関節の再構成、修復およびクッションのための合成ペプチド材料
関節の再構成、修復およびクッションの用途において、ヒトのエラスチンまたは他の線維性タンパク質を模した、架橋ポリペプチドを含む合成ポリペプチド材料を提供する。このポリペプチドは、少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造と架橋に関与する少なくとも1つのアミノ酸残基とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、関節の再構成、修復およびクッションの用途において有用な合成ペプチド材料、ならびに関連の方法に関する。ある実施形態では、この材料は、ヒトのエラスチンまたは他の線維性タンパク質を模した、自己アライメントおよび自己アセンブリ性のポリペプチドを含む。
【背景技術】
【0002】
関節表面の間のクッション性の喪失は、いくつかの重大な整形外科的問題の背景である。関節炎状態の結果としての股関節、肩関節、膝関節、および指関節などの関節の接触面に対する損傷はまた、衰弱性の疾患を生じ、これは、合成材料での関節置換の形態という外科的介入を必要とする場合がある。関節表面の間のクッション性の喪失はまた、関節を安定させる靱帯などの組織に対する損傷の結果である場合もあり、これが関節表面の不均衡を生じ、かつ異常な摩耗を生じる。このような不均衡は伝統的に、関節を安定にして、かつ正常な関節の嵌まり合いを再確立するために外科的介入を必要とする場合がある。椎間板組織の変性は、慢性の、消耗性の背痛、脊椎の石灰化および硬直化、ならびに重大な神経学的結果を、ヒトだけでなく、家畜、特にイヌにも生じる。外科的な代替法としては、椎間板を置き換えるための人工補綴物が挙げられ、そのいくつかは金属/ゴムの人工椎間板または合成のヒドロゲルから構成される。例えば、米国特許第5,879,396号、同第7,060,100号、および同第5,879,396号を参照のこと。
【0003】
天然の構造タンパク質であるエラスチンは、非生物学的補綴物をコーティングするための可溶型において、および生物学に由来する補綴物を作製するための固体型において、血管補綴物などの補綴物における潜在的な使用がかなり注目されている。エラスチンは、そのおかげで補綴物における使用に適切であり、かつ細胞浸潤において生体適合性を有し、血栓形成性でない表面になるという構造的な特性を有する。これは、耐久性で、極めて安定であり、かつ高度に不溶性の細胞外基質タンパク質であって、伸展性および弾性収縮力という特性を組織(これは、大血管、弾性靱帯、肺実質および皮膚を含むことが見出されている)に付与する。
【0004】
大動脈はエラスチンのよい供給源である。なぜならヒトの動脈は、量的に利用不能であって、動物の動脈がエラスチンの主な供給源であったからである。しかし動脈のエラスチンは極めて不溶性の基質であり、従って、可溶性のエラスチン由来の材料は、不溶性のタンパク質を酸またはアルカリで処理することによって作製され、これによって、αエラスチンおよびκエラスチンなどの加水分解産物が生じる。これらは、混合された大きさのペプチドという比較的明確でない混合物である。従って、大量の天然のエラスチンの供給源は容易に利用できない。
【0005】
生体適合性の物質を開発する企図では、可溶性の動物エラスチン材料を用いて、通常は、化学的な架橋剤での固定によって、非生物学的な補綴材料をコーティングしている。例えば、米国特許第4,960,423号(Smith)は、動物のエラスチン由来の水溶性ペプチドでコーティングされた合成血管補綴物に関する。
【0006】
米国特許第5,416,074号(Rabaud)は、エラスチンまたは可溶化エラスチンペプチドおよび別の結合組織タンパク質、例えば、フィブリンを含んでいる組成物に関する。この可溶化エラスチンペプチドは10,000より大きい分子量を有する。
【0007】
米国特許第4,474,851号(Urry)は、人工コア線維(例えば、Dacron)および繰り返しのテトラペプチド単位またはペンタペプチド単位を含むポリペプチドを含んでいるエラストマー複合材料に関する。この単位は、トロポエラスチン分子中に繰り返して観察される単位、Val−Pro−Gly−Val−Gly(VPGVG;配列番号6)およびVal−Pro−Gly−Gly(VPGG;配列番号7)から誘導される。このポリペプチドは一連のβターンを含んで、βコイル構造を有すると提唱されている。このポリペプチドは複合材料に対してゴム状の弾性を付与するが、構造的強度または構造的完全性をほとんど有さない。この人工コア線維によって、これら後者の特性がこの複合材料にもたらされる。
【0008】
米国特許第4,979,959号(Guire)は、固体生物材料に生体適合性物質をコーティングすること、および光化学反応で生体適合性剤をこの表面へ化学的に結合させることにより、固体生物材料の生体適合性を改良する方法に関する。
【0009】
またエラスチンベースの材料を用いて、プロテーゼを製造可能な固体材料が作られている。この材料としては、ゲル様材料を作製するためにコラーゲン、フィブリン、フィブロネクチンおよびラミニンなどの他のタンパク質とともに凝集させた可溶性の動物エラスチン、ならびにヒトエラスチンの短い疎水性配列(例えば、PGVGVA;配列番号5)から誘導された重合物質が挙げられる。いくつかの場合においては、この合成ペプチドはまた、リジン残基を含む短いアラニンリッチの配列も含み、これによりエラスチン様ペプチド同士の架橋またはコラーゲンなどの他のタンパク質への架橋が可能となる。エラスチンとコラーゲンは双方ともリジンから誘導された架橋を含む。例えば、米国特許5,223,420号(Rabaud)は、エラスチンと少なくとも1種の他のタンパク質、例えば、フィブリンを含む付加化合物を含んでいるエラスチンベースの生成物に関する。
【0010】
米国特許第4,589,882号(Urry)は、テトラペプチドおよびペンタペプチドの繰り返し単位のエラストマー成分、ならびにアミノ酸残基を含み得る架橋成分を含んでいる人工エラストマーコポリマーに関する。この繰り返し単位はエラスチンに由来する。米国特許第4,132,746号(Urry)は、合成された不溶性の架橋ポリペンタペプチドに関する。このペンタペプチドは、トロポエラスチン中に存在するVPGVG(配列番号6)ペプチドである。このペプチドから誘導される他の物質については、米国特許第4,500,700号、同第4,870,055号、および同第5,250,516号(全てUrry)も参照のこと。これらの特許に記載されているポリペプチドは、一連のβターンを含んで、かつβコイル構造を有すると提唱されている。
【0011】
動物の動脈はまた、血管置換に用い得るチューブ状の形態でエラスチンとコラーゲンのマトリックスをかなり残して、外側の物質が取り除かれている。例えば、米国特許第4,776,853号(Klement)は、適当なドナー組織から移植可能な生物材料を調製するためのプロセスに関する。
【0012】
米国特許第5,969,106号、同第6,489,446号および同第6,765,086号は、補綴物(血管補綴物を含む)を含む、および化粧品における、種々の用途での使用のための、エラスチン、および他の天然に存在する線維性タンパク質を模したポリペプチドを記載している。
【0013】
伸展性、弾力性および圧縮性という特性を示しながら、免疫原性でなくかつ血栓形成性でない、関節の再構成、修復およびクッションに適切である合成ポリペプチド材料が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
一実施形態によれば、架橋されたポリペプチドを含む、関節の再構成、修復および/またはクッションのための合成ポリペプチド材料が提供され、ここで(A)各々のポリペプチドは、架橋に関与する少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造および少なくとも1つの架橋性アミノ酸残基を含み、この架橋性残基が、βシート/βターン構造とは異なり、かつ(B)各々のポリペプチドは150〜500アミノ酸長であり、かつこの材料は関節中へ、または関節近位の部位への挿入に適した固体または液体である。特定の態様では、βシート構造の各々は3〜約7アミノ酸残基を含んでもよい。いくつかの実施形態では、架橋されたポリペプチドのアミノ酸配列は、同じであり、一方、他の実施形態では、架橋されたポリペプチドのアミノ酸配列は異なる。
【0015】
ある実施形態では、この材料はさらに、強化材料、例えば、動物材料、合成材料または金属を含む。他の実施形態では、この材料はさらに、非タンパク質の親水性ポリマーを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、この材料はさらに、グリコサミノグリカン部分、例えば、ヒアルロナン部分を含む。ある実施形態では、この材料は、架橋されたポリペプチドおよびグリコサミノグリカン部分の混合物を含む。他の実施形態では、この架橋されたポリペプチドは、グリコサミノグリカン部分に共有結合されている。
【0017】
ある実施形態では、この材料は、固体であり、パッド、シートおよび靱帯様の構造の形態であってもよい。他の実施形態では、この材料は、液体、例えば、注射に適切な薬学的に受容可能な担体をさらに含む、溶液または懸濁液である。
【0018】
別の実施形態によれば、関節の再構成、修復またはクッションのための方法が提供され、この方法は、関節中へ、または関節近位の部位へ、架橋ポリペプチドを含む合成ポリペプチド材料を挿入する工程を包含し、ここで(A)各々のポリペプチドが架橋に関与する少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造および少なくとも1つの架橋性アミノ酸残基を含み、この架橋性残基が、βシート/βターン構造とは異なり、かつ(B)各々のポリペプチドが150〜500アミノ酸長である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】ヒトエラスチンのドメイン構造を示す。
【図1B】シグナルペプチドなしのヒトエラスチン(配列番号1)のアミノ酸配列を示す。下線のアミノ酸残基は、MFU−1と名付けられたポリペプチドを含む。
【図1C】MFU−1中で発現されたエキソンに相当する疎水性および架橋のドメインの略図表示である。
【図1D】βシート/βターン構造を有するペプチドの概略図である。
【図2】MFU−1のコアセルベーション(自己凝集)を示す。
【図3】図3Aは、ポリペプチドMFU−2を発現可能なGST融合構築物を示す。図3Bは、MFU−2の疎水性ドメインおよび架橋性ドメインの略図表示である。図3Cは、MFU−2のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図4】図4Aは、MFU−3のアミノ酸配列(配列番号9)を示す。図4Bは、MFU−4のアミノ酸配列(配列番号10)を示す。図4Cは、MFU−5のアミノ酸配列(配列番号11)を示す。
【図5】図5Aは、MFU−6のアミノ酸配列(配列番号12)を示す。7折り畳みPGVGVA(配列番号5)の繰り返しは強調している。架橋性ドメインKAAK(配列番号3)およびKAAAK(配列番号4)には下線を付している。図5Bは、MFU−7のアミノ酸配列(配列番号13)を示す。7折り畳みPGVGVA(配列番号5)の繰り返しは強調している。架橋性ドメインKAAK(配列番号3)およびKAAAK(配列番号4)には下線を付している。
【図6】図6Aは、エラスチン様材料の典型的なパッドを示す。図6Aは、実施例1で概説した遠心分離方法によって調製した、ほぼ3mmの直径および3mmの厚みのパッドの上面図を示す。図6Bは、エラスチン様材料の典型的なパッドを示す。図6Bは、実施例1で概説した遠心分離方法によって調製した、ほぼ3mmの直径および3mmの厚みのパッドの側面図を示す。
【図7】図6に示されるパッドの圧縮試験の結果を示し、その物質の圧縮に対する抵抗および弾性および圧縮率を示している。
【図8】図6の材料の典型的な弾性係数および弾力(エネルギー損失)および圧縮率特徴を種々の程度の圧縮で示す。
【図9】実施例2に概説される発泡技術によって調製したエラスチン様材料のパッドの圧縮試験および弾性および圧縮率の結果を示す。
【図10】実施例2で調製される物質の典型的な弾性率および弾力(エネルギー損失)および圧縮率の特徴を種々の程度の圧縮で示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書に記載されるのは、例えば、関節の再構成、修復およびクッションの用途で有用である合成ポリペプチド材料である。
【0021】
本明細書において用いる場合、「合成の」ポリペプチド材料という用語は、その物質が天然には存在しない材料であることを特定する。本明細書に記載される合成ポリペプチド材料中に含まれるポリペプチドは典型的には、組み換え方法によって得られるが、化学合成またはそれより大きいポリペプチドもしくはタンパク質の切断を含む他の手段によって得てもよい。
【0022】
本明細書において用いる場合、「関節」という用語は、ヒトまたは他の動物の任意の関節を指し、これには股関節、膝関節、肘関節、肩関節、指関節および他の連結する関節、ならびに椎間板および他の同様の部位が挙げられる。
【0023】
本明細書において用いる場合、「関節の再構成または修復」という用語は、正常に関節構造の内側を覆うかまたは安定化させる、靱帯または軟骨の構造の置換または修復(例えば、強化)のために用いられる任意の過程を包含する。
【0024】
本明細書において用いる場合、「関節クッション」という用語は、関節でクッション性をもたらすために身体中に移植または注入される任意の材料を包含する。例えば、関節クッションは、骨の末端を覆って、関節が容易に動くことを可能にし得る。ある状況では、関節クッションは軟骨と同様に、弾性、線維性、高密度、結合性の材料として機能する。当業者に理解されるとおり、軟骨は通常、骨の間に見出され、関節の円滑な動きを可能にする。「関節クッション」という用語はまた、関節腔、例えば、椎間板の領域などに注入されるとき、骨ばった表面を隔てるための弾性材料を提供する材料を包含する。
【0025】
天然のエラスチンは、それが見出される組織に対して伸展特性を付与することが理解されているが、本発明は、エラスチンまたは他の線維性タンパク質を模したポリペプチドが、圧縮力(例えば、圧縮率)に対する抵抗において弾力性に関して有利な特性を示すという発見に一部は関する。エラスチンは椎間板組織の主な成分であって、脊椎の間のショック・アブソーバーとして機能し、脊柱の柔軟性をもたらし、エラスチン様材料の大型のパッドは、ゾウなどの重量のある動物の脚にクッションをもたらすことが公知である。さらに、エラスチンは、耳介軟骨、気管支軟骨および喉頭軟骨を含むいくつかの軟骨組織の主な成分である。エラスチンの圧縮率によって、これらの天然の用途に特に適することになる場合がある。本明細書に記載されるのは、関節の再構成、関節の修復および関節のクッションの用途を含む用途のために特に有利である、圧縮率特性を示すエラスチンまたは他の線維性タンパク質を模したポリペプチドである。
【0026】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、ヒトエラスチンを含むエラスチンを模しているポリペプチドを含む。他の実施形態では、この材料は、他の線維性タンパク質を模しているか、またはエラスチンおよび/または他の線維性タンパク質のうちの1つまたは複数の組み合わせを模しているポリペプチドを含む。さらに他の実施形態では、この材料は、他の非タンパク質性の材料、例えば、親水性ポリマーまたはグリコサミノグリカン部分、例えば、ヒアルロナン部分と組み合わせてポリペプチドを含む場合がある。このような組み合わせとしては、成分の単純な混合物、ならびに成分の間の共有結合を含む材料、例えば、ポリペプチド上の官能基(この官能基は、ポリペプチド上に正常に存在するか、または当分野で公知の方法によってポリペプチドに導入される)を通じてポリペプチドに共有結合されたグリコサミノグリカン部分を含む材料が挙げられる。
【0027】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は、架橋ポリペプチドを含み、関節の再構成、修復またはクッションの用途に適切なクッションまたは他の構造(例えば、シートまたはパッド)として提供される。他の実施形態では、合成ポリペプチド材料の液体の可溶型または懸濁型が提供され、注射、例えば、椎間板腔などの組織腔への注射に適切であり、ここで骨ばった表面の間のクッションが提供される。他の実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、例えば、関節を安定化するための外科的移植のために適切な靱帯様構造として提供される。
【0028】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、弾性の反跳、圧縮に対する抵抗性(例えば、反復性の圧縮力に対する抵抗性を含めた、圧縮率)、弾力、ならびに関節の再構成、修復またはクッションの用途、例えば、関節の摩耗および疼痛を軽減するためのクッションとして、または関節表面に対する局所損傷の外科的修復のためのプラグ材料としての使用に特に適切な材料を作製する耐久性、などの特性を示す。例えば、いくつかの実施形態によれば、この合成ポリペプチド材料は、関節表面のクッションになるか、関節の動きを改善するか、および/または関節の連関する表面に対するさらなる損傷に対して保護するグラフト材料として有用である。このような用途における本明細書に記載される合成ポリペプチド材料の使用によって、大量販売の関節置換のための要件が遅らせられるか、または妨げられ得る。
【0029】
下に例示されるとおり、合成ポリペプチド材料は、ポリペプチド(単数または複数)の性質および材料の所望の特性に適切なポリペプチド濃度、溶液温度およびイオン溶液強度で、溶液からポリペプチドを(例えば、濃度または温度を介して)重合することによって作製され得る。
【0030】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、シートまたはパッドに加工される。これらのシートまたはパッドは典型的には、意図される用途次第で、約1〜約5mmの厚みを有するが、他の厚み、例えば、約0.1〜約1.0mm、約1〜約2mm、約2〜約5mm、約1〜約10mm、または約5〜約10mmであってもよい。従って、本発明は、1〜5mm、0.1〜1.0mm、1〜2mm、2〜5mm、1〜10mm、または5〜10mmを含む厚み、または意図される用途に適切な任意の他の厚みを有するシートまたはパッドに加工された合成ポリペプチド材料を包含する。
【0031】
コアセルベートポリペプチドからシートまたはパッドを製造するために、このコアセルベートを、例えば、遠心分離または濾過技術によって濃縮してもよいし(実施例1)、または発泡技術を用いてもよい(実施例2)。当業者は、本明細書に記載される合成ポリペプチド材料を得るための他の適切な方法を認識する。
