説明

鍵盤装置のハンマーアクション機構

【課題】押鍵に伴ってハンマーヘッドが打弦するハンマーアクション機構において、ハンマー取付工程の簡略化や取付精度の向上等を図る。
【解決手段】ハンマーシャンク32の他端を、シャンクレールに取り付けられたシャンクフレンジ30に蝶着する。この蝶着では、心棒Aに対して互いに2枚の羽根41、42が回動自在である蝶番40が用いられる。心棒Aとハンマーシャンク32の軸方向とが互いに直交するように、羽根41がシャンクフレンジ30に、羽根42がハンマーシャンク32の他端に、それぞれネジ止めされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤装置におけるハンマー取付工程の簡略化や取付精度の向上等を図った技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鍵盤装置を有するピアノでは、演奏者が鍵を押下すると、ハンマーシャンクが回動して当該ハンマーシャンクの一端に設けられたハンマーヘッドが打弦する。ここで、ハンマーシャンクとシャンクフレンジとは、予め形成された貫通孔にピンを挿通させた構成であり、これにより、ハンマーシャンクは、シャンクフレンジに対して回動自在となっている。
【特許文献1】特開2001−222282号公報(特に図2、図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ハンマーシャンクやシャンクフレンジは木製であるので、ハンマー取付工程が複雑化したり、取付精度が低下したりしやすい。ハンマーシャンクの回動性を確保するために、貫通孔の内側にはクロス(布)が貼り付けられるが、当該クロスの厚みが摩擦等により減少して、ハンマーの回動性に変化が生じやすい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的の1つは、ハンマー取付工程の簡略化や取付精度の向上等を図ることが可能な鍵盤装置のハンマーアクション機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明は、ハンマーシャンクと、前記ハンマーシャンクの一端に取り付けられたハンマーヘッドとを有し、前記ハンマーシャンクの他端が、シャンクレールに取り付けられたシャンクフレンジと蝶番を介して接合され、鍵の押下によって前記ハンマーシャンクが回動し、前記ハンマーヘッドが被打撃体を打撃することを特徴とする。本発明によれば、ハンマーシャンクやシャンクフレンジに貫通孔を形成したり、この貫通孔にピンを挿通したりする工程を省略することができる。また、貫通孔の内側にクロスを貼り付ける必要もないので、ハンマーの回動性に悪影響を与えることもない。
【0005】
本発明において、前記シャンクフレンジを廃して、前記ハンマーシャンクの他端を、前記シャンクレールに蝶着した構成としても良い。さらに、前記蝶番は、複数の羽根と共通羽根とが回動軸を中心に回動自在であり、前記複数の羽根の各々は、それぞれハンマーシャンクの他端に取り付けられ、前記共通羽根は、前記シャンクレールに取り付けられた構成としても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係るハンマーアクション機構を含む鍵盤装置の構成を示す要部断面図である。なお、図1は、グランドピアノを演奏位置からみたときを正面図としたときの左側面図である。したがって、図1において右側が演奏者からみて手前側となり、図において左側が奥側となる。
図1において、鍵1は、筬中3に対しバランスピン5により揺動自在に支持されるとともに、右側に位置する演奏者によって押下される。なお、鍵1は、紙面の表裏方向にわたって88個並設されて、これにより鍵盤装置が構成されている。
【0007】
鍵1の上方には、弦Sが図において水平方向に張られている。この弦Sと鍵1との間に、鍵1の押下によって弦を打撃するハンマーアクション機構20が設けられている。そこで以下、このハンマーアクション機構20について説明する。
【0008】
サポートレール21およびシャンクレール22は、紙面の表裏方向にわたって、すなわち、88鍵の配列方向にわたって延在するように設けられた固定部材である。このうち、サポートレール21の端部には、鍵1の延設方向に沿って配設された長手形状のウイペン23の奥側端部がピン24により回動自在に結合されている。ウイペン23の自由端である手前側端部には、ジャック大25aとジャック小25bとからなる略L字状のジャック25が、その屈曲部近傍部分において回動自在にピン結合されている。ウイペン23において、長手方向の中央やや手前方寄りの部分が、鍵1から上方に延びるキャプスタン26に支持され、鍵1が押下されると、上方に突き上げられるようになっている。
【0009】
ウイペン23の中央部には上方に延びるレバーフレンジ27が固定されており、このレバーフレンジ27の上端部には、レペティションレバー28の中間部が回動自在にピン結合されている。なお、レペティションレバー28は、ウイペン23およびレバーフレンジ27に対してスプリングにより反時計回りの方向に付勢されているが、その付勢は、レペティションレバー28の奥側端部に設けられたレペティションレバーボタンがウイペン23に当接することによって制限されている。
