説明

鋼板とアルミニウム板との接合構造体の製造方法およびこの製造方法により製造された鋼板とアルミニウム板との接合構造体

【課題】鋼材とアルミニウム材との接触面での接触腐食を効果的に抑制できる鋼板とアルミニウム板との接合構造体の製造方法の提供と、これにより製造された耐接触腐食性に優れた鋼板とアルミニウム板との接合構造体を提供する。
【解決手段】鋼板とアルミニウム板とが電気的導通を有する状態で接合された接合構造体の製造方法であって、少なくとも鋼板側の接触面に、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂皮膜を膜厚0.1〜5.0μmで形成する工程を含むことを特徴とする鋼板とアルミニウム板との接合構造体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車を初めとして鉄道車両等の輸送機分野、機械分野、土木建築プラント分野、エレクトロニクス分野等において、鋼板とアルミニウム板とが面接触して電気的導通を有する状態で使用される鋼板とアルミニウム板との接合構造体の製造方法、およびこの製造方法により製造された鋼板とアルミニウム板との接合構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や鉄道車両等の輸送機分野を中心として、鋼材とアルミニウム(合金)材とを組み合わせた軽量かつ高強度、しかも衝突に対する耐性をも兼ね備えた部材に対するニーズが増加している。
【0003】
通常、自動車等に鋼材とアルミニウム材を使用する場合は、鋼板とアルミニウム板とを抵抗溶接、機械的接合等で接合する。鋼板とアルミニウム板とを突き合せ状に接合する場合は、接合部分が密着するため隙間が生じにくい。一方、鋼板とアルミニウム板とを面で接合する場合は、接合面が完全に密着することはなく、部材自体の歪みや、スポット溶接等によって生じた歪みのため、鋼板とアルミニウム板との間に、様々な間隔の隙間が発生する。前記隙間の大きさ(鋼板とアルミニウム板との間隔)が0.1mm程度になると、自動車製造時の下塗り工程で通常使用される電着塗装では、隙間内部まで塗料が入らないため、隙間内部の鋼材面およびアルミニウム材面に未塗装部が生じる。
【0004】
自動車等の使用中に前記隙間内に水分が侵入すると、鋼板未塗装部とアルミニウム板未塗装部との間で異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が発生し、鋼より卑なアルミニウムの腐食が促進される。異種金属接触腐食とは、鋼とアルミニウムのような異種金属を接触させた場合、接触面の隙間に侵入した水により形成された電解液を介して、異種金属のうち、卑な金属がアノード、貴な金属がカソードとなって電池を形成して、卑な金属の方の腐食が促進される現象である。すなわち、鋼板/アルミニウム板の異種金属接合構造体では、前記隙間が存在すると、使用中にアルミニウムの腐食が促進され、その腐食速度はアルミニウム単独よりも極めて大きくなって、早期に穴あきなどの損傷が引き起こされる。従って、異種金属を面接合させて形成した部材・部品では、このような異種金属接触腐食を防止する必要がある。
【0005】
異種金属接触腐食を防止する方法としては、異種金属間に絶縁物を介して電気的に絶縁することが有効である。しかし、この方法では、構造上や製造上の制約があって困難な場合が多いのみならず、接合強度の面で優位な溶接が適用できなくなるという問題がある。例えば、特許文献1には、異種金属の接触部に予め有機樹脂接着剤を塗布した後、スポット溶接する方法が記載されている。しかし、この方法では、施工に手間がかかる上、塗布状態が不均一になりやすいため、塗布欠陥部から腐食が発生するおそれがある。
【0006】
また、予め有機樹脂を塗装したプレコート鋼板とプレコートアルミニウム板を使用し、これらを部材に加工した後に接着剤にて接合して、組み立てる方法も提案されている(例えば、特許文献2)。この方法では確かに接触腐食は起こらないが、接合に接着剤を使用するため施工に手間がかかる上、接合強度に信頼性が持てず、構造部材への適用には問題がある。
【0007】
