説明

鋼製凶器の選択的探知器

【課題】 鋭利な鋼製凶器のみを選択的に確実に検出することができる鋼製凶器の選択的探知器を提供する。
【解決手段】 鋼製の先端部を備えた鋼製凶器を選択的に検出する鋼製凶器の選択的探知器であって、前記鋼製凶器の探知部2と、この探知部2に配置される変動磁界発生コイル3と、前記探知部2に配置され、前記変動磁界発生コイル3によって発生した磁界により前記鋼製凶器の鋼製の先端部に生じた磁束変化による磁極磁界を検出する磁気センサ4と、この磁気センサ4の出力電圧により鋼製凶器であることを判別する鋼製凶器の判別・表示装置5とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防犯装置に係り、特に包丁や刀,ナイフ,鑿,錐,バール,鎌などの鋭利な鋼製凶器のみを衣服やバッグ類の外側から非接触かつ選択的に検出し、携帯電話やコイン,ライター,鍵束,腕時計,ハンドバッグなどの安全小物は検出しない鋼製凶器の選択的探知器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の日本では、急速な国際化やバブル経済破綻後の社会的倫理感の低下などが相俟って社会が不安定化し、刃物や拳銃などによる殺傷事件が連日のように報道されている。特に、学校や駅構内、繁華街などにおいて無差別に殺傷する事件が多発しており、モノが豊かで精神の貧困な先進国特有の社会全体の不安感や危機感が定常化するという衝動的凶悪犯罪多発状況を呈している。このような状況から、日本でも個人の生命の危機管理は、個々人の自己責任になる社会へ向かうと見られている。同時に、この危機管理は社会的防犯体制(防犯インフラストラクチャ、防犯システム)の整備によって補完されなければならない。この防犯システムの1つとして凶器等の探知装置が必要とされ、鋼製凶器の選択的探知装置の形態としては両側ゲート式、片側ゲート式、携帯探知棒などが一般的である。その典型としてハイジャック防止のための空港内保安検査ゲートが普及している。しかしそこで使用されている高周波渦電流方式の金属探知装置では、あらゆる金属類(導電体)をすべて検出してしまうため、事前に被検査者(旅客)にポケット内の携帯電話機や手帳,鍵束,コイン,ライター,爪切り,腕時計,ネックレス,ハンドバッグなどの安全な小物携行品、さらには男性のベルトなどを自らトレイに入れさせることを義務付けており、本人に意識させずに凶器のみを検知するものではない。また、上着の内側の凶器の検査は、空港ではコートなどの上着を脱がせてトレイに載せ、ベルトコンベアーでエックス線装置を通し、その透過像を目視検査している。この方法も適用できる場所が限られており、日常生活において利用できる方法ではない。すなわち、空港内での金属探知ゲート方式は、現在防犯体制の整備が求められている学校,郵便局,銀行,官庁・オフィス,ホール,駅構内,商店街などでの凶器探知には適用できない。
【0003】
そこで、本発明者らは、学校や公共施設などに簡単に設置でき、凶器の携行者に意識させることなく、鋼製凶器のみを検知できる探知器の開発を目指し、その第1段階として、磁性体検出ゲート(下記特許文献1参照)を提案した。そこでは、人が楽に通過できる幅のゲートの周回に高感度超低周波磁気センサを必要個数(MIセンサ24個)配置し、人感知センサによってシステムを作動させ、包丁などの携行鋼製凶器の残留磁気を検知して、信号処理によってその携行位置まで特定して図示するとともに、小型カメラシステムによって携行者の顔画像の撮影・記録を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3691015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の磁性体検出ゲートシステムでは、鋼製凶器の残留磁気とともに、2005年以降標準型になった折りたたみ型携帯電話機内の微小磁石の残留磁気も検出してしまうので、鋼製凶器の携行を断定できない任意性が課題として残った。また、店頭販売の包丁の多くは、焼鈍・焼入れ処理によって残留磁気がほとんどないものであり、残留磁気検出方式では検出困難な場合が多いことも分かった。すなわち、防犯ゲートシステムとしての不完全性が課題として残った。