一方、レペティションレバー28の手前側端部には、その長手方向に沿って上下方向に貫通する長孔28aが形成されており、この長孔28aに、ジャック大25aの上端部が遊挿されている。
【0010】
また、シャンクレール22の上面には、鍵1毎にシャンクフレンジ30がフレンジスクリュー30aによってネジ止めされている。このシャンクフレンジ30の奥側には、押鍵時にレペティションレバー28の回動を制限するためのレギュレーティングスクリュー38が設けられている。
さらに、シャンクレール22には、このシャンクレール22に沿ってレギュレーティングレール35が固定されている。このレギュレーティングレール35の下面には、上下方向に位置調整可能とされたレギュレーティングボタン36が設けられている。このレギュレーティングボタン36の下端面には、ジャック小25bの先端部が当接するクッション36aが取り付けられている。
なお、鍵1の奥側には、ハンマーヘッド33に向かうバックチェック37が取り付けられている。
【0011】
ハンマー31は、ハンマーシャンク32と、当該ハンマーシャンク32の一端側に固定されたハンマーヘッド33とを含む。ハンマーシャンク32の他端側、すなわちシャンクフレンジ30への結合部分側の下面には、ハンマーローラー34が装着されている。このハンマーローラー34の下面は、ジャック大25aの上端面との間に僅かな隙間があいた状態で、レペティションレバー28の上面に当接している。
一方、ハンマーシャンク32の他端は、シャンクフレンジ30に対して蝶着されている。
【0012】
図2は、ハンマーシャンク32とシャンクフレンジ30との蝶着を説明するための図であり、図3は、蝶着された状態を示す斜視図である。
これらの図に示されるように、ハンマーシャンク32の他端は、心棒Aに対して互いに2枚の羽根41、42が回動自在である蝶番40を介してシャンクフレンジ30に蝶着されている。詳細には、心棒Aとハンマーシャンク32の軸方向とが互いに直交するように、一方の羽根41がシャンクフレンジ30に、他方の羽根42がハンマーシャンク32の他端に、それぞれネジ止めされた構成となっている。これにより、ハンマーシャンク32は、シャンクフレンジ30に対し芯棒Aを中心にして回動自在となっている。
なお、図2および図3では、説明の便宜のために、ハンマーシャンク32の一端に取り付けられるハンマーヘッド33を省略した状態となっている(後述する図4乃至図6においても同様である)。
【0013】
この構成のハンマーアクション機構20において、鍵1が押下にされると、当該鍵1は、バランスピン5の支点を中心にして図において時計回りに回動し、これにより、ウイペン23が、キャプスタン26により突き上げられ、ジャック25およびレペティションレバー28とともにピン24を中心として反時計回りに回動する。この回動によってハンマーローラー34がジャック大25aの上端部によって突き上げられ、ハンマーシャンク32が軸Aを中心に時計回りの方向に回動し、これにより、ハンマーヘッド33が、押鍵された鍵1に対応する弦Sを打撃して、その鍵1に応じた楽音が発せられる。
【0014】
押鍵時に、ウイペン23およびレペティションレバー28が反時計回りに回動する途中において、レペティションレバー28の前側端部がレギュレーティングスクリュー38に当接すると、レペティションレバー28の回動が停止する一方、この回動停止とほぼ同時にウイペン23のジャック小25bの先端がレギュレーティングボタン36のクッション36aに当接する。これにより、ジャック25が時計回りに回動し始めて、ジャック大25aの上端部が図において右側に移動してハンマーローラー34から脱進する。
なお、ハンマーヘッド33は、弦Sを打撃すると、その反動と自重とにより下方に回動する。押下状態にある鍵1は時計回りに回動して、これにより、バックチェック37が演奏者側に移動しているので、下方に回動したハンマーヘッド33は、当該バックチェック37によって咬持される。
【0015】
一方、鍵1が離されると、すなわち、離鍵されると、鍵1がバランスピン5の支点を中心にして図において反時計回りに回動する。この回動に伴ってバックチェック37がハンマーヘッド33を開放するとともに、ウイペン23が自重によってピン24を中心として時計回りに回動する。この回動により、ジャック小25bがレギュレーティングボタン36(クッション36a)から徐々に離れて、ジャック25が反時計回りに回動し、ジャック大25aが回転してハンマーローラー34の真下へ移動して再び当接し、押鍵前の初期状態に戻る。
【0016】
ところで、従来では図6に示されるように、シャンクフレンジ30においてハンマーシャンク32の取り付ける側を凸状に形状加工するとともに、貫通孔30bを設ける一方、ハンマーシャンク32の他端を、二股に分かれたU字状に形状加工して、シャンクの軸方向とは直交する方向に貫通孔32bを設ける。そして、貫通孔30a、32bにセンターピン45を挿通して、シャンクフレンジ30に対してハンマーシャンク32が回動自在となるように構成されていた。
しかしながら、ハンマーシャンク32をシャンクフレンジ30に取り付ける工程が複雑化したり、貫通孔の加工性が悪ければ、取付精度が低下したりしてしまう。また、貫通孔30bの内面にはクロスが貼り付けられるが、擦り切れが発生して、当該クロスの厚み管理が困難となるだけでなく、ハンマーの回動性に悪影響が生じやすい点は上述した通りである。
