説明

開発プロセス管理システムおよび方法

【課題】大規模な開発プロジェクトにおける作業プロセスは、大量の出図、複数部門の関与、前提情報の変更による手戻り作業発生などで非常に複雑となり、開発プロセスを適切に管理するのは容易ではない。
【解決手段】各作業の入力情報と出力情報を記入する入出力表を作業報告に用い、それらを一元的に収集することで、プロジェクト全体の作業間のDSMを作成する。これにより、日々の変化に追従した全体DSMが得られる。これをパーティショニングした最適DSMにより、手戻り構造(参照の環)が明確になり、作業手順や意思決定タイミングを適切に計画でき、進捗管理上の重点作業が把握でき、作業者間のすり合わせが円滑になる。さらに、入出力表をPDMシステムに転送することで、作業者には最新版の入力情報を自動配信できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品開発プロジェクトにおける多数の作業間の依存関係と進捗状況を、日々の作業報告をもとに分析する開発プロセス管理システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や造船など大規模な開発プロジェクトにおける作業プロセスは、大量の出図、複数部門の関与、前提情報の変更による手戻り作業発生などで非常に複雑となり、プロジェクト管理者にとって、作業手順や意思決定タイミングを適切に計画・管理し、手戻り作業による進捗遅れのリスクなどをタイムリーに把握することは容易ではない。そこで、作業間の依存関係を行列形式で分析し、手戻り作業などを明確にできるDSM(Design Structure Matrix)を利用して最適プロセスを検討することが行われるようになった。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
以下、図8、図9によりDSMの簡単な例を説明する。図8において、9つの作業名(Nxxx設計など)がマトリクスの3列目と1行目に順に表示されている。3列目の各作業行を横に見ていき、各作業行が参照情報をもらう(依存する)作業列の所に○をつける。仮に、作業が上から下にNo1〜9の順序でなされるとすれば、対角線右上の○は後作業から情報をもらうことになり、手戻り作業となるが、図9のように、依存関係そのものは変えずに、並べ替えを行うことで手戻り最小の作業順序を明確にできる(DSMのパーティショニングと呼ばれる公知の技術である。非特許文献1参照。)。
【0004】
ところが、DSMは升目の数だけ依存関係がありうる。プロセス全体が100の作業で構成される場合、100x100−100=9900の依存関係の有無を確認、入力する必要がある。作業を1つ増やすのにも100の相手との依存関係を確認する必要があり、大変な作業となる。非特許文献1では、DSMで扱う作業数は30〜50程度が適当と解説している。また、業務の専門化が進んでいるため、他部門の作業との依存関係を特定することが容易ではない。この点を解決するために、作業間の入出力情報に着目してDSMを作成する方法が考案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2005−135323号 公報
【特許文献2】 特開2007−310642号 公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】 森俊樹“工程・組織効率化のための設計手法”東芝レビューVol.60 No.1 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DSMの升目に直接依存関係を記入する方法では、大規模プロセスを扱えないことは明らかである。特許文献2に示される方法は、入出力情報に着目して直接升目を扱わないが、情報の影響度という主観に左右されやすい概念を導入しており、判断のバラツキを抑えるため、DSM作成をプロジェクト管理者など個人に集約せざるを得ず、大規模プロセスのDSMを構築するにはかなりの労力が必要と思われる。さらに、プロジェクトの進行、検討の深まりとともに作業の数および入出力情報は日々変化する。プロジェクト管理者が情報収集して、始めに作ったDSMを日々の変化に追従させることは容易ではない。つまり、DSM分析の有用性は広く認知されているが、複数部門の関与する大規模プロセスのDSMを効率的に構築する手法が存在しない。
【0008】
