説明

鋳型製造用組成物および鋳造用鋳型製造方法

【課題】
常温硬化法で造型した鋳型は、高温多湿な条件で鋳型を放置すると鋳型強度が時間の経過に伴い低下する場合がある。これは、多くの鋳物工場で鋳型を外気と接する条件で使用していることを考えると、雨の日や梅雨の季節には、鋳型強度が低下することを意味し、鋳物製造には大きな問題である。本発明は、高温多湿などの条件下でも、鋳型強度を低下させないために、鋳型の耐湿性向上を目的とする。
【解決手段】
鋳物砂である珪砂の金属酸化物含量を調整した鋳型製造用組成物を使用することにより、耐湿性に優れた鋳型を造型することができることを見出し、耐湿性に優れた鋳型を造型する鋳型製造用組成物、および鋳造用鋳型製造方法を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳型製造用組成物および鋳造用鋳型製造方法に関する。特に、鋳型を製造するのに際し、加熱を必要としない、常温硬化法(コールドボックス法)で使用する鋳型製造用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
[常温硬化法について]
常温硬化法は大きく分けてガス硬化型と自硬化型がある。(例えば、非特許文献1参照)
ガス硬化型は、鋳型製造用鋳物砂(以下、鋳物砂と称する)と粘結剤との混合によって、鋳物砂の表面を粘結剤で被覆し、これを型に充填後、反応性の気体(ガス)を通過させ、粘結剤とガスとの化学反応により硬化させる方法であり、CO2法、VRHプロセス法、アミン・コールドボックス法、SO2・コールドボックス法、FRC・コールドボックス法、エステル・コールドボックス法などがある。
アミン・コールドボックス法では、フェノール樹脂を必須成分とし、必要により劣化防止剤、乾燥防止剤を添加し有機溶剤に溶かした溶液(以下、フェノール樹脂溶液と称する)と、イソシアネート化合物を必須成分とし、必要により前記添加剤を有機溶剤に溶かした溶液(以下、イソシアネート溶液と称する)の鋳型製造用粘結剤組成物と鋳物砂とをミキサーで混合して、粘結剤で被覆された鋳物砂を調製した後、これを鋳型製造用の型枠内に充填し、更にこの型枠内に触媒である気体状の第三級アミンを通気させることにより常温で硬化させ最後に抜型して、鋳造用の鋳型を製造するものである。
自硬化型は、使用する粘結剤により無機系と有機系に大別され、無機系であるエステル硬化法、有機系であるフェノールウレタン法などがある。
フェノールウレタン法では鋳物砂に、フェノール樹脂溶液、イソシアネート溶液、触媒である塩基性有機化合物を有機溶剤に溶かした溶液(以下、塩基性有機触媒溶液と称する)を混合し、得られた混合物を成型し硬化する。
これらの鋳型製造法は、いずれも室温での硬化が可能で速硬性があり、しかも鋳造後、鋳型の崩壊に優れているので鋳物からの分離が極めて容易であるなどの利点を備えていることから、省エネルギー、高生産性鋳型製造法として普及している。
【0003】
【非特許文献1】「新版 鋳型造型法」、鋳造技術普及協会編、鋳造技術普及協会発行、1987年、p.105
【0004】
鋳型を製造する場合は鋳物砂が大変重要な役割をする。鋳物製造時の不良原因の大半が砂に起因するといわれており、不良品を出さないために、鋳物砂には種々の条件が要求されている。主な条件を次に示す。(例えば、非特許文献2参照)
(1)造型性にすぐれ強度がよくでること
(2)鋳入金属の温度、湯圧に耐え得る耐火度を有すること
(3)復用性にすぐれていること
(4)適当な通気性があること
(5)低熱膨張、適当な熱伝導
これらの要求を満たすためには、砂中の不純物が少ない方が望ましい。鋳物砂が珪砂の場合は、二酸化珪素(SiO2)の含量が多いことが要求される。JISでは、鋳型用けい砂を化学成分で1種〜6種の6区分に分類している(非特許文献3参照)。最も良い鋳型用けい砂と指摘されている1種の化学成分は、二酸化珪素(SiO2)含量が98質量%以上である。
【0005】
【非特許文献2】「新版 鋳型造型法」、鋳造技術普及協会編、鋳造技術普及協会発行、1987年、p.273
