説明

長尺状挿入物の磁気式誘導装置

【課題】電磁石の磁力を変化させたり、電磁石を移動させることなく、磁性体部分を有する長尺状挿入物の移動制御を行うことが可能で、かつ小型化及び低コスト化を実現できる長尺状挿入物の磁気式誘導装置を提供する。
【解決手段】自身の長手方向に移動可能で、かつ長尺状挿入物30を挿入した対象物Aを載置可能なベッド12と、ベッドの両側に位置する一対の支持部材15、16と、一対の支持部材に同じ水平面上に位置しかつ上記長手方向位置は互いに異なるように固定した、長尺状挿入物の磁性体部分31に及ぶ磁力を発生する磁力発生装置17、18と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の内部に挿入した長尺状挿入物の磁性体部分に磁力を及ぼすことにより、対象物の外部から長尺状挿入物の移動制御を行う長尺状挿入物の磁気式誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図1及び図2には、患者を載せるベッドと、ベッドの長手方向(前後方向)の位置をずらして設けた、互いに前後対称形状をなす前後一対の電磁石(軸方向磁石)と、患者にX線を照射するX線照射装置と、X線によって得られた体内の透視画像を表示するテレビモニタと、を備える磁気式誘導装置が開示してある。
また、同文献の図3A及び図3Bには、ベッド(患者)の周囲を移動可能なアームと、アームに固定した電磁石と、を備える磁気式誘導装置が開示してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−522623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した2つの磁気式誘導装置はいずれも、電磁石の磁力の強弱を調整することにより、患者の体内に挿入した磁性体部分を有する長尺状挿入物(例えばカテーテル)の移動制御(前後方向への移動制御や左右方向への曲げ制御)を行っている。
しかし、各電磁石の磁力の強さを制御するのは容易ではないので、術者は長尺状挿入物の移動制御を簡単に行うことができず、移動制御に長時間を要していた。特に、電磁石として超伝導コイルを使用した場合は、常電導コイルのように通電電流を変化させるスピードを早くすることが困難である。特に、医療用として限られた電力容量の範囲で稼動させるためには制御のスピードに制限がある。そのため電流による勾配をつけるのがより難しいので、長尺状挿入物の移動制御がさらに難しくなってしまう。
【0005】
さらに、アームを利用して電磁石を動かす場合は、患者に対する電磁石の位置が変化するので、電磁石の磁力の強さを制御するのがさらに難しくなってしまうという問題が生じる。
また、患者の体内に位置する長尺状挿入物の磁性体部分に磁力を確実に及ぼすために電磁石を大型化すると電磁石の重量が大きくなる。そのため、アームを大型化させなければならないので、磁気式誘導装置全体の製造コストが高くなってしまう。
また、アーム及び電磁石が移動する場合は、術者はアームや電磁石との接触を避けたり、アームや電磁石によって視界が遮られないようにするために、アーム及び電磁石を移動させる度に術者は患者(ベッド)に対して移動しなければならない。
さらにいずれの磁気式誘導装置もアームや電磁石が患者の上部に位置することがあるが、このような状態でアームや電磁石が機械的に破損すると、アームや電磁石が落下して患者にぶつかる可能性があるので、安全上好ましくない。
【0006】
本発明は、電磁石の磁力を変化させたり、電磁石を移動させることなく、磁性体部分を有する長尺状挿入物の移動制御を行うことが可能で、かつ小型化及び低コスト化を実現できる長尺状挿入物の磁気式誘導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の長尺状挿入物の磁気式誘導装置は、自身の長手方向に移動可能で、かつ長尺状挿入物を挿入した対象物を載置可能なベッドと、該ベッドの両側に位置する、移動不能かつ互いに対向する一対の支持部材と、一対の上記支持部材の対向面のそれぞれに同じ水平面上に位置しかつ上記長手方向位置は互いに異なるように固定した、上記長尺状挿入物の磁性体部分に及ぶ磁力を発生する磁力発生装置と、を備えることを特徴としている。
【0008】
一対の上記支持部材の少なくとも一方に、上記水平面とは上下方向位置を異ならせて少なくとも一つの磁力発生装置を設けてもよい。
【0009】