【0032】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、注射用の薬学的に受容可能な担体に溶解または懸濁されるなどの、液体の可溶型または懸濁型で提供される。例えば、ポリペプチドは、リン酸緩衝化生理食塩水中に、または他の生理学的に適切な溶液中に、それらが正常なインビボの温度未満の温度(例えば、体温未満、例えば、室温または約37℃)で溶解したままであるような濃度で溶解されてもよい。ある実施形態では、このポリペプチドは、より高温にさらされた際、例えば、インビボ注射および正常なインビボ温度(例えば、体温)への曝露の際、コアセルベーション(例えば、自己アセンブリおよび固体ポリマーマトリックスへの沈殿)を受ける。この実施形態によれば、合成ポリペプチド材料の固体マトリックスは、インサイチュで、注射部位の近傍で形成される。本実施形態に関連するのは、修復、再構成および/またはクッションの必要な関節部位への合成ポリペプチド材料の可溶型または懸濁型の注射を包含する、関節の修復、再構成、および/またはクッションを果たす方法である。有利には、本実施形態によって、関節置換材料を外科的に挿入する必要なく、修復、再構成および/またはクッションが可能になる。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、この合成ポリペプチド材料は架橋される。架橋は例えば、材料を安定化し得、および/または圧縮率を含む、材料に対する所望の特性を付与し得る。例示的な架橋剤としては、(限定はしないが)、グルタルアルデヒド、ゲニピン、ビス[スルホスクシンイミジル]スベリン酸塩、メチルグリオキシル、グリオキシル、ピロロキノリンキノンおよびリジン−ジイソシアネートが挙げられる。当業者は、他の架橋剤が用いられてもよいことを認識する。架橋は、当分野で公知の任意の手段によって達成され得る。例示的な架橋方法は、本実施例に示される。
【0034】
ある実施形態では、特定の架橋剤の使用は、合成ポリペプチド材料の物理的特性に影響する。架橋因子は一般に、以下の特徴に基づいて選択される。化学的特性、スペーサーアーム長、水溶性、同種官能性または異種官能性の反応基、熱反応性または光反応性基、架橋因子の開裂性、および架橋因子をタグ付けする能力。架橋因子の選択は、材料の特徴に影響し得る。例えば、複数の反応部位を有するか、または有効なスペーサーアーム長を延長するように自己重合化し得る架橋剤は一般には、より限られたスペーサーアーム長を有する短い架橋剤よりも強固な材料をもたらす。種々のスペーサーアーム長を有する架橋剤は、例えば、ポリペプチドの立体特性が潜在的な架橋部位の間の距離に影響する場合、種々の物質に適切であり得る。架橋剤はまた、実施例中に例示されるような、得られた材料の圧縮率に対するそれらの影響について選択され得る。
【0035】
ある実施形態では、架橋は、コアセルベーションの間に材料に対して架橋剤を添加することなどによって、コアセルベーションと同時に達成される。他の実施形態では、架橋は、コアセルベーション後に材料に対して架橋剤を添加することなどによって、コアセルベーションに続いて達成される。いったん架橋因子が添加されれば、架橋は一般には、一定期間にわたって、例えば、数時間、例えば、1〜5時間にわたって形成および成熟する。他の実施形態では、架橋は、その物質が形成されたのち、例えば、架橋剤としてグルタルアルデヒド蒸気を用いて、コアセルベーションおよび濃縮の後にその材料に架橋剤を添加することなどによって達成される。
【0036】
ある実施形態では、ポリペプチド(単数または複数)の同一性は、合成ポリペプチド材料の物理的特性に影響する。例えば、エラスチンを模したポリペプチドから製造された材料は、関節の再構成、修復およびクッションの用途に特に適している有用な圧縮の物理的特性(例えば、圧縮率)を有する。別の実施形態では、エラスチンを模したポリペプチドおよび親水性ポリマー、例えば、ヒアルロン酸および他のグリコサミノグリカンから製造された複合材料は、関節の再構成、修復およびクッションの用途に有用な有利な膨潤および機械的特性を示す。さらなる実施形態では、種々の張力の物理的特性(例えば、弾性係数/圧縮率、伸展性、破壊荷重および粘弾性)を有する材料は、下の実施例に例示されるように、改変されたアミノ酸配列、ならびに/または疎水性および/もしくは架橋性ドメインの改変された配置を有するポリペプチドを用いることによって、そして/あるいは種々の架橋方法を用いることによって、得ることができる。
【0037】
本明細書において示される説明によれば、当業者は、種々の部位で再構成、修復またはクッション材料として能力を最適化する物理的特性を示している合成ポリペプチド材料を得るための、適切なポリペプチドのデザイン、加工技術および架橋方法を選択できる。
【0038】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は、エラスチンから作製された比較する材料に比較して圧縮率が増大している。例えば、合成ポリペプチド材料は、弾性係数を決定するための実施例で例示される方法などの比較可能な方法によって決定した場合、エラスチンから作製された比較する材料よりも少なくとも約10%大きい、少なくとも約20%大きい、少なくとも約25%大きい、少なくとも約30%大きい、少なくとも約40%大きい、少なくとも約50%大きい(例えば、1.5倍の圧縮率)、少なくとも約60%大きい、少なくとも約70%大きい、少なくとも約75%大きい、少なくとも約80%大きい、少なくとも約90%大きい、少なくとも約95%大きい、または少なくとも約100%大きい圧縮率(例えば、2倍の圧縮率)を有する場合がある。ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、比較可能な方法によって決定したとき、エラスチンから作製された匹敵する材料よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、またはそれ以上の圧縮率を有する。
【0039】
(ポリペプチド)
上記で注記されるとおり、本明細書において記載される合成ポリペプチド材料は、ヒトのエラスチンおよび/または他の天然に存在する線維性タンパク質を模したポリペプチドを含む。下の考察では多くの場合、ヒトのエラスチンを例示的な親タンパク質と述べているが、他の天然に存在する線維性タンパク質を模したポリペプチドが本発明によって考慮され、ヒトエラスチンを模したポリペプチドについて記載されたのと同様の方式で作製および用いられ得る。他のこのような親タンパク質の例としては、ランプリン、クモ糸タンパク質(spider silk protein)、およびレシリンが挙げられる。
【0040】
「親タンパク質」という句はここでは、本発明のポリペプチドが模しているタンパク質を意味する。本明細書において用いる場合、「親のタンパク質Xを模したポリペプチド」という句は、親のタンパク質Xのアミノ酸配列の一部を含むが、親タンパク質の全長配列は含まないポリペプチドを意味する。例えば、ヒトエラスチンを模したポリペプチドは、ヒトのトロポエラスチンアミノ酸配列の一部を含むが、ヒトのトロポエラスチンのアミノ酸配列全体は含まない。「天然に存在する線維性タンパク質」とは、天然に見出される任意の線維性タンパク質であって、「線維性タンパク質」という句は、当分野の従来の意味を有する。従って、線維性タンパク質とは、長い線維またはシートを形成するように基質中に配列されたポリペプチド鎖からなるタンパク質である。Lehninger,BIOCHEMISTRY 60(1975)を参照のこと。線維性タンパク質の例としては限定はしないが、エラスチン、ランプリン、レシリン、およびクモ糸タンパク質が挙げられる。本明細書にその全体が参照によって組み込まれるRobsen et al.,J.Biol.Chem.268:1440〜47(1993)は、本発明のポリペプチドが模している場合がある、さらなるタンパク質を開示している。
【0041】
アミノ酸配列情報は、エラスチン(ヒト、マウス、ラット、ニワトリ、ウシおよびブタのエラスチンを含む)および他の線維性の細胞外基質タンパク質、例えば、クモ糸、ランプリンおよびレシリンについては入手可能である。二次構造および三次構造の分析と一緒にすれば、この情報によって、その機械的特性、および詳細には不溶性の線維へそれらをアセンブリするための機構に関する一般的な理論がもたらされる。例えば、ランプリンのアミノ酸配列は公知であって、このタンパク質の二次構造は、多数のβシート/βターン構造を含むと考えられている。Robson et al.(上掲)。
【0042】
エラスチンは、細胞からの分泌の際、デスモシンと呼ばれる共有的な架橋の形成を通じて分枝したポリマー網目状構造にアセンブルする、トロポエラスチンと呼ばれるモノマーとしてインビボで合成される。Mecham et al.,CELL BIOLOGY OF EXTRACELLULAR MATRIX、第2版(New York,1991)。デスモシン架橋は、リシルオキシダーゼの作用を通じて酵素的に生成される。各々のデスモシンは、4つのリジン残基の側鎖を組み込み、2つは関与するポリペプチド鎖の各々由来である。エラスチンの弾性の特性の背景にある原理は、依然として議論の対象であるが、この特異な特質は、このタンパク質が強力に疎水性の性質であることに依存することが同意される。
【0043】
トロポエラスチンは主に、交互する疎水性ドメインおよび架橋性ドメインから構成される。Indik et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 84:5680〜84(1986)。架橋性ドメインは通常アラニン(A)リッチであって、KAAK(配列番号3)およびKAAAK(配列番号4)スペーシングに存在する架橋形成に関与することになるリジン(K)を伴う。これらの架橋領域を分けているドメインは特徴が強力に疎水性であって、多くの直列に反復される三−、四−、五−、および六−ペプチド配列を含む。ヒトのエラスチンではこれらのうち最も目立つのは、エキソン24で7回繰り返される、配列PGVGVA(配列番号6)である。Indik et al.(上掲)。
【0044】
反復疎水性配列(例えば、疎水性ドメイン)に対する構造的研究によって、排他的にβシート/βターン構造が示される。すなわち、それらはβターンが介在しているβシートを含む。類似のβシート/βターン構造はまた、その全てが高い引張強度を有する安定な線維またはマトリックスを形成する、他の自己凝集するポリマーマトリックスタンパク質、例えば、クモ糸、ランプリン、およびカイコガ・コリオン(silk moth chorion)の構造に寄与する。これらの構造は、これらのタンパク質が自己アセンブルする能力に重要であると提唱されている。Robson et al.(上掲)。
【0045】
一定間隔の疎水性ドメインは、トロポエラスチンを高次構造にアセンブルするように指向するという兆候がある。トロポエラスチン、ならびにエラスチンの可溶化フラグメント(すなわち、κエラスチンおよびαエラスチン)、および疎水性反復配列に対応する合成ペプチドは全て、ポリペプチド鎖の間の疎水性相互作用がオリゴマーのフィブリル構造の形成を生じる過程である、コアセルベーションを受けることができる。この自己凝集は、ランダムではない。疎水性ドメインは、線維状弾性マトリックスへの架橋のためのトロポエラスチンモノマーの配列を促進する。Robson et al.,上掲、Bressan et al.,J.Ultrastr.&Mol.Struct.Res.94:209〜16(1986)、Bellingham et al.,Biopolymers 70:445〜55(2003)。
【0046】
ヒトエラスチンは、その長さのほとんどにおいて交互の架橋ドメインおよび疎水性ドメインからなる。この架橋ドメインは主に、KAAK(配列番号3)およびKAAAK(配列番号4)の配列中のリジン(K)残基およびアラニン(A)残基からなり、このリジン残基は、リシルオキシダーゼによる酸化的脱アミノ化および共有結合的なデスモシン架橋の引き続く形成に適切な立体構造である。Indik et al.(上掲)。疎水性ドメインは、疎水性のペンタペプチド、ヘキサペプチドおよびβシート/βターン構造にあると考えられる他の反復配列がリッチである。Tamburro et al.,ADVANCES IN LIFE SCIENCES 115〜27(1990)。これらの疎水性領域は、伸展性および弾性収縮力というエラスチンの物理的特性に、ならびにトロポエラスチン(エラスチンの単量体の前駆体)がフィブリル構造へ自己凝集する能力に重要であると考えられる。Robson et al.(上掲)、Tamburro et al.,(上掲)。安定な線維状マトリックスに自己凝集および自己アライメントし得る他のタンパク質、例えば、昆虫の卵殻コリオン(chorion)タンパク質、クモの引き糸(dragline silk)、およびヤツメウナギ軟骨由来のランプリンは全てが、βシート/βターン構造を有する疎水性リピートペプチドの類似の領域を保有する。Hamodrakas et al.,Int.J.Biol.Macromol.11:307〜13(1989)、Simmons et al.,Science 271:84〜87(1996)、Robson et al.(上掲)。
【0047】
本発明によって有用なポリペプチドは、エラスチンおよび他の線維状タンパク質、例えば、クモ糸、ランプリン、およびレシリンを模して、自己アライメントに必須の多種多様なアミノ酸残基を含んで、これが線維形成の第一の工程である。簡便のために、各々のこのようなポリペプチドは、最小機能単位(minimal functional unit)またはMFUと呼ぶ。本発明によるMFUの二次構造は、少なくとも3つの連続的なβシート/βターン構造を含む。ある実施形態では、この一次構造としては、βシート/βターン構造を形成する残基に加えて、それとは別個に、架橋に関与し得る少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。ある実施形態では、MFU類としては、米国特許第5,969,106号、同第6,489,446号、および同第6,765,086号(その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されるものが挙げられる。
【0048】
上記で考察されるとおり、βシートおよびβターン構造は、当分野で周知である。本明細書に記載されるポリペプチドのβシート構造は代表的には、いくつかのアミノ酸残基、例えば、3〜約7アミノ酸残基、例えば、約5〜約7アミノ酸残基、例えば、5〜7アミノ酸残基からなる。βシート構造のアミノ酸残基は、疎水性側鎖を有し得る。本発明によるβターン構造は代表的には、2つのアミノ酸残基、しばしば、GGまたはPGで開始され、追加のアミノ酸残基を含んでもよい。例えば、本発明によるβターン構造は、約2〜約4アミノ酸残基、例えば、2〜4アミノ酸残基、および詳細には4アミノ酸残基を含んでもよい。
【0049】
図1Dは、連続的なβシート/βターン構造を有するペプチドの模式図である。影付きのリボンはペプチドである。リボンの6つの直線部分は、βシート構造を表し、リボンの5つの曲線部分はβターン構造を表す。白抜き丸は、疎水性側鎖であって、βシートの下に位置し、影付きの丸は疎水性側鎖であって、βシートの上に位置している。これらの疎水性側鎖は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシンおよびフェニルアラニンなどのアミノ酸残基上である。長方形は、βターン構造を安定化する水素結合を示す。Robson et al.(上掲)、Lehninger et al.(上掲)、133〜35ページも参照のこと。
【0050】
本明細書に記載されるMFU類は、可溶性であって、コアセルベーションの特性を示し、それ自体が親タンパク質と同じ方式でアライメント(整列)する。例えば、MFU類の疎水性配列は、親タンパク質の疎水性配列と同じ方式でアライメント(整列)する。MFU類の二次構造を考慮すれば、これは、MFU類のβシートがお互いとアライメントされることを意味する。このアライメントは、親タンパク質中と同じ方式で生じ、ここではβシートが「レゴ」型モチーフでスタックされている。Robson et al.(上掲)を参照のこと。エラスチン由来のMFU類では(および架橋残基を含む他のMFU類で)、このアライメントによってまた、MFU類の間の架橋を可能にする方式でアライメントしているリジン残基(または他の架橋残基)が生じる。
【0051】
一実施形態では、合成ポリペプチド材料は、天然に存在する線維性タンパク質(ただし、線維性タンパク質の全長配列は含まない)の一部の一次構造(すなわち、アミノ酸配列)、および少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造を含む二次構造を有するポリペプチドを含む。ある実施形態では、β−シート/βターン構造の各々は、3〜約7アミノ酸残基を含む。さらなる実施形態では、このポリペプチドはまた、架橋に関与する少なくとも1つの架橋性のアミノ酸残基を含み、ここでこの架橋性の残基は、βシート/βターン構造とは異なる。
【0052】
適切なポリペプチドは、種々の重量およびアミノ酸長であってもよい。例えば、ある実施形態では、ポリペプチドの重量は、約12kD〜約45kD、約20kD〜約40kD、約25kD〜約35kD、または約30kD〜約35kD、例えば、12kD〜45kD、20〜40kD、25〜35kD、または30〜35kdである。ある実施形態では、このポリペプチドは、約150〜約500アミノ酸、約190〜約450アミノ酸、約250〜約400アミノ酸、または約325〜約375アミノ酸、例えば、150〜500アミノ酸、190〜450アミノ酸、250〜400アミノ酸、または325〜375アミノ酸を含む。
【0053】
下の説明は、例示的なMFU類としてエラスチンを模しているMFU類を用いているが、他のタンパク質を模したポリペプチドが本発明に包含される。例えば、クモの糸、ランプリンおよびレシリンを含めて任意の他の線維形成タンパク質を模したポリペプチドが使用について考慮される。これらのMFU類は、エラスチンを模したMFU類について本明細書に記載される通り得ることができる。さらに、2つ以上の異なる親タンパク質由来のMFU類の混合物(例えば、ランプリン、エラスチンおよびレシリンを模したMFU類)を一緒に用いて、種々の物質を作製してもよい。
【0054】
