説明

鋳型、鋳型の製造方法、鋳造物の生産方法

【課題】鋳型を製造するための技能を身に付けるには長年の経験を要し、熟練した技能を有する者であっても所望の鋳型を製造するには多大な時間を要するという問題があった。また、特殊な機械を製造して行う方法は、一品製作物である鋳物の鋳型に対しては製造コストの負担が大きく、かえって効率が悪いという問題もあった。
【解決手段】本実施例の鋳型の製造方法は、格子状模型の各区画に鋳物砂等の充填物を詰め込んで鋳型の所望の曲面を形成し、目的とする鋳型を製造する方法である。当該格子状模型は一般的な工作機械によって製作可能な板状の仕切りから構成されるため製造が容易であり、複雑な曲面を有する鋳型を短期間で製造することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複雑な曲面を有する鋳型の製造は、熟練した技能と知識を有する者が成型用工具を用いて手作業で作り上げるのが一般的であった。例えば、プロペラ翼の鋳型を製造する場合は、挽き型と呼ばれる工具を用いて鋳物砂の表面を整えてプロペラ翼の曲面を形成していた。また、鋳型を製造するための特殊な機械を用いて行われる方法も知られている。例えば、特許文献1に示されているように、予め入力されたプログラムに従って成型用工具を操作する自動制御加工機械も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−150237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鋳型を製造するための技能を身に付けるには長年の経験を要し、熟練した技能を有する者であっても所望の鋳型を製造するには多大な時間を要するという問題があった。また、特許文献1のように特殊な加工機械等を製造して行う方法は、一品製作物である鋳物の鋳型に対しては製造コストの負担が大きく、かえって効率が悪いという問題もあった。そこで、熟練した技能を有していない者であっても、容易にかつ短期間で製造することが可能な鋳型の製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、第一の発明として、充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、格子状下型模型及び格子状注湯空間模型を製造する格子状模型造形ステップと、格子状下型模型を平面に配置して造形に必要な区画を充填物で埋めて固め下型とする下型製造ステップと、下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画を充填物で埋めて固め中型とする中型製造ステップと、中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する上型製造ステップと、中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、からなる鋳型の製造方法を提案する。
【0006】
また、第二の発明として、充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び上型を製造するための抜き型用の格子状上抜型模型を製造する格子状抜型模型造形ステップと、格子状下抜型模型及び格子状上抜型模型を平面に配置して造形に必要な区画を充填物で埋めて固め下抜き型及び上抜き型を製造する抜型製造ステップと、下抜き型及び上抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型及び上型を製造する鋳型製造ステップと、下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、からなる鋳型の製造方法を提案する。
【0007】
また、第三の発明として、板状仕切りで仕切られる複数の区画の上面開口を蓋で閉じて形成される表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び上型を製造するための抜き型用の格子状上抜型模型を製造する格子状抜型模型造形ステップと、格子状下抜型模型及び格子状上抜型模型の造形に必要な区画の上面開口を蓋で閉じて下抜き型及び上抜き型を製造する抜型製造ステップと、下抜き型及び上抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型及び上型を製造する鋳型製造ステップと、下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、からなる鋳型の製造方法を提案する。
【0008】
