説明

開放式貯湯槽の給水装置

【課題】 給湯の使用量が大きく変化した場合でも安定した温度の給湯を継続して行うことができる開放式貯湯槽の給水装置を提供する。
【解決手段】 貯湯槽1内に水位が変化した場合の給水のための給水管2に給水接続管10を介して、貯湯槽1の底面に沿わせて配した分散管11を接続し、貯湯槽1への給水を、該分散管11に形成した多数の吐出小孔11aによって行う。貯湯槽1内の水を加熱するボイラ17への昇温用返湯管5を、前記分散管11の端部に接続し、貯湯槽1内の水を前記吐出小孔11aから吸い込んでボイラ17へ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高層ビル等に設置されて、特に低層部の各室内等へ給湯するための温水を貯留する貯湯槽であって、自然水頭によって給湯する開放式貯湯槽に給水するための開放式貯湯槽の給水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高層ビルの、特に低層部に給湯する装置として、自然水頭を利用した開放式貯湯槽が用いられる場合がある。この開放式貯湯槽は、槽内の水が一定温度に保たれるように、ボイラと循環経路により配管されており、槽内の水の温度が低下した場合には、前記循環経路を通ってボイラに給水され、ボイラで加熱されて槽内に戻るようになっている。図7は従来の貯湯槽1の水の経路を説明する概略図で、貯湯槽1には給水管2から水が供給される。また、各室には給湯管3を介して一定温度の湯が供給される。各室へ供給した場合に、使用されない湯は図示しないポンプによって給湯戻り管4から貯湯槽1に戻される。貯湯槽1には図示しない温度制御装置が設けられており、貯留されている水が一定温度以下となった場合には、昇温用返湯管5から図示しないボイラへ供給され、該ボイラによって昇温された水は昇温戻り管6を通って貯湯槽1へ戻される。
【0003】
前記給水管2からの給水は貯湯槽1内の水位が低下した場合に供給されるようにしてあり、この制御はフロート2aと該フロート2aに応動して開閉するバルブ2bによって行われる。すなわち、給湯される室での湯の使用量が増加すると貯湯槽1内に水位が下降するからフロート2aも追随して下降し、バルブ2bが開放されて給水される。水位が上昇するとフロート2aも上昇してバルブ2bを閉成し、給水が停止される。この給水管2からの給水は、貯湯槽1内に位置させた給水案内管7によって行われる。
【0004】
他方、均一に昇温された給湯を短時間で生成できる貯湯槽昇温システムとして、側板及び底板を有し、所定の側板には給湯を消費場所に送給するための給湯管が接続された槽本体を備え、該槽本体内には、前記所定の側板に対し対向配置された他の側板側に配置されて給水管からの給水を底板側から槽本体内に供給する給水手段と、該給水手段よりも前記所定の側板側に配置されて返湯管からの返湯を底板側から前記槽本体内に供給する返湯手段と、前記給水手段と返湯手段の間に配置されて給水及び返湯を底板側で下方へ吸込み循環管に送給する吸込み手段と、循環手段により前記循環管を送給されて加熱手段により加熱され送給された被加熱湯を底板側から前記槽本体内に噴出させるよう、前記返湯手段よりも前記所定の側板側に配置された吹出し手段と、該吹出し手段を包囲する部分と前記所定の側板側に向かって開口する水平部とを有するエゼクタ部とを設けたものがあある(特許文献1)。また、、断面形状に拘わらず、給水口から給水される冷水を確実に貯湯槽の底部に導くことができて、温度成層を形成して、給湯口から高温な湯を取り出すことができる貯湯槽として、貯湯槽内に給水するための給水口と、貯湯槽内の湯を外部へ給湯するための給湯口が設けられた貯湯槽において、前記給水口に給水口から給水される水を前記貯湯槽の底部に導く導水管を設けると共に、この導水管と対峙する貯湯槽底部に、この貯湯槽の背面側から前面側に向かう水の流路を設けたものがある(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−184024
【特許文献2】実開平5−79355
