説明

鍵盤装置のハンマーアクション機構

【課題】鍵盤装置のハンマーアクション機構において、バックチェックによる咬持の際に、ハンマーのテール部に割れや欠けなどの破損を生じにくくする。
【解決手段】ハンマーシャンク32の回動軸Aとは反対側の先端部に、基部332を取り付ける。基部332は、打弦方向とは反対側に延在するとともに、打弦後にバックチェックによって咬持されるテール部332bを含む。一方、ヘッド部331は、基部332とは別体であり、打弦方向に向かう軸に沿って基部332にダボ333を介して挿嵌される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤装置において、打撃後におけるハンマーのテール部の割れや欠けといった破損を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ピアノのような鍵盤装置のハンマーアクション機構では、演奏者が鍵を押下すると、ハンマーシャンクが回動して当該ハンマーシャンクの一端に設けられたハンマーヘッドが弦などの被打撃体を打撃する構成となっている。なお、このようなハンマーの構成については、例えば下記特許文献1にも記載されている。
【特許文献1】特開2001−222282号公報(特に図2、図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、グランドピアノを上面からみると、被打撃体である弦は、ハンマーシャンクの長軸、換言すれば鍵の延設方向に対して傾いて張設される。このため、ハンマーのヘッド部は、弦の張設方向に合致するように設けられるが、そのままでは、ハンマーのテール部がバックチェックの咬持面に対して傾くので、テール部は、バックチェックの咬持面とほぼ平行となるように形状加工される。
しかしながら、このように形状加工したテール部では、左右で肉厚が異なってしまうので、バックチェックによって咬持の際の衝撃によって割れや欠けなどの破損が生じやすい、という欠点があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的の1つは、バックチェックの咬持による衝撃によって割れや欠けなどの破損が生じにくい鍵盤装置のハンマーアクション機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明は、鍵の押下につれてハンマーシャンクが基端部の軸を中心に回動するとともに、前記ハンマーシャンクの基端部の反対側端部に設けられたヘッド部が被打撃体を打撃するハンマーアクション機構であって、前記ハンマーシャンクの反対側端部に取り付けられる基部を有し、前記基部は、前記被打撃体への打撃側とは反対側に延在するとともに、打撃後に押鍵状態にあるバックチェックによって咬持されるテール部を含み、前記ヘッド部は、前記被打撃体への打撃方向に向かう軸に沿って前記基部に挿嵌されることを特徴とする。本発明によれば、ヘッド部は、ハンマーシャンクの反対側端部に取り付けられた基部に対して、被打撃体への打撃方向に向かう軸に沿って挿嵌されるので、ハンマーシャンクの長軸に対して角度を持たせることができる。このとき、テール部は、ヘッド部の取付角度とは関係なく、シャンクの長軸に合致させることができるので、左右の肉厚を均一とすることが可能である。
【0005】
本発明において、前記ヘッド部は、前記被打撃体への打撃方向に向かう軸に沿って回動可能な状態で前記基部に挿嵌される構成としても良い。この構成によれば、ヘッド部が被打撃体に適切な角度で打撃するような調整が容易となる。さらに、この構成において、前記ヘッド部および前記基部の対向面に形成された孔に、それぞれダボの一端および他端を挿嵌しても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係るハンマーアクション機構を含む鍵盤装置の構成を示す要部断面図である。なお、図1は、グランドピアノを演奏位置からみたときを正面図としたときの左側面図である。したがって、図1において右側が演奏者からみて手前側となり、図において左側が奥側となる。
図1において、鍵1は、筬中3に対しバランスピン5により揺動自在に支持されるとともに、右側に位置する演奏者によって押下される。なお、鍵1は、紙面の表裏方向にわたって88個並設されて、これにより鍵盤装置が構成されている。
【0007】
鍵1の上方には、弦Sが図において水平方向に張られている。この弦Sと鍵1との間に、鍵1の押下によって弦を打撃するハンマーアクション機構20が設けられている。そこで以下、このハンマーアクション機構20について説明する。
