説明

開環メタセシス重合触媒および開環メタセシス重合体の製造方法

【課題】工業的に優位な開環メタセシス重合触媒を提供すること。
【解決手段】(A)下記一般式(1)で表される遷移金属錯体と、(B)アミン類、ピリジン類、ホスフィン類、エーテル類、およびチオエーテル類から選ばれる少なくとも1種以上の化合物と、(C)アルキル金属化合物とを含む開環メタセシス重合触媒;
LM(X1)l(X2)mYn (I)
(式中、LはRQ(Pz1)i(Pz2)3-iで表される3座のアニオン配位子、又は中性配位子(Rは水
素原子、ハロゲン原子、炭化水素基等、Qはホウ素等、Pz1は少なくとも3位がアルキル基
等で置換されたピラゾリル基、Pz2は無置換ピラゾリル基あるいは置換ピラゾリル基、iは1-3の整数)Mは周期表第5族から選ばれる遷移金属原子、X1及びX2は水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基等、Yは電子供与性基を有する中性配位子、l+mはMの価数を満たす数、X1及びX2で示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよく、nは0〜3の整数。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な開環メタセシス重合触媒および該重合触媒を用いて環状オレフィン類を開環重合させる開環メタセシス重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン類を開環メタセシス重合する触媒としては塩化タングステン、酸化塩化タングステン、塩化モリブデン、塩化チタン、または塩化バナジウムなどの周期表第4〜8族の遷移金属化合物と有機アルミニウムや有機スズ等のようなルイス酸等の助触媒(または共触媒)との組み合わせからなる触媒系等が知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、これらの触媒系では触媒活性種の構造が不明確であるため、重合反応の制御が困難である。また、重合物がゲル化を起こすなどの問題が生じる場合がある。
【0003】
一方、近年、これら従来の開環メタセシス重合触媒とは異なり、環状オレフィン類を上述の助触媒を必要とせずに開環メタセシス重合するタングステン、またはモリブデンのアルキリデン錯体が報告されている(非特許文献2参照)。これらの錯体触媒では触媒活性種の構造が明確であるため、重合反応の制御が可能である。しかしながら、これらの錯体触媒は合成が容易でないなどの問題がある。
【0004】
また、近年、従来の開環メタセシス重合触媒とは異なり、環状オレフィン類を上述の助触媒を必要とせずに開環メタセシス重合するバナジウム錯体が報告されている(特許文献1参照)。この錯体触媒は合成が容易で、安価に製造できるが、触媒活性が極めて低いため、工業的な実施には問題がある。
【非特許文献1】Ivin,K.J.Olefin Metathesis; Academic: New York, 1983.
【非特許文献2】Acc.Chem.Res. 158−165頁、23巻、1990年
【特許文献1】特開2002−53647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、開環メタセシス重合を制御でき、その触媒活性が十分に高く、かつ工業的に安価に製造できる重合触媒は未だ見出させていなかった。本願発明の課題は開環メタセシス重合を制御でき、その触媒活性が十分に高く、かつ工業的に安価に製造できる開環メタセシス重合触媒を提供し、さらに該重合触媒を用いた開環メタセシス重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは上記課題を達成するため鋭意検討した結果、特定の構造を有する周期表第5族遷移金属錯体が極めて優れた開環メタセシス重合触媒となることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
[1](A)下記一般式(1)で表される遷移金属錯体と、
(B)アミン類、ピリジン類、ホスフィン類、エーテル類、およびチオエーテル類から選ばれる少なくとも1種以上の化合物と、
(C)アルキル金属化合物と
を含む開環メタセシス重合触媒である。
【0007】
LM(X1)l(X2)mYn (1)
(式中、LはRQ(Pz1)i(Pz2)3-iで表される3座のアニオン配位子、又は中性配位子であり、ここでRは水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、
イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基よりなる群から選ばれる基を示し、Qはホウ素、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、および鉛よりなる群から選
ばれる基を示し、Pz1及びPz2は無置換ピラゾリル基あるいは置換ピラゾリル基を示し、i
は1〜3の整数を示し、Mは周期表第5族から選ばれる遷移金属原子を示し、X1及びX2は水
素原子、ハロゲン原子、酸素原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基またはスズ含有基を示し、Yは電子供与性基を
有する中性配位子を示し、l+mはMの価数を満たす数であり、また、lまたはmが2以上の場
合は、X1及びX2で示される複数の原子または基は互いに同一でも異なっていてもよく、またX1及びX2で示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよく、nは、0〜3の整数
を示す。)。
[2] 前記一般式(1)中のLで表わされる配位子中のPz1が少なくとも3位がアルキル基
、シクロアルキル基、無置換アリール(Aryl)基、置換アリール(Aryl)基、アミノ基、又はオキシ炭化水素基等で置換されたピラゾリル基である請求項1または2に記載の開環メタセシス重合触媒。
[3] 前述したいずれかの開環メタセシス重合触媒を用いて環状オレフィン類を開環重合
させることを特徴とする開環メタセシス重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、開環メタセシス重合を制御でき、その触媒活性が十分に高い開環メタセシス重合触媒を従来の方法に比べて工業的に安価に提供することができ、該重合触媒を用い、工業的に有利な開環メタセシス重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
一般式(1)で表される遷移金属錯体(A)において、式中、Mは周期表第5族の遷移金属原子であり、より具体的にはバナジウム、ニオブ、またはタンタルである。これらの周期表第5族の遷移金属のうちバナジウムまたはタンタルが好ましい。
【0010】
LM(X1)l(X2)mYn (1)
X1及びX2は遷移金属原子Mに結合する原子または基を示し、具体的には水素原子、ハロゲン原子、酸素原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基またはスズ含有基を示す。なおX1またはX2が酸素原子である場合には、MとX1またはX2はとは二重結合で結合する。X1及びX2は同一の基または原子で
はないことが好ましい。
【0011】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
炭化水素基として具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、ドデシル、エイコシルなどのアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチルなどの炭素原子数が3〜30のシクロアルキル基;ビニル、プロペニル、シクロヘキセニルなどのアルケニル基;エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル(プロパルギル)、3−ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルなどのアルキニル基;ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピルなどのアリールアルキル基;フェニル、トリル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ビフェニル、ナフチル、メチルナフチル、アントリル、フェナントリルなどのアリール基などが挙げられる。またこれらの炭化水素基には、ハロゲン化炭化水素、具体的には炭素原子数1〜30の炭化水素基の少なくとも一つの水素がハロゲン置換した基も含まれる。これらのうち、炭素原子数が1〜20のものが好ましい。
【0012】
酸素含有基として具体的には、オキシ基;ペルオキシ基;ヒドロキシ基;ヒドロペルオキシ基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどのアルコシキ基;フェノキシ、メチルフェノキシ、ジメチルフェノキシ、ナフトキシなどのアリーロキシ基;フェニルメトキシ、フェニルエトキシなどのアリールアルコキシ基;アセトキシ基;カルボニル基;アセチルアセトナト基(acac);オキソ基などが挙げられる。
【0013】
イオウ含有基として具体的には、メチルスルフォネート、トリフルオロメタンスルフォネート、フェニルスルフォネート、ベンジルスルフォネート、p-トルエンスルフォネート、トリメチルベンゼンスルフォネート、トリイソブチルベンゼンスルフォネート、p-クロルベンゼンスルフォネート、ペンタフルオロベンゼンスルフォネートなどのスルフォネート基;メチルスルフィネート、フェニルスルフィネート、ベンジルスルフィネート、p-トルエンスルフィネート、トリメチルベンゼンスルフィネート、ペンタフルオロベンゼンスルフィネートなどのスルフィネート基;アルキルチオ基;アリールチオ基;硫酸基;スルフィド基;ポリスルフィド基;チオラート基などが挙げられる。
【0014】
窒素含有基として具体的には、
アミノ基;
メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジシクロヘキシルアミノなどのアルキルアミノ基;
フェニルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ、ジナフチルアミノ、メチルフェニルアミノなどのアリールアミノ基またはアルキルアリールアミノ基;
トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(tmeda)、N,N,N',N'-テトラフェニルプロピレンジアミン(tppda)などのアルキルまたはアリールアミン基;
アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルベンズアミドなどのアミド基;
メチルイミド、エチルイミド、プロピルイミド、ターシャリーブチルイミド、ターシャリーアミルイミド、アセトイミド、ベンズイミド、フェニルイミド、ジメチルフェニルイミド、トリメチルフェニルイミド、ジエチルフェニルイミド、トリエチルフェニルイミド、ジプロピルフェニルイミド、トリプロピルフェニルイミド、ジブチルフェニルイミド、トリブチルフェニルイミドなどのイミド基;
メチルイミノ、エチルイミノ、プロピルイミノ、ブチルイミノ、フェニルイミノ、2,6-ジ-i-プロピルフェニルイミノ、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニルイミノ、などのイミノ基などが挙げられる。
【0015】
ホウ素含有基として具体的には、BR4(Rは水素、アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、ハロゲン原子等を示す)が挙げられる。
アルミニウム含有基として具体的には、AlR4(Rは水素、アルキル基、置換基を有して
もよいアリール基、ハロゲン原子等を示す)が挙げられる。
【0016】
リン含有基として具体的には、トリメチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン基;トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィンなどのトリアリールホスフィン基;メチルホスファイト、エチルホスファイト、フェニルホスファイトなどのホスファイト基(ホスフィド基);ホスホン酸基;ホスフィン酸基などが挙げられる。
【0017】
ハロゲン含有基として具体的には、PF6などのフッ素含有基、ClO4、SbCl6などの塩素含有基、IO4などのヨウ素含有基が挙げられる。なお、ハロゲン含有基には上記ハロゲン化
炭化水素、リン含有基は含まれない。
【0018】
ヘテロ環式化合物残基として具体的には、ピロール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、トリアジンなどの含窒素化合物、フラン、ピランなどの含酸素化合物、チオフェンなどの含イオウ化合物などの残基、およびこれらのヘテロ環式化合物残基に炭素原子数が1〜30、好ましくは1〜20のアルキル基、アルコキシ基などの置換基がさらに置換した基などが挙げられる。なお、ヘテロ環式化合物残基には、上記窒素含有基、酸素含有基、イオウ含有基は含まれない。
【0019】
ケイ素含有基として具体的には、フェニルシリル、ジフェニルシリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリプロピルシリル、トリシクロヘキシルシリル、トリフェニルシリル、メチルジフェニルシリル、トリトリルシリル、トリナフチルシリルなどの炭化水素置換シリル基;トリメチルシリルエーテルなどの炭化水素置換シリルエーテル基;トリメチルシリルメチルなどのケイ素置換アルキル基;トリメチルシリルフェニルなどのケイ素置換アリール基などが挙げられる。
【0020】
ゲルマニウム含有基として具体的には、前記ケイ素含有基のケイ素をゲルマニウムに置換した基が挙げられる。
スズ含有基としては具体的には、前記ケイ素含有基のケイ素をスズに置換した基が挙げられる。
【0021】
これらのうち、X1はイミド基、炭素原子数2〜10の分岐した若しくは直鎖のη2-アルキニル基または炭素原子数2〜10の分岐した若しくは直鎖のη2-イミノ基であることが好ましい。
【0022】
l及びmはMの価数を満たす数であり、遷移金属原子Mの価数とX1及びX2の価数により決定され、これら正負の価数が中和されるような数である。ここで遷移金属原子Mの価数の絶
対値をa、X1の価数の絶対値をb、X2の価数の絶対値をcとするとa-1=b×l+c×mの関係が成り立つ。より具体的には、例えばMがV5+であり、X1がRN2-かつl=1、X2がCl-かつm=2であ
る場合などである。
【0023】
l及びmが2以上の場合は、X1及びX2で示される複数の原子または基は互いに同一でも異
なっていてもよく、またX1及びX2で示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0024】
また、上記一般式(1)中、Yは遷移金属Mに配位する配位子であって、電子供与性基
を有する中性配位子を示す。Yの個数を表すnは、0ないし3の整数を示し、好ましくは1ま
たは2である。電子供与性基とは、金属に供与できる不対電子を有する基であり、Yは電子供与性を有する中性配位子であればどのようなものであってもよい。
【0025】
中性配位子Yとしては具体的には、
例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、デセンなどのアルケン類、例えばアセチレン、プロピン、ブチン、ペンチン、ヘキシンなどのアルキン類;
例えばジエチルエーテル、ジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、フラン、ジメチルフラン、アニソール、ジフェニルエーテル、メチル-t-ブチルエーテルなどの鎖状又は環状の飽和または不飽和エーテル類;
例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、p-ニトロベンズアルデヒド、p-トルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド等の鎖状又は環状の飽和または不飽和アルデヒド類;
例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、アセトフェノン、
ベンゾフェノン、n-ブチロフェノン、ベンジルメチルケトンなどの鎖状又は環状の飽和または不飽和ケトン類;
例えばホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド、n-バレルアミド、ステアリルアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルプロピオンアミド、N,N-ジメチル-n-ブチルアミドなど鎖状又は環状の飽和または不飽和アミド類;
例えば無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸などの鎖状又は環状の飽和または不飽和無水物、例えばスクシンイミド、フタルイミドなどの鎖状又は環状の飽和または不飽和イミド類;
例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ベンジル、酢酸フェニル、ギ酸エチル、プロピオン酸エチル、ステアリン酸エチル、安息香酸エチルなどの鎖状又は環状の飽和または不飽和エステル類;
例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ジメチルアミン、アニリン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン等の鎖状又は環状の飽和または不飽和アミン類、
メチルイミン、エチルイミン、プロピルイミン、ブチルイミン、ペンチルイミン、ヘキシルイミン、フェニルイミンなどのイミン類;
例えばピリジン、α-ピコリン、β-ピコリン、キノリン、イソキノリン、2-メチルピリジン、ピロール、オキサゾール、イミダゾール、ピラゾール、3-メシチルピラゾール、インドール等の含窒素複素環式化合物類;
例えばチオフェン、チアゾール等の含イオウ複素環式化合物類、例えばトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンな
どの保すホスフィン類、例えばアセトニトリル、ベンゾニトリル等の飽和または不飽和ニトリル類;
例えば塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等の無機塩類;
一酸化炭素、二酸化炭素等の無機化合物類;
下記する有機金属化合物(a-1)等が例示される。
【0026】
有機金属化合物(a-1)として具体的には、例えば下記のような周期表第1、2族および第12、13族の有機金属化合物が挙げられる。
(a-1a) 一般式 RamAl(ORb)npq
(式中、RaおよびRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1〜15、好ましくは1〜4の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは0<m≦3、nは0≦n<3、pは0≦p<3、qは0≦q<3の数であり、かつm+n+p+q=3である。)で表される有機アルミニウム化合物。
【0027】
(a-1b) 一般式 M2AlRa4
(式中、M2はLi、NaまたはKを示し、Raは炭素原子数1〜15、好ましくは1〜4の炭化水素基を示す。)で表される1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物。
【0028】
(a-1c) 一般式 Rab3
(式中、RaおよびRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1〜15、好ましくは1〜4の炭化水素基を示し、M3はMg、ZnまたはCdである。)で表され
る2族または12族金属のジアルキル化合物。
【0029】
前記の(a-1a)に属する有機アルミニウム化合物としては、次のような化合物を例示できる。
一般式 RamAl(ORb3-m
(式中、RaおよびRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜15、好
ましくは1〜4の炭化水素基を示し、mは、好ましくは1.5≦m≦3の数である。)で表される有機アルミニウム化合物、
一般式 RamAlX
(式中、Raは炭素原子数1〜15、好ましくは1〜4の炭化水素基を示し、Xはハロゲ
ン原子を示し、mは好ましくは0<m<3である。)で表される有機アルミニウム化合物、
一般式 RamAlH3-m
(式中、Raは炭素原子数1〜15、好ましくは1〜4の炭化水素基を示し、mは好まし
くは2≦m<3である。)で表される有機アルミニウム化合物、
一般式 RamAl(ORbnq
(式中、RaおよびRbは、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が1〜15、好ましくは1〜4の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは0<m≦3、nは0≦n<3、qは0≦q<3の数であり、かつm+n+q=3である。)で表される有機アルミニウム化合物。
