説明

鋼製部材とコンクリート部材との接合構造および複合トラス橋斜材定着構造

【課題】接合構造の施工品質をより向上できる鋼材とコンクリートとの接合構造を提供すること。
【解決手段】 鋼製部材にコンクリートに埋め込まれるずれ止め部材を設けてコンクリート部材との接合を高めるようにした鋼製部材とコンクリート部材との接合構造において、前記ずれ止め部材1は、溶接により固定される基端側と反対側の先端側に面取り部4を有する断面ほぼ角形の鋼材とされ、その断面ほぼ角形の鋼材の基端側が、鋼製部材9に隅肉溶接Wにより取付けられ、かつ前記隅肉溶接Wの外表面8におけるずれ止め部材1よりの端部は、面取り部4に近接または接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製部材とコンクリート部材との接合構造およびその構造を備えた複合トラス橋の鋼製斜材とコンクリート床版との定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼製部材と基礎コンクリート、鋼製部材と床版コンクリート、鋼製部材相互の継手部とこれを埋め込むコンクリート製連結部あるいは鋼製部材相互の継手部とこれを埋め込むコンクリート製格点部、あるいは鋼製部材とその他各種コンクリート部材等のコンクリート部分との接合構造の一例として、図9に示すように、鋼製部材として鋼管からなる斜材7の内周面に、鋼材軸方向に間隔をおいて、ずれ止め鋼材26をリング状リブとして配置して溶接により固定し、斜材1とコンクリート床版12等を、斜材1内に充填・硬化されるコンクリート(または鉄筋コンクリート)11を介して接合する鋼製部材とコンクリート床版との接合構造が知られている。前記リング状リブを斜材7の内側に配置することにより、最終的に前記のリブを付着構造として作用させる技術である。
【0003】
鋼製部材とコンクリート部材との接合構造において、斜材7とコンクリート床版の接合部に圧縮力が作用する場合には、圧縮力を伝達する機構が簡単でありまた、コンクリートの圧縮耐力が高いので、特に問題にならないが、斜材7とコンクリート床版12の接合部に引っ張り力が作用する接合部では、コンクリート11は引っ張り剛性が弱いので、設計上問題になる場合が多い。
【0004】
前記の斜材7の内周面に固定されるずれ止め鋼材26として、図10(a)に示すように、(1)異形棒鋼あるいは丸鋼等の断面略円形の鋼材からなるずれ止め鋼材26における基端側隅部を溶接により斜材7の内周面に固定し、そのずれ止め部材26を介してコンクリート11に応力を伝達するようにした構造も知られている。(例えば特許文献1参照、特開2003−286705号公報)
【0005】
また、(2)鋼材とコンクリートとの定着構造あるいはコンクリートを介した接合構造として、図9(b)に示すように、鋼材側に断面矩形状の帯状鋼板からなるずれ止め部材26を隅肉溶接により固定し、そのずれ止め部材26を介してコンクリート11に応力を伝達するようにした構造も知られている(例えば、特許文献2〜4参照、特開平8−41999号公報、特開2003―105779号公報、特開平2003−105775号公報)
また、母材側としての鋼製部材に切削加工を施して、ずれ止め部材として用いたり、リブ付き鋼板を用い、そのリブをずれ止め部材として用いることも知られている。
【0006】
ところで、(3)鋼製部材とコンクリート部材との接合構造が採用される構造物として、橋梁の軽量化及び施工コストの低減化の要望により、コンクリート製上下床版を鋼製斜材で連結する複合トラス橋が提案されている(例えば、特許文献5〜7参照)。
【特許文献1】特開2003−286705号公報
【特許文献2】特開平8−41999号公報
【特許文献3】特開2003―105779号公報
【特許文献4】特開平2003−105775号公報
【特許文献5】特開平11−222816号公報
【特許文献6】特開2001−159193号公報
