説明

鋳造用金合金

【課題】歯科治療や装身具に用いる鋳造用金合金において、豊かな黄金色を発現させ、かつ、熱変形を抑制すること。
【解決手段】Au:83.0〜90.0質量%、Pt:8.0〜10.0質量%、In:1.0〜2.0質量%及びCo:0.1〜1.5質量%からなる金合金を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用金合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において修復物作製に用いられる鋳造用金合金は、精密鋳造によって、所望の形状を与えることができ、歯牙との適合に優れる長所を備える反面、色調が金属色なので、白色のレジン材料やオールセラミック材料に比べ、審美性に劣る欠点がある。
【0003】
鋳造用金合金の審美性における短所を補うために、一般的には、メタルセラミック修復が用いられる。メタルセラミック修復は、セラミック粉末からなる歯科用陶材を鋳造フレーム上に築盛し、乾燥、焼成を経て、緻密なセラミック層を金属表面に形成する手法である。このとき、歯科用陶材を築盛する前に、鋳造体は、デギャッシングと呼ばれる熱処理を経て、表面に酸化物層を形成させ、歯科用陶材との接合を確実にする。歯科用陶材からなるセラミック層は、天然歯に近い色調を有するため、金属を用いても審美性に優れた修復物を作製することができる。
【0004】
金属フレームは、セラミック層の下地となり、その色調は、セラミック層の色調に反映される。金属が白金色の場合は、セラミック層の色調が暗くなり、審美的には好ましくない。さらに、修復物がクラウン又はブリッジの場合は、下地の金属が辺縁に沿って露出することがあり、金属が白金色であると、審美的には好ましくない。これらの理由から、強い黄金色の金属が大変好まれている。
【0005】
このニーズに応える従来技術の一例として、特許文献1に開示される鋳造用金合金がある。この合金は、Au75〜98%、Pt0.1〜15%、Fe0.1〜10%、In0.1〜3%、W0.05〜5%からなり、黄金色を有することを特長とするものである。
別な従来技術として、特許文献2に開示される鋳造用金合金がある。この文献の請求項2によれば、Au82.0〜84.0%、Pt8.9〜10.9%、Pd4.0〜6.0%、Ag0.2〜0.5%、Zn1.5〜2.5%、Fe0.2%、Ir0.1%にTa、Snを含有する鋳造用金合金である。
【特許文献1】特開平1−132728号公報
【特許文献2】特開2002−129252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に開示される合金系では、鋳造体の金属組織が、白金色の晶出物粒子とAuリッチの黄金色のマトリックス相との2相からなっている。これは、鋳造時の凝固過程において、Auと固溶しづらいFe及びWが、Pt−Fe−W系高融点金属間化合物として晶出し、マトリックスのPt、Fe、W濃度が減少することによって、相対的にAu濃度が増すからである。そのため、外観上は、確かに強い黄金色を呈す。
一方で、メタルセラミック修復は、天然歯の自然な色調を再現させるために、異なる色調の陶材を繰返し築盛、焼成して、複雑な色合いを表現することが、ごく一般的に行われている。陶材の焼成は、通常900℃前後の高温に達するため、この合金系では、熱変形を起こす問題がある。これは、Pt、Fe、Wの大部分が粗大粒子として晶出し、マトリックスが、低強度・低融点のAuリッチ相となるためである。この合金系は、熱変形により歯牙との適合が確保できないため、大型のブリッジ等の修復に用いることは困難である。
【0007】
前記特許文献2に開示される合金系は、Zn添加量が多いため、常温での強度は高く、Pdを含有するため液相点を高くすることができる。しかし、合金組織は、Zn、Pd、Pt及びAuの固溶体なので、前記特許文献1に開示された合金系のAuリッチ相より相対的にAu濃度が少なく、色調は、Au特有の豊かな黄金色が希釈された淡黄色となる。一方で、常温における硬さを増大させるためにZnを多く含有するので、合金の融点が低下し、陶材焼成時には、高温によって、強度が低下するので、大きな熱変形を起こす。このように、この合金系に代表される鋳造用金合金は、色調が不十分であって、さらに適合に不安を抱えている。
【0008】
以上述べたように、鋳造用金合金に対するニーズは、未だに十分満たされていない。Au含有量が高い、高品位の鋳造用金合金は、前記2例の他にも多数の製品が入手できるが、それら従来技術は、前記2例に代表されるように、色調が優れても熱変形に問題があるものと、色調が淡い上に熱変形に問題があるものとに集約される。
【0009】
本発明は、従来技術の問題点に鑑みて、強い黄金色を呈しながら、耐熱変形性に優れた鋳造用金合金を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、Au:83.0〜90.0質量%、Pt:8.0〜10.0質量%、In:1.0〜2.0質量%及びCo:0.1〜1.5質量%からなる鋳造用金合金である。ここで、鋳造用金合金とは、鋳造して形態を付与する金合金のことであり、歯科分野に限らず、装身具及びその他の用途に用いることも、無論可能である。
【0011】