上記ベッドを移動させるための動力を発生する駆動源を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、一対の磁力発生装置はベッドの長手方向の位置が互いに異なっているので、ベッドを一対の磁力発生装置に対して相対移動させると長尺状挿入物の磁性体部分に及ぶ磁力状態が変化する。このように磁力発生装置の制御(磁力の強弱の調整)を行うのではなく、磁力発生装置の制御に比べて容易なベッドの移動制御を行うことにより、長尺状挿入物の移動制御を行うので、従来の磁気式誘導装置に比べて長尺状挿入物の移動制御を簡単かつ短時間で行うことができる。
さらに、磁力発生装置の磁力の強さを調整する必要がないので、超伝導コイルを利用した場合であっても操作は簡単である。
また、磁力発生装置が移動しないので、術者は移動せずに作業を行うことが可能である。
さらに、磁力発生装置はベッドの両側に位置するので、仮に磁力発生装置が支持部材から分離してもベッド上の対象物を直撃するおそれは小さく安全性に優れる。
さらに、磁力発生装置を移動させるための装置が不要となるので、磁力発生装置を大型にしても磁気式誘導装置全体の製造コストの上昇を抑制できる。
【0011】
また、同一水平面上に位置する一対の磁力発生装置とは上下方向位置を異ならせた別の磁力発生装置を設けると、磁力発生装置の磁力の強さを変えることなく、長尺状挿入物を上下方向に移動制御できるようになる。
【0012】
さらに、ベッドを移動させるための駆動源(例えばモータ)を設ければ、長尺状挿入物の移動制御をさらに簡単に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の磁気式誘導装置の正面方向から見た斜視図である。
【図2】磁気式誘導装置と周辺装置の正面図である。
【図3】磁気式誘導装置と患者(X部分を透視して示す)の平面図である。
【図4】患者の図示を省略して示す、長尺上挿入物の移動制御を行っている状態を示す平面図である。
【図5】図4とは別の制御状態における図4と同様の平面である。
【図6】図5とは別の制御状態における図4と同様の平面である。
【図7】変形例の磁気式誘導装置の上部の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を添付図面を参照しながら詳しく説明する。
本実施形態の磁気式誘導装置10は床面上に載置する支持台11を備えており、支持台11の上面には前後方向に延びるベッド12が設けてある。支持台11の上面とベッド12の下面の間には、ベッド12を支持台11に対して前後方向(支持台11の長手方向)に直線的にスライドさせるためのスライド機構(図示略)を設けてあり、支持台11の内部にはスライド機構を動作させるためのモータ(駆動源)13が設けてある。
支持台11の左右両側面には同一形状の支持部材15、16の下部が固定してある。図2〜図4に示すように、支持部材15と支持部材16の前後方向位置は一致しており、両者の上半部同士は左右方向に対向している。
支持部材15の左側面における後側の上端角部には略切頭円錐形状をなす磁力発生装置17が固定してあり、支持部材16の右側面における前側の上端角部には磁力発生装置17と左右対称形状をなす磁力発生装置18が固定してある。このように磁力発生装置17と磁力発生装置18は同じ高さに位置しているが、両者の前後方向位置は異なる。磁力発生装置17及び磁力発生装置18の内部には互いに同一仕様である金属製コイル(図示略)がそれぞれ設けてある。
【0015】
図1に示すように、支持部材15の右側面にはメインスイッチS1、磁力線制御スイッチS2及びスライド制御スイッチS3が設けてある。
磁力線制御スイッチS2は磁力発生装置17及び磁力発生装置18のON/OFFを制御するためのスイッチであり、1回の押し操作ごとにON状態とOFF状態とに切り替わる。従って、磁気式誘導装置10を図示を省略した電源に繋ぎ、かつメインスイッチS1をONに切り換えた状態で磁力線制御スイッチS2を1回押すと、該電源で発生した電流が磁力発生装置17及び磁力発生装置18の内部の上記コイルに流れるので、磁力発生装置17及び磁力発生装置18の内部のコイルが電磁石となる。すると、磁力発生装置17の端面である発射面19から一定強さの磁力線M1が左側に向けて発射され、かつ、磁力発生装置18の端面である発射面20から一定強さ(発射面19から発射された磁力線M1と同じ強さ)の磁力線M2が右側に向けて発射される。一方、磁力線制御スイッチS2をもう1回押すと上記コイルへの電流の供給が遮断されるので、発射面19と発射面20からは磁力線M1と磁力線M2は発射されなくなる。
