説明

銅線の製造方法および銅線

【課題】伸線ダイス孔部に線材を通す作業時間を省略することが可能となり、高品質な極細線の加工、及び製造効率の安定化を図る。
【解決手段】周上に断面半円形のらせん溝107を形成したローラを用いる銅線の製造方法であって、前記ローラの前記らせん溝107に銅線152をコイル状に巻き付け、前記ローラを回転させつつ、前記ローラの一端から前記らせん溝107に送り出される前記銅線152を、前記らせん溝107より案内しながら移動させ、前記ローラの他端から巻き取ることにより伸線する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅線の製造方法および銅線に係り、特に電子機器及び医療機器に用いられる同軸ケーブルの心線やシールド線に適用するのに好適な銅線の製造方法および銅線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器のケーブル導体には銅線が使用されている。一般には太サイズの銅荒引き線を冷間で、伸線ダイスを通して引き抜き、所望線径に伸線加工される。伸線加工装置は、伸線速度の高速化や伸線作業の連続化の要請に応えるために、伸線ラインに複数個の伸線ダイスを配置した連続伸線機が主流となっている。
図9に、そのような従来の連続伸線機を用いて伸線加工する方法を示す。図9(a)に示すように、引抜キャプスタン53,54間に銅線52を掛け渡して伸線ラインを形成する。その伸線ラインの途中に複数の伸線ダイス56を設ける。銅線52を、液状潤滑油または水55に浸漬しながら、複数の伸線ダイス56に通して伸線加工を連続的に行っている。
【0003】
ところで、近年の電子機器、医療機器の小型化、軽量化に伴い、ケーブルの細径化が求められ、その結果、銅線も細径化、すなわち極細線の製造が必要不可欠になってきた。
このような極細線を製造する場合、上述した従来の方法を採用するには、伸線ダイスに銅線を通す際、図9(b)に示すように銅線先端部52aを溶剤57で溶かして銅線先端部を細くする必要がある。また、強制的に銅線先端部を伸ばして銅線先端部を細くすることも提案されている(例えば、特許文献1参照)。その上で、図9(c)に示すように、伸線ダイス54に通す作業を各伸線ダイス毎に作業者が行っていた。
【0004】
しかし、極細線用伸線ダイスの孔径は非常に小さいため、銅線先端部を正確に伸線ダイス孔部に通す作業は困難であり、熟練した作業者でなければ極細線の伸線作業は不可能であるだけでなく、熟練した作業者でも伸線ダイス通し作業に大きな時間を費やされるという不具合があった。
【0005】
そこで、この伸線ダイス孔部に銅線を通す作業を簡単にするために、専用のダイス通し治具を伸線ダイス部に設け、且つ伸線ダイス孔部をCCDカメラ等によってモニタに拡大表示させ、ダイス通し治具にてX、Y軸方向に微調整しながら伸線ダイス孔部に銅線を通す方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−197957号公報
【特許文献2】特開2007−29998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、モニタを使って微調整しながら伸線ダイス孔部に銅線を通す方式では、各伸線ダイスに対し、専用のダイス通し治具を用いての作業を行なうため、ダイスの数が増えると作業時間が多くかかることが懸念される。
【0008】
また、伸線ダイス孔部に線材を通した後、ダイス通し治具から伸線ダイスを取り外す際、線材が治具等により擦れて、伸び、捩れ切れ等により断線してしまう恐れがある。さら
に、CCDカメラ、モニタ等の拡大用機器の準備が必要となるため、作業性を考慮した設置場所の確保等が懸念される。
【0009】
