長期一次網膜細胞培養およびストレスモデル、ならびにこれらの使用方法
成熟網膜細胞の長期インビトロ培養に関する細胞培養系と、該細胞培養系を調製するための方法とが提供される。さらに提供されるのは、ストレッサーの存在下で成熟網膜細胞を長期インビトロ培養することに関する網膜細胞培養物のストレスモデルと、該細胞培養物のストレスモデルを使用するための方法である。本発明は、網膜以外の他の種類の細胞(例えば精製したグリア)または眼内の毛様体から分離した細胞を添加する必要のない成熟網膜細胞の長期培養物と、加えたストレッサー(例えば、光、A2E、タバコの煙の凝縮物、グルタミン酸、または静水圧)とを備える細胞培養系を提供する。該網膜細胞培養物のストレス系を用いて、網膜細胞の生存能、神経変性、または生存を変化させる生理活性剤を識別または特定するための方法も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、総じて、網膜細胞の長期インビトロ培養物をもたらす細胞培養系に関し、また、網膜細胞の長期インビトロ培養物に対するストレッサー(ストレス因子)の効果を測定するためのモデルを与える神経細胞ストレッサーを含む細胞培養系に関する。特に本発明は、光受容細胞、アマクリン細胞、両極細胞、水平細胞、および神経節細胞を含む網膜神経細胞を備える細胞培養物のストレスモデルに関する。該細胞培養物のモデルは、神経変性疾患、特に網膜の疾患および障害の治療に使用できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
緑内障、黄斑変性、およびアルツハイマー病などの神経変性疾患は、世界中で何百万人もの人々がわずらっている。そのような疾患を伴うと生活の質が著しく損なわれるため、この分野における医薬の研究開発は非常に重要である。
【0003】
黄斑変性は、中心視力が冒される疾患である。黄斑変性の患者が米国において五百万人〜千万人存在し、それは、世界的に見て失明の原因の首位を占めている。黄斑変性は、斑と呼ばれる網膜の中心部分にある光受容細胞の損失を原因とする疾患である。黄斑変性は、二種類(乾燥型と湿潤型)に分類することができる。乾燥型は、湿潤型よりも一般的であり、加齢性黄斑変性(ARMD)の患者の約90%は乾燥型として診断される。この疾患の湿潤型は、一般に、より深刻な視力喪失につながる。加齢性黄斑変性の確かな原因はいまだにわかっていない。ARMDの乾燥型は、黄斑組織の老化と薄化に起因し得、また、斑における色素の沈着に起因し得る。湿潤型ARMDでは、新しい血管が網膜の真下に成長し、血液および体液の漏れを引起す。この漏洩は、網膜細胞死の原因となり、中心視の中に盲点を作り出す。
【0004】
ARMDを治療するための唯一の食品医薬品局(FDA)承認プロトコルは、特定の医薬をレーザー光凝固術と組合せて用いる光ダイナミック療法である。しかし、この治療法は、ARMDの湿潤型であると新しく診断される患者の半分にしか適用できない。黄斑変性の乾燥型を有する患者の大部分にとって、利用可能な治療法は存在しない。乾燥型は、黄斑変性の湿潤型よりも先に起こるため、乾燥型の疾患の進行に介入することは、目下乾燥型を有しそして湿潤型の発生を遅らすことができるかまたは防止できる患者にとって有益である。
【0005】
患者が気づく視力の減退または通常の眼の検査において眼科医が気づく視力の低下は、黄斑変性の最初の指標となり得る。黄斑内または黄斑下の血管からの滲出物すなわち「ドルーゼン」の形成が、しばしば、黄斑変性となり得る最初の身体的徴候である。徴候には、直線がゆがんで知覚されることがあり、そしてある場合、視覚の中心が、周りの光景よりもひずんで見え、暗くぼんやりした領域または「白くらみ(ホワイトアウト)」が視覚の中心にあらわれ、そして/あるいは、色の知覚が変化または低下する。
【0006】
異なる型の黄斑変性が、より若い患者に起こり得る。非加齢性の病因は、遺伝、糖尿病、栄養不足、頭部損傷、感染などの因子と関係し得る。
【0007】
緑内障は、視野の減損を引起すが、しばしばその他の顕著な徴候のない一連の疾患を表すのに使用される広い意味の用語である。徴候の欠如のため、しばしば、疾患の末期まで緑内障の診断が遅れることがある。緑内障の患者数は、米国において三百万であると見積もられ、失明の約120000のケースがこの病気に起因する。この疾患は、日本でも一般的であり、四百万の症例が報告されている。世界の他の地域では、米国や日本よりも治療を受けにくく、従って、世界的に見れば、緑内障は失明の主要な要因となっている。たとえ緑内障にかかった患者が失明しなくとも、その視力の低下はしばしば深刻なものとなる。
【0008】
周辺視力の減損は、網膜における神経節細胞の死によって引起される。神経節細胞は、眼を脳につなぐ特定の種類の投射ニューロンである。緑内障は、しばしば、眼内圧の上昇を伴う。最近の治療には、眼内圧を低下させる薬剤の使用が含まれる。しかし、眼内圧を下げることは、多くの場合、疾患の進行を完全に食い止めるには不十分である。神経節細胞は、圧力に影響を受けやすいと考えられており、眼内圧を下げる前に永久的な変性を受ける可能性がある。眼内圧の上昇が認められずに神経節細胞が変性するという正常圧力緑内障の見つかる症例が増えてきている。現在、緑内障の薬は眼内圧に対処するものだけであるため、神経節細胞の変性を防止または逆転する新しい治療薬を見出す必要がある。最近の報告が示唆するところによれば、緑内障は、それが網膜ニューロンに特異的に作用することを除いて、脳のアルツハイマー病およびパーキンソン病と同様の神経変性疾患である。眼の網膜ニューロンは、脳の間脳ニューロンから生じるものである。網膜ニューロンは、しばしば誤って、脳の一部ではないと考えられることがあるが、網膜細胞は、視覚の重要な要素であり、光感受性細胞からのシグナルを読み取っている。
【0009】
アルツハイマー病(AD)は、年輩の中において最も一般的な痴呆の形態である。痴呆は、日常生活を行う人の能力に深刻に影響する脳の疾患である。米国だけで、四百万人がアルツハイマー病を患っている。アルツハイマー病は、記憶および他の精神機能に不可欠な脳の領域における神経細胞の損失を特徴とする。限られた期間、ADの徴候を防ぐことができる薬剤があるが、この疾患を治療しあるいは精神機能低下の進行を完全に止めるのに利用可能な薬剤はない。最近の研究が示唆するところによれば、ニューロンまたは神経細胞を支持するグリア細胞がAD患者において欠陥を有している可能性がある。しかし、ADの原因はわかっていないままである。ADの患者は、緑内障および黄斑変性の発病率がより高いようであり、このことは、類似する病因が、眼および脳のこれらの神経変性疾患の根底にあり得ることを示している(Giasson et al.,Free Radic.Biol.Med.32:1264−75(2002);Johnson et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:11830−35(2002);Dentchev et al.,Mol.Vis.9:184−90(2003)参照)。
【0010】
神経細胞の死が、これらの疾患の病理の根底にある。残念ながら、神経細胞の生存(特に光受容細胞の生存)を高める(増強する)組成物や方法はほとんど見つかっていない。良い動物モデルがないことが、網膜疾患および網膜障害を治療する新規な医薬の開発の大きな障害になっていることは明らかである。例えば、斑は、霊長類(ヒトを含む)に存在するが、げっ歯類には存在しない。従って、比較的安価で充実したげっ歯動物のモデルは、今のところ、斑を直接ターゲットとする医薬および生物製剤の試験には利用できない。従って、網膜疾患治療の組成物および方法を識別または特定し評価するため、動物モデルに代わる方法が、当該技術において必要とされる。
【0011】
一般に神経細胞、特に網膜神経細胞のインビトロ培養は、問題のあるものであった。長年、十分に成熟したニューロンは、可塑性を欠き、損傷の後に回復および再生する能力がないと考えられていた。もし、成熟した中枢神経系(CNS)のニューロンが、長期間にわたってインビトロ培養でき、そして、その再生を刺激できたならば、損傷したまたは病変したCNS組織の移植および機能回復が可能になるかもしれない。
【0012】
研究者の複数のグループが、CNS由来ニューロンのインビトロ成長について研究を行っている。いくつかの研究は、形質転換または不死化された神経細胞(腫瘍形成性組織から得られる細胞を含む)の使用を必要としてきた。網膜神経細胞の培養に関し、インビトロの網膜器官の培養、網膜の体外移植組織の培養、および網膜の体外移植/膜培養法が報告されている。さらに、研究者は、胚組織もしくは胚幹細胞または新生児の網膜から得られる網膜神経細胞培養物の分析について報告している。しかし、有糸分裂後の神経細胞の長期培養物を確立できないことは、神経生物学の分野において大きな障害であった。インビボでストレッサーが細胞に作用する態様に類似してインビトロの細胞培養物で細胞に作用するストレッサーを含む細胞培養モデルを開発することは、神経生物学の技術への価値のある貢献となるはずである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の概要)
簡単に述べると、本発明は、成熟網膜細胞培養系、該成熟網膜細胞培養系からなる網膜細胞培養のストレスモデル、および、該成熟網膜細胞培養系およびストレスモデルを用いるための方法を提供する。
【0014】
一態様において、本発明は、複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系であって、該細胞ストレッサーが該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものである細胞培養系を提供する。ある態様において、該細胞ストレッサーは、光、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)もしくはそのアイソフォーム、タバコの煙の凝縮物、高められた静水圧、またはグルタミン酸である。特定の態様において、該細胞ストレッサーは光であり、それは、青色光または白色光とすることができる。特定の一態様において、該青色光は約250〜8000ルクスの範囲の強度を有する。他の特定の態様において、該白色光は約250〜8000ルクスの範囲の強度を有する。他の態様において、該光は紫外光である。他の特定の態様において、該光は蛍光灯、白熱灯、または発光ダイオードから放射されるものである。他の特定の態様において、網膜細胞ストレッサーは高められた雰囲気圧である。一態様において、該ストレッサーは化学物質であり、特定の態様において、該化学物質はA2Eである。A2Eは、A2Eの異性体を含むことができる。他の態様において、該化学物質はグルタミン酸またはグルタミン酸のアゴニスト(作動物質)である。他の態様において、該細胞培養系は、少なくとも二つの網膜細胞ストレッサーを含み、それらは、光、A2Eもしくはそのアイソフォーム、タバコの煙の凝縮物、高められた静水圧、またはグルタミン酸から選ばれるものとすることができる。ある態様において、該少なくとも二つの細胞ストレッサーは光とA2Eであり、他の態様において、該少なくとも二つの細胞ストレッサーは光とタバコの煙の凝縮物である。
【0015】
ある態様において、細胞培養系は、複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含み、そこにおいて、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一つの網膜神経細胞、少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、および少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む。ある態様において、該複数種の網膜細胞は、少なくとも一つの両極細胞、少なくとも一つの水平細胞、少なくとも一つのアマクリン細胞、少なくとも一つの神経節細胞、および少なくとも一つの光受容細胞を含む複数種の網膜神経細胞からなる。他の態様において、細胞培養系は、複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含み、そこにおいて、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一種の網膜神経細胞を含む。そこにおいて、該網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、または光受容細胞である。他の態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選ばれる少なくとも一種の細胞を含み、そこにおいて、該網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、または光受容細胞である。他の態様において、該細胞培養系は、網膜以外の組織源から精製された細胞を実質的に含まない。
【0016】
他の態様において、本発明は、複数種の成熟網膜細胞を含む細胞培養系であって、該細胞培養系は網膜以外の組織源から精製された細胞を実質的に含まず、そして、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一つの網膜神経細胞、少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、および少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む細胞培養系を提供する。ある態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一つの両極細胞、少なくとも一つの水平細胞、少なくとも一つのアマクリン細胞、少なくとも一つの神経節細胞、および少なくとも一つの光受容細胞を含む複数種の網膜神経細胞からなる。一態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選ばれる少なくとも一種の細胞を含む。ある特定の態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、または光受容細胞から選ばれる少なくとも一種の網膜神経細胞を含む。特定の態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも8週間、少なくとも12週間、または少なくとも16週間、生存できる。他の態様において、本発明は、細胞培養系を生産する方法を提供し、該方法は、生物源から成熟網膜細胞を分離すること、および該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を維持する条件下で該成熟網膜細胞を培養することを備え、ここで、該生物源は、鳥または哺乳動物からの網膜組織であり、該哺乳動物は、ヒト、ブタ、非ヒト霊長類、有蹄動物、イヌ、またはげっ歯動物である。
【0017】
他の態様において、本発明は、成熟網膜細胞のストレッサーを識別または特定する方法を提供し、該方法は、(a)候補ストレッサーと、複数種の成熟網膜細胞を含む細胞培養系とを、該候補ストレッサーと成熟網膜細胞との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること(ここで、該細胞培養系は、網膜以外の起源から精製された細胞を実質的に含まないものである)、および(b)該候補ストレッサーが存在する場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)を、該候補ストレッサーが存在しない場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)と比較することにより、網膜細胞のストレッサーを識別または特定することを備える。一態様において、該候補ストレッサーが存在する場合の成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補ストレッサーが存在しない場合の成熟網膜細胞の生存のレベルと比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補の因子が存在する場合に生存が減少すれば(長くなければ)、該ストレッサーが該網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものであることがわかる。他の態様において、該候補ストレッサーが存在する場合の成熟網膜細胞の神経変性を、該候補ストレッサーが存在しない場合の成熟網膜細胞の神経変性と比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補ストレッサーが存在する場合に神経変性が増加すれば、該ストレッサーが該網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものであることがわかる。ある態様において、成熟網膜細胞の生存能(生存率)を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選ばれる少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能(生存率)を測定することを含む。
【0018】
また、本発明は、成熟網膜細胞の生存能(生存率)を変化させる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法を提供し、該方法は、(a)候補因子(候補剤)と、(1)複数種の成熟網膜細胞を含み、網膜以外の起源から精製された細胞を実質的に含まない細胞培養系、または、(2)複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系であって、該細胞ストレッサーが該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものである細胞培養系とを、該細胞培養系の成熟網膜細胞と該候補因子(候補剤)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(b)該候補因子(候補剤)が存在する場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)と比較することにより、網膜細胞の生存能(生存率)を変化させることができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。一態様において、該候補因子(候補剤)が存在する場合の該成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の該成熟網膜細胞の生存のレベルと比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補因子(候補剤)が存在する場合に生存が増加すれば、該因子(剤)が該網膜細胞の生存能(生存率)を高めるものであることがわかる。他の態様において、該候補因子(候補剤)が存在する場合の該成熟網膜細胞の神経変性を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の該成熟網膜細胞の神経変性と比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補因子(候補剤)が存在する場合に神経変性が抑制されれば、該因子(剤)が該網膜細胞の生存能(生存率)を高めるものであることがわかる。ある態様において、該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選ばれる少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能(生存率)を測定することを含む。
【0019】
また本発明は、網膜疾患を治療できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法を提供し、該方法は、(a)候補因子(候補剤)と、(1)複数種の成熟網膜細胞を含み、網膜以外の起源から精製された細胞を実質的に含まない細胞培養系、または、(2)複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系であって、該細胞ストレッサーが該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものである細胞培養系とを、該細胞培養系の成熟網膜細胞と該候補因子(候補剤)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(b)該候補因子(候補剤)が存在する場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)と比較することにより、網膜疾患を治療できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。一態様において、該候補因子(候補剤)が存在する場合の該成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の該成熟網膜細胞の生存のレベルと比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補因子(候補剤)が存在する場合に生存が増加すれば、該因子(剤)が該網膜細胞の生存能(生存率)を高めるものであることがわかる。他の態様において、該候補因子(候補剤)が存在する場合の該成熟網膜細胞の神経変性を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の該成熟網膜細胞の神経変性と比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補因子(候補剤)が存在する場合に神経変性が抑制されれば、該因子(剤)が該網膜細胞の生存能(生存率)を高めるものであることがわかる。特定の態様において、該網膜疾患は、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、色素性網膜炎、視神経障害、炎症性網膜疾患、またはアルツハイマー病、パーキンソン病もしくは多発性硬化症に伴う網膜障害である。ある態様において、該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選ばれる少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能(生存率)を測定することを含む。
【0020】
一態様において、神経細胞の生存を高めることができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法が提供され、該方法は、(i)候補因子(候補剤)と、ここに記載する網膜神経細胞培養系とを、網膜細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞と該候補因子(候補剤)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(ii)該候補因子(候補剤)が存在する場合の該細胞培養系の網膜神経細胞の生存を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の細胞培養ストレス系の網膜神経細胞の生存と比較することにより、網膜神経細胞の生存を高めることができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。ある特定の態様において、該網膜神経細胞は光受容細胞である。他の特定の態様において、該網膜神経細胞は神経節細胞である。ある他の態様において、該網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、またはアマクリン細胞である。
【0021】
他の態様において、網膜神経細胞の神経変性を抑制できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法が提供され、該方法は、(i)生物活性因子(生理活性剤)と、ここに記載する網膜神経細胞培養ストレスモデル系とを、該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞と候補因子(候補剤)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(ii)該生物活性因子(生理活性剤)が存在する場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞の構造を、該生物活性因子(生理活性剤)が存在しない場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞の構造と比較することにより、網膜神経細胞の神経変性を抑制できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。ある特定の態様において、該網膜神経細胞は光受容細胞である。他の特定の態様において、該網膜神経細胞は神経節細胞である。ある他の態様において、該網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、またはアマクリン細胞である。
【0022】
一態様において、網膜細胞ストレッサーを識別または特定する方法が提供され、該方法は、(i)ストレッサー候補と、ここに記載するような第一のストレッサーを含む網膜細胞培養ストレスモデル系とを、該細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞と該ストレッサー候補との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(ii)該ストレッサー候補が存在する場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞の構造を、該ストレッサー候補が存在しない場合の細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞の構造と比較することにより、網膜細胞の生存能(生存率)を変化させることができる網膜細胞ストレッサー、網膜神経細胞の神経変性を変化させることができる網膜細胞ストレッサー、または網膜細胞の生存を変化させることができる網膜細胞ストレッサーを識別または特定することを備える。ある特定の態様において、該網膜神経細胞は光受容細胞である。他の特定の態様において、該網膜神経細胞は神経節細胞である。他の特定の態様において、ストレッサー候補は、網膜神経細胞の神経変性を増加させるものである。他の態様において、該方法は、ストレッサー候補が存在する場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞の生存を、該ストレッサー候補が存在しない場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞の生存と比較することにより、該網膜細胞の生存を変化させることができる網膜細胞ストレッサーを識別または特定することを備える。特定の態様において、該ストレッサーは、網膜細胞の生存を低下させるかまたは損なうものである。
【0023】
また本発明は、網膜疾患を治療できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法を提供し、該方法は、(i)生物活性因子(生理活性剤)と、ここに記載する網膜細胞培養ストレスモデル系とを、該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞と候補因子との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(ii)該生物活性因子(生理活性剤)が存在する場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞の神経変性を、該生物活性因子(生理活性剤)が存在しない場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞の神経変性と比較することにより、網膜疾患を治療できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。ある特定の態様において、治療される該網膜疾患は、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、色素性網膜炎、視神経障害、炎症性網膜疾患、またはアルツハイマー病、パーキンソン病もしくは多発性硬化症に伴う網膜障害である。ある特定の態様において、治療される網膜疾患は、乾燥型の黄斑変性である。他の特定の態様において、治療される網膜疾患は、緑内障である。
【0024】
他の態様において、網膜神経細胞の生存を変化させる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法が提供され、該方法は、(1)生物活性因子(生理活性剤)の候補と、成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系とを、網膜神経細胞と該生物活性因子(生理活性剤)の候補との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(2)該生物活性因子(生理活性剤)の候補が存在する場合の網膜神経細胞の生存を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の網膜神経細胞の生存と比較することにより、網膜神経細胞の生存を変化させることができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。一態様において、該細胞ストレッサーは、光、A2E、タバコの煙の凝縮物、高められた雰囲気圧、およびグルタミン酸から選ばれるものである。特定の態様において、該細胞ストレッサーは、タバコの煙の凝縮物である。他の態様において、該方法は、光、A2E、タバコの煙の凝縮物、高められた雰囲気圧、およびグルタミン酸から選ばれる少なくとも二つの細胞ストレッサーを含む。ある態様において、二つの細胞ストレッサーは、光とタバコの煙の凝縮物である。
【0025】
特定の態様において、該細胞培養系は、精製されたグリア細胞または毛様体細胞などの他の細胞が加えられていないものである。他の態様において、網膜細胞培養系は、前方網膜から得られる成熟した末梢網膜細胞を含み、他の態様において、該細胞培養系は、後方網膜から得られる成熟網膜細胞を含む。他の態様において、成熟網膜細胞を含む細胞培養系は、光受容体の長期培養物を含む。ある特定の態様において、培養された光受容体は、無傷の外節を有する。
【0026】
他の態様において、本発明は、網膜細胞培養ストレスモデルを調製するための方法を提供し、該方法は、成熟網膜細胞の細胞培養系を調製すること、および網膜細胞のストレッサーを加えることを備える。特定の態様において、該方法は、網膜細胞を含む網膜細胞培養系をもたらし、該培養系は、精製されたグリア、または毛様体もしくは眼の他の部分から分離される細胞のような他の種類の細胞を添加する必要のないものである。
【0027】
本発明のこれらの態様および他の態様は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照することで明らかとなる。また、ここに示す参考文献で本発明のある態様をより詳細に説明するものは、その引用により、その内容がそっくり本明細書に記載されたものとする。本明細書において引用されかつ/または出願データシートにおいて列挙される上記米国特許、米国特許出願公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および特許以外の刊行物のすべては、引用により、それらの内容がそっくり本明細書に記載されたものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
本発明は、網膜神経細胞(例えば、光受容細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、水平細胞、および両極細胞)を含む成熟網膜細胞の長期培養物または長時間培養物からなる細胞培養モデルの発見に係るものである。驚くべきことに、本細胞培養系および本細胞培養系を生産するための方法は、光受容細胞の長期培養をもたらす。また、ここに記載する細胞培養系は、網膜色素上皮(RPE)細胞およびミュラーグリア細胞を含んでもよい。
【0029】
一態様において、網膜細胞培養系は、細胞ストレッサーを含む。該ストレッサーの付与または存在により、網膜の疾患または障害において見られる病理の研究に有用な態様で、網膜神経細胞を含む成熟網膜細胞にインビトロで作用がもたらされる。ここに記載する細胞培養モデルは、インビトロの神経細胞培養系を提供するものであり、該インビトロの神経細胞培養系は、一般に、神経疾患または神経障害の治療に、そして特に、眼および脳の変性疾患の治療に適し得る新規な神経活性化合物または生理活性剤を識別または特定し、生物学的に試験するのに有用になる。ストレッサー存在下での長期にわたるインビトロ培養のために、網膜神経細胞を含む十分に分化した成熟網膜細胞から一次細胞を得ることができるため、細胞と細胞の相互作用を調べることが可能になり、神経活性化合物および神経活性材料の選別および分析が可能になり、インビボでのCNSおよび眼の試験のため制御された細胞培養系を使用することが可能になり、そして、一定の網膜細胞個体群からの単細胞に対する効果を分析することが可能になる。
【0030】
ここに記載する細胞培養系、並びに、培養された成熟網膜細胞、網膜神経細胞、および網膜細胞ストレッサーを含む網膜細胞ストレスモデルは、疾患によって損傷したCNS組織の再生を誘導または刺激することができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定するため、候補化合物のスクリーニングに特に有用である。ある態様において、培養された成熟網膜神経細胞は、光受容細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、水平細胞、および両極細胞を含むすべての主要な網膜神経細胞のタイプを含む。一つ以上の細胞ストレッサーを含むここに記載する網膜細胞培養系は、網膜の疾患および障害の病理および進行を研究するための、そして、それらの疾患を治療するための治療薬を識別または特定するための高価で時間のかかるインビボ動物モデルに対し、望ましい代替系を提供するものである。
【0031】
生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することは、神経変性疾患または神経変性障害の症状の治療、治癒、予防、改善、または、その進行の遅延、抑制、または阻止に有用であり得る。そのような神経変性疾患には、緑内障、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管(動脈または静脈)閉塞、色素性網膜炎、視神経障害、炎症性網膜疾患、並びに他の神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、多発性硬化症またはパーキンソン病)に伴うまたはAIDSに伴う網膜障害があるがこれらに限定されるものではない。特に、光受容細胞の長期または長時間の細胞培養は、光受容体の神経変性(例えば、乾燥型の黄斑変性)を特徴とする網膜の疾患および障害、そして、神経節細胞の神経変性(例えば緑内障)を特徴とする網膜の疾患および障害を治療するため有用になる因子(薬剤)を識別または特定するのに有用である。
【0032】
(網膜細胞)
ここに記載するインビトロ細胞培養系は、網膜神経細胞を含む成熟網膜細胞の培養における生存を、少なくとも2〜4週間、2ヶ月以上、あるいは、6ヶ月もの長期の間、可能にし、助長する。網膜細胞は、胚でなく腫瘍形成性でない組織から分離されたものであり、そして、任意の方法、例えば、形質転換または腫瘍ウイルスによる感染によって不死化されていないものである。該細胞培養系は、全ての主要な網膜神経細胞のタイプ(光受容細胞、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、および神経節細胞)を含むことができ、またさらに、他の成熟網膜細胞、例えば網膜色素上皮細胞およびミュラーグリア細胞を含むことができる。
【0033】
眼の網膜は、神経組織の繊細な層である。網膜の主な指標となる部分は、眼の後方部分にある黄斑と、眼の前方部分にある末梢網膜である。網膜は、後方部分近くにおいて最も太く、末梢近くではより細くなる。黄斑は、後方網膜に位置し、窩および小窩を含み、また霊長動物では斑を含む。小窩は、錐状体の密度が最大の領域を含み、従って、網膜において最も高い視力をもたらす。小窩は、斑内に含まれる窩の中に収容されている。
【0034】
網膜の末梢または前方の部分は、視野を大きくする。末梢網膜は、眼の赤道の前方に伸び、四つの領域(近位末梢(最も後方)、中位末梢、遠位末梢、および鋸状縁(最も前方))に分けられる。鋸状縁は、網膜の終点を意味する。
【0035】
当該技術において理解されまたここに用いる用語「ニューロン(または神経細胞)」は、神経上皮細胞前駆体から生じる細胞を意味する。成熟したニューロン(すなわち、成体からの十分に分化した細胞)は、いくつかの特異的な抗原マーカーを提示する。ニューロンは、機能的に以下の三つに分類することができる。(1)意識知覚および運動調整のため脳に情報を伝達する求心性ニューロン(または感覚ニューロン)、(2)筋や腺に命令を伝える運動ニューロン、および(3)局所回路に係わる介在ニューロン、並びに(4)脳のある領域から他の領域への情報を中継し、従って長い軸索を有する投射介在ニューロン。介在ニューロンは、脳の特定の小区域内で情報を処理するもので、相対的により短い軸索を有する。ニューロンは、典型的に、四つの特定の領域(細胞体(すなわちソーマ)、軸索、樹状突起、およびシナプス前終末)を有する。樹状突起は、他の細胞からの情報の一次入力部として機能する。軸索は、細胞体において他のニューロンまたはエフェクター器官に対し開始された電気信号を運ぶ。シナプス前終末において、ニューロンは、他の細胞(シナプス後細胞)に情報を伝達する。他の細胞は、他のニューロン、筋細胞、または分泌細胞であり得る。
【0036】
網膜は、いくつかの種類の神経細胞から構成される。ここに記載するように、本方法によりインビトロで培養できる網膜神経細胞の種類には、光受容細胞、神経節細胞、および介在ニューロン(例えば、両極細胞、水平細胞、およびアマクリン細胞)が含まれる。光受容体は、特化された光反応性の神経細胞であり、二つの主な種類(杆体と錐体)を含む。杆体は、暗順応または暗視所の視覚に関与する一方、明視所または明るい光の視覚は、三原色素の存在により錐体において生じる。失明に至る多くの神経変性疾患、例えば、黄斑変性、網膜剥離、色素性網膜炎、糖尿病性網膜症などは、光受容体を冒す。
【0037】
その細胞体から伸びる光受容体は、二つの形態学的にはっきりした領域(内節と外節)を有する(図1参照)。外節は、光受容細胞体から最も遠いところに位置し、入ってくる光エネルギーを電気インパルスに変換する(光エネルギー変換)円板体を含む。図1に示すように、外節は、非常に小さく脆弱な線毛で内節についている。外節のサイズおよび形は、杆状体から錐状体まで種々であり、網膜内の位置によって異なる。Eye and Orbit,8th Ed.,Bron et al.,(Chapman and Hall,1997)参照。
【0038】
神経節細胞は、網膜の介在ニューロン(水平細胞、両極細胞、アマクリン細胞を含む)から脳に情報を運ぶ出力ニューロンである。両極細胞は、その形態によって名づけられ、光受容体からの入力を受け取り、アマクリン細胞に接続し、神経節細胞に出力を放射状に送る。アマクリン細胞は、網膜平面に平行な突起を有し、典型的に、神経節細胞に対し、抑制的な出力を有する。アマクリン細胞は、しばしば、神経伝達物質もしくは神経調節因子またはペプチド(例えばカルレチニンまたはカルビンジン)により小さく分類され、互いに相互作用し、両極細胞と相互作用し、そして、光受容体と相互作用する。両極細胞は、その形態によって名づけられる網膜の介在ニューロンである。両極細胞は、光受容体から入力を受け取り、神経節細胞にその入力を送る。水平細胞は、多数の光受容体からの視覚情報を調節・変換し、水平統合を有する(一方、両極細胞は、網膜を介して放射状に情報を中継する)。
【0039】
ここに記載する網膜細胞培養物に存在し得る他の網膜細胞には、グリア細胞、例えば、ミュラーグリア細胞、および網膜色素上皮細胞(RPE)が含まれる。グリア細胞は、神経細胞体および軸索を取り囲む。グリア細胞は、電気インパルスを運ぶことはないが、正常な脳の機能の維持に寄与している。ミュラーグリア(網膜内グリア細胞の支配的なタイプ)は、網膜の構造を支持し、網膜の代謝に関与している(例えば、イオン濃度の調節、神経伝達物質の分解に寄与し、そして、所定の代謝物質を取り除く(例えば、Kljavin et al.,J.Neurosci.11:2985(1991)参照)。ミュラー線維(網膜の支持線維としても知られる)は、網膜の支持神経膠細胞であり、それは、網膜の厚みの方向において、内部の境界膜から杆体および錐体の基底に伸び、そこにおいて、接合部複合体の列を形成する。
【0040】
網膜色素上皮(RPE)細胞は、血管が多い脈絡膜の最も近くで、網膜の最外層を形成している。RPE細胞は、マクロファージのように機能する貪食上皮細胞の一種であり、眼の光受容体の下に存在する。RPE細胞の背面は、杆体の末端に隣接して配置され、円板体が杆体の外節から脱落すると、それらは、RPE細胞によって取り込まれ、消化される。また、RPE細胞は、光受容体の正常な機能および生存に寄与する種々の因子を生産、貯蔵、輸送する。RPE細胞のさらなる機能は、ビタミンAをリサイクルすることであり、ビタミンAは、明順応および暗順応において、光受容体とRPEとの間を移動する。
【0041】
(細胞培養系)
一態様において、細胞培養系が提供され、それは、複数種の成熟網膜細胞を含み、そこにおいて、該細胞培養系は、網膜以外の組織源から精製される細胞を実質的に含まないものである。ここに開示する細胞培養系が以前に報告された系と異なる点は、全体的な成熟網膜細胞の生存(網膜神経細胞の生存、そして特に光受容体の生存を含む)が、網膜以外の他の種類の細胞(例えば、毛様体細胞、精製した幹細胞、または精製したグリア(すなわち、網膜以外の組織または他の起源から別個に分離かつ精製される幹細胞またはグリア細胞))をわざわざ加えることなく、経時的に堅調であるということである。毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来の神経栄養因子(BDNF)、線維芽細胞成長因子−2(FGF2)、およびグリア細胞系由来の神経栄養因子(GDNF)のような因子の組合せが、器官細胞培養系における光受容体の生存を改善することも報告されている(Oglivie et al.,Exp.Neurol.161:676−85(2000))。しかし、それらの因子のいずれもが、報告された培養系において、神経細胞の生存を長期間維持するものではない。他のグループが、胚の網膜神経細胞のインビトロ培養を報告している。しかし、その培養された胚の網膜細胞は、成熟網膜細胞によって発現される網膜特異的タンパク質のすべてを発現できないか、あるいは、それらの細胞は、短い時間培養できただけであった。
【0042】
ここに記載するインビトロ細胞培養系は、網膜神経細胞を含む成熟網膜細胞の培養において、生存を、2ヶ月以上、そして、6ヶ月もの長期間、可能にし、助長する(または延ばす)。これまで、成熟網膜細胞を用いて薬剤候補をスクリーニングする能力は、一次培養において、網膜神経細胞を含む網膜細胞の寿命(1〜2週間の範囲)に制限されてきた。さらに、Luo et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.42:1096−1106(2001);Gaudin et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.37:2258−68(1996)を参照されたい。摘出の遅れおよび組織の分離の遅れは、ニューロンの回収および生存に深刻な悪影響を及ぼす(例えば、Gaudin et al.,上記参照)。ニューロンは、動物の体から分離した直後に劣化し始める。その結果もたらされる劣化により、網膜疾患の治療に利用できる因子(薬剤)を識別または特定するための適切で信頼できる化合物スクリーニングを行うことができなくなる。さらに、長期網膜細胞培養物を維持することができなければ、投射神経細胞または光受容細胞に関する種々の分析を行うことが困難である。光受容体は、黄斑変性(失明の主原因)において冒される一次細胞型である。網膜における神経節細胞、投射神経細胞は、緑内障の患者(これもまた失明の主原因)において冒されるものである。
【0043】
ここに記載する細胞培養系は、網膜神経細胞を含む網膜細胞の長期インビトロ培養物からなり、従って、生存能力のある十分に成熟網膜細胞および神経細胞を、2ヶ月よりも長い期間もたらすものである。該細胞培養系を生産するための方法がさらにここに提供され、該方法は、生物源から成熟網膜細胞を分離すること、および、該成熟網膜細胞の生存能を維持する条件下で該成熟網膜細胞を培養することを含む。該細胞培養系における網膜細胞の生存能は、ここに記載するように組織培養のため分離され培養される細胞のすべてまたは一部が、特定の細胞型に特徴的な健全で活力のある細胞の構造および機能を示すということを意味する。一種以上の成熟網膜細胞の生存能は、長期間維持され、例えば、少なくとも4週間、2ヶ月(8週間)、または少なくとも4〜6ヶ月維持され、網膜組織から分離され(採集され)かつ組織培養のため培養される成熟網膜細胞の少なくとも10%、25%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%について、そのような期間、生存能が維持される。網膜細胞の生存能は、ここに記載する方法および当該技術において知られた方法に従って測定できる。一般に神経細胞と同様、網膜神経細胞は、インビボで活発に分裂する細胞ではなく、従って、網膜神経細胞の細胞分裂は、必ずしも生存能の指標ではない。この細胞培養系の利点は、アマクリン細胞、光受容体および付随する神経節投射ニューロンを長期間培養でき、それにより、網膜疾患の治療に有効となる化合物をスクリーニングできる機会がもたらされるということである。
【0044】
本開示の方法および細胞培養系は、脳および脳髄の疾患にも適用可能である。慢性疾患のモデルは特に重要である。というのも、多くの神経変性疾患が慢性であるからである。さらに、このインビトロ細胞培養系を用いることによって、長期疾患発現プロセスにおける最も初期の事象を特定することができる。なぜなら、細胞の分析が長期間可能だからである。また、ここに記載する長期の成熟網膜培養系は、比較的短い期間(例えば3〜14日)の実験にも有用である。なぜなら、細胞が次第に死んでいくこれまで開発されてきた短期培養モデルに比べて、生存および生存能のベースラインがより安定なためである。
【0045】
ここに記載する細胞培養系は、成熟した網膜神経細胞とニューロン以外の網膜細胞との混合物である成熟網膜細胞の培養物をもたらす。この細胞培養系は、すべての主要な種類の網膜神経細胞(例えば、光受容体、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、および神経節細胞)を含むことができ、さらに、RPE細胞およびミュラーグリア細胞のような他の成熟網膜細胞を含むことができる。これらの異なる種類の細胞をインビトロ培養系に組み込むことにより、該系は、網膜のインビボの状態にある自然により近い「人工器官」に本質的に似ている。
【0046】
成熟網膜細胞および網膜神経細胞は、インビトロで、長期間、2日間または5日間より長く、2週間、3週間、もしくは4週間より長く、そして、2ヶ月(8週間)、3ヶ月(12週間)、および4ヶ月(16週間)よりも長く、また、6ヶ月よりも長く、培養することができ、従って、長期培養物をもたらすことができる。ある態様において、一種以上の成熟網膜細胞の少なくとも20〜40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、この長期細胞培養系において生存能力を維持している。該網膜細胞または網膜組織の生物源は、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、有蹄動物、げっ歯動物、イヌ、ブタ、ウシ、または他の哺乳動物源)、鳥類、または他の属からのものとすることができる。一態様において、出生後のヒト以外の霊長動物、出生後のブタ、または出生後のニワトリからの網膜神経細胞を含む網膜細胞を用いることができるが、任意の成体または出生後の網膜組織が、この網膜細胞培養系での使用に適し得る。本方法によりインビトロで培養できる網膜神経細胞の種類には、神経節細胞、光受容体、両極細胞、水平細胞、およびアマクリン細胞が含まれる。網膜神経細胞とともに培養されるニューロン以外の網膜細胞は、元の網膜組織から得られる細胞であり、例えば、RPE細胞およびミュラーグリア細胞を含む。
【0047】
