説明

鋼管の継手構造

【課題】
現場溶接が不要であり、施工性に優れ、製造コストが安価であるにも関わらず、要求される継手強度を十分に確保可能な鋼管の継手構造を提供すること。
【解決手段】
本発明の鋼管の継手構造は、二つの鋼管をその軸方向に接続可能とする鋼管の継手構造において、軸方向の端部における接合端面が互いに突き合わせられた二つの鋼管に跨って、これらの鋼管の内周面に嵌合される継手部材と、前期二つの鋼管の外周面において、その周方向に設けられる取付治具と、前記鋼管の軸方向を複数往復するように前記二つの鋼管における複数の取付治具に張り渡されて、前記二つの鋼管に巻き付けられる索状体とを備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭等として使用する複数の鋼管をその軸方向に接続可能とする鋼管の継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鋼管杭のような杭分野において、二つの鋼管をその軸方向に接続するための技術としては、大別すると、現場溶接による方法と機械式継手による方法との二つが提案されている。このうち、機械式継手による方法をタイプ別に分類すると、「ねじ込みによる継手構造」、「ボルト接合による継手構造」、「嵌め合わせによる継手構造」と分類できる。
【0003】
ここでいうねじ込みによる継手構造とは、例えば特許文献1に示すように、接続しようとする一方の鋼管の端部外周面にねじ切りされた雄ねじ部を設け、他方の鋼管の内周面にねじ切りされた雌ねじ部を設け、それぞれの鋼管がねじ結合することにより接続可能とする構造のことをいう。
【0004】
ボルト接合による継手構造とは、例えば特許文献2、特許文献3に示すように、接続しようとする二つの鋼管の端部を跨るように連結用金具を配置し、この連結用金具と二つの鋼管とを貫通するボルトにより、それぞれの鋼管をボルト接合する構造のことをいう。
【0005】
嵌め合わせによる継手構造とは、例えば特許文献4、特許文献5に示すように、接続しようとする二つの鋼管内に、これら鋼管の内径と略同一の外径からなる鋼管のような接続用部材を嵌合させることによって、二つの鋼管を接続可能とする構造のことをいう。
【0006】
因みに、特許文献4においては、下側の鋼管に径方向外方に突出する突起部を設け、この突起部を上側の鋼管に設けられた係入凹部に挿入させた後に、両鋼管を回転移動させて、係入凹部に更に設けられた係合部にこの突起部を係合させることによって、二つの鋼管を接続可能とする継手構造が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−256549号公報
【特許文献2】特開平9−125376号公報
【特許文献3】特開2001−279665号公報
【特許文献4】特開平11−21882号公報
【特許文献5】特開2003−90035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、現場溶接により鋼管を接続する場合、その問題点としては、溶接時間が長いこと、天候に左右されること等による施工期間、施工費用が増大し易いこと、更には溶接の品質に個人差があり、信頼性の確保が難しいことが挙げられる。
【0009】
また、ねじ込みよる継手構造の場合、雄ねじ部、雌ねじ部をねじ切り加工する際に高い精度が要求される上、他の継手構造と比較して製造コストが増大し易いという問題点が挙げられる。また、雄ねじ部や雌ねじ部に泥等が付着してしまうとこれを取り除いてから接合作業を行なう必要が生じてしまい、鋼管の保管管理が面倒なものとなってしまうという問題点もある。また、雄ねじ部、雌ねじ部が設けられた二つの鋼管を正確に位置合わせしつつ接続作業をする必要があり、施工性の観点から好ましくないという問題点もある。
【0010】
また、ボルト接合による継手構造の場合、ボルトの雄ねじに螺合させるための雌ねじ構造を設ける必要があるところ、このような雌ねじ構造を設けようとすると特許文献2のように、その構造が複雑なものとなり易く、製造コストが増大し易いという問題点がある。また、雌ねじ構造を設けずに、特許文献3に示すように、ワンサイドボルトを用いるという手法も考えられるが、高価なワンサイドボルトを複数用いることとすると結局施工コストが高騰してしまうという問題点がある。また、ボルト穴の位置や角度によっては現場でのボルトナットの締結作業が困難となる場合があり、施工性の点から好ましくないという問題点がある。
【0011】
