説明

【課題】 作業中に、髪を挟んだ指を傷つけることなく、安全に作業をすることができる鋏を提供する。
【解決手段】 鋏1に、夫々刃部2a,2b及び持部3a,3bを有する一対の鋏片4a,4bと、刃部2a,2bと持部3a,3bとの間に位置し、一対の鋏片4a,4bを互いに回動可能に枢着する枢着部5と、枢着部5から夫々の刃部2a,2bの先端までの距離が互いに略等しい第一使用状態と、前記枢着部5から夫々の刃部2a,2bの先端までの距離が互いに異なる第二使用状態との間で、使用状態を切替可能とする切替手段とを具備させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理髪店や美容院等で使用される理美容用の鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、理髪店や美容院などでは、客の注文に応じて髪の長さやボリュームを調整するための手技が用いられている。例えば、髪の長さを直線状に揃える場合には、図4(A)に示すように、ある一定の分量の髪91を指92で挟むとともに、これらの髪91を挟んだ指92と鋏の刃部93a,93bが略平行になるように、他方の手で鋏を操作することで髪91を揃えてカットする手技が用いられる。
【0003】
ところが、髪を直線状に揃えるだけでは、カット跡の直線が目立ち過ぎてしまうことから、最近では、自然な仕上がりで柔らかいイメージの髪型を要望する顧客が多い。
【0004】
そこで、このような場合には、図4(B)に示すように、ある一定の分量の髪91を指92で挟み、刃部93a,93bの先端が指92の方を向くように、髪91に対して斜めに少しずつカットすることで、全体的に毛先が鋸歯状となるようにする手技が用いられる。
【0005】
上記の技術は、当業者においては当然のごとく知られているものであり、本出願人は、本願出願時において、上記の技術が記載されている文献を知見していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図4(B)に示す手技では、毛先に対する細かな作業であることから髪91を挟む指92と刃部93a,93bの先端とが接近した状態でカットが繰り返され、しかも刃部93a,93bの先端が指92の方を向いた状態で作業が行われるため、刃部93a,93bの先端部分で指92を挟む恐れがあった。特に、理美容業に従事している者は、髪の仕上がりに気を配りながら、速い操作でカットを繰り返すため、鋏によって指先を傷つけることが多々あった。
【0007】
そこで、本発明は上記の実情に鑑み、作業中に、髪を挟んだ指を傷つけることなく、安全に作業をすることができる鋏の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鋏は、「夫々刃部及び持部を有する一対の鋏片と、前記刃部と前記持部との間に位置し、前記一対の鋏片を互いに回動可能に枢着する枢着部と、前記枢着部から夫々の前記刃部の先端までの距離が互いに略等しい第一使用状態と、前記枢着部から夫々の前記刃部の先端までの距離が互いに異なる第二使用状態との間で、使用状態を切替可能とする切替手段とを具備する」構成とするものである。
【0009】
ここで、髪を切断することができる切断部は、夫々の刃部が互いに対向する側に形成されており、枢着部を支点として持部を開閉させることにより、夫々の刃部が開閉し、切断部が協働して髪を切断することができる。また切替手段としては、一対の鋏片を互いにスライドさせることにより切替られるもの、枢着部を二箇所設けて、何れか一方の鋏片を付け替えることで切替られるもの、などを例示することができる。
【0010】
本発明によると、第二使用状態にあるときは、枢着部から夫々の刃部の先端までの距離が互いに異なるため、突出している側の刃部の先端が指に当接することはあっても、刃部を閉じた際に、刃部の先端で指が双方から挟みつけられることはない。したがって指を傷つけることはなく、安全に作業することできる。
【0011】
また、切残しの処理など刃部の先端で行う細かい処理は、第二使用状態では不向きな場合がある。しかしながら、第一使用状態に切替えることにより、通常の鋏と同様に刃部の先端で細かな処理を行うことも可能になる。したがって、第一使用状態と第二使用状態との間で使用状態を切り替えることで、一つの鋏を利用して、毛先を鋸歯状にカットする作業を安全に行わせることができるとともに、刃先を使った細かな作業も容易に行わせることができる。
【0012】
本発明に係る鋏は、「前記一対の刃部は、互いに重なる閉位置から、通常使用範囲の上限開度となる開位置を経て、前記通常使用範囲を逸脱する不使用位置までの間で、開閉可能に枢着されており、前記切替手段は、前記通常使用範囲における前記使用状態の切替を規制する切替規制手段を備える」構成とすることもできる。
【0013】
ここで通常使用範囲とは、夫々の持部の一方に親指を挿通し、他方の持部に親指以外の指を挿通し、一対の鋏片を持部により、枢着部を支点として刃部開閉させ、髪を切ることが可能な範囲のことである。
【0014】
