説明

鋼板の脱スケール方法

【課題】酸洗液に気泡を導入することで酸洗槽での鋼板の酸洗を促進する方法として、鋼帯の上面と下面の両面について良好な酸洗促進効果が得られ、安全上の問題がなく、酸洗温度が80〜95℃であっても適用できる方法を提供する。
【解決手段】酸洗槽内の酸洗液中に鋼板を配置し、酸洗槽の底側から鋼板の下面に向けて、酸洗液に1m3 当たり1000L/min以上の気泡を吹き込みながら、鋼板を酸洗する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鋼板の脱スケール方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延された鋼板は、表面にスケール層を有する。その後の熱処理等によってもさらにスケール層が追加され、一般的に表面処理前のステンレス鋼板は、表層に1〜20μm程度の厚みのスケール層を有する。そのスケール層を剥離・除去するために、熱間圧延鋼板には酸洗等の脱スケール処理が施される。
鋼板の酸洗は酸洗液を入れた酸洗槽内で行われるが、通常、前処理を行った後に酸洗槽に向かわせたり、酸洗槽内での処理に工夫を施したりすることで、酸洗槽での酸洗を促進している。
【0003】
前処理として行う酸洗促進方法には、鋼板に曲げ歪みや圧延歪みを付与したり、ショットブラストを施したりする方法がある。酸洗槽内での処理の工夫としては、酸洗液に気泡を導入したり、酸洗槽内に堰を設けたり、酸洗促進添加剤を加えたり、電解を作用させたりする方法がある。
近年の鋼材の高強度化に伴って、通常材とは異なる合金元素の添加や複雑な熱処理が行われるため、鋼張力材の酸洗には時間がかかる。このような難酸洗材に対する酸洗と通常の酸洗で問題のない通常酸洗材とで同じ設備を使用できることが、設備コストや作業性などの点で好ましい。この点、酸洗液に気泡を導入する方法は、通常酸洗材の酸洗時には気泡の導入をしないことで対応できるため、好適である。
【0004】
酸洗液に気泡を導入することで酸洗槽での酸洗を促進する方法の従来例としては、下記の特許文献1〜4に記載された方法が挙げられる。
特許文献1には、鋼帯面上の酸液に気体を吹き込んで攪乱しながら連続的に酸処理することが記載されている。この方法では、鋼帯の下面に対する酸洗促進効果が期待できない。
【0005】
特許文献2には、酸洗液に酸素ガスまたは空気等の酸素を含有するガスを吹き込んで酸洗を実施することが記載されている。この文献の実施例では、150ccの酸洗液を入れたビーカーの底部に微細泡発生装置を置き、ここから100cc/secの微細な空気泡を発生させて、酸洗液中を浮上させている。この気泡発生速度を酸洗液1m3 当たりに換算すると40000L/minである。
【0006】
特許文献3には、酸洗槽の下部からエアーを吹き込み、バブリングにより鋼帯下面の境膜層(鋼帯とともに移動する酸液の層)の破壊・減少および層内の攪拌を行い、酸洗槽上方からエアーを吹き付けるとともに仕切り体を接触させることにより、鋼帯上面の破壊・減少を行うことが記載されている。この方法では、鋼帯上方からエアーを吹き付けるために、酸液に含まれる塩化水素ガスが飛散することが問題となる。また、この飛散を防止するための安全上の対応(液面を覆う等)が必要となって、設備コストがかかる。
【0007】
特許文献4には、鋼板の走行方向と逆方向に、酸液中でノズルから酸液を噴射させてキャビテーション気泡を生じさせることで、これに伴う衝撃圧や超音波により酸化スケールに微細なクラックを発生させるとともに、噴射による酸液の内部への浸透やスケール剥離を促進させることが記載されている。近年、酸洗温度は80〜95℃の高温で行われるようになっており、この温度ではキャビテーションが発生し難いため、この方法は近年の酸洗条件に適応していない。
【特許文献1】特開昭60−61112号公報
【特許文献2】特開昭62−77489号公報
【特許文献3】特開昭62−243788号公報
【特許文献4】特開2000−290788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、酸洗液に気泡を導入することで酸洗槽での鋼板の酸洗を促進する方法として、鋼帯の上面と下面の両面について良好な酸洗促進効果が得られ、安全上の問題がなく、酸洗温度が80〜95℃であっても適用できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、酸洗槽内の酸洗液中に鋼板を配置し、酸洗槽の底側から鋼板の下面に向けて、酸洗液1m3 当たり1000L/min以上の気泡を酸洗液に吹き込みながら、鋼板を酸洗することを特徴とする鋼板の脱スケール方法を提供する。
