説明

開口バレルめっき装置

【課題】ばら状の被めっき物を均質にめっきすることができ、めっき効率も向上させることができる開口バレルめっき装置を提供することである。
【解決手段】左右のサイドフレーム1に揺動自在に支持した揺動部材7にカップ状のバレル容器5の底側を取り付け、モータ6aの回転駆動力を平歯車14a、14b、14c、14d、傘歯車16a、16bおよび平歯車17a、17bで、バレル容器5を取り付けた容器取り付け部材18に伝達するとともに、モータ6bの出力軸に装着した円板22に取り付けた連結ピン21aと、揺動部材7に取り付けた連結ピン21bをリンク23で連結することにより、バレル容器5を回転させながら揺動させ、ばら状の被めっき物を、バレル容器5の底側での偏り状態が変化するように流動させて、めっき液と満遍なく接触させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上端が開口したカップ状のバレル容器をめっき浴に傾斜させて浸漬し、バレル容器に投入されるばら状の被めっき物をめっきする開口バレルめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バレル容器に投入されるばら状の被めっき物をめっきするバレルめっき装置には、両端が閉口した筒状のバレル容器を横向きにめっき浴に浸漬し、水平な軸心の回りに回転させる閉口バレルめっき装置と、上端が開口したカップ状のバレル容器を傾斜させてめっき浴に浸漬し、傾斜させた軸心の回りに回転させる開口バレルめっき装置とがある(例えば、特許文献1−3参照)。開口バレルめっき装置は、閉口バレルめっき装置のように、バレル容器に蓋を着脱する必要がなく、被めっき物の出し入れが簡単な利点がある。また、細かい被めっき物が蓋と容器本体との間に嵌まり込む恐れもない。
【0003】
なお、これらのバレルめっき装置には、電解めっき用のものと無電解めっき用のものとがあり、電解めっき用のものでは、めっき浴中に陽極が設けられ、バレル容器内に陰極が導かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−195698号公報
【特許文献2】特開2002−339100号公報
【特許文献2】特開2005−76066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1−3に記載された従来の開口バレルめっき装置は、上端が開口したカップ状のバレル容器を一定の傾斜角で傾斜させた状態で軸心の回りに回転させるので、投入されたばら状の被めっき物が、カップ状のバレル容器の底側であまり流動せずに、傾斜した下側に偏った状態となる。このため、ばら状の被めっき物をめっき液と満遍なく接触させることができず、めっきが不均質となりやすく、めっき効率も低下する問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、ばら状の被めっき物を均質にめっきすることができ、めっき効率も向上させることができる開口バレルめっき装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、上端が開口したカップ状のバレル容器を、軸心を傾斜させてめっき浴に浸漬し、傾斜させた軸心の回りに回転駆動して、前記バレル容器に投入されるばら状の被めっき物をめっきする開口バレルめっき装置において、前記軸心の回りに回転駆動されるカップ状のバレル容器を、前記傾斜させた軸心を含む垂直断面内で揺動させる手段を設けた構成を採用した。
【0008】
すなわち、軸心の回りに回転駆動されるカップ状のバレル容器を、傾斜させた軸心を含む垂直断面内で揺動させる手段を設けることにより、ばら状の被めっき物を、カップ状のバレル容器の底側での偏り状態が変化するように流動させて、めっき液と満遍なく接触させるようにし、ばら状の被めっき物を均質にめっきすることができ、めっき効率も向上させることができるようにした。
【0009】
前記カップ状のバレル容器を垂直断面内で揺動させる手段は、前記めっき浴中で、一対の杆部の先端部に揺動部を差し渡した揺動部材を、前記揺動部の差し渡し方向を水平方向に向けて、前記一対の杆部の基端側に設けた揺動支持点で固定部材に揺動自在に支持し、この揺動部材の揺動部に設けた容器取り付け部に、前記カップ状のバレル容器の底側を、その軸心が前記揺動部と直角となるように取り付けて、前記揺動部材を揺動駆動するものとすることができる。
