説明

鋼材とアルミニウム材との異材接合体

【課題】 接合強度の高いスポット溶接をなしうる、鋼材とアルミニウム材との接合体及びそのスポット溶接法を提供することを目的とする。
【解決手段】 特定板厚の鋼材1とアルミニウム材2とをスポット溶接にて接合した異材接合体3であって、接合体の溶接界面6 に、鋼材側にAl5Fe2系化合物層、アルミニウム材側にAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層、を各々有し、このAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さl1を0.5〜10μm として、高い接合強度を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、建築構造物等における鉄系材料とアルミニウム系材料との異種金属部材同士の異材接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接は、一般には同種の金属部材同士を接合するが、例えば鉄系材料(以下、単に鋼材と言う)とアルミニウム系材料(純アルミニウムおよびアルミニウム合金を総称したもので、以下、単にアルミニウム材と言う)という異種の金属部材の接合( 異材接合体) に適用することができれば、軽量化等に著しく寄与することができる。
【0003】
しかし、鋼材とアルミニウム材とを接合する場合、接合部に脆い金属間化合物が生成しやすいために信頼性のある高強度を有する接合部( 接合強度) を得ることは非常に困難であった。したがって、従来では、これら異種接合体(異種金属部材)の接合にはボルトやリベット等による接合がなされているが、接合継手の信頼性、気密性、コスト等の問題がある。
【0004】
そこで、従来より、これら異種接合体のスポット溶接法について多くの検討がなされてきている。例えば、アルミニウム材と鋼材の間に、アルミニウム−鋼クラッド材をインサートする方法が提案されている(特許文献1、2参照)。また、鋼材側に 融点の低い金属をめっきしたり、インサートしたりする方法が提案されている(特許文献3、4、5参照)。更に、アルミニウム材と鋼材の間に絶縁体粒子を挟む方法(特許文献6参照)や、部材に予め凹凸を付ける方法(特許文献7参照)なども提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−63763号公報(全文)
【特許文献2】特開平7−178563号公報(全文)
【特許文献3】特開平4−251676号公報(全文)
【特許文献4】特開平7−24581号公報(全文)
【特許文献5】特開平4−14383号公報(全文)
【特許文献6】特開平5−228643号公報(全文)
【特許文献7】特開平9−174249号公報(全文)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらいずれの方法も、単なるスポット溶接ではなく、多層でのスポット溶接やめっきや加工など別の工程が必要であり、現状の溶接ラインに新たな設備を組み入れなければならない問題があり、溶接コストも高くなる。また、溶接条件が著しく限定されるなど作業上の問題も多い。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、上記したクラッド材などの他の材料を新たに用いることなく、また、新たな別工程を必要とすることなく、接合強度の高いスポット溶接をなしうる、鋼材とアルミニウム材との接合体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための、本発明における鋼材とアルミニウム材との異材接合体の要旨は、板厚t1が0.3 〜2.5mm である鋼材と、板厚t2が0.5 〜2.5mm であるアルミニウム材とをスポット溶接にて接合した異材接合体であって、接合体の溶接界面に、鋼材側にAl5Fe2系化合物層、アルミニウム材側にAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層、を各々有し、このAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さが0.5〜10μmであることとする。
【発明の効果】
【0009】
鋼材同士やアルミニウム材同士など、同種の材料同士を、高い接合強度にてスポット溶接するには、一般的に、ナゲットの形成を促進すればよく、ナゲット面積が大きいほど剪断強度および十字引張強度ともに高くなることが知られている。
【0010】
また、ナゲット面積は入熱量と関係があり、電流量が高いほど、時間が長いほど大きくなるため、一般には、スポット溶接の際の入熱量にてナゲット径を制御することによって接合強度の高い接合体を得る。もちろんナゲット面積が大きくなりすぎると、被溶接材料の表面まで溶融が達してチリができるため、適正なナゲット面積を得ることが重要となる。
【0011】
しかしながら、鋼材とアルミニウム材との異材を接合する場合、鋼材はアルミニウム材と比較して、融点、電気抵抗が高く、熱伝導率が小さいため、鋼側の発熱が大きくなり、まず低融点のアルミニウムが溶融する。次に鋼材の表面が溶融し、結果として界面にて、Al-Fe 系の脆い金属間化合物層が形成する。
【0012】
鋼材とアルミニウム材とのスポット接合で形成する金属間化合物は大きく二層に分かれ、鋼材側にAl5Fe2系化合物、アルミニウム材側にAl3FeまたはAl19Fe4Si2Mnを中心とする化合物が形成することが知られている。それらの金属間化合物は大変脆いため、従来より、高い接合強度は得られないとされている。
【0013】
本発明者は、鋼材とアルミニウム材との異材をスポット溶接にて接合する場合、高い接合強度を得るためには、ある程度のナゲット径を形成する高い入熱量を加えることは必要であるが、それにも増して、接合界面での界面反応層の厚さ・構造を制御することが更に必要であると考えた。