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、従来の防犯ゲートシステムの課題が、受動検出方式である残留磁気検出方式に基づくことに留意し、能動検出方式である超低周波交流励磁・磁極磁界の磁気センサ検出方式を構成することによって、鋭利な鋼製凶器のみを選択的に確実に検出することができる鋼製凶器の選択的探知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鋼製の先端部を備えた鋼製凶器を選択的に検出する鋼製凶器の選択的探知器であって、前記鋼製凶器の探知部と、この探知部に配置される変動磁界発生コイルと、前記探知部に配置され、前記変動磁界発生コイルによって発生した磁界により前記鋼製凶器の鋼製の先端部に生じた磁束変化による磁極磁界を検出する磁気センサと、この磁気センサの出力電圧により鋼製凶器であることを判別する鋼製凶器の判別・表示装置とを備えたことを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記探知部が検査ゲートであり、この検査ゲートに複数個の変動磁界発生コイルとこの複数個の変動磁界発生コイルに対応した複数個の磁気センサとを配置したことを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔2〕記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記複数の変動磁界発生コイルと磁気センサの組を検査の対象となる被検査者の前記鋼製凶器を収容し得る部位に対応した高さの位置に配置することを特徴とする。
【0010】
〔4〕上記〔3〕記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記被検査者の前記鋼製凶器を収容し得る部位に対応した高さの位置を該被検査者の胸元、上着のポケット及びズボンのポケットの位置に対応させたことを特徴とする。
【0011】
〔5〕上記〔2〕記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記複数の変動磁界発生コイルと磁気センサの組を前記検査ゲートの左右に2列に配置し、一方の列の上下に配置した前記変動磁界発生コイルと磁気センサの組の中間の位置に他方の列の変動磁界発生コイルと磁気センサの組を配置することを特徴とする。
【0012】
〔6〕上記〔1〕記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記探知部が携帯型の枠体であり、この枠体に前記変動磁界発生コイルを備えるとともに該変動磁界発生コイルの中央部に前記磁気センサが配置され、前記枠体に固定され前記変動磁界発生コイルの中央部から外部に延びる柄部を備え、この柄部に前記鋼製凶器の判別・表示装置を具備することを特徴とする。
【0013】
〔7〕上記〔6〕記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記枠体が円形状枠体であることを特徴とする。
【0014】
〔8〕上記〔1〕から〔7〕の何れか一項記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記変動磁界発生コイルは、周波数が30Hzから300Hzの超低周波数で、前記鋼製凶器の励磁磁界の大きさが該鋼製凶器の保磁力の0.1倍から50倍以下である振幅を持つ交流磁界またはパルス磁界を発生することを特徴とする。
【0015】
〔9〕上記〔1〕から〔7〕の何れか一項記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記磁気センサは磁気インピーダンス効果型磁気センサであることを特徴とする。
【0016】
〔10〕上記〔1〕から〔7〕の何れか一項記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記磁気センサはアモルファスワイヤを用いたセンサヘッドを備えたことを特徴とする。
【0017】
〔11〕上記〔1〕から〔10〕の何れか一項記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記磁気センサは、センサヘッドの方向が、前記変動磁界発生コイルにより発生した磁力線を検出しない方向に設定されたことを特徴とする。
【0018】
〔12〕上記〔2〕記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記検査ゲートが対向して配置され、前記磁気センサは前記複数個の変動磁界発生コイルが発生する磁界が相殺される箇所に配置されたことを特徴とする。
【0019】
〔13〕上記〔2〕記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記検査ゲートが対向して配置され、前記複数個の変動磁界発生コイルが前記検査ゲート毎に交互に磁界を発生し、変動磁界発生コイルと組になった磁気センサがこの変動磁界発生コイルの磁界発生時間帯でのみ動作するように設定されたことを特徴とする。
【0020】
このように本発明は、従来の残留磁気検出型防犯ゲートの問題点を、超低周波発振器、特に商用周波電源とコイルによる交流磁界励磁で鋼の磁束変化を生じさせ、その鋭利な端部に集中する磁極から発生する磁界(交流磁界)を高感度交流磁気センサで検出する方式(超低周波交流励磁・磁極磁界検出方式)で構成することによって解決したものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0022】