【非特許文献3】JIS G5901(日本工業規格)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に常温硬化法で造型した鋳型は、造型後時間がたつにしたがい鋳型の強度が増す。これは、時間の経過に伴い粘結剤の硬化反応が進むためと考えられる。しかし、高温多湿な条件で、造型した鋳型を放置すると鋳型強度が時間の経過に伴い低下する場合がある。これは、多くの鋳物工場で鋳型を外気と接する条件で使用していることを考えると、雨の日や梅雨の季節には、鋳型強度が低下することを意味し、鋳物製造には大きな問題である。すなわち、鋳型製造、常温硬化法では、造型した鋳型の耐湿性を向上させなければならない課題を有する。
【0007】
鋳型の耐湿性を向上させる方法としては、水溶性の糖類と該水溶性糖類を架橋させるための2つ以上のアルデヒド基を有する有機化合物及び酸性触媒を必須成分とし、さらに水溶性の酸硬化性樹脂、補助剤、シランカップリング剤及び界面活性剤を含むオリゴ粘結剤を用いる方法(例えば、特許文献1参照)、水溶性の多糖類と該水溶性糖類を架橋させるための2つ以上のアルデヒド基を有する多官能アルデヒド化合物及び酸性触媒を必須成分とし、さらに水溶性の酸硬化性樹脂、補助剤、シランカップリング剤及び界面活性剤を含む粘結剤を骨材と混練して得られる混練砂を所望の模型に充填し、これを減圧乾燥する方法(例えば、特許文献2参照)などがある。
本発明は、高温多湿などの条件下でも、鋳型強度を低下させないために、鋳型の耐湿性を向上させることを目的としている。
【0008】
【特許文献1】特開平11−138234号公報
【特許文献2】特開2000−630号公報
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題の解決方法を鋭意検討した結果、鋳物砂である珪砂の金属酸化物含量を調整することにより、耐湿性に優れた鋳型を造型することができることを見出し、耐湿性に優れた鋳型を造型する鋳型製造用組成物、および鋳造用鋳型製造方法を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、下記(1)〜(6)の常温硬化法鋳型製造用組成物、(7)〜(10)の常温硬化法鋳型製造方法である。
(1)金属酸化物の含量が0.2質量%〜2.0質量%である鋳型製造用鋳物砂、脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂、イソシアネート化合物を含有する常温硬化法鋳型製造用組成物。
(2)金属酸化物の含量が0.2質量%〜2.0質量%である鋳型製造用鋳物砂、脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂、イソシアネート化合物、塩基性有機化合物もしくは塩基性化合物の有機溶媒溶液を含有する常温硬化法鋳型製造用組成物。
(3)前記した鋳型製造用鋳物砂の金属酸化物の含量が0.2質量%〜1.0質量%である、上記(1)または(2)記載の常温硬化法鋳型製造用組成物。
(4)前記した鋳型製造用鋳物砂の二酸化珪素の含量が98.0質量%以上である、上記(1)〜(3)いずれかの項に記載の常温硬化法鋳型製造用組成物。
(5)前記した鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して、前記した脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂を0.1〜1.5質量部、前記したイソシアネート化合物を0.1〜1.5質量部含有し、かつ該脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂と該イソシアネート化合物の合計量が、該鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して0.2〜2.5質量部である上記(1)、(3)〜(4)いずれかの項に記載の常温硬化法鋳型製造用組成物。
(6)前記した鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して、前記した脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂を0.1〜1.0質量部、前記したイソシアネート化合物を0.1〜1.0質量部、前記した塩基性有機化合物を0.01〜0.1質量部含有し、かつ該脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂と該イソシアネート化合物の合計量が、該鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して0.2〜1.8質量部である上記(2)〜(4)いずれかの項に記載の常温硬化法鋳型製造用組成物。
