説明

鋼製セグメントの製造方法

【課題】縦梁を設置するための欠損部を具備する鋼製セグメントでありながら、変形を最少に抑えることができる鋼製セグメントの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】一対の板材からなる主桁1のそれぞれに、略長手方向に沿って所定の長さの長手方向切り込み部62と一方の端部に向かって所定の幅の幅方向切り込み部61、63とからなるコ字状切り込み6を加工する工程と、コ字状切り込み6が加工された主桁1と、板材からなる一対の継手板3とを相互に溶接接合して枠体を形成する工程と、該枠体に板材からなるスキンプレート4を溶接接合して一方側に開口部を具備する筐体を形成する工程と、該筐体が形成された後、幅方向切り込み部61、62と端部とを連結する一対の切断用切り込み71、72を加工する工程とを有し、溶接接合の後に切断用切り込みを加工することによって欠損部7を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中構造物に用いられる鋼製セグメント、特に、縦梁を設置するための欠損部を具備する鋼製セグメントを製造するための、鋼製セグメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市型地下構造物(立坑、人孔、橋梁下部工、橋梁補強等)の施工法として、近接構造物や周辺の生活環境(地下水、振動、騒音等)に影響を与えず、施工性に優れ(施工スペースが狭く、施工期間が短く、部材が小型軽量等)且つ、適応範囲が広い(形状や大きさが任意に選択でき、また対応地盤が広範に渡る等)ことから、たとえば、アーバンリング圧入工法(登録商標)が多用されている。
かかるアーバンリング圧入工法は、平面視で円弧状または直線上の鋼製セグメントを工場において製造し、該鋼製セグメントを施工現場において相互に連結して環状(円形、小判形等)にして、該環状体を地中に圧入するものである。このとき、一方の環状体に他方の環状体を積層して地中に圧入したり、地中に圧入されている環状体の上に環状体を積層したり、さらに、これを繰り返して、所定の深さに到達する都市型地下構造物を構築するものである。
そして、該鋼製セグメントは一対の主桁と一対の接続板とを相互に溶接接合して枠体を形成し、該枠体にスキンプレートを溶接接合してなる筐体であって、その製造精度を高めるため、鋼製セグメントの組み立て用治具の考案が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】実公昭56−34854号公報(第2−3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に開示された考案は、主桁が略円弧状または直線状である単純形状の板材からなる鋼製セグメントを組み立てるための治具であるから、主桁に欠損部がある場合には、溶接変形により精度が維持できないという問題があった。
すなわち、地中構造物を補強するための縦梁は該地中構造物の内側に設置されるため、略円弧状の鋼製セグメントの場合、その主桁の凹部側(以下「内周側」と称す)に縦梁を設置するための欠損部が加工され、凸部側(以下「外周側」と称す)にスキンプレートが溶接接合され、また、直線状の鋼製セグメントの場合、その主桁の一方側(以下、説明の便宜上「内周側」と称す)に縦梁を設置するための欠損部が加工され、その反対側(以下、説明の便宜上「外周側」と称す)にスキンプレートが溶接接合される。
したがって、スキンプレートを溶接接合すると、溶接入熱によって主桁の外周側は熱収縮するから、主桁にはその曲率変形を拡大する方向の内部応力(曲げモーメントに同じ)が発生する。このとき、欠損部は、その他の部分に較べて曲げ剛性が小さいため容易に変形するから、主桁は欠損部に集中した塑性変形(屈折するような塑性変形)によって寸法精度が悪化する。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、縦梁を設置するための欠損部を具備する鋼製セグメント(以下「セグメント」と称す)の製造でありながら、変形を最少に抑えることができる鋼製セグメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る鋼製セグメントの製造方法は、相互に接合して環状体に形成され、該環状体が地中に圧入され、地中に圧入された前記環状体に接合されて新たな環状体に形成され、さらに、該新たな環状体が地中に圧入されて形成される地下構造物に供される鋼製セグメントの製造方法であって、
