説明

関数近似温度変換器

【課題】本発明は、直線性誤差の向上と複雑な処理、煩雑な確認を防止し、最適な多項式近似により、基準熱起電力または基準抵抗値の線形化ができる温度変換器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、熱電対や測温抵抗体を含む温度検出素子の非線形な検出信号に基づく出力を温度変化に対して線形になるように線形化する温度変換器において、n次の多項式近似式を用いて前記出力を線形化する温度変換部と、前記多項式近似式の係数と近似範囲を指定する近似係数テーブル部を備え、前記温度変換部は、前記近似係数テーブル部より前記検出信号の近似範囲に入る近似の係数を読んで多項式近似計算をすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電対または測温抵抗体の非直線誤差の補正を行うのに好適な関数近似を用いた温度変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電対、測温抵抗体の温度に対する基準熱起電力または基準抵抗値は(JIS C 1602)または(JIS C 1604)で規定されている。
【0003】
これらの検出信号の特性は温度に対して非線形の関数であり、温度変換器で温度に対して比例の出力となるように演算回路を使用して、非線形から線形の変換(線形化)を行っている。
【0004】
従来、演算増幅器で非直線演算を実現し、線形化を行う、特公平2−16846号公報に示す非直線演算回路や、直接温度測定が困難な場合に演算式を使用して温度を求める特開2005−55378号公報に示す温度変換器、温度検出方法及び温度検出プログラムが考案されている。
【0005】
また、マイクロプロセッサを使用し、熱電対の標準起電力および測温抵抗体の基準抵抗値の値を折線関数で、例えば10℃間隔の一定の温度間隔で折線点を指定し、近似演算で線形化を行っている。
【0006】
しかし、上記従来技術では以下の問題があった。
【0007】
演算増幅器の場合は、二次関数を発生させ、線形化を行っているが、補正後の非直線誤差が0.06%/−0.08%あり、これ以上の誤差を低減できないのと、入力に対して非直線誤差が脈動するという欠点がある。
【0008】
直接温度測定が困難な場合の演算式を使用して温度を求める例は間接的な温度測定で被測定物の温度を推定する演算式を提示しているのみであり、基準熱起電力や基準抵抗値の線形化については考慮されていなかった。
【0009】
折線関数を用いて、近似演算を行う場合は例えばR形熱電対の場合で(0℃〜1600℃)の範囲の線形化で、10℃間隔の折線関数で近似を行う場合、折線点数は160点の指定が必要であり、この分のメモリを必要とする。
【0010】
標準熱起電力は通常温度が低い側ほど非線形(曲がり)が急で、この区間は折線の温度間隔を細かく取る必要があり処理が複雑となる。折線で指定する各ポイントに亘って正しく近似できているかの確認が煩雑で時間が掛かるという欠点があった。
【0011】
通常、非線形のグラフの近似曲線を求める場合、多項式近似を行うことが知られている。しかしながら、基準熱起電力と基準抵抗式の多項式近似を行う場合、下記のn次の多項式近似式を用いる。
【0012】
Y=Cn・X+Cn−1・Xn−1+……C2・X+C1・X+C0
上記式の次数nを最適にする必要がある。次数が低いと処理は簡易であるが、直線的になり直線誤差が大きくなり、これを防止するため、近似区間を短くする必要があり、1次までの場合は折線近似と同等となる。
【0013】
次数が高いと非直線のより近い近似が可能であるが、各次数の係数Cn数の増加と関数近似演算の処理の時間が増大する。
【0014】
【特許文献1】特公平2−16846号公報
【特許文献2】特開2005−55378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑み、上記従来技術の直線性誤差の向上と複雑な処理、煩雑な確認を防止し、最適な多項式近似により、基準熱起電力または基準抵抗値の線形化を行う温度変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、熱電対や測温抵抗体を含む温度検出素子の非線形な検出信号に基づく出力を温度変化に対して線形になるように線形化する温度変換器において、n次の多項式近似式を用いて前記出力を線形化する温度変換部と、前記多項式近似式の係数と近似範囲を指定する近似係数テーブル部を備え、前記温度変換部は、前記近似係数テーブル部より前記検出信号の近似範囲に入る近似の係数を読んで多項式近似計算をすることを特徴とする。
【0017】
更に、具体的には熱電対の熱起電力を、また測温抵抗体に例えば1mAの定電流を流し抵抗値の変化を電圧とし捉え、その電圧を演算増幅器で増幅する入力増幅部と、これをデジタル信号に変換するAD変換部と多項式近似演算を行う温度変換部と多項式近似の係数と近似範囲を指定する近似係数テーブル部を設け、非線形の検出信号(電圧)を線形化して温度を求めるよう構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多項式近似式の各次数と多項式近似範囲を定義するだけで、同一の演算式で基準熱起電力の非線形が異なる熱電対種別(R,K,E,J,T,S,B,N)熱電対種類および測温抵抗体(Pt100,Jpt100)に使い分けられるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、温度変換器に多項式近似を行う温度変換部と多項式近似の係数と近似範囲を指定する温度の近似係数テーブルを設けることにより実現した。
【0020】
以下、図面を用いて、本発明を温度変換器に適用した実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
図1において、温度変換器は、熱電対の熱起電力信号を受けるマルチプレクサ1−1、演算増幅器1、AD変換部2、温度変換部3、熱電対の近似係数テーブル部4a、出力部5を有する。
【0022】
熱電対の熱起電力信号は、AI1とAI2として、マルチプレクサ1−1に入る。熱電対の冷接点側の温度補償のため、周囲温度を検出するため冷接点補償用温度センサを設け、AI3として、マルチプレクサ1−1に入る。
【0023】
マルチプレクサ1−1で選択した信号は演算増幅器1でAD変換の信号レベルまで、mV信号をV信号へ増幅を行う。増幅した信号はAD変換部2で熱起電力デジタル信号E_TCに変換する。
【0024】
温度変換部3は熱電対の近似係数テーブル部4aから取込んだ熱起電力デジタル信号E_TCの近似範囲に入っている近似係数C5〜C0を読み出す。
【0025】
読み出したC5〜C0を使用して、下記式の多項式近似計算をする。
【0026】
Y=C5・X+C4・X+C3・X+C2・X+C1・X+C0
上記の計算を行い、熱起電力デジタル信号に対する熱起電力温度値Yを求める。
【0027】
熱起電力温度値YからAI3の冷接点温度デジタル信号T(AI3)を減算し、出力部5でDA変換を行い、DC1−5Vスパン信号やDC4−20mAスパン信号として出力する。
【0028】
多項式の次数を4次と5次にした場合の近似演算結果の一例を表1に示す。
【0029】
関数近似演算は、R形熱電対の0〜200℃の範囲で下式の近似演算を用いた。
【0030】
4乗近似式(1)
y1=−7.187978E−12x4+3.208038E−08x3−6.473111E−05x2+1.846386E−01x+1.663141E−01
5乗近似式(2)
y2=5.099595E−15x5−2.570259E−11x4+5.586454E−08x3−7.751638E−05x2+1.872158E−01x+5.018429E−02
【0031】
【表1】

