説明

鍵盤楽器の蓋体開閉構造

【課題】蓋体が回動する領域を小さな寸法に抑えることで、開閉時の蓋体を含めた鍵盤楽器の省スペース化を図る。
【解決手段】ケース10の側壁部6とそれに対向する蓋体20の端部とを連結する第1連結具31と第2連結具41を備え、第1連結具31と第2連結具41のそれぞれが本体部2側に軸支された第1軸支部33と第3軸支部43は、本体部2に対する固定側の回動支点であり、第1連結具31と第2連結具41のそれぞれが蓋体20側に軸支された第2軸支部35と第4軸支部45は、本体部2に対する移動側の回動支点である。そして、蓋体20の開閉時に第2軸支部35と第4軸支部45の軌跡が互いに交差し、かつ、蓋体20の後端部20aが本体部2の後方から前方へ移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子オルガンや電子ピアノをはじめとする各種の鍵盤楽器において、ケース内に設置した鍵盤の上面側を開閉するための蓋体と、ケースに対して当該蓋体を移動可能に連結してなる連結機構とを備えた鍵盤楽器の蓋体開閉構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子オルガンや電子ピアノをはじめとする各種の鍵盤楽器には、ケース内に設置した鍵盤の上面側を開閉するための鍵盤蓋(蓋体)を備えたものがある。このような鍵盤蓋を開閉する開閉機構の従来技術として、例えば、特許文献1に示す開閉機構がある。特許文献1に記載の開閉機構は、楽器本体と鍵盤蓋の後端部付近とをリンク部材によってそれぞれ回動自在に連結し、鍵盤蓋のそのリンク部材を軸支する位置から所定距離離れた位置にガイド当接部を設け、鍵盤蓋の開閉時にそのガイド当接部を楽器本体内に固設されたガイド部材の少なくとも2つの異なる湾曲面からなる第1,第2のガイド部に常に接触させながら移動させるように構成したものである。この開閉機構によれば、鍵盤蓋と楽器本体の天板の前端との隙間を最小限にでき、鍵盤蓋の後部を楽器本体内に収納するために必要な回動スペースも少なくすることができる。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の鍵盤蓋の開閉構造では、楽器本体内に蓋体の後端部を収納するためのスペースを確保する必要がある。そのため、楽器本体の小型化の妨げになるおそれがあった。また、楽器本体内に蓋体を収容するように構成したことで、蓋体と本体部との間に設けた連結機構の部品点数の増加、構造の煩雑化などにつながるおそれがあった。
【0004】
これに対して、鍵盤蓋の開閉構造の他の構成例として、特許文献2に示すように、一枚板状の鍵盤蓋の後端部が楽器本体に対して回動自在に取り付けられた構成のものがある。この回動式の鍵盤蓋は、一枚の板状の部材なので比較的安価に製造できるうえ、開蓋時に楽器本体上に立設されるので、楽器本体内に鍵盤蓋を収納するためのスペースを確保する必要がない。
【0005】
この鍵盤蓋の開閉構造では、一枚板状の鍵盤蓋がその後端部を支点として先端側が上下方向に回動するようになっている。しかしながらこの構造では、開閉時の蓋体が回動する領域(回動する蓋体の最大径寸法)が大きいことで、蓋体の開閉時にその一部(先端側や後端側)が本体部の後側に突出する(はみ出る)場合がある。また、蓋体の一部が本体部よりも後側に突出することを防止するためには、蓋体の回動支点と本体部の後端部との間の幅寸法(奥行寸法)を大きな寸法に設定する必要がある。これにより、本体部の後方に開閉時の蓋体用のスペースが必要になるなどして、開閉時の蓋体を含む鍵盤楽器の省スペース化の妨げとなるおそれがあった。また、従来構造では、蓋体の開閉時に重心の移動量が大きいことで、蓋体の開閉操作が行い難いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−38106号公報
【特許文献2】特公平7−41033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、開閉時の蓋体の回動領域を小さな寸法に抑えることで、開閉時の蓋体を含めた鍵盤楽器の省スペース化を図ることができ、かつ、蓋体の開閉操作が行い易くすることができる鍵盤楽器の蓋体開閉構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、ケース(10)と、該ケース(10)内に設置された複数の鍵(5a,5b)からなる鍵盤(5)と、を有する本体部(2)と、ケース(10)に対して鍵盤(5)の上方を閉じる閉位置と該鍵盤(5)の上方を開く開位置との間で移動可能となるように取り付けられた板状の蓋体(20)と、ケース(10)における鍵盤(5)の側部に配置した側壁部(6)と、それに対向する蓋体(20)における前記鍵(5a,5b)の配列方向の端部(20d)とを連結してなる連結機構(30)と、を備えた鍵盤楽器の蓋体開閉構造であって、連結機構(30)は、側壁部(6)と蓋体(20)の上記端部(20d)との間に連結された互いの長さが異なる長尺板状の第1連結具(31)と第2連結具(41)とを備え、第1連結具(31)は、その一端(31a)が側壁部(6)に設けられた第1軸支部(33)に軸支されており、他端(31b)が蓋体(20)の上記端部(20d)に設けられた第2軸支部(35)に軸支されており、第2連結具(41)は、その一端(41a)が側壁部(6)に設けられた第3軸支部(43)に軸支されており、他端(41b)が蓋体(20)の上記端部(20d)に設けられた第4軸支部(45)に軸支されており、第1軸支部(33)及び第3軸支部(43)は、本体部(2)に対する相対位置が固定された固定側の回動支点であり、第2軸支部(35)及び第4軸支部(45)は、本体部(2)に対して相対的に変位可能な移動側の回動支点としている。そのうえで、蓋体(20)が閉位置から開位置へ移動する間に、第2軸支部(35)と第4軸支部(45)の軌跡が互いに交差し、かつ、蓋体(20)の後端部(20a)が本体部(2)の後方から前方へ移動するように構成したことを特徴とする。あるいは、蓋体(20)が閉位置から開位置へ移動する間に、本体部(2)に対する第2軸支部(35)と第4軸支部(45)の上下又は前後の少なくともいずれかの位置関係が逆転し、かつ、蓋体(20)の後端部(20a)が本体部(2)の後方から前方へ移動するように構成したことを特徴とする。