説明

鍵盤楽器の鍵盤支持装置

【課題】 棚板が反っても、従来の煩雑な削り作業や整調作業を行うことなく、鍵盤を所定の高さに調整することができる鍵盤楽器の鍵盤支持装置を提供する。
【解決手段】 鍵盤21を載置し、支持する鍵盤楽器の鍵盤支持装置Aであって、木質板で構成された棚板1上に設けられた筬2によって、複数の鍵21a,21bを有する鍵盤21を支持し、この筬2を載置する載置部3が、棚板1に上下方向に移動自在に設けられている。また、棚板1に、載置部3の高さを調整する調整機構6,6,7が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤を載置し、支持する鍵盤楽器の鍵盤支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鍵盤楽器、例えばグランドピアノの棚板は、上下両面が平らな木質板で構成されるとともに、側板の左右前部の下面間に水平に渡され、これに固定されており、この棚板の上面には、筬を介して、鍵盤、アクションやハンマーが載置され、支持されている。また、棚板は、木製で左右方向に長いので、吸湿や鍵盤などの重量に起因して、左右方向に沿って反りやすい。特に、棚板の前部は、補強用の棚板補強やピアノの脚などが設けられていないので、左右方向に沿って反りやすく、その場合には、中音域において、棚板に載置された鍵の沈み深さが大きくなるなどのために、音域によってタッチ感がばらつき、スムーズな演奏が行えなくなる場合がある。このため、棚板が反った場合、棚板の上面を平らにするための削り作業を行うとともに、鍵の高さ、鍵とアクションとの高さ関係やそれらの働きを整える整調作業が行われている。
【0003】
このため、上記のような棚板の反りを防止する鍵盤支持装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この鍵盤支持装置では、棚板の下面の前部に、左右方向に延びる補強用の補強金具が埋め込まれており、それにより、棚板の反りを防止するようにしている。
【0004】
しかし、上記従来の鍵盤支持装置では、補強金具が棚板の下面にのみ埋め込まれているので、棚板を十分に補強できず、棚板の上面側が部分的に反るおそれがある。その場合には、上述した非常に煩雑な削り作業や整調作業を行わなければならなくなってしまう。
【0005】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、棚板が反っても、従来の削り作業や整調作業を行うことなく、鍵盤を所定の高さに容易に調整することができる鍵盤楽器の鍵盤支持装置を提供することを目的とする。
【0006】
【特許文献1】特開2001−312271号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る鍵盤楽器の鍵盤支持装置は、木質板で構成された棚板と、棚板上に設けられ、複数の鍵を有する鍵盤を支持する筬と、棚板に上下方向に移動自在に設けられるとともに、筬を載置する載置部と、棚板に設けられ、載置部の高さを調整する調整機構と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この鍵盤楽器の鍵盤支持装置によれば、木質板で構成された棚板上に筬が設けられ、この筬に鍵盤が支持されている。また、筬は載置部に載置されており、この載置部は、棚板に上下方向に移動自在に設けられており、載置部の高さが調整機構によって調整される。したがって、棚板が反った場合でも、載置部の高さを調整することによって、載置部の上に載置される筬の高さ、さらには筬に支持される鍵盤の高さを、所定の高さに調整することができる。したがって、棚板が反った場合でも、鍵盤と他の部品との高さ関係やそれらの働きを良好に維持でき、それにより、従来行われていた煩雑な削り作業や整調作業が不要になる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置において、載置部は、棚板の前端部に設けられていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、載置部が棚板の前端部に設けられている。前述したように、棚板の前端部は特に反りやすいので、そのような前端部に載置部を設け、その高さを調整することによって、請求項1の効果をより有効に得ることができる。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置において、調整機構は、載置部の高さを鍵の並び方向の互いに異なる位置においてそれぞれ調整する複数の調整機構で構成されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、複数の調整機構によって、載置部の高さを、鍵の並び方向の互いに異なる位置においてそれぞれ調整する。これにより、載置部の高さを、鍵の並び方向できめ細かく調整することによって、鍵盤と他の部品との高さ関係やそれらの働きをより良好に維持できる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置において、調整機構は、載置部に上下方向に移動不能に連結されるとともに、棚板に上下方向に進退自在にねじ込まれた調整ねじを有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、調整ねじを棚板に上下方向に進退させると、載置部がこの調整ねじと一緒に上下方向に移動し、それにより、載置部の高さが調整される。このように、構成が比較的単純な調整ねじを用いて、載置部の高さの調整を、容易にかつ無段階で精度良く行うことができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置において、載置部は、鍵の並び方向に延びる金属板で構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、載置部が鍵の並び方向に延びる金属板で構成されており、その剛性が高いので、載置部自身の撓みが小さく、したがって、載置部の高さをさらに容易に調整することができる。また、木材と異なり、反りなどの経時的な変形も非常に小さいので、調整した載置部の高さを維持することができる。
