説明

閉塞した生物学的管を開通するためのシステムと方法

【課題】 本発明は、閉塞した生物学的管を治療する方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、閉塞組織の細胞外マトリックスを分解し得る作用物質を管に投与することを含む。具体的な方法には、酵素または複数の酵素から成る混合物を閉塞部またや閉塞領域に送達し、その酵素が閉塞内部の細胞外マトリックス成分を分解する性質を有することによって、管を通過する輸送される体液の正常な流動を回復させることを含む。本発明には管の一区域を予防的に拡張し、閉塞形成のリスクを最小限にすることも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1999年9月24日に申請した米国仮出願番号60/155938の恩典を請求し、本願明細書にその全文を援用する。
【0002】
(政府の権利に関する陳述)
米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
(発明の背景)
1.産業上の利用分野
本発明は、閉塞した生物学的管を開通する方法に関する。本発明の好ましい方法は、閉塞組織の細胞外マトリックスを溶解するために治療薬、特にプロテアーゼの局所送達を利用して、閉塞した生物学的管を開通する方法とシステムを含む。
【背景技術】
【0004】
2.背景技術
生物学的管に対する閉塞は、移植、グラフトまたはその他の外科的手技によって生じ得る管に対する外傷によることが多く、閉塞組織の細胞外マトリックスは主としてコラーゲンを含む。バルーン血管形成術は、狭窄または狭窄症閉塞に対する一般的な初期治療であり、優れた初期成績が得られる(Pauletto, Clinical Science(1994) 87:467~79)。しかし、この拡張法は閉塞組織を除去しない。この方法は、管腔を伸展させて開通し、その外傷が複数の強力なサイトカインおよび増殖因子の放出を来たし、管腔への細胞遊走とさらに多くの細胞外マトリックスの合成といった別の一連の細胞増殖を誘発する損傷を来たすおそれがある。その結果、バルーン血管形成術はほぼ全例の患者で再狭窄が生じる(Pauletto, Clinical Science, (1994) 87:467~79)。現在、長期にわたる開存性を維持できる治療法はない。
【0005】
細胞外マトリックスは組織を相互に保持するが、これは主として動物の細胞外結合組織の主な線維性成分であるコラーゲンから成る(Krane, J. Investigative Dermatology (1982) 79:83s~86s; Shingleton, Biochem. Cell Biol, (1996) 74:759~75)。コラーゲン分子は三本鎖で、三重螺旋体に巻かれた反復アミノ酸の基本単位を有する。この三重螺旋体は、さらに右巻きケーブルに編みこまれている。コラーゲンが成熟するにつれて、鎖とコラーゲンの間の架橋構造が徐々に不溶性を増し、溶解に抵抗性が増強する。正しく形成されると、コラーゲンは鋼より大きい引張力を有する。身体を鍛えると、新たな組織のコラーゲンが、病変部における硬いコラーゲンの沈着によって管の閉塞を来たすような細胞外の構造的な枠組みをもたらすことは驚くに値しない。
【0006】
良性胆管狭窄症は肝からの胆汁流動を妨害し、黄疸および肝機能障害を来たすおそれがある。未治療の場合、胆管閉塞は肝不全および死亡に至る場合がある。胆管狭窄症は胆嚢切除中の管損傷後に生じ得る。胆管狭窄症は肝移植および他の胆管再建術後の胆管吻合でも生じ得る(Vitale, Am. J. Surgery (1996)171:553~7; Lilliemore, Annals of Surgery (1997)225)。
【0007】
歴史的には、良性胆管狭窄症は病変を認める管部分を除去し端々吻合することにより、あるいは胆管空腸吻合ループによって胆管を腸に結合することにより、外科的に治療されてきた(Lilliemore, Annals of Surgery (1997)225)。このように長く困難な手術は出血、感染、胆汁漏出、吻合部の胆管閉塞再発のために、著明な罹病率および死亡率である。術後の回復には数週間から数ヵ月を要する。さらに最近では、経皮的バルーン拡張術などのできるだけ低侵襲性の治療法が活用され、良好な初期胆管開存術が可能である(Vitale, Am. J. Surgery (1996)171:553~7; Lilliemoe, Annals of Surgery (1997)225)。ただし、バルーン拡張術は局所的な損傷を来たし、再狭窄が頻回に生じる治癒反応を誘導する(Pauletto, Clinical Science (1994)87:467~79)。胆道ドレナージ軟性カテーテルを用いた総胆管における長期ステント留置は、手術に代わりもうひとつの低侵襲性の方法である(Vitale, Am. J. Surgery(1996)171:553~7)。しかし、このような留置胆管ドレナージカテーテルは感染または壊死組織片による詰まりが頻繁であり、交換も頻回に行わなければならない。現在、胆管狭窄症の長期治療は依然として困難な臨床的問題である。
【0008】
慢性の末期腎不全患者は生存のために腎機能の代替を要する場合がある。米国では、長期血液透析が米国内の末期慢性腎不全に対する最も一般的な治療法である。1993年、患者130,000名以上が長期血液透析を受けた(Gaylord, J Vascular and Interventional Radiology (1993)4:103~7)。このうち80%以上が統合的な動静脈グラフトを用いて、血液透析を実施した(Windus, Am. J. Kidney Diseases (1993)21:457~71)。このような患者の大半で、グラフトは、通常前腕または上腕において、動脈と静脈の間に外科的に移植した6mmゴアテックスチューブで構成される。その後、この高流量の管は血液透析用の針に取り付け可能である。
【0009】