【0014】
そのために、接合強度に及ぼす界面反応層の厚さを詳細に調査した結果、界面反応層の挙動は、従来の薄い程良いとする知見とは、大きく異なることを知見した。即ち、界面反応層を構成する、鋼材側のAl5Fe2系化合物層と、アルミニウム材側のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層との、厚みや面積の関係を最適範囲に制御すれば、界面反応層が例えこの二層の金属間化合物から構成されていたとしても、接合強度が高まることを知見した。
【0015】
より具体的には、界面反応層の構造として、特に、鋼材側のAl5Fe2系化合物層に対し、アルミニウム材側のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層のサイズ(ナゲット深さ方向厚さ)を最適範囲に制御し、また、この最適範囲に制御したAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層を大面積形成することによって、接合強度を飛躍的に向上できることが判明した。
【0016】
以上のように、本発明は、スポット溶接による異材接合の際に、比較的大きいナゲット面積を得つつ、アルミニウム材側の最適厚さ範囲の界面反応層を大面積に形成する。これにより、大きいナゲット面積をも得られ、異材接合体の接合強度を向上させることができる。この結果、鋼材とアルミニウム材との異種接合体において、前記従来技術のような、他の材料を新たに用いることなく、また、新たな別工程を必要とすることなく、接合強度の高いスポット溶接をなしうる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(異種接合体)
図1に本発明で規定する異種接合体を断面図で示す。図1において、3が鋼材( 鋼板) 1とアルミニウム材( アルミニウム合金板) 2とをスポット溶接にて接合した異材接合体である。4は鋼材1表面の酸化皮膜である。5はスポット溶接における溶接界面 (界面反応層) 6を有するナゲットで、図中に水平方向に矢印で示すナゲット径を有する。t1は鋼材の板厚、t2はアルミニウム材2の板厚、Δt はスポット溶接による接合後のアルミニウム材の最小残存板厚を示す。この図1は、ナゲット径を確保しつつ、チリの発生を抑制してアルミニウム材の最小残存板厚を保持し、さらに鋼材の溶融を最小限に抑えた接合状態を示しており、本発明の接合体もこの図のような接合状態となる。
【0018】
以下に、本発明の各要件の限定理由と、その作用について説明する。
【0019】
(鋼材の板厚)
本発明では、鋼材の板厚t1が0.3 〜2.5mm である接合体であることが必要である。鋼材の板厚t1が0.3mm 未満の場合、前記した構造部材や構造材料として必要な強度や剛性を確保できず不適正である。また、それに加えて、スポット溶接による加圧によって、鋼材の変形が大きく、酸化皮膜が容易に破壊されるため、アルミニウムとの反応が促進される。その結果、金属間化合物が形成しやすくなる。一方、2.5mm を越える場合は、前記した構造部材や構造材料としては、他の接合手段が採用されるため、スポット溶接を行って接合する必要性が少ない。このため、鋼材の板厚t1を2.5mm を超えて厚くする必要性はない。
【0020】
(鋼材の引張強度)
本発明においては、使用する鋼材の形状や材料を特に限定するものではなく、構造部材に汎用される、あるいは構造部材用途から選択される、鋼板、鋼形材、鋼管などの適宜の形状、材料が使用可能である。ただ、鋼材の引張強度が400MPa以上であることが好ましい。
【0021】
低強度鋼では一般に低合金鋼が多く、酸化皮膜がほぼ鉄酸化物であるため、FeとAlの拡散が容易となり、脆い金属間化合物が形成しやすい。このためにも引張強度が400MPa以上、望ましくは500MPa以上であることが好ましい。
【0022】
本発明では、鋼材の成分を限定するものではないが、上記鋼材の強度を得るためには高張力鋼(ハイテン)であることが好ましい。また、鋼の成分的には、焼き入れ性を高め、析出硬化させるために、C の他に、Cr、Mo、Nb、V 、Tiなどを選択的に含有する鋼も適用できる。Cr、Mo、Nbは焼き入れ性を高めて強度を向上させ、V、Tiは析出硬化によって強度を向上させる。しかしながら、これら元素の多量の添加は、溶接部周辺の靭性を低下させ、ナゲット割れが生じやすくなる。
【0023】
このため、鋼の成分として、基本的には、質量% で、C :0.05〜0.5%、Mn:1〜2.5%、Si:0.5〜1.5%を含み、更に、Cr:0 〜1%、Mo:0 〜0.2%、Nb:0 〜0.1%、V :0 〜0.1%、Ti:0 〜0.1%の一種または二種以上を、必要により選択的に含有させることが好ましい。そして、これら鋼材の残部組成は、Feおよび不可避的不純物からなることが好ましい。
【0024】
(アルミニウム材)
本発明で用いるアルミニウム材は、その合金の種類や形状を特に限定するものではなく、各構造用部材としての要求特性に応じて、汎用されている板材、形材、鍛造材、鋳造材などが適宜選択される。ただ、アルミニウム材の強度についても、上記鋼材の場合と同様に、スポット溶接時の加圧による変形を抑えるために高い方が望ましい。この点、アルミニウム合金の中でも強度が高く、この種構造用部材として汎用されている、A5000 系、A6000 系などの使用が最適である。
【0025】
ただ、本発明で使用するこれらアルミニウム材の板厚t2は0.5 〜2.5mm の範囲とする。アルミニウム材の板厚t2が0.5mm 未満の場合、構造材料としての強度が不 足して不適切であるのに加え、ナゲット径が得られず、アルミニウム材料表面まで溶融が達しやすくチリができやすいため、高い接合強度が得られない。一方、アルミニウム材の板厚t2が2.5mm を越える場合は、前記した鋼材の板厚の場合と 同様に、構造部材や構造材料としては他の接合手段が採用されるため、スポット溶接を行って接合する必要性が少ない。このため、アルミニウム材の板厚t2を2.5mm を超えて厚くする必要性はない。
