説明

鋼材測定コイル

【課題】 測定精度を向上させることができる鋼材測定コイルを提供する。鋼材の硬化層の深さの測定、未焼入れの判定、異材判定等に用いられる。
【解決手段】 LCRメータと接続して使用される鋼材測定コイル1において、コイル巻線2を磁性体3で囲む。前記磁性体3には、JIS規格のS45Cを用いる。S45Cは次の化学成分(単位はWt%)を持つ機械構造用炭素鋼である。C:0.42〜0.48、Si:0.15〜0.35、Mn:0.60〜0.90、P:0.030以下、S:0.035以下。磁性体3は、内周側に溝部3aが開口した断面U字状でリング状の部材であって、前記溝部3a内にコイル巻線2を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、LCRメータと接続して使用される鋼材測定コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材における硬化層深さの測定、未焼入れ品の判定、異材判定を非破壊で行う方法として、LCRメータとこれに接続したコイルを使用する方法が知られている。この方法では、コイルにシャフト状の鋼材試験片を挿入した状態で、LCRメータからコイルに交流電流を流して、そのときのコイルのインダクタンス値をLCRメータで測定し、測定したインダクタンス値から鋼材試験片の上記測定・判定を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記測定・判定方法の場合、コイルから発生する磁束を介してインダクタンス値の測定が行われるため、測定精度を高めるためには、コイルからある程度以上の大きな磁束を発生させる必要がある。しかし、市販のLCRメータではコイルに出力できる電流値には制限があるので、電流値を大きしてコイルの発生磁束を大きくするには限界がある。
【0004】
この発明の目的は、測定精度を向上させることができる鋼材測定コイルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の鋼材測定コイルは、LCRメータと接続して使用される鋼材測定コイルにおいて、コイル巻線を磁性体で囲み、この磁性体として、次の化学成分(単位はWt%)、
C:0.42〜0.48、Si:0.15〜0.35、Mn:0.60〜0.90、
P:0.030以下、S:0.035以下、
を持つ機械構造用炭素鋼を用いたことを特徴とする。
このようにコイル巻線を磁性体で囲むことにより、コイルからの発生磁束を集中させることができる。これにより、測定精度を向上させることができる。この場合に、磁性体として上記化学成分の炭素鋼を用いることで、より一層測定精度を向上させることができる。
上記化学成分を持つ鉄鋼材料は、JIS規格のS45Cが該当する。S45C材は、入手性が良く、安価な鉄鋼材料である。そのため、鋼材測定コイルを安価に製作できる。
【0006】
この発明において、前記磁性体は、内周側に溝部が開口した断面U字状でリング状の部材であって、前記溝部内にコイル巻線を配置しても良い。この構成の場合、コイル巻線を安定良く磁性体で囲むことができる。
【0007】
この発明の鋼材測定コイルは、鋼材の硬化層の深さの測定、未焼入れの判定、または異材判定に用いられるものであっても良い。硬化層の深さの測定や、未焼入れの判定、異材判定には、精度良くインダクタンス値を測定する必要がある。そのため、これらの用途にこの発明の鋼材測定コイルを用いることで、この発明の測定精度向上の効果が有効に発揮される。
【発明の効果】
【0008】
この発明の鋼材測定コイルは、LCRメータと接続して使用される鋼材測定コイルにおいて、コイル巻線を磁性体で囲み、この磁性体として、次の化学成分(単位はWt%)、
C:0.42〜0.48、Si:0.15〜0.35、Mn:0.60〜0.90、
P:0.030以下、S:0.035以下、
を持つ機械構造用炭素鋼を用いたため、測定精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明の一実施形態を図1ないし図5と共に説明する。図1(A)はこの実施形態の鋼材測定コイルの平面図を、図1(B)は図1(A)におけるI−I矢視断面図をそれぞれ示す。この鋼材測定コイル1は、図2に示すようにLCRメータ4と接続して、鋼材の硬化層の深さ測定や、未焼入れ判定、または異材判定に使用するものである。LCRメータ4は、L(インダクタンス)、C(キャパシタンス)、およびR(レジスタンス)を測定する装置であり、これに接続されるコイルに交流電流を流し、コイルのインダクタンス値を測定可能な装置である。
【0010】
この鋼材測定コイル1は、コイル巻線2を磁性体3で囲んだものである。磁性体3は、図1(B)のように内周側に溝部3aが開口した断面U字状でリング状の部材であって、前記溝部3a内にコイル巻線2が配置される。このように、磁性体3の内周側に開口した溝部3a内にコイル巻線2を配置することにより、コイル巻線2を安定良く磁性体3で囲むことができる。
【0011】
磁性体3の材質としては、JIS規格の鉄鋼材料のうち、機械構造用炭素鋼S45Cが用いられる。このS45C材は、次の化学成分(単位はWt%)を持つ鉄鋼材料である(JIS G 4051)。
C:0.42〜0.48、Si:0.15〜0.35、Mn:0.60〜0.90、
P:0.030以下、S:0.035以下。
【0012】
この鋼材測定コイル1を用いた鋼材の硬化層深さ測定、未焼入れ品の判定、異材の判定などは、図2のようにこの鋼材測定コイル1をLCRメータ4に接続し、コイル1にシャフト状の鋼材試験片5を挿入した状態でLCRメータ4からコイル1に交流電流を流し、そのときのコイル1のインダクタンス値をLCRメータ4で測定することにより行われる。
【0013】
この実施形態の鋼材測定コイル1によると、コイル巻線2を磁性体3で囲んだため、コイル巻線2からの発生磁束を集中させることができる。これにより、測定精度を向上させることができる。この場合に、磁性体3として、より測定に適したものを使用することで、より測定精度を向上させることができる。次の試験の結果、磁性体3として、実施形態のようにS45Cを用いることが、測定精度を向上させるうえで好ましいことが分かった。また、S45Cは、入手性が良く安価な鉄鋼材料であり、これを用いると、鋼材測定コイル1を安価に製作することができる。