ほぼすべての血液透析用グラフトが通常2年以内に損なわれ、血液透析を継続するために新たなグラフトを外科的に形成しなければならない。このような患者は再三にわたる血液透析の中断や放射線学的および外科的手続きのための複数回の入院に直面する。外科的グラフトの新たに形成するたびに、使用可能な多くの静脈が費やされるため、最終的には血液透析用アクセスの部位が欠如し、死亡のリスクにさらされる。ある試算によって、グラフト形成、血液透析、合併症治療、静脈カテーテル交換、入院費、離職期間の費用は1990年のみで、ほぼ5億ドルであった(Windus, Am. J. Kidney Diseases (1993)21:457~71)。
【0010】
血液透析用グラフトが不良になるうち最も好発する原因は血栓症であり、グラフト静脈吻合部からすぐ下流の静脈内に狭窄が発現することよるものが多い(Safa, Radiology (1996)199:653~7)。狭窄の組織学的分析によって、固く、血色の悪い、静脈の内膜と内側板の間に介在する比較的均質な病変が認められ、この病変部が血管壁を肥厚させ、管腔を狭小させる(Swedberg, Circulation (1989)80:1726~36)。内膜過形成と呼ばれるこの病変は血管平滑筋細胞から成り、広範な細胞外コラーゲンマトリックスによって囲まれている(Swedberg, Circulation (1989)80:1726~36; Trerotola, J. Vascular and Interventional Radiology (1995)6:387~96)。バルーン血管形成術は血液透析用グラフトの狭窄に対する最も一般的な初期治療であり、優れた開存性の初期成績が得られる(Safa, Radiology (1996)199:653~7)。ただし、狭窄を伸展させて開通する単に物理的なこの方法は、管腔への細胞遊走とさらに多くの細胞外マトリックスの合成といった別の一連の細胞増殖過程を誘発する損傷を来たす。その結果、バルーン血管形成術はほぼ全例の患者で再狭窄が生じる(Safa, Radiology (1996)199:653~7)。現在、長期にわたり統合的な動静脈血液透析用グラフトの開存性を維持できる治療法はない。
【0011】
内膜過形成の研究は、主に病変の細胞成分に焦点が絞られている。細胞増殖および細胞遊走を阻害する放射線および医薬品の使用が研究の活発な領域である(Hirai, ACTA Radiologica (1996) 37:229~33; Reimers, J. Invasive Cardiology (1998)10:323~31; Choi, J. Vascular Surgery (1994)19:125~34)。現在のところ、このような研究成果ははっきりせず、新たな治療法のなかに幅広く臨床的な支持を得ているものはない。このマトリックスは主にコラーゲンから成っており、動物におけるこれまでの試験ではコラーゲン合成の全身的な阻害によって、内膜過形成の発現が減少している(Choi, Archives of Surgery (1995)130:257~261)。
【0012】
正常組織が増殖およびリモデリングする間、現存するコラーゲンマトリックスは除去または変更されなければならない。このコラーゲンリモデリングは、「コラゲナーゼ」と呼ばれる明確な種類のプロテアーゼを分泌する2つの細胞種であるマクロファージおよび線維芽細胞によって行われる(Swedberg, Circulation (1989)80:1726~36; Trerotola, J. Vascular and Interventional Radiology (1995) 6~387~96; Hirai, ACTA Radiologica (1996) 37:229~33)。このようなコラゲナーゼは速やかに不溶性コラーゲン原線維を小さな可溶性のペプチド断片に分解し、血流およびリンパがこれをその場所から奪い取る。
【0013】
米国特許第5,981,568号、第5,409,926号および第6,074,659号も参照のこと。
【0014】
以上のことから、生物学的管を通る流動を遮断する閉塞を緩和するための新たな方法を提供したいと考えた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(本発明の概要)
本願発明者は現在、生物学的管、例えば哺乳類脈管構造における閉塞を緩和するための新たな方法とシステムを発見した。本発明の方法には、好ましくは閉塞組織の細胞外マトリックス、特にコラーゲンおよび/またはエラスチンをイン・ビボ(in vivo)分解可能な治療薬を閉塞部位に投与することを含む。本発明の好ましい方法には、(コラーゲンおよび/またはエラスチンなど)重要な細胞外マトリックス成分を分解し得る酵素または酵素混合物を閉塞部に投与し、その結果、閉塞組織が可溶化しあるいはその他の除去に至る。
【0016】
本発明の方法とシステムは多様な具体的治療法に応用可能である。例えば、本発明の方法には外因性コラゲナーゼ、エラスターゼまたは他の作用物質の使用による胆管狭窄症の治療を含み、それによってコラゲナーゼ、エラスターゼまたは他の作用物質を含む酵素組成物が直接病変壁または他の閉塞部に投与され、あるいは(カテーテル注入などにより)病変壁内部または他の閉塞部内部に投与される。この酵素は細胞外マトリックスのコラーゲンおよび/またはエラスチンを溶解することによって、管腔近傍の管壁から線維組織を可溶化し、管の流動または開通を取り戻す。
【0017】
本発明の方法は、酵素分解条件単独下の治療が管を再開通するには不十分である場合、例えばバルーン拡張術による従来の治療法が尚も選択肢となるように、コラゲナーゼ、エラスターゼまたはその他の作用物質による(例えば、哺乳類の管における)閉塞を前処置することも含む。本発明による酵素分解による前処置は、酵素治療がコラーゲン原線維を部分的に消化するため、バルーン拡張術の予後を改善し得る。したがって、全般的な効果は残った組織の軟化であろう。軟化した組織は低圧でバルーン拡張が行いやすく、拡張中の管に対する物理的外傷が少ない。
【0018】
この治療薬が例えば注射、カテーテル送達などにより、標的部位の最も近傍に送達されることが好ましい。
【0019】