前記一対の板材からなる主桁のそれぞれに、その略長手方向に沿って所定の長さの長手方向切り込みを加工する工程と、
該長手方向切り込みが加工された一対の主桁と、板材からなる一対の継手板と、板材からなるスキンプレートとを溶接接合して一方側に開口部を具備する筐体を形成する工程と、
該筐体が形成された後、前記一対の主桁のそれぞれについて、前記長手方向切れ込みと前記開口部側の端部とを連結する一対の切断用切り込みを加工する工程とを有し、
前記あらかじめ加工された前記長手方向切り込みと、前記筐体を形成した後に加工される前記一対の切断用切り込みとによって欠損部を形成することを特徴とする。
【0007】
(2)また、相互に接合して環状体に形成され、該環状体が地中に圧入され、地中に圧入された前記環状体に接合されて新たな環状体に形成され、さらに、該新たな環状体が地中に圧入されて形成される地下構造物に供される鋼製セグメントの製造方法であって、
前記一対の板材からなる主桁のそれぞれに、その略長手方向に沿って所定の長さの長手方向切り込み部とその一方の端部に向かって所定の幅の幅方向切り込み部とからなるコ字状切り込みを加工する工程と、
該コ字状切り込みが加工された一対の主桁と、板材からなる一対の継手板と、板材からなるスキンプレートとを溶接接合して一方側に開口部を具備する筐体を形成する工程と、
該筐体が形成された後、前記一対の主桁のそれぞれについて、前記幅方向切り込み部と前記開口部側の端部とを連結する一対の切断用切り込みを加工する工程とを有し、
前記あらかじめ加工された前記コ字状切り込みと、前記筐体を形成した後に加工される前記一対の切断用切り込みとによって欠損部を形成することを特徴とする。
【0008】
(3)また、前記一対の切断用切り込みを加工する工程の前に、前記一対の主桁を相互に連結する縦リブが設置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る鋼製セグメントの製造方法は、一対の主桁のそれぞれに「長手方向切り込み」または「コ字状切り込み(長手方向切り込み部と幅方向切り込み部とからなる)」をあらかじめ加工した後、溶接接合によって筐体を形成し、最後に、長手方向切り込みまたはコ字状切り込みと主桁の内周側の端部とを連結して欠損部を形成するから、鋼製セグメントの精度が維持できるという効果を奏する。
すなわち、スキンプレートを溶接接合する際の溶接入熱によって主桁の外周側は熱収縮し、主桁にはその曲率変形を拡大する方向の内部応力(曲げモーメントに同じ)が発生するものの、欠損部が形成される前の主桁では、その内周側が全長に渡って連続しているから、該内部応力(曲げモーメント)は、この内周側の全長に渡って連続した範囲において効果的に吸収されている。換言すると、その他の部分に較べて曲げ剛性が小さいくなる欠損部がないため、集中した塑性変形(屈折するような塑性変形)が起こり難くなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、実施形態をフロー図および模式斜視図に基づいて説明する。なお、略円弧状の鋼製セグメントを例にして説明し、主桁の曲率半径の大きい端部を「外周」と、主桁の曲率半径の小さい端部を「内周」と称す。なお、直線状の鋼製セグメントについは、これに準じた読み替えをするものとする。
図1および図2は本発明の実施形態に係る鋼製セグメントの製造方法を説明するフロー図および模式斜視図である。
【0011】
まず、一対の板材からなる主桁1a、1bのそれぞれに、コ字状の切り込み6a、6bを加工する。なお、コ字状の切り込み6a、6bは、幅方向切り込み部61a、61b、長手方向切り込み部62a、62b、幅方向切り込み部63a、63bとから形成されている(ステップ1)。
【0012】
そして、主桁1a、1bと、板材からなる一対の継手板2a、2bと、板材からなるスキンプレート4とを溶接接合して、一方側に開口部を具備する筐体を形成する。なお、スキンプレート4が溶接接合された側を「外周側」、開口部側を「内周側」と称す。また、ステップ2または3において、縦リブ3a、3b、3c、3d、3eを設置する(ステップ2、図2の(a)参照)。
【0013】
