説明

鋳鉄管用粉体塗料及び鋳鉄管

【課題】ビスフェノールF型のエポキシ樹脂を用いた鋳鉄管用粉体塗料において、レベリング性と耐ピンホール性の両立を図り、かつ貯蔵安定性とを高度に兼備させることにある。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)を含有する鋳鉄管用粉体塗料であって、前記エポキシ樹脂が下記一般式(1)
[化1]


(式中、R1〜R4はそれぞれ独立的に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)
で表される構造部位を繰り返し単位とする粉体塗料用エポキシ樹脂であって、かつ、その重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除してなる値(Mw/Mn)が3.2〜3.8の範囲のものであることを特徴とする鋳鉄管用粉体塗料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄管用粉体塗料及び鋳鉄管に係り、より詳しくは、異なるエポキシ当量のビスフェノールF型エポキシ樹脂を混合することにより、ピンホール性とレベリング性(表面平滑性)の両方を改善し、かつブロッキング性にも優れた鋳鉄管用粉体塗料と、該鋳鉄管用粉体塗料を塗布したことにより、ピンホール性、及びレベリング性の向上した鋳鉄管に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂を用いたエポキシ粉体塗料は、耐腐食性や密着性、耐水性、耐薬品性および機械的特性等に優れた性質を持っており、エレクトロニクス分野のみならず、防食用塗料として上下水道管、工業用水管、ガス管など土木・建築分野において広く使用されている。
【0003】
これら各種の用途のうち、土木・建築分野で用いられる鋳鉄管用途においては、物性バランスの良好さからビスフェノールA型(BPA型)エポキシ樹脂が使用されているが、ビスフェノールAの環境ホルモンの問題から、より環境ホルモン作用の低いと推定されるビスフェノールF型(BPF型)の固形エポキシ樹脂を使用するケースが徐々に増えつつある(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2813986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いた粉体塗料において、エポキシ当量(EEW)が低いものは、外的要因(温度や回転数等)による影響を受けやすいため、レベリング性にばらつきが生じやすく、また、粉体塗料の貯蔵安定性が悪くなる傾向がより顕著であった。一方、エポキシ当量が高いものでは、耐ピンホール性が悪くなる傾向があった。このように固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いた粉体塗料において、レベリング性及び粉体塗料の貯蔵安定性と、硬化塗膜の耐ピンホール性とは相互に相反する性能であり、双方の特性を高度に兼備したビスフェノールF型エポキシ樹脂系の粉体塗料が望まれていた。
本発明が解決しようとする課題は、ビスフェノールF型のエポキシ樹脂を用いた鋳鉄管用粉体塗料において、レベリング性と耐ピンホール性の両立を図り、かつ貯蔵安定性とを高度に兼備させること、及びレベリング性と耐ピンホール性の向上した鋳鉄管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の分子量分布を持ったビスフェノールF骨格を有するエポキシ樹脂を主剤として用いた場合、レベリング性、耐ピンホール性、及び貯蔵安定性とを高度に兼備した鋳鉄管用粉体塗料、並びに該鋳鉄管用粉体塗料を塗布することで、レベリング性、耐ピンホール性、及びブロッキング性の向上した鋳鉄管が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、エポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)を含有する鋳鉄管用粉体塗料であって、前記エポキシ樹脂(A)が下記一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1〜R4はそれぞれ独立的に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)で表される構造部位を繰り返し単位とする粉体塗料用エポキシ樹脂であり、かつ、その重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除してなる値(Mw/Mn)が3.2〜3.8の範囲のものであることを特徴とする鋳鉄管用粉体塗料に関する。
また、本発明は、請求項1乃至4いずれか1項記載の鋳鉄管用粉体塗料を塗布したことを特徴とする鋳鉄管に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鋳鉄管用粉体塗料は貯蔵安定性に優れており、これを鋳鉄管に塗装することにより、レベリング性と耐ピンホール性の両立が可能である。