【特許文献7】特開2001−159195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記(1)のように、異形棒鋼あるいは丸鋼の溶接には、フレア溶接となり、フレア溶接が完全に行われているか否かの判定が困難であり、施工品質が低下したり、疲労強度が低下する恐れがあるため、これらの点を見込んで、異形棒鋼あるいは丸鋼の部品数を増やし全体の溶接長を長くするなどで対応することになりコスト高となっていた。
また、母材側としての鋼製部材側に切削加工を施したり、リブ付き鋼板を用いると、母材としての鋼製部材が高価になるという問題もある。
【0008】
また、(2)前記のようなフレア溶接に比べて溶接の判定が容易で、溶接施工品質の安定している隅肉溶接を採用して、また、前記のような丸鋼のようなずれ止め部材に代わって、図10(b)に示すような安価な角形鋼材をずれ止め部材として使用した、鋼製部材とコンクリート部材との接合構造も知られている。
【0009】
しかし前記(2)のように、単に断面矩形状の角形鋼材の隅部を隅肉溶接により固定した場合には、断面矩形状の角形鋼材からなるずれ止め部材26の板厚方向における基端側隅部を隅肉溶接W1により鋼製部材9の内周面に固定しているため、鋼材軸方向(引っ張り力または圧縮力の伝達方向)のずれ止め部材26の両端部は、直角なコーナー部となっており、また、隅肉溶接W1は連続溶接または部分的に連続した断続溶接されるため、図13(a)に示すように、連続した隅肉溶接のある部分の隅肉溶接W1は、ずれ止め部材26の突出した鋭角コーナー部先端Tまで達していないで比較的大きく離れていると、隅肉溶接W1の先端部の位置は、ずれ止め部材26の側面3の中間部Pで終了することになる。
【0010】
このように隅肉溶接W1がずれ止め部材26の側面3の中間部Pで終了している場合には、図13(b)に示すように部材軸方向の引張力Fが作用した場合に、図6(a)および図7(a)のFEM解析結果の概念図に示すように、前記の直角(鋭角)なコーナー部付近の鋼材部分およびコンクリート11側に応力集中が起り、これにより、引張剛性の弱いコンクリート11側に内部ひび割れ24が生じる恐れのあることが解析の結果わかった。したがって、前記のようなコンクリート11側に内部ひび割れ24が生じないような接合構造が望まれる。
【0011】
また、前記(3)に示す従来例5の鋼製斜材の定着構造においては、コンクリート床版と接する大径の鋼板直下のコンクリートに応力集中を生じ、その部分が損傷する可能性があり、さらに、大径の鋼板が必要であるため鋼材の使用量が多くなるという問題がある。
また、従来例6の鋼製斜材の定着構造においては、鋼管の一部をコンクリート床版内に埋め込むものであり、鋼材の使用量が多くなり、さらに、鋼管端部に拘束部材を取り付けるための加工費も必要であり、構造が複雑であり、材料費、施工コストも高価となるという問題がある。
また、従来例7の鋼製斜材の定着構造においては、鋼管端部に取り付ける軸方向に伸びる複数のリブの溶接作業等により加工費が必要であり、鋼材の使用量、施工コストも高価となるという問題がある。
【0012】
本発明は前記の課題を有利に解消することができ、隅肉溶接によりずれ止め部材を鋼材に確実に固定し、しかも応力集中による内部ひび割れの恐れを排除することができ、接合構造の施工品質をより向上できる鋼材とコンクリート部材との接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、第1発明の鋼製部材とコンクリート部材との接合構造においては、鋼製部材にコンクリートに埋め込まれるずれ止め部材を設けてコンクリート部材との接合を高めるようにした鋼製部材とコンクリート部材との接合構造において、前記ずれ止め部材は、溶接により固定される基端側と反対側の先端側に面取り部を有する断面ほぼ角形の鋼材とされ、その断面ほぼ角形の鋼材の基端側が、鋼製部材に隅肉溶接により取付けられ、かつ前記隅肉溶接の外表面におけるずれ止め部材よりの端部は、面取り部に近接または接続されていることを特徴とする。
また第2発明では、第1発明の鋼材とコンクリートとの接合構造において、面取り部の表面に、隅肉溶接の外表面が、前記面取り部の接線となるように接続されていることを特徴とする。