(7)前記した鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して、脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂0.1〜1.5質量部、イソシアネート化合物0.1〜1.5質量部を混合して粘結剤で被覆された鋳型製造用鋳物砂を調製し、この鋳型製造用鋳物砂を型枠に充填し、硬化触媒である第三級アミンを前記したフェノール樹脂に対して1〜10質量%使用し、気体状にして型枠内を通気して硬化させて鋳型を製造する常温硬化法鋳型製造方法。
(8)前記した鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して、脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂0.1〜1.0質量部、イソシアネート化合物0.1〜1.0質量部、硬化触媒である塩基性有機化合物0.01〜0.1質量部を混合した後、混合物を型枠内に充填し硬化させて鋳型を製造する常温硬化法鋳型製造方法。
(9)前記した鋳型製造用鋳物砂の金属酸化物の含量が0.2質量%〜1.0質量%である、上記(7)または(8)記載の常温硬化法鋳型製造方法。
(10)前記した鋳型製造用鋳物砂の二酸化珪素の含量が98.0質量%以上である、上記(7)〜(9)いずれかの項に記載の常温硬化法鋳型製造方法。
【発明の効果】
【0011】
従来の鋳型製造用組成物で造型した鋳型は、耐湿性が不足していたため、高温多湿のような条件下では、鋳型強度が低下する問題を有する。本発明の鋳型製造用組成物を用いると、耐湿性に優れた鋳型を造型することが可能で、高温多湿下でも強度低下しない鋳型を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用する鋳物砂は、一般に鋳型製造用に使用されている珪砂である、天然珪砂、人造珪砂を使用できる。例えば、天然珪砂としては、知多(愛知県)、下関(山口県)、温泉津(島根県)産出の浜砂、輸入天然珪砂であるフルタリー珪砂(ケープフラタリー(オーストラリア)産)、フリマントル珪砂(ジャンダコット(オーストラリア)産)、ウエドロン珪砂(イリノイ(米国)産)、カムラン珪砂(カンホア州カムラン半島(ベトナム)産)などが使用できる。人造珪砂としては、愛知県三河地方産出の珪石、栃木県日光地方産出の珪石を粉砕して製造した珪砂などが使用できる。
好ましくは、不純物が少なく、一般に鋳物用珪砂として適している、JIS G5901に規定されている1種鋳型用けい砂(SiO2含量:98質量%以上)が良い。
【0013】
鋳型製造用鋳物砂の調製は、まずJIS G5901記載の分析方法で珪砂の金属酸化物含量を分析する。次に、その含量が0.2質量%未満の場合は珪砂に金属酸化物を添加し、2.0質量%を超える場合は高純度珪砂(SiO2含量が極めて高い珪砂)、二酸化珪素(SiO2)などを珪砂に加えて、金属酸化物含量を0.2質量%〜2.0質量%、好ましくは、0.2質量%〜1.0質量%に調整する。金属酸化物の含量が0.2質量%未満の場合は、造型した鋳型の耐湿性が低下し、1.0質量%を超えると鋳造した鋳物と鋳型が焼着等するようになり、2.0質量%を超えると焼着等する頻度が多くなり、鋳物に欠陥を生じる場合がある。また、2.0質量%を超えると造型した鋳型の耐湿性も低下する。
珪砂に添加する金属酸化物は、一般に使用されている鋳物砂にも含有されていることが知られている、酸化第二鉄、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、あるいは、熱的に安定な二酸化マンガン、二酸化チタンなどが良い。これら金属酸化物は単独で或いは2種以上を混合して使用できる。
また、使用する珪砂のSiO2含量は、上記したように98.0質量%以上のものが望ましい。
【0014】