鋭利な刃物類凶器のみを選択的に検出し、安全小物類は検出しないほぼ完全な性能の鋼製凶器の選択的探知器を実現したものである。
【0023】
この鋼製凶器の選択的探知器は防犯ゲートを構成することができ、また、交流磁界発生コイルの形状を変えることにより、携帯型鋼製凶器検出器などの様々な防犯機器を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の原理を示す鋼製凶器の選択的探知器のブロック図である。
【図2】本発明の第1実施例を示す検査ゲートに取付けられた鋼製凶器の選択的探知器のブロック図である。
【図3】本発明の第1実施例を示す鋼製凶器の選択的探知器を取付けた検査ゲートを示す図である。
【図4】本発明に用いたアモルファスワイヤMIセンサの回路図である。
【図5】本発明の鋼製凶器の選択的探知器による検出対象となる刃物類を示す図面代用写真である。
【図6】本発明の第1実施例の変形例を示す鋼製凶器の選択的探知器を取付けた検査ゲート(その1)を示す図面代用写真である。
【図7】図6に示す検査ゲートの上側MIセンサに鋼製凶器を近づけた時の出力波形を示す図面代用写真である。
【図8】図6に示す検査ゲートの下側MIセンサに鋼製凶器を近づけた時の出力波形を示す図面代用写真である。
【図9】図6に示す検査ゲートにゲート通過物がないときのMIセンサの出力波形を示す図面代用写真である。
【図10】図6に示す検査ゲートに安全小物として携帯電話を通過させたときのMIセンサの出力波形を示す図面代用写真である。
【図11】安全な小物携行品の例を示す図面代用写真である。
【図12】刃物類の磁化特性を示すヒステリシス特性図である。
【図13】本発明の第1実施例の変形例を示す鋼製凶器の選択的探知器を取付けた検査ゲート(その2)を示す図である。
【図14】本発明の第2実施例を示す携帯型の鋼製凶器の選択的探知器の基本構成図である。
【図15】本発明の第2実施例を示す携帯型凶器探知器の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の鋼製凶器の選択的探知器は、鋼製の先端部を備えた鋼製凶器を選択的に検出する鋼製凶器の選択的探知器であって、前記鋼製凶器の探知部と、この探知部に配置される変動磁界発生コイルと、前記探知部に配置され、前記変動磁界発生コイルによって発生した磁界により前記鋼製凶器の鋼製の先端部に生じた磁束変化による磁極磁界を検出する磁気センサと、この磁気センサの出力電圧により鋼製凶器であることを判別する鋼製凶器の判別・表示装置とを備えた。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は本発明の原理を示す鋼製凶器の選択的探知器のブロック図である。
【0028】
この図において、1は超低周波電源、2は鋼製凶器の選択的探知部、3は超低周波電源1が接続されるとともに鋼製凶器の選択的探知部2に配置される変動磁界発生コイル、4はその変動磁界発生コイル3により発生した磁界により鋼製凶器の先端部に生じた磁束変化により磁極磁界を検出する磁気センサ、5はその磁気センサ4の出力電圧により鋼製凶器を判別・表示する鋼製凶器の判別・表示装置である。
【0029】
図2は本発明の第1実施例を示す検査ゲートに取付けられた鋼製凶器の選択的探知器のブロック図である。
【0030】
この図において、11は超低周波電源、12は鋼製凶器の選択的探知部としての検査ゲート、13は超低周波電源11が接続されるとともに検査ゲート12に配置される変動磁界発生コイル、14はその変動磁界発生コイル13により発生した磁界により鋼製凶器の先端部に生じた磁束変化により発生する磁極磁界を検出する磁気センサ、15はその磁気センサ14の出力電圧により鋼製凶器を判別・表示する鋼製凶器の判別・表示装置である。
【0031】
以下、各部の具体的構成について説明する。
【0032】
図3は本発明の第1実施例を示す鋼製凶器の選択的探知器を取り付けた検査ゲート(片側ゲート)を示す図である。
【0033】
この図に示されるように、例えば、幅Wが60cm、高さHが150cmの木製長方形枠(片側ゲート)20に、幅W1 が25cm、高さH1 が40cmの0.65mm径被覆導線150ターン巻の長方形コイル21〜26を設置する。これらの長方形コイル21〜26は超低周波(ELF:30Hz〜300Hz)電源27に直列接続され、長方形コイル21,23,25には同方向電流を、長方形コイル22,24,26には、長方形コイル21,23,25の電流と逆方向の電流を通電する。この通電方法により、長方形コイル21〜26の中央域では紙面に垂直の磁界が発生し、各長方形コイル21,22,23,24,25,26の間域では紙面に平行な磁界が発生する。さらに、各長方形コイル21,22,23,24,25,26の中心点位置に高感度交流磁気センサ(アモルファスワイヤMIセンサ;愛知製鋼(株)製高密度実装型、0.1mG分解能、周波数域30−300Hz)31〜36をコイル面内に設置した。この時、磁気センサヘッドをコイル21〜26の磁力線に直角に配置することで、各長方形コイル21〜26の発生磁界を検出しないようにした。この高感度交流磁気センサ31〜36の直流電源電圧5Vは、1個のACアダプターの出力電圧で並列に供給している。