本発明は、Fe、Cr、Mn、Moのうち少なくとも1種の元素を0.1〜0.5質量%含有することを特長とする鋳造用金合金である。
【0012】
本発明は、Ir、Rh、Ru、W、Reのうち少なくとも1種の元素を0.02〜1.0質量%含有することを特長とする鋳造用金合金である。
【0013】
本発明は、歯科メタルセラミック修復に用いることを特長とする鋳造用金合金である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強い黄金色を呈し、かつ、耐熱変形性に優れた鋳造用金合金を提供することができる。次にその理由を述べる。
【0015】
金合金の黄金色は、Au含有量増加に伴って濃くなるが、Au含有量が多すぎると実用的な強度を得ることができない。そこで、添加元素を検討するのが、金合金の一般的な設計手法である。従来技術では、Fe、W、Pt、Pd、Znなどの添加元素が選択されており、前述のように、強い黄金色と耐熱変形性とを両立することができなかった。
【0016】
本発明は、Au:83.0〜90.0質量%、Pt:8.0〜10.0質量%、In:1.0〜2.0質量%及びCo:0.1〜1.5質量%からなる鋳造用金合金である。本発明の金合金は、微細なPt−Co分散相の晶出によって、マトリックスのAu濃度が増し、豊かな黄金色が得られる。マトリックスは、AuとIn、Coとの固溶強化により、実用的な強度を維持できる。さらに、マトリックスの固溶強化とPt−Co分散相による分散強化によって熱変形を抑制することができる。
【0017】
Auは、豊かな黄金色発現のために最低83%は必要である。Auの含有量が90%を超えると、熱変形が大きくなり、又実用的な強度も得られない。望ましくは、87〜90%の添加がよい。
【0018】
Ptは、8%以上の添加によって、金合金の融点を上げ、耐熱変形性を高める。しかし、Auと固溶して、黄金色を薄める効果が強いため、上限は10%としなければならない。Inは、Auに固溶して強度を向上させる効果がある。1%未満では、その効果が不十分であり、2%を超えると、融点を著しく低下させ、又、黄金色を薄める。
【0019】
本発明で、Coの果たす役割は特異的である。鋭意研究の末、次の効果を発揮することを見出した。第1に、金合金の凝固過程でPt−Co金属間化合物を晶出する効果と、第2に、Auリッチなマトリックスに固溶してマトリックスを強化する効果である。これらの効果を発現させ、豊かな黄金色でありながら、耐熱変形性に優れた金合金を得るためには、Co添加量は、0.1〜1.5%がよい。Coが0.1%より少ないと、Pt−Coの晶出が不十分で、固溶強化も分散強化も十分に発現せず、1.5%を超えると、マトリックスに固溶するCoが増すため黄金色を薄めるからである。
【0020】
なお、前記金合金にFe、Cr、Mn、Moのうち少なくとも1種の元素を0.1〜0.5%添加することによって、さらにPtの晶出を促し、黄金色を増す働きが得られる。添加量が0.1%未満ではその効果が得られず、0.5%を超えると、マトリックスに固溶して黄金色を過分に薄める。
【0021】
さらに、前記金合金にIr、Rh、Ru、W、Reのうち少なくとも1種の元素を0.02〜1.0%添加することによって、Ptの晶出をさらに促し、黄金色を増す働きが得られる。これらの元素は、融点が著しく高く、Auに固溶しないため、結晶粒微細化元素として知られているが、0.02%未満ではその効果が得られず、1.0%を超えると、粗大な粒子を晶出し、分散強化の効果が失われ、熱変形が過大になる。
【0022】
なお、前記金合金は、歯科用金属としてメタルセラミック修復に用いるのに好適である。ただし、色調と耐熱変形性が必要とされる分野、例えば、装身具等に用いても好適であって、適用分野を歯科に限定するものではない。
【0023】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例】
【0024】
本発明の実施例の組成を表1に、比較例の組成を表2に示す。
【0025】
(金合金の作製)
実施例1に示す組成の鋳造用金合金は、次の方法によって得られた。AuとPtとを、まずアーク溶解炉によって溶解し、さらに他の添加元素を加えて、溶製した。溶解後のボタン状の合金は、厚さ1mmまで圧延し、裁断した。
実施例2〜5及び比較例4〜5に示す組成の鋳造用金合金は、実施例1と同様の方法で得た。
実施例6〜9及び比較例1〜3に示す組成の鋳造用金合金は、Ir、W、Re、Mn又はCrとPtとの母合金をあらかじめ作製し、これを後に添加した他は、実施例1と同様の方法で得た。
【0026】
(試験片の作製)
実施例及び比較例の色調評価用及び熱変形評価用の試験片は、次の方法によって作製した。鋳造は、装身具業界や歯科技工の精密鋳造法として一般的なロストワックス法によった。
【0027】
色調評価用試験片は、直径12mm、厚さ1.2mmのワックスパターンを作製し、リン酸塩系埋没材で埋没・焼成した後、反転加圧式鋳造機を用いて鋳造した。次に、鋳造体から埋没材を除去し、スプルーを切断して、片面を#100、#240、#600、#1000の耐水研磨紙で順に研磨し、ダイヤモンドペーストでバフ研磨して、鏡面の試験片を得た。
【0028】
熱変形評価用試験片は、前記と同様の鋳造方法で2mm角、長さ50mmの角棒に鋳造し、デギャッシングを想定して1000℃で10分間、大気中で熱処理した。さらに、角棒の端面を除く4面は、#100、#240、#600の耐水研磨紙で順に研磨し、#1000の耐水研磨紙で仕上げた。