本発明は、日々の作業プロセス変化に容易に追従できるDSM作成機能およびパーティショニングなどDSM分析機能を備えた開発プロセス管理システムおよび方法を実現し、前記問題を解決することを課題とする。さらに、この種の管理システムを導入する際に、作業者に新たな負担を強いると運用が定着しないという問題がある。作業者に新たな負担を強いることなく、本発明のシステムを使用することで、作業の手戻りが減るといった便益を作業者に提供することも課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、本発明が前提とするプロセスモデルを図2で説明する。KK作業はJJ作業から出力されたJ2情報を入力情報として受け取るので、KK作業はJJ作業に依存する。通常、作業者は、自分の出力情報を誰が入力情報として参照しているか全て把握しているとは限らないが、自分の出力情報名および参照する入力情報名は把握している。よって、作業名および出力情報名(=入力情報名)が個別に識別可能として管理されていれば、各作業の入出力状況(破線内)を把握し集計すれば、情報の授受関係に基づきプロセス全体の作業間の依存関係が判り、作業間のDSMを作成できる。ここで、各作業の入力情報および出力情報が複数でも単数でも、依存関係が特定できることに変わりはない。
【0010】
図2の各作業の入出力状況(破線内)を把握するため、作業者がコンピュータ端末に日々入力する作業報告書式に、作業情報、入力情報、出力情報、を含める。作業情報には、作業者名、工数(見積)、工数(実績)、作業名を含む。入力情報には、作業を行う際に参照する入力情報名、同左コメント、進捗度を含む。入力情報名コメントには、入力情報名が含むパラメータの中で特に興味のあるものを書く。出力情報には、その作業の成果物である出力情報名、同左コメント、進捗度を含む。出力情報名コメントには、その出力に特徴的な検討ポイントを書く。
【0011】
さらに、本発明のシステムが自動転記する被参照情報を含む表形式の表現を、以後、入出力表という名前で説明する。被参照情報は、その作業の出力情報を入力として参照している作業者名、参照作業名、参照コメントを含む。なお、作業者名、作業名、出力情報名(=入力情報名)は、本発明では説明しないネーミングルールもしくは識別番号付与ルールによって付与されるID番号によって、個別に識別可能として以下説明する。通常、作業者名は社員番号、作業名は作業分類コード、出力情報名は品番付与といったなんらかの管理方法が存在する。
【0012】
本発明のシステムは、各作業者の入出力表情報の登録・変更を受け付ける入出力表受付部と、当該プロジェクト全員分の入出力表を集計し、出力情報の進捗度を入力情報の進捗度欄に転記し、被参照情報を転記する全体入出力表作成部と、全体入出力表で得られた情報の授受関係からプロジェクト全体の作業間のDSMを作成する全体DSM作成部と、全体DSMを最も手戻りの少ない順序に作業を並べ替える(パーティショニングする)最適DSM算出部と、全体入出力表と全体DSMと最適DSMを記録する情報記録部と、それら情報をコンピュータ端末に表示する表示部を備える。なお、全体DSMと最適DSMには各作業の進捗度も表示される。
【0013】
また、第2の課題解決手段として、前記各部に加え、全体入出力表の情報をPDM(Product Data Management)システムに転送する全体入出力表転送部を備える。PDMシステムとは、開発から量産までの様々な製品情報(図面、報告書、コスト情報他)を、階層構造を持った部品表の属性として一元管理するシステムである。既存機種も含め、プロジェクトの各作業の出力情報(成果物)の多くはPDMシステムに登録され、その編集履歴なども管理される。PDMシステムに参照したい情報を指示しておけば、その情報の編集履歴に変化(更新など)があった場合、自動通知、配信する機能がある。作業者が入出力表に入力として記入した情報名は、この自動通知、配信機能によって、常に最新版が作業者に配信される。
【0014】
