説明

間葉系幹細胞の培養方法

本発明は、生体外で間葉系幹細胞を膨張させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の主張)
本願は、2006年6月26日に出願された米国予備特許出願第60/805,801号の優先権を主張する。
【0002】
ヒト幹細胞(huhan stem cells)は、培養液中で少量のドナー細胞から膨張しており、損傷した組織または欠陥のある組織を修復するかまたは取り替えるために使用することができ、広い範囲の疾病の治療のために広い臨床用途を有する。再生医療の分野における最近の進歩は、幹細胞が、独特の特性、たとえば、自己再生能力、未分化状態を維持する能力、および、特定の状態下で分化状態に分化する能力を有することを例証する。
【背景技術】
【0003】
再生医の重要な構成要素として、細胞が生長し膨張するための最適な環境を提供する際に、バイオリアクタまたは細胞膨張システムが、重要な役割を演じる。バイオリアクタは、細胞に栄養を与え、代謝産物を除去し、さらに、閉鎖した無菌システムにおける細胞生長を助ける生化学的環境を提供する。
【0004】
多くのタイプのバイオリアクタが、現在利用可能である。もっとも一般的なものの2つが、フラットプレートバイオリアクタおよび中空繊維(hollow fibera)バイオリアクタを含む。フラットプレートバイオリアクタは、大きな平らな表面に細胞が生長するのを可能にし、一方、中空繊維バイオリアクタは、中空繊維の内側または外側のいずれかに細胞が生長するのを可能にする。
【0005】
幹細胞生長および複製の分野における従来の知恵は、バイオリアクタまたは他の生体外細胞膨張システムにおいて、接着細胞たとえば間葉系幹細胞(MSC)(mesenchymal stem cells)が、他のMSCによって密接に囲繞されているときにより速く複製し、したがって、大きい数のMSCを細胞膨張システムに初期装填すべきであると考えている。従来の知恵はまた、バイオリアクタで膨張する最良のMSCは、バイオリアクタで膨張する前に高度に浄化されているかまたは他の汚染細胞タイプから分離されている細胞であると考えている。本発明の方法は、驚くべきことに、これが、そうではないことを教示している。
【特許文献1】米国予備特許出願第60/805,801号
【発明の開示】
【0006】
(発明の概要)
本発明は、生体外で間葉系幹細胞を膨張させる方法に関し、間葉系幹細胞を含有する細胞の集団を基板に播種し、そのため、低密度の間葉系幹細胞が基板に接着することと、接着した間葉系幹細胞を基板上で膨張させることと、膨張した間葉系幹細胞を基板から除去することと、間葉系幹細胞を同一の基板または異なる基板に再播種することと、の各ステップを含む。
【0007】
(詳細な説明)
本発明は、細胞培養システムにMSCを播種し膨張させる方法に関する。
【0008】
上記に検討されたように、足場依存性細胞たとえばMSC等を培養するための多数のバイオリアクタ構成が存在し、本発明は、いずれの特定の構成に依存しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
しかし、限定することは意味せず、単に1つの例として、中空繊維バイオリアクタが、図1に示されている。本発明に使用されてもよい細胞膨張モジュールまたはバイオリアクタ10は、ハウジング14内に入れられた中空繊維膜12のバンドルから作られている。中空繊維膜のバンドルはまとめて膜と称される。ハウジングまたはモジュール14は、形状が円筒形であってもよく、いずれのタイプの生体適合性ポリマー材料から作られてもよい。
【0010】
モジュール14の各端は、端キャップまたはヘッダー16、18で閉じられている。端キャップ16、18は、材料がバイオリアクタ内で生長すべき細胞と生体適合性がある限り、いずれの適切な材料たとえばポリカーボネートから作られてもよい。
【0011】
モジュール内に且つモジュールから、少なくとも4つのポートがあってもよい。2つのポートは中空糸外空間(EC空間)(extracapillaary soace)に流体的に接続され、1つのポート34は、新たな中空糸外媒体が、中空繊維を囲繞する空間内に進入するためのものであり、1つのポート44は、使用済みの中空糸外媒体がモジュールから出るためのものである。2つのポートはまた、中空糸内空間(IC空間)(intracapillary space)にも流体的に接続され、1つのポート26は、新たな中空糸内媒体が中空繊維のルーメン内に進入し且つ膨張されるべき細胞を導入するためのものであり、1つのポート42は、使用済みの中空糸内媒体がバイオリアクタから出て膨張した細胞を除去するためのものである。
【0012】
バイオリアクタ内で膨張されるべき細胞は、IC空間内にまたはEC空間内に流れてもよい。バイオリアクタには、シリンジを使用して細胞が装填されてもよく、または、細胞は、細胞セパレータから直接、IC空間またはEC空間内に分配されてもよい。細胞はまた、バイオリアクタに無菌結合されてもよい細胞投入バッグまたはフラスコ(要素5として示されている)から生長モジュールまたはバイオリアクタ内に導入されてもよい。
