説明

鍵盤楽器の鍵盤錘

【課題】錘に代替できる鉛、水銀等有害金属を除いて比重が高くしかも安価に入手できる回収材料の活用、及び鍵盤埋設孔に単に押込むだけで確実に固定するための錘の形状。
【解決手段】材料については、タングステンカーバイトの粉体20以上重量%、バインダー樹脂2〜20重量%、銅、ニッケル、鉄等の粉体とその他不可避成分と合わせて残分として混錬成型した鉛の比重に近いかそれ以上の鉛水銀等有害金属を除いた鍵盤錘。錘の形状については、前述の材料に関わりなく、ネジ山のピッチ角が45°以上の複数条のネジ山を錘の外周に設けたもので押込みによって自動的に鍵盤錘埋設孔2a,2bに捻じ込まれるようにしたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、:鍵盤楽器の鍵盤に関し、特に鍵盤タッチの重さ調節に用いられる錘が鉛以外材料で比較的鉛の比重に近いかそれ以上の錘材料を提供するものと、他の鉛以外の材料でも鍵盤埋設孔から脱落することのない錘の形状を提供するものを含んでいる。
【背景技術】
【0002】
一般に、ピアノなどの鍵盤楽器に於いて、鍵の重さは演奏者にとってタッチ感が微妙に演奏に影響する大切な要素であり、通常は楽器の種類,大きさ等によって鍵盤側面の鍵盤錘の数は1個から3個の埋設位置が標準的に予め定められている。
【0003】
鍵盤材料は一般に針葉樹系の木材が使用されている。アップライトピアノの場合、図1に例を示す様に,鍵1の回動支点(バランスピン3の底部)から後方部鍵盤側面の所定箇所に貫通する直径12mm程度の貫通孔2−1、2−2が設けられ、錘2a、2bは鉛が用いられている。(錘が2個の例図)グランドピアノは回動支点より手前が多い。この場合の錘の寸法はちなみに、直径12mm、長さ10.5mmである。
【0004】
従来の鉛錘は2a、2bを貫通孔に嵌合させた後にプレス手段によって鍵盤の両側面から圧縮の塑性変形をさせて,鍵盤錘が容易に脱落することがないように固定する。鉛は比較的柔らかい材料のため押型形状も簡単な花形等の凸部を有するもので十分に塑性変形を起こし脱落しないように出来た。このように永年鍵盤の錘は安価で比重が11.3と大きくその便利さ故に鉛が使用されてきた。
【0005】
しかしながら、鉛は人体や自然環境に有害な物質とされているために、環境保全の観点から鉛以外の材料が鍵盤錘用に数多く提案されてきた。
【0006】
特開2003−216141は高比重のタングステン粉体と銅、ニッケル、鉄、コバルト等の粉体を原材料としているために非常に高価であつた。
特開2003−150148は従来のブレス手段による錘の中央部拡径を利用するものではなく、錘の圧入に関して錘外周形状について提案している。通常鍵盤錘の脱落危険度は圧入方向とその反対方向に向かう抜け荷重を測定するが、両方ともほぼ等しいことが望ましい。この点で使用する鍵盤の材質は柔らかい針葉樹を使用しているために、所謂ボルトネジのようなもので鍵盤錘埋設孔に押込むと埋設孔の内壁に食い込むどころか、内壁を打ち破り簡単に脱落してしまう等の欠点がある。
【特許文献1】特開2003−216141
【特許文献2】特開2003−150148
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、鉛、水銀等有害金属を除く鍵盤楽器の鍵盤錘の材料としてコストの安い材料を見出すことが第1の課題。条件は比重が鉛に近いかそれ以上も可能なこと。
第2の課題は埋設孔に埋設し脱落することのない錘の外周形状を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1の発明は、回収材料としてのタングステンカーバイトが比較的安価に入手可能なことからこれらの金属の粉体または粒体と合成樹脂をブレンドした複合材料からなる鍵盤楽器の鍵盤錘を提供するものである。
【0009】
第2の発明は、錘の外形形状に関するもので、ネジ山のピッチ角度が45度以上の複数条のネジ山を設けたもので押込みによって自動的に鍵盤錘埋設孔2a,2bに捻じ込まれるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明の効果は比較的安価で容易に入手可能な回収材料を原料とすることにある。
【0011】
第2の発明は鍵盤側面の錘埋設孔の内側壁に食い込んだねじ部のために抜け強度はきわめて強く、振動による緩みもなくて鍵盤錘を鍵盤に脱落の恐れのなく固定することができる。もちろん楽器つくりの常識ではあるが錘埋設孔を穴あけする鍵盤材料は十分乾燥されたスプルース等針葉樹が使用されるため、乾湿による寸法変化も少なく従来の押込み方法よりはるかに強固に結合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の第1は表1のようにタングステンカーバイトはW2C(比重17.2)とWC(比重15.5)がよく知られている。これらの粉末と銅、鉄との混合により一例として、鉛の比重に近い組成についてそれぞれ重量割合を表にしたものである。たとえば、W2C粉体35%と銅粉体60%、バインダー樹脂5%wで比重11.4が得られる。WC粉体55%、鉄粉体40%バインダー樹脂5%
で比重11.73を得る。銅粉を増量材として使用した方がタングステンカーバイトの使用量が少なくてすむこととなる。銅及び鉄などは適宜比率の混合物を使用してもよく、回収原料には有害でない不可避の金属が含まれることがあるが、これらも含めて材料として
十分使用できる。鍵盤錘の寸法を現状維持したければ比重を極力鉛に近似すればよいし、さらに高比重にすれば現状寸法を小さくするか、同じ大きさで少ない数使用にするか選択出来ることとなる。
バインダー樹脂は熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれでも良い。
【0013】
【表1】