ヒトエラスチンのドメイン構造は、図1Aに図示する。この図で示されるとおり、多数の交互の架橋ドメインおよび疎水性ドメインがある。疎水性ドメインは各々、多数のβシート/βターン形成配列を含むと考えられる。これらのドメインは、エラスチンの有望なMFU類である。これらのうち、さらなる実験で用いられるのは、カッコで指定され、MFU−1と命名されている。図1Bは、ヒトエラスチンのアミノ酸(配列番号1)を示す。下線のアミノ酸残基、残基374〜499は、MFU−1を含む。ヒトエラスチンを模した他のMFU類としては、それぞれアミノ酸残基19〜160、188〜367および607〜717を含むポリペプチドが挙げられる。MFU−3のアミノ酸配列(配列番号9;図4A)は、最初の5つのアミノ酸残基なしのMFU−1の配列に相当する。MFU−4のアミノ酸配列(配列番号10;図4B)は、最初の4つのアミノ酸残基なしのMFU−1の配列に相当する。MFU−5のアミノ酸配列(配列番号11;図4C)は、最初の1つのアミノ酸なしのMFU−2の配列に相当する。
【0055】
ヒトエラスチンを模したMFU類は、トロポエラスチン分子のアミノ酸配列の一部を含み(図1B;配列番号1)、かつそれらの二次構造中に少なくとも3つの連続的なβシート/βターン構造を有する。それらはまた、リジン残基のような、架橋に関与し得るアミノ酸残基を含み得る。上で注記されるとおり、ある実施形態では、架橋性の残基は、βシート/βターン構造を形成する残基とは別個である。一実施形態では、MFUはデスモシン型の結合を形成するような方式で架橋に関与し得る2つの連続的アミノ酸残基を含む。例えば、MFUは、KAAK(配列番号3)またはKAAAK(配列番号4)のアミノ酸配列を含んでもよい。MFUは、架橋残基(単数または複数)の2つ以上の出現を包含してもよく、その各々がβシート/βターン構造を形成する残基とは別個であり得る。
【0056】
一実施形態では、ヒトエラスチンを模したポリペプチドは本質的に、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部からなる。本明細書において「Aは本質的にBからなる」という句は、AがBを含み、かつ場合によっては、A−Bの物質の特徴に物質的に影響しない他の成分を含むことを意味する。例えば、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の本質的に一部からなるポリペプチドとは、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部を含み、かつまたこのポリペプチドの特徴を物質的に変化させない他のアミノ酸残基も含み得るポリペプチドを意味する。すなわち、このポリペプチドは、少なくとも3つの連続的なβシート/βターン構造を有し、かつ自己アライメントするという特徴を、トロポエラスチンペプチドと同じ方式で維持している。しかし、親タンパク質のアミノ酸配列の一部から本質的になる親タンパク質を模したポリペプチドが親タンパク質の全長アミノ酸配列を含まないということが理解されるべきである。
【0057】
上記されるとおり、MFU類の二次(βシート/βターン)構造は、MFU類の自己凝集および自己アライメントをガイドし、その結果MFU類は、親タンパク質の凝集物の構造を模倣する方式で、それ自体アライメントすると考えられている。例えば、MFU類のβシートがアライメントされ、エラスチンを模したMFU類(および架橋性残基を含む他のMFU類)のリジン残基は、酵素的または化学的な架橋のために安定なポリマー構造へ、アライメントされ、これはトロポエラスチンモノマーがエラスチンタンパク質を形成する方式を模倣している。
【0058】
MFUは、ペプチドの直接合成または組み換え産生を含む、任意の方法によって得ることができる。例えば、ヒトエラスチンを模したMFUのDNAは、ヒトエラスチンをコードするDNAから、そのDNAの切断および適切なセグメントの選択によって、または種々の周知の方法を介したそのDNAの合成によって、直接得ることができる。
【0059】
利用可能な技術によって、任意のヒトエラスチンMFUのタンデム・リピートをコードするDNA配列、またはヒトエラスチンのより大きいドメインを含むMFU類をコードするDNA配列(最大でトロポエラスチン分子全体まで)を構築してもよいが、ある実施形態では、このポリペプチドは、エラスチンの全長配列を含まない。これらのより大きいエラスチン配列は、それらのアセンブリの反応速度論、またはそれらの機械的特性に関して利点を提供し得る。例えば、ヒトエラスチンのエキソン20、21、23、24、21、23および24からなるMFU−2が発現されて精製されている。このペプチドのアミノ酸配列は、図3C(配列番号2)に示される。MFU−2は、より低いコアセルベーション温度で証明されるとおり、MFU−1よりも自然な自己凝集の傾向が大きいことが示されている。MFU−5のアミノ酸配列(図4C;配列番号11)は、最初のアミノ酸残基なしのMFU−2のアミノ酸配列に相当する。
【0060】
さらに、MFU−6およびMFU−7は、分子MFU−2およびMFU−5に相当し、ここでは架橋の2つのさらなるセグメント、および分子のエキソン24部分がある。図3C、4C、5Aおよび5Bを参照のこと。MFU−2、MFU−5、MFU−6およびMFU−7は、関節クッション用途のための材料中で有用なポリペプチドの例示的な実施形態である。
【0061】
また、本明細書に記載される合成ポリペプチド材料で有用なのは、天然に存在する線維性タンパク質の一部の一次構造を含む(ただし、線維性タンパク質の全長配列は含まない)ポリペプチドであり、ここではこの一次構造は、1つまたは複数のアミノ酸残基の付加、置換、および/または欠失によって改変される。このポリペプチドは、少なくとも3つの連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書に記載の自己アライメントの特性を示す。作製され得る改変の数に限界はないが、親タンパク質の対応する配列に対して、1〜約20、1〜約10、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、置換および/または欠失を含む改変が、ポリペプチドの上記の特性を維持しながら達成され得ると考えられる。従って、親タンパク質の対応する配列に対して1〜20、1〜10、または1〜5個のアミノ酸の付加、置換および/または欠失を含むポリペプチドが適切である。
【0062】
ある実施形態では、保存的アミノ酸改変のみが行われる。例示的なアミノ酸置換としては以下の変化が挙げられる。アラニンからセリンへ、アルギニンからリジンへ、アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジンへ、アスパラギン酸からグルタミン酸へ、システインからセリンへ、グルタミンからアスパラギンへ、グルタミン酸からアスパラギン酸へ、グリシンからプロリンへ、ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミンへ、イソロイシンからロイシンまたはバリンへ、ロイシンからバリンまたはイソロイシンへ、リジンからアルギニン、グルタミンまたはグルタミン酸へ、メチオニンからロイシンまたはイソロイシンへ、フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニンへ、セリンからトレオニンへ、トレオニンからセリンへ、トリプトファンからチロシンへ、チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニンへ、バリンからイソロイシンまたはロイシンへ。
【0063】
例えば、ポリペプチドの疎水性領域における改変は、βターンにおける1つまたは複数のアミノ酸残基をβターンを開始する他のアミノ酸で置換することを含み得る。例えば、1つまたは複数のP残基もしくはG残基をそれぞれG残基もしくはP残基で置換してもよく、またはセリン残基で置換してもよい。さらに、またはあるいは、1つまたは複数のアミノ酸残基の付加、欠失または置換などの改変は、βシート構造中のアミノ酸残基へ行われ得る。例えば、疎水性の側鎖を有するアミノ酸残基は、疎水性の側鎖を有するか、または類似した性質の側鎖を有する異なるアミノ酸残基で置換されてもよい。例示的な置換としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシンおよびフェニルアラニンの間での置換が挙げられる。
【0064】
架橋ドメインを含む(例えば、少なくとも1つの架橋アミノ酸残基を含む)ポリペプチドについては、架橋ドメインのαらせん構造を妨害しない任意の数の付加、置換および欠失(例えば、前述したような付加、欠失、および保存的アミノ酸置換)が行われてもよい。また、リジン残基は架橋に関与し得る任意の他のアミノ酸残基(例えば、チロシンまたは酸性もしくは塩基性残基、例えば、アルギニン、アスパラギン酸およびグルタミン酸)で置換されてもよい。
【0065】
一実施形態によれば、そのアミノ酸配列が図1B(配列番号1)に示すアミノ酸配列の一部分(またはフラグメント)の変異体を含むポリペプチドが用いられる。このようなポリペプチドのアミノ酸配列は、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部に相当し、この図に示されるアミノ酸配列は、1〜約10個のアミノ酸残基、例えば、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換、例えば、1〜10または1〜5個のアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変される。このようなポリペプチドは、少なくとも3個の連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書中で記載されている自己アライメントの特性を示す。
【0066】
別の実施形態によれば、MFU−2(配列番号2)として公知である、そのアミノ酸配列が図3Cに示されるアミノ酸配列の変異体を含むポリペプチドが用いられる。このようなポリペプチドのアミノ酸配列は、図3C(配列番号2)に示されているアミノ酸配列の一部に相当し、この図に示されるアミノ酸配列は、1〜約10個のアミノ酸残基、例えば、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換、例えば、1〜10または1〜5個のアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変される。このようなポリペプチドは、少なくとも3個の連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書中で記載されている自己アライメントの特性を示す。
【0067】
そのアミノ酸配列が図4A〜4C(それぞれ、配列番号9〜11)に示されるアミノ酸配列の変異体を含むポリペプチドも本発明によって包含される。このようなポリペプチドのアミノ酸配列は、図4A、4Bまたは4C(それぞれ、配列番号9、10または11)に示されているアミノ酸配列の一部を含み、この図に示されているアミノ酸配列は、1〜約10個のアミノ酸残基、例えば、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換、例えば、1〜10または1〜5個のアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変されている。このようなポリペプチドは、少なくとも3個の連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書中で考察されている自己アライメントの特性を示す。
【0068】
そのアミノ酸配列が図5A〜6B(それぞれ、配列番号12〜13)に示されるアミノ酸配列の変異体を含むポリペプチドも、本発明によって包含される。このようなポリペプチドのアミノ酸配列は、図5A〜5B(それぞれ、配列番号12または13)に示されているアミノ酸配列の一部を含み、この図に示されているアミノ酸配列は、1〜約10個のアミノ酸残基、例えば、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換、例えば、1〜10または1〜5個のアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変されている。このようなポリペプチドは、少なくとも3個の連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書中で考察されている自己アライメントの特性を示す。
【0069】
本発明によるヒトエラスチンを模したMFUは、他のエラスチン調製物を上回る別個の利点をもたらす。例えば、前に用いられたエラスチンの可溶化フラグメントとは対照的に、MFUは、規定の組成の単一のペプチドである。MFUは、親タンパク質よりかなり小さく、かつ構造が簡単であり、従って、大量に産生または発現すること、溶液中で取り扱うこと、ならびに実験および実用的な目的で操作することがさらに容易である。他のエラスチン調製物と同様、MFUは血栓形成性でなく、細胞浸潤しやすい環境をもたらす。さらに、ヒトエラスチン配列の全体を構成し、MFUは免疫原性ではなく、従って真に生体適合性の材料をもたらす。
【0070】
(関節の再構成、修復およびクッション)
上記のとおり、本明細書に記載されるポリペプチド(例えば、MFU類)は、関節の再構成、修復およびクッションの用途のための材料での使用に適切である。このポリペプチドは、例えば、骨の間または関節において軟骨様の構造をもたらすために、関節クッションとして有用である合成ポリペプチド材料に加工され得る。さらに、またはあるいは、このポリペプチドから加工された材料は、関節表面に対する局所的な損傷を修復するためのプラグ材料として用いられ得る。適切な材料は、下に記載されるような、コアセルベーションおよび架橋を含むプロセスによって、ポリペプチドから得ることができる。さらに、インサイチュで、例えば、この合成ポリペプチドがインビボの条件に曝されたとき、インサイチュでコアセルベーションおよびアセンブリが生じるような条件下で、合成ポリペプチドの溶液または懸濁液を関節部位に注射することによって適切な材料を形成してもよい。
【0071】
本明細書に記載されるポリペプチドの特徴的な特性は、ヒトエラスチンのトロポエラスチンモノマーと同じ方式で、規則的な方式でそのペプチドが自己アセンブルする能力である。例えば、そのポリペプチドは、そのポリペプチドがエラスチンを模しているか、そうでなければそのポリペプチドが架橋に関与し得るアミノ酸残基を含むとき、そのβシート構造をアライメント(整列)させて、個々のペプチドの間の架橋を可能にする順序で、それ自体アライメント(整列)する。この自己アライメントおよび自己凝集のプロセスは、線維形成の最初の段階と考えられる。次いでこの線維は、天然のエラスチンポリマーのものと同様の化学的特性および構造的特性を有する材料に作製できる。
【0072】
従って、本明細書に記載されるポリペプチドは、通常溶液中で可溶性であるが、pH、塩分含量、および温度の単純な操作により、このポリペプチドのコアセルベーションおよび自己アライメントが開始され、エラスチン様線維の凝集物を生じる。このポリペプチドのコアセルベーションおよび自己アライメントを生じさせる厳密な条件は、操作されるこのポリペプチドおよび溶液に左右される。コアセルベーションを生じさせる条件は当業者に周知であり、当業者は下記の慣例的な実験手順に従ってポリペプチドのコアセルベーションおよび自己アライメントを導くことができる。
【0073】
図2は本明細書に記載されるポリペプチドがコアセルベートする能力を示す。詳細には、図2はヒトエラスチンのMFU−1のコアセルベーション(自己凝集)を示す。このペプチドをリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、1.5M NaClおよび0.3mM CaCl2を含有)中に0.25mg/mlの濃度で溶解し、その溶液の温度を一定の速度で上昇させた。コアセルベーションは53℃で生じ、溶液の濁度の上昇によって示される。
【0074】
上記で注記されるとおり、本明細書に記載される合成ポリペプチド材料は、単一のタイプのポリペプチド(例えば、同じアミノ酸配列を有するポリペプチド)から作製されてもよく、または同じもしくは異なる親タンパク質を模した異なるポリペプチドを含んでもよい。例えば、この材料は、ヒトエラスチンを模した任意の単一のポリペプチド(例えば、MFU1〜7のいずれか1つ)、ヒトエラスチンを模した2つまたはそれ以上のポリペプチド(例えば、MFU1〜7のいずれかのうちの2つ以上)の組み合わせ、または1つまたは複数の異なる親タンパク質を模した1つまたは複数のポリペプチド(例えば、ヒトエラスチンを模した1つまたは複数のポリペプチド、およびフィブリンもしくはレシリンを模した1つまたは複数のポリペプチドを含む)の組み合わせから構成されてもよい。一実施形態では、この材料は、MFU−2、MFU−5、MFU−6およびMFU−7から選択される1つまたは複数のポリペプチドからなる。
【0075】
同じまたは異なる親タンパク質を模した異なるポリペプチドの組み合わせからなる材料を選択して、所望の物理的特性を有する材料を形成してもよい。例えば、エラスチンを模したポリペプチド、およびクモ糸タンパク質を模したポリペプチドの組み合わせは、エラスチンの高い伸展性およびクモ糸タンパク質の高い引張強度を有する。ポリペプチドおよびその相対的な量の適切な選択によって、特定の特性を有する材料の産生が可能になる。
【0076】
組み合わせの材料は、種々の方法によって、例えば、種々のポリペプチドを含む溶液をコアセルベーションすること、2つ以上のポリペプチドのアミノ酸配列を含む融合タンパク質を用いること、または化学的に一緒に連結された2つ以上のポリペプチドを用いることによって得ることができる。例えば、一実施形態では、動物またはヒトのエラスチンのようなエラスチンを模したMFU、およびランプリンまたはクモ糸タンパク質のような別の線維性タンパク質を模したMFUを含む、ポリペプチドを用いる。このようなポリペプチドは、例えば、融合タンパク質を作製するために用いられる方法によって、当業者に公知の方法によって作製できる。ランプリン由来のタンデム・リピート配列に両側で隣接しているヒトエラスチンのエキソン21および22を含むポリペプチドは、融合タンパク質として発現され得る。ランプリン由来のタンデム・リピート配列に隣接しているヒトエラスチンのエキソン21および23を含むポリペプチドは、融合タンパク質として発現されている。別の実施形態では、ランプリンまたはクモ糸タンパク質を模したMFUに化学的に結合された動物またはヒトのエラスチンを模したMFUを含む材料が提供される。このような化学的に結合したポリペプチドは、当業者に公知の方法によって作製され得る。同じまたは異なる親タンパク質を模したMFU類の他の組み合わせも、本明細書に記載の材料で有用である。
【0077】