PDMシステム内の情報を参照する方法を、入出力表に入力情報名を書き込む(本発明の開発プロセス管理システム経由)だけに一元化すると、プロセス内の情報授受をより網羅的に把握できる。なお、本発明はPDMシステムそのものに関するものではなく、PDMシステムがすでに持っている機能と連携することにより、本発明の課題をより良く解決するものである。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、本発明は、入出力表を作業報告に用いて情報の授受関係を一元的に収集する工夫によって作業間のDSMを作成するため、DSMの升目の数は問題にならず、大規模な作業数を扱え、部門の違いも問題にならない。そして、全体DSMをパーティショニングして得られる最適DSMによって作業プロセス構造を鳥瞰でき、プロセス検討と進捗度把握が同時に行える。作業報告は、日々(成果物に進展があった場合)もしくは毎週行われるので、プロセス構造の変化に追従でき、プロジェクト管理者の管理工数を大幅に低減しつつ、精度の良い管理が実現できる。具体的には、プロジェクトの進行中に新たな問題・検討課題が浮上した場合など、作業名や入力(参照)情報が増減するので、最適DSMにも変化が現れ、問題・課題発生を視覚的に検知できる。その変化を日々の作業報告から検知できるため、従来の、設計検討会、出図時期、試作納期といったマイルストーンによるプロジェクト管理より機動的なリスク対応が可能となる。つまり、複数部門が関与する大規模開発プロジェクトにおいても作業手順や意思決定タイミングを適切に計画・管理し、手戻り作業による進捗遅れのリスクをタイムリーに把握することができる。
【0016】
また、全体入出力表には各作業者の出力情報の被参照情報が表示される。これにより、自分の作業が影響を与える下流工程の作業者、作業名、その作業者が関心を持っているパラメータがわかる。また、自分の入力情報を出力している上流工程作業の出力情報コメントを見れば、その作業の検討ポイントがわかり、前後作業とのすり合わせが円滑になる。最適DSMによってさらに複雑な依存関係が判明し、すり合わせの相手作業が明確になり、コミュニケーション不足による手戻り作業を防止できる。遠隔地の開発拠点が連携するグローバル開発において、コラボレーションの仕組みとして有効である。さらに、第2の課題解決手段であるPDMシステムとの連携により、入力情報名として記入した情報は常に最新版が作業者に配信され、古い入力情報による無駄な作業を防止できるといった便益を作業者に提供できる。入力情報収集および作業報告は通常業務であり、本発明の入出力表を用いてこれらを行うことは、作業者に新たな負担を強いることもない。
【0017】
本発明は、日々開発プロセス構造をDSMとして記録するので、開発終了時に、どの作業間ですり合わせ、手戻り作業が頻発したか、見積工数と実績工数の乖離の大きかった作業はどれかなどが分析でき、経験を次のプロジェクト計画に生かすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態を示す開発プロセス管理システムの処理機能部の構成図
【図2】作業と入出力情報の関係説明図
【図3】プロジェクトスタート時の入出力表の例
【図4】出力情報の進捗度スコアの定義例
【図5】本発明の実施形態を示す開発プロセス管理方法のフローチャート
【図6】プロジェクトスタート時の計画部品表の情報例
【図7】プロジェクト中の全体入出力表の例
【図8】プロジェクトスタート時の全体DSMの例
【図9】プロジェクト中の最適DSMの例
【図10】図面ベース作業をタスクベース作業に分割した入出力表の例
【図11】図面ベース作業をタスクベース作業に分割した最適DSMの例
【図12】本発明の実施タイプ
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。図2は、本発明が前提とするプロセスモデルであり、作業と入出力情報の関係を説明している。KK作業はJJ作業から出力されたJ2情報を入力情報として受け取るので、KK作業はJJ作業に依存する。通常、作業者は、自分の出力情報を誰が入力情報として参照しているか全て把握しているとは限らないが、自分の出力情報名および参照する入力情報名は把握している。よって、作業名および出力情報名(=入力情報名)が個別に識別可能として管理されていれば、各作業の入出力状況(破線内)を把握し集計すれば、情報の授受関係に基づきプロセス全体の作業間の依存関係が判り、作業間のDSMを作成できる。ここで、各作業の入力情報および出力情報が複数でも単数でも、依存関係が特定できることに変わりはない。
【0020】
