説明

鋼床版の補強構造

【課題】トラフリブ形式などの鋼床版の下面からの補強において、比較的軽量の補強部材により鋼床版を容易かつ確実に補強することができ、鋼床版の疲労耐久性の向上を図れる鋼床版の補強構造を提供する。
【解決手段】Uリブ3とUリブ3の間のデッキプレート2の下にデッキプレート下面・左右Uリブ側板3b・3cの表面に吹付け工法で繊維補強型セメント系材料を吹付けることで断面略門形のブロック10を形成し、その上部水平部10aの上面全面、左右脚部10b・10cの外側面全面がそれぞれデッキプレート2の下面、左右のUリブ側板3b・3cの表面に対して密着させ、デッキプレートを下から支持し、デッキプレートとUリブの隅角部を補強し、輪荷重による隅角部におけるデッキプレートとUリブの局部変形を抑制し、デッキプレートとUリブの溶接部における局所応力を緩和して疲労寿命を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路橋、橋梁、その他の構造物の鋼床版を下面から補強する補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設の鋼床版橋梁においては、図3に示すように、鋼床版1のデッキプレート2と橋軸方向に連続するU型閉断面縦リブ(以下、Uリブと記載する)3との橋軸方向の縦方向溶接継手や、デッキプレート2と主桁ウェブの垂直補剛材との溶接部に疲労亀裂Kが発生しやすい。このデッキプレート2とUリブ3との縦方向溶接継手に発生する疲労亀裂の主な発生原因は、輪荷重によって、デッキプレート2がUリブ3を節とした局部変形を起こし、その局部変形に起因して発生する溶接ルート部の応力集中と考えられている。
【0003】
疲労亀裂によって、アスファルト舗装4が損傷するなどの問題が生じており、このような状況を背景に、平成8年に改訂された道路橋示方書では、主桁および横桁上の舗装ひび割れに対する配慮規定が設けられた。さらに、耐久性の向上を図るために、平成14年に「鋼道路橋の疲労設計指針」が示され、平成14年道路橋示方書に鋼橋の設計にあたって疲労の影響を考慮することが明記され、鋼床版の製作・施工に関する規定が充実するに至った。
【0004】
しかし、これらの改訂前に作られた鋼床版については、例えば横桁間隔2.5m以下など構造詳細の適用範囲外のものが殆どであり、交通荷重の増加に伴う疲労亀裂の問題に対して、何らかの補強対策が必要である。鋼床版の疲労対策としては、横桁間隔を短くするなど構造詳細による疲労設計の適用範囲を満足するように鋼桁などを直接補強する方法が考えられるが、死荷重の制限による問題や、補修・補強費用が概して高くなる場合が多いなど、現実的には対応が難しいことがある。
【0005】
これに対して、鋼床版とその上面に施工する舗装部分とを併せて合成床版構造と捉え、この舗装部分に設けられているアスファルトをコンクリートなどの剛性の高い材料で置換することで、合成床版の剛性を高める方法が考えられる。この方法を用いることで、鋼床版の溶接部に発生する局所ひずみ(応力)を低減し、疲労損傷に起因する寿命の延命が期待される。さらに、特許文献1には、図4に示すように、合成床版構造の舗装の一部として、高靭性繊維補強セメント複合材料(ECC)を用いてさらにその補強効果を高める方法なども提案されている。図4において、鋼床版1と表層アスファルト層との間にECC51が設けられている。52は防水層、53はジベルである。
【0006】
また、特許文献2、3には、鋼床版を下面から補強する方法が提案されている。特許文献2の発明は、既設橋梁の鋼床版とリブの溶接部における局所応力を緩和し疲労寿命を向上させるものであり、Uリブにボルトを水平に通し、Uリブの内部に軽量モルタル等の充填材を充填し、この充填材内にボルト中間部を埋め込み、鋼床版とUリブの溶接部における外側隅角部に補強部材を設け、ボルト両端部に設けたナットとカム機構で補強部材を押し付けて補強するものである。
【0007】
特許文献3の発明は、デッキプレートの下面に閉断面縦リブを固着してなる鋼床版において、各縦リブの閉断面空間内あるいはデッキプレート下面と縦リブ間の開放空間内に充填物を充填するものである。
【0008】
