説明

鋼管用搬送装置

【課題】搬送傷の発生がなく、アイドリング時にも鋼管を均一に回転冷却できるとともに、搬送機構が簡素で安価な鋼管用搬送装置を提供する。
【解決手段】この搬送装置20は、鋼管Kの搬送方向に沿って且つ正搬送方向に対し上り勾配に傾斜して設けられる複数の案内レール8と、隣接する案内レール8間に搬送方向に沿って設けられるとともに案内レール8上面よりも上部に位置して案内レール8上の鋼管を支持するトップローラ12が所定間隔で付設される搬送用チェーン11と、このチェーン11が周回可能に巻回される駆動および従動スプロケット4,5と、駆動および従動スプロケット4,5の間の位置且つトップローラ12が鋼管Kを支持しない側の位置で搬送用チェーン11に張力を与えるように巻回されるテンションスプロケット6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管をチェーンによる駆動で案内レール上を転がしながら径方向に搬送するチェーン方式の搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管を径方向に送ることが可能な搬送装置としては、例えばウォーキングビーム方式や、案内レール上をトップローラ(ドック)付きチェーンで搬送するチェーン方式の搬送装置を例示することができる。
ウォーキングビーム方式は、固定スキッドと移動ビームとを有し、移動ビームの駆動機構がビーム下面に設置される。この駆動機構には、油圧シリンダとリンク機構および電動偏心カムなどが用いられ、移動ビームの昇降および移動によって材料を固定スキッド上に移動(回転)させるようになっている。そのため、ウォーキングビーム方式は、装置が大がかりで設備費が高く、また、材料として鋼管を回転冷却する場合には、固定スキッドによる移載時の傷の発生が懸念される。
【0003】
これに対し、トップローラ付きチェーンで案内レール上を搬送するチェーン方式は、図3に一例を示す搬送装置120のように、鋼管Kの搬送方向に沿って且つ正搬送方向に対し上り勾配に傾斜して設けられる案内レール8を有する。案内レール8は、同図紙面方向に複数例設けられており、隣接する案内レール8間に搬送方向に沿って搬送用チェーン11が配置される。搬送用チェーン11には、案内レール8の上面よりも上部に位置して案内レール8上の鋼管を支持するトップローラ12が所定間隔で付設される。
【0004】
搬送用チェーン11は、その両端が、搬送用チェーン11を周回可能なように、駆動スプロケット4および従動スプロケット5に巻回されている。駆動スプロケット4は案内レール8の高い側に配置され、駆動スプロケット4の駆動軸2には、駆動モータ1の出力軸が連結されており、駆動モータ1を正転方向に駆動することにより、搬送用チェーン11を正搬送方向に走行させ、案内レール8上の鋼管Kを搬送可能になっている。チェーン方式はこのような構成であるため、上記ウォーキングビーム方式よりも搬送機構が簡素なので安価であり、また、冷却条件に応じてファンなどで材料を容易に強制空冷または自然放冷できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−45664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ウォーキングビーム方式での鋼管搬送においては、移動距離を変化させることにより、鋼管を回転させながら待機(アイドリング)可能なので、次工程のトラブル時には有利である。
一方、上述した従来のチェーン方式の搬送装置120は、駆動スプロケット4および従動スプロケット5よりも下方において、搬送用チェーン11が単に自重により垂下された状態(カテナリ11a)とされ、駆動スプロケット4が案内レール8の高い側に配置されているため、駆動モータ1を逆転駆動すると、駆動スプロケット4および従動スプロケット5間の搬送用チェーン11の張力が失われるとともに、鋼管Kが案内レール8の傾斜面を転がり落ちようとする力も手伝ってトップローラ12が下方に下がってしまう。
【0007】
そのため、上述した従来のチェーン方式の搬送装置120は、逆搬送方向については鋼管Kを保持不能となる。つまり、このような構成では、正搬送方向への一方向のみに搬送可能であり、アイドリング機能を有しないため、次工程でのトラブル時はチェーン搬送の停止が必要となる。そのため、停止状態の鋼管Kは、案内レール8の同一箇所に載置された状態となり、鋼管Kの円周方向の冷却条件に差異が生じるという問題があった。また、このような構成では、自然放冷材に対して、均一冷却を達成しようとすると長い冷却床が必要となる。つまり、鋼管Kの回転数と周長の積に相当する長さが必要になり、設備の設置面積が増大するという問題がある。