【0029】
(色調の評価)
実施例及び比較例の鋳造用金合金の色調は、純金との色差ΔE*によって評価した。
色差ΔE*は、CIELab表色系において、2色間の明度L*、彩度a*及び彩度b*の差(ΔL*、Δa*及びΔb*)の2乗和の平方根で定義される値で、肉眼では判定しづらい色調の差を定量的に表す指標である。
色差ΔE*が大きいほど、2色間の隔たりが大きく、色調が異なることを表す。
【0030】
純金鏡面と前記方法で作製した試験片鏡面とのΔL*、Δa*及びΔb*を色差計(ビックガードナー社,カラーガイド)で計測し、色差ΔE*求めた。
結果を表1及び表2に示す。
【0031】
(熱変形の評価)
実施例及び比較例の鋳造用金合金の熱変形は、加熱変位Dを測定して評価した。金属を加熱すると、一般に強度が低下し、自重によって熱変形する。その程度を評価するために、金属棒の一端を固定し、水平に保持した片持ち梁の状態で加熱して、垂直変位量を測定した。試験片は、前記方法で作製したものを用い、加熱条件は、1000℃のArガス中で10分間とし、加熱変位Dは、固定端から約40mmの垂直変位量を精度0.05mmのハイトゲージで測定して、求めた。この評価方法によれば、単純形状の試験片と、非酸化雰囲気の加熱とによって、自重による熱変形を、誤差要因を排除して、再現性よく定量的に求めることができる。
結果を表1及び表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
(結果)
実施例1〜実施例4に示す鋳造用金合金は、請求項1に記載の金合金である。加熱変位Dは、1.8mm以下であり、かつ、色差ΔE*は、23以下であった。
実施例5及び実施例6に示す鋳造用金合金は、請求項2に記載の金合金であり、Dが1.4mm以下、かつ、ΔE*が22以下であった。Fe及びCrの他に、Mn、Moを添加しても、同様であった。
実施例7及び実施例9に示す鋳造用金合金は、請求項3に記載の金合金であり、Dが1.8mm以下、かつ、ΔE*が21以下であった。Ir及びReの他に、Rh、Ru、Wを添加しても、同様であった。
【0035】
比較例1、比較例4及び比較例5は、ΔE*が23以下で、やはり優れた黄金色であった。しかしながら、これら比較例は、Dが2.3mm以上となり、耐熱変形性が十分でなかった。
比較例2及び比較例3は、市販金合金の例であるが、ΔE*が25で、黄金色が薄く、淡黄色であった。さらに、Dは、2.7mm以上となり、耐熱変形性が不十分であった。
【0036】
図1は、実施例及び比較例のD及びΔE*の関係である。本発明の実施例に示すすべての金合金は、Dが1.8mm以下となり、比較例に示すすべての金合金は、Dが2.3mm以上となった。実施例に示す金合金は、熱変形が比較例より十分小さく、修復物と歯牙との適合が確実になり、辺縁封鎖性を高めることができ、2次う蝕を効果的に抑制することができる。さらに、実施例に示すすべての金合金は、色差ΔE*が23以下で、強い黄金色を備えていた。
【0037】
図2は、実施例2に示す金合金の断面組織である。EDSによる元素分析の結果、Pt及びCoを主とする相からなる微細な分散相とAu、In及びCoを主とする固溶相とからなるマトリックスとが確認された。他の実施例についても、これと同様の組織であった。比較例1、比較例4及び比較例5に示す金合金にも分散相が観察されたが、加熱変位が大きく、分散強化の効果は認められなかった。
【0038】
上述の実験的検証によって、本発明に示す組成の鋳造用金合金は、加熱変位が1.8mm以下であって、純金との色差が23以下であり、従来技術に比べ、強い黄金色を呈しながら、耐熱変形性に優れていることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例及び比較例に示す金合金の色差ΔE*と加熱変位Dの関係を表す図である。
【図2】本発明の金合金の断面組織の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au:83.0〜90.0質量%、Pt:8.0〜10.0質量%、In:1.0〜2.0質量%及びCo:0.1〜1.5質量%からなることを特長とする鋳造用金合金。
【請求項2】
Cr、Mn、Fe、Moのうち少なくとも1種の元素を0.1〜0.5質量%含有することを特長とする請求項1に記載の鋳造用金合金。
【請求項3】
Ir、Rh、Ru、W、Reのうち少なくとも1種の元素を0.02〜1.0質量%含有することを特長とする請求項1又は2に記載の鋳造用金合金。
【請求項4】
歯科メタルセラミック修復に用いることを特長とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鋳造用金合金。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−24988(P2008−24988A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199136(P2006−199136)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】