スライド制御スイッチS3はベッド12を前方または後方にスライドさせるためのシーソー式スイッチであり、磁気式誘導装置10を上記電源に繋ぎ、かつメインスイッチS1をONに切り換えた状態でスライド制御スイッチS3の前側部分を押すと、モータ13が正転しベッド12が前方にスライドする。一方、モータ13の後側部分を押すと、モータ13が逆転しベッド12が後方にスライドする。スライド制御スイッチS3から手を離すと、スライド制御スイッチS3に内蔵したばね手段の付勢力によってスライド制御スイッチS3は初期位置(中立位置)に自動的に復帰するので、モータ13は正転も逆転もせずに静止する。
さらに図2に示すように、磁気式誘導装置10の周囲には、ベッド12の直下に位置するX線照射装置25と、ベッド12の直上に位置し患者を透過したX線像を光学像に変換するイメージインテンシファイア26と、イメージインテンシファイア26によって変換された光学像を表示するX線用テレビモニタ27と、が設けてある。
【0016】
次に、可撓性材料からなる極細の筒状体であり、かつ外周面の先端部に磁性体部分31(磁性ステンレスなど、磁性を持ち生体適合性のあるものからなる)を固定した長尺状挿入物であるカテーテル(長尺状挿入物)30を用いた施術要領について説明する。
まず、図3に示すように麻酔を施した患者Aをベッド12上に横たわらせ、患者Aの体の一部に開けた孔からカテーテル30を患者Aの血管Bに挿入する。
次いで磁気式誘導装置10を上記電源に繋ぐと共にOFF状態にあったメインスイッチS1をONに切り換え、さらに磁力線制御スイッチS2を1回押して磁力発生装置17の発射面19から磁力線M1を発射し磁力発生装置18の発射面20から磁力線M2を発射する。すると、発射面19と発射面20から発射された磁力線M1と磁力線M2が患者Aの体内(血管B内)に位置するカテーテル30の磁性体部分31に及ぶ。さらに、X線用テレビモニタ27のメインスイッチ(図示略)をONにすると、患者Aの体内を透過したX線像がイメージインテンシファイア26によって光学像に変換され、かつ該光学像がX線用テレビモニタ27に表示されるので、術者は患者Aの体内(血管B)及び磁性体部分31を視認可能となる。
例えば、図4に示すように、磁性体部分31が発射面19と発射面20のちょうど中間に位置するときは、磁力線M1と磁力線M2が磁性体部分31に同じ吸引力を及ぼすので(互いの吸引力が相殺されるので)、磁性体部分31は移動しない。しかし、例えば図5に示すように、スライド制御スイッチS3を操作してベッド12を図4の状態から前方に移動させると、発射面19から磁性体部分31までの距離より発射面20から磁性体部分31までの距離が短くなるので、磁性体部分31は磁力線M2(発射面20)側に引き寄せられ、その結果カテーテル30の前端部が左側に湾曲する。一方、例えば図6に示すように、スライド制御スイッチS3を操作してベッド12を図4の状態から後方に移動させると、発射面20から磁性体部分31までの距離より発射面19から磁性体部分31までの距離が短くなるので、磁性体部分31は磁力線M1(発射面19)側に引き寄せられ、その結果カテーテル30の前端部が右側に湾曲する。
【0017】
このように本実施形態の磁気式誘導装置10を利用すると、患者Aの血管B内に挿入したカテーテル30を磁力発生装置17と磁力発生装置18から発射した磁力線M1、磁力線M2を利用して移動制御できるので、術者はX線用テレビモニタ27を見ながらスライド制御スイッチS3を操作することにより、カテーテル30を血管Bの所望の位置まで移動させることが可能である。
しかも、ベッド12(患者A)を移動させることにより、磁性体部分31を移動させているので、制御(磁力線の強弱の調整)が難しい磁力発生装置17と磁力発生装置18の制御を行う場合に比べて、長尺状挿入物の移動制御を簡単かつ短時間で行うことができる。
【0018】
また、磁力発生装置が移動する場合は、術者は磁力発生装置と接触しないようにするために施術中に立ち位置を変えなければならないが、本実施形態のように磁力発生装置17及び磁力発生装置18が移動しない場合は、術者は移動せずに作業を行うことが可能である。
さらに、磁力発生装置17及び磁力発生装置18を移動させるための装置が不要なので、磁力発生装置17及び磁力発生装置18を大型(大重量)にした場合であっても磁気式誘導装置10全体の製造コストの上昇を抑制できる。
さらに、磁力発生装置17及び磁力発生装置18はベッド12の両側に位置するので、仮に磁力発生装置17及び磁力発生装置18が支持部材15、16から分離してもベッド12上の患者Aを直撃するおそれは小さく安全性に優れる。