【0026】
(界面反応層における化合物)
以上の鋼材とアルミニウム材との異材接合体を前提とした上で、本発明では、スポット溶接後の異材接合体における (図1の溶接界面6における) 金属間化合物を規定する。
【0027】
本発明で規定する金属間化合物を、異材接合体接合部断面の溶接界面6 の断面図である図3 、4 により示す。図3 は図4 の接合部断面の溶接界面6 の断面顕微鏡写真を模式化した図である。
【0028】
図3 に示すように、溶接界面6では、鋼材側に層状のAl5Fe2系化合物層、アルミニウム材側には粒状または針状のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物とが混在した層、を各々有する。
【0029】
図3 のアルミニウム材側のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物とが混在した層において、ナゲット深さ方向の長さで示すl1が一点鎖線で示すナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さを示す。また、接合部における平面方向で示すS1がこの厚さ範囲の(Al3Fe+Al19Fe4Si2Mn)系化合物の面積(異材接合体接合部における平面方向の面積)を示す。
【0030】
図3 の鋼材側に層状に形成したAl5Fe2系化合物層において、ナゲット深さ方向の長さで示すl2が一点鎖線で示すナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さを示す。また、接合部における平面方向で示すS2がこの厚さ範囲のAl5Fe2系化合物層の面積(異材接合体接合部における平面方向の面積)を示す。
【0031】
(アルミニウム材側の化合物層)
先ず、本発明では、接合強度を高めるために、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さl1を0.5〜10μmの範囲とする。
【0032】
Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物は、アルミニウム材側に形成される金属間化合物で、図3 、4 の通り、粒状または針状に形成される。中央部 (ナゲット中心部) では、個々の化合物粒のサイズ (または針状化合物粒の長さ) が大きく、ナゲットの端部 (図3 、4 の左右方向) に向かうにつれ、徐々に粒、針のサイズと分布が減少する。この端部では、化合物粒の密度が小さく、化合物粒が点在する形態となるが、鋼材側のAl5Fe2系化合物よりも大面積には存在する。
【0033】
このようなAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物は、上記形状による効果も含めて、くさび (アンカー) 効果があり、アルミニウム材及びAl5Fe2系化合物層との密着性を向上させ、接合強度を高める。
【0034】
このような効果は、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層が薄過ぎては発揮されない。特にl1が0.5μm未満では、上記くさび効果が不十分で、Al5Fe2系化合物層との密着性が悪く、層間の破断が生じやすいし、平滑な界面で破断する。このため、本発明では、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さl1を0.5 μm 以上とする。
【0035】
一方、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物層が成長しすぎて、層を厚く形成し過ぎると、却って、個々の化合物粒が破壊の起点となる。特に、l1が10μmを超えた場合には、この傾向が顕著となる。このため、本発明では、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さl1を10μm以下とする。
【0036】
(鋼材側の化合物層)
本発明では、上記アルミニウム材側の金属間化合物層条件を満たした上で、接合強度を更に高めるために、前記Al5Fe2系化合物層の、ナゲット深さ方向の平均厚さl2が0.5〜5μmの範囲である部分の面積S2が、10×t20.5 mm2 以上、より好ましくは20×t20.5 mm2 以上であることが好ましい。
【0037】
そして、同じく、接合強度を更に高めるために、前記Al5Fe2系化合物層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さl2が0.5〜5μmの範囲であることが好ましい。
【0038】
(アルミニウム材側の化合物層と鋼材側の化合物層との相互関係)
以上の、アルミニウム材側の化合物層と、鋼材側の化合物層との個々の規定に加えて、接合強度を更に高めるためには、アルミニウム材側の化合物層と鋼材側の化合物層との相互関係を規定することが好ましい。
【0039】
即ち、前記接合体の溶接界面において、Al5Fe2系化合物層の平均厚さl2が0.5〜5μmの範囲である部位に、平均厚さl1が0.5〜10μmの範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層が存在し、かつ、この平均厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積S1が15×t20.5 mm2 以上であること、更には、25×t20.5 mm2 以上であることが好ましい。