【0008】
サポートレール21およびシャンクレール22は、紙面の表裏方向にわたって、すなわち、88鍵の配列方向にわたって延在するように設けられた固定部材である。このうち、サポートレール21の端部には、鍵1の延設方向に沿って配設された長手形状のウイペン23の奥側端部がピン24により回動自在に結合されている。ウイペン23の自由端である手前側端部には、ジャック大25aとジャック小25bとからなる略L字状のジャック25が、その屈曲部近傍部分において回動自在にピン結合されている。ウイペン23において、長手方向の中央やや手前方寄りの部分が、鍵1から上方に延びるキャプスタン26に支持され、鍵1が押下されると、上方に突き上げられるようになっている。
【0009】
ウイペン23の中央部には上方に延びるレバーフレンジ27が固定されており、このレバーフレンジ27の上端部には、レペティションレバー28の中間部が回動自在にピン結合されている。なお、レペティションレバー28は、ウイペン23およびレバーフレンジ27に対してスプリングにより反時計回りの方向に付勢されているが、その付勢は、レペティションレバー28の奥側端部に設けられたレペティションレバーボタンがウイペン23に当接することによって制限されている。
一方、レペティションレバー28の手前側端部には、その長手方向に沿って上下方向に貫通する長孔28aが形成されており、この長孔28aに、ジャック大25aの上端部が遊挿されている。
【0010】
また、シャンクレール22の上面には鍵1毎にシャンクフレンジ30がネジ止めされている。このシャンクフレンジ30の奥側には、押鍵時にレペティションレバー28の回動を制限するためのレギュレーティングスクリュー38が設けられている。
さらに、シャンクレール22には、このシャンクレール22に沿ってレギュレーティングレール35が固定されている。このレギュレーティングレール35の下面には、上下方向に位置調整可能とされたレギュレーティングボタン36が設けられている。このレギュレーティングボタン36の下端面には、ジャック小25bの先端部が当接するクッション36aが取り付けられている。
一方、鍵1の奥側には、ハンマーヘッド33に向かうバックチェック37が取り付けられている。
【0011】
ハンマー31は、ハンマーシャンク32と、当該ハンマーシャンク32の一端側に固定されたハンマーヘッド33とを含む。ハンマーシャンク32の基端側、すなわちシャンクフレンジ30への結合部分側の下面には、ハンマーローラー34が装着されている。このハンマーローラー34の下面は、ジャック大25aの上端面との間に僅かな隙間があいた状態で、レペティションレバー28の上面に当接している。
【0012】
次に、本実施形態におけるハンマー31の詳細について図2および図3を参照して説明する。図2は、ハンマー31を分解した状態の構成を示す斜視図であり、図3は、組み立てた後の状態の構成を示す斜視図である。
図2や、先の図1に示されるように、本実施形態におけるハンマー31のうち、ハンマーヘッド33は、ヘッド部331と基部332とダボ333との3ピースから構成される。このうち、ヘッド部331では、ウッド331aの打弦側となる上方においてフェルト331bが外周される一方、ウッド331aの下方では、円柱状のダボ333の一端が挿嵌される孔331cが形成されている。
【0013】
基部332は、柱形状の取付部332aと、当該取付部332aの奥側端部から舌状に下方に延在するテール部332bとからなる略L字状の部材であり、ウォールナットやマホガニーなど、木製厚板を糸鋸等によって切り抜いたものが用いられる。このため、テール部332bにおいては、左右方向の厚さが均等である。
取付部332aの手前側端面には孔332cが形成されて、ハンマーシャンク32の先端が、柱方向に沿って(切り抜き前の厚板表面に沿って)挿嵌される。また、基部332の上端面の奥側には孔332dが形成されて、ダボ333の他端が挿嵌される。
このため、ヘッド部331は基部332を介してダボ333に取り付けられることになる。
【0014】
グランドピアノでは、上側からみると図4に示されるように、ハンマーシャンク32の長軸方向32’と被打撃体である弦Sの張設方向とが所定の角度θで交差する。