【0034】
これらの長方形コイル(直流抵抗95Ω)21〜26に60Hz, 60Vの交流電圧を印加した場合、刃渡り20cmの市販出刃包丁を高感度交流磁気センサ(MIセンサ)31〜36から40cm離れた位置でも約10mGの磁界として検出することができた。
【0035】
図4は本発明に用いたアモルファスワイヤMIセンサの回路図〔愛知製鋼(株) 製〕である。
【0036】
この図において、41はアモルファス・ワイヤ、42はフィードバック・コイル、43はピックアップ・コイル、44はCMOSインバータG1 〜G6 とCR微分回路(抵抗R1 ,R2 ,R3 ,検波タイミング調整用可変抵抗器VR1 ,コンデンサC1 〜C3 )からなる電源回路、45はアナログスイッチ、46はアンプ(×100倍)、Vdd,VDDは電圧源、Vout は出力電圧である。なお、R4 ,R5 はフィードバック・コイル42に接続される分圧抵抗、VR1 は検波ダイミング調整用可変抵抗器、VR2 はフィードバック量の調整用可変抵抗器、CH はピックアップ・コイル43とアナログスイッチ45との間に接続される電圧保持用コンデンサである。
【0037】
アモルファス・ワイヤ41をヘッドとし、CMOSコンバータマルチバイブレータとCR微分回路からなる電源回路44で発生させたパルス電流をアモルファス・ワイヤ41に印加し、アモルファス・ワイヤ41の近傍に巻回されたピックアップ・コイル43の誘導電圧を検出するようにしている。すなわち、高感度交流磁気センサ(MIセンサ)で検出する方式(超低周波交流励磁・磁極磁界検出方式)で鋼製凶器の先端部に生じた磁束変化によった磁極磁界を外部磁界Hexとして高感度に検出することができる。
【0038】
図5は本発明の鋼製凶器の選択的探知器による検出対象となる刃物類を示す図面代用写真、図6は本発明の第1実施例の変形例を示す鋼製凶器の選択的探知器を取り付けた検査ゲート(片側ゲート)を示す図面代用写真、図7,図8は図6に示す検査ゲートに設置された上側MIセンサ51及び下側MIセンサ52にそれぞれ刃渡り20cmの包丁55(図5参照)を近づけた時の出力電圧波形を示す図面代用写真である。
【0039】
包丁55を上側MIセンサ51の20cm前方に近づけた場合、図7に示されているように、その上側MIセンサ51の出力53のみが振幅3.5Vに増大した。また、包丁55を下側MIセンサ52の20cm前方に近づけた場合、その下側MIセンサ52の出力54のみが振幅4Vに増大した。
【0040】
このように、刃渡り20cmの包丁55は、60Hz電圧の出力53,54として検出された。直流電力増幅器を用いてコイル通電電流の周波数を10Hz〜300Hzの超低周波数まで変化させた結果、ほぼ同様の感度で先端部を有する鋼製凶器類〔長さ30cmのバール56、刃渡り25cmの折りたたみ鋸57、刃渡り15cmの裁ち鋏み58など(図5参照)〕は全て検知できた。なお、MIセンサ51は、例えば、上着のポケット位置に対応させ、MIセンサ52はズボンのポケット位置に対応させる。
【0041】
図9に比較例として図6に示す検査ゲートに通過物がないときのMIセンサの出力波形(約50mV振幅)を示す。上記したように、MIセンサのヘッドをコイルの発生磁界の磁力線に垂直に設置することにより、コイルの発生磁界を検出しないようにできる。つまり、MIセンサによって検出対象物の磁極磁界のみを高感度に検出することができる。
【0042】
図10は図6に示す検査ゲートに安全小物として携帯電話を通過させたときのMIセンサの出力波形図である。
【0043】
下側MIセンサ52に携帯電話を通過させると、その出力は交流波形で約50mVの振幅になった。
【0044】
したがって、MIセンサからの出力が入力される判定・表示装置の閾値を200mVに設定しておくことにより、安全小物が通過した場合の誤検出を防ぎ、200mV以上の出力電圧を検出した場合に鋼製凶器であると判定し、表示することができる。したがって、MIセンサからの出力の振幅が200mV未満の場合は、安全小物であり、鋼製凶器としては検出されない。
【0045】
同様に実験を行った結果、携帯電話機61に加えて、コイン62、鍵束63、腕時計64、ライター65など(図11参照)の安全な小物携行品は検出されなかった。
【0046】
60Hz電源の他、関数発生器と直流電力増幅器を用いて、30Hzから200Hzの周波数、電圧振幅60Vの電源を用いた結果も同様な検出結果が得られた。
【0047】
