説明

鋼/アルミニウムの接合構造体

溶融アルミニウムめっき鋼板1にアルミニウム又はアルミニウム合金2をスポット溶接で積層した接合構造体である。めっき層4がSi:3〜12質量%,Fe:0.5〜5質量%を含み、接合界面に占めるAl−Fe二元合金層7の面積比率が90%以下に抑えられ、下地鋼5/めっき層4の界面に生じているAl−Fe−Si三元合金層6と接合界面のAl−Fe二元合金層7との間に合金層消失域9が存在している。N:0.002〜0.020質量%を含む鋼材5を下地鋼とし、溶融アルミニウムめっき層4に接する表面にN:3.0原子%以上のN濃縮層が形成されているめっき鋼板1を使用すると、脆弱なAl−Fe二元合金層7が接合界面に広がることなく、鋼/アルミニウムの接合構造体の接合強度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アルミニウム材料の優れた軽量性,耐食性と鋼材の優れた機械強度を兼ね備えた鋼/アルミニウムの接合構造体に関する。
【背景技術】
アルミニウム,アルミニウム合金等のアルミニウム材料は、軽量で耐食性に優れていることを活用し種々の分野で使用されており、強度が要求される用途では厚肉化により要求強度を満足させている。しかし、厚肉化はアルミニウム材料の長所である軽量性を損ない、コンパクトな設計に対応する構造部材としても適当でない。
機械強度の良好な鋼材をアルミニウム材料と積層するとき、厚肉化しなくても必要強度が得られる。アルミニウム材料と鋼材との積層には、ボルトナット,リベット,嵌め合せ等の機械的結合法が採用されている。しかし、機械的結合法では優れた継手が得られがたく、生産性も低い。アルミニウム材料/鋼材の溶接接合が可能になると、機械的結合法に比較して生産性が格段に高く、良好な特性をもつ鋼/アルミニウムの接合構造体が得られる。ところが、通常の溶融接合法で鋼材をアルミニウム材料と接合すると、非常に脆弱な金属間化合物が接合界面に多量生成し接合強度が著しく低下する。
金属間化合物は、鋼材,アルミニウム材料の原子が界面で相互拡散反応することにより生成する。特開2003−33885号公報では、拡散反応を律速する反応温度,時間等を摩擦溶接時に適正管理することにより金属間化合物の生成を抑えている。しかし、摩擦溶接による接合であるので継手設計に工夫を要し、接合工程を簡略化する上では改善の余地がある。スポット溶接の適用も検討されており、特開平6−39588号公報では溶融アルミニウムめっき鋼板をアルミニウム材料に抵抗溶接する方法を紹介している。
溶融アルミニウムめっき鋼板は、表層に溶融アルミニウムめっき層があることから接合時にアルミニウム材料と同様な挙動を示すと考えられがちである。しかし、接合界面は、スポット溶接時にAlの融点(660℃))を超える高温に加熱される。高温加熱で生成した溶融Alに下地鋼/めっき層界面のAl−Fe−Si三元合金層からFe,Si等が拡散すると、溶接時の冷却過程でFeが再析出し、拡散係数の大きなSiが溶融Alに分散される。その結果、冷却後の接合界面を観察すると接合界面全域に脆弱なAl−Fe二元合金層が生成したナゲットが検出され、接合強度が著しく低い継手となる。
接合強度に及ぼすAl−Fe二元合金層の悪影響を抑制するため、特開2003−145278号公報では接合界面に占める金属間化合物の割合を規制している。金属間化合物の生成を抑制するため溶融アルミニウムめっき鋼板を正極側,アルミニウム材料を負極側にしてスポット溶接時の発熱を溶融アルミニウムめっき鋼板に偏らせる方法を採用しているが、依然として金属間化合物の多量生成が避けられない。
【発明の開示】