【0010】
前記揺動部材を揺動駆動する手段は、前記めっき浴の外に配置された駆動源で回転駆動されるクランク軸を、前記揺動部材の揺動部と平行に配設し、このクランク軸の偏心部と前記揺動部材の杆部の揺動支持点から偏心した部位とを、これらの平行なクランク軸と揺動部と直交するリンクで連結して、前記揺動部を揺動駆動するものとすることができる。
【0011】
前記クランク軸を回転駆動する駆動源を、前記カップ状のバレル容器を回転駆動する駆動源と別の駆動源とすることにより、カップ状のバレル容器の回転速度と揺動速度を独立に変化させることができる。また、回転と揺動のいずれか一方のみの運動をさせることもできる。
【0012】
前記揺動部材の揺動部に取り付けたカップ状のバレル容器を回転駆動する手段を、前記揺動部材の少なくとも一方の杆部の基端側を前記固定部材に揺動自在に支持する支持軸と、これと近接する前記揺動部の一端側とに、互いに直角に噛み合う傘歯車を取り付け、前記固定部材側に取り付けられた駆動力伝達機構から伝達される回転駆動力を、これらの直角に噛み合う傘歯車を介して、前記揺動部の容器取り付け部に取り付けたバレル容器に伝達するものとすることにより、めっき浴中の揺動部材に回転駆動の駆動源を取り付けることなく、カップ状のバレル容器を回転駆動することができる。
【0013】
前記固定部材側に取り付けられた駆動力伝達機構は、前記めっき浴の外に配設された駆動源の回転駆動力を複数の歯車の噛合いで伝達する歯車伝達機構とすることができる。
【0014】
前記カップ状のバレル容器の底側の前記揺動部の容器取り付け部への取り付け手段を、前記揺動部の容器取り付け部と前記バレル容器の底のいずれか一方に、円柱部の先端側に円柱部の外径以下のねじ山径の雄ねじ部を形成した円柱凸部を設け、他方に、前記円柱部が嵌まり込む丸穴の奥側に丸穴の内径以下のねじ山径で、前記円柱凸部の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を形成した丸穴凹部を設けて、前記円柱凸部を前記丸穴凹部に嵌め込んだのち、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部を螺合させるものとすることにより、カップ状のバレル容器を簡単に着脱することができる。なお、円柱凸部の雄ねじ部と丸穴凹部の雌ねじ部は、バレル容器の回転で締まり勝手となるものにするとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の開口バレルめっき装置は、軸心の回りに回転駆動されるカップ状のバレル容器を、傾斜させた軸心を含む垂直断面内で揺動させる手段を設けたので、ばら状の被めっき物を、カップ状のバレル容器の底側での偏り状態が変化するように流動させて、めっき液と満遍なく接触させるようにし、ばら状の被めっき物を均質にめっきすることができ、めっき効率も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】バレルめっき装置の実施形態を示す一部切欠き正面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図1の揺動部材の正面図
【図4】図1のバレルめっき装置の右方からの側面図
【図5】a、bは、それぞれ図4のバレル容器の揺動運動を説明する側面図
【図6】aは図1のバレル容器を示す一部切欠き正面図、bはaの上面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この開口バレルめっき装置は、図1および図2に示すように、固定部材としての左右のサイドフレーム1が一対の梁部材2でめっき槽3の上端縁に懸架され、めっき浴の外の上部でサイドフレーム1間に差し渡された支持台4に、上端が開口したカップ状のバレル容器5を、回転駆動するモータ6aと揺動駆動するモータ6bが左右に配置され、めっき浴中に垂下されたサイドフレーム1の下部に、一対の杆部7aの先端部に板状の揺動部7bを差し渡した揺動部材7が、揺動部7bの差し渡し方向を水平方向に向けて、一対の杆部7aの基端部で、一対の軸受部材8に揺動自在に支持されている。各モータ6a、6bの出力軸は、揺動部材7の揺動部7bと平行に左右に向けられている。
【0018】
