説明

鋏の製造方法

【課題】意匠性に富み、かつ、軽量な鋏が、簡単、かつ、低廉なコストで得られる技術を提供することである。
【解決手段】鋏体の適宜な箇所に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、前記貫通孔形成工程で形成された貫通孔に流動性樹脂材料を充填する充填工程と、前記充填工程で充填された樹脂材料を硬化させる硬化工程と、前記硬化工程を経て硬化した樹脂の表面を研磨する表面研磨工程とを具備する鋏の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋏に関する。特に、意匠性に富む鋏に関する。
【背景技術】
【0002】
キューティクルニッパや理・美容用の鋏と言った各種の鋏の材料は、その殆どが、ステンレス鋼である。
【0003】
ところで、鋏の軽量化を目的として、ステンレス鋼より軽量な材料を用いることが提案されている。例えば、チタン合金やセラミック材料が提案されている。或いは、鋏の全体をプラスチックで形成し、刃先部分だけをステンレス鋼にすることも提案されている。
【0004】
しかしながら、チタン合金は加工が困難である。又、セラミック材料は脆い問題が有る。そして、全体がプラスチック製の鋏は見栄えが悪い問題が有る。この為、何れの提案の鋏も普及していない。すなわち、依然として、ステンレス鋼製の鋏が殆どである。
【0005】
又、軽量化を目的として、鋏を細身にすることが提案されている。
【0006】
しかしながら、鋏は、鋏を閉じる際に、刃体同士が適切な触圧を伴って閉じられる必要が有る。従って、鋏を余り細身には出来ない。又、鋏の柄部を細身にすると、髪を切る時、僅かながらも柄部に撓みが生じる。この為、鋏を扱う際の感触が悪くなり、感覚に狂いが起き、カットの作業性が低下する。
【0007】
又、鋏の軽量化を目的として、貫通孔を形成することが提案(特許第3876371号)されている。
【特許文献1】特許第3876371号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
さて、上記特許文献1の如く、鋏の柄部に貫通孔を形成すると、鋏は、それだけ、軽量化する。従って、貫通孔の形成は軽量化の点からは好ましい。
【0009】
しかしながら、貫通孔の径が小さいと、軽量化の効果は大きく無い。従って、貫通孔の径はある程度の大きさを有するものでなければならない。
【0010】
ところが、径の大きな貫通孔が柄部に形成されていると、それは、不自然なものとなる。又、カットした髪の毛が入り込んだりすると、それは、それで、カットに際して気になる。従って、余計な貫通孔は無い方が好ましい。
【0011】
さて、上記特許文献1では、その意図が明記されていないものの、形成された貫通孔がプラスチック材で塞がれている。例えば、カラーのプラスチック板を貫通孔に被せることが提案されている。又、貫通孔の内周面形状に形成した合成樹脂などの弾性体を詰め込むことが提案されている。
【0012】
しかしながら、貫通孔にプラスチック板を被せることは簡単では無い。又、貫通孔の内周面形状に形成した合成樹脂などの弾性体を詰め込むことも簡単では無い。
【0013】
なぜならば、先ず、被せるプラスチック板や詰め込む合成樹脂弾性体を貫通孔形状に合わせて形成すること自体が大変である。例えば、軽量化の為に貫通孔の大きさを大きくしているとは言うものの、例えば柄部に形成される貫通孔の内径は、せいぜい、1cm程度である。指環部に形成される貫通孔は更に小さい。そして、殆どの場合はもっと小さい。そうすると、そのような小さなプラスチック板や合成樹脂弾性体の形成は大変である。
【0014】
又、貫通孔形状に合わせた小さなプラスチック板や合成樹脂弾性体が出来たとしても、これを貫通孔に配設する作業が厄介である。
【0015】
しかも、配設作業に際して、プラスチック板や合成樹脂弾性体を傷付ける恐れが高い。そして、傷付けた場合には、商品価値が無くなってしまう。
【0016】
尚、配設作業に際して傷付けたプラスチック板や弾性体の表面を研磨することによって表面傷を無くすことが考えられる。しかしながら、プラスチック板や弾性体自体が貫通孔に強固に固着されているものでは無いことから、表面研磨が非常に厄介である。例えば、取り外れたりする。
【0017】
以上の通り、鋏の柄部に貫通孔を形成し、この貫通孔の箇所に貫通孔形状のプラスチック板や合成樹脂弾性体を配設する特許文献1の技術は、実際には、種々の問題が残されていることが判って来た。
【0018】
特に、嵌め込んだプラスチック板の意匠性を高める為、嵌着後にプラスチック板を研磨しようとすると、嵌め込んだプラスチック板は貫通孔から取れ易く、研磨自体が大変なものであった。尚、嵌め込んだ合成樹脂弾性体の研磨は、弾性体であるが故に、研磨字体が非常に困難である。
【0019】
従って、本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を解決することである。特に、意匠性に富む鋏を提供することである。又、軽量な鋏を提供することである。特に、意匠性に富み、かつ、軽量な鋏が、簡単、かつ、低廉なコストで得られる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記の課題は、
鋏体の適宜な箇所に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔形成工程で形成された貫通孔に流動性樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填工程で充填された樹脂材料を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程を経て硬化した樹脂の表面を研磨する表面研磨工程