さらに、幅方向切り込み部61a、61bと内周側の端部とを連結する切断用切り込み71a、71b、および幅方向切り込み部63a、63bと内周側の端部とを連結する切断用切り込み72a、72bを加工して矩形状の欠損部7a、7bを形成する(ステップ3、図2の(a)参照))。
【0014】
したがって、欠損部7a、7bを具備する筐体10(以下「セグメント10」と称す)は、内周側に欠損部がない状態(内周側の端部が長手方向で滑らかに連続している状態)で、外周側の端面にスキンプレートが溶接接合されるから、溶接入熱によって主桁1a、1bの外周側は熱収縮し、主桁にはその曲率変形を拡大する方向の内部応力(曲げモーメントに同じ)が発生するものの、該内部応力(曲げモーメント)が効果的に吸収され、形状精度の悪化が防止されている。
換言すると、欠損部(その他の部分に較べて曲げ剛性が小さい)がないため、欠損部に集中した塑性変形(屈折するような塑性変形)が起こり難くなっている。なお、図中、円弧状の主桁を例示しているが、直線状の主桁の場合には、外周側が凹面になるような「反り変形」が防止されことになる。
【0015】
さらに、素材段階の主桁1a、1bにおいては、コ字状の切り込み6a、6bを、自動ガス溶断機等によって、高精度にかつ安価に、しかも、きれいな断面で加工することができるのに対し、筐体10における切断用切り込み72a、72bは、通常、手動操作によるガス溶断によって加工されることから、前記コ字状の切り込み6a、6bを具備する欠損部7a、7bは高精度にかつ安価に、しかも、きれいな断面の範囲が広いことになる。
よって、かかる欠損部7a、7bに縦梁を係止して溶接接合する際、溶接接合の作業性や信頼性が向上する。
【0016】
図3は、図2に示すセグメントを有する地中構造物を説明する模式図である。なお、図2と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、一部の説明を省略する。
図3において、地中構造物100には、セグメント10およびその他のセグメント(欠損部7を具備しないセグメント10に準じる)を相互に接合ボルト(貫通孔21a、21bに挿入されている、図示しない)によって接続して形成された環状体101、102、・・・が積層されている。なお、環状体101を構成するセグメント10と、環状体102を構成するセグメント10とでは、欠損部7a、7bの配置が、長手方向の中心に対して対称になっている。
【0017】
すなわち、それぞれの環状体101、102・・・におけるセグメント10の欠損部7a、7bとが同一位相に配置され、それぞれの主桁1aと主桁1bとが相互に当接して接合ボルト(貫通孔11a、11bに挿入されている、図示しない)によって接合されている。このとき、環状体101のセグメント10の継手板2a、2bと、環状体102のセグメント10の継手板2a、2bとの位相が相違している。
そして、環状体101、102・・・における欠損部7a、7bに係止する縦梁5(図中、複斜線にて示す)が設置されているから、地中構造物100は縦梁5によって補強および補剛される。なお、縦梁5の高さ(係止する環状体の積層数)および本数は図示するものに限定するものではなく、2層以上の何れであっても、複数本であってもよい。
【0018】
図4は、図2に示す主桁の切り込みを説明する模式平面図である。なお、添え字「a、b」を省略している。
図4の(a)において、コ字状の切り込み6は、幅方向切り込み部61(図中、「ロ」〜「ハ」)、長手方向切り込み部62(図中、「ハ」〜「ニ」)、幅方向切り込み部63(図中、「ニ」〜「ホ」)とから形成されている。そして、欠損部7が、コ字状の切り込み6と、これに連結する切断用切り込み71(図中、「イ」〜「ロ」)、72(図中、「ホ」〜「ヘ」)とから形成されている。
【0019】
なお、切断用切り込み71、72の大きさ、すなわち、溶接接合後の切断距離(「イ」〜「ロ」の距離、「ホ」〜「ヘ」の距離)は、前記塑性変形が顕在化しない程度に短くして、該切断作業を容易にしている。
なお、コ字状の切り込み6の加工方法やその幅(スリットの間隔)は、自動ガス溶断機によるものを例示しているがこれに限定するものではない。また、位置「ハ」および「二」にあらかじめ貫通孔を設け、該貫通孔を結ぶ要領で切り込みを設けてもよい。
【0020】
図4の(b)において、コ字状の切り込み6に代えて、直線状の切り込み8を設けたものである。すなわち、貫通孔81、83を結ぶ長手方向切り込み部82(図中、「ハ」〜「ニ」)が形成されている。そして、欠損部9が、直線状の切り込み8と、貫通孔81、83と内周側の端部とをそれぞれ連結する切断用切り込み91(図中、「イ」〜「ロ」)、92(図中、「ホ」〜「ヘ」)とから形成されている。