本発明の方法において、多様な治療薬が採用されてよい。本発明の方法とシステムで使用するために適切な治療薬は容易に特定可能であり、例えば、哺乳類において望ましくない血管構造の閉塞、特に哺乳類の心臓における冠動脈閉塞を軽減するかどうかを評価するための候補である作用物質を単に試験することによっても可能である。治療薬は1種類以上のペプチド結合を含むことが好ましく(例えば、ペプチド薬剤)、典型的には少なくとも2,3,4,5,6,7,8,9または10個以上のアミノ酸を含み、1つ以上の天然アミノ酸を含むことが好ましい。治療薬には高分子を含むのが好ましく、例えば、分子量は少なくとも約1,000、2,000、5,000または10,000kDであり、またはさらに少なくとも約20,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000または100,000kDであるのが好ましい。
【0020】
本発明の方法とシステムに使用するための治療薬は、プロテアーゼおよび他の酵素、例えばクロストリジウムコラゲナーゼなどのコラゲナーゼ、コラーゲンを溶解するタンパク質分解酵素、および/または膵エラスターゼなどのエラスターゼ、エラスチンを溶解するタンパク質分解酵素を含むことが特に好ましい。本発明のコラゲナーゼおよびその他の治療薬送達には、標的病変または他の閉塞部に作用物質を直接注入することを含むことが好ましい。治療用酵素または治療用酵素混合物の均質な分布は薬剤送達カテーテルを用いて、標的部位に投与することが好ましい。こうして、この治療薬は管腔近傍の血管壁から閉塞組織を溶解するために必要な重要な細胞外コラーゲン成分を溶解し得る。
【0021】
本発明の治療法は、先行の治療方法論より著明に有利な特長を提供する。例えば、細胞外マトリックスの1つ以上の重要な成分を酵素分解することによって、管腔を閉塞している組織を穏やかに除去する。さらに、コラーゲン分解または他の治療的投与は比較的非外傷性である。しかも、コラゲナーゼも組織から無傷で生細胞を遊離できる。したがって、本発明の治療法は、物理的な閉塞源、ならびに再狭窄を刺激するサイトカインおよび増殖因子源をいずれも除去することが可能である。
【0022】
単剤または個々の治療薬を1種類以上併用して、具体的な治療応用のなかで投与してもよい。この点について具体的な治療プロトコルは、至適治療薬の選択または複数の治療薬を至適「混合」することによって、最大限効果的になり得る。具体的な治療法に対するそのような至適作用物質は、通常の手順、例えばイン・ビボ(in vivo)またはイン・ビトロ(in vitro)検定における治療薬選定およびその組み合わせを試験することによって容易に特定可能である。
【0023】
本発明の別の実施態様では、治療組成物および治療キットが提供される。さらに具体的には、本発明の治療組成物は好ましくは製薬的に許容可能な担体と混合したコラゲナーゼなど、ひとつ以上の酵素作用物質を含有することが好ましい。そのような組成物は注射針または送達用カテーテルなど、適切な送達ツールとともに適切にパッケージ化することが可能である。この送達装置および/または治療液は滅菌された状態でパッケージ化されることが好ましい。送達装置および治療組成物は個別または組み合わせてパッケージ化することが可能であるが、組み合わせる方が典型的である。送達装置は生体内原位置に適合させることが好ましく、標的となる生物学的管閉塞部に直接治療薬を局所送達することが好ましい。
【0024】
本発明による治療の典型的な対象には、哺乳類、特に霊長類、とりわけヒトを含む。本発明により他の対象を治療してもよく、例えば飼育動物、例としてイヌ、ネコ等のペット類、ウマ、およびウシ、ブタ、ヒツジ等の家畜類である。本発明により治療してよい対象は、良性胆道狭窄症などの胆道狭窄、血液透析用グラフトの狭窄、内膜過形成、および/または冠動脈閉塞等に罹患または易罹患性の上記哺乳類を含む。上記のとおり、本発明の方法は、バルーン血管形成術など他の治療法の実施前、血管形成術または他の手技を施行中に本発明の治療組成物を投与するなど別の治療法の実施中、あるいは血管形成術後または他の治療薬投与後に本発明の治療組成物を投与するなど別の治療法の実施後の前処置プロトコルとして投与してよい。
【0025】
本発明の他の実施態様は下記に開示する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】高度狭窄を来たしたイヌの総胆管を示す。
【図2】高度狭窄を来たしたイヌの治療後の総胆管を示す。
【図3】イヌの正常な総胆管の組織像である。
【図4】治療前の高度狭窄を来たしたイヌの総胆管狭窄の組織像である。
【図5】コラゲナーゼによる治療後のイヌの総胆管狭窄の組織像であり、図中の矢印はコラーゲン分解の外境界部を示す。
【図6】イヌの正常な総胆管を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(本発明の詳細な説明)
本発明は、細胞外マトリックス成分を分解させ得る治療薬を導入し、これによって狭窄した生物学的管の再開通を容易にする方法を提供する。特に本発明は、閉塞した生物学的管に、コラーゲンおよび/またはエラスチンを分解する治療薬の導入を提供する。本発明はさらに、生物学的管に、好ましくは管の隔離部分に治療薬を導入することにより生物学的管を拡張する方法を提供する。
【0028】
本発明のひとつの実施態様では、狭窄、病変または他の閉塞の分解が、ひとつ以上の細胞外マトリックス成分を分解可能なひとつ以上の治療薬を導入することによって、管の狭窄部分の再開通を容易にすることによって達成される。細胞外マトリックスの主な構造的成分にはコラーゲンおよびエラスチンを含む。
【0029】
本発明によって使用するための治療薬は、コラーゲンおよびエラスチンのいずれか一方または両者と相互作用し、そのいずれか一方または両者を分解できることが好ましい。
【0030】
上記のとおり、本発明の方法とシステムにおいて多様な組成物が使用されてよい。治療組成物はイン・ビボ(in vivo)でコラーゲンまたはエラスチンを溶解または分解可能な1種類以上の作用物質を含むことが好ましい。適切な治療薬は簡便な試験によって容易に特定可能であり、例えば、候補である治療化合物とコラーゲンまたはエラスチンを溶解または分解可能な対照とをイン・ビトロ(in vitro)で比較し、例えば対照より少なくとも10%以上良好であることによって特定可能である。
