説明

鋳造金型

【課題】金型同士の接合面で、確実に保持されたシール部材により気密性を確保し得る鋳造金型を提供する。
【解決手段】本発明の鋳造金型は、固定型41及び型本体31の両型、及び、型本体31に嵌着されるキャビティ型32を含む少なくとも3個の型を備え、型本体31に対してキャビティ型32を嵌装して、型本体31及びキャビティ型32の両型を一体化した後に、型本体31と固定型41とにより型締めを行い、また、上記した少なくとも3個の金型間を気密にするシール部材を備えるもので、型締めしたときに、固定型41と対向する型本体31の角部33を面取りし、この面取りにより落とされた斜面34から成る三角溝部分34と、この三角溝部分34の一端部分35に設けた突起部分36とを連接して、O-リング1を収容するシール溝34-36を形成する。シール溝の形成位置は、キャビティ型32の角部であっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定型と可動型などの一対構成の型や、この両型間に嵌着されるキャビティ型などの金型を備えて構成される鋳造金型に関し、特に、型締めしたときに構成金型間を気密にするシール部材を備えた鋳造金型に関する。
【背景技術】
【0002】
砂型の替りに金型を用いて行う鋳造方法は、高圧ダイカスト法や低圧ダイカスト法、スクイーズ法、真空鋳造法をはじめ、多種類に亘っている。そして、金型内を減圧する鋳造装置に共通して要求されるのは、型締めをしたときの装置内部で高い気密性を確保することである。
【0003】
一般的に鋳造においては、溶湯(溶融金属)中に溶存する水素等のガス、金型中に存在する大気ガス等が鋳造時に気泡となり、成形を阻害したり鋳物内部に巣を形成したりして、機械的性質を低下させる。そこで、金型内を減圧して種々のガスを除去することが効果的であるが、そのためには気密性の高い金型での真空排気が重要となる。このように、いずれの鋳造法を採用する場合も、高い気密性を確保することにより、精度良く鋳物製品を量産することができる点で共通する。
【0004】
ところで、オイルシールなどの気密性を確保する手段として、O-リングに代表されるシール部材を用いるのが一般的である。例えば、低圧鋳造装置に関する特許文献1は、その図1において、固定型(ベースプレート3)及び可動型(下型2)の間や、上下両型(上型1及び下型2)間に、それぞれO-リングのようなシール部材13を介在させて、金型間の気密性を確保する。
【0005】
また、真空鋳造装置に関する特許文献2は、その図1において、キャビティ16の気密性確保のために、上型12と下型14との型合せ面の端縁に、耐熱ゴム製のO-リング13aを搭載している。
【0006】
さらに、ダイカスト装置に係る特許文献3の図1は、固定型10と可動型11との接合面13をシールするシール部材17を示している。
【特許文献1】実開平5-39737号公報(図1)
【特許文献2】特開平7-32125号公報(図1)
【特許文献3】特開2003-191059号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したO-リングにより得られる気密性は、O-リングを収容するシール溝の形状に左右されることが知られている。
【0008】
例えば図1(a)に示すシール溝は、「四角溝」と称されるものである。このものは、O-リング1を上型2と下型3との接合面4に設置し、この接合面4がO-リング1を紙面上下方向に圧接するときに、気密性が最も得られることになる。しかしながら、四角溝内に収容したときのO-リング1に対する規制手段が殆どないため、O-リング1に対する保持能力に欠ける。
【0009】
また、図1(b)のシール溝は、「あり溝」と呼ばれ、図1(a)に示す四角溝形状ではO-リング1に対する保持能力が得られない、という欠点を補うものである。即ち、O-リング1を収容する凹部5の開口部6a、6bを底面7より縮径して、シール溝内にO-リング1が嵌合するようにしたものである。
【0010】
さらに、図1(c)のシール溝は、「三角溝」と呼ばれ、上型8の角部9を面取りし、斜面10を形成するものである。この面取りにより、型締めしたときの上型8と下型11との間に断面三角形状の空隙12(「三角溝」)が生じ、この空隙12内にO-リング1を収容する。この三角溝を用いる場合、上下両型8、11による型締めは紙面上下方向に行われ、一方、O-リング1に対する圧接は斜面10の法線方向に行われる。したがって、両者がほぼ角度45°で乖離してしまい、最大限の効率で気密性を得ることができないという問題がある。また、この角度乖離に起因してO-リング1に対する均等な圧力が得られず、O-リング1の位置がずれ易くなる。そして、このために、O-リング1に対する保持能力が限定的となり、本来の気密性確保の目的よりも、両型8、11の単純な固定用に機能が限られるのが実状である。
