説明

鋳造品を製造する方法

本発明は、溶湯によって満たされる少なくとも1つの鋳型を備えた鋳造機械を使用して鋳造品を製造する方法であって、鋳型を溶湯によって満たし、次いで溶湯が完全に凝固するまで待ち、その後で鋳造品を鋳型から取り出す形式の方法に関する。このような形式の方法において本発明では、溶湯を鋳造機械から、ゲートにおける毎秒10mよりも低い充填速度でかつ無圧で、鋳型内に充填し、次いで鋳型内において100バールよりも高い鋳造圧で、押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載された形式の方法、すなわち溶湯によって満たされる少なくとも1つの鋳型を備えた鋳造機械を使用して鋳造品、特にピストン未加工鋳造品を製造する方法であって、鋳型を溶湯によって満たし、次いで溶湯が完全に凝固するまで待ち、その後で鋳造品を鋳型から取り出す形式の方法に関する。本発明はまた、この方法によって製造された鋳造品に関する。
【0002】
溶湯によって満たされる少なくとも1つの鋳型を備えた鋳造機械を使用して鋳造品を製造する方法であって、鋳型を種々様々な形式で溶湯によって満たし、次いで溶湯が完全に凝固するまで待ち、その後で鋳造品を鋳型から取り出す方法は、例えばEP0120649B1、EP0805725B1、EP0115150B1又はEP0338419B1に基づいて公知である。
【0003】
従来技術に基づいて公知の低圧鋳造法とも呼ばれる鋳造法では、使用される鋳造機械において、鋳造圧は、1バールよりも低く、ゲートにおける溶湯速度は毎秒1mよりも明らかに遅く、従って層流状態の溶湯による鋳型の充填が保証されている。低圧鋳造法によって製造された鋳造品は、確かに良好な材料特性の点で傑出しているが、しかしながら鋳型内において溶湯が凝固するまでに長い時間がかかるという欠点を有している。このことはまさに、例えば内燃機関のピストン用の鋳造品を大量生産する場合に、予備加工及び後加工を含めて長い時間を要するので、不都合である。
【0004】
低圧鋳造法と並んで知られているダイカスト鋳造法では、ゲートにおいて毎秒10mを上回る充填速度と100バールをはるかに上回る鋳造圧で作業が行われる。このダイカスト鋳造法によっても満足のいく鋳造品を製造することができる。しかしながら、高圧鋳造法(Hochdruck-Gussverfahren)とも呼ばれるこの鋳造法には、鋳型が極めて高い充填速度で満たされるので、それによって大きな乱流が生じてしまうという欠点がある。その結果溶湯とガスとの混合物が形成され、この混合物は、高圧下で凝固し、収縮巣や孔のような空隙や酸化物の閉じ込めといった欠点を有しており、ひいては鋳造品の材料特性を著しく損なう。
【0005】
ゆえに本発明の課題は、鋳造品を製造する方法を改良して、上に述べたようなパラメータを有する低圧鋳造法又はダイカスト鋳造法において製造された鋳造品に比べて、強度及び組織に関して著しく良好な鋳造品を得ることができる方法を提供することである。
【0006】
この課題を解決するために本発明の方法では、冒頭に述べた形式の方法において、溶湯を鋳造機械から、ゲートにおける毎秒10mよりも低い充填速度でかつ無圧で、鋳型内に充填し、次いで鋳型内において100バールよりも高い鋳造圧で、押圧するようにした。
【0007】
すなわち本発明によれば、溶湯を鋳造機械から、ゲートにおいては毎秒10mよりも低い充填速度でかつ無圧で、鋳型内にもたらし、鋳型内において100バールよりも高い鋳造圧で、圧力をかけて凝固させるようにした。本発明によるこのような鋳造法は、圧搾鋳造法(Squeeze-Castingを短縮してSC)とも呼ばれる。なおこの場合重要なことは、ここで使用されている「圧搾鋳造法」という概念は、ゲートにおける毎秒10mよりも低い充填速度と100バールよりも高い鋳造圧とで実施される鋳造法を意味しているということである。従来技術においては既に、圧搾鋳造法と呼ばれる鋳造法が知られているが、これはまったく異なったパラメータ、機械コンセプト及び型コンセプトに基づくものであり、以下に記載するような所望の鋳造結果を得ることはできない。
【0008】
本発明による圧搾鋳造法には、従来見られていたような封入物や巣の存在がなく極めて精密で均一な組織を有する、品質的に高価値の鋳造品が得られるという利点がある。鋳型及びその中に挿入される中子(砂又は塩)は任意に形成することができるので、構造上大きな自由度が与えられており、この自由度によって同時に、有利な充填速度及び有利な鋳造圧に基づいて、鋳造品を大量生産する場合における高い作業順序、ひいては極めて短いサイクル時間が得られる。これによって、製造コストを、高生産性のダイカスト鋳造法と同等に著しく減じることができ、しかも低圧鋳造法と同等の鋳造品質を維持することができる。