また、第四の発明として、充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び格子状注湯空間模型を製造する格子状模型造形ステップと、格子状下抜型模型を平面に配置して造形に必要な区画を充填物で埋めて固め下抜き型を製造する下抜型製造ステップと、下抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型を製造する下型製造ステップと、下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画を充填物で埋めて固め中型とする中型製造ステップと、中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する上型製造ステップと、中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、からなる鋳型の製造方法を提案する。
【0009】
また、第五の発明として、板状仕切りで仕切られる複数の区画の上面開口を蓋で閉じて形成される表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型を製造する格子状下抜型模型造形ステップと、充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、格子状注湯空間模型を製造する格子状注湯空間模型造形ステップと、格子状下抜型模型の造形に必要な区画の上面開口を蓋で閉じて下抜き型を製造する抜型製造ステップと、下抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型を製造する下型製造ステップと、下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画を充填物で埋めて固め中型とする中型製造ステップと、中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する上型製造ステップと、中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、からなる鋳型の製造方法を提案する。
【0010】
また、第六の発明として、板状仕切りで仕切られる複数の区画の上面開口を蓋で閉じて形成される表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び格子状注湯空間模型を製造する格子状模型造形ステップと、格子状下抜型模型の造形に必要な区画の上面開口を蓋で閉じて下抜き型を製造する抜型製造ステップと、下抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型を製造する下型製造ステップと、下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画の上面開口を蓋で閉じて中型とする中型製造ステップと、中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する上型製造ステップと、中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、からなる鋳型の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鋳型の製造方法により、熟練した技能を有していない者であっても、容易にかつ短期間で鋳型を製造することが可能になる。また、複雑な鋳型を製造する場合であっても、その鋳型の構成部材は一般的な工作機械によって製作可能であるため、種々の鋳型の製造に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1の鋳型の製造方法の処理の流れを示したフローチャート図
【図2】格子状下型模型の形状とそれを用いて製造される下型を示した斜視図
【図3】切り込みを組み合わせることで各板状仕切りが結合される状態を示した図
【図4】下型の上に格子状模型を配置して各区画を充填物で埋めて固める様子を示した図
【図5】中型の上に充填物を盛りつけて固めて上型を製造した状態を示した図
【図6】中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成した状態を示した図
【図7】実施例2の鋳型の製造方法の処理の流れを示したフローチャート図
【図8】格子状下抜型模型の形状と下型用の抜き型を示した斜視図
【図9】下抜き型の凹部から固められた充填物を取り出した状態を示した図
【図10】下型と上型とを合わせて注湯空間を構成した状態を示した図
【図11】実施例3の鋳型の製造方法の処理の流れを示したフローチャート図
【図12】可動連結部材で連結された複数の蓋部材からなる蓋を示した図
【図13】プロペラ翼の鋳型を製造するための下型と格子状注湯空間模型を示した図
【図14】プロペラ翼の鋳型を製造するための下型、中型、上型を示した図
【図15】プロペラ翼の注湯空間を有する鋳型を示した図
