間葉系細胞株の作成法とその利用
【課題】種々の組織から間葉系細胞を簡便に分離し、間葉系細胞株を樹立する方法を提供すること。
【解決手段】以下の工程を含む間葉系細胞の精製方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;及び
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【解決手段】以下の工程を含む間葉系細胞の精製方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;及び
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系細胞の分離方法、間葉系細胞株の製造方法、及び該方法によって製造され得る間葉系細胞株を用いた全能性幹細胞からの各種上皮細胞への分化を誘導する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在まで、間葉系細胞の分離精製は、各種消化酵素を用いて組織を消化した後、プラスチック容器への細胞の付着性に基づき間葉系細胞を分取することにより行うのが一般的であった(非特許文献1参照)。しかしこの方法では、得られる細胞種に限りがあること、線維芽細胞が混入すること、得られた間葉系細胞の形質が変異する可能性があること等の問題があるため、間葉系細胞の効率的な分取には経験が必要であった。
【0003】
胚性幹細胞(ES細胞)は発生初期段階である胚盤胞の一部に属する内部細胞塊より作成される幹細胞株のことであり、無限の増殖能を有し、且つ、理論上すべての組織(内胚葉系、外胚葉系及び中胚葉系)に分化しうる能力を有している。ES細胞は培養による維持が容易で、且つ、培養条件の変更により多種多様な組織への分化誘導が可能であることなどから、再生医療への応用が注目されている。
【0004】
現在までの数々の研究により、上皮細胞幹細胞、血液幹細胞などの幹細胞の非対称分裂及び増殖は、間葉系細胞とそれを取り巻く(細胞外マトリクスを含む)nicheと呼ばれる特殊な環境により制御されていることが判明している。それゆえに、間葉系細胞ならびにnicheを構成する環境因子を詳細に検討することは、各種幹細胞を制御する技術の開発につながると考えられている
【0005】
一方、ES細胞からの内胚葉系細胞、特にすい臓に存在するインシュリン産生上皮細胞への分化誘導方法として、ラミニンなどの細胞外マトリクス成分を含有するコラーゲンゲル上での培養が知られている。この方法は、細胞外マトリクスの刺激により、ES細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導することを目的としている。しかしながら、この方法で得られる内胚葉系細胞の種類は限られており、決して効率のよいものであるとはいえない。そこで、効率よいES細胞由来内胚葉系細胞の分化誘導、機能性上皮幹細胞誘導ならびに増殖培養法の開発が求められてきた。
【0006】
ES細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導する公知の方法については、非特許文献2〜4を参照すること。
【非特許文献1】Stem Cells, vol.25, No.10, p.2638-2647, 2007
【非特許文献2】Tissue Eng., vol.13, No.10, p.2419-2430, 2007
【非特許文献3】Curr. Med. Chem., vol.14, No.14, p.1573-1578, 2007
【非特許文献4】Nat. Protoc., vol.1, No.2, p. 495-507, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、種々の組織から間葉系細胞を簡便に分離し、間葉系細胞株を樹立する方法を提供することである。
本発明の第2の目的は、ES細胞等の全能性幹細胞から効率的に種々の内胚葉系上皮細胞への分化を誘導する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する培地中で、α−MEMの含有量を段階的に減少させながら培養することにより、マウスの各種臓器から間葉系細胞を分離精製することに成功した。さらに、培養条件の詳細な検討を行い、分取した細胞の形態や増殖力などのパラメーターに基づくスクリーニングの結果、長期培養可能な細胞株の分取に成功した。マウスES細胞との共培養により、樹立された間葉系細胞株はES細胞の内胚葉系細胞への分化を誘導した。この内胚葉系細胞は、ラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上で培養すると、膵臓のacina 細胞または消化管上皮細胞に存在するM細胞に高発現している分子であるGP2を発現し、小腸上皮細胞に特異的に発現する酵素であるlactaseを高発現する小腸上皮様細胞へ分化した。一方、内胚葉系細胞をオンコスタチンM存在下においてI型コラーゲンゲル上で培養すると、cytokeratin5及びcytokeratin8単独又は共陽性を呈する細胞を含有する細胞へと分化した。皮下脂肪から樹立された間葉系細胞株をマウス腹腔内投与すると、投与した細胞は骨髄へと移行した。同間葉系細胞株及び胎仔肝臓から樹立された間葉系細胞株をマウス腹腔内へ投与すると、骨髄中に存在する血液幹細胞の数が有意に増加した。脾臓から樹立された間葉系細胞上でES細胞を培養することにより得られる上皮様細胞をマウス皮下脂肪部位に移植すると、T細胞及び若干のB細胞を含有するリンパ節様の細胞塊が形成された。
以上の知見に基づき、本発明が完成された。
【0009】
即ち、本発明は以下に関する。
[1] 以下の工程を含む間葉系細胞の精製方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;及び
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
[2] 第1の培地及び第2の培地が更にRPMI1640を含有する、[1]記載の方法。
[3] (A)及び(C)において細胞がI型コラーゲンゲル上で培養される、[1]記載の方法。
[4] (A)で培養される細胞が脾臓、胎仔肝臓又は皮下脂肪由来である、[1]記載の方法。
[5] 更に以下の工程を含む、[1]記載の方法:
(C’)(D)で分離された間葉系細胞を、第2の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第3の培地中で培養すること;及び
(D’)(C’)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
[6] 以下の工程を含む間葉系細胞株の製造方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;及び
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること。
[7] [6]記載の方法により製造され得る間葉系細胞株。
[8] 以下の群から選択されるいずれか1種の間葉系細胞株である、[7]記載の間葉系細胞株:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
[9] 全能性幹細胞を[7]記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導することを含む、内胚葉系細胞の製造方法。
[10] 以下の工程を含む、小腸上皮様細胞の製造方法:
(I)全能性幹細胞を[7]記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、ラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上で培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
[11] 間葉系細胞株がStromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)である、[10]記載の方法。
[12] 以下の工程を含む、胸腺上皮様細胞の製造方法:
(I)全能性幹細胞を[7]記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、オンコスタチンMの存在下で、I型コラーゲンゲル上で培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
[13] 間葉系細胞株がStromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)又はStromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)である、[12]記載の方法。
[14] [7]記載の間葉系細胞株を含む血液幹細胞増殖剤。
[15] 間葉系細胞株がStromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)又はStromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)である、[14]記載の剤。
[16] 以下の工程を含む血液幹細胞増殖剤の製造方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること;及び
(F)(E)で得られた間葉系細胞株を医薬として許容される担体と混合し、血液幹細胞増殖剤を得ること。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いれば、種々の組織から間葉系細胞を簡便に分離し、間葉系細胞株を樹立することが可能となる。全能性幹細胞を、本発明の方法により樹立された間葉系細胞株と共培養することにより、種々の機能性上皮細胞への分化を誘導することができる。本発明は再生医療分野における人工組織の構築、幹細胞nicheのin vitroでの再現等、学術及び医療産業の両分野に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.間葉系細胞の精製方法
本発明は、以下の工程を含む間葉系細胞の精製方法(方法I)を提供するものである:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;及び
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【0012】
間葉系細胞とは、各組織における実質細胞又はリンパ球細胞を支持及び保持する細胞、或いはこれらの前駆細胞であり、組織形成の骨格を担っている。前記実質細胞には、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨芽細胞等が含まれる。
【0013】
間葉系細胞はほぼ全ての組織中に存在するため、(A)で用いられる「間葉系細胞を含む細胞」は、哺乳動物から摘出された所望の組織から自体公知の方法により調製することができる。該組織としては、脾臓、肝臓(好ましくは胎仔肝臓)、皮下脂肪、骨髄、胃、膵臓、腎臓、甲状腺、胆のう、皮膚、筋肉、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、顎下腺、卵巣、胎盤、子宮、骨格筋等を挙げることができる。該組織は、好ましくは、脾臓、肝臓(好ましくは胎仔肝臓)、皮下脂肪等である。例えば摘出された組織をコラゲナーゼ、トリプシン、DNaseなどの分解酵素で消化することにより、細胞を分散させ、得られた細胞を培養液等により洗浄し、本発明に供する。
【0014】
細胞中に含まれる間葉系細胞の割合を上げるために、間葉系細胞を含む細胞を、本発明に供する前に、適当な処理に付してもよい。間葉系細胞は、一般に培養用のプラスチックディッシュに対して接着性が高いので、組織から分離した細胞を、プラスチックディッシュ上で培養し、ディッシュに接着しない細胞を除去することにより、間葉系細胞の含有率を上げることができる。培養条件は、特に限定されないが、例えば細胞を1〜10(v/v)%のFCSを含有する培地(RPMI1640等)中で30分〜2時間程度培養する。また、間葉系細胞以外の細胞(例えば血球系細胞)に特異的に発現する細胞表面抗原を認識する抗体により該細胞を染色し、セルソーターや、抗体磁性マイクロビーズ等を用いて間葉系細胞以外の細胞を除去してもよい。血球系細胞に特異的な細胞表面抗原としては、CD3、B220、CD11c、CD11b、CD45、CD35等が挙げられる。
【0015】
本発明において用いられる細胞は、通常哺乳動物由来である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類を挙げることが出来る。
【0016】
(A)で用いられる培地は、基礎培地としてα−MEMを含有する。すなわち、(A)で用いる培地は、α−MEMと他の培地との混合培地である。α−MEMは周知の基礎培地であり、その組成も周知である。(A)で用いられる培地中のα−MEMの含有量は、通常50〜90(v/v)%、より好ましくは60〜80(v/v)%(例えば、65〜70(v/v)%)である。
【0017】
(A)で用いられる培地は、α−MEMに加え、基礎培地としてRPMI1640を更に含有することが好ましい。RPMI1640は周知の基礎培地であり、その組成も周知である。培地にRPMI1640が含まれる場合、(A)で用いられる培地中のRPMI1640の含有量は、通常5〜25(v/v)%、好ましくは10〜20(v/v)%(例えば、10〜15(v/v)%)である。
【0018】
(A)で用いられる培地は、基礎培地としてα−MEM及びRPMI1640以外の培地を更に含んでいてもよい。該培地としては、例えばDMEM、EMEM、F−12、F−10、HAM、BME、SFM−101、McCoy’s 5A、RITC80−7、HF−C1、NCTC135等が挙げられる。
【0019】
(A)で用いられる培地は、血清を含むことができる。血清は、好ましくは上記哺乳動物由来の血清(例えばウシ胎仔血清、ヒト血清等)である。また血清の代替添加物(例えばKnockout Serum Replacement (KSR)(Invitrogen社製)等)を用いてもよいが、血清を用いる方が間葉系細胞の分離効率が高く、好ましい。
血清の濃度は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常1〜30(v/v)%、好ましくは5〜20(v/v)%の範囲内である。
【0020】
(A)で用いられる培地は、上述の成分に加え、自体公知の添加物を含むことができる。添加物としては、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、例えば成長因子(例えばインスリン等)、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ポリアミン類(例えばプトレシン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d−ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられる。当該添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。
【0021】
(A)において、間葉系細胞を含む細胞をI型コラーゲンゲル上で培養することが好ましい。この場合、間葉系細胞を含む細胞は、I型コラーゲンを含むゲル(含有量:通常1000〜5000μg/ml、好ましくは2000〜3000μg/ml)上で、I型コラーゲンに接触した状態で培養される。I型コラーゲンは上述の哺乳動物(例えばウシ)由来のものが好ましい。
【0022】
(A)の培養期間は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常は顕微鏡下で敷石状の間葉系細胞コロニーが判別できるまで細胞が培養される。培養期間は通常2〜14日、好ましくは3〜10日(例えば6日)である。
【0023】
(A)における他の培養条件としては、細胞培養技術において通常用いられている条件を適用することができる。例えば、培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃が例示される。CO2濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%が例示される。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%が例示される。
【0024】
(B)においては、(A)の培養物から間葉系細胞が分離される。培養物とは、細胞を培養することにより得られる結果物をいい、細胞、培地等が含まれる。分離とは、目的物以外の成分を除去することをいう。(B)における分離は、好ましくは、線維芽細胞のコンタミネーションをできる限り排除し得るように行われる。例えば、顕微鏡下で、敷石状の形態を呈する細胞をマジョリティーとして含み、且つ線維芽細胞の形態を呈する細胞を含まないコロニーが、マニピュレーション等により分離される。間葉系細胞は敷石状の形態を呈するのに対して、線維芽細胞は紡錘状の形態を呈するので、間葉系細胞は線維芽細胞と容易に判別することができる。分離された間葉系細胞は、コラゲナーゼ等の酵素により分散され、適切な培地により洗浄された後に、(C)に供される。
