説明

鋼材の製造方法

【課題】逆V偏析の濃度を低くできるようにした鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】組成成分として、C:0.4〜1.0質量%、Si:0.8質量%以下、Mn:0.2〜1.2質量%、Al:0.25質量%以下、Mo:0.4質量%以下、S:0.04質量%以下、P:0.03質量%以下、Cr:1.5質量%以下、をそれぞれ含有し、残部はFe及び不可避不純物である鋼材を製造するに際し、溶鋼3を鋳型1に注入して鋼塊を鋳造する工程、を含み、鋼塊を鋳造する工程では、鋳型1への溶鋼3の注入が完了し、溶鋼3の凝固シェル4の厚さdが50mmを超えた時点から、鋳型1に注入された溶鋼3のうちの少なくとも90%以上が凝固するまでの間、溶鋼3を電磁攪拌で攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆V偏析の濃度を低くできるようにした鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、風力発電は出力が増加する傾向にあり、3MW、5MW級のものも製造されようとしている。これら大型(翼の旋回直径が100mを超える場合あり)の風力発電設備には大型の鋼材が使用される場合が少なくない。例えば、主軸用のべアリングは直径が2mを超えるものもある。
【0003】
主軸ベアリングのレース(即ち、ベアリングの球体を受ける部分)は、疲労強度向上のために浸炭焼入れや、高周波焼入れにより強化された後、使用される。特に高周波焼入れの場合には、焼入部に偏析があると鋼材に割れが発生し、ベアリングとして機能しない可能性がある。焼入部に影響を与える偏析は、造塊材(即ち、鋳造により得れらた鋼塊)の場合は、逆V偏折と呼ばれる。逆V偏折は、鋼塊のL断面でいうと表面と中央の間に位置する偏析であると言われている。
従来、逆V偏析を低減する方法としては、非特許文献1のように鋳型の幅を狭くする方法、非特許文献2のように中空の鋼塊を製造する方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】木下ら:鉄と鋼、65(1979)44,
【非特許文献2】加藤ら:鉄と鋼、(1980)S183.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に開示されている鋳型の幅を狭くする方法では、鋼材の幅が狭くなるために鍛圧比を十分に稼ぐことができず、内部にザクが残る場合がある。また、上記の方法では、逆V偏析が発生する範囲は確かに狭くなり、逆V偏析が発生する範囲が焼入部と重ならないようにすることができる場合は問題ない。しかしながら、逆V偏析の濃度そのものが低くなるわけではないので、部品の設計上、逆V偏析が発生する範囲と焼入部とが重なる場合には、割れ等の問題は解決できないと考えられる。
【0006】
また、非特許文献2に開示されている中空の鋼塊を製造する方法では、部品の焼入部が内面側に位置する場合が多いので、焼入部における逆V偏析を回避できる可能性がある。しかしながら、中空鋼塊を製造するための設備が特殊であるため、コスト高となり、また安全を確保するために多大な労力を必要とする可能性があった。
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、逆V偏析の濃度を低くできるようにした鋼材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、逆V偏析の濃度を低くする(即ち、薄くする)ことができれば、たとえ、逆V偏析が発生する範囲と部品の焼入部とが重なってしまっても、造塊材の割れを回避することができると考えた。また、一般的に、造塊材は、角棒状又は円柱状に鍛造され、均熱処理により偏析を軽減され、その後部品加工に供される。造塊材の段階で逆V偏析の濃度が低ければ、均熟処理の時間を低減することができるため、製造コストの面で有利である。
【0008】
逆V偏析は、一般的には液相と固相とが共存している固液共存層内で固相から排出された濃化液相の密度が低いために、この濃化液相が浮上することで発生すると言われている。従って、この段階で攪拌により濃化液相を液相と混ぜてしまえば、逆V偏析の発生を抑制することができると考えた。また、たとえ逆V偏析が発生したとしても、その濃度を低くすることができると考えた。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0009】