さらに、アルミニウム基複合材料と鉄鋼材料との間にZn−Al−Mg合金を介在させることにより、両材料間の異種金属接触腐食を効果的に防止する技術が提案されている(例えば、特許文献3)。しかし、この方法においても、Zn−Al−Mg合金層をめっき等の手段で形成しなければならず、工程的に煩雑である。
【0008】
一方、金属材料の腐食を防止する技術として、当該金属が曝される腐食環境に少量・微量の腐食抑制剤(インヒビターとも呼ばれる)を添加することが知られている。一般的に良く知られているインヒビターとしては、例えば、腐食反応に必要な酸素を除去して腐食性を低減させる脱酸素剤として作用する亜硫酸塩やヒドラジン、金属表面に炭酸カルシウムの沈殿被膜を形成して保護性を高めるカルシウムイオン、鉄表面を不働態化して腐食抑制に寄与するモリブデン酸塩、N、Oなどの電気陰性度の大きな元素を含んだ極性基を金属表面へ吸着することにより腐食抑制効果を発現する吸着皮膜形成型インヒビターであるアミン類やアニリンなど、金属の溶解で生じた金属イオンと反応して表面に安定なキレート化合物を形成して腐食抑制効果を発現する沈殿皮膜形成型インヒビターであるベンゾトリアゾールやチオグリコール酸類など、および金属表面に酸化皮膜を形成するカルボン酸類等が知られている(非特許文献1)。
【0009】
上記のようなインヒビターの知見をベースとして、亜硝酸系インヒビターやオキシアニオン系インヒビターを含む組成物を用いることにより、異種金属接触腐食を防止する方法が特許文献4に記載されている。しかし、このようなインヒビターは、鋼材よりも電位が貴なステンレス鋼もしくはチタンと一般鋼材との接触腐食抑制には有効であるが、鋼材とそれよりも電位が卑な金属(例えば、アルミニウム等)との接触腐食抑制には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−80394号公報
【特許文献2】特開平5−50173号公報
【特許文献3】特開2001−11665号公報
【特許文献4】特開平4−160169号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】腐食防食協会編集:防食技術便覧、1992年、第641〜679頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明では上記従来技術を考慮して、鋼材とアルミニウム材との接触面での接触腐食を効果的に抑制できる鋼板とアルミニウム板との接合構造体の製造方法、およびこれにより製造された耐接触腐食性に優れた鋼板とアルミニウム板との接合構造体を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決した本発明は、鋼板とアルミニウム板とが電気的導通を有する状態で接合された接合構造体の製造方法であって、少なくとも鋼板側の接合面に、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂皮膜を膜厚0.1〜5.0μmで形成する工程を含むことを特徴とする鋼板とアルミニウム板との接合構造体の製造方法である。
【0014】
前記樹脂皮膜がシリカを5〜80質量%含有する態様、安息香酸塩、グルタミン酸塩、アニシジン、グリシン、キノリノール、フタル酸塩、アジピン酸塩および酢酸塩よりなる群から選択される1種以上のインヒビターを0.1〜20質量%含有する態様は、いずれも本発明の好ましい実施態様である。耐接触腐食性が一層向上した鋼板とアルミニウム板との接合構造体を得ることができる。鋼板は亜鉛系めっき鋼板であることが好ましい。
【0015】
リンガロール絞り法またはロールコーター塗布法により前記樹脂皮膜を形成することが好ましく、樹脂皮膜を形成した後は、抵抗スポット溶接により鋼板とアルミニウム板とを接合すると効率的である。
【0016】
なお、本発明には、上記製造方法により製造された鋼板とアルミニウム板との接合構造体も含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、耐接触腐食性に優れた鋼板とアルミニウム板との接合構造体を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】接合構造試験体を説明する平面模式図である。
