説明

【課題】平面鏡の一部を凹面鏡に変化させることができる性能の優れた鏡を提供する。
【解決手段】
平面鏡の一部に凹面鏡に変化させる部分を設けたものであって、平面を有し該平面
内に設けられた窪み部3を有すると共に、窪み部3内に前記凹面鏡に変化させる部分4に相当する段差部4を備えた基部2平面に、曲率変化可能な鏡面シート7を気密状態に張設して鏡面シート7と窪み部3及び段差部とによる気密空間Sを形成し、前記基部2に気密空間に連通する孔8を設け、該孔8から減圧装置により空気を抜いたり戻したりするようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化粧用あるいは髭剃り用等に使用する鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧あるいは髭剃り等を行なう場合、鏡が不可欠で種々の鏡が使用されている。これらの用途に用いる鏡としては、平面鏡が一般的であるが、凹面鏡等として使用することが必要な場合がある。
このために、鏡の両面を用い一方を平面鏡、他方を凹面鏡とし、目的に応じて反転させて使用する鏡が、古くからホテル等で用いられているし、また鏡の一部に凹面鏡部を設けて、その部分を凹面鏡として使用することができる鏡も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−165273号公報
【0004】
【非特許文献1】Arthur L. Palisoc(L’Garde,Inc.)、”Large Telescope Using a Holographically-Corrected Membrane Mirror”、[Online]、June 6-7,2000、[平成21年6月3日検索]、インターネット、<URL: 1245971619437_0.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の先行技術文献のうち、特許文献1に示された可変ミラーは、周縁部をフレームに支持された可撓性鏡面板の中央部を、スライドする軸とカムを組合わせた調節機構を操作ハンドルの回転により作動させ、平面鏡、凹面鏡、凸面鏡に切り替えるもので、手鏡等として用いられるものである。
このように板状の鏡面材を用いてこの曲率を変化させる場合、特許文献1のように鏡面板に直接力を加えると、力を加えた箇所とそうでない箇所との曲率の変化に微妙な差ができて鏡面が歪むおそれがあり、また機械的に曲率を変えるためある程度曲率の変化を段階的にせざるを得ない場合も生じ、任意の曲率が選びにくい面もある。
【0006】
一方非特許文献1には、曲率変化が可能な鏡面シートを気体の圧力で変形させて一種の凹面鏡や凸面鏡とし、大型の反射望遠鏡に利用する技術が開示されている。この技術によれば、前記特許文献1に開示された鏡とは異なり、鏡面シートに非接触な状態で変化させることができるため、鏡面が歪んだり曲率変化が段階的になるという惧れはなくなる。
【0007】
本発明は、非特許文献1の着想と同様に、気体を巧みに利用し、鏡面に非接触の状態で曲面が変化できる機構を採用するものであるが、このような大規模な光学装置に用いるものではなく、身近で手軽に用いることができる鏡について検討した結果、曲率変化が可能な鏡面シートを気密状態に張設して気密空間を形成すると共に、この空間の圧力を変化させ、しかも平面鏡の一部を凹面鏡に可変させて使用することができる鏡を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記の如き状況に鑑み、その要旨とするところは、平面鏡の一部に凹面鏡に変化させる部分を設けたものであって、平面を有し該平面内に設けられた窪み部を有すると共に、窪み部内に前記凹面鏡に変化させる部分に相当する段差部を備えた基部の平面に、曲率変化可能な鏡面シートを気密状態に張設して鏡面シートと窪み部及び段差部とによる気密空間を形成し、前記基部に該気密空間に連通する孔を設け、該孔から減圧装置により空気を抜いたり戻したりするようにしたことを特徴とする鏡に係るものである。また本発明は、前記段差部のエッジに柔軟材料製のシールを配設したことを特徴とするもので、さらに本発明は、前記減圧装置に圧力調整弁の開閉により気密状態が大気圧と適宜同調することができる手段を組込んだことも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、平面鏡の一部に、凹面鏡に変化させる部分を設けたものであって、平面を有し該平面内に設けられた窪み部を有すると共に、窪み部内に前記凹面鏡に変化させる部分に相当する段差部を備えた基部の平面に、曲率変化可能な鏡面シートを気密状態に張設して鏡面シートと窪み部及び段差部による気密空間を形成し、前記基部に該気密空間に連通する孔を設け、該孔から減圧装置により空気を抜いたり戻したりするようにしたため、平面鏡の状態と凹面鏡の状態に、非接触で操作することができ、平面鏡としては、鏡面の全面に亘って均一で歪みのない状態で使用することができると共に、凹面鏡とした部分も歪みがない鏡として使用でき、しかもその構造上凹面を所望の曲面にすることができ、かつ簡単に操作できる利点があり、なおかつ構造を簡潔にして軽量化を図ることができるものである。