ここに記載する細胞培養系は、網膜以外の組織から得られまたは分離または精製された細胞を含むことなく、網膜細胞の活力のある長期の生存をもたらす。該細胞培養系は、眼の網膜のみから分離された細胞からなり、従って、網膜から離れた眼の他の部分または領域(例えば、毛様体および硝子体)からのタイプの細胞を実質的に含まない。網膜以外の細胞を実質的に含まない網膜細胞培養物は、培養物における細胞の種類の少なくとも80〜85%を占める網膜細胞を含むことが好ましく、細胞の種類の90%〜95%を占める網膜細胞を含むことが好ましく、細胞の種類の96%〜100%を占める網膜細胞を含むことが好ましい。該細胞培養系の網膜細胞は、網膜以外の起源または網膜以外の他の細胞からの精製された(または分離された)グリア細胞または幹細胞を加えることなく、該細胞培養系において生存能力を有しかつ生き残っている。ここに記載するように、網膜細胞培養系は、分離された網膜組織のみから調製されるため、該細胞培養系は網膜以外の細胞を実質的に含まないものになる。
【0048】
細胞培養の当業者に明らかなとおり、組織源から直接得られる細胞の長期培養物または長時間培養物(すなわち一次細胞培養物)がうまく得られるかどうか、そして、培養において細胞(例えば網膜細胞)の生存能を維持できるかどうかは、いくつかの要因に依存する。任意の組織由来の細胞集団(不死化癌細胞を増殖させるための腫瘍組織も含まれる)の長期培養物を確立するのと同様、網膜細胞を採集してから該細胞を培養するまでに経過する時間の長さは、長期培養物をうまく確立できるかどうかに特に影響し得る。ニューロンは、ニューロン組織から分離された直後より劣化し始める。摘出の遅れおよび組織分離の遅れは、ニューロンの回収および生存に深刻な悪影響を及ぼす(例えばGaudin et al,上記参照)。
【0049】
従って、長期網膜細胞培養物を生産するための方法には、組織を採集し組織を切り出す時間を最小限にすること(それは、起源となる動物の死から組織を採集するまでの時間を最小限にすることを含む)が有効であり、そして、切り出しを始めてから完了するまでの時間および切り出しの過程から細胞を培地に移すまでの時間を最小限にすることが有効である。例えば、網膜細胞培養物の調製において、切り出される眼は、器官採取から12時間以内に入手し、切り出すことが好ましい。さらに、ここに記載される切り出し法は、網膜細胞を培養するためこれまで報告された方法よりも速く行われる。この方法の効率(能率)は、網膜細胞と、眼またはCNSの他の領域からの他の種類の細胞とを組み合わせる他の網膜細胞培養系の生産方法と比べて、向上している。というのも、そのような他の細胞の調製工程が排除されているからである。組織から得られる細胞をうまく培養できるかどうかに影響し得る他の要因には、移植中および移植後に組織が維持される温度、組織供与体の健康状態および年齢、動物を扱う者、執刀する者および/または細胞培養者の熟練度、並びに当業者に明らかな同様の因子がある。
【0050】
眼の切り出しは、当該技術において知られておりまたここに記載される標準的な方法に従って行うことができる。例えば、ドナー動物から得られる眼を摘出し、筋および他の組織を眼窩からきれいに取り除く。一態様において、末梢網膜を、眼の他の部分または領域から切り出す。眼をその赤道に沿って半分に切断し、そして、神経網膜を眼の前方部分から切り出す。網膜、毛様体、および硝子体を、一個の眼の前半分から切り離し、その後、不透明な網膜を、透明な硝子体から丁寧にはずす。他の態様において、黄斑を含む網膜の後方部分を、解剖により、眼の他の領域から分離する。網膜の後方部分は、錐体光受容体の濃度がより高い窩(および霊長類においては斑)を含む一方、網膜の前方部分は、より高い濃度の杆体光受容体を有する。色素上皮細胞を、切り出した網膜から完全に分離してもよいし、分離しなくともよい。
【0051】
網膜細胞は、物理的手段、例えば解剖および掻き裂き(摩砕)により、網膜組織から分離することができる。また、細胞を分離し不要な細胞成分を除去するため、眼の組織を、一種以上の酵素(例えば、パパイン、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン、および/またはデオキシリボヌクレアーゼがあるが、それらに限定されるものではない)で処理してもよい。細胞培養系は、物理的方法および酵素による消化の組合せによって調製することができる。
【0052】
ここに記載する細胞培養系および方法は、任意のプラスチックまたはガラスの表面(例えばカバーガラスなど)を利用することができ、好ましくは、網膜細胞が付着できる表面をもたらすため細胞培養用に製造された表面を利用することができる。また、その表面は、付着促進物質またはそのような物質の組合せ(例えば、ポリリジン、マトリゲル、ラミニン、ポリオルニチン、ゼラチン、および/またはフィブロネクチンなど)によってコーティングしてもよい。ここに記載するように眼から調製される網膜細胞は、ある表面(例えばガラスカバー片)にのせることができ、次いで、それを、組織培養容器に配置し、組織培養培地に浸す。組織培養容器は、例えば、24ウェル組織培養プレートなどのマルチウェルプレートとすることができる。一方、網膜細胞がのせられる(そして該細胞が付着するようになる)一種以上の表面は、一種以上の組織培養フラスコ(当業者によく知られたもの)内に配置してもよい。一方、網膜細胞は、標準的な組織培養マルチウェル皿および/または組織培養フラスコに付与し保持してもよい。支持細胞層(例えば、グリア支持細胞層、上皮細胞層、または胚線維芽支持細胞層)を、ここに提供する方法および系において利用してもよい。
【0053】
また、細胞培養系において網膜細胞の生存能を維持するため、該系は、培養される細胞を適当に維持するため当該技術において知られる要素および条件を含む。それらの中には培地(抗生物質を含むまたは含まない)がある。培地は、緩衝剤および栄養素(例えばグルコース、アミノ酸(例えばグルタミン)、塩類、ミネラル類(例えばセレン))を含み、さらに、細胞のインビトロ培養に必要であるかまたは有効であり、当業者によく知られている他の添加物または補助剤(例えば、ウシ胎児血清または血清助剤を必要としない代わりの製剤、トランスフェリン、インスリン、プトレシン、プロゲステロン)を含むことができる(例えば、Gibco培地、Invitrogen Life Technologies,Carlsbad,CA参照)。標準的な細胞培養の方法および実施と同様、ここに記載する網膜細胞培養物は、そのような用途のため二酸化炭素のレベル、湿度、および温度が制御できるように設計された組織培養インキュベーターにおいて保持される。さらに細胞培養系は、外因性の(すなわち、培養される細胞自体から生産されない)細胞成長因子または神経栄養因子の添加物を含んでもよく、それは、例えば、培地または基板もしくは表面のコーティングにおいて供給することができる。
【0054】
(網膜神経細胞培養ストレスモデル)
ここに記載するインビトロ網膜細胞培養系は、網膜の生理機能を特徴づけるため利用できる生理学的網膜モデルとして有用であり得る。また、この生理学的網膜モデルは、幅広い一般的な神経生物学モデルとしても用いることができる。該モデル細胞培養系には、細胞ストレッサー(細胞のストレス因子)を含ませることができる。細胞ストレッサー(ここに記載するものは網膜細胞ストレッサーである)は、細胞培養系において、培養される異なる複数種の網膜細胞(網膜神経細胞の種類を含む)の一つ以上の生存能を低下させるかまたはその生存能に悪影響を与える。当業者に容易に理解されることであるが、ここに記載されるように生存能の低下を示す網膜細胞が意味するところには、細胞培養系において網膜細胞が生存する時間の長さが短くなるかまたは減ること(寿命の低下)、および/または、適当な対照細胞系(例えば、細胞ストレッサーが存在しない場合のここに記載される細胞培養系)で培養された網膜細胞と比べて、生物学的または生化学的な機能について低下、抑制、または悪影響(代謝の低下または異常、アポトーシスの誘発など)が網膜細胞に見られること、がある。網膜細胞の生存能の低下は、細胞死、細胞の構造または形態の変質または変化、アポトーシスの誘導および/または進行、網膜神経細胞の神経変性(または神経細胞の損傷)の開始、増加、および/もしくは促進によって、示され得る。
【0055】
細胞の生存能を測定(決定)するための方法および技術は、ここに詳細に記載するが、当業者によく知られているところである。細胞の生存能を測定するこれらの方法および技術は、ここに記載する細胞培養系での網膜細胞の健全性および状態をモニターするため用いることができ、網膜細胞の生存能を低下させる細胞ストレッサーを識別または特定するため用いることができ、また、ここに記載するように、網膜細胞の生存能を変化させる(好ましくは増加させる)生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定するため用いることができる。
【0056】
ここに記載する細胞培養系に細胞ストレッサーを加えることを利用することができ、それにより、該ストレッサーの効果を消失させる、阻害する、排除する、または減少させる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することができる。この網膜神経細胞培養系は、化学物質ストレッサー(例えば、A2E、タバコの煙の凝縮物)、生物学的ストレッサー(例えば、毒素への暴露、β−アミロイド、リポ多糖)、または化学物質以外のストレッサー(例えば、物理的ストレッサー、環境ストレッサー、または機械的力(例えば、圧力の上昇や光への暴露))である細胞ストレッサーを含むことができる。
【0057】
また、網膜細胞ストレッサーモデル系は、疾患または障害の危険因子となり得るストレッサー、あるいは、疾患または障害の誘発または進行に寄与し得るストレッサーなどの細胞ストレッサーを含むことができ、そのようなストレッサーには、種々の波長および強度の光、タバコ煙凝縮物への暴露、グルコース酸素剥奪、酸化的ストレス(例えば、過酸化水素、ニトロプルシド、Zn++、またはFe++への暴露またはその存在に係るストレス)、圧力上昇(例えば、雰囲気圧または静水圧)、グルタミン酸またはグルタミン酸のアゴニスト(例えば、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−プロピオン酸(AMPA)、カイニン酸、キスカル酸、イボテン酸、キノリン酸、アスパラギン酸、トランス−1−アミノシクロペンチル−1,3−ジカルボン酸(ACPD))、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、L−システイン、β−N−メチルアミン−L−アラニン)、重金属(例えば鉛)、種々の毒素(例えば、ミトコンドリア毒素(例えば、マロン酸エステル、3−ニトロプロピオン酸、ロテノン、シアン化物)、MPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)(それは、代謝によりその活性で毒性である代謝産物MPP+(1−メチル−4−フェニルピリジン)となる)、6−ヒドロキシドーパミン、α−シヌクレイン、タンパク質キナーゼC活性化剤(例えば、酢酸ミリスチン酸ホルボール)、生体アミノ興奮薬(例えば、メタンフェタミン、MDMA(3−4メチレンジオキシメタンフェタミン))、または一以上のストレッサーの組合せがあるが、それらに限定されるものではない。有用な網膜細胞ストレッサーには、ここに記載する成熟網膜細胞の任意の一種以上に作用して神経変性疾患を模倣するものがある。慢性疾患モデルは特に重要である。というのも、多くの神経変性疾患が慢性であるからである。長期間、細胞分析が可能であるため、このインビトロ細胞培養系を用いることにより、長期疾患発現プロセスにおける最も初期の事象を明らかにすることができる。
【0058】
ある態様において、ここに記載される方法は、一種、二種、もしくは三種以上、またはすべての種類の網膜細胞の生存能を変化させる(すなわち生存および/または神経変性および/または神経細胞障害を変化させる)細胞ストレッサーを識別または特定するため用いることができ、さらに、一種、二種、三種以上、またはすべての種類の網膜神経細胞(アマクリン細胞、光受容細胞、神経節細胞、水平細胞、および両極細胞)の生存能を変化させるストレッサーを識別または特定するため用いることができる。他の特定の態様において、該スクリーニング法を、一種の網膜神経細胞(例えば、アマクリン細胞、光受容細胞、神経節細胞、水平細胞、または両極細胞)の生存能を変化させる(好ましくは、生存を低下させるおよび/または神経変性もしくは細胞障害を促進または増加させる)細胞ストレッサーを識別または特定するため用いることができる。
【0059】
網膜細胞ストレッサーは、例えば、網膜神経細胞を含む網膜細胞の生存(生存時間)を変化させることにより、あるいは、網膜神経細胞の神経変性を変化させることにより、網膜細胞の生存能を変化させ得る(すなわち、統計的に有意な態様で、増加または低下させ得る)。網膜細胞ストレッサーは、網膜神経細胞に有害に作用することが好ましく、例えば、網膜神経細胞の生存が低下するかまたは悪影響をうける(すなわち、ストレッサーが存在する場合、細胞が生存できる時間が短くなる)よう作用することが好ましく、あるいは、細胞の神経変性(または神経細胞障害)が増加または促進されるよう作用することが好ましい。ストレッサーは、網膜細胞培養物において、単一の種類の網膜細胞のみに作用してもよいし、あるいは、ストレッサーは、二種、三種、四種以上の異なる種類の細胞に作用してもよい。例えば、ストレッサーは、光受容細胞の生存能および生存を変化させる一方、他の主要な種類の細胞(例えば、神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞、両極細胞、RPE、およびミュラーグリア)に作用しないものとすることができる。ストレッサーは、網膜細胞(インビボまたはインビトロ)の生存時間を短くするもの、網膜細胞の神経変性の速度または程度を増加させるもの、あるいは、ある他の態様において、網膜細胞の生存能、形態、成熟、または寿命に悪影響を及ぼすものとすることができる。
【0060】
細胞培養系における網膜細胞の生存能に対する細胞ストレッサーの効果は、異なる複数種の網膜細胞の一つ以上について測定することができる。細胞生存能の測定では、網膜細胞培養物を調製した後、ある期間にわたってある間隔で続けて、あるいは、ある特定の時点で、網膜細胞の構造および/または機能を評価することができる。一種または複数の異なる種の網膜細胞または網膜神経細胞の生存能または長期生存を、生存能の低下を示す一つ以上の生化学的または生物学的パラメーター(例えば、形態的または構造的な変化が見られる前の代謝機能の低下またはアポトーシス)により、調べることができる。
【0061】
化学的、生物学的、または物理的な細胞ストレッサーは、長期細胞培養物を維持するためのここに記載する条件下において細胞培養物に加えられたとき、細胞培養系に存在する一種以上の網膜細胞の生存能を低下させ得る。一方、網膜細胞に対するストレッサーの効果がより容易に観察できるよう、一つ以上の培養条件を調節してもよい。例えば、細胞が特定の細胞ストレッサーにさらされるとき、細胞培養物から胎児ウシ血清の濃度または割合を減らすかまたはゼロにすることができる。特定の目的で血清を含まない培地が必要な場合、細胞を、血清の動物源から徐々に引き離して(すなわち、血清の濃度を徐々にそしてしばしば系統的に減らして)血清を含まない培地または血清以外の代替物を含む培地に移行させることができる。細胞生存の維持を保証するため、血清濃度の減少量および減らされた各血清濃度での培養期間を、頻繁に評価し、調節することができる。ここに記載する網膜細胞培養系が細胞ストレッサーにさらされるとき、ストレッサーの付与に付随して血清濃度を調節することができる(網膜細胞種に対するストレッサーの効果を評価するため、および/または、網膜細胞に対するストレッサーの一つまたは複数の有害な作用を抑制、減少または消失させる因子(薬剤)を識別または特定するため、該ストレスモデルが有用であるような条件を達成するよう、ストレッサーを滴定(化学的または生物学的ストレッサーの場合)または調節(物理的ストレッサーの場合)してもよい)。一方、細胞の維持のため特定の濃度で血清を含む培地で培養された網膜細胞を、いかなる濃度の血清も含まない培地に突然さらすこともできる。他の態様において、血清は、網膜細胞培養物において、5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.25%未満、0.1%未満、または0.05%未満に、単一の工程で減らすことができる。
【0062】
網膜細胞培養物は、網膜細胞培養系における一種以上の網膜細胞の生存能を低下させるようにする時間、細胞ストレッサーにさらすことができる。細胞ストレッサーに培養物をさらす時間の長さは、3時間、6時間、9時間、12時間、18時間、24時間、または、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、または、1週間、2週間以上、そして、1ヶ月以上、あるいは、列挙した時間の間にある任意の時間とすることができる。網膜組織から分離した後、網膜細胞を培地に移した時点からすぐに細胞を細胞ストレッサーにさらしてもよい。一方、培養物を確立させた後、あるいは、その後任意の時点で(例えば、1日、2日、3〜5日、6〜10日、2週間、3週間、または4週間で)、網膜細胞培養物をストレッサーにさらしてもよい。網膜細胞培養系に二つ以上の細胞ストレッサーを含める場合、各ストレッサーは、同時に細胞培養系に加えることができ、そして、同じ時間の間加えておくことができる一方、異なる時点で別々に加えて、網膜細胞系の培養の間、同じ時間の間または異なる時間の間、加えておくことができる。
【0063】
細胞培養系における網膜細胞の生存能は、ここに記載されまた当業者により実施されるいくつかの方法および技術の任意の一以上によって測定することができる(例えば、生理活性剤の存在下で生存能を測定することについてここに記載される方法および技術をさらに参照されたい)。ストレッサーが存在する場合の細胞培養系における網膜細胞(網膜神経細胞を含む)の構造または形態を、ストレッサーが存在しない場合の細胞培養系における同じ細胞種の構造または形態と比べることにより、ストレッサーの効果を測定または判定することができ、そこから、ニューロン細胞の神経変性を変化させることができるストレッサーを識別または特定することができる。また、生存能に対するストレッサーの効果は、当該技術において知られる方法およびここに記載される方法により評価することができ、例えば、ストレッサーが存在する場合の細胞培養系における神経細胞の生存を、ストレッサーが存在しない場合の細胞培養系における神経細胞の生存と比較することにより、評価することができ、そこから、神経細胞の生存を変化させることができるストレッサーを識別または特定することができる。
【0064】
ここに詳細に記載され当該技術において知られている網膜細胞を識別し特徴づける方法、例えば細胞免疫化学法により、網膜細胞の生存を測定または判定することができる。特定の種類の網膜細胞または網膜神経細胞についての細胞マーカーに特異的に結合する抗体、さらには、一種より多い細胞種に共通する細胞骨格タンパク質に結合する抗体は、市販されている。一方、そのような抗体を、当該技術において知られる標準的な方法および技術に従って調製することができる(例えば、Kohler and Milstein,Eur.J.Immunol.6:511−519(1976)およびその改良法;Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988);Antibody Engineering,Methods and Protocols,Lo ed.,(Human Press 2004);米国特許第5693762号;第5585089号;第4816567号;第5225539号;第5530101号;米国特許第5223409号;Schlebusch et al.,Hybridoma 16:47(1997);およびそれらで引用される文献参照。さらに、Andris−Widhopf et al.,J.Immunol.Methods 242:159−81(2000)参照)。
【0065】
光受容体は、オプシン類、ペリフェリン類などの光受容体に特異的なタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、識別または特定することができる。また、細胞培養物における光受容体は、汎用のニューロンマーカーを用いることにより、細胞免疫化学的に標識された細胞の形態学的サブセットとして識別または特定することができ、あるいは、生きた培養物のコントラストの高い像の中から形態学的に識別または特定することができる。外節は、光受容体への付着物として形態学的に検出することができる。
【0066】
また、光受容体を含む網膜細胞は、機能分析によっても検出することができる。例えば、電気生理学の方法および技術を、光受容体の光に対する応答を測定するため用いることができる。光受容体は、光に対する段階的応答において、特定の動力学を示す。活性な光受容体を含む培養物内での光に対する段階的応答を検出するため、カルシウム感受性色素を用いることもできる。ストレスを誘発する化合物または可能性のある神経療法を分析するため、網膜細胞培養物を、細胞免疫化学法のために処理することができ、そして、光受容体および/または他の網膜細胞を、光学顕微鏡法およびイメージング技術を用いて、手動によりまたはコンピュータソフトウェアにより、数えることができる。当該技術において知られる他のイムノアッセイ(例えばELISA、免疫ブロット法、フローサイトメトリー)も、ここに記載する細胞培養モデル系の網膜細胞および網膜神経細胞を識別し特徴づけるため、有用であり得る。
【0067】
また、網膜細胞培養ストレスモデルは、薬理学的因子(薬剤)の直接的効果および間接的効果の両方を識別または特定するため、有用であり得る。例えば、一つ以上の網膜細胞ストレッサーの存在下で細胞培養系に加えられたある生理活性剤候補は、ある種類の細胞を刺激し得、それは、その他の種類の細胞の生存を強化または低下させる態様においてなされる。細胞と細胞の相互作用および細胞と細胞外要素との相互作用は、疾患と薬剤機能のメカニズムを理解する上で重要となり得る。例えば、ある種類の神経細胞は、他の種類の神経細胞の成長または生存に作用する栄養因子を分泌し得る(例えばWO99/29279参照)。
【0068】
(光のストレッサー)
一態様において、網膜細胞ストレッサーは光である。光は、網膜細胞の死、特に光受容細胞の死を引起すかまたはそれに寄与すると考えられる。繰返しある量の光にさらされることは、黄斑変性誘発の危険因子であると考えられる。動物研究からの結果によれば、強度の高い光にさらされたマウスは、黄斑変性を有するヒトにおいて見られると同様の病態生理学的効果を発生させることが明らかになっている(例えば、Dithmar et al.,Arch.Ophthalmol.119:1643−49(2001);Gottsch et al.,Arch.Ophthalmol.111:126−29(1993)参照)。
【0069】
光のストレッサーにさらされる網膜細胞の培養に関し、光は、一つ以上の蛍光灯、白熱灯、または一つ以上の発光ダイオードから出されるものとすることができる。露光は、間欠的に(断続的に)または絶え間なく行うことができ、また、露光時間は変えることができる。一方、光のストレスは、光ショックとして与えることができ、それにより、細胞培養前のある時点または細胞培養中において、いかなる光源への暴露からも細胞を保護することができ、その後、細胞を光のストレスにさらすことができる。
【0070】
光ストレスの強度は、ルクスで測定することができ、それは、表面における光出力の尺度である。ここに記載する網膜細胞培養物は、約1〜20000ルクスの間の任意の強度もしくは任意の範囲の強度、約1000〜15000ルクスの間、約1000〜8000ルクスの間、約250〜8000ルクスの間、約250〜1000ルクスの間、約250〜2000ルクスの間、約250〜4000ルクスの間、約4000〜8000ルクスの間、約1000〜6000ルクスの間、約1000〜4000ルクスの間、約2000〜6000ルクスの間、約2000〜4000ルクスの間、約4000〜6000ルクスの間、または約1000〜2000ルクスの間の任意の強度もしくは任意の範囲の強度の光(白色光または青色光)にさらされることが好ましい。一態様において、細胞は、中位の強度、例えば約4000〜6000ルクスの強度で、短期間、例えば、1週間未満、18〜96時間または18〜48時間、露光される。他の態様において、網膜細胞は、より低い強度の光(例えば、約500〜4000ルクスの間または約500〜2000ルクスの間、約250〜1000ルクスの間、または約500〜1000ルクスの間)に、より長い期間(例えば、1週間より長く、2週間以上、または1ヶ月以上)さらされる。後者の条件の組合せ(より低い強度の光をより長い期間)は、慢性の神経変性網膜疾患におけるストレスの効果を評価するためのストレスモデルを提供することができ、そして、慢性の神経変性網膜疾患を治療するのに有用であり得る生理活性剤を識別または特定するためのストレスモデルを提供することができる。
【0071】
光のストレスは、100〜700nmの範囲にある任意の波長の紫外光または可視光からなることができる。一態様において、光のストレスは、可視光であり、電磁スペクトルの約400nm(紫色光)〜約700nm(赤色光)の任意の波長の光を含むことができる。ある態様において、光のストレスは、約425nm〜500nm(例えば470nm)の可視スペクトルにある青色光である。スペクトルの紫外部分(約300〜400nmまで)は三つの領域(近紫外、遠紫外、および極紫外)に分けられる。これら三つの領域は、紫外放射エネルギーの大きさと紫外光の波長(エネルギーに関係する)とによって区別されている。近紫外は、視覚の光すなわち可視光に最も近い光である。極紫外は、X線に最も近い紫外光であり、該三つのタイプのうち最もエネルギーが高い。遠紫外は、近紫外と極紫外の間に位置する。
【0072】
光源は、蛍光灯、白熱灯、または発光ダイオード(LED)とすることができる。光源は、網膜細胞が培養される時間の間、連続的な露光または調整された露光をもたらすため、組織培養インキュベーターに挿入することができる。高強度の光源は有用であり、種々の強度レベルで光を付与する能力をもたらす。一態様において、細胞培養プレート(任意の細胞培養皿、フラスコ、またはマルチウェルプレートとすることができる)の上から一つのLEDより細胞培養物に光ストレスを与え、そして、細胞培養プレートの下からもう一つ別のLEDより光ストレスを与えるよう、LED装置を設計する。各LEDは、同じ強度または異なる強度の光を出すことができ、それらの強度は、例えば、各LEDを流れる電流を別々に制御する複数の電位差計により調節することができる。放出される光は、一定とすることができ、すなわち、ある時間にわたって同じ波長および強度を有するものとすることができ、あるいは、周期的で、波長または強度が変動するものとすることができる。例えば、光ストレスが概日リズムに近いか一致するよう、周期的な発光を調節することができる。組織培養インキュベーターに取り付けられる光源は、細胞を光源にさらすことによって細胞またはその一部が温度変化にさらされないよう、適当な通気を保証すべく適切に配置することができる。
【0073】
他の態様において、光源は蛍光灯装置であり、例えば、細胞の皿、フラスコまたはプレート全体に環境光を供給する細長い蛍光管の組合せである。また、蛍光灯は、複数の細胞培養プレート、皿、またはフラスコの露光を可能にするよう十分な大きさとすることができる。
【0074】
細胞培養物における網膜神経細胞について、網膜細胞の生存能、生存または神経変性に対する光の効果は、ここに記載される方法および当該技術において実施される方法により測定することができる。ここに記載される網膜細胞培養物の光ストレスモデルは、光受容細胞に作用する疾患(例えば黄斑変性)についてのモデルとして用いることができる。本発明の一態様において、網膜細胞培養物は、光、特に青色光にさらされる。その光は、ここに記載する細胞培養系に存在する他の主要な種類の網膜細胞を殺すことなく、光受容細胞を殺すかまたはその生存を低下させる。例えば、ここに記載するように調製される網膜細胞培養系は、6000ルクスの白色光に48時間さらされるとき、光受容細胞の死(95%以上)をもたらす一方、神経節細胞の生存は、低下しなかったかまたは悪影響をうけなかった。
【0075】
このモデルは、神経変性の疾患または障害、特に網膜の疾患または障害の病理の根底にある細胞プロセスを研究するため、用いることもできる。例えば、光ストレスは、アポトーシス(プログラムされた細胞死)の不適当な活性化を誘発することにより、網膜細胞に作用し、それは、種々の病理学的疾患の状態に寄与し得る。アポトーシスは、当該技術において知られまたここに開示する種々の方法によって測定することができる。
【0076】
また、光ストレスモデルは、光が眼を傷つけるのを阻止する薬剤または物品(例えばフィルター、レンズ、または他の物理的製品)を見出すための方法に有用であり得る。ここに詳細に記載するように、光が網膜細胞(例えば光受容細胞)の生存を低下させるのを阻止、抑制、または防止する生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法、あるいは、神経変性の進行を低下させるかまたは神経変性を逆行させる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法に、該モデルを用いることができる。かくして、該因子は、有害な光(例えば紫外光または青色光)を阻止するよう、細胞レベルで、フィルターのように作用する。例えば、網膜細胞培養物の上のみから照射され、フェノールレッド(酸塩基指示薬として作用し、培地に薄く赤色をつけるもの)を含む培地に維持される細胞の下から測定される光出力は、細胞の上から測定される光出力のレベルより明るさが25%低かった(強度が低かった)。従って、この赤い培地は、光ストレスから光受容細胞を守るフィルター効果を有した。
【0077】
(細胞ストレッサーとしてのタバコ煙凝縮物)
一態様において、網膜細胞ストレッサーは、タバコの煙であり、タバコの煙または紙巻タバコの煙の凝縮物に存在する一種以上の化合物である。喫煙は、黄斑変性を発病する危険因子であると考えられている(Delcourt et al.,Arch.Ophthalmol.116:1031−35(1998))。タバコの煙は、多数の変異原性および発がん性の化合物、例えば、ポリ芳香族炭化水素類(PAH類)、タバコ特異的ニトロサミン類(TSNA類)、カルバゾール、フェノール、およびカテコールを含む。PAH類は、炭素および水素の構成原子が二つ以上の環を形成する化学結合により連結されている一連の化学物質である。従って、PAH類は、多環式炭化水素または多核芳香族と呼ばれることがある。そのような化学的配置の例は、アントラセン(3環)、ピレン(4環)、ベンゾ(ザ)ピレン(5環)、および類似する多環式化合物である。ウシの網膜色素上皮細胞をベンゾ(ザ)ピレンに暴露することにより、細胞の成長および複製が阻害されることが示唆された(Patton et al.,Exp.Eye Res.74:513−522(2002))。
【0078】
タバコ特異的ニトロサミン類(TSNA類)は、強い発ガン物質である求電子性アルキル化剤である。TSNA類は、タバコの製造および貯蔵における遊離硝酸塩を伴う反応、および、硝酸塩が豊富な環境においてアルカロイド類、ニコチンおよびノミコチンを含むタバコの燃焼によって、形成される。切り落とされたばかりの緑のタバコには、実質的にタバコ特異的ニトロサミンは含まれない(例えば米国特許第6202649号および第6135121号参照)。一方、常法に従って得られるねかされたタバコ製品は、N’−ニトロソノルニコチン(NNN)および4−(N−ニトロソメチルアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン(NNK)を含む多くのニトロサミン類を含んでいる。
【0079】
タバコの煙において生成される他の毒性化合物には、カルバゾール、フェノール、およびカテコールがある。カルバゾールは、ジベンゾピロール系を含む複素環式芳香族化合物であり、発がん性物質ではないかと考えられている。タバコの煙に存在するフェノール化合物は、ポリフェノール類であるクロロゲン酸とルチンの熱分解の結果として生じる。タバコの煙中にあるフェノール化合物には、カテコール、フェノール、ヒドロキノン、レゾルシノール、o−クレゾール、m−クレゾール、およびp−クレゾールがある。カテコールは、タバコの煙において最も多いフェノールであり(80〜400μg/タバコ1本)、ベンゾ(ザ)ピレンに対する発ガン補助物質として特定されている。
【0080】
紙巻タバコの煙の凝縮物(cigarette smoke condensate(CSC))は、ここに記載される方法および当業者に知られる方法に従って調製してもよいし、あるいは、業者(例えばMurty Pharmaceuticals(Lexington,KY))から購入してもよい。機械的装置(例えば、FTC Smoke MachineまたはPhipps−Bird20チャネル喫煙装置)を、タバコの煙を生成させるため用いることができる。CSCの調製に使用される(紙巻)タバコの例には、1R4Fまたは1R3F研究用(紙巻)タバコなどがある(例えば、Meckley et al.,Food Chem.Toxicol.42:851−63(2004);Putnam et al.,Toxicol.In Vitro 16:599−607(2002)参照)。CSCを調製するため、例えば、一以上の(紙巻)タバコによって生成されるタバコの煙の微粒子成分を、フィルター(例えば、ガラス繊維フィルターまたは他のフィルターで、抽出プロセスにおいて不活性なもの)上に付着させまたは集めることができる。溶媒(例えばジメチルスルホキシド(DMSO))を用いて、該フィルターから化合物が抽出される。また、抽出過程では、フィルターからの微粒子物質除去を促進するのに有用な機械力(例えば超音波処理)を用いてもよい。
【0081】
網膜細胞、特に、網膜神経細胞の生存に対するタバコの煙の効果、あるいは、網膜神経細胞の神経変性に対するタバコの煙の効果は、ここに記載する網膜細胞培養系を用いて測定することができる。網膜細胞培養物を、(紙巻)タバコの煙の凝縮物、タバコの煙、またはタバコの煙の一種以上の成分化合物(ここに記載する化合物があるが、それらに限定されない)にさらすことができる。網膜細胞の培養の前にまたは細胞培養期間中に、網膜細胞をCSC細胞ストレッサーにさらすことができる。少なくとも約3時間、6時間、9時間、12時間、18時間、24時間、または2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、または1週間、2週間、4週間、2ヶ月、または4ヶ月以上、あるいは、列挙した期間の間の任意の期間、細胞をCSCにさらすことができる。細胞培養物における網膜細胞について、細胞の生存能、生存に対する細胞ストレッサーの効果、あるいは、神経変性に対する細胞ストレッサーの効果は、ここに記載される方法および当該技術において知られる方法に従って測定することができる。
【0082】
(ストレッサーとしてのタバコの煙の凝縮物と光の組合せ)
網膜神経細胞培養物は、一つより多い細胞ストレッサーにさらしてもよく、例えば、培養物を、少なくとも二つの網膜細胞ストレッサーにさらすことができる。例えば、ここに記載するように、一つの網膜細胞ストレッサーをタバコ煙凝縮物とし、もう一つの細胞ストレッサーを光とすることができる。
【0083】
ここに記載される網膜神経細胞培養物は、二つの細胞ストレッサー(例えば、タバコ煙凝縮物と光源)に、別々にまたは同時にさらされ、その後培養することができる。一方、網膜神経細胞の培養中に、網膜細胞培養物を、二つの細胞ストレッサー(例えば、タバコ煙凝縮物と光源)に、別々にまたは同時にさらしてもよい。ある態様において、細胞を培養する前に、細胞ストレッサーの一つまたは両方に網膜神経細胞をさらすことができ、あるいは、培養の前に細胞を一つの細胞ストレッサーにさらし、その後、細胞培養中に細胞ストレッサーの一つまたは両方に細胞をさらすことができる。細胞培養物における網膜細胞の生存に対する、あるいは、神経変性に対する細胞ストレッサーの効果は、ここに記載される方法および当該技術において知られる方法により測定することができる。各細胞ストレッサーに網膜神経細胞培養物をさらす時間は、変えることができる。少なくとも約3時間、6時間、9時間、12時間、18時間、24時間、または2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、または1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月、またはそれ以上、あるいは、列挙した期間の間の任意の期間、細胞をCSCおよび/または光にさらすことができる。
【0084】
ここに記載されるように、光のストレッサーにさらされる網膜細胞の培養物に対し、光は、少なくとも一つの蛍光灯、白熱灯、または少なくとも一つの発光ダイオードから照射することができる。露光は断続的または連続的なものとすることができ、露光時間は変えることができる。一方、光のストレスは、光ショックとして加えることができ、それにより、細胞培養の前または細胞培養中のある時点において細胞をあらゆる光源への露光から保護し、その後、光のストレスにさらすことができる。網膜細胞が培養される間、連続的な露光または調節した露光を行うため、光源を組織培養インキュベーターに挿入することができる。
【0085】
細胞培養物における網膜細胞の生存に対する、あるいは、神経変性に対する細胞ストレッサーの効果は、ここに記載される方法および当該技術において知られる方法により測定することができる。ここに記載する網膜細胞培養系は、光受容細胞に作用する疾患(例えば黄斑変性)についてのモデルとして用いることができる。光ストレッサーをCSCストレッサーと組み合わせる場合に、生存する光受容細胞の数は、CSC単独にさらされ生存する光受容細胞の数に比べて小さくなる。
【0086】
CSCストレッサーと光ストレッサーを含む網膜細胞培養系は、神経変性の疾患または障害、特に網膜の疾患または障害の病理の根底にある細胞プロセスを研究するため、用いることもできる。例えば、それらのストレスは、アポトーシス(プログラムされた細胞死)の不適当な活性化を誘発することにより、網膜細胞に作用し、それは、種々の病理学的疾患の状態に寄与し得る。アポトーシスは、当該技術において知られまたここに記載する種々の方法によって測定することができる。
【0087】
(物理的ストレッサー:静水圧の増加)
本発明の一態様において、網膜細胞ストレッサーは、物理的な細胞ストレッサーであり、例えば、上昇した静水圧(流体圧)(液体によってかけられる圧力で、ここに記載される方法および当該技術において実施される方法(例えば雰囲気圧を上げること)によりかけることができる)である。上昇した眼内圧(IOP)は、患者の緑内障と相関があることが当該技術において知られている。50mm水銀(Hg)の静水圧にさらされた眼細胞は、生存能の低下を示さなかったようであるが、所定の細胞におけるアクチンストレス線維分布の変化とともに、形態変化が認められた(Wax et al.,Br.J.Ophthalmol.84:423−28(2000)参照)。一態様において、網膜細胞培養系は、分離された成熟網膜細胞(網膜神経細胞を含む)と、細胞ストレッサーとして高くされたまたは上昇させられた静水圧(または雰囲気圧)とを備える。細胞は、40、45、50、55、60、70、75、80、100、110、120、または130mmHgの圧力(あるいは、列挙されたmmHg間の任意の圧力)にさらすことができる。上昇した圧力は、ここに記載される方法および当業者に知られる方法を用いてかけることができ、例えば、加圧インキュベーターを用いることにより(例えば、Healey et al.,J.Vasc.Surg.38:1099−105(2003)参照)、あるいは、組織培養インキュベーター内に加圧チャンバーを設置することにより(例えば、Wax et al.,上記参照;Vouyouka et al.,J.Surg.Res.110:344−51(2003)をさらに参照)かけることができる。少なくとも6時間、9時間、12時間、18時間、24時間、または2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、または1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月(4週間)、またはそれ以上、あるいは、列挙した期間の間の任意の期間、網膜神経細胞培養系を上昇した雰囲気圧にさらすことができる。
【0088】
網膜細胞に対する物理的ストレッサー(例えば上昇した静水圧)の効果をより容易に観測できるよう、一つ以上の培養条件を調節することができる。細胞を上昇した圧力にさらすとき、例えば、ウシ胎児血清の濃度または割合を、細胞培養物から減らすかまたはゼロにすることができる。
【0089】
他の態様において、網膜細胞培養系は、上昇した静水圧(または上昇した雰囲気圧)を一つの細胞ストレッサーとして含み、さらに第二の細胞ストレッサーを含む。網膜神経細胞を、第二のストレッサーと同時に上昇した圧力にさらしてもよく、あるいは、細胞をまず一つの細胞ストレッサーにさらした後、第二の細胞ストレッサーにさらすことができる。他の態様において、細胞を培養する前に、網膜神経細胞を、細胞ストレッサーの一つまたは両方にさらすことができる。一方、培養の前に細胞を一つの細胞ストレッサーにさらした後、細胞の培養中に細胞ストレッサーの一つまたは両方に細胞をさらしてもよい。網膜神経細胞について、網膜細胞の生存能、生存、または神経変性に対する細胞ストレッサーの効果は、ここに記載される方法および当該技術において知られる方法により測定することができる。
【0090】
(化学物質ストレッサー:レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)細胞ストレッサー)
他の態様において、ストレッサーは化学物質である。例えば、化学物質ストレッサーは、ビタミンAの誘導体、例えば、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)、またはA2Eの誘導体である。A2Eストレスは、例えばイソ−A2E(A2Eの13−Z光異性体(例えば、Parish et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14609−13(1998);Ben−Shabat et al.,Angew.Chem.Int.Ed.41:814−17(2002)参照)を含むA2E異性体の任意の一つ以上を含み得る。また、該ストレスは、A2Eのすべてのアイソフォームを含み得る。A2Eは、網膜リポフスチンの成分であり、それは、非限定的な理論によると、細胞の残骸を処理する間、光受容体の杆体と錐体を並べる網膜色素上皮細胞において、網膜の消化されたロドプシンおよびエタノールアミン(細胞膜の成分)から形成される(例えば、Parish et al.,上記;Mata et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:7154−59(2000)参照)。A2Eの蓄積は、加齢性の網膜細胞の神経変性、特に黄斑変性の発現に寄与すると考えられている。ここに記載する網膜神経細胞培養系をA2Eにさらすと、該網膜細胞培養系に存在する網膜細胞の選択的な死(特に光受容細胞の選択的な死)がもたらされる。
【0091】
入射光を「視覚」という感覚に結びつける事象のカスケードを開始するよう設計された網膜の光受容体は、光、特に青色光による損傷を受けやすい。この損傷は、細胞死および疾患、特に乾燥型の黄斑変性につながり得る。網膜の代謝回転(視覚プロセスの必須要素)は、損傷につながる事象に基づいている。遊離のレチナール(可視スペクトルの青色領域において吸収性である)は、光毒性であり、(光)毒性化合物A2Eの前駆体である。A2Eは、チトクローム酸化酵素を特異的に攻撃し、その結果、アポトーシスによる細胞死を引起す。
【0092】
一態様において、網膜細胞培養系は、1pM〜200μMの間(例えば、1pM、10pM、100pM、250pM、500pM、750pM、1nM、10nM、50nM、100nM、250nM、500nM、750nM、1μM、2μM、5μM、7.5μM、10μM、15μM、20μM、25μM、40μM、50μM、75μM、100μM、120μM、200μM)または、250μM、500μM、または750μM)、1μM〜40μMの間、または10μM〜20μMの間の任意の濃度のA2Eに、ある時間、例えば、2〜48時間または12〜36時間さらすことができる。他の態様において、より低い濃度(例えば、1pM〜10μMまたは1nM〜1μM)のA2Eに、より長い時間(例えば、約1週間、約2週間、または約1ヶ月(4週間))細胞培養物をさらすことができる。例えば、ここに記載されるように調製した網膜細胞培養系を20μMのA2Eに48時間さらすと、光受容細胞の死がもたらされる(A2Eにさらされない光受容細胞と比べて90%超の光受容細胞が死滅する)が、神経節細胞の生存は、悪影響をうけない(すなわち、神経節細胞の生存能は低下しない)。
【0093】
他の所定の態様において、一つより多いストレッサーを網膜細胞培養系に加えることができる。例えば、ここに記載する方法および技術に従って、A2Eのような化学物質ストレッサーと光ストレッサーとに培養物をさらすことができる。当該技術において知られまたここに記載されるさらなるストレッサー(グルコース酸素剥脱、圧力、および神経毒があるがこれらに限定されない)を、光ストレッサーまたは化学物質ストレッサーのいずれかまたは両方のストレッサーと組み合わせてもよい。
【0094】
(化学物質の細胞ストレッサー:グルタミン酸)
他の態様において、網膜細胞培養系は、グルタミン酸を細胞ストレッサーとして含む。哺乳動物の中枢神経系(CNS)において、神経インパルスの伝達は、神経伝達物質(放出ニューロンにより放出される)と受容ニューロン上の表面受容体(この受容ニューロンの興奮を引起す)との相互作用により制御される。興奮性アミノ酸類(EAA類)(主にグルタミン酸(一次興奮性神経伝達物質)およびアスパラギン酸)は、哺乳動物の中枢神経系において、主要な興奮経路を媒介する。従って、グルタミン酸は、入ってくる神経シグナルの強さを反映するシナプス後ニューロンの変化を引起し得る。グルタミン酸に応答する受容体は興奮性アミノ酸受容体(EAA受容体)と呼ばれる(例えば、Watkins et al.,Trans.Pharm.Sci.11:25(1990);Monaghan et al.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.29:365(1989);Watkins et al.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.21:165(1981)参照)。興奮性アミノ酸は、種々の生理プロセス(例えば、長期増強作用(学習と記憶)、シナプス塑性の発現、運動調節、呼吸、心血管系制御、および知覚認知)で役割を果たしている。
【0095】
興奮性アミノ酸受容体は、二つの一般的なタイプ(イオン向性とメタボトロピック)に分類される。イオン向性受容体は、リガンド依存性イオンチャネルを含み、シグナル伝達のためイオン流出を媒介する。一方、メタボトロピック受容体は、シグナル伝達のためGタンパク質を用いる。両タイプの受容体は、興奮経路に沿った通常のシナプス伝達を媒介するだけでなく、発育の間そして一生を通じてシナプス結合の調節に関与しているようである(例えば、Schoepp et al.,Trends in Pharmacol.Sci.11:508(1990);McDonald et al.,Brain Res.Rev.15:41(1990)参照)。
【0096】
さらに、イオン向性EAAグルタミン酸受容体の亜分類は、受容体を選択的に活性化するグルタミン酸およびアスパラギン酸以外のアゴニスト(刺激剤)に基づいている。イオン向性受容体の少なくとも3つのサブタイプは、アロステリック調節剤の脱分極作用によって規定されている(N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)に応答性の受容体、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−プロピオン酸(AMPA)に応答性の受容体、およびカイニン酸(KA)に応答性の受容体)。NMDA受容体は、二価のイオン(Ca++)および一価のイオン(Na+、K+)の両方のシナプス後神経細胞への流れを調節する。AMPA受容体およびKA受容体も、一価のK+およびNa+並びに場合によって二価のカルシウム(Ca++)のシナプス後細胞への流れを調節する。NMDA、AMPA、およびKAに加えて他のグルタミン酸アゴニストには、アスパラギン酸、ACPD、キスカル酸、イボテン酸、およびキノリン酸がある。細胞ストレッサーとしてのグルタミン酸の含有についてここに記載する濃度および時間ならびに時期において、成熟網膜細胞培養系に網膜細胞ストレッサーとしてグルタミン酸アゴニストを含めることができる。
【0097】
Gタンパク質興奮性アミノ酸受容体は、複数の第二メッセンジャー系と共役し、第二メッセンジャー系は、ホスホイノシチド加水分解の促進、ホスホリパーゼDの活性化、c−AMP形成の増加または減少、および/またはイオンチャネル機能の変化をもたらす(例えば、Schoepp et al.,Trends in Pharmacol.Sci.14:13(1993)参照)。メタボトロピックEAA受容体は、三つのサブグループに分けられ、それらは、イオン向性受容体と関連がなく、Gタンパク質を介して細胞内の第二メッセンジャーと結合するものである。これらのメタボトロピックEAA受容体は、受容体の相同性と第二メッセンジャーの結合に基づいて分類される。EAA受容体は、発達において、ニューロン構造およびシナプス連結性の設計に係わっており、また、経験によるシナプスの修飾変更に係わっている可能性がある。
