説明

銅精鉱の処理方法

【課題】製錬過程で発生するスラグ及び硫黄が増大し、製造コストの上昇を招く問題がある、黄銅鉱を主体とする銅精鉱に関して、鉄品位を低下し銅品位を高くできる銅精鉱の回収方法を提供する。
【解決手段】黄銅鉱(CuFeS)を主体とする銅精鉱粒子を硫黄(S)と伴に不活性ガス雰囲気において350℃〜400℃で反応させ、変換反応後の銅藍(CuS)と黄鉄鉱(FeS)で構成される精鉱粒子を摩鉱処理後、銅藍と黄鉄鉱粒子に単体分離した前記精鉱粒子を2〜10μmの分級点で分級処理し、前記鉄品位の低い2〜10μmの細粒を回収し、粗粒を更に、浮遊選鉱処理してFe品位の低い銅精鉱を回収する銅精鉱の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅精鉱の処理方法に関する。更に詳しくは、黄銅鉱を主体とする銅精鉱粒子を硫黄添加し、銅藍と黄鉄鉱で構成される粒子に変換し、Fe品位の低い銅精鉱を回収する方法を供するものある。
【背景技術】
【0002】
銅鉱山で産出される銅鉱石は、主に硫化鉱であり、硫化鉱も大別すると、輝銅鉱(CuS)、や銅藍(CuS)といった鉱物を主体とした比較的高銅品位の二次硫化銅鉱と、黄銅鉱(CuFeS)の初生硫化鉱がある。
近年銅鉱山で採取される銅鉱石は、後者主体となり、鉄・硫黄その他の不純物が増加し、銅品位は低下傾向にある。このことは鉱山で銅製錬向けに生産する銅精鉱の銅品位の低下、鉄、硫黄分の増加となる。
一般に銅精鉱を製錬した際には、銅は製品電気銅として、鉄はスラグ、硫黄分は硫酸として回収される。近年の銅精鉱の低品位化は、銅製錬プロセスにおける製造コストの上昇を招く。
さらに国内の銅製錬業においては、銅製錬スラグ・硫酸の需給悪化に見舞われ、多くが採算の合わない輸出に向けられており、事業収益を圧迫している。今後さらに銅精鉱の銅品位低下が進めば、これらスラグ・硫酸の問題が顕著となり、事業存続にも影響を及ぼすと考えられる。
【0003】
これらの問題を解決する一手段として、銅精鉱の予備処理法の応用がある。予備処理法とは、黄銅鉱(CuFeS)を主体とする銅精鉱粒子を硫黄とともに所定の温度で反応させ、銅藍(CuS)と黄鉄鉱(FeS)で構成される精鉱粒子に変換する処理のことである。
本変換反応は、浸出が困難な黄銅鉱を比較的浸出が容易な形態にするという意味で、湿式製錬の前処理法として知られているが、予備処理から湿式製錬までのトータルコストに問題があり、現状普及していないプロセスである。
一方、0002段落で述べた問題点を解決するためには、本変換反応後の銅藍と黄鉄鉱を選別し、銅藍主体の高銅品位精鉱として乾式製錬に供する方法がある。
【0004】
本変換反応とその応用について述べているものに、特許文献1(WO2008/074805)がある。特許文献1によると、本変換プロセスは、変換後の銅藍と黄鉄鉱から銅藍を選別回収し、乾式製錬または湿式製錬処理に供するためのものとしているが、銅藍と黄鉄鉱の選別には、静電的方法、重力的方法、磁気的方法、風力的方法、粒径的方法、ハイドロサイクロン法、浮遊選鉱あるいはこれらの組み合わせにより行うとしており、本変換銅精鉱から銅藍と黄鉄鉱を選別する具体的な方法については記述されていない。
【特許文献1】 WO2008074805 METHOD FOR OBTAINING COPPER AND PRECIOUS METALS FROM COPPER−IRON SULPHIDE ORES OR ORE CONCENTRATES
【発明の開示】

【発明が解決しようとしている課題】
【0005】
本発明は上記の問題点を解決するもので、黄銅鉱主体の銅精鉱を銅藍と黄鉄鉱に変換したものを、摩鉱・分級分離・浮遊選鉱分離により、Fe品位の低い銅精鉱を効率良くかつ経済的に回収する方法を提供することを目的とする。
【発明が解決するための手段】
【0006】
(1)黄銅鉱(CuFeS)を主体とする銅精鉱粒子を硫黄(S)と伴に不活性ガス雰囲気において350℃〜400℃で反応させ、