【0032】

これより、4乗近似の誤差は0.17℃〜−0.11℃であるが、5乗近似では−0.02〜0.05℃の範囲で誤差が少ない。温度変換器の誤差を±0.1℃とした場合、温度演算誤差は±0.05℃以下が求められる。
【0033】
4乗近似の誤差を少なくするのは近似範囲を狭め例えば0〜100℃の範囲とすると良いが、これには係数テーブルが倍となり、メモリ容量の増大とそれに合わせて処理確認が煩雑となる。
【0034】
また、熱起電力の関数近似の範囲で、K形熱電対の−200〜100℃の範囲で下式の近似演算を用いた場合の近似温度範囲と演算誤差を表2に示す。
【0035】
5乗近似式(3)(近似温度範囲−200〜100℃)
y3=3.898883E−18x5−3.548681E−15x4−2.379484E−12x3−4.708355E−07x2+2.564555E−02x+4.713916E−02
5乗近似式(4)(近似温度範囲−200〜−100℃)
y4=4.317644E−16x5+9.339407E−12x4+8.129468E−08x3+3.521706E−04x2+7.883309E−01x+6.576006E+02
5乗近似式(5)(近似温度範囲−100〜100℃)
y5=7.621570E−19x5−7.130609E−15x4+6.451551E−11x3−4.288603E−07x2+2.536298E−02x+3.451251E−03
【0036】
【表2】