【0025】
(C)においては、(B)で分離された間葉系細胞が、α−MEMを含有する第2の培地中で培養される。ここで、第2の培地中のα−MEMの含有量は、第1の培地のそれよりも低い。このように、培地中のα−MEMの含有量を段階的に減らすことにより、混入した線維芽細胞の増殖を極力抑制しつつ、間葉系細胞を特異的に増殖させることができる。
【0026】
(C)で用いられる培地中のα−MEMの含有量は、通常45〜85(v/v)%、より好ましくは55〜75(v/v)%(例えば、57〜63(v/v)%)である。
【0027】
(C)で用いられる培地は、(A)と同様に、α−MEMに加え、基礎培地としてRPMI1640を含有することが好ましい。培地にRPMI1640が含まれる場合、(C)で用いられる培地中のRPMI1640の含有量は、通常10〜30(v/v)%、好ましくは15〜25(v/v)%(例えば、17〜23(v/v)%)である。
【0028】
(C)で用いられる培地は、(A)と同様に、基礎培地としてα−MEM及びRPMI1640以外の培地を含んでいてもよい。
【0029】
(C)で用いられる培地は、(A)と同様に、血清を含むことができる。血清の濃度は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常1〜30(v/v)%、好ましくは5〜20(v/v)%の範囲内である。
【0030】
(C)で用いられる培地は、(A)と同様に、上述の成分に加え、自体公知の添加物を含むことができる。
【0031】
(C)においては、(A)と同様に、間葉系細胞はI型コラーゲンゲル上で培養されることが好ましい。
【0032】
(C)における培養期間は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常は顕微鏡下で敷石状の間葉系細胞コロニーが判別できるまで細胞が培養される。培養期間は通常2〜14日、好ましくは3〜10日(例えば6日)である。
【0033】
(C)における他の培養条件は、(A)と同様に、細胞培養技術において通常用いられている条件を用いることができる。
【0034】
(D)においては、(C)の培養物から間葉系細胞が分離される。分離方法は、上記(B)と同様である。上述の(A)〜(C)の一連の操作により、間葉系細胞の増殖を維持しながら、間葉系細胞を含む細胞から、間葉系細胞以外の細胞(線維芽細胞等)を効率よく除去することが可能となる。
【0035】
間葉系細胞をより高度に精製するため、(D)に引き続き、以下の操作を行ってもよい:
(C’)(D)で分離された間葉系細胞を、第2の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第3の培地中で培養すること;及び
(D’)(C’)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【0036】
(C’)においては、(D)で分離された間葉系細胞が、α−MEMを含有する第3の培地中で培養される。ここで、第3の培地中のα−MEMの含有量は、第2の培地のそれよりも低い。こうすることにより、混入した線維芽細胞の増殖を極力抑制しつつ、間葉系細胞を特異的に増殖させることができる。
【0037】
(C’)で用いられる培地中のα−MEMの含有量は、通常25〜65(v/v)%、より好ましくは35〜55(v/v)%(例えば、37〜43(v/v)%)である。
【0038】
(C’)で用いられる培地は、(C)と同様に、α−MEMに加え、基礎培地としてRPMI1640を含有することが好ましい。培地にRPMI1640が含まれる場合、(C’)で用いられる培地中のRPMI1640の含有量は、通常25〜65(v/v)%、より好ましくは35〜55(v/v)%(例えば、37〜43(v/v)%)である。
【0039】
(C’)で用いられる培地は、(C)と同様に、基礎培地としてα−MEM及びRPMI1640以外の培地を含んでいてもよい。
【0040】
(C’)で用いられる培地は、(C)と同様に、血清を含むことができる。血清の濃度は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常1〜30(v/v)%、好ましくは5〜20(v/v)%の範囲である。
【0041】
(C’)で用いられる培地は、(C)と同様に、上述の成分に加え、自体公知の添加物を含むことができる。
【0042】
(C’)においては、(C)と同様に、間葉系細胞はI型コラーゲン上で培養されることが好ましい。
【0043】
(C’)におけるその他の培養条件は(C)と同様である。
【0044】
(D’)においては、(C’)の培養物から間葉系細胞が分離される。分離方法は、上記(D)と同様である。
【0045】
また、もし必要であれば、更にα−MEMの含有量の低い培地を用いて上記(C’)及び(D’)と同様の操作を更に何回か繰り返し、間葉系細胞を段階的にα−MEMの含有量を低下させた培地により継代することにより、混入した線維芽細胞の増殖を極力抑制しつつ、間葉系細胞を更に特異的に増殖させることができる。
【0046】
本発明の方法Iは、下記の間葉系細胞株の製造や、血液幹細胞増殖剤の製造に有用である。
【0047】
2.間葉系細胞株の製造方法
上記方法Iにより精製された間葉系細胞から、間葉系細胞クローンを選択し、これを培養することにより、間葉系細胞株を得ることができる。即ち、本発明は、以下の工程を含む、間葉系細胞株の製造方法(方法II)を提供するものである:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;及び
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること。
【0048】
(E)における間葉系細胞クローンの選択は、限界希釈法などの周知の方法により行うことができる。例えば、(D)で分離された間葉系細胞を、コラゲナーゼやトリプシンEDTA等の酵素処理により単細胞に分散し、1ウェルに1つの細胞が入るように適切な培地を用いて播種し、培養する。そして、増殖したクローンの中から、細胞同士の接触により増殖が抑制される細胞が選択される。
【0049】
方法IIにより得られる間葉系細胞株は、通常、Ly-6A/E(Sca-1)及びVCAM-1が陽性である。また、方法IIにより得られる間葉系細胞株は、通常、系列マーカー(CD3、B220、CD11c、CD11b、CD45、CD35)、CK19、UEA-1、Ly51、Cld4、Cld3、Ck5、Muc21、ER-TR7及びER-TR5が陰性である。
【0050】
本明細書において、細胞の表現型をマーカー分子(抗原)発現の有無や強弱で表す場合、特に断りのない限り、当該マーカー分子に対する抗体の特異的結合の有無や強弱で細胞の表現型が表記される。マーカー分子の発現の有無や強弱による細胞の表現型の決定は、通常、当該マーカー分子に対する特異的抗体等を用いたフローサイトメトリー解析等により行われる。マーカー分子の発現が「陽性」とは、該マーカー分子が細胞表面上(或いは細胞内)に発現しており、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合が確認できることをいう。マーカー分子の発現が「陰性」とは、該マーカー分子が細胞表面上(或いは細胞内)に発現しておらず、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合が確認できないことをいう。
【0051】
方法IIにより製造され得る間葉系細胞株は、様々な分化段階の間葉系細胞であり得、脂肪細胞や骨芽細胞への分化能は、細胞株ごとに異なる。従って、細胞株を樹立した後に、各細胞株の脂肪細胞及び/又は骨芽細胞への分化能を確認することにより、脂肪細胞及び/又は骨芽細胞への分化能の有無が特定された間葉系細胞株を得ることができる。分化能の確認方法は公知である。脂肪細胞への分化能は、細胞をデキサメタゾン及びインスリンの存在下で約10日間培養した後、1% 緩衝ホルマリンにて固定し、oil-red-O溶液で染色することにより確認することができる。脂肪細胞が誘導されたことは、oil-red-O陽性細胞数の上昇により確認することが出来る。骨芽細胞への分化能は、細胞をデキサメタゾン、アスコルビン酸−2リン酸、及びβグリセロリン酸の存在下で培養することにより、確認することが出来る。骨芽細胞が誘導されたことは、細胞内アルカリフォスファターゼ活性や、培養物中の石灰化骨基質(カルシウム)量の上昇により確認することが出来る。得られた間葉系細胞株が、自己増殖能を有しており、且つ骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を有している場合、該細胞は間葉系幹細胞であると判定することができる。従って、方法IIにより、間葉系幹細胞株を製造することも可能である。
【0052】
また、方法IIにより製造され得る間葉系細胞株が、全能性幹細胞から内胚葉細胞への分化を誘導する能力も細胞株ごとに異なることが予想される。そこで、(E)の後で、得られた間葉系細胞株が全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導し得るか、確認してもよい。この確認は、下記方法IIIに記載された方法に従い行うことができる。全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導した間葉系細胞株が該誘導能を有する細胞として選択される。該細胞は、下記方法IIIに使用することができる。
【0053】
また、本発明は、方法IIにより製造され得る間葉系細胞株を提供する。該細胞株は、内胚葉系細胞の製造、小腸上皮様細胞の製造、胸腺上皮細胞の製造、血液幹細胞増殖剤の製造等に有用である。該細胞株の好ましい例として、以下を挙げることができる:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
【0054】
上述の細胞株は、茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている(受領日:平成20年2月29日)。
【0055】
Stromal-adipoは、マウスの皮下脂肪由来の細胞から、本発明の方法IIにより樹立された間葉系細胞株である。Stromal-adipoは骨芽細胞への分化能を有する。Stromal-adipoは全能性幹細胞の内胚葉系細胞への分化を強力に支持し得る。
【0056】
Stromal-adipo-GFPは、GFPトランスジェニックマウスの皮下脂肪由来の細胞から、本発明の方法IIにより樹立された間葉系細胞株である。Stromal-adipo-GFPは、生体内に移入されると、強力に血液幹細胞増殖を誘導する。
【0057】
Stromal-spleen-TNFは、TNF不全マウスの脾臓由来の細胞から、本発明の方法IIにより樹立された間葉系細胞株である。Stromal-spleen-TNFは、骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を有する。Stromal-adipoは全能性幹細胞の内胚葉系細胞への分化を強力に支持し得る。特に、全能性幹細胞の小腸上皮様細胞への分化を誘導する活性に優れている。また、Stromal-spleen-TNFは、全能性幹細胞の胸腺上皮様細胞への分化を誘導する活性に優れている。
【0058】
Stromal-fetal liverは、マウス胎仔肝臓の細胞から、本発明の方法IIにより樹立された間葉系細胞株である。Stromal-fetal liverは、骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を有する。Stromal-fetal liverは、全能性幹細胞の内胚葉系細胞への分化を強力に支持し得る。Stromal-fetal liverは、生体内に移入されると、強力に血液幹細胞増殖を誘導する。また、Stromal-fetal liverは、全能性幹細胞の胸腺上皮様細胞への分化を誘導する活性に優れている。
【0059】
3.内胚葉系細胞の製造方法
上記方法IIにより得られ得る間葉系細胞株は、全能性幹細胞の内胚葉系細胞への分化を支持し得る。従って、本発明は、全能性幹細胞を上記方法IIにより製造され得る間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導することを含む、内胚葉系細胞の製造方法(方法III)を提供するものである。
【0060】
方法IIIにおいて用いられる間葉系細胞株は、好ましくはStromal-adipo、Stromal-spleen-TNF又はStromal-fetal liverである。
【0061】
全能性幹細胞とは、インビトロにおいて培養可能で、長期間にわたって増殖することができ、自己複製能を持ち、生体を構成する全ての細胞やその前駆細胞に分化しうる能力を有する細胞をいう。全能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等を挙げることができる。全能性幹細胞は、好ましくはES細胞である。
【0062】
方法IIIにおいては、全能性幹細胞が間葉系細胞株と接触し得るように、同一の培養容器中で培養される。例えば、間葉系細胞株の単層上に全能性幹細胞を播種する。方法IIIにおいて用いられる間葉系細胞株は、自体公知の方法、例えば放射線(ガンマ線等)照射や抗癌剤(マイトマイシンC等)処理等で不活化されていることが好ましい。
【0063】
方法IIIにおいて用いられる培地の基礎培地は、自体公知のものを用いることができる。例えばDMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、HAM、BME、SFM−101、McCoy’s 5A、RITC80−7、HF−C1、NCTC135等やこれらの混合物を用いることができる。
【0064】
方法IIIにおいて用いられる培地は、方法Iの(A)と同様に、血清を含むことができる。血清の濃度は、方法IIIにより内胚葉系細胞を誘導し得る限り特に限定されないが、通常1〜30(v/v)%、好ましくは5〜20(v/v)%の範囲である。
【0065】
方法IIIにおいて用いられる培地は、方法Iの(A)と同様に、上述の成分に加え、自体公知の添加物を含むことができる。
【0066】
方法IIIにおける培養期間は、内胚葉系細胞を誘導し得る限り特に限定されないが、通常2〜14日、好ましくは3〜10日(例えば6日)である。
【0067】
その他の細胞培養条件は、細胞培養技術において通常用いられている培養条件を用いることができる。例えば、培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃が例示される。CO2濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%が例示される。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%が例示される。
【0068】
内胚葉系細胞への分化が誘導されたことは、タイトジャンクションのマーカー抗原(例えばZo−1)の発現を該抗原に特異的な抗体により検出することにより確認することができる。タイトジャンクションのマーカー抗原陽性細胞が内胚葉系細胞として特定される。
【0069】
方法IIIは、上記方法IIに引き続いて行うことができる。
【0070】
4.小腸上皮様細胞の製造方法
上述の方法IIIにより得られた内胚葉系細胞を、ラミニン及びI型コラーゲン上で培養することにより、小腸上皮様細胞への分化を誘導することができる。従って、本発明は、以下の工程を含む、小腸上皮様細胞の製造方法(方法IV)を提供するものである:
(I)全能性幹細胞を上記方法IIにより製造され得る間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、ラミニンを含有するI型コラーゲン上ゲルで培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
【0071】
方法IVにおいて用いられる間葉系細胞株は、好ましくはStromal-spleen-TNFである。
【0072】
(I)は方法IIIに従い行うことができる。
【0073】
(II)においては、内胚葉系細胞は、ラミニン(含有量:通常0.1〜20μg/ml、好ましくは1.25〜5μg/ml)及びI型コラーゲンを含むゲル(含有量:通常1000〜5000μg/ml、好ましくは2000〜3000μg/ml)上で、ラミニン及びI型コラーゲンに接着した状態で培養される。ラミニン及びI型コラーゲンは上述の哺乳動物(例えばウシ)由来のものが好ましい。
【0074】
その他の培養条件は、方法IIIと同様である。
【0075】
(II)において、小腸上皮様細胞への分化が誘導されたことは、消化管上皮に存在するM細胞や脾臓のacina細胞に特異的に発現するGP2やラクターゼの発現を特異的抗体やRT-PCRにより検出することにより確認することができる。上述のZo−1が陽性であり、且つGP2及びラクターゼを発現している細胞が小腸上皮様細胞として特定される。
【0076】