また、嵌め合わせによる継手構造の場合、現場溶接による接合や他の継手構造と比較して構成が簡単であり、施工性、施工コスト、製造コストの観点から優れているというメリットがある。しかしながら、嵌め合わせによる継手構造の場合、例えば特許文献4や特許文献5に開示された技術のように、一方の鋼管に設けた突起を他方の鋼管に設けた溝内に嵌入させるという構造をとるため、大径化された鋼管にこれら技術を適用する場合に溝の加工精度が低下しやすく、鋼管接続後にズレが生じやすく、所定の継手強度を確保しにくいという問題点が挙げられる。また、例えば、特許文献4に開示された技術では、回転したり負荷する方向が変化したりすると抜けやすいことが予測され、適用範囲が杭分野の中でも負荷される方向がほとんど変化しない小径な地滑り防止杭に限定されており、支持杭のような杭基礎としては使えないという問題点がある。
【0012】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、現場溶接が不要であり、施工性に優れ、製造コストが安価であるにも拘わらず、要求される継手強度を十分に確保可能な鋼管の継手構造を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の研究の末、下記の鋼管の継手構造を発明した。
【0014】
本願請求項1に係る鋼管の継手構造は、二つの鋼管をその軸方向に接続可能とする鋼管の継手構造において、軸方向の端部における接合端面が互いに突き合わせられた前記二つの鋼管に跨って、これらの鋼管の内周面に嵌合される継手部材と、前記二つの鋼管の外周面において、その周方向に複数設けられる取付治具と、前記鋼管の軸方向を複数往復するように前記二つの鋼管における複数の取付治具に張り渡されて、当該二つの鋼管に巻き付けられる索状体とを備えることを特徴とする。
【0015】
本願請求項2に係る鋼管の継手構造は、本願請求項1に係る発明において、前記継手部材は、前記一方の鋼管の端部に固定されて設けられるとともに、前記他方の鋼管の内径と略同一径の外径からなる円筒状に形成されていることを特徴とする。
【0016】
本願請求項3に係る鋼管の継手構造は、本願請求項1又は2に係る発明において、前記継手部材は、前期一方の鋼管の端部から突出される長さが前記鋼管の外径の1.0倍以上であることを特徴とする。
【0017】
本願請求項4に係る鋼管の継手構造は、本願請求項1〜3の何れか1項に係る発明において、前記継手部材は、円筒状に形成されているとともに、前記鋼管の周方向に複数に分割されていることを特徴とする。
【0018】
本願請求項5に係る鋼管の継手構造は、本願請求項1〜4の何れか1項に係る発明において、前記取付治具は、前記鋼管の外周面がなす円周を等分するように間隔を空けて設けられていることを特徴とする。
【0019】
本願請求項6に係る鋼管の継手構造は、本願請求項1〜5の何れか1項に係る発明において、前記索状体は、その両端に設けられた雄ねじ部が前記取付治具に設けられた挿通孔内に挿通されるとともに、雌ねじを有する定着部材がその両端の雄ねじ部に螺合されることによって前記取付治具に対して定着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本願請求項1に係る鋼管の継手構造によれば、接続された二つの鋼管に対して引張圧縮、軸ねじり、曲げの何れの方向に荷重が作用した場合においても、継手部材、索状体によって抵抗することができ、これにより、要求される継手強度を十分に確保可能となっている。
【0021】
また、本発明における鋼管の継手構造では、二つの鋼管の接続作業時において、何れか一方の鋼管を継手部材に差し込み、これら鋼管に索状体を張り渡して緊張させるのみの簡単な作業によって接続作業を完了させることができ、作業者の技量に負うことがなく、迅速な施工が可能となり、施工性の観点から非常に優れている。また、接続作業時において、接続すべき二つの鋼管の間での取付治具の位置関係が多少ずれている場合であっても、容易に索状体を張り渡して巻きつけることができるため、二つの鋼管の周方向の位置合わせ作業を厳密にする必要がなく、施工能率を向上させることが可能となっている。
【0022】
また、本発明における鋼管の継手構造では、ボルト接合による継手構造と比較して材料個数が少なく、施工コスト、製造コストの低減を図ることが可能となっている。また、接続すべき二つの鋼管の間での取付治具の位置関係を厳密にする必要がないため、製造段階において取付治具を取り付ける位置についても許容誤差範囲を広くとれる構造となっており、製造精度の点で負担を軽減可能となっている。