本発明において使用される鋳型製造用粘結剤用フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との付加縮合で得られる樹脂であり、好ましくはベンジリックエーテル型フェノール樹脂である。フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、キシレノール、ビスフェノールA、クミルフェノール、ノニルフェノール、ブチルフェノール、フェニルフェノール、エチルフェノール、オクチルフェノール、アミルフェノール、ナフトール、ビスフェノールF、ビスフェノールC、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロール、フロログリシン、リグニン、ビスフェノールA残渣、クロロフェノール、ジクロロフェノール、その他の置換フェノール等が挙げられる。これらは単独で或いは2種以上を混合して使用できる。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等が挙げられる。これらも単独で或いは2種以上を混合して使用できる。これらから得られるフェノール樹脂は、重量平均分子量が500〜5000のものが好ましい。
【0015】
本発明において使用される鋳型製造用粘結剤用イソシアネート化合物としては、公知の芳香族、脂肪族あるいは脂環式イソシアネートを挙げることができる。具体的には、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(以下、ポリメリックMDIと称する)、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。これらは単独で或いは2種以上を混合して使用できる。これらのうち、ポリメリックMDIが好ましい。
【0016】
鋳型製造用粘結剤のフェノール樹脂、イソシアネート化合物を溶解する溶剤は、コールドボックス法等において通常使用される溶剤が挙げられる。具体的には、脂肪族炭化水素系、脂環式炭化水素系、芳香族炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系、ケトン系、エステル系、エーテル系、アルコール系等の有機溶剤を単独でまたは2種以上混合して使用することができる。さらに、フェノール樹脂溶液及び/又はイソシアネート溶液には、所望により、鋳物砂との接着性の向上を図るために、シラン化合物(例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)等の粘着性付与剤や、可使時間延長剤(例えば、フタル酸クロリド)、劣化防止剤、乾燥防止剤、離型剤等を配合して使用することができる。
【0017】
アミン・コールドボックス法で鋳型を造型する場合は、硬化触媒として第三級アミンを使用する。例えば、トリエチルアミン、ジメチルアミンなどである。
フェノールウレタン法で鋳型を造型する場合は、硬化触媒として、塩基性有機化合物である、ピリジン系化合物、キノリン系化合物、イミダゾール系化合物を使用することができる。例えば、ピリジン系化合物としては4−フェニルイソプロピルピリジン等、キノリン系化合物としてはキノリン、イソキノリン等、イミダゾール系化合物としてはN−メチル−イミダゾール、1−ビニルイミダゾール等が挙げられる。
【0018】
[アミン・コールドボックス法]
上記調製方法で調整した、金属酸化物含量が0.2質量%〜2.0質量%、好ましくは、0.2質量%〜1.0質量%である鋳造用珪砂100質量部に対して、前記フェノール樹脂(鋳型製造用粘結剤用フェノール樹脂)0.1〜1.5質量部、前記イソシアネート化合物(鋳型製造用粘結剤用イソシアネート化合物)0.1〜1.5質量部を混合して粘結剤で被覆された鋳造用珪砂を調製する。この鋳造用珪砂を型枠に充填し、上記硬化触媒である第三級アミンを気体状にして型枠内を通気して硬化させて鋳型を製造する。
鋳造用珪砂を被覆するのに用いるフェノール樹脂とイソシアネート化合物の合計量は、被覆する珪砂100質量部に対して0.2〜2.5質量部が好ましい。また、硬化触媒である第三級アミンは、鋳造用珪砂を被覆するのに用いたフェノール樹脂の1質量%以上を気体状にして使用する。
【0019】
[フェノールウレタン法]
上記調製方法で調整した、金属酸化物含量が0.2質量%〜2.0質量%、好ましくは、0.2質量%〜1.0質量%である鋳造用珪砂100質量部に対して、前記フェノール樹脂(鋳型製造用粘結剤用フェノール樹脂)0.1〜1.0質量部、前記イソシアネート化合物(鋳型製造用粘結剤用イソシアネート化合物)0.1〜1.0質量部、前記塩基性有機化合物(硬化触媒)0.01〜0.1質量部を混合した後、混合物を型枠内に充填し硬化させて鋳型を製造する。用いるフェノール樹脂とイソシアネート化合物の合計量は、鋳造用珪砂100質量部に対して0.2〜1.8質量部が好ましい。