また、該鋳鉄管用粉体塗料を鋳鉄管に塗布することにより、レベリング性及び耐ピンホール性の向上した鋳鉄管が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられるエポキシ樹脂(A)は、前記エポキシ樹脂が下記一般式(1)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1〜R4はそれぞれ独立的に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)で表される構造部位を繰り返し単位とするものである。具体的には、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラクロロビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールF型エポキシ樹脂、或いは、これらをハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、2−ターシャリブチルハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ビフェノール、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF)、テトラメチルビスフェノールF等の2価フェノール類と反応させて得られるエポキシ樹脂が挙げられる。本発明では特にレベリング性、貯蔵安定性及び耐ピンホール性とのバランスに優れる点からビスフェノールF型エポキシ樹脂及びこれを2価フェノール類と反応させたエポキシ樹脂であることが好ましい。
本発明において前記エポキシ樹脂は、粉体塗料用エポキシ樹脂であって、かつ、その重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除してなる値(Mw/Mn)が3.2〜3.8の範囲のものであることを特徴としている。即ち、前記エポキシ樹脂は、粉体塗料用途に適用可能な固形エポキシ樹脂であると共に、分子量分布を示す(Mw/Mn)の値が3.2〜3.8という範囲であることから、溶融時の流動性と貯蔵安定性及び硬化塗膜のレベリング性に優れた粉体塗料を与えるものとなる。
【0012】
前記エポキシ樹脂(A)は、粉体塗料としての塗工性や硬化塗膜のレベリング性及び貯蔵安定性が良好となる点からその数平均分子量(Mn)が1,000以上2.500以下のものであることが好ましい。また、低分子量体である下記一般式(2)
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R1〜R4はそれぞれ独立的に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)で表される化合物の含有率の合計がGPCによる面積比率で3〜6質量%の範囲となることが耐ピンホール性に優れた効果を有する点から好ましい。なお、ここで、前記構造式(2)で表される化合物の含有率の合計とは、前記一般式(2)の範囲にある種々の異性体の全てを含むものの含有率であり、GPCによる面積比率にて検出される値である。
ここで、本発明におけるGPCの測定条件は、以下の条件にて測定したものである。
[GPC]
測定装置:東ソー株式会社製「HLC−8220 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL−L」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G4000HXL」
検出器:RI(示差屈折径)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準:前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
【0015】
なお、重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量(Mn)の値は何れも上記の条件でのGPC測定の結果に基づくものである。
【0016】
また、本発明で用いる前記エポキシ樹脂(A)は、上記したGPCで測定されるn=3体以上の成分の含有量が85〜95面積%となる範囲のものであることがレベリング性及び貯蔵安定性の点から好ましい。
【0017】
前記エポキシ樹脂を製造する方法は、具体的には、下記一般式(1)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R1〜R4はそれぞれ独立的に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)で表される構造部位を繰り返し単位とするエポキシ樹脂のうち、エポキシ当量(EEW)1500〜2000g/eq.の成分(以下、「エポキシ樹脂(a1)」と略記する。)と、エポキシ当量(EEW)600〜900g/eq.の成分(以下、「エポキシ樹脂(a2)」と略記する)とを混合する方法が挙げられる。
ここで、エポキシ樹脂(a1)又はエポキシ樹脂(a2)の具体的構造は、それぞれ、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラクロロビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールF型エポキシ樹脂、或いは、これらをハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、2−ターシャリブチルハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ビフェノール、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF)、テトラメチルビスフェノールF等の2価フェノール類と反応させて得られるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0020】
また、前記したエポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)との混合割合は、エポキシ樹脂(a1)を15〜35質量部、エポキシ樹脂(a2)を65〜85質量部となる範囲であることが好ましく、特にエポキシ樹脂(a1)を20〜30質量部、エポキシ樹脂(a2)を70〜80質量部となる範囲であることが、エポキシ樹脂成分の分子量分布の調整が容易である点から好ましい。
【0021】
更に、上記のエポキシ樹脂(a1)とエポキシ樹脂(a2)とを混合する際、混合物のエポキシ当量が700〜1000g/eq.となるように混合することが、前記エポキシ樹脂(A)のレベリング性と耐ピンホール性とがより良好なものとなる点から好ましい。