更に、(II)において得られる小腸上皮様細胞には、腸管上皮幹細胞様の細胞が含まれ得る。従って、方法IVは、腸管上皮幹細胞様の細胞の製造方法でもあり得る。(II)で得られた小腸上皮様細胞に腸管上皮幹細胞様の細胞が含まれていることは、(II)で得られた小腸上皮様細胞をコラゲナーゼやトリプシン−EDTAで単細胞へ分散し、再びI型コラーゲンゲル上またはトランスウェル上で培養したときに、M細胞のマーカーであるUEA−1及び腸管上皮細胞特異的分子であるVillinの発現を特異的抗体やRT-PCRにより検出することにより確認することができる。この確認工程におけるその他の培養条件は、方法IIIと同様である。UEA−1及びVillin陽性細胞が出現した場合には、(II)で得られた小腸上皮様細胞に腸管上皮幹細胞様の細胞が含まれていると判定することができる。
【0077】
方法IVは、上記方法IIに引き続いて行うことができる。
【0078】
5.胸腺上皮様細胞の製造方法
方法IIIにより得られた内胚葉系細胞を、オンコスタチンMの存在下で、I型コラーゲン上で培養することにより、胸腺上皮様細胞への分化を誘導することができる。従って、本発明は、以下の工程を含む、胸腺上皮様細胞の製造方法(方法V)を提供するものである:
(I)全能性幹細胞を上記方法IIにより製造され得る間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、オンコスタチンMの存在下で、I型コラーゲン上で培養することにより、内胚葉系細胞から胸腺上皮様細胞への分化を誘導すること。
【0079】
方法Vにおいて用いられる間葉系幹細胞株は、好ましくはStromal-spleen-TNF又はStromal-fetal liverである。
【0080】
(I)は方法IIIに従い行うことができる。
【0081】
(II)においては、内胚葉系細胞は、オンコスタチンM(通常1〜100ng/ml、好ましくは40〜50ng/ml)の存在下で、I型コラーゲンを含むゲル(含有量:通常1000〜5000μg/ml、好ましくは2000〜3000μg/ml)上で、I型コラーゲンに接着した状態で培養される。オンコスタチンM及びI型コラーゲンは上述の哺乳動物(例えばウシ)由来のものが好ましい。オンコスタチンMは、通常培地中に含まれる。
【0082】
その他の培養条件は、方法IIIと同様である。
【0083】
(II)において、胸腺上皮様細胞への分化が誘導されたことは、胸腺上皮細胞のマーカーであるCK5、CK8、ER−RT7、Foxn1等の発現を特異的抗体やRT-PCRにより検出することにより確認することができる。CK5、CK8及びER−RT7が陽性(フローサイトメトリー)であり、Foxn1を発現(RT−PCR)している細胞が胸腺上皮様細胞として特定される。
【0084】
更に、(II)において得られた胸腺上皮様細胞をコラゲナーゼやトリプシン−EDTAで分散し、単細胞とした後で、再びラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上で培養することにより、より機能的に成熟した胸腺上皮様細胞を得ることができる。このときの培養条件は、方法IVにおける(II)と同様である。機能的に成熟した胸腺上皮様細胞への分化が誘導されたことは、得られた胸腺上皮様細胞を皮下脂肪組織内に移植した場合に、T細胞(CD3陽性細胞)やB細胞(B220陽性細胞)を有するCK5陽性の網様状構造物(リンパ節様構造)が構築されることにより確認することができる。
【0085】
6.血液幹細胞増殖剤及びその製造方法
また、上記方法IIにより得られる間葉系細胞株を生体内に投与すると、骨髄内へ移行し、血液幹細胞の増殖を支持するので、血液幹細胞の増殖剤として、貧血等の予防・治療に有用である。例えば、貧血患者の組織(皮下脂肪、肝臓等)をバイオプシーで採取し、該組織から分離された間葉系細胞を含む細胞を用いて上記方法IIにより間葉系細胞株を樹立する。そして、当該貧血患者に得られた間葉系細胞株を注入して、患者の骨髄内において血液幹細胞の増殖を誘導するという手法によって、貧血治療を実施することができる。従って、本発明は、上記方法IIにより得られる間葉系細胞株を含む血液幹細胞増殖剤を提供するものである。
【0086】
本発明の血液幹細胞増殖剤に含まれる間葉系細胞株は、好ましくはStromal-adipo-GFP又はStromal-fetal liverである。
【0087】
本発明の血液幹細胞増殖剤は、例えば以下の方法により製造することができる:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること;及び
(F)(E)で得られた間葉系細胞株を医薬として許容される担体と混合し、血液幹細胞増殖剤を得ること。
【0088】
工程(A)〜(E)は、上記方法IIに従い行うことができる。
【0089】
上述の通り、(E)において得られる間葉系細胞株は、様々な分化段階の細胞であり、細胞株ごとに血液幹細胞の増殖を支持する能力が異なることが予想される。そこで、(E)の後で、得られた間葉系細胞株が血液幹細胞の増殖を支持し得るか、確認してもよい。この確認は間葉系細胞株を、哺乳動物の腹腔内に投与し、その約2週間後に骨髄内の血液幹細胞が有意に増加するか否かを検定することにより行うことができる。好ましくは、間葉系細胞株は投与対象の哺乳動物と同種の動物に由来し、より好ましくは同種同系の動物に由来する。血液幹細胞数の有意な増加を誘導した間葉系細胞株が選択され、次の工程(F)に供される。
【0090】
(F)では、常套手段に従って、有効量の上記間葉系細胞株を医薬として許容される担体と混合することにより血液幹細胞増殖剤が製造される。本発明の血液幹細胞増殖剤は、通常は、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることが出来る。本発明の血液幹細胞増殖剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合してもよい。
【0091】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒト等の上述の哺乳動物に対して投与することができる。
【0092】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
方法
(1)間葉系細胞株の樹立
マウスより各臓器(脾臓、胎仔肝臓及び皮下脂肪)を分取し、コラゲナーゼ (0.5 mg/ml)、DNase (0.5 mg/ml)及びディスパーゼ(125 ul)を含むRPMI1640中にて細かく刻み、ゆっくりと浸透させながら37oCにて15分間反応させた。反応後、組織片をプラスチック製メッシュ上にて磨り潰し、得られた細胞懸濁液を1200 RPMにて30分間遠心分離することにより細胞画分を分取し、該画分を2%のFCSを含有するPBSにて2回洗浄した。2%のFCSを含有するPBSにて再懸濁した細胞を再び同条件にて遠心分離することにより、各種組織より分離した細胞を回収した。得られた細胞を再び2%FCSを含有するRPMI1640にて再懸濁した後、培養用プレート上にまき、37oCにて30分間培養した。非付着細胞を2%のFCSを含むRPMI1640にて2回洗浄することにより除去した後、付着細胞をaccutaseにて回収し、2%のFCSを含有するPBSを用いて細胞を洗浄した。MACS システム及び各種抗体(anti-CD3、anti-CD19、anti-B220、anti-CD11c、anti-CD11b、anti-CD45及びanti-CD35)を用いたネガティブセレクションにより、得られた細胞懸濁液から非リンパ球画分を分取し、得られた細胞をI型コラーゲンゲル(新田ゼラチン)上にまき、20% FCSを含有する培地(PRMI1640:α-MEM=1:5)にて3日間培養した。敷石状の形態をとり、且つ、線維芽細胞様の形態を有する細胞を含まないコロニーを顕微鏡下にて選別し、コラゲナーゼを用いてゲルを消化することによりI型コラーゲンゲルより細胞を分離した。2%のFCSを含有するRPMI1640を用いて細胞を洗浄後、再び新しく作成したI型コラーゲンゲル上にまき、20% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:3)にて培養した。6日間の培養後、再び先述の基準によりコロニーを選別し、コラゲナーゼにて細胞をゲルより回収し、再び新しく作成したI型コラーゲンゲル上にまき、20% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)にて培養した。最後の操作を2回繰り返した後、敷石状の形態を有する細胞により形成されているコロニーのみをコラゲナーゼにて回収し、培養用のプラスチックディッシュ(35 mm、1 コロニー/ディッシュ) を用いて20% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)にて培養した。4〜6日間培養した後、形成されたコロニーを再び先述の基準にて選別し、0.25% トリプシン-EDTAを用いて細胞を分取し、20% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)にて懸濁し、再び35 mm プラスチックディッシュ上で6日間培養した。次に、得られたコロニーを各々0.25% トリプシン-EDTAにて分取し、10 cmプラスチックディッシュ上で15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて培養した。得られた細胞から、細胞同士の接触により増殖が抑制される細胞を選別し、該細胞から限外希釈法を用いて4種のクローン細胞株(Stromal-adipo、Stromal-adipo-GFP、Stromal-spleen-TNF及びStromal-fetal liver)を樹立した(図1)。
これらの細胞株は、産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、下記の受領番号が付与されている:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
【0094】
(2)間葉系細胞の表現系の解析
培養の結果、約80〜90%飽和となった間葉系細胞株を0.25% Trip-EDTAを用いて回収し、2%FCSを含有するPBS に再懸濁した。得られた細胞懸濁液に対し、anti-CD16/32を氷中にて10分反応させた後、以下の抗体を反応させ、FACS caliburを用いて、細胞表面マーカーの解析を行った。使用した抗体ならびに二次抗体;fluorescein-isothiocyanate (FITC)-conjugated anti-CD14 mAb、phycoerythrin (PE)-conjugated anti-CD11c mAb、FITC-conjugated anti-CD11b mAb、PE-conjugated anti-B220 mAb、FITC-conjugated anti-Gr-1 mAb、PE-conjugated anti-NK1.1 mAb、biotin-conjugated anti-CD11c mAb、biotin-conjugated anti-CD19 mAb、biotin-conjugated anti-CD8 mAb、biotin-conjugated anti-Gr-1 mAb、biotin-conjugated anti-B220 mAb、FITC-conjugated anti-F4/80、biotin-conjugated anti Ly-6A/E (Sca-1)及びpurified anti-CD16/32 mAbs はe-Bioscience (San Diego, CA, USA)から購入した。Streptavidin-conjugated Cy5、streptavidin-conjugated Cy3 (SA-Cy3)及びbiotin-conjugated goat anti-HRP polyclonal antibody はJackson ImmunoResearch (West Grove, PA, USA)から購入した。Streptavidin-conjugated Alexa Fluor 488 (SA-488)及びCy3-conjugated phalloidinはInvitrogen (Carlsbad, CA, USA)から購入した。Anti-mouse follicular dendritic cell marker 1 (FDC-M1)はBD pharmingenから購入した。Anti-ER-RT7、anti-ER-TR5、anti-Muc21、anti-K5、anti-Cld3、anti-Cld4、anti-Ly51はDr. Kawamotoより供与された。Anti-keratin 19はNOVから購入した。Phaloidin-conjugated UEA-1はvectorから購入した。
【0095】
(3)間葉系細胞の分化能の検討
脂肪細胞系への分化:
分取した間葉系細胞株を15% FCS, 10-8M デキサメタゾン及び5 ug/mlのインスリンを含有する培地(PRMI1640:α-MEM=1:1)を用いて培養した。10日後、細胞を1% 緩衝ホルマリンにて固定し、oil-red-O溶液を用いて室温にて1時間染色した後、顕微鏡下で観察をおこなった(図2)。
骨芽細胞系への分化:
分取した間葉系細胞株を添付文書に従い骨芽細胞分化誘導培地(Miltenyi Biotec Inc)を用いて培養した。10日間培養した後、細胞を1% 緩衝ホルマリンにて固定し、NBT溶液を用いて室温にて30分間染色し、顕微鏡下で観察をおこなった(図2)。
【0096】
(4)間葉系細胞株を用いたES細胞からの上皮細胞への分化誘導
Mitomycin C (MMC)処理を施したマウス胎仔由来繊維芽上にマウスES細胞をまき、2日間培養した。これと平行して、80-90%飽和状態になった各間葉系細胞株に対しMMCを2.5時間反応させた。先に培養しておいたマウスES細胞との共培養を開始する2時間前に、15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて細胞を洗浄した。10cm ディッシュ上に培養した間葉系細胞に対し、2x105個のES細胞を添加した。添加後、細胞を37oCのCO2インキュベーターを用いて培養した。培養開始2日後に、上清をアスピレーターにより除去し、新しく作成した15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて培養を継続した。共培養開始6日後、20% FCSを含有するD-MEMに培地を置換し、培養を12時間行った。新たに作成した15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて非付着細胞を除去した後、0.25% トリプシン-EDTAを用いて細胞を分取し、15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)にて再懸濁後、I型コラーゲンゲル上又はラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上にて細胞を培養した。さらに、細胞の一部を、オンコスタチンM(OSM)及び15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて引き続き培養した(図6及び9)。さらに、上記反応にて得られた上皮細胞様膜をコラゲナーゼを用いてI型コラーゲンゲルより分離し、ラミニンをコートした培養用ディッシュ上にてOSM存在下で培養した(図8)。
【0097】
(5)間葉系細胞株を用いた養子免疫法
各間葉系細胞を1x106 個/200 ul となるようにリンゲル溶液に懸濁し、マウスの腹腔内に投与した。また、上記培養にて得られた上皮様細胞膜(4〜6)をリンゲル液に懸濁し、マウス皮下脂肪にシリンジを用いて注入した。
【0098】
(6)骨髄血液幹細胞の解析
マウスの大腿骨ならびに頸骨を分取し、氷中にて冷やしたPBSとシリンジを用いて骨髄を取り出した。骨髄をナイロンメッシュにて磨り潰した後、赤血球破砕溶液(ACK Buffer)を用いて処理し、2%FCSを含有するPBS中に再懸濁した。得られた骨髄細胞懸濁液をanti-CD16/32と氷中にて10分間反応させた後、各種lineage markerに対する抗体ならびにanti-CD34、anti-c-kit及びanti-Sca1を用いて染色し、lineage marker-、c-kit+、Sca-1+の画分を骨髄由来血液幹細胞とした。
【0099】
(7)免疫組織染色
I型コラーゲンゲルより培地をアスピレーターにより除去した後、細胞をZnホルマリンにて室温で5分反応させ固定した。サンプルをPBSにて5分間3回室温で洗浄した後、2%ヤギ血清を含有するPBSを室温にて30分反応させた。免疫染色用の抗体は上記のものを使用し、一次抗体の反応は4 oCで一晩、二次抗体は室温で2時間反応を行った。サンプルをT-TBSを用いて室温で10分3回洗浄した後、DAPIを含有する褪色防止剤を用いて封入し、各種顕微鏡を用いて観察した。
【0100】
結果