【図16】鋳造されたプロペラの鋳物を示した図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施しうる。例えば、実施例1、2、3の製造方法を組み合わせた製造方法も考えられる。例えば、下型については実施例2又は3で説明する格子状下抜型模型を利用して製造し、注湯空間については実施例1で説明する格子状注湯空間模型を利用して形成する方法が考えられる。また、格子状注湯空間模型に関して、実施例3の格子状下抜型模型に倣い、各区画に充填物を詰め込む代わりに上面開口を蓋で閉じる構成とすることも可能である。上型については、実施例1で説明するように中型の上に充填物を盛りつけて固める方法で製造することも可能であるし、実施例2、3で説明するように格子状上抜型模型を利用して製造することも可能である。
【実施例1】
【0014】
<概要>
本実施例の鋳型の製造方法は、格子状模型の各区画に鋳物砂等の充填物を詰め込んで鋳型の所望の曲面を形成し、目的とする鋳型を製造する方法である。当該格子状模型は一般的な工作機械によって製作可能な板状の仕切りから構成されるため製造が容易であり、熟練した技能を有していないものであっても複雑な曲面を有する鋳型を短期間で製造することが可能である。
【0015】
<鋳型の製造方法の説明>
図1は、本実施例の鋳型の製造方法の処理の流れを示すフローチャート図である。この図に示すように、「格子状模型造形ステップ」S0101と「下型製造ステップ」S0102と「中型製造ステップ」S0103と「上型製造ステップ」S0104と「注湯空間構成ステップ」S0105とからなる。以下、各ステップについて説明する。
【0016】
「格子状模型造形ステップ」S0101では、充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、格子状下型模型及び格子状注湯空間模型を製造する。「下型製造ステップ」S0102では、格子状下型模型を平面に配置して造形に必要な区画を充填物で埋めて固め下型とする。「中型製造ステップ」S0103では、下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画を充填物で埋めて固め中型とする。「上型製造ステップ」S0104では、中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する。「注湯空間構成ステップ」S0105では、中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する。
【0017】
格子状模型の一例として格子状下型模型について説明する。図2は、格子状下型模型の形状とそれを用いて製造される下型を示した斜視図である。この図からも分かるように、格子状下型模型は複数の板状仕切りを組み合わせることによって形成されるものであり、板状仕切りで仕切られる複数の区画は鋳物砂等の充填物を上面開口から縦方向に詰め込みが可能になっている。複数の板状仕切りは、例えば図3に示すように、切り込みを各々組み合わせることで結合することが可能である。また、複数の区画を仕切る板状仕切りの間隔は一定にする必要はなく、鋳型の曲面の曲率が大きいところは板状仕切りの間隔を狭くし、曲率が小さいところは間隔を広くするといったことも可能である。また、板状仕切りの間隔を100mm以下の間隔で配置することによって、所望の曲面を高い精度で再現することが容易になる(以下の実施例でも同様である)。
【0018】
また、板状仕切りの材料としては、段ボール紙などの紙材やベニヤ板などの木材、プラスチック材などの加工しやすい素材を用いることによって、さらに作業効率を向上させることも可能である(以下の実施例でも同様である)。
【0019】
板状仕切りを製造する方法としては、CAD(Computer aided design)等のプログラムにより加工データを作成し、当該データに基づいて一般的な工作機(段ボール紙やベニヤ板の切断をする工作機等)で作成する方法が考えられる。CAD等で得られるデータとしては、各板状仕切りの縦横の長さ、各板状仕切りを組み合わせるための切り込みの位置等が考えられる。これらのデータに基づいて作成された板状仕切りを組み合わせることで目的とする格子状模型を製造することが可能になる。
【0020】
格子状下型模型を平面に配置して造形に必要な区画を鋳物砂等の充填物で埋める際は、基本的に各区画の縁の高さと同じレベルまで充填物を詰め込んで、各区画の表面を形成することが可能である。なお、細部の凹凸形状をならすためにヘラなどの成型用工具を用いることが好ましい。ここで、充填物の表面を整える作業は格子状模型の区画を小さくすればする程容易になる。
【0021】
また、格子状下型模型に充填物を詰め込んで固める際は、格子状模型の周囲を枠で囲んで型崩れしないようにすることが好ましい。また、板状仕切りとして段ボール紙などの紙材を用いている場合は、蝋などを用いて負荷がかかる部分(充填物の重みによって曲がりやすい端部など)の強度を向上させることが好ましい
【0022】
また、充填物として鋳物砂を用いる場合は、鋳物砂に水ガラスを含ませておき、二酸化炭素を吹き込むことで鋳物砂をさらに硬化させることも可能である。また、フラン樹脂を酸と共に鋳物砂に含ませておき、硬化させる方法なども考えられる。
【0023】