【0040】
上記平均厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積S2は大きい方が接合強度が高くなる。この面積S1が15×t20.5 mm2 未満では、同一強度である場合、ナゲットの接合面積が大きいほど、接合部の破断荷重 (接合強度) は低下する可能性が高い。一方、ナゲットの接合面積が小さい場合には、接合部は同じくより低い荷重にて破断しやすくなる。
【0041】
上記平均厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積S1が特に、25×t20.5 mm2 以上あった場合、接合力の高い接合部 (接合界面) 面積が十分に大きいため、より大きな破断荷重となる。その結果、接合界面がアルミ基材よりも十分に破断荷重が高いため、界面破断せずアルミニウム材側が破断するようになる。
【0042】
上記した最適厚さの界面反応層の面積規定は、接合強度の観点からではあるが、アルミニウム材側の化合物層と鋼材側の化合物層との相互関係を、界面反応層の最適厚さと最適面積から、最適範囲に制御するものである。このため、本発明が指向する方向としては、薄い程良いという従来の常識とは異なり、むしろ積極的に存在させる方向でもある。そして、前記した通り、接合強度向上のために、最適厚さ範囲の界面反応層を大面積形成する、言い換えると広範囲に存在させるという技術思想に基づく。
【0043】
(接合強度と破断形態)
本発明の場合に、接合強度が高い場合、接合界面は破断せず、接合部がプラグ状に破断(Al3Fe 系化合物層が存在する範囲より外側にて、アルミニウム材が厚さ方向に丸く割れて破断)する。言い換えると、このような接合部の破断形態は、本発明の接合強度の高さを表している。
【0044】
一方、従来のように接合強度が低い場合、接合界面で破断し、くさび状のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層がちぎれ、Al5Fe2系化合物層とAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層間にて破断する。言い換えると、このような接合部の破断形態は、接合強度の低さを表している。
【0045】
(接合強度に効く因子)
以上説明した接合強度に効く各因子の寄与度を再度整理する。
接合強度の向上には、特に、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1の効果が最も高く、平均厚さl2が最適範囲(0.5〜5μm)の部分のAl5Fe2系化合物層の面積S2の効果も高い。
【0046】
Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1は、前記した通り、くさび効果によりアルミニウム材及びAl5Fe2系化合物層との密着性を付与するため、ナゲット中央部での接合力向上に寄与する。ただ、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1のみの制御では、周囲からAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層と、Al5Fe2系化合物層との界面が剥離する可能性がある。このために破断荷重があまり高くならない可能性がある。
【0047】
これに対して、平均厚さl2が最適範囲(0.5〜5μm)の部分のAl5Fe2系化合物層の面積S2は、広範囲の安定した密着性に寄与し、スポット接合点全体の破断荷重を高める効果がある。しかし、このAl5Fe2系化合物層の面積S2のみの制御では安定した強度が得られず、強度のばらつきが大きい。
【0048】
このため、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1のみの制御に加えて、このAl5Fe2系化合物層の面積S2の制御を行なった時に、高い接合強度が確実に保証される。
【0049】
更に、Al5Fe2系化合物層のナゲット中心±0.1mmの範囲内におけるナゲット深さ方向の平均厚さl2と、最適厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積S1も、接合強度の向上には寄与するが、上記二つの因子よりは接合強度の向上効果は小さい。
ただ、これらの因子を各々単独で採用しても接合強度の向上効果は小さいが、上記Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1とAl5Fe2系化合物層の面積S2との制御に加えて、これらの制御を行なった時に、最も高い接合強度が得られる。
【0050】
(金属間化合物の測定方法)
本発明における、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層や、Al5Fe2系化合物層は、接合部の断面をHAADF-STEM像(1万〜2万倍)にてEDX点分析による半定量分析を実施し、前記組織写真である図4のように検出される。言い換えると、以下に説明するHAADF-STEM法を用いて、接合部界面を測定しない限り、本発明で規定する金属間化合物の識別や、金属間化合物層の厚さや面積の正確な測定は難しいとも言える。
【0051】
これら金属間化合物の識別は、上記半定量分析において、図4に示す接合部界面の1-1 〜1-24の各測定点の組成を測定し、Al、Fe、Si、Mn、Mg(at%)を百分率とした際の組成により識別する。即ち、Al量が73〜95at%で、Fe量が5〜25at%で、Si量が2at%未満の場合には「Al3Fe 系化合物」とする。また、同分析にて、Al量が70〜78at%で、Fe量が10〜30at%で、Si量が2〜15at%の場合、「Al19Fe4Si2Mn系化合物」とする。更に、Al量が60〜73at%で、Fe量が25〜35at%で、Si量が2at%未満の場合「Al5Fe2系化合物」とする。
