてくるので、混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを監視しながら、アルカリ剤を必要に応じて追加しつつ、反応混合槽中でのpHが11.5以上、望ましくは12.5以上の強アルカリ性を維持しながら反応を進行・終了させるという方法である。この操作により、アルカリ剤溶液による希釈効果を得ながら、主要な酸化反応を過酸化水素の反応性が高い、pH11.5〜14.5の強アルカリ性条件下で効率的に行うことが出来るため、酸化反応を逐次進行完結させることによって残留する銅イオン含有濃度が低い液を得ることができる。なお、この場合はpHを7.0以上とすることにはほとんど問題はないが、例えば、撹拌が弱いときに大量の混合液を注加すれば、部分的に一時的にpHが7以下に下がる可能性もあるので、この場合の注加速度も、注加後のアルカリ剤溶液が、部分的にでも、一時的に7以下に下がらないように、望ましくは8以下にならないように管理することが必要であることはいうまでもない。
【0051】
上記のうち、アルカリ剤溶液の液温を55℃以上とする方法では、反応終了時の液のpHを弱アルカリ性から中性付近として処理することが可能であり、後処理工程における中和用の酸の必要量が少なくて済むというメリットがある、一方、アルカリ剤溶液のpHを11.5以上に維持する方法では、溶液を加熱するための特別な熱源や装置を必要とせず、その分、装置構造や運転管理が簡易になるというメリットがある。
【0052】
前記したように、本発明方法では、アルカリ剤溶液中に少量ずつ断続的あるいは連続的に混合液を加えてゆくことが必要であるが、この混合液の注加方法としては、例えば、アルカリ剤が入れられた反応槽に混合液を滴下する方法や、配管を通して混合液を液中に注入する方法等の方法が適用可能である。
【0053】
上記のうち、反応槽へ滴下する方法では、供給状況を目視で確認でき、供給状況が不調の際に対応しやすいメリットがある。一方、配管を通して液中に供給する方法では、液表面から供給する場合に比べて良好に混合できる位置に供給できるメリットがある。混合槽が反応槽に比べて十分に小さい場合には、混合槽1回分ごとを分注することで、簡単な設備で行うことができる。なお、配管を通して液中に注入する方法では、銅含有廃液と過酸化水素溶液とを合流させて作成した混合液を連続して添加する方法が好適に使用できる。
【0054】
なお、上記処理に用いられる過酸化水素の濃度は特に限定されないが、例えば、濃度30%のものを直接使用することが出来る。同様に、アルカリ剤溶液の濃度も特に限定されないが、例えば、濃度25%の水酸化ナトリウム溶液を直接使用することが出来る。
【0055】
以上説明した本発明技術によれば、銅含有酸性廃液の処理により、酸化銅を主成分とする固形物が得られる。そして、この固形物は嵩密度が高く沈降性が良いため、固液分離が極めて容易であり、脱水性も良好な性状のものである。しかしながら、反応完了時において、このものは、本来有していた酸と処理に使用されたアルカリから生じる高濃度の塩類を含んでいる。そこで、再利用を目的とした固形物の回収に際しては、水洗を複数回繰り返すことでこれらの塩類を洗い流し、回収物の純度を上げる対応が有効である。
【0056】
この場合の固液分離方法としては、公知の固液分離手段、例えば、ろ過分離、遠心分離、沈降分離等が適用可能である。
【0057】
また、塩類を洗い流すための洗浄水としては、塩類含有量が少ない清澄な水、例えば水道水や工業用水などを用いても良いが、これに代えて、処理された液を固液分離して得られた分離液、固形物を水洗で洗い流した洗浄排水、及び/又は固液分離して得られた分離液などを脱塩処理して得られた処理水を再利用することも有効である。なお、この場合の方法としては例えば、膜ろ過法や減圧蒸留法、電気透析法等が適用可能である。
【0058】
次に、図面を参照して、本発明方法を実施するために使用する回収装置について説明する。
【0059】
図1は、管理条件(1)および(2)を守りつつ、塩素含量の少ない銅を回収するための装置の一態様を示す系統図である。図中、1は銅回収装置、2は反応槽、3は固液分離装置、4は酸性銅廃液配管、5は酸化剤供給配管、6は混合配管、7は流量調節器、8はアルカリ供給配管、9はpHメーター、10は攪拌機、11は移送ポンプ、13は洗浄水供給配管、14はアルカリ溶液の加熱装置をそれぞれ示す。
【0060】
図1に示す銅回収装置1は、攪拌機10、pHメーター9および加熱装置14を備えた反応槽2と、これに移送ポンプ11を介して連通される固液分離装置3を有する。そして、反応槽2の上部には、酸性銅廃液配管4と、酸化剤供給配管5が一緒になった混合配管6が設けられ、酸性銅廃液と酸化剤の混合液が反応槽2中に注加可能となっている。注加される酸性銅廃液と酸化剤の量は、それぞれ酸性銅廃液配管4と、酸化剤供給配管5に設けられた流量調節器7aおよび7bにより調整され、適切な割合の混合液が混合配管6で生成されるようになっている。
【0061】