あるいは、蓋体(20)が閉位置から開位置へ移動する間に、第1連結具(31)の両端それぞれに設けた第1軸支部(33)と第2軸支部(35)を結ぶ直線と、第2連結具(41)の両端それぞれに設けた第3軸支部(43)と第4軸支部(45)を結ぶ直線とが常に非平行な状態であり、かつ、蓋体(20)の後端部(20a)が本体部(2)の後方から前方へ移動するように構成したことを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる鍵盤楽器の蓋体開閉構造によれば、蓋体を本体部に対して2つの連結具による4点支持構造(いわゆる回り対偶支持による4節リンク支持構造)としたことで、本体部の上方の狭い範囲内で板状の蓋体の面を回動させて、ケースの上面側を開閉することが可能となる。これにより、従来構造に比べて、蓋体の回動領域を小さな寸法とすることができるので、開閉時に蓋体の一部が本体部の後側に突出することを防止できる。また、蓋体の一部が本体部の後側に突出したとしても、その突出量を少なく抑えることができる。したがって、開閉時の蓋体を含む鍵盤楽器の省スペース化を図ることができる。
また、鍵盤楽器の本体部と蓋体とを連結する連結機構の部品点数を少なく抑えた簡単な機構としながらも、蓋体を本体部の上方の範囲内で回動させるようにしたことで、開閉時の蓋体の重心移動を少なく抑えることができる。
【0010】
またこの場合、第1軸支部(33)と第3軸支部(43)は、本体部(2)に対する前後方向の位置を互いに異ならせて配置されており、かつ、第2軸支部(35)と第4軸支部(45)は、蓋体(20)の面に沿ってその前後方向の位置を互いに異ならせて配置されているとよい。この構成によれば、2つの連結具による4点支持構造において、蓋体の後端部が本体部の後方から前方へ移動し、かつ、蓋体が閉位置から開位置へ移動する間に第2軸支部と第4軸支部の軌跡が互いに交差する機構、又は本体部に対する第2軸支部と第4軸支部の上下又は前後の少なくともいずれかの位置関係が逆転する構造、又は蓋体の開閉時に第1軸支部と第2軸支部を最短距離で結ぶ直線と第3軸支部と第4軸支部を最短距離で結ぶ直線とが常に非平行な状態が維持されるような構造を簡単に実現できるようになる。また、連結機構のコンパクト化を図りながら、閉位置と開位置との間での蓋体の移動をよりスムーズに行わせることが可能となる。
【0011】
また、上記の鍵盤楽器の蓋体開閉構造では、蓋体(20)が開位置にある状態で、第1連結具(31)と第2連結具(41)との少なくともいずれかに当接してその移動を停止させるストッパ部(37)を備え、開位置における蓋体(20)は、その後端部(20a)が前端部(20b)よりも本体部(2)の前側に位置するように傾斜した状態で、該本体部(2)の上面に立設されるようにするとよい。
【0012】
この構成によれば、蓋体が開位置にある状態で、ストッパ部が第1連結具又は第2連結具に当接してその移動を停止させることで、蓋体を開位置で確実に停止させることができる。したがって、蓋体が開位置で後方に倒れることを防止できる。
【0013】
またこの場合、蓋体は、その開位置で、後端部が前端部よりも本体部の前側に位置するように傾斜した状態で該本体部の上面に立設されるので、蓋体を開位置で安定的に停止させておくことが可能となる。したがって、開位置の蓋体が不用意に閉位置の方へ移動して閉じてしまうことを防止できる。
【0014】
また、上記の蓋体開閉構造では、蓋体(20)の内面(20c)に軸部(51a)で回転自在に支持されて、蓋体(20)が閉位置にある状態でパネル面(55b)に対向するように配設された板状の譜面受け(51)を備え、蓋体(20)が閉位置へ移動する際に、譜面受け(51)の自由端(51b)がパネル面(55b)に当接して該譜面受け(51)が蓋体(20)の内面(20c)に沿う位置へ畳まれるようにしてよい。この構成によれば、蓋体の内面に譜面受けを取り付けた構造において、蓋体を閉じる際に譜面受けを自動的に折り畳むことができ、かつ、蓋体を開けることで譜面受けを自動的に受け状態(開状態)とすることができる。またこれにより、譜面受けの軸部(回転部)の蝶番構造として、高価ないわゆるトルク発生型の軸受部品を用いることなく、トルク発生の無い簡単な軸受構造で、譜面受けの開閉を自動的に行わせることができるようになる。
【0015】
また、上記の蓋体開閉構造では、第1連結具(31)と第2連結具(41)の少なくともいずれかと本体部(2)又は蓋体(20)との間に、蓋体(20)を開位置へ移動する方向に付勢するような付勢力を生じる弾性部材(60)を取り付けてもよい。この構成によれば、弾性部材の付勢力によって、蓋体を開位置へ移動させるために必要な力が小さくて済むので、蓋体を開け易くなる。また、鍵盤楽器の開閉動作において蓋体が急激に移動することを防止できるので、蓋体の開閉動作を安定させることができるようになる。また、万一、蓋体と本体部との間に指などを挟んでしまった場合でも、挟まれる力を軽減することができるので、安全性が向上する。
【0016】
また、上記の鍵盤楽器の蓋体開閉構造では、第1連結具(31)又は第2連結具(41)の少なくともいずれかと本体部(2)又は蓋体(20)との間に、本体部(2)又は蓋体(20)と第1連結具(31)又は第2連結具(41)との相対的な回動に対する抵抗力を発生する抵抗力発生部(32,42,70)を設けてもよい。
【0017】
この構成によれば、本体部又は蓋体と第1、第2連結具との相対的な回動に対する抵抗力によって、蓋体の開閉動作がゆっくりとしたものとなるので、蓋体と楽器本体との間に指などを挟むことをより効果的に防止できるようになる。また、蓋体の開閉動作において、蓋体が急激に移動することを防止できるので、蓋体の開閉動作を安定させることができる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態の対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる鍵盤楽器の蓋体開閉構造によれば、開閉時の蓋体が回動する領域を小さな寸法に抑えることで、開閉時の蓋体を含めた鍵盤楽器の省スペース化を図ることができ、かつ、蓋体の開閉操作を行い易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる蓋体開閉構造を備えた鍵盤楽器の全体構成例を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態にかかる蓋体開閉構造の詳細構成を示す図で、鍵盤楽器における本体部の一方の側部を示す部分拡大斜視図である。