本発明の目的は、伸線ダイスを使用せずに伸線加工を行なうことによって、伸線ダイス孔部に線材を通す作業時間を省略することが可能となり、高品質な極細線の加工、及び製造効率の安定化を図ることが可能な銅線の製造方法、および高品質な極細線からなる銅線を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、周上に断面略半円形のらせん溝を形成したローラを用いる銅線の製造方法であって、前記ローラの前記らせん溝に銅線をコイル状に巻き付け、前記ローラを回転させつつ、前記ローラの一端から前記らせん溝に送り出される前記銅線を、前記らせん溝より案内しながら移動させ、前記伸線ローラの他端から巻き取ることにより伸線する銅線の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の他の態様によれば、重合面で重合分離自在な伸線ローラと整形体とを有し、前記伸線ローラの周上に銅線の一部を受け入れる断面略半円形のらせん溝が形成され、前記伸線ローラに前記整形体を重合した状態で、前記重合面に前記伸線ローラのらせん溝と溝径が合致する複数の断面円形の孔が形成されるように、前記整形体の少なくとも前記重合面に断面略半円形の溝が形成された伸線治具を備え、前記整形体を前記伸線ローラから離間した状態で、前記銅線を、前記伸線ローラのらせん溝より案内しながら前記伸線ローラの周りにコイル状に巻き付け、前記巻き付けた前記銅線を前記伸線ローラと前記整形体との間に挟み込むように前記伸線ローラに前記整形体を重合した状態とし、前記伸線ローラを回転させつつ、前記伸線ローラの一端から前記らせん溝に送り出される前記銅線を、前記複数の断面円形内を順次移動させ、前記伸線ローラの他端から巻き取ることにより伸線する銅線の製造方法が提供される。
【0012】
前記本発明の他の態様において、前記整形体が前記伸線ローラと同じ構造のローラで構成されていることが好ましい。具体的には、次の通りである。
一対のローラを有し、各ローラの周上に断面略半円形のらせん溝が形成され、各ローラを平行にして前記一対のローラを重合した状態で、重合面に複数の断面円形の孔が形成されるように構成された伸線治具を備え、前記一対のローラを離間した状態で、前記いずれか一方のローラの前記らせん溝に銅線を巻き付け、前記巻き付けた前記銅線を前記一対のローラ間に挟み込むように前記一対のローラを重合した状態とし、前記一対のローラを回転させつつ、前記一方のローラの一端から前記らせん溝に送り出される前記銅線を、前記複数の断面円形孔内を順次移動させ、前記一方のローラの他端から巻き取ることにより伸線する銅線の製造方法。
【0013】
また、前記ローラはローラ軸方向に複数個に分割された分割ローラよりなっていてもよい。
【0014】
また、前記整形体が非回転体で構成されていてもよい。
【0015】
また、前記らせん溝の溝径が伸線方向に徐々に絞られ、最終溝径が前記銅線の所望線径と同径になっていることが好ましい。
【0016】
また、前記銅線の最終線径が30μm以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の更に他の態様によれば、上述した銅線の製造方法により製造された銅線が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、伸線ダイスを使用せずに伸線加工を行なうことによって、伸線ダイス孔部に線材を通す作業時間を省略することが可能となり、高品質な極細線の加工、及び製造効率の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態の銅線の製造方法において、銅線を伸線ローラのらせん溝に巻き付けた状態の図である。
【図2】本発明の一実施の形態の銅線の製造方法において、銅線を巻き付けた伸線ローラに整形ローラを重合させようとしている図である。
【図3】本発明の一実施の形態の銅線の製造方法において、伸線ローラと整形ローラとを重合させて回転させながら伸線している状態の図であって、(a)は正面図、(b)は左側面図である。
【図4】本発明の一実施の形態の銅線の製造方法において、伸線ローラから整形ローラを離間した状態の図である。
【図5】本発明の銅線の製造方法を実施するための一実施の形態の伸線治具の正面図であって、(a)は分離状態の正面図、(b)は重合状態の正面図、(c)は重合状態の断面図である。
【図6】本発明の銅線の製造方法を実施するための他の一実施の形態の伸線治具の説明図であって、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は底面を上にし左右を反転させた整形板の斜視図である。
【図7】本発明の銅線の製造方法を実施するための他の一実施の形態の伸線治具の正面図であり、各分割ローラが分離状態にある図である。
【図8】本発明の一実施の形態の伸線装置の全体を示す平面図である。
