銅精鉱の処理方法
【課題】 Cu品位の高い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収する。
【解決手段】 銅精鉱の処理方法は、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱を硫化した後に摩鉱し、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第1分離工程と、Cu品位の高い精鉱およびFe品位の高い精鉱のいずれか一方、または両者に対して独立して浮遊選鉱処理を施すことによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第2分離工程と、を含む。
【解決手段】 銅精鉱の処理方法は、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱を硫化した後に摩鉱し、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第1分離工程と、Cu品位の高い精鉱およびFe品位の高い精鉱のいずれか一方、または両者に対して独立して浮遊選鉱処理を施すことによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第2分離工程と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅精鉱の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅鉱山で産出される銅鉱石は、主に硫化鉱である。硫化鉱を大別すると、輝銅鉱(Cu2S)、銅藍(CuS)などの鉱物を主体とした比較的高銅品位の二次硫化鉱と、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする初生硫化鉱とに分けられる。近年、銅鉱山で採取される銅鉱石は、後者主体となっている。その結果、鉄、硫黄などの不純物が増加し、銅品位は低下傾向にある。このことは、鉱山で銅製錬向けに生産する銅精鉱の銅品位の低下、鉄分、硫黄分などの増加などの要因となる。
【0003】
一般に、銅精鉱の製錬を経て、銅は製品電気銅として、鉄分はスラグとして、硫黄分は硫酸として回収される。近年の銅精鉱の低品位化は、銅製錬プロセスにおける製造コストの上昇を招く。さらに国内の銅製錬業においては、銅製錬で生じるスラグおよび硫酸の需給悪化に見舞われ、多くが採算の合わない輸出に向けられており、事業収益を圧迫している。今後さらに銅精鉱の銅品位低下が進めば、これらスラグおよび硫酸の問題が顕著となり、事業存続にも影響を及ぼすと考えられる。
【0004】
これらの問題を解決する一手段として、銅精鉱の予備処理法の応用がある。予備処理法とは、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱粒子を硫黄(S)とともに所定の温度で反応させ、銅藍(CuS)と黄鉄鉱(FeS2)とで構成される精鉱粒子に硫化変換する処理のことである。この硫化変換反応は、浸出が困難な黄銅鉱を比較的浸出が容易な形態にするという意味で湿式製錬の前処理法として知られているが、予備処理から湿式製錬までのトータルコストの観点から現状普及していないプロセスである。
【0005】
上記問題を解決する他の手段として、硫黄による硫化変換反応後の銅藍と黄鉄鉱とを選別し、銅藍主体の高銅品位精鉱として乾式製錬に供する方法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、銅藍と黄鉄鉱との選別において、静電的方法、重力的方法、磁気的方法、風力的方法、粒径的方法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱あるいはこれらの組み合わせにより行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/074805号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、銅藍と黄鉄鉱とを選別する具体的な方法については記述されていない。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑み、Cu品位の高い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る銅精鉱の処理方法は、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱を硫化した後に摩鉱し、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第1分離工程と、前記Cu品位の高い精鉱および前記Fe品位の高い精鉱のいずれか一方、または両者に対して独立して浮遊選鉱処理を施すことによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第2分離工程と、を含むことを特徴とするものである。本発明に係る銅精鉱の処理方法においては、Cu品位の高い銅精鉱を効率よくかつ経済的に回収することができる。
【0010】
前記第1分離工程において、前記Cu品位の高い精鉱の50%粒子径を5μm〜15μmとし、前記Fe品位の高い精鉱の50%粒子径を35μm〜55μmとしてもよい。前記浮遊選鉱処理において、捕集剤としてブチルザンセートを用いてもよい。前記浮遊選鉱処理において、浮遊選鉱処理の対象とする精鉱1tに対し、ブチルザンセート添加量を10〜2000gの範囲としてもよい。
【0011】
前記浮遊選鉱処理において、pH調整剤としてCa(OH2)を用いてもよい。前記浮遊選鉱工程に供する精鉱を含む溶液のpHを9〜13の範囲に維持してもよい。前記浮遊選鉱処理において、空気供給式浮選機、空気吸込式浮選機、機械攪拌式浮選機、あるいはこれらを組み合わせて用いてもよい。前記浮遊選鉱処理において、気泡剤としてメチルイソブチルカルビノールまたはパイン油を用いてもよい。
【0012】
前記硫化した精鉱を摩鉱する際に、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いてもよい。前記選別工程において、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらを組み合わせて用いてもよい。前記第2分離工程において得られた前記Fe品位の高い精鉱に対して、再度浮遊選鉱処理を施してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Cu品位の高い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。
【図2】EPMAで同定した銅藍および黄鉄鉱のマッピングにより得られた硫化精鉱粒子である。
【図3】変形形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。
【図4】硫化変換工程後の精鉱粒子のXRD解析結果である。
【図5】硫化変換工程後の精鉱粒子を摩鉱した摩鉱精鉱の粒度分布測定結果である。
【図6】選別尾鉱のXRD解析結果である。
【図7】選別尾鉱の粒度分布測定結果である。
【図8】選別精鉱のXRD解析結果である。
【図9】選別精鉱の粒度分布測定結果である。
【図10】浮選精鉱1の粒度分布を示す図である。
【図11】浮選尾鉱の粒度分布を示す図である。
【図12】再摩鉱工程後の選別精鉱の粒度分布を示す図である。
【図13】再摩鉱工程後の選別尾鉱の粒度分布を示す図である。
【図14】比較例1に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【図15】比較例2に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0016】
(実施形態)
本実施形態は、硫化変換した銅精鉱粒子を摩鉱し、選別処理および浮遊選鉱処理を施すことによってCu品位の高い銅藍主体の銅精鉱を回収することによって、銅精鉱に含まれる鉄量・硫黄量を低減し、銅製錬プロセスのコスト低減、スラグ・硫酸の発生量減少による事業採算の改善などを可能とするプロセスを供するものである。
【0017】
本実施形態に係る対象処理物は、銅精鉱である。特には、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱である。黄銅鉱主体の銅精鉱は、銅を25mass%から40mass%、鉄を20mass%から35mass%含有する。このような黄銅鉱は、鉄を多く含むため、製錬工程において、多量のスラグ発生をもたらす。
【0018】