変換反応後の銅藍(CuS)と黄鉄鉱(FeS)で構成される精鉱粒子を摩鉱処理後、
銅藍と黄鉄鉱粒子に単体分離した前記精鉱粒子を2〜10μmの分級点で分級処理し、前記鉄品位の低い2〜10μmの細粒を回収し、
粗粒を更に、浮遊選鉱処理してFe品位の低い銅精鉱を回収する銅精鉱の処理方法。
【0007】
(2)上記(1)に記載の摩鉱処理をボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、チューブミルなど、粉砕後の粒子径を10μm以下とすることができる湿式または乾式粉砕装置により行う銅精鉱の処理方法。
【0008】
(3)上記(1)から(2)の何れかに記載の分級処理を遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機あるいはそれらの組合せにより行う銅精鉱の処理方法。
【0009】
(4)上記(1)から(3)の何れかに記載の摩鉱・分級処理により得られた粗粒を、浮遊選鉱において銅藍と黄鉄鉱を選別して、Fe品位の低い精鉱を回収する銅精鉱の処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば以下の効果を有する。
(1)変換後銅精鉱を摩鉱・分級分離することにより、実用上浮遊選鉱法の適用が困難な微細粒を分離回収することで、残りの粗粒に対する浮遊選鉱の選別成績を向上できる。
(2)分級分離処理により得られた微細粒はCu品位が高く、Fe品位の低い銅精鉱として、複雑な処理をすることなく容易に回収できる。
(3)浮遊選鉱においては、主として単体黄鉄鉱粒子を尾鉱として除去する粗選と、未粉砕粒子、即ち銅藍と黄鉄鉱が単体分離していない粒子を湿式摩鉱後、一段もしくは複数段の精選を行うことにより、得られる銅精鉱のCu品位と回収率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一態様である処理フローを示す。
【図2】本発明における一態様である変換後の銅精鉱粒子のSEM・EPMA像を示す。
【図3】本発明における一態様である変換後精鉱摩鉱・分級後の10μm以下粒子のEPMA像を示す。
【図4】本発明における一態様である変換後精鉱摩鉱・分級後の10〜30μm粒子のEPMA像を示す。
【図5】本発明における一態様である変換後精鉱摩鉱・分級後の30μm以上粒子のEPMA像を示す。
【図6】本発明における一態様である変換前精鉱のXRD分析結果を示す。
【図7】本発明における一態様である変換後精鉱のXRD分析結果を示す。
【図8】本発明における一態様である変換後精鉱ジェットミル摩鉱後の粒度分布測定結果を示す。
【図9】本発明における分級点の概念図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、実施例により本研究をさらに詳しく説明する。
本発明は、変換銅精鉱粒子を摩鉱することにより、銅藍と黄鉄鉱を分離し、鉄品位の低い銅藍主体の銅精鉱を回収することで、銅精鉱に含まれる鉄量・硫黄量を低減し、銅製錬プロセスのコスト低減、スラグ・硫酸の発生量を減少による事業採算の改善が可能となるプロセスを供するものである。
【0013】
本発明の対象処理物は、銅精鉱である。特には、黄銅鉱を主体とする銅精鉱である。
黄銅鉱(CuFeS)の品位は、銅が、25から33mass%、鉄は、28から33mass%含有する。 前記の如く、鉄分が多く、結局製錬工程において、多量のスラグ発生をもたらす。
本発明では、前記銅精鉱中の銅に対して、硫黄を1.0から1.2の比率で添加する。硫黄は、単体硫黄の状態で添加し、良く混合する。
【0014】
混合した処理物は、不活性雰囲気中で、350から400℃において、45から60分間加熱する。不活性ガスとしては、主に窒素ガスが用いられる。
このらの温度、雰囲気は、黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱に変換に必要な条件であり、反応時間は、未反応黄銅鉱を残さないために、必要な時間である。
【0015】
