説明

銅微粉の製造方法

【課題】制御された粒形あるいは粒度の金属銅粒子、特により微細な銅微粉を迅速に効率良く、かつ安定して製造できる銅微粉の製造方法を提供する。
【解決手段】亜酸化銅の不均化反応による銅微粉の製造に際し、アラビアゴム、ゼラチン、にかわ、デンプン、デキストリンなどの天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤を含む水性媒体中で、酸による不均化反応を行う際に、不均化反応開始温度を10°C以下とし、さらに酸の添加を180分以内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制御された粒形あるいは粒度の金属銅粒子、特により微細な銅微粉を迅速に効率良く、かつ安定して製造できる銅微粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅粉の製造方法には、古くから電解法およびアトマイズ法がある。これらの方法によって製造された銅粉は含油軸受、電刷子などの粉末冶金用用途には良いが、近年需要増大が見込まれている塗料、ぺースト、樹脂などの導電フィラー用には、より微粒子で粒度粒形の制御されたものが望まれている。
これらの用途に適合するより微細な金属銅粒子の製造方法としては、
(1) 銅塩水溶液の水素加圧還元法
(2) 銅塩水溶液の化学薬品添加還元法
(3) 有機銅塩の熱分解法
などがあるが、設備費および運転費が高価である問題があり、また所定の粒形粒度に制御するには、歩留りがわるく、表面酸化を起こしやすい、あるいは薬品代が高価であるなどの欠点があって、満足すべき方法はない。
【0003】
このようなことから、亜酸化銅粒子と酸を反応させる方法が、生成する金属銅粒子の粒形と粒度を好適に制御することができ、またpH、温度、平均滞留時間などの反応条件を管理することによって、所定の粒形粒度を調整し、高純度の金属銅微粒子を製造することができることが分った。
また、反応条件を選ぶことによって鎖状などの凝集連結粉を得ることもできるようになった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献は、昭和60年に公開されたもので、当時の銅粉製造技術としては最も高いレベルの技術であった。
この技術の内容は、1)亜酸化銅粒子と酸を反応させることによって銅塩水溶液と金属銅粒子を生成させ、固液分離することによって金属銅粒子を回収する方法において反応槽に希酸溶液を生産すべき金属銅粒子の目標粒度に対応する所定の平均滞留時間を得るような流量で連続的に流入させつつ、亜酸化銅粒子を反応槽のpHを所定の値に維持するような添加速度で添加し、液温50℃以下において反応させ、生成する金属銅粒子スラリーを前記溶液流入量に応じた速度で排出させ、こうして排出された金属銅粒子スラリーから固液分離手段を経て金属銅粒子を回収することにより、制御された粒度の金属銅粒子を製造することを特徴とする金属銅粒子の製造方法、2)亜酸化銅粒子と酸を反応させることによって銅塩水溶液と金属銅粒子を生成させ、固液分離することによって金属銅粒子を回収する方法において所定の粒子形状および粒度を得るべき液温を維持しつつ反応を行わせることを特徴とする金属銅粒子の製造方法というものである。
しかし、最近ではこのような銅粉を、より微粉化しかつ均一化を図ることが要請され、また迅速な製造技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−33304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、制御された粒形あるいは粒度の金属銅粒子、特により微細な銅微粉を迅速に効率良く、かつ安定して製造できる銅微粉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、1)亜酸化銅の不均化反応による銅微粉の製造に際し、天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤を含む水性媒体中で、酸による不均化反応を行うことを特徴とする銅微粉の製造方法、2)亜酸化銅を、天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤を含む水性媒体中で、酸による不均化反応を行って銅微粉を製造する際に、不均化反応開始温度を10°C以下とすることを特徴とする銅微粉の製造方法、3)亜酸化銅の酸による不均化反応を行って銅微粉を製造する際に、該不均化反応の酸の添加を180分以内とすることを特徴とする銅微粉の製造方法、4)亜酸化銅を、天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤を含む水性媒体中で、酸による不均化反応を行って銅微粉を製造する際に、不均化反応の酸の添加を180分以内とすることを特徴とする1又は2記載の銅微粉の製造方法、5)添加剤が、天然ゴム類又はゼラチン類であることを特徴とする1、2、4のいずれかに記載の銅微粉の製造方法、6)添加剤が、松脂、ゼラチン、にかわ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、デキストリン、アラビアゴム、カゼインであることを特徴とする1、2、4のいずれかに記載の銅微粉の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の銅微粉の製造方法は、粒形あるいは粒度を任意に制御でき、より微細な銅微粉を迅速に効率良く、かつ安定して製造できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