このような問題点に対し、例えば特許文献1に記載の技術では、案内レール側もチェーン構造とし、搬送用チェーンを停止した場合であっても、搬送用チェーンの搬送方向と逆方向に案内レール側のチェーンを駆動することでアイドリング機能を付与し、これにより、鋼管Kの円周方向の冷却条件を一定とし得る技術が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、搬送用チェーンと案内レール側チェーンそれぞれに駆動機構が必要であるから、搬送機構が複雑となるため高価であり、また、同文献記載の技術を、上述したチェーン搬送方式の搬送装置120に適用しようとしても、大幅な設備の変更を伴うものとなる。
そこで、本発明は、上述のような問題点に着目してなされたものであって、搬送傷の発生がなく、アイドリング時にも鋼管を均一に回転冷却できるとともに、搬送機構が簡素で安価な鋼管用搬送装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る鋼管用搬送装置は、鋼管を径方向に転がしながら搬送するチェーン方式の搬送装置であって、鋼管の搬送方向に沿って且つ正搬送方向に対し上り勾配に傾斜して設けられる複数の案内レールと、隣接する案内レール間に前記搬送方向に沿って設けられるとともに前記案内レール上面よりも上部に位置して前記案内レール上の鋼管を支持するトップローラが所定間隔で付設される搬送用チェーンと、該搬送用チェーンが周回可能に巻回される駆動スプロケットおよび従動スプロケットと、前記駆動スプロケットおよび従動スプロケットの間の位置且つ前記トップローラが前記鋼管を支持しない側の位置で前記搬送用チェーンに張力を与えるように巻回されるテンションスプロケットと、前記駆動スプロケットを正転および逆転させる駆動モータとを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る鋼管用搬送装置によれば、駆動スプロケットおよび従動スプロケットの他に、搬送用チェーンに張力を与えるテンションスプロケットを設けたので、搬送用チェーンを逆方向に回転した場合であっても、駆動スプロケットおよび従動スプロケット間の搬送用チェーンの張力を維持することができる。そのため、搬送用チェーンの弛みが防止されるのでトップローラの位置も所期の位置に保たれ、トップローラで鋼管を確実に支持しつつ下り勾配方向に鋼管を移動することができる。よって、駆動モータにより正逆転搬送を繰り返すことによって鋼管をレール上で常時転動することが可能となるので、アイドリング機能を発揮させるという、いわば「オシレーション」制御を行うことができる。したがって、仮に次工程でのトラブル時においても、アイドリング機能の発揮によって案内レールの同一箇所に鋼管が載置された状態を防止できる。したがって、鋼管の円周方向の冷却条件を均一にすることができる。そして、このアイドリング機能を発揮させる構成は、搬送用チェーンに張力を与えるように巻回されるテンションスプロケットを設けることで達成できるため、例えば上記特許文献1記載の技術を採用する場合と比べ、搬送装置を大幅に簡素化することができ、安価なものとすることができる。
【0011】
このように、本発明の一態様に係る鋼管用搬送装置によれば、ウォーキングビーム方式に比べて搬送傷の発生がなく、アイドリング時にも鋼管を均一に回転冷却できるとともに、搬送機構が簡素で安価である。
ここで、本発明の一態様に係る鋼管用搬送装置において、前記テンションスプロケットには、押圧用シリンダが付設されており、当該押圧用シリンダの押圧動作によって、前記テンションスプロケットが前記搬送用チェーンに張力を与える側に移動されるようになっていることは好ましい。つまり、搬送用チェーンは使用により徐々に伸びてしまうものであるが、このような構成であれば、搬送用チェーンの長さ調節を頻繁に行わなくとも所期の張力を安定して搬送用チェーンに付与することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る鋼管用搬送装置において、前記押圧用シリンダを駆動させるための制御部を備え、当該制御部は、正搬送時には押圧動作を解放し、鋼管の搬送方向が逆搬送方向とされたときに、前記押圧用シリンダを駆動して、前記押圧動作を行うことは好ましい。このような構成であれば、正搬送時には押圧動作を解放しているので、不要な押圧用シリンダの駆動を避けることができるため、経済的である。
【発明の効果】
【0013】
上述のように、本発明によれば、搬送傷の発生がなく、アイドリング時にも鋼管を均一に回転冷却できるとともに、搬送機構が簡素で安価である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一態様に係る鋼管用搬送装置の一実施形態を説明する模式図(平面図)である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】従来の鋼管用搬送装置の一例を説明する模式図(正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
