説明

長繊維状チタン酸金属塩並びにその製造方法

【課題】 比表面積の極めて大きいチタン酸金属塩(チタン酸バリウムを代表例とする)の繊維を簡便に製造する。
【解決手段】 チタン塩と水溶性金属塩を水中で反応させてチタン酸金属塩を製造する方法において、上記チタン塩が長繊維状酸化チタンであり、上記水溶性金属塩の濃度が0.01〜1モル/Lであり、静置状態で反応させることにより、長繊維状のチタン酸金属塩を製造する。水溶性金属塩(水酸化バリウムなど)を所定の低濃度に抑制しながら、静置状態でチタン塩(長繊維状酸化チタン)と共に水熱合成することで、チタン酸金属塩に極細の繊維構造を具備させて、極めて大きな比表面積(100〜1000m2/g)を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長繊維状チタン酸金属塩並びにその製造方法に関して、極めて大きな比表面積を具備する長繊維状チタン酸金属塩、代表的には長繊維状のチタン酸バリウムを提供するとともに、この長繊維状チタン酸金属塩を簡便、効率的に製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
一般に、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどを代表とするチタン酸金属塩は、積層セラミックコンデンサ、半導体デバイス及び高周波フィルターなどの誘電材料に汎用されている。
この誘電材料の単位面積当たりの反応量が増すと、例えば、積層セラミックコンデンサでは小型、大容量化が実現できるが、そのためには誘電材料の比表面積をできるだけ増大させる必要がある。
一般に、比表面積を増大するには、チタン酸金属塩を微粒子化することが先ず考えられるが、比表面積が300m2/g前後を越えるものを製造することは容易でなく、再現性も良くないという問題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、チタン化合物とバリウム化合物を使用して水熱合成法によりチタン酸バリウムの粉末を製造するに際して、チタン化合物のpHを6.6〜10の範囲に制御し、或は、チタン化合物中の塩素含有率を所定濃度以下に制御することにより、不純物含有量の少ないチタン酸バリウムの粉末を製造することが記載されている(請求項1〜2、段落5〜7)。しかしながら、当該特許文献1のチタン酸バリウムは純度の面では優れているが、比表面積の増大という面ではあまり期待できない。
【0004】
一方、チタン酸バリウムなどのチタン酸金属塩を対象とするものではないが、チタン酸バリウムを製造する際の原材料となる酸化チタンに関して、特許文献2には、酸化チタンを水酸化カリウムで水熱処理して酸化チタンを製造する方法であって、水酸化カリウムの濃度と温度を制御することで、比表面積が300〜450m2/gの長繊維状の酸化チタンを製造することが記載されている(請求項1、4、7〜8、段落17〜18)。
即ち、この特許文献2によれば、比表面積を増大させる方法として、化合物に繊維構造を具備させることが開示されている。
【0005】
そこで、繊維状のチタン酸バリウムの従来技術を挙げると、次の通りである。
即ち、特許文献3には、水熱法により繊維状チタン酸バリウムを製造することが(請求項1〜2)、特許文献4には、同じく水熱法により針状チタン酸バリウムを製造することが(請求項1)、夫々開示されている。
【0006】
また、特許文献5には、繊維長1〜1000μm、繊維径10nm〜10μmのチタン酸金属塩繊維と結合剤からなる誘電性組成物が開示され、チタン酸金属塩としてチタン酸バリウムが例示される(段落16〜17、52)。
【0007】
【特許文献1】特開2007−261912号公報
【特許文献2】特開2005−162584号公報
【特許文献3】特開平7−172833号公報
【特許文献4】特開平6−135720号公報
【特許文献5】特開平9−2868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献3の繊維状生成物の長さは10〜30μmであるが(段落9、表1)、比表面積は不明である。また、上記特許文献5のチタン酸金属塩繊維では、長さは1〜1000μm、繊維径は10nm〜10μmであって、微細な繊維構造を窺わせるが、やはり比表面積は不明である。
本発明は、長繊維構造のチタン酸金属塩(チタン酸バリウムを代表例とする)を製造して、その比表面積を大幅に増大させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記特許文献2に記載されたような長繊維状の酸化チタンを原材料として、同様の長繊維構造を有するチタン酸バリウムを製造することを着想の出発点として、原材料の濃度や温度などの反応条件と得られるチタン酸バリウムの比表面積との関係を鋭意研究した。