図3は、図2の各作業の入出力状況(破線内)を把握するため、作業報告で使用する入出力表の例である。作業者X、Yの分を併記してある。報告項目に、作業情報31、入力情報32、出力情報33を含む。作業情報31には、作業者名、工数(見積)、工数(実績)、作業名を含む。入力情報32には、作業を行う際に参照する入力情報名、同左コメント、進捗度を含む。入力情報名コメントには、入力情報名が含むパラメータの中で特に興味のあるものを書く。出力情報33には、その作業の成果物である出力情報名、同左コメント、進捗度を含む。出力情報名コメントには、その出力に特徴的な検討ポイントを書く。作業者は、入力情報の進捗度以外の情報を作業報告の一部としてコンピュータ端末に入力する。なお、作業者名、作業名、出力情報名(=入力情報名)などは、本発明では説明しないネーミングルールもしくは識別番号付与ルールによるID番号によって、個別に識別可能として以下説明する。通常、作業者名は社員番号、作業名は作業分類コード、出力情報名は品番付与といったなんらかの管理方法が存在する。
【0021】
入出力表は、さらに被参照情報34の項目を含む。被参照情報34は、その作業の出力情報名を入力として参照している作業者名、参照作業名、出力情報名(参照者にとっては入力情報名)に関するコメントを含む。本発明のシステムが、作業情報31、入力情報32の集計情報に基づき転記する。
【0022】
図4は、出力情報33の進捗度欄に記入する進捗度スコアの定義例である。例1は、作業者が自己の判断で記入、更新する。例2は、PDMシステム内の図面状況(計画図登録、仮出図、出図など)に連動したスコア付けである。その他、プロジェクト特性に応じた種々のスコア定義がありうるが、なるべく個人間のバラツキが出にくい定義が望ましい。以下の説明および図は、例1にもとづく。入出力表で報告された出力情報33の進捗度は、後に説明する全体入出力表作成の際に、その情報を入力情報として記入している作業者の入力情報32の進捗度欄に、本発明のシステムが転記する。
【0023】
図1に、本発明の実施形態に係る開発プロセス管理システム10の処理機能構成を示す。各作業者の入出力表の登録・変更を受け付ける入出力表受付部11と、当該プロジェクト全員分の入出力表を集計し、出力情報33の進捗度を入力情報32の進捗度欄に転記し、作業情報31、入力情報32の情報に基づき被参照情報34に転記する全体入出力表作成部12と、全体入出力表で得られた情報の授受関係からプロジェクト全体の作業間のDSMを作成する全体DSM作成部13と、全体DSMを最も手戻りの少ない順序に作業を並べ替える(パーティショニングする)最適DSM算出部14と、全体入出力表と全体DSMと最適順序DSMを記録する情報記録部15と、それら情報をコンピュータ端末に表示する表示部16を備える。
【0024】
また、第2の課題解決手段として前記各部に加え、全体入出力表の情報をPDMシステムに転送する全体入出力表転送部17を備える。PDMシステムとは、開発から量産までの様々な製品情報(図面、報告書、コスト情報など)を、階層構造を持った部品表の属性として一元管理するシステムである。既存機種も含め、プロジェクトの各作業の出力情報(成果物)の多くはPDMシステムに登録され、その編集履歴などの属性を管理する属性管理部21を持つ。PDMシステムに参照したい情報を指示しておけば、その情報の属性に変化(更新など)があった場合、自動通知・情報配信する自動配信部22を持つ。作業者が入出力表に入力として記入した情報名は、この自動配信部から、常に最新版が作業者に配信される。なお、属性管理部21と自動配信部22はPDMシステムの公知の機能であり、本発明の請求範囲外である。
【0025】
PDMシステム内の情報を参照する手段を、入出力表に入力情報名を書き込む(本発明の開発プロセス管理システム経由)だけに一元化すると、プロセス内の情報授受をより網羅的に把握できる。
【0026】
なお、本発明の開発プロセス管理システムはPDMシステムと独立して、すなわち全体入出力表転送部17なしの形態でも運用可能であるが、第2の課題解決手段としてPDMシステムが持つ機能と連携することにより、本発明の課題をより良く解決できる。本発明をPDMシステムの一機能として実装する形態もありうる。
【0027】
図5は、前記11〜17,21〜22各部の機能を用いた実施方法のフローチャートであり、以下これに沿って説明する。説明を簡明にするため、作業者はX,Y,Z3名の設計者とし、1つの(設計)作業は1つの図番を出力(出図)する図面ベースの作業単位とする。
【0028】