【0020】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、使用する試薬は全て試薬特級を使用した。
[試験例1]
二酸化珪素(SiO2)含量が99.95質量%のウエドロン珪砂(ウエドロンシリカ社(イリノイ)製)100質量部に酸化第二鉄(Fe2O3)を0.40質量部を添加し、品川式ミキサー((株)ダルトン製 50M−r型ミキサー)で2分間混練し、試験珪砂1を調製した。
なお、ウエドロン珪砂の二酸化珪素(SiO2)含量分析は、JIS G5901記載の方法で行った。
【0021】
[試験例2]
上記試験珪砂1と同様にして、ウエドロン珪砂(ウエドロンシリカ社(イリノイ)製:SiO2含量:99.95質量%)100質量部に二酸化マンガン(MnO2)0.40質量部を添加して、試験珪砂2を調製した。
【0022】
[試験例3]
上記試験珪砂1と同様にして、ウエドロン珪砂(ウエドロンシリカ社(イリノイ)製:SiO2含量:99.95質量%)100質量部に二酸化チタン(TiO2)0.40質量部を添加して、試験珪砂3を調製した。
【0023】
[試験例4]
上記試験珪砂1と同様にして、ウエドロン珪砂(ウエドロンシリカ社(イリノイ)製:SiO2含量:99.95質量%)100質量部に酸化第二鉄(Fe2O3)を0.20質量部添加して、試験珪砂4を調製した。
【0024】
[試験例5]
上記試験珪砂1と同様にして、ウエドロン珪砂(ウエドロンシリカ社(イリノイ)製:SiO2含量:99.95質量%)100質量部に酸化第二鉄(Fe2O3)を1.00質量部添加して、試験珪砂5を調製した。
【0025】
[試験例6]
上記試験珪砂1と同様にして、ウエドロン珪砂(ウエドロンシリカ社(イリノイ)製:SiO2含量:99.95質量%)100質量部に酸化第二鉄(Fe2O3)を1.80質量部添加して、試験珪砂6を調製した。
【実施例1】
【0026】
100重量部の上記試験珪砂1、フェノール樹脂の有機溶剤溶液(商品名「ISOCUREパートI−308SR」、保土谷アシュランド(株)製)5.0重量部、ポリイソシアネート化合物有機溶剤溶液(商品名「ISOCUREパートII−608TT」、保土谷アシュランド(株)製)5.0重量部を20℃、相対湿度55%中で、品川式ミキサーを用いて90秒混練した。得られた混練砂を直ちに通気装置に接続可能な曲げ強さ試験用鋳型製作用金型に充填密度が1.6(グラム/立方センチメートル)になるようにつきかためて充填した。次に、金型を通気装置に接続し硬化触媒であるトリエチルアミンを含有するガスを30ml/分の通気量で15秒間金型内を通気した。通気後、鋳型を金型より取り出し、曲げ強さ試験用鋳型とした。曲げ強さ試験においては、抜型後1分(抜型後は、20℃、相対湿度55%中で安置)の曲げ強さ、鋳型を20℃、相対湿度55%で24時間安置した後と、20℃、相対湿度90%で24時間安置した後の曲げ強さを測定した。また、抜型後24時間の曲げ強さ保持率(%)も算出した。結果を[表1]に示す。抜型後24時間の曲げ強さ保持率の算出方法は[数1]の通りである。
【0027】
【数1】

【0028】
[曲げ強さ試験方法]
曲げ強さ:試験片の両端を支持ばりとし、その中央部に上部から集中荷重を加えた場合に於いて、荷重が最大値に達した瞬間の曲げ応力。
曲げ強さ試験用鋳型製作用金型寸法(鋳型寸法):10mm(試験片の高さ)×30mm(試験片の幅)×85mm(試験片の長さ)
曲げ強さ試験:金属製加圧くさび(JIS K6910−1995 4.9曲げ強さ、4.9.1器具及び材料(12)金属製加圧くさびに規定した、先端に3±0.1mmの丸みを持った加圧くさび)および金属製支点(JIS K6910−1995 4.9曲げ強さ、4.9.1器具及び材料(12)金属製支点に規定した、先端に2±0.1mmの丸みを持った支点。支点間距離:50±0.25mm)をテンシロン測定器UTM−III−500(A&D社製)に取り付け、試験片を支持台で支えて試験片の中央にひずみ速度(単位時間あたりのひずみの変化)30mm/分で荷重を加えて曲げ強さを測定する。
【実施例2】
【0029】