即ち、本発明の一態様に係る鋼材の製造方法は、組成成分として、C:0.4質量%以上、1.0質量%以下、Si:0質量%より大きく、0.8質量%以下、Mn:0.2質量%以上、1.2質量%以下、Al:0質量%より大きく、0.25質量%以下、Mo:0質量%より大きく、0.4質量%以下、S:0質量%より大きく、0.04質量%以下、P:0質量%より大きく、0.03質量%以下、Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、をそれぞれ含有し、残部はFe及び不可避不純物である鋼材を製造するに際し、溶鋼を鋳型に注入して鋼塊を鋳造する鋳造工程、を含み、前記鋳造工程では、前記鋳型に注入した前記溶鋼の凝固シェルの厚さが50mmを超えた時点から、前記鋳型に注入された前記溶鋼のうちの少なくとも90%以上が凝固するまでの間、前記鋳型内の前記溶鋼を電磁攪拌で攪拌することを特徴とする。
【0010】
このような製造方法であれば、鋼塊を鋳造する工程で、固液共存層内で固相から排出された濃化液相を、電磁攪拌により液相と混ぜることができる。これにより、逆V偏析の発生を抑制することができ、逆V偏析が低濃度化された鋼材を製造することができる。このため、例えば、後の焼入れ工程で、逆V偏析が発生した範囲と焼入部とが重なる場合でも、逆V偏析の濃度は低いため、鋼材が割れる可能性を低くすることができる。
また、上記の鋼材の製造方法において、前記鋳造工程の前に、前記溶鋼にLF処理と脱ガス処理とを施す工程、をさらに含むことを特徴としてもよい。このような製造方法であれば、溶鋼に溶け込んでいる不純物元素やガス、溶鋼中の介在物を取り除くことができる。鋼の組成を調整することができる。
【0011】
また、上記の鋼材の製造方法において、前記鋳造工程では、前記鋳型に注入された前記溶鋼の湯面から前記鋳型の底までの少なくとも上側80%の範囲において、電磁攪拌用のコイルを前記鋳型を介して対向で配置することを特徴としてもよい。このような製造方法であれば、溶鋼の湯面から鋳型の底までの少なくとも上側80%の範囲を電磁攪拌で攪拌することができる。固液共存層内の逆V偏析が発生しやすい範囲において、固相から排出された濃化液相を液相と混ぜることができる。このため、逆V偏析の発生を効率良く抑えることができる。
【0012】
また、上記の鋼材の製造方法において、前記組成成分のうち、C、Si、Mn、Alについては、C:0.6質量%以上、0.8質量%以下、Si:0.05質量%以上、0.8質量%以下、Mn:0.7質量%以上、1.0質量%以下、Al:0.01質量%以上、0.10質量%以下、であることを特徴としてもよい。このような製造方法であれば、鋼材に含まれる各元素の短所を抑えつつ、その長所を発現させることができる。鋼材の特長をさらに高めることができる。
また、上記の鋼材の製造方法において、前記鋼材は、前記不可避不純物として、O:0質量%より大きく、0.008質量%以下、N:0質量%より大きく、0.015質量%以下、をそれぞれ含有することを特徴としてもよい。このような製造方法であれば、鋼材の特長を損なわないようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、逆V偏析の発生を抑制することができ、逆V偏析の濃度が低い鋼材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る鋼材の製造方法を示すフローチャート。
【図2】実施形態に係る鋳造工程の一例を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
(組成成分)
まず始めに、本発明の実施形態で作成される鋼材の組成成分について説明する。この鋼材は、後述の図1に示すフローチャートの各ステップを順次行うことにより形成されるものである。この鋼材は、その組成成分として、C(炭素)、Si(シリコン)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブテン)、S(硫黄)、P(リン)、Cr(クロム)の各元素を有する。また、この鋼材は、上記以外の組成成分として(即ち、残部として)、Fe(鉄)と不可避不純物とを有する。鋼材における組成成分の割合、即ち、質量パーセント(%)は下記の通りである。
【0016】
[C:0.4〜1.0質量%]
Cは、焼入れ性の確保、強度の確保のために、0.4質量%以上は必要である。一方、Cを1.0質量%を越えて含有させると、特に偏析部で焼き割れが起こりやすくなる。このため、Cは0.4〜1.0質量%の範囲に限定した。好ましくは0.6〜0.8質量%の範囲である。
[Si:0.8質量%以下]
Siは脱酸剤として作用するだけでなく、強度の向上にも有効に寄与する。しかし、Siの含有量が0.8質量%を超えると、被削性及び鍛造性の低下を招く。このため、Si量は0.8質量%以下とすることが必要である。なお、強度向上のためには、Siを0.05質量%以上とすることが好ましい。