図1は、本実施形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。図1を参照して、まず、銅精鉱に対して、硫化変換工程を実施する。例えば、銅精鉱中の銅(Cu)に対して、硫黄(S)を1.0から1.2のモル比で添加する。硫黄は、一例として、単体硫黄の状態で添加し、よく混合する。混合した処理物に対して、不活性雰囲気において、所定の温度および所定の時間で熱処理を施す。この熱処理は、例えば、ロータリキルンなどを用いて行うことができる。例えば、不活性雰囲気として、窒素ガスを用いることができる。また、熱処理時間を30分〜60分とすることが好ましい。未反応黄銅鉱の残存量を低下させることができるからである。
【0019】
硫化変換工程における熱処理温度は、385℃〜450℃であることが好ましい。例えば385℃未満の330℃または350℃で硫化変換工程を実施した場合、硫化変換工程前の銅精鉱に含まれる主化合物である黄銅鉱(CuFeS2)の残存量が多くなるおそれがある。また、450℃を上回る温度で処理した場合、銅藍の状態が不安定となり、Bornite(Cu5FeS4)、Nukundamite((Cu,Fe)4S4)などが生成することによって、CuとFeとの分離が困難となるおそれがある。したがって、熱処理温度は、385℃〜450℃であることが好ましい。
【0020】
上記熱処理の結果、銅藍と黄鉄鉱とで構成される硫化精鉱粒子が得られる。この硫化精鉱粒子は、内殻として黄鉄鉱が存在し、黄鉄鉱を銅藍が外殻として覆って構成されている。図2は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で同定した銅藍および黄鉄鉱のマッピングにより得られた硫化精鉱粒子である。図2を参照して、淡灰色の黄鉄鉱を濃灰色の銅藍が覆っている。このような硫化精鉱粒子から銅藍を主体に回収するためには、各硫化精鉱粒子を銅藍と黄鉄鉱とに単体分離することが必要である。
【0021】
そこで、再度図1を参照して、硫化変換工程を経た硫化精鉱粒子に対して摩鉱工程を施す。なお、銅藍と黄鉄鉱とを比重差および粒子径差に基づいて選別するためには、外殻の銅藍を剥ぎ取りつつも内殻の黄鉄鉱を破壊しないように残存させることが望まれる。過度な摩鉱は黄鉄鉱を微細化してしまうことから、摩鉱条件には最適範囲が存在する。
【0022】
外殻の銅藍を剥ぎ取りつつも内殻の黄鉄鉱を破壊しないように残存させることができる摩鉱条件においては、銅藍は2μm〜20μm程度の粒子径で剥ぎ取られ、内殻の黄鉄鉱の粒子径は30μm〜70μm程度となる。本発明者らが鋭意試験・調査した結果、上記粒子径範囲を実現するためには、外郭に存在する銅藍を摩鉱により分離しテーブル選別機で選別するのに適した粒子径は、50%粒子径で30μm〜50μmであることがわかった。
【0023】
摩鉱工程において、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いることができる。粉砕装置として、例えば、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、チューブミル等を用いることができる。50%粒子径30μm〜50μm程度に粉砕できるものであれば、種類は問わない。ただし、外殻に存在する銅藍を削り取り、内部に存在する黄鉄鉱を粗大な状態で温存することができる粉砕装置が好ましい。
【0024】
次に、摩鉱工程で得られる精鉱粒子に対して、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理を実施する(第1分離工程)。粒子径差と比重差とに基づいた選別を行うことによって、精鉱粒子がCu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する。第1分離工程においては、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらの組み合わせを用いることができる。テーブル選別機は、機械的に簡易な構造を有しかつ低摩耗性を有する装置であることから、メンテナンス、運転コストなどの点で他の選別機と比べて有利であり、良好な選別成績を容易に得ることができる。したがって、テーブル選別機を用いることが好ましい。
【0025】
硫化変換工程で得られる硫化精鉱粒子において黄鉄鉱粒子を銅藍が覆っていることから、摩鉱工程において得られる銅藍の粒子径は比較的小さく、黄鉄鉱の粒子径は比較的大きくなる。また、銅藍の比重は比較的小さく、黄鉄鉱の比重は比較的大きい。したがって、選別機を用いた選別工程を介して細粒と粗粒とに分離することによって、Cu品位の高い細粒(銅藍比率が高くFe品位の低い粒子)とFe品位の高い粗粒(黄鉄鉱比率の高い粒子)とに分離することができる。例えば、分離回収されるCu品位の高い細粒の50%粒子径は5μm〜15μmであることが好ましく、Fe品位の高い粗粒の50%粒子径は35μm〜55μmであることが好ましい。
【0026】
次に、第1分離工程で得られるCu品位の高い細粒を選別精鉱として回収し、選別精鉱に対して浮遊選鉱処理を実施する(第2分離工程)。一方、第1分離工程で得られるFe品位の高い粗粒を選別尾鉱として回収し、選別尾鉱に対して浮遊選鉱処理を実施する(第2分離工程)。選別精鉱に対する浮遊選鉱処理および選別尾鉱に対する浮遊選鉱処理は、独立して実施される。
【0027】
浮遊選鉱処理における捕集剤は、銅藍および黄鉄鉱のいずれか一方を優先的に捕集するものであれば、特に限定されるものではない。本実施形態においては、捕集剤として、銅藍を優先的に捕集するものを用いる。銅藍を優先的に捕集する捕集剤の一例として、ブチルザンセート(BX:BUTYL XANTHATE)を用いることができる。ブチルザンセートの添加量は、特に限定されるものではないが、浮遊選鉱処理の対象となる精鉱1tに対して10g〜2000gであることが好ましい。
【0028】
浮遊選鉱処理におけるpH調整剤は、特に限定されるものではない。pH調整剤の一例として、Ca(OH)2を用いることができる。浮遊選鉱処理の対象となる精鉱を含む溶液のpHは、特に限定されるものではないが、9〜13であることが好ましい。したがって、pH調整剤の添加量は、浮遊選鉱処理に供する溶液のpHを9〜13に維持するように決定されることが好ましい。
【0029】
浮遊選鉱処理における気泡剤は、特に限定されるものではない。気泡剤の一例として、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、パイン油などを用いることができる。浮遊選鉱処理の条件は、選別精鉱のCu品位、浮遊選鉱処理におけるCu回収率、処理コストなどに応じて、任意に変更可能である。また、Cu品位のさらなる向上を狙う場合は、浮遊選鉱処理を多段にわたって実施すればよい。または一旦浮選精鉱と浮選尾鉱とに分けた後、必要な粒度まで再摩鉱して浮遊選鉱処理を再度実施すればよい。
【0030】
浮遊選鉱処理の実施によって、選別精鉱および選別尾鉱は、浮遊する浮選精鉱と沈降する浮選尾鉱とに分離する。本実施例においては捕集剤によって銅藍が優先的に捕集されるため、浮選精鉱には銅藍が比較的多く含まれ、浮選尾鉱には黄鉄鉱が比較的多く含まれる。すなわち、浮選精鉱にはCu品位の高い精鉱が比較的多く含まれ、浮選尾鉱にはFe品位の高い精鉱が比較的多く含まれる。したがって、選別精鉱に対する浮遊選鉱処理によって得られた浮選精鉱および選別尾鉱に対する浮遊選鉱処理によって得られた浮選精鉱を回収することによって、Cu品位の高い銅精鉱を効率よくかつ経済的に回収することができる。得られた浮選精鉱を銅製錬精鉱として用いることによって、スラグ発生量の少ない銅製錬を行うことができる。浮選尾鉱に対して、再度、摩鉱、選別処理、浮遊選鉱処理などを実施することによって、Cu品位の高い精鉱粒子を回収することができる。
【0031】
なお、本実施形態においては選別精鉱および選別尾鉱の両方に浮遊選鉱処理を実施しているが、それに限られない。例えば、いずれか一方にのみ浮遊選鉱処理を実施してもよい。
【0032】
(変形形態)
図3は、変形形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。図3を参照して、変形形態に係る銅精鉱の処理方法が図1の処理方法と異なる点は、第1分離工程後に、選別精鉱および選別尾鉱に対してそれぞれ摩鉱工程を再実施する点である。このように、浮遊選鉱工程前に、再摩鉱工程を実施してもよい。
【0033】
なお、再摩鉱工程後の選別精鉱および選別尾鉱の50%粒子径は、10μm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、上記実施形態に基づく実施例について説明する。
【0035】
(実施例1)
硫化変換工程において、黄銅鉱主体の銅精鉱(Cu品位=34mass%、Fe品位=24mass%)と単体硫黄とをモル比で銅精鉱中Cu:硫黄=1.0:1.2で混合し、窒素雰囲気中において425℃で60分間熱処理することで黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱とに変換した。図4のXRDによる分析結果の通り、硫化変換工程後に銅藍と黄鉄鉱とが生成していることがわかる。
【0036】