【図9】従来例の伸線装置及び伸線準備作業の説明図であって、(a)は伸線装置の平面図、(b)は溶剤で銅線先端部を細くするための準備作業を行っている断面図、(c)は伸線ダイスに銅線を通す作業を説明する銅線と伸線ダイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の種々の例示的な実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
既に述べた通り、銅線を伸線ダイス孔に通して伸線する方式では、ダイスの数が増えると作業時間が多くかかったり、伸線ダイスから線材を取り外す際、断線してしまったりする。
本発明の実施の形態によれば、伸線治具に形成した断面半円状のらせん溝に銅線を巻き付けて回転させながら伸線するため、銅線をダイス孔に通す必要がなくなるので作業性に優れており、伸線治具からの取り外し時でも伸び、捻れ切れがなく、さらにダイス孔に通すためのモニタなどの拡大用機器を必要としなくなる。このように、銅線を半円状のらせん溝に巻き付けて、回転させながら巻き取ることで、銅線をよりスムーズに伸線することが可能となる。
【0022】
[第1の実施の形態]
本発明の銅線の製造方法を実施するには、専用の伸線用治具を用いるので、まずこの伸線用治具から説明する。
【0023】
(伸線用治具)
図5は、本発明の一実施の形態の重合分離可能な伸線用治具の正面図であって、(a)は分離状態の正面図、(b)は重合状態の正面図、(c)は重合状態の断面図である。
【0024】
図5に示すように、伸線用治具100は、重合面101で重合分離自在な伸線ローラ105と整形体206とを有する。重合面101とは、整形体206を伸線ローラ105のローラ軸102と平行にして伸線ローラ105に重合した状態において、伸線ローラ105と整形体206とが相互に重ね合わさる面である。なお、通常は、伸線ローラ105と整形体206とを一対で用いることが好ましいが、伸線ローラ105を単独で使用する場合もある。また、整形体206は、通常、伸線ローラ105と同じ構造のローラで構成するのが好ましいが、異なっていてもよい。図示例では、整形体206は伸線ローラ105と同じ構造の整形ローラ106で構成されている。
【0025】
(伸線ローラ)
伸線ローラ105は円柱形をしている。なお、円筒形でも良い。伸線ローラ105は、ローラ軸102を中心に回転可能になっている。伸線ローラ105には伸線加工されるべき銅線(後述する)が巻き付けられる。銅線は銅からなる鋳造材である。伸線ローラ105の周上95に銅線の一部を受け入れる伸線部207となる溝107が形成されている。溝107はらせん状に形成されている。らせん溝107は伸線ローラ105の一端から他端に向けて(伸線方向に)形成されている。らせん溝107は断面略半円形をしている。らせん溝107の半円の径(以下、溝径rという)は、らせん溝107の伸線方向、即ち、らせん溝107の一端から他端に向かってに徐々に絞られていることが好ましい。伸線方向に対し溝径rを徐々に絞っていく構造とすることで、銅線を所望の線径に一気に引き落とすのではなく、徐々に銅線を絞っていくことができるようにする。伸線部207の最後に所望の線径になるよう、溝径rの最終形状を、銅線の所望の線径と同径にすることが好ましい。例えば、伸線部207の最終形状の溝径rは銅線の最終線径である30μm以下とする。
【0026】
らせんピッチpは、銅線の外径に応じて適切に選ぶ。伸線方向に対し溝径rを徐々に絞っていく構造とすることで、らせんピッチpは一端から他端にむかって狭くなっている。
【0027】
前述したらせん溝107は、図示例では、伸線ローラ105の一端から他端に向かって、右回りのらせん形状に形成されている。すなわち、伸線ローラ105を右回りに回転させることによって、らせん溝107にコイル状に巻き付けられる銅線は、そのらせん方向に従って移動することとなり、銅線を伸線方向に向かって伸線できるようになっている。なお、らせん溝107は、左回りのらせん形状に形成されていてもよい。
上述したらせん溝付伸線ローラは、たとえれば、ウォームギアに形状が似ていると言える。
【0028】
(整形体)