【0030】
(a-1a) に属する有機アルミニウム化合物として、より具体的には、トリメチルアルミ
ニウム、トリエチルアルミニウム、トリn-ブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウムなどのトリn-アルキルアルミニウム;
トリ-iso-プロピルアルミニウム、トリ-iso-ブチルアルミニウム、トリ-sec-ブチルア
ルミニウム、トリ-tert-ブチルアルミニウム、トリ-2-メチルブチルアルミニウム、トリ-3-メチルブチルアルミニウム、トリ-2-メチルペンチルアルミニウム、トリ-3-メチルペンチルアルミニウム、トリ-4-メチルペンチルアルミニウム、トリ-2-メチルヘキシルアルミニウム、トリ-3-メチルヘキシルアルミニウム、トリ-2-エチルヘキシルアルミニウムなどのトリ分岐鎖アルキルアルミニウム;
トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウムなどのトリシクロアルキルアルミニウム;
トリフェニルアルミニウム、トリトリルアルミニウムなどのトリアリールアルミニウム;
ジエチルアルミニウムハイドライド、ジ-iso-ブチルアルミニウムハイドライドなどの
ジアルキルアルミニウムハイドライド;
(iso-C49xAly(C510z(式中、x、y、zは正の数であり、z≧2xである。)などで表されるトリ-iso-プレニルアルミニウムなどのトリアルケニルアルミニウ
ム;
iso-ブチルアルミニウムメトキシド、iso-ブチルアルミニウムエトキシド、iso-ブチルアルミニウム-iso-プロポキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド;
ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジブチルアルミニウムブトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド;
エチルアルミニウムセスキエトキシド、ブチルアルミニウムセスキブトキシドなどのアルキルアルミニウムセスキアルコキシド;
a2.5Al(ORb)0.5 などで表される平均組成を有する部分的にアルコキシ化された
アルキルアルミニウム;
ジエチルアルミニウムフェノキシド、ジエチルアルミニウム(2,6-ジ-tert-ブチル-4-
メチルフェノキシド)、エチルアルミニウムビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノ
キシド)、ジ-iso-ブチルアルミニウム(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシド)、iso-ブチルアルミニウムビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシド)などのジア
ルキルアルミニウムアリーロキシド;
ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジ-iso-ブチルアルミニウムクロリドなど
のジアルキルアルミニウムハライド;
エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;
エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム;
ジエチルアルミニウムヒドリド、ジブチルアルミニウムヒドリドなどのジアルキルアルミニウムヒドリド;
エチルアルミニウムジヒドリド、プロピルアルミニウムジヒドリドなどのアルキルアルミニウムジヒドリドなどその他の部分的に水素化されたアルキルアルミニウム;
エチルアルミニウムエトキシクロリド、ブチルアルミニウムブトキシクロリド、エチルアルミニウムエトキシブロミドなどの部分的にアルコキシ化およびハロゲン化されたアルキルアルミニウムなどが挙げられる。
【0031】
また(a-1a)に類似する化合物も使用することができ、例えば窒素原子を介して2以上のアルミニウム化合物が結合した有機アルミニウム化合物も挙げられる。このような化合物として、具体的には、(C25)2AlN(C25)Al(C25)2などが挙げられる。
【0032】
前記(a-1b)に属する化合物としては、LiAl(C25)4、LiAl(C715)4などが
挙げられる。
またその他にも、有機金属化合物(a-1)としては、メチルリチウム、エチルリチウム、
プロピルリチウム、ブチルリチウム、メチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムクロリド、プロピルマグネシウムブロミド、プロピルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムクロリド、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウムなどを使用することもできる。
【0033】
さらにこれらの化合物の一部が例えば例えばアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基、カルボニル基、アミノ基等の置換基で置換された化合物であってもよい。上記式(1)中のY
としては、これらの中性配位子のうち、エーテル類、アルデヒド類、ケトン類、含窒素複素環式化合物類、無機塩類が好ましい。
【0034】
上記一般式(1)中、Lは遷移金属Mに配位する配位子であって、下記一般式(2)で
表される3座のアニオン配位子、又は中性配位子である。
RQ(Pz1)i(Pz2)3-i (2)
上記一般式(2)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残
基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基よりなる群から選ばれる基を示す。ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基としては、前記一般式(1)中のX1及びX2の説明で例示した基を挙げることができる。
【0035】
上記一般式(2)中、Qはホウ素、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、および鉛より
なる群から選ばれる4価の基を示し、ホウ素、炭素、ケイ素が特に好ましい。
上記一般式(2)中、Pz1は、少なくとも3位がアルキル基、シクロアルキル基、無置換アリール(Aryl)基、置換アリール(Aryl)基、アミノ基、又はオキシ炭化水素基等で置換されたピラゾリル基である。
【0036】
アルキル基、シクロアルキル基としては、前記一般式(1)中のX1及びX2の説明で例示した基を挙げることができる。
オキシ炭化水素基としては、前記一般式(1)中のX1及びX2の説明で例示したアルコキシ基、アリーロキシ基、アリールアルコキシ基を挙げることができる。
【0037】
無置換アリール(Aryl)基としては、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基などを例示することができ、置換アリール(Aryl)基としては前記無置換アリール(Aryl)基の核水素の一つまたは複数個が炭素原子数1〜20のアルキル基、アリール基やアラルキル基で置換
されたものが挙げられる。好ましいPz1は、少なくとも3位が置換アリール(Aryl)基で置換されたものであり、3位が2,4,6-Trimethylphenyl基、2,4,6-Triisopropylphenyl基、2,3,4,5,6-Pentamethylphenyl基、4-Tert-Butyl-2,6-Dimethylphenyl基で置換されたものがより好ましく、3位が2,4,6-Trimethylphenyl基で置換されたものが特に好ましい。
【0038】
Pz2は無置換ピラゾリル基あるいは置換ピラゾリル基を示す。置換ピラゾリル基として
は、前記Pz1と同一であってもよく、さらには3位以外の任意の位置に前記置換アリール基の置換基として例示した基が置換されたものであってもよい。
【0039】
上記一般式(2)中、iは1〜3の整数であり、好ましくは2または3である。
本発明においては、上記要件を満たす遷移金属錯体(A)の中では、遷移金属ハロゲン
錯体が好ましく、[Bis(3-mesitylpyrazol-1-yl)(5-mesitylpyrazol-1-yl)]borohydrido]dichloro(η2-3-hexinyl)tantalum、[Tris(3-mesitylpyrazol-1-yl)borohydrido]dichloro(η2-3-hexinyl)tantalum、[Bis(3-mesitylpyrazol-1-yl)(5-mesitylpyrazol-1-yl)]borohydrido]dichloro(tert-butylimido)tantalum、[Bis(3-mesitylpyrazol-1-yl)(5-mesitylpyrazol-1-yl)]borohydrido]dichloro(2,6-di-iso-propyl-phenylimido)tantalum、[Tris(3-mesitylpyrazol-1-yl)borohydrido]dichloro(2,6-di-iso-propyl-phenylimido)tantalum、[Tris(3-mesitylpyrazol-1-yl)borohydrido]dichloro(tert-butylimido)tantalumが
特に好ましく、[Bis(3-mesitylpyrazol-1-yl)(5-mesitylpyrazol-1-yl)]borohydrido]dichloro(tert-butylimido)tantalum、[Bis(3-mesitylpyrazol-1-yl)(5-mesitylpyrazol-1-yl)]borohydrido]dichloro(2,6-di-iso-propyl-phenylimido)tantalumがとりわけ好ましい。
【0040】
また、遷移金属錯体(A)はこれらの中性配位子を介して、ダイマー、トリマーあるい
はオリゴマー等の複合体を形成していてもよく、またあるいはこれらの中性配位子を介して、例えばμ-オキソ化合物等の架橋構造を形成していてもよい。
【0041】
以下に上記一般式(1)で表される遷移金属錯体(A)の具体的構造の例を示す。なお
、本明細書では、t-ブチル基をt-Bu、n-ブチル基をn-Bu、i-プロピル基をi-Pr、メシチル基(2,4,6-トリメチルフェニル基)をMsとそれぞれ略記することがある。
【0042】
【化1】