本発明の方法によれば、気泡の吹き込み量を酸洗液1m3 当たり1000L/min以上とすることで、酸洗促進効果が著しく高くなる。ただし、気泡を大量に吹き込むと酸洗液温が低下し、吹き込みに使用するブロア等の運転費用が高くなるため、気泡の吹き込み量の上限値を3000L/minとする。また、気泡の吹き込み量の好ましい範囲は1000〜2000L/minであり、より好ましい範囲は1000〜1200L/minである。
【0010】
また、本発明の方法では、鋼板の上面に対する酸洗促進効果は、鋼板の下面に向けて吹き込んだ気泡が上昇して回り込むことで得られるため、上方からエアーを吹き付ける方法と比較して、酸洗液の飛散等の問題がない。また、キャビテーションを発生させる方法と比較して、酸洗温度が80〜95℃であっても適用できる。
本発明の方法において、鋼板の上面を、酸洗液の液面から300mmの深さとなる位置か、この位置より浅い位置に配置することが好ましい。鋼板の上面と酸洗液の液面との距離を300mm以下とすることで、鋼帯の上面と下面とで同程度の良好な酸洗促進効果が得られる。この距離の下限値は100mmである。
本発明は、また、酸洗槽内の酸洗液中に鋼板を、幅方向が上下方向となるように配置し、酸洗液に気泡を吹き込みながら鋼板を酸洗することを特徴とする鋼板の脱スケール方法を提供する。この方法によれば、鋼帯の両面で同程度の良好な酸洗促進効果が得られる。
【0011】
本発明の方法は下記の知見に基づいて得られた。
図1に示す方法で、酸洗液に対する気泡の吹き込み量を変化させて、酸洗促進効果の違いを調べたところ、図2のグラフに示す結果が得られた。
具体的には、内寸が1.5m(高さ)×1m(幅)×1m(奥行き)のアクリル水槽1の底部に、気泡吹き出し管2を設置し、この気泡吹き出し管2を外部に配置したブロワー3に接続した。この水槽1内に80℃の塩酸(濃度5質量%)4を高さ1mまで入れ、酸化膜が付いた高張力鋼板の試験片5を、試験片5の板面が水平になるように配置した。この試験片5の寸法は、厚さ2.3mm×長さ1m×幅0.5mであり、酸洗液の液面と試験片5の板面との距離Lが300mmになるように配置した。
【0012】
この状態で、ブロワー3から気泡吹き出し管2に空気を供給することで、気泡吹き出し管2から酸洗液に気泡を吹き込みながら、5秒間保持した。これにより、試験片5の酸洗を行って、酸洗前後の試験片5の質量の変化から「平均酸洗減量」を算出した。また、この酸洗は、ブロワー3からの空気の供給速度を変化させることで、気泡吹き出し管2からの気泡吹き込み量を、酸洗液1m3 当たり200、400、700、1000、1500、2000L/minの各値に変化させて行った。その結果を図2にグラフで示す。
【0013】
この結果から分かるように、平均酸洗減量は酸洗液1m3 当たりの気泡の吹き込み量が多くなるほど増加するが、1分間に1000L以上になると飽和しており、酸洗液1m3 当たりの気泡の吹き込み量を1000L/min以上にして酸洗を行うことにより、酸洗減量を、気泡を吹き込まないで酸洗した場合の2倍以上にすることができる。
【0014】
また、気泡吹き出し管2からの気泡吹き込み量を酸洗液1m3 当たり1000L/minとし、酸洗液の液面と試験片5の板面との距離Lを100、300、500、700mmの各値に変化させて、上記と同じ方法により酸洗を行った。なお、L=300mmの場合には気泡を吹き込まない条件でも行った。そして、酸洗前後の試験片5の質量の変化から、上面と下面でのそれぞれの酸洗減量を算出した。その結果を図3にグラフで示す。
この結果から分かるように、鋼板の上面を、酸洗液の液面から300mmの深さとなる位置か、この位置より浅い位置に配置して酸洗を行うことにより、鋼帯の上面と下面とで同程度の良好な酸洗促進効果が得られる。
【0015】