一実施形態では、ヒトエラスチンのような(上記のような)線維性タンパク質を模したMFUとともにレシリンの架橋性ドメインを含むポリペプチドが設計される。レシリンは、昆虫の羽根のヒンジに存在するタンパク質ポリマーであって、圧縮エラストマーの機能的特性をもたらす。レシリンのポリマー形態は通常、タンパク質鎖の間のジチロシンおよびトリチロシンの架橋によって架橋される。単量体のレシリンの配列は、公開され、単量体タンパク質は、酸化条件下でインビトロで架橋され、これによって、天然の架橋、ジチロシンおよびトリチロシンの形成が生じる。例えば、Elvin et al.,Nature 437:999〜1002(2005)を参照のこと。一旦、アライメントされれば、レシリン架橋ドメインは、例えば、過酸化水素およびペルオキシダーゼを用いてポリマーに架橋されてもよい。これらのレシリンベースの架橋を有するポリペプチドを含む材料は、優れた特性および圧縮弾性および弾力および圧縮率を有し得、これによってその材料は関節クッション用途における使用に特に適切になり、これらの特性は所望される。
【0078】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は、ランプリンを模したポリペプチドを含む。このようなポリペプチドは、少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造を有するが、全長ランプリンアミノ酸配列は含まない、ランプリンのアミノ酸配列の一部を含む。一実施形態では、「本質的に〜からなる」という句が上記されるとおり、ランプリンを模したポリペプチドは本質的に、ランプリンのアミノ酸配列の一部からなる。あるいは、ランプリンを模したポリペプチドは、ランプリンのアミノ酸配列の一部を含み、このアミノ酸配列は、1〜10または1〜5個のアミノ酸改変を含む、上記のような、1つまたは複数の付加、置換および/または欠失によって改変される。
【0079】
さらに、合成ポリペプチド材料は、線維性タンパク質を模したポリペプチドに加えて他のタンパク質を含んでもよい。例えば、線維性タンパク質を模したポリペプチドは、他のタンパク質、例えば、コラーゲンと共凝集して、身体の天然の構造的材料と似ているクッション材料を得ることができる。
【0080】
合成ポリペプチド材料はまた、親水性ポリマー、例えば、グリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロナンを含む非タンパク質材料を含んでもよい。このような材料は、成分の混合物を含んでもよいし、または成分の間の架橋を含んでもよい。例えば、この材料は、ポリペプチド上の官能基(この官能基は、通常ポリペプチド上に存在するか、または当分野で公知の方法によってポリペプチドに導入される)を通じてポリペプチドに共有結合されたグリコサミノグリカン部分を含んでもよい。
【0081】
本明細書に記載される合成ポリペプチド材料は、生体適合性であって、内皮細胞を含めて、患者で増殖する細胞の浸潤がしやすい。結果として、移植された材料は永久に、実物と遜色なく組織置換することができる。
【0082】
従って、本明細書に記載されるのは、関節の再構成、修復およびクッションのための合成ポリペプチド材料であって、例えば、MFU類を含む線維性タンパク質を模したポリペプチドを含む合成ポリペプチド材料である。上記のとおり、これらの材料は、このポリペプチドをコアセルベーションすること、ポリペプチドを架橋すること、および必要に応じて、この材料をシートもしくはパッドに加工すること、またはそれらを、注射のための薬学的に受容可能な担体中に液体懸濁液もしくは溶液として提供することによって得られる。上記で考察されるとおり、いくつかの実施形態によれば、このポリペプチドおよび/または架橋剤を選択して、エラスチンから作製される匹敵する材料に比べた場合、圧縮率の増大を有する合成ポリペプチド材料を得る。
【0083】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は本質的に、架橋されたポリペプチドからなる。「架橋されたポリペプチドから本質的になる」ポリペプチド材料とは、構造支持体、例えば、動物の材料、合成材料または金属のコアまたは強化構造を提供する他の材料を含まない材料を意味する。ある実施形態では、この材料は、架橋されたポリペプチドからなる。
【0084】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、本質的に、架橋されたポリペプチドおよび非タンパク質材料(例えば、親水性ポリマー、例えば、グリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロナン)からなる。例えば、「架橋されたポリペプチドおよびグリコサミノグリカン部分から本質的になる」ポリペプチド材料とは、構造的支持体、例えば、動物の材料、合成材料または金属のコアまたは強化構造を提供する他の材料を含まない材料を指す。ある実施形態では、この材料は、架橋されたポリペプチドおよびグリコサミノグリカン部分からなる。
【0085】
本明細書に記載されるのはまた、強化材料、例えば、本明細書に記載されるポリペプチド材料でコーティングされているコア、または合成ポリペプチド材料に包埋されるか、もしくはその層の間にサンドイッチされる強化構造を含む合成ポリペプチド材料である。ある実施形態では、このコアまたは強化構造は、動物の材料、合成の材料または金属である。このようなコーティングまたは強化された材料によって、このような構造を欠く材料と同じ利点のうちその多くが得られ、これには、生体適合性、非免疫原性、および細胞浸潤のための環境を提供することが挙げられる。合成ポリペプチド材料に対するコアまたは強化材料の追加によって、特定の特性を強化し得る。例えば、特定の用途には、架橋剤およびポリペプチドを用いるだけでは得ることのできない密度または剛性が必要である場合がある。動物材料、合成材料、または金属を強化することを含めば、特定の物理的特徴を有する物質の調製が可能になる。
【0086】
ある実施形態によれば、関節の再構成、修復またはクッションのための方法が提供され、この方法は、本明細書に記載される合成ポリペプチド材料を関節または関節の近位へ、例えば、組織領域、例えば、椎間板腔へ挿入すること(配置することまたは注射することを含む)を包含する。
【0087】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料(またはそれから形成されるシートもしくはパッド)は、外科的方法を介するなどで、骨と骨との接触をクッションするために関節位置に挿入される。上記で注記されるとおり、例示的な関節としては、限定はしないが、股関節、膝関節、肘関節、肩関節および指関節、ならびに椎間の部位が挙げられる。ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料(またはそれから形成されるシートもしくはパッド)は、インサイチュに置かれ、縫合糸、接着剤によって、骨表面に外科的に作製された窪みへの押圧嵌め込みによって、または任意の他の適切な手段によって固定される。他の実施形態では、この合成ポリペプチド材料(またはそれから形成されるシートもしくはパッド)は、インサイチュに置かれて、なんらの他の手段によっても固定されない。ある実施形態では、この材料は、関節を再構成するか、修復するか、および/または安定化するために外科的に挿入され得る靭帯様の構造として提供される。いかなる理論によっても拘束されないが、ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は、その材料に組織が増殖するにつれて、経時的に適所に固定され得ると考えられる。
【0088】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、液体可溶型または懸濁型で、注射用の薬学的に受容可能な担体中で提供され、例えば、骨ばった表面の間にクッションを与えるために、関節配置または組織腔中に注射される。上記で考察されるとおり、これらの実施形態によれば、合成ポリペプチドは、体温のようなインビボ条件に曝される際にコアセルベーションして自己アセンブルを受けてもよく、それによってインサイチュで固体の合成ポリペプチド材料が形成される。
【0089】
本発明を、以下の実施例を参照して下にさらに説明する。この実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【実施例1】
【0090】
合成のペプチド材料のパッドを、37℃で溶液からのエラスチンを模したポリペプチド(MFU−7)のコアセルベーションによって製造し、遠心分離にかけた。詳細には、このポリペプチドを、平底容器中で、0.15Mのホウ酸塩緩衝液、pH8.0中で50mg/mlの濃度に溶解した。その溶液をNaCl中に0.8Mに調節して、コアセルベーションを開始した。コアセルベーション物を12,000×gで、15分間37℃で遠心分離した。次いで、500μlの10μMのゲニピンを添加して、12,000×gで、37℃でさらに30分間遠心分離を継続してパッドを形成する。その材料を37℃で一晩成熟させ、次いで使用するまで水中に貯蔵した。
【0091】
図6は、この方式で調製した代表的なパッド(約3mmの直径および3mmの厚み)を示す。
【0092】
圧縮に対する抵抗および弾力(例えば、圧縮率)を評価するために、Biosyntech Mach−1試験装置(Biosyntech Inc.,Laval,QC)を用いる慣用的な方法による圧縮試験にこのパッドを供した。この材料の弾性係数および弾力(エネルギー損失)および圧縮率特徴を、Biosyntech Mach−1試験装置(Biosyntech Inc.,Laval,QC)を用いる慣用的な方法により種々の程度の圧縮で測定した。結果は、図7と図8および下記の表に示される。
【0093】
【表1】
【0094】
これらの結果によって、この材料が圧縮に対する有意な抵抗(弾性係数)を有すること、およびこの材料がその圧縮前寸法に対して良好な弾力で回復する(例えば、圧縮率)ことが、荷重および非荷重の数回のサイクル後でさえ示される。
【実施例2】
【0095】
合成ペプチド材料のパッドは、リジン−ジイソシアネートでの架橋を含む発泡技術を用いてエラスチンを模したポリペプチド(MFU−7)の溶液から加工した。詳細には、このポリペプチドは、DMSO中に10mg/mlに溶解して、窒素下で20分間65℃に温めた。697μLの水を添加し、続いて303μLのリジン−ジイソシアネートを滴下して加えた。そのサンプルを混合して、20℃で一晩、部屋の空気中に置いた。次いで、不溶性の架橋材料を凍結乾燥して、使用するまで水に保管した。この実施例では、この材料のパッドの寸法は、この材料が作製される容器によって決定される。この材料の物理的特性は、実施例1に上記されるように評価した。結果を図9(圧縮試験および弾力)および図10(種々の程度の圧縮での弾性係数および弾力)、ならびに下の表に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
ここでも、この結果によって、この材料が圧縮に対する有意な抵抗(弾性係数)を有すること、およびこの材料がその圧縮前寸法に対して良好な弾力で回復することが、荷重および非荷重の数回のサイクル後でさえ示される。
【実施例3】
【0098】
合成ペプチド材料のシートを、上記で概説したのと同じ一般的な手順に従い(架橋剤は異なるものを用いた)、37℃で溶液からのエラスチンを模したポリペプチド(MFU−7)のコアセルベーションによって加工し、続いて遠心分離にかけた。下の表に示すとおり、用いられる特定の架橋剤は、その材料の弾性係数に影響した。
【0099】
【表3】
【0100】
従って、特定の架橋剤の選択は、標的の弾性係数特性を有する材料を設計するために用いられ得る。
【実施例4】
【0101】
合成のペプチド材料のシートは、エラスチンを模した異なるポリペプチドから、上記の一般的手順、例えば、37℃で溶液からのコアセルベーションによって、続いて遠心分離にかけ、ピロロキノリンキノンで架橋した。下の表に示すとおり、材料の弾性係数は、ポリペプチドで異なった。
【0102】
【表4】
【0103】
これらの結果によって、多数の反復単位(MFU類)を有するポリペプチドが、弾性係数の増大した材料を生じることが示される。従って、このような単位の数が多いかまたは少ないポリペプチドの選択によって、標的の弾性係数特性を有する材料の設計が可能になる。
【実施例5】
【0104】
実施例1に記載のエラスチンを模したポリペプチドのコアセルベーションによって加工し、実施例2に記載の特性を有する合成ポリペプチド材料のパッドを、ウサギの膝の関節表面に作製した穿孔欠損中に圧入した。次いで、その膝を閉じて、そのウサギを回復させ、正常な歩行を再開させた。手術の6週後、そのウサギは疼痛の兆候なしに正常に歩き回って、そのパッドは、パッドの拒絶の兆候もなく、周囲の組織もしくは滑液中の炎症もなしに適所で堅固であることが見出された。穿孔欠損を充填していない対照のウサギに比較した、材料のパッドの配置の6週後の膝関節の滑液の定量的分析では、処置したウサギでの炎症の兆候は示されなかった。
【0105】
【表5】
【0106】
さらに、移植6週後の磁気共鳴画像では、パッドの周囲への再生宿主組織の組み込みの兆候が示され、このことは移植された材料の優れた生体適合性を示している。
【0107】
本明細書に記載のプロセスおよび組成物に対して種々の改変および変形がなされ得ることは当業者にとって明らかなものである。従って、本発明は、任意のこのような改変および変形を包含するものとする。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、関節の再構成、修復およびクッションの用途において有用な合成ペプチド材料、ならびに関連の方法に関する。ある実施形態では、この材料は、ヒトのエラスチンまたは他の線維性タンパク質を模した、自己アライメントおよび自己アセンブリ性のポリペプチドを含む。
【背景技術】
【0002】
関節表面の間のクッション性の喪失は、いくつかの重大な整形外科的問題の背景である。関節炎状態の結果としての股関節、肩関節、膝関節、および指関節などの関節の接触面に対する損傷はまた、衰弱性の疾患を生じ、これは、合成材料での関節置換の形態という外科的介入を必要とする場合がある。関節表面の間のクッション性の喪失はまた、関節を安定させる靱帯などの組織に対する損傷の結果である場合もあり、これが関節表面の不均衡を生じ、かつ異常な摩耗を生じる。このような不均衡は伝統的に、関節を安定にして、かつ正常な関節の嵌まり合いを再確立するために外科的介入を必要とする場合がある。椎間板組織の変性は、慢性の、消耗性の背痛、脊椎の石灰化および硬直化、ならびに重大な神経学的結果を、ヒトだけでなく、家畜、特にイヌにも生じる。外科的な代替法としては、椎間板を置き換えるための人工補綴物が挙げられ、そのいくつかは金属/ゴムの人工椎間板または合成のヒドロゲルから構成される。例えば、米国特許第5,879,396号、同第7,060,100号、および同第5,879,396号を参照のこと。
【0003】
天然の構造タンパク質であるエラスチンは、非生物学的補綴物をコーティングするための可溶型において、および生物学に由来する補綴物を作製するための固体型において、血管補綴物などの補綴物における潜在的な使用がかなり注目されている。エラスチンは、そのおかげで補綴物における使用に適切であり、かつ細胞浸潤において生体適合性を有し、血栓形成性でない表面になるという構造的な特性を有する。これは、耐久性で、極めて安定であり、かつ高度に不溶性の細胞外基質タンパク質であって、伸展性および弾性収縮力という特性を組織(これは、大血管、弾性靱帯、肺実質および皮膚を含むことが見出されている)に付与する。
【0004】
大動脈はエラスチンのよい供給源である。なぜならヒトの動脈は、量的に利用不能であって、動物の動脈がエラスチンの主な供給源であったからである。しかし動脈のエラスチンは極めて不溶性の基質であり、従って、可溶性のエラスチン由来の材料は、不溶性のタンパク質を酸またはアルカリで処理することによって作製され、これによって、αエラスチンおよびκエラスチンなどの加水分解産物が生じる。これらは、混合された大きさのペプチドという比較的明確でない混合物である。従って、大量の天然のエラスチンの供給源は容易に利用できない。
【0005】
生体適合性の物質を開発する企図では、可溶性の動物エラスチン材料を用いて、通常は、化学的な架橋剤での固定によって、非生物学的な補綴材料をコーティングしている。例えば、米国特許第4,960,423号(Smith)は、動物のエラスチン由来の水溶性ペプチドでコーティングされた合成血管補綴物に関する。
【0006】
米国特許第5,416,074号(Rabaud)は、エラスチンまたは可溶化エラスチンペプチドおよび別の結合組織タンパク質、例えば、フィブリンを含んでいる組成物に関する。この可溶化エラスチンペプチドは10,000より大きい分子量を有する。
【0007】
米国特許第4,474,851号(Urry)は、人工コア線維(例えば、Dacron)および繰り返しのテトラペプチド単位またはペンタペプチド単位を含むポリペプチドを含んでいるエラストマー複合材料に関する。この単位は、トロポエラスチン分子中に繰り返して観察される単位、Val−Pro−Gly−Val−Gly(VPGVG;配列番号6)およびVal−Pro−Gly−Gly(VPGG;配列番号7)から誘導される。このポリペプチドは一連のβターンを含んで、βコイル構造を有すると提唱されている。このポリペプチドは複合材料に対してゴム状の弾性を付与するが、構造的強度または構造的完全性をほとんど有さない。この人工コア線維によって、これら後者の特性がこの複合材料にもたらされる。
【0008】
米国特許第4,979,959号(Guire)は、固体生物材料に生体適合性物質をコーティングすること、および光化学反応で生体適合性剤をこの表面へ化学的に結合させることにより、固体生物材料の生体適合性を改良する方法に関する。
【0009】
またエラスチンベースの材料を用いて、プロテーゼを製造可能な固体材料が作られている。この材料としては、ゲル様材料を作製するためにコラーゲン、フィブリン、フィブロネクチンおよびラミニンなどの他のタンパク質とともに凝集させた可溶性の動物エラスチン、ならびにヒトエラスチンの短い疎水性配列(例えば、PGVGVA;配列番号5)から誘導された重合物質が挙げられる。いくつかの場合においては、この合成ペプチドはまた、リジン残基を含む短いアラニンリッチの配列も含み、これによりエラスチン様ペプチド同士の架橋またはコラーゲンなどの他のタンパク質への架橋が可能となる。エラスチンとコラーゲンは双方ともリジンから誘導された架橋を含む。例えば、米国特許5,223,420号(Rabaud)は、エラスチンと少なくとも1種の他のタンパク質、例えば、フィブリンを含む付加化合物を含んでいるエラスチンベースの生成物に関する。
【0010】