【0023】
また、本願請求項2に係る鋼管の継手構造によれば、継手部材が、一方の鋼管の内径と略同一径の外径からなる円筒状に形成されているため、上側鋼管の内周面の全周に亘ってその外周面が接触した状態で嵌合され、下側鋼管と上側鋼管との接続部において高い断面剛性が得られることになる。また、継手部材を一方の鋼管の端部に固定して設ける構成としているので、継手部材を機械加工等することなく溶接接合により取り付けることができ、従来からの他の継手構造と比較して、製造コストの低減を図ることが可能となっている。
【0024】
また、本願請求項3に係る鋼管の継手構造によれば、曲げ引張り荷重が接続される二つの鋼管に作用した場合に、継手部材と二つの鋼管との間でテコの原理が作用し、二つの鋼管の接続部に要求される継手強度を十分に得ることができる。
【0025】
また、本願請求項4に係る鋼管の継手構造によれば、継手部材を分割して形成された分割片を、一つずつ鋼管の内周面に取り付けることができ、加工性を向上させることができる
【0026】
また、本願請求項5に係る鋼管の継手構造によれば、二つの鋼管に張り渡される索状体から取付治具に作用する力が均等になり、継手強度が安定して発揮されることになる。
【0027】
また、本願請求項6に係る鋼管の継手構造によれば、索状体を定着させる作業や索状体に引張荷重を導入する作業を容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態として、二つの鋼管をその軸方向に接続可能とする鋼管の継手構造について、図面に基づいて説明する。
【0029】
図1〜図4は、本発明を適用した鋼管の継手構造1により、上下に間隔を空けて垂直に配置された二つの鋼管3、4を接続する前後の状態の一例を示す図である。図1は、接続すべき二つの鋼管3、4の接続前の状態を示す斜視図であり、図2は、図1の縦断側面図である。また、図3は、接続すべき二つの鋼管3、4の接続後の状態を示す斜視図であり、図4は、図3の縦断側面図である。
【0030】
接続すべき二つの鋼管3、4は、略同径の外径からなる鋼管とされている。一方の鋼管3は、図2に示すように、図示しない軸方向の一方の下端部が地中に埋設されており、軸方向の他方の上端部3aにおける接合端面3bの上側に、他方の鋼管2の下端部4aにおける接合端面4bが突き合わされて配置されている。二つの鋼管3、4を接続した後には、図4に示すように、互いに突き合わされている接合端面3b、4bが接触した状態で配置される。
【0031】
これら鋼管3、4は、鋼管杭として用いられるものである。以下、下側に配置されている鋼管3を下側鋼管3、上側に配置されている鋼管4を上側鋼管4という。
【0032】
本発明における継手構造1は、図3、図4に示すように、継手部材5と、取付治具7と、索状体9とを備えている。
【0033】
継手部材5は、図1に示すように、下側鋼管3の上端部3aから上側に突出されている。継手部材5は、円筒状の鋼管から構成されている。継手部材5を構成する鋼管は、その外径が下側鋼管3、上側鋼管4の内周面の内径と略同一径とされている。これにより、継手部材5は、下側鋼管3、上側鋼管4の内周面の全周に亘ってその外周面が接触した状態で、下側鋼管3、上側鋼管4の内周面に嵌合可能とされている。継手部材5は、その下端側が下側鋼管3の内周面に差し込まれることによって嵌合されて設けられている。継手部材5は、図2に示すように、製造の段階において、その軸方向の一端側の外周縁5aに沿って下側鋼管3の内周面に対して溶接接合され、更に、下側鋼管3の端部3aの内周縁3cに沿ってその外周面が溶接接合されている。
【0034】
継手部材5は、下側鋼管3、上側鋼管4の接続後において、図3に示すように、その上端側が上側鋼管4の下端部4aの内周面に差し込まれることによって嵌合されて設けられており、これによって、下側鋼管3、上側鋼管4に跨って、これらの鋼管3、4の内周面に嵌合されることになる。これにより、継手部材5は、下側鋼管3、上側鋼管4の径方向のずれ動きを拘束し、下側鋼管3、上側鋼管4の芯ずれを防止することになる。
【0035】
取付治具7は、図1に示すように、下側鋼管3の上端部3a、上側鋼管4の下端部4a近傍の外周面に、周方向に間隔を空けて複数個に亘って設けられている。図5(a)は、取付治具7の構成を示す拡大断面図である。取付治具7は、図3、図5(a)に示すように、索状体9を引っ掛けて取り付けるために設けられている。取付治具7は、下側鋼管3、上側鋼管4の外周面から外側に突出するように設けられている。取付治具7は、本実施の形態において、所定の厚みの鋼板から構成されており、その板厚方向に貫通する挿通孔71が形成されている。取付治具7は、溶接により下側鋼管3、上側鋼管4に接合されている。