【0052】
HAADF-STEM法(High Angle Annular Dark Field-Scanning Transmission Electron Microscope)は、高角側に散乱された弾性散乱電子を円環状検出器で集めて像信号を得る手法である。HAADF−STEM像は回折コントラストの影響をほとんど受けず、コントラストは原子番号(Z)のほぼ2乗に比例するという特徴があり、得られた像がそのまま組成情報をもつ2次元マップとなる。微量元素も感度良く検出できるため、接合界面の微細構造解析に有効である。
【0053】
より具体的には、接合体のナゲット中央部にて切断し、断面が観察できるよう樹脂に埋め込んで鏡面研磨を行ったものを、SIMにて界面反応層の各化合物層の平均厚さを概略測定する。その後、ナゲット中心部及びAl5Fe2系化合物と目される層の存在境界より内側の部分、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物と目される層の存在境界の内外の部分、各化合物と目される層の深さ方向長さが上限を上回ると目される箇所の内外の部分を日立製作所製集束イオンビ−ム加工装置(FB-2000A)を用いてTEM観察可能な厚さまでFIB加工を施すことにより試料を薄くし、観察・分析用試料として供する。
【0054】
そして、HAADF検出器を備えたJEOL製電界放射型透過電子顕微鏡(JEM-2010F)を用い、加速電圧200kVにて、視野100μmの範囲(1万〜2万倍)で観察し、各粒、異相について全てEDX点分析を行い、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層や、Al5Fe2系化合物層の同定を行う。
【0055】
Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物の深さ方向の厚さ(長さ)は、得られた視野100μmのHAADF-STEM像より、全てのAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物と同定された粒・針の深さ方向の長さを測定し、平均化した。
【0056】
Al5Fe2系化合物層の深さ方向の厚さ(長さ)は、同像より、厚さを5点測定し、平均した。以上の測定を、観察・分析用試料全てについて実施した。ドーム型チップを用いたスポット溶接接合では、中心部から両化合物ともに、端部となるにつれ、厚さが減少していた。したがって、それぞれの化合物の深さ方向の長さの上限を超える地点(部位)の径、下限を下回る地点の径を求め、各化合物の最適厚さ範囲となる面積に換算した。
【0057】
(ナゲットの面積)
前記図1 におけるスポット溶接部のナゲット5 の面積は、アルミニウム材の板厚t2との関係で20×t20.5 〜70×t20.5 mm2 の範囲となるようにスポット接合することが好ましい。言い換えると、ナゲット面積が20×t20.5 〜70×t20.5 mm2 の範囲となるようにスポット溶接条件を選定することが好ましい。
【0058】
従来から、同種の金属材料をスポット溶接する際には、金属材料の厚みt に対して、スポット溶接部におけるナゲット5 の面積を20×t0.5mm2 程度とすることが強度的にも作業性からみても、経済性からみても最適であるとされている。
【0059】
しかし、本発明では、異種金属材料同士の接合について、これよりも、上記同種の金属材料よりも大きなナゲット面積とする。スポット溶接部におけるナゲット5 の面積が、アルミニウム材の板厚t2との関係で20×t20.5 〜70×t20.5 mm2 の範囲となるようにスポット接合することで、十分な接合強度が得られ、さらに作業性、経済性ともに優れる。
【0060】
本発明のような異種金属材料同士の接合の場合、最適ナゲット径は、アルミニウム材側の板厚に依存しており、鋼材の板厚の影響は無視できるほど小さいことが特徴である。
【0061】
ナゲット面積が20×t20.5mm2未満、より厳しくは30×t20.5mm2未満では、ナゲット面積が小さ過ぎ、接合強度が不十分である。また、ナゲット面積が70×t20.5 mm2 を越えると、接合強度を得るのには十分であるが、チリが発生しやすく、アルミニウム材の減肉量が多いため、逆に接合強度が低下する。したがって、ナゲット面積は20×t20.5 〜70×t20.5 mm2 の範囲、好ましくは30×t20.5 〜70×t20.5 mm2 の範囲とする。
【0062】
(ナゲット面積の測定)
本発明におけるナゲット面積は、鋼材−アルミ材が接合している界面の面積の測定によって得られる。接合界面の面積の測定方法は、接合界面にて剥離もしくは切断により分断したアルミ材側を画像解析し、ナゲットの面積を計測することによって求めることができる。ナゲット形状が略円形状の場合は、接合部を切断して断面より光学顕微鏡にて観察し、形成しているナゲットの界面での径を測定し、面積を求めても良い。その場合、少なくとも直交した2方向のナゲット径を測定する。
【0063】
(アルミニウム材の減肉量)
接合強度を確保する意味で、スポット溶接による接合後のアルミニウム材の減肉量できるだけ小さくすることが望ましい。この目安として、最小残存板厚Δt が元厚t2の50% 以上であることが望ましい。より望ましくは最小残存板厚Δt が元厚t2の90% 以上であることが良い。このアルミニウム材の最小残存板厚Δt は、断面より光学顕微鏡またはSEM にて観察し、板厚減肉長さを測定して、元の板厚との差を取って求めることができる。
【0064】
(スポット溶接)
図2に異種接合体を得るためのスポット溶接の一態様を例示する。図2 において、1は鋼板、2はアルミニウム合金板、3は異種接合体、5はナゲット、7と8は電極である。