【0037】

これより、熱電対の標準熱起電力の非線形(曲がり)が急であるところの負の温度範囲において、一括−200〜100℃の関数近似を行う5乗近似式(3)は演算誤差が1.16〜−0.46℃と大である。
【0038】
このため、関数近似範囲を−200℃〜−100℃の5乗近似式(4)と−100℃〜100℃の5乗近似式(5)の分割を行う。
【0039】
これにより、演算誤差0.03〜−0.04℃と誤差を低減することができる。取込んだ熱起電力デジタル信号E_TCに対する近似範囲を設け、近似係数C5〜C0をこの範囲毎に定めた、熱電対近似係数テーブルを用意する。
【0040】
表3に適用したK形熱電対の熱電対近似係数テーブルの一例を示す。
【0041】
【表3】

【0042】

図2は5乗の関数近似式を用い、K形熱電対で取込んだ熱起電力デジタル信号E_TCから、熱起電力温度を求める図を示す。
【0043】
各K形熱電対の標準熱起電力から領域〔(1)−(5)〕として5分割し、標準熱起電力の非線形で曲線の曲がりの大きい箇所は領域を狭くし、直線に近い箇所は領域を大きくする。
【0044】
これにより、領域の数を減らしテーブルサイズを小さくするとともに、演算誤差を±0.05℃とすることができる。
【0045】
他のR,E,J,T,S,B,Nについても、同様に熱電対起電力近似範囲毎にC5〜C0を定めた熱電対起電力近似係数テーブルを設ける。
【0046】
これにより、熱電対近似係数テーブルを用い、現在の取込んだE_TCに対応する近似係数C5〜C0を取出し、5乗の関数近似演算(Y=C5・X+C4・X+C3・X+C2・X+C1・X+C0)で線形化を、同じ演算式で、近似範囲に対応する係数C5〜C0のみ変えれば、全ての熱電対の線形化を誤差少なく行うことが可能となる。
【0047】
また、近似範囲を細かくする近似係数テーブルの行追加と近似係数の変更をするだけで、同一の演算式を使用するため、簡易な確認でより誤差を少なくすることが対応可能となる。
【0048】
図3は測温抵抗体の実施例を示す。
【0049】
測温抵抗体に定電流源から1mAまたは2mAなどの定電流を流す。測温抵抗体の抵抗値信号はAI1とAI2として、マルチプレクサ1−1に入る。
【0050】
また測温抵抗体の配線抵抗の抵抗降下分を検出するため、AI3として、マルチプレクサ1−1に入る。マルチプレクサ1−1で選択した信号は演算増幅器1でAD変換の信号レベルまで、mV信号をV信号へ増幅を行う。
【0051】
増幅した信号はAD変換部2で抵抗値デジタル信号に変換する。
【0052】
温度変換部3は抵抗値デジタル信号と配線抵抗値デジタル信号から測温抵抗値R_TRを求める。
【0053】
R_TR=(AI1−AI2−2*AI3)/I
(ただし、Iは測温抵抗体定電流源の電流値)
測温抵抗体近似係数テーブル部4bから取込んだ測温抵抗体値R_TRの近似範囲に入っている近似係数C5〜C0を読み出す。読み出したC5〜C0を使用して、下記式で多項式近似計算をする。
【0054】
Y=C5・X+C4・X+C3・X+C2・X+C1・X+C0
上記の計算を行い、熱起電力デジタル信号に対する測温抵抗体温度値Yを求める。
【0055】
出力部5でDA変換を行い、DC1−5Vスパン信号やDC4−20mAスパン信号として出力する。
【0056】
図4は熱電対温度変換器に適用したフロー図の実施例を示す。
【0057】
AD変換を行い、AI1〜AI3を取込む。次に熱電対起電力E_TC=AI1−AI2で求める。
【0058】
次に熱電対種別(R,K,E,J,T,S,B,N)毎の熱電対近似係数テーブルから使用している熱電対種別の近似テーブルを選択する。
【0059】
次にE_TCから近似範囲を選択し、近似係数C5〜C0を取出す。次に関数近似演算を行い、熱起電力温度値Yを演算する。
【0060】
次にT=Y−T(AI3)で冷接点補償演算を行う。
【0061】
次にDA変換で温度Tを出力する。これを例えば100msの演算周期毎に繰り返す。
【0062】
図5は測温抵抗体温度変換器に適用したフロー図の実施例を示す。
【0063】
AD変換を行い、AI1〜AI3を取込む。次に測温抵抗値R_TRをR_TR=(AI1−AI2−2*AI3)/Iで求める。
【0064】