反応槽2には、アルカリ供給配管8からアルカリ剤溶液が供給される。そして、加熱装置14により、アルカリ溶液が55℃以上を維持するよう加熱され、攪拌機10により撹拌されているアルカリ剤溶液中に、前記混合配管6から酸性銅廃液と酸化剤の混合液が注入される。その際のpH変化は、pHメーター9で測定され、その測定値は制御装置(図示せず)で管理されており、流量調節器7aないし7cを開閉することにより、pHが、一時的にでも7以下にならないよう制御される。
【0062】
この反応槽2中において、酸化銅を主体とする固形物が生成し、アルカリ剤溶液はアルカリ性懸濁液となるが、この懸濁液は、移送ポンプ11を介して固液分離装置3に移され、ここにおいて、固形物と分離水に分けられる。そして更に、洗浄水供給配管13から供給される洗浄水により洗浄され、再利用に供される。
【0063】
図2に示す系統図は、連続処理を可能とする図1とは別の態様の銅の回収装置を示す図面である。図中、1から13は図1と同じものを示し、12はオーバーフロー、15は混合槽、16は混合槽用攪拌機をそれぞれ示す。
【0064】
本発明方法は、基本的に反応槽2のアルカリ剤溶液中に、連続または断続的に混合液を注加し、撹拌して酸化銅を主成分とする固形物を生成させることになるが、この際、アルカリ性が高い方が、塩素含量の少ない固形物を得るために有利になるので、アルカリ供給配管8からアルカリ剤が供給されることになる。しかしながら、混合液の注加およびアルカリ剤の供給を続けていくと、反応で生成する固形物を懸濁したアルカリ性懸濁液の容量が増大してしまう。従って、本発明方法により、酸性銅廃液を連続処理するためには、増大したアルカリ性懸濁液の一部を連続的あるいは断続的に反応槽2から取り出し、固液分離装置3で固液分離処理を行うことが必要になる。
【0065】
図2でのオーバーフロー12は、アルカリ性懸濁液の一部を連続的に取り出す手段であって、混合液の注加およびアルカリ剤の供給による増大に見合う容量のものを固液分離装置3に送り出す働きをするものである。
【0066】
また、図1の装置では、酸性銅廃液配管4と、酸化剤供給配管5が直接一緒となり、混合配管6となっていたが、図2の装置では、酸性銅廃液配管4と、酸化剤供給配管5はそれぞれ混合槽の上部に設けられており、この混合槽15中で、混合槽用攪拌機16により十分に混合されてから、混合液配管6を通って反応槽2に注加される。
【0067】
上記混合槽15は、酸化剤の酸化力が長く保持できないという理由から、処理すべき酸性銅廃液とこれに加えられる酸化剤を一度に収容できる容量である必要はなく、分割して処理される酸性銅廃液とこれに加えられる酸化剤を収容できる容量であれば良い。
【0068】
図2の装置の利用に当たっては、分割して処理される酸性銅廃液とこれに加えられる酸化剤を、それぞれ酸性銅廃液配管4と、酸化剤供給配管5に設けられた流量調節器7aおよび7bにより調整しつつ混合槽15に加え、これを混合した後、反応槽2に設けられたpHメーター9でアルカリ剤溶液中のpHが、望ましくは11.5を下回らないように管理されつつ、混合配管から少量づつ注加される。
【0069】
この装置においても、アルカリ剤溶液が、加熱装置14により、55℃以上に加熱され、アルカリ剤溶液中のpH変化が、pHメーター9で測定され、pHが、一時的にでも7以下にならないよう制御されることは、図1の装置と同一である。
【0070】
図3は、脱塩装置を取り付けた本発明の銅の回収装置の一態様を示す図面である。この装置は、基本的に図1の装置と類似するが、固液分離装置の後に、濃縮脱水ユニット17、脱塩装置18および脱塩処理水配管19を有する点で相違する。
【0071】
この装置では、固液分離装置3において、分けられた分離水は脱塩装置18において脱塩処理された後、脱塩処理水配管19を通じて、再度固液分離装置3の洗浄水として使用される。一方、固液分離装置3で洗浄・分離された固形物は、濃縮脱水ユニット17に移されて、さらに濃縮脱水される。ここで濃縮脱水された固形物は銅資源として回収再利用され、一方ここで得られた分離水は、前記分離水と同様、脱塩装置18において脱塩処理された後、脱塩処理水配管19を通じ、再度固液分離装置3の洗浄水として使用される。
【0072】
本発明装置において、洗浄用水としては、一般的に塩類含有量が少ない清澄な水、例えば工業用水などを用いるが、図3の装置では、これに代えて、あるいはその一部として反応で得られた分離水や、洗浄排水及び濃縮脱水ユニットからの脱水ろ液を脱塩装置で処理して得られた脱塩処理水を用いることができるので、後段の廃水処理を考慮した場合に有効である。
【実施例】
【0073】
次に実施例および参考例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されるものではない。
【0074】
参 考 例 1
(1)銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液(pH=−1.2、銅イオン濃度=120g/L、塩化物イオン濃度=220g/L;以下、「エッチング廃液」という)、30%過酸化水素溶液および25%水酸化ナトリウム溶液を使用し、これらにより酸化銅を主成分とする固形物を生成、沈殿させる際の、反応溶液(アルカリ性懸濁液)のpHの変化状態および最終的に得られる固形物に含まれる塩素量を調べた。
【0075】