【0098】
これらの受容体は、広範囲のCNS障害に係わっているようである。例えば、脳卒中または外傷によって生じる脳虚血において、過剰な量のEAAグルタミン酸が、損傷したまたは酸素剥奪されたニューロンから放出される。この過剰なグルタミン酸がシナプス後のグルタミン酸受容体に結合すると、そのリガンド依存性イオンチャネルが開き、それによってイオン流入が可能になり、それが生化学的カスケードを活性化し、その結果、タンパク質、核酸、および脂質が分解され、細胞死がもたらされる。また、この現象は、興奮毒性として知られ、他の疾患(低血糖症、虚血、およびてんかんからハンティングトン病、パーキンソン病、およびアルツハイマー病で起こる慢性神経変性までの範囲の)に伴う神経学的損傷の原因となり得る(例えば、Kannurpatti et al.,Neurochem.Int.44:361−69(2004);Curr.Top.Med.Chem.4:149−77(2004);Swanson et al.,Curr.Mol.Med.4:193−205(2004)参照)。イオン向性受容体およびグループIメタボトロピック受容体の過剰な活性化は、ニューロンの死をもたらし得る。パーキンソン病、アルツハイマー病、脳虚血、てんかん、ハンティングトン舞踏病、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む多くの神経変性病は、グルタミン酸ホメオスタシスの障害とつながりがあるとされてきた(Tortarolo et al.,J.Neurochem.88:481−93(2004);Lipton et al.,New Eng.J.Med.330:613−22(1994);Gegelashvili et al.,Mol.Pharmacol.52:6−15(1997);Robinson et al.,Adv.Pharmacol.37:69−115(1997))。
【0099】
緑内障において、グルタミン酸放出の増加は、網膜の神経節細胞死の主な原因の一つである(例えば、El−Remessy et al.,Am.J.Pathol.163:1997−2008(2003)参照)。細胞外グルタミン酸の濃度は、もっぱらグルタミン酸輸送体により、生理的レベル内に維持され、正常な興奮伝達が可能になっているとともに興奮毒性から守られている(Robinson et al.,Adv Pharmacol.37:69−115(1997))。神経の損傷は、受容神経細胞の過剰興奮をもたらすグルタミン酸の異常な蓄積により起こり得、また、受容神経細胞上の過敏なグルタミン酸受容体により引起され得る。
【0100】
網膜神経細胞を含む成熟網膜細胞を備えるここに記載の細胞培養系は、グルタミン酸またはその誘導体(例えば、米国特許出願第2002/0115688号参照)を細胞ストレッサーとして含んでもよく、あるいは、グルタミン酸のアゴニスト(Luo et al.,上記参照)を細胞ストレッサーとして含んでもよい。網膜細胞培養物に添加されるグルタミン酸の濃度は、0.5nM〜100μMとすることができ、例えば、約0.5nM、1nM、2nM、4nM、5nM、7.5nM、10nM、20nM、40nM、50nM、75nM、100nM、0.1μM、0.5μM、1μM、2μM、4μM、5μM、7.5μM、10μM、20μM、25μM、40μM、50μM、60μM、75μM、もしくは100μMとすることができ、あるいは、100μM〜1mMとすることができ、例えば、約150μM、200μM、250μM、300μM、400μM、500μM、600μM、750μM、800μM、900μM、および1000μM(1mM)とすることができる。細胞ストレッサーとして作用するグルタミン酸は、新たに採取した(分離した)網膜細胞を調製し組織培養のため培養するとき、網膜細胞培養物に加えることができる。一方、グルタミン酸は、培地に移し培養により網膜細胞が確立した後の時点で加えてもよい。網膜細胞を培地に移してから一日後、あるいは、細胞を培地に移してから2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、または7日後(1週間後)、2週間後、3週間後、4週間後、または6週間以上の後、グルタミン酸を加えてもよい。
【0101】
グルタミン酸は、ここに記載する一つ以上の他の細胞ストレッサー(例えば、光ストレス、CSC、A2Eストレス、または上昇した静水圧)と組み合わせてもよい。ここに記載するように、網膜細胞培養物を二種以上の細胞ストレッサーにさらすとき、グルタミン酸と、他の一種以上のストレッサーとは、同時に細胞培養物に付与または添加してもよいし、あるいは、異なる時間に任意の順序で別々に細胞培養物に付与または添加してもよい。各細胞ストレッサーにさらす時間は異なってもよいし同じでもよい。
【0102】
さらなる細胞ストレッサーを含むまたは含まないグルタミン酸ストレス網膜細胞培養モデルは、網膜神経細胞を含む網膜細胞の生存能、生存、または神経変性を変化させる(統計的に有意な態様で増加または減少させる)生物活性因子(生理活性剤)をここに記載する方法に従って識別または特定するため、用いることができる。網膜ニューロンの生存を高める(伸ばすまたは助長する)生物活性因子(生理活性剤)または神経変性を抑制するまたは減少させる(その進行を遅らせる)生物活性因子(生理活性剤)は、興奮毒性のメカニズムに影響されるいくつかの異なる経路および受容体の任意の一つに作用し得る。また特に、細胞が不利な条件(例えば酸素またはグルコースのレベルの低下、酸化的ストレスのレベルの上昇、毒素への暴露、または遺伝子突然変異)にさらされるとき、例えば、グルタミン酸受容体の活性化は、ニューロンおよびいくつかのタイプのグリア細胞の死を引起し得る。これらの有害な条件の一つ以上の結果として生じる興奮毒性死は、過剰なカルシウム流入、内部細胞小器官からのカルシウムの放出、ラジカル酸素種の生成、およびアポトーシスカスケードの関与を伴い得る。例えば、Mattson,Neuromolecular Med.3:65−94(2003);Atlante et al.,FEBS Lett.497:1−5(2001)を参照されたい。グルタミン酸が細胞ストレッサーであるここに記載のスクリーニングアッセイにおいて見出された生理活性剤は、これらの経路の一つ以上の一以上の要素と相互作用することにより、興奮毒性細胞死を減らすのに有用となり得る。
【0103】
(薬剤発見のためのスクリーニングの神経学的ターゲット)
神経変性疾患が、病的状態の主源である。網膜細胞を含むインビトロ細胞培養モデルは、神経変性の疾患または障害を治療するための薬剤を見出す医薬発見に有効なはずである。有糸分裂後の神経細胞の培養が困難であったため、神経および眼の疾患に適当な薬剤をスクリーニングする際、良好なモデルが重要となる。可能性のある薬剤候補に対するターゲット分子の反応は、少なくとも一部、ターゲット分子の細胞環境に依存すると考えられる。従って、薬剤により最終的に治療すべき細胞種に密接に関連する培養細胞を用いることが、スクリーニングアッセイの開発および利用にとって重要な要件である。
【0104】
薬剤/治療薬候補の適切な検証には、細胞に基づくスクリーニング系に利用できる組織特異的培養細胞を見出しかつ評価することが必要である。神経生物学の分野において、PC12細胞(ラットの褐色細胞種に由来)、NT2細胞(ヒトの奇形癌に由来)、またはヒト神経芽種細胞株のような細胞株が、薬剤候補をスクリーニングするため使用されてきた。それらの細胞は、原型のニューロンのいくつかの特徴を有する一方、腫瘍由来の細胞である。従って、それらの細胞株は、正常な神経細胞と生理学的に異なっていると考えられる。というのも、腫瘍由来の細胞株の細胞は、無傷の動物において見られる細胞の混合および関係に特徴的な神経細胞と非神経細胞の部位特有な混合物を形成することができないからである。さらに、そのような細胞は、共通して、染色体または遺伝子の余分な複製物を伴う異常な核型を有し、その発現は、多くの薬剤の作用に、非腫瘍由来の神経細胞において見られないような態様で最終的に影響し得る。
【0105】
一態様において、ここに記載するインビトロ網膜細胞培養ストレスモデルは、一般に神経疾患または神経障害の治療に適し得る、特に眼および脳の変性疾患の治療に適し得る材料、または生理活性剤および生理活性化合物、特に神経活性剤および神経活性化合物を見出しかつ生物学的に試験するため、用いられる。他の態様において、スクリーニング法は、細胞ストレッサーを見出すため、あるいは、神経学的な疾患または障害、特に網膜の疾患または障害を有する対象を治療するのに適し得る生理活性剤を見出すため、細胞ストレッサーが存在しないインビトロ網膜細胞培養系を備えることができる。成熟網膜細胞の生存能を変化させる(統計的に有意な態様で増加または減少させる)生理活性剤を識別または特定するための方法は、(一つ以上の細胞ストレッサーが存在するまたは存在しない)網膜細胞培養系に存在する成熟網膜細胞と候補剤とを、該細胞培養系と該候補剤との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること(合わせる、混合する、あるいは、それらの相互作用を可能にすること)、および、次いで、該候補剤が存在する場合の複数種の成熟網膜細胞の生存能を、該候補剤が存在しない場合の複数種の成熟網膜細胞の生存能と比較することを備える。候補剤にさらされない複数種の網膜細胞を、候補剤にさらされる網膜細胞と同じ網膜組織から同時に調製することができる。一方、薬剤が存在する場合の網膜細胞の生存能は、標準的な網膜細胞培養物(すなわち、網膜細胞の生存能について繰返し一定で信頼でき正確な測定値をもたらす、ここに記載されるような網膜細胞培養系)の生存能と比較定量することができる。
【0106】
ここに記載される方法を用いることにより、中枢神経系および網膜の疾患および障害を治療するのに有用な薬剤を選別し、そして試験することができる。そのような疾患および障害には、神経変性疾患、てんかん、緑内障、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管(動脈または静脈)閉塞、色素性網膜炎、炎症性網膜疾患、視神経障害、並びに他の変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病または多発性硬化症)に伴う網膜障害またはAIDSに伴う網膜障害があるがこれらに限定されるものではない。ここに提供される培養された成熟ニューロンは、疾患によって損傷したCNS組織の再生を可能にするまたはもたらすことができる生理活性剤を見出すため、生理活性剤の候補をスクリーニングするのに特に有用である。例えば、無傷の外節を有する光受容体の存在は、眼の神経変性疾患を治療するのに有用な化合物を見出すため、そのようなアッセイにおいて適当である。
【0107】
一態様において、一つ以上の生理活性剤の候補を、ここに記載する網膜細胞培養ストレスモデル系を備えるスクリーニングアッセイに組み込み、該生理活性剤が、複数種の網膜細胞の生存能を増加させるかどうか(すなわち、統計的に有意な態様でまたは生物学的に有意な態様で増加させるかどうか)を判定する。当業者に容易に理解されることであるが、ここに記載するように、生存能の増加を示す網膜細胞が意味するところには、細胞培養系において網膜細胞が生存する時間の長さが増加すること(寿命の増加)、および/または、適当な対照細胞系(例えば、候補剤が存在しない場合のここに記載される細胞培養系)で培養された網膜細胞と比べて、生物学的または生化学的な機能が網膜細胞によって維持されること(正常な代謝および小器官の機能、アポトーシスがないことなど)がある。網膜細胞の生存能の増加は、細胞死の遅れ、あるいは、死んだまたは死につつある細胞の数の減少、構造および/または形態の維持、アポトーシスがないことまたはアポトーシスの開始の遅れ、網膜神経細胞の神経変性の遅れ、抑制、遅い進行、および/または消失、あるいは、神経細胞の損傷効果の遅れ、消失または阻止によって、示され得る。網膜細胞の生存能を、そして、網膜細胞が生存能の増加を示すかどうかを、測定または判定するための方法および技術は、ここにより詳細に記載されており、そして、当業者に知られている(例えば、網膜細胞ストレッサーを識別または特定するため記載された方法および技術も参照されたい)。
【0108】
一態様において、一つ以上の生理活性剤の候補を、網膜細胞培養ストレスモデル系を備えるスクリーニングアッセイに組み込み、該生理活性剤が神経細胞の神経変性を変化させることができるかどうか(統計的に有意な態様で、その進行を、低下させる、抑制する、阻止する、消失させる、減少する、遅らせる、または促進することができるかどうか)判定する。好ましい生理活性剤は、神経細胞、特に網膜神経細胞の神経変性の進行を抑制する、低下させる、消失させる、遅らせる、または該神経変性を減ずるもの、神経細胞を再生することができるもの、および/または神経細胞の生存を高めるまたはひき延ばすことができる(生存を促進し、向上させ、または増強でき、従って損傷および/または死を遅らせることができる)ものである。神経細胞の神経変性を阻害する生理活性剤は、例えば、ここに記載する薬剤のライブラリーからの候補薬剤と細胞培養系とを、候補薬剤と網膜細胞(特に、ここに記載する細胞培養系の成熟した網膜神経細胞)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させることにより(混合する、合わせる、あるいは、該薬剤と細胞培養系の網膜細胞との相互作用を可能にすることにより)、識別または特定することができる。
【0109】
生理活性剤は、細胞の生存または神経変性(または神経細胞の損傷)に作用する態様で、網膜神経細胞に直接作用してもよい。一方、生理活性剤は、一つのタイプの網膜細胞と相互作用し、それが、結果として、該薬剤への生理反応を介して、もう一つの網膜細胞の生存能(すなわち生存および/または神経変性)に作用することにより、間接的に作用してもよい。理論に縛られることを好まないが、神経細胞に付随し、ニューロンの代謝機能を支持するように網膜ニューロンと相互作用するミュラーグリア細胞のようなグリア細胞は、生理活性剤による作用の対象となり得る。ミュラーグリア細胞の生物学的または生化学的機能に対する薬剤の効果は、従って、付随する網膜神経細胞(類)の代謝、生存能、および生存に影響し得る。例えば、網膜神経細胞の生存能、生存または神経変性は、ミュラーグリア細胞の生存能を維持するかまたはその生存を増強する候補剤によって、生物学的に有意な態様で間接的に影響を受け得るかまたは変化し得る。
【0110】
ある態様において、ここに記載する方法は、一種、二種、もしくは三種以上、またはすべての種類の網膜細胞の生存能を変化させる(すなわち生存および/または神経変性および/または神経細胞障害を変化させる)生理活性剤を識別または特定するため用いることができ、さらに、一種、二種、三種以上、またはすべての種類の網膜神経細胞(アマクリン細胞、光受容細胞、神経節細胞、水平細胞、および両極細胞)の生存能を変化させる薬剤を識別または特定するため用いることができる。他の特定の態様において、該スクリーニング法を、一種の網膜神経細胞(例えば、アマクリン細胞、光受容細胞、神経節細胞、水平細胞、または両極細胞)の生存能を変化させる(好ましくは、生存を高めるおよび/または神経変性もしくは細胞障害を抑制する)生理活性剤を識別または特定するため用いることができる。
【0111】
一態様において、網膜細胞の生存能を変化させる生理活性剤を識別または特定するための方法は、細胞ストレッサーとして光を含む。他の態様において、A2Eが細胞ストレッサーとして加えられる。生理活性剤を識別または特定するための方法は、一つより多い細胞ストレッサーを含んでもよい。例えば、光とタバコ煙凝縮物とを組み合わせたストレスモデルを用い、網膜細胞培養系においてA2Eがストレッサーとして作用するのを阻害または遮断するようにA2Eの活性を低下または阻害する生理活性剤を識別または特定する。ここに記載するように、A2Eは、網膜リポフスチンの成分であり、それは、非限定的な理論によると、細胞の残骸を処理する間、光受容体の杆体と錐体を並べる網膜色素上皮細胞において、網膜の消化されたロドプシンおよびエタノールアミン(細胞膜の成分)から形成される(例えば、Parish et al.,上記;Mata et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:7154−59(2000)参照)。A2Eの蓄積は、加齢性の網膜細胞の神経変性、特に黄斑変性の発現にある役割を果たしている可能性がある。ここに記載する網膜細胞培養系をA2Eにさらすと、該網膜細胞培養系に存在する網膜細胞の選択的な死(特に光受容細胞の選択的な死)がもたらされる。
【0112】
生理活性剤(生物活性因子)には、例えば、ペプチド、ポリペプチド(例えば、網膜細胞受容体に結合するリガンド(例えば、網膜神経細胞受容体、成長因子、栄養因子など))、オリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド、抗体もしくはその結合性フラグメント、脂質、ホルモン、または小分子が含まれる。網膜神経細胞などの細胞の生存または神経細胞の神経変性を変化させることができる(統計的に有意な態様で増加または減少させることができる)生理活性剤についてスクリーニングを行う方法に使用できる候補剤(候補因子)は、化合物、組成物、または分子の「ライブラリー」またはコレクション(収集物)として用意することができる。そのような分子には、典型的に、当該技術において「小分子」として知られる105ドルトンより低い分子量、104ドルトンより低い分子量、または103ドルトンより低い分子量を有する化合物が含まれる。候補剤(候補因子)は、コンビナトリアルライブラリー(組合せライブラリー)のメンバーとして用意することができ、それは、複数の反応容器において行われる複数の所定の化学反応によって調製される合成剤を含むものである。得られる生成物は、スクリーニングすることができそして選択および合成の手順を繰返すことにより例えばペプチド類の合成コンビナトリアルライブラリーをもたらすことができるライブラリーを構成し(例えば、PCT/US91/08694、PCT/US91/04666参照)、あるいは、ここに提供されるような小分子を含み得る他の組成物を構成する(例えば、PCT/US94/08542、米国特許第5798035号、米国特許第5789172号、米国特許第5751629号参照)。当業者に明らかなとおり、そのようなライブラリーの多様な組合せを、確立した手順に従って、当業者により調製することができる。ニューロンまたは網膜細胞(網膜神経細胞を含む)と相互作用すると考えられるまたは相互作用することが知られている生理活性剤、または、神経活性に作用する(すなわち、ニューロンの構造および/または機能を変化させる)と考えられるまたは作用することが知られている生理活性剤を、特に網膜細胞の生存能を変化させる薬剤を識別または同定するため、ここに記載する方法に含めることができる。
【0113】
好ましくは、生理活性剤は、網膜神経細胞のような神経細胞の生存を高めるものである。すなわち、該剤は、神経細胞が生存できる時間を引き伸ばすように生存を増強するかまたは生存を延ばすものである。細胞の生存を高める候補剤の能力、または、神経変性を低減、抑制または妨害する候補剤の能力は、ここに記載されまた当業者によって実施されるいくつかの方法の任意の一つによって、測定することができる。例えば、候補剤が存在する場合と存在しない場合の細胞形態の変化を、肉眼検査により、例えば、光学顕微鏡法、共焦点顕微鏡法、または当該技術において知られる他の顕微鏡法により、測定することができる。細胞の生存(生存率)は、例えば、生存能力のある細胞および/または生存能力のない細胞を数えることにより、測定することができる。免疫化学法または免疫組織学法(例えば、固定細胞染色またはフローサイトメトリー)を用いることができ、それにより、細胞骨格構造を識別または特定し評価することができ(例えば、細胞骨格タンパク質(例えば、グリア線維の酸性タンパク質、フィブロネクチン、アクチン、ビメンチン、チューブリンなど)に特異的な抗体を用いることにより)、あるいは、ここに記載する細胞マーカーの発現を評価することができる。細胞の統合性(完全性)、形態、成熟、および/または生存に対する候補剤の効果は、神経細胞のポリペプチド、例えば細胞骨格のポリペプチドのリン酸化状態を測定することにより、判定(測定)することができる(例えば、Sharma et al.,J.Biol.Chem.274:9600−06(1999);Li et al.,J.Neurosci.20:6055−62(2000)参照)。
【0114】
生理活性物質が存在する場合に一種以上の網膜細胞の生存が高められる(あるいは、生存が長くなりまたは引き伸ばされること)は、該生理活性剤が神経変性疾患(特に網膜の疾患または障害)の治療に有効な薬剤であり得ることを意味する。細胞の生存および高められる細胞の生存(生存率)は、ここに記載される方法および当業者に知られる方法(生存能アッセイおよび網膜細胞マーカータンパク質の発現を検出するためのアッセイを含む)に従って、測定することができる。光受容細胞の高められる生存(生存率)を測定するため、例えば、杆体により発現されるタンパク質ロドプシンを含むオプシンを検出することができる。ロドプシン(タンパク質オプシンとレチナール(ビタミンA形)とから構成される)は、眼の網膜における光受容細胞の膜に存在し、視覚における唯一の感光工程に触媒作用を及ぼす。その11−シスーレチナール発色団は、該タンパク質のポケットに存在し、光が吸収されるとき、全トランスレチナールに異性化される。レチナールの異性化は、ロドプシンの形の変化をもたらし、その変化は、視神経により脳に伝達される神経インパルスをもたらす反応のカスケードを開始させる。
【0115】
ここに記載される細胞培養系に存在する一種以上の網膜細胞の生存能(または生存)(生存率)は、ここに記載される方法(例えば、網膜細胞ストレッサーを識別または特定するための記載された方法および技術をさらに参照されたい)および当業者によく知られる方法に従って、測定することができる。例えば、生存能力のある細胞は、特定の色素(例えばトリパンブルー)の取り込みにより、生存能力のない細胞と区別することができる。一方、細胞死および細胞溶解は、細胞の代謝産物または酵素(例えば、アルカリ性および酸性ホスファターゼ、グルタミン酸−オキサル酢酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ、アルギニノコハク酸分解酵素、および乳酸デヒドロゲナーゼ(これらは、細胞死の際または損傷した細胞から(例えば、損傷したまたは傷ついた原形質膜を介して)細胞培養物の培地上清に放出される))を測定することにより、定量できる。例えば、エステラーゼ基質である染料核酸を用いる生存能アッセイ、あるいは、酸化または還元を測定する生存能アッセイを利用することができる(Molecular Probes,Eugene,OR,Invitrogen Life Sciences,Carlsbad,CA参照)。活発に分裂しない生きた細胞(例えば網膜神経細胞)の生存能は、一つ以上の代謝過程を評価することにより、測定することができる。そのような方法は、比色分析または蛍光分析によって検出できる試薬を組み込む。細胞の生存能/活力または細胞障害を測定するためのアッセイキットを提供する企業には、Roche Applied Science(Indianapolis,IN)およびMolecular Probesがある。
【0116】
細胞培養系における一種以上の網膜細胞の生存能は、一種、二種、または三種以上の網膜細胞の生存(生存率)を評価(測定)することにより測定することができる。一つ以上の細胞ストレッサーが存在する場合としない場合の細胞培養系における網膜細胞の生存能または生存(率)を測定するのと同様に、生理活性剤の候補が存在する場合としない場合の生存能または生存(率)を測定することができる。ここに記載される方法に従って識別または特定される生理活性剤は、一種以上の網膜細胞の生存を高めるかまたは引き延ばすものであることが好ましい。生存(生存率)は、薬剤にさらされ所定の時間にわたって生存能を有する網膜細胞の数(または割合)を、薬剤にさらされず同じ所定の時間にわたって生存能を有する網膜細胞の数(または割合)と比較することにより、測定(決定)することができる。細胞培養系における網膜細胞の生存(生存率)は、生理活性剤の候補に細胞がさらされている時間の間比較することができ、あるいは、生理活性剤を細胞培養系から除いた後、ある時間の間比較することができる。その時間は、1日、2〜3日、4〜7日、7〜14日、または14〜28日、2ヶ月、または4ヶ月以上とすることができる。
【0117】
網膜神経細胞の神経変性または神経細胞損傷を効果的に変化させる(好ましくは、その進行を抑制する、減少させる、遅らせる、またはそれを阻止するもしくは低下させる)生理活性剤は、神経細胞の構造または形態に対する、神経細胞マーカー(例えば、β3−チューブリン、ロドプシン、レコベリン、ビシニン、カルレチニン、カルビンジン、神経フィラメント(NFM)、Thy−1、タウ、微小管結合タンパク2、ニューロン特異的エノラーゼ、タンパク質遺伝子産物95など(例えば、Espanel et al.,Int.J.Dev.Biol.41:469−76(1997);Ehrlich et al.,Exp.Neurol.167:215−26(2001);Kosik et al.,J.Neurosci.7:3142−53(1987);Luo et al.,(上記)参照)に対する、および/または細胞の生存(すなわち細胞死までの時間の長さまたは細胞の生存能)に対する該剤の効果を測定するためここに記載されそして当該技術において知られる技法により、識別または特定することができる。利用できる抗体には、特定の種類の細胞によって発現されるタンパク質(例えば、光受容細胞によって発現されるオプシン類、例えば、杆体によって発現されるロドプシン、介在ニューロンおよび神経節細胞によって発現されるβ3−チューブリン、および神経節細胞によって発現されるNFM)に特異的に結合する抗体が含まれ、さらに、特定の動物源からの網膜細胞により発現される細胞マーカーを特異的に識別する抗体が含まれる。
【0118】
ここに記載される細胞培養物およびアッセイ法を用いて識別または特定される生理活性剤は、網膜神経細胞の再生に作用し得る。神経細胞の再生または神経細胞の増殖は、当該技術において知られるいくつかの方法のいずれかにより測定することができ、例えば、標識されたデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはそれらの誘導体(例えば、トリチウムチミジン)の取り込みを測定することにより、あるいは、ブロモデオキシウリジン(BrdU)(これは、BrdUに特異的に結合する抗体を用いることにより検出できる)の取り込みを測定することにより、測定することができる。
【0119】
また、生存能、細胞の生存(生存率)、あるいは細胞死は、細胞がアポトーシスを起こしているかどうかを測定するための当該技術において知られそしてここに記載される方法(例えば、アネキシンV結合、DNA断片化アッセイ(例えば、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ仲介dUTPニック末端標識(TUNEL))、カスパーゼ活性化、ミトコンドリア膜電位破壊、マーカー分析(例えば、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP))、アポトーシス中に発現される酵素またはポリペプチドに特異的な抗体(例えば、抗カスパーゼ−3抗体)による検出など)に従って、測定することができる。
【0120】
場合によって、そのような方法は、対象または患者が発症し得る神経変性に直接的または間接的に関係する症状を改善するだけでなく、神経変性の状態を逆戻りさせるよう作用する生理活性剤または治療剤の候補を識別または特定することを可能にし得る。本開示の方法および細胞培養モデル系は、ニューロン間で起こる特異的相互作用の正確な測定を可能にし、さらに、ニューロン構造の精細さを詳細に分析することを可能にする。例えば、ここに記載する方法および培養細胞は、ニューロチップ、細胞ベースのバイオセンサー、および培養されたニューロンを刺激しそして該ニューロンからのデータを記録するための多電極装置または電気生理学的装置に適合するものである(例えば、M.P.Maher et al.,J.Neurosci.Meth.87:45−56,1999;K.H.Gilchrist et al.,Biosensors & Bioelectronics 16:557−64,2001参照)。
【0121】
(網膜細胞培養ストレスモデルの用途)
ここに記載されるインビトロ網膜細胞培養物のストレスモデルは、網膜細胞の変性および/または細胞死を阻止または阻害する生理活性分子、あるいは、網膜細胞の生存を高める生理活性分子を識別または特定するために用いることができる。さらに、このモデルは、短い時間の範囲内ではその効果が現れない生理活性分子の長期効果を調べるために用いることができる。さらに、この系は、種々の毒素または神経毒を検出および/または特定するのに用いることもできる。こうして識別または特定された生理活性分子、毒素または神経毒は、場合によって、ストレッサーとして、単独でまたはここに記載する一つ以上の他のストレッサーとともに用いることができる。長期細胞培養系が利用可能であることは、神経毒性学の分野において特に有益となり得る。というのも、低用量でしかし長期にわたってのみ毒性作用を示す化学物質および活性因子があるからである。
【0122】
ここに記載する方法およびモデル系は、遺伝子を突然変異させた動物から得られる成熟神経細胞にも適用できる。例えば、網膜の異栄養(rd/rd)対立形質を発現する動物から成熟したニューロンを得ることができる。長期細胞培養条件において野生型と突然変異型の神経細胞を比べることは、生理活性分子の識別または特定に役立ち、あるいは、ストレスにさらされる細胞または化合物もしくは栄養素が加えられたまたは除かれた細胞においてアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされる部分の特定に役立つ。脳、眼、または他のCNSの障害または疾患に関係する特徴づけられた対立形質を運ぶ他の動物モデルは、ここに記載する方法および系の中で分化した成熟細胞源(成熟した神経細胞を含む)として使用するのに適し得る。
【0123】
さらに、ゲノミクスおよびプロテオミクスのような新しい技術の出現により、何千もの新規で比較的特徴のない遺伝子およびタンパク質が特定されてきた。薬剤の発見および開発の隘路の一つは、高スループットスクリーニングに利用できる何千または何百万もの小分子およびタンパク質の治療剤候補にどのように優先順位をつけるかということである。これらの高スループットアッセイ系の多くは、標的細胞の酵素活性を試験分子により刺激または阻害すること、あるいは、標的分子または標的細胞に試験分子が結合することに基づいている。インビボの系は、標的分子または標的細胞と、該標的分子の細胞環境内にあるまたは該標的細胞の周囲の組織環境内にある周辺分子との相互作用が複雑であるという特徴を有する。そのため、一つの独立した生化学アッセイによって特定された候補分子がインビボの環境において同じ標的分子または細胞に作用するという態様を予測することは困難となり得る。例えば、ある標的タンパク質(例えば転写因子および細胞表面受容体)は、生物学的機能を発揮するため、しばしば、複数のサブユニットの複合体を形成する。さらに、可能性のある治療剤に対する標的タンパク質の反応は、その細胞環境に依存すると考えられる。ここに記載する網膜細胞培養系および方法を用いるアッセイは、インビボの標的分子の細胞環境の代わりとなることができる。
【0124】
さらなる研究開発の隘路には、治療または診断のターゲットを確認するために遺伝子解析または配列の情報を生物学的機能と関係づけることである。バイオインフォマティクスおよびゲノムテクノロジーは、生物学的な疾患または障害に伴っている遺伝子の突然変異または欠陥に関係する染色体の領域に位置する新しい遺伝子を特定してきた。しかし、何千および何百万の興味のある遺伝子(およびそれらの対応する遺伝子産物)の的確な生物学的機能を特定し解析することは、極めて困難であることがわかる。よい細胞モデルがなければ、細胞内における各タンパク質の一つ以上の生物学的機能を解明することは困難である。従って、バイオインフォマティクスおよびゲノミクスの手法により、可能性のある疾患発症タンパク質および治療剤の候補を識別または特定することができるが、そのような分子のそれぞれの生物学的重要性および機能を特徴づけることは、依然として困難で時間のかかることである。ここに提供するような首尾一貫した再現可能な細胞ベースのアッセイ系およびストレスモデルは、この機能解析を促進する。さらに、ここに記載する培養神経細胞を用いることにより、細胞内の機能的ユニットまたは他の種類のタンパク質以外の分子(例えば、リボソーム、脂質、または炭水化物)を標的とする生理活性剤の識別または特定が可能になり得る。
【0125】
次世代の新薬発見のプラットフォームテクノロジーは、「セロミクス」を組み込むことができる。セロミクスは、インビトロまたは生体外(ex vivo)の培養された細胞の総合分析を利用する。ここに記載する網膜細胞培養系のような細胞ベースのスクリーニング系によれば、より簡単なタンパク質−標的分析においてよりもより生理学的な状態で、生物医薬剤の候補が対応する標的分子と相互作用することが可能になる。
【0126】
ここに記載するインビトロ網膜細胞ストレスモデルは、神経変性疾患を治療するための治療薬の発見および開発を可能にする共通の損傷および回復の経路を含む疾患の根源的メカニズムを研究および解明するため、用いることができる。細胞特性のそのような研究は、改善された疾患のモデルおよび改善された疾患のモデル化の開発につながり得る。
【0127】
また、該ストレスモデル系は、網膜細胞培養物に存在し得る成熟した幹細胞によって生じる神経細胞の再生を検出するため、用いることもできる。ミュラーグリア細胞、上皮細胞、神経細胞などの種類の細胞は、網膜幹細胞として機能する能力を有し得、そして、例えば、始原細胞に似た表現型への分化転換または返転により、新たなニューロンを生産し得る。この細胞モデルにおいて分裂する細胞を特異的に検出するウイルスプローブを調製することができる。ウイルスの特異的マーカーとニューロンマーカーの両方を検出する標準的な方法(例えばイムノアッセイおよび当該技術において知られる他のアッセイ(例えば、免疫組織化学法))により、新たに形成される細胞を検出することができる。分裂する細胞を検出するための当該技術において知られる他の方法は、ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込みである。ブロモデオキシウリジンは、これらのストレスモデル系において新たに再生されるニューロンを検出するため、抗BrdU特異的抗体およびニューロン特異的マーカーに特異的な抗体と組合せて用いることができる。
【0128】
該ストレスモデル系は、神経変性疾患のための可能性のある治療薬の効果(効力)を測定するため、有用であり得る。例えば、組換えポリヌクレオチドおよびベクターを、単独でまたは遺伝子の送達を促進し得る試薬とともに、該モデル系に加えることができる。ポリヌクレオチドの治療効果および/またはトランスフェクションの効率は、当業者の能力の範囲内にある方法に従って、モニターし評価することができる。
【0129】
また、ここに記載する方法および系は、神経細胞のRNA源およびDNA源をもたらすため、用いることもできる。例えば、記載される方法および系により培養される網膜神経細胞は、網膜神経細胞のcDNAライブラリーの構築にとって満足のいく適当な材料となり得る。さらに、そのような神経細胞培養物は、ここに記載するようなプロテオミクス分析に有用であり得る。
【0130】
ここに記載する細胞培養の方法および系は、対象が網膜の疾患または障害を発症する可能性を高くする危険因子を特定するため、用いることができる。一態様において、環境(構造物または閉鎖空間の内部または外部)に存在する網膜細胞ストレッサー(生物学的、化学的または物理的)(例えば、農薬、殺真菌剤、除草剤、もしくは他の殺生物剤、または毒性の建築材料、または他の毒性の化学物質もしくは材料)を識別または特定するため、該細胞培養系を用いることができる。また、ここに記載する方法および系を、生物テロに使用される分子を検出するためのバイオセンサーとして用いることができ、特に、生物テロの神経学的に活性な分子を検出するためのバイオセンサーとして用いることができる。また、本開示の方法および系は、生物テロのそのような分子の効果を中和することができる治療剤を見出し開発するため、用いることができる。
【0131】
かくして、網膜細胞培養物のストレスモデルは、成熟した(胚でない)網膜神経細胞および他の網膜細胞を含む細胞培養系からなり、それらの細胞は、網膜以外の他の種類の細胞(例えば、眼内の毛様体から採集される細胞、加えられる精製または分離されたグリア細胞、または加えられる幹細胞)を含有しない培養物において長期間生存する。該網膜神経細胞は、全ての主要な種類の網膜細胞(介在ニューロン(例えば、アマクリン細胞、水平細胞、および両極細胞)、神経節細胞、並びに光受容細胞)を含む。該細胞培養系は、光受容細胞の長期生存をもたらす。さらに、インビトロ培養物のストレスモデル系(すなわち、成熟した網膜神経細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系)を用いて生理活性分子をスクリーニングするための方法が提供される。
【0132】
(神経変性疾患の治療)
他の態様において、神経変性疾患および神経変性障害、特にここに記載する神経変性網膜疾患を治療するための方法が提供される。そのような治療が必要な対象は、神経変性網膜疾患の症状を有するかまたは神経変性疾患となるおそれのあるヒト、非ヒト霊長類、またはその他の動物である。そのような対象(すなわち患者)の治療は、網膜神経細胞を投与することにより、さらなる細胞死を防止すること、または、損傷した組織を置換すること、増殖させること、修復すること、もしくは再生する(再定着させる)ことを包含すると解される。そのような網膜細胞の移植は、当該技術において知られた方法により行うことができ、そして、そのような方法は、宿主による移植細胞の拒絶を最小限にするかまたは防止する方法を含み、宿主の免疫反応を抑制する薬剤を投与することを含み得る。
【0133】
一態様において、ここに記載する長期網膜細胞培養系で増殖した網膜神経細胞を含む網膜細胞を、神経変性疾患の末期の前に、好ましくは、神経変性開始の前の時点で、または、さらなる神経変性を防ぐ、遅延させる、もしくは減少させることができる時点で(すなわち、例えば、最初の診断が行われた直後に)、それが必要な対象(患者)に投与する。例えば、黄斑変性の診断を、該疾患の初期に行うことができる。本発明に従って、診断時に、網膜細胞、より特定的に光受容細胞を導入することにより、光受容細胞のさらなる神経変性を遅らせる、防ぐ、減らす、または阻害することができる。
【0134】
網膜細胞は、それが必要な対象に、医療技術において知られる標準的な移植法(ジストロフィー組織の部位またはその近く、好ましくは網膜組織への移植を含む)によって導入することができ、また、部位(例えば、眼のガラス体)に網膜神経細胞を注入することを含むことができる。移植は、自己移植(治療すべき対象からの神経細胞)、同系移植(同じ種族(系統)、すなわち、同じ組織適合性遺伝子を有するものの移植)、同種異系移植(同じ種で異なる系統、すなわち、ドナーと受容体とは異なる組織適合性遺伝子を有する)、または異種間移植(ドナーと受容体とは異なる種または属に属している)とすることができる。ヒトにおける移植のため、非ヒト霊長類を、網膜細胞源として用いてもよい。一方、トランスジェニック動物、例えばトランスジェニックブタは、可能な網膜細胞源となり得る。組織移植が対象によって拒絶されない確率を増加させるための手順および方法(すなわち、移植組織に対する受容体の免疫反応を減らすかまたは排除すること)は、医療技術においてよく知られている。
【0135】
ここに記載する方法に従って識別または特定された生理活性剤を投与することにより、網膜神経細胞、特に光受容細胞および/または神経節細胞および/またはアマクリン細胞(無軸索細胞)を含む網膜細胞の生存を高めるための方法も提供される。これらの薬剤は、総じて神経疾患または神経障害の治療に適し得、そして特に、眼および脳の変性疾患の治療に適し得る。症状の治療、治癒、軽減、予防、改善のため、または進行の遅延もしくは停止のため、ここに記載する方法が有用となり得る神経変性疾患または障害には、緑内障、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管(動脈または静脈)閉塞、色素性網膜炎、炎症性網膜疾患、視神経障害、並びに他の神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、多発性硬化症またはパーキンソン病)またはAIDSのような他の症状に伴う網膜障害があるがこれらに限定されるものではない。
【0136】
光受容細胞の生存を高める生理活性剤は、疾患の後遺症(続発症)としての光受容体の神経変性(乾燥型の黄斑変性を含むがそれに限定されない)を含む網膜疾患の治療に特に有用である。ここに記載するように、乾燥型または萎縮性の黄斑変性は、RPE細胞および光受容体の損失をもたらし、細胞の全体的萎縮による網膜機能の減退を特徴とする。一方、黄斑変性の湿潤型または血管新生型は、異常な脈絡膜血管の増殖を伴い、それは、ブルーフ膜およびRPE層を貫いて網膜下の空間に達することにより、広範な凝塊および/または瘢痕を形成する(例えばHamdi et al.,Front.Biosci.8:e305−14(2003)参照)。
【0137】
ここに記載する黄斑変性は、黄斑(網膜の中心領域)に影響を及ぼして中心視覚(視力)の減退および損失をもたらす障害である。加齢性黄斑変性は、典型的に55歳を超えた人において生じる。加齢性黄斑変性の病因には、環境の影響と遺伝的要素の両方が含まれ得る(例えば、Iyengar et al.,Am.J.Hum.Genet.74:20−39(2004)(Epub 2003 December 19)、Kenealy et al.,Mol.Vis.10:57−61(2004)、Gorin et al.,Mol.Vis.5:29(1999)参照)。より若い人(子供および幼児を含む)において黄斑変性はよりまれにしか起こらず、一般にその疾患は遺伝的変異に起因する。若い人の黄斑変性の種類には、シュタルガルト病(例えば、Glazer et al.,Ophthalmol.Clin.North Am.15:93−100,viii(2002);Weng et al.,Cell 98:13−23(1999)参照)、ベストの卵黄様黄斑ジストロフィー(例えばKramer et al.,Hum.Mutat.22:418(2003);Sun et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:4008−13(2002)参照)、ドインの蜂巣状網膜ジストロフィー(例えば、Kermani et al.,Hum.Genet.104:77−82(1999)参照);ソーズビーの眼底ジストロフィー、Malattia Levintinese、黄色斑眼底、および常染色体優性出血性黄斑ジストロフィー(さらにSeddon et al.,Ophthalmology 108:2060−67(2001);Yates et al.,J.Med.Genet.37:83−7(2000);Jaakson et al.,Hum.Mutat.22:395−403(2003)参照)がある。
【0138】
ここで患者(すなわち対象)は、ヒトを含む任意の哺乳動物とすることができ、神経変性の疾患または症状をわずらっているものであってもよいし、認め得る疾患のないものであってもよい。従って、治療は、疾患の存在する対象に施してもよいし、あるいは、治療は、疾患または症状を生じさせるおそれのある対象に施す予防的なものであってもよい。医薬組成物は、無菌の水性もしくは非水性の溶液、懸濁液、またはエマルションとすることができ、それは、さらに、生理的に許容される担体(製薬上許容されるまたは適当な担体)(すなわち、有効成分の活性を妨げない非毒性の材料)を含む。そのような組成物は、固体、液体、または気体(エーロゾル)の形態とすることができる。一方、ここに記載される組成物は、凍結乾燥物として製剤化することができ、あるいは、化合物を当該技術において知られる技法を用いてリポソーム内に封入してもよい。また、医薬組成物は、生物学的に活性または不活性なものであり得る他の成分を含んでもよい。そのような成分には、緩衝剤(例えば、中性の緩衝塩類液またはリン酸塩緩衝塩類液)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、ショ糖、またはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドもしくはグリシンなどのアミノ酸、酸化防止剤(抗酸化剤)、EDTAもしくはグルタチオンなどのキレート剤、安定剤、色素、香味料、および沈殿防止剤、並びに/または防腐剤があるが、これらに限定されるものではない。
【0139】
当業者に知られる任意の適当な担体を、ここに記載する医薬組成物に用いることができる。治療用途の担体はよく知られており、例えば、Remingtons Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro ed.1985)に記載されている。一般に、担体の種類は投与の態様に基づいて選ばれる。医薬組成物は、任意の適当な投与形態に対して製剤化することができる。そのような投与形態には、例えば、眼内投与、結膜下投与、局所投与、経口投与、鼻への投与、髄腔内投与、直腸投与、膣投与、舌下投与または非経口投与(皮下、静脈、筋肉内、胸骨内、海綿体内、外耳道内、もしくは尿道内への注射または注入(点滴)を含む)がある。非経口投与のため、担体は、水、塩類液(生理食塩水)、アルコール、脂肪、ワックス、または緩衝剤を含むことが好ましい。経口投与のため、上記担体の任意のものまたは固体の担体、例えば、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、カオリン、グリセリン、デンプンデキストリン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、グルコース、ショ糖、および/または炭酸マグネシウムを用いることができる。
【0140】
医薬組成物(例えば経口投与または注射によるデリバリーのための)は、液体の形態とすることができる。液体の医薬組成物は、例えば、以下の一つ以上を含むことができる。無菌の希釈剤(例えば、注射用の水、塩類溶液、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張食塩水、溶媒もしくは懸濁媒質として機能し得る不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の溶媒)、抗菌剤、抗酸化剤(酸化防止剤)、キレート剤、緩衝剤、並びに張度調節剤(例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース)。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチックからなる多人数用バイアル、ディスポーザブル注射筒、またはアンプルに封入することができる。生理食塩水の使用が好ましく、また、注射可能な医薬組成物または眼に投与される組成物は、無菌のものが好ましい。
【0141】
ここに記載される方法に従って識別または特定される生理活性剤は、徐放または遅い放出のために製剤化することができる。そのような組成物は、通常よく知られた技術を用いて調製することができ、例えば、口、眼、直腸、または皮下移植により投与することができ、あるいは、必要とする目的の部位での移植により投与することができる。徐放製剤は、担体の母材中に分散された薬剤を含むことができ、かつ/または、速度調節膜に取り囲まれた貯留部内に収容される薬剤を含むことができる。そのような製剤に使用される担体は、生体適合性であり、そして、生物分解性とすることができ、該製剤は、有効成分を比較的一定のレベルで放出することが好ましい。徐放製剤に含まれる活性化合物の量は、移植の部位、放出の速度および予想期間、並びに治療または予防すべき症状の性質によって変わってくる。
【0142】
眼の経路を介して投与される薬剤または組成物の全身的な薬剤吸収は、当業者に知られていることである(例えば、Lee et al.,Int.J.Pharm.233:1−18(2002)参照)。治療用生理活性剤は、局所的な眼へのデリバリー法により配達することができる(例えば、Curr.Drug Metab.4:213−22(2003)参照)。
【0143】