間葉系細胞についての最も一般的な生理学的な特徴としては、培養用のディッシュに対して高い付着性を有するという点である。そこで、各臓器より間葉系細胞を分取することを目的とし、検討を行った。まず、各種臓器をコラゲナーゼ、ディスパーゼ及びDNaseを含有する溶液で消化した後、先述の方法にて培養用のディッシュに対して高い付着性を有する細胞を分取し、これをスタートサンプルとした。間葉系細胞以外で付着性がよく知られている細胞として、マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞等がある。マクロファージや樹状細胞はその半減期が7日以内と比較的短いため、問題とはならないが、間葉系細胞を分取するためには、線維芽細胞との区別が重要となる。さらに、間葉系細胞は培養条件によりその形態及び表現系が変化することが知られている。そこで、間葉系細胞分取に最適であり、且つ線維芽細胞の増殖が比較的穏やかな培養条件を検討した。そして、上述の培養条件を用いて、線維芽細胞様の形態を有さない細胞群を分取し、さらに、限外希釈法を用いることにより、継続的に培養可能な4種類の間葉系細胞株(Stromal-adipo、Stromal-adipo-GFP、Stromal-spleen-TNF及びStromal-fetal liver)を樹立した。これらの細胞株は、産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、下記の受領番号が付与されている:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
【0101】
図1aに示すように、得られたいずれの細胞株も、細胞を低密度で培養した場合、広い細胞質を有する細胞であった。これらの細胞株をaccutaseを用いて培養用のディッシュより細胞懸濁液として回収し、一部をcytoperm cytoFixを用いて処理した後、図1cに示す各抗体にて染色し、FACSCaliburを用いて細胞マーカーの解析を行った。得られた細胞株はいずれもLineage marker、CK19、UEA-1、Ly51、Cld4、Cld3、Ck5、Muc21、ER-TR7及びER-TR5を発現していなかったのに対し、Ly-6A/E(Sca-1)及びVCAM-1の発現は全ての間葉系細胞株において認められた。
【0102】
間葉系幹細胞の特徴としては、適当な培養条件下で脂肪細胞、骨芽細胞などの細胞種へと分化誘導が可能であるという点が挙げられる。そこで、得られた間葉系細胞株のそれら細胞への分化能を検討するために、間葉系細胞株を脂肪細胞又は骨芽細胞分化誘導培地にて培養した。10日間培養した後、各細胞をoil-red-O及びNBPにて染色した結果、図2に示すように、胎仔肝臓由来間葉系幹細胞株(Stromal-fetal liver)及び成体TNF-KOマウス脾臓由来間葉系幹細胞株(Stromal-spleen-TNF)は骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を有するのに対し、成体皮下脂肪組織由来間葉系細胞株(Stromal-adipo)は骨芽細胞への分化能が欠如していた。さらに、同じ成体皮下脂肪組織由来ではあるが、GFP-Tgマウスの同組織より樹立した間葉系細胞株であるStromal-adipo-GFPは脂肪細胞及び骨芽細胞両種への分化能を有してはいなかった。したがって、上記方法は各種臓器より、種々の分化過程にある間葉系細胞を効率よく分取可能な方法であり、上記方法により得られる未熟な間葉系細胞は間葉系幹細胞同様、多種の細胞種への分化能を有する細胞であることが示唆された。
【0103】
得られた間葉系幹細胞株を皮下及び腹腔内に投与し、癌化の有無について検討した。しかしながら、投与後3週間において組織の癌化および固体の死亡は確認できなかった。
【0104】
腹腔内投与後の間葉系幹細胞株の生体内分布を検討するために、GFP-Tgマウス皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞株(Stromal-adipo-GFP)をマウス腹腔内に投与し、2週間後に各組織切片を作成し、蛍光顕微鏡を用いて観察した。その結果、GFP-Tgマウス皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞株の集積を大腿骨の骨・骨髄境界面に確認できた(図3)。そこで、間葉系幹細胞株の血液幹細胞に与える影響について検討するために、分取した間葉系幹細胞株をマウス腹腔に投与し、投与2週間後の骨髄を分取し、血液幹細胞の割合をFACSを用いて測定した。その結果、GFP-Tg成体マウス皮下脂肪組織由来間葉系細胞株(Stromal-adipo-GFP)又はマウス胎仔肝臓由来間葉系細胞株(Stromal-fetal liver)を腹腔内に投与した群において、血液幹細胞(Lin- c-kit+ Ly-6A/E+細胞)の有意な増加が確認された(図4)。これらの知見は、GFP-Tg成体マウス皮下脂肪組織由来間葉系細胞株(Stromal-adipo-GFP)及びマウス胎仔肝臓由来間葉系細胞株(Stromal-fetal liver)は優れた血液幹細胞保持能を有することを示唆するものであり、再生医療やヒト化マウス作成における血液幹細胞保持技術の開発において有用であると考えられた。
【0105】
得られた間葉系細胞株のES細胞分化支持能について検討を行った。MMC処理を施したマウス胎仔由来線維芽細胞上にてES細胞を拡大培養した後、同処理を施した各間葉系細胞株上にてさらに6日間培養した後、オンコスタチンM (OSM)又はラミニン存在下で、I型コラーゲンを用いて作成したゲル上で6日間追加培養した。間葉系細胞株上での6日間の培養においてES細胞はタイトジャンクションのマーカーであるZo-1陽性のクラスターを形成するようになった。しかしながら、ラミニン非存在下では、このクラスター(膜状クラスター)においてそれ以上の機能性分化は誘導されなかったのに対し、ラミニン存在下では、Zo-1陽性細胞のクラスターにおいて消化管上皮細胞に存在するM細胞ならびに脾臓のacina細胞に特異的発現するGP2分子の高発現が確認されるようになった(図7)。得られた細胞クラスターよりmRNAを調製し、ラクターゼに対するプライマーを用いてRT-PCRを行った結果、得られた細胞クラスターは小腸上皮様細胞に分化していることが確認された(図7b)。次に、形成された細胞クラスターに幹細胞が存在するか確認するために、ラミニン存在下I型コラーゲンゲル上で分化誘導して得られた細胞クラスターを、コラゲナーゼおよびトリプシン-EDTAを用いて消化し、単細胞とした後、再びI型コラーゲンゲルまたはトランスウェル上にて培養し、得られたコロニーについて免疫染色を行った。その結果、コロニーには先述同様、M細胞のマーカーとして広く認知されているUEA-1陽性細胞が高い割合で存在することが確認された(85%超)。さらに、このクラスターは腸管上皮細胞特異的分子であるVillinも陽性であった(図8)。以上の結果から、コラゲナーゼおよびトリプシン-EDTA消化により得られた単細胞中に腸管上皮細胞幹細胞様細胞が存在しており、刺激によりM細胞様細胞に分化し得ることが示唆された。
【0106】
つぎに、MMC処理を施したマウス胎仔由来線維芽細胞上にて拡大培養したES細胞を、同処理を施した各間葉系細胞株上(TNF-/-脾臓由来;Stromal-spleen-TNF、胎仔肝臓由来; Stromal-fetal liver)で6日間培養した後、オンコスタチンM (OSM)存在下、I型コラーゲンを用いて作成したゲル上で6日間追加培養した。得られた細胞クラスターを胸腺上皮細胞のマーカーであるCK5及びCK8、さらにはER-RT7を用いて免疫染色した結果、脾臓細胞由来間葉系細胞(Stromal-spleen-TNF)を用いてES細胞を分化誘導することにより構成される細胞クラスターにはCK5/CK8共陽性の細胞が存在することが明らかとなった(図10)。また、この細胞クラスターには胸腺上皮細胞に発現する分子であるFoxn1遺伝子の発現が確認されたことから、この細胞クラスターは胸腺形成の誘導細胞となり得る可能性が示唆された(図10)。また、ES細胞を胎仔肝臓由来間葉系細胞(Stromal-fetal liver)を用い培養することにより得られる細胞クラスターにはケラチノサイトのマーカーであるER-RT7陽性細胞が確認された。以上の結果から、上記方法を組み合わせることで各種上皮細胞の分化誘導が可能であるのみならず、人工的な胸腺原基構築の基礎的検討への応用が可能であることが明らかとなった。この可能性を確認するために、TNF-/-マウス脾臓由来間葉系細胞(Stromal-spleen-TNF)を用いて分化誘導した上皮様細胞クラスターをコラゲナーゼ/トリプシン-EDTAを用いて分取し、得られた細胞をラミニンを用いてあらかじめコーティングした培養用ディッシュ上にまき、4日後に再び細胞クラスターを回収し、リンゲル溶液に再懸濁し、マウス皮下脂肪部に移植した。処置3週間後、マウスより、皮下脂肪を分取し免疫染色した。その結果、マウス皮下組織内にCK5により染色される網様状構造内にCD3陽性細胞を持つリンパ節様構造が構築されていることが明らかとなった(図12)。上記方法を用いることにより胸腺構造の原基であるCD3陽性細胞のクラスターを皮下組織内に構築することが可能であったことから、本発明の方法は再生医療技術開発において有用であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の方法を用いれば、種々の組織から間葉系細胞を簡便に分離し、間葉系細胞株を樹立することが可能となる。全能性幹細胞を、本発明の方法により樹立された間葉系細胞株と共培養することにより、種々の機能性上皮細胞への分化を誘導することができる。本発明は再生医療分野における人工組織の構築、幹細胞nicheのin vitroでの再現等、学術及び医療産業の両分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1a】マウス脾臓(TNF KO)、皮下脂肪(野生型)、胎仔肝臓(野生型)及び皮下脂肪(GFP-Tg)から樹立された間葉系細胞株(Stromal-spleen-TNF、Stromal-adipo、Stromal-fetal liver及びStromal-adipo-GFP)の顕微鏡写真。
【図1b】マウス脾臓(TNF KO)(黒四角)、皮下脂肪(野生型)(黒三角)、胎仔肝臓(野生型)(白四角)及び皮下脂肪(GFP-Tg)(白三角)から樹立された間葉系細胞株の増殖をMTTアッセイの吸光度で示す。
【図1c】マウス脾臓(TNF KO)、皮下脂肪(野生型)及び胎仔肝臓(野生型)から樹立された間葉系細胞株の表面抗原の発現。下の表は、全ての間葉系細胞株において発現が認められなかった表面抗原を示す。
【図2】マウス脾臓(TNF KO)、皮下脂肪(野生型)、胎仔肝臓(野生型)及び皮下脂肪(GFP-Tg)から樹立された間葉系細胞株の骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を示す。
【図3】腹腔内に投与されたGFP-Tgマウス皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞株(Stromal-adipo-GFP)が、大腿骨の骨髄内に浸潤する様子を示す。
【図4】マウス脾臓(TNF KO)、皮下脂肪(野生型)及び胎仔肝臓(野生型)から樹立された間葉系細胞株の移植による血液幹細胞数(%)及び胸腺重量(mg)の変化を示す。
【図5】細胞投与14日後の胸腺の免疫染色像。細胞投与14日後にマウスより胸線を分取し、凍結切片を作成した後、胸腺のmedullary epithelial のmarker であるUEA-1-PE と活性化胸腺上皮細胞のmarkerであるGp2 (biotinylated anti-rat IgG and detected with Avidin-Alexa 488 red)で染色した。細胞の投与は胸腺の重量に変化を与えるも、組織学的構造に影響を与えることはなかった。つまり、投与した細胞は病的組織変化(癌化、炎症、など)を引き起こさない無害なものであることが示された。
【図6】ES細胞からの小腸上皮様細胞への分化のための培養プロトコールを模式的に示す。
【図7】間葉系細胞株上でのES細胞から上皮細胞への分化の様子を示す。
【図8】TNF KOマウスの脾臓由来の間葉系細胞株(Stromal-spleen-TNF)がES細胞からの小腸上皮様細胞への分化を支持する様子を示す。
【図9】ES細胞からの胸腺上皮様細胞への分化のための培養プロトコールを模式的に示す。
【図10】マウス脾臓(TNF KO)及び胎仔肝臓(野生型)由来の間葉系細胞株(Stromal-spleen-TNF、Stromal-fetal liver)がES細胞からの胸腺上皮様細胞への分化を支持する様子を示す。
【図11】ES細胞からの胸腺上皮様細胞への分化のための培養プロトコールを模式的に示す。
【図12】ES細胞から分化した胸腺上皮様細胞の移植により皮下脂肪内で構築されたリンパ節様構造を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系細胞の分離方法、間葉系細胞株の製造方法、及び該方法によって製造され得る間葉系細胞株を用いた全能性幹細胞からの各種上皮細胞への分化を誘導する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在まで、間葉系細胞の分離精製は、各種消化酵素を用いて組織を消化した後、プラスチック容器への細胞の付着性に基づき間葉系細胞を分取することにより行うのが一般的であった(非特許文献1参照)。しかしこの方法では、得られる細胞種に限りがあること、線維芽細胞が混入すること、得られた間葉系細胞の形質が変異する可能性があること等の問題があるため、間葉系細胞の効率的な分取には経験が必要であった。
【0003】
胚性幹細胞(ES細胞)は発生初期段階である胚盤胞の一部に属する内部細胞塊より作成される幹細胞株のことであり、無限の増殖能を有し、且つ、理論上すべての組織(内胚葉系、外胚葉系及び中胚葉系)に分化しうる能力を有している。ES細胞は培養による維持が容易で、且つ、培養条件の変更により多種多様な組織への分化誘導が可能であることなどから、再生医療への応用が注目されている。
【0004】
現在までの数々の研究により、上皮細胞幹細胞、血液幹細胞などの幹細胞の非対称分裂及び増殖は、間葉系細胞とそれを取り巻く(細胞外マトリクスを含む)nicheと呼ばれる特殊な環境により制御されていることが判明している。それゆえに、間葉系細胞ならびにnicheを構成する環境因子を詳細に検討することは、各種幹細胞を制御する技術の開発につながると考えられている
【0005】
一方、ES細胞からの内胚葉系細胞、特にすい臓に存在するインシュリン産生上皮細胞への分化誘導方法として、ラミニンなどの細胞外マトリクス成分を含有するコラーゲンゲル上での培養が知られている。この方法は、細胞外マトリクスの刺激により、ES細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導することを目的としている。しかしながら、この方法で得られる内胚葉系細胞の種類は限られており、決して効率のよいものであるとはいえない。そこで、効率よいES細胞由来内胚葉系細胞の分化誘導、機能性上皮幹細胞誘導ならびに増殖培養法の開発が求められてきた。
【0006】
ES細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導する公知の方法については、非特許文献2〜4を参照すること。
【非特許文献1】Stem Cells, vol.25, No.10, p.2638-2647, 2007
【非特許文献2】Tissue Eng., vol.13, No.10, p.2419-2430, 2007
【非特許文献3】Curr. Med. Chem., vol.14, No.14, p.1573-1578, 2007
【非特許文献4】Nat. Protoc., vol.1, No.2, p. 495-507, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、種々の組織から間葉系細胞を簡便に分離し、間葉系細胞株を樹立する方法を提供することである。
本発明の第2の目的は、ES細胞等の全能性幹細胞から効率的に種々の内胚葉系上皮細胞への分化を誘導する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する培地中で、α−MEMの含有量を段階的に減少させながら培養することにより、マウスの各種臓器から間葉系細胞を分離精製することに成功した。さらに、培養条件の詳細な検討を行い、分取した細胞の形態や増殖力などのパラメーターに基づくスクリーニングの結果、長期培養可能な細胞株の分取に成功した。マウスES細胞との共培養により、樹立された間葉系細胞株はES細胞の内胚葉系細胞への分化を誘導した。この内胚葉系細胞は、ラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上で培養すると、膵臓のacina 細胞または消化管上皮細胞に存在するM細胞に高発現している分子であるGP2を発現し、小腸上皮細胞に特異的に発現する酵素であるlactaseを高発現する小腸上皮様細胞へ分化した。一方、内胚葉系細胞をオンコスタチンM存在下においてI型コラーゲンゲル上で培養すると、cytokeratin5及びcytokeratin8単独又は共陽性を呈する細胞を含有する細胞へと分化した。皮下脂肪から樹立された間葉系細胞株をマウス腹腔内投与すると、投与した細胞は骨髄へと移行した。同間葉系細胞株及び胎仔肝臓から樹立された間葉系細胞株をマウス腹腔内へ投与すると、骨髄中に存在する血液幹細胞の数が有意に増加した。脾臓から樹立された間葉系細胞上でES細胞を培養することにより得られる上皮様細胞をマウス皮下脂肪部位に移植すると、T細胞及び若干のB細胞を含有するリンパ節様の細胞塊が形成された。