とを具備することを特徴とする鋏の製造方法によって解決される。
【0021】
或いは、鋏半体の適宜な箇所に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔形成工程で形成された貫通孔に流動性樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填工程で充填された樹脂材料を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程を経て硬化した樹脂の表面を研磨する表面研磨工程と、
前記表面研磨工程を経て得られた鋏半体と、該鋏半体と対になる鋏半体とを組み合わせて鋏とする組立工程
とを具備することを特徴とする鋏の製造方法によって解決される。
【0022】
又、上記の鋏の製造方法であって、流動性樹脂材料の充填工程は、貫通孔の孔周縁ラインで形成される面よりも盛り上がるように流動性樹脂材料が流し込まれて充填される工程であることを特徴とする鋏の製造方法によって解決される。
【0023】
又、上記の鋏の製造方法であって、樹脂が熱硬化性樹脂である
ことを特徴とする鋏の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0024】
鋏体の適宜な箇所に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、前記貫通孔形成工程で形成された貫通孔に流動性樹脂材料を充填する充填工程と、前記充填工程で充填された樹脂材料を硬化させる硬化工程と、前記硬化工程を経て硬化した樹脂の表面を研磨する表面研磨工程を経て得られた鋏は、金属材より軽量な樹脂材が用いられたことから、それだけ、軽量化が図られる。
【0025】
しかも、特許文献1の如く、樹脂材を貫通孔の形状に、予め、成形しておく必要が無い。従って、それだけ、簡単、かつ、低廉なコストで出来る。
【0026】
そして、貫通孔に流動性樹脂材料を充填することによって、貫通孔には隙間無く樹脂が密着・充填される。そして、隙間無く密着・充填された樹脂は、充填後に行われる、例えば加熱・硬化によって、貫通孔に対して強固にくっ付いたものとなる。従って、この後で行われる研磨作業に際して、充填樹脂が揺らぐことも無く、研磨が良好に行われた。そして、研磨が上手く出来たことから、充填樹脂による意匠性が優れたものとなった。
【0027】
すなわち、単に、樹脂を充填しただけであるならば、意匠性は高くなかった。つまり、意匠性を高めるには研磨工程が必要であったが、特許文献1の如きの場合には、この研磨が上手く出来ず、意匠性の向上が図れなかったのに対して、本願発明の如くにさせることによって、この研磨が初めて可能になったのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は鋏の製造方法である。そして、鋏体の適宜な箇所(例えば、柄部とか指環部など)に貫通孔を形成する貫通孔形成工程を有する。又、前記貫通孔形成工程で形成された貫通孔に流動性樹脂材料を充填する充填工程を有する。又、前記充填工程で充填された樹脂材料を硬化させる硬化工程を有する。又、前記硬化工程を経て硬化した樹脂の表面を研磨する表面研磨工程を有する。或いは、鋏半体の適宜な箇所(例えば、柄部とか指環部など)に貫通孔を形成する貫通孔形成工程を有する。又、前記貫通孔形成工程で形成された貫通孔に流動性樹脂材料を充填する充填工程を有する。又、前記充填工程で充填された樹脂材料を硬化させる硬化工程を有する。又、前記硬化工程を経て硬化した樹脂の表面を研磨する表面研磨工程を有する。又、前記表面研磨工程を経て得られた鋏半体と、該鋏半体と対になる鋏半体とを組み合わせて鋏とする組立工程を有する。前記充填工程は、好ましくは、特に、貫通孔の孔周縁ラインで形成される面よりも盛り上がるように流動性樹脂材料が流し込まれて充填される工程である。そして、樹脂は、好ましくは熱硬化性樹脂である。尚、樹脂としては紫外線照射硬化性樹脂を用いることも出来る。しかしながら、熱硬化性樹脂を用いた場合、加熱によって簡単に硬化させることが出来る。従って、熱硬化性樹脂を用いるのが最も簡単である。そして、この場合には、硬化工程は加熱工程である。
【0029】
以下、更に、具体的に説明する。
【0030】
図1〜図4は本発明になる鋏の製造工程を示す説明図であり、図1は鋏(鋏半体)に貫通孔を形成した段階での平面図、図2は貫通孔に流動性樹脂材料を充填した段階での側面図、図3は表面研磨した段階での側面図、図4は鋏半体と鋏半体とを組み合わせて鋏とした段階での斜視図である。
【0031】
各図中、1a,1bは、例えばステンレス鋼と言った金属で出来た鋏半体である。この鋏半体1a,1bは、各々、刃部3a,3bと、柄部4a,4bと、指環部5a,5bとで構成されている。そして、鋏Xは、鋏半体1aと鋏半体1bとが螺子2で組み合わされて構成されたものである。尚、このような構成は、既に、良く知られているから、詳細は省略される。
【0032】
6aは、鋏半体1aの柄部4aや指環部5aに形成された貫通孔である。6bは、鋏半体1bの柄部4bや指環部5bに形成された貫通孔である。すなわち、図1や図4に示される通り、鋏半体1aと鋏半体1bとが螺子2で組み付けられる前の段階(鋏半体の段階)で、鋏半体1a,1bの適宜な箇所に貫通孔6a,6bが形成されている。尚、一方の鋏半体1aに貫通孔6aが形成されるのみでも良い。すなわち、他方の鋏半体1bには貫通孔6bが形成されてなくても良い。