医薬組成物は、医療技術における当業者によって判断されるとおり、治療(または予防)すべき疾患に適当な態様で投与することができる。投与の適当な用量、適当な期間、および頻度は、患者の症状、患者の疾患の種類および重度、有効成分の特定の形態、投与方法などの因子によって、決定することができる。一般に、適当な用量および治療法は、治療効果および/または予防効果(例えば、臨床成果の向上、例えば、より頻度の高い完全なまたは部分的な回復、または、より長い疾患のないおよび/または全体的な生存、または症状の重度の軽減)を得るのに十分な量の一つまたは複数の薬剤を提供する。予防の用途のため、用量は、網膜神経細胞の神経変性に伴う疾患を予防し、その始まりを遅らせ、あるいは、その重度を軽減するのに十分なものとすべきである。最適用量は、一般に、実験的モデルおよび/または臨床試験を用いて決めることができる。最適用量は、患者の体質量、重量、または血液容量に依存し得る。上記パラメーターのいずれか一つに依存する用量は、1ng/ml〜10mg/mlの範囲とすることができる。
【0144】
以下の実施例は、例示を目的として示されるものであり、限定を目的とするものではない。
【実施例】
【0145】
(実施例1 網膜神経細胞培養系の調製)
この実施例は、網膜神経細胞の長期培養物を調製するための方法を記載する。
【0146】
特に記載するものを除き、すべての化合物および試薬は、Sigma Aldrich Chemical Corporation(St.Louis,MO)から入手した。
【0147】
(網膜神経細胞の培養)
Kapowsin Meats,Inc.(Graham,WA)からブタの眼を入手した。眼を摘出し、筋および組織を眼窩からきれいに取り除いた。眼をその赤道にそって半分に切り、そして、当該技術において知られた標準的な方法により、神経網膜を眼の前方部分から緩衝生理食塩水溶液において切り出した。簡単に説明すると、網膜、毛様体、および硝子体を、一個の眼の前半分から切り離し、そして、網膜を、透明な硝子体から丁寧にはずした。それぞれの網膜をパパイン(Worthington Biochemical Corporation,Lakewood,NJ)で分離した後、胎児ウシ血清(FBS)による不活性化および134Kunitz単位/mlのDNアーゼIの添加を行った。酵素により分離した細胞を、摩砕し、そして、遠心分離により集め、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12培地(Gibco BRL,Invitrogen Life Technologies,Carlsbad,CA)に再懸濁した。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12培地は、25μg/mlのインスリン、100μg/mlのトランスフェリン、60μMのプトレシン、30nMのセレン、20nMのプロゲステロン、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.05Mのヘペス、および10%のFBSを含む。ポリ−D−リジンおよびマトリゲル(BD,Franklin Lakes,NJ)で被覆されたガラスカバー片上に、分離した一次網膜細胞を置き、該ガラスカバー片を、24ウェル組織培養プレート(Falcon Tissue Culture Plates,Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)に配置した。細胞を、0.5mlの培地(上記、ただしFBSがわずか1%)で37℃および5%CO2において5日〜1ヶ月間培養保持した。
【0148】
(細胞免疫化学分析)
網膜神経細胞を、1、3、6、および8週間培養し、そして、該細胞を、各時点で免疫組織化学法により分析した。免疫組織化学分析は、当該技術において知られた標準的な手法に従って行った。杆体光受容体を、ロドプシンに特異的な抗体(マウスモノクローナル抗体、希釈1:500、Chemicon,Temecula,CA)を用いて標識することにより、特定した。中位の重さの神経フィラメントに対する抗体(NFMウサギポリクローナル抗体、希釈1:10000、Chemicon)を用いて、神経節細胞を特定した。β3−チューブリンに対する抗体(G7121マウスモノクローナル抗体、希釈1:1000、Promega,Madison,WI)を用いて、概して、介在ニューロンおよび神経節細胞を特定した。そして、カルビンジンに対する抗体(AB1778ウサギポリクローナル抗体、希釈1:250、Chemicon)およびカルレチニンに対する抗体(AB5054ウサギポリクローナル抗体、希釈1:5000,Chemicon)を用いて、内部の顆粒層においてカルビンジンを発現する介在ニューロンおよびカルレチニンを発現する介在ニューロンの亜集団を特定した。簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒド(Polysciences,Inc,Warrington,PA)および/またはエタノールで固定し、ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(DPBS)中でゆすぎ、一次抗体とともに1時間37℃でインキュベートした。次いで細胞をDPBSでゆすぎ、二次抗体(Alexa488結合またはAlexa568結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR))とともにインキュベートし、そしてDPBSでゆすいだ。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)で染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のため、Fluoromount−G(Southern Biotech,Birmingham,AL)とともにスライドガラス上に乗せた。
【0149】
図2は、種々の時間培養した後の霊長類動物の成熟した網膜ニューロンの生存を示している。ブタの網膜細胞は、1週間(図2A、2B、2C)、3週間(図2D、2E、2F)、6週間(図2G、2H、2K)、および8週間(図2J、2K、2L)培養された。光受容細胞は、ロドプシン抗体を用いて特定した(図2A、2D、2G、2J)。神経節細胞は、NFM抗体を用いて特定した(図2B、2E、2H、2K)。また、アマクリン細胞および水平細胞は、カルレチニンに特異的な抗体を用いる染色により特定した(図2C、2F、2I、2L)。
【0150】
(実施例2 網膜神経細胞の白色光により誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する白色光誘発ストレスの効果を記載する。
【0151】
(白色光によって誘発されるストレス)
24ウェルプレートの特定のウェルに特定の波長の光を均一にあてるように装置を製作した。該装置は、AC電源に接続される冷白色蛍光灯(GE P/N FC12T9/CW)を含むものであった。該蛍光灯は、標準的な組織培養インキュベーターの内側に取り付けた。該蛍光灯の直下に細胞のプレートを置くことにより、白色光のストレスを加えた。そのCO2レベルは5%に維持し、細胞プレートの温度は37℃に維持した。温度は、細い熱電対を使用してモニターした。
【0152】
すべての装置の光強度を、Extech Instruments Corporation(P/N 401025;Waltham,MA)の露出計を用いて測定し、調節した。成熟網膜細胞の培養物を、実施例1に記載したように調製した。例えば1000、1200、2000、2500、4000、および6000ルクス(同じExtech露出計にて測定)の強度で0、2、4、8、24、および48時間、培養物を光のストレスにさらした。白色光にさらした後、細胞を14〜16時間静置した。次いで、細胞を細胞免疫化学法により分析した。
【0153】
(網膜細胞培養物の細胞免疫化学分析)
当該技術において知られた標準的な手法により、細胞免疫化学分析を行った。杆体光受容体を、ロドプシンに特異的な抗体(マウスモノクローナル抗体、希釈1:500、Chemicon,Temecula,CA)を用いて標識することにより、特定した。中位の重さの神経フィラメントに対する抗体(NFMウサギポリクローナル抗体、希釈1:10000、Chemicon)を用いて、神経節細胞を特定した。β3−チューブリンに対する抗体(G7121マウスモノクローナル抗体、希釈1:1000、Promega,Madison,WI)を用いて、概して、介在ニューロンおよび神経節細胞を特定した。そして、カルビンジンに対する抗体(AB1778ウサギポリクローナル抗体、希釈1:250、Chemicon)およびカルレチニンに対する抗体(AB5054ウサギポリクローナル抗体、希釈1:5000,Chemicon)を用いて、内部の顆粒層においてカルビンジンを発現する介在ニューロンおよびカルレチニンを発現する介在ニューロンの亜集団を特定した。
【0154】
簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒド(Polysciences,Inc,Warrington,PA)および/または氷冷メタノールで固定し、ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(DPBS)中でゆすぎ、一次抗体とともに1時間37℃でまたは一夜4℃でインキュベートした。次いで細胞をDPBSでゆすぎ、二次抗体(Alexa488結合またはAlexa568結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR))とともにインキュベートし、そしてDPBSでゆすいだ。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)で染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のため、Fluoromount−G(Southern Biotech,Birmingham,AL)とともにスライドガラス上に乗せた。
【0155】
オリンパスIX81またはCZX41顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を用いて、ロドプシンで標識された光受容体およびNFMで標識された神経節細胞を数えることにより、培養物を分析した。20倍の対物レンズを用いて、カバー片あたり20の視野を数えた。各実験における各条件について、この方法により6つのカバー片を分析した。ストレッサーにさらされなかった細胞を数え、そして、この対照における細胞の数に対して、ストレッサーにさらされた細胞数を正規化した。
【0156】
典型的なデータを図3および4に示す。データは、片側スチューデントt検定を用いて解析された。図3は、種々の時間、白色光にさらしたときの光受容細胞に対する効果(図3A)と、種々の光強度にさらされた光受容細胞に対する効果(図3B)を示す。光受容細胞は、白色光の時間および強度の両方に対して用量反応性を示した。NFMを発現する神経節細胞は、6000ルクス24時間の白色光ストレスに対して反応を示さなかった(図4)。光のストレスがある場合にロドプシン特異的抗体を用いて検出した光受容細胞の数は、95%より高い信頼度で、白色光のストレスがない場合に検出した細胞の数と統計的に差があった。光のストレスがない場合にNFM特異的抗体を用いて検出した神経節細胞の数は、95%より高い信頼度で、白色光のストレスがある場合に検出した細胞の数と統計的に差がなかった。
【0157】
(アポトーシス分析)
網膜細胞培養物を、2週間培養し、次いで、6000ルクスで24時間、白色光のストレスにさらした後、13時間静置した。アポトーシスを評価するため、当該技術において知られた標準的な手法および製造者の説明書に従い、TUNELを行った。簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、まず4%パラホルムアルデヒド、その後エタノールを用いて固定し、DPBSにおいてゆすいだ。次いで、固定した細胞を、Chroma−Tide Alexa568−5−dUTP(0.1μMの最終濃度)(Molecular Probes)と合わせた反応緩衝液(Fermentas,Hanover,MD)において、TdT酵素(0.2単位/μlの最終濃度)とともに1時間37℃でインキュベートした。培養物をDPBSでゆすぎ、一次抗体とともに、4℃で一夜または37℃1時間インキュベートした。次いで、細胞を、DPBSでゆすぎ、Alexa488結合二次抗体とともにインキュベートし、DPBSでゆすいだ。核をDAPIで染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のためFluoromount−Gとともにスライドガラス上に乗せた。
【0158】
オリンパスIX81またはCZX41顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を用いてTUNELで標識された核を数えることにより、培養物を分析した。20倍の対物レンズを用いて、カバー片あたり20の視野を数えた。各条件について、この方法により6つのカバー片を分析した。ストレッサーにさらされなかった細胞を数え、そして、この対照における細胞の数に対して、ストレッサーにさらされた細胞数を正規化した。
【0159】
図5は、6000ルクス24時間の白色光ストレスの後、TUNEL標識が5倍増加したことを示している。データは、片側スチューデントt検定を用いて解析された。白色光のストレスにさらされたTUNEL標識網膜細胞の数は、95%より高い信頼度で、光のストレスにさらされなかったTUNEL標識網膜細胞の数と統計的に差があった。
【0160】
(実施例3 網膜神経細胞の青色光で誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する青色光誘発ストレスの効果を記載する。
【0161】
(青色光により誘発されるストレス)
実施例1に記載されるとおり網膜細胞培養物を培養した。細胞を1週間培養した後、青色光のストレスを加えた。青色光は、特注の光源により照射した。該光源は、24(4×6)の青色発光ダイオード(Sunbrite LED P/N SSP−01TWB7UWB12)の2配列からなり、各LEDが24ウェル使い捨てプレートの一つのウェルに割り当てられるよう設計されたものであった。第一配列は、細胞を満たした24ウェルプレートの上に配置され、一方、第二配列は、セルのプレートの下に配置され、両配列から細胞のプレートに光のストレスが同時に付与できるようにした。装置全体を、標準的な組織培養インキュベーター内部に配置した。そのCO2レベルを5%に維持し、細胞プレートの温度を37℃に維持した。温度は、細い熱電対を用いてモニターした。各LEDへの電流は、個々の電位差計によりそれぞれ制御し、すべてのLEDについて均一な光出力を可能にした。細胞プレートは、2000ルクスの青色光のストレスに2時間または48時間さらされ、その後、14時間静置された。
【0162】
実施例1および2に記載するとおり、免疫化学分析を行い、データを解析した。2000ルクスの青色光のストレスの後、ロドプシンを発現する光受容体の数は減少し、ストレスの時間に対して用量反応性が認められた(図6)。データは、95%より高い信頼度で、統計的に差があった(片側スチューデントt検定)。
【0163】
(実施例4 網膜神経細胞のA2Eにより誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞のA2E誘発ストレスの効果についてのものである。
【0164】
(A2Eにより誘発されるストレス)
網膜細胞培養物を、実施例1に記載するとおり調製した。1週間細胞を培養した後、化学物質ストレスであるA2Eを加えた。A2Eは、Dr.Koji Nakanishi(Columbia University,New York City,NY)から得た。A2Eをエタノール中で希釈し、0、10μM、20μM、および40μMの濃度で網膜細胞培養物に添加した。培養物を24時間および48時間処理した。培養物は、組織培養インキュベーターにおいてストレスを加える間37℃および5%CO2に維持した。
【0165】
実施例1および2に記載するように、細胞免疫化学分析を行い、データを解析した。ロドプシンを発現する光受容体の数は、24時間後、A2Eの種々の濃度に対して用量反応性を示した(図7(95%より高い信頼度で統計的に差、片側スチューデントt検定))。一方、NFMを発現する神経節細胞の数は、ストレスのない24時間後または20μMのA2Eストレスにさらして24時間後、統計的に差がなかった(図8)(片側スチューデントt検定、95%より高い信頼度)。
【0166】
(実施例5 網膜神経細胞に対する白色LED光誘発ストレスの効果)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜細胞の白色LED光誘発ストレスの効果を記載する。
【0167】
(白色LED光により誘発されるストレス)
網膜細胞培養物を、実施例1に記載するとおり調製した。白色光を特注のLED光源により照射した。LED光源は、24(4×6)の白色発光ダイオード(Sunbrite LED P/N SSP−01TWB9WB12)の2配列からなるものであり、実施例3のように設計されたものである。網膜細胞を、細胞免疫化学法により分析し、そのデータを実施例1および2に記載の方法に従って解析する。白色LED光により誘発されるストレスは、強度および時間に依存して光受容体数の減少を引き起こす一方、神経節細胞の数は変わらないままである。
【0168】
(実施例6 網膜神経細胞の紙巻タバコ煙凝縮物により誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する紙巻タバコ煙凝縮物の効果を記載する。
【0169】
(紙巻タバコ煙凝縮物により誘発されるストレス)
網膜細胞培養物を、実施例1に記載するとおり調製した。細胞を、0.5mlの培地(上記、ただしFBSがわずか1%のもの)で37℃および5%CO2において5日〜1ヶ月間培養保持した。紙巻タバコの煙の凝縮物(CSC)をMurty Pharmaceuticals(Lexington,KY)から得た。簡単に説明すると、CSCは、FTCスモークマシーンにおいて1R3Fスタンダードリサーチシガレットを煙らせることにより、University of Kentuckyで調製した。CSCをフィルター上に集め、そしてフィルター上の総粒子状物質(TPM)をフィルターの重量増加から算出した。次に、TPMから、理論的4%(w/v)溶液を調製するため抽出に使用されるDMSOの量を算出した。DMSO中にフィルターを浸漬し、フィルターを超音波処理することにより、凝縮物をDMSOで抽出した。次いで、抽出したCSCを1mLバイアルに充填し、−70℃で貯蔵した。
【0170】
上述したように調製した網膜神経細胞培養物を、37℃および5%CO2の通常の組織培養条件下で、24時間、100μg/mLのCSCにさらした。
【0171】
(網膜細胞培養物の細胞免疫化学分析)
当該技術において知られる標準的な手法により、細胞免疫化学分析を実施例1および2に記載するように行った。杆体光受容体を、ロドプシンに特異的な抗体(マウスモノクローナル抗体、希釈1:500、Chemicon International,Temecula,CA)を用いて標識することにより、特定した。中位の重さの神経フィラメントに対する抗体(NFMウサギポリクローナル抗体、希釈1:10000、Chemicon)を用いて、神経節細胞を特定した。β3−チューブリンに対する抗体(G7121マウスモノクローナル抗体、希釈1:1000、Promega,Madison,WI)を用いて、概して、介在ニューロンおよび神経節細胞を特定した。そして、カルビンジンに対する抗体(AB1778ウサギポリクローナル抗体、希釈1:250、Chemicon)およびカルレチニンに対する抗体(AB5054ウサギポリクローナル抗体、希釈1:5000,Chemicon)を用いて、内部の顆粒層においてカルビンジンを発現する介在ニューロンおよびカルレチニンを発現する介在ニューロンの亜集団を特定した。
【0172】
簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒド(Polysciences,Inc,Warrington,PA)および/または氷冷メタノールで固定し、ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(DPBS)中でゆすぎ、一次抗体とともに1時間37℃でまたは一夜4℃でインキュベートした。次いで細胞をDPBSでゆすぎ、二次抗体(Alexa488結合またはAlexa568結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR))とともにインキュベートし、そしてDPBSでゆすいだ。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)で染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のため、Fluoromount−G(Southern Biotech,Birmingham,AL)とともにスライドガラス上に乗せた。
【0173】
オリンパスIX81またはCZX41顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を用いて、ロドプシンで標識された光受容体およびNFMで標識された神経節細胞を数えることにより、培養物を分析した。20倍の対物レンズを用いて、カバー片あたり20の視野を数えた。各実験における各条件について、この方法により6つのカバー片を分析した。ストレッサーにさらされなかった細胞を数え、そして、この対照における細胞の数に対して、ストレッサーにさらされた細胞数を正規化した。
【0174】
典型的な正規化データを図9に示す。データは、片側スチューデントt検定を用いて解析した。図9は、細胞が紙巻タバコ煙凝縮物のストレスにさらされたときの光受容体に対する効果を示している。紙巻タバコ煙凝縮物のストレスがある場合にロドプシン特異的抗体を用いて検出された光受容細胞の数は、95%より高い信頼度で、ストレスがない場合に検出された細胞の数よりも統計上小さかった。
【0175】
(実施例7 網膜神経細胞の紙巻タバコ煙凝縮物と光とにより誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する紙巻タバコ煙凝縮物と光とによって誘発されるストレスの効果を記載する。網膜細胞培養物は、実施例1に記載するとおり調製した。
【0176】
(紙巻タバコ煙凝縮物と光とにより誘発されるストレス)
実施例2に記載した装置を用いて、24ウェル組織培養プレートの特定のウェルに特定の波長の光を均一に照射した。該装置の冷白色蛍光灯を、標準的な組織培養インキュベーター内部に取り付けた。細胞のプレートを蛍光灯の直下に置くことにより白色光のストレスを加えた。組織培養インキュベーターにおけるCO2レベルは5%に維持し、細胞プレートの温度は37℃に維持した。温度は、熱電対を用いてモニターした。
【0177】
すべての装置の光強度は、Extech Instruments Corporation(P/N 401025;Waltham,MA)の露出計を用いて測定し、調節した。細胞を1週間培養した後、細胞培養物を、1500ルクスの強度で24時間、光のストレスにさらした。次いで細胞を細胞免疫化学法によって分析した。
【0178】
ストレスなしで1週間培養した細胞のもう一つのサンプルに対し、紙巻タバコ煙凝縮物(100μg/ml)を培養物に添加し、そして、光のストレスを加えた。培養物を、両方のストレッサーの存在下、24時間保持した。CO2レベルは5%に維持し、細胞プレートの温度は37℃に維持した。
【0179】
実施例1および2に記載するように、免疫化学分析を行い、そしてデータを解析した。図10は典型的なデータを示す。光+紙巻タバコ煙凝縮物のストレスの後、ロドプシンを発現する光受容体の数は減少した。データは、95%より高い信頼度で、ストレッサーにさらされた細胞について、細胞ストレッサーにさらされなかった細胞と比べ、統計的に差があった(片側スチューデントt検定)。
【0180】
(実施例8 網膜神経細胞の圧力により誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する雰囲気圧上昇の効果を記載する。網膜細胞培養物は、実施例1に記載するとおり調製し、圧力ストレスにかける直前に、組織培養培地を、血清を含む培地から血清を含まない培地に変えた。
細胞を75mmHgの正のゲージ圧にさらすように圧力チャンバーを製作した。このチャンバーを、標準的な組織培養インキュベーター内に設置し、インキュベーター内の条件と合わせるため5%CO2および95%空気を含むガスのキャニスターを用いて加圧した。そのCO2レベルを5%に維持し、細胞プレートの温度を37℃に維持した。温度は温度計でモニターした。
【0181】
高くされた圧力に24時間さらした後、実施例1および2に記載した方法に従って、網膜神経細胞を免疫化学法により分析した。神経節細胞は、1:5000で希釈したニワトリ抗NFM抗体(Chemicon International)を用いて検出した。また、アポトーシスマーカーであるカスパーゼ−3に特異的に結合する抗体(ウサギ抗カスパーゼ−3、活性、希釈1:5000、R&D Systems,Inc.,Minneapolis,MN)を用いて、培養物における神経細胞を検出した。抗NFM抗体の結合は、Alexafluor594ヤギ抗ニワトリIgG(1:1500)(Molecular Probes)を用いて検出した。また、抗カスパーゼ−3抗体の結合は、Alexafluor488ヤギ抗ウサギIgG(1:1500)(Molecular Probes)を用いて検出した。図11Aおよび図11Bは、ストレッサーとして高くされた雰囲気圧にさらされなかった神経節細胞を示す。図11Cおよび図11Dは、アポトーシスを受けている神経節細胞の例を示している。抗カスパーゼ−3抗体で検出された神経節細胞は、矢印で示される。
【0182】
(実施例9 EPOは光受容体の生存を高める)
この実施例は、網膜細胞の生存能に対する薬剤の効果を調べるための細胞ストレッサーを含む成熟網膜細胞培養系の利用について記載する。成体マウスの網膜における急性低酸素症は、エリスロポエチン(EPO)の発現を刺激する(Grimm et al.,Nat.Med.8:718−724(2002))。従って、網膜細胞に対するEPOの効果を調べた。
【0183】
特に示したものを除き、全ての化合物および試薬は、Sigma Aldrich Chemical Corporation(St.Louis,MO)から入手した。
【0184】
網膜細胞培養物を、実施例1に記載するとおり調製した。エリスロポエチン(EPO)(R&D Systems,Minneapolis,MN)を、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、1U/mlの最終濃度で24時間37℃および5%CO2において培養ウェルに加えた。25μMのA2E(Dr.Koji Nakanishi,Columbia University,New York City,NYから入手、エタノールにおいて希釈)と1U/mlのEPOを両方含む培地に変えることによって、細胞にストレスを加え、24時間インキュベートした。
【0185】
(免疫組織化学分析)
当該技術において用いられる標準的な方法により、免疫組織化学分析を実施例1および2に記載するように行った。杆体光受容体を、ロドプシンに特異的な抗体(マウスモノクローナル抗体、希釈1:500、Chemicon,Temecula,CA)を用いて標識することにより、特定した。中位の重さの神経フィラメントに対する抗体(NFMウサギポリクローナル抗体、希釈1:10000、Chemicon)を用いて、神経節細胞を特定した。β3−チューブリンに対する抗体を用いて、概して、介在ニューロンを特定した。そして、カルビンジンおよびカルレチニンに対する抗体を用いて、内部の顆粒層においてカルビンジンを発現する介在ニューロンおよびカルレチニンを発現する介在ニューロンの亜集団を特定した。簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒド(Polysciences,Inc,Warrington,PA)および/またはエタノールで固定し、ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(DPBS)中でゆすぎ、一次抗体とともに1時間37℃でインキュベートした。次いで細胞をDPBSでゆすぎ、二次抗体(Alexa488結合またはAlexa568結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR))とともにインキュベートし、そしてDPBSでゆすいだ。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)で染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のため、Fluoromount−G(Southern Biotech,Birmingham,AL)とともにスライドガラス上に乗せた。
【0186】
オリンパスIX81またはCZX41顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を用いて、ロドプシンで標識された光受容体およびNFMで標識された神経節細胞を数えることにより、培養物を分析した。20倍の対物レンズを用いて、カバー片あたり20の視野を数えた。各実験における各条件について、この方法により6つのカバー片を分析した。EPOまたはストレッサーにさらされなかった細胞を数えた。そして、EPOによる処理とともにまたはEPOによる処理なしでストレッサーにさらされた細胞の数を、対照における細胞の数に対して正規化した。図12は、ストレス前の典型的なロドプシン発現光受容体を示す。図13は、ストレス(A2E、25μM、24時間)後の典型的なロドプシン発現光受容体を示す。小さな点は破壊片を示している。生存細胞の総数は、図1よりかなり少ない。図14は、ストレスの下、同時にEPO(1U/mL)を加えた場合のロドプシン発現光受容体を示す。生存細胞数は、図13のものよりかなり多く、光受容体の神経保護作用を示している。
【0187】
本発明の具体的態様を例示の目的でここに記載してきたが、以上から明らかなとおり、本発明の精神および範囲を逸脱することなく種々の変更・修飾を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】図1は、光受容細胞の模式図を示す。
【図2】図2は、成熟網膜細胞の免疫組織化学染色を示す。ブタの網膜細胞が、1週間(図2A、2B、2C)、3週間(図2D、2E、2F)、6週間(図2G、2H、2K)、および8週間(図2J、2K、2L)培養された。細胞は、光受容体を特定するロドプシン抗体を用いた免疫学的分析にかけられ(図2A、2D、2G、2J)、神経節細胞を特定するNFM抗体を用いた免疫学的分析にかけられ(図2B、2E、2H、2K)、そしてアマクリン細胞および水平細胞を特定するカルレチニンに対する抗体を用いた免疫学的分析にかけられた(図2C、2F、2I、2L)。
【図3】図3は、ストレスのない場合または白色光ストレスの後のロドプシンを発現する光受容体の数を示すヒストグラムであり、時間(図3A)と強度(図3B)の両方に対する用量反応性を明らかにしている。
【図4】図4は、ストレスのない場合または6000ルクス24時間の白色光ストレスの後のNFMを発現する神経節細胞の数を示すヒストグラムである。
【図5】図5は、ストレスのない24時間後の、または、6000ルクス24時間の白色光ストレスに続く13時間の静置期間の後のTUNEL陽性核の数を示すヒストグラムである。
【図6】図6は、ストレスのない場合の、または、種々の時間2000ルクスの青色光ストレスをかけその後14時間の静置期間を設けた場合のロドプシンを発現する光受容体の数を示すヒストグラムである。
【図7】図7は、ストレスのない24時間後の、または、種々の濃度のA2Eストレス24時間後のロドプシンを発現する光受容体の数を示すデータの図である。
【図8】図8は、ストレスのない24時間後の、または、20μMのA2Eストレス24時間後のNFMを発現する神経節細胞の数を示すヒストグラムである。
【図9】図9は、ロドプシンを発現する光受容体に対するタバコ煙凝縮物ストレス(100μg/ml)の効果を示す図である。
【図10】図10は、ストレスのない場合の、および、白色光ストレス(1500ルクス)+タバコ煙凝縮物ストレス(100μg/ml)下の、ロドプシンを発現する光受容体に対する効果を示す図である。
【図11】図11A〜11Dは、培養された成熟網膜神経細胞に対する雰囲気圧上昇ストレスの効果を示す。図11Aおよび11Bは、ストレッサーとして高められた雰囲気圧(75mmHg)にさらされなかった典型的な神経節細胞を示す。図11Cおよび11Dは、アポトーシスを起こした神経節細胞の例を示す。抗カスパーゼ−3抗体で検出されたアポトーシスを起こしている神経節細胞は矢印で示される。
【図12】図12は、ストレス前の典型的なロドプシンを発現する光受容体の免疫組織化学分析を示す。
【図13】図13は、ストレス(25μMのA2E、24時間)後の典型的なロドプシンを発現する光受容体の免疫組織化学分析を示す。小さな点は、細胞の残骸(壊死片)を示す。
【図14】図14は、24時間EPO(1U/mL)の添加とともにストレス下においたロドプシン発現光受容体の免疫組織化学分析を示す。
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、総じて、網膜細胞の長期インビトロ培養物をもたらす細胞培養系に関し、また、網膜細胞の長期インビトロ培養物に対するストレッサー(ストレス因子)の効果を測定するためのモデルを与える神経細胞ストレッサーを含む細胞培養系に関する。特に本発明は、光受容細胞、アマクリン細胞、両極細胞、水平細胞、および神経節細胞を含む網膜神経細胞を備える細胞培養物のストレスモデルに関する。該細胞培養物のモデルは、神経変性疾患、特に網膜の疾患および障害の治療に使用できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
緑内障、黄斑変性、およびアルツハイマー病などの神経変性疾患は、世界中で何百万人もの人々がわずらっている。そのような疾患を伴うと生活の質が著しく損なわれるため、この分野における医薬の研究開発は非常に重要である。
【0003】
黄斑変性は、中心視力が冒される疾患である。黄斑変性の患者が米国において五百万人〜千万人存在し、それは、世界的に見て失明の原因の首位を占めている。黄斑変性は、斑と呼ばれる網膜の中心部分にある光受容細胞の損失を原因とする疾患である。黄斑変性は、二種類(乾燥型と湿潤型)に分類することができる。乾燥型は、湿潤型よりも一般的であり、加齢性黄斑変性(ARMD)の患者の約90%は乾燥型として診断される。この疾患の湿潤型は、一般に、より深刻な視力喪失につながる。加齢性黄斑変性の確かな原因はいまだにわかっていない。ARMDの乾燥型は、黄斑組織の老化と薄化に起因し得、また、斑における色素の沈着に起因し得る。湿潤型ARMDでは、新しい血管が網膜の真下に成長し、血液および体液の漏れを引起す。この漏洩は、網膜細胞死の原因となり、中心視の中に盲点を作り出す。
【0004】
ARMDを治療するための唯一の食品医薬品局(FDA)承認プロトコルは、特定の医薬をレーザー光凝固術と組合せて用いる光ダイナミック療法である。しかし、この治療法は、ARMDの湿潤型であると新しく診断される患者の半分にしか適用できない。黄斑変性の乾燥型を有する患者の大部分にとって、利用可能な治療法は存在しない。乾燥型は、黄斑変性の湿潤型よりも先に起こるため、乾燥型の疾患の進行に介入することは、目下乾燥型を有しそして湿潤型の発生を遅らすことができるかまたは防止できる患者にとって有益である。
【0005】
患者が気づく視力の減退または通常の眼の検査において眼科医が気づく視力の低下は、黄斑変性の最初の指標となり得る。黄斑内または黄斑下の血管からの滲出物すなわち「ドルーゼン」の形成が、しばしば、黄斑変性となり得る最初の身体的徴候である。徴候には、直線がゆがんで知覚されることがあり、そしてある場合、視覚の中心が、周りの光景よりもひずんで見え、暗くぼんやりした領域または「白くらみ(ホワイトアウト)」が視覚の中心にあらわれ、そして/あるいは、色の知覚が変化または低下する。
【0006】
異なる型の黄斑変性が、より若い患者に起こり得る。非加齢性の病因は、遺伝、糖尿病、栄養不足、頭部損傷、感染などの因子と関係し得る。
【0007】
緑内障は、視野の減損を引起すが、しばしばその他の顕著な徴候のない一連の疾患を表すのに使用される広い意味の用語である。徴候の欠如のため、しばしば、疾患の末期まで緑内障の診断が遅れることがある。緑内障の患者数は、米国において三百万であると見積もられ、失明の約120000のケースがこの病気に起因する。この疾患は、日本でも一般的であり、四百万の症例が報告されている。世界の他の地域では、米国や日本よりも治療を受けにくく、従って、世界的に見れば、緑内障は失明の主要な要因となっている。たとえ緑内障にかかった患者が失明しなくとも、その視力の低下はしばしば深刻なものとなる。
【0008】
周辺視力の減損は、網膜における神経節細胞の死によって引起される。神経節細胞は、眼を脳につなぐ特定の種類の投射ニューロンである。緑内障は、しばしば、眼内圧の上昇を伴う。最近の治療には、眼内圧を低下させる薬剤の使用が含まれる。しかし、眼内圧を下げることは、多くの場合、疾患の進行を完全に食い止めるには不十分である。神経節細胞は、圧力に影響を受けやすいと考えられており、眼内圧を下げる前に永久的な変性を受ける可能性がある。眼内圧の上昇が認められずに神経節細胞が変性するという正常圧力緑内障の見つかる症例が増えてきている。現在、緑内障の薬は眼内圧に対処するものだけであるため、神経節細胞の変性を防止または逆転する新しい治療薬を見出す必要がある。最近の報告が示唆するところによれば、緑内障は、それが網膜ニューロンに特異的に作用することを除いて、脳のアルツハイマー病およびパーキンソン病と同様の神経変性疾患である。眼の網膜ニューロンは、脳の間脳ニューロンから生じるものである。網膜ニューロンは、しばしば誤って、脳の一部ではないと考えられることがあるが、網膜細胞は、視覚の重要な要素であり、光感受性細胞からのシグナルを読み取っている。
【0009】
アルツハイマー病(AD)は、年輩の中において最も一般的な痴呆の形態である。痴呆は、日常生活を行う人の能力に深刻に影響する脳の疾患である。米国だけで、四百万人がアルツハイマー病を患っている。アルツハイマー病は、記憶および他の精神機能に不可欠な脳の領域における神経細胞の損失を特徴とする。限られた期間、ADの徴候を防ぐことができる薬剤があるが、この疾患を治療しあるいは精神機能低下の進行を完全に止めるのに利用可能な薬剤はない。最近の研究が示唆するところによれば、ニューロンまたは神経細胞を支持するグリア細胞がAD患者において欠陥を有している可能性がある。しかし、ADの原因はわかっていないままである。ADの患者は、緑内障および黄斑変性の発病率がより高いようであり、このことは、類似する病因が、眼および脳のこれらの神経変性疾患の根底にあり得ることを示している(Giasson et al.,Free Radic.Biol.Med.32:1264−75(2002);Johnson et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:11830−35(2002);Dentchev et al.,Mol.Vis.9:184−90(2003)参照)。
【0010】
神経細胞の死が、これらの疾患の病理の根底にある。残念ながら、神経細胞の生存(特に光受容細胞の生存)を高める(増強する)組成物や方法はほとんど見つかっていない。良い動物モデルがないことが、網膜疾患および網膜障害を治療する新規な医薬の開発の大きな障害になっていることは明らかである。例えば、斑は、霊長類(ヒトを含む)に存在するが、げっ歯類には存在しない。従って、比較的安価で充実したげっ歯動物のモデルは、今のところ、斑を直接ターゲットとする医薬および生物製剤の試験には利用できない。従って、網膜疾患治療の組成物および方法を識別または特定し評価するため、動物モデルに代わる方法が、当該技術において必要とされる。
【0011】
一般に神経細胞、特に網膜神経細胞のインビトロ培養は、問題のあるものであった。長年、十分に成熟したニューロンは、可塑性を欠き、損傷の後に回復および再生する能力がないと考えられていた。もし、成熟した中枢神経系(CNS)のニューロンが、長期間にわたってインビトロ培養でき、そして、その再生を刺激できたならば、損傷したまたは病変したCNS組織の移植および機能回復が可能になるかもしれない。
【0012】
研究者の複数のグループが、CNS由来ニューロンのインビトロ成長について研究を行っている。いくつかの研究は、形質転換または不死化された神経細胞(腫瘍形成性組織から得られる細胞を含む)の使用を必要としてきた。網膜神経細胞の培養に関し、インビトロの網膜器官の培養、網膜の体外移植組織の培養、および網膜の体外移植/膜培養法が報告されている。さらに、研究者は、胚組織もしくは胚幹細胞または新生児の網膜から得られる網膜神経細胞培養物の分析について報告している。しかし、有糸分裂後の神経細胞の長期培養物を確立できないことは、神経生物学の分野において大きな障害であった。インビボでストレッサーが細胞に作用する態様に類似してインビトロの細胞培養物で細胞に作用するストレッサーを含む細胞培養モデルを開発することは、神経生物学の技術への価値のある貢献となるはずである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の概要)
簡単に述べると、本発明は、成熟網膜細胞培養系、該成熟網膜細胞培養系からなる網膜細胞培養のストレスモデル、および、該成熟網膜細胞培養系およびストレスモデルを用いるための方法を提供する。
【0014】
一態様において、本発明は、複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系であって、該細胞ストレッサーが該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものである細胞培養系を提供する。ある態様において、該細胞ストレッサーは、光、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)もしくはそのアイソフォーム、タバコの煙の凝縮物、高められた静水圧、またはグルタミン酸である。特定の態様において、該細胞ストレッサーは光であり、それは、青色光または白色光とすることができる。特定の一態様において、該青色光は約250〜8000ルクスの範囲の強度を有する。他の特定の態様において、該白色光は約250〜8000ルクスの範囲の強度を有する。他の態様において、該光は紫外光である。他の特定の態様において、該光は蛍光灯、白熱灯、または発光ダイオードから放射されるものである。他の特定の態様において、網膜細胞ストレッサーは高められた雰囲気圧である。一態様において、該ストレッサーは化学物質であり、特定の態様において、該化学物質はA2Eである。A2Eは、A2Eの異性体を含むことができる。他の態様において、該化学物質はグルタミン酸またはグルタミン酸のアゴニスト(作動物質)である。他の態様において、該細胞培養系は、少なくとも二つの網膜細胞ストレッサーを含み、それらは、光、A2Eもしくはそのアイソフォーム、タバコの煙の凝縮物、高められた静水圧、またはグルタミン酸から選ばれるものとすることができる。ある態様において、該少なくとも二つの細胞ストレッサーは光とA2Eであり、他の態様において、該少なくとも二つの細胞ストレッサーは光とタバコの煙の凝縮物である。
【0015】
ある態様において、細胞培養系は、複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含み、そこにおいて、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一つの網膜神経細胞、少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、および少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む。ある態様において、該複数種の網膜細胞は、少なくとも一つの両極細胞、少なくとも一つの水平細胞、少なくとも一つのアマクリン細胞、少なくとも一つの神経節細胞、および少なくとも一つの光受容細胞を含む複数種の網膜神経細胞からなる。他の態様において、細胞培養系は、複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含み、そこにおいて、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一種の網膜神経細胞を含む。そこにおいて、該網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、または光受容細胞である。他の態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選ばれる少なくとも一種の細胞を含み、そこにおいて、該網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、または光受容細胞である。他の態様において、該細胞培養系は、網膜以外の組織源から精製された細胞を実質的に含まない。
【0016】
他の態様において、本発明は、複数種の成熟網膜細胞を含む細胞培養系であって、該細胞培養系は網膜以外の組織源から精製された細胞を実質的に含まず、そして、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一つの網膜神経細胞、少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、および少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む細胞培養系を提供する。ある態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一つの両極細胞、少なくとも一つの水平細胞、少なくとも一つのアマクリン細胞、少なくとも一つの神経節細胞、および少なくとも一つの光受容細胞を含む複数種の網膜神経細胞からなる。一態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選ばれる少なくとも一種の細胞を含む。ある特定の態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、または光受容細胞から選ばれる少なくとも一種の網膜神経細胞を含む。特定の態様において、該複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも8週間、少なくとも12週間、または少なくとも16週間、生存できる。他の態様において、本発明は、細胞培養系を生産する方法を提供し、該方法は、生物源から成熟網膜細胞を分離すること、および該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を維持する条件下で該成熟網膜細胞を培養することを備え、ここで、該生物源は、鳥または哺乳動物からの網膜組織であり、該哺乳動物は、ヒト、ブタ、非ヒト霊長類、有蹄動物、イヌ、またはげっ歯動物である。
【0017】
他の態様において、本発明は、成熟網膜細胞のストレッサーを識別または特定する方法を提供し、該方法は、(a)候補ストレッサーと、複数種の成熟網膜細胞を含む細胞培養系とを、該候補ストレッサーと成熟網膜細胞との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること(ここで、該細胞培養系は、網膜以外の起源から精製された細胞を実質的に含まないものである)、および(b)該候補ストレッサーが存在する場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)を、該候補ストレッサーが存在しない場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)と比較することにより、網膜細胞のストレッサーを識別または特定することを備える。一態様において、該候補ストレッサーが存在する場合の成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補ストレッサーが存在しない場合の成熟網膜細胞の生存のレベルと比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補の因子が存在する場合に生存が減少すれば(長くなければ)、該ストレッサーが該網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものであることがわかる。他の態様において、該候補ストレッサーが存在する場合の成熟網膜細胞の神経変性を、該候補ストレッサーが存在しない場合の成熟網膜細胞の神経変性と比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補ストレッサーが存在する場合に神経変性が増加すれば、該ストレッサーが該網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものであることがわかる。ある態様において、成熟網膜細胞の生存能(生存率)を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選ばれる少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能(生存率)を測定することを含む。