さらに、本出願人は、鋼床版の下面からの補強において、比較的軽量の補強部材により鋼床版を容易かつ確実に補強することができ、鋼床版の疲労耐久性の向上を図れる鋼床版の補強構造・補強工法を出願している(特許文献4)。UリブとUリブとの間のデッキプレートの下面に高靭性繊維補強セメント複合材料(ECC)等からなる平板状のプレキャストコンクリートブロックを配置し、その上面の薄板鋼板を、接着材を介してデッキプレート下面に密着固定し、接着剤が硬化するまでブロックが落下しないようにデッキプレート下面に溶植したスタッドジベルでブロックを固定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−155187号公報
【特許文献2】特開2006−214118号公報
【特許文献3】特開2007−170178号公報
【特許文献4】特開2007−77746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
鋼床版を上面から補強する工法は、アスファルト舗装部分を剛性の高いコンクリートを置き換える工法が考えられる。しかし、コンクリートを薄く打設すると、乾燥収縮等によりひび割れが生じるため、引張や曲げに対する耐力や剛性の向上効果が期待できなくなる。また、最近では、鋼繊維補強コンクリートが試験的に用いられているが、ひび割れを完全に防止できないこと、ひび割れ幅の制御が難しいこと、凍結防止材散布により鋼繊維が腐食することなどの問題が生じる可能性がある。また、有機繊維による高靭性繊維補強セメント複合材料(ECC)を利用する技術においては、上記の課題を解決した工法ではある。
【0011】
しかし、コンクリート、鋼繊維補強コンクリート、ECCを用いた上面増厚工法に共通して、降雨などで水が滞水した場合には、極端に疲労耐久性が低下することが知られている。従って、これらを用いる場合には、鋼床版上面を完全に防水することが求められるが、一般的な橋梁では困難である場合が多い。
【0012】
他方、鋼床版を下面から補強する工法の特許文献2の場合、カム構造を取り入れた工法であるため、各部材の製造には手間がかかり、現場での施工にも非常に労力がかかるなどの課題がある。また、特許文献3の場合、Uリブ内部の充填は良いが、Uリブ外部の充填には、Uリブ外部に充填するための閉塞空間を設ける必要があり、非常に労力がかかるなどの課題がある。
【0013】
本発明は、トラフリブ形式などの鋼床版の下面からの補強において、比較的軽量の補強部材により鋼床版を容易かつ確実に補強することができ、鋼床版の疲労耐久性の向上を図れる鋼床版の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、トラフリブ形式、その他の形式の鋼床版において、既設道路の交通に影響を与えない下面からの補強に適用されるものであり、Uリブ(U型閉断面縦リブ)とUリブの間、あるいはその他の縦リブと縦リブとの間に、吹付け工法による断面略門形のコンクリートブロックをデッキプレート下面と左右の縦リブ側板の表面に付着するように設置し(図1参照)、あるいは、工場製作の断面略門形または断面略逆U字状のプレキャストコンクリートブロックをデッキプレート下面と左右の縦リブ側板の表面に接するように設置し(図2参照)、左右の縦リブ間に跨るブロックによりデッキプレートを下から支持し、デッキプレートと縦リブの隅角部を補強し、輪荷重による隅角部におけるデッキプレートと縦リブの局部変形を抑制するものである。
【0015】
本発明の請求項1の発明は、デッキプレートの下面に縦リブが間隔をおいて複数配列されている鋼床版の補強構造であり、縦リブと縦リブの間におけるデッキプレートの下にデッキプレート下面および左右の縦リブ側板表面に吹付け工法によりコンクリートを吹き付けることで断面略門形のコンクリートブロックが前記のデッキプレート下面と左右の縦リブ側板表面にコンクリートブロックの表面が付着するように設けられていることを特徴とする鋼床版の補強構造である(図1参照)。
【0016】
本発明の請求項2の発明は、請求項1に記載の鋼床版の補強構造において、コンクリートブロックの内部には、孔開き板が埋設されていることを特徴とする鋼床版の補強構造である(図1参照)。
【0017】
鋼床版を下面から補強する鋼床版下面増厚補強工法において吹付け工法による断面略門形のコンクリートブロックを用いる場合である。吹き付けに際しては、デッキプレート及び左右のUリブ側板とコンクリートとの付着を確保するために、デッキプレートの下面及びUリブ側板の表面にスタッドジベル等の係止金具を予め取り付けておく。また、吹付け施工中および吹付け後の材料の落下を防止するために、エキスバンドメタル等の孔開き板を設置する。
【0018】