【0009】
以下においては、図1〜3を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来技術に基づいて公知の鋳造法(低圧鋳造法及びダイカスト鋳造法)のプロセスパラメータと、本発明による圧搾鋳造法とを比較して示す図である。
【図2】公知のダイカスト鋳造法と本発明による圧搾鋳造法とを比較して示すグラフである。
【図3】本発明による圧搾鋳造法において使用される鋳型の1実施例を示す図である。
【0011】
図1には、従来技術に基づいて公知の種々異なった鋳造法(低圧鋳造法及びダイカスト鋳造法)のプロセスパラメータと、本発明による圧搾鋳造法(Squeeze-Casting)とが比較されて示されている。低圧鋳造法(ND-Guss)では、ゲートにおいて明らかに毎秒1mを下回る充填速度と、同様に明らかに1バールを下回る鋳造圧で作業が行われる。
【0012】
ダイカスト鋳造法(Druck-guss)では、ゲートにおいて毎秒10mを上回る充填速度と100バールを上回る鋳造圧で作業が行われる。
【0013】
公知のように、その間に位置する範囲(毎秒約0.1〜10mの充填速度と約1〜100バールの鋳造圧、つまり後供給(Nachspeisung)のための不十分な圧力時における層状の乱流充填による混合範囲)において、鋳造品が製造可能であるが、しかしながら、このような鋳造品は、十分な使用特性を有しておらず、例えば強度に関して大きな欠点がある。
【0014】
本発明によれば、ゲートにおいて毎秒10mよりも遅い充填速度、有利には毎秒1mよりも遅い充填速度で、かつ100バールよりも高い鋳造圧、有利には500バールよりも高い鋳造圧で、圧搾鋳造が行われる。使用される鋳造機械によって調整調節されて実施することができるこのプロセスパラメータによって、鋳造品の組織及び機械的な特性値のような所望の材料特性を、このような鋳造品の製造時において同時に高いサイクル速度で得ることができる。これに対して従来技術におけるプロセスパラメータは、調整することができず、制御することしかできない。
【0015】
図2は、公知のダイカスト鋳造法と本発明による圧搾鋳造法とを比較して示すグラフである。X軸には、ミリ秒単位で時間がとられ、左側のY軸には鋳造機の鋳造ピストンの速度が毎秒メートルで示されている。この図2のグラフから分かるように、ダイカスト鋳造法(VKolben-DG)では、毎秒5.0mの速度は、型側における位置固定のゲートジオメトリでは、ダイカスト鋳造法に典型的な乱流を伴う充填を生ぜしめる。
【0016】
それとは異なり、圧搾鋳造法(VKolben-SC)における鋳造ピストン速度は、充填過程中に、例えば毎秒0.5mに制限され、このことは、明らかに増大されたゲートジオメトリにおいて、層流による型充填を保証する。
【0017】
図2に示された圧力曲線(パラメータp)は、前記両鋳造ピストン速度(VKolben-SC、VKolben-DG、Kolben=鋳造機械の鋳造ピストン)における同一の圧力経過を示している。
【0018】
本発明による圧搾鋳造法において使用される鋳型の1実施例が、図3に示されている。
【0019】
鋳型は、これによってただ1つの鋳造品だけが製造され得るように構成されていてもよいが、有利には、例えばピストン未加工鋳造品を製造するために、鋳造工程後に少なくとも2つの互いに結合されたピストン未加工鋳造品が鋳造されるように構成されており、この場合、鋳型から取り出された出来た鋳造品は、2つのピストン未加工鋳造品を得るために、例えば鋸断工程によって分割箇所に沿って切り離され、得られた両ピストン未加工鋳造品は次いでさらに後加工される。この場合鋳造品は必ずしも、互いに結合された2つの部分鋳造品を有している必要はなく、1つのキャビティよりも多くのキャビティからなっていてもよく、これらのキャビティは、鋳造後に鋳造系を介して互いに結合され、次いで互いに切り離される。
【0020】
鋳型は符号1で示されており、鋳造機械(ここでは鋳造ピストン3及びゲート4だけで略示)のプレート2に固定される。鋳型1は、耐圧性の中子5、例えばソルトコア(Salzkern)を備えており、つまり鋳型内には、鋳造品内に中空室を形成するために少なくとも1つの耐圧性の中子が挿入される。