また第3発明の複合トラス橋斜材定着構造においては、鋼製斜材にコンクリートに埋め込まれるずれ止め部材を設けてコンクリート床版との接合を高めるようにした複合トラス橋の鋼製斜材とコンクリート床版との定着構造において、鋼製斜材としての鋼管の端部内側にずれ止め部材が固定され、前記ずれ止め部材は、溶接により固定される基端側と反対側の先端側に面取り部を有する断面ほぼ角形の鋼材とされ、その断面ほぼ角形の鋼材の基端側が、鋼製斜材に隅肉溶接により取付けられ、かつ前記隅肉溶接の外表面におけるずれ止め部材よりの端部は、面取り部に近接または接続されていることを特徴とする。
また第4発明では、第3発明の複合トラス橋斜材定着構造において、面取り部の表面に、隅肉溶接の外表面が、前記面取り部の接線となるように接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1発明によると、鋼製部材の表面に固定されるずれ止め部材が面取り部を有するほぼ角形の鋼材とされていると共に、隅肉溶接の外表面におけるずれ止め部材よりの端部が面取り部に近接または接続されているので、コンクリートと鋼製部材に相対的なずれ力が作用するよな場合に、ずれ止め部材側の隅肉溶接先端部付近の応力集中およびその近傍のコンクリート側の引っ張りあるいは曲げの応力集中を低減することができるため、鋼材に比べて引っ張り剛性の低いコンクリート側でのひび割れを防止でき、鋼製部材とコンクリートとを確実に接合して、剛性の高い接合構造とすることができる。
また、ずれ止め部材を安価なほぼ角形の鋼材とすることができるので、安価なずれ止め部材とすることができ、また、ずれ止め構造も簡単にすることができる。
また、ずれ止め部材をフレア溶接により固定することなく、より安価で容易な隅肉溶接により固定することができるので、ずれ止め部材を固定する施工コストを安価にすることができる。
また、単に、面取り部をずれ止め部材に設けて、隅肉溶接の外表面におけるずれ止め部材よりの端部がずれ止め部材の面取り部に近接または接続するようにすればよいので、従来のように、角形鋼材の鋭角コーナ部まで正確に隅肉溶接する場合に比べて、面取り部に隅肉溶接部の端部が近接または接続するように隅肉溶接をすればよく、ずれ止め部材の溶接作業が極めて容易になり、しかも確実に応力集中をなくして、接合耐力の高い接合構造とすることができる。
また、第2発明によると、隅肉溶接の外表面は、面取り部の外表面の接線となるように、接続されているので、隅肉溶接部の外表面からずれ止め部材の外表面まで、滑らかな外表面になるので、これらの部分での応力集中を確実になくして、接合耐力のより高い接合構造とすることができる。
また、第3発明によると、ずれ止め部材がほぼ角形の鋼材とされていると共に、ずれ止め部材を固定するための隅肉溶接の外表面におけるずれ止め部材よりの端部が面取り部に近接または接続されているので、コンクリートと鋼製斜材に相対的なずれ力が作用するような場合に、ずれ止め部材側の隅肉溶接先端部付近の応力集中およびその近傍のコンクリート側の引っ張りあるいは曲げの応力集中を低減することができるため、鋼材に比べて引っ張り剛性の低いコンクリート側でのひび割れを防止でき、鋼製斜材とコンクリートとを確実に接合して、剛性の高いトラス橋斜材の定着構造とすることができる。また、ずれ止め部材に面取り部を設けるだけであるので、構造も簡単であると共に安価で容易に隅肉溶接により固定することができる。
また、第4発明によると、隅肉溶接の外表面は、面取り部の外表面の接線となるように、接続されているので、隅肉溶接部の外表面からずれ止め部材の外表面まで、滑らかな外表面になるので、これらの部分での応力集中を確実になくして、接合耐力のより高い複合トラス橋斜材の定着構造とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図8(a)には、本発明における接合構造において使用されるずれ止め部材1の一実施形態の斜視図が示されている。
ずれ止め部材本体2としては、鋼製角形鋼材が用いられて、断面において隅肉溶接により固定される基端側の各外側面3と、先端側の先端面6とは、それぞれ面取り部4を介して接続される形状とされ、前記の面取り部4は、各外側面3側から先端面6側に向って、漸次接近するように傾斜する平坦な傾斜面からなる面取り部4が部材長手方向に連続して設けられている。前記の面取り部4は、図示のように平坦面、または図8(b)に示すように、外側に凸の円弧状等に屈曲した曲面状の面取り部4であってもよい。