また、刃物類、工具類をMIセンサから30cm以内に近づけて、励磁振幅を増加させると、図7及び図8に示すように、MIセンサ出力電圧波形において正弦波電圧振幅(60Hz)の増加とともに第3調波電圧(180Hz)の発生が確認された。つまり、図7においては、振幅3.5Vの交流波形に鋸状の第3調波電圧(180Hz)、図8においては、振幅4Vの交流波形に鋸状の第3調波電圧(180Hz)が現れている。刃物類は強磁性体であるため、その磁化特性(B−H特性、Bは磁束密度、Hは磁界)は、図12のようにヒステリシスを持つ非線形となる。そのため、H=Hm sinωtの正弦波磁界に対して、Bは、B=B1 sin(ωt−θ1 )+B3 sin(3ωt−θ2 )+…のように3ωという第3調波が発生する。つまり、刃物類があるとこの第3調波が発生する。
【0048】
これにより、鋼の検出を電圧振幅の増加とともに第3調波の計側で行えることが分かった。この第3調波電圧の発生は、上記したように鋼磁性体の非線形磁化特性(Rayleigh loop)によるものであり、電源周波数の背景雑音電圧波形と区別できるので、鋼製凶器の有効な検出判定方法になり得る。
【0049】
図6に示された片側ゲートを2台作製し、80cm間隔で対向させて平行ゲートを構成した結果、被検査者の通過により鋼製凶器のみを選択的に漏れなく検出することができた。
【0050】
また、上記実験で用いた図6又は図13に示すような長方形コイルが配置される高さをそれぞれずらした長方形コイル71〜75を設置した検査ゲート70では、交流励磁磁界の方向が検査ゲート面(紙面)に垂直方向であり、各直方形コイルの間域で平行な磁界が発生し被検査者の水平方向移動を通して、携行している鋼製凶器が水平方向および垂直方向の何れかの磁界を受けるため、鋼製凶器の向きによらず検査ゲート通過中に磁化容易方向(長さ方向)に励磁され、検出漏れが生じ難い。
【0051】
図14は本発明の第2実施例を示す携帯型の鋼製凶器の選択的探知器の基本構成図である。
【0052】
この図に示すように、携帯型凶器探知器110は、円管状枠部111と、この円管状枠部111を支える柄部113とからなる。その円管状枠部111にはコイル112が配置され、このコイル112に超低周波電源114が接続される。このコイル112の中央にはMIセンサ115が配置され、このMIセンサ115にはその出力電圧が入力される鋼製凶器の判別・表示装置116が接続される。
【0053】
図15は本発明の第2実施例を示す携帯型凶器探知器の具体例を示す図である。
【0054】
この携帯型凶器探知器120では、直径10cmの円形プラスチック枠121で100ターン巻コイル122を構成し、柄部123には5V直流電圧電源のCMOSインバータマルチバイブレータでパルス発生回路124を構成して電流を印加した。このコイル122の中央のコイル面内に、第1実施例と同一の高感度交流磁気センサ(MIセンサ)125を設置した。この時、磁気センサヘッドをコイル122の磁力線に直角に配置することで、コイル122の発生磁界を検出しないよう調整する。パルス磁界発生は、繰り返し周波数30Hz、高さ800mGとした。電池126は9V乾電池1個であり、5Vで3端子レギュレータでセンサ回路の直流電源電圧を得ている。コイル電流はスイッチ127で導通・遮断する。この携帯型凶器探知器120の柄部123を手で持ちコイル122を先端が鋭利な刃物類や工具類に近接させると、パルス電圧が発生し、刃物類が明確に検出された。一方、コインや腕時計、携帯電話などの先端部を有しない安全小物は検出されなかった。また、柄部に123に判別・表示装置128も設けるようにした。
【0055】
本発明の鋼製凶器の選択的探知器によれば、鋼の保磁力が数エルステッド以下、磁石の保磁力が数キロエルステッドであるため、数エルステッドの振幅の交流磁界に対しては鋼のみが磁束変化し、携帯電話機(内蔵磁石)は磁束変化を生じても低い出力交流波形であるので、閾値の設定により検出されないようにすることができる。同原理によって、本発明の鋼製凶器の選択的探知器では留め金具に磁石がついたハンドバッグも検出されない。すなわち、磁石、携帯電話機、磁石がついたハンドバッグなどの安全な小物携行品は検出されない。
【0056】
本発明では、交流磁界の周波数を30Hzから300Hzの超低周波に設定することにより、金属類の渦電流(反磁界)はほとんど発生せず、コインや腕時計など鋼以外の金属類(非磁性)は検出されない。また、歩行携行による磁石類の移動は20Hz以下相当であるため検出されない。また、鋼製であっても魔法瓶のような尖端のない形状のものも検出されない。
【0057】
また、変動磁界発生コイルは、周波数を30Hzから300Hzの超低周波数とすることで、前記鋼製凶器の励磁磁界の大きさが該鋼製凶器の保磁力の0.1倍から50倍以下である振幅を持つ交流磁界またはパルス磁界を発生させるようにする。
【0058】
さらに、磁気センサは磁気インピーダンス効果型磁気センサである。