【0043】
【化2】

【0044】
【化3】

【0045】
【化4】

【0046】
【化5】

【0047】
【化6】

本発明の(B)はアミン類、ピリジン類、ホスフィン類、エーテル類、およびチオエーテル類から選ばれる少なくとも1種以上の化合物である。
【0048】
アミン類としては、具体的には、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等のアルキルアミン類、N,N−ジメチルアニリン、N,N,2,4,6−ペンタメチルアニリン等のアルキルアリールアミン類、トリフェニルアミン等のアリールアミン類、1−メチルピペリジン等の環状アミン類、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,4−ジメチルピペラジン等の多価アミン類等が挙げられる。
【0049】
ピリジン類としては、具体的には、ピリジンをはじめとし、例えば、2,6−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,6−ジ−t−ブチルピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等の置換ピリジン類、ビピリジン等の多価ピリジン類等が挙げられる。
【0050】
ホスフィン類としては、具体的には、例えば、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリ−n−ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等のアルキルまたは脂環式アルキルホスフィン類、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス[4−(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィン等の置換または無置換アリールホスフィン類、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン等の多価ホスフィン類等が挙げられる。
【0051】
エーテル類としては、具体的には、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等の
ジアルキルエーテル類、メチルフェニルエーテル等のアルキルアリールエーテル類、ジフェニルエーテル等のジアリールエーテル類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等の多価エーテル類等が挙げられる。
【0052】
チオエーテル類としては、具体的には、例えば、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジブチルスルフィド等のジアルキルスルフィド類、メチルフェニルスルフィド等のアルキルアリールスルフィド類、ジフェニルスルフィド等のジアリールスルフィド類、テトラヒドロチオフェン、チオフェン等の環状スルフィド類等が挙げられる。
これらのアミン類、ピリジン類、ホスフィン類、エーテル類、またはチオエーテル類のうち、アミン類、ピリジン類、ホスフィン類が好ましく、ホスフィン類がより好ましい。
【0053】
本発明の(C)アルキル金属化合物の金属としては、周期表第1族の金属、具体的にはリチウム、ナトリウム等、または周期表第2族の金属、具体的にはマグネシウム等、または周期表第12族の金属、具体的には亜鉛等、または周期表第13族の金属、具体的にはアルミニウム等、または周期表第14族の金属、具体的にはスズ等が挙げられる。アルキル金属化合物中のアルキル基は直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、アリール基、またはハロゲン原子が置換していてもよい。さらに、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、またはケイ素原子を含む基で置換されていてもよい。これらのアルキル金属化合物は単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
これらのアルキル金属化合物としては、具体的には、例えば、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、イソブチルリチウム、ベンジルリチウム、(トリメチルシリル)メチルリチウム等のアルキルリチウム類、n−ブチルナトリウム、ベンジルナトリウム等のアルキルナトリウム類、メチルマグネシウムクロライド、メチルマグネシウムブロマイド、エチルマグネシウムクロライド、エチルマグネシウムブロマイド、フェニルメチルマグネシウムクロライド、フェニルメチルマグネシウムブロマイド、ネオペンチルマグネシウムクロライド、ネオペンチルマグネシウムブロマイド等のアルキルマグネシウムハライド類、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム等のジアルキルマグネシウム類、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛等のジアルキル亜鉛類、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム類、テトラメチルチン、テトラブチルチン等のテトラアルキルスズ類等が挙げられる。これらのアルキル金属化合物のうち、アルキルリチウム類、アルキルマグネシウムハライド類、トリアルキルアルミニウム類、テトラアルキルスズ類が好ましく、アルキルリチウム類、アルキルマグネシウムハライド類がより好ましい。
【0055】
本発明の(A)一般式(1)で表される遷移金属錯体と、(B)アミン類、ピリジン類、ホスフィン類、エーテル類、およびチオエーテル類から選ばれる少なくとも1種以上の化合物と、(C)アルキル金属化合物とを含む開環メタセシス重合触媒において、(A)と(B)はモル比((A)/(B))で、通常100/1〜1/1000、好ましくは10/1〜1/100、より好ましくは5/1〜1/10で用いられる。(A)/(B)の比が上記範囲内であると良好な触媒活性の実現を達成することができる。
【0056】
また、(A)と(C)はモル比((A)/(C))で、通常2/1〜1/100、好ましくは1/1〜1/50、より好ましくは1/2〜1/10で用いられる。(A)/(C)の比が上記範囲内であると良好な触媒活性の実現を達成することができる。
【0057】
本発明における開環メタセシス重合触媒を用いて開環重合させることのできる環状オレフィン類としては、環状構造を有するオレフィン類であれば特に制限はないが、通常は炭素原子数3〜40の単環式シクロアルケン類、単環式シクロアルカジエン類、多環式シクロアルケン類、多環式シクロアルカジエン類が挙げられる。さらにはこれらの環状オレフ
ィン類が酸素原子、イオウ原子もしくは窒素原子を含む置換基、炭化水素基またはハロゲン原子を有していてもよい。
【0058】
これらの置換基のうち、酸素原子を含む置換基としては、具体的には、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシなどのアルコキシ基、例えばフェノキシ、2,6−ジメチルフェノキシなどの置換または無置換フェノキシ基、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどのアルコキシカルボニル基、オキソ基(−O−基)などを挙げることができる。
【0059】