【0031】
さらに具体的には、候補となる治療化合物は、次の工程1)および2)を含むイン・ビトロ(in vitro)検定で特定可能である。1)i)候補治療薬およびii)対照(例えば、候補作用物質を加えない賦形薬)を用いて比較可能な哺乳類の組織検体に接触させ、適切には候補作用物質0.1mgを組織検体0.5mlに接触させ、そして2)候補作用物質による組織検体の消化を検出し、対照と比較する。消化は、例えば顕微鏡分析によって適切に評価してよい。組織消化は37℃の水浴で実施するのが適切である。組織検体として新鮮なブタの腱が適切に採用するのが適切である。組織検体を切除し、断裁し、洗浄し、乾燥して水を切り、重量計測し、個々の腱切片を中性pHのHEPES緩衝液3.58mg/mlに浮遊させてよい。このプロトコルに関する詳細な考察については後述の実施例1を参照のこと。工程1)および2)を含むこのようなイン・ビトロ(in vitro)プロトコルは、本願明細書では「標準的なイン・ビトロ(in vitro)組織消化検定」または類似の表現で記載する。
【0032】
本発明による方法を目的とする治療薬は、前記標準的なイン・ビトロ(in vitro)組織消化検定において、対照に比べて少なくとも10%以上強力な消化活性を示すことが好ましく、さらに対照に比べて少なくとも約20%以上強力な消化活性であれば好ましく、前記標準的なイン・ビトロ(in vitro)組織消化検定において、対照に比べて少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%強力な消化活性であることが尚いっそう好ましい。
【0033】
適切な治療薬はその治療薬が組織閉塞の重要な両マトリックス成分を分解できるように、少なくとも1種類、頻繁には複数の酵素を含むことが可能である。特に好ましい治療薬は、コラゲナーゼまたはエラスターゼのいずれか一方、あるいはその両者を含む。例えば、BioSpecifies Technologies Corporation(Lynbrook, NY)によるクロストリジウム・ヒストリチカム培養物から生成されるような、高度に精製され注入可能なコラゲナーゼ調製物を含む治療薬が特に好ましい。この酵素調製物は2つの類似ではあるが異なるコラゲナーゼから成っている。クロストリジウム・コラゲナーゼは螺旋に沿って複数部位で全ての形態のコラーゲンを切断し、速やかに不溶性コラーゲン原線維を小さな可溶性ペプチドに変換する。さらに、エラスチンを分解できる酵素であるエラスターゼ、特に膵エラスターゼを含む治療薬も好ましい。トリプシン阻害物質も本発明の方法における治療薬として適切に採用し得る。
【0034】
本発明のさらに別の実施態様では、この方法はさらに、管閉塞に関わっていない組織に対する損傷を予防する手段を含む。治療薬に組み込まれる酵素は高分子で(>100,000kD)、注入後細胞外区画に徐々に拡散するのが好ましい。さらに、コラゲナーゼは(活性部位のほかに)組織に堅密に結合するあるドメインを含む。その結果、このような酵素は注入後、コラーゲンに富む標的組織内に大量に含まれたままである。しかも、この酵素の活性は阻害物質を循環させることによって血液貯溜部中で速やかに消失する。したがって、注入されたコラゲナーゼは腸管区画から血液貯留部に拡散するが、これは速やかに阻害され、全身性の副作用を予防することになろう。
【0035】
本発明に従って、治療薬の断片を患者に投与することもできる。そのような断片によって望ましい治療効果、つまり生物学的管の閉塞部の分解が得られるのであれば、上記コラゲナーゼおよびエラスターゼの断片を患者に投与することが可能である。本願明細書に記載のとおり、コラゲナーゼ、エラスターゼまたはその他の酵素には、治療的に有効な当該酵素の断片を含む。
【0036】
本発明の特定の好ましい実施態様で患者に投与する治療薬とは、静細胞因子、細胞骨格阻害物質、アミノキナゾリノン、特に6−アミノキナゾリノン、抗体、増殖ホルモンまたはサイトカインなどの血管平滑筋タンパク質以外である。
【0037】
具体的な実施態様では、組織に弾性を持たせる細胞外マトリックス成分であるエラスチンの分解は望ましくない。コラゲナーゼなどエラスチンを分解しない酵素のみを含む治療薬は採用してよい。その結果、管壁の弾性特性は治療後も保持されるように思われる。
【0038】
本発明の好ましい実施態様では、エラスチン、コラーゲンまたはその両者を分解可能な少なくとも1種類の酵素を含む治療薬は、カテーテルを用いて標的となる閉塞部位に送達される。カテーテルは直接閉塞の細胞外マトリックスに治療薬を直接集中させることができることが好ましい。特に、管の閉塞部全体にわたり均等に分布させながら、正確な用量の治療薬を送達できるものが好ましい。本発明の方法で使用するためのカテーテルの特に好ましい一例は、Inter Ventional Technologies Corporation(IVT)(San Diego, CA)が製造するInfiltrator(登録商標)カテーテルであり、これは直接血管壁の限定部分に正確に制御された薬剤量を送達する(図1)(Reimers, J. Invasive Cardiology (1998)10:323~331; Barath, Catheterization and Cardiovascular Diagnosis (1997)41:333~41; Woessner, Biochem. Cell Biol. (1996)74:777~84)。この好ましいカテーテルを用いて、バルーン表面に取り付けた一式の小型注入器ポートを経由して、低圧で治療薬を送達することができる。位置決めバルーンを拡張させると、この注射器ポートが拡張し、15mmの血管部分の表面360°全体の血管壁に挿入される。各注入器ポートはサイズが0.0035インチ未満である。薬物送達は、マイクロリットルの精度と最小限度の速やかな薬剤洗い出しをもって、10秒未満で実施可能である。注入薬剤は血管壁または管に均質に送達される(図2)。3つのルーメン設計によって、ガイドワイヤーの前進、バルーン拡張および薬物送達用に独立したチャネルが提供される。注入器ポートの穿通による外傷はごくわずかであり、長期的な組織学的作用はほとんどない(Woessner, Biochem. Cell Biol. (1996)74:777~84)。さらに、この装置は血管内で操作している間に、注入器ポートが隠れるように設計されている。さらに、このInfiltrator(登録商標)カテーテルは血管形成術の適用に十分な力を備えたバルーン拡張が可能である。本発明の好ましい治療薬は非特異的な方法でほぼ全種類の組織においてコラーゲンおよび/またはエラスチンを潜在的に分解できるため、Infiltrator(登録商標)を用いて観察される作用物質送達の優れた制御は重要なものであり得る。