整形体206は、伸線ローラ105の長さと略同じ長さを有し、伸線ローラ105と重合した状態で伸線ローラ105に形成したらせん溝107を覆うことが可能になっている。そして、整形体206には、少なくとも重合面101に断面半円形の複数の溝208が形成されている。この整形体206に形成されている溝208は、伸線ローラ105に整形体206を重合した状態で、重合面101に伸線ローラ105のらせん溝107と溝径が合致する複数の断面円形の孔109が形成されるような溝としてある。
前述したように実施の形態によっては、整形体206は伸線ローラ105と同じ構造の整形ローラ106で構成されていることもある。
【0029】
(整形ローラ)
図5に示す実施の形態では、整形体206は伸線ローラ105と同じ構造をした整形ローラで106構成されている。整形ローラ106の溝も断面略半円形のらせん溝108であり、周上96に形成されている。水平に配置された伸線ローラ105は、例えば、整形
ローラ106を真上に持っている(図5(a))。伸線用治具100は、整形ローラ106と伸線ローラ105とを平行にして重合した状態で、重合面101に複数の断面円形の孔109が形成されるように構成されている(図5(b)、(c))。
【0030】
伸線ローラと整形ローラとの重合分離自在とは、伸線ローラ105と整形ローラ106とが相互に重合することが自在であり、また重合した伸線ローラ105及び整形ローラ106を互いに分離することが自在であるということである。
したがって、重合分離により、伸線ローラ105に形成したらせん溝107は開閉自在となり、伸線用治具100に巻き付ける銅線は、らせん溝107を開けたときには、閉めたときに形成される円形孔109に通すのではなく、開けたときに露出するらせん溝107に巻き付けることが可能となる。
【0031】
上述した伸線用治具100は、例えば、図8に示すように、液状潤滑油または水155に浸漬する。そして、送出しリール150から送り出した銅線152を、液状潤滑油または水155に浸漬しながら伸線用治具100に通して、巻取りリール151で巻き取ることにより伸線加工を連続的に行うようになっている。なお、伸線用治具100は1台でも良いが、複数台用いることも可能である。伸線用治具を複数台用いる場合、伸線用治具を直列配置にして同一ローラ軸上の巻き付け量を増加させるにしても、あるいは伸線用治具を並列配置にして銅線を架け渡すようにしてもよい。
【0032】
(伸線用治具を用いた銅線の製造方法)
【0033】
次に上述したような構成の伸線用治具を用いた銅線の製造方法を説明する。
図1〜図4は、伸線用治具100を用いた銅線の製造方法の一実施の形態を示す。
上述した伸線用治具100によれば、銅線を所望の伸線径に線引きしたい場合、伸線ローラ105から整形ローラ106を離間した状態とする。その上で、送出しリール150から繰り出した銅線152を、図1に示すように、伸線ローラ105に形成したらせん状の溝107に沿ってコイル状、例えば円形コイル状に巻き付ける。銅線152の巻き付け開始端は真下方向から始め、巻き付け終了端は斜め右下方向へ引き出す。
【0034】
巻き付け終了後、図2に示す様に、伸線ローラ105に対して整形ローラ106を重ね合わせる方向に組み付ける。この段階では、巻き付けた銅線の線径が全長で同じであるため、重合は十分ではない。そのため、伸線ローラ105に巻き付けた銅線152を、伸線ローラ105と整形ローラ106との間に挟み込むように整形ローラ106を伸線ローラ105に押圧する。整形ローラ106を伸線ローラ105に押圧した状態で、銅線102と、伸線ローラ105及び整形ローラ106のらせん状の溝107、108に馴染ませる様に伸線ローラ105及び整形ローラ108を回転させ、銅線152を伸線ローラ105に締め付けながら伸線方向に移動させる。伸線ローラ105は右回りに、整形ローラ106は左回りに回転させる。これにより、伸線ローラ105と整形ローラ106とが十分に重合した状態となる(図3)。
【0035】
その後、送出しリール150及び巻取りリール151を回転させる。これにより、一対のローラ105、106を回転させつつ、伸線ローラ105の一端かららせん溝107に送り出される銅線152を、複数の断面円形らせん孔109内を順次移動させ、伸線ローラ105の他端から連続的に巻き取ることにより伸線する。銅線152は複数の断面円形らせん孔109内を順次移動する過程で、断面円形に整形される。また、徐々に絞られた溝径rを持つらせん溝107に案内されることによって、銅線152が巻き取られた時点で、所望の線径に伸線される。