次に、銅藍と黄鉄鉱とに変換した銅精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=21mass%)に対して、湿式ボールミルにより摩鉱し、図5の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。このときのスラリー濃度は30mass%であり、摩鉱時間は30分、50%粒子径は42μmであった。
【0037】
この摩鉱精鉱に対してテーブル選別機により選別処理を施し、Cu品位の高い選別精鉱とFe品位の高い選別尾鉱とに分離した。図6は、選別尾鉱のXRD解析結果である。図7は、選別尾鉱の粒度分布測定結果である。図8は、選別精鉱のXRD解析結果である。図9は、選別精鉱の粒度分布測定結果である。
【0038】
次に、選別尾鉱に対して空気吸い込み式の浮選機を用いて浮遊選鉱処理を実施した。まず、Ca(OH)2を用いてpH12.0に調整した溶液に33.5gの選別尾鉱と、100ppmに相当するBXとを添加し、浮選機内でコンディショニングを開始した。コンディショニングとは添加した薬剤を試料表面に付着させる操作のことを指す。本実施例では、浮選機内で溶液を攪拌した。30分間のコンディショニング終了後、上記溶液に気泡剤のMIBCを20μl(マイクロリットル)添加し、浮選機において空気の吸い込みを開始することによって、浮遊選鉱処理を実施した。空気の吸い込み開始後、気泡に伴って上昇する粒子を回収し浮選精鉱1とした。
【0039】
その後、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して400ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱2とした。浮選機に残った粒子を浮選尾鉱として回収した。
【0040】
表1は、選別尾鉱に対する浮遊選鉱工程の結果を示す。表1におけるBX添加量は、合計のBX添加量を示している。例えば、500ppmのBX添加量は、最初に添加した100ppmのBXと、追加添加した400ppmのBXとの合計である。図10は、浮選精鉱1の粒度分布を示す図である。図11は、浮選尾鉱の粒度分布を示す図である。
【0041】
【表1】
【0042】
選別尾鉱に対しては、100ppmのBX添加量で、Cu品位39.3mass%の浮選精鉱1が得られ、その浮選精鉱1内にCuを65.4mass%回収できた。また、浮選尾鉱のCu品位は6mass%台まで低減され、Fe品位は40mass%台にまで上昇し、CuとFeとが効果的に分離した。なお、BX添加量は、浮遊選鉱処理に供する試料重量に対する、BX添加量の重量%で示してある。例えば、BX100ppmの添加は、試料100グラムに対して0.01グラムのBXを使用したことを意味する。
【0043】
浮選精鉱1は、硫化変換工程後の元精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=21mass%)と比較して、Cu品位が高くFe品位が低くなった。また、硫化変換工程前の元精鉱(Cu品位=34mass%、Fe品位=24mass%)に対して、浮選精鉱1はCu品位が5.3mass%上昇し、Fe品位が6.3mass%低下している。このことから硫化変換工程前の精鉱中には重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているが、浮選精鉱1は重量比でCu:1.00に対してFe:0.45まで低減されており、製錬所でのスラグ発生量の低減が可能となる。また選別尾鉱のCu品位は、6.4mass%で最も低くなった。選別尾鉱のFe品位は、40.2mass%で最も高くなった。
【0044】
次に、選別精鉱に対して空気吸い込み式の浮選機を用いて浮遊選鉱処理を実施した。まず、Ca(OH)2を用いてpH12.1に調整した溶液に35.0gの選別精鉱と、100ppmに相当するBXとを添加し、浮選機内でコンディショニングを開始した。30分間のコンディショニング終了後、上記溶液に気泡剤のMIBCを20μl(マイクロリットル)添加し、浮選機において空気の吸い込みを開始することによって、浮選精鉱処理を実施した。空気の吸い込み開始後、気泡に伴って上昇する粒子を回収し浮選精鉱1とした。
【0045】
その後、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して200ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱2とした。
【0046】
さらに、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して200ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱3とした。浮選機に残った粒子を浮選尾鉱として回収した。表2は、選別精鉱に対する浮遊選鉱工程の結果を示す。
【0047】
【表2】
【0048】
選別精鉱に対しては、100ppmのBX添加量で、46.9mass%の浮選精鉱1が得られ、その浮選精鉱1にCuを34.7mass%回収することができた。また、Cu品位40mass%以上の精鉱(浮選精鉱1+浮選精鉱2)でCu回収率が66.2mass%にまで達し、Cu品位の濃縮がなされた。
【0049】
浮選精鉱1は、硫化変換工程後の元精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=21mass%)と比較して、Cu品位が高くFe品位が低くなった。また、硫化変換工程前の元精鉱(Cu品位=34mass%、Fe品位=24mass%)に対して、浮選精鉱1はCu品位が12.9mass%上昇し、Fe品位が9.9mass%低下している。このことから硫化変換工程前の精鉱中には重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているが、浮選精鉱1は重量比でCu:1.00に対してFe:0.30まで低減されており、製錬所でのスラグ発生量の低減が可能となる。
【0050】
なお、実施例1においては、全ての浮選精鉱と全ての浮選尾鉱とにグループ分けした場合、全ての浮選精鉱のCu品位は40.8mass%となり、硫化変換工程前の元精鉱に対するCu回収率は81.5mass%となった。
【0051】
(実施例2)
実施例2においては、図3の変形形態に係る処理方法を用いた。硫化変換工程、摩鉱工程および選別工程は、実施例1と同様である。その後、選別精鉱および選別尾鉱に対して、それぞれ再摩鉱工程を実施した。図12は、再摩鉱工程後の選別精鉱の粒度分布を示す図である。図13は、再摩鉱工程後の選別尾鉱の粒度分布を示す図である。再摩鉱工程後の選別精鉱の50%粒子径は、2.8μmとなった。再摩鉱工程後の選別尾鉱の50%粒子径は、4.0μmとなった。
【0052】
次に、再摩鉱工程後の選別尾鉱に対して空気吸い込み式の浮選機を用いて浮遊選鉱処理を実施した。まず、Ca(OH)2を用いてpH12.0に調整した溶液に35.0gの選別尾鉱と、100ppmに相当するBXとを添加し、浮選機内でコンディショニングを開始した。30分間のコンディショニング終了後、上記溶液に気泡剤のMIBCを20μl(マイクロリットル)添加し、浮選機において空気の吸い込みを開始することによって、浮選精鉱処理を実施した。空気の吸い込み開始後、気泡に伴って上昇する粒子を回収し浮選精鉱1とした。
【0053】
その後、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して400ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱2とした。さらに、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して500ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱3とした。浮選機に残った粒子を浮選尾鉱として回収した。表3は、選別尾鉱に対する浮遊選鉱処理の結果を示す。
【0054】
【表3】
【0055】
選別尾鉱に対しては、100ppmのBX添加量で、35.2mass%Cu品位まで濃縮することができた。
【0056】
次に、再摩鉱工程後の選別精鉱に対して空気吸い込み式の浮選機を用いて浮遊選鉱処理を実施した。まず、Ca(OH)2を用いてpH12.8に調整した溶液に35.0gの選別尾鉱と、100ppmに相当するBXとを添加し、浮選機内でコンディショニングを開始した。30分間のコンディショニング終了後、上記溶液に気泡剤のMIBCを20μl(マイクロリットル)添加し、浮選機において空気の吸い込みを開始することによって、浮選精鉱処理を実施した。しかしながら、上昇する気泡に粒子は付着していなかった。その後、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して400ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開した。しかしながら、上昇する気泡に粒子は付着していなかった。
【0057】