図4は下型の上に格子状注湯空間模型を配置し、その後各区画を充填物で埋めて固めた状態を示した図である。ここで、中型における点線は中型の断面形状を表したものである。格子状注湯空間模型の各区画を充填物で埋めて固める工程は、基本的に下型を製造する工程と同じであるが、下型と中型の充填物が混ざりあわないように間に分離剤を塗布することや、ビニール等のシート状のものを挟んでおくことが考えられる。また、下型と中型の充填物に異なる種類のものを用いることも考えられる。
【0024】
図5は、中型の上に充填物を盛りつけて固めて上型を製造した状態を示した図である。ここで、上型と中型及び下型を分離する際に、型崩れしないように上型を取り囲む枠を設けておくことが好ましい。また、粘結剤等を用いて上型の充填物を強固に固めておくことも好ましい。また、中型と上型の間に分離剤を塗布することや、間にビニール等のシート状のものを挟んでおくことも可能である。なお、本実施例では上型を格子状模型を用いないで製造する方法を示したが、下型や中型と同様に、格子状上型模型を利用して製造する方法も可能である。
【0025】
図6は、中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成した状態を示した図である。ここで、中型を取り除いて下型と上型を合わせる方法としては、上型及び中型を垂直上方向にゆっくりと移動させ、中型を取り除いた後に上型を垂直下方向に戻す方法が考えられる。なお、分離剤やビニール等のシート状のものを各型の間に介材させている場合はこれらを利用して分離することも可能である。
【0026】
上述の鋳型の製造方法で得られた鋳型を用いて鋳物を製造する方法について説明する。注湯空間構成ステップで形成された注湯空間に対して、銅合金等からなる溶湯を湯道にゆっくりと流し込み、注湯空間を溶湯で満たす。ここで、注湯空間まで貫通する湯道を上型又は下型の一部に設けて湯を流し込むことが考えられる。そして、溶湯が冷えて固まり固体の銅合金等となるまで十分時間放置する。次に鋳型によってかたどられた銅合金等を上型及び下型から分離するために、上型や下型をハンマー等で外側から叩いて崩していく。そして取り出された銅合金等に対して旋盤加工等で表面を整えて所望の鋳物が得られることになる。
【0027】
<効果>
本実施例の鋳型の製造方法は、製作が容易な板状仕切りからなる格子状模型を利用するため、熟練した技能を有していないものであっても複雑な鋳型を容易に製造することが可能である。
【実施例2】
【0028】
<概要>
本実施例の鋳型の製造方法では、格子状模型の各区画に鋳物砂等の充填物を詰め込んで上型用及び下型用の抜き型を製造し、当該抜き型を用いて所望の曲面を有する鋳型を製造することが可能である。実施例1と同様に、当該格子状模型は一般的な工作機械によって製作可能な板状の仕切りから構成されるため、製造が容易であり、熟練した技能を有していない者であっても複雑な曲面を有する鋳型を短期間で製造することが可能である。
【0029】
図7は、本実施例の鋳型の製造方法の処理の流れを示すフローチャート図である。この図に示すように、「格子状抜型模型造形ステップ」S0701と「抜型製造ステップ」S0702と「鋳型製造ステップ」S0703と「注湯空間構成ステップ」S0704とからなる。以下、各ステップについて説明する。
【0030】
「格子状抜型模型造形ステップ」S0701では、充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び上型を製造するための抜き型用の格子状上抜型模型を製造する。「抜型製造ステップ」S0702では、格子状下抜型模型及び格子状上抜型模型を平面に配置して造形に必要な区画を充填物で埋めて固め下抜き型及び上抜き型を製造する。「鋳型製造ステップ」S0703では、下抜き型及び上抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型及び上型を製造する。「注湯空間構成ステップ」S0704では、下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する。
【0031】
図8は、格子状下抜型模型の形状とそれを用いて製造される下型用の抜き型(下抜き型)を示す斜視図である。実施例1の格子状下型模型と同様に、格子状下抜型模型は複数の板状仕切りを組み合わせることによって形成されるものであり、板状仕切りで仕切られる複数の区画は鋳物砂等の充填物を上面開口から縦方向に詰め込みが可能な状態になっている。充填物を各区画の上面開口まで詰め込むことによって、所望の曲面を造形することが可能になる。また、実施例1の格子状模型と同様に、複数の区画を仕切る板状仕切りの間隔は一定にする必要はなく、曲率の大きさに応じて各板状仕切りの間隔を調整することが可能である。なお、この図の例では下型用の抜き型(下抜き型)を製造する様子を示しているが、上型用の抜き型(上抜き型)を製造する工程も同様である。
【0032】