【0039】
本発明のさらに別の実施態様では、管壁が無傷の状態を維持しながら、管の流動を回復できる治療量が用いられる。方法を最大限効率的にするためには送達する酵素量など、複数のパラメータを定義する必要があり、注入すべき酵素量は単回投与のプロトコルで管の再開通ができるような量である。理想的には反復または複数回の投与は、初回注入に不完全な反応を示した患者にのみ留保される。
【0040】
送達される治療薬液の量に関して、経壁消化および管の破裂につながるおそれがあるため、管壁が完全に浸されないことが好ましい。その代わり、至適量は(外側からの)壁の厚さを対象に決定され、残された壁が無傷のままでありながら、(壁の内部は)適切な流動を取り戻すために除去される必要がある。過度な希釈溶液はコラーゲン溶解に無効であるが、過度に濃縮された溶液は周囲組織内で高い拡散勾配を有し、それによって経壁消化および破裂のリスクが増強する。
【0041】
コラゲナーゼの用量は一般に、質量単位ではなく、活性の「単位」として表現される。コラゲナーゼの個々のロットは、標準化検定を用いた酵素活性で評価され、そしてロットに固有の活性(単位/mgで表現)が決定される。BTCは活性を「ABC単位」で示す検定を用いている。他のコラゲナーゼ調製物の個々の活性は、従来の「マンデル単位」で表現されることが時々ある。1ABC単位はほぼ2マンデル単位に等しい。
【0042】
酵素溶液の用量および濃度は1000から20000ABC単位の間であることが好ましく、2500から10000ABCであれば尚好ましく、緩衝液0.5ml中に5000ABC単位の酵素量であれば最も好ましい。
【0043】
当該治療における他の治療薬の実際に好ましい投与量は、例えば、利用する個々の化合物、配合した具体的な組成物、投与方法、例えば対象の種、性別、体重、全般的な健康状態、年齢など対象の背景によって異なることは十分に理解されよう。当該投与プロトコルに対する至適投与量は、上記の試験および後述の実施例に記載の方法を含む用量決定試験を用いて、当業者が容易に確認することができる。
【0044】
本発明の治療薬は、1種類以上の適切な賦形剤を加えた製薬的組成物として適切に投与される。本発明の治療薬は典型的には、例えば適切な液体の賦形剤中に溶解した治療薬を付加した注入可能な剤型で処方される。好ましい組成物については下記実施例を参照のこと。
【0045】
上記のとおり、本発明の方法とシステムは種々の疾患および障害を(予防的治療を含めて)治療するために採用することができる。特に、本発明の方法とシステムは、総胆管または血管系で検出される種々の病変およびその他の閉塞を緩和または治療するために使用することができる。本発明の方法は、例えば、輸尿管、膵管、気管支、冠状動脈等を含むその他の生物学的管における病変およびその他の閉塞を緩和させるためにも有効である。
【0046】
本発明には、例えば生物学的管を拡張し、それによって管の内径を増加させ、管内の潜在的な閉塞形成を予防する方法など、予防的な治療も含む。管壁の弾性成分の一時的および部分的分解によって、管の弾性が減少し、これによって管の大きさおよび形状の調節が容易になる。本発明によって単回用量の治療薬を隔離した管腔またはそのいくつかの区域に導入することによって、特定の期間内に、隔離した管壁内に治療薬が完全または部分的に拡散される。その領域が尚隔離されている間または隔離手段を抜去した後のいずれかに、引き続き治療量領域に与圧することによって、拡張による管腔内径が増大する。管の弾性構造の再生によって、構造的な完全性を損なうことなく、管腔内径の大きい管が得られる。
【0047】
動静脈血液透析グラフトは、グラフトを経由して採血が可能になり、かつ精製された血液が戻されるように患者の腕に配置することが多い。流出静脈の管腔内径は、グラフト管腔の内径より小さいことが多い。内膜過形成による狭窄の発現によって、不十分な量の血液が流出静脈を通過するように、流出静脈の管腔内径がさらに小さくなり得る。内膜過形成および狭窄形成を予防するために、流出静脈の管腔内径が介在するループグラフトの内径とほぼ同じか、それ以上になるように、グラフト移植部位の下流にある血管壁の弾性成分を一部分解する上記方法を用いて、静脈流出血管を拡張することは、内膜過形成による狭窄形成の可能性を小さくする。静脈拡張は、動脈と静脈の間にグラフトを介在させる前後いずれかに実施することが可能である。
【0048】
本願明細書で言及したすべての文書を参考文献として本願明細書に添付する。本発明は以下の非限定的実施例によってさらに詳述する。
【実施例】
【0049】
実施例1:組織消化の分析
以下の実施例のプロトコルは、本明細書において参照した「標準的なイン・ビトロ(in vitro)組織消化検定」の詳細な記述である。
【0050】
大部分はコラーゲンから成る組織の、それぞれ、コラーゲンとエラスチンに対する活性を持つコラゲナーゼとエラスターゼとの混合物による消化の速度を測定した。残存するトリプシン活性の影響を打ち消すためにトリプシン阻害物質を添加した。手短に言えば、新鮮なブタの腱を、切除し、形を整え、洗い、水分を拭いて乾燥し、重さを量った。個々の腱の断片を、pHが中性の3.58mg/mlHEPES緩衝液中に懸濁させ、種々の濃度の酵素を添加した。ヨードX線写真造影剤を、いろいろな濃度で酵素溶液のいくつかに添加した。組織消化は37℃の水浴で行った。種々の時間点で、酵素溶液から腱断片を取り出し、洗い、水分を拭き取って乾燥し、重量を測った。各時間点は、3個のサンプルの平均値から導出した。組織消化速度に対する酵素濃度の影響を検討した。予想通り、イン・ビトロ(in vitro)の酵素濃度を上げると、組織消化速度が増加した(図3)。緩衝液のみでは、組織に対する影響がなかった。イン・ビトロ(in vitro)の消化速度をイン・ビボ(in vivo)局面に外挿することは困難であると判明した。デュピュイトランの拘縮のために、イン・ビトロ(in vitro)の線維索を横に切開するための有効量は500ABCであった。しかし、イン・ビボ(in vivo)の効果的適用量は、10,000ABC単位であった。