まず、エッチング廃液の酸性度を測定し、これと完全に混合した際に、pH7.2となる25%水酸化ナトリウム溶液(以下、「水酸化ナトリウム溶液」と略称する)の容量を算出した。この結果、エッチング廃液1000mLを中和(pHを7.2)するのに必要な水酸化ナトリウム溶液の容量は、870mLであることが分かった。
【0076】
一方、エッチング廃液の銅イオン濃度を測定し、その銅イオンの含有モル数に対して2倍のモル数となる過酸化水素量を、使用過酸化水素量として算出した。30%過酸化水素溶液(以下、「過酸化水素水」と略称する)を用いた場合の、エッチング廃液1000mlに対する使用過酸化水素量は、380mlであった。
【0077】
実験は、撹拌装置およびpHメーターを備えたビーカーに水酸化ナトリウム溶液870mlを取り、これにエッチング廃液と過酸化水素の混合液を、下記注加方法で注加することにより行った。この際、水酸化ナトリウムの加熱は行わなかった。
【0078】
(2)混合液の注加は、まず、エッチング廃液100mLと、過酸化水素溶液38mL(いずれも、中和時必要量の10分の1量)を分取、混合して60秒間静置した後、これをビーカーの水酸化ナトリウム溶液中に2分間かけて少量づつ注加した。この際、pHメーターにより、注加後の液のpHが一時的にでも7以下にならないように監視した。
【0079】
注加後、撹拌を継続した状態で3分間放置し、更に、先と同じ量のエッチング廃液と過酸化水素溶液を混合して60秒間静置したものを、先の操作と同じくpHを監視しつつ、2分間かけて水酸化ナトリウム溶液中に注加し、更に撹拌を継続した状態で3分間待った。
【0080】
この操作を、エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の添加量が中和時必要量の10分の9量になるまで7回繰り返した。
【0081】
その後、最後の中和時必要量の10分の1量のエッチング廃液と過酸化水素溶液を混合液を60秒間静置し、注加後の液のpHが一時的にでも7以下にならないように監視しつつ、5分間かけて徐々に水酸化ナトリウム溶液中に注加した後、撹拌を更に30分間継続した。
【0082】
上記操作における、エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の注加割合(中和時必要量に対する割合)と、注加後の混合溶液(アルカリ性懸濁液)のpHとの関係を図4に示す。また、注加混合操作中の、溶液の温度は、20ないし55℃の範囲であった。
【0083】
(3)上記(2)の処理操作により、黒色のスラッジを含むアルカリ性懸濁液が得られた。このスラッジの固形物濃は72g/Lであり、その約95%が酸化銅であった。また、アルカリ性懸濁液の、原水液量に対する30分間静置後の汚泥容量(SV30)は58容量%、60分間静置後の汚泥容量(SV60)は40容量%であった。また、静置により得られた上澄液は無色透明で、銅イオンの濃度は1mg/L未満であった。
【0084】
(4)上記処理で得られたスラッジ中の固形物分を遠心分離し、上澄水を排除した。次いで、回収した固形物に対してリスラリー後の固形物濃度が4%となる量の水を添加して30分間撹拌した後、再度遠心分離する水洗操作を5回繰り返した。水洗後の固形物を乾燥して得られた回収物に含有される塩素量を、蛍光X線回折法(蛍光X線測定装置;(株)リガク社製 ZSX PrimsII型、管球;Cu、電流/電圧;50kV/50mA)により分析したところ、420μg/gであった。この塩素量は、水洗を9回繰り返してもほぼ変化はなく、固形物中の塩素分は水洗操作で低減できないことが分かった。
【0085】
実 施 例 1
(1)参考例1で用いたのと同じエッチング廃液(pH=−1.2、銅イオン濃度=120g/L、塩化物イオン濃度=220g/L)、30%過酸化水素溶液および25%水酸化ナトリウム溶液を使用し、これらにより酸化銅を主成分とする固形物を生成、沈殿させる際の、反応温度と固形物中の塩素濃度の関係を調べた。
【0086】
参考例1で行った分析および計算の結果から、エッチング廃液1000mLを中和(pH7.2)するのに必要な水酸化ナトリウム溶液の容量は、870mL、エッチング廃液1000mlに対する使用過酸化水素量は、380mlであることがわかっているので、これを基礎に実験を行った。
【0087】
実験は、撹拌装置およびpHメーターを備えたビーカーに水酸化ナトリウム溶液870mlを取り、これを所定の開始温度とした後、これにエッチング廃液と過酸化水素の混合液を、下記注加方法で注加することにより行った。開始温度は、室温(約20℃)、55℃および80℃とした。
【0088】
(2)混合液の注加は、まず、エッチング廃液100mLと、過酸化水素溶液38mL(いずれも、中和時必要量の1/10量)を分取、混合して60秒間静置した後、これをビーカーの水酸化ナトリウム溶液中に2分間かけて少量づつ注加した。この際、pHメーターにより、注加後の液のpHが一時的にでも7以下にならないように監視した。
【0089】
注加後、撹拌を継続した状態で3分間放置し、その後、先と同じ量のエッチング廃液と過酸化水素溶液を混合して60秒間静置したものを、先の操作と同じくpHを監視しつつ、2分間かけて水酸化ナトリウム溶液中に注加し、更に撹拌を継続した状態で3分間待った。