また、実施例1で説明したように、各板状仕切りを製造する方法としては、CAD等のプログラムにより加工データ(各板状仕切りの縦横の長さや切り込みの位置等のデータ)を作成し、当該データに基づいて一般的な工作機で作成する方法が考えられる。
【0033】
図9は、上記の工程で製造された下抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固めた状態と、凹部から固められた充填物を取り出して載置した状態を示した図である。凹部から取り出された充填物は下抜き型の曲面を片面に写し取っており、下型として所望の曲面を有する。なお、上型も同様の工程により製造可能であり、上抜き型の曲面を片面に写し取っている。
【0034】
ここで、下抜き型(上抜き型)に詰め込まれた充填物と下抜き型(上抜き型)の凹部に詰め込まれる充填物を分離しやすくするように、下抜き型(上抜き型)の凹部の表面に分離剤を塗布することや、ビニール等のシート部材を介在させておくことが好ましい。また、実施例1で説明したように、充填物として鋳物砂を用いる場合は、鋳物砂を硬化させるための処理を行うことも可能である。なお、凹部から下型(上型)が取り出された後の下抜き型(上抜き型)は再度利用することも可能であり、同種の鋳型を複数製造することも可能である。
【0035】
図10は、上記の工程で製造された下型と上型を所望の曲面が向かい合うように合わせた状態を示した図である。ここで、上型と下型の間には点線で示す注湯空間が構成されている。つまり、実施例1のように中型を製造する必要はなく、抜き型によって製造された上型と下型を所定の位置関係で配置することによって注湯空間を構成することが可能である。また、この際に各型が型崩れしないように予め充填物を硬化させるための処理を行っておくことが好ましい。
【0036】
上記で得られた鋳型を用いて鋳物を製造する方法に関しては実施例1で説明した方法と同様であるため説明は省略する。
【0037】
<効果>
本実施例の鋳型の製造方法は、実施例1と同様に、製作が容易な板状仕切りからなる格子状模型を利用するため、熟練した技能を有していない者であっても複雑な鋳型を容易に製造することが可能である。また、鋳型を製造するための抜き型を複数回利用することも可能であるため、同種の鋳型を複数製造することも可能になる。
【実施例3】
【0038】
<概要>
本実施例の鋳型の製造方法は、格子状模型の各区画の上面開口を蓋で閉じて上型用及び下型用の抜き型を製造し、当該抜き型を用いて所望の曲面を有する上型及び下型を製造することが可能である。実施例1と同様に、当該格子状模型は一般的な工作機械によって製作可能な板状の仕切りから構成されるため製造が容易であり、熟練した技能を有していない者であっても複雑な曲面を有する鋳型を短期間で製造することが可能である。
【0039】
図11は、本実施例の鋳型の製造方法の処理の流れを示すフローチャート図である。この図に示すように、「格子状抜型模型造形ステップ」S1101と「抜型製造ステップ」S1102と「鋳型製造ステップ」S1103と「注湯空間構成ステップ」S1104とからなる。以下、各ステップについて説明する。
【0040】
「格子状抜型模型造形ステップ」S1101では、板状仕切りで仕切られる複数の区画の上面開口を蓋で閉じて形成される表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び上型を製造するための抜き型用の格子状上抜型模型を製造する。「抜型製造ステップ」S1102では、格子状下抜型模型及び格子状上抜型模型の造形に必要な区画の上面開口を蓋で閉じて下抜き型及び上抜き型を製造する。「鋳型製造ステップ」S1103では、格子状下抜型模型及び格子状上抜型模型の造形に必要な区画の上面開口を蓋で閉じて下抜き型及び上抜き型を製造する。「注湯空間構成ステップ」S1104では、下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する。
【0041】
板状仕切り及び蓋は、所定量の充填物を十分に支えることができる程度の強度を有するものを用いることが好ましい。ここで、一の区画を一の蓋で閉じる構成とすることが好ましいが、複数の区画を一の蓋で閉じることも可能である。また、板状仕切りと蓋は必ずしも同一素材である必要はなく、異なる素材を用いることも可能である。
【0042】
板状仕切りの区画の上面開口を蓋で閉じる方法としては、各区画の上面開口と蓋を接着材や連結部材等を用いて連結する方法も可能であるし、例えば図12に示すように各蓋を可動連結部材を用いて連結する方法や、これらの方法を組み合わせた方法も考えられる。その他の工程は、基本的に実施例2で示した工程と同様であるから、説明を省略する。
【0043】
<効果>
本実施例の鋳型の製造方法は、実施例1と同様に、製作が容易な板状仕切りからなる格子状模型を利用するため、熟練した技能を有していない者であっても複雑な鋳型を容易に製造することが可能である。また、鋳型を製造するための抜き型を複数回利用することも可能であるため、同種の鋳型を複数製造することも可能になる。
【実施例4】
【0044】
<概要>