【0022】
本発明では、本発明の効果を損なわない範囲で上記エポキシ樹脂(A)の他のエポキシ樹脂(A’)を併用してもよい。ここで使用できる他のエポキシ樹脂とは、例えば、2官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂等のナフタレン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂等のビフェニル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールADノボラック樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリシクロデセンオキサイド基を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂のエポキシ化物等の環式脂肪族エポキシ樹脂;ダイマー酸グリシジルエステル、トリグリシジルエステル等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジルp−アミノフェノール、トリグリシジル−p−アミノフェノール、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ樹脂;フロログリシノールトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシビフェニルトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシフェニルメタントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、2−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−2−[4−[1,1−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]エチル]フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−1−[4−[1−[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]−1−メチルエチル]フェニル]エチル]フェノキシ]−2−プロパノール等の3官能型エポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルエタンテトラグリシジルエーテル、テトラグリシジルベンゾフェノン、ビスレゾルシノールテトラグリシジルエーテル、テトラグリシドキシビフェニル等の4官能型エポキシ樹脂、n−ブチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド等の1官能性エポキシ化合物が挙げられる。
【0023】
上記した他のエポキシ樹脂(A’)を併用する場合、エポキシ樹脂成分全体で、数平均分子量(Mn)が1000〜2500で、且つ重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除してなる値(Mw/Mn)が3.2〜3.8の範囲内となる様に配合することが好ましい。
【0024】
次に、本発明で用いられる硬化剤(B)としては、特に限定されるものではないが、例えば、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ジシアンジアミド、酸無水物、ポリカルボン酸ヒドラジド及びその誘導体、フェノール樹脂及びその誘導体等が挙げられる。なかでも、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物またはポリカルボン酸ヒドラジド及びその誘導体を単独または併用して用いることが塗膜の防食性、可撓性、密着性および強度が著しく良好となる点から好ましい。
【0025】
ここで用いられるイミダゾール系化合物としては、特に限定されるものではないが、例えばイミダゾール、メチルイミダゾール、ドデシルイミダゾール、ヘプタデシルイミダゾール、フェニルイミダゾール等やそれらの1−シアノエチル化物、1−シアノエチル化
物・トリメリット酸混合物、イソシアヌル酸付加物等が挙げられる。また、イミダゾリン系化合物としては、メチルミダゾリン、ドデシルイミダゾリン、ヘプタデシルイミダゾリン、フェニルイミダゾリン等が挙げられる。これらは、単独でも、あるいは2種以上組み合わせて使用することが出来る。
【0026】
酸無水物としては、特に限定されるものではないが、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸等が挙げられる。
【0027】
またポリカルボン酸ヒドラジド及びその誘導体としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリカルボン酸ヒドラジドとしては、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等が挙げられる。その誘導体としては、例えば、N−シクロヘキシル−β−アミノプロピオンヒドラジド、N−フェニル−β−アミノプロピオンヒドラジド、N−ブチル−β−アミノプロピオンヒドラジド、N−ベンジル−β−アミノプロピオンヒドラジド等のN−置換−β−アミノプロピオンヒドラジド類が挙げられる。
【0028】
また、フェノール樹脂及びその誘導体としては、常温で固形であれば特に限定されず、例えば、フェノールホルムアルデヒド樹脂、クレゾールホルムアルデヒド樹脂、ビスフェノールAホルムアルデヒド樹脂やトリアジンとの反応物、ビスフェノール類とビスフェノール型エポキシ樹脂との反応物が挙げられる。
また、本発明の鋳鉄管用粉体塗料には、必要に応じて硬化促進剤、顔料、着色料、流展剤、ワキ防止剤、アエロジル等の添加物を配合することができる。硬化促進剤としては特に限定されるものではないが、例えば、コハク酸、アジピン酸、サリチル酸、セバチン酸等の有機酸が挙げられる。