米国特許第4,589,882号(Urry)は、テトラペプチドおよびペンタペプチドの繰り返し単位のエラストマー成分、ならびにアミノ酸残基を含み得る架橋成分を含んでいる人工エラストマーコポリマーに関する。この繰り返し単位はエラスチンに由来する。米国特許第4,132,746号(Urry)は、合成された不溶性の架橋ポリペンタペプチドに関する。このペンタペプチドは、トロポエラスチン中に存在するVPGVG(配列番号6)ペプチドである。このペプチドから誘導される他の物質については、米国特許第4,500,700号、同第4,870,055号、および同第5,250,516号(全てUrry)も参照のこと。これらの特許に記載されているポリペプチドは、一連のβターンを含んで、かつβコイル構造を有すると提唱されている。
【0011】
動物の動脈はまた、血管置換に用い得るチューブ状の形態でエラスチンとコラーゲンのマトリックスをかなり残して、外側の物質が取り除かれている。例えば、米国特許第4,776,853号(Klement)は、適当なドナー組織から移植可能な生物材料を調製するためのプロセスに関する。
【0012】
米国特許第5,969,106号、同第6,489,446号および同第6,765,086号は、補綴物(血管補綴物を含む)を含む、および化粧品における、種々の用途での使用のための、エラスチン、および他の天然に存在する線維性タンパク質を模したポリペプチドを記載している。
【0013】
伸展性、弾力性および圧縮性という特性を示しながら、免疫原性でなくかつ血栓形成性でない、関節の再構成、修復およびクッションに適切である合成ポリペプチド材料が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
一実施形態によれば、架橋されたポリペプチドを含む、関節の再構成、修復および/またはクッションのための合成ポリペプチド材料が提供され、ここで(A)各々のポリペプチドは、架橋に関与する少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造および少なくとも1つの架橋性アミノ酸残基を含み、この架橋性残基が、βシート/βターン構造とは異なり、かつ(B)各々のポリペプチドは150〜500アミノ酸長であり、かつこの材料は関節中へ、または関節近位の部位への挿入に適した固体または液体である。特定の態様では、βシート構造の各々は3〜約7アミノ酸残基を含んでもよい。いくつかの実施形態では、架橋されたポリペプチドのアミノ酸配列は、同じであり、一方、他の実施形態では、架橋されたポリペプチドのアミノ酸配列は異なる。
【0015】
ある実施形態では、この材料はさらに、強化材料、例えば、動物材料、合成材料または金属を含む。他の実施形態では、この材料はさらに、非タンパク質の親水性ポリマーを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、この材料はさらに、グリコサミノグリカン部分、例えば、ヒアルロナン部分を含む。ある実施形態では、この材料は、架橋されたポリペプチドおよびグリコサミノグリカン部分の混合物を含む。他の実施形態では、この架橋されたポリペプチドは、グリコサミノグリカン部分に共有結合されている。
【0017】
ある実施形態では、この材料は、固体であり、パッド、シートおよび靱帯様の構造の形態であってもよい。他の実施形態では、この材料は、液体、例えば、注射に適切な薬学的に受容可能な担体をさらに含む、溶液または懸濁液である。
【0018】
別の実施形態によれば、関節の再構成、修復またはクッションのための方法が提供され、この方法は、関節中へ、または関節近位の部位へ、架橋ポリペプチドを含む合成ポリペプチド材料を挿入する工程を包含し、ここで(A)各々のポリペプチドが架橋に関与する少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造および少なくとも1つの架橋性アミノ酸残基を含み、この架橋性残基が、βシート/βターン構造とは異なり、かつ(B)各々のポリペプチドが150〜500アミノ酸長である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】ヒトエラスチンのドメイン構造を示す。
【図1B】シグナルペプチドなしのヒトエラスチン(配列番号1)のアミノ酸配列を示す。下線のアミノ酸残基は、MFU−1と名付けられたポリペプチドを含む。
【図1C】MFU−1中で発現されたエキソンに相当する疎水性および架橋のドメインの略図表示である。
【図1D】βシート/βターン構造を有するペプチドの概略図である。
【図2】MFU−1のコアセルベーション(自己凝集)を示す。
【図3】図3Aは、ポリペプチドMFU−2を発現可能なGST融合構築物を示す。図3Bは、MFU−2の疎水性ドメインおよび架橋性ドメインの略図表示である。図3Cは、MFU−2のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図4】図4Aは、MFU−3のアミノ酸配列(配列番号9)を示す。図4Bは、MFU−4のアミノ酸配列(配列番号10)を示す。図4Cは、MFU−5のアミノ酸配列(配列番号11)を示す。
【図5】図5Aは、MFU−6のアミノ酸配列(配列番号12)を示す。7折り畳みPGVGVA(配列番号5)の繰り返しは強調している。架橋性ドメインKAAK(配列番号3)およびKAAAK(配列番号4)には下線を付している。図5Bは、MFU−7のアミノ酸配列(配列番号13)を示す。7折り畳みPGVGVA(配列番号5)の繰り返しは強調している。架橋性ドメインKAAK(配列番号3)およびKAAAK(配列番号4)には下線を付している。
【図6】図6Aは、エラスチン様材料の典型的なパッドを示す。図6Aは、実施例1で概説した遠心分離方法によって調製した、ほぼ3mmの直径および3mmの厚みのパッドの上面図を示す。図6Bは、エラスチン様材料の典型的なパッドを示す。図6Bは、実施例1で概説した遠心分離方法によって調製した、ほぼ3mmの直径および3mmの厚みのパッドの側面図を示す。
【図7】図6に示されるパッドの圧縮試験の結果を示し、その物質の圧縮に対する抵抗および弾性および圧縮率を示している。
【図8】図6の材料の典型的な弾性係数および弾力(エネルギー損失)および圧縮率特徴を種々の程度の圧縮で示す。
【図9】実施例2に概説される発泡技術によって調製したエラスチン様材料のパッドの圧縮試験および弾性および圧縮率の結果を示す。
【図10】実施例2で調製される物質の典型的な弾性率および弾力(エネルギー損失)および圧縮率の特徴を種々の程度の圧縮で示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書に記載されるのは、例えば、関節の再構成、修復およびクッションの用途で有用である合成ポリペプチド材料である。
【0021】
本明細書において用いる場合、「合成の」ポリペプチド材料という用語は、その物質が天然には存在しない材料であることを特定する。本明細書に記載される合成ポリペプチド材料中に含まれるポリペプチドは典型的には、組み換え方法によって得られるが、化学合成またはそれより大きいポリペプチドもしくはタンパク質の切断を含む他の手段によって得てもよい。
【0022】
本明細書において用いる場合、「関節」という用語は、ヒトまたは他の動物の任意の関節を指し、これには股関節、膝関節、肘関節、肩関節、指関節および他の連結する関節、ならびに椎間板および他の同様の部位が挙げられる。
【0023】
本明細書において用いる場合、「関節の再構成または修復」という用語は、正常に関節構造の内側を覆うかまたは安定化させる、靱帯または軟骨の構造の置換または修復(例えば、強化)のために用いられる任意の過程を包含する。
【0024】
本明細書において用いる場合、「関節クッション」という用語は、関節でクッション性をもたらすために身体中に移植または注入される任意の材料を包含する。例えば、関節クッションは、骨の末端を覆って、関節が容易に動くことを可能にし得る。ある状況では、関節クッションは軟骨と同様に、弾性、線維性、高密度、結合性の材料として機能する。当業者に理解されるとおり、軟骨は通常、骨の間に見出され、関節の円滑な動きを可能にする。「関節クッション」という用語はまた、関節腔、例えば、椎間板の領域などに注入されるとき、骨ばった表面を隔てるための弾性材料を提供する材料を包含する。
【0025】
天然のエラスチンは、それが見出される組織に対して伸展特性を付与することが理解されているが、本発明は、エラスチンまたは他の線維性タンパク質を模したポリペプチドが、圧縮力(例えば、圧縮率)に対する抵抗において弾力性に関して有利な特性を示すという発見に一部は関する。エラスチンは椎間板組織の主な成分であって、脊椎の間のショック・アブソーバーとして機能し、脊柱の柔軟性をもたらし、エラスチン様材料の大型のパッドは、ゾウなどの重量のある動物の脚にクッションをもたらすことが公知である。さらに、エラスチンは、耳介軟骨、気管支軟骨および喉頭軟骨を含むいくつかの軟骨組織の主な成分である。エラスチンの圧縮率によって、これらの天然の用途に特に適することになる場合がある。本明細書に記載されるのは、関節の再構成、関節の修復および関節のクッションの用途を含む用途のために特に有利である、圧縮率特性を示すエラスチンまたは他の線維性タンパク質を模したポリペプチドである。
【0026】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、ヒトエラスチンを含むエラスチンを模しているポリペプチドを含む。他の実施形態では、この材料は、他の線維性タンパク質を模しているか、またはエラスチンおよび/または他の線維性タンパク質のうちの1つまたは複数の組み合わせを模しているポリペプチドを含む。さらに他の実施形態では、この材料は、他の非タンパク質性の材料、例えば、親水性ポリマーまたはグリコサミノグリカン部分、例えば、ヒアルロナン部分と組み合わせてポリペプチドを含む場合がある。このような組み合わせとしては、成分の単純な混合物、ならびに成分の間の共有結合を含む材料、例えば、ポリペプチド上の官能基(この官能基は、ポリペプチド上に正常に存在するか、または当分野で公知の方法によってポリペプチドに導入される)を通じてポリペプチドに共有結合されたグリコサミノグリカン部分を含む材料が挙げられる。
【0027】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は、架橋ポリペプチドを含み、関節の再構成、修復またはクッションの用途に適切なクッションまたは他の構造(例えば、シートまたはパッド)として提供される。他の実施形態では、合成ポリペプチド材料の液体の可溶型または懸濁型が提供され、注射、例えば、椎間板腔などの組織腔への注射に適切であり、ここで骨ばった表面の間のクッションが提供される。他の実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、例えば、関節を安定化するための外科的移植のために適切な靱帯様構造として提供される。
【0028】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、弾性の反跳、圧縮に対する抵抗性(例えば、反復性の圧縮力に対する抵抗性を含めた、圧縮率)、弾力、ならびに関節の再構成、修復またはクッションの用途、例えば、関節の摩耗および疼痛を軽減するためのクッションとして、または関節表面に対する局所損傷の外科的修復のためのプラグ材料としての使用に特に適切な材料を作製する耐久性、などの特性を示す。例えば、いくつかの実施形態によれば、この合成ポリペプチド材料は、関節表面のクッションになるか、関節の動きを改善するか、および/または関節の連関する表面に対するさらなる損傷に対して保護するグラフト材料として有用である。このような用途における本明細書に記載される合成ポリペプチド材料の使用によって、大量販売の関節置換のための要件が遅らせられるか、または妨げられ得る。
【0029】
下に例示されるとおり、合成ポリペプチド材料は、ポリペプチド(単数または複数)の性質および材料の所望の特性に適切なポリペプチド濃度、溶液温度およびイオン溶液強度で、溶液からポリペプチドを(例えば、濃度または温度を介して)重合することによって作製され得る。
【0030】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、シートまたはパッドに加工される。これらのシートまたはパッドは典型的には、意図される用途次第で、約1〜約5mmの厚みを有するが、他の厚み、例えば、約0.1〜約1.0mm、約1〜約2mm、約2〜約5mm、約1〜約10mm、または約5〜約10mmであってもよい。従って、本発明は、1〜5mm、0.1〜1.0mm、1〜2mm、2〜5mm、1〜10mm、または5〜10mmを含む厚み、または意図される用途に適切な任意の他の厚みを有するシートまたはパッドに加工された合成ポリペプチド材料を包含する。
【0031】
コアセルベートポリペプチドからシートまたはパッドを製造するために、このコアセルベートを、例えば、遠心分離または濾過技術によって濃縮してもよいし(実施例1)、または発泡技術を用いてもよい(実施例2)。当業者は、本明細書に記載される合成ポリペプチド材料を得るための他の適切な方法を認識する。
【0032】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、注射用の薬学的に受容可能な担体に溶解または懸濁されるなどの、液体の可溶型または懸濁型で提供される。例えば、ポリペプチドは、リン酸緩衝化生理食塩水中に、または他の生理学的に適切な溶液中に、それらが正常なインビボの温度未満の温度(例えば、体温未満、例えば、室温または約37℃)で溶解したままであるような濃度で溶解されてもよい。ある実施形態では、このポリペプチドは、より高温にさらされた際、例えば、インビボ注射および正常なインビボ温度(例えば、体温)への曝露の際、コアセルベーション(例えば、自己アセンブリおよび固体ポリマーマトリックスへの沈殿)を受ける。この実施形態によれば、合成ポリペプチド材料の固体マトリックスは、インサイチュで、注射部位の近傍で形成される。本実施形態に関連するのは、修復、再構成および/またはクッションの必要な関節部位への合成ポリペプチド材料の可溶型または懸濁型の注射を包含する、関節の修復、再構成、および/またはクッションを果たす方法である。有利には、本実施形態によって、関節置換材料を外科的に挿入する必要なく、修復、再構成および/またはクッションが可能になる。
【0033】
いくつかの実施形態によれば、この合成ポリペプチド材料は架橋される。架橋は例えば、材料を安定化し得、および/または圧縮率を含む、材料に対する所望の特性を付与し得る。例示的な架橋剤としては、(限定はしないが)、グルタルアルデヒド、ゲニピン、ビス[スルホスクシンイミジル]スベリン酸塩、メチルグリオキシル、グリオキシル、ピロロキノリンキノンおよびリジン−ジイソシアネートが挙げられる。当業者は、他の架橋剤が用いられてもよいことを認識する。架橋は、当分野で公知の任意の手段によって達成され得る。例示的な架橋方法は、本実施例に示される。
【0034】
ある実施形態では、特定の架橋剤の使用は、合成ポリペプチド材料の物理的特性に影響する。架橋因子は一般に、以下の特徴に基づいて選択される。化学的特性、スペーサーアーム長、水溶性、同種官能性または異種官能性の反応基、熱反応性または光反応性基、架橋因子の開裂性、および架橋因子をタグ付けする能力。架橋因子の選択は、材料の特徴に影響し得る。例えば、複数の反応部位を有するか、または有効なスペーサーアーム長を延長するように自己重合化し得る架橋剤は一般には、より限られたスペーサーアーム長を有する短い架橋剤よりも強固な材料をもたらす。種々のスペーサーアーム長を有する架橋剤は、例えば、ポリペプチドの立体特性が潜在的な架橋部位の間の距離に影響する場合、種々の物質に適切であり得る。架橋剤はまた、実施例中に例示されるような、得られた材料の圧縮率に対するそれらの影響について選択され得る。
【0035】
ある実施形態では、架橋は、コアセルベーションの間に材料に対して架橋剤を添加することなどによって、コアセルベーションと同時に達成される。他の実施形態では、架橋は、コアセルベーション後に材料に対して架橋剤を添加することなどによって、コアセルベーションに続いて達成される。いったん架橋因子が添加されれば、架橋は一般には、一定期間にわたって、例えば、数時間、例えば、1〜5時間にわたって形成および成熟する。他の実施形態では、架橋は、その物質が形成されたのち、例えば、架橋剤としてグルタルアルデヒド蒸気を用いて、コアセルベーションおよび濃縮の後にその材料に架橋剤を添加することなどによって達成される。
【0036】
ある実施形態では、ポリペプチド(単数または複数)の同一性は、合成ポリペプチド材料の物理的特性に影響する。例えば、エラスチンを模したポリペプチドから製造された材料は、関節の再構成、修復およびクッションの用途に特に適している有用な圧縮の物理的特性(例えば、圧縮率)を有する。別の実施形態では、エラスチンを模したポリペプチドおよび親水性ポリマー、例えば、ヒアルロン酸および他のグリコサミノグリカンから製造された複合材料は、関節の再構成、修復およびクッションの用途に有用な有利な膨潤および機械的特性を示す。さらなる実施形態では、種々の張力の物理的特性(例えば、弾性係数/圧縮率、伸展性、破壊荷重および粘弾性)を有する材料は、下の実施例に例示されるように、改変されたアミノ酸配列、ならびに/または疎水性および/もしくは架橋性ドメインの改変された配置を有するポリペプチドを用いることによって、そして/あるいは種々の架橋方法を用いることによって、得ることができる。
【0037】
本明細書において示される説明によれば、当業者は、種々の部位で再構成、修復またはクッション材料として能力を最適化する物理的特性を示している合成ポリペプチド材料を得るための、適切なポリペプチドのデザイン、加工技術および架橋方法を選択できる。
【0038】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は、エラスチンから作製された比較する材料に比較して圧縮率が増大している。例えば、合成ポリペプチド材料は、弾性係数を決定するための実施例で例示される方法などの比較可能な方法によって決定した場合、エラスチンから作製された比較する材料よりも少なくとも約10%大きい、少なくとも約20%大きい、少なくとも約25%大きい、少なくとも約30%大きい、少なくとも約40%大きい、少なくとも約50%大きい(例えば、1.5倍の圧縮率)、少なくとも約60%大きい、少なくとも約70%大きい、少なくとも約75%大きい、少なくとも約80%大きい、少なくとも約90%大きい、少なくとも約95%大きい、または少なくとも約100%大きい圧縮率(例えば、2倍の圧縮率)を有する場合がある。ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、比較可能な方法によって決定したとき、エラスチンから作製された匹敵する材料よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、またはそれ以上の圧縮率を有する。