【0021】
本発明による方法によって製造される鋳造品が例えば内燃機関のピストンである場合には、鋳型の内輪郭は、鋳造されるピストン未加工鋳造品の外輪郭に相当しており、ソルトコアの外輪郭はピストン未加工鋳造品の内輪郭に相当している。ピストンにおけるピストン孔を得るために、鋳型1にはさらにピン6が挿入される。
【0022】
さらに、鋳型が溶湯による充填過程前及び/又は充填過程中に真空にされると、さらに有利である。そのために鋳型1は相応な開口7を有しており、この開口7を介して相応な手段を用いて、鋳型1の内部における鋳造ガスを排出することができる。
【0023】
本発明による圧搾鋳造法における作業順序は以下の通りである:
鋳型1は、例えば噴霧によって離型剤で処理される。次いで、鋳造品(ピストン未加工鋳造品)における相応な領域を形成する単数又は複数の中子5が挿入される。ゲート4を通して行われる溶湯による鋳型1の充填前又は充填中に、開口7を介して鋳型1は排気される。既に述べたプロセスパラメータによって鋳型1が溶湯によって満たされた後で、出来上がった鋳造品は鋳型から取り出され、次の処理を施される。出来上がった鋳造品は例えば水槽内において焼き入れされ、かつ同時に、予め形成された開口を通してコア5が、例えば洗浄によって除去される。次に、以前のゲート4に向かって延びているプレス残留部を例えば鋸断によって除去した後で、一体の鋳造品はさらなる加工を施されることができ、又は、例えばピストン未加工鋳造品のような複数のキャビティから成る一体又は複数部分から成る鋳造品の場合には、切離しを行うことができる。その後でこれらの鋳造品は、さらに加工されることができ、例えば熱処理を施され、例えば切削加工によって最終寸法へと加工されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯によって満たされる少なくとも1つの鋳型を備えた鋳造機械を使用して鋳造品を製造する方法であって、鋳型を溶湯によって満たし、次いで溶湯が完全に凝固するまで待ち、その後で鋳造品を鋳型から取り出す形式の方法において、溶湯を鋳造機械から、ゲートにおける毎秒10mよりも低い充填速度でかつ無圧で、鋳型内に充填し、次いで鋳型内において100バールよりも高い鋳造圧で、押圧することを特徴とする、鋳造品を製造する方法。
【請求項2】
充填速度が毎秒1mよりも遅く、充填過程後に鋳造圧が500バールよりも高い、請求項1記載の方法。
【請求項3】
溶湯によって鋳型を充填する前に、鋳型内に少なくとも1つの耐圧性の中子を、鋳造品内に中空室を形成するために挿入する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
鋳型から取り出した鋳造品を、少なくとも2つ又はそれ以上の部分鋳造品に分割する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
鋳型を、溶湯による充填過程前及び/又は充填過程中に排気する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法によって製造された鋳造品。
【請求項7】
鋳造品が、内燃機関のピストン用のピストン未加工鋳造品である、請求項6記載の鋳造品。
【請求項8】
鋳型及び耐圧性の中子が、少なくとも2つの互いに結合されたピストン未加工鋳造品が鋳造されるように、成形されている、請求項6又は7記載の鋳造品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2009−541063(P2009−541063A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517038(P2009−517038)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005916
【国際公開番号】WO2008/003474
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(504233247)カーエス コルベンシュミット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】KS Kolbenschmidt GmbH
【住所又は居所原語表記】Karl−Schmidt−Strasse, D−74172 Neckarsulm, Germany