【0018】
また、本発明は、成熟網膜細胞の生存能(生存率)を変化させる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法を提供し、該方法は、(a)候補因子(候補剤)と、(1)複数種の成熟網膜細胞を含み、網膜以外の起源から精製された細胞を実質的に含まない細胞培養系、または、(2)複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系であって、該細胞ストレッサーが該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものである細胞培養系とを、該細胞培養系の成熟網膜細胞と該候補因子(候補剤)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(b)該候補因子(候補剤)が存在する場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)と比較することにより、網膜細胞の生存能(生存率)を変化させることができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。一態様において、該候補因子(候補剤)が存在する場合の該成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の該成熟網膜細胞の生存のレベルと比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補因子(候補剤)が存在する場合に生存が増加すれば、該因子(剤)が該網膜細胞の生存能(生存率)を高めるものであることがわかる。他の態様において、該候補因子(候補剤)が存在する場合の該成熟網膜細胞の神経変性を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の該成熟網膜細胞の神経変性と比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補因子(候補剤)が存在する場合に神経変性が抑制されれば、該因子(剤)が該網膜細胞の生存能(生存率)を高めるものであることがわかる。ある態様において、該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選ばれる少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能(生存率)を測定することを含む。
【0019】
また本発明は、網膜疾患を治療できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法を提供し、該方法は、(a)候補因子(候補剤)と、(1)複数種の成熟網膜細胞を含み、網膜以外の起源から精製された細胞を実質的に含まない細胞培養系、または、(2)複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系であって、該細胞ストレッサーが該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を低下させるものである細胞培養系とを、該細胞培養系の成熟網膜細胞と該候補因子(候補剤)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(b)該候補因子(候補剤)が存在する場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の成熟網膜細胞の生存能(生存率)と比較することにより、網膜疾患を治療できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。一態様において、該候補因子(候補剤)が存在する場合の該成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の該成熟網膜細胞の生存のレベルと比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補因子(候補剤)が存在する場合に生存が増加すれば、該因子(剤)が該網膜細胞の生存能(生存率)を高めるものであることがわかる。他の態様において、該候補因子(候補剤)が存在する場合の該成熟網膜細胞の神経変性を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の該成熟網膜細胞の神経変性と比較することにより、生存能(生存率)が決定され、そこにおいて、該候補因子(候補剤)が存在する場合に神経変性が抑制されれば、該因子(剤)が該網膜細胞の生存能(生存率)を高めるものであることがわかる。特定の態様において、該網膜疾患は、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、色素性網膜炎、視神経障害、炎症性網膜疾患、またはアルツハイマー病、パーキンソン病もしくは多発性硬化症に伴う網膜障害である。ある態様において、該成熟網膜細胞の生存能(生存率)を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選ばれる少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能(生存率)を測定することを含む。
【0020】
一態様において、神経細胞の生存を高めることができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法が提供され、該方法は、(i)候補因子(候補剤)と、ここに記載する網膜神経細胞培養系とを、網膜細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞と該候補因子(候補剤)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(ii)該候補因子(候補剤)が存在する場合の該細胞培養系の網膜神経細胞の生存を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の細胞培養ストレス系の網膜神経細胞の生存と比較することにより、網膜神経細胞の生存を高めることができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。ある特定の態様において、該網膜神経細胞は光受容細胞である。他の特定の態様において、該網膜神経細胞は神経節細胞である。ある他の態様において、該網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、またはアマクリン細胞である。
【0021】
他の態様において、網膜神経細胞の神経変性を抑制できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法が提供され、該方法は、(i)生物活性因子(生理活性剤)と、ここに記載する網膜神経細胞培養ストレスモデル系とを、該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞と候補因子(候補剤)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(ii)該生物活性因子(生理活性剤)が存在する場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞の構造を、該生物活性因子(生理活性剤)が存在しない場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞の構造と比較することにより、網膜神経細胞の神経変性を抑制できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。ある特定の態様において、該網膜神経細胞は光受容細胞である。他の特定の態様において、該網膜神経細胞は神経節細胞である。ある他の態様において、該網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、またはアマクリン細胞である。
【0022】
一態様において、網膜細胞ストレッサーを識別または特定する方法が提供され、該方法は、(i)ストレッサー候補と、ここに記載するような第一のストレッサーを含む網膜細胞培養ストレスモデル系とを、該細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞と該ストレッサー候補との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(ii)該ストレッサー候補が存在する場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞の構造を、該ストレッサー候補が存在しない場合の細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞の構造と比較することにより、網膜細胞の生存能(生存率)を変化させることができる網膜細胞ストレッサー、網膜神経細胞の神経変性を変化させることができる網膜細胞ストレッサー、または網膜細胞の生存を変化させることができる網膜細胞ストレッサーを識別または特定することを備える。ある特定の態様において、該網膜神経細胞は光受容細胞である。他の特定の態様において、該網膜神経細胞は神経節細胞である。他の特定の態様において、ストレッサー候補は、網膜神経細胞の神経変性を増加させるものである。他の態様において、該方法は、ストレッサー候補が存在する場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞の生存を、該ストレッサー候補が存在しない場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜細胞の生存と比較することにより、該網膜細胞の生存を変化させることができる網膜細胞ストレッサーを識別または特定することを備える。特定の態様において、該ストレッサーは、網膜細胞の生存を低下させるかまたは損なうものである。
【0023】
また本発明は、網膜疾患を治療できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法を提供し、該方法は、(i)生物活性因子(生理活性剤)と、ここに記載する網膜細胞培養ストレスモデル系とを、該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞と候補因子との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(ii)該生物活性因子(生理活性剤)が存在する場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞の神経変性を、該生物活性因子(生理活性剤)が存在しない場合の該細胞培養ストレスモデル系の網膜神経細胞の神経変性と比較することにより、網膜疾患を治療できる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。ある特定の態様において、治療される該網膜疾患は、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、色素性網膜炎、視神経障害、炎症性網膜疾患、またはアルツハイマー病、パーキンソン病もしくは多発性硬化症に伴う網膜障害である。ある特定の態様において、治療される網膜疾患は、乾燥型の黄斑変性である。他の特定の態様において、治療される網膜疾患は、緑内障である。
【0024】
他の態様において、網膜神経細胞の生存を変化させる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法が提供され、該方法は、(1)生物活性因子(生理活性剤)の候補と、成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系とを、網膜神経細胞と該生物活性因子(生理活性剤)の候補との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること、および(2)該生物活性因子(生理活性剤)の候補が存在する場合の網膜神経細胞の生存を、該候補因子(候補剤)が存在しない場合の網膜神経細胞の生存と比較することにより、網膜神経細胞の生存を変化させることができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することを備える。一態様において、該細胞ストレッサーは、光、A2E、タバコの煙の凝縮物、高められた雰囲気圧、およびグルタミン酸から選ばれるものである。特定の態様において、該細胞ストレッサーは、タバコの煙の凝縮物である。他の態様において、該方法は、光、A2E、タバコの煙の凝縮物、高められた雰囲気圧、およびグルタミン酸から選ばれる少なくとも二つの細胞ストレッサーを含む。ある態様において、二つの細胞ストレッサーは、光とタバコの煙の凝縮物である。
【0025】
特定の態様において、該細胞培養系は、精製されたグリア細胞または毛様体細胞などの他の細胞が加えられていないものである。他の態様において、網膜細胞培養系は、前方網膜から得られる成熟した末梢網膜細胞を含み、他の態様において、該細胞培養系は、後方網膜から得られる成熟網膜細胞を含む。他の態様において、成熟網膜細胞を含む細胞培養系は、光受容体の長期培養物を含む。ある特定の態様において、培養された光受容体は、無傷の外節を有する。
【0026】
他の態様において、本発明は、網膜細胞培養ストレスモデルを調製するための方法を提供し、該方法は、成熟網膜細胞の細胞培養系を調製すること、および網膜細胞のストレッサーを加えることを備える。特定の態様において、該方法は、網膜細胞を含む網膜細胞培養系をもたらし、該培養系は、精製されたグリア、または毛様体もしくは眼の他の部分から分離される細胞のような他の種類の細胞を添加する必要のないものである。
【0027】
本発明のこれらの態様および他の態様は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照することで明らかとなる。また、ここに示す参考文献で本発明のある態様をより詳細に説明するものは、その引用により、その内容がそっくり本明細書に記載されたものとする。本明細書において引用されかつ/または出願データシートにおいて列挙される上記米国特許、米国特許出願公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および特許以外の刊行物のすべては、引用により、それらの内容がそっくり本明細書に記載されたものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
本発明は、網膜神経細胞(例えば、光受容細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、水平細胞、および両極細胞)を含む成熟網膜細胞の長期培養物または長時間培養物からなる細胞培養モデルの発見に係るものである。驚くべきことに、本細胞培養系および本細胞培養系を生産するための方法は、光受容細胞の長期培養をもたらす。また、ここに記載する細胞培養系は、網膜色素上皮(RPE)細胞およびミュラーグリア細胞を含んでもよい。
【0029】
一態様において、網膜細胞培養系は、細胞ストレッサーを含む。該ストレッサーの付与または存在により、網膜の疾患または障害において見られる病理の研究に有用な態様で、網膜神経細胞を含む成熟網膜細胞にインビトロで作用がもたらされる。ここに記載する細胞培養モデルは、インビトロの神経細胞培養系を提供するものであり、該インビトロの神経細胞培養系は、一般に、神経疾患または神経障害の治療に、そして特に、眼および脳の変性疾患の治療に適し得る新規な神経活性化合物または生理活性剤を識別または特定し、生物学的に試験するのに有用になる。ストレッサー存在下での長期にわたるインビトロ培養のために、網膜神経細胞を含む十分に分化した成熟網膜細胞から一次細胞を得ることができるため、細胞と細胞の相互作用を調べることが可能になり、神経活性化合物および神経活性材料の選別および分析が可能になり、インビボでのCNSおよび眼の試験のため制御された細胞培養系を使用することが可能になり、そして、一定の網膜細胞個体群からの単細胞に対する効果を分析することが可能になる。
【0030】
ここに記載する細胞培養系、並びに、培養された成熟網膜細胞、網膜神経細胞、および網膜細胞ストレッサーを含む網膜細胞ストレスモデルは、疾患によって損傷したCNS組織の再生を誘導または刺激することができる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定するため、候補化合物のスクリーニングに特に有用である。ある態様において、培養された成熟網膜神経細胞は、光受容細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、水平細胞、および両極細胞を含むすべての主要な網膜神経細胞のタイプを含む。一つ以上の細胞ストレッサーを含むここに記載する網膜細胞培養系は、網膜の疾患および障害の病理および進行を研究するための、そして、それらの疾患を治療するための治療薬を識別または特定するための高価で時間のかかるインビボ動物モデルに対し、望ましい代替系を提供するものである。
【0031】
生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することは、神経変性疾患または神経変性障害の症状の治療、治癒、予防、改善、または、その進行の遅延、抑制、または阻止に有用であり得る。そのような神経変性疾患には、緑内障、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管(動脈または静脈)閉塞、色素性網膜炎、視神経障害、炎症性網膜疾患、並びに他の神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、多発性硬化症またはパーキンソン病)に伴うまたはAIDSに伴う網膜障害があるがこれらに限定されるものではない。特に、光受容細胞の長期または長時間の細胞培養は、光受容体の神経変性(例えば、乾燥型の黄斑変性)を特徴とする網膜の疾患および障害、そして、神経節細胞の神経変性(例えば緑内障)を特徴とする網膜の疾患および障害を治療するため有用になる因子(薬剤)を識別または特定するのに有用である。
【0032】
(網膜細胞)
ここに記載するインビトロ細胞培養系は、網膜神経細胞を含む成熟網膜細胞の培養における生存を、少なくとも2〜4週間、2ヶ月以上、あるいは、6ヶ月もの長期の間、可能にし、助長する。網膜細胞は、胚でなく腫瘍形成性でない組織から分離されたものであり、そして、任意の方法、例えば、形質転換または腫瘍ウイルスによる感染によって不死化されていないものである。該細胞培養系は、全ての主要な網膜神経細胞のタイプ(光受容細胞、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、および神経節細胞)を含むことができ、またさらに、他の成熟網膜細胞、例えば網膜色素上皮細胞およびミュラーグリア細胞を含むことができる。
【0033】
眼の網膜は、神経組織の繊細な層である。網膜の主な指標となる部分は、眼の後方部分にある黄斑と、眼の前方部分にある末梢網膜である。網膜は、後方部分近くにおいて最も太く、末梢近くではより細くなる。黄斑は、後方網膜に位置し、窩および小窩を含み、また霊長動物では斑を含む。小窩は、錐状体の密度が最大の領域を含み、従って、網膜において最も高い視力をもたらす。小窩は、斑内に含まれる窩の中に収容されている。
【0034】
網膜の末梢または前方の部分は、視野を大きくする。末梢網膜は、眼の赤道の前方に伸び、四つの領域(近位末梢(最も後方)、中位末梢、遠位末梢、および鋸状縁(最も前方))に分けられる。鋸状縁は、網膜の終点を意味する。
【0035】
当該技術において理解されまたここに用いる用語「ニューロン(または神経細胞)」は、神経上皮細胞前駆体から生じる細胞を意味する。成熟したニューロン(すなわち、成体からの十分に分化した細胞)は、いくつかの特異的な抗原マーカーを提示する。ニューロンは、機能的に以下の三つに分類することができる。(1)意識知覚および運動調整のため脳に情報を伝達する求心性ニューロン(または感覚ニューロン)、(2)筋や腺に命令を伝える運動ニューロン、および(3)局所回路に係わる介在ニューロン、並びに(4)脳のある領域から他の領域への情報を中継し、従って長い軸索を有する投射介在ニューロン。介在ニューロンは、脳の特定の小区域内で情報を処理するもので、相対的により短い軸索を有する。ニューロンは、典型的に、四つの特定の領域(細胞体(すなわちソーマ)、軸索、樹状突起、およびシナプス前終末)を有する。樹状突起は、他の細胞からの情報の一次入力部として機能する。軸索は、細胞体において他のニューロンまたはエフェクター器官に対し開始された電気信号を運ぶ。シナプス前終末において、ニューロンは、他の細胞(シナプス後細胞)に情報を伝達する。他の細胞は、他のニューロン、筋細胞、または分泌細胞であり得る。
【0036】
網膜は、いくつかの種類の神経細胞から構成される。ここに記載するように、本方法によりインビトロで培養できる網膜神経細胞の種類には、光受容細胞、神経節細胞、および介在ニューロン(例えば、両極細胞、水平細胞、およびアマクリン細胞)が含まれる。光受容体は、特化された光反応性の神経細胞であり、二つの主な種類(杆体と錐体)を含む。杆体は、暗順応または暗視所の視覚に関与する一方、明視所または明るい光の視覚は、三原色素の存在により錐体において生じる。失明に至る多くの神経変性疾患、例えば、黄斑変性、網膜剥離、色素性網膜炎、糖尿病性網膜症などは、光受容体を冒す。
【0037】
その細胞体から伸びる光受容体は、二つの形態学的にはっきりした領域(内節と外節)を有する(図1参照)。外節は、光受容細胞体から最も遠いところに位置し、入ってくる光エネルギーを電気インパルスに変換する(光エネルギー変換)円板体を含む。図1に示すように、外節は、非常に小さく脆弱な線毛で内節についている。外節のサイズおよび形は、杆状体から錐状体まで種々であり、網膜内の位置によって異なる。Eye and Orbit,8th Ed.,Bron et al.,(Chapman and Hall,1997)参照。
【0038】
神経節細胞は、網膜の介在ニューロン(水平細胞、両極細胞、アマクリン細胞を含む)から脳に情報を運ぶ出力ニューロンである。両極細胞は、その形態によって名づけられ、光受容体からの入力を受け取り、アマクリン細胞に接続し、神経節細胞に出力を放射状に送る。アマクリン細胞は、網膜平面に平行な突起を有し、典型的に、神経節細胞に対し、抑制的な出力を有する。アマクリン細胞は、しばしば、神経伝達物質もしくは神経調節因子またはペプチド(例えばカルレチニンまたはカルビンジン)により小さく分類され、互いに相互作用し、両極細胞と相互作用し、そして、光受容体と相互作用する。両極細胞は、その形態によって名づけられる網膜の介在ニューロンである。両極細胞は、光受容体から入力を受け取り、神経節細胞にその入力を送る。水平細胞は、多数の光受容体からの視覚情報を調節・変換し、水平統合を有する(一方、両極細胞は、網膜を介して放射状に情報を中継する)。
【0039】
ここに記載する網膜細胞培養物に存在し得る他の網膜細胞には、グリア細胞、例えば、ミュラーグリア細胞、および網膜色素上皮細胞(RPE)が含まれる。グリア細胞は、神経細胞体および軸索を取り囲む。グリア細胞は、電気インパルスを運ぶことはないが、正常な脳の機能の維持に寄与している。ミュラーグリア(網膜内グリア細胞の支配的なタイプ)は、網膜の構造を支持し、網膜の代謝に関与している(例えば、イオン濃度の調節、神経伝達物質の分解に寄与し、そして、所定の代謝物質を取り除く(例えば、Kljavin et al.,J.Neurosci.11:2985(1991)参照)。ミュラー線維(網膜の支持線維としても知られる)は、網膜の支持神経膠細胞であり、それは、網膜の厚みの方向において、内部の境界膜から杆体および錐体の基底に伸び、そこにおいて、接合部複合体の列を形成する。
【0040】
網膜色素上皮(RPE)細胞は、血管が多い脈絡膜の最も近くで、網膜の最外層を形成している。RPE細胞は、マクロファージのように機能する貪食上皮細胞の一種であり、眼の光受容体の下に存在する。RPE細胞の背面は、杆体の末端に隣接して配置され、円板体が杆体の外節から脱落すると、それらは、RPE細胞によって取り込まれ、消化される。また、RPE細胞は、光受容体の正常な機能および生存に寄与する種々の因子を生産、貯蔵、輸送する。RPE細胞のさらなる機能は、ビタミンAをリサイクルすることであり、ビタミンAは、明順応および暗順応において、光受容体とRPEとの間を移動する。
【0041】
(細胞培養系)
一態様において、細胞培養系が提供され、それは、複数種の成熟網膜細胞を含み、そこにおいて、該細胞培養系は、網膜以外の組織源から精製される細胞を実質的に含まないものである。ここに開示する細胞培養系が以前に報告された系と異なる点は、全体的な成熟網膜細胞の生存(網膜神経細胞の生存、そして特に光受容体の生存を含む)が、網膜以外の他の種類の細胞(例えば、毛様体細胞、精製した幹細胞、または精製したグリア(すなわち、網膜以外の組織または他の起源から別個に分離かつ精製される幹細胞またはグリア細胞))をわざわざ加えることなく、経時的に堅調であるということである。毛様体神経栄養因子(CNTF)、脳由来の神経栄養因子(BDNF)、線維芽細胞成長因子−2(FGF2)、およびグリア細胞系由来の神経栄養因子(GDNF)のような因子の組合せが、器官細胞培養系における光受容体の生存を改善することも報告されている(Oglivie et al.,Exp.Neurol.161:676−85(2000))。しかし、それらの因子のいずれもが、報告された培養系において、神経細胞の生存を長期間維持するものではない。他のグループが、胚の網膜神経細胞のインビトロ培養を報告している。しかし、その培養された胚の網膜細胞は、成熟網膜細胞によって発現される網膜特異的タンパク質のすべてを発現できないか、あるいは、それらの細胞は、短い時間培養できただけであった。
【0042】
ここに記載するインビトロ細胞培養系は、網膜神経細胞を含む成熟網膜細胞の培養において、生存を、2ヶ月以上、そして、6ヶ月もの長期間、可能にし、助長する(または延ばす)。これまで、成熟網膜細胞を用いて薬剤候補をスクリーニングする能力は、一次培養において、網膜神経細胞を含む網膜細胞の寿命(1〜2週間の範囲)に制限されてきた。さらに、Luo et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.42:1096−1106(2001);Gaudin et al.,Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.37:2258−68(1996)を参照されたい。摘出の遅れおよび組織の分離の遅れは、ニューロンの回収および生存に深刻な悪影響を及ぼす(例えば、Gaudin et al.,上記参照)。ニューロンは、動物の体から分離した直後に劣化し始める。その結果もたらされる劣化により、網膜疾患の治療に利用できる因子(薬剤)を識別または特定するための適切で信頼できる化合物スクリーニングを行うことができなくなる。さらに、長期網膜細胞培養物を維持することができなければ、投射神経細胞または光受容細胞に関する種々の分析を行うことが困難である。光受容体は、黄斑変性(失明の主原因)において冒される一次細胞型である。網膜における神経節細胞、投射神経細胞は、緑内障の患者(これもまた失明の主原因)において冒されるものである。
【0043】
ここに記載する細胞培養系は、網膜神経細胞を含む網膜細胞の長期インビトロ培養物からなり、従って、生存能力のある十分に成熟網膜細胞および神経細胞を、2ヶ月よりも長い期間もたらすものである。該細胞培養系を生産するための方法がさらにここに提供され、該方法は、生物源から成熟網膜細胞を分離すること、および、該成熟網膜細胞の生存能を維持する条件下で該成熟網膜細胞を培養することを含む。該細胞培養系における網膜細胞の生存能は、ここに記載するように組織培養のため分離され培養される細胞のすべてまたは一部が、特定の細胞型に特徴的な健全で活力のある細胞の構造および機能を示すということを意味する。一種以上の成熟網膜細胞の生存能は、長期間維持され、例えば、少なくとも4週間、2ヶ月(8週間)、または少なくとも4〜6ヶ月維持され、網膜組織から分離され(採集され)かつ組織培養のため培養される成熟網膜細胞の少なくとも10%、25%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%について、そのような期間、生存能が維持される。網膜細胞の生存能は、ここに記載する方法および当該技術において知られた方法に従って測定できる。一般に神経細胞と同様、網膜神経細胞は、インビボで活発に分裂する細胞ではなく、従って、網膜神経細胞の細胞分裂は、必ずしも生存能の指標ではない。この細胞培養系の利点は、アマクリン細胞、光受容体および付随する神経節投射ニューロンを長期間培養でき、それにより、網膜疾患の治療に有効となる化合物をスクリーニングできる機会がもたらされるということである。
【0044】
本開示の方法および細胞培養系は、脳および脳髄の疾患にも適用可能である。慢性疾患のモデルは特に重要である。というのも、多くの神経変性疾患が慢性であるからである。さらに、このインビトロ細胞培養系を用いることによって、長期疾患発現プロセスにおける最も初期の事象を特定することができる。なぜなら、細胞の分析が長期間可能だからである。また、ここに記載する長期の成熟網膜培養系は、比較的短い期間(例えば3〜14日)の実験にも有用である。なぜなら、細胞が次第に死んでいくこれまで開発されてきた短期培養モデルに比べて、生存および生存能のベースラインがより安定なためである。
【0045】
ここに記載する細胞培養系は、成熟した網膜神経細胞とニューロン以外の網膜細胞との混合物である成熟網膜細胞の培養物をもたらす。この細胞培養系は、すべての主要な種類の網膜神経細胞(例えば、光受容体、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、および神経節細胞)を含むことができ、さらに、RPE細胞およびミュラーグリア細胞のような他の成熟網膜細胞を含むことができる。これらの異なる種類の細胞をインビトロ培養系に組み込むことにより、該系は、網膜のインビボの状態にある自然により近い「人工器官」に本質的に似ている。
【0046】
成熟網膜細胞および網膜神経細胞は、インビトロで、長期間、2日間または5日間より長く、2週間、3週間、もしくは4週間より長く、そして、2ヶ月(8週間)、3ヶ月(12週間)、および4ヶ月(16週間)よりも長く、また、6ヶ月よりも長く、培養することができ、従って、長期培養物をもたらすことができる。ある態様において、一種以上の成熟網膜細胞の少なくとも20〜40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、この長期細胞培養系において生存能力を維持している。該網膜細胞または網膜組織の生物源は、哺乳動物(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、有蹄動物、げっ歯動物、イヌ、ブタ、ウシ、または他の哺乳動物源)、鳥類、または他の属からのものとすることができる。一態様において、出生後のヒト以外の霊長動物、出生後のブタ、または出生後のニワトリからの網膜神経細胞を含む網膜細胞を用いることができるが、任意の成体または出生後の網膜組織が、この網膜細胞培養系での使用に適し得る。本方法によりインビトロで培養できる網膜神経細胞の種類には、神経節細胞、光受容体、両極細胞、水平細胞、およびアマクリン細胞が含まれる。網膜神経細胞とともに培養されるニューロン以外の網膜細胞は、元の網膜組織から得られる細胞であり、例えば、RPE細胞およびミュラーグリア細胞を含む。
【0047】
ここに記載する細胞培養系は、網膜以外の組織から得られまたは分離または精製された細胞を含むことなく、網膜細胞の活力のある長期の生存をもたらす。該細胞培養系は、眼の網膜のみから分離された細胞からなり、従って、網膜から離れた眼の他の部分または領域(例えば、毛様体および硝子体)からのタイプの細胞を実質的に含まない。網膜以外の細胞を実質的に含まない網膜細胞培養物は、培養物における細胞の種類の少なくとも80〜85%を占める網膜細胞を含むことが好ましく、細胞の種類の90%〜95%を占める網膜細胞を含むことが好ましく、細胞の種類の96%〜100%を占める網膜細胞を含むことが好ましい。該細胞培養系の網膜細胞は、網膜以外の起源または網膜以外の他の細胞からの精製された(または分離された)グリア細胞または幹細胞を加えることなく、該細胞培養系において生存能力を有しかつ生き残っている。ここに記載するように、網膜細胞培養系は、分離された網膜組織のみから調製されるため、該細胞培養系は網膜以外の細胞を実質的に含まないものになる。
【0048】
細胞培養の当業者に明らかなとおり、組織源から直接得られる細胞の長期培養物または長時間培養物(すなわち一次細胞培養物)がうまく得られるかどうか、そして、培養において細胞(例えば網膜細胞)の生存能を維持できるかどうかは、いくつかの要因に依存する。任意の組織由来の細胞集団(不死化癌細胞を増殖させるための腫瘍組織も含まれる)の長期培養物を確立するのと同様、網膜細胞を採集してから該細胞を培養するまでに経過する時間の長さは、長期培養物をうまく確立できるかどうかに特に影響し得る。ニューロンは、ニューロン組織から分離された直後より劣化し始める。摘出の遅れおよび組織分離の遅れは、ニューロンの回収および生存に深刻な悪影響を及ぼす(例えばGaudin et al,上記参照)。
【0049】
従って、長期網膜細胞培養物を生産するための方法には、組織を採集し組織を切り出す時間を最小限にすること(それは、起源となる動物の死から組織を採集するまでの時間を最小限にすることを含む)が有効であり、そして、切り出しを始めてから完了するまでの時間および切り出しの過程から細胞を培地に移すまでの時間を最小限にすることが有効である。例えば、網膜細胞培養物の調製において、切り出される眼は、器官採取から12時間以内に入手し、切り出すことが好ましい。さらに、ここに記載される切り出し法は、網膜細胞を培養するためこれまで報告された方法よりも速く行われる。この方法の効率(能率)は、網膜細胞と、眼またはCNSの他の領域からの他の種類の細胞とを組み合わせる他の網膜細胞培養系の生産方法と比べて、向上している。というのも、そのような他の細胞の調製工程が排除されているからである。組織から得られる細胞をうまく培養できるかどうかに影響し得る他の要因には、移植中および移植後に組織が維持される温度、組織供与体の健康状態および年齢、動物を扱う者、執刀する者および/または細胞培養者の熟練度、並びに当業者に明らかな同様の因子がある。
【0050】
眼の切り出しは、当該技術において知られておりまたここに記載される標準的な方法に従って行うことができる。例えば、ドナー動物から得られる眼を摘出し、筋および他の組織を眼窩からきれいに取り除く。一態様において、末梢網膜を、眼の他の部分または領域から切り出す。眼をその赤道に沿って半分に切断し、そして、神経網膜を眼の前方部分から切り出す。網膜、毛様体、および硝子体を、一個の眼の前半分から切り離し、その後、不透明な網膜を、透明な硝子体から丁寧にはずす。他の態様において、黄斑を含む網膜の後方部分を、解剖により、眼の他の領域から分離する。網膜の後方部分は、錐体光受容体の濃度がより高い窩(および霊長類においては斑)を含む一方、網膜の前方部分は、より高い濃度の杆体光受容体を有する。色素上皮細胞を、切り出した網膜から完全に分離してもよいし、分離しなくともよい。
【0051】
網膜細胞は、物理的手段、例えば解剖および掻き裂き(摩砕)により、網膜組織から分離することができる。また、細胞を分離し不要な細胞成分を除去するため、眼の組織を、一種以上の酵素(例えば、パパイン、ヒアルロニダーゼ、コラゲナーゼ、トリプシン、および/またはデオキシリボヌクレアーゼがあるが、それらに限定されるものではない)で処理してもよい。細胞培養系は、物理的方法および酵素による消化の組合せによって調製することができる。
【0052】
ここに記載する細胞培養系および方法は、任意のプラスチックまたはガラスの表面(例えばカバーガラスなど)を利用することができ、好ましくは、網膜細胞が付着できる表面をもたらすため細胞培養用に製造された表面を利用することができる。また、その表面は、付着促進物質またはそのような物質の組合せ(例えば、ポリリジン、マトリゲル、ラミニン、ポリオルニチン、ゼラチン、および/またはフィブロネクチンなど)によってコーティングしてもよい。ここに記載するように眼から調製される網膜細胞は、ある表面(例えばガラスカバー片)にのせることができ、次いで、それを、組織培養容器に配置し、組織培養培地に浸す。組織培養容器は、例えば、24ウェル組織培養プレートなどのマルチウェルプレートとすることができる。一方、網膜細胞がのせられる(そして該細胞が付着するようになる)一種以上の表面は、一種以上の組織培養フラスコ(当業者によく知られたもの)内に配置してもよい。一方、網膜細胞は、標準的な組織培養マルチウェル皿および/または組織培養フラスコに付与し保持してもよい。支持細胞層(例えば、グリア支持細胞層、上皮細胞層、または胚線維芽支持細胞層)を、ここに提供する方法および系において利用してもよい。
【0053】
また、細胞培養系において網膜細胞の生存能を維持するため、該系は、培養される細胞を適当に維持するため当該技術において知られる要素および条件を含む。それらの中には培地(抗生物質を含むまたは含まない)がある。培地は、緩衝剤および栄養素(例えばグルコース、アミノ酸(例えばグルタミン)、塩類、ミネラル類(例えばセレン))を含み、さらに、細胞のインビトロ培養に必要であるかまたは有効であり、当業者によく知られている他の添加物または補助剤(例えば、ウシ胎児血清または血清助剤を必要としない代わりの製剤、トランスフェリン、インスリン、プトレシン、プロゲステロン)を含むことができる(例えば、Gibco培地、Invitrogen Life Technologies,Carlsbad,CA参照)。標準的な細胞培養の方法および実施と同様、ここに記載する網膜細胞培養物は、そのような用途のため二酸化炭素のレベル、湿度、および温度が制御できるように設計された組織培養インキュベーターにおいて保持される。さらに細胞培養系は、外因性の(すなわち、培養される細胞自体から生産されない)細胞成長因子または神経栄養因子の添加物を含んでもよく、それは、例えば、培地または基板もしくは表面のコーティングにおいて供給することができる。
【0054】
(網膜神経細胞培養ストレスモデル)
ここに記載するインビトロ網膜細胞培養系は、網膜の生理機能を特徴づけるため利用できる生理学的網膜モデルとして有用であり得る。また、この生理学的網膜モデルは、幅広い一般的な神経生物学モデルとしても用いることができる。該モデル細胞培養系には、細胞ストレッサー(細胞のストレス因子)を含ませることができる。細胞ストレッサー(ここに記載するものは網膜細胞ストレッサーである)は、細胞培養系において、培養される異なる複数種の網膜細胞(網膜神経細胞の種類を含む)の一つ以上の生存能を低下させるかまたはその生存能に悪影響を与える。当業者に容易に理解されることであるが、ここに記載されるように生存能の低下を示す網膜細胞が意味するところには、細胞培養系において網膜細胞が生存する時間の長さが短くなるかまたは減ること(寿命の低下)、および/または、適当な対照細胞系(例えば、細胞ストレッサーが存在しない場合のここに記載される細胞培養系)で培養された網膜細胞と比べて、生物学的または生化学的な機能について低下、抑制、または悪影響(代謝の低下または異常、アポトーシスの誘発など)が網膜細胞に見られること、がある。網膜細胞の生存能の低下は、細胞死、細胞の構造または形態の変質または変化、アポトーシスの誘導および/または進行、網膜神経細胞の神経変性(または神経細胞の損傷)の開始、増加、および/もしくは促進によって、示され得る。
【0055】
細胞の生存能を測定(決定)するための方法および技術は、ここに詳細に記載するが、当業者によく知られているところである。細胞の生存能を測定するこれらの方法および技術は、ここに記載する細胞培養系での網膜細胞の健全性および状態をモニターするため用いることができ、網膜細胞の生存能を低下させる細胞ストレッサーを識別または特定するため用いることができ、また、ここに記載するように、網膜細胞の生存能を変化させる(好ましくは増加させる)生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定するため用いることができる。
【0056】
ここに記載する細胞培養系に細胞ストレッサーを加えることを利用することができ、それにより、該ストレッサーの効果を消失させる、阻害する、排除する、または減少させる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定することができる。この網膜神経細胞培養系は、化学物質ストレッサー(例えば、A2E、タバコの煙の凝縮物)、生物学的ストレッサー(例えば、毒素への暴露、β−アミロイド、リポ多糖)、または化学物質以外のストレッサー(例えば、物理的ストレッサー、環境ストレッサー、または機械的力(例えば、圧力の上昇や光への暴露))である細胞ストレッサーを含むことができる。
【0057】
また、網膜細胞ストレッサーモデル系は、疾患または障害の危険因子となり得るストレッサー、あるいは、疾患または障害の誘発または進行に寄与し得るストレッサーなどの細胞ストレッサーを含むことができ、そのようなストレッサーには、種々の波長および強度の光、タバコ煙凝縮物への暴露、グルコース酸素剥奪、酸化的ストレス(例えば、過酸化水素、ニトロプルシド、Zn++、またはFe++への暴露またはその存在に係るストレス)、圧力上昇(例えば、雰囲気圧または静水圧)、グルタミン酸またはグルタミン酸のアゴニスト(例えば、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−プロピオン酸(AMPA)、カイニン酸、キスカル酸、イボテン酸、キノリン酸、アスパラギン酸、トランス−1−アミノシクロペンチル−1,3−ジカルボン酸(ACPD))、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、L−システイン、β−N−メチルアミン−L−アラニン)、重金属(例えば鉛)、種々の毒素(例えば、ミトコンドリア毒素(例えば、マロン酸エステル、3−ニトロプロピオン酸、ロテノン、シアン化物)、MPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)(それは、代謝によりその活性で毒性である代謝産物MPP+(1−メチル−4−フェニルピリジン)となる)、6−ヒドロキシドーパミン、α−シヌクレイン、タンパク質キナーゼC活性化剤(例えば、酢酸ミリスチン酸ホルボール)、生体アミノ興奮薬(例えば、メタンフェタミン、MDMA(3−4メチレンジオキシメタンフェタミン))、または一以上のストレッサーの組合せがあるが、それらに限定されるものではない。有用な網膜細胞ストレッサーには、ここに記載する成熟網膜細胞の任意の一種以上に作用して神経変性疾患を模倣するものがある。慢性疾患モデルは特に重要である。というのも、多くの神経変性疾患が慢性であるからである。長期間、細胞分析が可能であるため、このインビトロ細胞培養系を用いることにより、長期疾患発現プロセスにおける最も初期の事象を明らかにすることができる。
【0058】
ある態様において、ここに記載される方法は、一種、二種、もしくは三種以上、またはすべての種類の網膜細胞の生存能を変化させる(すなわち生存および/または神経変性および/または神経細胞障害を変化させる)細胞ストレッサーを識別または特定するため用いることができ、さらに、一種、二種、三種以上、またはすべての種類の網膜神経細胞(アマクリン細胞、光受容細胞、神経節細胞、水平細胞、および両極細胞)の生存能を変化させるストレッサーを識別または特定するため用いることができる。他の特定の態様において、該スクリーニング法を、一種の網膜神経細胞(例えば、アマクリン細胞、光受容細胞、神経節細胞、水平細胞、または両極細胞)の生存能を変化させる(好ましくは、生存を低下させるおよび/または神経変性もしくは細胞障害を促進または増加させる)細胞ストレッサーを識別または特定するため用いることができる。
【0059】
網膜細胞ストレッサーは、例えば、網膜神経細胞を含む網膜細胞の生存(生存時間)を変化させることにより、あるいは、網膜神経細胞の神経変性を変化させることにより、網膜細胞の生存能を変化させ得る(すなわち、統計的に有意な態様で、増加または低下させ得る)。網膜細胞ストレッサーは、網膜神経細胞に有害に作用することが好ましく、例えば、網膜神経細胞の生存が低下するかまたは悪影響をうける(すなわち、ストレッサーが存在する場合、細胞が生存できる時間が短くなる)よう作用することが好ましく、あるいは、細胞の神経変性(または神経細胞障害)が増加または促進されるよう作用することが好ましい。ストレッサーは、網膜細胞培養物において、単一の種類の網膜細胞のみに作用してもよいし、あるいは、ストレッサーは、二種、三種、四種以上の異なる種類の細胞に作用してもよい。例えば、ストレッサーは、光受容細胞の生存能および生存を変化させる一方、他の主要な種類の細胞(例えば、神経節細胞、アマクリン細胞、水平細胞、両極細胞、RPE、およびミュラーグリア)に作用しないものとすることができる。ストレッサーは、網膜細胞(インビボまたはインビトロ)の生存時間を短くするもの、網膜細胞の神経変性の速度または程度を増加させるもの、あるいは、ある他の態様において、網膜細胞の生存能、形態、成熟、または寿命に悪影響を及ぼすものとすることができる。
【0060】
細胞培養系における網膜細胞の生存能に対する細胞ストレッサーの効果は、異なる複数種の網膜細胞の一つ以上について測定することができる。細胞生存能の測定では、網膜細胞培養物を調製した後、ある期間にわたってある間隔で続けて、あるいは、ある特定の時点で、網膜細胞の構造および/または機能を評価することができる。一種または複数の異なる種の網膜細胞または網膜神経細胞の生存能または長期生存を、生存能の低下を示す一つ以上の生化学的または生物学的パラメーター(例えば、形態的または構造的な変化が見られる前の代謝機能の低下またはアポトーシス)により、調べることができる。
【0061】
化学的、生物学的、または物理的な細胞ストレッサーは、長期細胞培養物を維持するためのここに記載する条件下において細胞培養物に加えられたとき、細胞培養系に存在する一種以上の網膜細胞の生存能を低下させ得る。一方、網膜細胞に対するストレッサーの効果がより容易に観察できるよう、一つ以上の培養条件を調節してもよい。例えば、細胞が特定の細胞ストレッサーにさらされるとき、細胞培養物から胎児ウシ血清の濃度または割合を減らすかまたはゼロにすることができる。特定の目的で血清を含まない培地が必要な場合、細胞を、血清の動物源から徐々に引き離して(すなわち、血清の濃度を徐々にそしてしばしば系統的に減らして)血清を含まない培地または血清以外の代替物を含む培地に移行させることができる。細胞生存の維持を保証するため、血清濃度の減少量および減らされた各血清濃度での培養期間を、頻繁に評価し、調節することができる。ここに記載する網膜細胞培養系が細胞ストレッサーにさらされるとき、ストレッサーの付与に付随して血清濃度を調節することができる(網膜細胞種に対するストレッサーの効果を評価するため、および/または、網膜細胞に対するストレッサーの一つまたは複数の有害な作用を抑制、減少または消失させる因子(薬剤)を識別または特定するため、該ストレスモデルが有用であるような条件を達成するよう、ストレッサーを滴定(化学的または生物学的ストレッサーの場合)または調節(物理的ストレッサーの場合)してもよい)。一方、細胞の維持のため特定の濃度で血清を含む培地で培養された網膜細胞を、いかなる濃度の血清も含まない培地に突然さらすこともできる。他の態様において、血清は、網膜細胞培養物において、5%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.25%未満、0.1%未満、または0.05%未満に、単一の工程で減らすことができる。
【0062】
網膜細胞培養物は、網膜細胞培養系における一種以上の網膜細胞の生存能を低下させるようにする時間、細胞ストレッサーにさらすことができる。細胞ストレッサーに培養物をさらす時間の長さは、3時間、6時間、9時間、12時間、18時間、24時間、または、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、または、1週間、2週間以上、そして、1ヶ月以上、あるいは、列挙した時間の間にある任意の時間とすることができる。網膜組織から分離した後、網膜細胞を培地に移した時点からすぐに細胞を細胞ストレッサーにさらしてもよい。一方、培養物を確立させた後、あるいは、その後任意の時点で(例えば、1日、2日、3〜5日、6〜10日、2週間、3週間、または4週間で)、網膜細胞培養物をストレッサーにさらしてもよい。網膜細胞培養系に二つ以上の細胞ストレッサーを含める場合、各ストレッサーは、同時に細胞培養系に加えることができ、そして、同じ時間の間加えておくことができる一方、異なる時点で別々に加えて、網膜細胞系の培養の間、同じ時間の間または異なる時間の間、加えておくことができる。