【0013】
上記に検討されたように、細胞膨張システムに初期播種された細胞の数は、いかに速やかに細胞が膨張し上述のもの等の細胞膨張システムで密集度に到達するかにおいて重要な要因であると思われる。しかし、下記実施例1は、実際には、最適な生長および膨張を達成するためにMSCが他のMSCによって密接に囲繞される必要はないことを示す。
【0014】
実施例1
MSCは、当初、5、50、500および5000細胞/cm2の濃度でフラスコに播種された。細胞が2倍になるのにかかる時間(時)が測定された。下記表1に示されるように、5細胞/cm2の初期濃度で細胞が2倍になる平均時間は、およそ35時間である。1000倍高い濃度の細胞は、2倍になるのにおよそ123時間かかった。このデータは、低密度で初期播種された細胞は、より高い密度で初期播種された細胞よりも速く2倍になることを示唆する。より低い密度は、基板上でおよそ1〜100細胞/cm2の間と規定され、基板上のおよそ5〜50細胞/cm2の間を含む。
【表1】

【0015】
間葉細胞膨張に重要であると思われる別の要因は、細胞膨張システムに初期装填されたか播種された細胞の純度である。
【0016】
実施例2
MSCの最大膨張を確実にするためにMSCを他の汚染細胞から浄化しなければならないという理論を検証するために、4アーム実験が行われた。この実施例および他の実施例の目的のために、浄化手順は、MSCを含有する細胞の集団から実質的にすべての汚染細胞を除去するために行われるいずれの追加手順を意味する。細胞の集団は、骨髄、末梢血液、臍帯、胎芽細胞またはMSCが存在する他の細胞集団からの細胞でありうる。未浄化細胞は、浄化手順を受けていない上記細胞のいずれを意味する。
【0017】
各アーム用に、浄化および分画ステップ(もし実行されるならば)後に、細胞が数えられた。各アームから同一数の浄化された(またはされなかった)細胞が培養された。細胞は、およそ1×106細胞が得られるまで(この実施例の目的用の密集度)、生長した。密集度は、細胞が生長している基板の利用可能な表面全体を覆うように膨張した状態として定義される。
【0018】
各アーム用に、2セットの実験が行われ、一方のセットは、7日ごとに細胞を培養するかまたは再播種することを伴い、他方のセットは、14日ごとに細胞を培養するかまたは再播種することを伴った。細胞が密集度に達したときに、実験は停止された。
【0019】
アーム1では、およそ50mLの骨髄穿刺液がドナーから取り出され、1mLが直接、25cm2Tフラスコ内で培養された(図2および3ではBMとして示されている)。浄化または分画ステップは行われなかった。25cm2Tフラスコの表面積は、1.6m2の中空繊維バイオリアクタの表面積に近い。
【0020】
アーム2では、アーム1から収集された50mL骨髄穿刺液の10mLが浄化され、標準フィコールグラディエント(ficoll gradient)浄化を使用して、単核球(MNC)画分(幹細胞がみつかった場合)を収集した(図2および3ではフィコールとして示されている)。画分は、25cm2Tフラスコで培養された。
【0021】
アーム3は、アーム1で収集された残りの40mL骨髄穿刺液からMSCを溶離することを伴った。MSCは、エルトラ(Elutra)システム(米国コロラド州レイクウッドのガンブロ(Gambro)BCT社が販売)を使用して、汚染赤血球からデバルクされ溶離された(図2および3ではRo40デバルクとして示されている)。
【0022】
アーム4では、アーム3からの残っている培養されなかった画分が、溶解手順を受け、いずれの残っている汚染赤血球を除去した(図2および3ではRo40溶解として示されている)。
【0023】
代表的なグラフが、図2および3に示されている。見ることができるように、7日ごとに再播種された間葉系幹細胞(図2)は、14日ごとに再播種された間葉系幹細胞(図3)よりも速い速度で密集度に達した。驚くべきことに、最小量の操作を受けた細胞(汚染細胞を含有する、直接培養された骨髄)が、もっとも速く生長した。最大の操作を受けた細胞、したがって、最大の純度を有すると思われた細胞(溶解した汚染赤血球を備えた溶離されたMSC)は、もっとも遅く生長した。
【0024】
これらの発見はまた、密集度に達する前に再播種されたMSCが、少なくとも、収集後初期に播種されたMSCと同じほど速く生長することを示唆する。この発見は、再播種手順がバイオリアクタ内のMSCの生長に有害事象を与えないこと、および、細胞が初期に播種された同一表面を再使用(再播種)することが、細胞の生長に有害事象を与えないと思われること、を暗示することがある。しかし、細胞はまた、異なる基板に再播種されることができる。
【0025】
したがって、MSCを密集度へ生長させないことが望ましい。細胞は、密集状態に達するよりかなり前に、採取されるべきである。MSCの十分な治療的投与量を提供するのに十分な細胞の生長が、速やかに達せられる。
【0026】
実施例3