【0010】
また本発明の請求項2の発明では、段差部のエッジに柔軟材料製のシールを配設してなるものであるから、段差部によって形成される空間をこの部分で区画し減圧したときの気密性を効率よく高め、このための操作性を高めることができる。
さらに請求項3の発明では、定常的に平面鏡の状態で用いることが多い鏡において、減圧装置に圧力調整弁を設けて大気圧と同調できるようにしているので、大気の圧力や温度が変化したときでも、鏡面の平面状態を保持することができる効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例を示す正面図である。
【図2】図1A―A線の断面図である。
【図3】図1の箇所と同様な位置で切断し、操作した状態を示す断面図である。
【図4】本発明の別の実施例における主要部の部分断面図である。
【図5】本発明のさらに別の実施例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1ないし図3は本発明の一実施例を示すもので、図1が正面図、図2が図1のA―A線の断面図、図3は図1と同一の箇所で切断し図1の状態から操作した状態の断面図を示すものである。そしてこの例は、矩形状の鏡中央の一部に円形の凹面鏡に変化させることができる部分を形成した鏡に関するものである。
これら図において、1は枠部、2は枠部1と一体となって鏡本体を構成する基部で、後述するようにこれらによって鏡面シー7を保持するようになっている。
【0013】
この状態を図2に基づいてさらに詳しく説明すると、基部2の平面には該平面内に窪み部3を有すると共に、この窪み部3内には前記凹面鏡に変化させる部分4に相当し、かつ窪み部3より段差のある段差部5を備えている。なお図中6は凹面鏡に変化させる部分4の境界線の輪郭に相当する堤状突起であり、この内側に段差部5が設けられており、さらに基材2の背面側には後述する減圧装置が収納されている。
曲率変化が可能な鏡面シート7は枠部1と基部2との周縁部分で凹凸嵌合部に挟まれ接着剤を使用して、弛みのない状態に保持されている。この結果、鏡面シート7と窪み部3及び段差部5とに気密空間Sが形成される。
【0014】
以上のようにして形成された気密空間Sには、孔8が設けられ後述する孔16とつながり大気と連通するようになっている。そして前記基部2の背面側には減圧装置を構成するシリンダー9とピストン10が装備され、さらにこの例においては、気密空間Sが大気圧と同調することができる圧力調整弁が組込まれている。図中12は、ピストン10に取付けられたOリング、13はピストン10をスライドさせる際に用いるレバーであり、また図中14は圧力調整弁11の開閉に用いられるバネ、15は圧力調整弁11の気密状態を保持するためのOリング、16は基部2に設けられた大気圧と連通させるための孔である。
図2の状態では、気密空間Sは大気圧と同調しているので、鏡面シート7は平面状態を保持しており、鏡面全面が平面鏡となっている。
【0015】
図2の状態からピストン10をレバー11によって図右方向にスライドさせると、圧力調整弁11はバネ14の作用で閉の状態となり、鏡面シート7は徐々に下方に湾曲し円形の段差部5の堤状突起6に当接し、減圧によって鏡面シート7はさらに引張られて図3のように下方に凸の状態に曲率が変化する。このようになると、この範囲は凹面鏡の状態となり、平鏡面の一部に凹面鏡の部分が形成されたことになる。
そしてこの状態から、ピストン10を図左方向にスライドさせると容易にもとの平面鏡の状態に戻すことが可能となる。
この実施例で明らかなように、本発明の鏡は鏡面シート7の段差部5に囲まれた部分を、鏡面シート7を減圧装置としてのピストン10をスライドさせることで平面鏡と凹面鏡とを簡単な操作で随時変化させて使用できる特徴を有している。
【0016】
なお本発明に使用する曲率変化が可能な鏡面シート7としては、例えば厚さ 5〜50μm程度の透明ポリエステルフィルムの内側面に、アルミ蒸着や銀等の鏡面膜を設けたシートが使用できる。また枠部1及び基部2としては、合成樹脂や軽合金の成形品が使用できる。