なお、直線状の切り込み8の加工方法、位置、長さやその幅(スリットの間隔)は限定するものではなく、貫通孔81、83を省略してもよい。
【0021】
以上、図2、図4において、矩形状の欠損部について説明しているが、本発明はこれに限定するものではなく、縦梁の断面形状に応じて欠損部の形状は変更されるものである。このとき、長手方向切り込みやコ字状切り込みの形状もまた、変更されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、地下構造物に供される鋼製セグメントの製造方法、特に、縦梁を設置するための欠損部を具備する鋼製セグメントの製造方法として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る鋼製セグメントの製造方法を説明するフロー図。
【図2】本発明の実施形態に係る鋼製セグメントの製造方法を説明する模式斜視図。
【図3】図2に示すセグメントを有する地中構造物を説明する模式図。
【図4】図2に示す主桁の切り込みを説明する模式平面図。
【符号の説明】
【0024】
1a 主桁
1b 主桁
2a 継手板
2b 継手板
3a 縦リブ
3b 縦リブ
3c 縦リブ
3d 縦リブ
3e 縦リブ
4 スキンプレート
5 縦梁
6a コ字状切り込み
6b コ字状切り込み
7a 欠損部
7b 欠損部
8 直線状の切り込み
9 欠損部
10 セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に接合して環状体に形成され、該環状体が地中に圧入され、地中に圧入された前記環状体に接合されて新たな環状体に形成され、さらに、該新たな環状体が地中に圧入されて形成される地下構造物に供される鋼製セグメントの製造方法であって、
前記一対の板材からなる主桁のそれぞれに、その略長手方向に沿って所定の長さの長手方向切り込みを加工する工程と、
該長手方向切り込みが加工された一対の主桁と、板材からなる一対の継手板と、板材からなるスキンプレートとを溶接接合して一方側に開口部を具備する筐体を形成する工程と、
該筐体が形成された後、前記一対の主桁のそれぞれについて、前記長手方向切れ込みと前記開口部側の端部とを連結する一対の切断用切り込みを加工する工程とを有し、
前記あらかじめ加工された前記長手方向切り込みと、前記筐体を形成した後に加工される前記一対の切断用切り込みとによって欠損部を形成することを特徴とする鋼製セグメントの製造方法。
【請求項2】
相互に接合して環状体に形成され、該環状体が地中に圧入され、地中に圧入された前記環状体に接合されて新たな環状体に形成され、さらに、該新たな環状体が地中に圧入されて形成される地下構造物に供される鋼製セグメントの製造方法であって、
前記一対の板材からなる主桁のそれぞれに、その略長手方向に沿って所定の長さの長手方向切り込み部とその一方の端部に向かって所定の幅の幅方向切り込み部とからなるコ字状切り込みを加工する工程と、
該コ字状切り込みが加工された一対の主桁と、板材からなる一対の継手板と、板材からなるスキンプレートとを溶接接合して一方側に開口部を具備する筐体を形成する工程と、
該筐体が形成された後、前記一対の主桁のそれぞれについて、前記幅方向切り込み部と前記開口部側の端部とを連結する一対の切断用切り込みを加工する工程とを有し、
前記あらかじめ加工された前記コ字状切り込みと、前記筐体を形成した後に加工される前記一対の切断用切り込みとによって欠損部を形成することを特徴とする鋼製セグメントの製造方法。
【請求項3】
前記一対の切断用切り込みを加工する工程の前に、前記一対の主桁を相互に連結する縦リブが設置されることを特徴とする請求項1または2記載の鋼製セグメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−70474(P2006−70474A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252167(P2004−252167)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000231110)JFE建材株式会社 (150)
【Fターム(参考)】