ここで、図4において弦Sは、1鍵について1本のみ示されているが、通常、低音から高音にかけて1本から3本に段階的に増加するとともに、水平平行となるように張設される。ハンマー31において、フェルト331bの厚さ方向が弦Sの張設方向に対して垂直でない状態で打弦すると、ハンマーシャンク32の運動エネルギーを弦Sに効率良く伝達させることができないし、複数の弦を打撃する際に時間差が生じて発生楽音に悪影響を与えてしまう。このため、図3に示されるように、ヘッド部331を、弦Sの張設方向に合致するようにダボ333の軸Bを中心に回動しつつ挿嵌し、基部332に対して位置を決めて固定する。
【0015】
この構成のハンマーアクション機構20において、鍵1が押下にされると、当該鍵1は、バランスピン5の支点を中心にして図において時計回りに回動し、これにより、ウイペン23が、キャプスタン26により突き上げられ、ジャック25およびレペティションレバー28とともにピン24を中心として反時計回りに回動する。この回動によってハンマーローラー34がジャック大25aの上端部によって突き上げられ、ハンマーシャンク32が軸Aを中心に時計回りの方向に回動し、これにより、ハンマーヘッド33が、押鍵された鍵1に対応する弦Sを打撃して、その鍵1に応じた楽音が発せられる。
【0016】
押鍵時に、ウイペン23およびレペティションレバー28が反時計回りに回動する途中において、レペティションレバー28の前側端部がレギュレーティングスクリュー38に当接すると、レペティションレバー28の回動が停止する一方、この回動停止とほぼ同時にウイペン23のジャック小25bの先端がレギュレーティングボタン36のクッション36aに当接する。これにより、ジャック25が時計回りに回動し始めて、ジャック大25aの上端部が図において右側に移動してハンマーローラー34から脱進する。
なお、ハンマーヘッド33は、弦Sを打撃すると、その反動と自重とにより下方に回動する。押下状態にある鍵1は時計回りに回動して、これにより、バックチェック37が演奏者側に移動しているので、下方に回動したハンマーヘッド33は、当該バックチェック37によって咬持される。
【0017】
一方、鍵1が離されると、すなわち、離鍵されると、鍵1がバランスピン5の支点を中心にして図において反時計回りに回動する。この回動に伴ってバックチェック37がテール部332bを開放するとともに、ウイペン23が自重によってピン24を中心として時計回りに回動する。この回動により、ジャック小25bがレギュレーティングボタン36(クッション36a)から徐々に離れて、ジャック25が反時計回りに回動し、ジャック大25aが回転してハンマーローラー34の真下へ移動して再び当接し、押鍵前の初期状態に戻る。
【0018】
ここで、本実施形態におけるハンマーの有利性を説明する前に、比較のため従来のハンマーについて図5を参照して簡易的に説明する。
この図に示されるように、従来のハンマー31は、ハンマーシャンク32と、当該ハンマーシャンク32の一端側に固定されたハンマーヘッド33とを含む点において、実施形態と共通である。ただし、従来のハンマーウッド33mでは、打撃側においてフェルト331bが外周される部分と、孔33kにハンマーシャンク32の先端である一端が挿嵌される部分と、打撃側とは反対方向の下方に舌状に延在するテール部33nとが、一体とした構成である。
なお、このハンマーウッド33mについても、木製厚板を切り抜いたものが用いられるので、加工前では、テール部33nにおける左右方向の厚さが均等である。
【0019】
上述したようにハンマーシャンク32の長軸方向32’と弦Sの張設方向とが所定の角度θで交差するので、ハンマーウッド33mの孔33kは、ハンマーシャンク32の先端が挿嵌されたときにハンマーヘッド33が弦の張設方向に合致するように形成される。
一方、ハンマーアクション機構においては、押鍵に伴って、ハンマーヘッド33が回動して弦Sを打撃した後、下方に回動する一方、バックチェック37は、テール部33nを上側からみたときに、図6(b)において押鍵時に矢印で示されるように演奏者側に移動して、打弦後に下方に回動したハンマーヘッド33のテール部33nを咬持する。
ここで、従来のハンマーでは、テール部33nが、ハンマーシャンク32の長軸方向32’、すなわち、バックチェック37の咬持方向に対して傾いた状態にある。このため、テール部33nに対して、バックチェック37の咬持面37aとの接触面積が広くなるように形状加工して、詳細には、外端面のうち、破線で示される部分を削り取る加工を施している。
【0020】
しかしながら、このような形状加工されたテール部33nでは、左右で肉厚が異なってしまうので、バックチェック37によって咬持の際の衝撃によって割れや欠けなどの破損が生じやすい点は上述した通りである。
【0021】