前記左右のサイドフレーム1は、上部と下部をそれぞれ把手部材9と連結部材10で連結され、支持台4上の各モータ6a、6bは、めっき液の飛沫がかからないように、カバー11で覆われている。また、このめっき装置は電解めっき用のものであり、めっき浴中には陽極棒12が吊り下げられ、フレキシブルな陰極導線13がバレル容器5内に上端開口から導入されている。
【0019】
前記モータ6aの左向きの出力軸には平歯車14aが取り付けられ、この平歯車14aと順次噛み合う上下の平歯車14b、14cが軸受部材15a、15bで左側のサイドフレーム1の内面側に取り付けられて、下側の平歯車14cが、揺動部材7の杆部7aを支持する左側の軸受部材8に取り付けられた平歯車14dと噛み合わされている。また、平歯車14dには傘歯車16aが重ねて取り付けられ、揺動部材7の揺動部7bの左側に軸受部材15cで取り付けられた傘歯車16bと直角に噛み合わされている。
【0020】
図3に示すように、前記揺動部7bの左側の傘歯車16bには平歯車17aが重ねて取り付けられ、揺動部7bの中央部には、カップ状のバレル容器5の底側を取り付ける円柱状の容器取り付け部材18が貫通孔19に回転自在に嵌め込まれて、その外周面に、左側の平歯車17aと噛み合う平歯車17bが取り付けられている。容器取り付け部材18は、ナット20で抜け止めされている。
【0021】
したがって、前記モータ6aの回転駆動力は、固定された左側のサイドフレーム1側では、平歯車14a、14b、14c、14dで順次下方へ伝達されて、傘歯車16a、16bで揺動する揺動部材7側へ伝達され、さらに平歯車17a、17bで容器取り付け部材18に伝達されて、容器取り付け部材18に取り付けられたバレル容器5を軸心の回りに回転駆動する。なお、固定されたサイドフレーム1側と揺動部材7側の各回転駆動力伝達機構は、このような歯車伝達機構の他に、ベルト伝達機構等とすることもできる。
【0022】
図1および図4に示すように、前記モータ6bの右向きの出力軸には、クランク軸としての、偏心した位置に連結ピン21aを取り付けた円板22が装着され、この連結ピン21aが、揺動部材7の揺動部7bに取り付けられた連結ピン21bとリンク23で連結されている。また、連結ピン21bは、右側のサイドフレーム1に形成された円弧状に延びるガイド孔24に挿入されて、揺動部材7の揺動運動を案内するようになっている。
【0023】
図5(a)、(b)は、前記モータ6bの駆動による円板22の回転で、揺動部材7が揺動運動する状態を説明する側面図である。この実施形態では、円板22が時計回りに回転し、連結ピン21bは、軸受部材8による揺動支持点を通る中心線mから離れた位置で、揺動部7bの奥側(図面の右側)の幅端部に取り付けられている。図5(a)は、円板22の連結ピン21aが下死点近くにあり、容器取り付け部材18が斜め上向となって、カップ状のバレル容器5が最も起立した状態を示す。図5(b)は、円板22の連結ピン21aが上死点近くにあり、容器取り付け部材18が横向に近くなって、バレル容器5が最も倒伏した状態を示す。したがって、円板22が1回転する間に、バレル容器5は起立状態から最大傾斜状態となって起立状態に戻る揺動運動をする。このとき、連結ピン21bは、軸受部材8による支持点を中心とする円弧軌跡を描き、前記円弧状のガイド孔24で案内される。
【0024】
この実施形態では、連結ピン21bを揺動部材7の中心線mから離れた位置で取り付けたが、連結ピン21bは中心線m上の軸受部材8による支持点から偏心した位置に取り付けることもできる。また、バレル容器5の揺動振幅と揺動傾斜範囲は、連結ピン21aの偏心量、連結ピン21bの偏心量と中心線mからの距離、リンク23の長さ等によって変化させることができる。
【0025】
前記バレル容器5は、図6(a)、(b)に示すように、上端が開口した六角筒状で、底が中心側へ下降傾斜する形状とされ、格子状の桟5aに、被めっき物よりも細かいメッシュ5bが内面側からインサート成形されている。
【0026】
前記バレル容器5の底の中心には、下向きに開口する丸穴25aが形成された取り付け部25が設けられ、丸穴25aの奥側に、その内径とねじ山径が等しい雌ねじ部25bが形成されている。また、図3に示したように、前記容器取り付け部材18は、円柱部18aの先端側に、その外径とねじ山径が等しい雄ねじ部18bが形成されており、バレル容器5の取り付け部25の丸穴25aに、容器取り付け部材18の円柱部18aを嵌め込んだのち、雄ねじ部18bと雌ねじ部25bを螺合させることにより、バレル容器5を簡単に容器取り付け部材18に取り付けることができる。雄ねじ部18bと雌ねじ部25bは、バレル容器5の回転に対して締まり勝手となっている。なお、円柱部18aをバレル容器5側に設け、丸穴25aを容器取り付け部材18側に設けることもできる。