さらに、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して500ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱3とした。さらに、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して300ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱4とした。浮選機に残った粒子を浮選尾鉱として回収した。表4は、選別精鉱に対する浮遊選鉱処理の結果を示す。選別尾鉱に対しては、1000ppmのBX添加量で、42.4mass%Cu品位まで濃縮することができた。
【0058】
【表4】
【0059】
(比較例1)
図14は、比較例1に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。比較例1に係る処理法方法では、硫化変換工程、摩鉱工程、および第1分離工程を実施したが、浮遊選鉱処理を実施しなかった。まず、黄銅鉱主体の銅精鉱(Cu品位=34mass%、Fe品位=24mass%)と単体硫黄とをモル比で銅精鉱中Cu:硫黄=1.0:1.2で混合し、窒素雰囲気中において425℃で60分間熱処理することで黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱に変換した。
【0060】
次に、銅藍と黄鉄鉱とに変換した銅精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=21mass%)を、湿式ボールミルにより摩鉱した。この摩鉱精鉱をテーブル選別機により選別(1回目)し、細粒と粗粒とに選別した後、選別した粗粒を再度テーブル選別機により選別(2回目)した。2回目の選別で回収した粗粒を再度湿式ボールミルにより摩鉱し、テーブル選別機により3回目の選別を実施した。
【0061】
次に、上記テーブル選別機で選別回収したそれぞれのサンプルを、Cu品位の高いサンプル(選別精鉱)、Fe品位の高いサンプル(選別尾鉱)、および、その他(中間精鉱)の3グループに分けて混合した場合のそれぞれのグループの重量割合(mass%)、Cu回収率(mass%)、Cu品位(mass%)、Fe品位(mass%)を調査した。表1に結果を示す。
【0062】
【表5】
【0063】
(比較例2)
図15は、比較例2に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。比較例2では、硫化変換工程および摩鉱工程を実施し、選別処理を実施せずに浮遊選鉱処理を実施した。硫化変換工程は、比較例1と同様である。摩鉱工程においては、硫化変換工程後の銅精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=22mass%)を、ジェットミルにより摩鉱し、図7の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。この際のジェットミル圧力は0.5MPa(G)で、得られた摩鉱精鉱の50%粒子径は6.0μmであった。この摩鉱精鉱をカラム型浮選機にて浮遊選鉱工程を実施し、得られた浮選精鉱および浮選尾鉱の重量割合、浮選精鉱および浮選尾鉱のCu回収率、Cu品位、およびFe品位を調査した。浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して500ppmに相当するBXを追加で添加した。また、浮遊選鉱処理に供する溶液のpHは、Ca(OH)2を用いて12.0に調整した。浮選精鉱の品位、浮選尾鉱の品位、およびCu回収率を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
(分析1(実施例1,2と比較例1,2との比較))
表7は、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で得られた製錬用精鉱のCu回収率およびCu品位を示す。なお、実施例1の製錬用精鉱は、選別尾鉱に対する浮遊選鉱工程で得られた浮選精鉱1〜2および選別精鉱に対する浮遊選鉱工程で得られた浮選精鉱1〜3を回収することによって得られたものである。実施例2の製錬用精鉱は、選別尾鉱に対する浮遊選鉱工程で得られた浮選精鉱1〜3および選別精鉱に対する浮遊選鉱工程で得られた浮選精鉱1〜4を回収することによって得られたものである。比較例1の製錬用精鉱は、選別精鉱を回収することによって得られたものである。比較例2の精錬用精鉱は、浮選精鉱を回収したものである。
【0066】
【表7】
【0067】
表7に示すように、比較例1,2と比較して、実施例1,2における製錬精鉱のCu品位を高くすることができた。これは、選別処理してCu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離した後にさらに浮遊選鉱処理を施すことによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに効率よく分離できたからであると考えられる。
【0068】
(分析2(実施例1と比較例2との比較))
比較例2では、変換後精鉱を50%粒子径で6.0μmまで粉砕し、選別処理を省略して浮遊選鉱処理を実施した。その結果、実施例1と比較してCu品位およびCu回収率の両方とも劣る結果となった。これは、比較例2において、摩鉱工程後の精鉱粒子の多くの粒子径が、浮遊選鉱処理に適した10μm〜500μmの範囲から外れたからであると考えられる。したがって、硫化変換精鉱の外殻の銅藍を剥ぎ取るイメージで摩鉱し、粒子径差および比重差に基づく選別処理を実施した後に浮遊選鉱処理する方法が有効である。
【0069】
(分析3(実施例1と実施例2との比較))
実施例2では銅藍と黄鉄鉱とを単体分離することを狙い、再摩鉱して、Fe品位の高い粒子の50%粒子径を2.8μm、Cu品位の高い粒子の50%粒子径を4.0μmまで小さくした。その結果、実施例2と比較して、実施例1のCu回収率の方が高くなった。これは、実施例1においては、浮遊選鉱処理の対象となる精鉱粒子の多くの粒子径が10μm〜500μの範囲に入ったからであると考えられる。以上のことから、再磨鉱工程後の選別精鉱および選別尾鉱の50%粒子径は、10μm以上であることが好ましい。ただし、選別処理後の精鉱粒子の50%粒子径の適正範囲は、黄銅鉱主体の銅精鉱の硫化変換工程後の50%粒子径が80μm〜150μm程度の変換粒子を対象とした選別試験での適正範囲である。
【0070】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅精鉱の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅鉱山で産出される銅鉱石は、主に硫化鉱である。硫化鉱を大別すると、輝銅鉱(Cu2S)、銅藍(CuS)などの鉱物を主体とした比較的高銅品位の二次硫化鉱と、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする初生硫化鉱とに分けられる。近年、銅鉱山で採取される銅鉱石は、後者主体となっている。その結果、鉄、硫黄などの不純物が増加し、銅品位は低下傾向にある。このことは、鉱山で銅製錬向けに生産する銅精鉱の銅品位の低下、鉄分、硫黄分などの増加などの要因となる。
【0003】
一般に、銅精鉱の製錬を経て、銅は製品電気銅として、鉄分はスラグとして、硫黄分は硫酸として回収される。近年の銅精鉱の低品位化は、銅製錬プロセスにおける製造コストの上昇を招く。さらに国内の銅製錬業においては、銅製錬で生じるスラグおよび硫酸の需給悪化に見舞われ、多くが採算の合わない輸出に向けられており、事業収益を圧迫している。今後さらに銅精鉱の銅品位低下が進めば、これらスラグおよび硫酸の問題が顕著となり、事業存続にも影響を及ぼすと考えられる。
【0004】
これらの問題を解決する一手段として、銅精鉱の予備処理法の応用がある。予備処理法とは、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱粒子を硫黄(S)とともに所定の温度で反応させ、銅藍(CuS)と黄鉄鉱(FeS2)とで構成される精鉱粒子に硫化変換する処理のことである。この硫化変換反応は、浸出が困難な黄銅鉱を比較的浸出が容易な形態にするという意味で湿式製錬の前処理法として知られているが、予備処理から湿式製錬までのトータルコストの観点から現状普及していないプロセスである。
【0005】