【0059】
また、検査ゲートが対向して配置され、磁気センサは複数個の変動磁界発生コイルが発生する磁界が相殺される箇所に配置されるようにしている。
【0060】
また、検査ゲートは対向して配置され、複数個の変動磁界発生コイルが発生する磁界が同一になるように設定されるようにしている。
【0061】
さらに、50Hzまたは60Hzの商用周波電源電流のコイル磁界で高感度な検出性能を得ることができるので、励磁系を簡単かつ低価格で構成することができる。また、消費電力は数W(ワット)以下である。本発明者らにより提案された前記特許文献1のゲート通過ヒト感知センサによって、電源を含むゲートシステムのスイッチを動作させることにより、通過時のみ電力を消費する省電力型に構成することができる。
【0062】
また、検査ゲートを2枚対向させて被験者の通路を形成する場合も、検査ゲートの変動磁界発生コイルによる磁界は、変動磁界発生コイルの励磁電流を切り替えスイッチにより検査ゲート片側ずつ交互に供給することによって交互に発生させ、変動磁界発生コイルと組になった磁気センサを変動磁界発生コイル磁界発生時間帯のみで動作させるので、磁気センサは対向ゲートからの発生磁界を検出することもない。
【0063】
本発明の鋼製凶器の選択的探知器では、指向性の強い磁気センサヘッドをコイルの磁力線に直角に配置する構成としたため、励磁磁界を検出することなく、磁化された被検査物の先端部から発生する磁極磁界のみを検出するので、高感度の検出性能が得られる。
【0064】
また、超低周波交流磁界で励磁された鋼製凶器の磁束変化は、基本周波成分の他第3調波などの奇数調波成分を含むので、基本周波成分の増加で鋼製凶器を検出できるだけでなく、第3調波成分を検出することにより、基本周波と同周波数の環境磁界に影響されずに鋼製凶器を検出することができる。
【0065】
従来の残留磁気を検知する方法では、残留磁気がほぼ零である市販の包丁を検出することが困難であったが、本発明では数エルステッド振幅の交流磁界に対して常に磁束変化を生じて鋭利な先端から磁極磁界を発生するため、残留磁気の大きさに無関係に包丁は全て検出される。包丁以外の刃物類や凶器となり得る先の尖った工具類などの鋼製凶器も、同じ原理によって残留磁気の大きさに無関係に全て検出することができる。
【0066】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の鋼製凶器の探知器は、安全な小物携行品は検出せず、刃物類の凶器を選択的に検出する鋼製凶器の選択的探知器として利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1,11,27,114 超低周波電源
2 鋼製凶器の選択的探知部
3,13 変動磁界発生コイル
4,14 磁気センサ
5,15,116,128 鋼製凶器の判別・表示装置
12,70 検査ゲート
20 木製長方形枠(片側ゲート)
21〜26,71〜75 長方形コイル
31〜36,115,125 高感度交流磁気センサ(MIセンサ)
41 アモルファス・ワイヤ
42 フィードバック・コイル
43 ピックアップ・コイル
44 電源回路
45 アナログスイッチ
46 アンプ
1 〜G6 CMOSインバータ
1 〜R5 抵抗
VR1 検波タイミング調整用可変抵抗器
VR2 フィードバック量の調整用可変抵抗器
1 〜C3 コンデンサ
dd,VDD 電圧源
out 出力電圧
H 電圧保持用コンデンサ
ex 外部磁界
51 上側MIセンサ
52 下側MIセンサ
53,54 出力
55 包丁
56 バール
57 折りたたみ鋸
58 裁ち鋏み
61 携帯電話機
62 コイン
63 鍵束
64 腕時計
65 ライター
110,120 携帯型凶器探知器
111 円管状枠部
112,122 コイル
113,123 柄部
121 円形プラスチック枠
124 パルス発生回路
126 電池
127 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の先端部を備えた鋼製凶器を選択的に検出する鋼製凶器の選択的探知器であって、
(a)前記鋼製凶器の探知部と、
(b)該探知部に配置される変動磁界発生コイルと、
(c)前記探知部に配置され、前記変動磁界発生コイルによって発生した磁界により前記鋼製凶器の鋼製の先端部に生じた磁束変化による磁極磁界を検出する磁気センサと、
(d)該磁気センサの出力電圧により鋼製凶器であることを判別する鋼製凶器の判別・表示装置とを備えたことを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項2】
請求項1記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記探知部が検査ゲートであり、該検査ゲートに複数個の変動磁界発生コイルと該複数個の変動磁界発生コイルに対応した複数個の磁気センサとを配置したことを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項3】