【0063】
細胞培養系における網膜細胞の生存能は、ここに記載されまた当業者により実施されるいくつかの方法および技術の任意の一以上によって測定することができる(例えば、生理活性剤の存在下で生存能を測定することについてここに記載される方法および技術をさらに参照されたい)。ストレッサーが存在する場合の細胞培養系における網膜細胞(網膜神経細胞を含む)の構造または形態を、ストレッサーが存在しない場合の細胞培養系における同じ細胞種の構造または形態と比べることにより、ストレッサーの効果を測定または判定することができ、そこから、ニューロン細胞の神経変性を変化させることができるストレッサーを識別または特定することができる。また、生存能に対するストレッサーの効果は、当該技術において知られる方法およびここに記載される方法により評価することができ、例えば、ストレッサーが存在する場合の細胞培養系における神経細胞の生存を、ストレッサーが存在しない場合の細胞培養系における神経細胞の生存と比較することにより、評価することができ、そこから、神経細胞の生存を変化させることができるストレッサーを識別または特定することができる。
【0064】
ここに詳細に記載され当該技術において知られている網膜細胞を識別し特徴づける方法、例えば細胞免疫化学法により、網膜細胞の生存を測定または判定することができる。特定の種類の網膜細胞または網膜神経細胞についての細胞マーカーに特異的に結合する抗体、さらには、一種より多い細胞種に共通する細胞骨格タンパク質に結合する抗体は、市販されている。一方、そのような抗体を、当該技術において知られる標準的な方法および技術に従って調製することができる(例えば、Kohler and Milstein,Eur.J.Immunol.6:511−519(1976)およびその改良法;Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory(1988);Antibody Engineering,Methods and Protocols,Lo ed.,(Human Press 2004);米国特許第5693762号;第5585089号;第4816567号;第5225539号;第5530101号;米国特許第5223409号;Schlebusch et al.,Hybridoma 16:47(1997);およびそれらで引用される文献参照。さらに、Andris−Widhopf et al.,J.Immunol.Methods 242:159−81(2000)参照)。
【0065】
光受容体は、オプシン類、ペリフェリン類などの光受容体に特異的なタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、識別または特定することができる。また、細胞培養物における光受容体は、汎用のニューロンマーカーを用いることにより、細胞免疫化学的に標識された細胞の形態学的サブセットとして識別または特定することができ、あるいは、生きた培養物のコントラストの高い像の中から形態学的に識別または特定することができる。外節は、光受容体への付着物として形態学的に検出することができる。
【0066】
また、光受容体を含む網膜細胞は、機能分析によっても検出することができる。例えば、電気生理学の方法および技術を、光受容体の光に対する応答を測定するため用いることができる。光受容体は、光に対する段階的応答において、特定の動力学を示す。活性な光受容体を含む培養物内での光に対する段階的応答を検出するため、カルシウム感受性色素を用いることもできる。ストレスを誘発する化合物または可能性のある神経療法を分析するため、網膜細胞培養物を、細胞免疫化学法のために処理することができ、そして、光受容体および/または他の網膜細胞を、光学顕微鏡法およびイメージング技術を用いて、手動によりまたはコンピュータソフトウェアにより、数えることができる。当該技術において知られる他のイムノアッセイ(例えばELISA、免疫ブロット法、フローサイトメトリー)も、ここに記載する細胞培養モデル系の網膜細胞および網膜神経細胞を識別し特徴づけるため、有用であり得る。
【0067】
また、網膜細胞培養ストレスモデルは、薬理学的因子(薬剤)の直接的効果および間接的効果の両方を識別または特定するため、有用であり得る。例えば、一つ以上の網膜細胞ストレッサーの存在下で細胞培養系に加えられたある生理活性剤候補は、ある種類の細胞を刺激し得、それは、その他の種類の細胞の生存を強化または低下させる態様においてなされる。細胞と細胞の相互作用および細胞と細胞外要素との相互作用は、疾患と薬剤機能のメカニズムを理解する上で重要となり得る。例えば、ある種類の神経細胞は、他の種類の神経細胞の成長または生存に作用する栄養因子を分泌し得る(例えばWO99/29279参照)。
【0068】
(光のストレッサー)
一態様において、網膜細胞ストレッサーは光である。光は、網膜細胞の死、特に光受容細胞の死を引起すかまたはそれに寄与すると考えられる。繰返しある量の光にさらされることは、黄斑変性誘発の危険因子であると考えられる。動物研究からの結果によれば、強度の高い光にさらされたマウスは、黄斑変性を有するヒトにおいて見られると同様の病態生理学的効果を発生させることが明らかになっている(例えば、Dithmar et al.,Arch.Ophthalmol.119:1643−49(2001);Gottsch et al.,Arch.Ophthalmol.111:126−29(1993)参照)。
【0069】
光のストレッサーにさらされる網膜細胞の培養に関し、光は、一つ以上の蛍光灯、白熱灯、または一つ以上の発光ダイオードから出されるものとすることができる。露光は、間欠的に(断続的に)または絶え間なく行うことができ、また、露光時間は変えることができる。一方、光のストレスは、光ショックとして与えることができ、それにより、細胞培養前のある時点または細胞培養中において、いかなる光源への暴露からも細胞を保護することができ、その後、細胞を光のストレスにさらすことができる。
【0070】
光ストレスの強度は、ルクスで測定することができ、それは、表面における光出力の尺度である。ここに記載する網膜細胞培養物は、約1〜20000ルクスの間の任意の強度もしくは任意の範囲の強度、約1000〜15000ルクスの間、約1000〜8000ルクスの間、約250〜8000ルクスの間、約250〜1000ルクスの間、約250〜2000ルクスの間、約250〜4000ルクスの間、約4000〜8000ルクスの間、約1000〜6000ルクスの間、約1000〜4000ルクスの間、約2000〜6000ルクスの間、約2000〜4000ルクスの間、約4000〜6000ルクスの間、または約1000〜2000ルクスの間の任意の強度もしくは任意の範囲の強度の光(白色光または青色光)にさらされることが好ましい。一態様において、細胞は、中位の強度、例えば約4000〜6000ルクスの強度で、短期間、例えば、1週間未満、18〜96時間または18〜48時間、露光される。他の態様において、網膜細胞は、より低い強度の光(例えば、約500〜4000ルクスの間または約500〜2000ルクスの間、約250〜1000ルクスの間、または約500〜1000ルクスの間)に、より長い期間(例えば、1週間より長く、2週間以上、または1ヶ月以上)さらされる。後者の条件の組合せ(より低い強度の光をより長い期間)は、慢性の神経変性網膜疾患におけるストレスの効果を評価するためのストレスモデルを提供することができ、そして、慢性の神経変性網膜疾患を治療するのに有用であり得る生理活性剤を識別または特定するためのストレスモデルを提供することができる。
【0071】
光のストレスは、100〜700nmの範囲にある任意の波長の紫外光または可視光からなることができる。一態様において、光のストレスは、可視光であり、電磁スペクトルの約400nm(紫色光)〜約700nm(赤色光)の任意の波長の光を含むことができる。ある態様において、光のストレスは、約425nm〜500nm(例えば470nm)の可視スペクトルにある青色光である。スペクトルの紫外部分(約300〜400nmまで)は三つの領域(近紫外、遠紫外、および極紫外)に分けられる。これら三つの領域は、紫外放射エネルギーの大きさと紫外光の波長(エネルギーに関係する)とによって区別されている。近紫外は、視覚の光すなわち可視光に最も近い光である。極紫外は、X線に最も近い紫外光であり、該三つのタイプのうち最もエネルギーが高い。遠紫外は、近紫外と極紫外の間に位置する。
【0072】
光源は、蛍光灯、白熱灯、または発光ダイオード(LED)とすることができる。光源は、網膜細胞が培養される時間の間、連続的な露光または調整された露光をもたらすため、組織培養インキュベーターに挿入することができる。高強度の光源は有用であり、種々の強度レベルで光を付与する能力をもたらす。一態様において、細胞培養プレート(任意の細胞培養皿、フラスコ、またはマルチウェルプレートとすることができる)の上から一つのLEDより細胞培養物に光ストレスを与え、そして、細胞培養プレートの下からもう一つ別のLEDより光ストレスを与えるよう、LED装置を設計する。各LEDは、同じ強度または異なる強度の光を出すことができ、それらの強度は、例えば、各LEDを流れる電流を別々に制御する複数の電位差計により調節することができる。放出される光は、一定とすることができ、すなわち、ある時間にわたって同じ波長および強度を有するものとすることができ、あるいは、周期的で、波長または強度が変動するものとすることができる。例えば、光ストレスが概日リズムに近いか一致するよう、周期的な発光を調節することができる。組織培養インキュベーターに取り付けられる光源は、細胞を光源にさらすことによって細胞またはその一部が温度変化にさらされないよう、適当な通気を保証すべく適切に配置することができる。
【0073】
他の態様において、光源は蛍光灯装置であり、例えば、細胞の皿、フラスコまたはプレート全体に環境光を供給する細長い蛍光管の組合せである。また、蛍光灯は、複数の細胞培養プレート、皿、またはフラスコの露光を可能にするよう十分な大きさとすることができる。
【0074】
細胞培養物における網膜神経細胞について、網膜細胞の生存能、生存または神経変性に対する光の効果は、ここに記載される方法および当該技術において実施される方法により測定することができる。ここに記載される網膜細胞培養物の光ストレスモデルは、光受容細胞に作用する疾患(例えば黄斑変性)についてのモデルとして用いることができる。本発明の一態様において、網膜細胞培養物は、光、特に青色光にさらされる。その光は、ここに記載する細胞培養系に存在する他の主要な種類の網膜細胞を殺すことなく、光受容細胞を殺すかまたはその生存を低下させる。例えば、ここに記載するように調製される網膜細胞培養系は、6000ルクスの白色光に48時間さらされるとき、光受容細胞の死(95%以上)をもたらす一方、神経節細胞の生存は、低下しなかったかまたは悪影響をうけなかった。
【0075】
このモデルは、神経変性の疾患または障害、特に網膜の疾患または障害の病理の根底にある細胞プロセスを研究するため、用いることもできる。例えば、光ストレスは、アポトーシス(プログラムされた細胞死)の不適当な活性化を誘発することにより、網膜細胞に作用し、それは、種々の病理学的疾患の状態に寄与し得る。アポトーシスは、当該技術において知られまたここに開示する種々の方法によって測定することができる。
【0076】
また、光ストレスモデルは、光が眼を傷つけるのを阻止する薬剤または物品(例えばフィルター、レンズ、または他の物理的製品)を見出すための方法に有用であり得る。ここに詳細に記載するように、光が網膜細胞(例えば光受容細胞)の生存を低下させるのを阻止、抑制、または防止する生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法、あるいは、神経変性の進行を低下させるかまたは神経変性を逆行させる生物活性因子(生理活性剤)を識別または特定する方法に、該モデルを用いることができる。かくして、該因子は、有害な光(例えば紫外光または青色光)を阻止するよう、細胞レベルで、フィルターのように作用する。例えば、網膜細胞培養物の上のみから照射され、フェノールレッド(酸塩基指示薬として作用し、培地に薄く赤色をつけるもの)を含む培地に維持される細胞の下から測定される光出力は、細胞の上から測定される光出力のレベルより明るさが25%低かった(強度が低かった)。従って、この赤い培地は、光ストレスから光受容細胞を守るフィルター効果を有した。
【0077】
(細胞ストレッサーとしてのタバコ煙凝縮物)
一態様において、網膜細胞ストレッサーは、タバコの煙であり、タバコの煙または紙巻タバコの煙の凝縮物に存在する一種以上の化合物である。喫煙は、黄斑変性を発病する危険因子であると考えられている(Delcourt et al.,Arch.Ophthalmol.116:1031−35(1998))。タバコの煙は、多数の変異原性および発がん性の化合物、例えば、ポリ芳香族炭化水素類(PAH類)、タバコ特異的ニトロサミン類(TSNA類)、カルバゾール、フェノール、およびカテコールを含む。PAH類は、炭素および水素の構成原子が二つ以上の環を形成する化学結合により連結されている一連の化学物質である。従って、PAH類は、多環式炭化水素または多核芳香族と呼ばれることがある。そのような化学的配置の例は、アントラセン(3環)、ピレン(4環)、ベンゾ(ザ)ピレン(5環)、および類似する多環式化合物である。ウシの網膜色素上皮細胞をベンゾ(ザ)ピレンに暴露することにより、細胞の成長および複製が阻害されることが示唆された(Patton et al.,Exp.Eye Res.74:513−522(2002))。
【0078】
タバコ特異的ニトロサミン類(TSNA類)は、強い発ガン物質である求電子性アルキル化剤である。TSNA類は、タバコの製造および貯蔵における遊離硝酸塩を伴う反応、および、硝酸塩が豊富な環境においてアルカロイド類、ニコチンおよびノミコチンを含むタバコの燃焼によって、形成される。切り落とされたばかりの緑のタバコには、実質的にタバコ特異的ニトロサミンは含まれない(例えば米国特許第6202649号および第6135121号参照)。一方、常法に従って得られるねかされたタバコ製品は、N’−ニトロソノルニコチン(NNN)および4−(N−ニトロソメチルアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン(NNK)を含む多くのニトロサミン類を含んでいる。
【0079】
タバコの煙において生成される他の毒性化合物には、カルバゾール、フェノール、およびカテコールがある。カルバゾールは、ジベンゾピロール系を含む複素環式芳香族化合物であり、発がん性物質ではないかと考えられている。タバコの煙に存在するフェノール化合物は、ポリフェノール類であるクロロゲン酸とルチンの熱分解の結果として生じる。タバコの煙中にあるフェノール化合物には、カテコール、フェノール、ヒドロキノン、レゾルシノール、o−クレゾール、m−クレゾール、およびp−クレゾールがある。カテコールは、タバコの煙において最も多いフェノールであり(80〜400μg/タバコ1本)、ベンゾ(ザ)ピレンに対する発ガン補助物質として特定されている。
【0080】
紙巻タバコの煙の凝縮物(cigarette smoke condensate(CSC))は、ここに記載される方法および当業者に知られる方法に従って調製してもよいし、あるいは、業者(例えばMurty Pharmaceuticals(Lexington,KY))から購入してもよい。機械的装置(例えば、FTC Smoke MachineまたはPhipps−Bird20チャネル喫煙装置)を、タバコの煙を生成させるため用いることができる。CSCの調製に使用される(紙巻)タバコの例には、1R4Fまたは1R3F研究用(紙巻)タバコなどがある(例えば、Meckley et al.,Food Chem.Toxicol.42:851−63(2004);Putnam et al.,Toxicol.In Vitro 16:599−607(2002)参照)。CSCを調製するため、例えば、一以上の(紙巻)タバコによって生成されるタバコの煙の微粒子成分を、フィルター(例えば、ガラス繊維フィルターまたは他のフィルターで、抽出プロセスにおいて不活性なもの)上に付着させまたは集めることができる。溶媒(例えばジメチルスルホキシド(DMSO))を用いて、該フィルターから化合物が抽出される。また、抽出過程では、フィルターからの微粒子物質除去を促進するのに有用な機械力(例えば超音波処理)を用いてもよい。
【0081】
網膜細胞、特に、網膜神経細胞の生存に対するタバコの煙の効果、あるいは、網膜神経細胞の神経変性に対するタバコの煙の効果は、ここに記載する網膜細胞培養系を用いて測定することができる。網膜細胞培養物を、(紙巻)タバコの煙の凝縮物、タバコの煙、またはタバコの煙の一種以上の成分化合物(ここに記載する化合物があるが、それらに限定されない)にさらすことができる。網膜細胞の培養の前にまたは細胞培養期間中に、網膜細胞をCSC細胞ストレッサーにさらすことができる。少なくとも約3時間、6時間、9時間、12時間、18時間、24時間、または2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、または1週間、2週間、4週間、2ヶ月、または4ヶ月以上、あるいは、列挙した期間の間の任意の期間、細胞をCSCにさらすことができる。細胞培養物における網膜細胞について、細胞の生存能、生存に対する細胞ストレッサーの効果、あるいは、神経変性に対する細胞ストレッサーの効果は、ここに記載される方法および当該技術において知られる方法に従って測定することができる。
【0082】
(ストレッサーとしてのタバコの煙の凝縮物と光の組合せ)
網膜神経細胞培養物は、一つより多い細胞ストレッサーにさらしてもよく、例えば、培養物を、少なくとも二つの網膜細胞ストレッサーにさらすことができる。例えば、ここに記載するように、一つの網膜細胞ストレッサーをタバコ煙凝縮物とし、もう一つの細胞ストレッサーを光とすることができる。
【0083】
ここに記載される網膜神経細胞培養物は、二つの細胞ストレッサー(例えば、タバコ煙凝縮物と光源)に、別々にまたは同時にさらされ、その後培養することができる。一方、網膜神経細胞の培養中に、網膜細胞培養物を、二つの細胞ストレッサー(例えば、タバコ煙凝縮物と光源)に、別々にまたは同時にさらしてもよい。ある態様において、細胞を培養する前に、細胞ストレッサーの一つまたは両方に網膜神経細胞をさらすことができ、あるいは、培養の前に細胞を一つの細胞ストレッサーにさらし、その後、細胞培養中に細胞ストレッサーの一つまたは両方に細胞をさらすことができる。細胞培養物における網膜細胞の生存に対する、あるいは、神経変性に対する細胞ストレッサーの効果は、ここに記載される方法および当該技術において知られる方法により測定することができる。各細胞ストレッサーに網膜神経細胞培養物をさらす時間は、変えることができる。少なくとも約3時間、6時間、9時間、12時間、18時間、24時間、または2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、または1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月、またはそれ以上、あるいは、列挙した期間の間の任意の期間、細胞をCSCおよび/または光にさらすことができる。
【0084】
ここに記載されるように、光のストレッサーにさらされる網膜細胞の培養物に対し、光は、少なくとも一つの蛍光灯、白熱灯、または少なくとも一つの発光ダイオードから照射することができる。露光は断続的または連続的なものとすることができ、露光時間は変えることができる。一方、光のストレスは、光ショックとして加えることができ、それにより、細胞培養の前または細胞培養中のある時点において細胞をあらゆる光源への露光から保護し、その後、光のストレスにさらすことができる。網膜細胞が培養される間、連続的な露光または調節した露光を行うため、光源を組織培養インキュベーターに挿入することができる。
【0085】
細胞培養物における網膜細胞の生存に対する、あるいは、神経変性に対する細胞ストレッサーの効果は、ここに記載される方法および当該技術において知られる方法により測定することができる。ここに記載する網膜細胞培養系は、光受容細胞に作用する疾患(例えば黄斑変性)についてのモデルとして用いることができる。光ストレッサーをCSCストレッサーと組み合わせる場合に、生存する光受容細胞の数は、CSC単独にさらされ生存する光受容細胞の数に比べて小さくなる。
【0086】
CSCストレッサーと光ストレッサーを含む網膜細胞培養系は、神経変性の疾患または障害、特に網膜の疾患または障害の病理の根底にある細胞プロセスを研究するため、用いることもできる。例えば、それらのストレスは、アポトーシス(プログラムされた細胞死)の不適当な活性化を誘発することにより、網膜細胞に作用し、それは、種々の病理学的疾患の状態に寄与し得る。アポトーシスは、当該技術において知られまたここに記載する種々の方法によって測定することができる。
【0087】
(物理的ストレッサー:静水圧の増加)
本発明の一態様において、網膜細胞ストレッサーは、物理的な細胞ストレッサーであり、例えば、上昇した静水圧(流体圧)(液体によってかけられる圧力で、ここに記載される方法および当該技術において実施される方法(例えば雰囲気圧を上げること)によりかけることができる)である。上昇した眼内圧(IOP)は、患者の緑内障と相関があることが当該技術において知られている。50mm水銀(Hg)の静水圧にさらされた眼細胞は、生存能の低下を示さなかったようであるが、所定の細胞におけるアクチンストレス線維分布の変化とともに、形態変化が認められた(Wax et al.,Br.J.Ophthalmol.84:423−28(2000)参照)。一態様において、網膜細胞培養系は、分離された成熟網膜細胞(網膜神経細胞を含む)と、細胞ストレッサーとして高くされたまたは上昇させられた静水圧(または雰囲気圧)とを備える。細胞は、40、45、50、55、60、70、75、80、100、110、120、または130mmHgの圧力(あるいは、列挙されたmmHg間の任意の圧力)にさらすことができる。上昇した圧力は、ここに記載される方法および当業者に知られる方法を用いてかけることができ、例えば、加圧インキュベーターを用いることにより(例えば、Healey et al.,J.Vasc.Surg.38:1099−105(2003)参照)、あるいは、組織培養インキュベーター内に加圧チャンバーを設置することにより(例えば、Wax et al.,上記参照;Vouyouka et al.,J.Surg.Res.110:344−51(2003)をさらに参照)かけることができる。少なくとも6時間、9時間、12時間、18時間、24時間、または2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、または1週間、少なくとも2週間、少なくとも1ヶ月(4週間)、またはそれ以上、あるいは、列挙した期間の間の任意の期間、網膜神経細胞培養系を上昇した雰囲気圧にさらすことができる。
【0088】
網膜細胞に対する物理的ストレッサー(例えば上昇した静水圧)の効果をより容易に観測できるよう、一つ以上の培養条件を調節することができる。細胞を上昇した圧力にさらすとき、例えば、ウシ胎児血清の濃度または割合を、細胞培養物から減らすかまたはゼロにすることができる。
【0089】
他の態様において、網膜細胞培養系は、上昇した静水圧(または上昇した雰囲気圧)を一つの細胞ストレッサーとして含み、さらに第二の細胞ストレッサーを含む。網膜神経細胞を、第二のストレッサーと同時に上昇した圧力にさらしてもよく、あるいは、細胞をまず一つの細胞ストレッサーにさらした後、第二の細胞ストレッサーにさらすことができる。他の態様において、細胞を培養する前に、網膜神経細胞を、細胞ストレッサーの一つまたは両方にさらすことができる。一方、培養の前に細胞を一つの細胞ストレッサーにさらした後、細胞の培養中に細胞ストレッサーの一つまたは両方に細胞をさらしてもよい。網膜神経細胞について、網膜細胞の生存能、生存、または神経変性に対する細胞ストレッサーの効果は、ここに記載される方法および当該技術において知られる方法により測定することができる。
【0090】
(化学物質ストレッサー:レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)細胞ストレッサー)
他の態様において、ストレッサーは化学物質である。例えば、化学物質ストレッサーは、ビタミンAの誘導体、例えば、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)、またはA2Eの誘導体である。A2Eストレスは、例えばイソ−A2E(A2Eの13−Z光異性体(例えば、Parish et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14609−13(1998);Ben−Shabat et al.,Angew.Chem.Int.Ed.41:814−17(2002)参照)を含むA2E異性体の任意の一つ以上を含み得る。また、該ストレスは、A2Eのすべてのアイソフォームを含み得る。A2Eは、網膜リポフスチンの成分であり、それは、非限定的な理論によると、細胞の残骸を処理する間、光受容体の杆体と錐体を並べる網膜色素上皮細胞において、網膜の消化されたロドプシンおよびエタノールアミン(細胞膜の成分)から形成される(例えば、Parish et al.,上記;Mata et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:7154−59(2000)参照)。A2Eの蓄積は、加齢性の網膜細胞の神経変性、特に黄斑変性の発現に寄与すると考えられている。ここに記載する網膜神経細胞培養系をA2Eにさらすと、該網膜細胞培養系に存在する網膜細胞の選択的な死(特に光受容細胞の選択的な死)がもたらされる。
【0091】
入射光を「視覚」という感覚に結びつける事象のカスケードを開始するよう設計された網膜の光受容体は、光、特に青色光による損傷を受けやすい。この損傷は、細胞死および疾患、特に乾燥型の黄斑変性につながり得る。網膜の代謝回転(視覚プロセスの必須要素)は、損傷につながる事象に基づいている。遊離のレチナール(可視スペクトルの青色領域において吸収性である)は、光毒性であり、(光)毒性化合物A2Eの前駆体である。A2Eは、チトクローム酸化酵素を特異的に攻撃し、その結果、アポトーシスによる細胞死を引起す。
【0092】
一態様において、網膜細胞培養系は、1pM〜200μMの間(例えば、1pM、10pM、100pM、250pM、500pM、750pM、1nM、10nM、50nM、100nM、250nM、500nM、750nM、1μM、2μM、5μM、7.5μM、10μM、15μM、20μM、25μM、40μM、50μM、75μM、100μM、120μM、200μM)または、250μM、500μM、または750μM)、1μM〜40μMの間、または10μM〜20μMの間の任意の濃度のA2Eに、ある時間、例えば、2〜48時間または12〜36時間さらすことができる。他の態様において、より低い濃度(例えば、1pM〜10μMまたは1nM〜1μM)のA2Eに、より長い時間(例えば、約1週間、約2週間、または約1ヶ月(4週間))細胞培養物をさらすことができる。例えば、ここに記載されるように調製した網膜細胞培養系を20μMのA2Eに48時間さらすと、光受容細胞の死がもたらされる(A2Eにさらされない光受容細胞と比べて90%超の光受容細胞が死滅する)が、神経節細胞の生存は、悪影響をうけない(すなわち、神経節細胞の生存能は低下しない)。
【0093】
他の所定の態様において、一つより多いストレッサーを網膜細胞培養系に加えることができる。例えば、ここに記載する方法および技術に従って、A2Eのような化学物質ストレッサーと光ストレッサーとに培養物をさらすことができる。当該技術において知られまたここに記載されるさらなるストレッサー(グルコース酸素剥脱、圧力、および神経毒があるがこれらに限定されない)を、光ストレッサーまたは化学物質ストレッサーのいずれかまたは両方のストレッサーと組み合わせてもよい。
【0094】
(化学物質の細胞ストレッサー:グルタミン酸)
他の態様において、網膜細胞培養系は、グルタミン酸を細胞ストレッサーとして含む。哺乳動物の中枢神経系(CNS)において、神経インパルスの伝達は、神経伝達物質(放出ニューロンにより放出される)と受容ニューロン上の表面受容体(この受容ニューロンの興奮を引起す)との相互作用により制御される。興奮性アミノ酸類(EAA類)(主にグルタミン酸(一次興奮性神経伝達物質)およびアスパラギン酸)は、哺乳動物の中枢神経系において、主要な興奮経路を媒介する。従って、グルタミン酸は、入ってくる神経シグナルの強さを反映するシナプス後ニューロンの変化を引起し得る。グルタミン酸に応答する受容体は興奮性アミノ酸受容体(EAA受容体)と呼ばれる(例えば、Watkins et al.,Trans.Pharm.Sci.11:25(1990);Monaghan et al.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.29:365(1989);Watkins et al.,Annu.Rev.Pharmacol.Toxicol.21:165(1981)参照)。興奮性アミノ酸は、種々の生理プロセス(例えば、長期増強作用(学習と記憶)、シナプス塑性の発現、運動調節、呼吸、心血管系制御、および知覚認知)で役割を果たしている。
【0095】
興奮性アミノ酸受容体は、二つの一般的なタイプ(イオン向性とメタボトロピック)に分類される。イオン向性受容体は、リガンド依存性イオンチャネルを含み、シグナル伝達のためイオン流出を媒介する。一方、メタボトロピック受容体は、シグナル伝達のためGタンパク質を用いる。両タイプの受容体は、興奮経路に沿った通常のシナプス伝達を媒介するだけでなく、発育の間そして一生を通じてシナプス結合の調節に関与しているようである(例えば、Schoepp et al.,Trends in Pharmacol.Sci.11:508(1990);McDonald et al.,Brain Res.Rev.15:41(1990)参照)。
【0096】
さらに、イオン向性EAAグルタミン酸受容体の亜分類は、受容体を選択的に活性化するグルタミン酸およびアスパラギン酸以外のアゴニスト(刺激剤)に基づいている。イオン向性受容体の少なくとも3つのサブタイプは、アロステリック調節剤の脱分極作用によって規定されている(N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)に応答性の受容体、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチルイソキサゾール−4−プロピオン酸(AMPA)に応答性の受容体、およびカイニン酸(KA)に応答性の受容体)。NMDA受容体は、二価のイオン(Ca++)および一価のイオン(Na+、K+)の両方のシナプス後神経細胞への流れを調節する。AMPA受容体およびKA受容体も、一価のK+およびNa+並びに場合によって二価のカルシウム(Ca++)のシナプス後細胞への流れを調節する。NMDA、AMPA、およびKAに加えて他のグルタミン酸アゴニストには、アスパラギン酸、ACPD、キスカル酸、イボテン酸、およびキノリン酸がある。細胞ストレッサーとしてのグルタミン酸の含有についてここに記載する濃度および時間ならびに時期において、成熟網膜細胞培養系に網膜細胞ストレッサーとしてグルタミン酸アゴニストを含めることができる。
【0097】
Gタンパク質興奮性アミノ酸受容体は、複数の第二メッセンジャー系と共役し、第二メッセンジャー系は、ホスホイノシチド加水分解の促進、ホスホリパーゼDの活性化、c−AMP形成の増加または減少、および/またはイオンチャネル機能の変化をもたらす(例えば、Schoepp et al.,Trends in Pharmacol.Sci.14:13(1993)参照)。メタボトロピックEAA受容体は、三つのサブグループに分けられ、それらは、イオン向性受容体と関連がなく、Gタンパク質を介して細胞内の第二メッセンジャーと結合するものである。これらのメタボトロピックEAA受容体は、受容体の相同性と第二メッセンジャーの結合に基づいて分類される。EAA受容体は、発達において、ニューロン構造およびシナプス連結性の設計に係わっており、また、経験によるシナプスの修飾変更に係わっている可能性がある。
【0098】
これらの受容体は、広範囲のCNS障害に係わっているようである。例えば、脳卒中または外傷によって生じる脳虚血において、過剰な量のEAAグルタミン酸が、損傷したまたは酸素剥奪されたニューロンから放出される。この過剰なグルタミン酸がシナプス後のグルタミン酸受容体に結合すると、そのリガンド依存性イオンチャネルが開き、それによってイオン流入が可能になり、それが生化学的カスケードを活性化し、その結果、タンパク質、核酸、および脂質が分解され、細胞死がもたらされる。また、この現象は、興奮毒性として知られ、他の疾患(低血糖症、虚血、およびてんかんからハンティングトン病、パーキンソン病、およびアルツハイマー病で起こる慢性神経変性までの範囲の)に伴う神経学的損傷の原因となり得る(例えば、Kannurpatti et al.,Neurochem.Int.44:361−69(2004);Curr.Top.Med.Chem.4:149−77(2004);Swanson et al.,Curr.Mol.Med.4:193−205(2004)参照)。イオン向性受容体およびグループIメタボトロピック受容体の過剰な活性化は、ニューロンの死をもたらし得る。パーキンソン病、アルツハイマー病、脳虚血、てんかん、ハンティングトン舞踏病、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む多くの神経変性病は、グルタミン酸ホメオスタシスの障害とつながりがあるとされてきた(Tortarolo et al.,J.Neurochem.88:481−93(2004);Lipton et al.,New Eng.J.Med.330:613−22(1994);Gegelashvili et al.,Mol.Pharmacol.52:6−15(1997);Robinson et al.,Adv.Pharmacol.37:69−115(1997))。
【0099】
緑内障において、グルタミン酸放出の増加は、網膜の神経節細胞死の主な原因の一つである(例えば、El−Remessy et al.,Am.J.Pathol.163:1997−2008(2003)参照)。細胞外グルタミン酸の濃度は、もっぱらグルタミン酸輸送体により、生理的レベル内に維持され、正常な興奮伝達が可能になっているとともに興奮毒性から守られている(Robinson et al.,Adv Pharmacol.37:69−115(1997))。神経の損傷は、受容神経細胞の過剰興奮をもたらすグルタミン酸の異常な蓄積により起こり得、また、受容神経細胞上の過敏なグルタミン酸受容体により引起され得る。
【0100】
網膜神経細胞を含む成熟網膜細胞を備えるここに記載の細胞培養系は、グルタミン酸またはその誘導体(例えば、米国特許出願第2002/0115688号参照)を細胞ストレッサーとして含んでもよく、あるいは、グルタミン酸のアゴニスト(Luo et al.,上記参照)を細胞ストレッサーとして含んでもよい。網膜細胞培養物に添加されるグルタミン酸の濃度は、0.5nM〜100μMとすることができ、例えば、約0.5nM、1nM、2nM、4nM、5nM、7.5nM、10nM、20nM、40nM、50nM、75nM、100nM、0.1μM、0.5μM、1μM、2μM、4μM、5μM、7.5μM、10μM、20μM、25μM、40μM、50μM、60μM、75μM、もしくは100μMとすることができ、あるいは、100μM〜1mMとすることができ、例えば、約150μM、200μM、250μM、300μM、400μM、500μM、600μM、750μM、800μM、900μM、および1000μM(1mM)とすることができる。細胞ストレッサーとして作用するグルタミン酸は、新たに採取した(分離した)網膜細胞を調製し組織培養のため培養するとき、網膜細胞培養物に加えることができる。一方、グルタミン酸は、培地に移し培養により網膜細胞が確立した後の時点で加えてもよい。網膜細胞を培地に移してから一日後、あるいは、細胞を培地に移してから2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、または7日後(1週間後)、2週間後、3週間後、4週間後、または6週間以上の後、グルタミン酸を加えてもよい。
【0101】
グルタミン酸は、ここに記載する一つ以上の他の細胞ストレッサー(例えば、光ストレス、CSC、A2Eストレス、または上昇した静水圧)と組み合わせてもよい。ここに記載するように、網膜細胞培養物を二種以上の細胞ストレッサーにさらすとき、グルタミン酸と、他の一種以上のストレッサーとは、同時に細胞培養物に付与または添加してもよいし、あるいは、異なる時間に任意の順序で別々に細胞培養物に付与または添加してもよい。各細胞ストレッサーにさらす時間は異なってもよいし同じでもよい。
【0102】
さらなる細胞ストレッサーを含むまたは含まないグルタミン酸ストレス網膜細胞培養モデルは、網膜神経細胞を含む網膜細胞の生存能、生存、または神経変性を変化させる(統計的に有意な態様で増加または減少させる)生物活性因子(生理活性剤)をここに記載する方法に従って識別または特定するため、用いることができる。網膜ニューロンの生存を高める(伸ばすまたは助長する)生物活性因子(生理活性剤)または神経変性を抑制するまたは減少させる(その進行を遅らせる)生物活性因子(生理活性剤)は、興奮毒性のメカニズムに影響されるいくつかの異なる経路および受容体の任意の一つに作用し得る。また特に、細胞が不利な条件(例えば酸素またはグルコースのレベルの低下、酸化的ストレスのレベルの上昇、毒素への暴露、または遺伝子突然変異)にさらされるとき、例えば、グルタミン酸受容体の活性化は、ニューロンおよびいくつかのタイプのグリア細胞の死を引起し得る。これらの有害な条件の一つ以上の結果として生じる興奮毒性死は、過剰なカルシウム流入、内部細胞小器官からのカルシウムの放出、ラジカル酸素種の生成、およびアポトーシスカスケードの関与を伴い得る。例えば、Mattson,Neuromolecular Med.3:65−94(2003);Atlante et al.,FEBS Lett.497:1−5(2001)を参照されたい。グルタミン酸が細胞ストレッサーであるここに記載のスクリーニングアッセイにおいて見出された生理活性剤は、これらの経路の一つ以上の一以上の要素と相互作用することにより、興奮毒性細胞死を減らすのに有用となり得る。
【0103】
(薬剤発見のためのスクリーニングの神経学的ターゲット)
神経変性疾患が、病的状態の主源である。網膜細胞を含むインビトロ細胞培養モデルは、神経変性の疾患または障害を治療するための薬剤を見出す医薬発見に有効なはずである。有糸分裂後の神経細胞の培養が困難であったため、神経および眼の疾患に適当な薬剤をスクリーニングする際、良好なモデルが重要となる。可能性のある薬剤候補に対するターゲット分子の反応は、少なくとも一部、ターゲット分子の細胞環境に依存すると考えられる。従って、薬剤により最終的に治療すべき細胞種に密接に関連する培養細胞を用いることが、スクリーニングアッセイの開発および利用にとって重要な要件である。
【0104】
薬剤/治療薬候補の適切な検証には、細胞に基づくスクリーニング系に利用できる組織特異的培養細胞を見出しかつ評価することが必要である。神経生物学の分野において、PC12細胞(ラットの褐色細胞種に由来)、NT2細胞(ヒトの奇形癌に由来)、またはヒト神経芽種細胞株のような細胞株が、薬剤候補をスクリーニングするため使用されてきた。それらの細胞は、原型のニューロンのいくつかの特徴を有する一方、腫瘍由来の細胞である。従って、それらの細胞株は、正常な神経細胞と生理学的に異なっていると考えられる。というのも、腫瘍由来の細胞株の細胞は、無傷の動物において見られる細胞の混合および関係に特徴的な神経細胞と非神経細胞の部位特有な混合物を形成することができないからである。さらに、そのような細胞は、共通して、染色体または遺伝子の余分な複製物を伴う異常な核型を有し、その発現は、多くの薬剤の作用に、非腫瘍由来の神経細胞において見られないような態様で最終的に影響し得る。
【0105】
一態様において、ここに記載するインビトロ網膜細胞培養ストレスモデルは、一般に神経疾患または神経障害の治療に適し得る、特に眼および脳の変性疾患の治療に適し得る材料、または生理活性剤および生理活性化合物、特に神経活性剤および神経活性化合物を見出しかつ生物学的に試験するため、用いられる。他の態様において、スクリーニング法は、細胞ストレッサーを見出すため、あるいは、神経学的な疾患または障害、特に網膜の疾患または障害を有する対象を治療するのに適し得る生理活性剤を見出すため、細胞ストレッサーが存在しないインビトロ網膜細胞培養系を備えることができる。成熟網膜細胞の生存能を変化させる(統計的に有意な態様で増加または減少させる)生理活性剤を識別または特定するための方法は、(一つ以上の細胞ストレッサーが存在するまたは存在しない)網膜細胞培養系に存在する成熟網膜細胞と候補剤とを、該細胞培養系と該候補剤との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させること(合わせる、混合する、あるいは、それらの相互作用を可能にすること)、および、次いで、該候補剤が存在する場合の複数種の成熟網膜細胞の生存能を、該候補剤が存在しない場合の複数種の成熟網膜細胞の生存能と比較することを備える。候補剤にさらされない複数種の網膜細胞を、候補剤にさらされる網膜細胞と同じ網膜組織から同時に調製することができる。一方、薬剤が存在する場合の網膜細胞の生存能は、標準的な網膜細胞培養物(すなわち、網膜細胞の生存能について繰返し一定で信頼でき正確な測定値をもたらす、ここに記載されるような網膜細胞培養系)の生存能と比較定量することができる。
【0106】
ここに記載される方法を用いることにより、中枢神経系および網膜の疾患および障害を治療するのに有用な薬剤を選別し、そして試験することができる。そのような疾患および障害には、神経変性疾患、てんかん、緑内障、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管(動脈または静脈)閉塞、色素性網膜炎、炎症性網膜疾患、視神経障害、並びに他の変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病または多発性硬化症)に伴う網膜障害またはAIDSに伴う網膜障害があるがこれらに限定されるものではない。ここに提供される培養された成熟ニューロンは、疾患によって損傷したCNS組織の再生を可能にするまたはもたらすことができる生理活性剤を見出すため、生理活性剤の候補をスクリーニングするのに特に有用である。例えば、無傷の外節を有する光受容体の存在は、眼の神経変性疾患を治療するのに有用な化合物を見出すため、そのようなアッセイにおいて適当である。
【0107】
一態様において、一つ以上の生理活性剤の候補を、ここに記載する網膜細胞培養ストレスモデル系を備えるスクリーニングアッセイに組み込み、該生理活性剤が、複数種の網膜細胞の生存能を増加させるかどうか(すなわち、統計的に有意な態様でまたは生物学的に有意な態様で増加させるかどうか)を判定する。当業者に容易に理解されることであるが、ここに記載するように、生存能の増加を示す網膜細胞が意味するところには、細胞培養系において網膜細胞が生存する時間の長さが増加すること(寿命の増加)、および/または、適当な対照細胞系(例えば、候補剤が存在しない場合のここに記載される細胞培養系)で培養された網膜細胞と比べて、生物学的または生化学的な機能が網膜細胞によって維持されること(正常な代謝および小器官の機能、アポトーシスがないことなど)がある。網膜細胞の生存能の増加は、細胞死の遅れ、あるいは、死んだまたは死につつある細胞の数の減少、構造および/または形態の維持、アポトーシスがないことまたはアポトーシスの開始の遅れ、網膜神経細胞の神経変性の遅れ、抑制、遅い進行、および/または消失、あるいは、神経細胞の損傷効果の遅れ、消失または阻止によって、示され得る。網膜細胞の生存能を、そして、網膜細胞が生存能の増加を示すかどうかを、測定または判定するための方法および技術は、ここにより詳細に記載されており、そして、当業者に知られている(例えば、網膜細胞ストレッサーを識別または特定するため記載された方法および技術も参照されたい)。
【0108】
一態様において、一つ以上の生理活性剤の候補を、網膜細胞培養ストレスモデル系を備えるスクリーニングアッセイに組み込み、該生理活性剤が神経細胞の神経変性を変化させることができるかどうか(統計的に有意な態様で、その進行を、低下させる、抑制する、阻止する、消失させる、減少する、遅らせる、または促進することができるかどうか)判定する。好ましい生理活性剤は、神経細胞、特に網膜神経細胞の神経変性の進行を抑制する、低下させる、消失させる、遅らせる、または該神経変性を減ずるもの、神経細胞を再生することができるもの、および/または神経細胞の生存を高めるまたはひき延ばすことができる(生存を促進し、向上させ、または増強でき、従って損傷および/または死を遅らせることができる)ものである。神経細胞の神経変性を阻害する生理活性剤は、例えば、ここに記載する薬剤のライブラリーからの候補薬剤と細胞培養系とを、候補薬剤と網膜細胞(特に、ここに記載する細胞培養系の成熟した網膜神経細胞)との相互作用を可能にするのに十分な条件および時間において、接触させることにより(混合する、合わせる、あるいは、該薬剤と細胞培養系の網膜細胞との相互作用を可能にすることにより)、識別または特定することができる。
【0109】
生理活性剤は、細胞の生存または神経変性(または神経細胞の損傷)に作用する態様で、網膜神経細胞に直接作用してもよい。一方、生理活性剤は、一つのタイプの網膜細胞と相互作用し、それが、結果として、該薬剤への生理反応を介して、もう一つの網膜細胞の生存能(すなわち生存および/または神経変性)に作用することにより、間接的に作用してもよい。理論に縛られることを好まないが、神経細胞に付随し、ニューロンの代謝機能を支持するように網膜ニューロンと相互作用するミュラーグリア細胞のようなグリア細胞は、生理活性剤による作用の対象となり得る。ミュラーグリア細胞の生物学的または生化学的機能に対する薬剤の効果は、従って、付随する網膜神経細胞(類)の代謝、生存能、および生存に影響し得る。例えば、網膜神経細胞の生存能、生存または神経変性は、ミュラーグリア細胞の生存能を維持するかまたはその生存を増強する候補剤によって、生物学的に有意な態様で間接的に影響を受け得るかまたは変化し得る。
【0110】
ある態様において、ここに記載する方法は、一種、二種、もしくは三種以上、またはすべての種類の網膜細胞の生存能を変化させる(すなわち生存および/または神経変性および/または神経細胞障害を変化させる)生理活性剤を識別または特定するため用いることができ、さらに、一種、二種、三種以上、またはすべての種類の網膜神経細胞(アマクリン細胞、光受容細胞、神経節細胞、水平細胞、および両極細胞)の生存能を変化させる薬剤を識別または特定するため用いることができる。他の特定の態様において、該スクリーニング法を、一種の網膜神経細胞(例えば、アマクリン細胞、光受容細胞、神経節細胞、水平細胞、または両極細胞)の生存能を変化させる(好ましくは、生存を高めるおよび/または神経変性もしくは細胞障害を抑制する)生理活性剤を識別または特定するため用いることができる。
【0111】
一態様において、網膜細胞の生存能を変化させる生理活性剤を識別または特定するための方法は、細胞ストレッサーとして光を含む。他の態様において、A2Eが細胞ストレッサーとして加えられる。生理活性剤を識別または特定するための方法は、一つより多い細胞ストレッサーを含んでもよい。例えば、光とタバコ煙凝縮物とを組み合わせたストレスモデルを用い、網膜細胞培養系においてA2Eがストレッサーとして作用するのを阻害または遮断するようにA2Eの活性を低下または阻害する生理活性剤を識別または特定する。ここに記載するように、A2Eは、網膜リポフスチンの成分であり、それは、非限定的な理論によると、細胞の残骸を処理する間、光受容体の杆体と錐体を並べる網膜色素上皮細胞において、網膜の消化されたロドプシンおよびエタノールアミン(細胞膜の成分)から形成される(例えば、Parish et al.,上記;Mata et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:7154−59(2000)参照)。A2Eの蓄積は、加齢性の網膜細胞の神経変性、特に黄斑変性の発現にある役割を果たしている可能性がある。ここに記載する網膜細胞培養系をA2Eにさらすと、該網膜細胞培養系に存在する網膜細胞の選択的な死(特に光受容細胞の選択的な死)がもたらされる。
【0112】