【0017】
ずれ止め部材本体2の断面形状としては、鋼製母材側に当接される側となる底辺5a(図示形態では、上下に位置する側面側が隅肉溶接Wにより固定される。)と、これに直角な各側辺5bと、平坦な傾斜辺5cと、先端辺5dとからなる断面六角形の鋼製ずれ止め部材本体2としている。ずれ止め部材本体2は、前記の傾斜辺5c部分の傾斜面からなる傾斜面取り部4と、先端辺部分の平坦な先端面6とを備えている。なお、前記先端面6をなくすように、各面取り部4を先端側でほぼ合わせるような断面五角形のずれ止め部材本体2としてもよい。また、前記の面取り部4の面は、平坦面以外にも、曲面状であってもよく、したがって、ずれ止め部材本体2の断面形状は、六角形あるいは五角形の形状であってもよく、先端側のコーナー部が、円弧状に湾曲された隅部円弧状のほぼ4角形またはほぼ六角形あるいはほぼ五角形の形状であってもよい。
【0018】
図8(b)のずれ止め部材1の形態では、外側面3と先端面6とを接続する面取り部4が、断面円弧状で外側に突出する面取り部4とされ、例えば、1/4円柱状外面のような断面円弧状の曲面形状とされている。
【0019】
前記のようなずれ止め部材1が、例えば、図3〜図5に示すようなトラス橋における鋼管からなる斜材7に使用される場合には、前記鋼管の内周面にほぼ合致する曲率になるように、平面円弧状または平面リング状に湾曲されて、その湾曲されたずれ止め部材1の円弧状の上下の各側面3が、鋼管内周面に、連続したまたは断続した隅肉溶接Wにより固定されている。
図1または図2は、トラス斜材7の内側の一部を拡大して示す図であると共に、その他の鋼材部材とコンクリート部分(部材)との付着接合一般に適用可能な本発明の接合構造を示したものである。
【0020】
前記の隅肉溶接Wは、鋼管内周面の周方向に連続した隅肉溶接Wにより固定してもよく、あるいは円周方向に部分的に連続した隅肉溶接Wにより固定してもよい。隅肉溶接Wする場合に、隅肉溶接Wにより形成される溶接肉盛りの外表面形状は、断面円弧状の傾斜面でも図示のように平坦な傾斜面8でもよく、かつ本発明では、さらに、前記の傾斜面8におけるずれ止め部材1よりの端部Eは、前記面取り部4に近接または接続するように隅肉溶接Wされている。図示の形態では、傾斜面8におけるずれ止め部材1よりの端部Eが、前記面取り部4の平坦面に接線として接続するように、隅肉溶接Wされている。
さらに前記の隅肉溶接Wについて、図11を参照して説明すると、前記の隅肉溶接Wにおける傾斜面8等の外表面におけるずれ止め部材1よりの端部E(換言すると、隅肉溶接Wにおけるずれ止め部材1側の脚長の端部E)は、ずれ止め部材本体2における面取り部4に近接した位置における外側面3に接する位置Eとなるように、または面取り部4の端部または中間部に接続されるように隅肉溶接Wされている。
さらに換言すると、図11に示すように、隅肉溶接Wにおける鋼製部材7表面からの隅肉溶接の脚長Hを、鋼製部材7の表面からずれ止め部材本体2における面取り部4における鋼製部材7よりの端部までの高さ寸法H1に接近した寸法とするか、または同じ寸法にするか、あるいは、面取り部4の外端部までの高さ寸法H2に納まる寸法としている。
【0021】
前記のように、本発明において、面取り部4を設ける理由は、ずれ止め部材本体2におけるコーナー部における応力集中およびこの部分に接するコンクリート部材側の応力集中を低減することができるため、また、隅肉溶接Wの外表面におけるずれ止め部材1よりの端部Eを面取り部4に近接または接続させる理由は、(1)隅肉溶接部Wと面取り部4の直接または間接的な接続関係を極力滑らかにし、これらの部分およびこれらの近傍において応力集中を防止するため、(2)面取り部4を設けることにより、コンクリート側の応力集中を防止するようにするため、(3)ずれ止め部材1の基端側の隅肉溶接Wを面取り部4に近接または接続するように、また、特に、面取り部4に達するように隅肉溶接Wすることにより、隅肉溶接Wの容易性を向上させるためである。図示の形態のように、隅肉溶接Wにおけるずれ止め部材よりの端部を面取り部4に接線として接続させると格段に応力集中を防止することができる。