試験珪砂2を用いて、[実施例1]と同様に曲げ強さ試験を行った。すなわち、[実施例1]では試験珪砂1を用いたのを、[実施例2]では、試験珪砂2を用いた以外は、[実施例1]と同じである。試験結果を、[表1]に示す。
【実施例3】
【0030】
試験珪砂3を用いて、[実施例1]と同様に曲げ強さ試験を行った。試験結果を、[表1]に示す。
【実施例4】
【0031】
試験珪砂4を用いて、[実施例1]と同様に曲げ強さ試験を行った。試験結果を[表2]に示す。[表2]には[実施例1]の試験結果も再度示す。
【実施例5】
【0032】
試験珪砂5を用いて、[実施例1]と同様に曲げ強さ試験を行った。試験結果を[表2]に示す。
【実施例6】
【0033】
試験珪砂6を用いて、[実施例1]と同様に曲げ強さ試験を行った。試験結果を[表2]に示す。
【0034】
[比較例1]
二酸化珪素(SiO2)含量が99.95質量%のウエドロン珪砂(ウエドロンシリカ社(イリノイ)製)を用いて、[実施例1]と同様に曲げ強さ試験を行った。試験結果を、[表1]に示す。
なお、ウエドロン珪砂の二酸化珪素(SiO2)含量分析は、JIS G5901記載の方法で行った。
【0035】
[比較例2]、[比較例3]
二酸化珪素(SiO2)含量が99.95質量%のウエドロン珪砂(ウエドロンシリカ社(イリノイ)製)100質量部に酸化第二鉄(Fe2O3)を各々0.10質量部(比較例2)、2.20質量部(比較例3)を添加し、品川式ミキサー((株)ダルトン製 50M−r型ミキサー)で2分間混練し、[比較例2]、[比較例3]で使用する珪砂を調製した。[比較例2]では酸化第二鉄(Fe2O3)を0.10質量部、[比較例3]では酸化第二鉄(Fe2O3)2.20質量部添加した珪砂を各々用いて、[実施例1]と同様に曲げ強さ試験を行った。試験結果を[表2]に示す。[表2]には[比較例1]の結果も示す。
なお、ウエドロン珪砂の二酸化珪素(SiO2)含量分析は、JIS G5901記載の方法で行った。
【0036】
【表1】

【0037】
[表1]の相対湿度55%の曲げ強さを比較すると、金属酸化物を添加した鋳物砂を用いた鋳型(実施例1〜3)は、抜型後24時間の方が抜型後1分より曲げ強さが大きく、金属酸化物を添加していない鋳物砂を用いた鋳型(比較例1)は、逆に抜型後1分の方が抜型後24時間より曲げ強さが大きいことがわかる。このことより、金属酸化物を鋳物砂に添加することにより、鋳型の耐湿性が向上し鋳型強度が増すことがわかる。この効果は、相対湿度90%の曲げ強さを見ればより明らかになる。
【0038】
[表1]に示した抜型後24時間の曲げ強さ保持率(%)より、金属酸化物を添加した鋳型(実施例1〜3)の保持率が67.21%〜75.56%であるのに対し、金属酸化物を添加していない鋳型(比較例1)は34.27%であることがわかる。このことより、前記したように、金属酸化物を鋳物砂に添加することにより、鋳型の耐湿性が顕著に向上することがわかる。また、抜型後1分と24時間の曲げ強さを比較すると、二酸化マンガン(MnO2)を添加した鋳型は、抜型後1分の曲げ強さが実施例1〜3の中で最小であるのに対し、抜型後24時間では最大であることがわかる。このことは、実施例1〜3に示した金属酸化物(酸化第二鉄、二酸化マンガン、二酸化チタン)の中では、二酸化マンガンが鋳型の耐湿性を向上するのに最も好ましいことを示す。
【0039】
【表2】

【0040】
[表2]の抜型後24時間の曲げ強さ保持率(%)を[実施例1]、[実施例4]〜[実施例6]と[比較例1]〜[比較例3]で比較すると、実施例の保持率が58.46%〜76.67%であるのに対し、比較例の保持率が18.29%〜36.29%で顕著な差異がある。[実施例4]と[比較例2]を比較すると、[実施例4]の保持率が76.67%であるのに対し、[比較例2]の保持率が36.29%であり、これは、酸化第二鉄の添加量が0.20質量部(実施例4)と0.10質量部(比較例2)では、保持率つまり鋳型の耐湿性が顕著に異なることを示す。また、[実施例6]と[比較例3]を比較すると、[実施例6]の保持率が58.46%であるのに対し、[比較例3]の保持率が18.29%であり、これは、酸化第二鉄の添加量が1.80質量部(実施例6)と2.20質量部(比較例3)では、保持率つまり鋳型の耐湿性が顕著に異なることを示す。
以上より、酸化第二鉄を0.20質量部〜1.80質量部添加した鋳型は耐湿性が顕著に向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