【図3】第1実施形態にかかる蓋体開閉構造の詳細構成を示す図で、鍵盤楽器の側断面図である。
【図4】蓋体が閉位置と開位置との間で移動する際の動作を説明するための図である。
【図5】蓋体の開閉動作に伴う譜面受けの動きを説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかる蓋体開閉構造の詳細構成を示す図で、鍵盤楽器の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる蓋体開閉構造を備えた鍵盤楽器1の全体構成例を示す斜視図である。また、図2は、第1実施形態にかかる蓋体開閉構造の詳細構成を示す図で、鍵盤楽器1における後述する本体部2の一方の側部を示す部分拡大斜視図である。また、図3は、第1実施形態にかかる蓋体開閉構造の詳細構成を示す図で、鍵盤楽器1の側断面図である。なお、図3(a)は、後述する蓋体20が開位置にある状態を示しており、(b)は、蓋体20が閉位置にある状態を示している。本実施形態の鍵盤楽器1は、ケース10と、該ケース10内に設置された鍵盤5を有する本体部2と、該本体部2のケース10に取り付けられた蓋体(鍵盤蓋)20とを備えている。なお、以下の説明では、横方向又は幅方向というときは、鍵盤5の各鍵5a,5bが配列された左右方向を示し、前又は後というときは、鍵盤5の手前側(演奏者側)又は奥側を示すものとする。
【0021】
鍵盤5は、横方向に沿って配列された複数の黒鍵5aと白鍵5bとを有している。鍵盤5を収容しているケース10は、鍵盤5の左右両側それぞれを覆う一対の側板(側壁部)6,6と、鍵盤5の前側を覆う前板7と、後側を覆う後板8と、底側を覆う底板9とで囲まれており、全体が横長の略直方体状に形成されている。ケース10の上面側は、鍵盤5の上面(演奏面)が露出する開口になっている。そして、蓋体20は、ケース10に対して該開口を完全に閉じる閉位置と、該開口を完全に開く開位置との間で移動可能となるように取り付けられている。この蓋体20は、一対の側板6,6の上端面6a,6aに載置された状態で開口を塞ぐ一枚板状の部材であり、その外形は、ケース10の外形に沿う横長の長方形状になっている。蓋体20の内面(下面)20cにおける前端近傍には、前板7の上方で鍵盤5の前面を覆う蓋前(蓋前板)21が取り付けられている。なお、上記では、側板6,6は、その側面視の形状が方形状であって、上端面6a,6aが本体部2の後方から前方に向かって水平な(ケース10の底板9と平行な)形状である場合を示したが、これ以外にも、詳細な図示は省略するが、側板6,6は、その側面視の形状が略台形形状であって、その上端面6a,6aが本体部2の後方から前方に向かって下降するように傾斜する傾斜平面状に形成されていてもよい。
【0022】
また、鍵盤5の両側部を覆う一対の側板6,6それぞれと、それらに対向する蓋体20の左右両側の端部20d,20dそれぞれとの間には、本体部2に対して蓋体20を移動可能に連結してなる連結機構30が設けられている。本実施形態の鍵盤楽器1では、連結機構30は、一対の側板6,6それぞれと蓋体20における鍵5a,5bの配列方向両側の端部20d,20dそれぞれとの間に設けられている。各連結機構30は、互いに共通の構成部品を有しており、互いが対称な形状及び配置構成になっている。連結機構30は、側板6と蓋体20の端部20dとの間に取り付けた互いの長さが異なる長尺板状の第1連結具31と第2連結具41とを有している。なお、ここでいう蓋体20の端部20dとは、蓋体20の幅方向における両側の端面とその近傍の内面20cや外面を含む部分(各図において点線で囲んだ部分及びその近傍)を示すものである。
【0023】
第1連結具31と第2連結具41は、いずれも長尺板状の部材である。第1連結具31は、その長手方向の本体部2側の端部31aが側板6の内側面6cに設けた第1軸支部33に軸支(回動自在に支持されていることをいう、以下同じ。)されており、蓋体20側の端部31bが、蓋体20の幅方向の端部20dにおいて該蓋体20の鍵盤5側を向く内面20cに設けた第2軸支部35に軸支されている。第2連結具41は、その本体部2側の端部41aが側板6の内側面6cにおける第1軸支部33に隣接する位置に設けた第3軸支部43に軸支されており、その蓋体20側の端部41bが、蓋体20の端部20dの内面20cにおける第2軸支部35に隣接する位置に設けた第4軸支部45に軸支されている。
【0024】
第1軸支部33と第3軸支部43は、側板6の内側面6cに対して、第1連結具31の一方の端部31aと第2連結具41の一方の端部41aを本体部2の幅方向を軸方向とする回転軸周りで軸支している。また、第2軸支部35と第4軸支部45は、蓋体20の内面20cに対して、第1連結具31の他方の端部31bと第2連結具41の他方の端部41bを蓋体20の幅方向及び面方向を軸方向とする回転軸周りで軸支している。また、第1軸支部33は、側板6の内側面6cに固定したトルク発生型の軸受32で第1連結具31の端部31aを軸支しており、第3軸支部43は、側板6の内側面6cに固定したトルク発生型の軸受42で第2連結具41の端部41aを軸支している。トルク発生型の軸受32,42については、後述する。また、第2軸支部35は、蓋体20の内面20cにネジで固定した取付板34に設けた支持片34aで第1連結具31の端部31bを軸支しており、第4軸支部45は、取付板34に設けた他の支持片34bで第2連結具41の端部41bを軸支している。
【0025】
第1連結具31は、その長手方向が第1軸支部33から第2軸支部35に向かって延びる細板状で、第1軸支部33と第2軸支部35との中間の部分には、平面内で互いに逆向きに屈曲する2箇所の屈曲部31c,31dを有している。屈曲部31c,31dは、いずれも略「く」字型に屈曲している。第1連結具31は、その面を側板6の内側面6cと平行にして、第1軸支部33に近い側の屈曲部31cの内側を上方及び前方に向けた状態で取り付けられている。また、第1軸支部33は、第2軸支部35よりも下側かつ前側(本体部2の下側かつ前側)に配置されている。