ステップS01。図3に示すように、作業者(X,Yの分を併記し、Zの分は省略)は各自の作業情報31、入力情報32、出力情報33の最新状態を入出力表でコンピュータ端末から登録・変更する。この作業は、日々の作業報告の一部として行う。プロジェクトスタート時には通常、PDMシステム内に計画部品表、新作図番が登録されるので、各作業者はそれを参考に以下を記入する。作業情報31に、作業者名、担当する新作図の設計作業名(Nxxは新作図番)、見積工数を記入する。実績工数は作業の進捗に連動して記入する。入力情報32に、計画部品表ほかPDM内の情報を見て、その作業に必要な入力情報名(図番など)を記入する(Axxは既存図番)。同左コメントには、入力情報名が含むパラメータのなかでも特に関心のあるものを記述する。進捗度はブランク(既存図番Axxは1と記入してもよい)。出力情報33に、出力情報名(新作図番Nxx)、同左コメントにはその出力にいたる特徴的な検討項目や、既存部品とはどこが変わりそうかなどを記入する。プロジェクトスタート時の進捗度は0を記入する。
【0029】
図6に計画部品表の情報例を示す。説明の簡明さのため、この例では品番と図番は同一としている。第2の課題解決手段として、本発明とPDMシステムを連携させる場合には、属性情報として作業者名、進捗度を加えておくことが好ましい。
【0030】
ステップS02。入出力表受付部11が入出力表を受付け、全体入出力表作成部12がプロジェクト関係者全員分を集計、更新する。全体入出力表の形式は、図7のように各自の入出力表が縦に連なったものである(作業者Zの分は省略)。全体入出力表は、情報記録部15に記録され、表示部16を介して作業者、管理者のコンピュータ端末に表示される。図7矢印A1に示すように、各出力情報名の進捗度は、入力情報名の進捗度の欄に転記される。図7は、プロジェクトがある程度進んだ状況を示しており、進捗度は図3とは異なる。これにより、入力情報の信憑性の目安が得られ、作業者は作業を始めるべきか、またどの部分の検討から始めるかなどの判断ができる。図7矢印A2に示すように、被参照情報34の欄の小項目である、作業者、参照作業名、参照コメントの欄に、出力情報名を入力情報名として記入(参照)している作業者、作業名、入力情報名の同左コメントがそれぞれ転記される。
【0031】
従来、作業者は、自分の出力情報を誰が入力として参照しているか全て把握しているとは限らないが、被参照情報34の欄を見ればそれらが明らかとなる。参照コメント欄には参照者が特に関心のあるパラメータが転記されるので、参照者に早めにそのパラメータについて通知したりできる。さらに、自分が入力情報としている出力情報名コメントを全体入出力表で見れば、その作業の検討ポイントなども把握できる。以上の効果により、すり合わせ開発におけるコミュニケーションが円滑になる。遠隔地の開発拠点が連携するグローバル開発において、コラボレーションの仕組みとして有効である。
【0032】
全体入出力表は日々の作業報告にともなって更新され、表示部16を介して最新版が図7のように表示される。プロジェクトスタート後は、全体入出力表を見て、必要な入力情報名に追加・変更があれば各自の入出力表部分を更新する。すなはち、プロジェクトスタート後はステップS01とS02は相互に行き来する。検討の深まりと共に起こる、新図番や入力情報の追加など、増減する作業名、情報名も各自入出力表に反映させる。
【0033】
ステップS03。全体DSM作成部13が、全体入出力表の情報授受から作業間の依存関係を定め、全体DSMを作成・更新する。図8が、プロジェクトスタート時の全体DSMである。作業名は作業者X、Y、Zの担当別に並んでいる。進捗度が1列目に表示されている。本説明では1つの(設計)作業は1つの図番を出力(出図)する図面ベースの作業単位として記入しているので、出力情報名の進捗度と作業の進捗度は同一となる。プロジェクトスタート時を想定しているので、各設計作業とも0となっている。複数の出力情報名を記入した場合は、システムがそれぞれの出力情報名の進捗度を平均し、作業の進捗度として表示するなどの工夫が考えられる。
【0034】
3列目の作業行を横に見ていくと、その作業が参照(入力)情報をもらう作業列のところに○がある。1行目の作業列を縦に見ていくと、その作業が参照(出力)情報を渡す作業行のところに○がある。全体DSMは、情報記録部15に記録され、表示部16を介して作業者、管理者のコンピュータ端末に、各作業の進捗度とともに表示される。
【0035】
ステップS04。最適DSM算出部14が、全体DSMをパーティショニングして手戻り最小の最適DSMを算出する。図9に、図8を最適化した例を示す。図9は、プロジェクトがある程度進んだ状況を示しており、進捗度は図8とは異なる。最適DSMは、情報記録部15に記録され、表示部16を介して作業者、管理者のコンピュータ端末に、各作業の進捗度とともに表示される。N122,N233,N220設計作業は手戻り構造(参照の環)になっており、すり合わせの場を計画し、その進捗に特に注意をはらう必要がある。