【0036】
図6は、取付治具7の下側鋼管3、上側鋼管4に対する配置状態を示す下側鋼管3の平面図である。取付治具7は、図6に示すように、下側鋼管3、上側鋼管4の外周面がなす円を等分するように間隔を空けて配置されている。本実施の形態において取付治具7は、鋼管の外周面がなす円周を8等分するように間隔を空けて配置されており、45°ピッチで8個配置されている。
【0037】
図7は、索状体9の両端の取付治具7に対する定着状態を示す下側鋼管3、上側鋼管4の側面図である。索状体9は、本実施の形態において、軸方向の両端に加工を施すことにより、図7に示すような、ねじ切りされた雄ねじ部91が設けられたワイヤーロープから構成されている。索状体9は、図3に示すように、下側鋼管3、上側鋼管4の軸方向を複数回に亘って往復するようにして、下側鋼管3、上側鋼管4に設けられた複数の取付治具7に張り渡されながら、下側鋼管3、上側鋼管4の周方向に巻き付けられている。本実施の形態において、索状体9は、複数の取付治具7に対して挿通孔71に挿通された状態で取り付けられている。索状体9は、図7に示すように、その軸方向の両端の雄ねじ部91が取付治具7の挿通孔71に挿通されたうえで、雄ねじ部91に対して螺合可能な雌ねじを有するナットのような定着部材93が螺合されることによって、下側鋼管3、上側鋼管4の取付治具7に定着されている。索状体9は、その両側の定着部材93のうちの何れか一方又は両方の定着部材93を強固に締め付けることにより所定の引張荷重が導入されており、これによって、下側鋼管3、上側鋼管4に作用する引き抜き力や回転移動させようとする力に対して抵抗可能となっている。
【0038】
本実施の形態において、索状体9は、図3に示すように、45°ピッチで下側鋼管3、上側鋼管4の取付治具7に対して交互に張り渡されており、二つの鋼管3、4の接合端面3b、4bで面対称となるように、二本の索状体9が設けられている。
【0039】
次に、上述のような鋼管の継手構造1により、二つの鋼管をその軸方向に接続するための施工手順の一例について説明する。
【0040】
施工手順としては、まず、アースオーガ等で先行して掘削しながら鋼管杭を地中に埋め込む中掘り工法によって下側鋼管3を所定深さにまで打設する。この後、下側鋼管3の上端部3aと上側鋼管4の下端部4aとが突き合わされるように配置し、下側鋼管3の上端部3aから突出されている継手部材5を上側鋼管4の下端部4aの内周面に差し込んで嵌合させる。
【0041】
この後に、索状体9の一端の雄ねじ部91を適当な取付治具7の挿通孔71に挿通させて、これに定着部材93を螺合させて取付治具7に対して仮止めする。この後に、図3に示すように、索状体9を、下側鋼管1と上側鋼管2の軸方向を複数回に亘って往復するようにして、下側鋼管3、上側鋼管4に設けられた複数の取付治具7に張り渡しながら、下側鋼管3、上側鋼管4の周方向に巻きつける。この後、索状体9の他端の雄ねじ部91を取付治具7の挿通孔71に挿通させて、これに定着部材93を螺合させて索状体9の両端を定着し、索状体9の両側の何れか一方の定着部材93を強固に締め付けることで、索状体9に引張り荷重を導入して索状体9を緊張させる。これによって、下側鋼管1と上側鋼管2が接続されて、接続作業が完了する。なお、本発明は、中堀り工法以外にもプレボーリング工法等の埋め込み工法全般に対応することができる。
【0042】
次に、このような構成からなる鋼管の継手構造1の作用効果について説明する。
【0043】
図8(a)〜図8(c)は、本発明における鋼管の継手構造1により接続された二つの鋼管3、4を示す概略正面図である。本発明における鋼管の継手構造1では、一方の鋼管3の端部から突出されている継手部材5を他方の鋼管4に嵌合させたうえで、鋼管3、4の軸方向を複数往復するように、それぞれの鋼管3、4における複数の取付治具7に索状体9を張り渡して、二つの鋼管3、4に巻き付ける構造をとっている。これにより、図8(a)に示すような、接続された二つの鋼管3、4を引き離すような方向Aに引張り荷重が作用した場合や、図8(b)に示すような、二つの鋼管3、4を回転移動させるような方向Bに荷重が作用した場合には、索状体9によって抵抗可能となる。また、図8(c)に示すような、継手構造上、最も問題となる方向Cに曲げ引張り荷重が作用した場合には、継手部材5、索状体9によって抵抗可能となる。即ち、本発明により、図8に示すような、方向A、方向B、方向Cの何れの方向に荷重が作用した場合においても、継手部材5、索状体9によって抵抗することができ、これにより、要求される継手強度を十分に確保可能となっている。