【0017】
[Mn:0.2〜1.2質量%]
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化層深さを確保して疲労強度を向上させるために非常に重要な成分であり、0.2質量%以上は必要である。一方、Mn量が1.2質量%を超えると、偏析部で高周波焼入れ時に焼割れが発生しやすくなる。このため、Mnは、1.2質量%以下とすることが必要である。Mnのさらなる好適範囲は、0.7〜1.0質量%である。
【0018】
[Al:0.25質量%以下]
Alは、脱酸に有効な元素である。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイト粒成長を抑制することによって、焼入れ硬化層の粒径を微細化する上でも有用な元素である。しかし、Alを0.25質量%を超えて含有させると、その効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招く不利が生じる。このため、Alは、0.25質量%以下の範囲で含有させることが必要である。好ましくは、0.01〜0.10質量%の範囲である。
【0019】
[Mo:0.4質量%以下]
Moは、焼入性を高め、かつ、強度向上に有用な元素である。しかし、Moを0.4質量%を超えて添加すると、偏析部で高周波焼入れ時に焼割れを発生しやすくなる。このため、Moは、0.4質量%以下とすることが好ましい
[S:0.04質量%以下]
Sは、鍋中でMnSを形成し、切削性を向上させる有用元素である。しかし、Sを0.04質量%を超えて含有させると、粒界に偏析して粒界強度を低下させる。このため、Sは0.04質量%以下に制限した。好ましくは0.03質量%以下である。
【0020】
[P:0.03質量%以下]
Pは、不純物元素として粒界に偏析し、粒界強度を低下させるために0.03質量%以下にする必要がある。
[Cr:0.5〜1.5質量%]
Crは、焼入れ性の向上に有効であり、硬化深さを確保する上で有用な元素で0.5質量%以上は必要である。しかし、Crを1.5質量%以上含有させると、偏析部で高周波焼入れ時に焼割れが発生しやすくなる。従って、Crは0.5〜1.5質量%添加する。
【0021】
[残部]
以上説明した元素以外の残部は、Fe及び不可避不純物であることが好ましい。不可避不純物としては、0(酸素)、N(窒素)の各元素が挙げられる。O、Nの含有量は、N:0.015質量%、O:0.008質量%までをそれぞれ許容することができる。この範囲であれば、鋼材の特性を損なわないようにすることができる。なお、これら各元素の比率(質量%)は、後述の一次精錬及び二次精錬の過程で、各元素を選択的に除去又は添加することにより、生産される鋼材において、上記の数値範囲に収まるように調整することができる。
【0022】
(製造方法)
次に、上記の鋼材の製造方法について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る鋼材の製造工程を示すフローチャートである。
まず始めに、図1のステップ(S)1では、例えば、転炉や電気炉等で原料を溶融し、溶鋼(即ち、溶融鋼鉄)の一次精錬を行う。一次精錬として、例えば脱炭処理を行う。次に、図1のステップ(S)2では、例えば、溶鋼を転炉から出鋼する(即ち、搬出する)。そして、図1のステップ(S)3では、例えば、一次精錬後の溶鋼をLF(Ladle Furnace:取鍋精錬設備)に導入して、鋼成分の調整および温度制御を行う。LFでは、例えば、取鍋底からAr(アルゴン)を吹き込んで、溶鋼を攪拌しながら精錬する。さらに、図1のステップ(S)4では、例えば、RH(Ruhrstahl Hausen)真空脱ガス装置で、溶鋼に溶け込んでいる水素、酸素、窒素等の脱ガス処理を行い、溶鋼中の介在物の除去を行う。上記のステップ(S)3及び(S)4が、溶鋼の二次精錬である。次に、図1のステップ(S)5では、二次精錬後の溶鋼を鋳型に注入する。
【0023】
図2(a)〜(d)は、本発明の実施形態に係る鋳造工程の一例を示す概念図である。上記のステップ(S)5では、まず、図2(a)に示すような鋳型1を用意する。この鋳型1の外周にはコイル2が配置されており、このコイル2に高周波電流が流れるようになっている。次に、この鋳型1の内部に、二次精錬後の溶鋼3を注入する。
次に、図1のステップ(S)6では、鋳型1内の溶鋼3を電磁攪拌にて攪拌する。ここでは、図2(b)に示すように、溶鋼3の電磁攪拌により攪拌される範囲を、溶鋼3の湯面から鋳型1の底までの範囲の上側80%以上とする。溶鋼3の攪拌範囲を、少なくとも上側80%とした理由は、鋳型1により形成される鋼塊において、逆V偏析が発生する範囲は、鋼塊の上部80%までの範囲に集中しているからである。