その結果、例えば、酸化チタンと水酸化バリウムとの水熱合成によりチタン酸バリウムを製造する際には、長繊維状の酸化チタンと共に水酸化バリウムの濃度を1モル/L以下の所定の低濃度に保持しながら静置反応させると、比表面積の極めて大きな長繊維状チタン酸バリウムが得られることを見い出して、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明1は、チタン酸金属塩の結晶形状が長繊維状であって、その比表面積が100〜1000m2/gであることを特徴とする長繊維状チタン酸金属塩である。
【0011】
本発明2は、上記本発明1において、繊維の直径が1〜100nmであることを特徴とする長繊維状チタン酸金属塩である。
【0012】
本発明3は、上記本発明1又は2において、チタン酸金属塩がチタン酸バリウム又はチタン酸ストロンチウムのいずれかであることを特徴とする長繊維状チタン酸金属塩である。
【0013】
本発明4は、上記本発明3において、チタン酸バリウムの結晶組成がBaTiO3であることを特徴とする長繊維状チタン酸バリウムである。
【0014】
本発明5は、チタン塩と水溶性金属塩を水中で反応させてチタン酸金属塩を製造する方法において、
上記チタン塩が長繊維状酸化チタンであり、
上記水溶性金属塩の濃度が0.01〜1モル/Lであり、
静置状態で反応させることにより、上記本発明1〜4のいずれかの長繊維状チタン酸金属塩を製造する方法である。
【0015】
本発明6は、上記本発明5において、反応の温度が20〜150℃であることを特徴とする長繊維状チタン酸金属塩の製造方法である。
【0016】
本発明7は、上記本発明5又は6において、長繊維状酸化チタンが酸化チタンを水中でアルカリ処理したものであり、水溶性金属塩が金属の水酸化物であることを特徴とする長繊維状チタン酸金属塩の製造方法である。
【0017】
本発明8は、上記本発明5〜8のいずれかにおいて、チタン酸金属塩がチタン酸バリウム又はチタン酸ストロンチウムのいずれかであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の長繊維状チタン酸金属塩の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
長繊維状の酸化チタンと水溶性金属塩(例えば、水酸化バリウムや水酸化ストロンチウム)を原料とし、水溶性金属塩の濃度を所定範囲に低く抑制しながら水熱合成法で静置反応させることで、極細な長繊維構造を保持した比表面積が非常に大きいチタン酸金属塩(チタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウムを代表例とする)を製造でき、従来より高容量の誘電体材料などを提供できる。
一般に、酸化チタンと水溶性金属塩の水熱処理は比較的高い温度域での反応であり、例えば、特許文献1では200〜300℃の反応温度が好ましく(段落42)、上記先行文献3の反応温度は140〜250℃であること(請求項2参照)を夫々開示するが、本発明では、相対的に低い温度域(適した反応温度は20〜150℃;本発明6参照)で水熱合成するので、エネルギーコストを低減でき、生産性を向上できる。特に、常温付近で水熱合成する場合には、原料である長繊維状の酸化チタンと水溶性金属塩とを水中に溶解して、所定時間に亘り静置するだけで長繊維構造を有するチタン酸金属塩を調製できるため、製造がきわめて簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、第一に、100〜1000m2/gのきわめて大きな比表面積を有する長繊維状のチタン酸金属塩であり、第二に、チタン塩と水溶性金属塩を水中で反応させてチタン酸金属塩を製造するに際して、当該チタン塩に長繊維状酸化チタンを使用し、特定の低濃度の水酸化金属塩と所定条件で反応させて、上記第一の長繊維状のチタン酸金属塩を製造する方法である。
尚、後述のとおり、本発明の長繊維状チタン酸金属塩の代表例には、長繊維状のチタン酸バリウム、或はチタン酸ストロンチウムが挙げられる。
【0020】
そこで、チタン塩と水溶性金属塩を水熱処理して本発明の長繊維状チタン酸金属塩を製造する方法を説明するが、以下では説明を明解にするために、酸化チタン(チタン塩)と水酸化バリウム(水溶性金属塩)との水熱合成で長繊維状チタン酸バリウムを製造する具体的な方法を中心に記述する。