以上の知見に基づき、本発明が完成された。
【0009】
即ち、本発明は以下に関する。
[1] 以下の工程を含む間葉系細胞の精製方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;及び
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
[2] 第1の培地及び第2の培地が更にRPMI1640を含有する、[1]記載の方法。
[3] (A)及び(C)において細胞がI型コラーゲンゲル上で培養される、[1]記載の方法。
[4] (A)で培養される細胞が脾臓、胎仔肝臓又は皮下脂肪由来である、[1]記載の方法。
[5] 更に以下の工程を含む、[1]記載の方法:
(C’)(D)で分離された間葉系細胞を、第2の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第3の培地中で培養すること;及び
(D’)(C’)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
[6] 以下の工程を含む間葉系細胞株の製造方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;及び
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること。
[7] [6]記載の方法により製造され得る間葉系細胞株。
[8] 以下の群から選択されるいずれか1種の間葉系細胞株である、[7]記載の間葉系細胞株:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
[9] 全能性幹細胞を[7]記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導することを含む、内胚葉系細胞の製造方法。
[10] 以下の工程を含む、小腸上皮様細胞の製造方法:
(I)全能性幹細胞を[7]記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、ラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上で培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
[11] 間葉系細胞株がStromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)である、[10]記載の方法。
[12] 以下の工程を含む、胸腺上皮様細胞の製造方法:
(I)全能性幹細胞を[7]記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、オンコスタチンMの存在下で、I型コラーゲンゲル上で培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
[13] 間葉系細胞株がStromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)又はStromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)である、[12]記載の方法。
[14] [7]記載の間葉系細胞株を含む血液幹細胞増殖剤。
[15] 間葉系細胞株がStromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)又はStromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)である、[14]記載の剤。
[16] 以下の工程を含む血液幹細胞増殖剤の製造方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること;及び
(F)(E)で得られた間葉系細胞株を医薬として許容される担体と混合し、血液幹細胞増殖剤を得ること。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いれば、種々の組織から間葉系細胞を簡便に分離し、間葉系細胞株を樹立することが可能となる。全能性幹細胞を、本発明の方法により樹立された間葉系細胞株と共培養することにより、種々の機能性上皮細胞への分化を誘導することができる。本発明は再生医療分野における人工組織の構築、幹細胞nicheのin vitroでの再現等、学術及び医療産業の両分野に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.間葉系細胞の精製方法
本発明は、以下の工程を含む間葉系細胞の精製方法(方法I)を提供するものである:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;及び
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【0012】
間葉系細胞とは、各組織における実質細胞又はリンパ球細胞を支持及び保持する細胞、或いはこれらの前駆細胞であり、組織形成の骨格を担っている。前記実質細胞には、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨芽細胞等が含まれる。
【0013】
間葉系細胞はほぼ全ての組織中に存在するため、(A)で用いられる「間葉系細胞を含む細胞」は、哺乳動物から摘出された所望の組織から自体公知の方法により調製することができる。該組織としては、脾臓、肝臓(好ましくは胎仔肝臓)、皮下脂肪、骨髄、胃、膵臓、腎臓、甲状腺、胆のう、皮膚、筋肉、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、顎下腺、卵巣、胎盤、子宮、骨格筋等を挙げることができる。該組織は、好ましくは、脾臓、肝臓(好ましくは胎仔肝臓)、皮下脂肪等である。例えば摘出された組織をコラゲナーゼ、トリプシン、DNaseなどの分解酵素で消化することにより、細胞を分散させ、得られた細胞を培養液等により洗浄し、本発明に供する。
【0014】
細胞中に含まれる間葉系細胞の割合を上げるために、間葉系細胞を含む細胞を、本発明に供する前に、適当な処理に付してもよい。間葉系細胞は、一般に培養用のプラスチックディッシュに対して接着性が高いので、組織から分離した細胞を、プラスチックディッシュ上で培養し、ディッシュに接着しない細胞を除去することにより、間葉系細胞の含有率を上げることができる。培養条件は、特に限定されないが、例えば細胞を1〜10(v/v)%のFCSを含有する培地(RPMI1640等)中で30分〜2時間程度培養する。また、間葉系細胞以外の細胞(例えば血球系細胞)に特異的に発現する細胞表面抗原を認識する抗体により該細胞を染色し、セルソーターや、抗体磁性マイクロビーズ等を用いて間葉系細胞以外の細胞を除去してもよい。血球系細胞に特異的な細胞表面抗原としては、CD3、B220、CD11c、CD11b、CD45、CD35等が挙げられる。
【0015】
本発明において用いられる細胞は、通常哺乳動物由来である。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類を挙げることが出来る。
【0016】
(A)で用いられる培地は、基礎培地としてα−MEMを含有する。すなわち、(A)で用いる培地は、α−MEMと他の培地との混合培地である。α−MEMは周知の基礎培地であり、その組成も周知である。(A)で用いられる培地中のα−MEMの含有量は、通常50〜90(v/v)%、より好ましくは60〜80(v/v)%(例えば、65〜70(v/v)%)である。
【0017】
(A)で用いられる培地は、α−MEMに加え、基礎培地としてRPMI1640を更に含有することが好ましい。RPMI1640は周知の基礎培地であり、その組成も周知である。培地にRPMI1640が含まれる場合、(A)で用いられる培地中のRPMI1640の含有量は、通常5〜25(v/v)%、好ましくは10〜20(v/v)%(例えば、10〜15(v/v)%)である。
【0018】
(A)で用いられる培地は、基礎培地としてα−MEM及びRPMI1640以外の培地を更に含んでいてもよい。該培地としては、例えばDMEM、EMEM、F−12、F−10、HAM、BME、SFM−101、McCoy’s 5A、RITC80−7、HF−C1、NCTC135等が挙げられる。
【0019】
(A)で用いられる培地は、血清を含むことができる。血清は、好ましくは上記哺乳動物由来の血清(例えばウシ胎仔血清、ヒト血清等)である。また血清の代替添加物(例えばKnockout Serum Replacement (KSR)(Invitrogen社製)等)を用いてもよいが、血清を用いる方が間葉系細胞の分離効率が高く、好ましい。
血清の濃度は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常1〜30(v/v)%、好ましくは5〜20(v/v)%の範囲内である。
【0020】
(A)で用いられる培地は、上述の成分に加え、自体公知の添加物を含むことができる。添加物としては、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、例えば成長因子(例えばインスリン等)、鉄源(例えばトランスフェリン等)、ポリアミン類(例えばプトレシン等)、ミネラル(例えばセレン酸ナトリウム等)、糖類(例えばグルコース等)、有機酸(例えばピルビン酸、乳酸等)、血清蛋白質(例えばアルブミン等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、ビタミン類(例えばアスコルビン酸、d−ビオチン等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)等が挙げられる。当該添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。
【0021】
(A)において、間葉系細胞を含む細胞をI型コラーゲンゲル上で培養することが好ましい。この場合、間葉系細胞を含む細胞は、I型コラーゲンを含むゲル(含有量:通常1000〜5000μg/ml、好ましくは2000〜3000μg/ml)上で、I型コラーゲンに接触した状態で培養される。I型コラーゲンは上述の哺乳動物(例えばウシ)由来のものが好ましい。
【0022】
(A)の培養期間は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常は顕微鏡下で敷石状の間葉系細胞コロニーが判別できるまで細胞が培養される。培養期間は通常2〜14日、好ましくは3〜10日(例えば6日)である。
【0023】
(A)における他の培養条件としては、細胞培養技術において通常用いられている条件を適用することができる。例えば、培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃が例示される。CO2濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%が例示される。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%が例示される。
【0024】
(B)においては、(A)の培養物から間葉系細胞が分離される。培養物とは、細胞を培養することにより得られる結果物をいい、細胞、培地等が含まれる。分離とは、目的物以外の成分を除去することをいう。(B)における分離は、好ましくは、線維芽細胞のコンタミネーションをできる限り排除し得るように行われる。例えば、顕微鏡下で、敷石状の形態を呈する細胞をマジョリティーとして含み、且つ線維芽細胞の形態を呈する細胞を含まないコロニーが、マニピュレーション等により分離される。間葉系細胞は敷石状の形態を呈するのに対して、線維芽細胞は紡錘状の形態を呈するので、間葉系細胞は線維芽細胞と容易に判別することができる。分離された間葉系細胞は、コラゲナーゼ等の酵素により分散され、適切な培地により洗浄された後に、(C)に供される。
【0025】
(C)においては、(B)で分離された間葉系細胞が、α−MEMを含有する第2の培地中で培養される。ここで、第2の培地中のα−MEMの含有量は、第1の培地のそれよりも低い。このように、培地中のα−MEMの含有量を段階的に減らすことにより、混入した線維芽細胞の増殖を極力抑制しつつ、間葉系細胞を特異的に増殖させることができる。
【0026】
(C)で用いられる培地中のα−MEMの含有量は、通常45〜85(v/v)%、より好ましくは55〜75(v/v)%(例えば、57〜63(v/v)%)である。
【0027】
(C)で用いられる培地は、(A)と同様に、α−MEMに加え、基礎培地としてRPMI1640を含有することが好ましい。培地にRPMI1640が含まれる場合、(C)で用いられる培地中のRPMI1640の含有量は、通常10〜30(v/v)%、好ましくは15〜25(v/v)%(例えば、17〜23(v/v)%)である。
【0028】
(C)で用いられる培地は、(A)と同様に、基礎培地としてα−MEM及びRPMI1640以外の培地を含んでいてもよい。
【0029】
(C)で用いられる培地は、(A)と同様に、血清を含むことができる。血清の濃度は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常1〜30(v/v)%、好ましくは5〜20(v/v)%の範囲内である。
【0030】
(C)で用いられる培地は、(A)と同様に、上述の成分に加え、自体公知の添加物を含むことができる。
【0031】
(C)においては、(A)と同様に、間葉系細胞はI型コラーゲンゲル上で培養されることが好ましい。
【0032】
(C)における培養期間は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常は顕微鏡下で敷石状の間葉系細胞コロニーが判別できるまで細胞が培養される。培養期間は通常2〜14日、好ましくは3〜10日(例えば6日)である。
【0033】
(C)における他の培養条件は、(A)と同様に、細胞培養技術において通常用いられている条件を用いることができる。
【0034】
(D)においては、(C)の培養物から間葉系細胞が分離される。分離方法は、上記(B)と同様である。上述の(A)〜(C)の一連の操作により、間葉系細胞の増殖を維持しながら、間葉系細胞を含む細胞から、間葉系細胞以外の細胞(線維芽細胞等)を効率よく除去することが可能となる。
【0035】
間葉系細胞をより高度に精製するため、(D)に引き続き、以下の操作を行ってもよい:
(C’)(D)で分離された間葉系細胞を、第2の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第3の培地中で培養すること;及び
(D’)(C’)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【0036】
(C’)においては、(D)で分離された間葉系細胞が、α−MEMを含有する第3の培地中で培養される。ここで、第3の培地中のα−MEMの含有量は、第2の培地のそれよりも低い。こうすることにより、混入した線維芽細胞の増殖を極力抑制しつつ、間葉系細胞を特異的に増殖させることができる。
【0037】
(C’)で用いられる培地中のα−MEMの含有量は、通常25〜65(v/v)%、より好ましくは35〜55(v/v)%(例えば、37〜43(v/v)%)である。
【0038】
(C’)で用いられる培地は、(C)と同様に、α−MEMに加え、基礎培地としてRPMI1640を含有することが好ましい。培地にRPMI1640が含まれる場合、(C’)で用いられる培地中のRPMI1640の含有量は、通常25〜65(v/v)%、より好ましくは35〜55(v/v)%(例えば、37〜43(v/v)%)である。
【0039】
(C’)で用いられる培地は、(C)と同様に、基礎培地としてα−MEM及びRPMI1640以外の培地を含んでいてもよい。
【0040】
(C’)で用いられる培地は、(C)と同様に、血清を含むことができる。血清の濃度は、本発明の方法により間葉系細胞を精製し得る限り特に限定されないが、通常1〜30(v/v)%、好ましくは5〜20(v/v)%の範囲である。
【0041】
(C’)で用いられる培地は、(C)と同様に、上述の成分に加え、自体公知の添加物を含むことができる。
【0042】
(C’)においては、(C)と同様に、間葉系細胞はI型コラーゲン上で培養されることが好ましい。
【0043】
(C’)におけるその他の培養条件は(C)と同様である。
【0044】
(D’)においては、(C’)の培養物から間葉系細胞が分離される。分離方法は、上記(D)と同様である。
【0045】
また、もし必要であれば、更にα−MEMの含有量の低い培地を用いて上記(C’)及び(D’)と同様の操作を更に何回か繰り返し、間葉系細胞を段階的にα−MEMの含有量を低下させた培地により継代することにより、混入した線維芽細胞の増殖を極力抑制しつつ、間葉系細胞を更に特異的に増殖させることができる。