【0090】
この操作を、更に3回繰り返した後(エッチング廃液の添加量は、500ml、過酸化水素水の添加量は、190ml)、撹拌を更に30分間継続した。
【0091】
(3)上記処理後のアルカリ性懸濁液中の固形物分を遠心分離し、上澄水を排除した。次いで、回収した固形物に対し、リスラリー後の固形物濃度が4%となる量の水を添加して30分間撹拌した後、再度遠心分離する水洗操作を5回繰り返した。水洗後の固形物を乾燥して得られた回収物に含有される塩素量を、蛍光X線回折法蛍光X線測定装置;(株)リガク社製 ZSX PrimsII型、管球;Cu、電流/電圧;50kV/50mAにより分析した。この結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
この結果より、反応中の温度が高いほど、固形物中の塩素濃度が低いことが示された。また、加熱しない場合(試験1)でも固形物中の塩素含有量が少ないが、これは反応時のpHが高アルカリであったためと判断される(最終的に、中和必要量の10分の5量しか加えていないため、pHは、12以上であったと判断される)。
【0094】
実 施 例 2
(1)参考例1で使用したのと同じエッチング廃液、過酸化水素溶液および水酸化ナトリウム溶液を使用し、水酸化ナトリウム溶液に対するエッチング廃液と過酸化水素の混合液の注加量を代えることで、反応中のpHが固形物中に含まれる塩素量に与える影響を調べた。
【0095】
参考例1で行った分析および計算の結果から、エッチング廃液1000mLを中和(pH7.2)するのに必要な水酸化ナトリウム溶液の容量は、870mL、エッチング廃液1000mlに対する使用過酸化水素量は、380mlであることがわかっているので、これを基礎に実験を行った。
【0096】
実験は、撹拌装置およびpHメーターを備えたビーカーに水酸化ナトリウム溶液870mlを取り、これにエッチング廃液と過酸化水素の混合液を、下記注加方法で注加することにより行った。この際、水酸化ナトリウムの加熱は行わなかった。
【0097】
(2)混合液の注加は、まず、エッチング廃液100mLと、過酸化水素溶液38mL(いずれも、中和時必要量の10分の1量)を分取、混合して60秒間静置した後、これをビーカーの水酸化ナトリウム溶液中に2分間かけて少量づつ注加した。この際、pHメーターにより、注加後の液のpHが一時的にでも7以下にならないように監視した。
【0098】
注加後、撹拌を継続した状態で3分間放置し、その後、先と同じ量のエッチング廃液と過酸化水素溶液を混合して60秒間静置したものを、先の操作と同じくpHを監視しつつ、2分間かけて水酸化ナトリウム溶液中に注加し、更に撹拌を継続した状態で3分間待った。
【0099】
この操作を、エッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の総添加量が中和時必要量の10分の5量となるまで繰り返し行い、撹拌を更に30分間継続した。
【0100】
(3)上記処理後のアルカリ性懸濁液中の固形物分を遠心分離し、上澄水を排除した。次いで、回収した固形物に対し、リスラリー後の固形物濃度が4%となる量の水を添加して30分間撹拌した後、再度遠心分離する水洗操作を5回繰り返した。
【0101】
(4)上記(1)ないし(3)の操作を、(2)のエッチング廃液と過酸化水素溶液の混合液の総添加量を、中和時必要量の10分の7量、10分の8量、10分の8.5量、10分の9量および10分10量のとする以外は同一条件で繰り返し、それぞれ固形分を得た。
【0102】
(5)固形物を乾燥して得られた回収物に含有される塩素量を、蛍光X線回折法蛍光X線測定装置;(株)リガク社製 ZSX PrimsII型、管球;Cu、電流/電圧;50kV/50mAにより分析した結果を、表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
この結果、得られた固形物に残留する塩素分は、混合液の水酸化ナトリウム溶液に対する添加率が少ない方が、即ち反応終了時のpHが高い方が少ないという傾向が確認された。

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明によれば、銅を高濃度で含有する酸性廃液、特に銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液などの塩化物イオンの含有率が高い廃液中の銅を、塩素含有量の少ない酸化銅を主体とする固形物として経済的で効率良く除去回収することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の銅の回収装置の一態様を示す図面である。
【図2】本発明の銅の回収装置の別の態様を示す図面である。
【図3】脱塩装置を取り付けた本発明の銅の回収装置の一態様を示す図面である。
【図4】水酸化ナトリウム溶液への、エッチング廃液と過酸化水素の混合液の注加割合と、注加後のアルカリ性懸濁液のpHとの関係を示す図面である。
【符号の説明】
【0107】
1 … … 銅回収装置
2 … … 反応槽