上記問題を解決する他の手段として、硫黄による硫化変換反応後の銅藍と黄鉄鉱とを選別し、銅藍主体の高銅品位精鉱として乾式製錬に供する方法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、銅藍と黄鉄鉱との選別において、静電的方法、重力的方法、磁気的方法、風力的方法、粒径的方法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱あるいはこれらの組み合わせにより行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008/074805号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、銅藍と黄鉄鉱とを選別する具体的な方法については記述されていない。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑み、Cu品位の高い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る銅精鉱の処理方法は、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱を硫化した後に摩鉱し、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第1分離工程と、前記Cu品位の高い精鉱および前記Fe品位の高い精鉱のいずれか一方、または両者に対して独立して浮遊選鉱処理を施すことによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第2分離工程と、を含むことを特徴とするものである。本発明に係る銅精鉱の処理方法においては、Cu品位の高い銅精鉱を効率よくかつ経済的に回収することができる。
【0010】
前記第1分離工程において、前記Cu品位の高い精鉱の50%粒子径を5μm〜15μmとし、前記Fe品位の高い精鉱の50%粒子径を35μm〜55μmとしてもよい。前記浮遊選鉱処理において、捕集剤としてブチルザンセートを用いてもよい。前記浮遊選鉱処理において、浮遊選鉱処理の対象とする精鉱1tに対し、ブチルザンセート添加量を10〜2000gの範囲としてもよい。
【0011】
前記浮遊選鉱処理において、pH調整剤としてCa(OH2)を用いてもよい。前記浮遊選鉱工程に供する精鉱を含む溶液のpHを9〜13の範囲に維持してもよい。前記浮遊選鉱処理において、空気供給式浮選機、空気吸込式浮選機、機械攪拌式浮選機、あるいはこれらを組み合わせて用いてもよい。前記浮遊選鉱処理において、気泡剤としてメチルイソブチルカルビノールまたはパイン油を用いてもよい。
【0012】
前記硫化した精鉱を摩鉱する際に、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いてもよい。前記選別工程において、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらを組み合わせて用いてもよい。前記第2分離工程において得られた前記Fe品位の高い精鉱に対して、再度浮遊選鉱処理を施してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Cu品位の高い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収することができる銅精鉱の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。
【図2】EPMAで同定した銅藍および黄鉄鉱のマッピングにより得られた硫化精鉱粒子である。
【図3】変形形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。
【図4】硫化変換工程後の精鉱粒子のXRD解析結果である。
【図5】硫化変換工程後の精鉱粒子を摩鉱した摩鉱精鉱の粒度分布測定結果である。
【図6】選別尾鉱のXRD解析結果である。
【図7】選別尾鉱の粒度分布測定結果である。
【図8】選別精鉱のXRD解析結果である。
【図9】選別精鉱の粒度分布測定結果である。
【図10】浮選精鉱1の粒度分布を示す図である。
【図11】浮選尾鉱の粒度分布を示す図である。
【図12】再摩鉱工程後の選別精鉱の粒度分布を示す図である。
【図13】再摩鉱工程後の選別尾鉱の粒度分布を示す図である。
【図14】比較例1に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【図15】比較例2に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0016】
(実施形態)
本実施形態は、硫化変換した銅精鉱粒子を摩鉱し、選別処理および浮遊選鉱処理を施すことによってCu品位の高い銅藍主体の銅精鉱を回収することによって、銅精鉱に含まれる鉄量・硫黄量を低減し、銅製錬プロセスのコスト低減、スラグ・硫酸の発生量減少による事業採算の改善などを可能とするプロセスを供するものである。
【0017】
本実施形態に係る対象処理物は、銅精鉱である。特には、黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱である。黄銅鉱主体の銅精鉱は、銅を25mass%から40mass%、鉄を20mass%から35mass%含有する。このような黄銅鉱は、鉄を多く含むため、製錬工程において、多量のスラグ発生をもたらす。
【0018】
図1は、本実施形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。図1を参照して、まず、銅精鉱に対して、硫化変換工程を実施する。例えば、銅精鉱中の銅(Cu)に対して、硫黄(S)を1.0から1.2のモル比で添加する。硫黄は、一例として、単体硫黄の状態で添加し、よく混合する。混合した処理物に対して、不活性雰囲気において、所定の温度および所定の時間で熱処理を施す。この熱処理は、例えば、ロータリキルンなどを用いて行うことができる。例えば、不活性雰囲気として、窒素ガスを用いることができる。また、熱処理時間を30分〜60分とすることが好ましい。未反応黄銅鉱の残存量を低下させることができるからである。
【0019】
硫化変換工程における熱処理温度は、385℃〜450℃であることが好ましい。例えば385℃未満の330℃または350℃で硫化変換工程を実施した場合、硫化変換工程前の銅精鉱に含まれる主化合物である黄銅鉱(CuFeS2)の残存量が多くなるおそれがある。また、450℃を上回る温度で処理した場合、銅藍の状態が不安定となり、Bornite(Cu5FeS4)、Nukundamite((Cu,Fe)4S4)などが生成することによって、CuとFeとの分離が困難となるおそれがある。したがって、熱処理温度は、385℃〜450℃であることが好ましい。
【0020】
上記熱処理の結果、銅藍と黄鉄鉱とで構成される硫化精鉱粒子が得られる。この硫化精鉱粒子は、内殻として黄鉄鉱が存在し、黄鉄鉱を銅藍が外殻として覆って構成されている。図2は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で同定した銅藍および黄鉄鉱のマッピングにより得られた硫化精鉱粒子である。図2を参照して、淡灰色の黄鉄鉱を濃灰色の銅藍が覆っている。このような硫化精鉱粒子から銅藍を主体に回収するためには、各硫化精鉱粒子を銅藍と黄鉄鉱とに単体分離することが必要である。
【0021】
そこで、再度図1を参照して、硫化変換工程を経た硫化精鉱粒子に対して摩鉱工程を施す。なお、銅藍と黄鉄鉱とを比重差および粒子径差に基づいて選別するためには、外殻の銅藍を剥ぎ取りつつも内殻の黄鉄鉱を破壊しないように残存させることが望まれる。過度な摩鉱は黄鉄鉱を微細化してしまうことから、摩鉱条件には最適範囲が存在する。
【0022】
外殻の銅藍を剥ぎ取りつつも内殻の黄鉄鉱を破壊しないように残存させることができる摩鉱条件においては、銅藍は2μm〜20μm程度の粒子径で剥ぎ取られ、内殻の黄鉄鉱の粒子径は30μm〜70μm程度となる。本発明者らが鋭意試験・調査した結果、上記粒子径範囲を実現するためには、外郭に存在する銅藍を摩鉱により分離しテーブル選別機で選別するのに適した粒子径は、50%粒子径で30μm〜50μmであることがわかった。
【0023】
摩鉱工程において、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いることができる。粉砕装置として、例えば、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、チューブミル等を用いることができる。50%粒子径30μm〜50μm程度に粉砕できるものであれば、種類は問わない。ただし、外殻に存在する銅藍を削り取り、内部に存在する黄鉄鉱を粗大な状態で温存することができる粉砕装置が好ましい。
【0024】
次に、摩鉱工程で得られる精鉱粒子に対して、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理を実施する(第1分離工程)。粒子径差と比重差とに基づいた選別を行うことによって、精鉱粒子がCu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離する。第1分離工程においては、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらの組み合わせを用いることができる。テーブル選別機は、機械的に簡易な構造を有しかつ低摩耗性を有する装置であることから、メンテナンス、運転コストなどの点で他の選別機と比べて有利であり、良好な選別成績を容易に得ることができる。したがって、テーブル選別機を用いることが好ましい。
