説明

鋳込み成形用石膏型の製造方法

【課題】アスペクト比が10程度の針状結晶を有する均質な石膏型を安定して製造することができる鋳込み成形用石膏型の製造方法を得る。
【解決手段】半水石膏と水を含む石膏スラリーを、石膏型作成用鋳型に注入して鋳込み成形用の石膏型を製造する際に、上記石膏型作成用鋳型を乾燥状態で用いると共に、上記石膏型作成用鋳型に注入された上記石膏スラリーが硬化するときの温度を20℃から55℃の範囲内となるように温度制御することを特徴とするものであり、該製造方法によってアスペクト比の大なる針状結晶を有する石膏組織を安定して製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半水石膏と水を含む石膏スラリーを石膏型製造用の鋳型に流し込んで硬化させる鋳込み成形用石膏型の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石膏型は多くの気孔を含むその結晶形態から、セラミックス等の鋳込み成形用の型として広く用いられている。このような製法に用いられる石膏型は半水石膏を主成分とする石膏型成形用材料に適量の水を加えて石膏スラリーを調製し、このスラリーを石膏型製造用の鋳型に流し込んで硬化させることによって製造されている。石膏スラリーは、半水石膏と水とを混合した直後からすぐに水和反応が始まり、流し込みの作業中においても水和反応が進行し続け、粘性の増大等、スラリーの物性が時間の経過と共に変化し続ける。大型の石膏型を製造する場合には、石膏型製造用の鋳型に石膏スラリーを流し込むのに時間を要し、気孔率延いては着肉性が不均一な石膏型が成形される場合がある。そのような気孔率、着肉性の不均一さは、得られる成形体の厚みが部分的に異なる原因となり、品質上好ましくない。先行技術として、半水石膏粉体及び反応遅延剤を適切な配合比で混合することで反応開始時間を遅らせ、大型石膏型を製造するための大型成形型内に例えば2分以上、典型的には3〜4分程度かけて石膏スラリーを流し込んだ場合であっても、均質な石膏型を得ることができるようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−35323号公報(第1頁、図なし)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
石膏スラリーは、半水石膏と水との水和の際に発熱反応を生じ、石膏の針状結晶が成長することが知られている。しかし、上記のような先行技術を含む従来の製造方法において何らかの原因によって反応時の石膏温度が上昇しなかった場合、石膏組織が針状化しないという問題が本発明者らの研究によって明らかになった。鋳込み成形に用いる石膏型においてその結晶組織が針状結晶化していない場合、鋳込み成形を実施した際にセラミックス成形体の粉体粒子が石膏型表面に付着して離型性が悪くなり、得られるセラミックス成形体に割れ等の欠陥を生じる確率が高くなるという問題があった。
【0005】
この発明は上記のような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、針状結晶を有し、離型性に優れた均質な石膏型を安定して製造することができる鋳込み成形用石膏型の製造方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鋳込み成形用石膏型の製造方法は、半水石膏と水を含む石膏スラリーを石膏型作成用鋳型に注入して鋳込み成形用の石膏型を製造する際に、上記石膏型作成用鋳型に注入された上記石膏スラリーが硬化するときの温度を20℃から55℃の範囲内となるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、上記石膏型作成用鋳型に注入された上記石膏スラリーが硬化するときの温度を、20℃から55℃の範囲内となるようにしたことで、平均アスペクト比が10程度の針状結晶組織を有し、離型性に優れた均質な石膏型を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係る鋳込み成形用石膏型の製造方法において、石膏型作成用鋳型内で石膏スラリーが硬化するときの温度と、得られた石膏組織について走査型電子顕微鏡によって測定された結晶アスペクト比との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係る鋳込み成形用石膏型の製造方法について具体的に説明する。実施の形態1は半水石膏と水を混合、攪拌して作製した石膏スラリーを規定の形状の石膏型作成用鋳型に流し込み、硬化させることで鋳込み成形用の石膏型を作製する工程において、硬化するときの石膏スラリーの温度が異なるようにして複数の鋳込み成形用石膏型を作成した。まず、材質、形状、サイズが同一の石膏型作成用鋳型を複数用意した。なお、該石膏型作成用鋳型の材料は特に限定されるものではなく、例えば、金属、木材、ゴム、石膏など、公知の材料は何れも特別な制限なく用いることができる。なお、木材や石膏など吸水性を有する材質の場合は、従来技術と同様に塗膜などの表面処理による吸水防止処理を施したものが用いられる。
【0010】
次に、ここでは、石膏型作成用鋳型の温度を調整することで、該鋳型に注入した石膏スラリーが該鋳型内で硬化する際の温度が、それぞれ21.3℃(実施例1)、37.5℃(実施例2)、47.8℃(実施例3)である3種類の鋳込み成形用石膏型を作成した。一方、比較のために半水石膏と水の配合割合が実施例1〜3と同一で、硬化する際の石膏スラリー温度が、5.9℃(比較例1)、13.2℃(比較例2)の2種類の鋳込み成形用石膏型を作成した。なお、硬化するときの石膏スラリーの温度を互いに異なるものとした他は、撹拌条件や注入速度、石膏スラリー調合開始時点から注入完了までの時間など何れも同一とした。
【0011】
次に、上記のようにして得られた鋳込み成形用石膏型の石膏表面の結晶組織形状について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果を下記の表1及び図1に示す。なお、図1は表1の結果をグラフ化したものであり、上記のようにして得られた実施例1〜3、及び比較例1、2の鋳込み成形用石膏型の石膏組織について測定された、石膏スラリー温度に対する結晶の平均アスペクト比の関係を示す特性図である。なお、平均アスペクト比は、複数の針状結晶について測定された、結晶の長径/短径の平均値である。
【0012】
【表1】

