説明

鋸用鞘

【課題】 従来の鞘の場合、ベルトを一旦外さないと鞘が取り外せないので、ちょっとした休憩をとる時には鞘をつけたまま、ということが多かった。また作業時における問題として、25cm前後或いはそれ以上という長さの鞘を腰から吊り下げているので、作業者が腰を下ろす動作をした時に鞘下端が障害物に当たり、それによって作業者がバランスを崩し、不安定な足場での作業の場合には、重大な事故を招く恐れがある。
【解決手段】 鋸柄部分を露出させ鋸刃部分のみを格納した状態で、腰ベルトに係止し吊持するタイプの鞘であって、プラスチック製鞘本体と別体であるベルト掛け部材は、該鞘本体の裏面側に本体長手方向に沿って設けられたレール部に、摺動且つ着脱自在に取設されるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズボンベルト等の腰ベルトに吊持した状態で手挽鋸を出し入れする鋸用鞘の新規な構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
手挽鋸を腰に下げておき、必要に応じてこれを取りだして鋸挽きするという状況は、山林や竹林、果樹園等における剪定作業等でしばしば目にするものであるがそうした場合、鋸刃を露出させた状態では危険であるため、鞘(ホルダー)を用いることが多い。
【0003】
使用される鋸に関して言うと、山林や竹林、果樹園等における取り回し性を良くするために、一般的な鋸に比して「柄」部分の長さを詰めたり、柄の取り付け方向が鋸刃の方向と異なるようにする、等々の工夫が凝らされていることも多いが、刃の長さ(刃渡り)に関しては、25cm前後或いはそれ以上のものも多く、この長さが作業性を損なう要因となっている。
【0004】
また鞘自体は、日本刀鞘の如く木製のものが現在主流であるが、プラスチック製のものも多く見られるようになっている。鋸刃が25cm程度、柄が15cm程度という典型的な鋸を納める鞘の場合、作業者が姿勢を変える程度で鋸が抜落するおそれは少ないので、単に中空となった筒状体の開口部付近にベルト通し部材を取り付け、この部材でズボンベルト等に係止するという構造となっている。
【特許文献1】特開平10−076483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが従来の鞘の場合、ベルトを一旦外さないと鞘が取り外せないので、ちょっとした休憩をとる時には鞘をつけたまま、ということが多かった。
また作業時における問題として、既述したように25cm前後或いはそれ以上という長さであるところの鞘を腰から吊り下げているので、作業者が腰を落とす動作をした時に鞘下端が障害物に当たり、それによって作業者がバランスを崩す、という事例も多い。不安定な足場での作業の場合には、重大な事故の直接的な原因ともなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、この点に鑑み鋭意研究の結果、鞘本体部分が簡単に着脱でき、また作業時鞘の下端が障害物に触れても、それによって作業者がバランスを失うような事態には陥りにくい鞘を完成させたものであり、その特徴とするところは、鋸柄部分を露出させ鋸刃部分のみを格納した状態で、腰ベルトに係止し吊持するタイプの鞘であって、プラスチック製鞘本体と別体であるベルト掛け部材は、該鞘本体の裏面側に本体長手方向に沿って設けられたレール部に、摺動且つ着脱自在に取設されている点にある。
【0007】
即ち本発明は第一に、鞘本体とベルト通し部材とを別体とし、これらの分離・合体が自在にできること、が特徴となっている。これにより、ベルトをわざわざ抜き取ってしまわなければ鞘が外せなかった、という問題が解消される。
【0008】
更に、鞘本体とベルト通し部材の分離・合体を司る機構を、該鞘本体の裏面側に本体長手方向に沿って設けられたレール部にベルト通し部材を摺動自在に取設する、というものとすること、が特徴となっている。本体長手方向に沿ってレール部が設けられており、ベルト通し部材はこのレール部上をフリーに摺動する、という構造であるため摺動による可動幅を有することになる。一方、鋸を鞘に納める動作は、鋸刃先端を鞘本体の開口部に差し込んだ後に鋸全体を下方に押し込む、という動作であるので、ベルト通し部材はレール部の上端に来ることになる。従って、この状態にあって作業者が屈んだり腰を落とし始めた初期の段階で鞘下端が何か障害物に触れても、レール部の可動域分だけは、作業者が更に腰を落としていっても鞘本体は下降しないという状況が作られる。即ち、作業者がバランスを崩すような事態に陥りにくい構造となっている。