本発明は、スポット溶接時の高温加熱で溶融したAlに拡散し再析出するFe,Siの挙動を調査・検討した結果として完成されたものであり、溶融アルミニウムめっき層のFe,Si濃度を適正管理することによりAl−Fe二元合金層の悪影響を抑え、接合強度の高い鋼/アルミニウムの接合構造体を提供することを目的とする。
本発明の鋼/アルミニウムの接合構造体は、Si:3〜12質量%,Fe:0.5〜5質量%,残部が実質的にAlの組成をもつ溶融アルミニウムめっき層が設けられためっき鋼板にアルミニウム又はアルミニウム合金をスポット溶接で積層している。接合界面に占めるAl−Fe二元合金層の面積比率が90%以下に抑えられ、下地鋼と溶融アルミニウムめっき層との界面に生じているAl−Fe−Si三元合金層と接合界面のAl−Fe二元合金層との間に合金層消失域が存在している。
【図面の簡単な説明】
図1Aは、スポット溶接した普通鋼鋼板/アルミニウム合金板の接合界面を示す模式図
図1Bは、溶融アルミニウムめっき鋼板/アルミニウム合金板の接合界面を示す模式図
図2は、下地鋼とめっき層との界面にN濃縮層がある溶融アルミニウムめっき鋼板をアルミニウム合金板にスポット溶接したときに形成されるナゲットの断面を溶接サイクルごとに模写した図
図3は、溶接サイクルに応じたナゲット径,合金層消失域の幅,Al−Fe二元合金層の幅の変化を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
次いで、図面を参照しながら本発明を具体的に説明する。
溶融アルミニウムめっき鋼板とアルミニウム板とのスポット溶接に際しては、溶融アルミニウムめっき鋼板1,アルミニウム材料2を重ね合わせて電極3で押さえ込み、たとえば3kN程度の加圧条件下、溶接電流:15〜25kA,通電:3〜40サイクル/60Hzで通電する。通電による発熱で接合部のアルミニウム材料2,溶融アルミニウムめっき層4が溶融し、相互拡散反応によって融合する。
下地鋼5とめっき層4との界面に生成しているAl−Fe−Si三元合金層6から溶融AlにFe,Siが溶け込み、接合界面ではAl−Fe−Si三元合金層6が消失する。下地鋼5から溶融Alに溶け込むFeもある。溶け込んだFeは溶接時の冷却過程で再析出し、脆弱なAl−Fe二元合金層7が接合界面に生成されがちである。接合界面全域にAl−Fe二元合金層7が生成すると、接合強度が極端に低下したナゲット8が形成される(図1A)。他方、Al−Fe二元合金層7がナゲット8の全域まで成長しておらず、めっき層4が下地鋼5に直接密着した合金層消失域9が存在すると、合金層消失域9で接合状態が保たれる(図1B)。合金層消失域9が広がるほど、接合強度が高くなる。
本発明者等は、図1Bの接合界面が得られる条件を種々調査・検討した結果、被接合材である溶融アルミニウムめっき鋼板のめっき層組成が接合界面のAl−Fe二元合金層生成に大きな影響を及ぼしていることを見出した。すなわち、Si:3〜12質量%,Fe:0.5〜5質量%を含む溶融アルミニウムめっき層が形成されているめっき鋼板をアルミニウム材料とスポット溶接で接合する場合、合金層消失域9のある接合界面が形成され、接合強度が向上する。
溶融アルミニウムめっき層のSi,Fe濃度がAl−Fe二元合金層の生成に及ぼす影響は、次のように推察される。
Al−Fe二元合金層7は、スポット溶接時の高温加熱で生成した溶融Alに溶け込んだFeが冷却過程で再析出した結果である。溶融Alに対するFeの溶込み量は、下地鋼/めっき層のFeの濃度勾配に影響され、濃度勾配が大きいほど(換言すれば、めっき層のFe濃度が低いほど)多くなる。溶出したFeは、拡散係数が比較的小さいので下地鋼5の近傍に存在し、冷却過程で多量のAl−Fe二元合金層7となって接合界面に再析出する。そこで、めっき層4のFe濃度を予め高くしておくと、下地鋼5からめっき層4に溶け込むFeが少なくなり、結果としてAl−Fe二元合金層7の生成が抑えられる。