【0022】
前記のような断面形状にされたずれ止め部材本体2は、これを固定する鋼製部材(鋼製母材)9の取付け面の形状に合わせて、適宜折り曲げ加工が施されて、平面直線状あるいは平面円弧状、あるいはリング状等に、予め加工される。
【0023】
前記のように予め平面形状が加工されたずれ止め部材本体2が、図1,2,4,5に示すように、鋼製部材9の取付け面に配置されて、ずれ止め部材本体2の長手方向に連続または断続する隅肉溶接Wにより固定される。
【0024】
前記のようにずれ止め部材本体2を固定した鋼製部材9、例えば、図3に示すようなトラス橋10における鋼管製斜材7等は、図1,2,4,5に示すように、前記のずれ止め部材1を埋め込むように連結部用のコンクリート11が設けられて、鋼製斜材7とコンクリート製上床版12あるいはコンクリート製下床版13とが一体に接合されている。
前記のような形態以外にも、予め、鋼製斜材7側に継手金物14aまたは連結金物14b(図5参照)を埋め込み配置して、前記継手金物14aあるいは連結金物14bを介して、鋼製斜材7と、上下のコンクリート床版12,13とを一体に接合するようにしている。
【0025】
前記の鋼製斜材7と上下のコンクリート床版12,13との接合構造について、さらに詳細に説明すると、継手金物14aあるいは連結金物14bの基端部が、鋼製斜材7の先端部内側に配置された状態で、その鋼製斜材7内にコンクリート11が充填・固化されて、継手金物あるいは接合金物の基端部が固定されている。なお、符号15は、前記の継手金物14aあるいは連結金物14bの一体化および剛性を高めるためのスパイラル鉄筋15である。
【0026】
図3に示す複合トラス橋10では、上下コンクリート床版12、13との間を鋼管からなる斜材7で連結している。前記の斜材7は、圧縮側鋼管7aと引張り側鋼管7bが交互に配置される。
図4に示す定着構造についてさらに説明すると、斜材7としての鋼管7a、7bの端部には内径が鋼管の内径と一致し外径が鋼管の外径より若干大きいリング状のフランジ部16が形成されており、フランジ部16の後面が、上下コンクリート床版12、13の表面と同じレベルとなるように配置される。
フランジ部16の形成は、リング状鋼板を鋼管7a、7bの端面に溶接により固定して形成しても、フランジ部16を鋼管7a、7bの端部に一体に成形して形成してもよい。鋼管7a、7bの端部からコンクリート11が充填される軸方向の一定長さの範囲に渡り、その内壁に、円弧状に湾曲されたずれ止め部材1が鋼管内面に沿って配置されて、周方向に連続した隅肉溶接Wにより固定されて、リング状にずれ止めリブ17を形成している。前記のようなずれ止めリブ17が鋼管内周面に鋼管軸方向に間隔をおいて複数段形成されている。
【0027】
そして、各リング状のずれ止めリブ17を埋め込むように、上下コンクリート床版12、13と鋼管7a、7bの内部の軸方向の一定長さに渡り、コンクリート11を打設し、コンクリート11が固化することにより、鋼管7a、7bと上下コンクリート床版12、13とを一体に接合する。上下のコンクリート床版12,13はプレキャスト製でもよく、場所打ちコンクリート床版でもよい。
【0028】
図5は、さらに本発明の他の形態を示す図であり、引張り側鋼管7b及び圧縮側鋼管7aと上下のコンクリート床版12、13との定着構造の詳細が示されている。
この実施形態では、引張り側鋼管7b及び圧縮側鋼管7aの端部外周のフランジ16及び鋼管内壁部のリング状のずれ止めリブ17の形成に関する構成は、前記実施形態と同様である。
この実施形態においては、引張り側鋼管7b内と上下コンクリート床版12、13内に、シース18に収容され、両端にナット19により支圧板20が固定されたPC鋼材21を複数本配置する。
複数のシース18の外周にスパイラル筋15を巻き付け補強し、上下コンクリート床版12、13を構築するために打設されたコンクリート11が固化し一定以上の強度に達した段階でPC鋼材21の上下コンクリート床版12、13側の端部の支圧板20、ナット19を介してPC鋼材21に緊張力を付加する構成とする。引張り側鋼管7bのPC鋼材21に緊張力を付加することにより、コンクリートの引張り破壊を抑制する構造とする。