イオウ原子を含む置換基としては、具体的には、例えばチオメトキシ、チオブトキシなどのチオアルコキシ基、例えばチオフェノキシ、2−メチルチオフェノキシなどの置換または無置換チオフェノキシ基、例えばメトキシチオカルボニルなどのチオアルコキシカルボニル基、スルフィド基(−S−基)などを挙げることができる。
【0060】
窒素原子を含む置換基としては、具体的には、例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノなどの炭素原子数1〜20のアルキルアミノ基、例えばジフェニルアミノなどの置換または無置換アリールアミノ基、例えばアミノカルボニル、N−メチルアミノカルボニルなどのN−置換または無置換アミノカルボニル基、シアノ基などを挙げることができる。
【0061】
また炭化水素基の具体例としては、一般式(1)中のX1及びX2が示す炭素原子数1〜20のアルキル、アリールおよびアリールアルキル基の具体例として例示した基、およびビニル基、ビニリデン基などの不飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0062】
ハロゲン原子の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。これらの置換基は、環状オレフィン類の水素原子の一部を置換していてもよいし、例えば式(4)で表される化合物のように環状オレフィン類の炭化水素基の一部を置換していてもよい。
【0063】
【化7】

置換基を持たない単環式シクロアルケン類の具体例としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどが挙げられる。
【0064】
置換基を持たない単環式シクロアルカジエン類の具体例としては、例えば、シクロブタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0065】
置換基を持たない多環式シクロアルケン類としては、例えば、ノルボルネン、テトラシクロ[6.2.1.1/3,6.0/2.7]ドデカ−4−エンなどが挙げられる。
置換基を持たない多環式シクロアルカジエン類としては、例えば、ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0066】
置換基を持つ単環式シクロアルケン類、単環式シクロアルカジエン類、多環式シクロアルケン類および多環式シクロアルカジエン類の具体例としては、例えば、上記の置換基を持たない単環式シクロアルケン類、単環式シクロアルカジエン類、多環式シクロアルケン類および多環式シクロアルカジエン類の具体例として挙げた化合物の水素原子または炭化水素基の一部が酸素原子、イオウ原子もしくは窒素原子を含む置換基、炭化水素基または
ハロゲン原子に置換された化合物が挙げられ、より具体的には、例えば5−メトキシノルボルネンなどの酸素原子を含む置換基を有する環状オレフィン類、例えば5−チオメトキシノルボルネンなどのイオウ原子を含む置換基を有する環状オレフィン類、例えば5−シアノノルボルネンなどの窒素原子を含む置換基を有する環状オレフィン類、例えば7−メチルノルボルネン、5−ビニルノルボルネンなどの炭化水素基を有する環状オレフィン類、例えば5,5−ジクロロノルボルネンなどのハロゲン原子を有する環状オレフィン類が挙げられる。
【0067】
本発明の環状オレフィン類の開環重合においては、上記で例示した化合物の2種類またはそれ以上の混合物を共重合させることもできる。
さらに、連鎖移動により分子量を調整する目的で、鎖状オレフィン類の存在下に環状オレフィン類を開環重合させることもできる。この場合の鎖状オレフィンの具体例としては、例えば、α−オレフィン、ジエン、ケイ素含有オレフィン、芳香族ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。より具体的には、α−オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が、ジエンとしては、例えばペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等が、ケイ素含有オレフィンとしては、例えばビニルトリメチルシラン、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン等が、芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、ジビニルベンゼン等が、(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート等が挙げられる。
【0068】
本発明の環状オレフィン類の開環重合において、(A)一般式(1)で表される遷移金属錯体に対する環状オレフィン類の使用量は、モル比で10〜100,000であり、好ましくは50〜20,000である。また、この重合は無溶媒でも実施することができるが、溶媒を使用してもよい。使用する場合の溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族環状炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの2種類以上を混合使用してもよい。
【0069】
本発明における環状オレフィン類の開環重合の方法としては特に限定されず、回分式、半回分式または連続流通式のいずれでも構わない。重合反応で溶媒を使用する場合、環状オレフィン類の濃度は0.01から100mol/Lの範囲である。
【0070】
本発明の環状オレフィン類の開環重合においては、異なった種類の配位子が配位している本発明の(A)一般式(1)で表わされる遷移金属錯体を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0071】
さらに、本発明の(A)一般式(1)で表わされる遷移金属錯体と、(B)アミン類、ピリジン類、ホスフィン類、エーテル類、およびチオエーテル類から選ばれる少なくとも1種以上の化合物と、(C)アルキル金属化合物からなる開環メタセシス重合触媒を用いて重合反応を行う際の温度は、0〜150℃の範囲であり、好ましくは20〜100℃の範囲である。また、重合時間は0.1〜50時間の範囲である。重合反応の際の圧力は減圧、常圧または加圧のいずれでも実施できる。さらに、重合反応を停止するためにアルデヒド類、ケトン類、アルコール類、水等を使用してもよい。
【0072】
本発明における開環重合後のポリマーの分離方法としては、重合反応液をアルコール、水等の貧溶媒に加えてポリマーを沈殿させ、ろ過、または遠心分離等によってポリマーを
回収する方法等を挙げることができる。以下の実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
[実施例]
得られたポリマーの平均分子量は以下の条件でGPC測定を行い求めた。
装置:島津製作所製SCL−10AおよびRID−10A(GPC検出器)
ShimPAC GPC−806,804,および802(カラム)
測定条件:得られた開環メタセシス重合体をテトラヒドロフラン中に溶解し、40℃にて流速1.0mL/分の条件で測定した。尚、測定値はポリスチレンスタンダードにて較正した値である。
【0073】
なお、本実施例中では[hydrotris(3,5-dimethylpyrazol-1-yl)]borateをTp*、[hydrobis(3-mesitylpyrazol-1-yl)(5-mesitylpyrazol-1-yl)]borateをTpMs*と略記する。
[合成例1]
<TaCl3(=N-2,6-iPr2-Ph)(dimethoxyethane) (Complex 1)の合成>
【0074】
【化8】