別の実施例では、標準エルトリエーションプロトコルたとえば米国特許出願第11/131063号に記載されたもの等を使用して、骨髄からの幹細胞のサブセットを濃縮し、より浄化された細胞が、汚染細胞から浄化されなかった細胞と比較して、どのように生長するかを決定した。
【0027】
実質的に浄化されたMSCを含有する骨髄の6つのエルトリエーション画分が密集度へ生長した。実質的に浄化されたMSCは、特定のエルトリエーション画分の細胞の大半が同一細胞タイプであることを意味する。これらのエルトリエーション画分は、図4のF1〜F6に示されている。骨髄の50mLサンプルもまた、比較のためフィコールグラディエントの共通に使用された浄化手順を使用して、浄化された(図4ではフィコールとして示されている)。40ロータオフ(図4ではRo40として示されている)は、血漿、血小板および赤血球が初期50mL骨髄サンプルから除去された後に、ロータがオフにされ、40mLエルトリエーションチャンバに残っているすべての細胞が収集されたことを意味する。この手順は、細胞の個別の画分またはサブセットを溶離しない。
【0028】
図4は、個別エルトリエーション画分からの細胞、および、フィコール浄化細胞、および、ロータオフで収集された細胞が、1×108細胞へ膨張する日数を比較する。見ることができるように、大半の実質的に浄化された細胞を含有する画分F1〜F6はもっとも遅く生長し、一方、もっとも少なく浄化された細胞(ロータオフまたはRo40)は、もっとも速く生長した。これは、上記実施例2の発見、すなわち、もっとも少なく浄化される細胞がもっとも速く生長するということを裏付ける。
【0029】
実施例4
上記に検討されたように、膨張すべきMSCの純度は、培養液中で細胞がいかに速く膨張するかに影響を与えると思われる。
【0030】
実施例4は、アルファ(α)、または、中空繊維バイオリアクタ内に直接播種された50mL骨髄の未浄化MSCの細胞が2倍になるのにかかる日数を比較し、そのMSCは、バイオリアクタ内に播種される前に予め選択された。直接播種は、患者から取られた骨髄が、いずれの汚染細胞たとえば血小板および赤血球を除去することなく、バイオリアクタ内に直接置かれることを意味する。骨片(bone chip)および他の非細胞物質が除去されてもよい。予め選択されたは、50mLの骨髄が初期にT−75フラスコで培養され、中に含まれたMSCがフラスコに接着し且つ中空繊維バイオリアクタに再播種される前に密集度に生長するのを可能にしたことを意味する。予選択は、バイオリアクタで膨張すべき細胞のすべてが浄化MSCであるのを確実にする。2タイプの中空繊維膜、すなわち、登録商標デスモパン(Desmopan)(ドイツ、バイエルマテリアルサイエンス社(Bayer MaterialScience AG)が販売)の商標名で販売されている0.5%熱可塑性ポリウレタンおよび登録商標ポリフラックス(Polyflux)(ポリアミド、ポリアリールエーテルスルホンおよびポリビニルピロリドンの混合物)(ドイツ、ヘッヒンゲンのガンブロダイアリサトレン社(Gambro Dialysatoren, GmBH)が販売)がテストされた。デスモパンおよびポリフラックスの両方は、合成膜である。
【表2】

【0031】
上記表2に見られるように、バイオリアクタ内に直接播種され骨髄に他の汚染細胞を備えたMSCは、バイオリアクタで膨張する前にまず浄化されたMSCよりも速く2倍になった(2倍になるのにかかる日数が少なかった)。これは、両方の種類の合成膜で、そうであった。
【0032】
上記実施例に示されるように、細胞膨張システムでより速いMSCの膨張を達成するために、細胞は、他の汚染細胞から浄化される必要はない。MSCはまた、頻繁に再播種すべきであり、再播種される前に密集度に達するのを可能にするべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に使用されてもよいバイオリアクタの概略図である。
【図2】再播種後7日の異なるレベルの純度を有する間葉系幹細胞の生長を比較するグラフである。
【図3】再播種後14日の異なるレベルの純度を有する間葉系幹細胞の生長を比較するグラフである。
【図4】異なるレベルの純度を有する間葉系幹細胞の生長を比較する別のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体外で間葉系幹細胞を膨張させる方法であって、
a)間葉系幹細胞を含有する細胞の集団を基板に播種し、そのため、低密度の間葉系幹細胞が前記基板に接着することと、
b)前記接着した間葉系幹細胞を前記基板上で膨張させることと、
c)前記膨張した間葉系幹細胞を前記基板から除去することと、
d)前記除去した間葉系幹細胞を同一の基板または異なる基板に再播種することと、
e)所望の数の膨張した間葉系幹細胞に達するまで、ステップb)〜d)を繰り返すことと、
の各ステップを備える方法。
【請求項2】