【0029】
顔料としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、シリカ、チタン、アルミナ、マイカ、等が挙げられる。これらを単独、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
また、着色料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等が挙げられる。これらの顔料又は着色料の使用量は特に限定されないが、粉体塗料中10〜50重量%となる範囲であることが好ましい。
【0030】
また、本発明の鋳鉄管用粉体塗料組成物には、必要に応じて流展剤、ワキ防止剤、レベリング剤、アエロジル等の添加剤を配合することも出来る。
【0031】
本発明の鋳鉄管用粉体塗料の塗料化は、数平均分子量(Mn)が1000〜2500で、且つ重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除してなる値(Mw/Mn)が3.2〜3.8の範囲に分子量を調節したエポキシ樹脂の混合物、硬化剤、更に必要に応じその他の添加剤などを粗粉砕して配合し、この配合物をヘンシェルミキサー等を用いて均一に粉砕混合した後、加熱されたニーダーや押し出し機を用いて溶融混錬し、冷却後粉砕、分級して得られる。
【0032】
このようにして得られる本発明の鋳鉄管用粉体塗料は、塗着効率が良好となる点から、平均粒子系10μm以上が好ましく、塗装表面の平滑性が良好となる点から、150μm以下であることが好ましい。
【0033】
また、被塗物である鋳鉄管としては、特に限定されないが、直管、異形管、及びその付属品類等が挙げられる。
【0034】
鋳鉄管内表面への塗布としては、塗布前に鋳鉄管内外面の錆やその他の付着物を除去した後に、用いる塗料に適した方法で行うのが好ましい。塗布方法としては、特に限定されるものではないが、吹き付け塗装、静電吹き付け塗装、遠心投射法、流動浸漬塗装等の方法が挙げられる。上記方法の中でも特に吹き付け塗装が好ましく、具体的方法としては、鋳鉄管を200℃以上に予熱し毎分500rpmで回転させながら内面に吹き付け塗装をする等が挙げられる。また、塗膜の膜厚は、0.1〜1.0mmであることが防食・ピンホール防止の点からも好ましい。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、GPCの測定条件は以下の通りである。
[GPC]
測定装置:東ソー株式会社製「HLC−8220 GPC」、
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HXL−L」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G2000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G3000HXL」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL G4000HXL」
検出器: RI(示差屈折径)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」
測定条件:カラム温度 40℃、展開溶媒 テトラヒドロフラン、流速 1.0ml/分
標準:前記「GPC−8020モデルIIバージョン4.10」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
【0036】
合成例1
攪拌機、温度計、冷却機を備えた2リットルの四口フラスコに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製「EPICLON 830−S」、エポキシ当量170g/eq.)1000g、ビスフェノールF325g、ハイドロキノン100gと、50%テトラメチルアンモニウムクロライド0.15gを入れ攪拌し、140℃まで約2時間かけ昇温した。更に140℃で5時間攪拌し、エポキシ樹脂(1)を得た。得られたエポキシ樹脂は、エポキシ当量=1710g/eq.、GPC数平均分子量Mn1299、数平均分子量/重量平均分子量=4.0、GPCによるビスフェノールFのジグリシジルエーテル含有量(異性体も含む合計)が、1.7面積%であった。
【0037】
合成例2
ハイドロキノンの使用量を93gとする以外は、合成例1と同様の工程操作を用いエポキシ樹脂(2)を得た。得られたエポキシ樹脂は、エポキシ当量=1550g/eq.、GPC数平均分子量Mn1950、数平均分子量/重量平均分子量=3.9、GPCによるビスフェノールFのジグリシジルエーテル含有量(異性体含む)2.0面積%であった。
【0038】
合成例3
ハイドロキノンの使用量を55gとする以外は、合成例1と同様の工程操作を用いエポキシ樹脂(3)を得た。得られたエポキシ樹脂は、エポキシ当量=860g/eq.、GPC数平均分子量Mn850、数平均分子量/重量平均分子量=2.8、GPCによるビスフェノールFのジグリシジルエーテル含有量(異性体含む)4.5面積%であった。
【0039】
合成例4
ハイドロキノンの使用量を40gとする以外は、合成例1と同様の工程操作を用いエポキシ樹脂(4)を得た。得られたエポキシ樹脂は、エポキシ当量=730g/eq.、GPC数平均分子量Mn1069、数平均分子量/重量平均分子量=2.4、GPCによるビスフェノールFのジグリシジルエーテル含有量(異性体含む)5.5面積%であった。
【0040】
合成例5