【0017】
これに対して本実施形態では、シャンクフレンジ30に対してハンマーシャンク32を蝶番40によって取り付けるので、ハンマーシャンク32やシャンクフレンジ30に対する形状加工が不要となるだけでなく、取付精度も向上させることができる。さらに、蝶番40における心棒Aで回動させるので、クロス等が不要となり、厚みを管理する必要もなくなる。また、ハンマーシャンク32の回動性は、蝶番30の心棒Aに対する羽根41、42の摩擦で決まるので、ハンマーの回動性に与える影響を小さくを抑えることも可能となる。
【0018】
上述した実施形態では、シャンクレール22にねじ止めされたシャンクフレンジ30にハンマーシャンク32を蝶着したが、図4に示されるように、シャンクフレンジ30を廃して、シャンクレール22に直接、ハンマーシャンク32を蝶着した構成とした構成としても良い。この構成によれば、シャンクフレンジ30が不要となるので、取付工程をより簡易化することが可能となる。
なお、シャンクフレンジ30を廃するのに合わせて、シャンクレール22を、レギュレーティングレール35からハンマーシャンク32の取付側に延長した形状に変更する必要がある。また、シャンクフレンジ30を廃する場合、特に図示しないが、シャンクレール22の下面側に、レギュレーティングスクリュー38が鍵1毎に設けられる。
【0019】
また、上述した実施形態では、1つのハンマーシャンク32を1つの蝶番40によってシャンクフレンジ30(またはシャンクレール22)に取り付けたが、蝶番40では、羽根42だけが回動し、羽根41は固定されるので、図5に示されるように、固定側の羽根41を、複数の(図では3個の)ハンマーシャンク32にわたって共用する構成としても良い。
詳細には、図5において、蝶番40は、枝部が3つに分岐するとともに幹部がシャンクレール22にネジ止めされた羽根41(共通羽根)と、羽根41における3つの枝部に対してそれぞれ心棒Aを中心に回動する3つの羽根42とを有し、各羽根42に対して、それぞれハンマーシャンク32の他端がネジ止めされている。この構成により、3つのハンマーシャンク32が1ユニットとしてシャンクレール22に取り付けることができるので、さらなる取付工程の簡易化や精度向上を図ることができる。
【0020】
なお、図5では、3つのハンマーシャンク32を1つの蝶番40で取り付ける構成であったが、さらなる取付工程の簡易化や精度向上を図る場合には、蝶番40における枝部が2以上であれば良い。
【0021】
また、上述した実施形態にあっては、アコースティックのグランドピアノを例にとって説明したが、本発明は、いわゆるサイレントピアノにも適用可能である。サイレントピアノに適用する場合には、弦Sの代わりに、減衰材などを被打撃部材としてハンマーヘッド33が打撃する構成となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施形態に係るハンマーアクション機構を含む鍵盤装置の構成を示す図である。
【図2】ハンマーアクション機構におけるハンマーシャンクの取付工程を示す図である。
【図3】ハンマーアクション機構におけるハンマーシャンクの取付部分を示す図である。
【図4】応用・変形例に係るハンマーシャンクの取付部分を示す図である。
【図5】別の応用・変形例に係るハンマーシャンクの取付部分を示す図である。
【図6】従来のハンマーシャンクの取付部分を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1…鍵、22…シャンクレール、30…シャンクフレンジ、31…ハンマー、32…ハンマーシャンク、33…ハンマーヘッド、40…蝶番、41、42…羽根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンマーシャンクと、前記ハンマーシャンクの一端に取り付けられたハンマーヘッドとを有し、
前記ハンマーシャンクの他端が、シャンクレールに取り付けられたシャンクフレンジと蝶番を介して接合され、
鍵の押下によって前記ハンマーシャンクが回動し、前記ハンマーヘッドが被打撃体を打撃する
ことを特徴とする鍵盤装置のハンマーアクション機構。
【請求項2】
前記シャンクフレンジを廃して、前記ハンマーシャンクの他端を、前記シャンクレールに蝶着した
ことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤装置のハンマーアクション機構。
【請求項3】
前記蝶番は、複数の羽根と共通羽根とが回動軸を中心に回動自在であり、
前記複数の羽根の各々は、それぞれハンマーシャンクの他端に取り付けられ、前記共通羽根は、前記シャンクレールに取り付けられた
ことを特徴とする請求項2に記載の鍵盤装置のハンマーアクション機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−300937(P2009−300937A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157965(P2008−157965)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)