本発明の請求項3の発明は、デッキプレートの下面に縦リブが間隔をおいて複数配列されている鋼床版の補強構造であり、縦リブと縦リブの間におけるデッキプレートの下に断面略門形のプレキャストコンクリートブロックがデッキプレートの下面と左右の縦リブ側板の表面に対してそれぞれブロック上面、ブロック側面が接するように設置されていることを特徴とする鋼床版の補強構造である(図2(a)参照)。
【0019】
本発明の請求項4の発明は、デッキプレートの下面に縦リブが間隔をおいて複数配列されている鋼床版の補強構造であり、縦リブと縦リブの間におけるデッキプレートの下に断面略逆U字状のプレキャストコンクリートブロックがデッキプレートの下面と左右の縦リブ側板の表面に対してそれぞれブロック頂部の上面、ブロック側面の一部の面が接するように設置されていることを特徴とする鋼床版の補強構造である(図2(b)参照)。
【0020】
鋼床版を下面から補強する鋼床版下面増厚補強工法においてプレキャスト設置工法による断面略門形のプレキャストコンクリートブロックを用いる場合である。ブロックはデッキプレートの下面と左右の縦リブ側板の表面に対してそれぞれ全面で接するのが望ましいが(図2(a)参照)、少なくともデッキプレートの下面と左右の縦リブ側板の表面に対してそれぞれ1点(断面内でA、B、Cの3点)で接していれば、十分な補強効果が得られる(図2(b)参照)。
【0021】
本発明の請求項5の発明は、請求項3または請求項4のいずれかに記載の補強構造において、プレキャストコンクリートブロックの左右の脚部がそれぞれ止め具により縦リブ側板に固定されていることを特徴とする鋼床版の補強構造である。
【0022】
ブロックの固定方法は、構造用接着剤による方法など種々考えられるが、ボルト等の止め具により縦リブ側板に固定するのが好ましい(図2参照)。また、ブロックの左右の脚部の下端をボルト等で固定するのが好ましい。施工時には、ブロックの上面(図2のA点付近)にセメントペースト、モルタルまたは樹脂系接着剤を塗布し、デッキプレートとの接着(接触)を図る。なお、接着しなくても、接触していれば、デッキプレートの変形はブロックの拘束効果により抑制され、補強効果が得られる。
【0023】
本発明においては、左右の縦リブ間に跨る、吹付け工法による断面略門形のコンクリートブロック、あるいは、断面略門形または断面略逆U字状のプレキャストブロックによりデッキプレートを下から支持し、デッキプレートと縦リブの隅角部を補強するため、輪荷重による隅角部におけるデッキプレートと縦リブの局部変形を抑制することができ、デッキプレートとUリブの溶接部における局所応力を緩和することができ、疲労寿命を向上させることができる。比較的軽量の補強部材により鋼床版を容易かつ確実に補強することができ、鋼床版の疲労耐久性の向上を図れる。
【0024】
さらに、吹付け工法による断面略門形のコンクリートブロックの場合、既設のトラフリブ形式の鋼床版の鋼床版下面増厚補強工法に柔軟に対応することができる。プレキャストコンクリートブロックの場合、デッキプレートの下面に平板状のブロックをスタッドジベル等により密着固定する場合には、デッキプレートを傷める可能性があるのに対して、本発明では、断面略門形または断面略逆U字状のブロックの左右の脚部を縦リブにボルト等で固定することができ、デッキプレートを損傷させることがない。また、いずれの場合も、平板状のブロックに対して、断面略門形または断面略逆U字状のブロックでデッキプレートと縦リブの隅角部を補強することができ、輪荷重による隅角部におけるデッキプレートと縦リブの局部変形に対して、より高い補強効果が得られる。
【0025】
なお、プレキャストブロックの接着面の付着力を接着材等のみで確保することが難しいと考えられる場合は、スタッドジベル等をデッキプレートの下面に施工して、そこにプレキャストブロックを嵌め込むような方法を用いることもできる。
【0026】
本発明の請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の補強構造において、コンクリートブロックは繊維補強型のセメント系材料で製作されていることを特徴とする鋼床版の補強構造である。
【0027】