温度計、滴下ロート、冷却缶、攪拌機、邪魔板を備えた下部に分液コック付きの2リットルの四口フラスコに、ビスフェノールF200gと、エピクロルヒドリン130g、イソプロピルアルコール84g及びメチルイソブチルケトン84gを仕込み、攪拌し、溶解させ、40℃に加熱した。その後、滴下ロートより、20%水酸化ナトリウム294gを2時間かけて滴下した。滴下終了後60分間攪拌を続け、反応を完結させた。次にメチルイソブチルケトン280gを追加し、30分間攪拌後、停止・静置し、下層の食塩水を分液し除いた。次に水140g、メチルイソブチルケトン84gを仕込み、30分間攪拌後、停止・静置し、下層を分液し除いた。その後、脱水、イソプロパノール回収、ろ過を経てメチルソブチルケトンを蒸留回収させてエポキシ樹脂(5)を得た。得られたエポキシ樹脂は、エポキシ当量=490g/eq.、GPC数平均分子量Mn747、数平均分子量/重量平均分子量=2.0、GPCによるビスフェノールFのジグリシジルエーテル含有量(異性体含む)9.8面積%であった。
【0041】
実施例1〜3及び比較例1〜5
表1に従い、合成例1〜5のエポキシ樹脂および配合したエポキシ樹脂100部に対して、フェニルイミダゾリン4.8部、イミダゾール0.1部、モダフロー(モンサント社製アクリル系流れ調整剤)1部、酸化チタン10部、シリカ30部の割合で配合し、ヘンシェルミキサーを用いて充分に粉砕・混合した。その後、エクストルーダーとしてBuss社製「コ・ニーダ PCS−30」を用い、80℃に加熱しながら溶融混練し、押出し、冷却後粉砕、分級して粒径20〜50μmの粉体塗料(実施例1〜3及び比較例1〜5)を得た。
【0042】
得られた粉体塗料(実施例1〜3及び比較例1〜5)を用いて、各実施例並びに比較例のレベリング性(表面平滑性)、ピンホール性、ブロッキング性の評価を以下の基準に従って行った。
【0043】
[レベリング性の評価]
実施例1〜3及び比較例1〜5で製造した各粉体塗料をそれぞれ、直径1000mm×長さ4mのダクタイル鋳鉄管を200〜220℃で予熱し、鋳鉄管を毎分500rpmで回転させながら、内面に吹きつけ塗装を行い、膜厚400〜500μm前後の塗膜を形成した。その後、塗膜表面の外観を目視にて下記の基準で評価した。この結果を表1に示す。
◎:光沢有、ざらつき無
○:光沢無、ざらつき無
×:光沢無、ざらつき有
比較例3〜5のように、エポキシ当量が低い粉体塗料でレベリング性不良が観察された。
【0044】
[耐ピンホール性の評価]
実施例1〜3及び比較例1〜5で製造した各粉体塗料をそれぞれ、直径1000mm×長さ4mのダクタイル鋳鉄管を200〜220℃で予熱し、鋳鉄管を毎分500rpmで回転させながら、内面に吹きつけ塗装し、放冷して膜厚250〜350μmの塗膜を形成した。その後、塗膜表面の耐ピンホール性を目視にて下記の基準で評価した。この結果を表1に示す。
○:ピンホールなし
×:ピンホールあり
エポキシ当量が高い比較例1、2ではピンホール性不良が発生した。
【0045】
[貯蔵安定性の評価]
実施例1〜3及び比較例1〜5で製造した粉体塗料の貯蔵安定性の評価をブロッキング性の試験により評価した。
高さ10mm・50φのガラスシャーレに、実施例1〜3及び比較例1〜5で製造した粉体塗料を5g敷き、20g・40φの重しをおいた。この状態で1週間40℃で保存し、形状の変化を確認した。この結果を表1に示す。
ブロッキングが生じていない場合を○、ブロッキングが生じていた場合を×とした。
エポキシ当量が低い比較例3〜5ではブロッキング不良が観察された。
【0046】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)を含有する鋳鉄管用粉体塗料であって、前記エポキシ樹脂が下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1〜R4はそれぞれ独立的に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)
で表される構造部位を繰り返し単位とする粉体塗料用エポキシ樹脂であり、かつ、その重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除してなる値(Mw/Mn)が3.2〜3.8の範囲のものであることを特徴とする鋳鉄管用粉体塗料。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(A)が、その数平均分子量(Mn)が1,000以上2.500以下のものである請求項1記載の鋳鉄管用粉体塗料。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂(A)が、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R1〜R4はそれぞれ独立的に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)
で表される化合物の含有率の合計がGPCによる面積比率で3〜6質量%の範囲である請求項1又は2記載の鋳鉄管用粉体塗料。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(A)が、下記一般式(1)
【化3】

(式中、R1〜R4はそれぞれ独立的に水素原子、メチル基、塩素原子、又は臭素原子を表す。)
で表される構造部位を繰り返し単位とするエポキシ樹脂のうち、エポキシ当量(EEW)1500〜2000g/eq.の成分と、エポキシ当量(EEW)600〜900g/eq.の成分との混合物である請求項1、2又は3記載の鋳鉄管用粉体塗料。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか1項記載の鋳鉄管用粉体塗料を塗布したことを特徴とする鋳鉄管。

【公開番号】特開2009−35688(P2009−35688A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203198(P2007−203198)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】