【0046】
本発明の方法Iは、下記の間葉系細胞株の製造や、血液幹細胞増殖剤の製造に有用である。
【0047】
2.間葉系細胞株の製造方法
上記方法Iにより精製された間葉系細胞から、間葉系細胞クローンを選択し、これを培養することにより、間葉系細胞株を得ることができる。即ち、本発明は、以下の工程を含む、間葉系細胞株の製造方法(方法II)を提供するものである:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;及び
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること。
【0048】
(E)における間葉系細胞クローンの選択は、限界希釈法などの周知の方法により行うことができる。例えば、(D)で分離された間葉系細胞を、コラゲナーゼやトリプシンEDTA等の酵素処理により単細胞に分散し、1ウェルに1つの細胞が入るように適切な培地を用いて播種し、培養する。そして、増殖したクローンの中から、細胞同士の接触により増殖が抑制される細胞が選択される。
【0049】
方法IIにより得られる間葉系細胞株は、通常、Ly-6A/E(Sca-1)及びVCAM-1が陽性である。また、方法IIにより得られる間葉系細胞株は、通常、系列マーカー(CD3、B220、CD11c、CD11b、CD45、CD35)、CK19、UEA-1、Ly51、Cld4、Cld3、Ck5、Muc21、ER-TR7及びER-TR5が陰性である。
【0050】
本明細書において、細胞の表現型をマーカー分子(抗原)発現の有無や強弱で表す場合、特に断りのない限り、当該マーカー分子に対する抗体の特異的結合の有無や強弱で細胞の表現型が表記される。マーカー分子の発現の有無や強弱による細胞の表現型の決定は、通常、当該マーカー分子に対する特異的抗体等を用いたフローサイトメトリー解析等により行われる。マーカー分子の発現が「陽性」とは、該マーカー分子が細胞表面上(或いは細胞内)に発現しており、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合が確認できることをいう。マーカー分子の発現が「陰性」とは、該マーカー分子が細胞表面上(或いは細胞内)に発現しておらず、当該マーカー分子に対する抗体による特異的結合が確認できないことをいう。
【0051】
方法IIにより製造され得る間葉系細胞株は、様々な分化段階の間葉系細胞であり得、脂肪細胞や骨芽細胞への分化能は、細胞株ごとに異なる。従って、細胞株を樹立した後に、各細胞株の脂肪細胞及び/又は骨芽細胞への分化能を確認することにより、脂肪細胞及び/又は骨芽細胞への分化能の有無が特定された間葉系細胞株を得ることができる。分化能の確認方法は公知である。脂肪細胞への分化能は、細胞をデキサメタゾン及びインスリンの存在下で約10日間培養した後、1% 緩衝ホルマリンにて固定し、oil-red-O溶液で染色することにより確認することができる。脂肪細胞が誘導されたことは、oil-red-O陽性細胞数の上昇により確認することが出来る。骨芽細胞への分化能は、細胞をデキサメタゾン、アスコルビン酸−2リン酸、及びβグリセロリン酸の存在下で培養することにより、確認することが出来る。骨芽細胞が誘導されたことは、細胞内アルカリフォスファターゼ活性や、培養物中の石灰化骨基質(カルシウム)量の上昇により確認することが出来る。得られた間葉系細胞株が、自己増殖能を有しており、且つ骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を有している場合、該細胞は間葉系幹細胞であると判定することができる。従って、方法IIにより、間葉系幹細胞株を製造することも可能である。
【0052】
また、方法IIにより製造され得る間葉系細胞株が、全能性幹細胞から内胚葉細胞への分化を誘導する能力も細胞株ごとに異なることが予想される。そこで、(E)の後で、得られた間葉系細胞株が全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導し得るか、確認してもよい。この確認は、下記方法IIIに記載された方法に従い行うことができる。全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導した間葉系細胞株が該誘導能を有する細胞として選択される。該細胞は、下記方法IIIに使用することができる。
【0053】
また、本発明は、方法IIにより製造され得る間葉系細胞株を提供する。該細胞株は、内胚葉系細胞の製造、小腸上皮様細胞の製造、胸腺上皮細胞の製造、血液幹細胞増殖剤の製造等に有用である。該細胞株の好ましい例として、以下を挙げることができる:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
【0054】
上述の細胞株は、茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている(受領日:平成20年2月29日)。
【0055】
Stromal-adipoは、マウスの皮下脂肪由来の細胞から、本発明の方法IIにより樹立された間葉系細胞株である。Stromal-adipoは骨芽細胞への分化能を有する。Stromal-adipoは全能性幹細胞の内胚葉系細胞への分化を強力に支持し得る。
【0056】
Stromal-adipo-GFPは、GFPトランスジェニックマウスの皮下脂肪由来の細胞から、本発明の方法IIにより樹立された間葉系細胞株である。Stromal-adipo-GFPは、生体内に移入されると、強力に血液幹細胞増殖を誘導する。
【0057】
Stromal-spleen-TNFは、TNF不全マウスの脾臓由来の細胞から、本発明の方法IIにより樹立された間葉系細胞株である。Stromal-spleen-TNFは、骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を有する。Stromal-adipoは全能性幹細胞の内胚葉系細胞への分化を強力に支持し得る。特に、全能性幹細胞の小腸上皮様細胞への分化を誘導する活性に優れている。また、Stromal-spleen-TNFは、全能性幹細胞の胸腺上皮様細胞への分化を誘導する活性に優れている。
【0058】
Stromal-fetal liverは、マウス胎仔肝臓の細胞から、本発明の方法IIにより樹立された間葉系細胞株である。Stromal-fetal liverは、骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を有する。Stromal-fetal liverは、全能性幹細胞の内胚葉系細胞への分化を強力に支持し得る。Stromal-fetal liverは、生体内に移入されると、強力に血液幹細胞増殖を誘導する。また、Stromal-fetal liverは、全能性幹細胞の胸腺上皮様細胞への分化を誘導する活性に優れている。
【0059】
3.内胚葉系細胞の製造方法
上記方法IIにより得られ得る間葉系細胞株は、全能性幹細胞の内胚葉系細胞への分化を支持し得る。従って、本発明は、全能性幹細胞を上記方法IIにより製造され得る間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導することを含む、内胚葉系細胞の製造方法(方法III)を提供するものである。
【0060】
方法IIIにおいて用いられる間葉系細胞株は、好ましくはStromal-adipo、Stromal-spleen-TNF又はStromal-fetal liverである。
【0061】
全能性幹細胞とは、インビトロにおいて培養可能で、長期間にわたって増殖することができ、自己複製能を持ち、生体を構成する全ての細胞やその前駆細胞に分化しうる能力を有する細胞をいう。全能性幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等を挙げることができる。全能性幹細胞は、好ましくはES細胞である。
【0062】
方法IIIにおいては、全能性幹細胞が間葉系細胞株と接触し得るように、同一の培養容器中で培養される。例えば、間葉系細胞株の単層上に全能性幹細胞を播種する。方法IIIにおいて用いられる間葉系細胞株は、自体公知の方法、例えば放射線(ガンマ線等)照射や抗癌剤(マイトマイシンC等)処理等で不活化されていることが好ましい。
【0063】
方法IIIにおいて用いられる培地の基礎培地は、自体公知のものを用いることができる。例えばDMEM、EMEM、RPMI−1640、α−MEM、F−12、F−10、HAM、BME、SFM−101、McCoy’s 5A、RITC80−7、HF−C1、NCTC135等やこれらの混合物を用いることができる。
【0064】
方法IIIにおいて用いられる培地は、方法Iの(A)と同様に、血清を含むことができる。血清の濃度は、方法IIIにより内胚葉系細胞を誘導し得る限り特に限定されないが、通常1〜30(v/v)%、好ましくは5〜20(v/v)%の範囲である。
【0065】
方法IIIにおいて用いられる培地は、方法Iの(A)と同様に、上述の成分に加え、自体公知の添加物を含むことができる。
【0066】
方法IIIにおける培養期間は、内胚葉系細胞を誘導し得る限り特に限定されないが、通常2〜14日、好ましくは3〜10日(例えば6日)である。
【0067】
その他の細胞培養条件は、細胞培養技術において通常用いられている培養条件を用いることができる。例えば、培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃が例示される。CO2濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%が例示される。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%が例示される。
【0068】
内胚葉系細胞への分化が誘導されたことは、タイトジャンクションのマーカー抗原(例えばZo−1)の発現を該抗原に特異的な抗体により検出することにより確認することができる。タイトジャンクションのマーカー抗原陽性細胞が内胚葉系細胞として特定される。
【0069】
方法IIIは、上記方法IIに引き続いて行うことができる。
【0070】
4.小腸上皮様細胞の製造方法
上述の方法IIIにより得られた内胚葉系細胞を、ラミニン及びI型コラーゲン上で培養することにより、小腸上皮様細胞への分化を誘導することができる。従って、本発明は、以下の工程を含む、小腸上皮様細胞の製造方法(方法IV)を提供するものである:
(I)全能性幹細胞を上記方法IIにより製造され得る間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、ラミニンを含有するI型コラーゲン上ゲルで培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
【0071】
方法IVにおいて用いられる間葉系細胞株は、好ましくはStromal-spleen-TNFである。
【0072】
(I)は方法IIIに従い行うことができる。
【0073】
(II)においては、内胚葉系細胞は、ラミニン(含有量:通常0.1〜20μg/ml、好ましくは1.25〜5μg/ml)及びI型コラーゲンを含むゲル(含有量:通常1000〜5000μg/ml、好ましくは2000〜3000μg/ml)上で、ラミニン及びI型コラーゲンに接着した状態で培養される。ラミニン及びI型コラーゲンは上述の哺乳動物(例えばウシ)由来のものが好ましい。
【0074】
その他の培養条件は、方法IIIと同様である。
【0075】
(II)において、小腸上皮様細胞への分化が誘導されたことは、消化管上皮に存在するM細胞や脾臓のacina細胞に特異的に発現するGP2やラクターゼの発現を特異的抗体やRT-PCRにより検出することにより確認することができる。上述のZo−1が陽性であり、且つGP2及びラクターゼを発現している細胞が小腸上皮様細胞として特定される。
【0076】
更に、(II)において得られる小腸上皮様細胞には、腸管上皮幹細胞様の細胞が含まれ得る。従って、方法IVは、腸管上皮幹細胞様の細胞の製造方法でもあり得る。(II)で得られた小腸上皮様細胞に腸管上皮幹細胞様の細胞が含まれていることは、(II)で得られた小腸上皮様細胞をコラゲナーゼやトリプシン−EDTAで単細胞へ分散し、再びI型コラーゲンゲル上またはトランスウェル上で培養したときに、M細胞のマーカーであるUEA−1及び腸管上皮細胞特異的分子であるVillinの発現を特異的抗体やRT-PCRにより検出することにより確認することができる。この確認工程におけるその他の培養条件は、方法IIIと同様である。UEA−1及びVillin陽性細胞が出現した場合には、(II)で得られた小腸上皮様細胞に腸管上皮幹細胞様の細胞が含まれていると判定することができる。
【0077】
方法IVは、上記方法IIに引き続いて行うことができる。
【0078】
5.胸腺上皮様細胞の製造方法
方法IIIにより得られた内胚葉系細胞を、オンコスタチンMの存在下で、I型コラーゲン上で培養することにより、胸腺上皮様細胞への分化を誘導することができる。従って、本発明は、以下の工程を含む、胸腺上皮様細胞の製造方法(方法V)を提供するものである:
(I)全能性幹細胞を上記方法IIにより製造され得る間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、オンコスタチンMの存在下で、I型コラーゲン上で培養することにより、内胚葉系細胞から胸腺上皮様細胞への分化を誘導すること。
【0079】
方法Vにおいて用いられる間葉系幹細胞株は、好ましくはStromal-spleen-TNF又はStromal-fetal liverである。
【0080】
(I)は方法IIIに従い行うことができる。
【0081】
(II)においては、内胚葉系細胞は、オンコスタチンM(通常1〜100ng/ml、好ましくは40〜50ng/ml)の存在下で、I型コラーゲンを含むゲル(含有量:通常1000〜5000μg/ml、好ましくは2000〜3000μg/ml)上で、I型コラーゲンに接着した状態で培養される。オンコスタチンM及びI型コラーゲンは上述の哺乳動物(例えばウシ)由来のものが好ましい。オンコスタチンMは、通常培地中に含まれる。
【0082】
その他の培養条件は、方法IIIと同様である。
【0083】
(II)において、胸腺上皮様細胞への分化が誘導されたことは、胸腺上皮細胞のマーカーであるCK5、CK8、ER−RT7、Foxn1等の発現を特異的抗体やRT-PCRにより検出することにより確認することができる。CK5、CK8及びER−RT7が陽性(フローサイトメトリー)であり、Foxn1を発現(RT−PCR)している細胞が胸腺上皮様細胞として特定される。
【0084】
更に、(II)において得られた胸腺上皮様細胞をコラゲナーゼやトリプシン−EDTAで分散し、単細胞とした後で、再びラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上で培養することにより、より機能的に成熟した胸腺上皮様細胞を得ることができる。このときの培養条件は、方法IVにおける(II)と同様である。機能的に成熟した胸腺上皮様細胞への分化が誘導されたことは、得られた胸腺上皮様細胞を皮下脂肪組織内に移植した場合に、T細胞(CD3陽性細胞)やB細胞(B220陽性細胞)を有するCK5陽性の網様状構造物(リンパ節様構造)が構築されることにより確認することができる。
【0085】
6.血液幹細胞増殖剤及びその製造方法
また、上記方法IIにより得られる間葉系細胞株を生体内に投与すると、骨髄内へ移行し、血液幹細胞の増殖を支持するので、血液幹細胞の増殖剤として、貧血等の予防・治療に有用である。例えば、貧血患者の組織(皮下脂肪、肝臓等)をバイオプシーで採取し、該組織から分離された間葉系細胞を含む細胞を用いて上記方法IIにより間葉系細胞株を樹立する。そして、当該貧血患者に得られた間葉系細胞株を注入して、患者の骨髄内において血液幹細胞の増殖を誘導するという手法によって、貧血治療を実施することができる。従って、本発明は、上記方法IIにより得られる間葉系細胞株を含む血液幹細胞増殖剤を提供するものである。
【0086】
本発明の血液幹細胞増殖剤に含まれる間葉系細胞株は、好ましくはStromal-adipo-GFP又はStromal-fetal liverである。
【0087】
本発明の血液幹細胞増殖剤は、例えば以下の方法により製造することができる:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること;及び
(F)(E)で得られた間葉系細胞株を医薬として許容される担体と混合し、血液幹細胞増殖剤を得ること。
【0088】
工程(A)〜(E)は、上記方法IIに従い行うことができる。
【0089】
上述の通り、(E)において得られる間葉系細胞株は、様々な分化段階の細胞であり、細胞株ごとに血液幹細胞の増殖を支持する能力が異なることが予想される。そこで、(E)の後で、得られた間葉系細胞株が血液幹細胞の増殖を支持し得るか、確認してもよい。この確認は間葉系細胞株を、哺乳動物の腹腔内に投与し、その約2週間後に骨髄内の血液幹細胞が有意に増加するか否かを検定することにより行うことができる。好ましくは、間葉系細胞株は投与対象の哺乳動物と同種の動物に由来し、より好ましくは同種同系の動物に由来する。血液幹細胞数の有意な増加を誘導した間葉系細胞株が選択され、次の工程(F)に供される。