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6は、図7に示す貯湯槽1を設置した高層ホテルの各客室に給湯した場合の貯湯槽1の槽内温度と給湯温度の時間に応じた24時間の変化を表した図である。内容量がそれぞれ12.5m3の2基の貯湯槽1が設置されており、同図はそれぞれの貯湯槽1について示しており、○は第1貯湯槽1の槽内温度、●は第2貯湯槽1の槽内温度、△は第1貯湯槽1による各室への給湯温度、▲は第2貯湯槽1による各室への給湯温度である。同図に示すように、夜中の一時期に槽内温度と給湯温度とも低下して、十分な温度の給湯が得られない状況が生じた。この原因としては、多くの客室においてほぼ同時にシャワー等が利用されたことにより貯湯槽1で温水と冷水とが混合して槽内温度が低下し、給湯温度が低下したと考えられる。
【0007】
貯湯槽1には、図7に示すように、給水案内管7の排出口を槽内に位置させて給水が貯湯槽1の底部に供給されるようにし、一方、給湯管3は貯湯槽1の上部に接続されて、貯湯槽1の上層から取水されるようにしてある。すなわち、高温水は貯湯槽1の上層に滞留し、低温水は下層に滞留することから温度成層が生成され、上層の高温水を取水できるようにしたものである。しかし、給湯が集中して利用されると、貯湯槽1内に水位が連続して低下し、したがって連続して冷水が給水管2から供給される。この給水管2から流入する給水により貯湯槽1内に流れが生成され、この流れによって貯湯槽1内が攪拌されて、槽内の温度成層が形成されず、槽内温度がほぼ一定に低下して、該低下した温度が給湯管3から吐出されることによる。
【0008】
そこで、この発明は、貯湯槽内が給水によって攪拌されることを極力防止し、貯湯槽内に確実に温度成層を生成でき、給水によってもこの温度成層を維持することができて、十分に高温の湯を供給できるようにした開放式貯湯槽の給水装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための技術的手段として、この発明に係る開放式貯湯槽の給水装置は、加熱手段との間で循環経路を有し、水位の変動に応じて給水され、自然水頭を利用し上層に滞留する高温水を消費場所に給湯する開放式貯湯槽において、前記給水のための給水管に接続させて、前記貯湯槽の底面に沿って配設した分散管を備え、前記分散管に、貯湯槽の上方以外の方向を吐出方向とした適宜数の吐出小孔を形成してあることを特徴としている。
【0010】
貯湯槽の水位が低下すると給水管を介して給水され、この給水は前記分散管に形成された吐出小孔から貯湯槽に流入する。この吐出小孔からは貯湯槽のほぼ底面方向に向かって流れると共に、この吐出小孔の総開口面積は分散管の断面積に比べて大きいから、それぞれの小孔からの吐出の流速が小さくなって、貯湯槽の底部に滞留する状態となって流れ出ることになる。このため、貯湯槽内が攪拌されることがなく、温度成層が形成される。
【0011】
また、請求項2の発明に係る開放式貯湯槽の給水装置は、前記加熱手段への昇温用返湯管を、前記分散管の一端部に接続してあることを特徴としている。
【0012】
加熱手段への昇温用返湯は、前記吐出小孔から分散管に吸い込まれて行われる。したがって、下層の温度の低い水がボイラに供給されることになって、効率よく加熱することができ、貯湯槽内の温度を容易に一定に保つことができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る開放式貯湯槽の給水装置によれば、貯湯槽内への給水は、小さな流速で貯湯槽の底部に徐々に広がるように行われるから、貯湯槽内が攪拌されることがなく、温度成層を確実に生成することができると共に、該温度成層を破壊することがない。このため、上層の高温水を常時消費場所に安定して供給できる。
【0014】
また、請求項2の発明に係る開放式貯湯槽の給水装置によれば、昇温用返湯は分散管に形成された吐出小孔から吸い込まれて加熱手段に供給されるから、広い範囲から取水されて、低温水を加熱手段に効率よく給送することができる。また、水位が低下して給水管から給水された場合、該給水の一部は昇温用返湯管に吸い込まれて加熱手段に給送される。したがって、最も低温の水が直接に加熱手段に供給されることになって、貯湯槽内の温度への影響が小さくなって、給湯量が増加した場合であっても、貯湯槽内の温度勾配がほぼ一定に保たれ、給湯温度を低下することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図3はこの発明に係る開放式貯湯槽の給水装置における水の経路を説明する概略図で、図7に示した従来の水の経路を説明した概略図に相当しており、同一の部位については同一の符号を付してある。また、図1及び図2は実態の配管を示すもので、図1は正面図、図2は平面図であり、それぞれ貯湯槽1を想像線で示してある。