【0017】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置において、載置部に前後方向の複数の個所においてスライド自在に係合し、載置部の上下方向の移動を案内するガイドをさらに備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、載置部の前後方向の複数の個所において、ガイドがスライド自在に係合しており、載置部の高さを調整するために載置部を上下方向に移動させる際、その移動をこのガイドが案内するので、載置部が前後方向に傾くのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態による鍵盤楽器の鍵盤支持装置について説明する。図1は、この鍵盤支持装置Aを、その上に載置された鍵盤21などとともに示している。
【0020】
図1および図2に示すように、鍵盤支持装置Aは、鍵盤21などを支持する棚板1と、棚板1上に設けられ、鍵盤21を支持する筬2と、棚板1に上下方向に移動自在に設けられ、筬2を載置する載置部3と、載置部3の高さを調整するための左右の調整機構6,6および中央の調整機構7とを備えている。棚板1は、ラワン合板などの木質板で構成され、図2に示すように、左右方向に長い横長の矩形状に形成されている。また、棚板1は、側板(図示せず)の左右前部の下面間に水平に渡され、側板に固定されている。
【0021】
筬2は、スプルスなどの複数の木材を井桁状に組み立てたものであり、左右方向に延びる筬前2a、筬中2bおよび筬後2cなどで構成されている。筬中2bには、多数のバランスピン25が立設されており、これらのバランスピン25に、白鍵21aおよび黒鍵21bが、左右方向に並んだ状態で、揺動自在に支持されている。
【0022】
また、図1に示すように、棚板1には、多数の白鍵21aおよび黒鍵21bから成る鍵盤21、アクション22やハンマー23が、筬2を介して載置され、支持されている。離鍵状態では、白鍵21aおよび黒鍵21bの後端部が、筬後2cに載置されている。白鍵21aおよび黒鍵21bの前端部(図1の右端部)は、離鍵状態では筬前2aに対向し、押鍵時には筬前2aに当接する。
【0023】
また、筬2の左右端部には、ブラケット29,29がそれぞれ取り付けられており(一方のみ図示)、これらのブラケット29,29に、アクション22のウィッペン26を支持するウィッペンレール27や、ハンマー23を支持するハンマーシャンクレール28が設けられている。
【0024】
載置部3は、棚板1の上面の前端部の所定位置に形成された収容凹部1aに収容されている。この収容凹部1aは、棚板1の左右方向の幅のほぼ全体にわたって延び、矩形状に形成され、所定の前後方向の幅および深さを有している。また、載置部3は、収容凹部1aとほぼ同じサイズのベース板4と、その上面全体に貼り付けられた化粧板5で構成されている。ベース板4は、金属板、例えば鉄板で構成され、化粧板5は、例えばスプルースなどの単板で構成されており、この化粧板5上に筬前2aが載置されている。
【0025】
左右の調整機構6,6は、棚板1の前端部の左右の端部に設けられ、それぞれの位置において載置部3の高さを調整するものである(図2参照)。図3に示すように、各調整機構6は、載置部3のベース板4の下面に設けられた軸受け8と、その下側に設けられた鬼目ナット9と、鬼目ナット9にねじ込まれた調整ねじ10と、上下のガイド11,12を有している。なお、図3では、便宜上、ハッチングを省略する。
【0026】
軸受け8は、金属製の直方体状のものであり、ベース板4の前後方向の中央に一体に設けられ、下方に突出している。軸受け8の下面には、上下方向に延びる円柱状の挿入穴8aが形成されている。軸受け8の前壁および後壁には、ねじ孔8b,8bが互いに対向するように形成されており、各ねじ孔8bには、連結ねじ13がねじ込まれている。
【0027】
鬼目ナット9は、棚板1に形成された孔1bに、上下方向に延びるように設けられている。この孔1bは、収容凹部1aに連なるように形成されており、その下端に連なるように、下方に開放する凹部1cが設けられている。
【0028】
調整ねじ10は、凹部1cを介して鬼目ナット9にねじ込まれており、軸受け8の挿入穴8aに嵌合している。また、調整ねじ10の上端部には、周方向に連続する周溝10aが形成されており、この周溝10aに連結ねじ13,13が係合している。また、軸受け8と収容凹部1aの底面との間には、調整ねじ10の軸部を取り囲むようにコイルばね14が設けられている。
【0029】
上ガイド11は、前後一対で構成され、ベース板4の下面の前後の端部にそれぞれ取り付けられている。各上ガイド11は、側面形状がL字形に形成されており、壁部11aが下方に延びている。下ガイド12も前後一対で構成され、収容凹部1aの底面の前後の端部にそれぞれ取り付けられている。各下ガイド12は、側面形状がL字形に形成されており、壁部12aが上方に延びている。前後の上ガイド11,11は、その壁部11aおよび下ガイド12の壁部12aを介して、前後の下ガイド12,12に上下方向にスライド自在に係合している。
【0030】
以上の調整機構6の構成により、ドライバーで調整ねじ10を回すと、調整ねじ10は、棚板1に対して上下方向に移動する。また、軸受け8のねじ孔8b,8bにねじ込まれるとともに、調整ねじ10の周溝10aに係合する連結ねじ13,13によって、調整ねじ10が軸受け8に回転可能かつ上下方向に移動不能に連結されているため、上下方向に移動する調整ねじ10と一緒に載置部3が上下方向に移動する。これにより、調整ねじ10を回すことによって、載置部3の高さを調整することができる。また、このときの載置部3の上下方向の移動は、上下のガイド11,12によって案内される。また、載置部3のガタツキは、コイルばね14によって防止される。
【0031】