【0044】
また、本発明における鋼管の継手構造1では、二つの鋼管3、4の接続作業時において、何れか一方の鋼管を継手部材5に差し込み、これら鋼管3、4に索状体9を張り渡して緊張させるのみの簡単な作業によって接続作業を完了させることができ、作業者の技量に負うことがなく、迅速な施工が可能となり、施工性の観点から非常に優れている。また、接続作業時において、接続すべき二つの鋼管3、4の間での取付治具7の位置関係が多少ずれている場合であっても、容易に索状体9を張り渡して巻きつけることができるため、二つの鋼管3、4の周方向の位置合わせ作業を厳密にする必要がなく、施工能率を向上させることが可能となっている。
【0045】
また、本発明における鋼管の継手構造1では、ボルト接合による継手構造と比較して材料個数が少なく、施工コスト、製造コストの低減を図ることが可能となっている。また、接続すべき二つの鋼管3、4の間での取付治具7の位置関係を厳密にする必要がないため、製造段階において取付治具を取り付ける位置についても許容誤差範囲を広くとれる構造となっており、製造精度の点で負担を軽減可能となっている。
【0046】
因みに、接続された二つの鋼管3、4は、互いに突き合わされている接合端面3b、4bが接触した状態で配置されている。このため、二つの鋼管3、4の軸方向に作用する軸方向荷重をスムーズに伝達可能となっている。
【0047】
また、本発明における継手部材5が、一方の鋼管4の内径と略同一径の外径からなる円筒状に形成されている場合、上側鋼管4の内周面の全周に亘ってその外周面が接触した状態で嵌合され、下側鋼管3と上側鋼管4との接続部において高い断面剛性が得られることになる。また、継手部材5を一方の鋼管4の端部に固定して設ける構成とする場合、継手部材5は、機械加工等することなく溶接接合により取り付ける構造とできるので、従来からの他の継手構造と比較して、製造コストの低減を図ることが可能となっている。
【0048】
本発明における鋼管の継手構造1に用いられる各構成要素は、以下のように構成されていてもよい。
【0049】
本発明の適用の対象となる、軸方向に接続されるべき鋼管3、4は、例えば、構造物の基礎として用いられる支持杭、摩擦杭のような基礎杭の他、地滑り防止杭として用いられていてもよく、特にその用途について限定するものではない。
【0050】
継手部材5は、円筒状の鋼管から構成される場合に限定するものではないが、上述のように、その外径が二つの鋼管3、4の内周面の内径と略同一径とされて、二つの鋼管3、4に跨って嵌合されるような円筒状の鋼管であることが好ましい。継手部材5の材質は、鋼製に限らず、鉄系金属、非鉄系金属の何れから構成されていてもよい。
【0051】
継手部材5は、図2に示すような、下側鋼管3の端部3aにおける接合端面3bから突出されている長手方向長さL1を、鋼管3の外径Dの1.0倍以上とすることが好ましい。この理由について説明する。
【0052】
図8(c)に示す方向Cのような曲げ引張り荷重が接続される二つの鋼管3、4に作用した場合、二つの鋼管3、4の接続部2に作用する応力は、下側鋼管3に嵌合されている側の継手部材5の一端側5bと、上側鋼管4に嵌合されている側の継手部材5の他端側5cとを介して、二つの鋼管3、4の接続部2から離れた箇所にまで伝達される。ここで、継手部材5の一端側5bを支点、他端側5cを作用点とすると、テコの原理により、継手部材5の他端側5bの長さが長いほど、二つの鋼管3、4の接続部2に作用する応力が軽減されて上側鋼管4に伝達されることになる。本願発明者は、二つの鋼管3、4の接続部2に要求される継手強度を十分に得ることのできる継手部材5の他端側5bの長さ、即ち、下側鋼管3の端部3aから突出されている長手方向長さL1について鋭意研究を重ねた結果、長さL1が1.0倍以上であれば、継手に要求される耐荷重を満足することを見出した。従って、継手部材5の長さL1は、鋼管3の外径Dの1.0倍以上とすることが好ましい。
【0053】
なお、図2に示すような、継手部材5が下側鋼管3に嵌合されている長手方向長さL2は、下側鋼管3の端部3aにおける接合端面3bからの長さL1と特に対応していなくとも上記のような効果が発揮される。このため、継手部材5の長さL2は、特に限定するものではないが、例えば、鋼管3の外径Dの0.5倍以上とされていてもよい。