【0025】
硫化変換工程で得られる硫化精鉱粒子において黄鉄鉱粒子を銅藍が覆っていることから、摩鉱工程において得られる銅藍の粒子径は比較的小さく、黄鉄鉱の粒子径は比較的大きくなる。また、銅藍の比重は比較的小さく、黄鉄鉱の比重は比較的大きい。したがって、選別機を用いた選別工程を介して細粒と粗粒とに分離することによって、Cu品位の高い細粒(銅藍比率が高くFe品位の低い粒子)とFe品位の高い粗粒(黄鉄鉱比率の高い粒子)とに分離することができる。例えば、分離回収されるCu品位の高い細粒の50%粒子径は5μm〜15μmであることが好ましく、Fe品位の高い粗粒の50%粒子径は35μm〜55μmであることが好ましい。
【0026】
次に、第1分離工程で得られるCu品位の高い細粒を選別精鉱として回収し、選別精鉱に対して浮遊選鉱処理を実施する(第2分離工程)。一方、第1分離工程で得られるFe品位の高い粗粒を選別尾鉱として回収し、選別尾鉱に対して浮遊選鉱処理を実施する(第2分離工程)。選別精鉱に対する浮遊選鉱処理および選別尾鉱に対する浮遊選鉱処理は、独立して実施される。
【0027】
浮遊選鉱処理における捕集剤は、銅藍および黄鉄鉱のいずれか一方を優先的に捕集するものであれば、特に限定されるものではない。本実施形態においては、捕集剤として、銅藍を優先的に捕集するものを用いる。銅藍を優先的に捕集する捕集剤の一例として、ブチルザンセート(BX:BUTYL XANTHATE)を用いることができる。ブチルザンセートの添加量は、特に限定されるものではないが、浮遊選鉱処理の対象となる精鉱1tに対して10g〜2000gであることが好ましい。
【0028】
浮遊選鉱処理におけるpH調整剤は、特に限定されるものではない。pH調整剤の一例として、Ca(OH)2を用いることができる。浮遊選鉱処理の対象となる精鉱を含む溶液のpHは、特に限定されるものではないが、9〜13であることが好ましい。したがって、pH調整剤の添加量は、浮遊選鉱処理に供する溶液のpHを9〜13に維持するように決定されることが好ましい。
【0029】
浮遊選鉱処理における気泡剤は、特に限定されるものではない。気泡剤の一例として、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、パイン油などを用いることができる。浮遊選鉱処理の条件は、選別精鉱のCu品位、浮遊選鉱処理におけるCu回収率、処理コストなどに応じて、任意に変更可能である。また、Cu品位のさらなる向上を狙う場合は、浮遊選鉱処理を多段にわたって実施すればよい。または一旦浮選精鉱と浮選尾鉱とに分けた後、必要な粒度まで再摩鉱して浮遊選鉱処理を再度実施すればよい。
【0030】
浮遊選鉱処理の実施によって、選別精鉱および選別尾鉱は、浮遊する浮選精鉱と沈降する浮選尾鉱とに分離する。本実施例においては捕集剤によって銅藍が優先的に捕集されるため、浮選精鉱には銅藍が比較的多く含まれ、浮選尾鉱には黄鉄鉱が比較的多く含まれる。すなわち、浮選精鉱にはCu品位の高い精鉱が比較的多く含まれ、浮選尾鉱にはFe品位の高い精鉱が比較的多く含まれる。したがって、選別精鉱に対する浮遊選鉱処理によって得られた浮選精鉱および選別尾鉱に対する浮遊選鉱処理によって得られた浮選精鉱を回収することによって、Cu品位の高い銅精鉱を効率よくかつ経済的に回収することができる。得られた浮選精鉱を銅製錬精鉱として用いることによって、スラグ発生量の少ない銅製錬を行うことができる。浮選尾鉱に対して、再度、摩鉱、選別処理、浮遊選鉱処理などを実施することによって、Cu品位の高い精鉱粒子を回収することができる。
【0031】
なお、本実施形態においては選別精鉱および選別尾鉱の両方に浮遊選鉱処理を実施しているが、それに限られない。例えば、いずれか一方にのみ浮遊選鉱処理を実施してもよい。
【0032】
(変形形態)
図3は、変形形態に係る銅精鉱の処理方法の一例を示す工程図である。図3を参照して、変形形態に係る銅精鉱の処理方法が図1の処理方法と異なる点は、第1分離工程後に、選別精鉱および選別尾鉱に対してそれぞれ摩鉱工程を再実施する点である。このように、浮遊選鉱工程前に、再摩鉱工程を実施してもよい。
【0033】
なお、再摩鉱工程後の選別精鉱および選別尾鉱の50%粒子径は、10μm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、上記実施形態に基づく実施例について説明する。
【0035】
(実施例1)
硫化変換工程において、黄銅鉱主体の銅精鉱(Cu品位=34mass%、Fe品位=24mass%)と単体硫黄とをモル比で銅精鉱中Cu:硫黄=1.0:1.2で混合し、窒素雰囲気中において425℃で60分間熱処理することで黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱とに変換した。図4のXRDによる分析結果の通り、硫化変換工程後に銅藍と黄鉄鉱とが生成していることがわかる。
【0036】
次に、銅藍と黄鉄鉱とに変換した銅精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=21mass%)に対して、湿式ボールミルにより摩鉱し、図5の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。このときのスラリー濃度は30mass%であり、摩鉱時間は30分、50%粒子径は42μmであった。
【0037】
この摩鉱精鉱に対してテーブル選別機により選別処理を施し、Cu品位の高い選別精鉱とFe品位の高い選別尾鉱とに分離した。図6は、選別尾鉱のXRD解析結果である。図7は、選別尾鉱の粒度分布測定結果である。図8は、選別精鉱のXRD解析結果である。図9は、選別精鉱の粒度分布測定結果である。
【0038】
次に、選別尾鉱に対して空気吸い込み式の浮選機を用いて浮遊選鉱処理を実施した。まず、Ca(OH)2を用いてpH12.0に調整した溶液に33.5gの選別尾鉱と、100ppmに相当するBXとを添加し、浮選機内でコンディショニングを開始した。コンディショニングとは添加した薬剤を試料表面に付着させる操作のことを指す。本実施例では、浮選機内で溶液を攪拌した。30分間のコンディショニング終了後、上記溶液に気泡剤のMIBCを20μl(マイクロリットル)添加し、浮選機において空気の吸い込みを開始することによって、浮遊選鉱処理を実施した。空気の吸い込み開始後、気泡に伴って上昇する粒子を回収し浮選精鉱1とした。
【0039】
その後、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して400ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱2とした。浮選機に残った粒子を浮選尾鉱として回収した。
【0040】
表1は、選別尾鉱に対する浮遊選鉱工程の結果を示す。表1におけるBX添加量は、合計のBX添加量を示している。例えば、500ppmのBX添加量は、最初に添加した100ppmのBXと、追加添加した400ppmのBXとの合計である。図10は、浮選精鉱1の粒度分布を示す図である。図11は、浮選尾鉱の粒度分布を示す図である。
【0041】
【表1】
【0042】
選別尾鉱に対しては、100ppmのBX添加量で、Cu品位39.3mass%の浮選精鉱1が得られ、その浮選精鉱1内にCuを65.4mass%回収できた。また、浮選尾鉱のCu品位は6mass%台まで低減され、Fe品位は40mass%台にまで上昇し、CuとFeとが効果的に分離した。なお、BX添加量は、浮遊選鉱処理に供する試料重量に対する、BX添加量の重量%で示してある。例えば、BX100ppmの添加は、試料100グラムに対して0.01グラムのBXを使用したことを意味する。
【0043】
浮選精鉱1は、硫化変換工程後の元精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=21mass%)と比較して、Cu品位が高くFe品位が低くなった。また、硫化変換工程前の元精鉱(Cu品位=34mass%、Fe品位=24mass%)に対して、浮選精鉱1はCu品位が5.3mass%上昇し、Fe品位が6.3mass%低下している。このことから硫化変換工程前の精鉱中には重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているが、浮選精鉱1は重量比でCu:1.00に対してFe:0.45まで低減されており、製錬所でのスラグ発生量の低減が可能となる。また選別尾鉱のCu品位は、6.4mass%で最も低くなった。選別尾鉱のFe品位は、40.2mass%で最も高くなった。
【0044】