【0090】
(F)では、常套手段に従って、有効量の上記間葉系細胞株を医薬として許容される担体と混合することにより血液幹細胞増殖剤が製造される。本発明の血液幹細胞増殖剤は、通常は、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることが出来る。本発明の血液幹細胞増殖剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合してもよい。
【0091】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒト等の上述の哺乳動物に対して投与することができる。
【0092】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
方法
(1)間葉系細胞株の樹立
マウスより各臓器(脾臓、胎仔肝臓及び皮下脂肪)を分取し、コラゲナーゼ (0.5 mg/ml)、DNase (0.5 mg/ml)及びディスパーゼ(125 ul)を含むRPMI1640中にて細かく刻み、ゆっくりと浸透させながら37oCにて15分間反応させた。反応後、組織片をプラスチック製メッシュ上にて磨り潰し、得られた細胞懸濁液を1200 RPMにて30分間遠心分離することにより細胞画分を分取し、該画分を2%のFCSを含有するPBSにて2回洗浄した。2%のFCSを含有するPBSにて再懸濁した細胞を再び同条件にて遠心分離することにより、各種組織より分離した細胞を回収した。得られた細胞を再び2%FCSを含有するRPMI1640にて再懸濁した後、培養用プレート上にまき、37oCにて30分間培養した。非付着細胞を2%のFCSを含むRPMI1640にて2回洗浄することにより除去した後、付着細胞をaccutaseにて回収し、2%のFCSを含有するPBSを用いて細胞を洗浄した。MACS システム及び各種抗体(anti-CD3、anti-CD19、anti-B220、anti-CD11c、anti-CD11b、anti-CD45及びanti-CD35)を用いたネガティブセレクションにより、得られた細胞懸濁液から非リンパ球画分を分取し、得られた細胞をI型コラーゲンゲル(新田ゼラチン)上にまき、20% FCSを含有する培地(PRMI1640:α-MEM=1:5)にて3日間培養した。敷石状の形態をとり、且つ、線維芽細胞様の形態を有する細胞を含まないコロニーを顕微鏡下にて選別し、コラゲナーゼを用いてゲルを消化することによりI型コラーゲンゲルより細胞を分離した。2%のFCSを含有するRPMI1640を用いて細胞を洗浄後、再び新しく作成したI型コラーゲンゲル上にまき、20% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:3)にて培養した。6日間の培養後、再び先述の基準によりコロニーを選別し、コラゲナーゼにて細胞をゲルより回収し、再び新しく作成したI型コラーゲンゲル上にまき、20% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)にて培養した。最後の操作を2回繰り返した後、敷石状の形態を有する細胞により形成されているコロニーのみをコラゲナーゼにて回収し、培養用のプラスチックディッシュ(35 mm、1 コロニー/ディッシュ) を用いて20% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)にて培養した。4〜6日間培養した後、形成されたコロニーを再び先述の基準にて選別し、0.25% トリプシン-EDTAを用いて細胞を分取し、20% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)にて懸濁し、再び35 mm プラスチックディッシュ上で6日間培養した。次に、得られたコロニーを各々0.25% トリプシン-EDTAにて分取し、10 cmプラスチックディッシュ上で15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて培養した。得られた細胞から、細胞同士の接触により増殖が抑制される細胞を選別し、該細胞から限外希釈法を用いて4種のクローン細胞株(Stromal-adipo、Stromal-adipo-GFP、Stromal-spleen-TNF及びStromal-fetal liver)を樹立した(図1)。
これらの細胞株は、産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、下記の受領番号が付与されている:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
【0094】
(2)間葉系細胞の表現系の解析
培養の結果、約80〜90%飽和となった間葉系細胞株を0.25% Trip-EDTAを用いて回収し、2%FCSを含有するPBS に再懸濁した。得られた細胞懸濁液に対し、anti-CD16/32を氷中にて10分反応させた後、以下の抗体を反応させ、FACS caliburを用いて、細胞表面マーカーの解析を行った。使用した抗体ならびに二次抗体;fluorescein-isothiocyanate (FITC)-conjugated anti-CD14 mAb、phycoerythrin (PE)-conjugated anti-CD11c mAb、FITC-conjugated anti-CD11b mAb、PE-conjugated anti-B220 mAb、FITC-conjugated anti-Gr-1 mAb、PE-conjugated anti-NK1.1 mAb、biotin-conjugated anti-CD11c mAb、biotin-conjugated anti-CD19 mAb、biotin-conjugated anti-CD8 mAb、biotin-conjugated anti-Gr-1 mAb、biotin-conjugated anti-B220 mAb、FITC-conjugated anti-F4/80、biotin-conjugated anti Ly-6A/E (Sca-1)及びpurified anti-CD16/32 mAbs はe-Bioscience (San Diego, CA, USA)から購入した。Streptavidin-conjugated Cy5、streptavidin-conjugated Cy3 (SA-Cy3)及びbiotin-conjugated goat anti-HRP polyclonal antibody はJackson ImmunoResearch (West Grove, PA, USA)から購入した。Streptavidin-conjugated Alexa Fluor 488 (SA-488)及びCy3-conjugated phalloidinはInvitrogen (Carlsbad, CA, USA)から購入した。Anti-mouse follicular dendritic cell marker 1 (FDC-M1)はBD pharmingenから購入した。Anti-ER-RT7、anti-ER-TR5、anti-Muc21、anti-K5、anti-Cld3、anti-Cld4、anti-Ly51はDr. Kawamotoより供与された。Anti-keratin 19はNOVから購入した。Phaloidin-conjugated UEA-1はvectorから購入した。
【0095】
(3)間葉系細胞の分化能の検討
脂肪細胞系への分化:
分取した間葉系細胞株を15% FCS, 10-8M デキサメタゾン及び5 ug/mlのインスリンを含有する培地(PRMI1640:α-MEM=1:1)を用いて培養した。10日後、細胞を1% 緩衝ホルマリンにて固定し、oil-red-O溶液を用いて室温にて1時間染色した後、顕微鏡下で観察をおこなった(図2)。
骨芽細胞系への分化:
分取した間葉系細胞株を添付文書に従い骨芽細胞分化誘導培地(Miltenyi Biotec Inc)を用いて培養した。10日間培養した後、細胞を1% 緩衝ホルマリンにて固定し、NBT溶液を用いて室温にて30分間染色し、顕微鏡下で観察をおこなった(図2)。
【0096】
(4)間葉系細胞株を用いたES細胞からの上皮細胞への分化誘導
Mitomycin C (MMC)処理を施したマウス胎仔由来繊維芽上にマウスES細胞をまき、2日間培養した。これと平行して、80-90%飽和状態になった各間葉系細胞株に対しMMCを2.5時間反応させた。先に培養しておいたマウスES細胞との共培養を開始する2時間前に、15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて細胞を洗浄した。10cm ディッシュ上に培養した間葉系細胞に対し、2x105個のES細胞を添加した。添加後、細胞を37oCのCO2インキュベーターを用いて培養した。培養開始2日後に、上清をアスピレーターにより除去し、新しく作成した15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて培養を継続した。共培養開始6日後、20% FCSを含有するD-MEMに培地を置換し、培養を12時間行った。新たに作成した15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて非付着細胞を除去した後、0.25% トリプシン-EDTAを用いて細胞を分取し、15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)にて再懸濁後、I型コラーゲンゲル上又はラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上にて細胞を培養した。さらに、細胞の一部を、オンコスタチンM(OSM)及び15% FCSを含有する培地(PRMI1640: α-MEM=1:1)を用いて引き続き培養した(図6及び9)。さらに、上記反応にて得られた上皮細胞様膜をコラゲナーゼを用いてI型コラーゲンゲルより分離し、ラミニンをコートした培養用ディッシュ上にてOSM存在下で培養した(図8)。
【0097】
(5)間葉系細胞株を用いた養子免疫法
各間葉系細胞を1x106 個/200 ul となるようにリンゲル溶液に懸濁し、マウスの腹腔内に投与した。また、上記培養にて得られた上皮様細胞膜(4〜6)をリンゲル液に懸濁し、マウス皮下脂肪にシリンジを用いて注入した。
【0098】
(6)骨髄血液幹細胞の解析
マウスの大腿骨ならびに頸骨を分取し、氷中にて冷やしたPBSとシリンジを用いて骨髄を取り出した。骨髄をナイロンメッシュにて磨り潰した後、赤血球破砕溶液(ACK Buffer)を用いて処理し、2%FCSを含有するPBS中に再懸濁した。得られた骨髄細胞懸濁液をanti-CD16/32と氷中にて10分間反応させた後、各種lineage markerに対する抗体ならびにanti-CD34、anti-c-kit及びanti-Sca1を用いて染色し、lineage marker-、c-kit+、Sca-1+の画分を骨髄由来血液幹細胞とした。
【0099】
(7)免疫組織染色
I型コラーゲンゲルより培地をアスピレーターにより除去した後、細胞をZnホルマリンにて室温で5分反応させ固定した。サンプルをPBSにて5分間3回室温で洗浄した後、2%ヤギ血清を含有するPBSを室温にて30分反応させた。免疫染色用の抗体は上記のものを使用し、一次抗体の反応は4 oCで一晩、二次抗体は室温で2時間反応を行った。サンプルをT-TBSを用いて室温で10分3回洗浄した後、DAPIを含有する褪色防止剤を用いて封入し、各種顕微鏡を用いて観察した。
【0100】
結果
間葉系細胞についての最も一般的な生理学的な特徴としては、培養用のディッシュに対して高い付着性を有するという点である。そこで、各臓器より間葉系細胞を分取することを目的とし、検討を行った。まず、各種臓器をコラゲナーゼ、ディスパーゼ及びDNaseを含有する溶液で消化した後、先述の方法にて培養用のディッシュに対して高い付着性を有する細胞を分取し、これをスタートサンプルとした。間葉系細胞以外で付着性がよく知られている細胞として、マクロファージ、樹状細胞、線維芽細胞等がある。マクロファージや樹状細胞はその半減期が7日以内と比較的短いため、問題とはならないが、間葉系細胞を分取するためには、線維芽細胞との区別が重要となる。さらに、間葉系細胞は培養条件によりその形態及び表現系が変化することが知られている。そこで、間葉系細胞分取に最適であり、且つ線維芽細胞の増殖が比較的穏やかな培養条件を検討した。そして、上述の培養条件を用いて、線維芽細胞様の形態を有さない細胞群を分取し、さらに、限外希釈法を用いることにより、継続的に培養可能な4種類の間葉系細胞株(Stromal-adipo、Stromal-adipo-GFP、Stromal-spleen-TNF及びStromal-fetal liver)を樹立した。これらの細胞株は、産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、下記の受領番号が付与されている:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
【0101】
図1aに示すように、得られたいずれの細胞株も、細胞を低密度で培養した場合、広い細胞質を有する細胞であった。これらの細胞株をaccutaseを用いて培養用のディッシュより細胞懸濁液として回収し、一部をcytoperm cytoFixを用いて処理した後、図1cに示す各抗体にて染色し、FACSCaliburを用いて細胞マーカーの解析を行った。得られた細胞株はいずれもLineage marker、CK19、UEA-1、Ly51、Cld4、Cld3、Ck5、Muc21、ER-TR7及びER-TR5を発現していなかったのに対し、Ly-6A/E(Sca-1)及びVCAM-1の発現は全ての間葉系細胞株において認められた。
【0102】
間葉系幹細胞の特徴としては、適当な培養条件下で脂肪細胞、骨芽細胞などの細胞種へと分化誘導が可能であるという点が挙げられる。そこで、得られた間葉系細胞株のそれら細胞への分化能を検討するために、間葉系細胞株を脂肪細胞又は骨芽細胞分化誘導培地にて培養した。10日間培養した後、各細胞をoil-red-O及びNBPにて染色した結果、図2に示すように、胎仔肝臓由来間葉系幹細胞株(Stromal-fetal liver)及び成体TNF-KOマウス脾臓由来間葉系幹細胞株(Stromal-spleen-TNF)は骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を有するのに対し、成体皮下脂肪組織由来間葉系細胞株(Stromal-adipo)は骨芽細胞への分化能が欠如していた。さらに、同じ成体皮下脂肪組織由来ではあるが、GFP-Tgマウスの同組織より樹立した間葉系細胞株であるStromal-adipo-GFPは脂肪細胞及び骨芽細胞両種への分化能を有してはいなかった。したがって、上記方法は各種臓器より、種々の分化過程にある間葉系細胞を効率よく分取可能な方法であり、上記方法により得られる未熟な間葉系細胞は間葉系幹細胞同様、多種の細胞種への分化能を有する細胞であることが示唆された。
【0103】
得られた間葉系幹細胞株を皮下及び腹腔内に投与し、癌化の有無について検討した。しかしながら、投与後3週間において組織の癌化および固体の死亡は確認できなかった。
【0104】
腹腔内投与後の間葉系幹細胞株の生体内分布を検討するために、GFP-Tgマウス皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞株(Stromal-adipo-GFP)をマウス腹腔内に投与し、2週間後に各組織切片を作成し、蛍光顕微鏡を用いて観察した。その結果、GFP-Tgマウス皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞株の集積を大腿骨の骨・骨髄境界面に確認できた(図3)。そこで、間葉系幹細胞株の血液幹細胞に与える影響について検討するために、分取した間葉系幹細胞株をマウス腹腔に投与し、投与2週間後の骨髄を分取し、血液幹細胞の割合をFACSを用いて測定した。その結果、GFP-Tg成体マウス皮下脂肪組織由来間葉系細胞株(Stromal-adipo-GFP)又はマウス胎仔肝臓由来間葉系細胞株(Stromal-fetal liver)を腹腔内に投与した群において、血液幹細胞(Lin- c-kit+ Ly-6A/E+細胞)の有意な増加が確認された(図4)。これらの知見は、GFP-Tg成体マウス皮下脂肪組織由来間葉系細胞株(Stromal-adipo-GFP)及びマウス胎仔肝臓由来間葉系細胞株(Stromal-fetal liver)は優れた血液幹細胞保持能を有することを示唆するものであり、再生医療やヒト化マウス作成における血液幹細胞保持技術の開発において有用であると考えられた。
【0105】