【0013】
表1及び図1より、得られた石膏結晶のアスペクト比は硬化するときのスラリー温度が上昇するに従って15℃付近を境界に大きく増加し、20℃でアスペクト比がおよそ10程度となることがわかる。上記の結果から、石膏スラリーを石膏型作成用鋳型に注入した後、硬化する際の石膏スラリーの温度範囲は20℃以上とすることが好ましい。
【0014】
一方、石膏スラリーを室温下において、断熱材に覆われた鋳型に流し込んだ場合、反応時の最高温度がおよそ50℃となることから、半水石膏と水との反応熱が全てスラリーの温度上昇に用いられた場合においても、石膏スラリーの最高温度は50℃程度の上昇に留まるものと考えられる。上記実施例1〜3においても、40℃付近から結晶アスペクト比の増加が収束していることが確認できる。よって、針状結晶を成長させるために必要な温度は50℃程度であり、50℃を大きく超えて石膏スラリーの温度を上昇させても更なる針状結晶の成長は得られないと考えられる。また、二水石膏は加熱することで半水石膏に戻る性質があり、湿式加熱状態では100℃前後で半水石膏へと変化する。以上の理由により、石膏スラリーの温度範囲の上限は55℃までとすることが好ましい。
【0015】
上記石膏型作成用鋳型内で石膏スラリーが硬化するときの温度は、発生する反応熱以外の要素としては、使用する水、半水石膏、及び石膏型作成用鋳型のそれぞれの質量と物性によって決まるので、これらの構成要素の少なくとも1つを制御することによって、硬化するときの温度を20℃〜50℃の範囲内に制御することができる。何れを制御するかは特に限定されるものではない。なお、水は比熱が大きく、石膏スラリーの硬化時の温度に対する影響も大きいので、例えば冬場において水温が10℃を下回るような特に温度が低い場合には例えばスチーム等で加温して用いることは好ましい。また、例えば石膏型作成用鋳型の熱容量が大きい場合には、該石膏型作成用鋳型を保管する室内の温度を調節することは好ましい。
【0016】
上記のように実施の形態1の製造方法によれば、上記石膏型作成用鋳型に注入された上記石膏スラリーが硬化するときの温度を、20℃から55℃の範囲内となるようにしたことで、石膏結晶の平均アスペクト比が10程度に成長した針状結晶を有する鋳込み成形用石膏型を安定して製造することができる。該製造方法によって得られた該鋳込み成形用石膏型は、針状結晶が形成する網目構造によるフィルター効果により、鋳込み成形によって得られるセラミックス成形体表面の粉体粒子の石膏型内への侵入が防止され、成形体と鋳込み成形用石膏型との良好な離型性を実現することが可能なものであった。そのため、歩留まりが顕著に向上し、生産工程での環境負荷も軽減できるものであった。
【0017】
実施の形態2.
本実施の形態2は、半水石膏と水を混合、攪拌して作製した石膏スラリーを規定の形状の石膏型作成用鋳型に流し込み、硬化させることで鋳込み成形用の石膏型を製造する工程において、石膏型作成用鋳型表面の乾燥状態について調べたものである。
具体的には、石膏型作製用鋳型の表面を乾燥状態としたもの(実施例4)、及び未乾燥状態としたもの(比較例3)をそれぞれ用意し、石膏型作製用鋳型内で石膏スラリーが硬化するときの温度を何れもおよそ30℃とした他は実施の形態1と略同様にして鋳込み成形用の石膏型を製作した。得られた鋳込み成形用石膏型の石膏表面の結晶組織形状について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果を下記の表2に示す。なお、比較例3に用いた鋳型に関しては石膏スラリーを流し込む前に霧吹きで鋳型表面に水を散布することにより未乾燥状態とした。
【0018】
【表2】