次に、選別精鉱に対して空気吸い込み式の浮選機を用いて浮遊選鉱処理を実施した。まず、Ca(OH)2を用いてpH12.1に調整した溶液に35.0gの選別精鉱と、100ppmに相当するBXとを添加し、浮選機内でコンディショニングを開始した。30分間のコンディショニング終了後、上記溶液に気泡剤のMIBCを20μl(マイクロリットル)添加し、浮選機において空気の吸い込みを開始することによって、浮選精鉱処理を実施した。空気の吸い込み開始後、気泡に伴って上昇する粒子を回収し浮選精鉱1とした。
【0045】
その後、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して200ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱2とした。
【0046】
さらに、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して200ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱3とした。浮選機に残った粒子を浮選尾鉱として回収した。表2は、選別精鉱に対する浮遊選鉱工程の結果を示す。
【0047】
【表2】
【0048】
選別精鉱に対しては、100ppmのBX添加量で、46.9mass%の浮選精鉱1が得られ、その浮選精鉱1にCuを34.7mass%回収することができた。また、Cu品位40mass%以上の精鉱(浮選精鉱1+浮選精鉱2)でCu回収率が66.2mass%にまで達し、Cu品位の濃縮がなされた。
【0049】
浮選精鉱1は、硫化変換工程後の元精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=21mass%)と比較して、Cu品位が高くFe品位が低くなった。また、硫化変換工程前の元精鉱(Cu品位=34mass%、Fe品位=24mass%)に対して、浮選精鉱1はCu品位が12.9mass%上昇し、Fe品位が9.9mass%低下している。このことから硫化変換工程前の精鉱中には重量比でCu:1.00に対してFe:0.71が含まれているが、浮選精鉱1は重量比でCu:1.00に対してFe:0.30まで低減されており、製錬所でのスラグ発生量の低減が可能となる。
【0050】
なお、実施例1においては、全ての浮選精鉱と全ての浮選尾鉱とにグループ分けした場合、全ての浮選精鉱のCu品位は40.8mass%となり、硫化変換工程前の元精鉱に対するCu回収率は81.5mass%となった。
【0051】
(実施例2)
実施例2においては、図3の変形形態に係る処理方法を用いた。硫化変換工程、摩鉱工程および選別工程は、実施例1と同様である。その後、選別精鉱および選別尾鉱に対して、それぞれ再摩鉱工程を実施した。図12は、再摩鉱工程後の選別精鉱の粒度分布を示す図である。図13は、再摩鉱工程後の選別尾鉱の粒度分布を示す図である。再摩鉱工程後の選別精鉱の50%粒子径は、2.8μmとなった。再摩鉱工程後の選別尾鉱の50%粒子径は、4.0μmとなった。
【0052】
次に、再摩鉱工程後の選別尾鉱に対して空気吸い込み式の浮選機を用いて浮遊選鉱処理を実施した。まず、Ca(OH)2を用いてpH12.0に調整した溶液に35.0gの選別尾鉱と、100ppmに相当するBXとを添加し、浮選機内でコンディショニングを開始した。30分間のコンディショニング終了後、上記溶液に気泡剤のMIBCを20μl(マイクロリットル)添加し、浮選機において空気の吸い込みを開始することによって、浮選精鉱処理を実施した。空気の吸い込み開始後、気泡に伴って上昇する粒子を回収し浮選精鉱1とした。
【0053】
その後、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して400ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱2とした。さらに、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して500ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱3とした。浮選機に残った粒子を浮選尾鉱として回収した。表3は、選別尾鉱に対する浮遊選鉱処理の結果を示す。
【0054】
【表3】
【0055】
選別尾鉱に対しては、100ppmのBX添加量で、35.2mass%Cu品位まで濃縮することができた。
【0056】
次に、再摩鉱工程後の選別精鉱に対して空気吸い込み式の浮選機を用いて浮遊選鉱処理を実施した。まず、Ca(OH)2を用いてpH12.8に調整した溶液に35.0gの選別尾鉱と、100ppmに相当するBXとを添加し、浮選機内でコンディショニングを開始した。30分間のコンディショニング終了後、上記溶液に気泡剤のMIBCを20μl(マイクロリットル)添加し、浮選機において空気の吸い込みを開始することによって、浮選精鉱処理を実施した。しかしながら、上昇する気泡に粒子は付着していなかった。その後、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して400ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開した。しかしながら、上昇する気泡に粒子は付着していなかった。
【0057】
さらに、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して500ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱3とした。さらに、一旦空気の吸い込みを停止し、浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して300ppmに相当するBXを追加で添加した。5分間のコンディショニング後、溶液に10μlのMIBCを添加して、浮選機の空気の吸い込みを再開し、気泡に伴って上昇する粒子を回収して浮選精鉱4とした。浮選機に残った粒子を浮選尾鉱として回収した。表4は、選別精鉱に対する浮遊選鉱処理の結果を示す。選別尾鉱に対しては、1000ppmのBX添加量で、42.4mass%Cu品位まで濃縮することができた。
【0058】
【表4】
【0059】
(比較例1)
図14は、比較例1に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。比較例1に係る処理法方法では、硫化変換工程、摩鉱工程、および第1分離工程を実施したが、浮遊選鉱処理を実施しなかった。まず、黄銅鉱主体の銅精鉱(Cu品位=34mass%、Fe品位=24mass%)と単体硫黄とをモル比で銅精鉱中Cu:硫黄=1.0:1.2で混合し、窒素雰囲気中において425℃で60分間熱処理することで黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱に変換した。
【0060】
次に、銅藍と黄鉄鉱とに変換した銅精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=21mass%)を、湿式ボールミルにより摩鉱した。この摩鉱精鉱をテーブル選別機により選別(1回目)し、細粒と粗粒とに選別した後、選別した粗粒を再度テーブル選別機により選別(2回目)した。2回目の選別で回収した粗粒を再度湿式ボールミルにより摩鉱し、テーブル選別機により3回目の選別を実施した。
【0061】
次に、上記テーブル選別機で選別回収したそれぞれのサンプルを、Cu品位の高いサンプル(選別精鉱)、Fe品位の高いサンプル(選別尾鉱)、および、その他(中間精鉱)の3グループに分けて混合した場合のそれぞれのグループの重量割合(mass%)、Cu回収率(mass%)、Cu品位(mass%)、Fe品位(mass%)を調査した。表1に結果を示す。
【0062】
【表5】
【0063】
(比較例2)
図15は、比較例2に係る銅精鉱の処理方法を示す工程図である。比較例2では、硫化変換工程および摩鉱工程を実施し、選別処理を実施せずに浮遊選鉱処理を実施した。硫化変換工程は、比較例1と同様である。摩鉱工程においては、硫化変換工程後の銅精鉱(Cu品位=30mass%、Fe品位=22mass%)を、ジェットミルにより摩鉱し、図7の粒度分布を示す摩鉱精鉱を得た。この際のジェットミル圧力は0.5MPa(G)で、得られた摩鉱精鉱の50%粒子径は6.0μmであった。この摩鉱精鉱をカラム型浮選機にて浮遊選鉱工程を実施し、得られた浮選精鉱および浮選尾鉱の重量割合、浮選精鉱および浮選尾鉱のCu回収率、Cu品位、およびFe品位を調査した。浮遊選鉱処理に供する試料の元重量に対して500ppmに相当するBXを追加で添加した。また、浮遊選鉱処理に供する溶液のpHは、Ca(OH)2を用いて12.0に調整した。浮選精鉱の品位、浮選尾鉱の品位、およびCu回収率を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
(分析1(実施例1,2と比較例1,2との比較))