次に測温抵抗体種別(Pt100,JPt100)毎の熱電対近似係数テーブルから使用している測温抵抗体種別の近似テーブルを選択する。
【0065】
次にR_TRから近似範囲を選択し、近似係数C5〜C0を取出す。
【0066】
次に関数近似演算を行い、測温抵抗体温度値Yを演算する。次にDA変換で温度Yを出力する。これを例えば100msの演算周期毎に繰り返す。
【0067】
図6は折線関数演算器の実施例を示す。
【0068】
検出器からのmVやVの電圧信号またはmAの電流信号をAI1とAI2として、マルチプレクサ1−1に入る。
【0069】
マルチプレクサ1−1で選択した信号は演算増幅器1でAD変換の信号レベルまで、mV信号をV信号へ増幅を行う。
【0070】
増幅した信号はAD変換部2で測定デジタル信号Vinに変換する。関数近似演算部6は関数近似係数テーブル部4cから取込んだ測定デジタル信号Vinの近似範囲に入っている近似係数C5〜C0を読み出す。
【0071】
読み出したC5〜C0を使用して、下記式で多項式近似計算する。
【0072】
Y=C5・X+C4・X+C3・X+C2・X+C1・X+C0
上記の計算を行い、測定デジタル信号Vinに対する線形化演算値Yを求める。出力部5でDA変換を行い、DC1−5Vスパン信号やDC4−20mAスパン信号として出力する。
【0073】
これにより、複雑な非線形の信号を出力する変換器も関数近似を使用することにより、線形化することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
関数近似で、熱電対、測温抵抗体の線形化を行うことにより、誤差を低減しながら、簡易に温度を出力することが可能となる。また、熱電対、測温抵抗体だけでなく、例えば従来の折線関数演算器も、関数近似で適用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係わるもので、熱電対の温度変換器の実施方法を示した説明図である(実施例1)。
【図2】本発明に係わるもので、熱電対の温度変換器の5乗関数近似の方式を示した説明図である。
【図3】本発明に係わるもので、測温抵抗体温度変換器の実施方法を示した説明図である(実施例2)。
【図4】本発明に係わるもので、熱電対温度変換器のフロー図を示した説明図である。
【図5】本発明に係わるもので、測温抵抗体温度変換器のフロー図を示した説明図である。
【図6】本発明に係わるもので、折線関数演算器の実施方法を示した説明図である(実施例3)。
【符号の説明】
【0076】
1…演算増幅器、1−1…マルチプレクサ、2…AD変換部、3…温度変換部、4a…熱電対の近似係数テーブル部、4b…測温抵抗体の近似係数テーブル部、4c…関数近似の係数テーブル部、5…出力部、6…関数近似演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電対や測温抵抗体を含む温度検出素子の非線形な検出信号に基づく出力を温度変化に対して線形になるように線形化する温度変換器において、
n次の多項式近似式を用いて前記出力を線形化する温度変換部と、
前記多項式近似式の係数と近似範囲を指定する近似係数テーブル部を備え、
前記温度変換部は、前記近似係数テーブル部より前記検出信号の近似範囲に入る近似の係数を読んで多項式近似計算をすることを特徴とする温度変換器。
【請求項2】
請求項1に記載された温度変換器において、
前記多項式近似式を5次以上としたことを特徴とする温度変換器。
【請求項3】
熱電対や測温抵抗体を含む温度検出素子の非線形な検出信号に基づく出力を温度変化に対して線形になるように線形化する折線関数演算器において、
n次の多項式近似式を用いて前記出力を線形化する関数近似演算部と、
前記多項式近似式の係数と近似範囲を指定する近似係数テーブル部を備え、
前記関数近似演算部は、前記近似係数テーブル部より前記検出信号の近似範囲に入る近似の係数を読んで多項式近似計算をすることを特徴とする折線関数演算器。
【請求項4】
請求項3に記載された折線関数演算器において、
前記多項式近似式を5次以上としたことを特徴とする折線関数演算器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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