【0054】
図9は、継手部材5の他の構成について示す斜視図である。継手部材5は、円筒状の鋼管から構成される場合、この図9に示すように、周方向に複数に亘って適宜分割されてもよい。この場合、継手部材5を分割して形成された分割片51を、一つずつ鋼管1の内周面に取り付けることができ、加工性を向上させることができる。また、継手部材53は、その突出された端部付近の内部に、鉄筋を周方向に亘って取り付けてもよく、これによって、継手部材3の断面剛性を向上させることができる。
【0055】
取付治具7を配置する個数は、下側鋼管3、上側鋼管4の径によるが、特に限定するものではなく、索状体9を巻きつけ定着する状況に応じて適宜、間隔を決めてもよい。また、取付治具7を配置する箇所は、鋼管3、4の端部の近傍であることが好ましいが、特にこれに限定するものではない。また、取付治具7は、接続すべき鋼管3、4の外周面がなす円周を等分するように配置する必要はなく、適当な間隔をあけて配置するようにしても、本発明所期の効果が発揮される。なお、取付治具7が鋼管3、4の外周面がなす円周を等分するように配置されている場合、二つの鋼管3、4に張り渡される索状体9から取付治具7に作用する力が均等になり、継手強度が安定して発揮されることになる。また、取付治具7の材質は、鋼製に限らず、鉄系金属、非鉄系金属の何れかから構成されていてもよい。
【0056】
取付治具7は、少なくとも索状体9を引っ掛けて取り付けることができれば、その形状について特に限定するものではない。取付治具7の取り得る形状の一例としては、例えば図5(a)に示すような、任意の形状の部材に索状体9を挿通させるための挿通孔71を有するものが挙げられる。この形状の場合、挿通孔71に挿通しさえすれば索状体9が抜け出ることがないので、索状体9の取り付け作業を確実に行なうことが可能となる。
【0057】
図5(b)は、取付治具7の他の構成を示す拡大断面図である。取付治具7は、この図5(b)に示すように、鋼管3、4の外周面から突出される係合部75と、一端側が係合部75に固定され、係合部75に引っ掛けられた索状体9よりも鋼管3、4の外周側に設けられる抜け止め部77とからL字状に形成された取付治具73から構成されていてもよい。抜け止め部77の他端側と鋼管1、2の外周面との間には開口部79が形成されている。このような構成の場合、索状体9の取り付け作業時に、開口部79を通して係合部75に索状体9を引っ掛けるのみによって、迅速に取り付け作業を完了させることが可能となる。
【0058】
索状体9は、変形の自由度が大きく、所定の引張荷重を作用させた場合に破断しない程度の強度を有するものであることが好ましく、例えば、金属線、天然繊維、合成繊維等の単線、より線のような索状のものが挙げられ、具体例としては、ワイヤーロープ、PC(Prestressed Concrete)鋼線、PC鋼より線等が挙げられる。
【0059】
索状体9を用いる本数は、特に限定するものではなく、一本のみであっても、三本以上であってもよいし、鋼管3、4に対して巻きつけられる周回数についても、二周以上であってもよく特に限定するものではない。また、索状体9は、二つの鋼管3、4の取付治具7に対して交互に張り渡されている必要はなく、任意の条件下で鋼管1、2の軸方向に複数往復するように張り渡されていてもよい。
【0060】
索状体9は、所定の引張荷重が導入された状態で、その両端が取付治具7のような部材を介して鋼管3、4に定着されていれば、その両端を鋼管3、4に定着する構造については特に限定しない。しかし、索状体9を定着させる作業や索状体9に引張荷重を導入する作業を容易に行う観点からは、上述のように、その両端に雄ねじ部91が設けられた索状体9を用い、これを取付治具7の挿通孔71に挿通させて、これに定着部材93を螺合させる構成とすることが好ましい。なお、取付治具として図5(b)に示すような取付治具73を用いることによってナットのような定着部材93の取り付けが困難となる場合においては、図5(b)に示す取付治具73に加えて、索状体9の雄ねじ部91を定着容易とするために図5(a)に示す取付治具7を設けることとしてもよいのは勿論である。
【実施例】
【0061】