前記給水管2には貯湯槽1の底部まで伸長した給水接続管10が接続されており、この給水接続管10に分散管11が接続されている。分散管11は貯湯槽1の底面に沿って配されており、給水接続管10を沿わせた壁面と対向する壁面を、該分散管11の先端が臨む位置まで伸長させてある。この分散管11の先端には、壁面に沿わせて給水上昇管12が接続されており、この給水上昇管12の先端はこの貯湯槽1の水位Lの定常位置よりも突出させてあり、先端部には止め弁13が取り付けられている。なお、図1及び図2に示すように、前記給水上昇管12の上端からさらに水平管12aを、その先端部が給湯管3の接続部から遠い位置に位置するよう伸長させることが好ましい。
【0016】
前記分散管11の前記給水接続管10との接続側の端部には、昇温用返湯管5に接続される取水管14が接続されている。なお、前記給水上昇管12との接続部側の端部にこの取水管14を接続したものであっても構わない。
【0017】
前記分散管11の下半部には、図1に示すように、貯湯槽1の底面を臨む状態に多数の吐出小孔11aが形成されている。なお、これら吐出小孔11aは上方を臨む位置でなければ、底面以外にも側壁を臨む位置に設けても構わない。さらに、この吐出小孔11aの径と個数は、この吐出小孔11aから吐出される給水の流速が0.1m/s以下となるように設定してある。この実施形態では、分散管11に呼び径150A、長さ約1500mmの水道用耐熱性硬質塩化ビニール製パイプ(HTVP)を用いて、直径約10mmの吐出小孔11aを下半部に340個以上に形成した。
【0018】
図4は、この給水装置を備えた貯湯槽1の配管系統を示す概略図であり、2基の貯湯槽1を備えている。これらの貯湯槽1には、給水管2から水が供給される。貯湯槽1の上部であって定常の水位Lよりも低位の壁体には給湯管3が接続されており、各室等の消費場所への図示しない給湯配管が接続されている。この給湯管3の各室への接続部を通過した下流に給湯用ポンプ15の吸込側が接続されており、該給湯用ポンプ15の吐出側には前記給湯戻り管4が接続されている。前記昇温用返湯管5はボイラ戻しポンプ16の吸込側に接続されており、このボイラ戻しポンプ16の吐出側に、加熱手段としてのボイラ17の入口側が接続されている。ボイラ17の出口側には前記昇温戻り管6が接続されており、この昇温戻り管6は貯湯槽1の上方に接続され、ボイラ17で加熱された高温水は、貯湯槽1の上層の高温域に供給されるようにしてある。なお、符号18は配管の途中に設けられた各種のバルブを示し、配管の補修の場合やドレン抜き、流量の調節等、必要な箇所に設けられている。
【0019】
以上により構成されたこの発明の実施形態に係る開放式貯湯槽の給水装置について、その作用を以下に説明する。
【0020】
貯湯槽1から各室への給湯は、各室の給湯設備に接続されている給湯管3を介して行われる。この給湯管3は貯湯槽1の水面Lよりも僅かに下位に接続されているため、該貯湯槽1内に生成されている温度成層の上層の高温域にある高温水が各室へ供給される。給湯管3から排出されて使用されない高温水は、前記給湯用ポンプ15の作動により給湯戻り管4を介して貯湯槽1に戻される。このとき、この給湯戻り管4は貯湯槽1の底部に接続されており、使用されずに温度が低下した水は貯湯槽1の低温域に戻される。
【0021】
各室で温水が利用されると、貯湯槽1から高温水が供給されて消費されることにより、貯湯槽1内の水位Lが低下する。水位Lの低下に前記フロート2aが追随して下降するから、前記バルブ2bが開放されて貯湯槽1に給水される。この給水は前記給水管2から給水案内管7を通って前記分散管11に達し、該分散管11に形成された吐出小孔11aから行われる。このため、分散管11の長手方向の全域から給水され、しかも小孔からの排出であるため流速が小さく、貯湯槽1の低層に時間をかけて広がってゆく。したがって、温度差によって上層に高温水が下層に低温水がそれぞれ滞留する温度成層が生成されると共に、吐出小孔11aから排出される給水の流速が小さいために貯湯槽1内が攪拌されることがなく、温度成層を崩すことがない。各室での使用量が多くなり、給水量が多くなった場合でも、貯湯槽1内への給水は小孔から行われるため流速が小さく、貯湯槽1内が攪拌されることがなく、温度成層が崩されることない。
【0022】