実際、めっき層4のFe濃度が0.5質量%以上になると、後述の実施例でもみられるように、電極3の中心部ではAl−Fe二元合金層7が生成するものの、中心部に比較して投入熱量の少ない電極3の周辺部ではFeの溶込みが抑えられ、合金層消失域9が形成される。しかし、めっき層4のFe濃度が5質量%を超えると、却って接合強度が低下し、耐食性,加工性等、溶融アルミニウムめっき層本来の特性にも悪影響を及ぼすので好ましくない。
下地鋼5から溶融AlへのFe拡散は、下地鋼5とめっき層4との界面にFe拡散防止層を形成することによっても抑えられる。Fe拡散防止層としては、ブレージング用アルミニウムめっき鋼板(特開平9−228018号公報)として本出願人が開発したN濃縮層が有効である。N濃縮層によって下地鋼5から溶融Alに溶け込むFeが少なくなるので、接合界面に生成する脆弱なAl−Fe二元合金層7が一層減少し、接合強度の高い接合構造体が得られる。
Feに比較して拡散係数が大きなSiがスポット溶接時の高温加熱でAl−Fe−Si三元合金層6から溶融Alに拡散すると、Al−Fe−Si三元合金層6が消失する。めっき層4のSi濃度を3〜12質量%と高めに設定しておくことにより、Al−Fe−Si三元合金層6から溶融AlへのSi拡散が遅延してAl−Fe−Si三元合金層6の消失が抑制され、接合界面を除く個所で下地鋼5に対するめっき層4の密着性が確保される。Si濃度の増加に応じてAl−Fe二元合金層7が減少する傾向も窺われ、結果として接合強度が向上する。
めっき原板には低炭素鋼,中炭素鋼,低合金鋼,ステンレス鋼等があり、用途に応じてSi,Mn,Cr,Ni,Al等を添加した鋼種が使用される。なかでも、Al−Feの相互拡散作用を抑制するNを0.002〜0.020質量%添加しためっき原板が好ましい。N添加鋼をめっき原板に使用する場合、有効N量を確保するためAl含有量を0.03質量%以下に規制する。
めっき原板を溶融アルミニウムめっき浴に浸漬して引き上げると、めっき原板に随伴してめっき浴から持ち上げられた溶融めっき金属が凝固し、溶融アルミニウムめっき層を形成する。溶融アルミニウムめっき層の厚さは、引上げ直後の鋼帯に対するワイピングガスの吹付け等の付着量制御によって調整され、厚膜にするほどAl−Fe二元合金層の成長が遅延されるが、良好な加工性を確保する上で5〜70μmの範囲で選定することが好ましい。
接合強度の高い鋼/アルミニウムの接合構造体を得るために、溶融アルミニウムめっき層に含まれるSi,Feの含有量をそれぞれSi:3〜12質量%,Fe:0.5〜5質量%に規制する。ここでいうSi,Feの含有量は、下地鋼5と溶融アルミニウムめっき層4との界面に形成される合金層を含まない値である。Al−Feの相互拡散反応に大きな影響を及ぼさないTi,Zr,B,Cr,Mn等の元素は、溶接性以外の特性向上が必要な場合に適宜含有させることができる。
N:0.002〜0.020質量%を含む鋼板をめっき原板として溶融アルミニウムめっきした後、特定条件下で加熱処理すると溶融めっき時に生成した合金層と下地鋼の界面にN濃縮層が生成する。濃縮層のN含有量が3.0原子%以上になるとAl−Feの相互拡散が著しく抑制され、鋼/アルミニウムの接合構造体として好適な溶融アルミニウムめっき鋼板が得られる。N濃縮層によるAl−Feの相互拡散抑制作用は、溶融めっき後の加熱処理条件を一定にすると下地鋼のN含有量が多くなるほど向上する。しかし、0.02質量%を超える過剰量のNを含む場合、めっき原板自体の製造性が低下する。
相手材のアルミニウム材料は、材質に特段の制約が加わるものではないが、展伸材である限り大半のアルミニウム又はアルミニウム合金を使用できる。