鋼床版の剛性を高めるためには、ブロックに使用する材料のヤング係数が大きい方が有利であり、また重量増加を防ぐためには、できるだけ軽量であることが望ましい。また、ブロック片の剥落を長期間にわたって防ぐためには繊維補強型のセメント系材料を用いる必要がある。これらの点から、鋼繊維補強コンクリート(SFRC)、有機系(ポリプロピレン)繊維補強コンクリート(PPFRC)、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)、複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)、高靭性繊維補強セメント複合材料(ECC)が好ましい。さらに、ひび割れが発生するような引張り応力が発生するようであれば、引張ひずみ硬化型の材料で伸び性能があり、ひび割れ発生後も剛性低下が少ないセメント系材料が望ましく、高靭性繊維補強セメント複合材料(ECC)が好適である。
【0028】
なお、コンクリートブロックには、このような繊維補強型のセメント系材料に限らず、ポリマーコンクリートなどを用いることもできる。
【0029】
本発明の請求項7の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1つに記載の補強構造において、縦リブは断面U字トラフ状の縦リブであり、内部全体または内部における上部と両側部とに充填材が充填されていることを特徴とする鋼床版の補強構造である(図1、図2参照)。
【0030】
トラフリブ形式の鋼床版の場合であり、Uリブ内部を充填すると応力低減に効果があることが知られており、Uリブ外部のブロック設置とリブ内部の充填材(高流動コンクリートまたはモルタル)の充填を併用すれば補強効果がさらに高まる。補強部の軽量化が必要な場合には、軽量コンクリートや軽量モルタルを用いることもできる。さらに、Uリブ内部の下部中央にパイプやバルーンなどを挿入して中空部を確保し、充填材をUリブ内部の上部と両側部に充填することにより軽量化が図れる(図2参照)。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0032】
(1) トラフリブ形式などの鋼床版の下面からの補強において、左右の縦リブ間に跨る、吹付け工法による断面略門形のコンクリートブロック、あるいは、断面略門形または断面略逆U字状のブロックによりデッキプレートを下から支持し、デッキプレートと縦リブの隅角部を補強するため、輪荷重による隅角部におけるデッキプレートと縦リブの局部変形を抑制することができ、比較的軽量の補強部材により鋼床版を容易かつ確実に補強することができ、鋼床版の疲労耐久性の向上を図れる。
【0033】
(2) 吹付け工法による断面略門形のコンクリートブロックの場合、既設のトラフリブ形式の鋼床版の鋼床版下面増厚補強工法に柔軟に対応することができる。
【0034】
(3) プレキャストコンクリートブロックの場合、断面略門形または断面略逆U字状のブロックの左右の側部を縦リブにボルト等で固定することができ、鋼床版を損傷させることがない。
【0035】
(4) 吹付け工法による断面略門形のコンクリートブロック、あるいは、断面略門形または断面略逆U字状のプレキャストブロックでデッキプレートと縦リブの隅角部を補強することができ、輪荷重による隅角部におけるデッキプレートと縦リブの局部変形に対して、平板状のブロックよりも高い補強効果が得られる。
【0036】
(5) ブロックに繊維補強型のセメント系材料を用いることにより、ブロックのさらなる軽量化と剛性向上を図れる。
【0037】
(6) 縦リブ内部にセメント系材料を充填することにより、縦リブ外部のブロック補強と相まって、補強効果がさらに向上する共に、Uリブ内部の下部中央にパイプやバルーンなどを挿入して中空部を確保し、充填材をUリブ内部の上部と両側部に充填することにより、軽量化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の吹付け工法による補強構造の例を示す部分鉛直断面図である。
【図2】本発明のプレキャスト設置工法による補強構造の例を示す部分鉛直断面図である。
【図3】鋼床版の疲労損傷のメカニズムを示す鉛直断面図と斜視図である。
【図4】従来の舗装の一部にECCを用いた例を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。この実施形態は、トラフリブ形式の鋼床版を下面から補強する鋼床版下面増厚補強工法に適用した例である。図1は、本発明の吹付け工法による補強構造の例を示す部分鉛直断面図である。
【0040】