【0039】
(ポリペプチド)
上記で注記されるとおり、本明細書において記載される合成ポリペプチド材料は、ヒトのエラスチンおよび/または他の天然に存在する線維性タンパク質を模したポリペプチドを含む。下の考察では多くの場合、ヒトのエラスチンを例示的な親タンパク質と述べているが、他の天然に存在する線維性タンパク質を模したポリペプチドが本発明によって考慮され、ヒトエラスチンを模したポリペプチドについて記載されたのと同様の方式で作製および用いられ得る。他のこのような親タンパク質の例としては、ランプリン、クモ糸タンパク質(spider silk protein)、およびレシリンが挙げられる。
【0040】
「親タンパク質」という句はここでは、本発明のポリペプチドが模しているタンパク質を意味する。本明細書において用いる場合、「親のタンパク質Xを模したポリペプチド」という句は、親のタンパク質Xのアミノ酸配列の一部を含むが、親タンパク質の全長配列は含まないポリペプチドを意味する。例えば、ヒトエラスチンを模したポリペプチドは、ヒトのトロポエラスチンアミノ酸配列の一部を含むが、ヒトのトロポエラスチンのアミノ酸配列全体は含まない。「天然に存在する線維性タンパク質」とは、天然に見出される任意の線維性タンパク質であって、「線維性タンパク質」という句は、当分野の従来の意味を有する。従って、線維性タンパク質とは、長い線維またはシートを形成するように基質中に配列されたポリペプチド鎖からなるタンパク質である。Lehninger,BIOCHEMISTRY 60(1975)を参照のこと。線維性タンパク質の例としては限定はしないが、エラスチン、ランプリン、レシリン、およびクモ糸タンパク質が挙げられる。本明細書にその全体が参照によって組み込まれるRobsen et al.,J.Biol.Chem.268:1440〜47(1993)は、本発明のポリペプチドが模している場合がある、さらなるタンパク質を開示している。
【0041】
アミノ酸配列情報は、エラスチン(ヒト、マウス、ラット、ニワトリ、ウシおよびブタのエラスチンを含む)および他の線維性の細胞外基質タンパク質、例えば、クモ糸、ランプリンおよびレシリンについては入手可能である。二次構造および三次構造の分析と一緒にすれば、この情報によって、その機械的特性、および詳細には不溶性の線維へそれらをアセンブリするための機構に関する一般的な理論がもたらされる。例えば、ランプリンのアミノ酸配列は公知であって、このタンパク質の二次構造は、多数のβシート/βターン構造を含むと考えられている。Robson et al.(上掲)。
【0042】
エラスチンは、細胞からの分泌の際、デスモシンと呼ばれる共有的な架橋の形成を通じて分枝したポリマー網目状構造にアセンブルする、トロポエラスチンと呼ばれるモノマーとしてインビボで合成される。Mecham et al.,CELL BIOLOGY OF EXTRACELLULAR MATRIX、第2版(New York,1991)。デスモシン架橋は、リシルオキシダーゼの作用を通じて酵素的に生成される。各々のデスモシンは、4つのリジン残基の側鎖を組み込み、2つは関与するポリペプチド鎖の各々由来である。エラスチンの弾性の特性の背景にある原理は、依然として議論の対象であるが、この特異な特質は、このタンパク質が強力に疎水性の性質であることに依存することが同意される。
【0043】
トロポエラスチンは主に、交互する疎水性ドメインおよび架橋性ドメインから構成される。Indik et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 84:5680〜84(1986)。架橋性ドメインは通常アラニン(A)リッチであって、KAAK(配列番号3)およびKAAAK(配列番号4)スペーシングに存在する架橋形成に関与することになるリジン(K)を伴う。これらの架橋領域を分けているドメインは特徴が強力に疎水性であって、多くの直列に反復される三−、四−、五−、および六−ペプチド配列を含む。ヒトのエラスチンではこれらのうち最も目立つのは、エキソン24で7回繰り返される、配列PGVGVA(配列番号6)である。Indik et al.(上掲)。
【0044】
反復疎水性配列(例えば、疎水性ドメイン)に対する構造的研究によって、排他的にβシート/βターン構造が示される。すなわち、それらはβターンが介在しているβシートを含む。類似のβシート/βターン構造はまた、その全てが高い引張強度を有する安定な線維またはマトリックスを形成する、他の自己凝集するポリマーマトリックスタンパク質、例えば、クモ糸、ランプリン、およびカイコガ・コリオン(silk moth chorion)の構造に寄与する。これらの構造は、これらのタンパク質が自己アセンブルする能力に重要であると提唱されている。Robson et al.(上掲)。
【0045】
一定間隔の疎水性ドメインは、トロポエラスチンを高次構造にアセンブルするように指向するという兆候がある。トロポエラスチン、ならびにエラスチンの可溶化フラグメント(すなわち、κエラスチンおよびαエラスチン)、および疎水性反復配列に対応する合成ペプチドは全て、ポリペプチド鎖の間の疎水性相互作用がオリゴマーのフィブリル構造の形成を生じる過程である、コアセルベーションを受けることができる。この自己凝集は、ランダムではない。疎水性ドメインは、線維状弾性マトリックスへの架橋のためのトロポエラスチンモノマーの配列を促進する。Robson et al.,上掲、Bressan et al.,J.Ultrastr.&Mol.Struct.Res.94:209〜16(1986)、Bellingham et al.,Biopolymers 70:445〜55(2003)。
【0046】
ヒトエラスチンは、その長さのほとんどにおいて交互の架橋ドメインおよび疎水性ドメインからなる。この架橋ドメインは主に、KAAK(配列番号3)およびKAAAK(配列番号4)の配列中のリジン(K)残基およびアラニン(A)残基からなり、このリジン残基は、リシルオキシダーゼによる酸化的脱アミノ化および共有結合的なデスモシン架橋の引き続く形成に適切な立体構造である。Indik et al.(上掲)。疎水性ドメインは、疎水性のペンタペプチド、ヘキサペプチドおよびβシート/βターン構造にあると考えられる他の反復配列がリッチである。Tamburro et al.,ADVANCES IN LIFE SCIENCES 115〜27(1990)。これらの疎水性領域は、伸展性および弾性収縮力というエラスチンの物理的特性に、ならびにトロポエラスチン(エラスチンの単量体の前駆体)がフィブリル構造へ自己凝集する能力に重要であると考えられる。Robson et al.(上掲)、Tamburro et al.,(上掲)。安定な線維状マトリックスに自己凝集および自己アライメントし得る他のタンパク質、例えば、昆虫の卵殻コリオン(chorion)タンパク質、クモの引き糸(dragline silk)、およびヤツメウナギ軟骨由来のランプリンは全てが、βシート/βターン構造を有する疎水性リピートペプチドの類似の領域を保有する。Hamodrakas et al.,Int.J.Biol.Macromol.11:307〜13(1989)、Simmons et al.,Science 271:84〜87(1996)、Robson et al.(上掲)。
【0047】
本発明によって有用なポリペプチドは、エラスチンおよび他の線維状タンパク質、例えば、クモ糸、ランプリン、およびレシリンを模して、自己アライメントに必須の多種多様なアミノ酸残基を含んで、これが線維形成の第一の工程である。簡便のために、各々のこのようなポリペプチドは、最小機能単位(minimal functional unit)またはMFUと呼ぶ。本発明によるMFUの二次構造は、少なくとも3つの連続的なβシート/βターン構造を含む。ある実施形態では、この一次構造としては、βシート/βターン構造を形成する残基に加えて、それとは別個に、架橋に関与し得る少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。ある実施形態では、MFU類としては、米国特許第5,969,106号、同第6,489,446号、および同第6,765,086号(その内容全体が参照によって本明細書に組み込まれる)に記載されるものが挙げられる。
【0048】
上記で考察されるとおり、βシートおよびβターン構造は、当分野で周知である。本明細書に記載されるポリペプチドのβシート構造は代表的には、いくつかのアミノ酸残基、例えば、3〜約7アミノ酸残基、例えば、約5〜約7アミノ酸残基、例えば、5〜7アミノ酸残基からなる。βシート構造のアミノ酸残基は、疎水性側鎖を有し得る。本発明によるβターン構造は代表的には、2つのアミノ酸残基、しばしば、GGまたはPGで開始され、追加のアミノ酸残基を含んでもよい。例えば、本発明によるβターン構造は、約2〜約4アミノ酸残基、例えば、2〜4アミノ酸残基、および詳細には4アミノ酸残基を含んでもよい。
【0049】
図1Dは、連続的なβシート/βターン構造を有するペプチドの模式図である。影付きのリボンはペプチドである。リボンの6つの直線部分は、βシート構造を表し、リボンの5つの曲線部分はβターン構造を表す。白抜き丸は、疎水性側鎖であって、βシートの下に位置し、影付きの丸は疎水性側鎖であって、βシートの上に位置している。これらの疎水性側鎖は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシンおよびフェニルアラニンなどのアミノ酸残基上である。長方形は、βターン構造を安定化する水素結合を示す。Robson et al.(上掲)、Lehninger et al.(上掲)、133〜35ページも参照のこと。
【0050】
本明細書に記載されるMFU類は、可溶性であって、コアセルベーションの特性を示し、それ自体が親タンパク質と同じ方式でアライメント(整列)する。例えば、MFU類の疎水性配列は、親タンパク質の疎水性配列と同じ方式でアライメント(整列)する。MFU類の二次構造を考慮すれば、これは、MFU類のβシートがお互いとアライメントされることを意味する。このアライメントは、親タンパク質中と同じ方式で生じ、ここではβシートが「レゴ」型モチーフでスタックされている。Robson et al.(上掲)を参照のこと。エラスチン由来のMFU類では(および架橋残基を含む他のMFU類で)、このアライメントによってまた、MFU類の間の架橋を可能にする方式でアライメントしているリジン残基(または他の架橋残基)が生じる。
【0051】
一実施形態では、合成ポリペプチド材料は、天然に存在する線維性タンパク質(ただし、線維性タンパク質の全長配列は含まない)の一部の一次構造(すなわち、アミノ酸配列)、および少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造を含む二次構造を有するポリペプチドを含む。ある実施形態では、β−シート/βターン構造の各々は、3〜約7アミノ酸残基を含む。さらなる実施形態では、このポリペプチドはまた、架橋に関与する少なくとも1つの架橋性のアミノ酸残基を含み、ここでこの架橋性の残基は、βシート/βターン構造とは異なる。
【0052】
適切なポリペプチドは、種々の重量およびアミノ酸長であってもよい。例えば、ある実施形態では、ポリペプチドの重量は、約12kD〜約45kD、約20kD〜約40kD、約25kD〜約35kD、または約30kD〜約35kD、例えば、12kD〜45kD、20〜40kD、25〜35kD、または30〜35kdである。ある実施形態では、このポリペプチドは、約150〜約500アミノ酸、約190〜約450アミノ酸、約250〜約400アミノ酸、または約325〜約375アミノ酸、例えば、150〜500アミノ酸、190〜450アミノ酸、250〜400アミノ酸、または325〜375アミノ酸を含む。
【0053】
下の説明は、例示的なMFU類としてエラスチンを模しているMFU類を用いているが、他のタンパク質を模したポリペプチドが本発明に包含される。例えば、クモの糸、ランプリンおよびレシリンを含めて任意の他の線維形成タンパク質を模したポリペプチドが使用について考慮される。これらのMFU類は、エラスチンを模したMFU類について本明細書に記載される通り得ることができる。さらに、2つ以上の異なる親タンパク質由来のMFU類の混合物(例えば、ランプリン、エラスチンおよびレシリンを模したMFU類)を一緒に用いて、種々の物質を作製してもよい。
【0054】
ヒトエラスチンのドメイン構造は、図1Aに図示する。この図で示されるとおり、多数の交互の架橋ドメインおよび疎水性ドメインがある。疎水性ドメインは各々、多数のβシート/βターン形成配列を含むと考えられる。これらのドメインは、エラスチンの有望なMFU類である。これらのうち、さらなる実験で用いられるのは、カッコで指定され、MFU−1と命名されている。図1Bは、ヒトエラスチンのアミノ酸(配列番号1)を示す。下線のアミノ酸残基、残基374〜499は、MFU−1を含む。ヒトエラスチンを模した他のMFU類としては、それぞれアミノ酸残基19〜160、188〜367および607〜717を含むポリペプチドが挙げられる。MFU−3のアミノ酸配列(配列番号9;図4A)は、最初の5つのアミノ酸残基なしのMFU−1の配列に相当する。MFU−4のアミノ酸配列(配列番号10;図4B)は、最初の4つのアミノ酸残基なしのMFU−1の配列に相当する。MFU−5のアミノ酸配列(配列番号11;図4C)は、最初の1つのアミノ酸なしのMFU−2の配列に相当する。
【0055】
ヒトエラスチンを模したMFU類は、トロポエラスチン分子のアミノ酸配列の一部を含み(図1B;配列番号1)、かつそれらの二次構造中に少なくとも3つの連続的なβシート/βターン構造を有する。それらはまた、リジン残基のような、架橋に関与し得るアミノ酸残基を含み得る。上で注記されるとおり、ある実施形態では、架橋性の残基は、βシート/βターン構造を形成する残基とは別個である。一実施形態では、MFUはデスモシン型の結合を形成するような方式で架橋に関与し得る2つの連続的アミノ酸残基を含む。例えば、MFUは、KAAK(配列番号3)またはKAAAK(配列番号4)のアミノ酸配列を含んでもよい。MFUは、架橋残基(単数または複数)の2つ以上の出現を包含してもよく、その各々がβシート/βターン構造を形成する残基とは別個であり得る。
【0056】
一実施形態では、ヒトエラスチンを模したポリペプチドは本質的に、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部からなる。本明細書において「Aは本質的にBからなる」という句は、AがBを含み、かつ場合によっては、A−Bの物質の特徴に物質的に影響しない他の成分を含むことを意味する。例えば、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の本質的に一部からなるポリペプチドとは、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部を含み、かつまたこのポリペプチドの特徴を物質的に変化させない他のアミノ酸残基も含み得るポリペプチドを意味する。すなわち、このポリペプチドは、少なくとも3つの連続的なβシート/βターン構造を有し、かつ自己アライメントするという特徴を、トロポエラスチンペプチドと同じ方式で維持している。しかし、親タンパク質のアミノ酸配列の一部から本質的になる親タンパク質を模したポリペプチドが親タンパク質の全長アミノ酸配列を含まないということが理解されるべきである。
【0057】
上記されるとおり、MFU類の二次(βシート/βターン)構造は、MFU類の自己凝集および自己アライメントをガイドし、その結果MFU類は、親タンパク質の凝集物の構造を模倣する方式で、それ自体アライメントすると考えられている。例えば、MFU類のβシートがアライメントされ、エラスチンを模したMFU類(および架橋性残基を含む他のMFU類)のリジン残基は、酵素的または化学的な架橋のために安定なポリマー構造へ、アライメントされ、これはトロポエラスチンモノマーがエラスチンタンパク質を形成する方式を模倣している。
【0058】
MFUは、ペプチドの直接合成または組み換え産生を含む、任意の方法によって得ることができる。例えば、ヒトエラスチンを模したMFUのDNAは、ヒトエラスチンをコードするDNAから、そのDNAの切断および適切なセグメントの選択によって、または種々の周知の方法を介したそのDNAの合成によって、直接得ることができる。
【0059】
利用可能な技術によって、任意のヒトエラスチンMFUのタンデム・リピートをコードするDNA配列、またはヒトエラスチンのより大きいドメインを含むMFU類をコードするDNA配列(最大でトロポエラスチン分子全体まで)を構築してもよいが、ある実施形態では、このポリペプチドは、エラスチンの全長配列を含まない。これらのより大きいエラスチン配列は、それらのアセンブリの反応速度論、またはそれらの機械的特性に関して利点を提供し得る。例えば、ヒトエラスチンのエキソン20、21、23、24、21、23および24からなるMFU−2が発現されて精製されている。このペプチドのアミノ酸配列は、図3C(配列番号2)に示される。MFU−2は、より低いコアセルベーション温度で証明されるとおり、MFU−1よりも自然な自己凝集の傾向が大きいことが示されている。MFU−5のアミノ酸配列(図4C;配列番号11)は、最初のアミノ酸残基なしのMFU−2のアミノ酸配列に相当する。
【0060】
さらに、MFU−6およびMFU−7は、分子MFU−2およびMFU−5に相当し、ここでは架橋の2つのさらなるセグメント、および分子のエキソン24部分がある。図3C、4C、5Aおよび5Bを参照のこと。MFU−2、MFU−5、MFU−6およびMFU−7は、関節クッション用途のための材料中で有用なポリペプチドの例示的な実施形態である。
【0061】
また、本明細書に記載される合成ポリペプチド材料で有用なのは、天然に存在する線維性タンパク質の一部の一次構造を含む(ただし、線維性タンパク質の全長配列は含まない)ポリペプチドであり、ここではこの一次構造は、1つまたは複数のアミノ酸残基の付加、置換、および/または欠失によって改変される。このポリペプチドは、少なくとも3つの連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書に記載の自己アライメントの特性を示す。作製され得る改変の数に限界はないが、親タンパク質の対応する配列に対して、1〜約20、1〜約10、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、置換および/または欠失を含む改変が、ポリペプチドの上記の特性を維持しながら達成され得ると考えられる。従って、親タンパク質の対応する配列に対して1〜20、1〜10、または1〜5個のアミノ酸の付加、置換および/または欠失を含むポリペプチドが適切である。