【0014】
図3は、各種の鋼材測定コイルを図2の測定系に用いて測定した各コイルのインダクタンス値と、鋼材試験片5の硬化層深さとの関係を調査した結果を示すグラフである。そのうち、(1)のグラフは、鋼材測定コイルのコイル巻線を囲む磁性体として、透磁率が非常に大きい78パーマロイ(最大比透磁率100000以上)を用いた場合の結果を示す。また(2)のグラフは、鋼材測定コイルのコイル巻線を囲む磁性体として、珪素鋼板(最大比透磁率10000)を用いた場合の結果を示す。さらに、(3)のグラフは、この実施形態の鋼材測定コイル1を用いた場合(つまり磁性体としてS45Cを用いた場合)の結果を示す。これらのグラフにおけるインダクタンス値と硬化層深さの一次回帰式は、次のようになっている。
【0015】
(1)磁性体として78パーマロイを用いた場合
y=−0.21x+47.2(x=インダクタンス値(mH),y=硬化層深さ(mm)
,(相関係数R)2 =1.000)
(2)磁性体として珪素鋼板を用いた場合
y=−0.30x+62.2(x=インダクタンス値(mH),y=硬化層深さ(mm)
,(相関係数R)2 =0.998)
(3)磁性体としてS45Cを用いたこの実施形態の鋼材測定コイル1の場合
y=−0.24x+50.4(x=インダクタンス値(mH),y=硬化層深さ(mm)
,(相関係数R)2 =1.000)
【0016】
この測定結果から、磁性体が珪素鋼板の場合((2)の場合)、磁性体がS45Cの場合((3)の場合)、磁性体が78パーマロイの場合((1)の場合)の順で、一次回帰式の傾き(mm/mH )が小さくなっている。この傾きが小さいほど、インダクタンス値の変化量に対して硬化層深さの変化量が小さくなっており、測定分解能が向上していることが分かる。この順位は、コイル巻線を囲む磁性体の前記種別により、鋼材測定コイルからの発生磁束が前記順位に応じて集中することによる。
【0017】
図4および図5は、図3の測定結果において測定分解能が最も悪かった珪素鋼材を磁性体とする場合を除外して、つまり78パーマロイおよびS45Cを磁性体とする鋼材測定コイルを用い、図3の場合と同様の測定を、同図の場合と異なる鋼材試験片5を使用して行った結果を示すグラフである。そのうち、図4のグラフは、磁性体として78パーマロイ(最大比透磁率100000以上)を用いた場合の結果を示す。また、図5のグラフは、磁性体としてS45Cを用いたこの実施形態の鋼材測定コイル1の場合の結果を示す。これらの各グラフにおいて、y方向のエラーバーは、測定を10回繰り返したときの測定ばらつきを±3σ(σは標準偏差)で表している。
【0018】
この測定結果から、磁性体が78パーマロイの場合(図4の場合)は、磁性体がS45Cであるこの実施形態の鋼材測定コイル1を用いた場合(図5の場合)に比べて、測定値のばらつきが大きく、測定精度が悪いことが分かる。すなわち、以上の各測定結果を総合すると、この実施形態のS45Cを用いた鋼材測定コイル1の場合が、最も測定精度が良いことが分かる。
なお上記調査は、インダクタンス値と硬化層深さの関係について行ったものであるが、インダクタンス値と未焼入れ品の関係や、インダクタンス値と異材の関係について行った調査でも、実施形態の鋼材測定コイル1を用いた場合が、最も測定分解能を向上させることができることが分かった。
【0019】
このように、S45Cからなる磁性体3でコイル巻線2を囲んだ鋼材測定コイル1をLCRメータ4に接続して、鋼材の硬化層深さの測定や、未焼入れ品の判定、あるいは異材判定を行った場合、従来のコイル巻線を磁性体で囲んでいない鋼材測定コイルを用いた場合よりも、さらにはコイル巻線を磁性体で囲んだ他の鋼材測定コイルを用いた場合よりも測定性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態にかかる鋼材測定コイルの平面図、(B)は(A)におけるI−I矢視断面図である。
【図2】同鋼材測定コイルが用いられる測定系の説明図である。
【図3】図2の測定系に各種のコイルを用いて測定したインダクタンス値と鋼材硬化層深さの関係を示すグラフである。
【図4】図2の測定系に、コイル巻線を78パーマロイで囲んだ鋼材測定コイルを用いて測定したインダクタンス値と鋼材硬化層深さの関係を示すグラフである。
【図5】図2の測定系に実施形態の鋼材測定コイルを用いて測定したインダクタンス値と鋼材硬化層深さの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0021】
1…鋼材測定コイル
2…コイル巻線
3…磁性体
3a…溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LCRメータと接続して使用される鋼材測定コイルにおいて、コイル巻線を磁性体で囲み、この磁性体として、次の化学成分(単位はWt%)、
C:0.42〜0.48、Si:0.15〜0.35、Mn:0.60〜0.90、
P:0.030以下、S:0.035以下、
を持つ機械構造用炭素鋼を用いたことを特徴とする鋼材測定コイル。
【請求項2】
請求項1において、前記磁性体は、内周側に溝部が開口した断面U字状でリング状の部材であって、前記溝部内にコイル巻線を配置した鋼材測定コイル。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、鋼材の硬化層の深さの測定、未焼入れの判定、または異材判定に用いられるものである鋼材測定コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−171120(P2007−171120A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372722(P2005−372722)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】