本実施例の鋳型の製造方法は、基本的に実施例1から3の製造方法と同様であるが、格子状模型を用いたプロペラ翼の鋳型の製造方法であることを特徴とする。当該格子状模型は一般的な工作機械によって製作可能な板状の仕切りから構成されるため、製造が容易であり、熟練した技能を有していない者であっても複雑な曲面を有する鋳型を短期間で製造することが可能である。
【0045】
本実施例の鋳型の製造方法では、下型と上型とを合わせて形成される注湯空間がプロペラ翼となることを特徴としている。一例として、複数のプロペラ翼の鋳型を同時に用いて固定ピッチプロペラを鋳造する例を示しているが、例えば一のプロペラ翼を鋳造し可変ピッチプロペラの部品とすることも可能である。また、本実施例では、下型については実施例2又は3で説明した格子状下抜型模型を利用して製造し、注湯空間(中型)については実施例1で説明した格子状注湯空間模型を利用して形成し、上型は中型の上に充填物を盛りつけて固める方法で製造しているが、他の組み合わせ方も当然に可能である。
【0046】
図13は、格子状下抜型模型を用いて製造した下型の上に格子状注湯空間模型を配置した状態を示している。また、図14は、格子状注湯空間模型の各区画を充填物で埋めて固めた後に、その上から上型となる充填物を盛りつけて固めた状態を示している。
【0047】
図15は、中型を取り除いた後の状態を示したものである。この図の例では、注湯空間に溶湯を流し込むための湯道をボスを引き抜いた後にできる空洞部分から注湯空間の下端にかけて設けている。銅合金等からなる溶湯を当該湯道に流し込むことによって、注湯空間が溶湯によって下から満たされていく。その後十分の時間放置することによって、溶湯が冷えて固まりプロペラ翼の形状を有する固体物が形成される。次にプロペラ翼の固体物を上型及び下型から分離するために、上型や下型をハンマー等で外側から叩いて崩していく。そして取り出された固体物に対して旋盤加工を施すことによって表面を整え、図16に示すような所望のプロペラを製造することが可能になる。
【0048】
<効果>
本実施例の鋳型の製造方法は、実施例1と同様に、製作が容易な板状仕切りからなる格子状模型を利用するため、熟練した技能を有していないものであっても複雑な鋳型を容易に製造することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
0200 格子状下型模型、0201 板状仕切り、0202 区画、0203 下型、0204 所望の曲面、0401 下型、0402 格子状注湯空間模型、0403 中型、0501 下型、0502 中型、0503 上型、0601 下型、0602 上型、0603 注湯空間、0801 格子状下抜型模型、0802 下抜き型、0901 下抜き型、0902 下型、1001 下型、1002 注湯空間、1003 上型、1201 蓋、1202 可動連結部材、1301 下型、1302 格子状注湯空間模型、1303 ボス、1401 下型、1402 中型、1403 上型、1404 ボス、1501 下型、1502 注湯空間、1503 上型、1504 湯道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、格子状下型模型及び格子状注湯空間模型を製造する格子状模型造形ステップと、
格子状下型模型を平面に配置して造形に必要な区画を充填物で埋めて固め下型とする下型製造ステップと、
下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画を充填物で埋めて固め中型とする中型製造ステップと、
中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する上型製造ステップと、
中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、
からなる鋳型の製造方法。
【請求項2】
充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び上型を製造するための抜き型用の格子状上抜型模型を製造する格子状抜型模型造形ステップと、
格子状下抜型模型及び格子状上抜型模型を平面に配置して造形に必要な区画を充填物で埋めて固め下抜き型及び上抜き型を製造する抜型製造ステップと、
下抜き型及び上抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型及び上型を製造する鋳型製造ステップと、
下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、
からなる鋳型の製造方法。
【請求項3】
板状仕切りで仕切られる複数の区画の上面開口を蓋で閉じて形成される表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び上型を製造するための抜き型用の格子状上抜型模型を製造する格子状抜型模型造形ステップと、
格子状下抜型模型及び格子状上抜型模型の造形に必要な区画の上面開口を蓋で閉じて下抜き型及び上抜き型を製造する抜型製造ステップと、