【0019】
表2より明らかなように、比較例3に係る未乾燥状態の鋳型を用いて作製された石膏組織はアスペクト比が小さい結晶構造となっており、針状化していない。これは鋳型表面が未乾燥状態である場合、石膏表面において局所的に混水量過多、攪拌不足となることで結晶の成長が促進されないためである。一般に一つの鋳型を使用して連続で鋳込みを行う際、鋳型の乾燥作業は実施されておらず、また特に夏場において外気温と室温との差から鋳型の保管状況によって鋳型表面が結露する等して、鋳型表面が未乾燥状態で使用されているケースは多い。このような場合上記の理由により、針状結晶を有した石膏組織を作製することはできない。これに対して、実施例4に係る乾燥状態の鋳型を用いて作製された石膏組織は平均アスペクト比が10を超える大きい針状結晶構造であった。
【0020】
実施の形態3.
本実施の形態3は、半水石膏と水を混合、攪拌して作製した石膏スラリーを規定の形状の石膏型作成用鋳型に流し込み、硬化させることで鋳込み成形用の石膏型を製造する工程において、石膏型作成用鋳型内で硬化する際の石膏スラリーの温度範囲及び、石膏作製用鋳型表面の乾燥状態を共に変えた場合について調べたものである。
【0021】
石膏スラリーを注入する石膏型作成用鋳型の温度を調整することで、石膏型作成用鋳型内で硬化する際の石膏スラリー温度を21.3℃とし、且つ鋳型表面を乾燥させた状態のもと石膏型を作製し(実施例5)、走査型電子顕微鏡を用いて得られた石膏表面の結晶組織形状を観察した。比較例として、石膏型作成用鋳型内で硬化する際のスラリー温度7.4℃、鋳型表面に霧吹きで水を散布した場合の結果を合わせて示す(比較例4)。
【0022】
【表3】

【0023】
上記のように、この発明によれば、半水石膏を主成分とする石膏型成形用材料に適量の水を加えて石膏スラリーを調製し、その石膏スラリーを石膏型製造用の鋳型に流し込んで硬化させることによって、規定の形状を有した鋳込み成形用の石膏型を得る製造方法において、石膏型作成用鋳型に注入された石膏スラリーが該鋳型内で硬化するときの温度を20℃から55℃の範囲内とすることで、アスペクト比が10程度の針状結晶を有する石膏硬化体からなる鋳込み成形用の石膏型を安定して得ることができる。
【符号の説明】
【0024】
符号なし。なお、グラフ中のプロットは横軸(スラリー温度)の温度の低い順に、比較例1、比較例2、実施例、実施例2、実施例3に対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半水石膏と水を含む石膏スラリーを、石膏型作成用鋳型に注入して鋳込み成形用の石膏型を製造する際に、上記石膏型作成用鋳型に注入された上記石膏スラリーが硬化するときの温度を20℃から55℃の範囲内となるようにしたことを特徴とする鋳込み成形用石膏型の製造方法。
【請求項2】
上記石膏型作成用鋳型を乾燥状態で用いるようにしたことを特徴とする請求項1記載の鋳込み成形用石膏型の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−166482(P2012−166482A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30363(P2011−30363)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】