得られた間葉系細胞株のES細胞分化支持能について検討を行った。MMC処理を施したマウス胎仔由来線維芽細胞上にてES細胞を拡大培養した後、同処理を施した各間葉系細胞株上にてさらに6日間培養した後、オンコスタチンM (OSM)又はラミニン存在下で、I型コラーゲンを用いて作成したゲル上で6日間追加培養した。間葉系細胞株上での6日間の培養においてES細胞はタイトジャンクションのマーカーであるZo-1陽性のクラスターを形成するようになった。しかしながら、ラミニン非存在下では、このクラスター(膜状クラスター)においてそれ以上の機能性分化は誘導されなかったのに対し、ラミニン存在下では、Zo-1陽性細胞のクラスターにおいて消化管上皮細胞に存在するM細胞ならびに脾臓のacina細胞に特異的発現するGP2分子の高発現が確認されるようになった(図7)。得られた細胞クラスターよりmRNAを調製し、ラクターゼに対するプライマーを用いてRT-PCRを行った結果、得られた細胞クラスターは小腸上皮様細胞に分化していることが確認された(図7b)。次に、形成された細胞クラスターに幹細胞が存在するか確認するために、ラミニン存在下I型コラーゲンゲル上で分化誘導して得られた細胞クラスターを、コラゲナーゼおよびトリプシン-EDTAを用いて消化し、単細胞とした後、再びI型コラーゲンゲルまたはトランスウェル上にて培養し、得られたコロニーについて免疫染色を行った。その結果、コロニーには先述同様、M細胞のマーカーとして広く認知されているUEA-1陽性細胞が高い割合で存在することが確認された(85%超)。さらに、このクラスターは腸管上皮細胞特異的分子であるVillinも陽性であった(図8)。以上の結果から、コラゲナーゼおよびトリプシン-EDTA消化により得られた単細胞中に腸管上皮細胞幹細胞様細胞が存在しており、刺激によりM細胞様細胞に分化し得ることが示唆された。
【0106】
つぎに、MMC処理を施したマウス胎仔由来線維芽細胞上にて拡大培養したES細胞を、同処理を施した各間葉系細胞株上(TNF-/-脾臓由来;Stromal-spleen-TNF、胎仔肝臓由来; Stromal-fetal liver)で6日間培養した後、オンコスタチンM (OSM)存在下、I型コラーゲンを用いて作成したゲル上で6日間追加培養した。得られた細胞クラスターを胸腺上皮細胞のマーカーであるCK5及びCK8、さらにはER-RT7を用いて免疫染色した結果、脾臓細胞由来間葉系細胞(Stromal-spleen-TNF)を用いてES細胞を分化誘導することにより構成される細胞クラスターにはCK5/CK8共陽性の細胞が存在することが明らかとなった(図10)。また、この細胞クラスターには胸腺上皮細胞に発現する分子であるFoxn1遺伝子の発現が確認されたことから、この細胞クラスターは胸腺形成の誘導細胞となり得る可能性が示唆された(図10)。また、ES細胞を胎仔肝臓由来間葉系細胞(Stromal-fetal liver)を用い培養することにより得られる細胞クラスターにはケラチノサイトのマーカーであるER-RT7陽性細胞が確認された。以上の結果から、上記方法を組み合わせることで各種上皮細胞の分化誘導が可能であるのみならず、人工的な胸腺原基構築の基礎的検討への応用が可能であることが明らかとなった。この可能性を確認するために、TNF-/-マウス脾臓由来間葉系細胞(Stromal-spleen-TNF)を用いて分化誘導した上皮様細胞クラスターをコラゲナーゼ/トリプシン-EDTAを用いて分取し、得られた細胞をラミニンを用いてあらかじめコーティングした培養用ディッシュ上にまき、4日後に再び細胞クラスターを回収し、リンゲル溶液に再懸濁し、マウス皮下脂肪部に移植した。処置3週間後、マウスより、皮下脂肪を分取し免疫染色した。その結果、マウス皮下組織内にCK5により染色される網様状構造内にCD3陽性細胞を持つリンパ節様構造が構築されていることが明らかとなった(図12)。上記方法を用いることにより胸腺構造の原基であるCD3陽性細胞のクラスターを皮下組織内に構築することが可能であったことから、本発明の方法は再生医療技術開発において有用であると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の方法を用いれば、種々の組織から間葉系細胞を簡便に分離し、間葉系細胞株を樹立することが可能となる。全能性幹細胞を、本発明の方法により樹立された間葉系細胞株と共培養することにより、種々の機能性上皮細胞への分化を誘導することができる。本発明は再生医療分野における人工組織の構築、幹細胞nicheのin vitroでの再現等、学術及び医療産業の両分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1a】マウス脾臓(TNF KO)、皮下脂肪(野生型)、胎仔肝臓(野生型)及び皮下脂肪(GFP-Tg)から樹立された間葉系細胞株(Stromal-spleen-TNF、Stromal-adipo、Stromal-fetal liver及びStromal-adipo-GFP)の顕微鏡写真。
【図1b】マウス脾臓(TNF KO)(黒四角)、皮下脂肪(野生型)(黒三角)、胎仔肝臓(野生型)(白四角)及び皮下脂肪(GFP-Tg)(白三角)から樹立された間葉系細胞株の増殖をMTTアッセイの吸光度で示す。
【図1c】マウス脾臓(TNF KO)、皮下脂肪(野生型)及び胎仔肝臓(野生型)から樹立された間葉系細胞株の表面抗原の発現。下の表は、全ての間葉系細胞株において発現が認められなかった表面抗原を示す。
【図2】マウス脾臓(TNF KO)、皮下脂肪(野生型)、胎仔肝臓(野生型)及び皮下脂肪(GFP-Tg)から樹立された間葉系細胞株の骨芽細胞及び脂肪細胞への分化能を示す。
【図3】腹腔内に投与されたGFP-Tgマウス皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞株(Stromal-adipo-GFP)が、大腿骨の骨髄内に浸潤する様子を示す。
【図4】マウス脾臓(TNF KO)、皮下脂肪(野生型)及び胎仔肝臓(野生型)から樹立された間葉系細胞株の移植による血液幹細胞数(%)及び胸腺重量(mg)の変化を示す。
【図5】細胞投与14日後の胸腺の免疫染色像。細胞投与14日後にマウスより胸線を分取し、凍結切片を作成した後、胸腺のmedullary epithelial のmarker であるUEA-1-PE と活性化胸腺上皮細胞のmarkerであるGp2 (biotinylated anti-rat IgG and detected with Avidin-Alexa 488 red)で染色した。細胞の投与は胸腺の重量に変化を与えるも、組織学的構造に影響を与えることはなかった。つまり、投与した細胞は病的組織変化(癌化、炎症、など)を引き起こさない無害なものであることが示された。
【図6】ES細胞からの小腸上皮様細胞への分化のための培養プロトコールを模式的に示す。
【図7】間葉系細胞株上でのES細胞から上皮細胞への分化の様子を示す。
【図8】TNF KOマウスの脾臓由来の間葉系細胞株(Stromal-spleen-TNF)がES細胞からの小腸上皮様細胞への分化を支持する様子を示す。
【図9】ES細胞からの胸腺上皮様細胞への分化のための培養プロトコールを模式的に示す。
【図10】マウス脾臓(TNF KO)及び胎仔肝臓(野生型)由来の間葉系細胞株(Stromal-spleen-TNF、Stromal-fetal liver)がES細胞からの胸腺上皮様細胞への分化を支持する様子を示す。
【図11】ES細胞からの胸腺上皮様細胞への分化のための培養プロトコールを模式的に示す。
【図12】ES細胞から分化した胸腺上皮様細胞の移植により皮下脂肪内で構築されたリンパ節様構造を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む間葉系細胞の精製方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;及び
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【請求項2】
第1の培地及び第2の培地が更にRPMI1640を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(A)及び(C)において細胞がI型コラーゲンゲル上で培養される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
(A)で培養される細胞が脾臓、胎仔肝臓又は皮下脂肪由来である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
更に以下の工程を含む、請求項1記載の方法:
(C’)(D)で分離された間葉系細胞を、第2の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第3の培地中で培養すること;及び
(D’)(C’)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【請求項6】
以下の工程を含む間葉系細胞株の製造方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;及び
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること。
【請求項7】
請求項6記載の方法により製造され得る間葉系細胞株。
【請求項8】
以下の群から選択されるいずれか1種の間葉系細胞株である、請求項7記載の間葉系細胞株:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
【請求項9】
全能性幹細胞を請求項7記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導することを含む、内胚葉系細胞の製造方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、小腸上皮様細胞の製造方法:
(I)全能性幹細胞を請求項7記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、ラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上で培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
【請求項11】
間葉系細胞株がStromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
以下の工程を含む、胸腺上皮様細胞の製造方法:
(I)全能性幹細胞を請求項7記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、オンコスタチンMの存在下で、I型コラーゲンゲル上で培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
【請求項13】
間葉系細胞株がStromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)又はStromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項7記載の間葉系細胞株を含む血液幹細胞増殖剤。
【請求項15】
間葉系細胞株がStromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)又はStromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)である、請求項14記載の剤。
【請求項16】
以下の工程を含む血液幹細胞増殖剤の製造方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること;及び
(F)(E)で得られた間葉系細胞株を医薬として許容される担体と混合し、血液幹細胞増殖剤を得ること。
【請求項1】
以下の工程を含む間葉系細胞の精製方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;及び
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【請求項2】
第1の培地及び第2の培地が更にRPMI1640を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(A)及び(C)において細胞がI型コラーゲンゲル上で培養される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
(A)で培養される細胞が脾臓、胎仔肝臓又は皮下脂肪由来である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
更に以下の工程を含む、請求項1記載の方法:
(C’)(D)で分離された間葉系細胞を、第2の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第3の培地中で培養すること;及び
(D’)(C’)の培養物から間葉系細胞を分離すること。
【請求項6】
以下の工程を含む間葉系細胞株の製造方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;及び
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること。
【請求項7】
請求項6記載の方法により製造され得る間葉系細胞株。
【請求項8】
以下の群から選択されるいずれか1種の間葉系細胞株である、請求項7記載の間葉系細胞株:
(1)Stromal-adipo(受領番号:FERM AP-21515)、
(2)Stromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)、
(3)Stromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)、及び
(4)Stromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)。
【請求項9】
全能性幹細胞を請求項7記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導することを含む、内胚葉系細胞の製造方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、小腸上皮様細胞の製造方法:
(I)全能性幹細胞を請求項7記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、ラミニンを含有するI型コラーゲンゲル上で培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
【請求項11】
間葉系細胞株がStromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
以下の工程を含む、胸腺上皮様細胞の製造方法:
(I)全能性幹細胞を請求項7記載の間葉系細胞株と共培養することにより、全能性幹細胞から内胚葉系細胞への分化を誘導すること;及び
(II)(I)で分化した内胚葉系細胞を、オンコスタチンMの存在下で、I型コラーゲンゲル上で培養することにより、内胚葉系細胞から小腸上皮様細胞への分化を誘導すること。
【請求項13】
間葉系細胞株がStromal-spleen-TNF(受領番号:FERM AP-21518)又はStromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項7記載の間葉系細胞株を含む血液幹細胞増殖剤。
【請求項15】
間葉系細胞株がStromal-adipo-GFP(受領番号:FERM AP-21516)又はStromal-fetal liver(受領番号:FERM AP-21517)である、請求項14記載の剤。
【請求項16】
以下の工程を含む血液幹細胞増殖剤の製造方法:
(A)間葉系細胞を含む細胞をα−MEMを含有する第1の培地中で培養すること;
(B)(A)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(C)(B)で分離された間葉系細胞を、第1の培地よりもα−MEMの含有量が低い、α−MEMを含有する第2の培地中で培養すること;
(D)(C)の培養物から間葉系細胞を分離すること;
(E)(D)で分離された間葉系細胞から選択された間葉系細胞クローンを培養し、間葉系細胞株を樹立すること;及び
(F)(E)で得られた間葉系細胞株を医薬として許容される担体と混合し、血液幹細胞増殖剤を得ること。
【図1b】
【図1c】
【図4】
【図6】
【図9】
【図11】
【図1a】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【図1c】
【図4】
【図6】
【図9】
【図11】
【図1a】
【図2】
【図3】
【図5】
【図7】
【図8】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2009−213448(P2009−213448A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63356(P2008−63356)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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