図1において、鋼床版1は、デッキプレート2の下面に橋軸方向に連続するUリブ(U型閉断面縦リブ) 3が橋軸直角方向に所定の間隔をおいて多数平行に配列され、溶接で固定されている。図1の実施形態では、Uリブ3とUリブ3の間におけるデッキプレート2の下にデッキプレート2の下面および左右のUリブ側板3b・3cの表面に吹付け工法によりコンクリートを吹き付けることで断面略門形のコンクリートブロック10を形成し、このコンクリートブロック10の上部水平部10aの上面の全面、左右の脚部10b・10cの外側面の全面がそれぞれデッキプレート2の下面、左右のUリブ側板3b・3cの表面に対して密着するように施工する。
【0041】
コンクリートブロック10の左右の脚部10b・10cの下端には、アングル材などの型枠材20を取り付け、例えば20mm程度の厚さの吹き付けを行う。また、デッキプレート2及び左右のUリブ側板3b・3cとコンクリートとの付着を確保するために、デッキプレート2の下面及びUリブ側板3b・3cの表面にスタッドジベル等の係止金具21を予め取り付けておく。また、吹付け施工中および吹付け後の材料の落下を防止するために、エキスバンドメタル等の孔開き板22を設置する。この孔開き板22はコンクリートブロック10の断面略門形に対応した断面略門形などとし、吹付け厚の中間位置などに配置する。
【0042】
以上のような構成において、左右のUリブ3、3間に跨る断面略門形のコンクリートブロック10によりデッキプレート2を下から支持し、デッキプレート2とUリブ3の隅角部を補強するため、輪荷重による隅角部におけるデッキプレート2とUリブ3の局部変形を抑制することができ、デッキプレート2とUリブ3の溶接部における局所応力を緩和することができ、疲労寿命を向上させることができる。
【0043】
さらに、このような吹付け工法によるコンクリートブロック10であれば、既設のトラフリブ形式の鋼床版の鋼床版下面増厚補強工法に柔軟に対応することができる。なお、コンクリートブロック10の脚部10b・10cはUリブ側板3b・3cの上半分に設けるだけで補強効果が得られる。
【0044】
コンクリートブロック10に使用する材料には、軽量で、ヤング係数が比較的大きく、ブロック片の剥落防止を可能とする繊維補強型のセメント系材料を用いる。応力低減効果、重量増加、コストなどの要求性能に応じて適切なコンクリート類を選定する。鋼繊維補強コンクリート(SFRC)、有機系(ポリプロピレン)繊維補強コンクリート(PPFRC)、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)、複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)、高靭性繊維(高強度ビニロン繊維)補強セメント複合材料(ECC)が考えられる。
【0045】
ECCは、ひび割れ発生後においても引張力の負担を期待できる、ヤング係数は普通コンクリートの1/2〜2/3程度である、圧縮強度は普通コンクリートより若干小さい、単位容積質量が小さい、剥落防止性能が良好である、美観が良好である、などを総合的に評価した場合、優れたひび割れ分散性能を有し、引張応力を負担することが可能なECCが好適である。その他、ポリマーコンクリートなどを用いることもできる。
【0046】
また、Uリブ内部を充填すると応力低減に効果があることが知られており、図1に示すように、Uリブ3の内部に、軽量で、ヤング係数が比較的大きく、ブリージングの無いセメント系材料30を充填する。例えば、高流動コンクリートやモルタル、あるいは、気泡モルタル、軽量高流動コンクリートなどを用いる。Uリブ3内部にセメント系材料30が充填されることによって、Uリブ3の変形が抑えられ、それが鋼床版の変形を小さくしていると考えられる。従って、デッキプレート2の下面とセメント系材料30の上面との間には多少の隙間は許容する。
【0047】
次に、図2は、本発明のプレキャスト設置工法による補強構造の例を示す部分鉛直断面図である。図2(a)の実施形態の場合、Uリブ3とUリブ3との間のデッキプレート2の下に断面略門形のプレキャストコンクリートブロック(以下、単にプレキャストブロックと記載する)11を配置し、このブロック11の上部水平部11aの上面の全面、左右の脚部11b・11cの外側面の全面が、デッキプレート2の下面、左右のUリブ側板3b・3cの表面に対してそれぞれ接するように固定する。
【0048】