上記加熱処理は、ロータリキルン等を用いて、行われる。
上記反応処理の結果、本変換プロセスで生産した銅藍と黄鉄鉱で構成される粒子は、精鉱粒子の内部に黄鉄鉱、それを覆うように銅藍が粒子の外殻を構成した一体の粒子になっている。
図2は電子線マイクロアナライザ(EPMA)で同定した銅藍と黄鉄鉱のマッピングにより変換粒子の状態である。
【0016】
このような変換銅精鉱粒子から銅藍を主体に回収するためには、まず一つひとつの粒子を銅藍・黄鉄鉱に単体分離することが必要である。
発明者が鋭意試験・調査した結果、両鉱物が単体分離される粒径はおおよそ10μm以下であることがわかった。
【0017】
前記処理により、変換した銅精鉱(Cu品位=25mass%、Fe品位=26mass%)は、摩鉱処理する。
摩鉱処理に用いる粉砕機は、例えば、ボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、チューブミル等がある。粒子径10μm以下に、粉砕できるものであれば、種類は問わないが、特に、乾式ジェットミルが好ましい。変換後の精鉱を濡らすことなく、短時間で望ましい粒度になるためである。
【0018】
図3は、変換銅精鉱を粉砕・分級処理して得た≦10μmの粒子のEPMA画像で、粒子が粉砕され、銅藍と黄鉄鉱が単体分離していることがわかる。
【0019】
図4は、10〜30μm粒子のEPMA画像で、外殻の銅藍が剥離した比較的粗粒の単体の黄鉄鉱と、未粉砕粒子との混合状態にある。
【0020】
また、図5は≧30μm粒子のEPMA画像で、ほぼ全て未粉砕の状態にある。
【0021】
このことから、摩鉱処理後、分級する。 分級は、遠心分離機、慣性式分級機、
重力式分級機或は、その組み合わせに行われることが好ましい。 特に好ましいのは、慣性式分級と遠心式分級を組み合わせた空気分級機である。 変換銅精鉱を6μm、10μm、30μmなどの分級点の調整が容易で、細粒と粗粒に、より明確に分級できるからである。
【0022】
2から10μmの細粒のものを回収し、銅製錬原料とすることにより、スラグ発生量が少ない銅製錬を行うことが可能となる。
更に、10μmより粗い粗粒は、浮遊選鉱処理を行うことにより、より鉄分の低い銅精鉱とすることが可能である。
【実施例】
【実施例1】
【0023】
図1に黄銅鉱主体の銅精鉱の処理フローを示す。
黄銅鉱主体の銅精鉱(Cu品位=29mass%、Fe品位=30mass%)と単体硫黄をモル比で銅精鉱中Cu:硫黄=1:1で混合し、窒素雰囲気中において350℃で45〜60分処理することで黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱に変換する。
【0024】
図6、図7のXRDによる分析結果の通り、変換前後で黄銅鉱が銅藍と黄鉄鉱に変化していることがわかる。
変換後の銅精鉱粒子の典型例は、前述の通り図2のような鉱物分布となる。
【0025】
銅藍と黄鉄鉱に変換した銅精鉱(Cu品位=25mass%、Fe品位=26mass%)を乾式ジェットミル(日清エンジニアリング(株)製SJ−100)を用いて摩鉱した。図8に摩鉱精鉱の粒度分布を示す。このときの摩鉱空気圧力は0.45MPaGであり、50%粒子径は7.1μmであった。
この摩鉱後精鉱を、慣性式分級と遠心式分級を組み合わせた空気分級機(日清エンジニアリング製TC−15)を用いて10μm、30μmの分級点で細粒と粗粒に分級した。
ここでいう分級点とは図9に示すように、横軸に粒径、縦軸に頻度をとった場合の細粒側と粗粒側の粒度分布が重複する粒径である。
【0026】
図3は、変換後精鉱を摩鉱し、分級点10μmで分級分離した細粒の粒子の状態を表す。ほぼ全ての粒子が銅藍と黄鉄鉱に単体分離していることがわかる。これは変換後精鉱粒子の外殻にある銅藍が細かく剥離したものと、その銅藍の内側にあった黄鉄鉱の一部が細かく粉砕されたものである。
【0027】
図4は、分級点10μmで分級分離し得られた粗粒を、さらに30μmの分級点で分級分離し得られた細粒、即ち大部分が10より荒く30μm以下の粒度範囲に入る粒子の状態である。