また鏡面シート7の曲率を変化させる減圧装置としては、この例ではシリンダー9とピストン10からなる装置を用いているが、これらは鏡面シート7を所望の曲率に変化させるスライドができるように、金属あるいは合成樹脂によって製作した機構を組込むことで達成できる。
【0017】
次の図4の例は、本発明の別の実施例を示すもので、その主要部のみを示している。同図において、鏡面シート7は前記実施例と同様に、枠部1と基部2とを用い、鏡面シート7と窪み基部3及び円形の段差部5とによって気密空間Sが形成できるように保持されている。この例の場合、曲率を変化させる段差部5のエッジに柔軟材料製のシール17を配設しているので、段差部5に形成される空間を分断した格好となり、小さい減圧でも鏡面シート7がより多く撓み、限られた部分の曲率変化を効率よく行える利点がある。
この場合のシール17は、この例ではOリング様の柔軟材料を用いているが、この形状はこれに限られるものではなく、また段差部5のエッジに柔軟材料製の被覆剤を塗布するようにしてもよい。
【0018】
さらに図5の例は、本発明を手鏡に適用した例を示しており、手鏡の枠部18と基部(図示略)とによって鏡面シート7が弛みのない状態で保持されており、取っ手19の内部に図2と同様な構成のシリンダー9とピストン10およびそのレバー13が組込まれていて、鏡面シート7と基部上面(図示略)との間は気密空間Sが設けられている。図中20は、気密空間とシリンダー9とを繋ぐパイプである。
そして、鏡面には図1と同様な円形の段差部5が設けられ、この範囲が凹面鏡に変化できるようになっている。図中21は鏡面シート7が下方に凸の状態になったときに、窪み部に設けた膨出部によって、鏡面シート7が当接することで形成させた2つの略三角状の表示部で、これによって前記段差部5の形状とで一種のキャラクターを表示できるようになっている。この表示は、図形、記号、文字などにするとよい。
この例で凹面鏡となる部分は円形であるが、平面鏡として楕円形の手鏡となっているが、本発明ではこのように平面鏡は任意の形状とすることができ、種々の変形が可能となる。
【0019】
以上本発明について図示の例に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、鏡面シート7の前面に透明カバーを取付けたり、蓋を取付けたりすることもできる。また例えば前記曲率を変化させる減圧装置としては、種々の改変が可能であり、またシリンダーとピストンを組合わせた場合のピストンの位置決めをするためのストッパーを取り付けたりすることもできる。
なお本発明における凹面鏡とする境界線4の形状は、実施例の図の如く、円形にすることが鏡としての性能が最も適しているため好ましいが、目的によってはこの形状を若干変形させることも可能である。また図示の実施例で示している堤状突起6は、省略することも可能で、窪み部3からそのまま段差部5に落込んだエッジの形状にしても差し支えない。
【0020】
S 気密空間
1 枠部
2 基部
3 窪み部
4 凹面鏡に変化させる部分
5 段差部
6 堤状突起
7 鏡面シート
8 孔
9 シリンダー
10 ピストン
11 圧力調整弁
12 Oリング
13 レバー
14 バネ
15 Oリング
16 孔
17 シール
18 枠部
19 取っ手
20 パイプ
21 表示部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面鏡の一部に凹面鏡に変化させる部分を設けたものであって、平面を有し該平面
内に設けられた窪み部を有すると共に、窪み部内に前記凹面鏡に変化させる部分に相当する段差部を備えた基部の平面に、曲率変化可能な鏡面シートを気密状態に張設して鏡面シートと窪み部及び段差部とによる気密空間を形成し、前記基部に気密空間に連通する孔を設け、該孔から減圧装置により空気を抜いたり戻したりするようにしたことを特徴とする鏡
【請求項2】
前記段差部のエッジに、柔軟材料製のシールを配設したことを特徴とする請求項2の鏡。
【請求項3】
前記減圧装置に、圧力調整弁の開閉により気密状態が大気圧と適宜同調することができる手段を組込んだことを特徴とする請求項1又は2の鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−4995(P2011−4995A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151701(P2009−151701)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(591106923)
【Fターム(参考)】