また、図4に示すように、アクリル水槽1内に、試験片5を幅方向が上下方向となるように配置し、気泡吹き出し管2からの気泡吹き込み量を酸洗液1m3 当たり1000L/minとするか、吹き込みを行わないで、酸洗液の液面と試験片5の上側端面との距離L’を200mmとして、上記と同じ方法により酸洗を行った。そして、酸洗前後の試験片5の質量の変化から、試験片5の第1の面と第2の面でのそれぞれの酸洗減量を算出した。その結果を図5にグラフで示す。
この結果から分かるように、酸洗槽内の酸洗液中に鋼板を、幅方向が上下方向となるように配置し、酸洗液に気泡を吹き込みながら鋼板を酸洗することで、鋼帯の両面で同程度の良好な酸洗促進効果が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸洗液に気泡を導入することで酸洗槽での鋼板の酸洗を促進する方法として、鋼帯の上面と下面の両面について良好な酸洗促進効果が得られ、安全上の問題がなく、酸洗温度が80〜95℃であっても適用できる方法が提供される。
よって、本発明の方法で難酸洗材の脱スケールを行うことで、難酸洗材の酸洗が効果的に促進されるとともに、通常酸洗材の酸洗時には同じ設備を用いて気泡の導入をしないことで対応できるため、設備コストの上昇を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<第1の実施の形態>
図6に示す酸洗ラインで、本発明の方法を実施した。
この酸洗ラインは、ペイオフリール11、溶接機12、冷間圧延機13、入側ルーパー14、テンションレベラー15、第1の酸洗槽16、第2の酸洗槽17、第3の酸洗槽18、表面検査装置19、出側ルーパー20、およびコイラー21からなる。また、各酸洗槽16〜18には、酸洗液の液面から鋼帯51の上面までの距離を変化させるシンクロール23が設置されている。
【0018】
各酸洗槽16〜18(1槽あたり長さ25m×幅2m×深さ1.5m)の底面に、気泡吹き出し管2を設置し、隣り合う気泡吹き出し管2同士を配管32で接続し、外部に配置したブロワー3と第1の酸洗槽16に配置した気泡吹き出し管2を配管33で接続した。気泡吹き出し管2は、塩化ビニール製で、長さ20m、外径165mm、厚さ9.5mmの管の半周面に、50mm間隔で直径3mmの穴を設けたものであり、管の穴を有する側を上にして各酸洗槽16〜18に配置されている。
【0019】
第1の酸洗槽16には濃度5.0(±0.2)質量%の塩酸を、第2の酸洗槽17には濃度7.5(±0.2)質量%の塩酸を、第3の酸洗槽18には濃度10.0(±0.2)質量%の塩酸を、それぞれ深さ1mまで入れた。これにより、各酸洗槽16〜18内の酸洗液の体積は25m×2m×1m=50m3 となる。そして、各酸洗槽16〜18内の液温を外部熱交換器により85(±2)℃に保持した。
【0020】
また、ブロワー3を稼働させて、各酸洗槽16〜18内の気泡吹き出し管2から気泡を50000L/minの速度で吹き出すことにより、酸洗液への気泡吹き込み量を酸洗液1m3 当たり1000L/minとした。
そして、この酸洗ラインのペイオフリール11に、厚さ3.2mm、幅1.2m、長さ620mの590MPa級ハイテン熱延コイルを取り付け、このコイルから巻き戻された鋼帯51を、板面を水平に保持しながら通板させた。このラインにおいて鋼帯51は、酸洗液に気泡を吹き込まない場合には、酸洗液の液面から鋼帯51の上面までの距離に関わらず、通板速度を130m/min以下にしないと脱スケールが不十分になった。
【0021】
このラインにおいて鋼帯51を、酸洗液の液面から鋼帯51の上面までの距離を250mmとして通板させると、酸洗液に前記条件で気泡を吹き込んだ場合には、通板速度を280m/minとしても、上下両面で良好な脱スケール性能が得られた。
なお、このラインにおいて、酸洗液に前記条件で気泡を吹き込んだ場合であっても、鋼帯51を、酸洗液の液面から鋼帯51の上面までの距離を500mmとして通板させた場合、通板速度280m/minでは、鋼帯51の上面では良好な脱スケール性能が得られたものの、上面の脱スケール性能は不十分であった。
【0022】
<第2の実施の形態>
図7に示す酸洗ラインで、本発明の方法を実施した。
この酸洗ラインは、ペイオフリール11、溶接機12、冷間圧延機13、入側ルーパー14、テンションレベラー15、第1の酸洗槽16、第2の酸洗槽17、第3の酸洗槽18、表面検査装置19、出側ルーパー20、コイラー21、ターナー25、および封水ロール26からなる。