亜酸化銅粒子は、銅塩水溶液から塩化第一銅を経由するなどの公知の方法で製造されたもので良い。すなわち、用いる亜酸化銅粒子の粒度と本発明の方法によって得られる金属銅粒子の粒度の間には直接的な関係がないので、粗粒の亜酸化銅粒子を用いることもできる。
酸は、通常硫酸を使用するが、硝酸、りん酸、酢酸を用いることもできる。特に酸の種類を特定する必要はない。硫酸を使用した場合、不均化反応は次の反応式により、硫酸銅水溶液と金属銅粒子が生成する。
CuO+HSO=Cu↓+CuSO+H
【0010】
亜酸化銅に対する酸の添加比率を大きくすれば反応系のpHが低くなり、逆の場合にはpHが高くなるので、酸又は亜酸化銅の添加比率により、pHを制御することができる。
反応中に不純物沈殿が生成するのを避け、また、亜酸化銅が残留せず反応を迅速に進行させるためにはpHを2.5以下に、望ましくは1.0付近に維持する。
このような、亜酸化銅の不均化反応による銅微粉の製造に際し、天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤(保護コロイド)を含む水性媒体中で、酸による不均化反応を行う。これが本発明の大きな特徴の一つである。
この添加剤(保護コロイド)は、粒子成長を抑制する働きがあり、また粒子同志の接触頻度を低減する作用を行う。したがって、微細粒子の製造に有効である。
【0011】
前記添加剤としては、特に天然ゴム類又はゼラチン類が有効である。さらに具体的には、添加剤として、松脂、ゼラチン、にかわ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、デキストリン、アラビアゴム、カゼインを使用することができる。
特に、アラビアゴムを使用した場合は、平均粒径を1μm程度の微粉化が可能であり、凝集抑制効果を有する。また、にかわ、ゼラチンは、やや凝集の問題はあるが、平均粒径0.5μm以下の微粉化が可能である。
【0012】
反応中の液温は、金属銅微粒子を製造する場合には、50°C以下、好ましくは25〜30°Cとする。液温が50°Cを超える場合、金属銅微粒子同志が凝集連結する傾向があるからである。
特に、微細化を図るためには、不均化反応開始温度を10°C以下とすることが望ましい。この反応温度を低下させることにより、粒子成長を効果的に抑制することができ、より微粉化が可能となる。この10°C以下の温度は、可能ならば反応終了まで持続させると、より効果的である。
反応温度が50°Cを越える温度にすることも可能である。この場合は、金属銅粒子同志が凝集連結する事実に着目し、特殊な粒形のものを得ようとするものである。このように、反応温度により、生成する金属銅粒子の粒形および粒度を制御することができる。本発明は、このような温度コントロールの全てを包含する。
【0013】
また、本発明は、亜酸化銅の酸による不均化反応を行って銅微粉を製造する際に、該不均化反応の酸の添加を180分以内とし、加速させることができる。この酸の添加速度を速めることにより、核発生を粒子成長よりも優勢にし、銅粉をより微細化させる。
但し、急速な酸添加は急激な温度上昇を引き起こすため、適度なバランスを保つ必要がある。このように反応温度の幅が広くなると、粒度分布が広くなり、また凝集が大きくなる懸念がある。
回分式に反応を行わせる場合には、亜酸化銅粒子スラリーに酸を添加してもよく、逆に酸溶液に亜酸化銅粒子あるいは亜酸化銅粒子スラリーを添加しても良い。
いずれの場合も、得られる金属銅粒子は高純度であり、かつ表面活性に富んでいる。従って、固液分離によって得られた金属銅粒子に対しては、適当な防錆処理を施してから乾燥する。
【実施例】
【0014】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0015】
(実施例1)
7リッターの純水にアラビアゴムを8g溶解させ、攪拌しつつ亜酸化銅1000gを添加して懸濁させ、次いで希硫酸2000ccを25cc/分で添加(添加時間80分)し、生成した銅微粉を洗浄防錆処理した後乾燥し、420gの銅微粉を得た。反応中の温度は25〜30°Cに保ち、反応は約80分間で終了した。得られた銅微粉の平均粒径は1.2μmであった。希硫酸の25cc/分で添加は、銅微粉化に効果があることが分かる。
【0016】
(実施例2)
7リッターの純水にアラビアゴムを添加しないこと以外は、実施例1と同一の条件で生成させた。銅微粉の回収量は420gであり、平均粒径は3.0μmであった。希硫酸の25cc/分添加(添加時間80分)は、銅微粉化に効果があるが、添加剤がないので銅粉の平均粒径が比較的大きくなっている。
【0017】
(実施例3)
7リッターの純水にアラビアゴムを8g溶解させ、攪拌しつつ亜酸化銅1000gを添加して懸濁させ、次いで希硫酸2000ccを25cc/分で添加(添加時間80分)し、生成した銅微粉を洗浄防錆処理した後乾燥し、420gの銅微粉を得た。反応中の温度を10°C以下に保った。
反応は約80分間で終了した。得られた銅微粉の平均粒径は1.0μmであった。この場合、反応開始温度を10°C以下に保つことにより、平均粒径の微細化が進んだものと考えられる。
【0018】
(実施例4)
7リッターの純水にアラビアゴムを8g溶解させ、攪拌しつつ亜酸化銅1000gを添加して懸濁させ、次いで希硫酸2000ccを125cc/分で添加(添加時間16分)し、生成した銅微粉を洗浄防錆処理した後乾燥し、420gの銅微粉を得た。反応中の温度を10°C以下に保った。反応は約16分間で終了した。得られた銅微粉の平均粒径は0.8μmであった。