先ず、本発明においては、原料となるチタン塩は長繊維状の酸化チタンであることが必要である。この長繊維状酸化チタンは、酸化チタン又は酸化チタン塩(水酸化チタン)の少なくとも一種を水酸化カリウムでアルカリ水熱処理し、塩酸や硝酸などの無機酸で中和(脱アルカリ)洗浄することによって製造することができる(本発明7参照)。
上記アルカリ水熱処理の条件として、水酸化カリウム濃度が10〜25モル/L、温度が70〜150℃が好ましい。反応時間は5〜40時間であるが、水酸化カリウム濃度及び温度に依存するため、水酸化カリウム濃度=15〜20モル/L、温度=100〜130℃、反応時間=6〜20時間で反応させることがより好適である。
上記水熱合成で得られる長繊維状酸化チタンは、図2に示す通り、ナノオーダーの直径とサブミクロン以上の繊維長を有しており、比表面積が極めて大きな極細繊維の結晶である。
そこで、本発明の長繊維状チタン酸バリウムを製造する際の原料となる長繊維状酸化チタンの条件をまとめると、直径は1〜100nm、繊維長は100nm〜1000μm、比表面積は100〜1000m2/gが適しており、直径5〜40nm、比表面積200〜450m2/gの長繊維状酸化チタンを用いるのが好ましい。尚、繊維長は100nm以上であれば特に限定されない。
【0021】
次いで、上記長繊維状酸化チタンと水溶性金属塩を水熱合成するが、水溶性金属塩は基本的に金属の水酸化物であり(本発明7参照)、チタン酸バリウムを製造する場合には、上述のとおり、水溶性金属塩として水酸化バリウムを用いる。
本発明では、水酸化バリウム(水溶性金属塩)の濃度を0.01〜1モル/Lに低く抑制し、且つ、静置状態で反応することが必要である(本発明5参照)。水酸化バリウムの好ましい濃度は0.1〜0.4モル/Lである。
水酸化バリウム(水溶性金属塩)の濃度が0.01モル/Lより少ないと、長繊維の組成が酸化チタンに近づいてチタン酸バリウムの生成が困難になり、また、1モル/Lより多いとチタン酸バリウムが長繊維状にならず、粒子状になる恐れが大きい。
【0022】
水酸化バリウム(水溶性金属塩)については、水和物と非水和物で適正な濃度範囲は少し異なり、水酸化バリウム8水和物などの各水和物では反応時の脱水により反応系内での純粋物の濃度が低下するため、非水和物の濃度より多めに設定する必要があり、逆に、非水和物の濃度は水和物より少なくて良い。
例えば、水酸化バリウム8水和物(Ba(OH)2・8H2O)を濃度=1モル/Lで添加する場合、水酸化バリウム非水和物(Ba(OH)2)では0.41モル/L程度で足りる。
【0023】
水熱合成に際して、酸化チタンと水酸化バリウム(水溶性金属塩)の仕込みモル比率については、チタン酸バリウムが長繊維構造を保持し、その原子比(Ba/Ti)を可能な限り1.0に調整するため、水酸化バリウムを酸化チタンの等モル比より多く添加する必要があり、水酸化バリウム/酸化チタン(モル比)をAとすると、水酸化バリウムの溶解度を考慮する必要はあるが、1.0<A<5.0が好ましい。
上記モル比Aが5以上になると(即ち、水酸化バリウムを過剰に添加すると)、生成するチタン酸バリウムが繊維構造ではなく、粒子状になる恐れが大きい。また、上記モル比Aが1.0以下では、生成するチタン酸バリウムの原子比(Ba/Ti)が低下する問題がある。
尚、未反応の水酸化バリウム残渣は中和洗浄することで除去できる。
【0024】
前述した通り、水熱反応は静置状態で行う。この静置状態での反応とは、外部から機械的な撹拌を加えない反応という意味である。
撹拌を施すと、生成するチタン酸バリウムの長繊維構造が保持できず、また、比表面積が著しく低下する問題が生じる。
但し、長繊維状酸化チタンに対して常に均一な濃度の水酸化バリウムを供給できる程度の撹拌、即ち、長繊維状酸化チタン及び長繊維状チタン酸バリウムの固形分は静置しており、水酸化バリウム溶液のみが常に均一な濃度分布を維持できるような、極めて緩やかな撹拌は、本発明の「静置状態」に包含されるものである。
【0025】
本発明6に示すように、酸化チタンと水酸化バリウム(水溶性金属塩)の水熱処理では、反応の温度は20〜150℃が適しており、特に20〜90℃が好ましい。
反応時間は1〜50時間程度であるが、水酸化バリウムの濃度や反応温度に依存し、高温及び高濃度であるほど反応時間は短縮できる。
一般に、高温で反応すると粒子状を形成し易いが、上述の好ましい温度域(20〜90℃)のような低温反応では効果的に繊維構造を形成し易い利点がある。
従って、水熱合成の好ましい条件を挙げると、水酸化バリウム8水和物の濃度が0.1〜0.4モル/L、反応温度が20〜90℃、反応時間が3〜36時間である。
【0026】