【0036】
図4は、伸線ローラ105上で伸線されている銅線152の様子を示すために、整形ロ
ーラ106を伸線ローラ105から便宜上離間させた説明図である。
【0037】
本実施の形態によれば、以下に挙げる一つまたはそれ以上の効果を奏する。
【0038】
(1)本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、銅線材を所望の線径に伸線する作業が容易になり、作業効率を向上することができる。特に、極細線の伸線が可能であることから、電子機器及び医療機器に適用してメリットがある。
(2)本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、らせん溝付の伸線ローラを用いて伸線するようになっており、伸線ダイスを用いないため、従来実施していたような工程、例えば、伸線ダイス孔に銅線を通す際に行なう先端部分を溶剤で溶かしたり、または矯正的に伸ばしたりといった、熟練された作業者のみしか出来ない極細線の伸線ダイスの孔通し工程が省略できる。このため、熟練者以外でも簡単に伸線作業が出来るだけでなく、作業時間を短縮できる。
(3)本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、整形ローラを伸線ローラから離間して伸線ローラのらせん溝を開放し、この開放したらせん溝に銅線を巻き付けるので、伸線ローラへの銅線の巻き付けが容易である。また、伸線ダイスを用いていた時のように、伸線ダイスに通す際の伸線作業中の伸び、振れ断線発生もなくなるため、高品質な極細線の加工、及び製造効率の安定化が図られ、常に安定した極細線の製造が可能となる。
(4)本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、銅線がすべり回転しながら、らせん溝に沿って伸線するので、断面円形を確保した伸線が可能となる。これにより極細線を扱うことができる。
(5)本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、伸線ローラに形成したらせん溝の溝径が伸線方向に徐々に絞られているので、伸線ローラから巻き取るだけで、所定の線径を容易に得ることができる。
(6)本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、伸線時は、伸線ローラと整形ローラとを重合して、銅線の断面形状を、複数の断面円形らせん孔内を順次移動する段階で整形するようにしたので、さらに断面円形を確保した高品質な伸線が可能となる。これにより、例えば、線径12mm〜8mmの銅荒引き線から、最終線径を10μm〜30μmまでの銅伸線材に伸線加工することが可能となる。
(7)本発明の一つ又はそれ以上の実施の形態によれば、伸線ローラと整形ローラとを同じ構造のローラとすることができるので、構造が簡単で、使い勝手が向上する。また、伸線ダイス孔管理も省略でき、メンテナンスが簡単になり、コストがかからないというメリットも期待できる。
【0039】
[第2の実施の形態]
上述した実施の形態では、伸線ローラ105と整形ローラ106とからなる一対のローラを使用する場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、伸線ローラ105を単独使用して伸線を行うようにしてもよい。これによれば、周上95に断面半円形のらせん溝107に沿わせて伸線するので、上述した実施の形態と同様に、熟練者以外でも簡単に伸線作業が出来るだけでなく、作業時間を短縮できる。したがって、伸線ローラ105に対する整形ローラ106の付加は任意である。また、この場合において、特に伸線ローラ105に形成するらせん溝107の溝径rは徐々に絞る必要はなく、一定の径であってもよい。らせん溝107に沿って伸線すれば、おのずと線径が細くなって行くからである。
【0040】
[第3の実施の形態]
図6は、本発明の銅線の製造方法を実施するための第3の実施の形態の伸線用治具の正面図である。図5に示した伸線用治具との相違点は、整形体206を回転体ではなく、非回転体で構成し、固定式とした点である。
【0041】