【0051】
組織消化速度に対するヨードX線写真造影剤の効果も検討した(図4)。この検討は、注入の前に造影剤と組織を混合することによって酵素の送達をモニターするために行った。これらの結果は、オムニパーク(Omnipaque)350ヨード造影剤はX線写真撮影で見ることができる濃度(35%)では酵素活性を抑制するが、より低い濃度(1〜5%)では酵素活性を抑制しないことを示している(図4)。同様の結果がHypaque60造影剤で認められた。
【0052】
実施例2:コラゲナーゼ、エラスターゼおよびトリプシン阻害物質を含む治療薬の供与量依存性イン・ビトロ(in vitro)活性を測定すること。
組織消化速度への酵素濃度の影響を検討した(図3)。「1x」組織試料を、コラゲナーゼ 156マンデル単位/ml+エラスターゼ 0.125mg/ml+トリプシン阻害物質 038mg/mgで処理した。「2x」試料を、コラゲナーゼ 312マンデル単位/ml+エラスターゼ 0.25mg/ml+トリプシン阻害物質 0.76mg/mlで処理した。「5x」試料を、コラゲナーゼ 780マンデル単位/ml+エラスターゼ 0.625mg/ml+トリプシン阻害物質 1.9mg/mlで処理した。消化用体積はすべて0.5mlであった。イン・ビトロ(in vitro)の酵素濃度を増すと、組織消化の速度が増加した(図3)。緩衝液のみでは、組織に影響がなかった。イン・ビボ(in vivo)の効果的適用量は10,000ABC単位であると判明した。
【0053】
実施例3:患者に増感剤を含む治療薬を注射する前に酵素の送達をモニターすることを容易にするために、組織消化速度におよぼすヨードX線写真増感剤の影響を測定すること。
「35%のオムニパーク」組織試料は、オムニパーク350造影剤を35%(体積:体積)含む、コラゲナーゼ 156マンデル単位/ml+エラスターゼ 0.125mg/ml+トリプシン阻害物質 0.38で処理した。「5%のオムニパーク」試料は、オムニパーク350を5%(体積:体積)含む、コラゲナーゼ 312マンデル単位/ml+エラスターゼ 0.25mg/ml+トリプシン阻害物質 0.76で処理した。「1%のオムニパーク」試料は、オムニパーク350を1%含む、コラゲナーゼ 312マンデル単位/ml+エラスターゼ 0.25のmg/ml+トリプシン阻害物質 0.76で処理した。消化用体積はすべて0.5mlであった。これらの結果は、オムニパーク350でヨウ素化した増感剤は、X線写真撮影で見ることのできる濃度(35%)で酵素活性を抑制するが、より低い濃度(1〜5%)では抑制しないことを示している(図4)。同様の結果がHypaque60増感剤で認められた。
【0054】
実施例4:イヌの総胆管に狭窄を起こさせること、および経カテーテル腸壁内コラゲナーゼ治療による、生じた狭窄の処置。
イヌに正常な肋骨下開腹術を行い、胆嚢を露出させ、ついで、それを11匹のイヌ(n=11)の前方腹壁に貼り付けた。2週間後に、胆嚢アクセスを通して設置した電気凝固チップをもつカテーテルを使って総胆管(CBD)に1個の局所的熱傷を作った。7匹のイヌに4.8Frの胆管ステントを入れて、胆管の完全閉鎖を防いだ。5週間にわたって、経皮胆道造影法で狭窄の発生をモニターした。ついで、インフィルトレーター(Infiltrator)薬剤送達カテーテルを用いて狭窄したCBDの壁にコラゲナーゼを注ぎ込んだ(n=3)。該インフィルトレーターは、360度の表面の上に管壁を広げかつ管壁に入っているバルーンの上にマウントした3列の微量注入器ニードルを持つ。処置後、プラスチック製内部ステントを2匹の動物に入れた。翌日、CBDの移植片を得た。組織病理学的分析のために、ヘマトキシリン・エオシン染色、トリクローム染色およびエラスチン染色を用いた。
【0055】
胆道造影法によって測定したところ、11匹中7匹のイヌでCBD狭窄を発生させることに成功した(図1)。失敗例は、胆嚢の漏れ(n=2)および熱傷部位の穿孔(n=2)のせいであった。未処置の狭窄の組織学的分析により、コラーゲン束の環状網目をもつ肥厚した壁および関連した内腔の狭まりが確認された(図4)。コラゲナーゼで処置した狭窄は、正常な導管、動脈および静脈をそのままにして、処理部位のコラーゲンの環状溶解を示した(図2および5)。3匹のイヌ全部が、処置後、2匹は胆嚢アクセス部位から、1匹は処置部位から、胆汁の漏れを起こした。全てのイヌにおいて、異なる度合いで、処置後に小腸の粘膜および腹膜の部分に血管の欝血および炎症があった。
【0056】
実施例5:患者の総胆管における狭窄の軽減
大きいイヌを患者として使い、全身麻酔下で、胆嚢フィステル形成管を作り、胆嚢を保持縫合で腹壁に「留めた」。解剖学的構造を確定するために、マーカーカテーテルを用いてHypaque−60で胆管造影を行った。ついで、双極電極先端をもつ軟性カテーテルを以前に記載されているようにして作製した(ベッカー、Radiology(1988年)167巻63〜8頁)。このカテーテルを胆嚢(図5)を通して挿入し、その「熱い」先端(矢印)を遠位の総胆管に置き、カテーテルを引き戻し、該胆管の1.0cmが損傷を受けるまで処置を繰り返した(図6)。電流を供給した直後に、おそらく痙攣または浮腫によって、管の処置されたセグメント(矢印)が中程度の滑らかな狭まりを起こした。ついで、ピッグテール腎フィステル形成用ドレナージカテーテルを新しい胆嚢切開管を通して胆嚢に挿入した。遠心端をIVキャップで閉じ、皮下組織内に埋めた。ついで手術創を2層において閉じた。
【0057】
7日後、熱によって引き起こされた狭窄を評価するために追跡胆管造影を行った。経皮的アクセスに20ゲージのニードルを用い、ついでIVキャップを通してドレナージカテーテル。胆管造影を行い、胆管樹状分岐の中程度の拡張を確認した(図1)。総胆管の中央に高度の狭窄があり、そこには熱傷が作られていた。