本実施例においては、本発明の継手強度を照査するため、解析コードMARCを用いて、数値解析を行った。図10(a)は、本発明における鋼管の継手構造1により、左右に水平に配置された二つの鋼管3、4を接続した状態を示す図であり、図10(b)は、左右に間隔を空けて配置された鋼管3、4に対する継手部材5の長さL1、L2について示す図である。本実施例においては、図10(a)に示すように、全長8mの鋼管3、4の軸方向の端部を、本発明における継手構造1により接続したモデルを組んだ。モデル化に用いた値は下表1の通りである。索状体9としてはワイヤーロープを採用した。また、取付治具7は、二つの鋼管3、4の端部の近傍に、周方向に45°の間隔を空けてそれぞれの鋼管3、4につき8個配置することとした。索状体9としてのワイヤーロープは、45°ピッチで二つの鋼管3、4の取付治具7に対して交互に張り渡されており、二つ鋼管3、4の接合端面3b、4bで面対称となるように、二本設けることとした。なお、継手部材5の外周面に接する鋼管3、4の内周面の摩擦係数は0.2とした。このようなモデルを組んで、図10(a)に示すように、各鋼管3、4の軸方向の中間部に矢印で示すような方向に荷重を作用させ、四点載荷によって二つの鋼管3、4の接続部2に純曲げ荷重を作用させた。
【0062】
【表1】

【0063】
上記のモデルで、図10(b)に示すような、一方の鋼管3の端部3aからの継手部材5の突出長さL1を、鋼管3、4の外径Dに対して0.5D、1.0D、1.5Dの三通りに変化させ、継手強度を検証した。なお、継手部材5の一方の鋼管3に嵌合されている長さL2は、0.5Dとした。
【0064】
継手強度は、二つの鋼管3、4の接続部2に作用させた曲げ荷重に対する接続部2の管径方向の変位を測定することによって評価することとした。図11は、測定により得られた解析結果を示す。なお、図11における降伏荷重とは、鋼材の降伏応力をモーメント換算した値であり、許容荷重とは、鋼材の許容応力をモーメント換算した値であり、設計耐荷重とは、降伏荷重の1/3の数値で、継手に要求される要求性能である。また、図11において鋼管と示され、黒丸で記載したデータは、図10(a)に示される二本の鋼管3、4を本発明に係る継手構造1で接続することに代えて、全長16mの一本の鋼管に対して上記と同様の条件下で曲げ荷重を作用させて、この鋼管の中間部である両端から8mの位置の管径方向の変位をプロットしたものである。この一本の鋼管の降伏応力、許容応力、外径等は表1に示される条件と同様である。
【0065】
図11の解析結果より、継手部材5の突出長さL1が0.5Dの場合、設計耐荷重に対してやや継手強度が低めであることが確認された。また、継手部材5の突出長さL1が1.0Dの場合、設計耐荷重より高い継手強度が得られ、継手に要求される曲げ設計耐荷重を満たすものであることが確認された。また、継手部材5の突出長さL1が1.5Dの場合、鋼管3、4の降伏荷重とほぼ同一になり、高い継手強度を発揮することが確認された。この結果から、継手部材5の突出長さL1を1.0D以上確保すれば、二つの鋼管3、4と継手部材5との間でテコの原理が働き、継手に要求される曲げ設計耐荷重を満足することが確認された。
【0066】
なお、継手部材5の突出長さL1を1.5Dより長くすると継手部の曲げ荷重に対する強度はさらに向上すると予測されるが、継手部の強度が鋼管3、4の強度を上回る必要性はなく、このモデルの場合、適切な継手部材5の突出長さL1の上限は約1.5Dである。また、継手部材5と索状体9(ワイヤーロープ)の曲げ引張り荷重の分担は、継手部材5の突出長さL1が0.5Dの場合、継手部材:索状体(ワイヤーロープ)=7:3となり、継手部材5の突出長さL1が1.0Dの場合、継手部材:索状体(ワイヤーロープ)=8:2となり、継手部材5の突出長さL1が1.5Dの場合、継手部材:索状体(ワイヤーロープ)=9:1となり、継手部材5の長さが長くなるほど継手部材5の荷重負担の割合が増大する結果となった。
【0067】
特許文献4に記載の開示技術もテコの原理が作用することで、本発明と同等の継手強度を発揮する可能性はある。しかしながら、実施例と同サイズで特許文献1の継手構造を製造した場合、継手強度を満足させるためには連結用の突起部の個数を増やすことが想定され、製造面において加工数の増加や加工精度の低下により、加工上の負担が重くなる。また、施工面においても、連結用の突起部が増加することで現場での位置決めが困難になることや、加工精度の低下によりガタツキが生じることが考えられる。それに対して、本発明は二つの鋼管3、4の連結材として索状体9を用いており、現場での施工において、上下の鋼管3、4の連結位置を厳密に決める必要がなく、施工能率を向上させることができる。また、施工面においても比較的、許容誤差範囲を広く取れる構造であり、製造精度の点において負担を軽減できるという効果がある。