アルミニウム材料に含まれるFeも、溶融アルミニウムめっき層と同様にAl−Fe二元合金層の生成・成長を抑制する作用を呈するが、下地鋼と溶融アルミニウムめっき層との界面反応であるAl−Fe二元合金層の生成・成長に関しては溶融アルミニウムめっき層中のFeに比較して遥かに影響が小さい。したがって、アルミニウム材料自体の耐食性,加工性等を考慮してアルミニウム材料のFe濃度を1.0質量%以下に規制することが好ましい。
アルミニウム合金は、3.0質量%以下,特に1質量%前後のSi及び0.1〜1.5質量%のMgを添加し、時効処理等の熱処理で微細なMgSiを析出させると必要強度が付与される。MgSi析出による強度向上を図る上では、Si含有量の下限を0.1質量%に設定することが好ましい。1.5〜6質量%のMgを添加すると、固溶強化によっても高い強度が得られる。このような効果は0.1〜6.0質量%のMg,3.0質量%以下のSiでみられ、要求強度に応じてMg,Si含有量が定められる。しかし、6質量%を超える過剰量のMgが含まれるとスポット溶接時に欠陥が発生しやすくなり、3質量%を超える過剰量のSiが含まれるとアルミニウムマトリックスに粗大な析出物又は晶出物が生成して接合強度が低下する場合がある。
接合構造体は、所定サイズに裁断された溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム材料を重ね合わせ、所定ピッチでスポット溶接することにより製造される。溶接電流,通電時間の組合せにより溶接条件が定められるが、溶接電流の増加に応じて接合強度が高くなる。通電:12サイクル/60Hzでは、溶接電流を12kA以上に設定することにより3kN以上の良好な引張剪断強度が得られる。溶接電流25kAでは、5サイクル/60Hz以上で3kN以上の引張剪断強度が得られる。
【実施例1】
C:0.04質量%,Si:0.01質量%,Mn:0.20質量%,P:0.01質量%,S:0.007質量%,Al:0.010質量%,N:120ppmを含む板厚1.0mmの冷延鋼板にSi:9.2質量%,Fe:1.8質量%を含む膜厚:20μmの溶融アルミニウムめっき層を形成した後、450℃×15時間のポスト加熱で下地鋼とめっき層との界面にNを5原子%濃化させた溶融アルミニウムめっき鋼板を一方の被接合材に使用した。該溶融アルミニウムめっき鋼板では、Al−10.9質量%Si−35.8質量%FeのAl−Fe−Si三元合金層が下地鋼とめっき層との界面に生成していた。
相手材には、Si:0.11質量%,Fe:0.25質量%,Mg:5.52質量%,Cu:0.35質量%,Cr:0.02質量%,Zn:0.01質量%,残部Alで板厚1.0mmのアルミニウム合金板を使用した。
溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム合金板から切り出した試験片を脱脂・洗浄した後、重ね合わせてスポット溶接機の電極間に挟み込み、3kNの圧力を加えた。電極に径:16mm,先端アール:40mmの銅合金チップを用い、最大溶接電流:25kA,周波数:60Hz,通電サイクル:12でスポット溶接した。
ナゲットの中心及び周縁から1.5mm内側のナゲット外周部に観察点をとり、サイクルごとに接合界面を観察し、接合界面にある合金層をSEM−EDX(840A,日本電子株式会社製)で定量した。
図2の観察結果にみられるように、Al−Fe−Si三元合金層は、ナゲット中心部,ナゲット外周部共に通電:1サイクルで一部が溶融Alに拡散していた。Al−Fe−Si三元合金層のSi濃度はナゲット外周部で3.1質量%,ナゲット中心部で1.7質量%に低下し、Fe濃度はナゲット外周部でほとんど変わらず、ナゲット中心部で若干増加していた。