本実施形態の搬送装置は、熱処理後の鋼管を冷却しつつ搬送する冷却床として用いた例であって、図1に示すように、この搬送装置20は、鋼管Kの搬送方向に沿って複数(この例では4本)の案内レール8が不図示の架台上に設けられている。隣接する案内レール8間には、前記搬送方向に沿って複数(この例では3本)の搬送用チェーン11が配置されている。搬送用チェーン11は、複数のリンク相互が回動自在に環状に連結されたものであり、トップローラ(ドック)12が所定間隔のリンクに全周に亘って付設されている。
【0016】
そして、搬送用チェーン11は、搬送方向の両端が駆動スプロケット4および従動スプロケット5にそれぞれ巻回されて、駆動スプロケット4と従動スプロケット5との間を周回可能となっている。駆動スプロケット4は駆動軸2に固定され、駆動軸2の両端は、軸受部材9によってそれぞれ枢支されるとともに、一方の軸受部材9の端部に駆動モータ1が付設されている。また、従動スプロケット5は従動軸3に固定され、従動軸3の両端は、軸受部材9によってそれぞれ枢支されている。
【0017】
そして、図2に示すように、上記複数の案内レール8は、正搬送方向に対し上り勾配に傾斜して設けられている。なお、駆動スプロケット4は、案内レール8の高い側に設けられ、従動スプロケット5は案内レール8の低い側に設けられている。そして、複数の搬送用チェーン11の各トップローラ12は、案内レール8の上面よりも上部に位置して鋼管Kを勾配下方から支持し、駆動モータ1を正転方向に駆動することにより、搬送用チェーン11を正搬送方向に走行させ、案内レール8上の鋼管Kを搬送するようになっている。
【0018】
ここで、この搬送装置20は、駆動スプロケット4および従動スプロケット5の間の位置且つトップローラ12が案内レール8上の鋼管Kを支持しない側の位置に、搬送用チェーン11に張力を与えるチェーンテンショナーとして、テンションスプロケット6が更に巻回されている。本実施形態の例では、テンションスプロケット6には押圧用シリンダ10が付設されている。この押圧用シリンダ10としてはエアシリンダが使用されており、押圧用シリンダ10の電磁弁14に制御部16が接続され、この制御部16からの作動信号に応じて、シリンダ10のロッドが往動または復動されるようになっている。
【0019】
そして、このテンションスプロケット6の軸受部材9は、テンションスプロケット6と一体の支軸であるテンショナー支軸7の軸受部7aが、搬送用チェーン11に張力を付与可能な方向に沿った長溝となっており、押圧用シリンダ10の押圧動作(押圧力F)によって、テンションスプロケット6がテンショナー支軸7ととともに長溝の軸受部7aに沿ってスライド移動されることで、テンションスプロケット6が搬送用チェーン11に張力を与える側に移動される。本実施形態の例では、制御部16は、鋼管Kの正搬送時には押圧動作を解放し、鋼管Kの搬送方向が逆搬送方向とされたときに、電磁弁14により押圧用シリンダ10を駆動して、前記押圧動作を行うようになっている。なお、この制御部16は、駆動モータ1の正転・逆転の駆動制御も可能になっている。このような構成であれば、正搬送時には押圧動作を解放しているので、不要な押圧用シリンダ10の駆動を避けることができるため経済的である。
【0020】
次に、この搬送装置20の作用・効果について説明する。
この搬送装置20は、上述のように、鋼管Kの正搬送方向に対して上り勾配の傾斜をもつ複数の案内レール8を並設し、これら案内レール8同士の間にトップローラ式の搬送用チェーン11が駆動スプロケット4および従動スプロケット5に巻回して設置されたチェーン方式を採用しているので、ウォーキングビーム方式に比べて搬送傷の発生の懸念がない。
そして、この搬送装置20によれば、搬送用チェーン11は、搬送用チェーン11を張設するテンションを付加させるチェーンテンショナーとしてテンションスプロケット6を設けたので、搬送用チェーン11を鋼管Kの正搬送方向とは逆の方向に回転させることができる。
【0021】