圧縮側鋼管7a内と上下コンクリート床版12、13の接合部に鉄筋22を配置し、鉄筋22にスパイラル筋15を巻き付け補強した構成とする。鉄筋22の配置により圧縮側鋼管5と上下コンクリート床版12、13の接合部の強度が向上する。
【0029】
図示を省略するが、引張り側鋼管7b内にPC鋼材21を配置固定する場合には、引張り側鋼管7b内の所定位置にコンクリート打設用型枠としての鋼板23を溶接等により設置する。複数のPC鋼材21を引張り側鋼管7bの内部から上下コンクリート床版12、13にかけて配置する。PC鋼材21はシース18内に収容し、PC鋼材21の引張り側鋼管7b内に位置する端部にアンカープレートとしての支圧板20をナット19で固定する。複数のシース18の外周にスパイラル筋15を巻き付ける。
PC鋼材21及びシース18の引張り側鋼管7bの端部からの突出部分が上下コンクリート床版12、13の構築作業の邪魔になったり、引張り側鋼管7bの端部と上下コンクリート床版12、13との接合部の位置決めが難しい時には、引張り側鋼管7bの端部でPC鋼材21及びシース18を切断し、切断したシース18及びPC鋼材21の端部にPC鋼材用カプラ−(図示を省略した)及びカプラー用シース(図示を省略した)を取り付ける。引張り側鋼管7bを垂直に立て、内部にコンクリートを充填し固化させPC鋼材21及びシース18を引張り側鋼管7b内に配置固定する。
引張り側鋼管7bの反対側の端部にも同様な工程でPC鋼材21及びシース18を配置固定する。PC鋼材21及びシース18が配置固定された引張り側鋼管7bのPC鋼材用カプラー(図示を省略)及びカプラー用シース(図示を省略した)にPC鋼材21及びシース18を連結して、上下コンクリート床版12、13の構築箇所の所定位置に上下コンクリート製床版構築用型枠等を介して設置し、上下コンクリート床版構築用型枠内にコンクリートを打設し、コンクリートが固化し所定の強度な達した段階でPC鋼材21の上下コンクリート床版側の端部から支圧板20及びナット19を介してPC鋼材21に緊張力を付加して、引張り側鋼管7bと上下コンクリート床版12、13を強固に接合する。
【0030】
次に、前記のような面取り部4を有するずれ止め部材1を備えた鋼製部材9における前記ずれ止め部材1を埋め込むようにコンクリート11が充填されている本発明の接合構造と、面取り部4を備えていないずれ止め部材1を備えた鋼製部材9における前記のずれ止め部材1を埋め込むようにコンクリート11が充填されている従来の接合構造について、矢印Fで示すように、鋼製部材9の軸方向に引張力が作用した場合について、ずれ止め部材本体2とコンクリートとの接合部付近についてFEM解析した場合の概念図を示した図6および図7を参照して説明する。図中黒い部分で示す領域Gは応力集中の高い領域を示し、また点々で示す領域G1は、前記領域Gよりも低いが、比較的応力の高い領域を示している。
【0031】
図6(a)の概略図に示すように、面取り部4が設けられていない従来の接合構造では、隅肉溶接部Wがずれ止め部材本体2の側面3に接続する先端部付近の領域Pにおいて、応力集中が生じ、また、ずれ止め部材本体2の先端部近傍のコンクリート11側に応力集中が生じ、ひび割れ24が生じた。また、隅肉溶接部Wの基端側から鋼製部材9への接続部付近の領域において応力集中する領域Gが生じた。
一方、前記と同じように鋼製部材9の軸方向の引張力であって、略1割増しの引張力Fを、図6(b)に示す面取り部4が設けられている本発明の接合構造に作用させた場合では、隅肉溶接部Wがずれ止め部材本体2の側面に接続する先端部付近においても応力集中が生じることはなかった。
また、ずれ止め部材本体2の先端部に応力集中が生じることはなく、ずれ止め部材本体2の先端部近傍のコンクリート11側にひび割れが生じることはなかった。また、ずれ止め部材本体2の先端部近傍のコンクリート11側にも、応力の高い領域は生じなかった。
【0032】