【0065】
以下に、本発明異種接合体を得るためのスポット溶接の各条件を説明する。
(加圧力)
スポット溶接時の加圧力については、上記比較的大きなナゲット必要面積と、上記最適界面反応層の必要面積を得るために、また、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1、Al5Fe2系化合物層のナゲット中心±0.1mmの範囲内におけるナゲット深さ方向の平均厚さl2、最適厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積S1、Al5Fe2系化合物層の面積S2、などの制御を行ない、前記本発明で規定する最適範囲内とするためには、比較的高い加圧力を印加することが必要である。
【0066】
具体的には、前記アルミニウム材の板厚t2との関係で、2 ×t20.5 kN〜4 ×t20.5kN の比較的高い加圧力の範囲から選択する。但し、この比較的高い加圧力の範囲内でも、素材や他の溶接条件によって上記化合物の出来方は異なり、必ず前記本発明で規定する最適範囲内となるは限らない。このため、素材や他の溶接条件に応じて、前記比較的高い加圧力の範囲から、前記本発明で規定する最適範囲内となる最適加圧力を選択することが必要である。
【0067】
一方、上記範囲の比較的大きな加圧力を印加することで、電極チップなどの形状によらず、異種材料間、電極と材料間の電気的接触を安定化し、ナゲット内の溶融金属をナゲット周辺の未溶融部で支え、上記比較的大きなナゲット必要面積と、上記最適界面反応層の必要面積を得ることができる。また、チリの発生を抑制することができる。
【0068】
加圧力が2 ×t20.5 kN未満では、加圧力が低過ぎ、このような効果を得られない。特に、R が先端にあるチップでは、接触面積が低下し、ナゲット面積の低下、電流密度の増加(=界面反応層の増大)につながるため、接合強度が低下する。また、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1、Al5Fe2系化合物層のナゲット中心±0.1mmの範囲内におけるナゲット深さ方向の平均厚さl2、などが得られない可能性が高い。
【0069】
一方、加圧力を増加するとナゲット面積が小さくなる傾向にあり、加圧力が4 ×t20.5kN を超えた場合、所望のナゲット面積を得ようとすると、下記最適電流を超える電流が必要となり、チリの発生や界面反応層の成長をもたらすため、接合強度が低くなる。また、アルミニウム材の変形が大きく、接合跡が大きな凹部となるため、外観上望ましくない。
【0070】
(電流)
スポット溶接時の電流については、上記比較的大きなナゲット必要面積と、上記最適界面反応層の必要面積を得るためには、また、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1、Al5Fe2系化合物層のナゲット中心±0.1mmの範囲内におけるナゲット深さ方向の平均厚さl2、最適厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積S1、Al5Fe2系化合物層の面積S2、などの制御を行ない、前記本発明で規定する最適範囲内とするためには、比較的高い電流を短時間流すことが必要である。
【0071】
具体的には、前記アルミニウム材の板厚t2との関係で、15×t20.5 〜30×t20.5kA の比較的高い電流を、100 ×t20.5msec 以下の短時間流すことが必要である。但し、この比較的高い電流や時間の範囲内でも、素材や他の溶接条件によって上記化合物の出来方は異なり、必ず前記本発明で規定する最適範囲内となるは限らない。このため、素材や他の溶接条件に応じて、前記比較的高い電流や時間の範囲から、前記本発明で規定する最適範囲内となる最適電流や時間を選択することが必要である。
【0072】
また、このような比較的高い電流を短時間流すことで、異種材料間、電極と材料間の電気的接触を安定化し、ナゲット内の溶融金属をナゲット周辺の未溶融部で支え、上記比較的大きなナゲット必要面積と、上記最適界面反応層の必要面積を得ることができる。また、チリの発生を抑制することができる。
【0073】
15×t20.5 kA未満、厳しくは18×t20.5 kA未満の低電流の場合、ナゲットが形成、成長するのに十分な入熱量が得られない。このため、上記比較的大きなナゲット必要面積と、上記最適界面反応層の必要面積を得ることができない。また、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1、Al5Fe2系化合物層のナゲット中心±0.1mmの範囲内におけるナゲット深さ方向の平均厚さl2、などが得られない可能性が高い。
【0074】
一方、30×t20.5kA を超える高い電流の場合には、余分な設備がかかり、作業・コスト面で不利となる。このため、これらの点からは電流を30×t20.5kA 以下とする。したがって、使用電流は15×t20.5 〜30×t20.5kA 、好ましくは18×t20.5 〜30×t20.5kA の範囲とする。
【0075】
(通電時間)
通電時間は、前記アルミニウム材の板厚t2との関係で、100 ×t2msecの比較的短時間とする。通電時間が100 ×t2msecを超える長時間の場合、ナゲット径は確保できるが、チリの発生や界面反応層の成長をもたらすため、接合強度が低くなる。上記のように、界面反応層を制御するには、通電時間が100 ×t2msec以下、好ましくは20×t20.5msec 〜80×t20.5msec とする。但し、前記した通り、素材や他の溶接条件に応じて、前記電流との関係で、前記本発明で規定する化合物制御が最適範囲内となる最適時間を選択することが必要である。
【0076】
(電極形状)