【0014】
本発明の第2は図2のように、円柱状の錘の外周に螺旋条のネジ山6を底面4に対して45度以上のピッチ角度を持って、複数条設けたものである。図2から図4までいずれも例図として4条ネジを示している。第2図、第3図は上面5と底面4は同一形状でどちらから押込んでも良いようにしてある。第2図の錘上面の平面図で中央に凹部5を設けたのは、この部分に押込み力が加わるようにすると、回転が抵抗なく自動的に回り、押込まれるためである。押込み用ビツトの側面形状8に示す。第3図の錘上面5、底面4は平面になっているが、この場合は押込み用ビット9は先端部が丸みを持っている。第4図はネジに頭部を設けて中央部7が凸部になるようにしてある。ここを押すことにより前述と同じ様に回転が自由になる。この場合は押込み用ビットの先端部形状10は平面でよい。第2図イ及び6、及び第3図ロ及び6はともに上面、底面に向かって山の高さが低くなるようになっている。第2図イ及び6は面取り加工のような形状、第3図は金型で低くなる様に成型されている。第4図は頭部を設けた所謂ネジ釘の形をしている。この場合は頭部7が鍵盤の埋設孔に入り込んで鍵盤側面から出ないように十分押込む必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0015】
第1はタングステンカーバイトの回収原料を基に鉛並以上の錘を製造できることは他の業界への波及も自然に浸透してゆくことが期待される。
第2はいずれも円柱状の外周に山形を形成するもので、金属の場合は所謂転造など一般にネジを大量に生産する機械を活用できるため、比較的安価に製造できる利点を有している。従来の鉛錘の様に押込みプレスに限ることなく、硬い金属、合成樹脂等幅広く材料を選択できる点も有利である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アップライトピアノの鍵盤および鍵盤錘の固定方法を示す説明図である。
【図2】第2の発明の実施例を示す図。右図は錘の側面図、中央図は錘の上面から見た平面図、左図は押込みビットの先端部側面図。
【図3】第2の発明の実施例を示す図。右、中央、左の各図は図2と同様。
【図4】第2の発明の実施例を示す図。右、中央、左の各図は図2と同様。
【符号の説明】
【0017】
1 鍵盤
2 鍵盤錘埋設孔(2−1,2−2)
2a,2b 鍵盤錘
3 バランスピン
4 錘の底面
5 錘の上面
6 ネジ山
7 錘頭部
8、9,10 押込みビットの先端部断面図
11,12,13 鍵盤錘を上面から見た平面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンカーバイトの紛体20以上重量%、バインダー樹脂2〜20重量%、銅、ニッケル、鉄等の粉体とその他不可避成分と合わせて残分として混錬成型した鉛の比重に近いかそれ以上の比重を有する鉛水銀等有害金属を除いた鍵盤楽器の鍵盤錘。
【請求項2】
円柱状の錘に螺旋条の山形形状を複数条形成して、円柱底面に対して螺旋条の傾斜角度が45度以上を有し、鍵盤楽器の鍵盤埋設孔に押込み手段によって自動的に回転力が生じて捻じ込むように固定したことを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤錘。
【請求項3】
前記請求項の2の鍵盤錘に於いて、少なくとも押込み方向に向かう面端螺旋部の山の高さが錘中央部の山の高さよりも低くなるようにして、埋設孔に押込み易くしたことを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤錘。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−91397(P2006−91397A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276392(P2004−276392)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(596083777)株式会社産業環境総合研究所 (3)