Inorganic Chemistry, 1997 (36), 2647、に記載の方法により合成した。
[合成例2]
<Tp*TaCl(η2-3-hexyne)(benzyl) (Complex 2)の合成>
【0075】
【化9】

アルゴン置換したシュレンク型反応容器にOrganometallics, 2003(22), 464、に記載の方法により得られるTaCl32-3-hexyne)(dimethoxyetane) (0.453 g, 0.99 mmol)を仕込み、トルエン16mlを室温で加えた。そこに、KTp* (0.332 g, 0.99 mmol)を加え、室温
で24時間撹拌した。副生したKClを遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た
赤色固体(Tp*TaCl22-3-hexyne))をテトラヒドロフラン8 mlに溶解させ、ドライアイス−メタノールにより-78℃にまで冷やした。そこに、PhCH2MgClのジエチルエーテル溶液(0.48 M) 4.1mlを撹拌しながら加えたのち、室温まで昇温させ、そのまま24時間撹拌した。溶媒を留去し、得た粗生成物をトルエン15 mlに溶解させ、遠心分離により副生したMgCl2を除去した。溶媒を留去し、粗生成物をヘキサン25 mlに溶解させ、室温で一晩撹拌し
た。撹拌により析出してきた不溶の無機物を遠心分離により除去した。溶媒を留去したのち、生成物を減圧乾燥し、目的生成物Tp*TaCl(η2-3-hexyne)(benzyl)を収率93%(0.639 g)で得た。
【0076】
得られた生成物のNMRデータは以下のとおりであった。
1H NMR (C6D6): δ 0.72 (t; 3H; 3JHH = 7.6 Hz, 3-hexyne Me), 1.59 (t; 3H; 3JHH = 7.6 Hz, 3-hexyne Me), 1.81 (s; 3H; pz Me), 2.01 (s; 3H; pz Me), 2.04 (s; 3H; pz Me), 2.11 (s; 3H; pz Me), 2.17 (s; 3H; pz Me), 2.39 (d; 1H; 2JHH = 13.4 Hz, benzyl H), 2.75 (s; 3H; pz Me), 2.81-2,93 (m; 2H; 3-hexyne CH2), 3.18 (d; 1H; 2JHH =
13.4 Hz, benzyl H), 3.70, 3.85 (both sep; both 1H; 3JHH = 13.4 Hz, 3-hexyne CH2), 5.45 (s; 1H; pz H), 5.59 (s; 1H; pz H), 5.61 (s; 1H; pz H), 6.81-6.86 (m; 3H;
Ph), 7.16 (d; 2H; 3JHH = 7.6 Hz, Ph).
13C[1H] NMR (C6D6): δ 12.4, 12.6, 12.8, 13.6, 14.3, 15.6, 15.7, 16.7, 34.4, 35.5, 85.8, 107.4, 107.8, 108.8, 122.3, 127.3, 128.5, 128.7, 143.4, 143.9, 144.3, 151.7, 152.4, 153.2, 247.0, 270.4.
[合成例3]
<TpMs*TaCl22-3-hexyne) (Complex 3)の合成>
【0077】
【化10】

アルゴン置換したシュレンク型反応容器にOrganometallics, 2003(22), 464、に記載の方法により得られるTaCl32-3-hexyne)(dimethoxyetane) (0.282 g, 0.61 mmol)を仕込み、トルエン15 mlを室温で加えた。そこに、TlTpMs* (0.473 g, 0.61 mmol)を加え、60℃で15時間撹拌した。副生したTlClを遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。
得た粗生成物をトルエン15 mlに溶解させ、室温で一晩撹拌した。撹拌により析出してき
た不溶の無機物を遠心分離により除去した。溶液を約10 mlになるまで濃縮し、ヘキサン10 mlを加えたのち、-30℃で放置したところ、赤色の粉末が析出した。シリンジで上澄み
液を抜き取り、ヘキサンで洗浄後、減圧乾燥することにより、目的生成物TpMs*TaCl22-3-hexyne)を赤色粉末として収率60%(0.332 g)で得た。
【0078】
得られた生成物のスペクトルデータは以下のとおりであった。
IR (nujol/CsI): 2522 (ν B-H), 1613 (ν C≡C), 303(νTa-Cl).
1H NMR (C6D6): δ 0.95 (t; 3H; 3JHH = 7.6 Hz, 3-hexyne Me), 1.82 (s; 3H; mesityl
Me), 1.93 (s; 3H; mesityl Me), 1.94 (s; 3H; mesityl Me), 2.07 (s; 3H; mesityl Me), 2.09 (s; 3H; mesityl Me), 2.15 (s; 3H; mesityl Me), 2.27 (s; 3H; mesityl Me), 2.28 (s; 3H; mesityl Me), 2.60 (s; 3H; mesityl Me), 3.13-3.17 (m; 2H; 3-hexyne
CH2), 3.50-3.59 (m; 2H; 3-hexyne CH2), 5.58 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 5.91 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 5.96 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 6.70 (s; 1H; mesityl H), 6,82 (s; 1H; mesityl H), 6.83 (s; 1H; mesityl H), 6.94 (s; 1H; mesityl
H), 6.95 (s; 1H; mesityl H), 6.97 (s; 1H; mesityl H), 7.21 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 7.35 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 7.98 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H).
13C[1H] NMR (C6D6): δ 13.7 (3-hexyne Me), 19.9, 20.3, 21.1, 21.18, 21.23, 21.4,
21.8, 21.9, 22.5 (mesityl Me), 33.3 (3-hexyne CH2), 108.0, 108.2, 108.7, 125.6,
127.3, 127.8, 128.4, 128.5, 128.6, 129.3, 129.5, 131.1, 135.8, 136.2, 136.9, 137.4, 137.7, 138.2, 138.3, 138.4, 138.8, 138.9, 139.7, 146.3, 146.5, 157.7, 157.8.
[合成例4]
<TpMs*TaCl2(=N-2,6-iPr2-Ph) (Complex 4)の合成>
【0079】
【化11】