つまり、テンションスプロケット6を設けることで、搬送用チェーン11を逆方向に周回回転した場合であっても、駆動スプロケット4および従動スプロケット5間の搬送用チェーン11の張力を維持することができるため、搬送用チェーン11の弛みが防止される。そのため、トップローラ12の位置も所期の位置に保たれ、トップローラ12が鋼管Kを確実に支持しつつ下り勾配方向に鋼管を移動することができる。よって、駆動モータ1による正逆転搬送を繰り返すことによって鋼管Kを案内レール8上で常時転動することが可能となるので、アイドリング機能を発揮させることができる。したがって、仮に次工程でのトラブル時においても、アイドリング機能を発揮させる制御によって案内レール8の同一箇所に鋼管Kが載置された状態を防止できる。したがって、鋼管Kの円周方向の偏熱を抑制して冷却条件を均一にすることができる。そして、このアイドリング機能を発揮させる構成は、搬送用チェーン11に張力を与えるように巻回されるテンションスプロケット6を設けることで達成できるため、例えば上記特許文献1記載の技術を採用する場合と比べ、搬送装置を大幅に簡素化することができ、安価なものとすることができる。
なお、本発明に係る鋼管用搬送装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
【0022】
例えば上記実施形態では、鋼管Kの搬送方向に沿って4本の案内レール8が設けられ、隣接する案内レール8間に、3本の搬送用チェーン11が配置された例で説明したが、これに限らず、複数の案内レールの数や搬送用チェーンの数を適宜設定可能であり、例えば、複数の案内レールを9本とし、レール間の搬送用チェーンを8本に設定してよいし、駆動モータ1についても、一つに限らず、駆動軸の両端それぞれに駆動モータを設け、これら駆動モータを同期制御してもよい。
【0023】
また、例えば上記実施形態では、強制冷却の手段等については特に言及しなかったが、上述のアイドリング機能を発揮させることにより、搬送装置20の後部にて、鋼管Kをターニングローラ上で強制冷却する構成とすることにより、鋼管温度を常温にまですることが可能である。強制冷却する構成としては、例えば、搬送装置出側に鋼管Kを回転させつつ強制的に冷却するシャワー装置を設ければ、搬送ラインのコンパクト化が可能となる。
【0024】
また、例えば上記実施形態では、トップローラ12の間隔(図1でのピッチP)について特に言及しなかったが、トップローラ12のピッチPは、搬送される鋼管Kの仕様の最大のものの周長程度に設定してあれば、鋼管Kの全周に亘って案内レール8上で転動させることができるため、アイドリング機能を発揮させたときに、鋼管Kの円周方向の偏熱を抑制して冷却条件を均一にする上で好適である。また、制御部での正逆転制御の送り量は、現在処理している鋼管の周長に応じた長さとすれば、冷却床(搬送装置20の全長)を短くしつつも、鋼管Kの全周に亘って案内レール8上で転動させる上で好適である。
【符号の説明】
【0025】
1 駆動モータ
2 駆動軸
3 従動軸
4 駆動スプロケット
5 従動スプロケット
6 テンションスプロケット
7 テンショナー支軸
8 案内レール
9 軸受部材
10 押圧用シリンダ
11 搬送用チェーン
12 トップローラ
14 電磁弁
16 制御部
20 搬送装置
K 鋼管
P ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管を径方向に転がしながら搬送するチェーン方式の搬送装置であって、
鋼管の搬送方向に沿って且つ正搬送方向に対し上り勾配に傾斜して設けられる複数の案内レールと、隣接する案内レール間に前記搬送方向に沿って設けられるとともに前記案内レール上面よりも上部に位置して前記案内レール上の鋼管を支持するトップローラが所定間隔で付設される搬送用チェーンと、該搬送用チェーンが周回可能に巻回される駆動スプロケットおよび従動スプロケットと、前記駆動スプロケットおよび従動スプロケットの間の位置且つ前記トップローラが前記鋼管を支持しない側の位置で前記搬送用チェーンに張力を与えるように巻回されるテンションスプロケットと、前記駆動スプロケットを正転および逆転させる駆動モータとを備えることを特徴とする鋼管用搬送装置。
【請求項2】
前記テンションスプロケットには、押圧用シリンダが付設されており、当該押圧用シリンダの押圧動作によって、前記テンションスプロケットが前記搬送用チェーンに張力を与える側に移動されるようになっていることを特徴とする請求項1に記載の鋼管用搬送装置。
【請求項3】
前記押圧用シリンダを駆動させるための制御部を備え、当該制御部は、正搬送時には押圧動作を解放し、鋼管の搬送方向が逆搬送方向とされたときに、前記押圧用シリンダを駆動して、前記押圧動作を行うことを特徴とする請求項2に記載の鋼管用搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−94791(P2013−94791A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237478(P2011−237478)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】