前記中央調整機構7は、棚板1の前端部の中央に設けられている。図4に示すように(便宜上、ハッチングは省略)、この中央調整機構7の構成は、基本的に左右の調整機構6,6と同じであり、その相違点は、軸受け15が単純な直方体状に形成されていることと、その下面に調整ねじ16の上端が単純に当接していることのみである。したがって、左右の調整機構6,6によって載置部3の高さを調整した後、調整ねじ16を回すことによって、載置部3の中央の撓みを矯正しながら、所定の高さに調整することができる。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、棚板1が反った場合でも、3つの調整機構6,6,7で載置部3の高さを調整することによって、載置部3上に載置される筬前2aの高さ、さらには筬2に支持される鍵盤21の高さを、所定の高さに調整することができる。したがって、棚板1が反った場合でも、鍵盤21とアクション22やハンマー23との高さ関係やそれらの働きを良好に維持でき、それにより、従来行われていた煩雑な削り作業や整調作業が不要になる。また、特に反りやすい棚板1の前端部において載置部3の高さを調整するので、上記の効果をより有効に得ることができる。さらに、調整機構6,6,7によって、載置部3の高さを、左右の端部および中央部においてきめ細かく調整することで、鍵盤21とアクション22やハンマー23との高さ関係やそれらの働きをより良好に維持できる。また、調整ねじ10によって載置部3の高さを調整するので、この調整を容易にかつ無段階で精度良く行うことができる。
【0033】
さらに、載置部3のベース板4が金属板で構成されているので、載置部3自身の撓みが小さく、したがって、載置部3の高さをさらに容易に調整することができる。また、木材と異なり、経時的な変形も非常に小さいので、調整した載置部3の高さを維持することができる。さらに、互いにスライド自在に係合する前後の上ガイド11,11および下ガイド12,12によって、載置部3の上下方向の移動を案内するので、載置部3が前後方向に傾くのを防止することができる。また、左右方向に長い単一の載置部3を用いるので、複数の載置部3を用いる場合と比較して、その高さを一時に容易に調整することができる。
【0034】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、載置部3として単一のものを用いたが、これを左右方向に分割して複数、設けてもよい。また、実施形態では、載置部3の高さの調整を、反りの生じやすい棚板1の前端部において行っているが、前端部以外の適当な部分において行ってもよい。例えば、筬中2bや筬後2cは、鍵21a、21bを直接的に支持または載置する部分であるので、これらの位置で載置部3の高さを調整することによって、本発明の効果をより有効に得ることができる。その他、ウィッペン26およびハンマー23を支持するブラケット29,29が載置される部分でもよい。
【0035】
さらに、実施形態では、調整機構として左右および中央の計3つの調整機構6,6,7を用いたが、その数を増減することは任意である。また、実施形態では、調整機構6を、調整ねじ10などで構成したが、この構成は、載置部3の高さを棚板1と独立して調整できるものであれば、任意である。さらに、本実施形態は、本発明をグランドピアノに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、他の鍵盤楽器、例えばアップライトピアノなどに適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による鍵盤支持装置を鍵盤などとともに示す側面図の一部を破断した図である。
【図2】鍵盤支持装置の平面図である。
【図3】図1の部分拡大図である。
【図4】図2の線α−αに沿う断面図を筬などとともに示す図である。
【符号の説明】
【0037】
A 鍵盤支持装置
1 棚板
2 筬
3 載置部
6 調整機構
7 調整機構
11 上ガイド
12 下ガイド
21 鍵盤
21a 白鍵
21b 黒鍵

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質板で構成された棚板と、
当該棚板上に設けられ、複数の鍵を有する鍵盤を支持する筬と、
前記棚板に上下方向に移動自在に設けられるとともに、前記筬を載置する載置部と、
前記棚板に設けられ、前記載置部の高さを調整する調整機構と、
を備えることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤支持装置。
【請求項2】
前記載置部は、前記棚板の前端部に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置。
【請求項3】
前記調整機構は、前記載置部の高さを前記鍵の並び方向の互いに異なる位置においてそれぞれ調整する複数の調整機構で構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置。
【請求項4】
前記調整機構は、前記載置部に上下方向に移動不能に連結されるとともに、前記棚板に上下方向に進退自在にねじ込まれた調整ねじを有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置。
【請求項5】
前記載置部は、前記鍵の並び方向に延びる金属板で構成されていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置。
【請求項6】
前記載置部に前後方向の複数の個所においてスライド自在に係合し、前記載置部の上下方向の移動を案内するガイドをさらに備えることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の鍵盤楽器の鍵盤支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−285102(P2006−285102A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107869(P2005−107869)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)