下抜き型及び上抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型及び上型を製造する鋳型製造ステップと、
下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、
からなる鋳型の製造方法。
【請求項4】
充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び格子状注湯空間模型を製造する格子状模型造形ステップと、
格子状下抜型模型を平面に配置して造形に必要な区画を充填物で埋めて固め下抜き型を製造する下抜型製造ステップと、
下抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型を製造する下型製造ステップと、
下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画を充填物で埋めて固め中型とする中型製造ステップと、
中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する上型製造ステップと、
中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、
からなる鋳型の製造方法。
【請求項5】
板状仕切りで仕切られる複数の区画の上面開口を蓋で閉じて形成される表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型を製造する格子状下抜型模型造形ステップと、
充填物を上面開口から縦方向に詰め込み可能に板状仕切りで仕切られる複数の区画を備え、複数の区画の上面開口まで目一杯に詰め込まれた充填物の表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、格子状注湯空間模型を製造する格子状注湯空間模型造形ステップと、
格子状下抜型模型の造形に必要な区画の上面開口を蓋で閉じて下抜き型を製造する抜型製造ステップと、
下抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型を製造する下型製造ステップと、
下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画を充填物で埋めて固め中型とする中型製造ステップと、
中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する上型製造ステップと、
中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、
からなる鋳型の製造方法。
【請求項6】
板状仕切りで仕切られる複数の区画の上面開口を蓋で閉じて形成される表面によって所望の曲面を造形することができる格子状模型を利用して、下型を製造するための抜き型用の格子状下抜型模型及び格子状注湯空間模型を製造する格子状模型造形ステップと、
格子状下抜型模型の造形に必要な区画の上面開口を蓋で閉じて下抜き型を製造する抜型製造ステップと、
下抜き型の凹部に充填物を詰め込んで固め凹部から抜き出すことで下型を製造する下型製造ステップと、
下型の上に格子状注湯空間模型を配置して各区画の上面開口を蓋で閉じて中型とする中型製造ステップと、
中型の上に充填物を盛りつけて固め上型を製造する上型製造ステップと、
中型を取り除き下型と上型とを合わせて注湯空間を構成する注湯空間構成ステップと、
からなる鋳型の製造方法。
【請求項7】
前記板状仕切りは紙材または木材またはプラスチック材のいずれかを素材とすることを特徴とする請求項1から6のいずれか一に記載の鋳型の製造方法。
【請求項8】
前記板状仕切りは100mm以下の間隔で配置されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一に記載の鋳型の製造方法。
【請求項9】
前記注湯空間がプロペラ翼となることを特徴とする請求項1から8のいずれか一に記載の鋳型の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一に記載の鋳型を用いて鋳物を鋳造する方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一に記載の鋳型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−88171(P2011−88171A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242165(P2009−242165)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(391036334)かもめプロペラ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】