【0024】
なお、溶鋼3の攪拌範囲は、鋳型1を介してコイル2を対向で配置する位置を調整することにより、任意の範囲に設定することができる。例えば、溶鋼3の湯面を基準に、鋳型1の少なくとも上側80%の範囲をコイル2で囲んでおく。即ち、溶鋼3の湯面から鋳型1の底までの長さ(高さ)をHとし、溶鋼3の湯面から、鋳型1のコイル2で囲まれる部分の下端までの長さ(高さ)をhとしたとき、h≧H×0.8となるように、コイル2の配置を予め調整しておく。これにより、溶鋼3の攪拌範囲を、溶鋼3の湯面から鋳型1の底までの少なくとも上側80%の範囲とすることができる。
【0025】
溶鋼3の鋳型1への注入を完了した後、凝固シェル4の厚さ(以下、シェル厚ともいう。)が50mmを超えた時点から、電磁攪拌を開始する。即ち、シェル厚をdとしたとき、溶鋼3の注入が完了し、且つ、d>50mmとなったことをトリガーとして、電磁攪拌を開始する。これは、攪拌により凝固シェル4が破れて、溶鋼3の表面がいわゆる2重肌となることを防止するためである。シェル厚が50mmを超えていれば、電磁攪拌を開始しても凝固シェル4が破れる可能性は低い。このため、シェル厚が50mmを超えた時点から、電磁攪拌を開始する。なお、シェル厚は、例えば、耐火性の棒(図示せず)を凝固シェル4に突き刺して、凝固シェル4がどこまで発達しているかを調査することで、測定する。この調査において、溶鋼3の注入完了後から凝固シェル4が50mmの厚さになるまでの時間を計測しておけば、二回目以降は、経過時間に基づいてシェル厚を判断することができる。
【0026】
電磁攪拌は、コイル2に高周波電流を流すことにより行う。図2(c)に示すように、高周波電流により、鋳型1内の磁界5の向きは絶えず変化する。この磁界5の変化に応じて溶鋼3中の金属粒子が移動する。これにより、溶鋼3が攪拌される。
電磁撹粋は、鋳型1に注入された溶鋼3のうちの少なくとも90%以上が凝固するまでの間、持続させる。これは、凝固の途中で電磁攪拌を止めると、止めた後の固液共存層で逆V偏析が発生するためである。
【0027】
図2(d)に示すように、鋳型1内で溶鋼が完全に凝固すると、鋼塊6となる。次に、この鋼塊6を鋳型1から取り出す。そして、必要に応じて、この鋼塊6に、疲労強度向上のための浸炭焼入れや、高周波焼入れを行う。上記の製造方法で造られた鋼塊(即ち、造塊材)6は、逆V偏析の濃度が低いため、焼入れの過程で割れが生じる可能性は低い。その後、鋼塊6は鍛造されて、予め決められた形状の鋼材となる。さらに、この鋼材に(偏析軽減のための)均熱処理を施す。造塊材の段階で逆V偏析の濃度は低いので、鋼材に対する均熟処理の所要時間も低減することが可能である。この鋼材は、例えば、風力発電装置に使用される主軸ベアリングのレース等、機械構造用部品の加工材として提供される。
【0028】
(本実施形態の効果)
本実施形態は、次のような効果を奏する。
(1)本実施形態の鋳造工程では、鋳型1に注入した溶鋼3のシェル厚が50mmを超えた時点から、鋳型1に注入された溶鋼3のうちの少なくとも90%以上が凝固するまでの間、鋳型1内の溶鋼3を電磁攪拌で攪拌する。これにより、固液共存層内で固相から排出された濃化液相を液相と混ぜることができ、逆V偏析の発生を抑制することができる。その結果、逆V偏析が低濃度化された鋼材を製造することができる。このため、例えば、後の焼入れ工程で、逆V偏析が発生した範囲と焼入部が重なる場合でも、逆V偏析の濃度は低いため、鋼材が割れる可能性を低くすることができる。
【0029】
(2)また、鋳造工程の前に、溶鋼にLF処理と脱ガス処理とを施している(二次精錬)。これにより、溶鋼に溶け込んでいる不純物元素やガス、溶鋼中の介在物を取り除くことができる。一次精錬及び二次精錬等により、本実施形態で作成される鋼材の組成成分を下記のようにすることができる。
組成成分として、
C :0.4質量%〜1.0質量%
Si:0.8質量%以下、
Mn:0.2質量%〜1.2質量%、
Al:0.25質量%以下、
Mo:0.4質量%以下、
S :0.04質量%以下、
P :0.03質量%以下、
Cr:0.5質量%〜1.5質量%、をそれぞれ含有し、残部はFe及び不可避不純物。
【0030】
(3)上記の組成成分のうち、C、Si、Mn、Alについては、より好ましくは、
C :0.6質量%〜0.8質量%
Si:0.05質量%〜0.8質量%
Mn:0.7質量%〜1.0質量%以下、
Al:0.01質量%〜0.10質量%、である。
これにより、鋼材に含まれる各元素の短所を抑えつつ、その長所を発現させることができる。本実施形態で作成される鋼材の特長をさらに高めることができる。
【0031】
(4)また、不可避不純物は、好ましくは、
O:0.008質量%以下、
N:0.015質量%以下、である。