各酸洗槽16〜18(1槽あたり長さ25m×幅2m×深さ1.5m)の底面に、気泡吹き出し管2を設置し、隣り合う気泡吹き出し管2同士を配管32で接続し、外部に配置したブロワー3と第1の酸洗槽16に配置した気泡吹き出し管2を配管33で接続した。気泡吹き出し管2は、塩化ビニール製で、長さ20m、外径180mm、厚さ9.5mmの管の半周面に、50mm間隔で直径3mmの穴を設けたものであり、管の穴を有する側を上にして各酸洗槽16〜18に配置されている。
【0023】
第1の酸洗槽16には濃度5.0(±0.2)質量%の塩酸を、第2の酸洗槽17には濃度7.5(±0.2)質量%の塩酸を、第3の酸洗槽18には濃度10.0(±0.2)質量%の塩酸を、それぞれ深さ1mまで入れた。これにより、各酸洗槽16〜18内の酸洗液の体積は25m×2m×1m=50m3 となる。そして、各酸洗槽16〜18内の液温を外部熱交換器により85(±2)℃に保持した。
また、ブロワー3を稼働させて、各酸洗槽16〜18内の気泡吹き出し管2から気泡を60000L/minの速度で吹き出すことにより、酸洗液への気泡吹き込み量を酸洗液1m3 当たり1200L/minとした。
【0024】
そして、この酸洗ラインのペイオフリール11に、厚さ3.2mm、幅0.8m、長さ620mの590MPa級ハイテン熱延コイルを取り付け、このコイルから巻き戻された鋼帯51を、テンションレベラー15を出た後にターナー25で向きを変えることで、各酸洗槽16〜18内では、幅方向を鉛直方向に沿わせた状態で通板させた。このラインにおいて鋼帯51は、酸洗液に気泡を吹き込まない場合には、通板速度を160m/min以下にしないと脱スケールが不十分になった。
このラインにおいて鋼帯51を、酸洗液に前記条件で気泡を吹き込んだ場合には、通板速度を280m/minとしても、両面で良好な脱スケール性能が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】酸洗液に対する気泡の吹き込み量および寸法Lを変化させて、酸洗促進効果の違いを調べる試験で使用した装置を示す図である。
【図2】図1に示す装置を用いて得られた、酸洗液1m3 当たりの気泡吹き込み量と平均酸洗減量との関係を示すグラフである。
【図3】図1に示す装置を用いて得られた、酸洗液の液面と試験片の板面との距離Lと酸洗減量との関係を示すグラフである。
【図4】鋼帯を幅方向が上下方向となるように配置して酸洗を行う試験で使用した装置を示す図である。
【図5】図4に示す装置を用いて得られた、気泡吹き込みありの場合と無しの場合の結果を示すグラフである。
【図6】第1の実施の形態で使用した酸洗ラインを示す図である。
【図7】第2の実施の形態で使用した酸洗ラインを示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 アクリル水槽
2 気泡吹き出し管
3 ブロワー
4 塩酸(酸洗液)
5 鋼板の試験片
51 鋼帯
11 ペイオフリール
12 溶接機
13 冷間圧延機
14 入側ルーパー
15 テンションレベラー
16 第1の酸洗槽
17 第2の酸洗槽
18 第3の酸洗槽
19 表面検査装置
20 出側ルーパー
21 コイラー
23 シンクロール
25 ターナー
26 封水ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸洗槽内の酸洗液中に鋼板を配置し、酸洗槽の底側から鋼板の下面に向けて、酸洗液1m3 当たり1000L/min以上の気泡を酸洗液に吹き込みながら、鋼板を酸洗することを特徴とする鋼板の脱スケール方法。
【請求項2】
鋼板の上面を、酸洗液の液面から300mmの深さとなる位置か、この位置より浅い位置に配置することを特徴とする請求項1記載の鋼板の脱スケール方法。
【請求項3】
酸洗槽内の酸洗液中に鋼板を、幅方向が上下方向となるように配置し、酸洗液に気泡を吹き込みながら鋼板を酸洗することを特徴とする鋼板の脱スケール方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−138248(P2008−138248A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324654(P2006−324654)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】