【0011】
ところで、可動型と固定型のような一対の型と、製品形状を転写するキャビティ型とを備えた鋳造金型での製造は、次の手順で行われるのが一般的である。
【0012】
1)外枠として機能する型本体に対して、製品形状を刻設した入れ子構造のキャビティ型を嵌装する。
【0013】
2)キャビティ型と一体化した型本体を可動型または固定型として、互い同士を型合せすることによりキャビティ型を両型間に嵌着させる。
【0014】
3)可動型と固定型との間で型締めを行う。
【0015】
4)型締めした鋳造金型内に溶湯を注入して鋳物製品を得る。
【0016】
このような鋳造工程を行う鋳造金型において、精度良く鋳物製品を量産するために、O-リングなどのシール部材が重要であることは既述の通りであるが、図1に示した3種類のシール溝は、この鋳造金型の気密性を確保するうえで一長一短があり、理想的なものとはならない。
【0017】
例えば、図2(a)は、四角溝20を設置した型本体21と、これに嵌装するキャビティ型22の相対位置を示すものである。キャビティ型22を型本体21に嵌装する際に、キャビティ22を上下方向にスライドさせるが、このとき、四角溝20内に設置されたO-リング1に対して、キャビティ22の接合面22aにより剪断応力が作用して、O-リング1が破断し易くなる。
【0018】
また、図2(b)は、型本体21に設けた「あり溝」23aと、キャビティ型22に設けた「あり溝」23bとで、O-リング1を保持するようにしたものである。しかしながら、型本体21とキャビティ型22とが異種材料である場合に、互いの熱膨張率の差異に起因して、「あり溝」23a及び「あり溝」23bの両者間で上下方向位置がずれてしまい、O-リング1を確実に保持することが難しくなる。
【0019】
さらに、図2(c)は、型本体21の角部24を面取りして得られる断面三角形状の空隙を利用した「三角溝」25を示すものである。三角溝25を備えた型本体21に対してキャビティ型22を嵌装する場合に、O-リング1の上方部分を規制するものがないため、O-リング1に対する保持が不可能である。そして、型本体21とキャビティ型22とを型開きするときにO-リング1が脱落するなどの不具合が生じる。
【0020】
このように、いずれのシール溝を利用した場合も、O-リング1に対する保持能力の点で信頼度が低く、確実な気密性を得ることが難しい。
【0021】
本発明は、上記問題点に鑑み、金型同士の接合面で、確実に保持されたシール部材により気密性を確保し得る鋳造金型を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため、本発明の鋳造金型は、一対の型と、この一対の型の間に嵌着されるキャビティ型とを含む少なくとも3個の型を備え、一対の型のうちの少なくとも一方の型に対してキャビティ型を嵌装して、一方の型及びキャビティ型の両型を一体化した後に、一方の型と他方の型とにより型締めを行い、また、上記の少なくとも3個の型の間を気密にするシール部材を備えるもので、型締めしたときに、他方の型と対向する両型の角部のいずれかを面取りし、面取りにより落とされた斜面から成る三角溝部分と、この三角溝部分の両端のうち他方の型側の一端部分に設けた突起部分とを連接して、シール部材用のシール溝を形成した。
【0023】
これによれば、三角溝の両端に設けた突起部分が、シール部材のフック機構として機能するため、単純な三角溝の場合に不足していたシール部材の保持能力が向上し、型締めしたときに気密性を確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の鋳造金型は、三角溝部分と、この三角溝部分の両端のうち他方の型側の一端部分に設けた突起部分とが連接した形状のシール溝を備えるため、突起部分により、シール部材に対する保持能力が強化される。したがって、このシール溝に設置されたシール部材により、金型同士の接合面で確実な気密性が得られ、鋳物製品の製造工程における歩留り低下を防ぐことができる。
【0025】
また、本発明の鋳造金型に設けたシール溝は、型締めを行う一対の型及びキャビティ型を含む少なくとも3個の金型に同時に対面する位置に設けられるため、すべての金型の接触面に対して確実な気密性を確保できる。このため、必要なシール部材の点数削減が可能になるという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図3は、本発明の鋳造金型を用いた工程の一部を示すものであり、図外の固定型に型合せする前に、外枠として機能する型本体31に対して、製品形状を刻設した入れ子構造のキャビティ型32を嵌装する直前の様子が示されている。型本体31の角部33を面取りし、この面取りにより落とされた斜面34から成る三角溝部分34を形成する一方、この三角溝部分34において固定型と当接すべき側の一端部分35に突起部分36を形成する。そして、三角溝部分34と突起部分36とが連接したカール形状部分34-36がシール溝として用いられる。このような形状のシール溝を用いると、シール溝34-36に対してO-リング1が設置されたときに、突起部分36によりO-リング1がフックされる。したがって、キャビティ型32を型本体31に嵌装したときに、O-リング1が上方へ位置ズレする事態を回避でき、三角溝だけの形状のシール溝を使用したときに見られたO-リング1の脱落を防止できる。