従来の鋳型製造用組成物で造型した鋳型は、耐湿性が不足していたので、高温多湿のような条件下では、鋳型強度が低下する問題を有する。本発明は、耐湿性に優れた鋳型を製造できるので、安定した鋳型製造、鋳造に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の含量が0.2質量%〜2.0質量%である鋳型製造用鋳物砂、脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂、イソシアネート化合物を含有する常温硬化法鋳型製造用組成物。
【請求項2】
金属酸化物の含量が0.2質量%〜2.0質量%である鋳型製造用鋳物砂、脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂、イソシアネート化合物、塩基性有機化合物もしくは塩基性化合物の有機溶媒溶液を含有する常温硬化法鋳型製造用組成物。
【請求項3】
前記した鋳型製造用鋳物砂の金属酸化物の含量が0.2質量%〜1.0質量%である、請求項1または請求項2記載の常温硬化法鋳型製造用組成物。
【請求項4】
前記した鋳型製造用鋳物砂の二酸化珪素の含量が98.0質量%以上である、請求項1〜請求項3いずれかの項に記載の常温硬化法鋳型製造用組成物。
【請求項5】
前記した鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して、前記した脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂を0.1〜1.5質量部、前記したイソシアネート化合物を0.1〜1.5質量部含有し、かつ該脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂と該イソシアネート化合物の合計量が、該鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して0.2〜2.5質量部である請求項1、請求項3〜請求項4いずれかの項に記載の常温硬化法鋳型製造用組成物。
【請求項6】
前記した鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して、前記した脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂を0.1〜1.0質量部、前記したイソシアネート化合物を0.1〜1.0質量部、前記した塩基性有機化合物を0.01〜0.1質量部含有し、かつ該脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂と該イソシアネート化合物の合計量が、該鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して0.2〜1.8質量部である請求項2〜請求項4いずれかの項に記載の常温硬化法鋳型製造用組成物。
【請求項7】
前記した鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して、脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂0.1〜1.5質量部、イソシアネート化合物0.1〜1.5質量部を混合して粘結剤で被覆された鋳型製造用鋳物砂を調製し、この鋳型製造用鋳物砂を型枠に充填し、硬化触媒である第三級アミンを前記したフェノール樹脂に対して1〜10質量%使用し、気体状にして型枠内を通気して硬化させて鋳型を製造する常温硬化法鋳型製造方法。
【請求項8】
前記した鋳型製造用鋳物砂100質量部に対して、脂肪族鎖に結合している水酸基を有するフェノール樹脂0.1〜1.0質量部、イソシアネート化合物0.1〜1.0質量部、硬化触媒である塩基性有機化合物0.01〜0.1質量部を混合した後、混合物を型枠内に充填し硬化させて鋳型を製造する常温硬化法鋳型製造方法。
【請求項9】
前記した鋳型製造用鋳物砂の金属酸化物の含量が0.2質量%〜1.0質量%である、請求項7または請求項8記載の常温硬化法鋳型製造方法。
【請求項10】
前記した鋳型製造用鋳物砂の二酸化珪素の含量が98.0質量%以上である、請求項7〜請求項9いずれかの項に記載の常温硬化法鋳型製造方法。