【0009】
なお本発明において「鞘本体」は、プラスチック製であって、鋸の刃部分のみを格納するものである。鋸収納についての構造に関しては何ら限定するものではない。
ベルト通し部材が鞘本体には設けられておらず、別体である。そして、ベルト通し部材との分離・合体を可能とするための「レール部」が、鞘本体側に設けられている。
【0010】
「レール部」は、ベルト通し部材を摺動自在に係止する機能を有する。そして、両端にそれぞれストッパーが配置されている。一方、本発明において鞘本体は、作業者が外したい時には容易に外せるものである。レール部とベルト通し部材との連結構造は、レール部かベルト通し部材の一方に溝或いは孔が設けられ、ここに他方の部材に設けられた鍔部或いは突起部が嵌り込む、といった構造となり、「外したい時には容易に外せる」という分離機構は、ベルト通し部材側、レール部側のいずれに設けても良い。例えば、レール部の少なくとも片側の端部に設けられたストッパーが、外力によって変形し、ベルト通し部材に設けられた孔内に嵌り込むようにしておくと、通常はストッパーが機能しベルト通し部材の摺動を規制するが、作業者がこのストッパー部分を押し込めば、分離できることになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る鋸用鞘は、以下述べる如き効果を有する極めて高度な発明である。
(1) ベルト通し部材を有しているので、腰ベルト等に吊り下げて使用することができる。
(2) 鞘本体は、ベルト通し部材から容易に分離させることができる。
(3) ベルト通し部材は、鞘本体のレール部上を摺動するので、作業者が屈んだり腰を落とし始めた初期の段階で鞘下端が何か障害物に触れても、作業者がバランスを崩すような事態に陥りにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明に係る鋸用鞘1(以下「本発明鞘1」という)の一例の裏面側を示す斜視図である。本発明鞘1は、鞘本体2とベルト通し部材3とにより構成されており、図では分離した状態を示しているが、鞘本体2裏面側に設けられたレール部4の溝41に、ベルト通し部材3のレール把持部31の鍔部32が嵌り込むことで、摺動自在に合体されるものである。
【0014】
ベルト通し部材3は、レール把持部31とベルト通し部33とを、リベット34を介して可回動に連結したものである。ベルト通し部33には、腰ベルトを通す孔が設けられている。可回動に連結することにより、鞘本体2が邪魔になりにくくなっている。なお本例のベルト通し部材3の材質は、レール把持部31はポリプロピレン(PP)、ベルト通し部33はポリエチレン(PE)、リベット34はアルミニウムである。
【0015】
本例の鞘本体2は、刃渡り27cmの鋸5を格納するものであり、鋸刃51を格納する筒体部21の上端側開口には、鋸柄52の一部が嵌り込むよう構成されている。この鋸5は替え刃式のものであり、その鋸柄52に設けられたボルト53を緩めて刃交換できるようになっている。またこのボルト53位置の周縁は表裏面とも鋸柄52の表面からわずかに盛り上がったリング状突条54が形成されており、鞘本体2の開口部の内壁にはこのリング状突条54を受容する凹部(図示せず)が設けられている。鋸5を鞘本体2に収納した場合、鋸柄52のリング状突条54が、鞘本体の凹部に嵌り込み、不用意に鋸が抜落しないように構成されている。鞘本体は、ポリプロピレン(PP)製一体成形品である。即ち、本発明鞘1は、金属部品であるところのリベット34を有しているものの、基本的にプラスチック製であると言える。
【0016】
鞘本体2の裏面側にはレール部4が設けられている。これは図2(a)(b)に示すように、レール42の、左右側面には溝41が、上端には固定ストッパー43が、下端には可変ストッパー44が設けられているという構造のものである。同図(a)は側面図、同図(b)は正面図である。このうち可変ストッパー44は、レール42の下端側を幅厚み共小さくさせた突片45の先端に設けられている。この突片45と鞘本体2の間には、空隙が設けられているので、可変ストッパー44を押圧すれば、この空隙が小さくなる方向に突片45が変形することになる。
【0017】
突片45の変形により、可変ストッパー44はストッパーとしての機能を失い、ベルト通し部材3の下方方向の摺動が阻止できなくなる。即ち、鞘本体2からの分離となる。分離に際しての上述した手順は、実際には極めて簡便なものであり、可変ストッパー44を鞘側に押し付けた状態のままベルト通し部材3に押し込んでやれば良いだけである。