これに対して本実施形態では、ヘッド部331と、テール部332bを含む基部332とを別体とするとともに、基部332に対して、ハンマーシャンク32の先端を長軸方向32’に沿って挿嵌しているので、図6(a)に示されるように、バックチェック37による咬持方向に対するテール部332bの肉厚が左右で揃えられる。実際には、製作後の調整などにより、テール部332bの形状をバックチェック37に合わせて調整するときもあるが、いずれにしても、バックチェック37による咬持方向に対してテール部332bの肉厚が揃うので、バックチェック37によって咬持の際の衝撃によって割れや欠けなどの破損が生じくすることが可能となるのである。
さらに、ヘッド部331は、基部332に対し、ダボ333の軸Bを中心にして回動調整しつつ挿嵌されるので、フェルト331bの厚さ方向を弦Sの張設方向に対して垂直となるような関係で固定することが容易である。
【0022】
なお、実施形態においては、ダボ333を円柱状としたが、角柱状に形成するとともに、孔331c、332dを、当該角柱の断面形状に合わせ、かつ、角度θを考慮して予め形成しておけば、基部332に対してヘッド部331を回動調整することなく、弦Sの張設方向に合わせて正確に取り付けることができる。
【0023】
また、実施形態にあっては、ヘッド部331のウッド331aを、ダボ333を介して基部332に取り付けた3ピース構成としたが、2ピース構成としても良い。詳細には例えば、ウッド331aの下面側において、孔331cの代わりにダボ333に相当する突起を設けて、この突起を、基部332の孔332dに挿嵌しても良いし、基部332の上端面において、孔332dの代わりにダボ333に相当する突起を設けて、この突起を、ウッド331aの下面側における孔331cに挿嵌しても良い。
【0024】
さらに、上述した実施形態にあっては、アコースティックのグランドピアノを例にとって説明したが、本発明は、いわゆるサイレントピアノにも適用可能である。サイレントピアノに適用する場合には、弦Sの代わりに、減衰材などを被打撃部材としてハンマーヘッド33が打撃する構成となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係るハンマーアクション機構を含む鍵盤装置の構成を示す図である。
【図2】ハンマーアクション機構におけるハンマーの分解図である。
【図3】同ハンマーの構成を示す斜視図である。
【図4】ハンマーシャンクと弦の張設方向との関係を示す平面図である。
【図5】従来のハンマーの構成を示す図である。
【図6】テール部の断面構成を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1…鍵、31…ハンマー、32…ハンマーシャンク、33…ハンマーヘッド、37…バックチェック、331…ヘッド部、332…基部、332b…テール部、333…ダボ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵の押下につれてハンマーシャンクが基端部の軸を中心に回動するとともに、前記ハンマーシャンクの基端部の反対側端部に設けられたヘッド部が被打撃体を打撃するハンマーアクション機構であって、
前記ハンマーシャンクの反対側端部に取り付けられる基部を有し、
前記基部は、前記被打撃体への打撃側とは反対側に延在するとともに、打撃後に押鍵状態にあるバックチェックによって咬持されるテール部を含み、
前記ヘッド部は、前記被打撃体への打撃方向に向かう軸に沿って前記基部に挿嵌される
ことを特徴とする鍵盤装置のハンマーアクション機構。
【請求項2】
前記ヘッド部は、前記被打撃体への打撃方向に向かう軸に沿って回動可能な状態で前記基部に挿嵌される
ことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤装置のハンマーアクション機構。
【請求項3】
前記ヘッド部および前記基部の対向面に形成された孔に、それぞれダボの一端および他端を挿嵌した
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鍵盤装置のハンマーアクション機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−8467(P2010−8467A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164276(P2008−164276)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)