【0027】
図4は、上記したシール溝34-36を備えた型本体31を用い、一般の鋳造工程にしたがって、キャビティ型32と型本体31とを一体化したうえで固定型41に型合せした状態を示す。このとき、キャビティ型32が、型本体31に嵌入した状態となる。この後に、可動型たる型本体31と固定型41とにより型締めを行い、型締めした鋳造金型内に高温の溶湯を注入して鋳物製品を得る。
【0028】
図4に示されるように、型本体31とキャビティ型32とが当接する際に、シール溝34-36内に収容されたO-リング1に対して、紙面上方方向の応力が作用する。しかしながら、O-リング1は突起部36に係止され、さらに、固定型41からの圧接が加わり、シール溝34-36内にO-リング1が確実に保持される。そして、これにより、高い気密性が確保されて、品質の高い鋳物製品を精度良く製造することが可能となるのである。
【0029】
なお、本形態では、カール形状シール溝34-36を型本体31に設けたが、図3の配置から明らかなように、キャビティ型32の角部に設けても同様の効果が得られることは明らかである。なお、本形態では、キャビティ型32とカール形状シール溝34-36とを、型本体(可動型)31に設けたが、図4の配置から明らかなように、固定型41に設けても同様の効果が得られ、また、型本体(可動型)31と固定型41との双方に同時に設けても同様の効果が得られることが明らかである。
【0030】
また、シール溝34-36は、型締めを行う型本体31及び固定型41、さらに、キャビティ型の3個の金型に同時に接触するように設けられるため、すべての金型の接触面に対して確実な気密性を確保できる。このように構成金型に対して効率的に接触できる部分に位置することから、このシール溝34-36を利用することにより、鋳造金型装置内に必要なO-リング部品の点数削減と金型の製作工数の削減が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の鋳造金型に設けたシール溝は、鋳造金型用途のみにとどまらず、気密性確保が必要な真空処理装置、例えば、真空成膜装置に活用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)四角溝を示す断面模式図 (b)「あり溝」を示す断面模式図 (c)三角溝を示す断面模式図
【図2】(a)鋳造金型に四角溝を適用したときの断面模式図 (b)鋳造金型に「あり溝」を適用したときの断面模式図 (c)鋳造金型に三角溝を適用したときの断面模式図
【図3】シール溝を設けた可動型に対してキャビティ型を嵌装する直前を示す模式図
【図4】可動型に設けたシール溝にシール部材を収納し、固定型と可動型とを型締めした状態を示す模式図
【符号の説明】
【0033】
1 O-リング(シール部材)
31 型本体(可動型)
32 キャビティ型
41 固定型
33 角部
34 斜面
36 突起部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の型と、該一対の型の間に嵌着されるキャビティ型とを含む少なくとも3個の型を備え、前記一対の型のうちの少なくとも一方の型に対して前記キャビティ型を嵌装して、前記一方の型及びキャビティ型の両型を一体化した後に、前記一方の型と他方の型とにより型締めを行う鋳造金型であって、
前記3個の型の間を気密にするシール部材を備えるものにおいて、
型締めしたときに、前記他方の型と対向する前記両型の角部のいずれかを面取りし、
該面取りにより落とされた斜面から成る三角溝部分と、該三角溝部分の両端のうち前記他方の型側の一端部分に設けた突起部分とを連接して、
前記シール部材用のシール溝を形成したことを特徴とする鋳造金型。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−26704(P2006−26704A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211102(P2004−211102)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】