【0058】
上記および実施例4に記載した方法を用いて、5匹の大きなイヌに狭窄を起こさせる。さらに、狭窄を作る前と後の両方で、総胆管について、胆管開通性の客観的な計測(ホイッティカー試験)を行う。ホイッティカー試験は、総胆管に配置したカテーテルを通して、正常食塩溶液を注射することによって行う。40mmHgのピーク圧が達成されるまで、流速を上げ、圧測定を行う。
【0059】
熱損傷は、6週間にわたって発達し、繊維状狭窄に至る。ついで、1匹のイヌを屠殺し、肝臓外胆管の樹状管の組織学的アセスメントを行う。損傷に近い胆管、損傷の中央部分(図4)、損傷の端部、および損傷に遠位の管の試料を採取する。1)管の形態、2)細胞の型と数、3)細胞間マトリックスの範囲と外観、および4)上皮化の範囲のアセスメントを行う。熱損傷のさらに6週間後に第二のイヌを屠殺し、類似の分析を遂行する。
【0060】
狭窄を評価するために胆管造影を行い(図1)、残りの3匹のイヌについてもホイッティカー試験を行う。ついで、インフィルトレーターカテーテルを損傷の範囲内に配置し、0.5mlのコラゲナーゼ調製液(10,000単位/ml)を損傷の壁に注射する。処置後第1日に、追跡胆管造影およびホイッティカー試験を遂行する。
【0061】
不完全な反応が見られた場合には、第二の処置を施すことができ、その翌日、第二の追跡胆管造影およびホイッティカー試験を行う。肝機能に対する狭窄およびその後の処置の効果を評価するために肝酵素レベルを引き出す。あるいは、コラゲナーゼからの不完全な反応は、続いての血管形成術またはコラゲナーゼ/血管形成の複合処置を追加することができる。
【0062】
コラゲナーゼによる処置の後、最終的な胆管造影を1週間後に行う(図2)。この時点で、イヌを屠殺し、肝外胆管の樹枝状管を採集する。処置された損傷に近接した胆管、処置された損傷の中央部分(図5)、処置された損傷端および損傷の遠位の管について、組織学的アセスメントを行う。1)管の形態、2)細胞の型と数、3)細胞間マトリックスの範囲と外観、および4)上皮化の範囲のアセスメントを行う。図5は、処置後の総胆管狭窄部の組織学的画像である。矢印は、コラーゲン分解の外側の限界を示す。処置した総胆管狭窄症の組織学的検査は、正常な管、動脈および静脈への損傷は起こらないで、処置部位でのコラーゲンの環状溶解を示す。
【0063】
実施例6:人工の血液透析移植片の内膜過形成による狭窄の軽減。
標準の、テーパーを付けていない直径5mmのポリテトラフルオロエチレン(PFTE)輪状移植片を、以前に記載された方法(トレロトーラ(Trerotola)、J.、Vascular and Interventional Radiology(1995年)6巻387〜96頁)で、25〜35kgのイヌの後ろ脚の大腿動脈と大腿静脈の間に挿入した。狭窄処置中の、カテーテルドラッグデリバリーバルーンの最適位置決めを容易にするために、エンドツーエンド配置を選択した。動脈内の血液流入、動脈-移植片吻合、静脈-移植片吻合および静脈内の排出流を評価するために、手術の1週間後に標準のカットフィルム血管造影を行う。この後、開通性をスクリーニングするために、移植片の所定の理学的検査を行う。手術の20週間後に、移植片の内腔直径およびそれらの静脈の血液排出流を評価するために、標準のカットフィルム血管造影を行った。この時点で、内膜過形成による狭窄が、関連する圧力勾配のともなった静脈内の血液排出流において認められる(トレロトーラ、J.、Vascular and Interventional Radiology(1995年)6巻387〜96頁)。ついで、最初のイヌを用いて、治療用送達カテーテルを移植片の中に配置し、0.5ml中にコラゲナーゼ5000ABC単位の入った液を静脈の血液排出部位で損傷の壁に浸潤させる。カテーテルをフラッシュし、反対側の損傷が同一方法で送られた食塩溶液1mlを受ける。ほとんど全てのコラゲナーゼ活性は、1〜2日後に消失し、3日後には移植片を血管造影法で再検査する。内腔直径の繰り返し計測と損傷部全体の侵襲的圧力計測も行う。イヌを屠殺し、移植片を剥離し、圧を一定にして、組織学的に検査する。遠位の移植片、静脈の吻合、処置した損傷の中央部分、損傷端、および移植片からの通常の静脈内血流(vein downstream)の評価を行う。1)細胞の種類、形態および数、2)細胞間マトリックスの範囲、3)全体的な外膜、中間膜および内膜の厚さ、4)内膜過形成の範囲、5)内皮化の範囲の追加的評価を行う。
【0064】
実施例7:4匹のイヌをコラゲナーゼ処置の管理された試験のために使う。以前に記載されたように、両側の移植片を作り、手術の1週間後に、動脈内の血液流入、動脈-移植片吻合、静脈−移植片吻合および静脈内の排出流にアクセスするために標準カットフィルム血管造影を行う。この後、開通性をスクリーニングするために、移植片の所定の理学的検査を行う。ついで、手術の20週間後に、移植片の内腔直径およびそれらの静脈内の排出流を評価するために、標準的カットフィルム血管造影を行う。内膜過形成による明らかな狭窄は、通常、関連する圧力勾配をともなう静脈の排出流で見られる(トレロトーラ、J.、Vascular and Interventional Radiology(1995年)6巻387〜96頁)。インフィルトレーターカテーテルを損傷の範囲内に配置し、コラゲナーゼの所定量を損傷の壁に浸透させる。コラゲナーゼの代わりに食塩溶液を送達することを除いて、同一方法で対側の対照移植片を処置する。処置の3日後に、移植片を血管造影法および侵襲的圧測定で検査して、コラゲナーゼ処置の急性的影響を決定する。管腔直径および圧勾配の変化を、コラゲナーゼを処置したグループおよび食塩溶液で処置したグループの両者について計算し、コラゲナーゼ処置の10日後に、最終的に移植片を再度試験する。上に記載したように、イヌを屠殺し、移植片を剥離し、圧を一定にして、組織学的に検討する。
【0065】
本発明について、その好ましい具体例を参照して詳述した。しかし、当業者が、この開示を考慮して、特許請求の範囲に記載する本発明の精神と範囲の中で修飾および改良をすることができることは認められるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞組織の細胞外マトリックスを分解し得る作用物質を管に投与することを特徴とする閉塞した生物学的管を治療するための方法。