【図2】接触腐食模擬試験体を説明する平面模式図である。
【図3】接触腐食模擬試験体を説明する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、鋼板とアルミニウム板とが電気的導通を有する状態で接合された接合構造体の製造方法であって、少なくとも鋼板側のアルミニウム板対向面に、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂皮膜を膜厚0.1〜5.0μmで形成する工程を含むところに特徴を有する。なお、本発明のアルミニウム板には、アルミニウム合金板も含まれる。
【0020】
本発明の製造方法では、鋼板とアルミニウム板とが電気的導通を有する状態で接合されていることが必要である。これにより、接合構造体を製造する際に、信頼できる接合強度を発現する溶接法を採用することができる。一方、鋼板とアルミニウム板との間を電気的に絶縁するには、構造上や製造上の制約があり困難な場合が多く、また、前記したように、溶接には適用できないという問題が生じる。
【0021】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋼板とアルミニウム板との接合面のうち、少なくとも鋼板側のアルミニウム板対向面(以下単に接合面という)に樹脂皮膜を形成すれば、接触腐食を効果的に抑制できることを見出して、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明者らの研究結果によれば、鋼板側の接合面に樹脂皮膜を形成することで、卑となるアルミニウム板側の接触腐食を効果的に抑制することができ、鋼板側に加えてアルミニウム板側の接合面にも樹脂皮膜を形成すれば、アルミニウム板の耐接触腐食性をより一層向上させることができる。ただし、アルミニウム板側の接合面のみに樹脂皮膜を形成した場合は、アルミニウム板の接触腐食を抑制できないことが分かった。この理由は、以下のように考えられる。
【0022】
すなわち、本発明では、溶接が可能な程度に薄い樹脂皮膜を形成しなければならないが、膜厚が小さいと皮膜中にピンホールが生じやすい。卑となるアルミニウム板側の接合面のみを樹脂皮膜で被覆した場合、鋼板とアルミニウム板との間に流れる腐食電流の絶対値は減少するものの、腐食電流が樹脂皮膜中のピンホール部に集中し、ピンホール部のアルミニウムのみを侵食する。その結果、アルミニウム板の侵食深さは樹脂皮膜がない場合と変わらず、接触腐食が進行してしまうのである。
【0023】
一方、鋼板側の接合面に樹脂皮膜を形成した場合、腐食電流の絶対値は減少し、アルミニウム板表面への電流集中が起こらないので、アルミニウム板の侵食深さは確実に減少する。また、鋼板側に加えてアルミニウム板側の接合面にも樹脂皮膜を形成すると、腐食電流の絶対値はさらに減少し、アルミニウム板表面への電流集中も起こらないので、アルミニウム板の侵食深さは鋼板側のみに樹脂皮膜を形成した場合に比べて一層減少するのである。
【0024】
よって、本発明では、少なくとも鋼板側の接合面に樹脂皮膜を形成する。上記のように、鋼板側の接合面に加えて、アルミニウム板側の接合面にも樹脂皮膜を形成することが好ましい。
【0025】
樹脂皮膜の膜厚は0.1μm〜5.0μmとする。樹脂皮膜の膜厚をこの範囲とすることで、耐接触腐食性に優れた鋼板とアルミニウム板との接合構造体を得ることができる。膜厚が0.1μm未満では、鋼板表面の被覆が不十分となるため、アルミニウム板の接触腐食抑制効果が現われない。また、樹脂皮膜の厚みが5.0μmを超えると、抵抗スポット溶接が実質上不可能となるため、好ましくない。より好ましい膜厚は、0.3μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。なお、この膜厚は、鋼板とアルミニウム板の両方に樹脂皮膜を形成する場合には、両方の皮膜の合計膜厚である。
【0026】
樹脂皮膜は、鋼板においてもアルミニウム板においても耐接触腐食性を高めるという観点からは、接合面に形成する必要があるが、製法上、両面塗布が可能で効率的であれば、両面に塗布しても構わない。
【0027】