また、図6と同様に、引張力をほぼ2倍に高めた状態でFEM解析した結果を図7に示す。図7(a)の概略概念図に示すように、面取り部4が設けられていない従来の接合構造では、隅肉溶接部Wがずれ止め部材本体2の側面に接続する先端部付近を中心とした広い領域P2において、応力集中する領域G,G1が生じ、また、ずれ止め部材本体2の先端部近傍のコンクリート11側の領域Rに一段と高い応力集中する領域G,G1が生じ、ひび割れ24が拡大した。また、隅肉溶接部Wの基端側から鋼製部材9への接続部付近の領域Qにおいて応力集中する領域G、G1が生じた。
一方、前記と同じように鋼製部材9の軸方向の2倍の引張力で引張力Fを図6(b)に示す面取り部4が設けられている本発明の接合構造に作用させた場合では、隅肉溶接部Wがずれ止め部材本体2の側面に接続する先端部付近においても応力集中が生じることはなかった。
また、ずれ止め部材本体2の先端部に応力集中が生じることはなく、ずれ止め部材本体2の先端部近傍のコンクリート11側にひび割れが生じることはなかった。また、ずれ止め部材本体2の先端部近傍のコンクリート11側に、引張力作用方向にほぼ均等に分布した応力の高い領域G3が生じた。
【0033】
なお、隅肉溶接W1の傾斜面8におけるずれ止め部材本体2よりの端部の位置を面取り部4に接続していない状態でも、近接した状態であれば、前記と同様に応力の集中を低減することができた。
【0034】
前記のFEM解析結果から、面取り部を有するずれ止め部材1を用いた本発明の接合構造では、ずれ止め部材1および鋼製部材9側に応力集中することはなく、しかも、鋼製部材9とコンクリート11とに対して、これらを相対的にずらそうとする高い引張力Fが作用しても、コンクリート11側に応力集中を起こす恐れも少なく、コンクリート11内にひび割れを生じる恐れを排除することができる効果が得られることが判明した。
【0035】
また、前記のように面取り部4を設けて、しかもこれに接続するように、隅肉溶接Wを設けるようにすることにより、隅肉溶接部Wと面取り部4との付近において、応力集中するのを防止できると共に、コンクリート11側にひび割れ24が生じるのを防止することができる効果が得られる。
【0036】
ずれ止め部材1の面取り部4と隅肉溶接部Wにかけての断面外形形状で、隅肉溶接部W外形を直線状とし、面取り部4外形を直線状とし、これらが一直線状とするのが最も望ましい形態であるが、図2に示すように、面取り部4の断面外形が円弧状である場合には、隅肉溶接部Wの断面外形を前記円弧状外形に接線として接続する直線状としても、これらの部分での応力集中を防止することができる。
【0037】
ずれ止め部材本体2の先端コーナー部に設ける円弧状の面取り部4は、外側に向って円弧状の面取り部4とすると、隅肉溶接する場合に、面取り部4に接線として接続させることが容易であるのでよい。反対に、図示を省略するが、ずれ止め部材本体2中心に向う面取り部は、隅肉溶接の外形線を接線として接続させることが困難となる。
【0038】
本発明を実施する場合、ずれ止め部材本体2側の先端部が、断面で半円状のずれ止め部材1としてもよい。
【0039】
前記実施形態では、鋼製部材7の内面側にずれ止め部材1を設ける形態を示したが、本発明を実施する場合、図12に示すように、鋼製柱25からなる鋼製部材9の外側にずれ止め部材1を設けてリング状のずれ止めリブ17を形成し、これをコンクリート基礎26等に埋め込み固定することにより、鋼製支柱25をコンクリート基礎26等に固定または接合するようにしてもよく、あるいは、鋼製部材7の内面側および外面側の両方に設けるようにして、これらのずれ止め部材をコンクリート基礎26に埋め込み固定するようにすると一層接合強度の高い接合構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のコンクリート部材と鋼製部材との接合構造の一実施形態を示すものであって、(a)は縦断正面図、(b)は鋼材軸方向に引っ張り力を作用させた場合の説明図である。
【図2】本発明のコンクリート部材と鋼製部材との接合構造の他の実施形態を示すものであって、(a)は縦断正面図、(b)は鋼材軸方向の引っ張り力を作用させた場合の説明図である。
【図3】複合トラス橋の側面図である。
【図4】本発明の接合構造を、複合トラス橋における斜材としての鋼管とコンクリート床版の接合構造に適用した形態を示す縦断正面図である。