アルゴン置換したシュレンク型反応容器にInorganic Chemistry, 1997 (36), 2647、に記載の方法により得られるTaCl3(=N-2,6-iPr2-C6H4)(dimethoxyetane) (0.169 g, 0.31 mmol)を仕込み、トルエン7 mlを室温で加えた。そこに、TlTpMs* (0.236 g, 0.31 mmol)を加え、60℃で15時間撹拌した。副生したTlClを遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た粗生成物をトルエン15 mlに溶解させ、室温で一晩撹拌した。撹拌により析
出してきた不溶の無機物を遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た粗生成物をヘキサン(5 ml × 3)で洗浄し、減圧乾燥することで、目的の錯体を赤茶色の粉末と
して収率27%(81.9 mg)で得た。得た生成物のスペクトルデータは以下のとおりであった。
1H NMR (C6D6): δ 0.91 (d; 3H; 3JHH = 6.8 Hz, iPr Me), 1.06 (d; 3H; 3JHH = 6.8 Hz, iPr Me), 1.10 (d; 3H; 3JHH = 6.8 Hz, iPr Me), 1.40 (d; 3H; 3JHH = 6.8 Hz, iPr
Me), 1.56 (s; 3H; mesityl Me), 1.87 (s; 3H; mesityl Me), 1.91 (s; 3H; mesityl Me), 2.04 (s; 3H; mesityl Me), 2.08 (s; 3H; mesityl Me), 2.17 (s; 3H; mesityl Me), 2.26 (s; 3H; mesityl Me), 2.27 (s; 3H; mesityl Me), 2.42 (s; 3H; mesityl Me), 3.55 (sep; 1H; 3JHH = 6.8 Hz, iPr CH), 4.07 (sep; 1H; 3JHH = 6.8 Hz, iPr CH), 5.68 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 5.77 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 5.84 (d; 1H;
3JHH = 2.2 Hz, pz H), 6.44 (s; 1H; Ar), 6.61-6.68 (m; 2H; Ar), 6.80-6.84 (m; 4H; Ar), 6.90-6.96 (m; 2H; Ar), 7.25 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 7.26 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 8.46 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H).
[合成例5]
<(5-MsPz)BpMs*TaCl2(=N-2,6-iPr2-Ph) (Complex 5)の合成>
【0080】
【化12】

アルゴン置換したシュレンク型反応容器にInorganic Chemistry, 1997 (36), 2647、に記載の方法により得られるTaCl3(=N-2,6-iPr2-C6H4)(dimethoxyetane) (0.179 g, 0.32 mmol)を仕込み、トルエン10 mlを室温で加えた。そこに、TlTpMs (0.250 g, 0.32 mmol)を加え、60℃で15時間撹拌した。副生したTlClを遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た粗生成物をトルエン10 mlに溶解させ、室温で一晩撹拌した。撹拌により析
出してきた不溶の無機物を遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た粗生成物にヘキサン10 ml を加えたところ、赤い粉(錯体A)が溶け残った。シリンジで可能な限
りヘキサン溶液のみを抜き取り、遠心分離を行った。溶媒を留去したのち、粗生成物をヘキサン5 mlに溶解させ、そのまま一晩撹拌した。析出してきた赤い粉(錯体A)を遠心分
離で除去したのち、溶媒を留去した。粗生成物を石油エーテル(1 ml × 3)で洗浄した
のち、減圧乾燥することで、目的の錯体Bをオレンジ色の粉末として収率23%(74.6 mg)
で得た。得た生成物のスペクトルデータは以下のとおりであった。
1H NMR (C6D6): δ 1.22 (d; 12H; 3JHH = 6.8 Hz, iPr Me), 1.66 (s; 6H; mesityl Me), 1.97 (s; 6H; mesityl Me), 2.05 (s; 9H; mesityl Me), 2.37 (s; 6H; mesityl Me), 4.20 (sep; 2H; 3JHH = 6.8 Hz, iPr CH), 5.66 (d; 2H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 5.86 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 6.60 (s; 2H; Ar), 6.71 (s; 2H; Ar), 6.75 (s; 1H; Ar), 6.93 (s; 2H; mesityl Me), 7.25 (s; 1H; Ar), 7.27 (s; 1H; Ar), 7.30 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 8.06 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H).
[合成例6]
<TpMs*TaCl2(=N-tBu) (Complex 6)の合成>
【0081】
【化13】

アルゴン置換したシュレンク型反応容器にInorganic Chemistry, 1997 (36), 2647、に記載の方法により得られるTaCl3(=N-tBu)(dimethoxyetane) (0.111 g, 0.25 mmol)を仕込み、トルエン7 mlを室温で加えた。そこに、TlTpMs (0.191 g, 0.25 mmol)を加え、60
℃で15時間撹拌した。副生したTlClを遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た粗生成物をトルエン10 mlに溶解させ、室温で一晩撹拌した。撹拌により析出してきた
不溶の無機物を遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た粗生成物を石油エーテル(5 ml × 3)で洗浄したのち、トルエン6 mlに溶解させた。遠心分離で不溶物を除
去したのち、溶液が約3 mlになるまで濃縮した。ヘキサン10 mlを加えたのち、-30℃で放置したところ、白色の粉末が析出した。シリンジで上澄み液を抜き取り、石油エーテルで洗浄後、減圧乾燥することにより、目的生成物Cを白色粉末として収率32%(71.2 mg)で得
た。
【0082】
得た生成物のスペクトルデータは以下のとおりであった。
1H NMR (C6D6): δ 0.83 (s; 9H; tBu), 2.03 (s; 3H; mesityl Me), 2.08 (s; 6H; mesityl Me), 2.18 (s; 6H; mesityl Me), 2.25 (s; 6H; mesityl Me), 2.41 (s; 6H; mesityl Me), 5.71 (d; 2H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 6.01 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 6.83 (s; 2H; mesityl H), 6.86 (s; 2H; mesityl H), 6.89 (s; 2H; mesityl H), 7.39 (d;
2H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H), 7.56 (d; 1H; 3JHH = 2.2 Hz, pz H).
[合成例7]
<TpMs*VCl2(=N-Ph) (Complex 7)の合成>
【0083】
【化14】