3サイクル通電したとき、ナゲット外周部のAl−Fe−Si三元合金層がほぼ完全に消失しており、溶融Alに,Al−Fe−Si三元合金層が溶出したことが判る。他方、ナゲット中心部では、合金層が検出された。該合金層は、Si濃度が0.9質量%と低く、Fe濃度が40.8質量%と高いことから、Al−Fe−Si三元合金層消失後の新たに生成したAl−Fe二元合金層である。
通電を更に6サイクル繰り返した状態では、ナゲット外周部の接合界面に合金層はほとんど検出されなかったが、ナゲット中心部の接合界面にはSi濃度0.8質量%,Fe濃度46.0質量%のAl−Fe二元合金層が厚く成長していた。
ナゲット外周部に合金層がないため、スポット溶接で形成された接合部は、ナゲット中心部のAl−Fe二元合金層を合金層消失域9(図1B)で取り囲み、更にその周囲をAl−Fe−Si三元合金層で取り囲んだ接合界面をもつ継手となる。
ナゲット径,合金層消失域の幅,Al−Fe二元合金層の幅は、通電のサイクル数に応じて変わるが、通電5サイクル以上でAl−Fe二元合金層の幅がほぼ一定となり、ナゲット径,合金層消失域の幅も増加率が大幅に低下した(図3)。JISZ3136で規定されている引張剪断試験で評価した接合強度も、通電5サイクル以上で3.5kN以上の高い引張剪断強度(TSS)であり、アルミニウム材料相互の継手強度と同等又はそれ以上の満足できる値が得られた。
継手の接合評価には引張剪断強度が通常使用されるが、剥離方向に弱い金属間化合物が接合界面に発生しやすい異材接合継手では、剥離方向に沿った接合強度を測定することにより継手としての工業的な適用可能性を判断できる。JISZ3137に規定されている十字引張試験により剥離方向に沿った接合強度を調査すると、剥離強度として1.5kN以上の十字引張強度(CTS)が得られ、アルミニウム材料相互を接合した継手と同等又はそれ以上の値であった。
比較のため、Fe濃度が0.3質量%と少ないめっき層を形成した溶融アルミニウムめっき鋼板を同様な条件下でアルミニウム材料にスポット溶接したところ、接合界面全域にわたってAl−Fe二元合金層が生成した。そのため、引張剪断強度が2.5kNと著しく低く、十字引張強度も1.0kNの低い値しか得られず、実用に供し得ない接合構造体であった。Fe濃度が6.1質量%と多いめっき層を形成した溶融アルミニウムめっき鋼板を被溶接材に使用した場合でも、引張剪断強度:3.0kN以上,十字引張強度:1.0kN以上の接合界面を形成できなかった。
【実施例2】
C:0.05質量%,Si:0.1質量%,Mn:0.25質量%,P:0.012質量%,S:0.006質量%,Al:0.006質量%の冷延鋼板を溶融アルミニウムめっきした。溶融アルミニウムめっきでは、めっき層のSi含有量が1.8質量%,3.5質量%,9.2質量%,15.6質量%の4水準,Fe含有量が0.2〜0.3質量%,0.7〜0.9質量%,1.8〜2.3質量%,3.9〜4.5質量%,5.5〜6.1質量%の5水準となるように溶融めっき浴の組成,めっき条件を調整した。
相手材のアルミニウム材料には、Si:0.10質量%,Fe:0.22質量%,Mg:2.67質量%,Cu:0.01質量%,Cr:0.19質量%,Mn:0.02質量%,Zn:0.01質量%,残部:Alで板厚1.0mmのアルミニウム合金板を使用した。
溶融アルミニウムめっき鋼板,アルミニウム合金板から切り出された試験片を脱脂・洗浄した後、重ね合わせて交流式スポット溶接機(60Hz)で溶接した。スポット溶接では、径:16mm,先端アール:75mmの銅合金チップを電極に用い、溶接電流:19kA,周波数:60Hz,通電サイクル:12の溶接条件を採用した。
スポット溶接で作製された鋼/アルミニウムの接合構造体を実施例1と同じ引張剪断試験,十字引張試験に供し、接合強度を測定した。
測定結果を示す表1にみられるように、溶融アルミニウムめっき層のSi,Fe濃度が適正範囲(Si:3〜12質量%,Fe:0.5〜5質量%)に維持されていると引張剪断強度:3kN以上,十字引張強度:1.5kN以上の高い接合強度が得られた。