【0062】
ある実施形態では、保存的アミノ酸改変のみが行われる。例示的なアミノ酸置換としては以下の変化が挙げられる。アラニンからセリンへ、アルギニンからリジンへ、アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジンへ、アスパラギン酸からグルタミン酸へ、システインからセリンへ、グルタミンからアスパラギンへ、グルタミン酸からアスパラギン酸へ、グリシンからプロリンへ、ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミンへ、イソロイシンからロイシンまたはバリンへ、ロイシンからバリンまたはイソロイシンへ、リジンからアルギニン、グルタミンまたはグルタミン酸へ、メチオニンからロイシンまたはイソロイシンへ、フェニルアラニンからチロシン、ロイシンまたはメチオニンへ、セリンからトレオニンへ、トレオニンからセリンへ、トリプトファンからチロシンへ、チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニンへ、バリンからイソロイシンまたはロイシンへ。
【0063】
例えば、ポリペプチドの疎水性領域における改変は、βターンにおける1つまたは複数のアミノ酸残基をβターンを開始する他のアミノ酸で置換することを含み得る。例えば、1つまたは複数のP残基もしくはG残基をそれぞれG残基もしくはP残基で置換してもよく、またはセリン残基で置換してもよい。さらに、またはあるいは、1つまたは複数のアミノ酸残基の付加、欠失または置換などの改変は、βシート構造中のアミノ酸残基へ行われ得る。例えば、疎水性の側鎖を有するアミノ酸残基は、疎水性の側鎖を有するか、または類似した性質の側鎖を有する異なるアミノ酸残基で置換されてもよい。例示的な置換としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、チロシンおよびフェニルアラニンの間での置換が挙げられる。
【0064】
架橋ドメインを含む(例えば、少なくとも1つの架橋アミノ酸残基を含む)ポリペプチドについては、架橋ドメインのαらせん構造を妨害しない任意の数の付加、置換および欠失(例えば、前述したような付加、欠失、および保存的アミノ酸置換)が行われてもよい。また、リジン残基は架橋に関与し得る任意の他のアミノ酸残基(例えば、チロシンまたは酸性もしくは塩基性残基、例えば、アルギニン、アスパラギン酸およびグルタミン酸)で置換されてもよい。
【0065】
一実施形態によれば、そのアミノ酸配列が図1B(配列番号1)に示すアミノ酸配列の一部分(またはフラグメント)の変異体を含むポリペプチドが用いられる。このようなポリペプチドのアミノ酸配列は、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部に相当し、この図に示されるアミノ酸配列は、1〜約10個のアミノ酸残基、例えば、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換、例えば、1〜10または1〜5個のアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変される。このようなポリペプチドは、少なくとも3個の連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書中で記載されている自己アライメントの特性を示す。
【0066】
別の実施形態によれば、MFU−2(配列番号2)として公知である、そのアミノ酸配列が図3Cに示されるアミノ酸配列の変異体を含むポリペプチドが用いられる。このようなポリペプチドのアミノ酸配列は、図3C(配列番号2)に示されているアミノ酸配列の一部に相当し、この図に示されるアミノ酸配列は、1〜約10個のアミノ酸残基、例えば、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換、例えば、1〜10または1〜5個のアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変される。このようなポリペプチドは、少なくとも3個の連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書中で記載されている自己アライメントの特性を示す。
【0067】
そのアミノ酸配列が図4A〜4C(それぞれ、配列番号9〜11)に示されるアミノ酸配列の変異体を含むポリペプチドも本発明によって包含される。このようなポリペプチドのアミノ酸配列は、図4A、4Bまたは4C(それぞれ、配列番号9、10または11)に示されているアミノ酸配列の一部を含み、この図に示されているアミノ酸配列は、1〜約10個のアミノ酸残基、例えば、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換、例えば、1〜10または1〜5個のアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変されている。このようなポリペプチドは、少なくとも3個の連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書中で考察されている自己アライメントの特性を示す。
【0068】
そのアミノ酸配列が図5A〜6B(それぞれ、配列番号12〜13)に示されるアミノ酸配列の変異体を含むポリペプチドも、本発明によって包含される。このようなポリペプチドのアミノ酸配列は、図5A〜5B(それぞれ、配列番号12または13)に示されているアミノ酸配列の一部を含み、この図に示されているアミノ酸配列は、1〜約10個のアミノ酸残基、例えば、1〜約5個のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換、例えば、1〜10または1〜5個のアミノ酸の付加、欠失または置換によって改変されている。このようなポリペプチドは、少なくとも3個の連続的なβシート/βターン構造を含む二次構造を有し、本明細書中で考察されている自己アライメントの特性を示す。
【0069】
本発明によるヒトエラスチンを模したMFUは、他のエラスチン調製物を上回る別個の利点をもたらす。例えば、前に用いられたエラスチンの可溶化フラグメントとは対照的に、MFUは、規定の組成の単一のペプチドである。MFUは、親タンパク質よりかなり小さく、かつ構造が簡単であり、従って、大量に産生または発現すること、溶液中で取り扱うこと、ならびに実験および実用的な目的で操作することがさらに容易である。他のエラスチン調製物と同様、MFUは血栓形成性でなく、細胞浸潤しやすい環境をもたらす。さらに、ヒトエラスチン配列の全体を構成し、MFUは免疫原性ではなく、従って真に生体適合性の材料をもたらす。
【0070】
(関節の再構成、修復およびクッション)
上記のとおり、本明細書に記載されるポリペプチド(例えば、MFU類)は、関節の再構成、修復およびクッションの用途のための材料での使用に適切である。このポリペプチドは、例えば、骨の間または関節において軟骨様の構造をもたらすために、関節クッションとして有用である合成ポリペプチド材料に加工され得る。さらに、またはあるいは、このポリペプチドから加工された材料は、関節表面に対する局所的な損傷を修復するためのプラグ材料として用いられ得る。適切な材料は、下に記載されるような、コアセルベーションおよび架橋を含むプロセスによって、ポリペプチドから得ることができる。さらに、インサイチュで、例えば、この合成ポリペプチドがインビボの条件に曝されたとき、インサイチュでコアセルベーションおよびアセンブリが生じるような条件下で、合成ポリペプチドの溶液または懸濁液を関節部位に注射することによって適切な材料を形成してもよい。
【0071】
本明細書に記載されるポリペプチドの特徴的な特性は、ヒトエラスチンのトロポエラスチンモノマーと同じ方式で、規則的な方式でそのペプチドが自己アセンブルする能力である。例えば、そのポリペプチドは、そのポリペプチドがエラスチンを模しているか、そうでなければそのポリペプチドが架橋に関与し得るアミノ酸残基を含むとき、そのβシート構造をアライメント(整列)させて、個々のペプチドの間の架橋を可能にする順序で、それ自体アライメント(整列)する。この自己アライメントおよび自己凝集のプロセスは、線維形成の最初の段階と考えられる。次いでこの線維は、天然のエラスチンポリマーのものと同様の化学的特性および構造的特性を有する材料に作製できる。
【0072】
従って、本明細書に記載されるポリペプチドは、通常溶液中で可溶性であるが、pH、塩分含量、および温度の単純な操作により、このポリペプチドのコアセルベーションおよび自己アライメントが開始され、エラスチン様線維の凝集物を生じる。このポリペプチドのコアセルベーションおよび自己アライメントを生じさせる厳密な条件は、操作されるこのポリペプチドおよび溶液に左右される。コアセルベーションを生じさせる条件は当業者に周知であり、当業者は下記の慣例的な実験手順に従ってポリペプチドのコアセルベーションおよび自己アライメントを導くことができる。
【0073】
図2は本明細書に記載されるポリペプチドがコアセルベートする能力を示す。詳細には、図2はヒトエラスチンのMFU−1のコアセルベーション(自己凝集)を示す。このペプチドをリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4、1.5M NaClおよび0.3mM CaCl2を含有)中に0.25mg/mlの濃度で溶解し、その溶液の温度を一定の速度で上昇させた。コアセルベーションは53℃で生じ、溶液の濁度の上昇によって示される。
【0074】
上記で注記されるとおり、本明細書に記載される合成ポリペプチド材料は、単一のタイプのポリペプチド(例えば、同じアミノ酸配列を有するポリペプチド)から作製されてもよく、または同じもしくは異なる親タンパク質を模した異なるポリペプチドを含んでもよい。例えば、この材料は、ヒトエラスチンを模した任意の単一のポリペプチド(例えば、MFU1〜7のいずれか1つ)、ヒトエラスチンを模した2つまたはそれ以上のポリペプチド(例えば、MFU1〜7のいずれかのうちの2つ以上)の組み合わせ、または1つまたは複数の異なる親タンパク質を模した1つまたは複数のポリペプチド(例えば、ヒトエラスチンを模した1つまたは複数のポリペプチド、およびフィブリンもしくはレシリンを模した1つまたは複数のポリペプチドを含む)の組み合わせから構成されてもよい。一実施形態では、この材料は、MFU−2、MFU−5、MFU−6およびMFU−7から選択される1つまたは複数のポリペプチドからなる。
【0075】
同じまたは異なる親タンパク質を模した異なるポリペプチドの組み合わせからなる材料を選択して、所望の物理的特性を有する材料を形成してもよい。例えば、エラスチンを模したポリペプチド、およびクモ糸タンパク質を模したポリペプチドの組み合わせは、エラスチンの高い伸展性およびクモ糸タンパク質の高い引張強度を有する。ポリペプチドおよびその相対的な量の適切な選択によって、特定の特性を有する材料の産生が可能になる。
【0076】
組み合わせの材料は、種々の方法によって、例えば、種々のポリペプチドを含む溶液をコアセルベーションすること、2つ以上のポリペプチドのアミノ酸配列を含む融合タンパク質を用いること、または化学的に一緒に連結された2つ以上のポリペプチドを用いることによって得ることができる。例えば、一実施形態では、動物またはヒトのエラスチンのようなエラスチンを模したMFU、およびランプリンまたはクモ糸タンパク質のような別の線維性タンパク質を模したMFUを含む、ポリペプチドを用いる。このようなポリペプチドは、例えば、融合タンパク質を作製するために用いられる方法によって、当業者に公知の方法によって作製できる。ランプリン由来のタンデム・リピート配列に両側で隣接しているヒトエラスチンのエキソン21および22を含むポリペプチドは、融合タンパク質として発現され得る。ランプリン由来のタンデム・リピート配列に隣接しているヒトエラスチンのエキソン21および23を含むポリペプチドは、融合タンパク質として発現されている。別の実施形態では、ランプリンまたはクモ糸タンパク質を模したMFUに化学的に結合された動物またはヒトのエラスチンを模したMFUを含む材料が提供される。このような化学的に結合したポリペプチドは、当業者に公知の方法によって作製され得る。同じまたは異なる親タンパク質を模したMFU類の他の組み合わせも、本明細書に記載の材料で有用である。
【0077】
一実施形態では、ヒトエラスチンのような(上記のような)線維性タンパク質を模したMFUとともにレシリンの架橋性ドメインを含むポリペプチドが設計される。レシリンは、昆虫の羽根のヒンジに存在するタンパク質ポリマーであって、圧縮エラストマーの機能的特性をもたらす。レシリンのポリマー形態は通常、タンパク質鎖の間のジチロシンおよびトリチロシンの架橋によって架橋される。単量体のレシリンの配列は、公開され、単量体タンパク質は、酸化条件下でインビトロで架橋され、これによって、天然の架橋、ジチロシンおよびトリチロシンの形成が生じる。例えば、Elvin et al.,Nature 437:999〜1002(2005)を参照のこと。一旦、アライメントされれば、レシリン架橋ドメインは、例えば、過酸化水素およびペルオキシダーゼを用いてポリマーに架橋されてもよい。これらのレシリンベースの架橋を有するポリペプチドを含む材料は、優れた特性および圧縮弾性および弾力および圧縮率を有し得、これによってその材料は関節クッション用途における使用に特に適切になり、これらの特性は所望される。
【0078】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は、ランプリンを模したポリペプチドを含む。このようなポリペプチドは、少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造を有するが、全長ランプリンアミノ酸配列は含まない、ランプリンのアミノ酸配列の一部を含む。一実施形態では、「本質的に〜からなる」という句が上記されるとおり、ランプリンを模したポリペプチドは本質的に、ランプリンのアミノ酸配列の一部からなる。あるいは、ランプリンを模したポリペプチドは、ランプリンのアミノ酸配列の一部を含み、このアミノ酸配列は、1〜10または1〜5個のアミノ酸改変を含む、上記のような、1つまたは複数の付加、置換および/または欠失によって改変される。
【0079】
さらに、合成ポリペプチド材料は、線維性タンパク質を模したポリペプチドに加えて他のタンパク質を含んでもよい。例えば、線維性タンパク質を模したポリペプチドは、他のタンパク質、例えば、コラーゲンと共凝集して、身体の天然の構造的材料と似ているクッション材料を得ることができる。
【0080】
合成ポリペプチド材料はまた、親水性ポリマー、例えば、グリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロナンを含む非タンパク質材料を含んでもよい。このような材料は、成分の混合物を含んでもよいし、または成分の間の架橋を含んでもよい。例えば、この材料は、ポリペプチド上の官能基(この官能基は、通常ポリペプチド上に存在するか、または当分野で公知の方法によってポリペプチドに導入される)を通じてポリペプチドに共有結合されたグリコサミノグリカン部分を含んでもよい。
【0081】
本明細書に記載される合成ポリペプチド材料は、生体適合性であって、内皮細胞を含めて、患者で増殖する細胞の浸潤がしやすい。結果として、移植された材料は永久に、実物と遜色なく組織置換することができる。
【0082】
従って、本明細書に記載されるのは、関節の再構成、修復およびクッションのための合成ポリペプチド材料であって、例えば、MFU類を含む線維性タンパク質を模したポリペプチドを含む合成ポリペプチド材料である。上記のとおり、これらの材料は、このポリペプチドをコアセルベーションすること、ポリペプチドを架橋すること、および必要に応じて、この材料をシートもしくはパッドに加工すること、またはそれらを、注射のための薬学的に受容可能な担体中に液体懸濁液もしくは溶液として提供することによって得られる。上記で考察されるとおり、いくつかの実施形態によれば、このポリペプチドおよび/または架橋剤を選択して、エラスチンから作製される匹敵する材料に比べた場合、圧縮率の増大を有する合成ポリペプチド材料を得る。
【0083】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は本質的に、架橋されたポリペプチドからなる。「架橋されたポリペプチドから本質的になる」ポリペプチド材料とは、構造支持体、例えば、動物の材料、合成材料または金属のコアまたは強化構造を提供する他の材料を含まない材料を意味する。ある実施形態では、この材料は、架橋されたポリペプチドからなる。
【0084】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、本質的に、架橋されたポリペプチドおよび非タンパク質材料(例えば、親水性ポリマー、例えば、グリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロナン)からなる。例えば、「架橋されたポリペプチドおよびグリコサミノグリカン部分から本質的になる」ポリペプチド材料とは、構造的支持体、例えば、動物の材料、合成材料または金属のコアまたは強化構造を提供する他の材料を含まない材料を指す。ある実施形態では、この材料は、架橋されたポリペプチドおよびグリコサミノグリカン部分からなる。
【0085】
本明細書に記載されるのはまた、強化材料、例えば、本明細書に記載されるポリペプチド材料でコーティングされているコア、または合成ポリペプチド材料に包埋されるか、もしくはその層の間にサンドイッチされる強化構造を含む合成ポリペプチド材料である。ある実施形態では、このコアまたは強化構造は、動物の材料、合成の材料または金属である。このようなコーティングまたは強化された材料によって、このような構造を欠く材料と同じ利点のうちその多くが得られ、これには、生体適合性、非免疫原性、および細胞浸潤のための環境を提供することが挙げられる。合成ポリペプチド材料に対するコアまたは強化材料の追加によって、特定の特性を強化し得る。例えば、特定の用途には、架橋剤およびポリペプチドを用いるだけでは得ることのできない密度または剛性が必要である場合がある。動物材料、合成材料、または金属を強化することを含めば、特定の物理的特徴を有する物質の調製が可能になる。
【0086】
ある実施形態によれば、関節の再構成、修復またはクッションのための方法が提供され、この方法は、本明細書に記載される合成ポリペプチド材料を関節または関節の近位へ、例えば、組織領域、例えば、椎間板腔へ挿入すること(配置することまたは注射することを含む)を包含する。
【0087】