生理活性剤(生物活性因子)には、例えば、ペプチド、ポリペプチド(例えば、網膜細胞受容体に結合するリガンド(例えば、網膜神経細胞受容体、成長因子、栄養因子など))、オリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド、抗体もしくはその結合性フラグメント、脂質、ホルモン、または小分子が含まれる。網膜神経細胞などの細胞の生存または神経細胞の神経変性を変化させることができる(統計的に有意な態様で増加または減少させることができる)生理活性剤についてスクリーニングを行う方法に使用できる候補剤(候補因子)は、化合物、組成物、または分子の「ライブラリー」またはコレクション(収集物)として用意することができる。そのような分子には、典型的に、当該技術において「小分子」として知られる105ドルトンより低い分子量、104ドルトンより低い分子量、または103ドルトンより低い分子量を有する化合物が含まれる。候補剤(候補因子)は、コンビナトリアルライブラリー(組合せライブラリー)のメンバーとして用意することができ、それは、複数の反応容器において行われる複数の所定の化学反応によって調製される合成剤を含むものである。得られる生成物は、スクリーニングすることができそして選択および合成の手順を繰返すことにより例えばペプチド類の合成コンビナトリアルライブラリーをもたらすことができるライブラリーを構成し(例えば、PCT/US91/08694、PCT/US91/04666参照)、あるいは、ここに提供されるような小分子を含み得る他の組成物を構成する(例えば、PCT/US94/08542、米国特許第5798035号、米国特許第5789172号、米国特許第5751629号参照)。当業者に明らかなとおり、そのようなライブラリーの多様な組合せを、確立した手順に従って、当業者により調製することができる。ニューロンまたは網膜細胞(網膜神経細胞を含む)と相互作用すると考えられるまたは相互作用することが知られている生理活性剤、または、神経活性に作用する(すなわち、ニューロンの構造および/または機能を変化させる)と考えられるまたは作用することが知られている生理活性剤を、特に網膜細胞の生存能を変化させる薬剤を識別または同定するため、ここに記載する方法に含めることができる。
【0113】
好ましくは、生理活性剤は、網膜神経細胞のような神経細胞の生存を高めるものである。すなわち、該剤は、神経細胞が生存できる時間を引き伸ばすように生存を増強するかまたは生存を延ばすものである。細胞の生存を高める候補剤の能力、または、神経変性を低減、抑制または妨害する候補剤の能力は、ここに記載されまた当業者によって実施されるいくつかの方法の任意の一つによって、測定することができる。例えば、候補剤が存在する場合と存在しない場合の細胞形態の変化を、肉眼検査により、例えば、光学顕微鏡法、共焦点顕微鏡法、または当該技術において知られる他の顕微鏡法により、測定することができる。細胞の生存(生存率)は、例えば、生存能力のある細胞および/または生存能力のない細胞を数えることにより、測定することができる。免疫化学法または免疫組織学法(例えば、固定細胞染色またはフローサイトメトリー)を用いることができ、それにより、細胞骨格構造を識別または特定し評価することができ(例えば、細胞骨格タンパク質(例えば、グリア線維の酸性タンパク質、フィブロネクチン、アクチン、ビメンチン、チューブリンなど)に特異的な抗体を用いることにより)、あるいは、ここに記載する細胞マーカーの発現を評価することができる。細胞の統合性(完全性)、形態、成熟、および/または生存に対する候補剤の効果は、神経細胞のポリペプチド、例えば細胞骨格のポリペプチドのリン酸化状態を測定することにより、判定(測定)することができる(例えば、Sharma et al.,J.Biol.Chem.274:9600−06(1999);Li et al.,J.Neurosci.20:6055−62(2000)参照)。
【0114】
生理活性物質が存在する場合に一種以上の網膜細胞の生存が高められる(あるいは、生存が長くなりまたは引き伸ばされること)は、該生理活性剤が神経変性疾患(特に網膜の疾患または障害)の治療に有効な薬剤であり得ることを意味する。細胞の生存および高められる細胞の生存(生存率)は、ここに記載される方法および当業者に知られる方法(生存能アッセイおよび網膜細胞マーカータンパク質の発現を検出するためのアッセイを含む)に従って、測定することができる。光受容細胞の高められる生存(生存率)を測定するため、例えば、杆体により発現されるタンパク質ロドプシンを含むオプシンを検出することができる。ロドプシン(タンパク質オプシンとレチナール(ビタミンA形)とから構成される)は、眼の網膜における光受容細胞の膜に存在し、視覚における唯一の感光工程に触媒作用を及ぼす。その11−シスーレチナール発色団は、該タンパク質のポケットに存在し、光が吸収されるとき、全トランスレチナールに異性化される。レチナールの異性化は、ロドプシンの形の変化をもたらし、その変化は、視神経により脳に伝達される神経インパルスをもたらす反応のカスケードを開始させる。
【0115】
ここに記載される細胞培養系に存在する一種以上の網膜細胞の生存能(または生存)(生存率)は、ここに記載される方法(例えば、網膜細胞ストレッサーを識別または特定するための記載された方法および技術をさらに参照されたい)および当業者によく知られる方法に従って、測定することができる。例えば、生存能力のある細胞は、特定の色素(例えばトリパンブルー)の取り込みにより、生存能力のない細胞と区別することができる。一方、細胞死および細胞溶解は、細胞の代謝産物または酵素(例えば、アルカリ性および酸性ホスファターゼ、グルタミン酸−オキサル酢酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ、アルギニノコハク酸分解酵素、および乳酸デヒドロゲナーゼ(これらは、細胞死の際または損傷した細胞から(例えば、損傷したまたは傷ついた原形質膜を介して)細胞培養物の培地上清に放出される))を測定することにより、定量できる。例えば、エステラーゼ基質である染料核酸を用いる生存能アッセイ、あるいは、酸化または還元を測定する生存能アッセイを利用することができる(Molecular Probes,Eugene,OR,Invitrogen Life Sciences,Carlsbad,CA参照)。活発に分裂しない生きた細胞(例えば網膜神経細胞)の生存能は、一つ以上の代謝過程を評価することにより、測定することができる。そのような方法は、比色分析または蛍光分析によって検出できる試薬を組み込む。細胞の生存能/活力または細胞障害を測定するためのアッセイキットを提供する企業には、Roche Applied Science(Indianapolis,IN)およびMolecular Probesがある。
【0116】
細胞培養系における一種以上の網膜細胞の生存能は、一種、二種、または三種以上の網膜細胞の生存(生存率)を評価(測定)することにより測定することができる。一つ以上の細胞ストレッサーが存在する場合としない場合の細胞培養系における網膜細胞の生存能または生存(率)を測定するのと同様に、生理活性剤の候補が存在する場合としない場合の生存能または生存(率)を測定することができる。ここに記載される方法に従って識別または特定される生理活性剤は、一種以上の網膜細胞の生存を高めるかまたは引き延ばすものであることが好ましい。生存(生存率)は、薬剤にさらされ所定の時間にわたって生存能を有する網膜細胞の数(または割合)を、薬剤にさらされず同じ所定の時間にわたって生存能を有する網膜細胞の数(または割合)と比較することにより、測定(決定)することができる。細胞培養系における網膜細胞の生存(生存率)は、生理活性剤の候補に細胞がさらされている時間の間比較することができ、あるいは、生理活性剤を細胞培養系から除いた後、ある時間の間比較することができる。その時間は、1日、2〜3日、4〜7日、7〜14日、または14〜28日、2ヶ月、または4ヶ月以上とすることができる。
【0117】
網膜神経細胞の神経変性または神経細胞損傷を効果的に変化させる(好ましくは、その進行を抑制する、減少させる、遅らせる、またはそれを阻止するもしくは低下させる)生理活性剤は、神経細胞の構造または形態に対する、神経細胞マーカー(例えば、β3−チューブリン、ロドプシン、レコベリン、ビシニン、カルレチニン、カルビンジン、神経フィラメント(NFM)、Thy−1、タウ、微小管結合タンパク2、ニューロン特異的エノラーゼ、タンパク質遺伝子産物95など(例えば、Espanel et al.,Int.J.Dev.Biol.41:469−76(1997);Ehrlich et al.,Exp.Neurol.167:215−26(2001);Kosik et al.,J.Neurosci.7:3142−53(1987);Luo et al.,(上記)参照)に対する、および/または細胞の生存(すなわち細胞死までの時間の長さまたは細胞の生存能)に対する該剤の効果を測定するためここに記載されそして当該技術において知られる技法により、識別または特定することができる。利用できる抗体には、特定の種類の細胞によって発現されるタンパク質(例えば、光受容細胞によって発現されるオプシン類、例えば、杆体によって発現されるロドプシン、介在ニューロンおよび神経節細胞によって発現されるβ3−チューブリン、および神経節細胞によって発現されるNFM)に特異的に結合する抗体が含まれ、さらに、特定の動物源からの網膜細胞により発現される細胞マーカーを特異的に識別する抗体が含まれる。
【0118】
ここに記載される細胞培養物およびアッセイ法を用いて識別または特定される生理活性剤は、網膜神経細胞の再生に作用し得る。神経細胞の再生または神経細胞の増殖は、当該技術において知られるいくつかの方法のいずれかにより測定することができ、例えば、標識されたデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはそれらの誘導体(例えば、トリチウムチミジン)の取り込みを測定することにより、あるいは、ブロモデオキシウリジン(BrdU)(これは、BrdUに特異的に結合する抗体を用いることにより検出できる)の取り込みを測定することにより、測定することができる。
【0119】
また、生存能、細胞の生存(生存率)、あるいは細胞死は、細胞がアポトーシスを起こしているかどうかを測定するための当該技術において知られそしてここに記載される方法(例えば、アネキシンV結合、DNA断片化アッセイ(例えば、末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ仲介dUTPニック末端標識(TUNEL))、カスパーゼ活性化、ミトコンドリア膜電位破壊、マーカー分析(例えば、ポリ(ADP−リボース)ポリメラーゼ(PARP))、アポトーシス中に発現される酵素またはポリペプチドに特異的な抗体(例えば、抗カスパーゼ−3抗体)による検出など)に従って、測定することができる。
【0120】
場合によって、そのような方法は、対象または患者が発症し得る神経変性に直接的または間接的に関係する症状を改善するだけでなく、神経変性の状態を逆戻りさせるよう作用する生理活性剤または治療剤の候補を識別または特定することを可能にし得る。本開示の方法および細胞培養モデル系は、ニューロン間で起こる特異的相互作用の正確な測定を可能にし、さらに、ニューロン構造の精細さを詳細に分析することを可能にする。例えば、ここに記載する方法および培養細胞は、ニューロチップ、細胞ベースのバイオセンサー、および培養されたニューロンを刺激しそして該ニューロンからのデータを記録するための多電極装置または電気生理学的装置に適合するものである(例えば、M.P.Maher et al.,J.Neurosci.Meth.87:45−56,1999;K.H.Gilchrist et al.,Biosensors & Bioelectronics 16:557−64,2001参照)。
【0121】
(網膜細胞培養ストレスモデルの用途)
ここに記載されるインビトロ網膜細胞培養物のストレスモデルは、網膜細胞の変性および/または細胞死を阻止または阻害する生理活性分子、あるいは、網膜細胞の生存を高める生理活性分子を識別または特定するために用いることができる。さらに、このモデルは、短い時間の範囲内ではその効果が現れない生理活性分子の長期効果を調べるために用いることができる。さらに、この系は、種々の毒素または神経毒を検出および/または特定するのに用いることもできる。こうして識別または特定された生理活性分子、毒素または神経毒は、場合によって、ストレッサーとして、単独でまたはここに記載する一つ以上の他のストレッサーとともに用いることができる。長期細胞培養系が利用可能であることは、神経毒性学の分野において特に有益となり得る。というのも、低用量でしかし長期にわたってのみ毒性作用を示す化学物質および活性因子があるからである。
【0122】
ここに記載する方法およびモデル系は、遺伝子を突然変異させた動物から得られる成熟神経細胞にも適用できる。例えば、網膜の異栄養(rd/rd)対立形質を発現する動物から成熟したニューロンを得ることができる。長期細胞培養条件において野生型と突然変異型の神経細胞を比べることは、生理活性分子の識別または特定に役立ち、あるいは、ストレスにさらされる細胞または化合物もしくは栄養素が加えられたまたは除かれた細胞においてアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされる部分の特定に役立つ。脳、眼、または他のCNSの障害または疾患に関係する特徴づけられた対立形質を運ぶ他の動物モデルは、ここに記載する方法および系の中で分化した成熟細胞源(成熟した神経細胞を含む)として使用するのに適し得る。
【0123】
さらに、ゲノミクスおよびプロテオミクスのような新しい技術の出現により、何千もの新規で比較的特徴のない遺伝子およびタンパク質が特定されてきた。薬剤の発見および開発の隘路の一つは、高スループットスクリーニングに利用できる何千または何百万もの小分子およびタンパク質の治療剤候補にどのように優先順位をつけるかということである。これらの高スループットアッセイ系の多くは、標的細胞の酵素活性を試験分子により刺激または阻害すること、あるいは、標的分子または標的細胞に試験分子が結合することに基づいている。インビボの系は、標的分子または標的細胞と、該標的分子の細胞環境内にあるまたは該標的細胞の周囲の組織環境内にある周辺分子との相互作用が複雑であるという特徴を有する。そのため、一つの独立した生化学アッセイによって特定された候補分子がインビボの環境において同じ標的分子または細胞に作用するという態様を予測することは困難となり得る。例えば、ある標的タンパク質(例えば転写因子および細胞表面受容体)は、生物学的機能を発揮するため、しばしば、複数のサブユニットの複合体を形成する。さらに、可能性のある治療剤に対する標的タンパク質の反応は、その細胞環境に依存すると考えられる。ここに記載する網膜細胞培養系および方法を用いるアッセイは、インビボの標的分子の細胞環境の代わりとなることができる。
【0124】
さらなる研究開発の隘路には、治療または診断のターゲットを確認するために遺伝子解析または配列の情報を生物学的機能と関係づけることである。バイオインフォマティクスおよびゲノムテクノロジーは、生物学的な疾患または障害に伴っている遺伝子の突然変異または欠陥に関係する染色体の領域に位置する新しい遺伝子を特定してきた。しかし、何千および何百万の興味のある遺伝子(およびそれらの対応する遺伝子産物)の的確な生物学的機能を特定し解析することは、極めて困難であることがわかる。よい細胞モデルがなければ、細胞内における各タンパク質の一つ以上の生物学的機能を解明することは困難である。従って、バイオインフォマティクスおよびゲノミクスの手法により、可能性のある疾患発症タンパク質および治療剤の候補を識別または特定することができるが、そのような分子のそれぞれの生物学的重要性および機能を特徴づけることは、依然として困難で時間のかかることである。ここに提供するような首尾一貫した再現可能な細胞ベースのアッセイ系およびストレスモデルは、この機能解析を促進する。さらに、ここに記載する培養神経細胞を用いることにより、細胞内の機能的ユニットまたは他の種類のタンパク質以外の分子(例えば、リボソーム、脂質、または炭水化物)を標的とする生理活性剤の識別または特定が可能になり得る。
【0125】
次世代の新薬発見のプラットフォームテクノロジーは、「セロミクス」を組み込むことができる。セロミクスは、インビトロまたは生体外(ex vivo)の培養された細胞の総合分析を利用する。ここに記載する網膜細胞培養系のような細胞ベースのスクリーニング系によれば、より簡単なタンパク質−標的分析においてよりもより生理学的な状態で、生物医薬剤の候補が対応する標的分子と相互作用することが可能になる。
【0126】
ここに記載するインビトロ網膜細胞ストレスモデルは、神経変性疾患を治療するための治療薬の発見および開発を可能にする共通の損傷および回復の経路を含む疾患の根源的メカニズムを研究および解明するため、用いることができる。細胞特性のそのような研究は、改善された疾患のモデルおよび改善された疾患のモデル化の開発につながり得る。
【0127】
また、該ストレスモデル系は、網膜細胞培養物に存在し得る成熟した幹細胞によって生じる神経細胞の再生を検出するため、用いることもできる。ミュラーグリア細胞、上皮細胞、神経細胞などの種類の細胞は、網膜幹細胞として機能する能力を有し得、そして、例えば、始原細胞に似た表現型への分化転換または返転により、新たなニューロンを生産し得る。この細胞モデルにおいて分裂する細胞を特異的に検出するウイルスプローブを調製することができる。ウイルスの特異的マーカーとニューロンマーカーの両方を検出する標準的な方法(例えばイムノアッセイおよび当該技術において知られる他のアッセイ(例えば、免疫組織化学法))により、新たに形成される細胞を検出することができる。分裂する細胞を検出するための当該技術において知られる他の方法は、ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込みである。ブロモデオキシウリジンは、これらのストレスモデル系において新たに再生されるニューロンを検出するため、抗BrdU特異的抗体およびニューロン特異的マーカーに特異的な抗体と組合せて用いることができる。
【0128】
該ストレスモデル系は、神経変性疾患のための可能性のある治療薬の効果(効力)を測定するため、有用であり得る。例えば、組換えポリヌクレオチドおよびベクターを、単独でまたは遺伝子の送達を促進し得る試薬とともに、該モデル系に加えることができる。ポリヌクレオチドの治療効果および/またはトランスフェクションの効率は、当業者の能力の範囲内にある方法に従って、モニターし評価することができる。
【0129】
また、ここに記載する方法および系は、神経細胞のRNA源およびDNA源をもたらすため、用いることもできる。例えば、記載される方法および系により培養される網膜神経細胞は、網膜神経細胞のcDNAライブラリーの構築にとって満足のいく適当な材料となり得る。さらに、そのような神経細胞培養物は、ここに記載するようなプロテオミクス分析に有用であり得る。
【0130】
ここに記載する細胞培養の方法および系は、対象が網膜の疾患または障害を発症する可能性を高くする危険因子を特定するため、用いることができる。一態様において、環境(構造物または閉鎖空間の内部または外部)に存在する網膜細胞ストレッサー(生物学的、化学的または物理的)(例えば、農薬、殺真菌剤、除草剤、もしくは他の殺生物剤、または毒性の建築材料、または他の毒性の化学物質もしくは材料)を識別または特定するため、該細胞培養系を用いることができる。また、ここに記載する方法および系を、生物テロに使用される分子を検出するためのバイオセンサーとして用いることができ、特に、生物テロの神経学的に活性な分子を検出するためのバイオセンサーとして用いることができる。また、本開示の方法および系は、生物テロのそのような分子の効果を中和することができる治療剤を見出し開発するため、用いることができる。
【0131】
かくして、網膜細胞培養物のストレスモデルは、成熟した(胚でない)網膜神経細胞および他の網膜細胞を含む細胞培養系からなり、それらの細胞は、網膜以外の他の種類の細胞(例えば、眼内の毛様体から採集される細胞、加えられる精製または分離されたグリア細胞、または加えられる幹細胞)を含有しない培養物において長期間生存する。該網膜神経細胞は、全ての主要な種類の網膜細胞(介在ニューロン(例えば、アマクリン細胞、水平細胞、および両極細胞)、神経節細胞、並びに光受容細胞)を含む。該細胞培養系は、光受容細胞の長期生存をもたらす。さらに、インビトロ培養物のストレスモデル系(すなわち、成熟した網膜神経細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系)を用いて生理活性分子をスクリーニングするための方法が提供される。
【0132】
(神経変性疾患の治療)
他の態様において、神経変性疾患および神経変性障害、特にここに記載する神経変性網膜疾患を治療するための方法が提供される。そのような治療が必要な対象は、神経変性網膜疾患の症状を有するかまたは神経変性疾患となるおそれのあるヒト、非ヒト霊長類、またはその他の動物である。そのような対象(すなわち患者)の治療は、網膜神経細胞を投与することにより、さらなる細胞死を防止すること、または、損傷した組織を置換すること、増殖させること、修復すること、もしくは再生する(再定着させる)ことを包含すると解される。そのような網膜細胞の移植は、当該技術において知られた方法により行うことができ、そして、そのような方法は、宿主による移植細胞の拒絶を最小限にするかまたは防止する方法を含み、宿主の免疫反応を抑制する薬剤を投与することを含み得る。
【0133】
一態様において、ここに記載する長期網膜細胞培養系で増殖した網膜神経細胞を含む網膜細胞を、神経変性疾患の末期の前に、好ましくは、神経変性開始の前の時点で、または、さらなる神経変性を防ぐ、遅延させる、もしくは減少させることができる時点で(すなわち、例えば、最初の診断が行われた直後に)、それが必要な対象(患者)に投与する。例えば、黄斑変性の診断を、該疾患の初期に行うことができる。本発明に従って、診断時に、網膜細胞、より特定的に光受容細胞を導入することにより、光受容細胞のさらなる神経変性を遅らせる、防ぐ、減らす、または阻害することができる。
【0134】
網膜細胞は、それが必要な対象に、医療技術において知られる標準的な移植法(ジストロフィー組織の部位またはその近く、好ましくは網膜組織への移植を含む)によって導入することができ、また、部位(例えば、眼のガラス体)に網膜神経細胞を注入することを含むことができる。移植は、自己移植(治療すべき対象からの神経細胞)、同系移植(同じ種族(系統)、すなわち、同じ組織適合性遺伝子を有するものの移植)、同種異系移植(同じ種で異なる系統、すなわち、ドナーと受容体とは異なる組織適合性遺伝子を有する)、または異種間移植(ドナーと受容体とは異なる種または属に属している)とすることができる。ヒトにおける移植のため、非ヒト霊長類を、網膜細胞源として用いてもよい。一方、トランスジェニック動物、例えばトランスジェニックブタは、可能な網膜細胞源となり得る。組織移植が対象によって拒絶されない確率を増加させるための手順および方法(すなわち、移植組織に対する受容体の免疫反応を減らすかまたは排除すること)は、医療技術においてよく知られている。
【0135】
ここに記載する方法に従って識別または特定された生理活性剤を投与することにより、網膜神経細胞、特に光受容細胞および/または神経節細胞および/またはアマクリン細胞(無軸索細胞)を含む網膜細胞の生存を高めるための方法も提供される。これらの薬剤は、総じて神経疾患または神経障害の治療に適し得、そして特に、眼および脳の変性疾患の治療に適し得る。症状の治療、治癒、軽減、予防、改善のため、または進行の遅延もしくは停止のため、ここに記載する方法が有用となり得る神経変性疾患または障害には、緑内障、黄斑変性、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管(動脈または静脈)閉塞、色素性網膜炎、炎症性網膜疾患、視神経障害、並びに他の神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、多発性硬化症またはパーキンソン病)またはAIDSのような他の症状に伴う網膜障害があるがこれらに限定されるものではない。
【0136】
光受容細胞の生存を高める生理活性剤は、疾患の後遺症(続発症)としての光受容体の神経変性(乾燥型の黄斑変性を含むがそれに限定されない)を含む網膜疾患の治療に特に有用である。ここに記載するように、乾燥型または萎縮性の黄斑変性は、RPE細胞および光受容体の損失をもたらし、細胞の全体的萎縮による網膜機能の減退を特徴とする。一方、黄斑変性の湿潤型または血管新生型は、異常な脈絡膜血管の増殖を伴い、それは、ブルーフ膜およびRPE層を貫いて網膜下の空間に達することにより、広範な凝塊および/または瘢痕を形成する(例えばHamdi et al.,Front.Biosci.8:e305−14(2003)参照)。
【0137】
ここに記載する黄斑変性は、黄斑(網膜の中心領域)に影響を及ぼして中心視覚(視力)の減退および損失をもたらす障害である。加齢性黄斑変性は、典型的に55歳を超えた人において生じる。加齢性黄斑変性の病因には、環境の影響と遺伝的要素の両方が含まれ得る(例えば、Iyengar et al.,Am.J.Hum.Genet.74:20−39(2004)(Epub 2003 December 19)、Kenealy et al.,Mol.Vis.10:57−61(2004)、Gorin et al.,Mol.Vis.5:29(1999)参照)。より若い人(子供および幼児を含む)において黄斑変性はよりまれにしか起こらず、一般にその疾患は遺伝的変異に起因する。若い人の黄斑変性の種類には、シュタルガルト病(例えば、Glazer et al.,Ophthalmol.Clin.North Am.15:93−100,viii(2002);Weng et al.,Cell 98:13−23(1999)参照)、ベストの卵黄様黄斑ジストロフィー(例えばKramer et al.,Hum.Mutat.22:418(2003);Sun et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:4008−13(2002)参照)、ドインの蜂巣状網膜ジストロフィー(例えば、Kermani et al.,Hum.Genet.104:77−82(1999)参照);ソーズビーの眼底ジストロフィー、Malattia Levintinese、黄色斑眼底、および常染色体優性出血性黄斑ジストロフィー(さらにSeddon et al.,Ophthalmology 108:2060−67(2001);Yates et al.,J.Med.Genet.37:83−7(2000);Jaakson et al.,Hum.Mutat.22:395−403(2003)参照)がある。
【0138】
ここで患者(すなわち対象)は、ヒトを含む任意の哺乳動物とすることができ、神経変性の疾患または症状をわずらっているものであってもよいし、認め得る疾患のないものであってもよい。従って、治療は、疾患の存在する対象に施してもよいし、あるいは、治療は、疾患または症状を生じさせるおそれのある対象に施す予防的なものであってもよい。医薬組成物は、無菌の水性もしくは非水性の溶液、懸濁液、またはエマルションとすることができ、それは、さらに、生理的に許容される担体(製薬上許容されるまたは適当な担体)(すなわち、有効成分の活性を妨げない非毒性の材料)を含む。そのような組成物は、固体、液体、または気体(エーロゾル)の形態とすることができる。一方、ここに記載される組成物は、凍結乾燥物として製剤化することができ、あるいは、化合物を当該技術において知られる技法を用いてリポソーム内に封入してもよい。また、医薬組成物は、生物学的に活性または不活性なものであり得る他の成分を含んでもよい。そのような成分には、緩衝剤(例えば、中性の緩衝塩類液またはリン酸塩緩衝塩類液)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、ショ糖、またはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドもしくはグリシンなどのアミノ酸、酸化防止剤(抗酸化剤)、EDTAもしくはグルタチオンなどのキレート剤、安定剤、色素、香味料、および沈殿防止剤、並びに/または防腐剤があるが、これらに限定されるものではない。
【0139】
当業者に知られる任意の適当な担体を、ここに記載する医薬組成物に用いることができる。治療用途の担体はよく知られており、例えば、Remingtons Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro ed.1985)に記載されている。一般に、担体の種類は投与の態様に基づいて選ばれる。医薬組成物は、任意の適当な投与形態に対して製剤化することができる。そのような投与形態には、例えば、眼内投与、結膜下投与、局所投与、経口投与、鼻への投与、髄腔内投与、直腸投与、膣投与、舌下投与または非経口投与(皮下、静脈、筋肉内、胸骨内、海綿体内、外耳道内、もしくは尿道内への注射または注入(点滴)を含む)がある。非経口投与のため、担体は、水、塩類液(生理食塩水)、アルコール、脂肪、ワックス、または緩衝剤を含むことが好ましい。経口投与のため、上記担体の任意のものまたは固体の担体、例えば、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、カオリン、グリセリン、デンプンデキストリン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、グルコース、ショ糖、および/または炭酸マグネシウムを用いることができる。
【0140】
医薬組成物(例えば経口投与または注射によるデリバリーのための)は、液体の形態とすることができる。液体の医薬組成物は、例えば、以下の一つ以上を含むことができる。無菌の希釈剤(例えば、注射用の水、塩類溶液、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張食塩水、溶媒もしくは懸濁媒質として機能し得る不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の溶媒)、抗菌剤、抗酸化剤(酸化防止剤)、キレート剤、緩衝剤、並びに張度調節剤(例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース)。非経口製剤は、ガラスまたはプラスチックからなる多人数用バイアル、ディスポーザブル注射筒、またはアンプルに封入することができる。生理食塩水の使用が好ましく、また、注射可能な医薬組成物または眼に投与される組成物は、無菌のものが好ましい。
【0141】
ここに記載される方法に従って識別または特定される生理活性剤は、徐放または遅い放出のために製剤化することができる。そのような組成物は、通常よく知られた技術を用いて調製することができ、例えば、口、眼、直腸、または皮下移植により投与することができ、あるいは、必要とする目的の部位での移植により投与することができる。徐放製剤は、担体の母材中に分散された薬剤を含むことができ、かつ/または、速度調節膜に取り囲まれた貯留部内に収容される薬剤を含むことができる。そのような製剤に使用される担体は、生体適合性であり、そして、生物分解性とすることができ、該製剤は、有効成分を比較的一定のレベルで放出することが好ましい。徐放製剤に含まれる活性化合物の量は、移植の部位、放出の速度および予想期間、並びに治療または予防すべき症状の性質によって変わってくる。
【0142】
眼の経路を介して投与される薬剤または組成物の全身的な薬剤吸収は、当業者に知られていることである(例えば、Lee et al.,Int.J.Pharm.233:1−18(2002)参照)。治療用生理活性剤は、局所的な眼へのデリバリー法により配達することができる(例えば、Curr.Drug Metab.4:213−22(2003)参照)。
【0143】
医薬組成物は、医療技術における当業者によって判断されるとおり、治療(または予防)すべき疾患に適当な態様で投与することができる。投与の適当な用量、適当な期間、および頻度は、患者の症状、患者の疾患の種類および重度、有効成分の特定の形態、投与方法などの因子によって、決定することができる。一般に、適当な用量および治療法は、治療効果および/または予防効果(例えば、臨床成果の向上、例えば、より頻度の高い完全なまたは部分的な回復、または、より長い疾患のないおよび/または全体的な生存、または症状の重度の軽減)を得るのに十分な量の一つまたは複数の薬剤を提供する。予防の用途のため、用量は、網膜神経細胞の神経変性に伴う疾患を予防し、その始まりを遅らせ、あるいは、その重度を軽減するのに十分なものとすべきである。最適用量は、一般に、実験的モデルおよび/または臨床試験を用いて決めることができる。最適用量は、患者の体質量、重量、または血液容量に依存し得る。上記パラメーターのいずれか一つに依存する用量は、1ng/ml〜10mg/mlの範囲とすることができる。
【0144】
以下の実施例は、例示を目的として示されるものであり、限定を目的とするものではない。
【実施例】
【0145】
(実施例1 網膜神経細胞培養系の調製)
この実施例は、網膜神経細胞の長期培養物を調製するための方法を記載する。
【0146】
特に記載するものを除き、すべての化合物および試薬は、Sigma Aldrich Chemical Corporation(St.Louis,MO)から入手した。
【0147】
(網膜神経細胞の培養)
Kapowsin Meats,Inc.(Graham,WA)からブタの眼を入手した。眼を摘出し、筋および組織を眼窩からきれいに取り除いた。眼をその赤道にそって半分に切り、そして、当該技術において知られた標準的な方法により、神経網膜を眼の前方部分から緩衝生理食塩水溶液において切り出した。簡単に説明すると、網膜、毛様体、および硝子体を、一個の眼の前半分から切り離し、そして、網膜を、透明な硝子体から丁寧にはずした。それぞれの網膜をパパイン(Worthington Biochemical Corporation,Lakewood,NJ)で分離した後、胎児ウシ血清(FBS)による不活性化および134Kunitz単位/mlのDNアーゼIの添加を行った。酵素により分離した細胞を、摩砕し、そして、遠心分離により集め、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12培地(Gibco BRL,Invitrogen Life Technologies,Carlsbad,CA)に再懸濁した。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12培地は、25μg/mlのインスリン、100μg/mlのトランスフェリン、60μMのプトレシン、30nMのセレン、20nMのプロゲステロン、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、0.05Mのヘペス、および10%のFBSを含む。ポリ−D−リジンおよびマトリゲル(BD,Franklin Lakes,NJ)で被覆されたガラスカバー片上に、分離した一次網膜細胞を置き、該ガラスカバー片を、24ウェル組織培養プレート(Falcon Tissue Culture Plates,Fisher Scientific,Pittsburgh,PA)に配置した。細胞を、0.5mlの培地(上記、ただしFBSがわずか1%)で37℃および5%CO2において5日〜1ヶ月間培養保持した。
【0148】
(細胞免疫化学分析)
網膜神経細胞を、1、3、6、および8週間培養し、そして、該細胞を、各時点で免疫組織化学法により分析した。免疫組織化学分析は、当該技術において知られた標準的な手法に従って行った。杆体光受容体を、ロドプシンに特異的な抗体(マウスモノクローナル抗体、希釈1:500、Chemicon,Temecula,CA)を用いて標識することにより、特定した。中位の重さの神経フィラメントに対する抗体(NFMウサギポリクローナル抗体、希釈1:10000、Chemicon)を用いて、神経節細胞を特定した。β3−チューブリンに対する抗体(G7121マウスモノクローナル抗体、希釈1:1000、Promega,Madison,WI)を用いて、概して、介在ニューロンおよび神経節細胞を特定した。そして、カルビンジンに対する抗体(AB1778ウサギポリクローナル抗体、希釈1:250、Chemicon)およびカルレチニンに対する抗体(AB5054ウサギポリクローナル抗体、希釈1:5000,Chemicon)を用いて、内部の顆粒層においてカルビンジンを発現する介在ニューロンおよびカルレチニンを発現する介在ニューロンの亜集団を特定した。簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒド(Polysciences,Inc,Warrington,PA)および/またはエタノールで固定し、ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(DPBS)中でゆすぎ、一次抗体とともに1時間37℃でインキュベートした。次いで細胞をDPBSでゆすぎ、二次抗体(Alexa488結合またはAlexa568結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR))とともにインキュベートし、そしてDPBSでゆすいだ。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)で染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のため、Fluoromount−G(Southern Biotech,Birmingham,AL)とともにスライドガラス上に乗せた。
【0149】
図2は、種々の時間培養した後の霊長類動物の成熟した網膜ニューロンの生存を示している。ブタの網膜細胞は、1週間(図2A、2B、2C)、3週間(図2D、2E、2F)、6週間(図2G、2H、2K)、および8週間(図2J、2K、2L)培養された。光受容細胞は、ロドプシン抗体を用いて特定した(図2A、2D、2G、2J)。神経節細胞は、NFM抗体を用いて特定した(図2B、2E、2H、2K)。また、アマクリン細胞および水平細胞は、カルレチニンに特異的な抗体を用いる染色により特定した(図2C、2F、2I、2L)。
【0150】
(実施例2 網膜神経細胞の白色光により誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する白色光誘発ストレスの効果を記載する。
【0151】
(白色光によって誘発されるストレス)
24ウェルプレートの特定のウェルに特定の波長の光を均一にあてるように装置を製作した。該装置は、AC電源に接続される冷白色蛍光灯(GE P/N FC12T9/CW)を含むものであった。該蛍光灯は、標準的な組織培養インキュベーターの内側に取り付けた。該蛍光灯の直下に細胞のプレートを置くことにより、白色光のストレスを加えた。そのCO2レベルは5%に維持し、細胞プレートの温度は37℃に維持した。温度は、細い熱電対を使用してモニターした。
【0152】
すべての装置の光強度を、Extech Instruments Corporation(P/N 401025;Waltham,MA)の露出計を用いて測定し、調節した。成熟網膜細胞の培養物を、実施例1に記載したように調製した。例えば1000、1200、2000、2500、4000、および6000ルクス(同じExtech露出計にて測定)の強度で0、2、4、8、24、および48時間、培養物を光のストレスにさらした。白色光にさらした後、細胞を14〜16時間静置した。次いで、細胞を細胞免疫化学法により分析した。
【0153】
(網膜細胞培養物の細胞免疫化学分析)
当該技術において知られた標準的な手法により、細胞免疫化学分析を行った。杆体光受容体を、ロドプシンに特異的な抗体(マウスモノクローナル抗体、希釈1:500、Chemicon,Temecula,CA)を用いて標識することにより、特定した。中位の重さの神経フィラメントに対する抗体(NFMウサギポリクローナル抗体、希釈1:10000、Chemicon)を用いて、神経節細胞を特定した。β3−チューブリンに対する抗体(G7121マウスモノクローナル抗体、希釈1:1000、Promega,Madison,WI)を用いて、概して、介在ニューロンおよび神経節細胞を特定した。そして、カルビンジンに対する抗体(AB1778ウサギポリクローナル抗体、希釈1:250、Chemicon)およびカルレチニンに対する抗体(AB5054ウサギポリクローナル抗体、希釈1:5000,Chemicon)を用いて、内部の顆粒層においてカルビンジンを発現する介在ニューロンおよびカルレチニンを発現する介在ニューロンの亜集団を特定した。
【0154】
簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒド(Polysciences,Inc,Warrington,PA)および/または氷冷メタノールで固定し、ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(DPBS)中でゆすぎ、一次抗体とともに1時間37℃でまたは一夜4℃でインキュベートした。次いで細胞をDPBSでゆすぎ、二次抗体(Alexa488結合またはAlexa568結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR))とともにインキュベートし、そしてDPBSでゆすいだ。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)で染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のため、Fluoromount−G(Southern Biotech,Birmingham,AL)とともにスライドガラス上に乗せた。
【0155】
オリンパスIX81またはCZX41顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を用いて、ロドプシンで標識された光受容体およびNFMで標識された神経節細胞を数えることにより、培養物を分析した。20倍の対物レンズを用いて、カバー片あたり20の視野を数えた。各実験における各条件について、この方法により6つのカバー片を分析した。ストレッサーにさらされなかった細胞を数え、そして、この対照における細胞の数に対して、ストレッサーにさらされた細胞数を正規化した。
【0156】
典型的なデータを図3および4に示す。データは、片側スチューデントt検定を用いて解析された。図3は、種々の時間、白色光にさらしたときの光受容細胞に対する効果(図3A)と、種々の光強度にさらされた光受容細胞に対する効果(図3B)を示す。光受容細胞は、白色光の時間および強度の両方に対して用量反応性を示した。NFMを発現する神経節細胞は、6000ルクス24時間の白色光ストレスに対して反応を示さなかった(図4)。光のストレスがある場合にロドプシン特異的抗体を用いて検出した光受容細胞の数は、95%より高い信頼度で、白色光のストレスがない場合に検出した細胞の数と統計的に差があった。光のストレスがない場合にNFM特異的抗体を用いて検出した神経節細胞の数は、95%より高い信頼度で、白色光のストレスがある場合に検出した細胞の数と統計的に差がなかった。
【0157】
(アポトーシス分析)
網膜細胞培養物を、2週間培養し、次いで、6000ルクスで24時間、白色光のストレスにさらした後、13時間静置した。アポトーシスを評価するため、当該技術において知られた標準的な手法および製造者の説明書に従い、TUNELを行った。簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、まず4%パラホルムアルデヒド、その後エタノールを用いて固定し、DPBSにおいてゆすいだ。次いで、固定した細胞を、Chroma−Tide Alexa568−5−dUTP(0.1μMの最終濃度)(Molecular Probes)と合わせた反応緩衝液(Fermentas,Hanover,MD)において、TdT酵素(0.2単位/μlの最終濃度)とともに1時間37℃でインキュベートした。培養物をDPBSでゆすぎ、一次抗体とともに、4℃で一夜または37℃1時間インキュベートした。次いで、細胞を、DPBSでゆすぎ、Alexa488結合二次抗体とともにインキュベートし、DPBSでゆすいだ。核をDAPIで染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のためFluoromount−Gとともにスライドガラス上に乗せた。
【0158】
オリンパスIX81またはCZX41顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を用いてTUNELで標識された核を数えることにより、培養物を分析した。20倍の対物レンズを用いて、カバー片あたり20の視野を数えた。各条件について、この方法により6つのカバー片を分析した。ストレッサーにさらされなかった細胞を数え、そして、この対照における細胞の数に対して、ストレッサーにさらされた細胞数を正規化した。
【0159】
図5は、6000ルクス24時間の白色光ストレスの後、TUNEL標識が5倍増加したことを示している。データは、片側スチューデントt検定を用いて解析された。白色光のストレスにさらされたTUNEL標識網膜細胞の数は、95%より高い信頼度で、光のストレスにさらされなかったTUNEL標識網膜細胞の数と統計的に差があった。
【0160】
(実施例3 網膜神経細胞の青色光で誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する青色光誘発ストレスの効果を記載する。
【0161】
(青色光により誘発されるストレス)
実施例1に記載されるとおり網膜細胞培養物を培養した。細胞を1週間培養した後、青色光のストレスを加えた。青色光は、特注の光源により照射した。該光源は、24(4×6)の青色発光ダイオード(Sunbrite LED P/N SSP−01TWB7UWB12)の2配列からなり、各LEDが24ウェル使い捨てプレートの一つのウェルに割り当てられるよう設計されたものであった。第一配列は、細胞を満たした24ウェルプレートの上に配置され、一方、第二配列は、セルのプレートの下に配置され、両配列から細胞のプレートに光のストレスが同時に付与できるようにした。装置全体を、標準的な組織培養インキュベーター内部に配置した。そのCO2レベルを5%に維持し、細胞プレートの温度を37℃に維持した。温度は、細い熱電対を用いてモニターした。各LEDへの電流は、個々の電位差計によりそれぞれ制御し、すべてのLEDについて均一な光出力を可能にした。細胞プレートは、2000ルクスの青色光のストレスに2時間または48時間さらされ、その後、14時間静置された。
【0162】
実施例1および2に記載するとおり、免疫化学分析を行い、データを解析した。2000ルクスの青色光のストレスの後、ロドプシンを発現する光受容体の数は減少し、ストレスの時間に対して用量反応性が認められた(図6)。データは、95%より高い信頼度で、統計的に差があった(片側スチューデントt検定)。
【0163】
(実施例4 網膜神経細胞のA2Eにより誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞のA2E誘発ストレスの効果についてのものである。
【0164】
(A2Eにより誘発されるストレス)
網膜細胞培養物を、実施例1に記載するとおり調製した。1週間細胞を培養した後、化学物質ストレスであるA2Eを加えた。A2Eは、Dr.Koji Nakanishi(Columbia University,New York City,NY)から得た。A2Eをエタノール中で希釈し、0、10μM、20μM、および40μMの濃度で網膜細胞培養物に添加した。培養物を24時間および48時間処理した。培養物は、組織培養インキュベーターにおいてストレスを加える間37℃および5%CO2に維持した。
【0165】
実施例1および2に記載するように、細胞免疫化学分析を行い、データを解析した。ロドプシンを発現する光受容体の数は、24時間後、A2Eの種々の濃度に対して用量反応性を示した(図7(95%より高い信頼度で統計的に差、片側スチューデントt検定))。一方、NFMを発現する神経節細胞の数は、ストレスのない24時間後または20μMのA2Eストレスにさらして24時間後、統計的に差がなかった(図8)(片側スチューデントt検定、95%より高い信頼度)。
【0166】
(実施例5 網膜神経細胞に対する白色LED光誘発ストレスの効果)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜細胞の白色LED光誘発ストレスの効果を記載する。
【0167】
(白色LED光により誘発されるストレス)
網膜細胞培養物を、実施例1に記載するとおり調製した。白色光を特注のLED光源により照射した。LED光源は、24(4×6)の白色発光ダイオード(Sunbrite LED P/N SSP−01TWB9WB12)の2配列からなるものであり、実施例3のように設計されたものである。網膜細胞を、細胞免疫化学法により分析し、そのデータを実施例1および2に記載の方法に従って解析する。白色LED光により誘発されるストレスは、強度および時間に依存して光受容体数の減少を引き起こす一方、神経節細胞の数は変わらないままである。
【0168】
(実施例6 網膜神経細胞の紙巻タバコ煙凝縮物により誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する紙巻タバコ煙凝縮物の効果を記載する。
【0169】
(紙巻タバコ煙凝縮物により誘発されるストレス)