【0033】
そして、図1に示される貫通孔形成工程の後、図2に示される如く、貫通孔6a,6bには、流動性を有するエポキシ系樹脂と言った熱硬化性樹脂材料7a,7bが流し込まれて充填される。尚、この充填に際しては、図示していないが、樹脂充填用の受枠が配置されている。そして、樹脂材料が流動性を有していることから、流し込まれた樹脂材料は貫通孔6a,6bの隅々まで隈なく行き渡るようになる。すなわち、貫通孔6a,6bの内面に隙間無く密着した状態で熱硬化性樹脂材料(好ましくは、染料あるいは顔料などの着色剤が添加)7a,7bが充填される。又、樹脂材料の充填は、加熱硬化後において、硬化樹脂の表面が貫通孔表面よりも盛り上がっている如くに充填される。すなわち、(樹脂材料の充填量V1)>(貫通孔6a,6bの内容積V2)である量の樹脂材料が貫通孔6a,6bに流し込まれる。
【0034】
樹脂材料の充填後、乾燥炉に入れられて加熱され、充填樹脂材料は硬化させられる。尚、充填された熱硬化性樹脂材料7a,7bの硬化体8a,8bの表面は、(樹脂材料の充填量V1)>(貫通孔6a,6bの内容積V2)であることから、貫通孔6a,6bの表面よりも盛り上がったものである。又、貫通孔6a,6bの周囲の金属材の表面(上面や下面)にも付着している。
【0035】
硬化後、図3に示される如く、充填樹脂の硬化体8a,8bの表面が研磨され、貫通孔6a,6bが形成される前段階と同等な表面形状のものとなる。そして、樹脂材(硬化体8a,8b)表面が研磨されてなることから、意匠性に富んだ鋏半体1a,1bが得られる。
【0036】
そして、得られた鋏半体1aと鋏半体1bとを螺子2で組み付けることによって、図4に示される如きの本発明になる鋏Xが得られる。
【0037】
尚、上記の実施形態では、充填樹脂硬化体8a,8bの表面研磨後に、螺子で鋏半体同士を組み付けたが、貫通孔が形成された鋏半体同士を螺子で組み付けた後、流動性を有するエポキシ系樹脂と言った熱硬化性樹脂材料7a,7bを貫通孔に流し込んで充填し、硬化後に表面研磨するようにしても良い。但し、鋏半体同士を組み合す前に表面研磨する方が表面研磨を遣り易い。従って、樹脂充填・硬化・表面研磨のされた鋏半体を組み合すようにすることが好ましい。
【0038】
又、上記実施形態では、美容鋏(理容鋏)の如きの鋏で説明したが、図5に示される如きキューティクルニッパであっても同様である。尚、図5中、10a,10bは半体である。11aは、半体10aの柄部に形成された貫通孔に流し込まれて充填された樹脂が硬化させられた後、表面研磨された充填樹脂硬化体である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】貫通孔を形成した段階での鋏半体の平面図
【図2】貫通孔に流動性樹脂材料を充填した段階での鋏半体の側面図
【図3】表面研磨した段階での鋏半体の側面図
【図4】本発明の製造工程を経て得られた鋏の斜視図
【図5】本発明の製造工程を経て得られた鋏(キューティクルニッパ)の斜視図
【符号の説明】
【0040】
1a,1b 金属製の鋏半体
6a,6b 貫通孔
7a,7b 熱硬化性樹脂材料
8a,8b,11a 樹脂硬化体


代 理 人 宇 高 克 己


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋏体の適宜な箇所に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔形成工程で形成された貫通孔に流動性樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填工程で充填された樹脂材料を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程を経て硬化した樹脂の表面を研磨する表面研磨工程
とを具備することを特徴とする鋏の製造方法。
【請求項2】
鋏半体の適宜な箇所に貫通孔を形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔形成工程で形成された貫通孔に流動性樹脂材料を充填する充填工程と、
前記充填工程で充填された樹脂材料を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程を経て硬化した樹脂の表面を研磨する表面研磨工程と、
前記表面研磨工程を経て得られた鋏半体と、該鋏半体と対になる鋏半体とを組み合わせて鋏とする組立工程
とを具備することを特徴とする鋏の製造方法。
【請求項3】
充填工程は、貫通孔の孔周縁ラインで形成される面よりも盛り上がるように流動性樹脂材料が流し込まれて充填される工程である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の鋏の製造方法。
【請求項4】
樹脂が熱硬化性樹脂である
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの鋏の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−17290(P2010−17290A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179088(P2008−179088)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(500174812)株式会社ヒカリ (7)
【Fターム(参考)】