【0068】
なお、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。本発明における継手構造は、例えば、上述の実施形態において説明した、上下に垂直に配置される二つの鋼管を接続する継手として用いる場合のみではなく、上述の実施例において説明した、左右に水平に配置される二つの鋼管を接続する継手として用いることとしてもよい。即ち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】接続すべき二つの鋼管の接続前の状態を示す斜視図である。
【図2】接続すべき二つの鋼管の接続前の状態を示す縦断側面図である。
【図3】接続すべき二つの鋼管を接続した後の状態を示す斜視図である。
【図4】接続すべき二つの鋼管を接続した後の状態を示す縦断側面図である。
【図5】取付治具の形状の一例を示す拡大断面図である。
【図6】取付治具の配置状態を説明するための鋼管の平面図である。
【図7】索状体の両端の取付治具に対する定着状態を説明するための鋼管の側面図である。
【図8】本発明の作用効果について説明するための概略正面図である。
【図9】継手部材を分割した状態を説明するための斜視図である。
【図10】継手部材の突出長さと継手強度との関係を説明するために用いた解析モデルについて説明するための図である。
【図11】継手部材の突出長さL1と継手強度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 継手構造
2 接続部
3 下側鋼管
3a 端部
3b 接合端面
3c 内周縁
4 上側鋼管
4a 端部
4b 接合端面
5 継手部材
5a 外周縁
5b 一端部
5c 他端部
7 取付治具
9 索状体
51 分割片
71 挿通孔
75 係合部
77 抜け止め部
79 開口部
91 雄ねじ部
93 定着部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの鋼管をその軸方向に接続可能とする鋼管の継手構造において、
軸方向の端部における接合端面が互いに突き合わせられた前記二つの鋼管に跨って、これらの鋼管の内周面に嵌合される継手部材と、
前記二つの鋼管の外周面において、その周方向に複数設けられる取付治具と、
前記鋼管の軸方向を複数往復するように前記二つの鋼管における複数の取付治具に張り渡されて、当該二つの鋼管に巻き付けられる索状体とを備えること
を特徴とする鋼管の継手構造。
【請求項2】
前記継手部材は、前記一方の鋼管の端部に固定されて設けられるとともに、前記他方の鋼管の内径と略同一径の外径からなる円筒状に形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の鋼管の継手構造。
【請求項3】
前記継手部材は、前記一方の鋼管の端部から突出される長さが前記鋼管の外径の1.0倍以上であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の鋼管の継手構造。
【請求項4】
前記継手部材は、円筒状に形成されているとともに、前記鋼管の周方向に複数に分割されていること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の鋼管の継手構造。
【請求項5】
前記取付治具は、前記鋼管の外周面がなす円周を等分するように間隔を空けて設けられていること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の鋼管の継手構造。
【請求項6】
前記索状体は、その両端に設けられた雄ねじ部が前記取付治具に設けられた挿通孔内に挿通されるとともに、雌ねじを有する定着部材がその両端の雄ねじ部に螺合されることによって前記取付治具に対して定着されていること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の鋼管の継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−287357(P2009−287357A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144070(P2008−144070)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】