一方、上記水熱処理は大気圧・大気雰囲気下で行うことが基本であるが、本発明の長繊維状チタン酸バリウムはオートクレーブを使用して製造することもできる。
オートクレーブを使用した場合、温度領域は上昇し、250℃程度でも製造可能であり、さらにチタン酸バリウムの原子比(Ba/Ti)を1.0に調整するため、前記モル比Aを1.0に近づけることが可能となる。
尚、オートクレーブを使用する場合でも、無撹拌・静置状態での反応が基本である。また、大気雰囲気下を二酸化炭素以外の不活性ガス雰囲気下にすることで、炭酸バリウムの生成を防止し、チタン酸バリウム中の不純物を減らして、チタン酸バリウムの原子比(Ba/Ti)の管理を容易にし、セラミックコンデンサ等に使用した際の電気特性に与える悪影響を低減することができる。
以上の通り、長繊維状の酸化チタンと水酸化バリウム(水溶性金属塩)を水熱処理して長繊維状のチタン酸バリウムを製造する方法を中心に説明したが、基本的に水溶性金属塩を水酸化ストロンチウムに替えると、同様の条件で長繊維状のチタン酸ストロンチウムを製造することができる。他の長繊維状のチタン酸金属塩の場合も同様である。
【0027】
上記水熱反応で得られた本発明のチタン酸金属塩は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸リチウム、チタン酸カリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カルシウムなどをいい、特に、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムが代表例である(本発明3参照)。
本発明のチタン酸金属塩はペロブスカイト型及びスピネル型の結晶構造を基本とし、組成面から詳述すると、ATiXY(A=H、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba;xは0.1〜25.0、yは0.1〜40.0の各実数である。)の組成で表されるチタン化合物、及びAX1-XTiyz(A、B=H、Li、Na、Mg、K、Ca、Sr、Ba;xは0より大きく1.0未満の実数、yは0.1〜25.0、zは0.1〜40.0の各実数である。)の組成で表されるチタン複合化合物を包含するものである。
この場合、チタン酸バリウムの代表的な結晶組成はBaTiO3で表され(本発明4参照)、バリウムとストロンチウムを含むチタン複合化合物の結晶組成はBaXSr1-XTiO3で表される。
【0028】
上記水熱処理で得られる本発明の長繊維状チタン酸金属塩はナノオーダーの直径とサブミクロン以上の繊維長を有する、比表面積が極めて大きな極細繊維の結晶である。図3はこのチタン酸金属塩の代表例である長繊維状チタン酸バリウムのSEM拡大画像であるが、粒子状とは異なる極細の繊維構造が明確に視認できる。
即ち、本発明の長繊維状チタン酸金属塩は、所定の条件で長繊維状酸化チタンと水溶性金属塩(水酸化バリウム)を水熱合成して得られるが、その比表面積は100〜1000m2/gであり(本発明1参照)、好ましくは200〜450m2/gである。
また、繊維の長さは100nm〜1000μm、好ましくは1μm〜1000μmであり、繊維の直径は1〜100nm(本発明2参照)、好ましくは5〜40nmである。
以上の通り、水溶性金属塩(水酸化バリウム)を所定の低濃度に抑制しながら、静置状態でチタン塩と共に水熱処理して得られる本発明の長繊維状チタン酸金属塩は、極細の繊維構造を具備することできわめて大きな比表面積(100〜1000m2/g)を確保できるため、様々な分野に有効利用することができる。
チタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウムを代表例とする本発明の長繊維状チタン酸金属塩の用途としては、積層セラミックコンデンサにおける誘電体層及び内部電極の共剤、バリスタ、PTC(正特性サーミスタ)材料等の半導体デバイス向け誘電体材料、高周波フィルターやアンテナ用高周波誘電体セラミックス用誘電体材料、バリア放電プラズマ用誘電体触媒材料、静電・耐電防止剤、光触媒機能を有する塗料や脱臭・消臭用の塗料、電池材料(負極材料)などが挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下、長繊維状の酸化チタンの製造例、この長繊維状酸化チタンを使用して本発明の長繊維状のチタン酸バリウムを製造する実施例、実施例で得られた長繊維状チタン酸バリウムの性状確認、組成の同定及び比表面積の測定などの各種試験例を順次述べる。
本発明は下記の製造例、実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0030】