スポット溶接の電極チップの形状は、上記ナゲット面積と界面反応層を得られるのであれば、何れの形状でも良いし、鋼材側、アルミニウム材側の電極チップが異なる形状でも異なるサイズでも構わない。但し、鋼材側、アルミニウム材側の両側共に、図2 に示すような、先端がR となった「ドーム型」の電極チップが望ましい。このようなドーム型の場合、電極チップの先端径、先端R は、上記電流密度低下とナゲット面積増加を両立するためには、7mm φ以上で、100mmR以上である必要がある。また、極性についても規定するものではないが、直流スポット溶接を用いる場合は、アルミニウム材側を陽極とし、鋼材側を陰極とする方が望ましい。
【0077】
なお、特に先端径が7mm φ以上で、かつ先端R が120mmR以上の電極チップを双方に用いることで、上記電流密度低下とナゲット面積増加を最適に両立させることができる。このチップを用いた場合、前記板厚t2との関係で、2.5 ×t20.5 kN〜4 ×t20.5kN の加圧力を印加し、かつ18×t20.5 〜30×t20.5kA の電流を100 ×t20.5msec 以下流すことが好ましい。
【0078】
最適接合条件は、以上説明したこれら各条件のバランスにあり、例えばチップ径やチップR、加圧力の増加して、電流密度を低下した場合は、それに伴って電流量を増加して、界面反応層を最適厚さに制御する必要がある。また、ナゲット面積、最適厚さの界面反応層の面積を阻害しない限り、このスポット溶接条件の前後に、より低電流での条件を加え、複数段の電流パターンとしてもよい。
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより、下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0080】
表1に示す化学成分(質量%)を含有する供試鋼を溶製し、1.2mm の板厚となるまで圧延を行い、薄鋼板を得た。この薄鋼板を、連続焼鈍によって500 〜1000℃の焼鈍後、油洗または水洗を行い、その後焼き戻しにより980 MPa 級の高張力鋼板を得た。
【0081】
また、アルミニウム材については板厚1.0mm(表3、4、6)と1.6mm(表5)の2 種類の市販A6022(6000系) アルミニウム合金板を用いた。
【0082】
これら鋼板( 鋼材) とアルミニウム合金板( アルミニウム材) とをJIS A 3137記載の十字引張試験片形状に加工した上で、表2に示す条件でスポット溶接を行い、異種接合体を作成した。
【0083】
スポット溶接には、直流抵抗溶接試験機を用い、予め加圧力、溶接電流、時間など条件と、前記本発明で規定する化合物の平均厚みや面積の制御との相関関係を調査した。その上で、アルミニウム材の板厚t2に合わせて、加圧力、溶接電流、時間を各々設定し、表2 で示す条件にて一点の溶接を行った。
【0084】
電極チップは全てCu-Cr 合金からなるドーム型で、50mmR-12mmφ(表3 )、120mmR-12mm φ(表4 、5 )、150mmR-12mm φ (表6)、の3 形状のチップを各々用いた。陽極をアルミニウム材、陰極を鋼材とし、各溶接例おいて各々両側の電極チップの形状は同一とした。
【0085】
また、アルミニウム材の減肉量は、各実施例とも共通して、最小残存板厚Δt が元厚t2の50% 以上であった。
【0086】
これら製作した各接合体に付き、前記した測定方法にて、各化合物の深さ方向厚さや最適厚さ範囲の面積を測定した。これらの結果を表3〜6に示す。
【0087】
各接合体の接合強度の評価としては、異種接合体の十字引張試験を実施した。十字引張試験は、A6022 材同士の接合強度=1.0kN を基準にして、接合強度が1.5kN 以上または破断形態がアルミ母材破断であれば◎、接合強度が1.0 〜1.5kN であれば○、接合強度が0.5 〜1.0kN であれば△、接合強度が0.5kN 未満であれば×とした。
【0088】
なお、本実施例にて強度の評価に、十字引張試験を用いたのは、剪断引張試験の方が試験条件間での差異が大きかったためである。剪断引張試験の傾向は十字引張試験結果と合致しており、十字引張試験にて○、◎の評価を得たものは、いずれも2.5kN 以上の高い剪断強度であった。
【0089】
表1 の鋼種とA6022 材とのスポット溶接後の異種接合体の十字引張試験結果を表3〜6 に示す。
【0090】
表3〜8 の各表において、本発明の金属間化合物層条件である、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さl1が0.5〜10μmの範囲にある各発明例は、異種接合体の接合強度が高くなることがわかる。
【0091】
更に、Al3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の平均厚さl1とAl5Fe2系化合物層の面積S2との制御に加えて、Al5Fe2系化合物層のナゲット中心±0.1mmの範囲内におけるナゲット深さ方向の平均厚さl2と、最適厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積S1との制御を行なった発明例は、それ以外の発明例に比して、最も高い接合強度が得られている。表4〜6の各の発明例E、F、Gがこれに該当する。
【0092】
一方、表3〜8 の各表において、本発明の金属間化合物層条件を満たさない各比較例は、異種接合体の接合強度が低い。表3〜8 の各比較例はAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の前記平均厚さl1が範囲の上限か下限から外れている。
【0093】