【図5】本発明の接合構造を、複合トラス橋における斜材としての引張り側鋼管及び圧縮側鋼管とコンクリート床版との定着構造に適用した形態を示す一部縦断正面図である。
【図6】従来のコンクリート部材と鋼製部材との接合構造および本発明のコンクリート部材と鋼製部材との接合構造について数値解析した結果を示す概念図である。
【図7】従来のコンクリートと鋼製部材との接合構造および本発明のコンクリート部材と鋼製部材との接合構造について数値解析した結果を示す概念図である。
【図8】(a)は本発明の一実施形態のずれ止め部材を示す斜視図、(b)は他の実施形態の斜視図である。
【図9】複合トラス橋における従来の斜材としての鋼管とコンクリート床版との接合構造を示す縦断正面図である。
【図10】従来の鋼材とずれ止め部材との接合構造の形態を示すものであって、(a)は、鋼製部材にずれ止め部材として丸鋼をフレア溶接により固定した状態の縦断正面図、(b)は鋼製部材にずれ止め部材として角形鋼材を隅肉溶接により固定した状態の縦断正面図である。
【図11】本発明におけるずれ止め部材側の面取り部と隅肉溶接との関係を示す拡大縦断側面図である。
【図12】本発明の鋼製部材とコンクリート部材の接合構造の他の形態を示す縦断側面図である。
【図13】角形鋼材を隅肉溶接した異形形態のずれ止め部材を備えた鋼製部材と、コンクリートとの接合構造の従来形態を示すものであって、(a)は縦断正面図、(b)は鋼材軸方向に引っ張り力を作用させた場合の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ずれ止め部材
2 ずれ止め部材本体
3 側面
4 面取り部
5a 底辺
5b 側辺
5c 傾斜辺
5d 先端辺
6 先端面
7 斜材
7a 鋼管
7b 鋼管
8 傾斜面
9 鋼製部材
10 トラス橋
11 コンクリート
12 コンクリート製上床版
13 コンクリート製下床版
14a 継手金物
14b 連結金物
15 スパイラル鉄筋
16 フランジ部
17 ずれ止めリブ
18 シース
19 ナット
20 支圧板
21 PC鋼材
22 鉄筋
23 鋼板
24 ひび割れ
25 鋼製支柱
26 コンクリート基礎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製部材にコンクリートに埋め込まれるずれ止め部材を設けてコンクリート部材との接合を高めるようにした鋼製部材とコンクリート部材との接合構造において、前記ずれ止め部材は、溶接により固定される基端側と反対側の先端側に面取り部を有する断面ほぼ角形の鋼材とされ、その断面ほぼ角形の鋼材の基端側が、鋼製部材に隅肉溶接により取付けられ、かつ前記隅肉溶接の外表面におけるずれ止め部材よりの端部は、面取り部に近接または接続されていることを特徴とする鋼製部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項2】
面取り部の表面に、隅肉溶接の外表面が、前記面取り部の接線となるように接続されていることを特徴とする請求項1に記載の鋼製部材とコンクリート部材との接合構造。
【請求項3】
鋼製斜材にコンクリートに埋め込まれるずれ止め部材を設けてコンクリート床版との接合を高めるようにした複合トラス橋の鋼製斜材とコンクリート床版との定着構造において、鋼製斜材としての鋼管の端部内側にずれ止め部材が固定され、前記ずれ止め部材は、溶接により固定される基端側と反対側の先端側に面取り部を有する断面ほぼ角形の鋼材とされ、その断面ほぼ角形の鋼材の基端側が、鋼製斜材に隅肉溶接により取付けられ、かつ前記隅肉溶接の外表面におけるずれ止め部材よりの端部は、面取り部に近接または接続されていることを特徴とする複合トラス橋斜材定着構造。
【請求項4】
面取り部の表面に、隅肉溶接の外表面が、前記面取り部の接線となるように接続されていることを特徴とする請求項3に記載の複合トラス橋斜材定着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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