《長繊維状酸化チタンの製造例》
酸化チタン粉末(日本アエロジル社製、P25)10gを17M水酸化カリウム(関東化学社製、鹿特級)水溶液100mLに入れ、充分に撹拌した後、110℃の恒温器で20時間、静置状態で合成した。恒温器はテフロン容器を使用した。
次いで、20時間経過後、容器を取り出して遠心分離器で固形分を分離し、固形分中の余剰なアルカリ残渣を10%塩酸で中和処理した。
その後、遠心分離器で純水を用いて固形分の脱塩洗浄処理を3回行い、長繊維状酸化チタンの分散スラリーを得た。
【0031】
そこで、上記製造例で得られた長繊維状酸化チタンと水酸化バリウムを所定条件で水熱処理して、長繊維状のチタン酸バリウムを製造した。
《長繊維状チタン酸バリウムの実施例》
下記の実施例1〜5のうち、実施例1は水酸化バリウム8水和物の濃度を0.4モル/Lとし、80℃の温度条件で静置反応させた例である。実施例2は反応温度を上記実施例1の80℃から150℃に上昇させた例である。実施例3は反応温度を25℃(常温)に低下させた例である。実施例4は水酸化バリウム8水和物の濃度を1.0モル/Lに高めた例である。実施例5は同水和物の濃度を0.1モル/Lに低下させた例である。
一方、比較例1〜3のうち、比較例1は上記実施例1を基本として、撹拌状態で反応させた例である。比較例2は水酸化バリウム8水和物の濃度を本発明の適正範囲より高く調整して静置反応させた例である。比較例3は同水和物の濃度を本発明の適正範囲より高く調整して撹拌状態で反応させた例である。
図1の左寄り欄及び中央欄には水熱処理時の温度、水酸化バリウム8水和物の濃度、水熱処理での水酸化バリウムと酸化チタンのモル比などの反応条件をまとめた。
【0032】
(1)実施例1
80℃に加温した純水500mLに水酸化バリウム8水和物(関東化学社製、特級ACS)を溶解して濃度0.4モル/Lに調整したうえで、前記製造例の長繊維状酸化チタンのスラリーを10g(固形分換算)添加し、80℃の静置状態で12時間水熱合成した。この場合、水酸化バリウムと酸化チタンの仕込みモル比はBa(OH)2/TiO2=1.5であった。
次いで、12時間経過後、遠心分離器で固形分を分離し、固形分中の余剰なアルカリ残渣を10%塩酸(関東化学社製、有害金属測定用)でpH7まで中和処理した。
続いて、遠心分離器で純水を用いて固形分の脱塩洗浄処理を3回行い、チタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
【0033】
(2)実施例2
実施例1を基本として、反応温度を150℃として水熱反応させた以外は、実施例1と同様の条件で処理して、チタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
尚、水酸化バリウムと酸化チタンのモル比はBa(OH)2/TiO2=1.5であった。
【0034】
(3)実施例3
実施例1を基本として、反応温度25℃で36時間水熱反応させた以外は、実施例1と同様の条件で処理して、チタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
尚、水酸化バリウムと酸化チタンのモル比はBa(OH)2/TiO2=4.0であった。
【0035】
(4)実施例4
実施例1を基本として、水酸化バリウム8水和物の濃度を1.0モル/Lに調整した以外は、実施例1と同様の条件で処理して、チタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
尚、水酸化バリウムと酸化チタンのモル比はBa(OH)2/TiO2=1.5であった。
【0036】
(5)実施例5
実施例1を基本として、水酸化バリウム8水和物の濃度を0.1モル/Lに調整した以外は、実施例1と同様の条件で処理して、チタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
尚、水酸化バリウムと酸化チタンのモル比はBa(OH)2/TiO2=1.5であった。
【0037】
(6)比較例1
実施例1を基本として、100rpmの撹拌条件下で水熱反応させた以外は、実施例1と同様の条件で処理して、チタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
尚、水酸化バリウムと酸化チタンのモル比はBa(OH)2/TiO2=1.5であった。
【0038】
(7)比較例2
実施例1を基本として、水酸化バリウム8水和物の濃度を10モル/Lに調整した以外は、実施例1と同様の条件で処理して、チタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