【0036】
ステップS05。図9の最適DSMによって、作業プロセス構造を把握したうえで、進捗遅れ作業に対して関係者で対策を検討する。全体入出力表によって各作業とその前後作業との連携が円滑になるが、最適DSMによって、さらに複雑な手戻り構造(参照の環)を鳥瞰できるようになる。作業者は開発プロセスの中での自分の作業の位置づけ、影響を与える作業や密にコミュニケーションすべき相手がより明確になる。プロジェクト管理者にとっては、手戻り構造(参照の環)が判明するので進捗管理上の重点や対策の優先順位を判断できる。また、手戻り構造(参照の環)の作業間で設計案が折り合いのついた時点でデザインレビューを実施するなど、効率的なプロジェクト運営が可能になる。
【0037】
ステップS06。全体入出力表転送部17によって全体入出力表をPDMシステムに転送する。
【0038】
ステップS07。属性管理部21は、全体入出力表内の出力情報名の進捗度情報によって、PDMシステム内に保管されている品番・図番の属性情報である進捗度を更新する。図面状況属性は、通常のPDMシステム操作である図面登録行為によって更新される。(図6参照)
【0039】
ステップS08。自動配信部22は、全体入出力表内の入力情報名(既存図含む)の品番・図番の図面状況もしくは進捗度に更新があった場合、入出力表に入力情報名として記入した作業者のコンピュータ端末に、更新事実を通知し最新情報(図面)を自動配信する。
【0040】
本発明の開発プロセス管理システムは、新作図の作業の進捗に関しては全体入出力表に反映され、ステップS01〜S05だけでも機能する。が、作業者が参照もしくは採用しようとしている既存図(Axx)を当該プロジェクト以外の作業者が担当している場合もあり、設計変更もありうる。第2の課題解決手段として、ステップS06〜08のようにPDMシステムと連携することで既存図の設計変更も自動通知され、変更を知らずに無駄な作業を行う危険性を回避できる。
【実施例】
【0041】
前項においては、実施形態を簡明に説明するため、1つの(設計)作業は1つの図番を出力(出図)する図面ベースで説明したが、実際の作業報告はもう少し詳細化されていると考えられる。図10は、作業者YのN122設計作業を図面ベースからタスクベースに分割した入出力表の例である。N122パイプ径・曲げR検討とN122配管系路計画とN122出図作業に3分割されている。
【0042】
作業者がタスクベースで入出力表に記入し、全体入出力表の他者の出力情報のうち自作業で参照したいものを入力情報として書き込むステップS01〜S02の往復サイクルにより、図面ベースと同様に、日々の作業内容の変化に追従したタスクベースDSMを作成でき、よりきめ細かい管理が可能である。図11にタスクベース最適DSMの例を示す。プロジェクトの進行中に新たな問題・検討課題が浮上した場合など、新たなタスクが発生し作業名や入力(参照)情報が増減するので、最適DSMにも変化が現れ、問題・課題発生を視覚的に検知できる。その変化を日々の作業報告から検知できるため、従来の、設計検討会、出図時期、試作納期といったマイルストーンによるプロジェクト管理より機動的なリスク対応が可能となる。
【0043】
本発明の実施にあたっては、作業単位をどう設定するか、進捗度をどう定義するか(図4参照)によって様々なタイプがありうる。図12にそれらのタイプの例をA〜Cとして示す。本明細書ではタイプA,Bの順に説明したが、プロジェクトの統括管理者はタイプCを用いて図面ベースで進捗を把握し、その配下の中間管理者はタイプBを用いてタスクベースで詳細を管理するといった使い分けも可能である。
【0044】
また、入出力表で収集した情報を活用して、プロセス管理に役立つ様々な応用が考えうる。たとえば、工数(見積)と工数(実績)の時間軸情報を利用して、最適DSM順序のガントチャートを作成してクリティカルパスを特定しながら、人員配置や開発スケジュール検討が可能となる。さらに、最適DSM算出部で行う処理はパーティショニングに限らない、その他のDSM分析手法を実装したり、プロジェクト管理者が手動でDSMを操作・分析したりすることを妨げるものではない。
【0045】