この範囲の粒子は、外殻の銅藍が剥離した比較的大粒な単体黄鉄鉱粒子と、粉砕過程の途中にあたる変換精鉱粒子、即ち黄鉄鉱の外殻に銅藍が残存している粒子との混合状態にある。 10より粗く30μmまでの黄鉄鉱は、浮遊選鉱により、容易に、銅藍または外殻に銅藍が残っている黄鉄鉱(片刃粒子)と分離可能であり、鉄品位の低い銅精鉱を得ることが出来る。
【0028】
図5は、30μmの分級点で分離した粗粒の粒子状態である。ほぼ未粉砕で変換後の精鉱粒子のままの状態のものがほとんどである。 これは、0019段落で述べた通り、単体黄鉄鉱を除去後、湿式摩鉱し、再度浮遊選鉱することにより、鉄の少ない精鉱を得ることができる。
【実施例2】
【0029】
次に実施例1記載の0016段落及び0017段落と同様に黄銅鉱を銅藍と黄鉄鉱に変換し、ジェットミルで摩鉱後、空気分級機を用いて、分級点2μm、6μm、10μm及び30μmで分級分離した細粒と粗粒を回収し、それぞれの分級点での細粒と粗粒の重量割合、Cu回収率、Cu品位、Fe品位を調査した。
結果は表1の通りである。
【表1】

【0030】
全ての分級点において、細粒は変換後の元精鉱(Cu品位=25mass%、Fe品位=26mass%)と比較し、Cu品位が高くFe品位が低い精鉱が得られた。また、変換前の元精鉱(Cu品位=29mass%、Fe品位=30mass%)に対しては、Fe品位が6〜8mass%低下している。分級点6μmでの細粒は、Cu品位が30%で最も高く、Fe品位は22%で最も低い。
【0031】
一方、分級点30μmでの細粒は、分級点10μmでの細粒と比較し、Cu回収率はほとんど変わらないにもかかわらず、Cu品位が低下し、Fe品位が高くなる。
これは、実施例1記載の0018段落〜0020段落で述べた通り、変換後精鉱の摩鉱の過程で、銅藍から先に粉砕されて微細粒となり、内部の黄鉄鉱の一部は、おおよそ10より粗く30μm以下の粒径範囲に多く残留するためである。
【0032】
よって、分級分離の分級点は10μmまでの粒径範囲で設定することが望ましい。
また、分級で得られた10μmより粗い粗粒は、浮遊選鉱法を適用できる粒度範囲であるため、0018段落で述べたような方法により処理し、黄鉄鉱を除外しCu分を濃縮する。
分級分離の分級点は、浮遊選鉱の選別成績、即ちCu回収率と精鉱Cu品位、あるいは処理コストにより、任意に変更可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄銅鉱(CuFeS)を主体とする銅精鉱粒子を硫黄(S)と伴に不活性ガス雰囲気において350℃〜400℃で反応させ、
変換反応後の銅藍(CuS)と黄鉄鉱(FeS)で構成される精鉱粒子を摩鉱処理後、
銅藍と黄鉄鉱粒子に単体分離した前記精鉱粒子を2〜10μmの分級点で分級処理し、前記鉄品位の低い2〜10μmの細粒を回収し、
粗粒を更に、浮遊選鉱処理してFe品位の低い銅精鉱を回収することを特徴とする銅精鉱の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩鉱処理をボールミル、ジェットミル、アトリッションミル、チューブミルなど、粉砕後の粒子径を10μm以下とすることができる湿式または乾式粉砕装置により行うことを特徴とする銅精鉱の処理方法。
【請求項3】
請求項1から2の何れかに記載の分級処理を遠心式分級機、慣性式分級機、重力式分級機あるいはそれらの組合せにより行うことを特徴とする銅精鉱の処理方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の摩鉱・分級処理により得られた粗粒を、浮遊選鉱において銅藍と黄鉄鉱を選別して、Fe品位の低い精鉱を回収することを特徴とする銅精鉱の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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