整形体206は、固定し易い様に、上面部にフラット構造を備えている。例えば、矩形の整形板116で構成することができる。この整形板116は、重合面101となる底面に、断面略半円形の複数の溝118が形成されている。この溝118は、伸線ローラ105のローラ軸102と平行にして整形板116を伸線ローラ105に重合した状態で、重合面101に伸線ローラ105のらせん溝107と溝径rが合致する複数の断面半円形の孔109が形成されるように、構成されている。
【0042】
銅線を伸線ローラ105に形成したらせん溝107に沿って巻き付け、その後、伸線ローラ105と整形板106とを重ね合わせて、伸線ローラ105のみを回転させることにより、伸線する。このような伸線用治具100であっても、整形板116が銅線を断面円形に整形するので、図1〜図4に示した第1の実施の形態の伸線用治具と同様の技術的効果が得られる。
【0043】
[第4の実施の形態]
図7は、本発明の銅線の製造方法を実施するための第4の実施の形態の伸線用治具の正面図である。図5に示した伸線用治具との相違点は、一対のローラを分割した点である。
【0044】
伸線ローラ105及び整形ローラ106は、ローラ軸方向に複数個に分割された分割ローラ105a、106aより構成されている。分割ローラ105a、106aは各ローラ102、103軸に対して回転自在に遊嵌され、使用時にはローラ軸102、103上を滑って移動して合体し、一体的な伸線ローラ105、整形ローラ106になる。合体した伸線ローラ105、整形ローラ106は、図5のそれらと同じものとなる。
【0045】
したがって、図7に示した伸線用治具100であっても、図5と同様の技術的効果が得られる。特に、この実施の形態によれば、各ローラ105、106がローラ軸102、103方向に分割されているので、各分割ローラ105a、106aを伸線径に応じた速度で回転させることが可能となり、より高品質な極細線の加工、及び製造効率の安定化が図られる。また、軸方向に分割されているので、組立・分解が容易で、ローラ交換作業が容易になる。
【符号の説明】
【0046】
95 伸線ローラの周上
96 整形ローラの周上
107 らせん溝
105 伸線ローラ
106 整形ローラ(整形体)
108 溝(らせん溝)
109 円形孔
100 伸線用治具
102 伸線ローラのローラ軸
103 整形ローラのローラ軸
101 重合面
152 銅線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周上に断面略半円形のらせん溝を形成したローラを用いる銅線の製造方法であって、
前記ローラの前記らせん溝に銅線をコイル状に巻き付け、
前記ローラを回転させつつ、前記ローラの一端から前記らせん溝に送り出される前記銅線を、前記らせん溝より案内しながら移動させ、前記伸線ローラの他端から巻き取ることにより伸線する銅線の製造方法。
【請求項2】
重合面で重合分離自在な伸線ローラと整形体とを有し、
前記伸線ローラの周上に銅線の一部を受け入れる断面略半円形のらせん溝が形成され、
前記伸線ローラに前記整形体を重合した状態で、前記重合面に前記伸線ローラのらせん溝と溝径が合致する複数の断面円形の孔が形成されるように、前記整形体の少なくとも前記重合面に断面略半円形の溝が形成された伸線治具を備え、
前記整形体を前記伸線ローラから離間した状態で、前記銅線を、前記伸線ローラのらせん溝より案内しながら前記伸線ローラの周りにコイル状に巻き付け、
前記巻き付けた前記銅線を前記伸線ローラと前記整形体との間に挟み込むように前記伸線ローラに前記整形体を重合した状態とし、
前記伸線ローラを回転させつつ、前記伸線ローラの一端から前記らせん溝に送り出される前記銅線を、前記複数の断面円形孔内を順次移動させ、前記伸線ローラの他端から巻き取ることにより伸線する銅線の製造方法。
【請求項3】
前記らせん溝の溝径が伸線方向に徐々に絞られ、最終溝径が前記銅線の所望線径と同径になっている請求項1または2に記載の銅線の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の銅線の製造方法により製造された銅線。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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