【0018】
なお、これ以外の構造として図3の如き例もある。これも既述した例と同様、プラスチックの有する弾性を利用し外力によってストッパーを無力化する方法であるが、外力によって変形させる部分がベルト通し部材3側にある、という例である。なお本図におけるベルト通し部材3は、要部のみを描出し他は省略している。
ベルト通し部材3の下端側端部から下方に突出する形で、切り込み片35が設けられており、その下端裏面に、レール部4の下端に設けられたストッパー突起46に常時は接当する係止突起47を有している。鞘本体2を分離させる場合には、切り込み片35を引き上げて、ストッパー突起46をレール把持部31内に案内する。レール把持部31内にはストッパー突起46を内嵌する案内溝36が刻設されているためここに収まり、容易に分離することができる。
【0019】
本発明においてベルト通し部材3は、レール部4を上下方向に摺動する。摺動の可動域は、図1の例、図3の例とも約7cmとしている。またベルト通し部材3とレール部4の間には摩擦力が生じているので、ベルト通し部材3がレール42の上端、下端、或いはその中間位置のいずれにあるのかは明らかでない。しかし、鋸を本発明鞘1に格納したときにはベルト通し部材3がレール42の上端位置にくるように鞘本体2が移動することになる。本発明は、作業者が腰を屈め始めた初期の段階で鞘下端が何か障害物に触れても、作業者がバランスを崩すような事態に陥りにくい、という効果を有するものであるが、その際「鋸を本発明鞘1に格納したときには鞘本体2は下端位置に移動する」という前提が重要となる。以下それについて述べる。
【0020】
図4(a)(b)は、本発明鞘1の使用状態を経時的に示す概略図である。鋸5を収納する前は鞘本体2がレール42上のどの位置でベルト通し部材3に連結されているのかは判らない。今仮に、レール42のほぼ中間位置で連結されているとする。そしてこの状態で鋸5を収納してゆく〔同図(a)〕。
鋸5の本発明鞘1への格納は、鋸5を押し下げることで行なうものであるので、格納された後は、鞘本体2は最下端位置に来ることになる〔同図(b)〕。
この状態で、作業者が屈んだり腰を落とすなどして鞘本体2の下端が障害物に接触すると、鞘本体2は上方にスライドする。最下端位置からのスライドであるので、スライド幅はレール可動域全長分(図示した例であれば約7cm)確保されていることになる。従って作業者は、障害物に本発明鞘1が接触してもそこからの反力を殆ど受けず、よってバランスを崩すような事態に陥りにくい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る鋸用鞘の一例の裏面側を示す斜視図である。
【図2】(a)(b)は、いずれもレール部付近の構造の一例を示す、同図(a)は側面図、同図(b)は正面図である。
【図3】レール部付近の構造についての他の例を示す部分斜視図である。
【図4】(a)(b)は、本発明鞘1の使用状態を経時的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1 本発明に係る鋸用鞘
2 鞘本体
21 筒体部
3 ベルト通し部材
31 レール把持部
32 鍔部
33 ベルト通し部
34 リベット
35 切り込み片
36 案内溝
4 レール部
41 溝
42 レール
43 固定ストッパー
44 可変ストッパー
45 突片
46 ストッパー突起
47 係止突起
5 鋸
51 鋸刃
52 鋸柄
53 ボルト
54 リング状突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋸柄部分を露出させ鋸刃部分のみを格納した状態で、腰ベルトに係止し吊持するタイプの鞘であって、プラスチック製鞘本体と別体であるベルト掛け部材は、該鞘本体の裏面側に本体長手方向に沿って設けられたレール部に、摺動且つ着脱自在に取設されるものであることを特徴とする鋸用鞘。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−201733(P2009−201733A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47266(P2008−47266)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(591043673)株式会社岡田金属工業所 (13)
【Fターム(参考)】