これにより、鋼材の特長を損なわないようにすることができる。
【0032】
(5)なお、本発明の実施形態では、鋳造工程における溶鋼の攪拌を、耐火性の攪拌子を用いて行うのではなく、電磁攪拌で行っている。攪拌子を用いた場合は、固液共存層内で固相が攪拌子の動きを制約するため、固相近傍の濃化液相や液層を十分に攪拌できないことが考えられる。一方、電磁攪拌であれば、固相に制約されることはないので、固相近傍の濃化液相や液層を十分に攪拌することができる。即ち、電磁攪拌の方が固相近傍の液層に直接働きかかえることができるため、攪拌の効果が大きいといえる。
【実施例】
【0033】
次に、本発明者が行った実験とその結果を、実施例として説明する。
JIS−SUP13鋼(C/0.65,Si/0.25,Mn/0.85,P/0.010,S/0.001,Al/0.020,Cr/0.75,Mo/0.25 質量%)を用意した。また、50kg溶解用角型鋳型を用意した。さらに、この角型鋳型の側面のうち1つの面に空冷冷媒体を設置し、溶鋼が側面から1方向に凝固して、逆V偏析が現われやすいようにした。また、この角型鋳型の周囲に小型電磁攪拌装置を配置した。
【0034】
次に、上記のJIS−SUP13鋼を、上記の鋳型に鋳込んだ。鋳込み後、冷媒体側から凝固シェルが生成され始めたところで、鋳型の周囲に設置した小型電磁攪拌装置を起動させた。この小型電磁攪拌装置は、溶鋼の凝固が完了した時に停止させた。
また、別途、同じ角型鋳型にJIS−SUP13鋼を鋳込み、電磁攪拌せずに凝固させた比較材も作った。
【0035】
これらの鋳片をL断面中央で切断し、温塩酸にてマクロエッチングし、逆V偏析を現出させた。電磁攪拌を実施して作成した鋳片は逆V偏析が明瞭には確認されなかった。一方、単に凝固させた鋳片(比較材)は、逆V偏析が明瞭に観察された。以上の結果から、電磁攪拌により逆V偏析が軽減されていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の鋼材の製造方法は、造塊法で製造される鋼材の製造に適用できる。例えば、風力発電用鋼材のような大型の鋼材のうち、鋳造で製造される鋼材の製造にも適している。
【符号の説明】
【0037】
1 鋳型
2 コイル
3 溶鋼
4 凝固シェル
5 磁界
6 鋼塊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成成分として、
C :0.4質量%以上、1.0質量%以下、
Si:0質量%より大きく、0.8質量%以下、
Mn:0.2質量%以上、1.2質量%以下、
Al:0質量%より大きく、0.25質量%以下、
Mo:0質量%より大きく、0.4質量%以下、
S :0質量%より大きく、0.04質量%以下、
P :0質量%より大きく、0.03質量%以下、
Cr:0.5質量%以上、1.5質量%以下、をそれぞれ含有し、残部はFe及び不可避不純物である鋼材を製造するに際し、
溶鋼を鋳型に注入して鋼塊を鋳造する鋳造工程、を含み、
前記鋳造工程では、前記鋳型に注入した前記溶鋼の凝固シェルの厚さが50mmを超えた時点から、前記鋳型に注入された前記溶鋼のうちの少なくとも90%以上が凝固するまでの間、前記鋳型内の前記溶鋼を電磁攪拌で攪拌することを特徴とする鋼材の製造方法。
【請求項2】
前記鋳造工程の前に、
前記溶鋼にLF処理と脱ガス処理とを施す工程、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の鋼材の製造方法。
【請求項3】
前記鋳造工程では、前記鋳型に注入された前記溶鋼の湯面から前記鋳型の底までの少なくとも上側80%の範囲において、電磁攪拌用のコイルを前記鋳型を介して対向で配置することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記組成成分のうち、C、Si、Mn、Alについては、
C :0.6質量%以上、0.8質量%以下、
Si:0.05質量%以上、0.8質量%以下、
Mn:0.7質量%以上、1.0質量%以下、
Al:0.01質量%以上、0.10質量%以下、であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記鋼材は、前記不可避不純物として、
O:0質量%より大きく、0.008質量%以下、
N:0質量%より大きく、0.015質量%以下、をそれぞれ含有することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の鋼材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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