なお、表3〜8 の各表において、ナゲット面積は、比較例では前述の推奨範囲から外れるものが多かった。例えば、50mmR-12mmφ(表3 )では全て12×t20.5 〜19×t20.5mm2の範囲であり、また、120mmR-12mm φ(表4 、5 )、150mmR-12mm φ (表6)の条件Bではいずれも17×t20.5 〜20×t20.5 mm2 の範囲であり、ナゲット面積が小さかった。また、120mmR-12mm φ(表4 、5 )、150mmR-12mm φ (表6)の条件Cではいずれも72×t20.5 〜89×t20.5mm2の範囲であり、ナゲット面積が逆に大きかった。
【0094】
これに対して、発明例ではいずれも、ナゲット面積が前述の推奨範囲内にあった。前記したように、本発明ではナゲット面積を20×t20.5 〜70×t20.5mm2の範囲とする方が望ましい。
【0095】
しかしながら、比較例である120mmR-12mm φ(表4 、5 )、150mmR-12mm φ (表6)の条件Aは、28×t20.5 〜38×t20.5mm2の範囲であり、それらの表の発明例である条件D、E、Gとほぼ同等のナゲット径であるにもかかわらず、接合強度が低かった。
【0096】
以上のことから、高い接合強度を得るためには、ある程度のナゲット面積を形成することが必要であるが、それにも増して、接合界面での界面反応層の厚さ・構造を制御することが更に必要であることが分かる。
【0097】
したがって、これらの実施例の結果から、本発明で規定する各要件や好ましい要件の臨界的な意義が分かる。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
【表5】

【0103】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、クラッド材などの他材料を入れることなく、また別工程を入れることなく、更に、鋼材側やアルミニウム材側、あるいはスポット溶接側条件を大きく変えることなく、接合強度の高いスポット溶接をなしうる、鋼材とアルミニウム材との異種接合体を提供できる。このような接合体は、自動車、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、建築構造物等における各種構造部材として大変有用に適用できる。したがって、本発明は鋼材とアルミニウムとの異種接合体の用途を大きく拡大するものである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の異種接合体を示す断面図である。
【図2】異種接合体を得るためのスポット溶接の態様を示す説明図である。
【図3】図4を模式化した説明図である。
【図4】本発明の異種接合体接合部断面の溶接界面の断面組織を示す図面代用写真である。
【符号の説明】
【0106】
1:鋼板、2:アルミニウム合金板、3:異種接合体、4:酸化皮膜、
5:ナゲット、6:界面反応層、7、8:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚t1が0.3 〜2.5mm である鋼材と、板厚t2が0.5 〜2.5mm であるアルミニウム材とをスポット溶接にて接合した異材接合体であって、接合体の溶接界面に、鋼材側にAl5Fe2系化合物層、アルミニウム材側にAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層、を各々有し、このAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さが0.5〜10μmであることを特徴とする鋼材とアルミニウム材との異材接合体。
【請求項2】
前記Al5Fe2系化合物層のナゲット深さ方向の平均厚さが0.5〜5μmの範囲である部分の面積が10×t20.5 mm2 以上である請求項1に記載の鋼材とアルミニウム材との異材接合体。
【請求項3】
前記Al5Fe2系化合物層の、ナゲット深さ方向の平均厚さが0.5〜5μmの範囲である部分の面積が20×t20.5 mm2 以上である請求項2に記載の鋼材とアルミニウム材との異材接合体。
【請求項4】
前記Al5Fe2系化合物層の、ナゲット中心±0.1mmの範囲内における、ナゲット深さ方向の平均厚さが0.5〜5μmである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鋼材とアルミニウム材との異材接合体。
【請求項5】
前記接合体の溶接界面において、Al5Fe2 系化合物層の平均厚さが0.5〜5μmの範囲である部位に、平均厚さが0.5〜10μmの範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層が存在し、かつ、この平均厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積が15×t20.5 mm2 以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鋼材とアルミニウム材との異材接合体。
【請求項6】
前記平均厚さ範囲のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物との層の面積が25×t20.5 mm2 以上である請求項5に記載の鋼材とアルミニウム材との異材接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−289452(P2006−289452A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114886(P2005−114886)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願〔平成16年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの〕
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)