前記低密度の間葉系幹細胞は、およそ1〜100間葉系幹細胞/cm2の間である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記低密度の間葉系幹細胞は、およそ5〜50間葉系幹細胞/cm2の間である請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記低密度の間葉系幹細胞は、およそ5間葉系幹細胞/cm2の密度をさらに備える請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記低密度の間葉系幹細胞は、およそ50間葉系幹細胞/cm2の密度をさらに備える請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記間葉系幹細胞を再播種するステップは、密集度に達する前に前記間葉系幹細胞を再播種することをさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記播種ステップは、浄化手順を実行する前に、前記間葉系幹細胞を含有する集団を播種することをさらに備える請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記播種ステップは、前記間葉系幹細胞を含有する骨髄細胞を播種することをさらに備える請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記播種ステップは、前記間葉系幹細胞を含有する末梢血液細胞を播種することをさらに備える請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記播種ステップは、前記間葉系幹細胞を含有する臍帯細胞を播種することをさらに備える請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記播種ステップは、前記間葉系幹細胞を含有する胎芽細胞を播種することをさらに備える請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記播種ステップは、合成膜上に播種することをさらに備える請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記合成膜は、ポリフラックス膜である請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記合成膜は、デスモパン膜である請求項12記載の方法。
【請求項15】
合成膜上に播種する前記方法は、中空繊維に播種することをさらに備える請求項12記載の方法。
【請求項16】
生体外で間葉系幹細胞を膨張させる方法であって、
a)間葉系幹細胞を含有する未浄化細胞の集団を基板に播種し、そのため、前記間葉系幹細胞が前記基板に接着することと、
b)前記接着した間葉系幹細胞を前記基板上で膨張させることと、
の各ステップを備える方法。
【請求項17】
前記播種ステップは、前記間葉系幹細胞を含有する未浄化骨髄を播種することをさらに備える請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記播種ステップは、前記間葉系幹細胞を含有する未浄化末梢血液細胞を播種することをさらに備える請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記播種ステップは、前記間葉系幹細胞を含有する未浄化臍帯細胞を播種することをさらに備える請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記播種ステップは、前記間葉系幹細胞を含有する未浄化胎芽細胞を播種することをさらに備える請求項16記載の方法。
【請求項21】
前記播種ステップは、合成膜上に播種することをさらに備える請求項16記載の方法。
【請求項22】
前記合成膜は、ポリフラックス膜である請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記合成膜は、デスモパン膜である請求項21記載の方法。
【請求項24】
合成膜上に播種する前記方法は、中空繊維に播種することをさらに備える請求項21記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−540865(P2009−540865A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518513(P2009−518513)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/072125
【国際公開番号】WO2008/002914
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(507114521)カリディアンビーシーティー、インコーポレーテッド (39)
【氏名又は名称原語表記】CaridianBCT, Inc.
【住所又は居所原語表記】10811 West Collins Avenue, Lakewood, Colorado 80215, U.S.A.
【Fターム(参考)】