尚、水酸化バリウムと酸化チタンのモル比はBa(OH)2/TiO2=40であった。
【0039】
(8)比較例3
実施例1を基本として、水酸化バリウム8水和物の濃度を10モル/Lに調整し、500rpmの撹拌状態で3時間水熱反応させた以外は、実施例1と同様の条件で処理して、チタン酸バリウムの分散スラリーを得た。
尚、水酸化バリウムと酸化チタンのモル比はBa(OH)2/TiO2=40であった。
【0040】
次いで、上記実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた各チタン酸バリウムの性状解析及び組成分析を実施するため、各チタン酸バリウムの分散スラリーを石英ボートを用いて50℃で乾燥させ、固形物を得た。
《チタン酸バリウムの試験例》
そこで、実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた上記チタン酸バリウムの各固形物について、先ず、走査型電子顕微鏡(SEM)により繊維構造の有無を中心に微視観察した。
また、走査型電子顕微鏡に付設されたエネルギー分散型蛍光X線分析装置(SEM−EDX)により、上記固形物の組成分析を行うとともに、水蒸気吸着量測定装置(水分吸着BET)により比表面積を測定した。得られたチタン酸バリウムの比表面積及びBa/Ti比は図1の右寄り欄にまとめた。
[測定機器の機種名]
電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM):日立製作所製、S−4800
エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX):堀場製作所製、EMAX EX250 7593−H
水蒸気吸着量測定装置:QUANTACHROME社製、Hydrosorb1000
【0041】
(1)実施例1
図3A〜Bに示すように、得られた固形物は長繊維状の構造を有する集合体であることが確認された。
また、図4に示すように、蛍光X線分析装置のEDXパターンから、上記固形物はBa/Ti比=0.371の長繊維構造を有するチタン酸バリウムであることが同定された。
この長繊維状チタン酸バリウムの比表面積は351m2/gであった。
【0042】
(2)実施例2
得られた固形物は、Ba/Ti比=0.413、比表面積=323m2/gの長繊維状のチタン酸バリウムであることが確認された。
【0043】
(3)実施例3
得られた固形物は、Ba/Ti比=0.327、比表面積=375m2/gの長繊維状のチタン酸バリウムであることが確認された。
【0044】
(4)実施例4
得られた固形物は、Ba/Ti比=0.409、比表面積=338m2/gの長繊維状のチタン酸バリウムであることが確認された。
【0045】
(5)実施例5
得られた固形物は、Ba/Ti比=0.298、比表面積=366m2/gの長繊維状のチタン酸バリウムであることが確認された。
【0046】
(6)比較例1
得られた固形物は粒子状と長繊維状との2種の構造を有する混合集合体であることが確認された。また、Ba/Ti比は0.785であって1.0に近い比率となったが、比表面積は128m2/gに低くとどまった。
【0047】
(7)比較例2
図5のSEM画像に示す通り、得られた固形物は粒子状であり、Ba/Ti比=1.009、比表面積=35.6m2/gの粒子状チタン酸バリウムであることが確認された。
【0048】
(8)比較例3
得られた固形物は、Ba/Ti比=1.006、比表面積=103m2/g、粒子径=20〜30nmの粒子状チタン酸バリウムであることが確認された。
【0049】
上記実施例1〜5で得られた長繊維状チタン酸バリウムでは、Ba/Ti比は0.298〜0.413であって1.0以下を示すが、これは水熱合成における水酸化バリウム濃度が非常に低いため、Ba導入エネルギーが高いチタン酸への反応効率が低下しているものと推定できる。
ちなみに、高濃度の水酸化バリウムで水熱合成すればBa/Ti比は1.0に限りなく近づくが、Ba導入時に長繊維構造が断裂し易い弊害がある。従って、本発明では、水酸化バリウムの濃度を低く調整しながら静置合成することで、長繊維構造のチタン酸バリウムを効率良く製造することができる。
【0050】
《実施例及び比較例の試験評価》
水酸化バリウムの濃度は本発明の適正範囲に低く抑制されているが、撹拌状態で水熱反応した比較例1では粒子状と繊維状の混合体になったが、得られたチタン酸バリウムの比表面積は実施例1〜5に比べて極めて小さいことが判った。これにより、繊維構造のチタン酸バリウムを得るには、静置状態で水熱反応することが重要であることが確認できた。尚、比較例1の撹拌速度は100rpmであるが、この撹拌速度を高めると粒子構造の割合が増して、比表面積はさらに低減することが推定できる。