樹脂皮膜を形成するための樹脂としては、耐接触腐食性、電着塗装との適合性との観点から、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、エポキシ系の各樹脂から選択することができる。また、これらの樹脂を2種以上混合することも可能である。樹脂としては、樹脂皮膜中、20質量%〜100質量%含有させることが好ましい。樹脂が少な過ぎると、皮膜にピンホールが発生し易くなり、またシリカを配合する場合に脱落等が起こるおそれがある。
【0028】
なお、本発明は、鋼板とアルミニウム板とが樹脂皮膜を介して面接触している構造体を製造するのに適している。前記したように、鋼板とアルミニウム板とを突き合せ状に接合する場合は、接合部分が密着するため隙間が生じにくい上に、突き合わせ部を塗装してしまえば、水分の侵入が防止できるため、このような構造体では接触腐食が起こりにくい。従って、このような構造体に本発明を適用しても、耐接触腐食抑制効果は目立たない。一方、鋼板とアルミニウム板を重ねて接合するような場合は、接触面積が大きい上に、前記したように鋼板とアルミニウム板との間に隙間が生じ、接触腐食が起こりやすい構造となる。従って、接触腐食を抑制するために、本発明を適用する技術的意義が大きいのである。
【0029】
本発明では、樹脂皮膜にシリカを含有させてもよい。シリカの含有量は特に限定されないが、皮膜100質量%中、5質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。シリカの含有量をこの範囲とすることで、樹脂皮膜の強度と耐疵つき性が確保でき、耐接触腐食性の一層の向上を図ることができる。一方、シリカの含有量が5質量%未満では、耐疵つき性、耐接触腐食性の改善効果が現われないおそれがある。また、80質量%を超えると、造膜性が劣化するため皮膜が粉化する傾向があるのみならず、耐接触腐食性が劣化する傾向を示すため、好ましくない。
【0030】
シリカの種類は特に限定されず、乾式シリカ、コロイダルシリカを選択することができるが、樹脂皮膜を形成するための塗布液の種類が溶剤系である場合は乾式シリカ、水系である場合はコロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0031】
また、本発明者らは、鋼板/アルミニウム板の接合構造体の耐接触腐食性をさらに改善するため、鋼板とアルミニウム板との接触腐食部に作用して、アルミニウムの接触腐食を抑制する作用を有するインヒビターを探索したところ、下記のことを見出した。
【0032】
すなわち、背景技術のところで説明したとおり、金属材料の腐食を抑制するインヒビターとしては、これまで、亜硫酸塩、ヒドラジン、カルシウムイオン、モリブデン酸塩、アミン類、アニリン、ベンゾトリアゾール、チオグリコール酸類およびカルボン酸類等が知られているが、本発明においては、これらのインヒビターを樹脂皮膜中に含有させても、接触腐食の抑制効果が現れないことが分かった。一方、樹脂皮膜に、安息香酸塩、グルタミン酸塩、アニシジン、グリシン、キノリノール、フタル酸塩、アジピン酸塩および酢酸塩よりなる群から選択される1種以上のインヒビターを含有させた場合、アルミニウムの耐接触腐食性を改善できることを発見した。
【0033】
安息香酸塩、グルタミン酸塩、アニシジン、グリシン、キノリノール、フタル酸塩、アジピン酸塩または酢酸塩が耐接触腐食性を改善する理由としては、これらのインヒビターが皮膜中から徐々に腐食環境に溶解して、鋼板およびアルミニウム板表面に吸着し、鋼板およびアルミニウム板の腐食速度を減少させる効果に加えて、鋼板とアルミニウム板との電位差を減少させるという効果を有しているため、鋼板/アルミニウム板の接合構造体の接触腐食を軽減するものと推定している。なお、これらのインヒビターの接触腐食改善作用については、本願出願人によって、特願2009−094739として既に出願している。
【0034】
安息香酸塩、グルタミン酸塩、フタル酸塩、アジピン酸塩または酢酸塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩が好ましく、2種以上の塩が混在していても構わない。これらの塩は、水に溶解しやすいため、樹脂皮膜形成用塗布液を水系にした場合、皮膜中に均質に存在させることができ、樹脂皮膜全体において均一に接触腐食抑制効果を発現させることができる。