【請求項2】
作用物質がコラーゲンまたはエラスチンを溶解または分解し得る請求項1の方法。
【請求項3】
作用物質がコラーゲンを溶解または分解し得る請求項1の方法。
【請求項4】
作用物質がエラスチンを溶解または分解し得る請求項1の方法。
【請求項5】
作用物質がコラーゲンおよび/またはエラスチンを分解し得る酵素または酵素混合物を含む請求項1から4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
標準的なイン・ビトロ(in vitro)組織消化検定において、作用物質が対照に比べて少なくとも約10%以上強力な消化活性を示す請求項1から5のいずれか1項の方法。
【請求項7】
標準的なイン・ビトロ(in vitro)組織消化検定において、作用物質が対照に比べて少なくとも約50%以上強力な消化活性を示す請求項1から5のいずれか1項の方法。
【請求項8】
作用物質がコラゲナーゼ、エラスターゼまたはトリプシン阻害物質である請求項1から7のいずれか1項の方法。
【請求項9】
作用物質がカテーテルによって投与される請求項1から8のいずれか1項の方法。
【請求項10】
生物学的管の閉塞が狭窄、狭窄症または病変である請求項1から9のいずれか1項の方法。
【請求項11】
生物学的管が動脈、静脈、輸尿管、気管支、胆管または膵管である請求項1から10のいずれか1項の方法。
【請求項12】
作用物質が閉塞した生物学的管を有する哺乳類または生物学的管が閉塞し易い哺乳類に投与される請求項1から11のいずれか1項の方法。
【請求項13】
エラスチンおよび/またはコラーゲンを分解し得る治療薬を生物学的管に投与することを特徴とする生物学的管を拡張する方法。
【請求項14】
治療薬投与後、生物学的管に与圧することをさらに特徴とする請求項13の方法。
【請求項15】
生物学的管が物理的作用により与圧される請求項14の方法。
【請求項16】
生物学的管がバルーンカテーテルによって与圧される請求項14または15の方法。
【請求項17】
治療薬を投与し、同じ装置によって与圧が行われる請求項14から16のいずれか1項の方法。
【請求項18】
治療薬投与後、投与した治療薬が生物学的管の壁を通って浸透するために十分な時間経過が許される請求項14から17のいずれか1項の方法。
【請求項19】
哺乳類の生物学的管の閉塞組織の細胞外マトリックスを分解し得る作用物質および作用物質のための送達装置から成る製薬キット。
【請求項20】
作用物質がコラーゲンおよび/またはエラスチンを溶解し得る請求項19のキット。
【請求項21】
作用物質がコラーゲンおよび/またはエラスチンを分解し得る酵素または酵素混合物を含む請求項19のキット。
【請求項22】
治療薬がコラゲナーゼ、エラスターゼまたはトリプシン阻害剤である請求項19から21のいずれか1項のキット。
【請求項23】
標準的なイン・ビトロ(in vitro)組織消化検定において、作用物質が対照に比べて少なくとも約10%以上強力な消化活性を示す請求項19から22のいずれか1項のキット。
【請求項24】
装置がシリンジまたはカテーテルである請求項19から23のいずれか1項のキット。
【請求項25】
管閉塞を分解し得る組成物薬剤を哺乳類に投与することを特徴とし、哺乳類の生物学的管の閉塞による疾患または障害に罹患または易罹患性の哺乳類を治療するための方法。
【請求項26】
組成物が管閉塞組織の細胞外マトリックスを分解する請求項25の方法。
【請求項27】
組成物がコラーゲンまたはエラスチンを溶解または分解し得る請求項25または26の方法。
【請求項28】
組成物がコラーゲンおよび/またはエラスチンを分解し得る酵素または酵素混合物を含む請求項25から27のいずれか1項の方法。
【請求項29】
組成物がコラゲナーゼ、エラスターゼおよび/またはトリプシン阻害物質を含む請求項25から28のいずれか1項の方法。
【請求項30】
標準的なイン・ビトロ(in vitro)組織消化検定において、作用物質が対照に比べて少なくとも約10%以上強力な消化活性を示す請求項25から29のいずれか1項の方法。
【請求項31】
治療薬がカテーテルによって投与される請求項25から30のいずれか1項の方法。
【請求項32】
生物学的管の閉塞が狭窄、狭窄症または病変である請求項25から31のいずれか1項の方法。
【請求項33】
生物学的管が動脈、静脈、輸尿管、気管支、胆管または膵管である請求項25から32のいずれか1項の方法。
【請求項34】
哺乳類が良性胆管狭窄症、血液透析用グラフトの狭窄、内膜過形成、冠状動脈閉塞に罹患している請求項25から33のいずれか1項の方法。
【請求項35】
哺乳類がヒトである請求項25から34のいずれか1項の方法。
【請求項36】
哺乳類のコラーゲンまたはエラスチンを溶解または分解し得る組成薬物を哺乳類に投与することを特徴とし、胆管狭窄症、血液透析用グラフトの狭窄、内膜過形成または冠状動脈閉塞に罹患または易罹患性の哺乳類を治療するための方法。
【請求項37】
組成物がコラーゲンおよび/またはエラスチンを分解可能な酵素または酵素混合物を含む請求項36の方法。
【請求項38】
組成物がコラゲナーゼ、エラスターゼまたはトリプシン阻害物質を含む請求項36または37の方法。
【請求項39】
哺乳類がヒトである請求項36から38のいずれか1項の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−131830(P2012−131830A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85454(P2012−85454)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【分割の表示】特願2001−524955(P2001−524955)の分割
【原出願日】平成12年9月24日(2000.9.24)
【出願人】(510208826)プロテオン セラピューティクス,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】