【0026】
第2連結具41は、その長手方向が第3軸支部43から第4軸支部45に向かって延びる細板状で、第3軸支部43と第4軸支部45との中間の部分には、平面内で互いに逆向きに屈曲する2箇所の屈曲部41c,41dを有している。屈曲部41c,41dは、いずれも略「く」字型に屈曲している。第2連結具41は、その面を側板6の内側面6cと平行にして、第3軸支部43に近い側の屈曲部41cの内側を上方及び前方に向けた状態で取り付けられている。また、第3軸支部43は、第4軸支部45よりも下側かつ前側(本体部2の下側かつ前側)に配置されている。
【0027】
第1連結具31と第2連結具41は、側板6の内側面6cに沿って設置されており、それらが本体部2の横方向に並べて配置されている。本実施形態では、第2連結具41が外側(内側面6cに近い側)に設置されており、第1連結具31が内側(内側面6cから離れた側)に配置されている。そして、第1軸支部33と第3軸支部43は、側板6の内側面6cにおいて、鍵盤5の演奏面(鍵5a,5bの長手方向)及び本体部2の上面と略平行な面内で、前後方向に並べて配置されている。本実施形態では、第1軸支部33が前側で第3軸支部43が後側に配置されている。また、第2軸支部35と第4軸支部45は、蓋体20の内面20cに沿う面内で、蓋体20の前端部20bから後端部20aに向かう方向(前後方向)に沿って並べて設置されている。本実施形態では、第2軸支部35が前側(前端部20bに近い側)で、第4軸支部45が後側(後端部20aに近い側)に配置されている。そして、第1軸支部33及び第3軸支部43は、本体部2に対する相対位置が固定された固定側の回動支点であり、第2軸支部35及び第4軸支部45は、本体部2に対して相対的に変位可能な移動側の回動支点である。なお、上述した鍵盤5の演奏面とは、演奏者が指で触れる鍵5a、5bの上面側を含む概略の水平面を指すものであって、鍵盤5の態様によっては、鍵5a,5bの上面が本体部2の前後方向で若干傾斜している場合もあるが、そのような場合においても鍵盤5の上面側を含む概略の水平面を指すものとする。
【0028】
また、第1軸支部33に設置したトルク発生型の軸受32と、第3軸支部43に設置したトルク発生型の軸受42とは、それらの詳細な図示及び構造の説明は省略するが、例えば、内部に作動油が充填された筒状のハウジングと、該ハウジング内に回転自在に嵌合する回転部材とを備えて構成され、作動油の油圧による摺動抵抗によって回転部材の回転に対する制動力が作用するように構成された回転ダンパ機構(オイルダンパ機構)を用いることができる。このような回転ダンパ機構からなるトルク発生型の軸受32,42として、例えば、特開2001−349364号公報や特開2008−185215号公報などに開示された構造の軸受を用いることが可能である。なお、上記のトルク発生型の軸受32,42は、本体部2又は蓋体20と第1、第2連結具31,41との相対的な回動に対する抵抗力を発生する抵抗力発生部として機能する部品である。
【0029】
軸受32,42は、上記のオイルダンパ機構に代えて、軸回りに設置した複数の樹脂部品の摺動により摩擦力を発生する回転ダンパ機構(回転摩擦機構)であってもよい。そして、この回転摩擦機構は、一方への回転においてのみ大きな摩擦力を発生し、なおかつ、回転速度が大きければ大きい程、大きな摩擦力を発生するダンパ機構(これを「ワンウェイクラッチ機構」)ともいう。)を用いてよい。そして、このようなダンパ機構を用いる場合は、蓋体20を開位置から閉位置へ向けて移動させる方向で大きな摩擦力を発生するように設置すれば、閉位置へ移動する蓋体20の動きがゆっくりとしたものになるので、蓋体20を閉じる際に蓋体20と側板6の上端面6aとの間に指などを挟むおそれを低減できる。
【0030】
また、蓋体20の内面20cには、譜面受け51が取り付けられている。譜面受け51は、細板状の部材からなり、蓋体20の後端部20aの内面20cにおいて、幅方向の中央に取り付けられている。譜面受け51は、蓋体20側の端辺が蓋体20の内面20cに対して軸部51aで回動自在に支持されている。軸部51aは、本体部2の横方向(幅方向)に延びる軸を中心に譜面受け51を回転自在に支持している。これにより、譜面受け51は、軸部51aを中心にその面が蓋体20の内面20cに沿うように畳まれた閉位置と、その面が蓋体20の内面20cに対して略直交するように開かれた開位置との間で回動自在になっている。
【0031】
一方、本体部2のケース10内における鍵盤5の後側(黒鍵5a及び白鍵5bの見え懸かり部の後側)には、板状のパネル部材55が設置されている。また、パネル部材55の後端とケース10の後板8の上端との間には、これらの隙間を塞ぐための隠し板56が取り付けられている。パネル部材55は、鍵盤5の後側の上面を覆うパネル面55bを有している。パネル面55bは、本体部2の前後方向で若干湾曲しながら傾斜する傾斜湾曲面状であり、蓋体20の内面20cに取り付けた譜面受け51に対応する部分に配置されている。そして、後述するように、蓋体20が鍵盤5の上面側を閉じる閉位置へ移動する際、譜面受け51の先端部(自由端)51bがパネル面55bに当接することで、譜面受け51が自動的に折り畳まれるようになっている。
【0032】
また、図1及び図2に示すように、パネル部材55は、その幅方向の両端部が側板6,6の内側面6c,6cに固定されている。そして、パネル部材55の両端部には、側板6の内側面6cとの間に第1連結具31及び第2連結具41を挿通させるための切込部55cが形成されている。これにより、第1連結具31及び第2連結具41は、切込部55cを介してパネル部材55の下側から上方に突出し、それらの先の端部31b,41bが蓋体20の内面20cに連結されている。
【0033】
また、蓋体20が開位置にある状態で、第1連結具31及び第2連結具41の移動を停止させるためのストッパ部37が設けられている。ストッパ部37は、パネル部材55の切込部55cの前端部(前端辺)に設けた第1連結具31及び第2連結具41の端辺を当接させる係止部37aを備えている。係止部37aは、蓋体20が完全に開いた開位置で第1連結具31の屈曲部31cの内端辺及び第2連結具31の屈曲部41cの内端辺に当接することで、第1軸支部33を中心とする第1連結具31の回動と第3軸支部43を中心とする第2連結具41の回動とをその位置で規制する(停止させる)ようになっている。