左右の脚部11b・11cの下端をボルト40等の止め具でUリブ側板3b・3cに固定する。ボルト40は脚部11b・11cを貫通するものでもよいし、脚部11b・11cの下端を係止して落下を防止するだけのものでもよい。上部水平部11aと左右の脚部11b・11cは全面で接しているのが望ましいが、少なくとも上面のA点と、両側面のB点・C点(ボルト固定点)の3点で接していれば、十分な補強効果が得られる。施工時には、A点付近にセメントペースト、モルタルまたは樹脂系接着剤を塗布し、デッキプレート2との接着(接触)を図る。なお、接着しなくても、接触していれば、デッキプレート2の変形はブロック11の拘束効果により抑制され、補強効果が得られる。
【0049】
図2(b)の実施形態の場合、Uリブ3とUリブ3との間のデッキプレート2の下に断面逆U字状のブロック12を配置し、このブロック12のアーチ頂部のA点、左右のアーチ脚部のB点・C点が、デッキプレート2の下面、左右のUリブ側板3b・3cの表面に対してそれぞれ接するように固定する。A点・B点・C点は点接触でもよいし、ある幅をもった面接触でもよい。
【0050】
この場合も、左右の脚部12b・12cの下端をボルト40等の止め具でUリブ側板3b・3cに固定する。また、施工時には、A点付近にセメントペースト、モルタルまたは樹脂系接着剤を塗布し、デッキプレート2との接着(接触)を図る。なお、接着しなくても、接触していれば、デッキプレート2の変形はブロック12の拘束効果により抑制され、補強効果が得られる。
【0051】
以上のような構成において、左右のUリブ3、3間に跨る断面略門形または断面略逆U字状のブロック11、12によりデッキプレート2を下から支持し、デッキプレート2とUリブ3の隅角部を補強するため、輪荷重による隅角部におけるデッキプレート2とUリブ3の局部変形を抑制することができ、デッキプレート2とUリブ3の溶接部における局所応力を緩和することができ、疲労寿命を向上させることができる。
【0052】
さらに、デッキプレートの下面に平板状のブロックをスタッドジベル等により密着固定する場合には、デッキプレートを傷める可能性があるのに対して、本発明では、断面略門形または断面略逆U字状のブロック11、12の左右の脚部をUリブ3にボルト等で固定することができ、デッキプレート2を損傷させることがない。また、平板状のブロックに対して、断面略門形または断面略逆U字状のブロック11、12でデッキプレート2とUリブ3の隅角部を補強することができ、輪荷重による隅角部におけるデッキプレート2とUリブ3の局部変形に対して、より高い補強効果が得られる。
【0053】
なお、プレキャストブロック11、12の接着面の付着力を接着材等のみで確保することが難しいと考えられる場合は、スタッドジベル等をデッキプレート2の下面に施工して、そこにプレキャストブロックを嵌め込むような方法を用いることもできる。
【0054】
ブロック11、12に使用する材料には、軽量で、ヤング係数が比較的大きく、ブロック片の剥落防止を可能とする繊維補強型のセメント系材料を用いる。応力低減効果、重量増加、コストなどの要求性能に応じて適切なコンクリート類を選定する。鋼繊維補強コンクリート(SFRC)、有機系(ポリプロピレン)繊維補強コンクリート(PPFRC)、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)、複数微細ひび割れ型繊維補強セメント複合材料(HPFRCC)、高靭性繊維(高強度ビニロン繊維)補強セメント複合材料(ECC)が考えられる。
【0055】
ECCは、ひび割れ発生後においても引張力の負担を期待できる、ヤング係数は普通コンクリートの1/2〜2/3程度である、圧縮強度は普通コンクリートより若干小さい、単位容積質量が小さい、剥落防止性能が良好である、美観が良好である、などを総合的に評価した場合、優れたひび割れ分散性能を有し、引張応力を負担することが可能なECCが好適である。その他、ポリマーコンクリートなどを用いることもできる。
【0056】
また、ブロック11、12は工場製作されるが、ブロック製作する際、型枠内にコンクリートやモルタルを流し込んだ後に、孔開き鋼板、ラス網、パンチングメタル、エキスパンドメタルなどの開口部を有する薄い鋼板をコンクリートやモルタル中に押し込んで埋設し、サンドイッチ構造とすることにより、厚さが薄く、剛性の大きいブロック11、12とすることもできる。
【0057】
次に、Uリブ内部を充填すると応力低減に効果があることが知られており、図2に示すように、Uリブ3の内部に、軽量で、ヤング係数が比較的大きく、ブリージングの無いセメント系材料30を充填する。例えば、高流動コンクリートやモルタル、あるいは、気泡モルタル、軽量高流動コンクリートなどを用いる。Uリブ3内部にセメント系材料30が充填されることによって、Uリブ3の変形が抑えられ、それが鋼床版の変形を小さくしていると考えられる。従って、デッキプレート2の下面とセメント系材料30の上面との間には多少の隙間は許容する。