この場合、反応開始温度を10°C以下に保つことにより、平均粒径の微細化が進み、かつ酸の添加速度を急速に進めたことにより、より微細化したものと考えられる。
【0019】
(実施例5)
7リッターの純水にアラビアゴムを8g溶解させ、攪拌しつつ亜酸化銅1000gを添加して懸濁させ、次いで希硫酸2000ccを25cc/分で添加(添加時間80分)し、生成した銅微粉を洗浄防錆処理した後乾燥し、420gの銅微粉を得た。反応中の温度を60°Cに保った。反応は約80分間で終了した。得られた銅微粉の平均粒径は2.0μmであった。
この場合、酸の添加速度が速くかつ添加剤の存在により、微細化したものと考えられるが、反応温度が60°Cであるため、やや大きめの平均粒径になったと考えられる。
【0020】
(実施例6)
7リッターの純水ににかわを8g溶解させ、攪拌しつつ亜酸化銅1000gを添加して懸濁させ、次いで希硫酸2000ccを25cc/分で添加(添加時間80分)し、生成した銅微粉を洗浄防錆処理した後乾燥し、420gの銅微粉を得た。反応中の温度を25〜30°Cに保った。反応は約80分間で終了した。得られた銅微粉の平均粒径は0.5μmであった。
にかわの存在は、銅粉の微細化に極めて有効であることが確認できた。
【0021】
(実施例7)
7リッターの純水にゼラチンを8g溶解させ、攪拌しつつ亜酸化銅1000gを添加して懸濁させ、次いで希硫酸2000ccを25cc/分で添加(添加時間80分)し、生成した銅微粉を洗浄防錆処理した後乾燥し、420gの銅微粉を得た。反応中の温度を25〜30°Cに保った。反応は約80分間で終了した。得られた銅微粉の平均粒径は0.5μmであった。
ゼラチンの存在は、にかわと同様に銅粉の微細化に極めて有効であることが確認できた。
実施例では、アラビアゴム、にかわ、ゼラチンを添加したが、他の天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤でも同様の効果があり、特に天然ゴム類又はゼラチン類が有効である。
以上の実施例1−7及び下記比較例1−2の結果を、表1に示す。
【0022】
(比較例1)
7リッターの純水にエチレングリコールを8g溶解させ、攪拌しつつ亜酸化銅1000gを添加して懸濁させ、次いで希硫酸2000ccを25cc/分で添加し、生成した銅微粉を洗浄防錆処理した後乾燥し、420gの銅微粉を得た。反応中の温度を25〜30°Cに保った。反応は約80分間で終了した。得られた銅微粉の平均粒径は4.0μmであった。
エチレングリコールは銅粉の微粉化には適しておらず、粗大粉末となり添加剤としては不良であった。
【0023】
(比較例2)
7リッターの純水に亜酸化銅1000gを添加して懸濁させ、次いで希硫酸2000ccを8.33cc/分で添加(添加時間240分)し、生成した銅微粉を洗浄防錆処理した後乾燥し、420gの銅微粉を得た。反応中の温度を60°Cに保った。反応は約240分間で終了した。得られた銅微粉の平均粒径は5.0μmであった。
添加剤がなく、酸添加速度が遅く、反応速度が高い条件では、銅粉は最も大きな粗大粉末となった。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によって製造された銅微粉は、粉末の粒径が小さく均一であり、含油軸受や電刷子用の粉末だけでなく、塗料、ペースト、樹脂などの導電性フィラーとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化銅の不均化反応による銅微粉の製造に際し、天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤を含む水性媒体中で、酸による不均化反応を行うことを特徴とする銅微粉の製造方法。
【請求項2】
亜酸化銅を、天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤を含む水性媒体中で、酸による不均化反応を行って銅微粉を製造する際に、不均化反応開始温度を10°C以下とすることを特徴とする銅微粉の製造方法。
【請求項3】
亜酸化銅の酸による不均化反応を行って銅微粉を製造する際に、該不均化反応の酸の添加を180分以内とすることを特徴とする銅微粉の製造方法。
【請求項4】
亜酸化銅を、天然樹脂、多糖類又はその誘導体の添加剤を含む水性媒体中で、酸による不均化反応を行って銅微粉を製造する際に、不均化反応の酸の添加を180分以内とすることを特徴とする請求項1又は2記載の銅微粉の製造方法。
【請求項5】
添加剤が、天然ゴム類又はゼラチン類であることを特徴とする請求項1、2、4のいずれかに記載の銅微粉の製造方法。
【請求項6】
添加剤が、松脂、ゼラチン、にかわ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、デキストリン、アラビアゴム、カゼインであることを特徴とする請求項1、2、4のいずれかに記載の銅微粉の製造方法。


【公開番号】特開2010−222706(P2010−222706A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107952(P2010−107952)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【分割の表示】特願2004−64911(P2004−64911)の分割
【原出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】