静置状態での水熱反応であるが、水酸化バリウムの濃度が本発明の適正範囲を大きく越える比較例2では、チタン酸バリウムは粒子状になってしまい、繊維構造は得られないため、チタン酸バリウムの比表面積はきわめて小さかった。これにより、繊維構造のチタン酸バリウムの製造には水酸化バリウムの濃度が大きく影響し、所定以下の適正濃度に低く抑制することの重要性が確認できた。
本発明の適正範囲を越えた水酸化バリウムの濃度で、且つ撹拌状態にて水熱反応した比較例3では、当然ながらチタン酸バリウムは粒子状になってしまうため、比表面積も実施例のそれには遠く及ばなかった。
【0051】
これに対して、実施例1〜5では、図3A〜BのSEM画像が示す通り、得られたチタン酸バリウムは長繊維構造を明らかに具備していた。また、この繊維構造は、実施例1〜5の比表面積が比較例2〜3のチタン酸バリウム粒子に比べて大きく増大していることからも裏付けられる。
従って、当該実施例1〜5を前記比較例1〜3に対比すると、長繊維構造のチタン酸バリウムを効率良く製造するには、水酸化バリウムの濃度を所定以下の適正範囲に低く抑え、且つ、静置状態で水熱反応させることが必要である点が明確になった。
尚、本発明における水酸化バリウムの濃度条件及び静置条件を満たしても、長繊維状ではなく粒子状の酸化チタン(即ち、一般的な市販の酸化チタン)を用いた水熱処理では、粒子状のチタン酸バリウムしか得られないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】水熱反応時の温度、水酸化バリウム8水和物の濃度、水熱反応での水酸化バリウムと酸化チタンの仕込みモル比、得られたチタン酸バリウムの比表面積及びBa/Ti比などをまとめた図表である。
【図2】原材料である長繊維状酸化チタンのSEM画像(10万倍)を示す写真である。
【図3】実施例1で得られた長繊維状チタン酸バリウムのSEM画像を示す写真であり、図3Aは倍率10万倍の写真、図3Bは同10万倍の写真である。
【図4】実施例1で得られた長繊維状チタン酸バリウムのEDXピークパターン図である。
【図5】比較例2で得られたチタン酸バリウムのSEM画像(10万倍)を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸金属塩の結晶形状が長繊維状であって、その比表面積が100〜1000m2/gであることを特徴とする長繊維状チタン酸金属塩。
【請求項2】
繊維の直径が1〜100nmであることを特徴とする請求項1に記載の長繊維状チタン酸金属塩。
【請求項3】
チタン酸金属塩がチタン酸バリウム又はチタン酸ストロンチウムのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の長繊維状チタン酸金属塩。
【請求項4】
チタン酸バリウムの結晶組成がBaTiO3であることを特徴とする請求項3に記載の長繊維状チタン酸バリウム。
【請求項5】
チタン塩と水溶性金属塩を水中で反応させてチタン酸金属塩を製造する方法において、 上記チタン塩が長繊維状酸化チタンであり、
上記水溶性金属塩の濃度が0.01〜1モル/Lであり、
静置状態で反応させることにより、請求項1〜4のいずれか1項に記載の長繊維状チタン酸金属塩を製造する方法。
【請求項6】
反応の温度が20〜150℃であることを特徴とする請求項5に記載の長繊維状チタン酸金属塩の製造方法。
【請求項7】
長繊維状酸化チタンが酸化チタンを水中でアルカリ処理したものであり、水溶性金属塩が金属の水酸化物であることを特徴とする請求項5又は6に記載の長繊維状チタン酸金属塩の製造方法。
【請求項8】
チタン酸金属塩がチタン酸バリウム又はチタン酸ストロンチウムのいずれかであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の長繊維状チタン酸金属塩の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−269790(P2009−269790A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121510(P2008−121510)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000197975)石原薬品株式会社 (83)
【Fターム(参考)】