【0035】
インヒビターは、皮膜中に0.1〜20質量%の範囲で存在させることが好ましい。インヒビターの含有量をこの範囲とすることで、鋼板/アルミニウム板の接合構造体の耐接触腐食性を一層改善することができる。一方、含有量が0.1質量%未満では、耐接触腐食性の改善効果が現われないおそれがある。また、20質量%を超えると、耐接触腐食性の改善効果が飽和となる傾向を示し、経済的に無駄である。インヒビターは、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0036】
樹脂皮膜の形成工程は、鋼板とアルミニウム板とを接合する前であれば、いつでも良い。樹脂皮膜を形成するには、樹脂皮膜形成用塗布液を用いることが好ましい。樹脂の種類に応じて、有機溶剤溶液、水溶液、水性分散体等の塗布液を調製すればよい。樹脂は、有機溶剤溶液、水溶液、水性分散体のいずれかの形態で販売されているので、これらをそのまま、または希釈あるいは濃縮して、塗布液とすることができる。シリカやインヒビターを樹脂皮膜中に含有させたい場合には、これらを塗布液に配合して、よく混合した後、塗布液として用いるとよい。なお、塗布液には、二硫化モリブデン、ワックス粒子等の皮膜の潤滑性を向上させるための添加剤や、シランカップリング剤、架橋剤、界面活性剤等の添加剤を、必要に応じて添加することができる。
【0037】
樹脂皮膜を均一かつ経済的に形成するには、鋼板および/またはアルミニウム板をコイルの状態で用いて、連続的に樹脂皮膜を形成することが推奨される。具体的には、連続塗装ライン、あるいは電気亜鉛めっきラインや溶融亜鉛めっきラインの後処理セクションにおいて、樹脂皮膜形成用塗布液を、グルーブロール等を用いたリンガロール絞り法またはロールコーター塗布法等により、鋼板のみや、鋼板およびアルミニウム板それぞれに連続的に塗布し、その後、焼付乾燥する方法が好ましい。樹脂皮膜を均一に形成すれば、不均一塗布による欠陥部から腐食が発生するリスクを低減することができ、信頼性の高い耐接触腐食性の鋼板/アルミニウム板の接合構造体を得ることができる。焼付乾燥の時間と温度は、用いる樹脂に応じて適宜決定すればよい。また、前記したように、樹脂皮膜は、鋼板やアルミニウム板の両面に形成しても構わない。
【0038】
めっき層を有しない鋼板の表面に直接前記樹脂皮膜を形成しても耐接触腐食性が良好な接合構造体を得ることができるが、鋼板に亜鉛系めっきを施した電気亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金電気めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、Zn−5%Alめっき鋼板、55%Al−Znめっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼板を使用することは、亜鉛系めっき層の作用によって、鋼板とアルミニウム板との接触腐食をさらに抑制する効果があるので、好ましい。また、本発明によって得られる接合構造体が用いられる部材の必要性に応じて、軟鋼板、高張力鋼板等を適宜選択することができる。
【0039】
アルミニウム板としては、純アルミニウム板、Al−Mn合金板、Al−Mg合金板、Al−Zn−Mg合金板、Al−Si合金板等が用いられる。
【0040】
樹脂皮膜は、接合前の保管中の一次防錆作用およびプレス加工時の摩擦係数の軽減作用を有しているが、さらに防錆油を塗布しておくと、保管中の一次防錆力およびプレス加工時の摺動性向上を図ることができるので、好ましい。
【0041】
上記方法で製造した樹脂皮膜積層鋼板と、アルミニウム板または樹脂皮膜積層アルミニウム板は、切断、プレス加工等により、部材(部品)とされた後、面を合せた状態で接合され、接合構造体となる。
【0042】
接合方法としては特に限定されないが、抵抗スポット溶接(RSW)、セルフピアスリベット(SPR)等のリベット接合、摩擦接合、ボルト止め、カシメ等の部分接合を用いることができる。また、レーザー溶接、MIG溶接等の線溶接は、溶接部が肉盛りされるため、鋼板とアルミニウム板との間に隙間が多いとき等に好適である。中でも、抵抗スポット溶接は、施工の自動化が行いやすく、施工時間が短く、大量生産に適合するので推奨される。