網膜細胞培養物を、実施例1に記載するとおり調製した。細胞を、0.5mlの培地(上記、ただしFBSがわずか1%のもの)で37℃および5%CO2において5日〜1ヶ月間培養保持した。紙巻タバコの煙の凝縮物(CSC)をMurty Pharmaceuticals(Lexington,KY)から得た。簡単に説明すると、CSCは、FTCスモークマシーンにおいて1R3Fスタンダードリサーチシガレットを煙らせることにより、University of Kentuckyで調製した。CSCをフィルター上に集め、そしてフィルター上の総粒子状物質(TPM)をフィルターの重量増加から算出した。次に、TPMから、理論的4%(w/v)溶液を調製するため抽出に使用されるDMSOの量を算出した。DMSO中にフィルターを浸漬し、フィルターを超音波処理することにより、凝縮物をDMSOで抽出した。次いで、抽出したCSCを1mLバイアルに充填し、−70℃で貯蔵した。
【0170】
上述したように調製した網膜神経細胞培養物を、37℃および5%CO2の通常の組織培養条件下で、24時間、100μg/mLのCSCにさらした。
【0171】
(網膜細胞培養物の細胞免疫化学分析)
当該技術において知られる標準的な手法により、細胞免疫化学分析を実施例1および2に記載するように行った。杆体光受容体を、ロドプシンに特異的な抗体(マウスモノクローナル抗体、希釈1:500、Chemicon International,Temecula,CA)を用いて標識することにより、特定した。中位の重さの神経フィラメントに対する抗体(NFMウサギポリクローナル抗体、希釈1:10000、Chemicon)を用いて、神経節細胞を特定した。β3−チューブリンに対する抗体(G7121マウスモノクローナル抗体、希釈1:1000、Promega,Madison,WI)を用いて、概して、介在ニューロンおよび神経節細胞を特定した。そして、カルビンジンに対する抗体(AB1778ウサギポリクローナル抗体、希釈1:250、Chemicon)およびカルレチニンに対する抗体(AB5054ウサギポリクローナル抗体、希釈1:5000,Chemicon)を用いて、内部の顆粒層においてカルビンジンを発現する介在ニューロンおよびカルレチニンを発現する介在ニューロンの亜集団を特定した。
【0172】
簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒド(Polysciences,Inc,Warrington,PA)および/または氷冷メタノールで固定し、ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(DPBS)中でゆすぎ、一次抗体とともに1時間37℃でまたは一夜4℃でインキュベートした。次いで細胞をDPBSでゆすぎ、二次抗体(Alexa488結合またはAlexa568結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR))とともにインキュベートし、そしてDPBSでゆすいだ。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)で染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のため、Fluoromount−G(Southern Biotech,Birmingham,AL)とともにスライドガラス上に乗せた。
【0173】
オリンパスIX81またはCZX41顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を用いて、ロドプシンで標識された光受容体およびNFMで標識された神経節細胞を数えることにより、培養物を分析した。20倍の対物レンズを用いて、カバー片あたり20の視野を数えた。各実験における各条件について、この方法により6つのカバー片を分析した。ストレッサーにさらされなかった細胞を数え、そして、この対照における細胞の数に対して、ストレッサーにさらされた細胞数を正規化した。
【0174】
典型的な正規化データを図9に示す。データは、片側スチューデントt検定を用いて解析した。図9は、細胞が紙巻タバコ煙凝縮物のストレスにさらされたときの光受容体に対する効果を示している。紙巻タバコ煙凝縮物のストレスがある場合にロドプシン特異的抗体を用いて検出された光受容細胞の数は、95%より高い信頼度で、ストレスがない場合に検出された細胞の数よりも統計上小さかった。
【0175】
(実施例7 網膜神経細胞の紙巻タバコ煙凝縮物と光とにより誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する紙巻タバコ煙凝縮物と光とによって誘発されるストレスの効果を記載する。網膜細胞培養物は、実施例1に記載するとおり調製した。
【0176】
(紙巻タバコ煙凝縮物と光とにより誘発されるストレス)
実施例2に記載した装置を用いて、24ウェル組織培養プレートの特定のウェルに特定の波長の光を均一に照射した。該装置の冷白色蛍光灯を、標準的な組織培養インキュベーター内部に取り付けた。細胞のプレートを蛍光灯の直下に置くことにより白色光のストレスを加えた。組織培養インキュベーターにおけるCO2レベルは5%に維持し、細胞プレートの温度は37℃に維持した。温度は、熱電対を用いてモニターした。
【0177】
すべての装置の光強度は、Extech Instruments Corporation(P/N 401025;Waltham,MA)の露出計を用いて測定し、調節した。細胞を1週間培養した後、細胞培養物を、1500ルクスの強度で24時間、光のストレスにさらした。次いで細胞を細胞免疫化学法によって分析した。
【0178】
ストレスなしで1週間培養した細胞のもう一つのサンプルに対し、紙巻タバコ煙凝縮物(100μg/ml)を培養物に添加し、そして、光のストレスを加えた。培養物を、両方のストレッサーの存在下、24時間保持した。CO2レベルは5%に維持し、細胞プレートの温度は37℃に維持した。
【0179】
実施例1および2に記載するように、免疫化学分析を行い、そしてデータを解析した。図10は典型的なデータを示す。光+紙巻タバコ煙凝縮物のストレスの後、ロドプシンを発現する光受容体の数は減少した。データは、95%より高い信頼度で、ストレッサーにさらされた細胞について、細胞ストレッサーにさらされなかった細胞と比べ、統計的に差があった(片側スチューデントt検定)。
【0180】
(実施例8 網膜神経細胞の圧力により誘発されるストレス)
この実施例は、長期網膜細胞培養系において培養された網膜神経細胞に対する雰囲気圧上昇の効果を記載する。網膜細胞培養物は、実施例1に記載するとおり調製し、圧力ストレスにかける直前に、組織培養培地を、血清を含む培地から血清を含まない培地に変えた。
細胞を75mmHgの正のゲージ圧にさらすように圧力チャンバーを製作した。このチャンバーを、標準的な組織培養インキュベーター内に設置し、インキュベーター内の条件と合わせるため5%CO2および95%空気を含むガスのキャニスターを用いて加圧した。そのCO2レベルを5%に維持し、細胞プレートの温度を37℃に維持した。温度は温度計でモニターした。
【0181】
高くされた圧力に24時間さらした後、実施例1および2に記載した方法に従って、網膜神経細胞を免疫化学法により分析した。神経節細胞は、1:5000で希釈したニワトリ抗NFM抗体(Chemicon International)を用いて検出した。また、アポトーシスマーカーであるカスパーゼ−3に特異的に結合する抗体(ウサギ抗カスパーゼ−3、活性、希釈1:5000、R&D Systems,Inc.,Minneapolis,MN)を用いて、培養物における神経細胞を検出した。抗NFM抗体の結合は、Alexafluor594ヤギ抗ニワトリIgG(1:1500)(Molecular Probes)を用いて検出した。また、抗カスパーゼ−3抗体の結合は、Alexafluor488ヤギ抗ウサギIgG(1:1500)(Molecular Probes)を用いて検出した。図11Aおよび図11Bは、ストレッサーとして高くされた雰囲気圧にさらされなかった神経節細胞を示す。図11Cおよび図11Dは、アポトーシスを受けている神経節細胞の例を示している。抗カスパーゼ−3抗体で検出された神経節細胞は、矢印で示される。
【0182】
(実施例9 EPOは光受容体の生存を高める)
この実施例は、網膜細胞の生存能に対する薬剤の効果を調べるための細胞ストレッサーを含む成熟網膜細胞培養系の利用について記載する。成体マウスの網膜における急性低酸素症は、エリスロポエチン(EPO)の発現を刺激する(Grimm et al.,Nat.Med.8:718−724(2002))。従って、網膜細胞に対するEPOの効果を調べた。
【0183】
特に示したものを除き、全ての化合物および試薬は、Sigma Aldrich Chemical Corporation(St.Louis,MO)から入手した。
【0184】
網膜細胞培養物を、実施例1に記載するとおり調製した。エリスロポエチン(EPO)(R&D Systems,Minneapolis,MN)を、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し、1U/mlの最終濃度で24時間37℃および5%CO2において培養ウェルに加えた。25μMのA2E(Dr.Koji Nakanishi,Columbia University,New York City,NYから入手、エタノールにおいて希釈)と1U/mlのEPOを両方含む培地に変えることによって、細胞にストレスを加え、24時間インキュベートした。
【0185】
(免疫組織化学分析)
当該技術において用いられる標準的な方法により、免疫組織化学分析を実施例1および2に記載するように行った。杆体光受容体を、ロドプシンに特異的な抗体(マウスモノクローナル抗体、希釈1:500、Chemicon,Temecula,CA)を用いて標識することにより、特定した。中位の重さの神経フィラメントに対する抗体(NFMウサギポリクローナル抗体、希釈1:10000、Chemicon)を用いて、神経節細胞を特定した。β3−チューブリンに対する抗体を用いて、概して、介在ニューロンを特定した。そして、カルビンジンおよびカルレチニンに対する抗体を用いて、内部の顆粒層においてカルビンジンを発現する介在ニューロンおよびカルレチニンを発現する介在ニューロンの亜集団を特定した。簡単に説明すると、網膜細胞培養物を、4%パラホルムアルデヒド(Polysciences,Inc,Warrington,PA)および/またはエタノールで固定し、ダルベッコリン酸塩緩衝生理食塩水(DPBS)中でゆすぎ、一次抗体とともに1時間37℃でインキュベートした。次いで細胞をDPBSでゆすぎ、二次抗体(Alexa488結合またはAlexa568結合二次抗体(Molecular Probes,Eugene,OR))とともにインキュベートし、そしてDPBSでゆすいだ。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)で染色し、培養物をDPBSでゆすいだ後、ガラスカバー片を取り出し、観察および分析のため、Fluoromount−G(Southern Biotech,Birmingham,AL)とともにスライドガラス上に乗せた。
【0186】
オリンパスIX81またはCZX41顕微鏡(オリンパス、東京、日本)を用いて、ロドプシンで標識された光受容体およびNFMで標識された神経節細胞を数えることにより、培養物を分析した。20倍の対物レンズを用いて、カバー片あたり20の視野を数えた。各実験における各条件について、この方法により6つのカバー片を分析した。EPOまたはストレッサーにさらされなかった細胞を数えた。そして、EPOによる処理とともにまたはEPOによる処理なしでストレッサーにさらされた細胞の数を、対照における細胞の数に対して正規化した。図12は、ストレス前の典型的なロドプシン発現光受容体を示す。図13は、ストレス(A2E、25μM、24時間)後の典型的なロドプシン発現光受容体を示す。小さな点は破壊片を示している。生存細胞の総数は、図1よりかなり少ない。図14は、ストレスの下、同時にEPO(1U/mL)を加えた場合のロドプシン発現光受容体を示す。生存細胞数は、図13のものよりかなり多く、光受容体の神経保護作用を示している。
【0187】
本発明の具体的態様を例示の目的でここに記載してきたが、以上から明らかなとおり、本発明の精神および範囲を逸脱することなく種々の変更・修飾を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】図1は、光受容細胞の模式図を示す。
【図2】図2は、成熟網膜細胞の免疫組織化学染色を示す。ブタの網膜細胞が、1週間(図2A、2B、2C)、3週間(図2D、2E、2F)、6週間(図2G、2H、2K)、および8週間(図2J、2K、2L)培養された。細胞は、光受容体を特定するロドプシン抗体を用いた免疫学的分析にかけられ(図2A、2D、2G、2J)、神経節細胞を特定するNFM抗体を用いた免疫学的分析にかけられ(図2B、2E、2H、2K)、そしてアマクリン細胞および水平細胞を特定するカルレチニンに対する抗体を用いた免疫学的分析にかけられた(図2C、2F、2I、2L)。
【図3】図3は、ストレスのない場合または白色光ストレスの後のロドプシンを発現する光受容体の数を示すヒストグラムであり、時間(図3A)と強度(図3B)の両方に対する用量反応性を明らかにしている。
【図4】図4は、ストレスのない場合または6000ルクス24時間の白色光ストレスの後のNFMを発現する神経節細胞の数を示すヒストグラムである。
【図5】図5は、ストレスのない24時間後の、または、6000ルクス24時間の白色光ストレスに続く13時間の静置期間の後のTUNEL陽性核の数を示すヒストグラムである。
【図6】図6は、ストレスのない場合の、または、種々の時間2000ルクスの青色光ストレスをかけその後14時間の静置期間を設けた場合のロドプシンを発現する光受容体の数を示すヒストグラムである。
【図7】図7は、ストレスのない24時間後の、または、種々の濃度のA2Eストレス24時間後のロドプシンを発現する光受容体の数を示すデータの図である。
【図8】図8は、ストレスのない24時間後の、または、20μMのA2Eストレス24時間後のNFMを発現する神経節細胞の数を示すヒストグラムである。
【図9】図9は、ロドプシンを発現する光受容体に対するタバコ煙凝縮物ストレス(100μg/ml)の効果を示す図である。
【図10】図10は、ストレスのない場合の、および、白色光ストレス(1500ルクス)+タバコ煙凝縮物ストレス(100μg/ml)下の、ロドプシンを発現する光受容体に対する効果を示す図である。
【図11】図11A〜11Dは、培養された成熟網膜神経細胞に対する雰囲気圧上昇ストレスの効果を示す。図11Aおよび11Bは、ストレッサーとして高められた雰囲気圧(75mmHg)にさらされなかった典型的な神経節細胞を示す。図11Cおよび11Dは、アポトーシスを起こした神経節細胞の例を示す。抗カスパーゼ−3抗体で検出されたアポトーシスを起こしている神経節細胞は矢印で示される。
【図12】図12は、ストレス前の典型的なロドプシンを発現する光受容体の免疫組織化学分析を示す。
【図13】図13は、ストレス(25μMのA2E、24時間)後の典型的なロドプシンを発現する光受容体の免疫組織化学分析を示す。小さな点は、細胞の残骸(壊死片)を示す。
【図14】図14は、24時間EPO(1U/mL)の添加とともにストレス下においたロドプシン発現光受容体の免疫組織化学分析を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系であって、該細胞ストレッサーが該成熟網膜細胞の生存能を低下させる、細胞培養系。
【請求項2】
前記細胞ストレッサーが、光、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)もしくはそのアイソフォーム、タバコの煙の凝縮物、高められた静水圧、またはグルタミン酸である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項3】
前記細胞ストレッサーが光である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項4】
前記光が青色光である、請求項3に記載の細胞培養系。
【請求項5】
前記青色光が約250〜8000ルクスの間の強度を有する、請求項4に記載の細胞培養系。
【請求項6】
前記光が白色光である、請求項3に記載の細胞培養系。
【請求項7】
前記白色光が約250〜8000ルクスの間の強度を有する、請求項6に記載の細胞培養系。
【請求項8】
前記細胞ストレッサーが、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)もしくはそのアイソフォーム、タバコの煙の凝縮物、または高められた静水圧である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項9】
前記細胞ストレッサーが、グルタミン酸またはグルタミン酸のアゴニストである、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項10】
前記細胞ストレッサーが、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)またはそのアイソフォームである、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項11】
前記細胞ストレッサーがタバコの煙の凝縮物である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項12】
前記細胞ストレッサーが高められた静水圧である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項13】
光、A2E、タバコの煙の凝縮物、高められた静水圧、およびグルタミン酸から選択される二つ以上の細胞ストレッサーを含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項14】
少なくとも二つの細胞ストレッサーが光およびA2Eである、請求項13に記載の細胞培養系。
【請求項15】
少なくとも二つの細胞ストレッサーが光およびタバコの煙の凝縮物である、請求項13に記載の細胞培養系。
【請求項16】
前記複数種の成熟網膜細胞が、少なくとも一つの網膜神経細胞、少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、および少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項17】
前記複数種の網膜細胞は、少なくとも一つの両極細胞、少なくとも一つの水平細胞、少なくとも一つのアマクリン細胞、少なくとも一つの神経節細胞、および少なくとも一つの光受容細胞を含む複数種の網膜神経細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項18】
前記複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一種の網膜神経細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項19】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞はアマクリン細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項20】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞は光受容細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項21】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞は神経節細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項22】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞は両極細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項23】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞は水平細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項24】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項25】
前記複数種の成熟網膜細胞は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選択される少なくとも一種の細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項26】
前記複数種の成熟網膜細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選択される少なくとも一種の網膜神経細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項27】
前記細胞培養系は、網膜以外の組織源から精製された細胞を実質的に含まない、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項28】
複数種の成熟網膜細胞を含む細胞培養系であって、該細胞培養系は網膜以外の組織源から精製された細胞を実質的に含まない、細胞培養系。
【請求項29】
前記複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一つの網膜神経細胞、少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、および少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項30】
前記複数種の網膜細胞は、少なくとも一つの両極細胞、少なくとも一つの水平細胞、少なくとも一つのアマクリン細胞、少なくとも一つの神経節細胞、および少なくとも一つの光受容細胞を含む複数種の網膜神経細胞を含む、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項31】
前記複数種の成熟網膜細胞は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選択される少なくとも一種の細胞を含む、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項32】
前記複数種の成熟網膜細胞は、複数種の網膜神経細胞を含む、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項33】
前記複数種の網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選択される少なくとも一種の網膜神経細胞を含む、請求項32に記載の細胞培養系。
【請求項34】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも2週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項35】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも4週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項36】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも8週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項37】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも12週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項38】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも16週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項39】
請求項28に記載の細胞培養系を産生するための方法であって、
(a)生物学的源から成熟網膜細胞を単離する工程、および
(b)該成熟網膜細胞の生存能を維持する条件下で該成熟網膜細胞を培養する工程
を包含する、方法。
【請求項40】
前記生物学的源は、哺乳動物または鳥由来の網膜組織である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記哺乳動物は、ヒト、ブタ、非ヒト霊長類、有蹄動物、イヌ、またはげっ歯動物である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記哺乳動物はブタである、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記哺乳動物は非ヒト霊長類である、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
成熟網膜細胞のストレッサーを同定するための方法であって、
(a)候補ストレッサーと請求項28に記載の細胞培養系とを、該候補ストレッサーと該成熟網膜細胞との間の相互作用を可能にするのに十分な条件および時間の下で、接触させる工程、ならびに
(b)該候補ストレッサーの存在下での複数種の成熟網膜細胞の生存能を、該候補ストレッサーの非存在下での複数種の成熟網膜細胞の生存能と比較する工程、およびそこから網膜細胞のストレッサーを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項45】
前記候補ストレッサーの存在下での前記複数種の成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補ストレッサーの非存在下での該複数種の成熟網膜細胞の生存のレベルと比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補の因子の存在下での生存の減少は、該ストレッサーが該網膜細胞の生存能を低下させることを示唆する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記候補ストレッサーの存在下での前記複数種の成熟網膜細胞の神経変性を、該候補ストレッサーの非存在下での該複数種の成熟網膜細胞の神経変性と比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補ストレッサーの存在下での神経変性の増加は、該ストレッサーが該網膜細胞の生存能を低下させることを示唆する、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選択される少なくとも一種の網膜細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、アマクリン細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、水平細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、神経節細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、光受容細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項52】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、両極細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項53】
成熟網膜細胞の生存能を変化させる生物活性因子を同定するための方法であって、
(a)候補因子と請求項1または請求項28のどちらかに記載の細胞培養系とを、該細胞培養系の成熟網膜細胞と該候補因子との間の相互作用を可能にするのに十分な条件および時間の下で、接触させる工程、ならびに
(b)該候補因子の存在下での成熟網膜細胞の生存能を、該候補因子の非存在下での成熟神経細胞の生存能と比較し、そこから網膜細胞の生存能を変化させ得る生物活性因子を同定する工程
を包含する、方法。
【請求項54】
前記候補因子の存在下での前記成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補因子の非存在下での該成熟網膜細胞の生存のレベルと比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補因子の存在下での生存の増加は、該因子が該網膜細胞の生存能を増加させることを示唆する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記候補因子の存在下での該成熟網膜細胞の神経変性を、該候補因子の非存在下での該成熟網膜細胞の神経変性と比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補因子の存在下での神経変性の阻害は、該因子が該網膜細胞の生存能を増加させることを示唆する、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選択される少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
網膜疾患を処置し得る生物活性因子を同定するための方法であって、
(a)候補因子と請求項1または請求項28のどちらかに記載の細胞培養系とを、該細胞培養系の成熟網膜細胞と該候補因子との間の相互作用を可能にするのに十分な条件および時間の下で、接触させる工程、ならびに、
(b)該候補因子の存在下での該細胞培養系における成熟網膜細胞の生存能を、該候補因子の非存在下での成熟網膜細胞の生存能と比較する工程であって、ここで、該候補因子の存在下での該成熟網膜細胞の生存能における増加が、網膜疾患を処置し得る生物活性因子を同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項58】
前記候補因子の存在下での前記成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補因子の非存在下での該成熟網膜細胞の生存のレベルと比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補因子の存在下での生存の増加は、該因子が該網膜細胞の生存能を増加することを示唆する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記候補因子の存在下での前記成熟網膜細胞の神経変性を、該候補因子の非存在下での該成熟網膜細胞の神経変性と比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補因子の存在下での神経変性の阻害は、該因子が該網膜細胞の生存能を増加することを示唆する、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選択される少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
前記網膜疾患は、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、色素性網膜炎、視神経障害、炎症性網膜疾患、またはアルツハイマー病、パーキンソン病もしくは多発性硬化症に関連する網膜障害である、請求項57に記載の方法。
【請求項1】
複数種の成熟網膜細胞および少なくとも一つの細胞ストレッサーを含む細胞培養系であって、該細胞ストレッサーが該成熟網膜細胞の生存能を低下させる、細胞培養系。
【請求項2】
前記細胞ストレッサーが、光、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)もしくはそのアイソフォーム、タバコの煙の凝縮物、高められた静水圧、またはグルタミン酸である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項3】
前記細胞ストレッサーが光である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項4】
前記光が青色光である、請求項3に記載の細胞培養系。
【請求項5】
前記青色光が約250〜8000ルクスの間の強度を有する、請求項4に記載の細胞培養系。
【請求項6】
前記光が白色光である、請求項3に記載の細胞培養系。
【請求項7】
前記白色光が約250〜8000ルクスの間の強度を有する、請求項6に記載の細胞培養系。
【請求項8】
前記細胞ストレッサーが、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)もしくはそのアイソフォーム、タバコの煙の凝縮物、または高められた静水圧である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項9】
前記細胞ストレッサーが、グルタミン酸またはグルタミン酸のアゴニストである、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項10】
前記細胞ストレッサーが、レチノイドN−レチニリデン−N−レチニル−エタノールアミン(A2E)またはそのアイソフォームである、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項11】
前記細胞ストレッサーがタバコの煙の凝縮物である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項12】
前記細胞ストレッサーが高められた静水圧である、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項13】
光、A2E、タバコの煙の凝縮物、高められた静水圧、およびグルタミン酸から選択される二つ以上の細胞ストレッサーを含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項14】
少なくとも二つの細胞ストレッサーが光およびA2Eである、請求項13に記載の細胞培養系。
【請求項15】
少なくとも二つの細胞ストレッサーが光およびタバコの煙の凝縮物である、請求項13に記載の細胞培養系。
【請求項16】
前記複数種の成熟網膜細胞が、少なくとも一つの網膜神経細胞、少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、および少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項17】
前記複数種の網膜細胞は、少なくとも一つの両極細胞、少なくとも一つの水平細胞、少なくとも一つのアマクリン細胞、少なくとも一つの神経節細胞、および少なくとも一つの光受容細胞を含む複数種の網膜神経細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項18】
前記複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一種の網膜神経細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項19】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞はアマクリン細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項20】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞は光受容細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項21】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞は神経節細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項22】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞は両極細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項23】
前記少なくとも一種の網膜神経細胞は水平細胞である、請求項18に記載の細胞培養系。
【請求項24】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項25】
前記複数種の成熟網膜細胞は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選択される少なくとも一種の細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項26】
前記複数種の成熟網膜細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選択される少なくとも一種の網膜神経細胞を含む、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項27】
前記細胞培養系は、網膜以外の組織源から精製された細胞を実質的に含まない、請求項1に記載の細胞培養系。
【請求項28】
複数種の成熟網膜細胞を含む細胞培養系であって、該細胞培養系は網膜以外の組織源から精製された細胞を実質的に含まない、細胞培養系。
【請求項29】
前記複数種の成熟網膜細胞は、少なくとも一つの網膜神経細胞、少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、および少なくとも一つのミュラーグリア細胞を含む、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項30】
前記複数種の網膜細胞は、少なくとも一つの両極細胞、少なくとも一つの水平細胞、少なくとも一つのアマクリン細胞、少なくとも一つの神経節細胞、および少なくとも一つの光受容細胞を含む複数種の網膜神経細胞を含む、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項31】
前記複数種の成熟網膜細胞は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選択される少なくとも一種の細胞を含む、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項32】
前記複数種の成熟網膜細胞は、複数種の網膜神経細胞を含む、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項33】
前記複数種の網膜神経細胞は、両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選択される少なくとも一種の網膜神経細胞を含む、請求項32に記載の細胞培養系。
【請求項34】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも2週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項35】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも4週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項36】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも8週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項37】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも12週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項38】
前記複数種の成熟網膜細胞は少なくとも16週間生存可能である、請求項28に記載の細胞培養系。
【請求項39】
請求項28に記載の細胞培養系を産生するための方法であって、
(a)生物学的源から成熟網膜細胞を単離する工程、および
(b)該成熟網膜細胞の生存能を維持する条件下で該成熟網膜細胞を培養する工程
を包含する、方法。
【請求項40】
前記生物学的源は、哺乳動物または鳥由来の網膜組織である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記哺乳動物は、ヒト、ブタ、非ヒト霊長類、有蹄動物、イヌ、またはげっ歯動物である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記哺乳動物はブタである、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記哺乳動物は非ヒト霊長類である、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
成熟網膜細胞のストレッサーを同定するための方法であって、
(a)候補ストレッサーと請求項28に記載の細胞培養系とを、該候補ストレッサーと該成熟網膜細胞との間の相互作用を可能にするのに十分な条件および時間の下で、接触させる工程、ならびに
(b)該候補ストレッサーの存在下での複数種の成熟網膜細胞の生存能を、該候補ストレッサーの非存在下での複数種の成熟網膜細胞の生存能と比較する工程、およびそこから網膜細胞のストレッサーを同定する工程
を包含する、方法。
【請求項45】
前記候補ストレッサーの存在下での前記複数種の成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補ストレッサーの非存在下での該複数種の成熟網膜細胞の生存のレベルと比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補の因子の存在下での生存の減少は、該ストレッサーが該網膜細胞の生存能を低下させることを示唆する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記候補ストレッサーの存在下での前記複数種の成熟網膜細胞の神経変性を、該候補ストレッサーの非存在下での該複数種の成熟網膜細胞の神経変性と比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補ストレッサーの存在下での神経変性の増加は、該ストレッサーが該網膜細胞の生存能を低下させることを示唆する、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、網膜神経細胞、網膜色素上皮細胞、およびミュラーグリア細胞から選択される少なくとも一種の網膜細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、アマクリン細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、水平細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、神経節細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、光受容細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項52】
前記複数種の成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、両極細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項44に記載の方法。
【請求項53】
成熟網膜細胞の生存能を変化させる生物活性因子を同定するための方法であって、
(a)候補因子と請求項1または請求項28のどちらかに記載の細胞培養系とを、該細胞培養系の成熟網膜細胞と該候補因子との間の相互作用を可能にするのに十分な条件および時間の下で、接触させる工程、ならびに
(b)該候補因子の存在下での成熟網膜細胞の生存能を、該候補因子の非存在下での成熟神経細胞の生存能と比較し、そこから網膜細胞の生存能を変化させ得る生物活性因子を同定する工程
を包含する、方法。
【請求項54】
前記候補因子の存在下での前記成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補因子の非存在下での該成熟網膜細胞の生存のレベルと比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補因子の存在下での生存の増加は、該因子が該網膜細胞の生存能を増加させることを示唆する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記候補因子の存在下での該成熟網膜細胞の神経変性を、該候補因子の非存在下での該成熟網膜細胞の神経変性と比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補因子の存在下での神経変性の阻害は、該因子が該網膜細胞の生存能を増加させることを示唆する、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選択される少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
網膜疾患を処置し得る生物活性因子を同定するための方法であって、
(a)候補因子と請求項1または請求項28のどちらかに記載の細胞培養系とを、該細胞培養系の成熟網膜細胞と該候補因子との間の相互作用を可能にするのに十分な条件および時間の下で、接触させる工程、ならびに、
(b)該候補因子の存在下での該細胞培養系における成熟網膜細胞の生存能を、該候補因子の非存在下での成熟網膜細胞の生存能と比較する工程であって、ここで、該候補因子の存在下での該成熟網膜細胞の生存能における増加が、網膜疾患を処置し得る生物活性因子を同定する工程、
を包含する、方法。
【請求項58】
前記候補因子の存在下での前記成熟網膜細胞の生存のレベルを、該候補因子の非存在下での該成熟網膜細胞の生存のレベルと比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補因子の存在下での生存の増加は、該因子が該網膜細胞の生存能を増加することを示唆する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記候補因子の存在下での前記成熟網膜細胞の神経変性を、該候補因子の非存在下での該成熟網膜細胞の神経変性と比較する工程により、生存能が決定され、ここで、該候補因子の存在下での神経変性の阻害は、該因子が該網膜細胞の生存能を増加することを示唆する、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記成熟網膜細胞の生存能を比較する工程は、(a)両極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、および光受容細胞から選択される少なくとも一種の網膜神経細胞、(b)少なくとも一つの網膜色素上皮細胞、または(c)少なくとも一つのミュラーグリア細胞の生存能を決定する工程を包含する、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
前記網膜疾患は、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、網膜剥離、網膜血管閉塞、色素性網膜炎、視神経障害、炎症性網膜疾患、またはアルツハイマー病、パーキンソン病もしくは多発性硬化症に関連する網膜障害である、請求項57に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図2J】
【図2K】
【図2L】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図2I】
【図2J】
【図2K】
【図2L】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2007−500509(P2007−500509A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522103(P2006−522103)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/024714
【国際公開番号】WO2005/012506
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(506030790)アクセラ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/024714
【国際公開番号】WO2005/012506
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(506030790)アクセラ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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