本発明によると、切替規制手段により、髪を切っている最中に、使用者の意思に反して使用状態が切り替わるのを防止することができる。
【0015】
本発明に係る鋏は、「前記枢着部は、何れか一方の前記鋏片に設けられ、径方向の長さが周方向において変化する非真円形状の軸芯と、他方の前記鋏片に形成され、前記軸芯が前記第一使用状態で嵌挿される第一孔部、前記軸芯が前記第二使用状態で嵌挿される第二孔部、及び前記第一孔部及び第二孔部を連通し前記軸芯を挿通可能とする連通孔部とを有し、前記切替規制手段は、前記軸芯の最大直径を、前記連通孔部の幅よりも大きくすることにより切替を規制する」構成とすることもできる。
【0016】
ここで、非真円形状は、鋏片の回動の妨げにならない滑らかな形状が望ましく、楕円、長円などを例示することができる。
【0017】
本発明によると、軸芯を第一孔部に嵌挿させると第一使用状態となり、軸芯を第二孔部に嵌挿させると第二使用状態となる。そして、軸芯を連通孔部にて挿通させることにより、軸芯が嵌挿する孔部を切替えることが可能になり、これにより使用状態が切替えられる。また、軸芯の形状は非真円であり、さらに連通孔部の幅よりも軸芯の最大直径の方が大きいため、ある一定の角度で軸芯と連通孔部が互いに対向しないと、軸芯は連通孔部を通過することができない。こうして軸芯の挿通を規制することで、使用状態が切り替わるのを規制している。
【0018】
したがって、切替手段及び切替規制手段は、一つの軸芯と、第一孔部、第二孔部及び連結孔部が一体となった孔部とからなるものであり、複雑な機構を用いていないため、製造コストを安価なものとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、作業中に髪を挟んだ指を傷つけることなく、安全に作業をすることができ、さらに、使用状態を切替えることで、細かい処理を刃部の先端を使って行うこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施するための最良の一実施形態である鋏について、図1乃至図3に基づき説明する。図1は本発明の鋏の一例を示す全体図であり、図2は図1の鋏の分解斜視図であり、図3(A)は図1の鋏の使用状態が切り替わる様子を示す説明図であり、図3(B)は、その時の要部を拡大して示す拡大図である。
【0021】
本実施形態の鋏1は、夫々刃部2a,2b及び持部3a,3bを有する一対の鋏片4a,4bと、刃部2a,2bと持部3a,3bとの間に位置し、一対の鋏片4a,4bを互いに回動可能に枢着する枢着部5とを備えている。
【0022】
夫々の刃部2a,2bの互いに対向する側に切断部6a,6bが形成されている。また枢着部5は、鋏片4aに溶着された軸芯7と、鋏片4bに形成された孔部8とからなるものであり、孔部8は、第一孔部9a、第二孔部9b及びその間の連通孔部10から構成されている。なお、軸芯7に設けられたネジ孔11とネジ孔11に嵌合可能なネジ12とにより、鋏片4aと鋏片4bとは回動可能に枢着されている。ここで、軸芯7と孔部8とを組み合わせることで、本発明における切替手段が構成されている。
【0023】
軸芯7は、図2に示すように、円形から円弧を平行に切り取られ、径方向の長さが周方向において変化する長円状をしており、第一孔部9aと第二孔部9bとは、夫々軸芯7の最大直径と略同径からなる円形状となっている。また挿通孔部10は、軸芯7の最大直径L1(図3(B)参照)よりも小寸で、かつ軸芯7における最小幅L2よりも大寸である。ここで、軸芯7の最大直径L1を連通孔部10の幅よりも大きくすることにより、本発明における切替規制手段を構成している。
【0024】
次に、本実施形態の鋏1の作用及び使用方法について説明する。鋏1を用いて、直線状のカットや細かい処理などを行うときは、軸芯7を第一孔部9aに嵌挿させる。このとき、枢着部5から刃部2a及び刃部2bの先端までの距離が互いに略等しくなり(第一使用状態)、通常用いられる鋏と同様の形態となる。なお、図1では第一使用状態における鋏片4bの位置を二点鎖線で示している。
【0025】
また、鋏1を用いて毛先を鋸歯状にカットするために、刃部2a,2bの先端を指の方に向けて作業をするときは、軸芯11を第二孔部9bに嵌挿させ、枢着部5から刃部2a及び刃部2bの先端までの距離が互いに異なる状態(第二使用状態)を形成する。なお、本実施形態では刃部2bの先端が突出しており、図1では第二使用状態における鋏片4bの位置を実線で示している。
【0026】
鋏1を第一使用状態及び第二使用状態との間で切り替えるには、持部3a,3bを夫々の手で握り、鋏片4a,4bを開いていき、軸芯7の長径方向と連通孔部10の幅方向とが直角となる角度で、鋏片4a,4bを互いに摺動させて、軸芯7を連通孔部10に挿通させて第一孔部9aまたは第二孔部9bに嵌挿させる。
【0027】
なお、持部3a,3bに指をかけて刃部2a,2bを開閉させる通常使用範囲(図3(A)二点鎖線参照)においては、軸芯7の長径方向と連通孔部10の幅方向とが直角にならないため、作業中に軸芯7が連通孔部10を挿通することはない。ここで、通常使用範囲とは、夫々の持部3a,3bの一方に親指を挿通し、他方に親指以外の指を挿通し、一対の鋏片4a,4bを、持部3a,3bの開閉により、枢着部5を支点として刃部2a,2b開閉させ、髪を切ることが可能な範囲である。