請求項2記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記複数の変動磁界発生コイルと磁気センサの組を検査の対象となる被検査者の前記鋼製凶器を収容し得る部位に対応した高さの位置に配置することを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項4】
請求項3記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記被検査者の前記鋼製凶器を収容し得る部位に対応した高さの位置を該被検査者の胸元、上着のポケット及びズボンのポケットの位置に対応させたことを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項5】
請求項2記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記複数の変動磁界発生コイルと磁気センサの組を前記検査ゲートの左右に2列に配置し、一方の列の上下に配置した前記変動磁界発生コイルと磁気センサの組の中間の位置に他方の列の変動磁界発生コイルと磁気センサの組を配置することを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項6】
請求項1記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記探知部が携帯型の枠体であり、該枠体に前記変動磁界発生コイルを備えるとともに該変動磁界発生コイルの中央部に前記磁気センサが配置され、前記枠体に固定され前記変動磁界発生コイルの中央部から外部に延びる柄部を備え、該柄部に前記鋼製凶器の判別・表示装置を具備することを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項7】
請求項6記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記枠体が円形状枠体であることを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記変動磁界発生コイルは、周波数が30Hzから300Hzの超低周波数で、前記鋼製凶器の励磁磁界の大きさが該鋼製凶器の保磁力の0.1倍から50倍以下である振幅を持つ交流磁界またはパルス磁界を発生することを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項9】
請求項1から7の何れか一項記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記磁気センサは磁気インピーダンス効果型磁気センサであることを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項10】
請求項1から7の何れか一項記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記磁気センサはアモルファスワイヤを用いたセンサヘッドを備えたことを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記磁気センサは、センサヘッドの方向が、前記変動磁界発生コイルにより発生した磁力線を検出しない方向に設定されたことを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項12】
請求項2記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記検査ゲートが対向して配置され、前記磁気センサは前記複数個の変動磁界発生コイルが発生する磁界が相殺される箇所に配置されたことを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。
【請求項13】
請求項2記載の鋼製凶器の選択的探知器において、前記検査ゲートが対向して配置され、前記複数個の変動磁界発生コイルが前記検査ゲート毎に交互に磁界を発生し、変動磁界発生コイルと組になった磁気センサが該変動磁界発生コイルの磁界発生時間帯でのみ動作するように設定されたことを特徴とする鋼製凶器の選択的探知器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−197277(P2010−197277A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43736(P2009−43736)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】