アルゴン置換したシュレンク型反応容器にInorganic Chemistry, 1997 (36), 2647、に記載の方法により得られるVCl3(=N-tPh) (99.4 mg, 0.40 mmol)を仕込み、ジクロロメタ
ン10 mlを室温で加えた。そこに、TlTpMs (0.309 g, 0.40 mmol)を加え、室温で2時間
撹拌した。副生したTlClを遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た粗生成物をトルエン10 mlに溶解させ、室温で一晩撹拌した。撹拌により析出してきた不溶の無機
物を遠心分離により除去したのち、溶媒を留去した。得た粗生成物をトルエン6 mlに溶解させた。遠心分離で不溶物を除去したのち、-30℃で放置したところ、茶色の粉末が析出
した。シリンジで上澄み液を抜き取り、石油エーテルで洗浄後、減圧乾燥することにより、目的生成物を茶色粉末として収率50%(156.1 mg)で得た。
1H NMR (CD2Cl2): δ 1.73 (s; 6H; mesityl Me), 2.00 (s; 6H; mesityl Me), 2.03 (s;
6H; mesityl Me), 2.14 (s; 3H; mesityl Me), 2.33 (s; 6H; mesityl Me), 5.86-5.89 (m; 2H; Ph), 6.01 (d; 1H; 3JHH = 2.4 Hz, pz H), 6.12 (d; 2H; 3JHH = 2.4 Hz, pz H), 6.57 (s; 2H; mesityl H), 6.62 (s; 2H; mesityl H), 6.85-6.93 (m; 3H; Ph), 7.04
(s; 2H; mesityl H), 7.83 (d; 1H; 3JHH = 2.0 Hz, pz H), 7.97 (d; 2H; 3JHH = 2.4 Hz, pz H).
[実施例1]
<TpMs*TaCl2(=N-2,6-iPr2-Ph) (Complex 4)を用いたノルボルネンの重合>
グローブボックス中で、5ml容量のサンプル瓶にTpMs*TaCl2(=N-2,6-iPr2-Ph) (Complex 4)を14.9mg(15μmol)量り取り、1.5mlのトルエンに溶解し、さらに3.07M MeMgBr/Et2O溶液を10μl(30.7μmol、2.05当量)、および100mM PMe3/トルエン溶液を0.165ml(16.5μmol、1.1当量)を順次加えて重合触媒溶液(a)を調製した(計1.675ml)。一方、50mlの耐圧ガラス容器にノルボルネンを400mg(4.25mol)量り取り、トルエン9.5mlに溶解させた後、上述の重合触媒溶液0.47ml(タンタル錯体として4.21μmol)を加え、20℃で1時間反応を行った。反応後少量のベンズアルデヒドを加え、30分間攪拌した後、重合溶液を攪拌下で100mlのメタノールに加えてポリマーを沈殿させた。濾過、乾燥し、27mg(生成したポリマー質量/仕込モノマー質量;収率6.8wt%)の白色固体を得た。得られた重合体のGPC分析を行ったところ、クロマトグラムは単峰性であり、その数平均分子量(Mn)は2,858,800、重量平均分子量(Mw)は4,026,100で、分子量分布(Mw/Mn)は1.41であった。また、重合活性の指標であるターンオーバーナンバー(以下、「TON」と略記する。TON=(消費されたノルボルネン(mmol))/(仕込んだタンタル錯体(mmol))で計算した。)は19であった。
【0084】
[実施例2]
<TpMs*TaCl2(=N-2,6-iPr2-Ph) (Complex 4)を用いたノルボルネンの重合>
実施例1において、反応温度を80℃に変えた以外は実施例1と同様に重合および後処理を行い、358mg(収率89.5wt%)の開環メタセシス重合体を得た。1H−N
MRおよび13C−NMR測定の結果、この白色固体はcis/trans比が54/46
であるノルボルネンの開環メタセシス重合体であった。得られた重合体のGPC分析を行ったところ、クロマトグラムは単峰性であり、その数平均分子量(Mn)は2,117,200、重量平均分子量(Mw)は3,286,500で、分子量分布(Mw/Mn)は1.55であった。重合活性の指標であるTONは254であった。
【0085】
[実施例3]
<TpMs*VCl2(=N-Ph) (Complex 7)を用いたノルボルネンの重合>
実施例1において、TpMs*TaCl2(=N-2,6-iPr2-Ph)(Complex 4)のかわりにTpMs*VCl2(=N-Ph) (Complex 7)を11.7mg(15μmol)用いた以外は実施例1と同様に重合および後処理を行い、41mg(収率10.3wt%)の開環メタセシス重合体を得た。得られたポリマーのGPC分析を行ったところ、クロマトグラムは単峰性であり、その数平均分子量(Mn)は440,200、重量平均分子量(Mw)は1,152,200で、
分子量分布(Mw/Mn)は2.62であった。重合活性の指標であるTONは29.2であった。
【0086】
[実施例4]
<TpMs*VCl2(=N-Ph) (Complex 7)を用いたノルボルネンの重合>
実施例3において、反応温度を80℃に変えた以外は実施例3と同様に重合および後処理を行い、389mg(収率97.3wt%)の開環メタセシス重合体を得た。得られた重合体のGPC分析を行ったところ、クロマトグラムは単峰性であり、その数平均分子量(Mn)は1,446,400、重量平均分子量(Mw)は2,655,500で、分子量分布(Mw/Mn)は1.84であった。重合活性の指標であるTONは276であった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
光学樹脂等に有用である開環メタセシス重合体樹脂の製造に好適な重合触媒として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表される遷移金属錯体と、
(B)アミン類、ピリジン類、ホスフィン類、エーテル類、およびチオエーテル類から選ばれる少なくとも1種以上の化合物と、
(C)アルキル金属化合物とを含む開環メタセシス重合触媒;
LM(X1)l(X2)mYn (1)
(式中、LはRQ(Pz1)i(Pz2)3-iで表される3座のアニオン配位子、又は中性配位子であり、ここでRは水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、ヘテロ環式化合物残基、酸素含有基、
イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、およびスズ含有基よりなる群から選ばれる基を示し、Qはホウ素、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、および鉛よりなる群から選
ばれる基を示し、Pz1及びPz2は無置換ピラゾリル基あるいは置換ピラゾリル基を示し、i
は1〜3の整数を示し、Mは周期表第5族から選ばれる遷移金属原子を示し、X1及びX2は水
素原子、ハロゲン原子、酸素原子、炭化水素基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基、ホウ素含有基、アルミニウム含有基、リン含有基、ハロゲン含有基、ヘテロ環式化合物残基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基またはスズ含有基を示し、Yは電子供与性基を
有する中性配位子を示し、l+mはMの価数を満たす数であり、また、lまたはmが2以上の場
合は、X1及びX2で示される複数の原子または基は互いに同一でも異なっていてもよく、またX1及びX2で示される複数の基は互いに結合して環を形成してもよく、nは、0〜3の整数
を示す。)。
【請求項2】
前記一般式(1)中のLで表わされる配位子中のPz1が少なくとも3位がアルキル基、シクロアルキル基、無置換アリール(Aryl)基、置換アリール(Aryl)基、アミノ基、又はオキシ炭化水素基等で置換されたピラゾリル基であることを特徴とする請求項1に記載の開環メタセシス重合触媒。
【請求項3】
請求項1または2に記載の開環メタセシス重合触媒を用いて環状オレフィン類を開環重合させることを特徴とする開環メタセシス重合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−285546(P2008−285546A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130313(P2007−130313)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】