【0058】
さらに軽量化を図るために、Uリブ3内部の下部中央にパイプやバルーン31などを挿入して中空部を確保し、充填材としてのセメント系材料30をUリブ3内部の上部と両側部に充填する。Uリブ3の底板3a上にパイプやバルーン31を設置し、止め具32によりデッキプレート2や側板3b・3cに固定する。充填作業は注入孔と排出孔を用いて行うことができる。
【0059】
なお、以上はトラフリブ形式の鋼床版の補強に適用した例を示したが、これに限らず、本発明の鋼床版下面増厚補強工法はその他の縦リブ形式にも適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1……鋼床版
2……デッキプレート
3……Uリブ(縦リブ)
4……アスファルト舗装
10……断面略門形の吹付けコンクリートブロック
10a…上部水平部
10b、10c…脚部
11……断面略門形のプレキャストコンクリートブロック
11a…上部水平部
11b、11c…脚部
12……断面逆U字状のプレキャストコンクリートブロック
20……アングル材などの型枠材
21……スタッドジベル等の係止金具
22……エキスバンドメタル等の孔開き板
30……セメント系材料(充填材)
31……パイプまたはバルーン
32……止め具
40……ボルト(止め具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレートの下面に縦リブが間隔をおいて複数配列されている鋼床版の補強構造であり、縦リブと縦リブの間におけるデッキプレートの下にデッキプレート下面および左右の縦リブ側板表面に吹付け工法によりコンクリートを吹き付けることで断面略門形のコンクリートブロックが前記のデッキプレート下面と左右の縦リブ側板表面にコンクリートブロックの表面が付着するように設けられていることを特徴とする鋼床版の補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼床版の補強構造において、コンクリートブロックの内部には、孔開き板が埋設されていることを特徴とする鋼床版の補強構造。
【請求項3】
デッキプレートの下面に縦リブが間隔をおいて複数配列されている鋼床版の補強構造であり、縦リブと縦リブの間におけるデッキプレートの下に断面略門形のプレキャストコンクリートブロックがデッキプレートの下面と左右の縦リブ側板の表面に対してそれぞれブロック上面の全面、ブロック側面の全面で接するように設置されていることを特徴とする鋼床版の補強構造。
【請求項4】
デッキプレートの下面に縦リブが間隔をおいて複数配列されている鋼床版の補強構造であり、縦リブと縦リブの間におけるデッキプレートの下に断面略逆U字状のプレキャストコンクリートブロックがデッキプレートの下面と左右の縦リブ側板の表面に対してそれぞれブロック頂部の上面、ブロック側面の一部の面で接するように設置されていることを特徴とする鋼床版の補強構造。
【請求項5】
請求項3または請求項4のいずれかに記載の補強構造において、プレキャストコンクリートブロックの左右の脚部がそれぞれ止め具により縦リブ側板に固定されていることを特徴とする鋼床版の補強構造。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の補強構造において、コンクリートブロックは繊維補強型のセメント系材料で製作されていることを特徴とする鋼床版の補強構造。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1つに記載の補強構造において、縦リブは断面U字トラフ状の縦リブであり、内部全体または内部における上部と両側部とに充填材が充填されていることを特徴とする鋼床版の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−265623(P2010−265623A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116332(P2009−116332)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(301031392)独立行政法人土木研究所 (107)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】