また、モータ13の動力を利用してベッド12をスライドさせているので、術者が手動でベッド12をスライドさせる場合に比べて、施術を容易に行うことが可能である。
【0019】
以上、本発明について上記実施形態を利用して説明したが、本発明は様々な変更を施しながら実施可能である。
例えば、図7に示すように、支持部材15及び支持部材16を上方に延ばした上で、支持部材15と支持部材16の上下方向の中間部に磁力発生装置17と磁力発生装置18を固定し(磁力発生装置17と磁力発生装置18の高さは同じであり、前後方向位置は異なる)、さらに支持部材16の右側面の上部に一定の磁力線(磁界)を発生可能な磁力発生装置22を固定してもよい(磁力発生装置22の前後方向位置はいずれの位置でもよい)。このような構造にすると、磁力発生装置22で発生した磁力線が磁性体部分31に及ぶので、磁性体部分31を上方に湾曲させることが可能になる。
また、上下に湾曲させるために磁力発生装置を増やすのではなく、ベッドを上下方向に可動させることによって湾曲させることもできる。
また、磁力発生装置17及び磁力発生装置18の上方に位置する磁力発生装置を支持部材15側に固定したり、支持部材15と支持部材16の双方に固定してもよい。さらに、支持部材15と支持部材16の少なくとも一方に磁力発生装置17及び磁力発生装置18の下方に位置する磁力発生装置を固定してもよい。なお、磁力発生装置17及び磁力発生装置18よりも上方または下方に位置させた磁力発生装置の数は一つより多ければいくつであってもよい。
【0020】
また、2つ以上の磁力発生装置のうちの少なくとも一つへの電力の供給を遮断して使用したり、磁力発生装置を一つのみ、あるいは4つ以上としてもよい。
さらに、各磁力発生装置の内部に上記コイルに代えて超伝導コイルを設けてもよい。一般的に超伝導コイルの制御は上記コイル(通常のコイル)よりも難しいが、本実施形態の磁気式誘導装置10は磁力線M1、磁力線M2の強さを調整する必要がないので、超伝導コイルを用いた場合であっても操作は簡単である。
また、長尺状挿入物としてはカテーテル30の他に極細の内視鏡などに利用可能である。
さらに、長尺状挿入物の一部を磁化させたり、筒状をなす長尺状挿入物の内周面に磁性体部分を固定してもよい。
【符号の説明】
【0021】
10 磁気式誘導装置
11 支持台
12 ベッド
13 モータ(駆動源)
15 16 支持部材
17 18 磁力発生装置(電磁石)
19 20 発射面
22 磁力発生装置(電磁石)
25 X線照射装置
26 イメージインテンシファイア
27 X線用テレビモニタ
30 カテーテル(長尺状挿入物)
31 磁性体部分
A 患者(対象物)
B 血管
M1 M2 磁力線(磁界)
S1 メインスイッチ
S2 磁力線制御スイッチ
S3 スライド制御スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の長手方向に移動可能で、かつ長尺状挿入物を挿入した対象物を載置可能なベッドと、
該ベッドの両側に位置する、移動不能かつ互いに対向する一対の支持部材と、
一対の上記支持部材の対向面のそれぞれに同じ水平面上に位置しかつ上記長手方向位置は互いに異なるように固定した、上記長尺状挿入物の磁性体部分に及ぶ磁力を発生する磁力発生装置と、
を備えることを特徴とする長尺状挿入物の磁気式誘導装置。
【請求項2】
請求項1記載の長尺状挿入物の磁気式誘導装置において、
一対の上記支持部材の少なくとも一方に、上記水平面とは上下方向位置を異ならせて少なくとも一つの磁力発生装置を設けた長尺状挿入物の磁気式誘導装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の長尺状挿入物の磁気式誘導装置において、
上記ベッドを移動させるための動力を発生する駆動源を備える長尺状挿入物の磁気式誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−273794(P2010−273794A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127912(P2009−127912)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(510097747)独立行政法人国立がん研究センター (35)
【出願人】(502336117)株式会社玉川製作所 (10)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】