【0034】
図4は、蓋体20が閉位置と開位置との間で移動する際の各部の動作を説明するための図である。なお、図4では、第1、第2連結具31,41の両端を軸支する第1乃至第4軸支部33,35,43,45など、蓋体20の開閉動作に関連する主要な部分のみを模式的に示している。また、同図では、開位置と閉位置との間で移動する蓋体20及び第1乃至第4軸支部33,35,43,45の軌跡を連続的に示している。以下、図4及び先の図2及び図3を用いて、蓋体20の開閉に伴う各部の動作について説明する。まず、図4における(A)の状態で、蓋体20がケース10における鍵盤5の上方を完全に閉じた閉位置にある。この状態では、蓋体20の両端部20d,20dの内面20cが側板6,6の上端面6a,6aに載置されている。この状態から蓋体20の前端部20bを上方に持ち上げると、図4(B)→(I)の順で蓋体20が回動して、ケース10における鍵盤5の上方が開かれてゆく。このとき、第1軸支部33を支点に第2軸支部35が前側及び上側に向かって回動し、かつ第3軸支部43を支点に第4軸支部45が前側及び上側に向かって回動すると共に、蓋体20の後端部20aが本体部2の後方から前方に向かって移動する。
【0035】
上記の動作によって蓋体20が閉位置から開位置へ移動することで、蓋体20は、本体部の上面側の領域で、後端部20aに近い位置を支点として前端部20bが前部下方から後部上方へ持ち上がるように回動する。そして、最終的には、図3に示す第1連結具31と第2連結具41がストッパ部37(係止部37a)に当接する位置で、第1、第2連結具31,41及び蓋体20の動作が停止する。この位置で、図4の(J)に示すように、蓋体20が完全に開かれた開位置となる。この開位置では、本体部2の上面側に立設された蓋体20は、その後端部20aが前端部20bよりも若干前側に位置しており、その内面20cが下から上に向かって若干後方に傾斜した状態となっている。なお、この開位置では、蓋体20の前端部20bは、本体部2の後端と同位置かそれよりも手前側の位置におさまっており、本体部2の後側には突出していない。
【0036】
一方、図4の(J)に示す開位置にある蓋体20の前端部20bを手前側に引くと、蓋体20が閉位置に向かって移動する。この場合は、上記とは逆に、図4(I)→(B)の順で蓋体20が回動して、ケース10における鍵盤5の上方が閉じられてゆく。このとき、蓋体20は、後端部20aに近い位置を支点として前端部20bが後部上方から前部下方に向かって回動する。また、蓋体20の後端部20aが前方から後方へ移動する。そして、最終的には、図4の(A)に示すように、蓋体20の両端部20d,20dの内面20cが側板6,6の上端面6a,6aに載置された状態で、蓋体20が鍵盤5の上方を完全に閉じた閉位置となる。
【0037】
上記のような蓋体20の開閉動作において、第2軸支部35が移動する軌跡R1は、第1軸支部33を支点として第1軸支部33と第2軸支部35との間を最短距離で結ぶ直線L1を半径とする円弧状の軌跡となる。また、第4軸支部45が移動する軌跡R2は、第3軸支部43を支点として第3軸支部43と第4軸支部45の間を最短距離で結ぶ直線L2を半径とする円弧状の軌跡となる。そして、蓋体20が閉位置から開位置へ移動する途中で、第2軸支部35の軌跡R1と第4軸支部45の軌跡R2とが互いに交差するようになっている。また、蓋体20が閉位置から開位置へ移動する間に、本体部2に対する第2軸支部35と第4軸支部45との上下の位置関係と前後の位置関係がいずれも逆転するようになっている。さらに、蓋体20が閉位置から開位置へ移動する間に、第1軸支部33と第2軸支部35を結ぶ直線L1と、第3軸支部43と第4軸支部45を結ぶ直線L2とが常に非平行な状態となるように設定されている。
【0038】
次に、蓋体20の開閉動作に伴う譜面受け51の動きについて説明する。図5は、譜面受け51の動きを説明するための図である。本実施形態の鍵盤楽器1では、先の図3(b)に示すように、譜面受け51は、蓋体20が閉位置にある状態でパネル面55bに対向するように配設されている。そして、図5(a)乃至(d)に示すように、蓋体20が閉位置へ移動する際に、譜面受け51の先端部(自由端)51bがパネル面55bに当接して、譜面受け51が蓋体20の内面20cに沿う位置へ自動的に畳まれるようになっている。このように構成したことで、万一、蓋体20を閉じる際に譜面受け51を畳み忘れていても、譜面受け51が引っ掛かることで蓋体20を閉じることができないという不具合が生じずに済む。
【0039】
すなわち、本実施形態の蓋体開閉構造では、第1連結具31と第2連結具41による4点リンク支持型の連結機構30を備えたことで、開位置から閉位置へ回動する蓋体20が、本体部2の上部の領域内で、その後端部20aよりも前端部20b側に近い位置を支点として回動するようになっている。これにより、図5(a)乃至(d)に示すように、閉位置直前の蓋体20の内面20cは、鍵盤5の演奏面(及び鍵5a,5bの長手方向)と略平行なパネル面55bに対して後側上方から斜め下方に向かって接近するのではなく、ほぼ真上位置から覆い被さるような姿勢で接近するようになっている。この構成により、蓋体20が閉位置の直前にあるときに、蓋体20の内面20cに取り付けた譜面受け51の先端部51bをパネル面55bに当接させて譜面受け51を回動させることがより確実に行えるようになる。したがって、蓋体20を閉位置へ移動させることで、譜面受け51を自動的に畳むことが可能となる。また、鍵盤5の後側に設けたパネル面55bを用いて譜面受け51を畳むようにしたので、蓋体20を閉じる際に譜面受け51を自動的に畳む構造を備えていても、鍵盤楽器1の部品点数の増加や構造の複雑化につながらずに済む。さらに、譜面受け51の軸部51aの蝶番構造として、高価ないわゆるトルク発生型の軸受部品を用いることなく、トルク発生の無い簡単な軸受構造で、譜面受け51の開閉を自動的に行わせることができるようになる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の蓋体開閉構造では、蓋体20を本体部2に対して第1、第2連結具31,41による4点支持構造(いわゆる回り対偶による4節リンク支持構造)で連結したことで、本体部2の上方の狭い範囲内で板状の蓋体20の面を回動させて、ケース10の上面側を開閉することが可能となる。これにより、従来の蓋体開閉構造と比べて、蓋体20が回動する領域を小さな寸法とすることができるので、開閉時に蓋体20の一部が本体部2の後側に突出することを防止できる。また、蓋体20の一部が本体部2の後側に突出したとしても、その突出量を少なく抑えることができる。したがって、開閉時の蓋体20を含む鍵盤楽器1の省スペース化を図ることができる。