3 … … 固液分離装置
4 … … 酸性銅廃液配管
5 … … 酸化剤供給配管
6 … … 混合配管
7 … … 流量調節器
8 … … アルカリ供給配管
9 … … pHメーター
10 … … 攪拌機
11 … … 移送ポンプ
12 … … オーバーフロー
13 … … 洗浄水供給配管
14 … … 加熱装置
15 … … 混合槽
16 … … 混合槽用撹拌機
17 … … 濃縮脱水ユニット
18 … … 脱塩装置
19 … … 脱塩処理水配管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の管理条件(1)および(2)
(1)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを一時的にでも7以下にしない
(2)混合液注加後のアルカリ剤溶液の温度を55℃以上とする
を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項2】
銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液が、銅含有酸性廃液の供給ラインと酸化剤供給ラインとを合流させて生成させたものである請求項1に記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項3】
銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液は、混合槽で銅含有酸性廃液と酸化剤を混合して生成させたものである請求項1又は2に記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項4】
酸化剤として過酸化水素を用いる請求項1ないし3のいずれかに記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項5】
銅含有酸性廃液が、塩化物イオンの含有率が高い廃液である請求項1ないし4のいずれかに記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項6】
銅含有酸性廃液が、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液である請求項1ないし5のいずれかに記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項7】
生成する固形物が酸化銅を主成分とする固形物である請求項1ないし6のいずれかに記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項8】
次の管理条件(1)および(2)
(1)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを一時的にでも7以下にしない
(2)混合液注加後のアルカリ剤溶液の温度を55℃以上とする
を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項9】
銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液が、銅含有酸性廃液の供給ラインと酸化剤供給ラインとを合流させて生成させたものである請求項8に記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項10】
銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液は、混合槽で銅含有酸性廃液と酸化剤を混合して生成させたものである請求項8又は9に記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項11】
酸化剤として過酸化水素を用いる請求項8ないし10のいずれかに記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項12】
銅含有酸性廃液が、塩化物イオンの含有率が高い廃液である請求項8ないし11のいずれかに記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項13】
銅含有酸性廃液が、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液である請求項8ないし12のいずれかに記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項14】
生成する固形物が酸化銅を主成分とする固形物である請求項8ないし13のいずれかに記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項15】
次の管理条件(3)
(3)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを11.5以上の強アルカリに維持する
を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項16】
銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液が、銅含有酸性廃液の供給ラインと酸化剤供給ラインとを合流させて生成させたものである請求項15に記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項17】
銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液は、混合槽で銅含有酸性廃液と酸化剤を混合して生成させたものである請求項15又は16に記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項18】
酸化剤として過酸化水素を用いる請求項15ないし17のいずれかに記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項19】
銅含有酸性廃液が、塩化物イオンの含有率が高い廃液である請求項15ないし18のいずれかに記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項20】
銅含有酸性廃液が、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液である請求項15ないし19のいずれかに記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項21】
生成する固形物が酸化銅を主成分とする固形物である請求項15ないし20のいずれかに記載の銅含有酸性廃液からの塩素含有量が低減された銅含有固形物の回収方法。
【請求項22】
次の管理条件(3)
(3)混合液注加後のアルカリ剤溶液のpHを11.5以上の強アルカリに維持する
を守りつつ、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液をアルカリ剤溶液に注加し、生成する固形物を取得することを特徴とする塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項23】
銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液が、銅含有酸性廃液の供給ラインと酸化剤供給ラインとを合流させて生成させたものである請求項22に記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項24】
銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液は、混合槽で銅含有酸性廃液と酸化剤を混合して生成させたものである請求項22又は23に記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項25】
酸化剤として過酸化水素を用いる請求項22ないし24のいずれかに記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項26】
銅含有酸性廃液が、塩化物イオンの含有率が高い廃液である請求項22ないし25のいずれかに記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項27】
銅含有酸性廃液が、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液である請求項22ないし26のいずれかに記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項28】
生成する固形物が酸化銅を主成分とする固形物である請求項22ないし27のいずれかに記載の塩素含有量の低い銅含有固形物の製造方法。
【請求項29】
加熱手段およびpH測定手段を備えた、銅含有酸性廃液と酸化剤との混合液とアルカリ剤溶液とを反応させて固形物として析出させる反応槽と、前記固形物を分離回収する固液分離装置と、酸化剤配管および銅含有酸性廃液配管とが途中で合流された混合液配管とを含み、前記混合液配管は、反応槽に混合液を注加可能に設けられ、反応槽と固液分離装置とは固形物を含む懸濁液を移送可能に連通されていることを特徴とする銅含有酸性廃液からの銅含有固形物の回収装置。
【請求項30】
銅含有酸性廃液と酸化剤溶液とを混合する混合槽と、加熱手段およびpH測定手段を備えた、混合物とアルカリ剤溶液を反応させて固形物として析出させる反応槽と、前記固形物を分離回収する固液分離装置と、前記混合槽から反応槽に混合液を注加する手段とを含み、前記反応槽と前記固液分離装置とは固形物を含む懸濁液を移送可能に連通されていることを特徴とする、銅含有酸性廃液からの銅含有固形物の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−47799(P2010−47799A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212646(P2008−212646)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(591030651)荏原エンジニアリングサービス株式会社 (94)
【Fターム(参考)】