客室での給湯の使用がない場合には、貯湯槽1内の水位が定常の水位Lにあるため、貯湯槽1への給水は行われず、下層の低温域にある低温水が加熱手段によって加熱される。すなわち、前記ボイラ戻しポンプ16によって前記昇温用返湯管5から吸い込まれた低温水は、ボイラ17を通って加熱された後、前記昇温戻り管6によって貯湯槽1内の上層に供給される。このため、貯湯槽1の内部では、生成されている温度成層が維持される。また、貯湯槽1からは、前記分散管11に形成された吐出小孔11aから吸い込まれる。このため、貯湯槽1の底面近傍にある低温水が広い範囲から吸い込まれて、水温を効率よく平均化することができる。
【0023】
この実施形態に係る開放式貯湯槽の給水装置によって高層ホテルの各客室に給湯した場合の貯湯槽1の槽内温度と給湯温度の時間に応じた24時間の変化の表した図5に示してあり、同図は前記図6に相当するものである。内容量がそれぞれ12.5m3の2基の貯湯槽1が設置されており、図5はそれぞれの貯湯槽1について示しており、○は第1貯湯槽1の槽内温度、●は第2貯湯槽1の槽内温度、△は第1貯湯槽1による各室への給湯温度、▲は第2貯湯槽1による各室への給湯温度である。図5に示すように、一日を通して第1貯湯槽と第2貯湯槽の槽内温度、給湯温度のいずれもほぼ安定した状態を保つことができて、安定した温度で給湯を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明に係る給水装置によれば、開放式貯湯槽であっても安定した温度の給湯を行うことができるから、高層ビル等の低層部に対しては開放式貯湯槽を利用することができ、該開放式貯湯槽が自然水頭により給湯を行うものであることから、省エネルギー化を図ることができる。したがって、上層部に対しては密閉式貯湯槽を、低層部に対しては開放式貯湯槽を、それぞれ使い分けることにより、省エネルギー化に貢献できる。しかも、開放式であるから、密閉式に比べて貯湯槽自体の耐圧強度を要せず、貯湯槽の製造コストを抑制することができ、住居やオフィスビル、ホテル等の高層化に対する需要が大きいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明に係る給水装置を開放式貯湯槽に実装した場合の概略構造を示す正面図であり、貯湯槽を想像線で示してある。
【図2】図1に示す給湯装置の概略構造を示す平面図であり、貯湯槽を想像線で示している。
【図3】この発明に係る開放式貯湯槽の給水装置の貯湯槽回りの配管を説明する図である。
【図4】この発明に係る開放式貯湯槽の給水装置を使用して給湯する場合の系統図である。
【図5】この発明に係る開放式貯湯槽の給水装置によって高層ホテルの低層部へ給湯した場合の一日の貯湯槽の槽内温度と給湯温度の変化を表す図である。
【図6】従来の開放式貯湯槽の給水装置によって高層ホテルの低層部へ給湯した場合の一日の貯湯槽の槽内温度と給湯温度の変化を表す図であり、図5に相当するものである。
【図7】従来の開放式貯湯槽の給水装置の貯湯槽回りの配管を説明する図であり、図3に相当するものである。
【符号の説明】
【0026】
1 貯湯槽
2 給水管
3 給湯管
4 給湯戻り管
5 昇温用返湯管
6 昇温戻り管
10 給水接続管
11 分散管
11a 吐出小孔
12 給水上昇管
15 給湯用ポンプ
16 ボイラ戻しポンプ
17 ボイラ(加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段との間で循環経路を有し、水位の変動に応じて給水され、自然水頭を利用し上層に滞留する高温水を消費場所に給湯する開放式貯湯槽において、
前記給水のための給水管に接続させて、前記貯湯槽の底面に沿って配設した分散管を備え、
前記分散管に、貯湯槽の上方以外の方向を吐出方向とした適宜数の吐出小孔を形成してあることを特徴とする開放式貯湯槽の給水装置。
【請求項2】
前記加熱手段への昇温用返湯管を、前記分散管の一端部に接続してあることを特徴とする請求項1に記載の開放式貯湯槽の給水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−232231(P2007−232231A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50908(P2006−50908)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000227618)日比谷総合設備株式会社 (13)
【出願人】(592040826)住友不動産株式会社 (94)
【Fターム(参考)】