また、鍵盤楽器1の本体部2と蓋体20とを連結する連結機構30の部品点数を少なく抑えた簡単な機構としながらも、蓋体20を本体部2の上方の範囲内で回動させるようにしたことで、開閉時の蓋体20の重心移動を少なく抑えることができる。したがって、蓋体20の開閉操作が行い易くなる。
【0041】
また、本実施形態の連結機構30では、第1軸支部33と第3軸支部43は、本体部2に対する前後方向の位置を互いに異ならせて配置し、かつ、第2軸支部35と第4軸支部45は、蓋体20の面に沿ってその前後方向の位置を互いに異ならせて配置している。これにより、2つの連結具31,41による4点支持構造において、蓋体20の後端部20aが本体部2の後方から前方へ移動し、かつ、蓋体20が閉位置から開位置へ移動する間に第2軸支部35の軌跡R1と第4軸支部45の軌跡R2とが互いに交差する機構を簡単な構成で実現している。また、連結機構30のコンパクト化を図りながら、閉位置と開位置との間での蓋体20の移動をよりスムーズに行わせることを可能としている。
【0042】
また、本実施形態の蓋体開閉構造では、蓋体20が開位置にある状態で、ストッパ部37が第1連結具31と第2連結具41に当接してそれらの移動を停止させることで、蓋体20を開位置で確実に停止させることができる。したがって、蓋体20が開位置で後方に倒れることを防止できる。また、蓋体20は、その開位置で、後端部20aが前端部20bよりも本体部2の前側に位置するように傾斜した状態で該本体部2の上面に立設されるので、蓋体20を開位置で安定的に停止させておくことが可能となる。したがって、開位置の蓋体20が不用意に閉位置の方へ移動して閉じてしまうことを防止できる。
【0043】
また、本実施形態の蓋体開閉構造では、第1軸支部33と第3軸支部43に、本体部2と第1連結具31及び第2連結具41との相対的な回動に対する抵抗力を発生する抵抗力発生部として、トルク発生型の軸受32,42を設けている。これにより、本体部2と第1連結具31及び第2連結具41との相対的な回動に対する抵抗力によって、蓋体20の開閉動作がゆっくりとしたものとなるので、蓋体20と本体部2との間に指などを挟むことを効果的に防止できるようになる。また、蓋体20の開閉動作において、蓋体20が急激に移動することを防止できるので、蓋体20の開閉動作を安定させることができる。なお、本実施形態では、第1軸支部33と第3軸支部43に抵抗力発生部としての軸受32,42を設けた場合を示したが、これらはいずれか一方のみを設けるようにしてもよい。さらにこれ以外にも、図示及び詳細な説明は省略するが、第1軸支部33と第3軸支部43の軸受32,42に代えて、第2軸支部35と第4軸支部45の少なくともいずれかにトルク発生型の軸受を設置することも可能である。
【0044】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。
【0045】
図6は、本発明の第2実施形態にかかる蓋体開閉構造の詳細構成を示す図で、鍵盤楽器1−2の側断面図である。本実施形態の蓋体開閉構造では、第1連結具31と本体部2との間に、第1連結具31に対して蓋体20を開位置へ移動する方向に付勢するような付勢力を生じるコイルバネ(弾性部材)60を取り付けている。コイルバネ60は、その一方の端部60aが第1連結具31に取り付けられており、他方の端部60bが側板6の内側面6cに取り付けられている。これにより、コイルバネ60は、本体部2と連結具31との間に張設されている。具体的には、本実施形態の第1軸支部33は、第1連結具31の本体部2側の端部31aよりも手前側(第2軸支部35に近い側)に設けられており、第1連結具31の端部31aは、第1軸支部33から離れた位置にある。そして、コイルバネ60の端部60aは、第1連結具31の端部31aに取り付けられている。また、コイルバネ60の第1連結具31側の端部60aは、本体部2側の端部60bよりも本体部2の前側の位置に固定されている、そして、コイルバネ60の引張力で蓋体20を開位置へ移動する方向に第1連結具31が付勢されるようになっている。
【0046】
本実施形態の蓋体開閉構造では、蓋体20が閉位置から開位置へ移動する際と、開位置から閉位置へ移動する際との両方において、コイルバネ60の引張力で蓋体20が開位置に向かう方向へ第1連結具31が付勢される。これにより、トルク発生型の軸受32,42による作用と相まって、本体部2と第1連結具31との間及び蓋体20と第1連結具31との間の相対的な回動に対する抵抗力が生じることで、蓋体20の開閉動作がゆっくりとしたものになる。したがって、蓋体20と本体部2との間に指などを挟むことをより効果的に防止できるようになる。また、万一、蓋体20と本体部2との間に指などを挟んだ場合でも、挟まれる力を軽減できるようになる。さらに、蓋体20の開閉動作において、蓋体20が急激に移動することを防止できるので、蓋体20の開閉動作をより安定させることができる。
【0047】
なお、コイルバネ60の第1連結具31に対する取付位置は、第1連結具31における第1軸支部33及び第2軸支部35以外の位置で、かつ、蓋体20を開位置へ移動する方向に付勢するような付勢力を生じる位置あれば、上記以外の位置であってもよい。また、本実施形態では、コイルバネ60を第1連結具31に取り付けた場合を示したが、蓋体20を開方向へ移動させるような付勢力を生じるためのコイルバネは、上記以外にも、第2連結具41と本体部2との間に取り付けることも可能である。
【0048】