【符号の説明】
【0027】
1 サイドフレーム
2 梁部材
3 めっき槽
4 支持台
5 バレル容器
5a 桟
5b メッシュ
6a、6b モータ
7 揺動部材
7a 杆部
7b 揺動部
8 軸受部材
9 把手部材
10 連結部材
11 カバー
12 陽極棒
13 陰極導線
14a、14b、14c、14d 平歯車
15a、15b、15c 軸受部材
16a、16b 傘歯車
17a、17b 平歯車
18 容器取り付け部材
18a 円柱部
18b 雄ねじ部
19 貫通孔
20 ナット
21a、21b 連結ピン
22 円板
23 リンク
24 ガイド孔
25 取り付け部
25a 丸穴
25b 雌ねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端が開口したカップ状のバレル容器を、軸心を傾斜させてめっき浴に浸漬し、傾斜させた軸心の回りに回転駆動して、前記バレル容器に投入されるばら状の被めっき物をめっきする開口バレルめっき装置において、前記軸心の回りに回転駆動されるカップ状のバレル容器を、前記傾斜させた軸心を含む垂直断面内で揺動させる手段を設けたことを特徴とする開口バレルめっき装置。
【請求項2】
前記カップ状のバレル容器を垂直断面内で揺動させる手段が、前記めっき浴中で、一対の杆部の先端部に揺動部を差し渡した揺動部材を、前記揺動部の差し渡し方向を水平方向に向けて、前記一対の杆部の基端側に設けた揺動支持点で固定部材に揺動自在に支持し、この揺動部材の揺動部に設けた容器取り付け部に、前記カップ状のバレル容器の底側を、その軸心が前記揺動部と直角となるように取り付けて、前記揺動部材を揺動駆動するものである請求項1に記載の開口バレルめっき装置。
【請求項3】
前記揺動部材を揺動駆動する手段が、前記めっき浴の外に配置された駆動源で回転駆動されるクランク軸を、前記揺動部材の揺動部と平行に配設し、このクランク軸の偏心部と前記揺動部材の杆部の揺動支持点から偏心した部位とを、これらの平行なクランク軸と揺動部と直交するリンクで連結して、前記揺動部を揺動駆動するものである請求項2に記載の開口バレルめっき装置。
【請求項4】
前記クランク軸を回転駆動する駆動源を、前記カップ状のバレル容器を回転駆動する駆動源と別の駆動源とした請求項3に記載の開口バレルめっき装置。
【請求項5】
前記揺動部材の揺動部に取り付けたカップ状のバレル容器を回転駆動する手段を、前記揺動部材の少なくとも一方の杆部の基端側を前記固定部材に揺動自在に支持する支持軸と、これと近接する前記揺動部の一端側とに、互いに直角に噛み合う傘歯車を取り付け、前記固定部材側に取り付けられた駆動力伝達機構から伝達される回転駆動力を、これらの直角に噛み合う傘歯車を介して、前記揺動部の容器取り付け部に取り付けたバレル容器に伝達するものとした請求項2乃至4のいずれかに記載の開口バレルめっき装置。
【請求項6】
前記固定部材側に取り付けられた駆動力伝達機構を、前記めっき浴の外に配設された駆動源の回転駆動力を複数の歯車の噛合いで伝達する歯車伝達機構とした請求項5に記載の開口バレルめっき装置。
【請求項7】
前記カップ状のバレル容器の底側の前記揺動部の容器取り付け部への取り付け手段を、前記揺動部の容器取り付け部と前記バレル容器の底のいずれか一方に、円柱部の先端側に円柱部の外径以下のねじ山径の雄ねじ部を形成した円柱凸部を設け、他方に、前記円柱部が嵌まり込む丸穴の奥側に丸穴の内径以下のねじ山径で、前記円柱凸部の雄ねじ部と螺合する雌ねじ部を形成した丸穴凹部を設けて、前記円柱凸部を前記丸穴凹部に嵌め込んだのち、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部を螺合させるものとした請求項2乃至6のいずれかに記載の開口バレルめっき装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−32539(P2011−32539A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180557(P2009−180557)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(500003361)ハセ技研株式会社 (4)