【0028】
このように、本実施形態の鋏1によると、第二使用状態にあるときは、枢着部5から刃部2a、刃部2bの先端までの距離が互いに異なるため、突出している刃部2bの先端が指に当接することがあっても、刃部2a,2bを閉じる際に刃部2a,2bの先端で指が双方から挟みつけられることはない。したがって、指を傷つけることはなく、安全に作業することできる。
【0029】
また、切残しの処理など刃部2a,2bの先端で行う細かい処理は、鋏1が第二使用状態では不向きな場合がある。しかしながら、鋏1を第一使用状態に切替えるようにすれば、通常の鋏と同様に刃部2a,2bの先端で細かな処理を行うことも可能になる。したがって、第一使用状態と第二使用状態との間で使用状態を切り替えることで、一つの鋏1を利用して、毛先を鋸歯状にカットする作業を安全に行わせることができるとともに、刃部2a,2bの先端を使った細かな作業を容易に行わせることができる。
【0030】
また、鋏1は切替規制手段を備えているため、髪を切っている最中に、使用者の意思に反して使用状態が切り替わるのを防止することができる。
【0031】
さらに、切替手段及び切替規制手段は、一つの軸芯7と、孔部8とからなるものであり、複雑な機構を用いていないため、鋏1の低廉化を図ることができる。
【0032】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0033】
本実施例では、軸芯7として、断面が長円形状のものを示したが、楕円の形状からなる軸芯でもよい。また、本実施例では、第一孔部9a、第二孔部9b及び連通孔部10からなる孔部8を示したが、第一孔部9aと第二孔部9bとが夫々離間したものであってもよい。この場合、軸芯にネジを用いることで、軸芯を一方の孔部から取外し、他方の孔部に装着させることができる。ただし、上記実施形態のように連通孔部10を備えるようにすれば、各鋏片4a,4bを分離させることなく、切り替えることができるため、使い勝手に優れる。
【0034】
また、夫々の刃部2a,2bのいずれか一方を複数の櫛刃からなるすき刃としてもよい。さらに理美容用の鋏だけでなく、紙を切断する文具用の鋏、布地を裁断する裁断用の鋏等、他の鋏においても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の鋏の一例を示す全体図である。
【図2】本発明の鋏の分解斜視図である。
【図3】(A)は本発明の鋏の使用状態が切り替わる様子を示す説明図であり、(B)は、その時の要部を拡大して示す拡大図である。
【図4】(A)は従来の鋏で髪を直線状にカットするときの様子を示す説明図であり、(B)は従来の鋏で髪を鋸歯状にカットするときの様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 鋏
2a,2b 刃部
3a,3b 持部
4a,4b 鋏片
5 枢着部
7 軸芯
9a 第一孔部
9b 第二孔部
10 連通孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
夫々刃部及び持部を有する一対の鋏片と、
前記刃部と前記持部との間に位置し、前記一対の鋏片を互いに回動可能に枢着する枢着部と、
前記枢着部から夫々の前記刃部の先端までの距離が互いに略等しい第一使用状態と、前記枢着部から夫々の前記刃部の先端までの距離が互いに異なる第二使用状態との間で、使用状態を切替可能とする切替手段と
を具備することを特徴とする鋏。
【請求項2】
前記一対の刃部は、互いに重なる閉位置から、通常使用範囲の上限開度となる開位置を経て、前記通常使用範囲を逸脱する不使用位置までの間で、開閉可能に枢着されており、
前記切替手段は、前記通常使用範囲における前記使用状態の切替を規制する切替規制手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の鋏。
【請求項3】
前記枢着部は、
何れか一方の前記鋏片に設けられ、径方向の長さが周方向において変化する非真円形状の軸芯と、
他方の前記鋏片に形成され、前記軸芯が前記第一使用状態で嵌挿される第一孔部、前記軸芯が前記第二使用状態で嵌挿される第二孔部、及び前記第一孔部及び第二孔部を連通し前記軸芯を挿通可能とする連通孔部と
を有し、
前記切替規制手段は、前記軸芯の最大直径を、前記連通孔部の幅よりも大きくすることにより切替を規制することを特徴とする請求項2に記載の鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−255106(P2006−255106A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−75771(P2005−75771)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(397076888)株式会社刃物屋トギノン (8)
【Fターム(参考)】