また、本実施形態の蓋体開閉構造では、蓋体20の移動に対する抵抗力を発生するための抵抗力発生部として、さらに、第1連結具31と本体部2との間に設けた摩擦発生機構70を備えている。摩擦発生機構70は、側板6の内側面6cに取り付けた本体部2の前後方向に沿ってスライド移動するスライド部材71と、該スライド部材71と第1連結具31における屈曲部31cの近傍の側面とを回動自在に連結(リンク結合)してなるリンク部材72とを備えて構成されている。そして、スライド部材71は、前後方向へのスライド移動に伴って適宜の摩擦力を生じるように構成されている。これにより、蓋体20の開閉時に第1連結具31が移動することでスライド部材71が前後にスライド移動して、第1連結具31の移動に対する抵抗力を発生させるようになっている。
【0049】
そして、上記の摩擦発生機構70では、蓋体20の開位置及び閉位置とそれらの近傍に対応する位置で、第1連結具31の移動に対する大きな摩擦力が発生するように構成するとよい。このような摩擦発生機構70からなる抵抗力発生部によれば、蓋体20の開閉時に操作者に大きな負荷が掛かる開位置及び閉位置とそれらの近傍で、蓋体20の移動に対する抵抗力を発生させることが可能となる。したがって、蓋体20の開閉時に操作者にかかる負荷を効果的に低減することができる。また、蓋体20の開閉動作をより少ない力でスムーズに行えるようになる。また、蓋体20と本体部2との隙間に指などを挟むことをさらに効果的に防止できると共に、万一、指などを挟んだ場合でも、挟まれる力を軽減できるようになる。なお、上記の摩擦発生機構70からなる抵抗発生部を備えていれば、トルク発生型の軸受32,42は、それらの設置を省略することも可能である。
【0050】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、蓋体開閉構造を適用した鍵盤楽器1として、卓上型の鍵盤楽器を示したが、本発明にかかる蓋体開閉構造は、卓上型の鍵盤楽器以外にも、脚部を備えた自立型(大型)の鍵盤楽器などに適用することも可能である。
【0051】
また、上記の各実施形態では、蓋板20の幅方向の端部20dに設けた第2軸支部35及び第4軸支部45は、蓋板20の内面20cにおける後端部20a側に配置されている場合を示したが、第2軸支部35及び第4軸支部45は、蓋板20の幅方向(鍵5a,5bの配列方向)の端部20dに設けてさえいれば、上記実施形態に示す以外の場所に配置することも可能である。例えば、蓋板20の内面20cにおける後端部20aと前端部20bの中間位置や、蓋板20の幅方向の端面における後端部20a、又は後端部20aと前端部20bの中間位置などに設けてもよい。
【0052】
また、上記の各実施形態では、閉位置にある蓋板20の両端部(幅方向の両端部)20d,20dの内面20cが側板6の上端面6aに載置されるように構成した場合を示したが、これ以外にも、図示は省略するが、側板6の内側面6aに蓋止用の他の部材を取り付けておき、閉位置にある蓋板20の両端部(幅方向の両端部)20d,20dの内面20cが、この蓋止用の部材の上端面に載置されるように構成してもよい。この場合、側板6の内側面6aに取り付ける蓋止用の部材は、その上端面が側板6の上端面6aと平行かつ側板6の上端面6aに対して蓋板20の厚さ寸法分だけ低い位置となるように取り付けておけば、閉位置の蓋板20の外面(上面)と側板6の上端面6aとを同一の高さ位置で連続する一の面内に配置することができる。これにより、蓋板20を閉じた状態の鍵盤楽器の外観を良好にすることができる。
【0053】
また、上記の各実施形態では、第2軸支部35と第4軸支部45を支持するための取付板34が、蓋板20の端部20dの内面20cに取り付けられている場合を示したが、これ以外にも図示は省略するが、上記の取付板34に代わる他の取付板を蓋板20の内面20cではなく幅方向(鍵の配列方向)の端面(外側面)に取り付けるようにしてもよい。その場合は、蓋板20の幅方向の端面とそれに対向する側板6の内側面6cとの隙間に上記の取付板がおさまるように構成する。あるいは、蓋板20の幅方向の端面を若干窪ませておき、その部分に上記の取付板を固定すれば、閉位置の蓋板20及び側板6に上記の取付板が干渉せずに済む。また、蓋板20の幅方向の端面に、蓋板20の外面側(上面側)よりも内面側(下面側)の方が一段内側(幅方向の内側)に下がった位置となるような段部を形成しておき、当該段部の下がった位置に取付板を取り付けるようにすれば、蓋板20を閉じた状態で、取付板の端部(端辺)が蓋板20の外面(上面)側に露出せずに済むので、蓋板20を閉じた状態の鍵盤楽器の外観を良好にすることができる。
【符号の説明】
【0054】
1・・・鍵盤楽器、2・・・本体部、5・・・鍵盤、6・・・側板、6c・・・内側面、10・・・ケース、20・・・蓋体、20a・・・後端部、20b・・・前端部、20c・・・内面(鍵盤5側の面)、20d・・・端部(鍵の配列方向の端部)、30・・・連結機構、31・・・第1連結具、33・・・第1軸支部、35・・・第2軸支部、37・・・ストッパ部、41・・・第2連結具、43・・・第3軸支部、45・・・第4軸支部、51・・・譜面受け、55・・・パネル部材、55b・・・パネル面、60・・・コイルバネ(弾性部材)70・・・摩擦発生機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、該ケース内に設置された複数の鍵からなる鍵盤と、を有する本体部と、
前記ケースに対して前記鍵盤の上方を閉じる閉位置と該鍵盤の上方を開く開位置との間で移動可能となるように取り付けられた板状の蓋体と、
前記ケースにおける前記鍵盤の側部に配置した側壁部と、それに対向する前記蓋体における前記鍵の配列方向の端部とを連結してなる連結機構と、を備えた鍵盤楽器の蓋体開閉構造であって、
前記連結機構は、
前記側壁部と前記蓋体の前記端部との間に連結された互いの長さが異なる長尺板状の第1連結具と第2連結具とを備え、
前記第1連結具は、その一端が前記側壁部に設けられた第1軸支部に軸支されており、他端が前記蓋体の前記端部に設けられた第2軸支部に軸支されており、
前記第2連結具は、その一端が前記側壁部に設けられた第3軸支部に軸支されており、他端が前記蓋体の前記端部に設けられた第4軸支部に軸支されており、