【0043】
接合後の構造体には、通常、化成処理、電着塗装、仕上げ塗装が施される。化成処理としては、リン酸塩処理、クロメート処理、クロメートフリー下地処理、シランカップリング処理等の公知の下地処理が挙げられる。
【0044】
本発明の方法で製造した本発明の鋼板/アルミニウム板接合構造体は、部材の軽量化と高強度化を両立させることができた上に、高耐衝突化も実現でき、さらに、耐接触腐食性にも優れた、高性能な構造体である。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ意味する。
【0046】
<接合構造試験体の作製>
実施例1〜17および比較例8、9では、鋼板(幅40mm×長さ110mm×厚み1.0mm、鋼板の種類は表1に示した。)を皮膜形成用塗布液に浸漬した後、グルーブロールにて余分の塗布液を絞り、その後コンベア式乾燥炉にて炉温220℃で12秒乾燥して、鋼板に樹脂皮膜を形成した。樹脂皮膜の厚みはグルーブロールの絞り圧および塗布液の濃度により調整した。塗布液の組成および樹脂皮膜の厚みを表2および3に示す。なお、比較例1〜7では、鋼板に樹脂皮膜を形成しなかった(表3)。
【0047】
また、上記と同様の方法で、アルミニウム板(6000系、幅70mm×長さ150mm×厚み1.0mm)の表面に厚み0.7μmのポリオレフィン皮膜を形成した。
【0048】
上記鋼板とアルミニウム板とを抵抗スポット溶接(RSW)またはセルフピアスリベット(SPR)にて接合し、接合構造試験体を作製した(ただし、実施例15および比較例6、7では、前記ポリオレフィン皮膜を形成したアルミニウム板を用い、実施例1〜14、16、17および比較例1〜5、8、9では、皮膜を形成していないアルミニウム板を用いた。)。
【0049】
なお、抵抗スポット溶接(RSW)では、加圧力を3.5kN、電流を26KAmとし、1スポット当たりの通電時間を120msとした。また、セルフピアスリベット(SPR)では、かしめ圧を150bar(15MPa)とした。
【0050】
図1は、この接合構造試験体を説明する平面模式図である。接合構造試験体10では、アルミニウム板2の中央部に位置する鋼板1は、RSWまたはSPRによる接合点3(2点)にてアルミニウム板2と接合されている。
【0051】
前記接合構造試験体にリン酸塩処理、電着塗装を施した後、腐食試験に供した。リン酸塩処理および電気塗装は下記条件で実施した。
【0052】
リン酸塩処理
処理液:「PBL−3027」(日本パーカライジング製)
温度:40℃、時間:2分
付着量が冷延軟鋼板で約2.0g/m2、アルミニウム板(6000系)で約1.8g/m2となる条件で行った。
【0053】
電気塗装
カチオン系電着塗料:「PN310」(日本ペイント製)
温度:30℃、電圧:200V、時間:3分、焼付:160℃、20分、塗膜厚:20μm(試験体外側面)
【0054】
なお、前記接合構造試験体の一部を、腐食試験前に解体して重ね合せ内部を観察したところ、電着塗料は部分的に付着しており、付着している部分の塗膜厚は2μmから7μm程度であった。
【0055】
<接触腐食模擬試験体の作製>
前記<接合構造試験体の作製>に記載の方法と同様にして、鋼板(幅70mm×長さ80mm×厚み1.0mm、鋼板の種類は表1に示す)に樹脂皮膜を形成した。塗布液の組成および樹脂皮膜の厚みを表4〜6に示す。なお、比較例10では、鋼板に樹脂皮膜を形成しなかった(表6)。
【0056】
上記鋼板と樹脂皮膜を形成しないアルミニウム板(6000系、幅70mm×長さ150mm×厚み1.2mm)を用いて接触腐食模擬試験体を作製した。図2および3は、それぞれ、前記接触腐食模擬試験体を説明する平面模式図および断面模式図である。接触腐食模擬試験体20では、接触腐食を精度良く評価するため、アルミニウム板2’のほぼ中央部に位置する鋼板1’とアルミニウム板2’との間隔はポリテトラフルオロエチレン板からなるスペーサー6(図3のみに示す)により0.1mm一定とした。また、鋼板1’とアルミニウム板2’とはクリップ4(4箇所)にて固定されている。RSWやSPRにより接合した鋼板/アルミニウム板の接合構造体では、鋼板およびアルミニウム板に歪みが生じるので、鋼板、アルミニウム板との間隔が不均一となる。接触腐食模擬試験体20では、このような間隔不均一を防ぐため、鋼板1’とアルミニウム板2’との導通は導電テープ5(型番1170、幅10mm×長さ80mm×厚み0.1mm、住友スリーエム社製)にて確保した。さらに、鋼板1’の外面側にシール7(図3のみに示す)を施した。なお、接触腐食模擬試験体には、化成処理および電着塗装を行わなかった。