ある実施形態では、合成ポリペプチド材料(またはそれから形成されるシートもしくはパッド)は、外科的方法を介するなどで、骨と骨との接触をクッションするために関節位置に挿入される。上記で注記されるとおり、例示的な関節としては、限定はしないが、股関節、膝関節、肘関節、肩関節および指関節、ならびに椎間の部位が挙げられる。ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料(またはそれから形成されるシートもしくはパッド)は、インサイチュに置かれ、縫合糸、接着剤によって、骨表面に外科的に作製された窪みへの押圧嵌め込みによって、または任意の他の適切な手段によって固定される。他の実施形態では、この合成ポリペプチド材料(またはそれから形成されるシートもしくはパッド)は、インサイチュに置かれて、なんらの他の手段によっても固定されない。ある実施形態では、この材料は、関節を再構成するか、修復するか、および/または安定化するために外科的に挿入され得る靭帯様の構造として提供される。いかなる理論によっても拘束されないが、ある実施形態では、合成ポリペプチド材料は、その材料に組織が増殖するにつれて、経時的に適所に固定され得ると考えられる。
【0088】
ある実施形態では、この合成ポリペプチド材料は、液体可溶型または懸濁型で、注射用の薬学的に受容可能な担体中で提供され、例えば、骨ばった表面の間にクッションを与えるために、関節配置または組織腔中に注射される。上記で考察されるとおり、これらの実施形態によれば、合成ポリペプチドは、体温のようなインビボ条件に曝される際にコアセルベーションして自己アセンブルを受けてもよく、それによってインサイチュで固体の合成ポリペプチド材料が形成される。
【0089】
本発明を、以下の実施例を参照して下にさらに説明する。この実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきでない。
【実施例1】
【0090】
合成のペプチド材料のパッドを、37℃で溶液からのエラスチンを模したポリペプチド(MFU−7)のコアセルベーションによって製造し、遠心分離にかけた。詳細には、このポリペプチドを、平底容器中で、0.15Mのホウ酸塩緩衝液、pH8.0中で50mg/mlの濃度に溶解した。その溶液をNaCl中に0.8Mに調節して、コアセルベーションを開始した。コアセルベーション物を12,000×gで、15分間37℃で遠心分離した。次いで、500μlの10μMのゲニピンを添加して、12,000×gで、37℃でさらに30分間遠心分離を継続してパッドを形成する。その材料を37℃で一晩成熟させ、次いで使用するまで水中に貯蔵した。
【0091】
図6は、この方式で調製した代表的なパッド(約3mmの直径および3mmの厚み)を示す。
【0092】
圧縮に対する抵抗および弾力(例えば、圧縮率)を評価するために、Biosyntech Mach−1試験装置(Biosyntech Inc.,Laval,QC)を用いる慣用的な方法による圧縮試験にこのパッドを供した。この材料の弾性係数および弾力(エネルギー損失)および圧縮率特徴を、Biosyntech Mach−1試験装置(Biosyntech Inc.,Laval,QC)を用いる慣用的な方法により種々の程度の圧縮で測定した。結果は、図7と図8および下記の表に示される。
【0093】
【表1】
【0094】
これらの結果によって、この材料が圧縮に対する有意な抵抗(弾性係数)を有すること、およびこの材料がその圧縮前寸法に対して良好な弾力で回復する(例えば、圧縮率)ことが、荷重および非荷重の数回のサイクル後でさえ示される。
【実施例2】
【0095】
合成ペプチド材料のパッドは、リジン−ジイソシアネートでの架橋を含む発泡技術を用いてエラスチンを模したポリペプチド(MFU−7)の溶液から加工した。詳細には、このポリペプチドは、DMSO中に10mg/mlに溶解して、窒素下で20分間65℃に温めた。697μLの水を添加し、続いて303μLのリジン−ジイソシアネートを滴下して加えた。そのサンプルを混合して、20℃で一晩、部屋の空気中に置いた。次いで、不溶性の架橋材料を凍結乾燥して、使用するまで水に保管した。この実施例では、この材料のパッドの寸法は、この材料が作製される容器によって決定される。この材料の物理的特性は、実施例1に上記されるように評価した。結果を図9(圧縮試験および弾力)および図10(種々の程度の圧縮での弾性係数および弾力)、ならびに下の表に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
ここでも、この結果によって、この材料が圧縮に対する有意な抵抗(弾性係数)を有すること、およびこの材料がその圧縮前寸法に対して良好な弾力で回復することが、荷重および非荷重の数回のサイクル後でさえ示される。
【実施例3】
【0098】
合成ペプチド材料のシートを、上記で概説したのと同じ一般的な手順に従い(架橋剤は異なるものを用いた)、37℃で溶液からのエラスチンを模したポリペプチド(MFU−7)のコアセルベーションによって加工し、続いて遠心分離にかけた。下の表に示すとおり、用いられる特定の架橋剤は、その材料の弾性係数に影響した。
【0099】
【表3】
【0100】
従って、特定の架橋剤の選択は、標的の弾性係数特性を有する材料を設計するために用いられ得る。
【実施例4】
【0101】
合成のペプチド材料のシートは、エラスチンを模した異なるポリペプチドから、上記の一般的手順、例えば、37℃で溶液からのコアセルベーションによって、続いて遠心分離にかけ、ピロロキノリンキノンで架橋した。下の表に示すとおり、材料の弾性係数は、ポリペプチドで異なった。
【0102】
【表4】
【0103】
これらの結果によって、多数の反復単位(MFU類)を有するポリペプチドが、弾性係数の増大した材料を生じることが示される。従って、このような単位の数が多いかまたは少ないポリペプチドの選択によって、標的の弾性係数特性を有する材料の設計が可能になる。
【実施例5】
【0104】
実施例1に記載のエラスチンを模したポリペプチドのコアセルベーションによって加工し、実施例2に記載の特性を有する合成ポリペプチド材料のパッドを、ウサギの膝の関節表面に作製した穿孔欠損中に圧入した。次いで、その膝を閉じて、そのウサギを回復させ、正常な歩行を再開させた。手術の6週後、そのウサギは疼痛の兆候なしに正常に歩き回って、そのパッドは、パッドの拒絶の兆候もなく、周囲の組織もしくは滑液中の炎症もなしに適所で堅固であることが見出された。穿孔欠損を充填していない対照のウサギに比較した、材料のパッドの配置の6週後の膝関節の滑液の定量的分析では、処置したウサギでの炎症の兆候は示されなかった。
【0105】
【表5】
【0106】
さらに、移植6週後の磁気共鳴画像では、パッドの周囲への再生宿主組織の組み込みの兆候が示され、このことは移植された材料の優れた生体適合性を示している。
【0107】
本明細書に記載のプロセスおよび組成物に対して種々の改変および変形がなされ得ることは当業者にとって明らかなものである。従って、本発明は、任意のこのような改変および変形を包含するものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の架橋ポリペプチドを含む関節の再構成、修復および/またはクッションのための合成ポリペプチド材料であって、
(A)各々のポリペプチドが、少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造と架橋に関与する少なくとも1つの架橋アミノ酸残基とを含み、
前記架橋アミノ酸残基は、前記βシート/βターン構造とは区別され、
(B)各々のポリペプチドが150〜500アミノ酸長であり、
前記合成ポリペプチド材料が関節中または関節近位の部位への挿入に適した固体または液体である
合成ポリペプチド材料。
【請求項2】
前記βシート構造の各々が3〜約7アミノ酸残基を含む請求項1に記載の材料。
【請求項3】
少なくとも1つの前記ポリペプチドが、エラスチン、ランプリン、クモ糸タンパク質およびレシリンからなる群より選択されるタンパク質のアミノ酸配列の一部から本質的になるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の材料。
【請求項4】
少なくとも1つの前記ポリペプチドがヒトエラスチンのアミノ酸配列の一部からなるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の材料。
【請求項5】
少なくとも1つの前記ポリペプチドが、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部からなるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の材料。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、図1B(配列番号1)のアミノ酸残基374〜499、19〜160、188〜367および607〜717からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む請求項5に記載の材料。
【請求項7】
図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部が、1〜約10のアミノ酸残基の付加、欠失または置換によって改変される請求項5に記載の材料。
【請求項8】
前記ポリペプチドが図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部のタンデム・リピートを含む請求項5に記載の材料。
【請求項9】
前記ポリペプチドが図3C(配列番号2)、図4C(配列番号11)、図5A(配列番号12)、および図5B(配列番号13)に示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記ポリペプチドが、1〜約10アミノ酸残基の付加、欠失または置換によって改変される、図3C(配列番号2)、図4C(配列番号11)、図5A(配列番号12)、および図5B(配列番号13)に示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む請求項8に記載の材料。
【請求項11】
前記ポリペプチドのアミノ酸配列が同じである請求項1に記載の材料。
【請求項12】
前記架橋ペプチドの前記アミノ酸配列が異なっている請求項1に記載の材料。
【請求項13】
少なくとも1つの前記ポリペプチドが、レシリンのアミノ酸配列の一部から本質的になるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の材料。
【請求項14】
強化材料をさらに含む請求項1に記載の材料。
【請求項15】
前記強化材料が、動物材料、合成材料および金属からなる群より選択される請求項14に記載の材料。
【請求項16】
非タンパク質の親水性ポリマーをさらに含む請求項1に記載の材料。
【請求項17】
グリコサミノグリカン部分をさらに含む請求項1に記載の材料。
【請求項18】
前記グリコサミノグリカン部分が、ヒアルロナン部分を含む請求項17に記載の材料。
【請求項19】
前記架橋ポリペプチドおよび前記グリコサミノグリカン部分の混合物を含む請求項17に記載の材料。
【請求項20】
前記架橋されたポリペプチドが前記グリコサミノグリカン部分に共有結合されている請求項17に記載の材料。
【請求項21】
前記材料が固体である請求項1に記載の材料。
【請求項22】
前記材料が、パッド、シートおよび靱帯様の構造からなる群より選択される形態である請求項1に記載の材料。
【請求項23】
前記材料が液体である請求項1に記載の材料。
【請求項24】
前記材料が、注射に適した薬学的に受容可能な担体をさらに含む、溶液または懸濁液中に存在する請求項1に記載の材料。
【請求項25】
複数の架橋ポリペプチドを含む合成ポリペプチド材料を関節中または関節近位の部位へ挿入する工程を含む関節の再構成、修復またはクッションのための方法であって、
(A)各々のポリペプチドが少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造と架橋に関与する少なくとも1つの架橋アミノ酸残基とを含み、
前記架橋する残基が、βシート/βターン構造とは区別され、
(B)各々のポリペプチドが150〜500アミノ酸長である
方法。
【請求項1】
複数の架橋ポリペプチドを含む関節の再構成、修復および/またはクッションのための合成ポリペプチド材料であって、
(A)各々のポリペプチドが、少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造と架橋に関与する少なくとも1つの架橋アミノ酸残基とを含み、
前記架橋アミノ酸残基は、前記βシート/βターン構造とは区別され、
(B)各々のポリペプチドが150〜500アミノ酸長であり、
前記合成ポリペプチド材料が関節中または関節近位の部位への挿入に適した固体または液体である
合成ポリペプチド材料。
【請求項2】
前記βシート構造の各々が3〜約7アミノ酸残基を含む請求項1に記載の材料。
【請求項3】
少なくとも1つの前記ポリペプチドが、エラスチン、ランプリン、クモ糸タンパク質およびレシリンからなる群より選択されるタンパク質のアミノ酸配列の一部から本質的になるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の材料。
【請求項4】
少なくとも1つの前記ポリペプチドがヒトエラスチンのアミノ酸配列の一部からなるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の材料。
【請求項5】
少なくとも1つの前記ポリペプチドが、図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部からなるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の材料。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、図1B(配列番号1)のアミノ酸残基374〜499、19〜160、188〜367および607〜717からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む請求項5に記載の材料。
【請求項7】
図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部が、1〜約10のアミノ酸残基の付加、欠失または置換によって改変される請求項5に記載の材料。
【請求項8】
前記ポリペプチドが図1B(配列番号1)に示されるアミノ酸配列の一部のタンデム・リピートを含む請求項5に記載の材料。
【請求項9】
前記ポリペプチドが図3C(配列番号2)、図4C(配列番号11)、図5A(配列番号12)、および図5B(配列番号13)に示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記ポリペプチドが、1〜約10アミノ酸残基の付加、欠失または置換によって改変される、図3C(配列番号2)、図4C(配列番号11)、図5A(配列番号12)、および図5B(配列番号13)に示されるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む請求項8に記載の材料。
【請求項11】
前記ポリペプチドのアミノ酸配列が同じである請求項1に記載の材料。
【請求項12】
前記架橋ペプチドの前記アミノ酸配列が異なっている請求項1に記載の材料。
【請求項13】
少なくとも1つの前記ポリペプチドが、レシリンのアミノ酸配列の一部から本質的になるアミノ酸配列を含む請求項1に記載の材料。
【請求項14】
強化材料をさらに含む請求項1に記載の材料。
【請求項15】
前記強化材料が、動物材料、合成材料および金属からなる群より選択される請求項14に記載の材料。
【請求項16】
非タンパク質の親水性ポリマーをさらに含む請求項1に記載の材料。
【請求項17】
グリコサミノグリカン部分をさらに含む請求項1に記載の材料。
【請求項18】
前記グリコサミノグリカン部分が、ヒアルロナン部分を含む請求項17に記載の材料。
【請求項19】
前記架橋ポリペプチドおよび前記グリコサミノグリカン部分の混合物を含む請求項17に記載の材料。
【請求項20】
前記架橋されたポリペプチドが前記グリコサミノグリカン部分に共有結合されている請求項17に記載の材料。
【請求項21】
前記材料が固体である請求項1に記載の材料。
【請求項22】
前記材料が、パッド、シートおよび靱帯様の構造からなる群より選択される形態である請求項1に記載の材料。
【請求項23】
前記材料が液体である請求項1に記載の材料。
【請求項24】
前記材料が、注射に適した薬学的に受容可能な担体をさらに含む、溶液または懸濁液中に存在する請求項1に記載の材料。
【請求項25】
複数の架橋ポリペプチドを含む合成ポリペプチド材料を関節中または関節近位の部位へ挿入する工程を含む関節の再構成、修復またはクッションのための方法であって、
(A)各々のポリペプチドが少なくとも3つの連続的βシート/βターン構造と架橋に関与する少なくとも1つの架橋アミノ酸残基とを含み、
前記架橋する残基が、βシート/βターン構造とは区別され、
(B)各々のポリペプチドが150〜500アミノ酸長である
方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2010−526582(P2010−526582A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507430(P2010−507430)
【出願日】平成20年5月6日(2008.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/005790
【国際公開番号】WO2008/140703
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509309536)エラスティン・スペシャルティーズ,インコーポレイテッド (1)
【出願人】(509309547)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月6日(2008.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/005790
【国際公開番号】WO2008/140703
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509309536)エラスティン・スペシャルティーズ,インコーポレイテッド (1)
【出願人】(509309547)
【Fターム(参考)】
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