前記第1軸支部及び前記第3軸支部は、前記本体部に対する相対位置が固定された固定側の回動支点であり、前記第2軸支部及び前記第4軸支部は、前記本体部に対して相対的に変位可能な移動側の回動支点であり、
前記蓋体が前記閉位置から前記開位置へ移動する間に、前記第2軸支部と前記第4軸支部の軌跡が互いに交差し、かつ、前記蓋体の後端部が前記本体部の後方から前方へ移動するように構成した
ことを特徴する鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項2】
ケースと、該ケース内に設置された複数の鍵からなる鍵盤と、を有する本体部と、
前記ケースに対して前記鍵盤の上方を閉じる閉位置と該鍵盤の上方を開く開位置との間で移動可能となるように取り付けられた板状の蓋体と、
前記ケースにおける前記鍵盤の側部に配置した側壁部と、それに対向する前記蓋体における前記鍵の配列方向の端部とを連結してなる連結機構と、を備えた鍵盤楽器の蓋体開閉構造であって、
前記連結機構は、
前記側壁部と前記蓋体の前記端部との間に連結された互いの長さが異なる長尺板状の第1連結具と第2連結具とを備え、
前記第1連結具は、その一端が前記側壁部に設けられた第1軸支部に軸支されており、他端が前記蓋体の前記端部に設けられた第2軸支部に軸支されており、
前記第2連結具は、その一端が前記側壁部に設けられた第3軸支部に軸支されており、他端が前記蓋体の前記端部に設けられた第4軸支部に軸支されており、
前記第1軸支部及び前記第3軸支部は、前記本体部に対する相対位置が固定された固定側の回動支点であり、前記第2軸支部及び前記第4軸支部は、前記本体部に対して相対的に変位可能な移動側の回動支点であり、
前記蓋体が前記閉位置から前記開位置へ移動する間に、前記本体部に対する前記第2軸支部と前記第4軸支部との上下又は前後の少なくともいずれかの位置関係が逆転し、かつ、前記蓋体の後端部が前記本体部の後方から前方へ移動するように構成した
ことを特徴する鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項3】
ケースと、該ケース内に設置された複数の鍵からなる鍵盤と、を有する本体部と、
前記ケースに対して前記鍵盤の上方を閉じる閉位置と該鍵盤の上方を開く開位置との間で移動可能となるように取り付けられた板状の蓋体と、
前記ケースにおける前記鍵盤の側部に配置した側壁部と、それに対向する前記蓋体における前記鍵の配列方向の端部とを連結してなる連結機構と、を備えた鍵盤楽器の蓋体開閉構造であって、
前記連結機構は、
前記側壁部と前記蓋体の前記端部との間に連結された互いの長さが異なる長尺板状の第1連結具と第2連結具とを備え、
前記第1連結具は、その一端が前記側壁部に設けられた第1軸支部に軸支されており、他端が前記蓋体の前記端部に設けられた第2軸支部に軸支されており、
前記第2連結具は、その一端が前記側壁部に設けられた第3軸支部に軸支されており、他端が前記蓋体の前記端部に設けられた第4軸支部に軸支されており、
前記第1軸支部及び前記第3軸支部は、前記本体部に対する相対位置が固定された固定側の回動支点であり、前記第2軸支部及び前記第4軸支部は、前記本体部に対して相対的に変位可能な移動側の回動支点であり、
前記蓋体が前記閉位置から前記開位置へ移動する間に、前記第1連結具の両端それぞれに設けた前記第1軸支部と前記第2軸支部とを結ぶ直線と、前記第2連結具の両端それぞれに設けた前記第3軸支部と前記第4軸支部とを結ぶ直線とが常に非平行な状態であり、かつ、前記蓋体の後端部が前記本体部の後方から前方へ移動するように構成した
ことを特徴する鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項4】
前記第1軸支部と前記第3軸支部は、前記本体部に対する前後方向の位置を互いに異ならせて配置されており、かつ、前記第2軸支部と前記第4軸支部は、前記蓋体の面に沿ってその前後方向の位置を互いに異ならせて配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項5】
前記蓋体が前記開位置にある状態で、前記第1連結具と前記第2連結具の少なくともいずれかに当接してその前方への移動を停止させるストッパ部を備え、
前記開位置における前記蓋体は、その後端部が前端部よりも前記本体部の前側に位置するように傾斜した状態で、該本体部の上面に立設される
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項6】
前記本体部の上面側における前記鍵盤の後側に配置されたパネル面と、
前記蓋体の内面に設けた軸部で回転自在に支持されて、前記蓋体が前記閉位置にある状態で前記パネル面に対向するように配設された板状の譜面受けと、を備え、
前記蓋体が前記閉位置へ移動する際に、前記譜面受けの自由端が前記パネル面に当接して該譜面受けが前記蓋体の内面に沿う位置へ畳まれるようにした
ことを特徴とする請求項5に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項7】
前記第1連結具と前記第2連結具の少なくともいずれかと前記本体部又は前記蓋体との間に、前記蓋体を開位置へ移動する方向に付勢するような付勢力を生じる弾性部材を取り付けた
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。
【請求項8】
前記第1連結具又は前記第2連結具の少なくともいずれかと前記本体部又は前記蓋体との間に、前記本体部又は前記蓋体と前記第1連結具又は前記第2連結具との相対的な回動に対する抵抗力を発生する抵抗力発生部を設けた
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の蓋体開閉構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19970(P2013−19970A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151237(P2011−151237)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】