【0057】
本発明の実施例および比較例で用いた樹脂および他の添加物は、下記の通りである。
ポリオレフィン系樹脂(ハイテック(登録商標)S−3121、水系、東邦化学工業社製)
ポリウレタン系樹脂(ユリアーノ(登録商標)W500、水系、荒川化学工業社製)
エポキシ系樹脂(EM−1−60L、ADEKA社製)
ポリビニルブチラール系樹脂(平均重合度630、和光純薬工業社製)
ポリアクリル酸系樹脂(平均分子量25000、和光純薬工業社製)
シリカ:コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)XS、日産化学工業社製)
L−グルタミン酸ナトリウム(和光純薬工業社製の試薬)
安息香酸ナトリウム(和光純薬工業社製の試薬)
安息香酸アンモニウム(和光純薬工業社製の試薬)
アニシジン(和光純薬工業社製の試薬)
キノリノール(和光純薬工業社製の試薬)
グリシン(ペプチド研究所製の試薬)
フタル酸アンモニウム(和光純薬工業社製の試薬)
フタル酸カリウム(和光純薬工業社製の試薬)
アジピン酸アンモニウム(和光純薬工業社製の試薬)
酢酸ナトリウム(和光純薬工業社製の試薬)
【0058】
<腐食模擬試験>
前記接合構造試験体または接触腐食模擬試験体に、複合サイクル試験(JIS H 8502の中性塩水噴霧サイクル試験)を30サイクル(8hr/サイクル)実施して、腐食試験を行った。腐食試験後の試験体に対して、解体、塗膜と腐食生成物の除去を行った後(接触腐食模擬試験体の場合、電着塗装を行わなかったため、塗膜の除去は実施しなかった。)、鋼板、アルミニウム板の腐食による侵食深さを測定した。
【0059】
塗膜と腐食生成物の除去は下記の条件で実施した。
塗膜の除去
塗膜除去剤(CS500、ネオス社製)、60℃、30分浸漬
鋼板側の腐食生成物の除去
10%クエン酸アンモニウム溶液、70℃、30分浸漬
アルミニウム板側の腐食生成物の除去
30%硝酸、60℃、10分浸漬
【0060】
侵食深さの測定は、鋭利な先端を有するダイヤルゲージを使用して行った。接合構造試験体の場合、鋼板とアルミニウム板が重ね合わさった部分40×110mmの周辺5mmを除外した30×100mm部分の侵食深さの最大値を測定した。接触腐食模擬試験体の場合、鋼板とアルミニウム板が重ね合わさった部分の侵食深さの最大値を測定した。腐食試験はn=3で実施し、それぞれの最大値の平均値を侵食深さとした。結果を表2〜6に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
表2の結果から、厚み0.1〜5.0μmの範囲にある樹脂皮膜が形成された鋼板を用いた実施例1〜17の接合構造試験体では、アルミニウム板の最大侵食深さは0.10mm以下であり、殆んど腐食が発生していないことが分かった。また、実施例11と15の対比結果からは、鋼板に加えて、アルミニウム板にも樹脂皮膜を形成した場合、耐接触腐食性がより一層向上することが分かった。
【0068】
一方、表3に示すように、樹脂皮膜を有しない鋼板を用いた比較例1〜7の接合構造試験体では、アルミニウム板に最大侵食深さ0.17〜0.31mmの腐食が発生した。また、比較例8の接合構造試験体では、樹脂皮膜が形成された鋼板を用いたものの、樹脂皮膜の厚みが薄すぎるため(0.05μm)、アルミニウム板の最大侵食深さが0.21mmとなり、腐食抑制効果が全くなかった。さらに、比較例9の接合構造試験体では、鋼板に形成された樹脂皮膜の厚みが厚すぎるため(6.0μm)、抵抗スポット溶接にて鋼板とアルミニウム板とが接合できず、試験できなかった。なお、アルミニウム板のみに樹脂皮膜を形成した比較例6、7の接合構造試験体では、アルミニウム板に0.23〜0.27mmの腐食が発生し、腐食抑制効果が現われなかった。
【0069】