以上の説明では、作業者を設計者としたが、実験部や生産技術部の作業者が加わっても当然かまわない。実験報告書や設備検討書などの情報も他部門で参照され、それらを作成する作業は開発プロセスの一部をなす。さらに、本発明は、図2に示すように、入力情報、作業、出力情報の連鎖として進行するあらゆる開発プロセスに適用可能であり、機械系に限らず、電気、ソフト系およびそれらの混在する開発プロセスにも適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
10:開発プロセス管理システム
11:入出力表受付部
12:全体入出力表作成部
13:全体DSM作成部
14:最適DSM算出部
15:情報記録部
16:表示部
17:全体入出力表転送部
31:作業情報
32:入力情報
33:出力情報
34:被参照情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の作業者の作業が、他の作業の出力情報を入力情報として参照して当該作業の出力情報を生成し、その出力情報がさらに他の作業の入力情報となる連鎖によって進行する業務プロセスを、コンピュータを用いて管理するシステムであって、以下の処理機能部により構成されることを特徴とする開発プロセス管理システム(10)。
(イ)作業者がコンピュータ端末から入力する、作業情報(31)、入力情報(32)、出力情報(33)を含む入出力表もしくは同等の内容の登録・変更を受け付ける入出力表受付部(11)
(ロ)プロジェクトに関与する全員分の入出力表を集計し、出力情報の進捗度を入力情報の進捗度欄に転記し、作業情報(31)、入力情報(32)から被参照情報(34)を抽出して入出力表の当該欄に転記する全体入出力表作成部(12)
(ハ)全体入出力表で得られる情報の授受関係から作業間の依存関係を特定し、プロジェクト全体の作業間の全体DSM(Design Structure Matrix)を作成する全体DSM作成部(13)
(二)全体DSMをもとに、最も手戻りの少ない順序に作業を並べ替えた(パーティショニングした)最適DSMを算出する最適DSM算出部(14)
(ホ)全体入出力表、全体DSM、最適DSMを記録する情報記録部(15)
(ヘ)全体入出力表、全体DSM、最適DSMをコンピュータ端末に表示する表示部(16)
【請求項2】
請求項1に記載する開発プロセス管理システムにおいて、全体入出力表の情報をPDM(Product Data Management)システムに転送する全体入出力表転送部(17)をさらに設けたことを特徴とする開発プロセス管理システム(10)。
【請求項3】
複数の作業者の作業が、他の作業の出力情報を入力情報として参照して当該作業の出力情報を生成し、その出力情報がさらに他の作業の入力情報となる連鎖によって進行する業務プロセスを、コンピュータを用いて管理する方法であって、以下のステップを備えることを特徴とする開発プロセス管理方法。
(ト)作業者名、作業名、出力情報名(=入力情報名)を、ネーミングルールもしくは識別番号付与ルールによって付与されるID番号によって、個別に識別可能とするステップ
(チ)コンピュータ端末に入力する作業報告に、作業情報(31)、入力情報(32)、出力情報(33)を含む入出力表もしくは同等の入力方式を用い、各作業者が前記情報の登録・変更を行うステップ
(リ)コンピュータは、プロジェクトに関与する全員分の入出力表を集計し、出力情報の進捗度を入出力表の入力情報の進捗度欄に転記し、作業情報(31)、入力情報(32)から被参照情報(34)を抽出して入出力表の当該欄に転記した全体入出力表を作成し、作業者およびプロジェクト管理者の端末に表示するステップ
(ヌ)コンピュータは、全体入出力表で得られた情報の授受関係から作業間の依存関係を特定し、プロジェクト全体の作業間の全体DSM(Design Structure Matrix)を作成し、各作業の進捗度とともに、作業者およびプロジェクト管理者の端末に表示するステップ
(ル)コンピュータは、全体DSMをもとに、最も手戻りの少ない順序に作業を並べ替えた(パーティショニングした)最適DSMを作成し、各作業の進捗度とともに、作業者およびプロジェクト管理者の端末に表示するステップ
【請求項4】
請求項3に記載する開発プロセス管理方法において、コンピュータが全体入出力表の情報をPDM(Product Data Management)システムに転送するステップをさらに備えることを特徴とする開発プロセス管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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