これに対し、Si,Fe濃度が低いと、Al−Fe二元合金層の占有面積率が大きくなり、引張剪断強度:3kN,十字引張強度:1.0kNに達しなかった。引張試験で破断した接合界面を観察すると、合金層間に連続的な割れが発生しており、Al−Fe二元合金層が接合強度を低下させていることが確認された。
逆にSi,Fe濃度が高すぎると、Al−Fe二元合金層の占有面積率は小さいものの、接合強度は低い値を示した。この場合の接合強度の低下は、溶接部のSi,Fe濃度が高すぎることにより脆性的な破壊が生じた結果と推察される。

【実施例3】
相手材としてMg,Si,Al含有量が種々異なるアルミニウム合金板を使用する以外は、実施例1と同じ条件下でSi:9.2質量%,Fe:4.1質量%の溶融アルミニウムめっき層が形成されためっき鋼板とスポット溶接した。得られた鋼/アルミニウムの接合構造体を引張剪断試験,十字引張試験に供し、接合強度を測定した。
表2の測定結果にみられるように、Mg,Si含有量をそれぞれMg:0.1〜6.0質量%,Si:3.0質量%以下の範囲に維持したアルミニウム合金板を使用したとき、引張剪断強度,十字引張強度が一層高い接合構造体であった。接合構造体の接合強度はアルミニウム合金板のFe含有量にも影響され、Fe含有量を1.0質量%以下に規制することによって引張剪断強度:4.0kN以上,十字引張強度:1.6kN以上が確保された(Nos.2,4)。

【産業上の利用可能性】
以上に説明したように、本発明の接合構造体は、鋼/アルミニウムの接合界面全域に脆弱なAl−Fe二元合金層が接合界面全域に生成することなく、ナゲット中心部の接合界面に生成するAl−Fe二元合金層の周囲を合金層消失域で取り囲み、接合界面に占めるAl−Fe二元合金層の割合を面積比90%以下に抑えている。そのため、鋼材,アルミニウム材料が強固に接合され、アルミニウム材料,鋼材の長所を活かした接合構造体として、車輌構造体,熱交換器等、種々の構造部材に使用される。

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融アルミニウムめっき鋼板にアルミニウム又はアルミニウム合金をスポット溶接で積層した接合構造体であり、溶融アルミニウムめっき層がSi:3〜12質量%,Fe:0.5〜5質量%,Al:実質的に残部の組成をもち、接合界面に占めるAl−Fe二元合金層の面積比率が90%以下に抑えられ、下地鋼と溶融アルミニウムめっき層との界面に生じているAl−Fe−Si三元合金層と接合界面のAl−Fe二元合金層との間に合金層消失域が存在していることを特徴とする鋼/アルミニウムの接合構造体。
【請求項2】
溶融アルミニウムめっき鋼板がN:0.002〜0.020質量%を含む鋼材を下地鋼とし、下地鋼と溶融アルミニウムめっき層の界面にN:3.0原子%以上のN濃縮層が形成されている請求項1記載の接合構造体。
【請求項3】
アルミニウム又はアルミニウム合金のFe含有量が1.0質量%以下に規制されている請求項1又は2記載の接合構造体。
【請求項4】
請求項1〜3何れかに記載のアルミニウム合金がMg:0.1〜6.0質量%,Si:3.0質量%以下を含むアルミニウム合金である接合構造体。

【国際公開番号】WO2005/030424
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514302(P2005−514302)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014545
【国際出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)