表7は、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2で得られた製錬用精鉱のCu回収率およびCu品位を示す。なお、実施例1の製錬用精鉱は、選別尾鉱に対する浮遊選鉱工程で得られた浮選精鉱1〜2および選別精鉱に対する浮遊選鉱工程で得られた浮選精鉱1〜3を回収することによって得られたものである。実施例2の製錬用精鉱は、選別尾鉱に対する浮遊選鉱工程で得られた浮選精鉱1〜3および選別精鉱に対する浮遊選鉱工程で得られた浮選精鉱1〜4を回収することによって得られたものである。比較例1の製錬用精鉱は、選別精鉱を回収することによって得られたものである。比較例2の精錬用精鉱は、浮選精鉱を回収したものである。
【0066】
【表7】
【0067】
表7に示すように、比較例1,2と比較して、実施例1,2における製錬精鉱のCu品位を高くすることができた。これは、選別処理してCu品位の高い細粒とFe品位の高い粗粒とに分離した後にさらに浮遊選鉱処理を施すことによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに効率よく分離できたからであると考えられる。
【0068】
(分析2(実施例1と比較例2との比較))
比較例2では、変換後精鉱を50%粒子径で6.0μmまで粉砕し、選別処理を省略して浮遊選鉱処理を実施した。その結果、実施例1と比較してCu品位およびCu回収率の両方とも劣る結果となった。これは、比較例2において、摩鉱工程後の精鉱粒子の多くの粒子径が、浮遊選鉱処理に適した10μm〜500μmの範囲から外れたからであると考えられる。したがって、硫化変換精鉱の外殻の銅藍を剥ぎ取るイメージで摩鉱し、粒子径差および比重差に基づく選別処理を実施した後に浮遊選鉱処理する方法が有効である。
【0069】
(分析3(実施例1と実施例2との比較))
実施例2では銅藍と黄鉄鉱とを単体分離することを狙い、再摩鉱して、Fe品位の高い粒子の50%粒子径を2.8μm、Cu品位の高い粒子の50%粒子径を4.0μmまで小さくした。その結果、実施例2と比較して、実施例1のCu回収率の方が高くなった。これは、実施例1においては、浮遊選鉱処理の対象となる精鉱粒子の多くの粒子径が10μm〜500μの範囲に入ったからであると考えられる。以上のことから、再磨鉱工程後の選別精鉱および選別尾鉱の50%粒子径は、10μm以上であることが好ましい。ただし、選別処理後の精鉱粒子の50%粒子径の適正範囲は、黄銅鉱主体の銅精鉱の硫化変換工程後の50%粒子径が80μm〜150μm程度の変換粒子を対象とした選別試験での適正範囲である。
【0070】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱を硫化した後に摩鉱し、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第1分離工程と、
前記Cu品位の高い精鉱および前記Fe品位の高い精鉱のいずれか一方、または両者に対して独立して浮遊選鉱処理を施すことによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第2分離工程と、を含むことを特徴とする銅精鉱の処理方法。
【請求項2】
前記第1分離工程において、前記Cu品位の高い精鉱の50%粒子径を5μm〜15μmとし、前記Fe品位の高い精鉱の50%粒子径を35μm〜55μmとすることを特徴とする請求項1記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項3】
前記浮遊選鉱処理において、捕集剤としてブチルザンセートを用いることを特徴とする請求項1または2記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項4】
前記浮遊選鉱処理において、浮遊選鉱処理の対象とする精鉱1tに対し、ブチルザンセート添加量を10〜2000gの範囲とすることを特徴とする請求項3記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項5】
前記浮遊選鉱処理において、pH調整剤としてCa(OH2)を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項6】
前記浮遊選鉱工程に供する精鉱を含む溶液のpHを9〜13の範囲に維持することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項7】
前記浮遊選鉱処理において、空気供給式浮選機、空気吸込式浮選機、機械攪拌式浮選機、あるいはこれらを組み合わせて用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項8】
前記浮遊選鉱処理において、気泡剤としてメチルイソブチルカルビノールまたはパイン油を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項9】
前記硫化した精鉱を摩鉱する際に、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項10】
前記選別工程において、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらを組み合わせて用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項11】
前記第2分離工程において得られた前記Fe品位の高い精鉱に対して、再度浮遊選鉱処理を施すことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項1】
黄銅鉱(CuFeS2)を主体とする銅精鉱を硫化した後に摩鉱し、粒子径差と比重差とに基づいて選別処理することによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第1分離工程と、
前記Cu品位の高い精鉱および前記Fe品位の高い精鉱のいずれか一方、または両者に対して独立して浮遊選鉱処理を施すことによって、Cu品位の高い精鉱とFe品位の高い精鉱とに分離する第2分離工程と、を含むことを特徴とする銅精鉱の処理方法。
【請求項2】
前記第1分離工程において、前記Cu品位の高い精鉱の50%粒子径を5μm〜15μmとし、前記Fe品位の高い精鉱の50%粒子径を35μm〜55μmとすることを特徴とする請求項1記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項3】
前記浮遊選鉱処理において、捕集剤としてブチルザンセートを用いることを特徴とする請求項1または2記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項4】
前記浮遊選鉱処理において、浮遊選鉱処理の対象とする精鉱1tに対し、ブチルザンセート添加量を10〜2000gの範囲とすることを特徴とする請求項3記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項5】
前記浮遊選鉱処理において、pH調整剤としてCa(OH2)を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項6】
前記浮遊選鉱工程に供する精鉱を含む溶液のpHを9〜13の範囲に維持することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項7】
前記浮遊選鉱処理において、空気供給式浮選機、空気吸込式浮選機、機械攪拌式浮選機、あるいはこれらを組み合わせて用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項8】
前記浮遊選鉱処理において、気泡剤としてメチルイソブチルカルビノールまたはパイン油を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項9】
前記硫化した精鉱を摩鉱する際に、湿式粉砕装置または乾式粉砕装置を用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項10】
前記選別工程において、テーブル選別機、遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機、あるいはこれらを組み合わせて用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【請求項11】
前記第2分離工程において得られた前記Fe品位の高い精鉱に対して、再度浮遊選鉱処理を施すことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の銅精鉱の処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−201920(P2012−201920A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66782(P2011−66782)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]