また、表4および5の結果から、厚み0.1〜5.0μmの範囲にある樹脂皮膜が形成された鋼板を用いた実施例18〜51の接触腐食模擬試験体では、アルミニウム板の最大侵食深さがいずれも0.12mm以下であった。また、実施例18および21〜26の結果から、5〜80質量%の範囲でシリカを樹脂皮膜に含有させることにより、アルミニウム板の接触腐食がより一層抑制されることが分かった。さらに、実施例23と32〜49の対比結果および実施例20と50〜51の対比結果から、0.1〜20質量%の範囲で安息香酸塩、グルタミン酸塩、アニシジン、グリシン、キノリノール、フタル酸塩、アジピン酸塩および酢酸塩からなる群より選択される1種以上のインヒビターを樹脂皮膜に含有させることにより、アルミニウム板の接触腐食がさらに抑制できることが分かった。
【0070】
一方、表6に示すように、鋼板に樹脂皮膜を形成しなかった比較例10、および鋼板に樹脂皮膜を0.05μmと薄く形成した比較例11の接触腐食模擬試験体では、アルミニウム板に侵食深さ0.17mm以上の接触腐食が発生した。また、鋼板にポリビニルブチラール系またはポリアクリル酸系の樹脂皮膜を形成した比較例12および13の接触腐食模擬試験体では、接触腐食が鋼板に樹脂皮膜を有しない比較例10の場合に比べて変わらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の製造方法により製造された鋼板/アルミニウム板の接合構造体は、耐接触腐食性に優れたものであるので、自動車をはじめとして鉄道車両などの輸送機分野、機械分野、土木建築プラント分野、エレクトロニクス分野等の幅広い分野へ適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1、1’:鋼板、2、2’:アルミニウム板、3:接合点、4:クリップ、5:導電テープ、6:スペーサー、7:シール、10:接合構造試験体、20:接触腐食模擬試験体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板とアルミニウム板とが電気的導通を有する状態で接合された接合構造体の製造方法であって、
少なくとも鋼板側の接触面に、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂およびエポキシ系樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂皮膜を膜厚0.1〜5.0μmで形成する工程を含むことを特徴とする鋼板とアルミニウム板との接合構造体の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂皮膜はシリカを5〜80質量%含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂皮膜は、安息香酸塩、グルタミン酸塩、アニシジン、グリシン、キノリノール、フタル酸塩、アジピン酸塩および酢酸塩よりなる群から選択される1種以上のインヒビターを0.1〜20質量%含有する請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
リンガロール絞り法またはロールコーター塗布法により前記樹脂皮膜を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記鋼板が亜鉛系めっき鋼板である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂皮膜を形成した後、抵抗スポット溶接により鋼板とアルミニウム板とを接合する請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする鋼板とアルミニウム板との接合構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140067(P2011−140067A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236684(P2010−236684)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)